(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】脱水素装置及び鋼板の製造システム、並びに鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 3/06 20060101AFI20231114BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231114BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20231114BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20231114BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C21D3/06
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
C22C38/06
C22C38/60
C22C38/00 302Z
C22C38/58
(21)【出願番号】P 2022555186
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2022020580
(87)【国際公開番号】W WO2023286441
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2021116762
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】田路 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 一輝
(72)【発明者】
【氏名】南 秀和
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153003(JP,A)
【文献】特開昭50-098422(JP,A)
【文献】特開昭62-287019(JP,A)
【文献】特開2004-131794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00-11/00
B21B 1/00- 3/02
C23C 2/00- 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯をコイル状に巻き取った鋼板コイルを収容する収容部と、
前記収容部に収容される前記鋼板コイルに対して、前記鋼板コイルの振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼板コイルの最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する振動付加装置と、
を有する、脱水素装置。
【請求項2】
前記振動付加装置は、前記鋼板コイルの表面に離間して対向する磁極面を有する電磁石を有し、前記電磁石が前記鋼板コイルに与える外力により前記鋼板コイルが振動するように構成される、請求項1に記載の脱水素装置。
【請求項3】
前記振動付加装置は、前記鋼板コイルに接触する振動子を有し、前記振動子によって前記鋼板コイルが振動するように構成される、請求項1に記載の脱水素装置。
【請求項4】
前記鋼板コイルを加熱しつつ前記振動を付加するための加熱部をさらに有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の脱水素装置。
【請求項5】
鋼板コイルから鋼帯を払い出す払い出し装置と、
前記鋼帯を通板させる通板装置と、
前記鋼帯を巻き取る巻き取り装置と、
前記通板装置を通板中の前記鋼帯に対して、
前記鋼帯を300℃以下に保持して、前記鋼帯の振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼帯の
板厚方向の最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を
20秒以上付加する振動付加装置と、
を有する、脱水素装置。
【請求項6】
前記振動付加装置は、通板中の前記鋼帯の表面に離間して対向する磁極面を有する電磁石を有し、前記電磁石が前記鋼帯に与える外力により前記鋼帯が振動するように構成される、請求項5に記載の脱水素装置。
【請求項7】
前記振動付加装置は、通板中の前記鋼帯に接触する振動子を有し、前記振動子によって前記鋼帯が振動するように構成される、請求項5に記載の脱水素装置。
【請求項8】
前記鋼帯を加熱しつつ前記振動を付加するための加熱部をさらに有する、請求項5から7のいずれか1項に記載の脱水素装置。
【請求項9】
前記脱水素装置の外部に前記振動が伝達することを防ぐ制振部をさらに有する、請求項1又は5に記載の脱水素装置。
【請求項10】
鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延装置と、
前記熱延鋼板を巻き取って熱延コイルを得る熱延鋼板巻き取り装置と、
前記熱延コイルを前記鋼板コイルとする、請求項1又は5に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【請求項11】
熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延装置と、
前記冷延鋼板を巻き取って冷延コイルを得る冷延鋼板巻き取り装置と、
前記冷延コイルを前記鋼板コイルとする、請求項1又は5に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【請求項12】
冷延コイル又は熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルを得るバッチ焼鈍炉と、
前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする、請求項1又は5に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【請求項13】
冷延コイル又は熱延コイルからそれぞれ冷延鋼板又は熱延鋼板を払い出す焼鈍前払い出し装置と、
前記冷延鋼板又は熱延鋼板を連続焼鈍して、焼鈍鋼板とする連続焼鈍炉と、
前記焼鈍鋼板を巻き取って、焼鈍コイルを得る焼鈍鋼板巻き取り装置と、
前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする、請求項1又は5に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【請求項14】
熱延鋼板又は冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板とするめっき装置と、
前記めっき鋼板を巻き取って、めっき鋼板コイルを得るめっき鋼板巻き取り装置と、
前記めっき鋼板コイルを前記鋼板コイルとする、請求項1又は5に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【請求項15】
前記めっき装置が溶融亜鉛めっき装置である、請求項14に記載の鋼板の製造システム。
【請求項16】
前記めっき装置が、溶融亜鉛めっき装置と、これに続く合金化炉とを含む、請求項14に記載の鋼板の製造システム。
【請求項17】
前記めっき装置が電気めっき装置である、請求項14に記載の鋼板の製造システム。
【請求項18】
鋼帯をコイル状に巻き取った鋼板コイルに対して、前記鋼板コイルの振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼板コイルの最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加して製品コイルとする振動付加工程を含む、鋼板の製造方法。
【請求項19】
前記振動付加工程は、前記鋼板コイルを300℃以下に保持して行われる、請求項18に記載の鋼板の製造方法。
【請求項20】
鋼板コイルから鋼帯を払い出す工程と、
前記鋼帯を通板させる通板工程と、
前記鋼帯を巻き取って製品コイルとする工程と、
を有し、前記通板工程は、前記鋼帯に対して、前記鋼帯の振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼帯の
板厚方向の最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を
20秒以上付加する振動付加工程を含
み、
前記振動付加工程は、前記鋼帯を300℃以下に保持して行われる、
鋼板の製造方法。
【請求項21】
鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とする工程と、
前記熱延鋼板を巻き取って熱延コイルを得る工程と、
を含み、前記熱延コイルを前記鋼板コイルとする、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項22】
熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする工程と、
前記冷延鋼板を巻き取って冷延コイルを得る工程と、
を含み、前記冷延コイルを前記鋼板コイルとする、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項23】
冷延コイルまたは熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルを得る工程を含み、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項24】
冷延コイルまたは熱延コイルからそれぞれ冷延鋼板または熱延鋼板を払い出す工程と、
前記冷延鋼板または前記熱延鋼板を連続焼鈍して、焼鈍鋼板を得る工程と、
前記焼鈍鋼板を巻き取って、焼鈍コイルを得る工程と、
を含み、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項25】
熱延鋼板または冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板とするめっき工程と、
前記めっき鋼板を巻き取って、めっき鋼板コイルを得る工程と、
を含み、前記めっき鋼板コイルを前記鋼板コイルとする、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項26】
前記めっき工程が溶融亜鉛めっき工程を含む、請求項
25に記載の鋼板の製造方法。
【請求項27】
前記めっき工程が、溶融亜鉛めっき工程と、これに続く合金化工程とを含む、請求項
25に記載の鋼板の製造方法。
【請求項28】
前記めっき工程が電気めっき工程を含む、請求項
25に記載の鋼板の製造方法。
【請求項29】
前記製品コイルが、590MPa以上の引張強さを有する高強度鋼板からなる、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項30】
前記製品コイルが、質量%で、
C :0.030%以上0.800%以下、
Si:0.01%以上3.00%以下、
Mn:0.01%以上10.00%以下、
P :0.001%以上0.100%以下、
S :0.0001%以上0.0200%以下、
N :0.0005%以上0.0100%以下および
Al:2.000%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する下地鋼板を含む、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項31】
前記成分組成は、さらに質量%で、
Ti:0.200%以下、
Nb:0.200%以下、
V :0.500%以下、
W :0.500%以下、
B :0.0050%以下、
Ni:1.000%以下、
Cr:1.000%以下、
Mo:1.000%以下、
Cu:1.000%以下、
Sn:0.200%以下、
Sb:0.200%以下、
Ta:0.100%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、
Zr:0.0050%以下および
REM:0.0050%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有する、請求項
30に記載の鋼板の製造方法。
【請求項32】
前記製品コイルは、質量%で、
C :0.001%以上0.400%以下、
Si:0.01%以上2.00%以下、
Mn:0.01%以上5.00%以下、
P :0.001%以上0.100%以下、
S :0.0001%以上0.0200%以下、
Cr:9.0%以上28.0%以下、
Ni:0.01%以上40.0%以下、
N :0.0005%以上0.500%以下および
Al:3.000%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有するステンレス鋼板を含む、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項33】
前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ti:0.500%以下、
Nb:0.500%以下、
V :0.500%以下、
W :2.000%以下、
B :0.0050%以下、
Mo:2.000%以下、
Cu:3.000%以下、
Sn:0.500%以下、
Sb:0.200%以下、
Ta:0.100%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、
Zr:0.0050%以下および
REM:0.0050%以下
からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有する、請求項
32に記載の鋼板の製造方法。
【請求項34】
前記製品コイルは0.50質量ppm以下の拡散性水素量を有する、請求項18から
20のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電製品、及び建材などの産業分野で使用される部材として好適な鋼板を製造するための脱水素装置及び鋼板の製造システムに関する。特に、本発明は、鋼中に内在する拡散性水素量の少ない耐水素脆化に優れた鋼板を得るための脱水素装置及び鋼板の製造システム、並びに鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度鋼板に特有の懸念点として、鋼板に侵入した水素に起因して鋼板が脆化することが知られている(水素脆化)。連続焼鈍装置及び連続溶融亜鉛めっき装置を用いて鋼板に焼鈍を施す場合、焼鈍炉には、しばしば還元性又は非酸化性のガスとして用いられるH2-N2混合ガスが導入される。該H2-N2混合ガス中における焼鈍が原因で、鋼中に水素が侵入する。また、自動車用の鋼板では、自動車の使用環境下で進行する腐食反応によって、水素が発生し、鋼中に侵入する。鋼中に侵入した拡散性水素を充分に低減させなければ、拡散性水素に起因して、鋼板が水素脆化し、遅れ破壊が発生する虞がある。
【0003】
従来、鋼中の拡散性水素量を低減する方法について種々の検討がなされてきた。例えば、特許文献1には、焼鈍処理及び伸長圧延後に時効処理を行うことで、鋼中にトラップされる水素量を低減する方法が開示されている。また、拡散性水素を低減させる方法として、焼鈍後の鋼板を室温にて長時間放置して、鋼板表面から拡散性水素を脱離させる方法が知られている。特許文献2には、冷間圧延後焼鈍を施した鋼板を、50℃以上300℃以下の温度域内で1800s以上3200s以下保持することで、鋼中の拡散性水素量を低減させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6562180号公報
【文献】国際公開第2019/188642号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法においては、焼鈍後の加熱保持により組織変化が起こる虞があるため、特許文献1、2に記載の方法を他の鋼板に対して適用することが困難であった。また、室温において鋼板を放置する方法においては、長時間鋼板を放置する必要があり、生産性が低い。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、鋼板の機械特性を変化させることなく、耐水素脆化特性に優れた鋼板を製造することが可能な、鋼板の脱水素装置及び鋼板の製造システム、並びに鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、鋼板に対して所定の振動数及び最大振幅の振動を付加すれば、鋼中の拡散性水素量を低減して水素脆化を抑制することができることを知見した。具体的には、鋼板を高い周波数かつ小さい最大振幅で微振動させることによって、鋼板中の水素を十分に効率良く低減させることができることが分かった。これは、以下のメカニズムによるものと推測される。鋼板を強制的に微振動させることで、鋼板にくり返し曲げ変形が与えられる。その結果、鋼板の厚み中心部に比べて表面の格子間隔が拡張する。鋼板中の水素は、格子間隔が広くポテンシャルエネルギーの低い鋼板表面に向かって拡散し、当該表面から脱離する。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0009】
[1] 鋼帯をコイル状に巻き取った鋼板コイルを収容する収容部と、
前記収容部に収容される前記鋼板コイルに対して、前記鋼板コイルの振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼板コイルの最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する振動付加装置と、
を有する、脱水素装置。
【0010】
[2] 前記振動付加装置は、前記鋼板コイルの表面に離間して対向する磁極面を有する電磁石を有し、前記電磁石が前記鋼板コイルに与える外力により前記鋼板コイルが振動するように構成される、前記[1]に記載の脱水素装置。
【0011】
[3] 前記振動付加装置は、前記鋼板コイルに接触する振動子を有し、前記振動子によって前記鋼板コイルが振動するように構成される、前記[1]に記載の脱水素装置。
【0012】
[4] 前記鋼板コイルを加熱しつつ前記振動を付加するための加熱部をさらに有する、前記[1]から[3]のいずれか1項に記載の脱水素装置。
【0013】
[5] 鋼板コイルから鋼帯を払い出す払い出し装置と、
前記鋼帯を通板させる通板装置と、
前記鋼帯を巻き取る巻き取り装置と、
前記通板装置を通板中の前記鋼帯に対して、前記鋼帯の振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼帯の最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する振動付加装置と、
を有する、脱水素装置。
【0014】
[6] 前記振動付加装置は、通板中の前記鋼帯の表面に離間して対向する磁極面を有する電磁石を有し、前記電磁石が前記鋼帯に与える外力により前記鋼帯が振動するように構成される、前記[5]に記載の脱水素装置。
【0015】
[7] 前記振動付加装置は、通板中の前記鋼帯に接触する振動子を有し、前記振動子によって前記鋼帯が振動するように構成される、前記[5]に記載の脱水素装置。
【0016】
[8] 前記鋼帯を加熱しつつ前記振動を付加するための加熱部をさらに有する、前記[5]から[7]のいずれか1項に記載の脱水素装置。
【0017】
[9] 前記脱水素装置の外部に前記振動が伝達することを防ぐ制振部をさらに有する、前記[1]から[8]のいずれか1項に記載の脱水素装置。
【0018】
[10] 鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延装置と、
前記熱延鋼板を巻き取って熱延コイルを得る熱延鋼板巻き取り装置と、
前記熱延コイルを前記鋼板コイルとする、前記[1]から[9]のいずれか1項に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【0019】
[11] 熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延装置と、
前記冷延鋼板を巻き取って冷延コイルを得る冷延鋼板巻き取り装置と、
前記冷延コイルを前記鋼板コイルとする、前記[1]から[9]のいずれか1項に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【0020】
[12] 冷延コイル又は熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルを得るバッチ焼鈍炉と、
前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする、前記[1]から[9]のいずれか1項に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【0021】
[13] 冷延コイル又は熱延コイルからそれぞれ冷延鋼板又は熱延鋼板を払い出す焼鈍前払い出し装置と、
前記冷延鋼板又は熱延鋼板を連続焼鈍して、焼鈍鋼板とする連続焼鈍炉と、
前記焼鈍鋼板を巻き取って、焼鈍コイルを得る焼鈍鋼板巻き取り装置と、
前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする、前記[1]から[9]のいずれか1項に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【0022】
[14] 熱延鋼板又は冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板とするめっき装置と、
前記めっき鋼板を巻き取って、めっき鋼板コイルを得るめっき鋼板巻き取り装置と、
前記めっき鋼板コイルを前記鋼板コイルとする、前記[1]から[9]のいずれか1項に記載の脱水素装置と、
を有する、鋼板の製造システム。
【0023】
[15] 前記めっき装置が溶融亜鉛めっき装置である、前記[14]に記載の鋼板の製造システム。
【0024】
[16] 前記めっき装置が、溶融亜鉛めっき装置と、これに続く合金化炉とを含む、前記[14]に記載の鋼板の製造システム。
【0025】
[17] 前記めっき装置が電気めっき装置である、前記[14]に記載の鋼板の製造システム。
【0026】
[18] 鋼帯をコイル状に巻き取った鋼板コイルに対して、前記鋼板コイルの振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼板コイルの最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加して製品コイルとする振動付加工程を含む、鋼板の製造方法。
【0027】
[19] 前記振動付加工程は、前記鋼板コイルを300℃以下に保持して行われる、前記[18]に記載の鋼板の製造方法。
【0028】
[20] 鋼板コイルから鋼帯を払い出す工程と、
前記鋼帯を通板させる通板工程と、
前記鋼帯を巻き取って製品コイルとする工程と、
を有し、前記通板工程は、前記鋼帯に対して、前記鋼帯の振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼帯の最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する振動付加工程を含む、鋼板の製造方法。
【0029】
[21] 前記振動付加工程は、前記鋼帯を300℃以下に保持して行われる、前記[20]に記載の鋼板の製造方法。
【0030】
[22] 鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とする工程と、
前記熱延鋼板を巻き取って熱延コイルを得る工程と、
を含み、前記熱延コイルを前記鋼板コイルとする、前記[18]から[21]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【0031】
[23] 熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする工程と、
前記冷延鋼板を巻き取って冷延コイルを得る工程と、
を含み、前記冷延コイルを前記鋼板コイルとする、前記[18]から[21]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【0032】
[24] 冷延コイルまたは熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルを得る工程を含み、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする、前記[18]から[21]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【0033】
[25] 冷延コイルまたは熱延コイルからそれぞれ冷延鋼板または熱延鋼板を払い出す工程と、
前記冷延鋼板または前記熱延鋼板を連続焼鈍して、焼鈍鋼板を得る工程と、
前記焼鈍鋼板を巻き取って、焼鈍コイルを得る工程と、
を含み、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする、前記[18]から[21]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【0034】
[26] 熱延鋼板または冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板とするめっき工程と、
前記めっき鋼板を巻き取って、めっき鋼板コイルを得る工程と、
を含み、前記めっき鋼板コイルを前記鋼板コイルとする、前記[18]から[21]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【0035】
[27] 前記めっき工程が溶融亜鉛めっき工程を含む、前記[26]に記載の鋼板の製造方法。
【0036】
[28] 前記めっき工程が、溶融亜鉛めっき工程と、これに続く合金化工程とを含む、前記[26]に記載の鋼板の製造方法。
【0037】
[29] 前記めっき工程が電気めっき工程を含む、前記[26]に記載の鋼板の製造方法。
【0038】
[30] 前記製品コイルが、590MPa以上の引張強さを有する高強度鋼板からなる、前記[18]から[29]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【0039】
[31] 前記製品コイルが、質量%で、
C :0.030%以上0.800%以下、
Si:0.01%以上3.00%以下、
Mn:0.01%以上10.00%以下、
P :0.001%以上0.100%以下、
S :0.0001%以上0.0200%以下、
N :0.0005%以上0.0100%以下および
Al:2.000%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する下地鋼板を含む、前記[18]から[30]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【0040】
[32] 前記成分組成は、さらに質量%で、
Ti:0.200%以下、
Nb:0.200%以下、
V :0.500%以下、
W :0.500%以下、
B :0.0050%以下、
Ni:1.000%以下、
Cr:1.000%以下、
Mo:1.000%以下、
Cu:1.000%以下、
Sn:0.200%以下、
Sb:0.200%以下、
Ta:0.100%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、
Zr:0.0050%以下および
REM:0.0050%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有する、前記[31]に記載の鋼板の製造方法。
【0041】
[33] 前記製品コイルは、質量%で、
C :0.001%以上0.400%以下、
Si:0.01%以上2.00%以下、
Mn:0.01%以上5.00%以下、
P :0.001%以上0.100%以下、
S :0.0001%以上0.0200%以下、
Cr:9.0%以上28.0%以下、
Ni:0.01%以上40.0%以下、
N :0.0005%以上0.500%以下および
Al:3.000%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有するステンレス鋼板を含む、前記[18]から[30]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【0042】
[34] 前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ti:0.500%以下、
Nb:0.500%以下、
V :0.500%以下、
W :2.000%以下、
B :0.0050%以下、
Mo:2.000%以下、
Cu:3.000%以下、
Sn:0.500%以下、
Sb:0.200%以下、
Ta:0.100%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、
Zr:0.0050%以下および
REM:0.0050%以下
からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有する、前記[33]に記載の鋼板の製造方法。
【0043】
[35] 前記製品コイルは0.50質量ppm以下の拡散性水素量を有する、前記[18]から[34]のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、鋼板の機械特性を変化させることなく、耐水素脆化特性に優れた鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図2】(A)及び(B)は、本発明の各実施形態において、鋼板コイルCに対する振動付加装置60の電磁石63の設置態様の例を模式的に示した図である。
【
図3】(A)及び(B)は、本発明の各実施形態において、電磁石63からの磁場の発生態様を模式的に示した図である。
【
図4】振動付加装置の構成の別例を示す模式図である。
【
図5】実施形態1に係る振動付加装置60を備える脱水素装置の構成の一例を説明するための概要図であり、(A)は脱水素装置の斜視図、(B)は脱水素装置を側面a側から見た図、(C)は脱水素装置の一例を側面bから見た図の一例、(D)は脱水素装置の別の例を側面bから見た図である。
【
図6】実施形態1に係る振動付加装置70を備える脱水素装置の構成の一例を説明するための概要図である。
【
図7】実施形態2に係る振動付加装置60を備える脱水素装置の構成の一例を、鋼板コイルの巻き取り軸方向から見た図である。
【
図8】実施形態2に係る振動付加装置70を備える脱水素装置の構成の一例を、鋼板コイルの巻き取り軸方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書において「鋼板」は、熱延鋼板、冷延鋼板、それらをさらに焼鈍した焼鈍鋼板、及びこれらの表面にめっき皮膜を形成しためっき鋼板を包含する総称である。「鋼板」の形状は限定されず、鋼板コイル及び払い出された鋼帯のいずれもが含まれる。
【0047】
本脱水素装置は、鋼板に所定の振動数及び最大振幅の振動を付加して、鋼中の拡散性水素量を低減する。本脱水素装置によれば、鋼板に対する加熱処理を必須としないことから、鋼板の組織特性を変化させる懸念もなく、鋼中の拡散水素量を低減することができる。
【0048】
また、本鋼板の製造方法においては、鋼板の振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼板の最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する。本鋼板の製造方法によれば、鋼板に対する加熱処理を必須としないことから、鋼板の組織特性を変化させる懸念もなく、鋼中の拡散水素量を低減することができる。
【0049】
ここで、鋼板に振動を付加することで鋼板の耐水素脆性を向上することができる理由は明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推察する。
すなわち、鋼板に対して所定の条件で振動を付加して、鋼板を強制加振する。この強制加振による曲げ変形に起因して、鋼板の格子間隔が板厚方向に拡張(引張)・収縮(圧縮)を繰り返す。鋼中の拡散性水素は、よりポテンシャルエネルギーの低い引張側への拡散が誘起されるため、この格子間隔の拡張・収縮に伴って拡散性水素の拡散が促進され、鋼板内部と表面とを結ぶ拡散性水素の拡散パスが強制的に引き起こされる。拡散パスが強制的に形成された拡散性水素は、鋼板の表面近傍における格子間隔が拡張したタイミングで、表面を通って更にポテンシャルエネルギー的に有利な鋼板外部へと逃げていく。このように、鋼板に対して所定の条件で付加した振動が、鋼中の拡散性水素を十分にかつ効率よく低減させるので、鋼板の水素脆化を良好かつ簡便に抑制できるものと推察される。
【0050】
以下では、(1)鋼板コイルに対して振動を付加する脱水素装置及び鋼板の製造方法、並びに(2)鋼板コイルを払い出して再度巻き戻しつつ、払い出した鋼板に振動を付加する脱水素装置及び鋼板の製造方法に分けて説明を行う。
【0051】
<実施形態1>
本実施形態に係る脱水素装置は、鋼帯をコイル状に巻き取った鋼板コイルCを収容する収容部と、前記収容部に収容される前記鋼板コイルに対して、前記鋼板コイルの振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼板コイルの最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する振動付加装置を有する、脱水素装置である。鋼板の製造における種々の工程において、鋼帯は巻き取られて鋼板コイルとされる。
【0052】
また、本実施形態に係る鋼板の製造方法は、鋼帯をコイル状に巻き取った鋼板コイルに対して、前記鋼板コイルの振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼板コイルの最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する振動付加工程を含む。鋼板の製造における種々の工程において、鋼帯は巻き取られて鋼板コイルとされる。
【0053】
本実施形態に係る脱水素装置及び鋼板の製造方法においては、この鋼板コイルに対して振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた鋼板を得ることができる。特に、鋼板コイルにおいては、鋼帯に曲げ変形が加えられており鋼帯の径方向外側の面の格子間隔が拡張していることから、径方向外側に向かって水素の拡散パスが形成されやすいと考えられる。本実施形態においては、鋼板コイルに対して振動を付加することで、径方向外側の面の格子間隔が拡張した状態の鋼帯に対してさらに微小曲げ変形を加えることになることから、より好適に鋼中の拡散性水素を低減することができる。
【0054】
[[振動付加装置]]
(振動付加装置60)
振動の付加には、振動付加装置を用いることができる。一例において、振動付加装置は、電磁石が鋼板コイルに与える外力(引力)により鋼板コイルが振動するように構成され得る。
図1に、振動付加装置の構成の一例を示す。一例において、振動付加装置60は、制御器61と、増幅器62と、電磁石63と、振動検出器64と、電源65とを備える。
図3(A),(B)に示すように、一例において、振動付加装置60は、磁石63Aと、この磁石63Aを巻回するコイル63Bとを含む電磁石63を有し、電磁石63は、鋼板コイルの表面に離間して対向する磁極面63A1を有する。なお、ここで「鋼板コイルの表面」とは、鋼板コイルCの径方向において最外周部に位置する鋼板の表面を意味する。
【0055】
電磁石63は、鋼板コイルCの表面に離間して対向する磁極面63A1を有する。電磁石63は、鋼板コイルCの径方向に対して磁極面63A1が垂直になるように鋼板コイルCの表面に離間して対向する磁極面63A1を有することが好ましい。これにより、
図3(A),(B)に示すように、磁力線の方向が鋼板コイルCの径方向に沿い、鋼板コイルCに引力を働かせることができる。電磁石の形状及び設置態様として、例えば、
図2(A),(B)を挙げることができる。
【0056】
図2(A)では、直方体形状の電磁石63が、鋼板コイルCの表面において互いに所定の間隔をあけて、鋼板板幅方向に沿って延在しており、これにより、鋼板コイルCの表面の幅方向に均一に外力(引力)を加えることができ、幅方向に均一な振動を実現できる。そして、このような電磁石63を通板方向に沿って複数配置することによって、鋼板コイルCに振動を付加する時間を十分に確保することができる。
図2(A)に示すように、電磁石63は、磁石63Aと、その周囲に巻回されたコイル63Bとを有し、コイル63Bの軸方向は冷延鋼板Sの板厚方向と一致させる。この場合、コイル63Bに流れる電流の向きに応じて、
図3(A)のように、鋼板コイルCと対向する磁極面63A1がN極になるか、又は、
図3(B)のように、鋼板コイルCと対向する磁極面63A1がS極となる。
【0057】
図2(B)では、複数の円柱形状の電磁石63を、その底部の磁極面が鋼板コイルCの表面に離間して対向するように、鋼板板幅方向に沿って所定の間隔で配置しており、これにより、鋼板コイルCの表面の幅方向に均一に外力(引力)を加えることができ、幅方向に均一な振動を実現できる。そして、このような円柱形状の電磁石63の列を通板方向に沿って複数配置することによって、鋼板コイルCに振動を付加する時間を十分に確保することができる。
図2(B)に示すように、各々の電磁石63は、円柱状の磁石と、その周囲に巻回されたコイルとを有し、コイルの軸方向は鋼板コイルCの板厚方向と一致させる。この場合、コイルに流れる電流の向きに応じて、
図3(A)のように、鋼板コイルCと対向する磁極面63A1がN極になるか、又は、
図3(B)のように、鋼板コイルCと対向する磁極面63A1がS極となる。
【0058】
鋼板コイルCの表面全体に対して均一に振動を付加するために、電磁石63は、鋼板コイルCの周方向に沿って均一な間隔を開けて複数配置されることが好ましい。一例においては、電磁石63は、鋼板コイルCの周方向に沿って、鋼板コイルCの中心角において互いに1°~30°の間隔を開けて複数配置され得る。
【0059】
図3(A)及び
図3(B)の場合、電磁石63に電流を流すことで、鋼板コイルCの表面には外力(引力)が働く。電磁石63に流す電流は、直流のパルス電流か、交流の連続電流とする。電磁石63に直流のパルス電流を流す場合、冷延鋼板Sに間欠的に引力が働くことで、鋼板コイルCが振動する。電磁石63に交流の連続電流を流す場合、電流の向きが変わるたびに、鋼板コイルCと対向する磁極面63A1がN極とS極とで切り替わることになるが、常に、鋼板コイルには外力(引力)が働く。交流の場合、電流値の経時変化に応じて鋼板コイルに働く外力(引力)の大きさも変化するため、鋼板コイルCが振動する。
【0060】
図1に示す振動検出器64は、鋼板コイルCの表面と所定の間隔をあけて配置されたレーザー変位計又はレーザードップラー振動計であり、鋼板コイルCの表面の振動の周波数及び振幅を測定することができる。鋼板コイルにおいて電磁石63と同じ高さ位置に振動検出器64を配置することで、振動検出器64で鋼板コイルCの振動の最大振幅を測定することができる。振動検出器64により検出された周波数及び最大振幅は、制御器61に出力される。制御器61は、振動検出器64から出力された周波数及び最大振幅の値を受け取り、設定値と比較し、その偏差にPID演算などを行って、冷延鋼板Sを所定の周波数及び最大振幅で振動させるように、電磁石63の周波数(直流のパルス電流の周波数又は交流の連続電流の周波数)及び電流値を決定し、また、増幅器62の増幅率を考慮して増幅器62に与える電流値を決定し、電源65に指令値を与える。電源65は、電磁石63のコイルに電流を流すための電源であり、制御器61から入力される指令値を受け取り、増幅器62に所定の周波数及び電流値の電流を与える。増幅器62は、電源65から与えられた電流値を所定の増幅率で増幅して、電磁石63に指令値を与える。その結果、電磁石63には所定の周波数及び電流値の電流が流れ、鋼板コイルCを所定の周波数及び最大振幅で振動させることができる。
【0061】
(振動付加装置70)
別例において、振動付加装置は、鋼板コイルCの表面に接触する振動子72を有し、この振動子72によって鋼板コイルCが振動するように構成される。
図4Aに、振動付加装置の構成の別例を示す。
図4Aを参照して、振動付加装置70は、制御器71と、振動子72と、振動検出器73とを備える。振動付加装置70は、鋼板コイルCに接触する振動子72を有し、この振動子72によって鋼板コイルCが振動するように構成される。
【0062】
振動子72は、一般的な圧電素子であれば特に限定されず、その形状及び設置態様も限定されないが、例えば、
図4Bに示すように、鋼板コイルCの板幅方向を長手とする平板状の振動子72を鋼板コイルCの表面に面接触させることで、鋼板コイルCを振動させることができる。鋼板コイルCの表面全体に対して均一に振動を付加するために、振動子72は、鋼板コイルCの周方向に沿って均一な間隔を開けて複数配置されることが好ましい。一例においては、振動子72は、鋼板コイルCの周方向に沿って、鋼板コイルCの中心角において互いに1°~30°の間隔を開けて複数配置され得る。
【0063】
図4Aに示す振動検出器73は、鋼板コイルCの表面において互いに所定の間隔をあけて配置されたレーザー変位計又はレーザードップラー振動計であり、鋼板コイルCの振動の周波数及び振幅を測定することができる。鋼板コイルCの振動子72と同じ高さ位置に振動検出器73を配置することで、振動検出器73で鋼板コイルCの振動の最大振幅を測定することができる。振動検出器73により検出された周波数及び最大振幅は、制御器71に出力される。制御器71は、振動検出器73から出力された周波数及び最大振幅の値を受け取り、設定値と比較し、その偏差にID演算などを行って、鋼板コイルCを所定の周波数及び最大振幅で振動させるように、振動子72に流れる直流パルス電流の周波数及び電流値を決定し、図示しない電源を制御して振動子72に所定の周波数及び電流値の直流パルス電流を与える。これにより、振動子72は所定の周波数及び振幅で振動し、その結果、鋼板コイルCを所定の周波数及び最大振幅で振動させることができる。
【0064】
[[脱水素装置]
図5に、鋼板コイルCに対して振動付加装置60により振動を付加して鋼中の拡散性水素を低減するための脱水素装置の一例を示す。
図5(A)は、脱水素装置300aの斜視図である。なお、
図5(A)においては、脱水素装置300aの側面a側から見た最も手前側の数列の電磁石63のみを図示している。
図5(B)は、脱水素装置300aを、側面a側から見た図である。
図5(A)及び
図5(B)に示すように、脱水素装置300aは、鋼板コイルCを収容するための収容部80を備え、該収容部80に収容された鋼板コイルCに対して、振動を付加する電磁石63を備える。電磁石63の数、配置は特に限定されないが、
図2の例においては、鋼板コイルCの周囲を取り囲むように、複数の電磁石63が配置されている。なお、
図5(A)~(D)においては図示しないが、各電磁石63には、増幅器62と、電源65と、制御器61と、とが結合されており、さらに制御器61には振動検出器64が結合されており、電磁石63から鋼板コイルCに対して振動が付加されるようになっている。鋼板コイルCの周囲を取り囲むように、複数の電磁石63を配置することで、鋼板コイルCに対して均一に振動を付加することができる。
図5(A)に示すように鋼板コイルCの周囲を取り囲むように電磁石63を設けた場合、電磁石63により鋼板コイルCのコイル表面が振動するものと考えられる。コイル表面が振動された鋼板コイルCにおいては、鋼板コイルC中の鋼板間に存在する空気を媒介してコイル内周に向かって振動が伝播し、あるいは、コイルの最外周表面の振動から直接コイル内周に向かって振動が伝播して、最終的にはコイル最内部まで振動が伝播されるものと考えられる。なお、図示するように、収容部80には、複数の鋼板コイルCが収容可能であってもよい。
【0065】
鋼板コイルCの表面全面に対して均一に振動を付加する観点からは、鋼板コイルCを取り囲むように、脱水素装置300aの内壁の高さ方向、幅方向に沿って複数の電磁石63を配置することが好ましい。
図5(C)に、脱水素装置の一例を側面bから見た図を示す。
図5(C)に示すように、電磁石63を、側面bの高さ方向、幅方向に沿って均一な間隔で設けてもよい。また、
図5(D)に、脱水素装置の別の例を側面bから見た図を示す。電磁石63は、鋼板コイルCに対して振動を付加できればよく、例えば
図5(D)に示すように、断面長方形状の角筒形状としてもよい。また、鋼板コイルCが区画する中空部に電磁石63を入れて、鋼板コイルCの内側から振動を付加してもよい。
【0066】
なお、拡散性水素は鋼板コイルCの端面からも放出されるため、鋼板コイルCの鋼板幅方向端部よりも鋼板幅方向中央部の方が拡散性水素量を低減させる効率が低下すると考えられる。よって、電磁石63は特に鋼板コイルCの鋼板幅方向中央部付近に設けることが好ましい。
【0067】
なお、図示するように、脱水素装置300a内には、コイル保持部90が適宜設けられている。コイル保持部90の形態は特に限定されないが、鋼板コイルCの巻き取り軸方向が脱水素装置300aの床と平行になるように鋼板コイルCを載置する場合、コイル保持部90は、
図5(A)に示すように、鋼板コイルCが脱水素装置300a内で転がることを防ぐために、鋼板コイルCを両側から挟持する一対の棒状部材であり得る。コイル保持部90は、
図5(A)に示すように、鋼板コイルCの最外周が描く弧に沿った凹弧状の上面を有する一対の棒状部材であってもよい。また、図示しないが、鋼板コイルCは、巻き取り軸方向が脱水素装置300aの床と平行になるように載置してもよい。
【0068】
鋼板コイルCの表面全面に対して均一に振動を付加する観点からは、鋼板コイルCを取り囲むように、脱水素装置300aの内壁の高さ方向、幅方向に沿って複数の電磁石63を配置することが好ましい。
図5(C)に、脱水素装置の一例を側面bから見た図を示す。
図5(C)に示すように、電磁石63を、側面bの高さ方向、幅方向に沿って均一な間隔で設けてもよい。また、
図5(D)に、脱水素装置の別の例を側面bから見た図を示す。電磁石63は、鋼板コイルCに対して振動を付加できればよく、例えば
図5(D)に示すように、断面長方形状の角筒形状としてもよい。また、鋼板コイルCが区画する中空部に電磁石63を入れて、鋼板コイルCの内側から振動を付加してもよい。
【0069】
なお、拡散性水素は鋼板コイルCの端面からも放出されるため、鋼板コイルCの鋼板幅方向端部よりも鋼板幅方向中央部の方が拡散性水素量を低減させる効率が低下すると考えられる。よって、電磁石63は特に鋼板コイルCの鋼板幅方向中央部付近に設けることが好ましい。
【0070】
なお、図示するように、脱水素装置300a内には、コイル保持部90が適宜設けられている。コイル保持部90の形態は特に限定されないが、鋼板コイルCの巻き取り軸方向が脱水素装置300aの床と平行になるように鋼板コイルCを載置する場合、コイル保持部90は、
図5(A)に示すように、鋼板コイルCが脱水素装置300a内で転がることを防ぐために、鋼板コイルCを両側から挟持する一対の棒状部材であり得る。コイル保持部90は、
図5(A)に示すように、鋼板コイルCの最外周が描く弧に沿った凹弧状の上面を有する一対の棒状部材であってもよい。また、図示しないが、鋼板コイルCは、巻き取り軸方向が脱水素装置300aの床と平行になるように載置してもよい。
【0071】
図6に、鋼板コイルCに対して振動付加装置70により振動を付加して鋼中の拡散性水素を低減するための脱水素装置の一例を示す。
図6は、脱水素装置300aを、鋼板コイルCの端面側から見た図である。
図6に示すように、脱水素装置300aは、鋼板コイルCを収容するための収容部80を備え、該収容部80に収容された鋼板コイルCに振動を付加する振動子72を備える。振動子72は、鋼板コイルCに接触して鋼板コイルCに振動を付加する。なお、図示しないが、各振動付加装置70において、各振動子72には、制御器71と、振動検出器73とが結合されており、振動子72から鋼板コイルCに対して振動が付加されるようになっている。振動付加装置70により振動を付加する脱水素装置300aにおいては、
図6に示すように、収容部80内にて振動子72が鋼板コイルCの表面に面接触するように、振動子72を鋼板コイルCの表面に沿って配置する。脱水素装置300a内で振動子72を鋼板コイルCの表面に沿って配置するための形態は特に限定されないが、例えば収容部80内に鋼板コイルCの表面を覆うように足場を設け、該足場に振動子72を一定の間隔で固定することができる。
【0072】
鋼板コイルCの表面全面に対して均一に振動を付加する観点からは、鋼板コイルCの板幅方向に沿って一定間隔で振動子72を設けることが好ましい。あるいは、
図4(B)に示すように、鋼板コイルCの板幅方向に沿って延在する振動子72を用いることが好ましい。
【0073】
なお、拡散性水素は鋼板コイルCの端面からも放出されるため、鋼板コイルCの鋼板幅方向端部よりも鋼板幅方向中央部の方が拡散性水素量を低減させる効率が低下すると考えられる。よって、振動子72は特に鋼板コイルCの鋼板幅方向中央部付近に設けることが好ましい。
【0074】
なお、図示するように、脱水素装置300a内には、コイル保持部90が適宜設けられている。コイル保持部90の詳細については上述したため、ここでは説明を省略する。
【0075】
(振動の周波数)
水素の拡散を促進する観点から、鋼板コイルCの振動の周波数は100Hz以上であることが肝要である。当該周波数が100Hz未満の場合、冷延鋼板S中に含有された水素を脱離させる効果は得られない。この観点から、当該周波数は100Hz以上とし、好ましくは500Hz以上とし、より好ましくは1000Hz以上とする。なお、鋼板コイルCは、意図せず振動したりする。しかし、これらの振動において、鋼板コイルCの振動の周波数は高々20Hz程度であり、この場合、鋼板コイルC中に含有された水素を脱離させる効果は得られない。他方で、当該周波数が過多の場合、鋼板内で格子間隔を膨張させておく十分な時間を確保できず、やはり水素を脱離する効果を得ることができない。この観点から、当該周波数は、100000Hz以下とすることが肝要であり、好ましくは80000Hz以下とし、より好ましくは50000Hz以下とする。鋼板コイルCの振動の周波数は、
図1に示した振動検出器64又は
図4Aに示した振動検出器73により測定することができる。また、鋼板コイルCの振動の周波数は、
図1に示す振動付加装置60の場合、直流のパルス電流の周波数又は交流の連続電流の周波数を制御することによって調整することができ、
図4A,Bに示す振動付加装置70の場合、振動子72の振動周波数を制御することによって調整することができる。
【0076】
(振動の最大振幅)
鋼板コイルCの最大振幅が10nm未満の場合、鋼板表面の格子間隔が十分に拡張せず、水素拡散の促進が不十分のため、鋼板コイルC中に含有された水素を脱離させる効果は得られない。よって、鋼板コイルCの最大振幅は10nm以上とすることが肝要であり、好ましくは100nm以上とし、より好ましくは500nm以上とする。また、鋼板コイルCの最大振幅が500μm超えの場合、鋼板表面におけるひずみが大きくなり、塑性変形を生じ、結果として水素をトラップしてしまうため、鋼板コイルC中に含有された水素を脱離させる効果は得られない。この観点から、鋼板コイルCの最大振幅は500μm以下とすることが肝要であり、好ましくは400μm以下とし、より好ましくは300μm以下とする。なお、鋼板コイルCは、その通板過程で自ずと振動したり、例えばガスワイピング装置32からガスを受けて振動したりする。しかし、これらの振動において、鋼板コイルCの最大振幅は少なくとも0.5mm超えとなるため、鋼板コイルC中に含有された水素を脱離させる効果は得られない。鋼板コイルCの最大振幅は、
図1に示した振動検出器64又は
図4Aに示した振動検出器73により測定することができる。また、鋼板コイルCの最大振幅は、
図1に示す振動付加装置60の場合、電磁石63に流す電流量を制御することによって調整することができ、
図4A,Bに示す振動付加装置70の場合、振動子72の振動の振幅を制御することによって調整することができる。
【0077】
(振動付加時間)
鋼板コイルCに対して振動を付加する時間は特に限定されない。本実施形態においては、熱間圧延後又は冷間圧延後に鋼板コイルに対して振動を付加するため、鋼帯を通板させつつ振動を付加する場合とは異なり、照射時間の制約なく振動を付加することができる。振動を付加する時間は長いほど拡散性水素を低減することができると推測されることから、振動を付加する時間は1分間以上とすることが好ましい。振動の付加時間は、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは60分間以上とする。一方で、生産性の観点から、振動の付加時間は30000分間以下とすることが好ましく、10000分間以下とすることがより好ましく、1000分間以下とすることがさらに好ましい。振動の付加時間は、例えば振動付加装置60の駆動時間を制御部により制御することで制御することができる。
【0078】
[[加熱装置]]
[[鋼板コイルの保持温度]]
脱水素装置300aは、鋼板コイルCを加熱しつつ振動を付加するための加熱部をさらに有していてもよい。振動付加工程における鋼板コイルCの温度は特に限定されない。本実施形態によれば、鋼板コイルCを加熱保持せずとも、鋼中の拡散性水素を低減することができるためである。しかしながら、加熱部によって鋼板コイルCを加熱しながら振動を付加することで、水素の拡散速度をより高めることができるため、鋼中の拡散性水素量をより低減することができる。よって、振動を付加する際の鋼板コイルCの温度は30℃以上とすることが好ましく、50℃以上とすることがより好ましく、100℃以上とすることがさらに好ましい。振動付加工程における鋼板コイルCの温度の上限は特に限定されないが、鋼板コイルCの組織変化を好適に防ぐ観点から、後述するように、バッチ焼鈍中に振動付加を行う場合を除き、300℃以下とすることが好ましい。なお、本実施形態において、振動を付加する際の鋼板コイルCの温度は、鋼板コイル径方向2分の1位置の温度を基準とする。鋼板コイル径方向2分の1位置の温度は、鋼板コイルの径方向2分の1位置に熱電対を直接挟み込み、径方向2分の1位置に存在する鋼帯の温度を測定することで測定できる。鋼板コイルCの加熱方法は、例えば、収容部側壁にヒーターを設置する方法のほか、外部で発生させた高温の空気を収容部80に送風し、収容部内で循環させる方法など、一般的な方法で構わない。
【0079】
本実施形態に係る脱水素装置300aは、脱水素装置300aの外部に前記振動が伝達することを防ぐ制振部をさらに有していてもよい。制振部は例えば、収容部80の内壁を取り囲むように設けられた制振材であり得る。
【0080】
本実施形態によれば、振動付加後に得られる製品コイルCの拡散性水素量を0.5質量ppm以下まで低減することができる。製品コイルCの拡散性水素量を0.5質量ppm以下まで低減することで、鋼板の水素脆化を防ぐことができる。振動付加後の鋼中の拡散性水素量は、好ましくは0.3質量ppm以下、さらに好ましくは0.2質量ppm以下である。
【0081】
製品コイルCの拡散性水素量は、以下の通り測定する。製品コイルの径方向2分の1位置から、長さが30mm、幅が5mmの試験片を採取する。鋼板が溶融亜鉛めっき鋼板又は合金化溶融亜鉛めっき鋼板である場合、試験片の溶融亜鉛めっき層又は合金化溶融亜鉛めっき層を研削又はアルカリにより除去する。その後、試験片から放出される水素量を昇温脱離分析法(Thermal Desorption Spectrometry:TDS)によって測定する。具体的には、室温から300℃までを昇温速度200℃/hで連続加熱した後、室温まで冷却し、室温から210℃までに試験片から放出された積算水素量を測定して、製品コイルCの拡散性水素量とする。
【0082】
以下では、本実施形態の適用例について、より具体的に説明する。
【0083】
[[熱延鋼板]]
本実施形態に係る脱水素装置300a及び鋼板の製造方法は、熱延鋼板の製造に適用することができる。
【0084】
本適用例に係る鋼板の製造システムは、鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延装置と、前記熱延鋼板を巻き取って熱延コイルを得る熱延鋼板巻き取り装置と、前記熱延コイルを前記鋼板コイルCとする鋼板の脱水素装置と、を有する、鋼板の製造システムである。熱間圧延装置は、公知の成分組成を有する鋼スラブに粗圧延及び仕上げ圧延からなる熱間圧延を施して熱延鋼板とする。熱延鋼板巻き取り装置は、該熱延鋼板を巻き取って熱延コイルとする。脱水素装置300aは、該熱延コイルを鋼板コイルCとして、熱延コイルに上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた熱延鋼板を得ることができる。なお、得られた熱延鋼板にさらに冷間圧延を施して冷延鋼板としてもよい。
【0085】
本適用例に係る鋼板の製造方法は、鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とする工程と、前記熱延鋼板を巻き取って熱延コイルを得る工程と、を含み、前記熱延コイルを前記鋼板コイルとする。振動を付加する前の熱延コイルの製造方法は特に限定されず、公知の成分組成を有する鋼スラブに、粗圧延および仕上げ圧延からなる熱間圧延を施して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を公知の方法に従って巻き取って熱延コイルとすればよい。該熱延コイルに対して、上述した条件にて振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた熱延鋼板を得ることができる。なお、得られた熱延鋼板にさらに冷間圧延を施して冷延鋼板としてもよい。
【0086】
[[冷延鋼板]]
本実施形態に係る脱水素装置300a及び鋼板の製造方法は、冷延鋼板の製造にも適用することができる。
【0087】
本適用例に係る鋼板の製造システムは、熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延装置と、前記冷延鋼板を巻き取って冷延コイルを得る冷延鋼板巻き取り装置と、前記冷延コイルを前記鋼板コイルCとする脱水素装置300aと、を有する、鋼板の製造システムである。冷間圧延装置は、公知の熱延鋼板に対して、熱延板焼鈍を施し又は施さず、熱間圧延後の熱延鋼板又は熱延板焼鈍後の熱延鋼板に、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚を有する冷延鋼板とする。冷延鋼板巻き取り装置は、冷間圧延後の冷延鋼板を、公知の方法に従って巻き取って冷延コイルとする。脱水素装置300aは、該冷延コイルを鋼板コイルCとして、冷延コイルに対して、上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた冷延鋼板を得ることができる。なお、鋼板の製造システムは、熱間圧延後の熱延鋼板を巻き取って得られる熱延コイルに対して上述した条件にて振動を付加し得る脱水素装置300aをさらに有していてもよい。次いで、振動付加後の熱延コイルから熱延鋼板を払い出し冷間圧延を施して冷延コイルとし、該冷延コイルに対して脱水素装置300aによりさらに振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量をさらに低減して、耐水素脆化特性に特に優れた鋼板を得ることができる。
【0088】
本適用例に係る鋼板の製造方法は、熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする工程と、前記冷延鋼板を巻き取って冷延コイルを得る工程と、を含み、前記冷延コイルを前記鋼板コイルとする。振動を付加する前の冷延コイルの製造方法は特に限定されない。一例においては、公知の成分組成を有する鋼スラブに、粗圧延および仕上げ圧延からなる熱間圧延を施して熱延鋼板とし、該熱延鋼板に対して、熱延板焼鈍を施しまたは施さず、熱間圧延後の熱延鋼板または熱延板焼鈍後の熱延鋼板に、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚を有する冷延鋼板とすることができる。冷間圧延後の冷延鋼板は、公知の方法に従って巻き取って冷延コイルとする。該冷延コイルに対して、上述した条件にて振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた冷延鋼板を得ることができる。なお、冷延コイルに振動を付加することに加えて、熱間圧延後の熱延鋼板を巻き取って熱延コイルとし、該熱延コイルに対しても、上述した条件にて振動を付加してもよい。次いで、振動付加後の熱延コイルから熱延鋼板を払い出し、冷間圧延を施して冷延コイルとし、該冷延コイルに対してさらに振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量をさらに低減して、耐水素脆化特性に特に優れた鋼板を得ることができる。
【0089】
本実施形態において、振動を付加する熱延鋼板または冷延鋼板の種類は特に限定されない。鋼板の成分組成は特に限定されないが、実施形態を特に好適に適用し得る鋼板として、以下の成分組成を有する鋼板が例示される。先ず、鋼板の成分組成の適正範囲およびその限定理由について説明する。
【0090】
[必須成分]
C:0.030%以上0.800%以下
Cは、強度を上昇させるために必要な元素である。C量を0.030%以上とすることで、特に好適な強度を得ることができる。また、C量を0.800%以下とすることで、材料自体の脆化を特に好適に防ぐことができる。こうした観点から、C量は、0.030%以上とすることが好ましく、0.800%以下とすることが好ましい。C量はより好ましくは0.080%以上とする。また、C量はより好ましくは0.500%以下である。
【0091】
Si:0.01%以上3.00%以下、
Siは、置換型固溶体となって材質を大きく硬質化する固溶強化元素であり、鋼板の強度を上昇させるために有効である。Si添加による強度上昇の効果を得るために、Si量は0.01%以上とすることが好ましい。一方で、鋼の脆化および延性の低下を防ぎ、さらには赤スケールなどを防いで良好な表面性状を得て、ひいては良好なめっき外観およびめっき密着性を得る観点から、Si量は3.00%以下とすることが好ましい。そのため、Siは0.01%以上とすることが好ましく、3.00%以下とすることが好ましい。Siは、0.10%以上とすることがより好ましく、2.50%以下とすることがより好ましい。
【0092】
Mn:0.01%以上10.00%以下
Mnは、固溶強化により鋼板の強度を上昇させる。この効果を得るために、Mn量は0.01%以上とすることが好ましい。一方で、Mn量を10.00%以下とすることで、Mn偏析を好適に防ぎ、鋼組織のムラを防いで、水素脆化をより抑制することができる。よって、Mn量は10.00%以下とすることが好ましい。Mn量は、0.5%以上とすることがより好ましく、8.00%以下とすることがより好ましい。
【0093】
P:0.001%以上0.100%以下
Pは、固溶強化の作用を有し、所望の強度に応じて添加できる元素である。こうした効果を得るために、P量を0.001%以上にすることが好ましい。一方で、P量を0.100%以下とすることで、優れた溶接性を得ることができる。また、P量を0.100%以下とすることで、鋼板表面に亜鉛めっき皮膜を形成し、該亜鉛めっき皮膜に合金化処理を施して合金化亜鉛めっき皮膜を形成する場合に、合金化速度の低下を防いで、優れた品質の亜鉛めっき皮膜を形成することができる。したがって、P量は0.001%以上とすることが好ましく、0.100%以下とすることが好ましい。P量は、0.003%以上とすることがより好ましい。また、P量は0.050%以下とすることがより好ましい。
【0094】
S:0.0001%以上0.0200%以下
S量を低減することで、熱間加工時の鋼の脆化を好適に防ぐとともに、硫化物の発生を好適に防いで局部変形能を向上させることができる。そのため、S量は0.0200%以下とすることが好ましく、0.0100%以下とすることがより好ましく、0.0050%以下とすることがさらに好ましい。S量の下限は特に限定されないが、生産技術上の制約から、S量は0.0001%以上にすることが好ましく、0.0050%以下とすることがより好ましい。
【0095】
N:0.0005%以上0.0100%以下
N量を低減することで、鋼の耐時効性を向上することができる。そのため、N量は0.0100%以下とすることが好ましく、0.0070%以下とすることがより好ましい。N量の下限は特に限定されないが、生産技術上の制約から、N量は0.0005%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがより好ましい。
【0096】
Al:2.000%以下
Alは脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸工程で添加することが好ましい。添加効果を得るために、添加する場合、Al量は0.001%以上とすることが好ましい。一方で、連続鋳造時に鋼片割れが発生することを好適に防ぐ観点からは、Al量は2.000%以下とすることが好ましい。Al量は、0.010%以上とすることがより好ましい。またAl量は、1.200%以下とすることがより好ましい。
【0097】
[任意成分]
成分組成は、さらに質量%で、Ti:0.200%以下、Nb:0.200%以下、V:0.500%以下、W:0.500%以下、B:0.0050%以下、Ni:1.000%以下、Cr:1.000%以下、Mo:1.000%以下、Cu:1.000%以下、Sn:0.200%以下、Sb:0.200%以下、Ta:0.100%以下、Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下およびREM:0.0050%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有してもよい。
【0098】
Ti:0.200%以下
Tiは、鋼の析出強化によって、またフェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化によって、鋼板の強度上昇に寄与する。Tiを添加する場合には、0.005%以上とすることが好ましい。Tiを添加する場合、Ti量はより好ましくは、0.010%以上である。また、Ti量を0.200%以下とすることで、炭窒化物の析出を好適に防ぎ、成形性をより向上することができる。従って、Tiを添加する場合には、その添加量を0.200%以下とすることが好ましい。Ti量は、より好ましくは0.100%以下とする。
【0099】
Nb:0.200%以下、V:0.500%以下、W:0.500%以下
Nb、V、Wは、鋼の析出強化に有効である。Nb、V、Wを添加する場合には、それぞれ0.005%以上とすることが好ましい。Nb、V、Wを添加する場合、より好ましくは、それぞれ0.010%以上とする。また、Nbは0.200%以下、V、Wは0.500%以下とすることで、Tiと同様に炭窒化物の析出量を好適に防ぐことができ、成形性をより向上することができる。従って、Nbを添加する場合には、その添加量は好ましくは0.200%以下とし、より好ましくは0.100%以下とする。V、Wを添加する場合は、その添加量は、好ましくはそれぞれ0.500%以下とし、より好ましくはそれぞれ0.300%以下とする。
【0100】
B:0.0050%以下
Bは、粒界の強化および鋼板の高強度化に有効である。Bを添加する場合には、0.0003%以上とすることが好ましい。また、より好適な成形性を得るために、Bは0.0050%以下とすることが好ましい。従って、Bを添加する場合には、その添加量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0030%以下とする。
【0101】
Ni:1.000%以下
Niは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。Niを添加する場合には、0.005%以上が好ましい。また、硬質なマルテンサイトの面積率を低減して延性をより向上する観点から、Niは1.000%以下とすることが好ましい。従って、Niを添加する場合には、その添加量は、好ましくは1.000%以下、より好ましくは0.500%以下とする。
【0102】
Cr:1.000%以下、Mo:1.000%以下
Cr、Moは、強度と成形性とのバランスを向上させる作用を有するので必要に応じて添加することができる。Cr、Moを添加する場合には、Cr:0.005%以上、Mo:0.005%以上とすることが好ましい。また、硬質なマルテンサイトの面積率を低減して延性をより向上する観点から、Cr,MoはそれぞれCr:1.000%以下、Mo:1.000%以下とすることが好ましい。Cr,MoはそれぞれCr:0.500%以下、Mo:0.500%以下とすることが好ましい。
【0103】
Cu:1.000%以下
Cuは、鋼の強化に有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。Cuを添加する場合には、0.005%以上とすることが好ましい。また、硬質なマルテンサイトの面積率を低減して延性をより向上する観点から、Cuを添加する場合には、その量を1.000%以下とすることが好ましく、0.200%以下とすることがより好ましい。
【0104】
Sn:0.200%以下、Sb:0.200%以下
SnおよびSbは、鋼板表面の窒化および酸化によって生じる鋼板表層の数十μm程度の領域の脱炭を抑制することから、必要に応じて添加することで、強度および材質安定性の確保に有効である。Sn、Sbを添加する場合には、それぞれ0.002%以上とすることが好ましい。また、より優れた靭性を得るために、SnおよびSbを添加する場合には、その含有量は、それぞれ0.200%以下とすることが好ましく、0.050%以下とすることがより好ましい。
【0105】
Ta:0.100%以下
Taは、TiやNbと同様に、合金炭化物および合金炭窒化物を生成して高強度化に寄与する。加えて、Nb炭化物やNb炭窒化物に一部固溶し、(Nb、Ta)(C、N)のような複合析出物を生成することで析出物の粗大化を著しく抑制し、析出強化による強度への寄与を安定化させる効果があると考えられる。このため、Taを含有することが好ましい。ここで、Taを添加する場合には、0.001%以上とすることが好ましい。Ta量の上限は特に限定されないが、コストを低減する観点から、Taを添加する場合には、その含有量は、0.100%以下とすることが好ましく、0.050%以下とすることがより好ましい。
【0106】
Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下、REM:0.0050%以下
Ca、Mg、ZrおよびREMは、硫化物の形状を球状化し、成形性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。これらの元素を添加する場合には、それぞれ0.0005%以上とすることが好ましい。また、介在物等の増加を好適に防ぎ、表面および内部欠陥などをより好適に防ぐために、Ca、Mg、ZrおよびREMを添加する場合は、その添加量はそれぞれ0.0050%以下とすることが好ましく、0.0020%以下とすることがより好ましい。
【0107】
本実施形態は、特に水素脆化が問題となる高強度鋼板に対しても好適に適用し得る。高強度鋼板からなる鋼板コイルCに対して脱水素装置300aにて、あるいは本鋼板の製造方法を適用して、振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた高強度鋼板を得ることができる。例えば、本実施形態において製造される鋼板は、590MPa以上、より好ましくは1180MPa以上、さらに好ましくは1470MPa以上の引張強さを有する高強度鋼板であり得る。なお、鋼板の引張強さは、JIS Z 2241(2011)に準拠して測定する。高強度鋼板においては、水素脆化による遅れ破壊がしばし問題になるが、本実施形態によれば、引張強さを損なうことなく、耐水素脆化特性に優れた高強度鋼板を製造することができる。
【0108】
また、本実施形態に係る脱水素装置及び鋼板の製造方法によれば、公知のステンレス鋼に振動を付加して、耐水素脆化特性に優れたステンレス鋼を製造することもできる。以下、鋼板がステンレス鋼板である場合の成分組成およびその限定理由について説明する。
【0109】
[必須成分]
C :0.001%以上0.400%以下
Cは、ステンレス鋼において高強度を得るためにも欠かせない元素である。しかし、C含有量が0.400%を超えると、鋼製造における焼戻し時にCrと結合して炭化物として析出し、該炭化物が鋼の耐食性及び靭性を劣化させる。一方で、Cの含有量が0.001%未満では十分な強度が得られず、0.400%を超えると前記劣化が顕著になる。よって、Cの含有量を0.001%以上0.400%以下とする。C含有量は0.005%以上とすることが好ましい。また、C含有量は0.350%以下とすることが好ましい。
【0110】
Si:0.01%以上2.00%以下
Siは、脱酸剤として有用な元素である。この効果はSi含有量を0.01%以上にすることで得られる。しかし、Siを過剰に含有すると、鋼中に固溶したSiが鋼の加工性を低下させる。このため、Si含有量の上限は2.00%とする。Si含有量は0.05%以上とすることが好ましい。また、Si含有量は1.8%以下とすることが好ましい。
【0111】
Mn:0.01%以上5.00%以下
Mnは、鋼の強度を高める効果を有する。これらの効果は、Mnの0.01%以上の含有で得られる。しかし、Mn含有量が5.00%を超えると、鋼の加工性が低下する。このため、Mn含有量の上限は5.00%とする。Mn含有量は0.05%以上とすることが好ましい。また、Mn含有量は4.6%以下とすることが好ましい。
【0112】
P:0.001%以上0.100%以下
Pは粒界偏析による粒界破壊を助長する元素であるため低い方が望ましく、上限を0.100%とする。好ましくはP含有量は0.030%以下である。さらに好ましくはP含有量は0.020%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されないが、生産技術上の観点から0.001%以上とする。
【0113】
S:0.0001%以上0.0200%以下
SはMnSなどの硫化物系介在物となって存在して延性や耐食性等を低下させる元素であり、特に含有量が0.0200%を超えた場合にそれらの悪影響が顕著に生じる。そのためS含有量は極力低い方が望ましく、S含有量の上限は0.0200%とする。好ましくはS含有量は0.010%以下である。さらに好ましくはS含有量は0.005%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されないが、生産技術上の観点から0.0001%以上とする。
【0114】
Cr:9.0%以上28.0%以下
Crはステンレス鋼を構成する基本的な元素で、しかも耐食性を発現する重要な元素である。180℃以上の苛酷な環境における耐食性を考慮した場合、Cr含有量が9%未満では十分な耐食性が得られず、一方で28.0%を超えると効果は飽和し経済性の点で問題が生じる。よって、Cr含有量を9.0%以上28.0%以下とする。Cr含有量は10.0%以上とすることが好ましい。また、Cr含有量は25.0%以下とすることが好ましい。
【0115】
Ni:0.01%以上40.0%以下
Niはステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であるが、0.01%未満ではその効果が十分に発揮されず、一方、過度の添加は、ステンレス鋼を硬質化し、成形性を劣化させる他、応力腐食割れを生じさせやすくなる。そのため、Ni含有量を0.01%以上40.0%以下とする。Ni含有量は0.1%以上とすることが好ましい。また、Ni含有量は30.0%以下とすることが好ましい。
【0116】
N:0.0005%以上0.500%以下
Nはステンレス鋼の耐食性向上に有害な元素であるが、オーステナイト生成元素でもある。0.5%を超えて含有させると熱処理時に窒化物となって析出し、ステンレス鋼の耐食性及び靭性が劣化する。そのため、N含有量の上限を0.500%、好ましくは0.20%とする。
【0117】
Al:3.000%以下、
Alは脱酸元素として添加される他、酸化スケールの剥離を抑制する効果がある。しかし、3.000%を超えて添加すると、伸びの低下、および表面品質の劣化をもたらす。そのため、Al含有量の上限を3.000%とする。Al含有量の下限は特に限定されないが、0.001%以上とすることが好ましい。Al含有量は0.01%以上とすることがより好ましい。また、Al含有量は2.5%以下とすることが好ましい。
【0118】
[任意成分]
ステンレス鋼の成分組成は、さらに質量%で、Ti:0.500%以下、Nb:0.500%以下、V:0.500%以下、W:2.000%以下、B:0.0050%以下、Mo:2.000%以下、Cu:3.000%以下、Sn:0.500%以下、Sb:0.200%以下、Ta:0.100%以下、Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下およびREM:0.0050%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有していてもよい。
【0119】
Ti:0.500%以下
Tiは、C,N,Sと結合して耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を向上させるために添加する元素である。ただし、0.500%を超えて添加すると、固溶Tiによりステンレス鋼が硬質化し、靭性が劣化する。そのため、Ti含有量の上限を0.500%とする。Ti含有量の下限は特に限定されないが、0.003%以上とすることが好ましい。Ti含有量は0.005%以上とすることがより好ましい。またTi含有量は0.300%以下とすることが好ましい。
【0120】
Nb:0.500%以下
Nbは、Tiと同様に、C,N,Sと結合して耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を向上させるために添加する元素である。また、加工性の向上や高温強度の向上に加え、隙間腐食の抑制および再不働態化を促進させるため、必要に応じて添加される。ただし、過度の添加はステンレス鋼の硬質化をもたらし成形性を劣化させるため、Nb含有量の上限を0.500%とする。Nb含有量の下限は特に限定されないが、0.003%以上とすることが好ましい。Nb含有量は0.005%以上とすることがより好ましい。また、Nb含有量は0.300%以下とすることが好ましい。
【0121】
V :0.500%以下
Vは、隙間腐食を抑制させるため、必要に応じて添加される。しかし、過度の添加は、ステンレス鋼を硬質化し成形性を劣化させるため、V含有量の上限を0.500%とする。V含有量の下限は特に限定されないが、0.01%以上とすることが好ましいV含有量は0.03%以上とすることがより好ましい。また、V含有量は0.300%以下とすることが好ましい。
【0122】
W :2.000%以下
Wは、耐食性と高温強度の向上に寄与するため、必要に応じて添加する。ただし、2.000%超の添加によりステンレス鋼が硬質化し、鋼板製造時の靭性劣化やコスト増に繋がるため、W含有量の上限を2.000%とする。W含有量の下限は特に限定されないが、0.050%以上とすることが好ましい。W含有量は0.010%以上とすることがより好ましい。また、W含有量は1.500%以下とすることが好ましい。
【0123】
B :0.0050%以下
粒界に偏析することで製品の二次加工性を向上させる元素である。部品を二次加工する際の縦割れを抑制する他、冬場に割れを生じさせないために必要に応じて添加する。ただし、過度の添加は加工性、耐食性の低下をもたらす。そのため、B含有量の上限を0.0050%とする。B含有量の下限は特に限定されないが、0.0002%以上とすることが好ましい。B含有量は0.0005%以上とすることがより好ましい。また、B含有量は0.0035%以下とすることが好ましい。
【0124】
Mo:2.000%以下
Moは耐食性を向上させる元素であり、特に隙間構造を有する場合には隙間腐食を抑制する元素である。ただし、2.0%を超えると著しく成形性が劣化するため、その含有量の上限を2.000%とする。Mo含有量の下限は特に限定されないが、0.005%以上とすることが好ましい。Mo含有量は0.010%以上とすることがより好ましい。また、Mo含有量は1.500%以下とすることが好ましい。
【0125】
Cu:3.000%以下
Cuは、NiやMn同様、オーステナイト安定化元素であり、相変態による結晶粒微細化に有効である。また、隙間腐食の抑制や再不動態化を促進させるため、必要に応じて添加される。ただし、過度の添加は硬質化する他、靭性および成形性を劣化させるため、その含有量の上限を3.000%とする。Cu含有量の下限は特に限定されないが、0.005%以上とすることが好ましい。Cu含有量は0.010%以上とすることがより好ましい。また、Cu含有量は2.000%以下とすることが好ましい。
【0126】
Sn:0.500%以下
Snは、耐食性と高温強度の向上に寄与するため、必要に応じて添加する。ただし、0.500%を超えて添加すると鋼板製造時のスラブ割れが生じる場合が有るため、その含有量の上限を0.500%以下とする。Sn含有量の下限は特に限定されないが、0.002%以上とすることが好ましい。Sn含有量は0.005%以上とすることがより好ましい。また、Sn含有量は0.300%以下とすることが好ましい。
【0127】
Sb:0.200%以下
Sbは、粒界に偏析して高温強度を上げる作用をなす元素である。ただし、0.200%を超えると、Sb偏析が生じて、溶接時に割れが生じるので、その含有量の上限を0.200%とする。Sb含有量の下限は特に限定されないが、0.002%以上とすることが好ましい。Sb含有量は0.005%以上とすることがより好ましい。また、Sb含有量は0.100%以下とすることが好ましい。
【0128】
Ta:0.100%以下
Taは、CやNと結合して靭性の向上に寄与するため必要に応じて添加する。ただし、0.100%を超えて添加するとその効果は飽和し、製造コストの増加になるため、その含有量の上限を0.100%とする。Ta含有量の下限は特に限定されないが、0.002%以上とすることが好ましい。Ta含有量は0.005%以上とすることがより好ましい。また、Ta含有量は0.080%以下とすることが好ましい。
【0129】
Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下、REM(Rare Earth Metal):0.0050%以下
Ca、Mg、Zr及びREMは、硫化物の形状を球状化し、成形性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。これらいずれかの元素を添加する場合には、各元素の含有量はそれぞれ0.0005%以上とすることが好ましい。しかし、各含有量が過剰の場合、介在物等が増加し、表面及び内部欠陥が発生する場合がある。よって、これらいずれかの元素を添加する場合、各元素の含有量はそれぞれ0.0050%以下とする。これらの元素の含有量の下限は特に限定されないが、各元素の含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。各元素の含有量は0.0005%以上とすることがより好ましい。また、各元素の含有量はそれぞれ0.0035%以下とすることが好ましい。
【0130】
[[焼鈍装置]]
[[焼鈍工程]]
上述した冷延鋼板、熱延鋼板に対して、焼鈍を施してもよい。すなわち、本鋼板の製造システムは、冷延鋼板、熱延鋼板に対して焼鈍を施す焼鈍装置を有していてもよい。焼鈍を施すタイミングは特に限定されないが、一般的に焼鈍工程において鋼中に水素が侵入することから、最終的に耐水素脆化特性に優れた鋼板を得るために、焼鈍は振動を付加する前に施すことが好ましい。焼鈍装置は、バッチ焼鈍炉であってもよいし、連続焼鈍装置であってもよい。
【0131】
[バッチ焼鈍]
バッチ焼鈍炉を用いて焼鈍工程を行う場合、鋼板の製造システムは、冷延コイル又は熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルを得るバッチ焼鈍炉と、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルCとする脱水素装置300aと、を有する。バッチ焼鈍炉は、冷延コイル又は熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルとする。なお、本明細書においてバッチ焼鈍とは、バッチ焼鈍炉における加熱保持を意味し、加熱保持後の徐冷は含まない。焼鈍後の焼鈍コイルは、バッチ焼鈍炉内における炉冷、又は空冷などによって冷却する。脱水素装置300aは、焼鈍コイルを鋼板コイルCとして、鋼板コイルCに対して上述した条件にて振動を付加する。脱水素装置300aは、バッチ焼鈍炉とは別に設けられていてもよいが、脱水素装置300aの収容部80及び加熱部がバッチ焼鈍炉を兼ねていてもよい。換言すれば、バッチ焼鈍炉に、炉内に収容される鋼板コイルCに対して振動を付加して製品コイルとする振動付加装置60を設けて、脱水素装置300aとしてもよい。脱水素装置300aの収容部80及び加熱部がバッチ焼鈍炉を兼ねている場合、振動の付加は、バッチ焼鈍後、焼鈍コイルを室温まで冷却した後に行うこともでき、焼鈍コイルを冷却しつつ振動の付加を行うこともできる。上述したように、鋼板の温度が高い方が拡散性水素を効率よく低減することができるため、バッチ焼鈍後、焼鈍コイルを室温まで冷却した後に行うこともでき、焼鈍コイルを冷却しつつ振動の付加を行うことで、鋼中の拡散性水素をより効率よく低減することができる。
【0132】
バッチ焼鈍炉を用いて焼鈍工程を行う場合、鋼板の製造方法は、冷延鋼板または熱延鋼板を巻き取って得た冷延コイルまたは熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルを得る工程を含み、該焼鈍コイルを前記鋼板コイルとして、焼鈍コイルに対して上述した条件にて振動を付加する。まず、冷延鋼板または熱延鋼板を公知の方法により巻き取って冷延コイルまたは熱延コイルとする。次いで、冷延コイルまたは熱延コイルをバッチ焼鈍炉に入れて、バッチ焼鈍炉内にてバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルとする。焼鈍後の焼鈍コイルは、バッチ焼鈍炉内における炉冷、または空冷などによって冷却する。次いで、焼鈍コイルに対して上述した条件にて振動を付加する。焼鈍コイルに対する振動の付加は、バッチ焼鈍中、すなわち冷延コイルまたは熱延コイルを加熱保持中に行えばよい。さらに、振動の付加は、バッチ焼鈍後、すなわち冷延コイルまたは熱延コイルを加熱保持した後に行ってもよい。振動の付加は、バッチ焼鈍後、焼鈍コイルを室温まで冷却した後に行ってもよく、焼鈍コイルを冷却しつつ行ってもよい。上述したように、鋼板の温度が高い方が拡散性水素を効率よく低減することができるため、バッチ焼鈍中、またはバッチ焼鈍後焼鈍コイルを冷却しつつ、焼鈍コイルに対して振動を付加することが好ましい。焼鈍コイルに対する振動付加は、バッチ焼鈍炉内にて行うこともできるし、焼鈍コイルをバッチ焼鈍炉から取り出して行うこともできる。好ましくは、バッチ焼鈍炉内にて焼鈍コイルに対して振動を付加する。バッチ焼鈍炉内にて焼鈍コイルに対して振動を付加することにより、効率よく鋼中の拡散性水素を低減することができる。
【0133】
[連続焼鈍装置による焼鈍]
焼鈍は、冷延鋼板又は熱延鋼板を連続焼鈍装置(Continuous Annealing Line:CAL)に通板させることによって行なうこともできる。連続焼鈍装置を用いて焼鈍工程を行う場合、鋼板の製造システムは、冷延コイル又は熱延コイルから冷延鋼板又は熱延鋼板を払い出す焼鈍前払い出し装置と、前記冷延鋼板又は熱延鋼板を連続焼鈍して、焼鈍鋼板とする連続焼鈍炉と、前記焼鈍鋼板を巻き取って、焼鈍コイルを得る焼鈍鋼板巻き取り装置と、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルCとする脱水素装置300aと、を有する。焼鈍前払い出し装置は、冷延コイル又は熱延コイルから冷延鋼板又は熱延鋼板を払い出して、該冷延鋼板又は熱延鋼板をCALに供給する。CALの構成は特に限定されないが、一例においてCALは、加熱帯、均熱帯、及び冷却帯がこの順に配置された連続焼鈍炉を有する。冷却帯は、複数の冷却帯から構成されてもよく、その場合、一部の冷却帯は、冷却過程の冷延鋼帯を一定温度範囲で保持する保持帯や、冷却過程の鋼板を再加熱する再加熱帯であってもよい。また、加熱帯の通板方向上流側に予熱帯があってもよい。焼鈍前払い出し装置は、CALの連続焼鈍炉の上流に設けられたペイオフリールであり得る。焼鈍鋼板巻き取り装置は、CALの連続焼鈍炉の下流に設けられたテンションリールであり得る。CALにおいては、(A)ペイオフリールにより冷延コイル又は熱延コイルから払い出された冷延鋼板又は熱延鋼板が、(B)通板方向上流側から加熱帯、均熱帯、及び冷却帯が位置する連続焼鈍炉内に通板されて、(B-1)加熱帯及び均熱帯内にて冷延鋼板又は熱延鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板とし、(B-2)冷却帯内で焼鈍鋼板を冷却して、連続焼鈍を行い、(C)連続焼鈍炉から排出された焼鈍鋼板を引き続き通板させ、(D)テンションリールにより鋼板を巻き取って、焼鈍コイルとする。脱水素装置300aは、該焼鈍コイルを鋼板コイルCとして、焼鈍コイルに対して上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた焼鈍鋼板を得ることができる。なお、冷却帯における鋼板の冷却方法及び冷却速度は特に限定されず、ガスジェット冷却、ミスト冷却、水冷などのいずれの冷却でも構わない。
【0134】
連続焼鈍装置を用いて焼鈍工程を行う場合、鋼板の製造方法は、冷延コイルから冷延鋼板を払い出す工程と、前記冷延鋼板を連続焼鈍して、焼鈍鋼板とする工程と、前記焼鈍鋼板を巻き取って、焼鈍コイルを得る工程と、を含み、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする。CALにおいては、(A)鋼板コイルが、ペイオフリールにより払い出され、(B)通板方向上流側から加熱帯、均熱帯、及び冷却帯が位置する焼鈍炉内に、鋼板を通板させて、(B-1)加熱帯及び均熱帯内で鋼板を焼鈍し、(B-2)冷却帯内で鋼板を冷却して、連続焼鈍を行い、(C)焼鈍炉から排出された鋼板を引き続き通板させ、(D)テンションリールにより鋼板を巻き取って、焼鈍コイルとする。該焼鈍コイルに対して上述した条件にて振動を付加することで、耐水素脆化特性に優れた冷延鋼板または熱延鋼板を得ることができる。
【0135】
[[めっき鋼板]]
また、本実施形態に係る脱水素装置300aは、めっき鋼板の製造にも適用することができる。本適用例に係る鋼板の製造システムは、熱延鋼板又は冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板とするめっき装置と、前記めっき鋼板を巻き取って、めっき鋼板コイルを得るめっき鋼板巻き取り装置と、前記めっき鋼板コイルを前記鋼板コイルCとする脱水素装置300aと、を有する。めっき装置は、熱延鋼板、冷延鋼板を下地鋼板として、表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板を得る。めっき鋼板巻き取り装置は、該めっき鋼板を巻き取ってめっき鋼板コイルとする。脱水素装置300aは、該めっき鋼板コイルを鋼板コイルCとして、めっき鋼板コイルに対して上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れためっき鋼板を得ることができる。
【0136】
また、熱延鋼板、冷延鋼板を下地鋼板として、表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板を得て、該めっき鋼板を振動を付加する鋼板コイルとしてもよい。めっき鋼板コイルに対して振動を付加する場合、鋼板の製造方法は、熱延鋼板または冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板とする工程と、前記めっき鋼板を巻き取って、めっき鋼板コイルを得る工程と、を含み、前記めっき鋼板コイルを前記鋼板コイルとする。
【0137】
[連続溶融亜鉛めっき装置によるめっき皮膜の形成]
めっき装置の種類は特に限定されないが、例えば溶融亜鉛めっき装置であり得る。溶融亜鉛めっき装置は、一例においては連続溶融亜鉛めっき装置(Continuous hot-dip Galvanizing Line:CGL)であり得る。CGLの構成は特に限定されないが、一例においてCGLは、加熱帯、均熱帯、及び冷却帯がこの順に配置された連続焼鈍炉と、該冷却帯の後に設けられた溶融亜鉛めっき設備とを有する。CGLにおいては、(A)ペイオフリールにより冷延コイル又は熱延コイルより払い出された冷延鋼板又は熱延鋼板が、(B)通板方向上流側から加熱帯、均熱帯、及び冷却帯が位置する連続焼鈍炉内に通板されて、(B-1)均熱帯内にて、水素を含む還元性雰囲気で熱延鋼板又は冷延鋼板に焼鈍を施して焼鈍鋼板とし、(B-2)冷却帯内にて焼鈍鋼板を冷却する、連続焼鈍を行ない、(C)焼鈍炉から排出された焼鈍鋼板を引き続き通板させ、(C-1)連続焼鈍炉の通板方向下流に位置する溶融亜鉛めっき浴に焼鈍鋼板を浸漬させて、焼鈍鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっき鋼板とし、(D)テンションリールにより溶融亜鉛めっき鋼板を巻き取って、溶融亜鉛めっき鋼板コイルとする。脱水素装置300aは、該溶融亜鉛めっき鋼板コイルを鋼板コイルCとして、該溶融亜鉛めっき鋼板コイルに対して上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0138】
熱延鋼板または冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成する方法は特に限定されないが、めっき工程が溶融亜鉛めっき工程を含んでいてもよい。すなわち、熱延鋼板または冷延鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっき鋼板としてもよい。一例においては連続溶融亜鉛めっき装置(Continuous hot-dip Galvanizing Line:CGL)を用いて鋼板に対して溶融亜鉛めっき処理を施すことができる。CGLにおいては、鋼板コイルを、(A)ペイオフリールにより払い出し、(B)通板方向上流側から加熱帯、均熱帯、及び冷却帯が位置する焼鈍炉内に、熱延鋼板または冷延鋼板を通板させて、(B-1)均熱帯内では、水素を含む還元性雰囲気で熱延鋼板または冷延鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板とし、(B-2)冷却帯内では焼鈍鋼板を冷却する、連続焼鈍を行ない、(C)焼鈍炉から排出された焼鈍鋼板を引き続き通板させ、(D)テンションリールにより焼鈍鋼板を巻き取って、焼鈍コイルとし、そして、工程(C)は、(C-1)焼鈍炉の通板方向下流に位置する溶融亜鉛めっき浴に焼鈍鋼板を浸漬させて、焼鈍鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施す工程を含む。巻き取られた焼鈍コイルは溶融亜鉛めっき鋼板からなる溶融亜鉛めっき鋼板コイルである。該溶融亜鉛めっき鋼板コイルに対して上述した条件にて振動を付加することで、耐水素脆化特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0139】
また、めっき装置が溶融亜鉛めっき装置と、これに続く合金化炉とを含んでいてもよい。一例においては、CGLを用いて溶融亜鉛めっき鋼板を製造した後、上述した工程(C-1)に引き続き、(C-2)溶融亜鉛めっき浴の通板方向下流に位置する合金化炉に鋼板を通板させて、溶融亜鉛めっきを加熱合金化する。合金化炉を通板されて合金化された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、巻き取られて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板コイルとなる。脱水素装置300aは、該合金化溶融亜鉛めっき鋼板コイルを鋼板コイルCとして、合金化溶融亜鉛めっき鋼板コイルに対して上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、耐水素脆化特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0140】
また、めっき工程が溶融亜鉛めっき工程と、これに続く合金化工程とを含んでいてもよい。すなわち、溶融亜鉛めっき鋼板にさらに合金化処理を施して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とし、該溶融亜鉛めっき鋼板に対して振動を付加してもよい。一例においては、CGLを用いて溶融亜鉛めっき鋼板を製造した後、上述した工程(C-1)に引き続き、(C-2)溶融亜鉛めっき浴の通板方向下流に位置する合金化炉に鋼板を通板させて、溶融亜鉛めっきを加熱合金化する。合金化炉を通板されて合金化された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、巻き取られて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板コイルとなる。該合金化溶融亜鉛めっき鋼板コイルに対して上述した条件にて振動を付加することで、耐水素脆化特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0141】
また、めっき装置は、亜鉛めっき皮膜のほか、Alめっき皮膜、Feめっき皮膜を形成し得る。また、めっき装置は溶融めっき装置に限定されず、電気めっき装置であってもよい。
【0142】
また、振動を付加する鋼板の表面に対して形成し得るめっき皮膜の種類は特に限定されず、Alめっき皮膜、Feめっき皮膜であってもよい。めっき皮膜を形成する方法は溶融めっき工程に限定されず、電気めっき工程であってもよい。
【0143】
鋼板の製造システムは、上記の通り得られた熱延鋼板、冷延鋼板、並びに当該熱延鋼板又は冷延鋼板の表面に各種めっき皮膜を有するめっき鋼板に対して、形状矯正及び表面粗度の調整等を目的としてスキンパス圧延を行うスキンパス圧延装置をさらに有していてもよい。すなわち、本鋼板の製造方法においては、上記の通り得られた熱延鋼板、冷延鋼板、並びに当該熱延鋼板または冷延鋼板の表面に各種めっき皮膜を有するめっき鋼板に対しては、形状矯正および表面粗度の調整等を目的としてスキンパス圧延を行うことができる。スキンパス圧延の圧下率は、0.1%以上に制御することが好ましく、また2.0%以下に制御することが好ましい。スキンパス圧延の圧下率を0.1%以上とすることで、形状矯正の効果、及び表面粗度の調整の効果をより好適に得ることができ、また圧下率の制御もより好適となる。また、スキンパス圧延の圧下率を2.0%以下とすることで、生産性がより良好である。なお、スキンパス圧延装置は、CGL又はCALと連続した装置としてもよいし(インライン)、CGL又はCALとは不連続な装置としてもよい(オフライン)。一度に目的の圧下率のスキンパス圧延を行ってもよいし、数回に分けてスキンパス圧延を行って、目的の圧下率を達成してもよい。また、鋼板の製造システムは、上記の通り得られた熱延鋼板、冷延鋼板、並びに当該熱延鋼板又は冷延鋼板の表面に各種めっき皮膜を有するめっき鋼板の表面に、樹脂又は油脂コーティングなどの各種塗装処理を施す塗装設備をさらに有していてもよい。すなわち、上記の通り得られた熱延鋼板、冷延鋼板、並びに当該熱延鋼板または冷延鋼板の表面に各種めっき皮膜を有するめっき鋼板の表面に、樹脂または油脂コーティングなどの各種塗装処理を施すこともできる。
【0144】
<実施形態2>
本発明の実施形態2に係る脱水素装置は、鋼板コイルから鋼帯を払い出す払い出し装置と、前記鋼帯を通板させる通板装置と、前記鋼帯を巻き取る巻き取り装置と、前記通板装置を通板中の前記鋼帯に対して、前記鋼帯の振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼帯の最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する振動付加装置と、を有する。
【0145】
また、本発明の実施形態2に係る鋼板の製造方法は、鋼板コイルから鋼帯を払い出す工程と、前記鋼帯を通板させる通板工程と、前記鋼帯を巻き取って製品コイルとする工程と、を有し、前記通板工程は、前記鋼帯に対して、前記鋼帯の振動の周波数が100~100000Hzとなり、かつ、前記鋼帯の最大振幅が10nm~500μmとなるように振動を付加する振動付加工程を含む。
【0146】
熱間圧延又は冷間圧延後に任意で焼鈍を施された鋼板、あるいはさらにめっき皮膜を形成されためっき鋼板は、コイル状に巻き取られて鋼板コイルとされる。該鋼板コイルの質量はしばしば出荷時の梱包質量とは異なることから、リコイルラインにおいて梱包質量への分割が行われる。払い出し装置によって鋼板コイルから鋼帯が払い出され、払い出された鋼帯は巻き戻し装置によって再度巻き戻され、所定の梱包質量になった段階でせん断されて分割される。本実施形態においては、このリコイルラインによって払い出された鋼帯に対して振動を付加する。本実施形態によれば、通板中の鋼帯に対して振動を付加することから、鋼帯の全長にわたって万遍なく振動を付加することができる。なお、本実施形態に係る脱水素装置は、連続焼鈍装置又は連続溶融亜鉛めっき装置とは不連続な装置(オフライン)であり、脱水素装置は、鋼帯に対する焼鈍、めっき処理、及び溶融亜鉛めっき処理を行うための設備を含まない。
【0147】
(振動付加装置60)
振動の付加には、振動付加装置を用いることができる。一例において、振動付加装置は、上述した実施形態1に係る振動付加装置60と同様、電磁石63が通板中の鋼帯に与える外力(引力)により通板中の鋼帯が振動するように構成され得る。振動付加装置60の構成については、振動を付加する対象を鋼板コイルではなく通板中の鋼帯とすること以外は、実施形態1と同様にすることができる。
【0148】
なお、電磁石63は、通板中の鋼帯の片方の表面に対向するように設ければ十分であるが、表裏両面に対向するように設けてもよい。ただし、その場合には、片面側の電磁石63が他面側の電磁石63と同じ高さ位置にないように、高さ位置をずらすことが好ましい。
【0149】
(振動付加装置70)
別の例においては、振動付加装置は、上述した実施形態1に係る振動付加装置70と同様、振動子が通板中の鋼帯に与える外力(引力)により通板中の鋼帯が振動するように構成され得る。
図4Aに示すように、振動付加装置70は、通板中の鋼帯に接触する振動子72を有し、この振動子72によって鋼帯Sが振動するように構成され得る。振動付加装置70の構成については、振動を付加する対象を鋼板コイルではなく通板中の鋼帯とすること以外は、実施形態1と同様にすることができる。
【0150】
[[脱水素装置]]
図7に、本実施形態に係る鋼板の製造方法に用いる脱水素装置300bを鋼帯Sの幅方向を手前にして見た図を示す。
図7は、通板中の鋼帯Sに対して振動付加装置60により振動を付加して鋼中の拡散性水素を低減するための脱水素装置の一例を示す図である。
図7に示すように、本脱水素装置300bにおいては、払い出し装置によって払い出された鋼帯Sの通板過程に振動付加装置60を配置する。なお、図示しないが、各振動付加装置60において、各電磁石63には、増幅器62と、電源65と、制御器61とが結合されており、さらに制御器61には振動検出器64が結合されており、電磁石63から鋼帯Sに対して振動が付加されるようになっている。
図7に示すように、振動付加装置60は、通板中の鋼帯Sの表裏片面に対してのみ設けてもよいし、通板中の鋼帯Sの表裏両面に対して鋼帯Sが加振するように設けてもよい。振動付加装置60を通板中の鋼帯Sの表裏両面に対して設けることで、振動付加タイミングを制御して、より効率よく鋼中の拡散性水素量を低減することができる。なお、図示しないが、脱水素装置300bは、鋼帯Sを払い出し装置から巻き取り装置に向かって通板させるための通板装置を備える。通板装置は、例えば鋼帯Sを巻き取り装置に向かって通板させる通板ロールを含む。
【0151】
通板中の鋼帯Sの表面と所定の間隔をあけて、鋼帯幅方向に沿って複数の電磁石63を設置することが好ましい。各電磁石63から通板中の鋼帯Sの表面に向けて振動を付加することで、当該表面の幅方向に均一に振動を付加することができる。鋼帯幅方向に沿って位置する複数の電磁石63を通板方向に沿って複数配置することによって、鋼帯Sの表面が振動を付加される時間を十分に確保することができる。
【0152】
脱水素装置300b内で電磁石63を一定の間隔で保持するための形態は特に限定されないが、例えば通板経路に通板中の鋼帯Sを覆うように箱状部を設け、該箱状部の内壁に電磁石63を一定の間隔で固定することができる。
【0153】
図8に、通板中の鋼帯Sに対して振動付加装置70により振動を付加して鋼中の拡散性水素を低減するための脱水素装置の一例を示す。
図8においては、鋼帯Sの幅方向を手前にして示している。
図8に示すように、脱水素装置300bは、払い出し装置によって払い出された鋼帯Sの通板過程に振動付加装置70の振動子72を配置する。なお、図示しないが、各振動付加装置70において、各振動子72には、制御器71と、振動検出器73とが結合されており、振動子72から鋼帯Sに対して振動が付加されるようになっている。
図8に示すように、振動子72は通板中の鋼帯Sに接触するように配置する。振動付加装置70は、通板中の鋼帯Sの表裏片面に対してのみ設けてもよいし、通板中の鋼帯Sの表裏両面に対して鋼帯Sが加振するように設けてもよい。振動付加装置70を通板中の鋼帯Sの表裏両面に対して設けることで、振動付加タイミングを制御して、より効率よく鋼中の拡散性水素量を低減することができる。
【0154】
振動子72が通板中の鋼帯Sの表面と接触するように、鋼帯幅方向に沿って複数の振動子72を設置することが好ましい。各振動子72から通板中の鋼帯Sの表面に振動を付加することで、当該表面の幅方向に均一に振動を付加することができる。鋼帯幅方向に沿って位置する複数の振動子72を通板方向に沿って複数配置することによって、鋼帯Sの表面が振動を付加される時間を十分に確保することができる。
【0155】
脱水素装置300b内で振動子72を一定の間隔で保持するための形態は特に限定されないが、例えば通板経路に通板中の鋼帯Sを覆うように箱状部を設け、該箱状部の内壁に振動子72を一定の間隔で固定することができる。
【0156】
本実施形態において、通板中の鋼帯に対して付加する振動の周波数及び振動の最大振幅は、実施形態1と同様とすることができる。
【0157】
[[振動付加時間]]
リコイルラインにおいては、連続焼鈍装置又は連続溶融亜鉛めっき装置とは異なり、焼鈍時間との兼ね合いで通板速度を調節する必要がない。そのため、本実施形態によれば、照射時間の制約なく、鋼帯に対して振動を付加することができる。振動を付加する時間は長いほど拡散性水素を低減することができると推測されることから、振動を付加する時間は1分間以上とすることが好ましい。振動の付加時間は、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは60分間以上とする。一方で、生産性の観点から、振動の付加時間は30000分間以下とすることが好ましく、10000分間以下とすることがより好ましく、1000分間以下とすることがさらに好ましい。振動の付加時間は、鋼帯Sの通板速度と、振動付加装置の位置(例えば、鋼板幅方向に沿って位置する複数の振動付加装置60からなる装置群の通板方向に沿った数)とによって調整することができる。
【0158】
本実施形態によれば、振動付加後に得られる製品コイルの拡散性水素量を0.5質量ppm以下まで低減することができる。製品コイルの拡散性水素量を0.5質量ppm以下まで低減することで、水素脆化を防ぐことができる。振動付加後の鋼中の拡散性水素量は、好ましくは0.3質量ppm以下、さらに好ましくは0.2質量ppm以下である。振動付加後の鋼中の拡散性水素量は、実施形態1と同様に測定することができる。
【0159】
[[加熱装置]]
[[鋼帯の保持温度]]
また、
図7、8に示すように、脱水素装置300bは、鋼帯Sを300℃以下にて加熱しながら振動を付加するための加熱装置74をさらに有していてもよい。振動付加工程の鋼帯Sの温度は特に限定されない。本実施形態によれば、鋼帯Sを加熱保持せずとも、鋼中の拡散性水素を低減することができるためである。しかしながら、加熱部によって鋼帯Sを加熱しながら振動を付加することで、水素の拡散速度をより高めることができるため、鋼中の拡散性水素量をより低減することができる。よって、振動を付加する際の鋼帯Sの温度は30℃以上とすることが好ましく、50℃以上とすることがより好ましく、100℃以上とすることがさらに好ましい。振動付加工程における鋼帯Sの温度の上限は特に限定されないが、鋼帯Sの組織変化を好適に防ぐ観点から、300℃以下とすることが好ましい。なお、本実施形態において、振動を付加する際の鋼帯Sの温度は、鋼帯Sの表面の温度を基準とする。鋼帯の表面温度は、一般的な放射温度計により測定することができる。加熱装置74を設ける形態は特に限定されないが、例えば
図7、8に示すように、鋼帯Sの通板経路に加熱装置74を設けることができる。鋼帯Sの通板経路に加熱装置74を設けることで、鋼帯Sを均一に加熱することができる。鋼帯Sの通板経路に加熱装置74を設ける場合、
図7、8に示すように、通板経路において振動付加装置60よりも上流側に加熱装置74を設けることが好ましい。通板経路において振動付加装置60よりも上流側に加熱装置74を設けることで、十分に加熱された鋼帯Sに対して振動を付加することができる。また例えば、通板中の鋼板を上述した箱状部にて覆い、箱状部の側壁にヒーターを設置する方法により、鋼帯Sを加熱保持しつつ振動を付加することができる。また、外部で発生させた高温の空気を箱状部に送風し、箱状部内で循環させる方法によっても、鋼帯Sを加熱保持しつつ振動を付加することができる。加熱方式は特に限定されず、燃焼式、電気式のいずれであってもよい。一例において、加熱装置74は、誘導式加熱装置であり得る。
【0160】
本実施形態に係る脱水素装置300bは、脱水素装置300bの外部に前記振動が伝達することを防ぐ制振部をさらに有していてもよい。制振部の具体的な構成は特に限定されないが、制振部は例えば鋼帯S及び電磁石63を内包するように覆う制振材であり得る。
【0161】
以下では、本実施形態の適用例について、より具体的に説明する。
【0162】
[[熱延鋼板]]
実施形態1と同様、本実施形態に係る脱水素装置300b及び鋼板の製造方法は、熱延鋼板の製造に適用することができる。
【0163】
本適用例に係る鋼板の製造システムは、鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延装置と、前記熱延鋼板を巻き取って熱延コイルを得る熱延鋼板巻き取り装置と、前記熱延コイルを前記鋼板コイルとする脱水素装置300bと、を有する。公知の熱間圧延装置によって製造した熱延コイルから、熱延鋼板を払い出して通板させ、通板中の熱延鋼板に対して上述した条件にて振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた熱延鋼板を得ることができる。
【0164】
実施形態1と同様、本実施形態に係る鋼板の製造方法は、熱延鋼板の製造に適用することができる。本適用例に係る鋼板の製造方法は、鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とする工程と、前記熱延鋼板を巻き取って熱延コイルを得る工程と、を含み、前記熱延コイルを前記鋼板コイルとする。振動を付加する前の熱延コイルの製造方法は特に限定されず、例えば実施形態1に例示した製造方法とすることができる。該熱延コイルから熱延鋼板を払い出して通板させ、通板中の熱延鋼板に対して上述した条件にて振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた熱延鋼板を得ることができる。
【0165】
[[冷延鋼板]]
本実施形態に係る脱水素装置300b及び鋼板の製造方法は、冷延鋼板の製造にも適用することができる。
【0166】
本適用例に係る鋼板の製造システムは、熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延装置と、前記冷延鋼板を巻き取って冷延コイルを得る冷延鋼板巻き取り装置と、前記冷延コイルを前記鋼板コイルCとする脱水素装置300bと、を有する。公知の熱延鋼板に公知の冷間圧延装置によって冷間圧延を施して冷延鋼板を得る。冷延鋼板巻き取り装置は、該冷延鋼板を巻き取って冷延コイルとする。該冷延コイルを鋼板コイルCとして、該冷延コイルから冷延鋼板を払い出して通板させ、通板中の冷延鋼板に対して上述した条件にて振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた冷延鋼板を得ることができる。
【0167】
本適用例に係る鋼板の製造方法は、熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする工程と、前記冷延鋼板を巻き取って冷延コイルを得る工程と、を含み、前記冷延コイルを前記鋼板コイルとする。振動を付加する前の冷延コイルの製造方法は特に限定されず、例えば実施形態1に例示した製造方法とすることができる。該冷延コイルから冷延鋼板を払い出して通板させ、通板中の冷延鋼板に対して上述した条件にて振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた冷延鋼板を得ることができる。
【0168】
脱水素装置300bによって振動を付加する熱延鋼板及び冷延鋼板の成分組成は限定されないが、本実施形態によれば、590MPa以上、より好ましくは1180MPa以上、さらに好ましくは1470MPa以上の引張強さを有する高強度鋼板に対して脱水素装置300bにて振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた高強度鋼板を得ることができる。
【0169】
熱延鋼板および冷延鋼板の成分組成は、例えば実施形態1において例示した成分組成とすることができる。
【0170】
[[焼鈍装置]]
実施形態1と同様、鋼板の製造システムは、冷延鋼板、熱延鋼板に対して焼鈍を施す焼鈍装置を有していてもよい。焼鈍を施すタイミングは特に限定されないが、一般的に焼鈍工程において鋼中に水素が侵入することから、最終的に耐水素脆化特性に優れた鋼板を得るために、焼鈍は振動を付加する前に施すことが好ましい。焼鈍装置は、バッチ焼鈍炉であってもよいし、連続焼鈍装置であってもよい。
【0171】
[[焼鈍工程]]
実施形態1と同様、冷延鋼板、熱延鋼板に対して、焼鈍を施してもよい。焼鈍を施すタイミングは特に限定されないが、焼鈍は振動付加工程よりも前に施すことが好ましい。焼鈍工程は、バッチ焼鈍炉によって行うこともできるし、連続焼鈍装置を用いて行うこともできる。
【0172】
[バッチ焼鈍]
バッチ焼鈍炉を用いて焼鈍工程を行う場合、鋼板の製造システムは、冷延コイル又は熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルを得るバッチ焼鈍炉と、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルCとする脱水素装置300bと、を有する。焼鈍後の焼鈍コイルは、バッチ焼鈍炉内における炉冷、又は空冷などによって冷却する。払い出し装置は、焼鈍コイルから焼鈍鋼板を払い出して通板装置に供給し、通板装置は、焼鈍鋼板を通板させる。振動付加装置60は、通板中の該焼鈍鋼板に対して上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた焼鈍鋼板を得ることができる。
【0173】
バッチ焼鈍炉を用いて焼鈍工程を行う場合、鋼板の製造方法は、冷延鋼板または熱延鋼板を巻き取って冷延コイルまたは熱延コイルとする工程と、冷延コイルまたは熱延コイルにバッチ焼鈍を施して焼鈍コイルを得る工程と、を含み、該焼鈍コイルを前記鋼板コイルとする。焼鈍後の焼鈍コイルは、バッチ焼鈍炉内における炉冷、または空冷などによって冷却する。次いで、焼鈍コイルから焼鈍鋼板を払い出して通板させ、通板中の該焼鈍鋼板に対して上述した条件にて振動を付加することで、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた熱延鋼板または冷延鋼板を得ることができる。
【0174】
[連続焼鈍装置による焼鈍]
焼鈍は、冷延鋼板又は熱延鋼板を連続焼鈍装置(Continuous Annealing Line:CAL)に通板させることによって行なうこともできる。連続焼鈍装置を用いて焼鈍工程を行う場合、鋼板の製造システムは、冷延コイル又は熱延コイルから冷延鋼板又は熱延鋼板を払い出す焼鈍前払い出し装置と、前記冷延鋼板又は熱延鋼板を連続焼鈍して、焼鈍鋼板とする連続焼鈍炉と、前記焼鈍鋼板を巻き取って、焼鈍コイルを得る焼鈍鋼板巻き取り装置と、前記焼鈍コイルを前記鋼板コイルCとする脱水素装置300bと、を有する。連続焼鈍装置の構成については、実施形態1と同様である。脱水素装置300bの払い出し装置は、焼鈍コイルから焼鈍鋼板を払い出して通板装置に供給し、通板装置は、焼鈍鋼板を通板させる。振動付加装置60は、通板中の該焼鈍鋼板に対して上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた焼鈍鋼板を得ることができる。
【0175】
連続焼鈍装置を用いて焼鈍工程を行う場合、振動付加前の焼鈍コイルは、実施形態1と同様に製造することができる。該焼鈍コイルから焼鈍鋼帯を払い出して、通板中の焼鈍鋼板に対して上述した条件にて振動を付加することで、耐水素脆化特性に優れた冷延鋼板または熱延鋼板を得ることができる。
【0176】
[[めっき鋼板]]
実施形態1と同様、本実施形態に係る脱水素装置300b及び鋼板の製造方法は、めっき鋼板の製造にも適用することができる。
【0177】
本適用例に係る鋼板の製造システムは、熱延鋼板又は冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板とするめっき装置と、前記めっき鋼板を巻き取って、めっき鋼板コイルを得るめっき鋼板巻き取り装置と、前記めっき鋼板コイルを前記鋼板コイルCとする脱水素装置300bと、を有する。熱延鋼板又は冷延鋼板の表面に対して形成し得るめっき皮膜の種類は特に限定されず、亜鉛めっき皮膜のほか、Alめっき皮膜、Feめっき皮膜であってもよい。めっき皮膜を形成する方法は溶融めっき工程に限定されず、電気めっき工程であってもよい。
【0178】
また、本適用例に係る鋼板の製造方法は、熱延鋼板または冷延鋼板の表面にめっき皮膜を形成してめっき鋼板とする工程と、前記めっき鋼板を巻き取って、めっき鋼板コイルを得る工程と、を含み、前記めっき鋼板コイルを前記鋼板コイルとする。
【0179】
[連続溶融亜鉛めっき装置によるめっき皮膜の形成]
めっき装置の種類は特に限定されないが、例えば溶融亜鉛めっき装置であり得る。溶融亜鉛めっき装置は、一例においては連続溶融亜鉛めっき装置(Continuous hot-dip Galvanizing Line:CGL)であり得る。CGLの構成については、実施形態1と同様であり得る。脱水素装置300bの払い出し装置は、CGLによって製造された溶融亜鉛めっき鋼板コイルから溶融亜鉛めっき鋼板を払い出して通板装置に供給し、通板装置は、溶融亜鉛めっき鋼板を通板させる。振動付加装置60は、通板中の該焼鈍鋼板に対して上述した条件にて振動を付加する。該振動の付加により、鋼中の拡散性水素量を低減して、耐水素脆化特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0180】
振動を付加する前の鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっき鋼板としてもよい。一例においては連続溶融亜鉛めっき装置(Continuous hot-dip Galvanizing Line:CGL)を用いて鋼帯に対して溶融亜鉛めっき処理を施すことができる。CGLの構成については、実施形態1と同様にすることができる。振動を付加する前の溶融亜鉛めっき鋼板コイルは、実施形態1と同様に製造することができる。該溶融亜鉛めっき鋼板コイルは溶融亜鉛めっき鋼板を払い出して通板させ、通板中の溶融亜鉛めっき鋼板に対して上述した条件にて振動を付加することで、耐水素脆化特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0181】
また、めっき装置が溶融亜鉛めっき装置と、これに続く合金化炉とを含んでいてもよい。すなわち、本鋼板の製造方法において、めっき処理が溶融亜鉛めっき工程と、これに続く合金化工程とを含んでいてもよい。合金化炉を有するめっき装置としては、実施形態1にて例示した、溶融亜鉛めっき浴の通板方向下流に合金化炉を有するCGLを用いることができる。溶融亜鉛めっき工程と、これに続く合金化工程とによって形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板コイルから合金化溶融亜鉛めっき鋼板を払い出し、該合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して上述した条件にて振動を付加することで、耐水素脆化特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0182】
実施形態1と同様、鋼板の製造システムは、上記の通り得られた熱延鋼板、冷延鋼板、並びに当該熱延鋼板又は冷延鋼板の表面に各種めっき皮膜を有するめっき鋼板に対して、形状矯正及び表面粗度の調整等を目的としてスキンパス圧延を行うスキンパス圧延装置をさらに有していてもよい。また、鋼板の製造システムは、上記の通り得られた熱延鋼板、冷延鋼板、並びに当該熱延鋼板又は冷延鋼板の表面に各種めっき皮膜を有するめっき鋼板の表面に、樹脂又は油脂コーティングなどの各種塗装処理を施す塗装設備をさらに有していてもよい。
【0183】
すなわち、本鋼板の製造方法において、上記の通り得られた熱延鋼板、冷延鋼板、並びに当該熱延鋼板または冷延鋼板の表面に各種めっき皮膜を有するめっき鋼板に対しては、実施形態1と同様に、スキンパス圧延を行うことができる。また、上記の通り得られた熱延鋼板、冷延鋼板、並びに当該熱延鋼板または冷延鋼板の表面に各種めっき皮膜を有するめっき鋼板の表面に、樹脂または油脂コーティングなどの各種塗装処理を施すこともできる。
【実施例】
【0184】
<実施例1>
表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を転炉にて溶製し、連続鋳造法にて鋼スラブとした。得られた鋼スラブを熱間圧延後、冷間圧延し、さらに焼鈍を施して冷延鋼板(CR)を得た。一部の冷延鋼板に対しては、さらに溶融亜鉛めっき処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)とした。一部の溶融亜鉛めっき鋼板に対しては、さらに合金化処理を施して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得た。CR,GI,GAのいずれも板厚1.4mm、幅1000mmとした。CALとしては、加熱帯、均熱帯、及び冷却帯がこの順に配置されたCALを用いた。CGLとしては、加熱帯、均熱帯、及び冷却帯がこの順に配置された連続焼鈍炉と、該冷却帯の後に設けられた溶融亜鉛めっき設備とを有するCGLを用いた。バッチ焼鈍炉としては、一般的なバッチ焼鈍炉を用いた。
【0185】
【0186】
得られたCR、GI、GAの鋼板コイルに対して、あるいは該鋼板コイルから払い出した鋼帯に対して、振動を付加した。
図1または
図4に示す振動付加装置を用いて、表2に示す周波数、最大振幅、及び照射時間の条件で振動を付加した。表2中では、鋼板コイルに対して振動を付加した場合をA、払い出した鋼帯に対して振動を付加した場合はBとして示している。鋼板コイルに対して振動を付加する場合、
図5(a)、(c)、及び
図6に示す脱水素装置を用いた。鋼帯に振動を付加する場合、
図3,4(a)に示す脱水素装置を用いた。鋼板コイル(外径:1500mm、内径:610mm、幅:1000mm)に対して振動を付加する場合、収容部の大きさは、高さ方向:2500mm、奥行き:2000mm、幅方向:2500mmとした。電磁石により振動を付加する場合、鋼板コイルを取り囲むように電磁石を収容部の内壁に配置した。振動子により振動を付加する場合、鋼板コイルの表面に、鋼板コイルの周方向に沿って中心角10°間隔で振動子72を配置した。通板中の鋼帯に対して振動を付加した場合は、通板中の鋼帯の表裏両面側に電磁石又は振動子を配置した。電磁石は、鋼帯の幅方向に沿って6つ、鋼帯幅方向端部から鋼帯幅方向に沿って均等に配置した。なお、表2中で室温とは、25℃前後を意味する。なお、最大振幅は、振動付加装置の位置(すなわち、振動付加装置と鋼帯S又は鋼板コイルCとの距離)は固定したうえで、電磁石に流す電流の周波数及び電流値を調整することにより、又は振動子に流す直流パルス電流の周波数及び電流値を調整することにより、調整した。また、照射時間は、鋼板コイルに対して振動を付加する場合については振動付加装置の駆動時間を調整することにより、調整した。払い出した鋼帯に対して振動を付加する場合については、鋼帯の通板速度を調整することにより、振動の付加時間を調整した。
【0187】
振動付加後の各鋼板について、以下に説明する方法にて、引張特性、鋼中の拡散性水素量、伸びフランジ性、及び曲げ性の評価を行い、その結果を表2に示した。
【0188】
引張試験は、JIS Z 2241(2011年)に準拠して行った。振動付加後の各鋼板より、引張方向が鋼板の圧延方向と直角となるようにJIS5号試験片を採取した。各試験片を用いて、クロスヘッド変位速度が1.67×10-1mm/sの条件で引張試験を行い、TS(引張強さ)を測定した。
【0189】
伸びフランジ性は、穴広げ試験によって評価した。穴広げ試験は、JIS Z 2256に準拠して行った。得られた鋼板より、100mm×100mmのサンプルを剪断で採取した。該サンプルに、クリアランスを12.5%として直径10mmの穴を打ち抜いた。内径75mmのダイスを用いて、穴の周囲をしわ押さえ力9ton(88.26kN)で抑えた状態で、頂角60°の円錐ポンチを穴に押し込んで亀裂発生限界における穴直径を測定した。下記の式(4)から、限界穴広げ率:λ(%)を求め、この限界穴広げ率の値から穴広げ性を評価した。
限界穴広げ率:λ(%)={(Df-D0)/D0}×100・・・・(4)
ただし、上式において、Dfは亀裂発生時の穴径(mm)、D0は初期穴径(mm)である。鋼板の強度に関係なく、λの値が20%以上の場合に、伸びフランジ性が良好であると判断した。
【0190】
曲げ試験は、JIS Z 2248に準拠して行った。得られた鋼板より、鋼板の圧延方向に対して平行方向が曲げ試験の軸方向となるように、幅が30mm、長さが100mmとする短冊状の試験片を採取した。その後、押込み荷重が100kN、押付け保持時間を5秒とする条件で、曲げ角度を90°としてVブロック法により曲げ試験を行った。なお、本発明では、90°V曲げ試験を行い、曲げ頂点の稜線部を40倍のマイクロスコープ(RH-2000:株式会社ハイロックス製)で観察し、亀裂長さが200μm以上の亀裂が認められなくなった際の曲げ半径を最小曲げ半径(R)とした。Rを板厚(t)で除した値(R/t)が、5.0以下の場合を、曲げ試験が良好と判断した。
【0191】
鋼中の拡散性水素量は上述した方法に従って測定した。
【0192】
表2に示すように、本発明例では、振動付加工程を行ったため、水素量が少なく、耐水素脆化特性の指標として、伸びフランジ性(λ)及び曲げ性(R/t)に優れる鋼板を製造することができた。一方、比較例では、伸びフランジ性(λ)及び曲げ性(R/t)のいずれか一つ以上が劣っている。
【0193】
【0194】
本発明例では、鋼板に対して振動を付加したため、耐水素脆化特性に優れる鋼板を製造することができた。
【符号の説明】
【0195】
60 振動付加装置
61 制御器
62 増幅器
63 電磁石
63A 磁石
63A1 磁極面
63B コイル
64 振動検出器
65 電源
70 振動付加装置
71 制御器
72 振動子
73 振動検出器
74 加熱装置
80 収容部
90 コイル保持部
300a,300b 脱水素装置
S 鋼帯
C 鋼板コイル