(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231114BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20231114BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20231114BHJP
H01M 50/133 20210101ALI20231114BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20231114BHJP
H01M 50/126 20210101ALI20231114BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20231114BHJP
H01M 50/169 20210101ALI20231114BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M50/105
H01M50/133
H01M50/121
H01M50/126
H01M50/119
H01M50/169
(21)【出願番号】P 2022536128
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009521
(87)【国際公開番号】W WO2022014091
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020122661
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴正
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-27700(JP,A)
【文献】特開2007-87652(JP,A)
【文献】特開2001-283800(JP,A)
【文献】特開2016-171060(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0329546(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着層を含む可撓性の外装部材と、
前記外装部材の内部に収納され、正極、負極および電解液を含む電池素子と
を備え、
前記外装部材は、前記熱融着層同士が互いに熱融着されることにより形成された熱融着部において封止されており、
前記熱融着層は、ポリプロピレンを含み、
前記電解液は、溶媒および電解質塩を含み、
前記溶媒は、鎖状カルボン酸エステルを含み、
前記熱融着層の厚さは、25μm以上60μm以下であり、
前記熱融着部の長さは、160mm以上650mm以下であり、
前記熱融着部の幅は、3mm以上6mm以下であり、
前記熱融着層の厚さと、前記熱融着部の長さと、前記熱融着部の幅とにより規定される寸法比は、式(1)で表される条件を満たし、
前記外装部材の絞り量は、7.8mm以下であり、
前記溶媒中における前記鎖状カルボン酸エステルの含有量は、30体積%以上60体積%以下である、
二次電池。
0.16≦(T×L)/W≦0.32 ・・・(1)
((T×L)/Wは、寸法比である。Tは、熱融着層の厚さ(cm)である。Lは、熱融着部の長さ(cm)である。Wは、熱融着部の幅(cm)である。)
【請求項2】
前記外装部材は、前記熱融着層を含むラミネートフィルムである、
請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記外装部材は、前記熱融着層と、金属層と、絶縁性の保護層とがこの順に積層された多層構造を有する、
請求項2記載の二次電池。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池である、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を得ることが可能である電源として、二次電池の開発が進められている。
【0003】
この二次電池は、電池素子を備えており、その電池素子は、正極および負極と共に電解液を含んでいる。二次電池としては、可撓性の外装部材の内部に電池素子が収納された二次電池が知られている。
【0004】
この可撓性の外装部材を備えた二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。具体的には、優れた耐熱性などを得るために、電気化学セル用包装材料を用いた二次電池において、その電気化学セル用包装材料が熱接着性樹脂層(ポリプロピレン)を含む多層構造を有している(例えば、特許文献1参照。)。また、優れた長期保存性などを得るために、袋状単電池ケースを用いた二次電池において、その袋状単電池ケース溶着部の内側端部に樹脂塊が設けられている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-086744号公報
【文献】特開2000-277066号公報
【発明の概要】
【0006】
可撓性の外装部材を備えた二次電池に関する様々な検討がなされているが、その二次電池のサイクル特性、膨れ特性および電気抵抗特性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0007】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れたサイクル特性、優れた膨れ特性および優れた絶縁特性を得ることが可能である二次電池を提供することにある。
【0008】
本技術の一実施形態の二次電池は、熱融着層を含む可撓性の外装部材と、その外装部材の内部に収納され、正極、負極および電解液を含む電池素子とを備えたものである。外装部材は、熱融着層同士が互いに熱融着されることにより形成された熱融着部において封止されており、その熱融着層は、ポリプロピレンを含む。電解液は、溶媒および電解質塩を含み、その溶媒は、鎖状カルボン酸エステルを含む。熱融着層の厚さは、25μm以上60μm以下であり、熱融着部の長さは、160mm以上650mm以下であり、その熱融着部の幅は、3mm以上6mm以下であり、その熱融着層の厚さと熱融着部の長さと熱融着部の幅とにより規定される寸法比は、式(1)で表される条件を満たす。外装部材の絞り量は、7.8mm以下である。溶媒中における鎖状カルボン酸エステルの含有量は、30体積%以上60体積%以下である。
【0009】
0.16≦(T×L)/W≦0.32 ・・・(1)
((T×L)/Wは、寸法比である。Tは、熱融着層の厚さ(cm)である。Lは、熱融着部の長さ(cm)である。Wは、熱融着部の幅(cm)である。)
【0010】
上記した「熱融着層の厚さ」、「熱融着部の長さ」、「熱融着部の幅」および「外装部材の絞り量」のそれぞれの定義に関しては、後述する。
【0011】
本技術の一実施形態の二次電池によれば、可撓性の外装部材(熱融着層がポリプロピレンを含む。)の内部に電池素子(電解液の溶媒が鎖状カルボン酸エステルを含む。)が収納されており、その外装部材が熱融着部において封止されている。また、熱融着層の厚さと、熱融着部の長さおよび幅と、それらの厚さ、長さおよび幅の寸法比と、外装部材の絞り量と、溶媒中における鎖状カルボン酸エステルの含有量とに関して上記した条件が満たされている。よって、優れたサイクル特性、優れた膨れ特性および優れた絶縁特性を得ることができる。
【0012】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本技術の一実施形態における二次電池の構成を表す斜視図である。
【
図2】
図1に示した電池素子の構成を表す断面図である。
【
図3】
図1に示した二次電池の構成を表す平面図である。
【
図4】
図1に示した二次電池の構成を表す断面図である。
【
図5】二次電池の適用例の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池
1-1.全体の構成
1-2.主要部の構成
1-3.動作
1-4.製造方法
1-5.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0015】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0016】
ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、正極および負極と共に、液状の電解質である電解液を備えている。この二次電池では、充電途中において負極の表面に電極反応物質が析出することを防止するために、その負極の充電容量が正極の放電容量よりも大きくなっている。すなわち、負極の単位面積当たりの電気化学容量は、正極の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きくなるように設定されている。
【0017】
電極反応物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属などの軽金属である。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどであると共に、アルカリ土類金属は、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどである。
【0018】
以下では、電極反応物質がリチウムである場合を例に挙げる。リチウムの吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池では、リチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0019】
<1-1.全体の構成>
図1は、二次電池の斜視構成を表していると共に、
図2は、
図1に示した電池素子10の断面構成を表している。ただし、
図1では、電池素子10と外装フィルム20とが互いに分離された状態を示していると共に、
図2では、電池素子10の一部だけを示している。
【0020】
この二次電池は、
図1に示したように、電池素子10と、外装フィルム20と、正極リード14と、負極リード15とを備えている。ここで説明する二次電池は、電池素子10を収納するための外装部材として、可撓性(または柔軟性)の外装部材(外装フィルム20)を用いたラミネートフィルム型の二次電池である。
【0021】
[外装フィルム]
外装フィルム20は、
図1に示したように、2枚のフィルム状の部材(上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Y)を含んでおり、その上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yが互いに接合(熱融着)されることにより形成された袋状の構造を有している。この外装フィルム20は、上記したように、電池素子10を内部に収納しているため、後述する正極11および負極12と共に電解液を内部に収納している。ここでは、電池素子10を収容するための窪み部20U(いわゆる深絞り部)が上側フィルム20Xに設けられている。
【0022】
上側フィルム20Xと正極リード14との間および下側フィルム20Yと正極リード14との間のそれぞれには、封止フィルム31が挿入されている。上側フィルム20Xと負極リード15との間および下側フィルム20Yと負極リード15との間のそれぞれには、封止フィルム32が挿入されている。封止フィルム31,32のそれぞれは、外装フィルム20の内部に外気が侵入することを防止する部材であり、正極リード14および負極リード15のそれぞれに対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。このポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンおよび変性ポリプロピレンなどである。ただし、封止フィルム31,32のうちの一方または双方は、省略されてもよい。
【0023】
なお、外装フィルム20(上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Y)の詳細な構成に関しては、後述する(
図3および
図4参照)。
【0024】
[電池素子]
電池素子10は、
図1および
図2に示したように、外装フィルム20の内部に収納されており、正極11と、負極12と、セパレータ13と、電解液(図示せず)とを含んでいる。この電解液は、正極11、負極12およびセパレータ13のそれぞれに含浸されている。
【0025】
この電池素子10は、正極11および負極12がセパレータ13を介して互いに積層されていると共に、その正極11、負極12およびセパレータ13が巻回軸を中心として巻回されている構造体(巻回電極体)である。このため、正極11および負極12は、セパレータ13を介して互いに対向しながら巻回されている。なお、上記した巻回軸は、Y軸方向に延在する仮想軸である。
【0026】
ここでは、電池素子10の立体的形状は、扁平形状である。すなわち、巻回軸と交差する電池素子10の断面(XZ面に沿った断面)の形状は、長軸および短軸により規定される扁平形状であり、より具体的には扁平な略楕円形である。この長軸は、X軸方向に延在すると共に短軸よりも大きい長さを有する仮想軸であると共に、短軸は、X軸方向と交差するZ軸方向に延在すると共に長軸よりも小さい長さを有する仮想軸である。
【0027】
(正極)
正極11は、
図2に示したように、一対の面を有する正極集電体11Aと、その正極集電体11Aの両面に配置された2個の正極活物質層11Bとを含んでいる。ただし、正極活物質層11Bは、正極11が負極12に対向する側における正極集電体11Aの片面だけに配置されていてもよい。
【0028】
正極集電体11Aは、金属材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その金属材料は、アルミニウム、ニッケルおよびステンレスなどである。正極活物質層11Bは、リチウムを吸蔵放出可能である正極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、さらに、正極結着剤および正極導電剤などを含んでいてもよい。
【0029】
正極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、リチウム遷移金属化合物などのリチウム含有化合物である。このリチウム遷移金属化合物は、リチウムと共に1種類または2種類以上の遷移金属元素を含む化合物であり、さらに、1種類または2種類以上の他元素を含んでいてもよい。他元素の種類は、遷移金属元素以外の元素であれば、特に限定されないが、具体的には、長周期型周期表中の2族~15族に属する元素である。リチウム遷移金属化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物およびホウ酸化合物などである。
【0030】
酸化物の具体例は、LiNiO2 、LiCoO2 、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 O2 、LiNi0.8 Co0.15Al0.05O2 、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2 、Li1.2 Mn0.52Co0.175 Ni0.1 O2 、Li1.15(Mn0.65Ni0.22Co0.13)O2 およびLiMn2 O4 などである。リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 、LiMnPO4 、LiFe0.5 Mn0.5 PO4 およびLiFe0.3 Mn0.7 PO4 などである。
【0031】
正極結着剤は、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびカルボキシメチルセルロースなどである。
【0032】
正極導電剤は、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その炭素材料は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。ただし、導電性材料は、金属材料および高分子化合物などでもよい。
【0033】
正極活物質層11Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0034】
(負極)
負極12は、
図2に示したように、一対の面を有する負極集電体12Aと、その負極集電体12Aの両面に配置された2個の負極活物質層12Bとを含んでいる。ただし、負極活物質層12Bは、負極12が正極11に対向する側における負極集電体12Aの片面だけに配置されていてもよい。
【0035】
負極集電体12Aは、金属材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その金属材料は、銅、アルミニウム、ニッケルおよびステンレスなどである。負極活物質層12Bは、リチウムを吸蔵放出可能である負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、さらに、負極結着剤および負極導電剤などを含んでいてもよい。負極結着剤に関する詳細は、正極結着剤に関する詳細と同様であると共に、負極導電剤に関する詳細は、正極導電剤に関する詳細と同様である。
【0036】
負極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭素材料および金属系材料のうちの一方または双方などである。炭素材料は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などであり、その黒鉛は、天然黒鉛および人造黒鉛などである。金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含む材料であり、その金属元素および半金属元素は、ケイ素およびスズのうちの一方または双方などである。ただし、金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの2種類以上の相を含む材料でもよい。
【0037】
金属系材料の具体例は、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)、LiSiO、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOおよびMg2 Snなどである。ただし、SiOv のvは、0.2<v<1.4を満たしていてもよい。
【0038】
負極活物質層12Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0039】
(セパレータ)
セパレータ13は、
図2に示したように、正極11と負極12との間に介在している絶縁性の多孔質膜であり、その正極11と負極12との接触(短絡)を防止しながらリチウムイオンを通過させる。このセパレータ13は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどの高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0040】
(電解液)
電解液は、鎖状カルボン酸エステルのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この「鎖状カルボン酸エステル」とは、直鎖状の飽和脂肪酸のエステルである。
【0041】
より具体的には、電解液は、溶媒および電解質塩を含んでおり、その溶媒は、鎖状カルボン酸エステルを含んでいる。非水溶媒(有機溶剤)である鎖状カルボン酸エステルを含んでいる電解液は、いわゆる非水電解液である。
【0042】
電解液(溶媒)が鎖状カルボン酸エステルを含んでいるのは、二次電池の膨れが抑制されるからである。詳細には、鎖状カルボン酸エステルは、後述する環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルなどと比較して、充放電時の分解反応に起因したガスを発生させにくい性質を有している。これにより、鎖状カルボン酸エステルを含んでいる電解液では、充放電時において鎖状カルボン酸エステルの分解反応が進行しにくくなるため、その鎖状カルボン酸エステルの分解反応に起因したガスが発生しにくくなる。よって、袋状の外装フィルム20の内部にガスが蓄積されにくくなるため、二次電池が膨れにくくなる。
【0043】
鎖状カルボン酸エステルの具体例は、特に限定されないが、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルおよびトリメチル酢酸エチルなどである。
【0044】
ただし、溶媒中における鎖状カルボン酸エステルの含有量は、30体積%~60体積%である。二次電池の膨れが十分に抑制されるからである。また、後述する熱融着層21に対する鎖状カルボン酸エステルの浸透量が減少するため、外装フィルム20の封止性が担保されるからである。
【0045】
ここで説明した鎖状カルボン酸エステルの含有量は、二次電池の完成後において高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma(ICP))発光分光分析法を用いた電解液の分析により得られる値である。
【0046】
なお、溶媒は、鎖状カルボン酸エステルと共に、他の溶媒(非水溶媒)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0047】
他の溶媒は、エステル類およびエーテル類などである。ただし、上記した鎖状カルボン酸エステルは、ここで説明するエステル類から除かれる。
【0048】
エステル類は、炭酸エステル系化合物などであり、その炭酸エステル系化合物は、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルなどである。具体的には、環状炭酸エステルは、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどであると共に、鎖状炭酸エステルは、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸メチルエチルなどである。
【0049】
エーテル類は、ラクトン系化合物などであり、そのラクトン系化合物は、ラクトンなどである。具体的には、ラクトンは、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。この他、エーテル類は、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソランおよび1,4-ジオキサンなどでよい。
【0050】
溶媒中における他の溶媒の含有量(体積%)は、特に限定されないため、上記した溶媒中における鎖状カルボン酸エステルの含有量に応じて任意に設定可能である。
【0051】
さらに、溶媒は、添加剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この添加剤は、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、酸無水物、ニトリル化合物およびイソシアネート化合物などである。電解液の化学的安定性が向上するからである。なお、電解液中における添加剤の含有量は、特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0052】
具体的には、不飽和環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン(1,3-ジオキソール-2-オン)、炭酸ビニルエチレン(4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン)および炭酸メチレンエチレン(4-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン)などである。ハロゲン化炭酸エステルは、フルオロ炭酸エチレン(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)およびジフルオロ炭酸エチレン(4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)などである。スルホン酸エステルは、1,3-プロパンスルトンなどである。リン酸エステルは、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。
【0053】
酸無水物は、環状ジカルボン酸無水物、環状ジスルホン酸無水物および環状カルボン酸スルホン酸無水物などである。環状ジカルボン酸無水物は、無水コハク酸、無水グルタル酸および無水マレイン酸などである。環状ジスルホン酸無水物は、無水エタンジスルホン酸および無水プロパンジスルホン酸などである。環状カルボン酸スルホン酸無水物は、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸および無水スルホ酪酸などである。
【0054】
ニトリル化合物は、アセトニトリル、スクシノニトリルおよびアジポニトリルなどである。イソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。
【0055】
電解質塩は、リチウム塩などの軽金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。このリチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 )2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )およびビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C2 O4 )2 )などである。
【0056】
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、具体的には、溶媒に対して0.3mol/kg~3.0mol/kgである。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0057】
[正極リードおよび負極リード]
正極リード14は、正極11(正極集電体11A)に接続された正極端子であり、アルミニウムなどの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。負極リード15は、負極12(負極集電体12A)に接続された負極端子であり、銅、ニッケルおよびステンレスなどの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。正極リード14および負極リード15のそれぞれの形状は、薄板状および網目状などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0058】
ここでは、正極リード14および負極リード15のそれぞれは、
図1に示したように、外装フィルム20の内部から外部に向かって互いに共通する方向に導出されている。ただし、正極リード14および負極リード15のそれぞれは、互いに異なる方向に導出されていてもよい。
【0059】
また、ここでは、正極リード14の本数は、1本である。ただし、正極リード14の本数は、特に限定されないため、2本以上でもよい。特に、正極リード14の本数が2本以上であると、二次電池の電気抵抗が低下する。ここで正極リード14の本数に関して説明したことは、負極リード15の本数に関しても同様であるため、その負極リード15の本数は、1本に限らず、2本以上でもよい。
【0060】
<1-2.主要部の構成>
図3は、
図1に示した二次電池の平面構成を表していると共に、
図4は、
図1に示した二次電池の断面構成を表している。ただし、
図3では、外装フィルム20に網掛けを施していると共に、封止フィルム31,32の図示を省略している。
図4では、外装フィルム20の一部(後述する熱融着部20Sの近傍部分)だけを示している。以下では、随時、既に説明した
図1および
図2を参照する。
【0061】
ここでは、外装フィルム20は、上記したように、上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yを含んでいる。この外装フィルム20では、上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yが互いに重ねられた状態において、互いに対向する部分のうちの外周縁部同士が互いに接合(熱融着)されているため、その外装フィルム20は、袋状の密閉(封止)構造を有している。
【0062】
より具体的には、外装フィルム20、すなわち上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yのそれぞれは、
図3および
図4に示したように、熱融着層21を含んでいる。これにより、上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yが互いに重ねられた状態において、互いに対向する熱融着層21のうちの外周縁部同士は、互いに熱融着されている。よって、外装フィルム20は、熱融着層21同士が互いに熱融着されることにより形成された熱融着部20Sを有しているため、その熱融着部20Sにおいて封止されている。この熱融着部20Sは、熱融着層21のうちの外周縁部同士が互いに熱融着されていることに応じて、外装フィルム20の外周縁部に形成されている。
【0063】
ここでは、外装フィルム20は、熱融着層21を含むラミネートフィルムであるため、その熱融着層21を含む多層構造を有している。外装フィルム20の封止性が向上するからである。これにより、水分などの外部成分が外装フィルム20の外部から内部に侵入しにくくなると共に、電解液の揮発分などの内部成分が外装フィルム20の内部から外部に放出されにくくなる。
【0064】
中でも、外装フィルム20は、熱融着層21と、金属層22と、保護層23とがこの順に積層された多層構造を有しており、その熱融着層21、金属層22および保護層23は、内側からこの順に配置されていることが好ましい。外装フィルム20の封止性がより向上するからである。
【0065】
この場合には、熱融着部20Sは、
図4に示したように、熱融着層21を利用して外装フィルム20同士(上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Y)が互いに熱融着された多層構造を有している。より具体的には、熱融着部20Sは、保護層23、金属層22、熱融着層21、熱融着層21、金属層22および保護層23がこの順に積層されると共に、互いに隣り合う熱融着層21同士が互いに熱融着された6層構造を有している。
【0066】
熱融着層21は、熱融着法を用いて熱融着可能な層であり、絶縁性の高分子化合物であるポリプロピレンを含んでいる。なお、ポリプロピレンは、未変性ポリプロピレンでもよいし、変性ポリプロピレンでもよいし、双方でもよい。
【0067】
この熱融着層21は、上記したように、互いに隣り合う熱融着層21同士が互いに熱融着されることにより、外装フィルム20を封止する役割を果たしている。また、熱融着層21は、正極リード14と金属層22との間に介在することにより、その正極リード14と金属層22との短絡を防止すると共に、負極リード15と金属層22との間に介在することにより、その負極リード15と金属層22との短絡を防止する役割も果たしている。
【0068】
金属層22は、液体成分および気体成分などを遮断するバリア層であり、金属材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。具体的には、金属材料は、アルミニウムなどである。なお、液体成分の種類は、特に限定されないが、具体的には、上記した水分などであると共に、気体成分の種類は、特に限定されないが、具体的には、上記した電解液の揮発分などである。
【0069】
この金属層22は、熱融着層21と保護層23との間に介在することにより、外装フィルム20を実質的に遮蔽する役割を果たしている。これにより、上記したように、外装フィルム20(熱融着部20Sを除く。)を介して液体成分および気体成分が通過(侵入および放出)しにくくなるため、その外装フィルム20の密閉性が担保される。
【0070】
保護層23は、外装フィルム20の外側の最表層である表面保護層であり、絶縁性の高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。具体的には、高分子化合物は、ナイロンなどである。
【0071】
この保護層23は、金属層22の表面を被覆することにより、その金属層22を保護する役割、すなわち金属層22の破損および腐食などを防止する役割を果たしている。
【0072】
ここで、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいることに応じて、外装フィルム20(熱融着部20S)の構成に関する一連の寸法パラメータは、その外装フィルム20の封止性を向上させるために適正化されている。
【0073】
具体的には、
図3および
図4に示したように、熱融着層21の厚さT(cm)と、熱融着部20Sの長さL(cm)と、熱融着部20Sの幅W(cm)とにより規定される寸法比は、式(1)で表される条件を満たしている。ただし、厚さTは25μm~60μmであり、長さLは160mm~650mmであり、幅Wは3mm~6mmである。上記したように、外装フィルム20の封止性が向上するからである。この場合には、外装フィルム20の総厚が大きくなりすぎないため、単位体積当たりのエネルギー密度が担保されながら、正極リード14と金属層22との短絡が抑制されると共に、負極リード15と金属層22との短絡が抑制される。
【0074】
0.16≦(T×L)/W≦0.32 ・・・(1)
((T×L)/Wは、寸法比である。Tは、熱融着層の厚さ(cm)である。Lは、熱融着部の長さ(cm)である。Wは、熱融着部の幅(cm)である。)
【0075】
厚さTは、
図4に示したように、熱融着部20Sの外側の端部20Tにおける熱融着層21の厚さであり、すなわち熱融着部20Sにおいて外部に露出している熱融着層21の厚さである。この厚さTは、互いに異なる任意の10箇所において測定された10個の厚さのうちの最小値とする。ただし、厚さTの値は、小数点第一位の値を四捨五入した値である。
【0076】
長さLは、熱融着部20Sの長さ、すなわち熱融着層21同士が互いに熱融着されている部分の長さであるため、
図3に示したように、その熱融着部20Sの外周の寸法である。
【0077】
ただし、流れLの値は、小数点第一位の値を四捨五入した値である。また、熱融着層21同士が互いに熱融着されている部分の長さには、正極リード14および負極リード15のそれぞれの占有部分の長さは含まれないこととする。すなわち、正極リード14および負極リード15のそれぞれの占有部分の長さは、熱融着層21同士が互いに熱融着されている部分の長さから除かれる。
【0078】
より具体的には、外装フィルム20(上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Y)の平面形状が矩形である場合には、その外装フィルム20が4辺(互いに対向する一対の辺および互いに対向する他の一対の辺)を有している。
【0079】
この場合において、長さLは、互いに対向する一対の辺(下辺および上辺)の長さL1,L2と、互いに対向する他の一対の辺(左辺および右辺)の長さL3,L4との和から、正極リード14の長さL5および負極リード15の長さL6を差し引いた値である。すなわち、長さLは、L=(L1+L2+L3+L4)-(L5+L6)で表される。
【0080】
幅Wは、
図4に示したように、外装フィルム20の外部から内部に向かう方向(Y軸方向)における熱融着部20Sの寸法である。ただし、幅Wは、小数点第一位の値を四捨五入した値である。
【0081】
より具体的には、上側フィルム20Xは、外装フィルム20の外部から内部に向かって延在していると共に、窪み部20Uを形成するために途中で下側フィルム20Yから離れる方向に折れ曲がっている。この場合において、幅Wは、上側フィルム20Xが折れ曲がり始める位置(折れ曲がり部20M)に基づいて決定される寸法であるため、端部20Tから折れ曲がり部20Mまでの距離である。この幅Wは、互いに異なる任意の10箇所において測定された10個の幅のうちの最小値とする。
【0082】
式(1)において、「T」は、熱融着部20Sにおいて外部に露出している熱融着層21の厚さ(端部20Tにおける熱融着層21の厚さ)であるため、「T×L」は、その端部20Tに露出している熱融着層21の露出面積を表している。これにより、「(T×L)/W」は、熱融着部20Sの幅Wに対する熱融着層21の露出面積の比を表している。
【0083】
すなわち、上記したように、外装フィルム20において熱融着層21を経由して液体成分および気体成分が出入り(侵入または放出)し得ることを考えると、「熱融着層21の露出面積」は、液体成分および気体成分が出入りする出入口の面積であると共に、「熱融着部20Sの幅W」は、液体成分および気体成分が熱融着部20Sにおいて出入りするために熱融着層21の内部を移動する経路の距離である。
【0084】
この寸法比((T×L)/W)は、上記したように、外装フィルム20の封止性を規定するパラメータである。そこで、以下では、ここで説明した寸法比を「封止比R」と呼称する。ただし、(T×L)の値および封止比Rの値のそれぞれは、小数点第三位の値を四捨五入した値とする。
【0085】
また、外装フィルム20の構成に関しては、封止性を向上させるために、上記した厚さT、長さL、幅Wおよび封止比Rのそれぞれだけでなく、絞り量Q(mm)も適正化されている。この絞り量Qは、外装フィルム20の立体的形状、より具体的には、窪み部20Uが設けられている上側フィルム20Xの立体的形状を規定する寸法パラメータである。すなわち、絞り量Qは、窪み部20Uの深さ、より具体的には、窪み部20Uを形成するために上側フィルム20Xが折り曲げられている部分における上面M1から下面M2までの距離(高低差)であり、7.8mm以下である。上記したように、封止性がより向上するからである。この場合には、窪み部20Uを形成するために上側フィルム20Xが折り曲げられていても、その上側フィルム20Xが破損または破断しにくくなるため、外装フィルム20の密閉性が担保される。ただし、絞り量Qは、小数点第二位の値を四捨五入した値である。
【0086】
特に、外装フィルム20(上側フィルム20X)が金属層22を含んでいるラミネートフィルムである場合には、絞り量Qが大きすぎると、窪み部20Uを形成する(上側フィルム20Xを折り曲げる)ために金属層22の厚さを薄くせざるを得ないため、その金属層22が衝撃に起因して破損(いわゆるクラックが発生)または破断しやすくなる。これにより、外装フィルム20の密閉性が低下するため、その外装フィルム20の内部に液体成分および気体成分が侵入しやすくなる。しかしながら、外装フィルム20が金属層22を含んでいるラミネートフィルムであっても、絞り量Qが上記した範囲であると、金属層22が破損または破断しにくくなる。これにより、外装フィルム20の密閉性が担保されるため、その外装フィルム20の内部に液体成分および気体成分が侵入しにくくなる。
【0087】
絞り量Qの測定手順は、以下で説明する通りである。以下では、図示しない2個の測定用治具を用いて絞り量Qを測定する場合に関して説明する。ここでは、2個の測定用治具のそれぞれは、開口部を有する板状の部材である。
【0088】
最初に、窪み部20Uが設けられている上側フィルム20Xを準備したのち、2個の測定用治具を用いて上側フィルム20Xを挟み込む。より具体的には、一方の測定用治具の上に上側フィルム20Xを載置したのち、その上側フィルム20Xの上に他方の測定治具を載置する。
【0089】
この場合には、一方の測定用治具に設けられている開口部に、上側フィルム20Xのうちの窪み部20Uが設けられている部分、すなわち窪み部20Uの深さ方向に向かって突出している部分を挿入させる。これにより、上側フィルム20Xは、突出している部分が下側を向くように、一方の測定用治具の上に配置される。
【0090】
また、上側フィルム20Xの上に、窪み部20Uを遮蔽しないように他方の測定用治具を載置する。これにより、2個の測定用治具により上側フィルム20Xが挟まれていても、各測定用治具に設けられている開口部において窪み部20Uが露出する。
【0091】
続いて、ノギスなどの測定器具を用いて、窪み部20Uの深さ(mm)を測定する。
【0092】
この場合には、窪み部20Uの底において上側フィルム20Xが折り曲げられている部分(折れ曲がり部20N)の近傍では、その上側フィルム20Xの折り曲げ方のばらつきに起因して深さもばらつく可能性がある。この「折り曲げ方」とは、折れ曲がり部20Nにおける上側フィルム20Xの折り曲げ角度などである。もちろん、折れ曲がり部20Nにおいて上側フィルム20Xが湾曲している場合には、上記した折り曲げ方には、その折れ曲がり部20Nにおける上側フィルム20Xの曲率半径も含まれる。そこで、深さのばらつきの影響を抑制するために、折れ曲がり部20Nよりも距離Dだけ内側の領域、すなわち折れ曲がり部20Nから内側に向かって距離Dだけ離れた領域において、深さを測定する。この距離Dは、上側フィルム20Xの折り曲げ方に応じて任意に設定可能であるが、一例を挙げると、5mmである。
【0093】
続いて、互いに異なる複数の場所において深さを測定することにより、複数個の深さを得る。ここでは、上記したように、上側フィルム20Xの平面形状が4個の角部を有する矩形であるため、各角部の近傍において深さを測定することにより、4個の深さを得る。
【0094】
最後に、4個の深さの平均値を算出することにより、絞り量Q(mm)とする。
【0095】
<1-3.動作>
二次電池の充電時には、正極11からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して負極12に吸蔵される。また、二次電池の放電時には、負極12からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して正極11に吸蔵される。これらの充放電時には、リチウムがイオン状態で吸蔵および放出される。
【0096】
<1-4.製造方法>
二次電池を製造する場合には、以下で説明する手順により、正極11および負極12を作製すると共に電解液を調製したのち、その正極11、負極12および電解液を用いて二次電池を作製する。
【0097】
[正極の作製]
最初に、正極活物質と、正極結着剤および正極導電剤などとを混合することにより、正極合剤とする。続いて、有機溶剤などの溶媒に正極合剤を投入することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。最後に、正極集電体11Aの両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層11Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて正極活物質層11Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層11Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。これにより、正極集電体11Aの両面に正極活物質層11Bが形成されるため、正極11が作製される。
【0098】
[負極の作製]
上記した正極11の作製手順と同様の手順により、負極集電体12Aの両面に負極活物質層12Bを形成する。具体的には、負極活物質と、必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとを混合することにより、負極合剤としたのち、有機溶剤などの溶媒に負極合剤を投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。続いて、負極集電体12Aの両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層12Bを形成する。こののち、正極活物質層11Bを圧縮成型した場合と同様に、負極活物質層12Bを圧縮成型してもよい。これにより、負極集電体12Aの両面に負極活物質層12Bが形成されるため、負極12が作製される。
【0099】
[電解液の調製]
鎖状カルボン酸エステルを含む溶媒に電解質塩を投入する。これにより、溶媒中において電解質塩が分散または溶解されるため、電解液が調製される。
【0100】
[二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などを用いて正極11(正極集電体11A)に正極リード14を接続させると共に、溶接法などを用いて負極12(負極集電体12A)に負極リード15を接続させる。
【0101】
続いて、セパレータ13を介して正極11および負極12を互いに積層させたのち、その正極11、負極12およびセパレータ13を巻回させることにより、巻回体を作製する。この巻回体は、正極11、負極12およびセパレータ13のそれぞれに電解液が含浸されていないことを除いて、電池素子10の構成と同様の構成を有している。続いて、プレス機などを用いて巻回体を押圧することにより、扁平形状となるように巻回体を成型する。
【0102】
続いて、窪み部20Uの内部に巻回体が収容された状態において、上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yを互いに重ね合わせたのち、熱融着法を用いて上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yのそれぞれのうちの3辺の外周縁部(熱融着層21)同士を互いに熱融着させることにより、袋状の外装フィルム20の内部に巻回体を収納する。この場合には、絞り量Qが上記した条件を満たすように、上側フィルム20Xの立体的形状を調整する。
【0103】
なお、絞り量Qは、上側フィルム20Xの形成(成形)条件を変更することにより、調整可能である。具体的には、上側フィルム20Xの形成工程では、図示しない原材料フィルムを用いて、その原材料フィルムの成形処理を行う。この成形処理では、凸型のブロックと凹型のブロックとの間に原材料フィルムを挟むことにより、その原材料フィルムの一部が凹状となるように成形される。これにより、窪み部20Uが形成されるため、その窪み部20Uを有する上側フィルム20Xが得られる。この場合には、凸型のブロックの高さおよび凹型のブロックの深さのそれぞれを変更することにより、窪み部20Uの深さが変化するため、絞り量Qが調整される。
【0104】
ここでは、上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yのそれぞれとして、ポリプロピレンを含む熱融着層21と、金属層22と、保護層23とがこの順に積層されたラミネートフィルムを用いることにより、熱融着層21同士が互いに熱融着される。
【0105】
最後に、袋状の外装フィルム20の内部に電解液を注入したのち、熱融着法を用いて上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yのそれぞれのうちの残りの1辺の外周縁部(熱融着層21)同士を互いに熱融着させる。この場合には、外装フィルム20と正極リード14との間に封止フィルム31を挿入すると共に、外装フィルム20と負極リード15との間に封止フィルム32を挿入する。これにより、巻回体に電解液が含浸されるため、巻回電極体である電池素子10が作製される。
【0106】
この場合には、特に、外装フィルム20(上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Y)のうちの4辺において熱融着層21の外周縁部同士が互いに熱融着されるため、熱融着部20Sが形成される。これにより、外装フィルム20は、熱融着部20Sにおいて封止される。特に、熱融着部20Sを形成する場合には、熱融着層21の厚さTと、熱融着部20Sの長さLおよび幅Wと、封止比Rとが上記した条件を満たすように、熱融着範囲などの条件を調整する。
【0107】
よって、袋状の外装フィルム20の内部に電池素子10が封入されるため、二次電池が組み立てられる。
【0108】
[二次電池の安定化]
組み立て後の二次電池を充放電させる。環境温度、充放電回数(サイクル数)および充放電条件などの各種条件は、任意に設定可能である。これにより、負極12などの表面に被膜が形成されるため、二次電池の状態が電気化学的に安定化する。よって、外装フィルム20を用いた二次電池、すなわちラミネートフィルム型の二次電池が完成する。
【0109】
<1-5.作用および効果>
この二次電池によれば、可撓性の外装フィルム20(熱融着層21がポリプロピレンを含む。)の内部に電池素子10(電解液の溶媒が鎖状カルボン酸エステルを含む。)が収納されており、その外装フィルム20が熱融着部20Sにおいて封止されている。また、厚さTが25μm~60μmであり、長さLが160mm~650mmであり、幅Wが3mm~6mmであり、封止比Rが0.16~0.32であり、絞り量Qが7.8mm以下であり、溶媒中における鎖状カルボン酸エステルの含有量が30体積%~60体積%である。
【0110】
この場合には、上記したように、熱融着層21および熱融着部20Sのそれぞれの構成(厚さT、長さL、幅Wおよび封止比R)と鎖状カルボン酸エステルの含有量とが相互に適正化されると共に、外装フィルム20(窪み部20Uが設けられている上側フィルム20X)の立体的形状が適正化される。これにより、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいても、その鎖状カルボン酸エステルが熱融着部20S(熱融着層21)に浸透しにくくなる。これにより、熱融着層21が劣化しにくくなるため、液体成分および気体成分が熱融着部20Sを通過しにくくなる。また、外装フィルム20(上側フィルム20X)が過剰に変形(成型)されにくくなるため、その外装フィルム20が破損または破断しにくくなる。これにより、外装フィルム20の密閉性が向上するため、液体成分および気体成分が外装フィルム20の内部に侵入しにくくなる。
【0111】
詳細には、外部成分である水分などの液体成分が外装フィルム20の内部に侵入しにくくなるため、その液体成分が電解液と反応しにくくなる。これにより、電解液の分解反応に起因したガスが発生しにくくなるため、二次電池が膨れにくくなる。
【0112】
また、内部成分である電解液の揮発分などの気体成分が外装フィルム20の外部に放出されにくくなるため、その電解液が実質的に漏液しにくくなる。これにより、外装フィルム20の内部に収納されている電解液の収納量が維持されやすくなるため、充放電を繰り返しても充放電反応が安定に進行しやすくなる。
【0113】
さらに、正極リード14が熱融着層21を介して金属層22から安定に絶縁されるため、その正極リード14と金属層22との短絡が発生しにくくなると共に、負極リード15が熱融着層21を介して金属層22から安定に絶縁されるため、その負極リード15と金属層22との短絡が発生しにくくなる。これにより、正極リード14と金属層22との絶縁性が担保されると共に、負極リード15と金属層22との絶縁性が担保される。
【0114】
これらのことから、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいても、可撓性の外装フィルム20の封止性が担保されるため、絶縁性が担保されながら、充放電を繰り返しても放電容量が減少しにくくなると共に二次電池が膨れにくくなる。よって、優れたサイクル特性、優れた膨れ特性および優れた絶縁特性を得ることができる。
【0115】
特に、外装フィルム20が熱融着層21を含むラミネートフィルムであれば、その外装フィルム20の封止性がより向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0116】
この場合には、ラミネートフィルムが熱融着層21と金属層22と絶縁性の保護層23とがこの順に積層された多層構造を有していれば、外装フィルム20の封止性がさらに向上するため、さらに高い効果を得ることができる。
【0117】
また、二次電池がリチウムイオン二次電池であれば、リチウムの吸蔵放出を利用して十分な電池容量が安定に得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0118】
<2.変形例>
次に、上記した二次電池の変形例に関して説明する。二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例のうちの任意の2種類以上は、互いに組み合わされてもよい。
【0119】
[変形例1]
図4では、外装フィルム20(上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Y)が3層構造(熱融着層21、金属層22および保護層23)を有するラミネートフィルムである。しかしながら、外装フィルム20の層構成は、熱融着層21を含んでいれば、特に限定されない。すなわち、外装フィルム20の層数は、熱融着層21を含む3層に限らず、熱融着層21からなる1層だけでもよいし、熱融着層21を含む2層でもよいし、熱融着層21を含む4層以上でもよい。この場合においても、同様の効果を得ることができる。
【0120】
[変形例2]
多孔質膜であるセパレータ13を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、多孔質膜であるセパレータ13の代わりに、高分子化合物層を含む積層型のセパレータを用いてもよい。
【0121】
具体的には、積層型のセパレータは、一対の面を有する多孔質膜と、その多孔質膜の片面または両面に配置された高分子化合物層とを含んでいる。正極11および負極12のそれぞれに対するセパレータの密着性が向上するため、電池素子10の位置ずれが発生しにくくなるからである。これにより、電解液の分解反応などが発生しても、二次電池が膨れにくくなる。高分子化合物層は、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。ポリフッ化ビニリデンなどは、物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。
【0122】
なお、多孔質膜および高分子化合物層のうちの一方または双方は、複数の絶縁性粒子のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。二次電池の発熱時において複数の絶縁性粒子が放熱するため、その二次電池の安全性(耐熱性)が向上するからである。絶縁性粒子は、無機粒子および樹脂粒子などである。無機粒子の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ベーマイト、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ジルコニウムなどの粒子である。樹脂粒子の種類は、特に限定されないが、具体的には、アクリル樹脂およびスチレン樹脂などの粒子である。
【0123】
積層型のセパレータを作製する場合には、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製したのち、多孔質膜の片面または両面に前駆溶液を塗布する。この場合には、必要に応じて前駆溶液に複数の絶縁性粒子を添加してもよい。
【0124】
この積層型のセパレータを用いた場合においても、正極11と負極12との間においてリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。
【0125】
[変形例3]
液状の電解質である電解液を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、電解液の代わりに、ゲル状の電解質である電解質層を用いてもよい。
【0126】
電解質層を用いた電池素子10では、セパレータ13および電解質層を介して正極11および負極12が互いに積層されていると共に、その正極11、負極12、セパレータ13および電解質層が巻回されている。この電解質層は、正極11とセパレータ13との間に介在していると共に、負極12とセパレータ13との間に介在している。
【0127】
具体的には、電解質層は、電解液と共に高分子化合物を含んでおり、その電解質層中では、電解液が高分子化合物により保持されている。電解液の構成は、上記した通りである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデンなどを含んでいる。電解質層を形成する場合には、電解液、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製したのち、正極11および負極12のそれぞれの片面または両面に前駆溶液を塗布する。
【0128】
この電解質層を用いた場合においても、正極11と負極12との間において電解質層を介してリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。
【0129】
<3.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の用途(適用例)に関して説明する。
【0130】
二次電池の用途は、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、電子機器および電動車両などの主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源、または主電源から切り替えられる電源である。
【0131】
二次電池の用途の具体例は、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む。)である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。電子機器などに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用または産業用のバッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。これらの用途では、1個の二次電池が用いられてもよいし、複数個の二次電池が用いられてもよい。
【0132】
電池パックは、単電池を用いてもよいし、組電池を用いてもよい。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、二次電池以外の駆動源を併せて備えたハイブリッド自動車でもよい。家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に蓄積された電力を利用して家庭用の電気製品などを使用可能である。
【0133】
ここで、二次電池の適用例の一例に関して具体的に説明する。以下で説明する適用例の構成は、あくまで一例であるため、適宜、変更可能である。
【0134】
図5は、電池パックのブロック構成を表している。ここで説明する電池パックは、1個の二次電池を用いた電池パック(いわゆるソフトパック)であり、スマートフォンに代表される電子機器などに搭載される。
【0135】
この電池パックは、
図5に示したように、電源41と、回路基板42とを備えている。この回路基板42は、電源41に接続されていると共に、正極端子43、負極端子44および温度検出端子45を含んでいる。
【0136】
電源41は、1個の二次電池を含んでいる。この二次電池では、正極リードが正極端子43に接続されていると共に、負極リードが負極端子44に接続されている。この電源41は、正極端子43および負極端子44を介して外部と接続可能であるため、充放電可能である。回路基板42は、制御部46と、スイッチ47と、熱感抵抗素子(PTC)素子48と、温度検出部49とを含んでいる。ただし、PTC素子48は省略されてもよい。
【0137】
制御部46は、中央演算処理装置(CPU)およびメモリなどを含んでおり、電池パック全体の動作を制御する。この制御部46は、必要に応じて電源41の使用状態の検出および制御を行う。
【0138】
なお、制御部46は、電源41(二次電池)の電圧が過充電検出電圧または過放電検出電圧に到達すると、スイッチ47を切断することにより、電源41の電流経路に充電電流が流れないようにする。過充電検出電圧および過放電検出電圧は、特に限定されない。一例を挙げると、過充電検出電圧は、4.2V±0.05Vであると共に、過放電検出電圧は、2.4V±0.1Vである。
【0139】
スイッチ47は、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオードなどを含んでおり、制御部46の指示に応じて電源41と外部機器との接続の有無を切り換える。このスイッチ47は、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などを含んでおり、充放電電流は、スイッチ47のON抵抗に基づいて検出される。
【0140】
温度検出部49は、サーミスタなどの温度検出素子を含んでおり、温度検出端子45を用いて電源41の温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部46に出力する。温度検出部49により測定される温度の測定結果は、異常発熱時において制御部46が充放電制御を行う場合および残容量の算出時において制御部46が補正処理を行う場合などに用いられる。
【実施例】
【0141】
本技術の実施例に関して説明する。
【0142】
(実施例1~20および比較例1~15)
以下で説明するように、
図1~
図4に示したラミネートフィルム型の二次電池(リチウムイオン二次電池)を作製したのち、その二次電池の性能を評価した。
【0143】
[二次電池の作製]
以下の手順により、二次電池を作製した。
【0144】
(正極の作製)
最初に、正極活物質(コバルト酸リチウム(LiCoO2 ))91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを混合することにより、正極合剤とした。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その溶媒を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体11A(厚さ=12μmである帯状のアルミニウム箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層11Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層11Bを圧縮成型した。これにより、正極集電体11Aの両面に正極活物質層11Bが形成されたため、正極11が作製された。
【0145】
(負極の作製)
最初に、負極活物質(炭素材料である人造黒鉛)93質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)7質量部とを混合することにより、負極合剤とした。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に負極合剤を投入したのち、その溶媒を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体12A(厚さ=15μmである帯状の銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層12Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層12Bを圧縮成型した。これにより、負極集電体12Aの両面に負極活物質層12Bが形成されたため、負極12が作製された。
【0146】
(電解液の調製)
溶媒に電解質塩(六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 ))を添加したのち、その溶媒を撹拌した。溶媒としては、炭酸エステル系化合物(環状炭酸エステル)である炭酸エチレンと、鎖状カルボン酸エステルであるプロピオン酸プロピル(PP)とを用いた。溶媒の混合比(体積比)に関しては、後述するように、二次電池の完成後においてICP発光分光分析法を用いて測定した。電解質塩の含有量は、溶媒に対して1mol/kgとした。これにより、溶媒中において電解質塩が分散または溶解されたため、電解液が調製された。
【0147】
(二次電池の組み立て)
最初に、正極11(正極集電体11A)にアルミニウム製の正極リード14を溶接したと共に、負極12(負極集電体12A)に銅製の負極リード15を溶接した。
【0148】
続いて、セパレータ13(厚さ=15μmである微多孔性ポリエチレンフィルム)を介して正極11および負極12を互いに積層させたのち、その正極11、負極12およびセパレータ13を巻回させることにより、巻回体を作製した。続いて、プレス機を用いて巻回体をプレスすることにより、扁平形状となるように巻回体を成型した。
【0149】
続いて、外装フィルム20として、窪み部20Uを有する上側フィルム20Xと、下側フィルム20Yとを準備した。上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yのそれぞれとしては、熱融着層21(厚さTであるポリプロピレンフィルム)と、金属層22(厚さ=40μmであるアルミニウム箔)と、保護層23(厚さ=25μmであるナイロンフィルム)とが内側からこの順に積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。熱融着層21の厚さT(μm)および外装フィルム20(上側フィルム20X)の絞り量Q(mm)は、表1および表2に示した通りである。
【0150】
続いて、窪み部20Uの内部に巻回体を収容したのち、その巻回体を挟むように上側フィルム20Xと下側フィルム20Yとを互いに重ね合わせた。続いて、上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yのそれぞれのうちの3辺の外周縁部(熱融着層21)同士を互いに熱融着した。これにより、3辺の熱融着部20Sが形成されたことに応じて、上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yにより袋状の外装フィルム20が形成されたため、その袋状の外装フィルム20の内部に巻回体が収納された。
【0151】
最後に、袋状の外装フィルム20の内部に電解液を注入したのち、減圧環境中において上側フィルム20Xおよび下側フィルム20Yのそれぞれのうちの残りの1辺の外周縁部(熱融着層21)同士を互いに熱融着した。これにより、巻回体に電解液が含浸されたため、電池素子10が作製された。また、さらに1辺の熱融着部20Sが形成されることにより、合計で4辺の熱融着部20Sが形成されたため、袋状の外装フィルム20が封止された。熱融着部20Sの長さL(mm)および幅W(mm)は、表1および表2に示した通りである。よって、袋状の外装フィルム20の内部に電池素子10が封入されたため、二次電池が組み立てられた。
【0152】
熱融着部20Sを形成する場合には、上側フィルム20Xと下側フィルム20Yとを互いに熱融着する範囲を変更することにより、表1および表2に示したように、封止比Rを調整した。
【0153】
(二次電池の安定化)
常温環境中(温度=23℃)において二次電池を充放電させた。充電時には、0.1Cの電流で電池電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、その4.2Vの電圧で電流が0.05Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.1Cの電流で電池電圧が3.0Vに到達するまで定電流放電した。0.1Cとは、電池容量(理論容量)を10時間で放電しきる電流値であると共に、0.05Cとは、電池容量を20時間で放電しきる電流値である。
【0154】
これにより、負極12などの表面に被膜が形成されたため、二次電池の状態が安定化した。よって、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0155】
なお、二次電池の完成後、ICP発光分光分析法を用いて電解液を分析することにより、溶媒中における鎖状カルボン酸エステルの含有量(体積%)を測定した結果は、表1および表2に示した通りである。すなわち、溶媒の混合比(体積比)に関しては、炭酸エチレン:プロピオン酸プロピル=80:20~30:70の範囲内において変化させた。
【0156】
[性能の評価]
二次電池(外装フィルム20)の性能(封止性)としてサイクル特性、膨れ特性および絶縁特性を評価したところ、表1および表2に示した結果が得られた。
【0157】
サイクル特性を調べる場合には、最初に、常温環境中(温度=23℃)において二次電池を1サイクル充放電させることにより、放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。続いて、同環境中においてサイクル数が100サイクルに到達するまで二次電池を繰り返して充放電させることにより、放電容量(100サイクル目の放電容量)を測定した。最後に、容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を算出した。なお、充放電条件は、二次電池を安定化時における充放電条件と同様にした。
【0158】
膨れ特性を調べる場合には、最初に、常温環境中(温度=23℃)において二次電池を充電させたのち、その二次電池の厚さ(保存前の厚さ)を測定した。なお、充電条件は、二次電池を安定化時における充電条件と同様にした。続いて、高温高湿環境中(温度=60℃,湿度=90%)において二次電池を保存(保存期間=90日間)したのち、その二次電池の厚さ(保存後の厚さ)を測定した。最後に、膨れ率(%)=[(保存後の厚さ-保存前の厚さ)/保存前の厚さ]×100を算出した。
【0159】
絶縁特性を調べる場合には、二次電池を用いて落下試験を行ったのち、その二次電池の電気抵抗(絶縁抵抗(Ω))を測定した。落下試験では、電気用品安全法に規定されている落下試験に準拠して、高さ=1.9mの位置からコンクリート製の床に二次電池を落下させた。
【0160】
ここでは、サイクル特性、膨れ特性および絶縁特性を評価する他に、表1および表2に示したように、二次電池の電池容量(Ah)も測定した。
【0161】
【0162】
【0163】
[考察]
表1および表2に示したように、二次電池(外装フィルム20)の封止性が影響を及ぼす容量維持率、膨れ率および絶縁抵抗のそれぞれは、その外装フィルム20の構成(厚さT、長さL、幅W、封止比Rおよび絞り量Q)および電解液の組成(溶媒中における鎖状カルボン酸エステルの含有量)に応じて変動した。
【0164】
具体的には、厚さTが25μm~60μmであり、長さLが160mm~650mmであり、幅Wが3mm~6mmであり、封止比Rが0.16~0.32であり、絞り量Qが7.8mm以下であり、鎖状カルボン酸エステルの含有量が30体積%~60体積%であるという6種類の条件が同時に満たされていない場合(比較例1~15)には、容量維持率、膨れ率および絶縁抵抗のうちのいずれかが向上すると残りが悪化するというトレードオフの関係が発生した。
【0165】
これに対して、6種類の条件が同時に満たされている場合(実施例1~20)には、上記したトレードオフの関係が打破されたため、容量維持率、膨れ率および絶縁抵抗がいずれも向上した。この場合には、十分な電池容量も得られた。
【0166】
[まとめ]
表1および表2に示した結果から、可撓性の外装フィルム20(熱融着層21がポリプロピレンを含む。)の内部に電池素子10(電解液の溶媒が鎖状カルボン酸エステルを含む。)が収納されており、その外装フィルム20が熱融着部20Sにおいて封止されている場合において、上記した6種類の条件が同時に満たされていると、絶縁抵抗が担保されながら容量維持率が増加した共に膨れ率が減少した。よって、二次電池において優れたサイクル特性、優れた膨れ特性および優れた絶縁特性が得られた。
【0167】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限定されないため、種々に変形可能である。
【0168】
具体的には、電池素子の素子構造が巻回型である場合に関して説明したが、その電池素子の素子構造は、特に限定されないため、電極(正極および負極)が積層された積層型および電極(正極および負極)がジグザグに折り畳まれた九十九折り型などの他の素子構造でもよい。
【0169】
さらに、電極反応物質がリチウムである場合に関して説明したが、その電極反応物質は、特に限定されない。具体的には、電極反応物質は、上記したように、ナトリウムおよびカリウムなどの他のアルカリ金属でもよいし、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属でもよい。この他、電極反応物質は、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。
【0170】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して、他の効果が得られてもよい。