(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】継手構造、床版および床版取替方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20231114BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20231114BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
E04B5/02 Q
(21)【出願番号】P 2023099032
(22)【出願日】2023-06-16
【審査請求日】2023-06-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大和 信夫
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-261246(JP,A)
【文献】特開2022-071229(JP,A)
【文献】特開2019-073948(JP,A)
【文献】特開2020-169546(JP,A)
【文献】特開平07-102530(JP,A)
【文献】特開平11-350714(JP,A)
【文献】特開2021-156041(JP,A)
【文献】特開2012-082622(JP,A)
【文献】特開2021-188454(JP,A)
【文献】特開2021-173091(JP,A)
【文献】特開平06-002306(JP,A)
【文献】特開昭50-102004(JP,A)
【文献】特開2002-211387(JP,A)
【文献】特開2004-300688(JP,A)
【文献】特開2023-074170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E01D 22/00
E04B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の床版を接合する継手構造であって、
前記床版の各々の少なくとも2つの面に跨るように形成された切欠き部と、
前記切欠き部の内部に設けられる突出部と、
隣り合う前記床版の一対の前記切欠き部にそれぞれ設けられる一対の前記突出部を挟持する挟持部材と、
を備え、
前記継手構造は、
前記挟持部材に隣接して配置される押圧部材と、
前記挟持部材と前記押圧部材とを締結する締結部材と、
をさらに備え、
前記挟持部材は、
隣り合う前記床版の一対の前記切欠き部に跨るように配置されるシャフトと、
前記シャフトの両側に、前記シャフトの軸方向に移動可能に取り付けられる一対の挟持部と、
を有し、
前記押圧部材は、前記一対の挟持部に対向配置される一対の押圧部を有し、
前記締結部材により前記挟持部材と前記押圧部材とを締結することによって、前記一対の押圧部が前記一対の挟持部を前記軸方向の内側に押圧し、押圧された前記一対の挟持部が前記軸方向の内側に移動して、前記一対の突出部を挟持する、継手構造。
【請求項2】
前記締結部材は、
前記挟持部材の前記シャフトに設けられた雌ネジ部と、
前記押圧部材と係合しつつ、前記雌ネジ部に螺合する雄ネジ部と、
を備え、
前記雄ネジ部を締めることにより、前記押圧部材を前記軸方向に対して垂直な方向に移動させて、前記挟持部材と前記押圧部材とが締結される、請求項1に記載の継手構造。
【請求項3】
前記締結部材による前記挟持部材と前記押圧部材との締結量を調整することによって、前記一対の挟持部の前記軸方向の移動量を調整可能である、請求項1に記載の継手構造。
【請求項4】
前記一対の挟持部の各々は、
前記軸方向の内側に配置され、前記一対の突出部の各々に当接可能な当接面と、
前記軸方向の外側に配置される被押圧面と、
を有し、
前記一対の押圧部の各々は、
前記一対の挟持部の各々の前記被押圧面に当接可能な押圧面を有する、請求項1に記載の継手構造。
【請求項5】
前記被押圧面と前記押圧面は、前記軸方向に対して同一の傾斜角で傾斜した傾斜面を含む、請求項4に記載の継手構造。
【請求項6】
前記シャフトは、前記シャフトに対する前記挟持部の軸周りの回転を規制する回転規制機構を有する、請求項1に記載の継手構造。
【請求項7】
前記床版の前記切欠き部に収容された前記挟持部は、前記床版に対して前記軸方向にのみ接触可能に配置される、請求項1に記載の継手構造。
【請求項8】
前記床版の前記切欠き部の内部には、前記シャフトを支持する台座部が突設されている、請求項1に記載の継手構造。
【請求項9】
前記押圧部材の前記押圧部には、切欠きが形成されており、
前記締結部材により前記挟持部材と前記押圧部材とを締結したときに、前記押圧部の前記切欠きは、前記挟持部材の前記シャフトを収容可能である、請求項1に記載の継手構造。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の継手構造により接合される床版であって、
前記床版の少なくとも2つの面に跨るように形成された切欠き部を備え、
前記切欠き部の内部には、前記継手構造の前記挟持部材により挟持される突出部が設けられる、床版。
【請求項11】
少なくとも1つの車線を有する道路の橋梁における床版取替方法であって、
少なくとも1台の床版取替機を用いて、既設床版を撤去する第1工程と、
前記床版取替機を用いて、新設床版を架設する第2工程と、
請求項1~9のいずれか一項に記載の継手構造によって、隣り合う前記新設床版を接合する第3工程と、
を含む、床版取替方法。
【請求項12】
既に架設された前記新設床版を接合する前記第3工程の少なくとも一部は、前記第1工程、または、他の前記新設床版を架設する前記第2工程の一方若しくは双方と同時並行して行われる、請求項11に記載の床版取替方法。
【請求項13】
既に架設された前記新設床版を接合する前記第3工程は、前記橋梁の橋軸方向における前記床版取替機の位置と、当該新設床版を接合する位置とが重ならないときに、行われる、請求項11に記載の床版取替方法。
【請求項14】
前記第1工程および前記第2工程は、1台の自走可能な前記床版取替機を用いて行われる、請求項11に記載の床版取替方法。
【請求項15】
前記床版取替機は、1つの前記車線を跨ぐように設置される門型のフレーム構造を備え、
前記門型のフレーム構造の幅は、1つの前記車線の幅以下である、請求項11に記載の床版取替方法。
【請求項16】
前記床版取替機は、
前記門型のフレーム構造から前記橋梁の橋軸方向に延びる延出部と、
前記延出部に設けられ、前記橋軸方向に移動可能な吊持部と、
をさらに備える、請求項15に記載の床版取替方法。
【請求項17】
前記床版取替機は、前記延出部に対して回動可能に設けられる支持脚をさらに備え、
前記支持脚は、前記延出部から前記道路に向けて回動した状態では、前記道路の表面に当接して、前記延出部を支持する、請求項16に記載の床版取替方法。
【請求項18】
複数の床版を接合する継手構造であって、
前記床版の各々の少なくとも2つの面に跨るように形成された切欠き部と、
前記切欠き部の内部に設けられる突出部と、
隣り合う前記床版の一対の前記切欠き部にそれぞれ設けられる一対の前記突出部を挟持し、前記突出部を挟持する方向に対して垂直な当接面を有する挟持部材と、
を備
え、
前記継手構造は、前記挟持部材に隣接して配置される押圧部材をさらに備え、
前記挟持部材は、
隣り合う前記床版の一対の前記切欠き部に跨るように配置されるシャフトと、
前記シャフトの両側に、前記シャフトの軸方向に移動可能に取り付けられる一対の挟持部と、
を有し、
前記押圧部材は、前記一対の挟持部に対向配置される一対の押圧部を有し、
前記一対の押圧部が前記一対の挟持部を前記軸方向の内側に押圧することによって、押圧された前記一対の挟持部が前記軸方向の内側に移動して、前記一対の突出部を挟持する、継手構造。
【請求項19】
少なくとも1つの車線を有する道路の橋梁における床版取替方法であって、
少なくとも1台の床版取替機を用いて、既設床版を撤去する第1工程と、
前記床版取替機を用いて、新設床版を架設する第2工程と、
請求項18に記載の継手構造によって、隣り合う前記新設床版を接合する第3工程と、
を含む、床版取替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、継手構造、床版および床版取替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の道路用などの橋梁は、鋼桁と、当該鋼桁上に架設される複数の床版とからなる。老朽化した橋梁の床版を取り替える工事では、既設床版を撤去した後に、複数の新設床版を鋼桁上に架設し、当該複数の新設床版を相互に接合する作業が行われる。
【0003】
床版を接合する継手構造として、例えば、特許文献1には、複数のプレキャスト床版の継手部に、当該プレキャスト床版の端面から突出する複数本の鉄筋を配置し、当該継手部にコンクリートを打設する構造が開示されている。
【0004】
また、橋梁の床版の取替方法として、特許文献2には、トラッククレーンを使用せずに、大型の門型フレームを使用して、既設床版を撤去して新設床版を架設する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-229818号公報
【文献】特開2018-059311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の継手構造では、床版取替時に、鉄筋コンクリートからなるプレキャスト床版の間の継手部に、間詰めのコンクリートを打設して養生する必要がある。したがって、当該継手部のコンクリート強度を発現するまでに長時間を要する。よって、プレキャスト床版の取替工事を行う場合、橋梁における車両の交通規制時間が長期化するという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の床版取替方法では、複数の走行車線に跨って懸架された門型フレームを備えた大型の床版取替機を用いて、床版を取り替える。このため、大型の床版取替機の組み立てに時間を要するという問題があった。したがって、従来では、小型の簡素な床版取替機を用いて、簡便に床版を取り替え可能な方法が希求されていた。
【0008】
そこで、本開示の目的は、橋梁の床版取替工事において、より簡便な機構で床版同士を接合可能にし、交通規制時間を短縮することが可能な継手構造、床版および床版取替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、
複数の床版を接合する継手構造であって、
前記床版の各々の少なくとも2つの面に跨るように形成された切欠き部と、
前記切欠き部の内部に設けられる突出部と、
隣り合う前記床版の一対の前記切欠き部にそれぞれ設けられる一対の前記突出部を挟持する挟持部材と、
を備え、
前記継手構造は、
前記挟持部材に隣接して配置される押圧部材と、
前記挟持部材と前記押圧部材とを締結する締結部材と、
をさらに備え、
前記挟持部材は、
隣り合う前記床版の一対の前記切欠き部に跨るように配置されるシャフトと、
前記シャフトの両側に、前記シャフトの軸方向に移動可能に取り付けられる一対の挟持部と、
を有し、
前記押圧部材は、前記一対の挟持部に対向配置される一対の押圧部を有し、
前記締結部材により前記挟持部材と前記押圧部材とを締結することによって、前記一対の押圧部が前記一対の挟持部を前記軸方向の内側に押圧し、押圧された前記一対の挟持部が前記軸方向の内側に移動して、前記一対の突出部を挟持する、継手構造が提供される。
【0011】
前記締結部材は、
前記挟持部材の前記シャフトに設けられた雌ネジ部と、
前記押圧部材と係合しつつ、前記雌ネジ部に螺合する雄ネジ部と、
を備え、
前記雄ネジ部を締めることにより、前記押圧部材を前記軸方向に対して垂直な方向に移動させて、前記挟持部材と前記押圧部材とが締結されるようにしてもよい。
【0012】
前記締結部材による前記挟持部材と前記押圧部材との締結量を調整することによって、前記一対の挟持部の前記軸方向の移動量を調整可能であるようにしてもよい。
【0013】
前記一対の挟持部の各々は、
前記軸方向の内側に配置され、前記一対の突出部の各々に当接可能な当接面と、
前記軸方向の外側に配置される被押圧面と、
を有し、
前記一対の押圧部の各々は、
前記一対の挟持部の各々の前記被押圧面に当接可能な押圧面を有するようにしてもよい。
【0014】
前記被押圧面と前記押圧面は、前記軸方向に対して同一の傾斜角で傾斜した傾斜面を含むようにしてもよい。
【0015】
前記シャフトは、前記シャフトに対する前記挟持部の軸周りの回転を規制する回転規制機構を有するようにしてもよい。
【0016】
前記床版の前記切欠き部に収容された前記挟持部は、前記床版に対して前記軸方向にのみ接触可能に配置されるようにしてもよい。
【0017】
前記床版の前記切欠き部の内部には、前記シャフトを支持する台座部が突設されているようにしてもよい。
【0018】
前記押圧部材の前記押圧部には、切欠きが形成されており、
前記締結部材により前記挟持部材と前記押圧部材とを締結したときに、前記押圧部の前記切欠きは、前記挟持部材の前記シャフトを収容可能であるようにしてもよい。
【0019】
上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、
上記継手構造により接合される床版であって、
前記床版の少なくとも2つの面に跨るように形成された切欠き部を備え、
前記切欠き部の内部には、前記継手構造の前記挟持部材により挟持される突出部が設けられる、床版が提供される。
【0020】
上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、
少なくとも1つの車線を有する道路の橋梁における床版取替方法であって、
少なくとも1台の床版取替機を用いて、既設床版を撤去する第1工程と、
前記床版取替機を用いて、新設床版を架設する第2工程と、
上記継手構造によって、隣り合う前記新設床版を接合する第3工程と、
を含む、床版取替方法が提供される。
【0021】
既に架設された前記新設床版を接合する前記第3工程の少なくとも一部は、前記第1工程、または、他の前記新設床版を架設する前記第2工程の一方若しくは双方と同時並行して行われるようにしてもよい。
【0022】
既に架設された前記新設床版を接合する前記第3工程は、前記橋梁の橋軸方向における前記床版取替機の位置と、当該新設床版を接合する位置とが重ならないときに、行われるようにしてもよい。
【0023】
前記第1工程および前記第2工程は、1台の自走可能な前記床版取替機を用いて行われるようにしてもよい。
【0024】
前記床版取替機は、1つの前記車線を跨ぐように設置される門型のフレーム構造を備え、
前記門型のフレーム構造の幅は、1つの前記車線の幅以下であるようにしてもよい。
【0025】
前記床版取替機は、
前記門型のフレーム構造から前記橋梁の橋軸方向に延びる延出部と、
前記延出部に設けられ、前記橋軸方向に移動可能な吊持部と、
をさらに備えるようにしてもよい。
【0026】
前記床版取替機は、前記延出部に対して回動可能に設けられる支持脚をさらに備え、
前記支持脚は、前記延出部から前記道路に向けて回動した状態では、前記道路の表面に当接して、前記延出部を支持するようにしてもよい。
上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、
複数の床版を接合する継手構造であって、
前記床版の各々の少なくとも2つの面に跨るように形成された切欠き部と、
前記切欠き部の内部に設けられる突出部と、
隣り合う前記床版の一対の前記切欠き部にそれぞれ設けられる一対の前記突出部を挟持し、前記突出部を挟持する方向に対して垂直な当接面を有する挟持部材と、
を備え、
前記継手構造は、前記挟持部材に隣接して配置される押圧部材をさらに備え、
前記挟持部材は、
隣り合う前記床版の一対の前記切欠き部に跨るように配置されるシャフトと、
前記シャフトの両側に、前記シャフトの軸方向に移動可能に取り付けられる一対の挟持部と、
を有し、
前記押圧部材は、前記一対の挟持部に対向配置される一対の押圧部を有し、
前記一対の押圧部が前記一対の挟持部を前記軸方向の内側に押圧することによって、押圧された前記一対の挟持部が前記軸方向の内側に移動して、前記一対の突出部を挟持する、継手構造が提供される。
上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、
少なくとも1つの車線を有する道路の橋梁における床版取替方法であって、
少なくとも1台の床版取替機を用いて、既設床版を撤去する第1工程と、
前記床版取替機を用いて、新設床版を架設する第2工程と、
上記継手構造によって、隣り合う前記新設床版を接合する第3工程と、
を含む、床版取替方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、橋梁の床版の取替工事において、より簡便に床版同士を接合可能であり、交通規制時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る床版の継手構造が適用される橋梁を示す平面図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係る床版を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、同実施形態に係る継手構造を示す平面図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る継手構造(締結前)を示す断面図である。
【
図5】
図5は、同実施形態に係る継手構造(締結後)を示す断面図である。
【
図6】
図6は、同実施形態に係る挟持部材を示す平面図、縦断面図(A-A断面図)および側面図である。
【
図7】
図7は、同実施形態に係る押圧部材を示す平面図、正面図、底面図および側面図である。
【
図8】
図8は、同実施形態に係る継手構造を示す部分拡大断面図である。
【
図9】
図9は、同実施形態に係る床版取替工事の全体工程を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、同実施形態に係る床版取替機を示す平面図、正面図、側面図である。
【
図11】
図11は、同実施形態の変更例に係る床版取替機を示す正面図である。
【
図12】
図12は、同実施形態に係る既設床版の切断工程と撤去工程を示す平面図である。
【
図13】
図13は、同実施形態に係る新設床版の架設工程と接合工程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0030】
[1.床版取替工事の概要]
まず、
図1を参照して、本開示の第1の実施形態に係る床版1の継手構造2が適用される橋梁3と、当該橋梁3における床版取替工事の概要について説明する。
図1は、本実施形態に係る床版1の継手構造2が適用される橋梁3を示す平面図である。
【0031】
図1に示すように、本実施形態に係る床版1とその継手構造2は、例えば、自動車4が走行する道路5用の橋梁3に適用される。橋梁3は、例えば、高速道路または一般道などの高架橋である。
図1の例の橋梁3は、片側2車線、両側4車線の道路5の橋梁を示している。即ち、当該橋梁3に設けられた道路5は、4つの車線6を有している。
【0032】
しかし、床版1と継手構造2が適用される橋梁3は、
図1の例に限定されない、例えば、道路5の車線6の数は、片側1車線または片側3車線以上であってもよいし、両側1車線であってもよい。また、本実施形態に係る床版1と継手構造2が適用される橋梁3は、自動車用の道路5以外にも、例えば、その他の各種の車両用の橋梁、鉄道用の橋梁または歩行者用の橋梁などであってもよい。
【0033】
ここで、橋梁3の方向について説明する。橋軸方向は、橋梁3の長手方向(
図1に示すX方向)であり、道路5における自動車4の走行方向に相当する。橋幅方向は、橋軸方向(X方向)に対して実質的に直交する方向(Y方向)であり、道路5の幅方向に相当する。橋梁3の鉛直方向(Z方向)は、橋軸方向(X方向)および橋幅方向(Y方向)の双方に対して実質的に垂直な方向である。
【0034】
本実施形態に係る道路5用の橋梁3は、橋軸方向(X方向)に延びる複数本の主桁9(
図1には図示せず。
図12、
図13参照。)と、当該主桁9の上に設置される複数の床版1と、道路5の橋幅方向の両側に設置される壁高欄7とを備える。
【0035】
床版1は、道路5の走行面の土台を構成する板状の構造部材である。道路5の車線6ごとに、複数の床版1が橋軸方向に配列される。床版1の施工し易さの観点から、床版1の形状は、矩形平板状であることが好ましいが、他の平面形状を有する平板状であってもよいし、湾曲板状であってもよい。床版1が矩形平板状である場合、床版1の橋幅方向(Y方向)の幅は、1つの車線6の幅と同程度であることが好ましい。これにより、1つの車線6を構成する複数の床版1を効率的に架設することができる。また、床版1の橋軸方向(X方向)の長さは、特に限定されないが、1つの床版1の重量や取り扱い易さなどを考慮して、適切な長さに調整されることが好ましい。
【0036】
床版1は、例えば、コンクリート製または鉄筋コンクリート製などのプレキャスト床版であることが好ましい。プレキャスト床版は、橋梁3の施工現場以外の場所で、予め製造される床版である。予め製造したプレキャスト床版を施工現場まで運搬して施工に用いることで、施工現場で床版を製造する場合と比べて、床版取替工事に要する時間を大幅に短縮できる。なお、床版1は、道路5の床面を形成するコンクリート材と、主桁9若しくは横桁等の鋼材とを組み合わせた合成構造であってもよい。
【0037】
主桁9(
図12、
図13参照。)は、床版1を支持するための梁状の構造部材であり、例えば、H形鋼、溝形鋼またはL形鋼などの鋼材で構成される。主桁9は、道路5の車線6に沿って、橋軸方向(X方向)に延びるように設置される。道路5の車線6ごとに1本又は複数本の主桁9が設置され、例えば、2本の主桁9、9が各車線6の橋幅方向(Y方向)の両側に設置される。当該主桁9、9は、各車線6を構成する複数の床版1の橋幅方向の両側を支持する。複数の床版1を主桁9の上に設置することで、各車線6の走行面の土台が形成される。
【0038】
各車線6に沿って配列された複数の床版1(新設床版1B)は、継手構造2により相互に接合される。この継手構造2の詳細については後述する。継手構造2により接合された複数の床版1の上に、アスファルトなどの舗装材が施工される。
【0039】
壁高欄7は、道路5の幅方向の両端に設置される側壁である。壁高欄7は、例えば、L字型の断面を有するコンクリート製または鉄筋コンクリート製のプレキャスト材で構成される。壁高欄7も、床版1と同様に主桁9の上に設置される。壁高欄7は、床版1とは別部材として構成されてもよいし、床版1と一体に構成されてもよい。なお、壁高欄7は、道路5の幅方向の両端部だけでなく、道路5の中央部に配置される中央分離帯8にも設置されてもよい。
【0040】
次に、上記のような橋梁3における床版取替工事の概要について説明する。
図1に示すように、橋梁3の道路5は、4つの車線6を有している。このうち、1つの車線6において、老朽化した床版1(既設床版1A)を取り替えるための床版取替工事が施工されている。当該1つの車線6には、自動車4の走行を禁止する交通規制がかけられており、1台の床版取替機50が設置されている。一方、その他の3つの車線6では、交通規制がかけられておらず、自動車4が走行可能となっている。
【0041】
床版取替機50は、床版取替工事の対象となる1つの車線6上を、橋軸方向(X方向)に自走可能である。床版取替機50の橋幅方向(Y方向)の幅は、当該1つの車線6の幅と同程度である。これにより、施工対象の1つの車線6に設置された床版取替機50が、他の車線6における自動車4の通行を妨げないようになっている。かかる床版取替機50を用いて、床版1の取替作業が行われる。この取替作業では、当該1つの車線6の複数の既設床版1Aを順次撤去しつつ、複数の新設床版1Bを順次架設する。その後、架設された複数の新設床版1Bが、継手構造2により相互に接合される。かかる接合により、複数の新設床版1Bが安定的に固定されるとともに、各新設床版1Bの位置ずれも矯正されて、道路5の走行面の土台が構築される。
【0042】
以上のように、本実施形態に係る床版取替工事によれば、複数の車線6を有する道路5において、床版取替機50を用いて1つの車線6のみの床版取替作業を行っているときに、他の車線6では自動車4の通行が可能である。これにより、道路5の全ての車線6の通行止めを回避できるだけでなく、交通規制される車線6の数を最低限に抑えて、交通渋滞の発生を抑制することができる。
【0043】
[2.床版の構成]
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る床版1の構成についてより詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る床版1を示す斜視図である。なお、上記
図1では、隣り合う2つの床版1、1を3つの継手構造2で接合する例を示したが、
図2では、説明の便宜上、隣り合う2つの床版1、1を2つの継手構造2で接合する例を示している。
【0044】
図2に示すように、本実施形態に係る床版1は、例えば、数m四方の矩形平板状の構造部材である。このため、床版1は、2つの主面(表面1aおよび裏面1b)と、4つの端面(2つの接合面1cと2つの側端面1d)を含む合計6つの面を有する。接合面1cは、橋軸方向(X方向)の両側の端面である。接合面1cは、隣り合う2つの床版1、1を相互に接合するときの接合面となる。一方、側端面1dは、橋幅方向(Y方向)の両側の端面であり、接合面とはならない。
【0045】
橋軸方向(X方向)に配列された複数の床版1は、後述する継手構造2により相互に接合される。このため、各床版1には、継手構造2による接合を実現するための構造として、切欠き部11と、突出部12が形成されている。かかる床版1の切欠き部11と突出部12は、継手構造2の構成要素の一部である。
【0046】
切欠き部11は、床版1の少なくとも2つの面に跨るように形成された切欠き状の凹部である。本実施形態に係る切欠き部11は、床版1の表面1aと接合面1cに跨るように形成されている。床版1の橋軸方向(X方向)の一側の接合面1cには、2つの切欠き部11が形成されており、床版1の橋軸方向(X方向)の他側の接合面1cにも、2つの切欠き部11が形成されている。同様に、
図2の左側の床版1に隣り合う他の床版1(
図2の右側の床版1)にも、床版1の表面1aと接合面1cに跨るように2つずつ、合計4つの切欠き部11が形成されている。
【0047】
図2の例の切欠き部11は、略直方体状の凹部であり、床版1の表面1aと接合面1cを部分的に切り欠くように形成される。ただし、切欠き部11の凹形状と大きさは、図示の例に限定されない。切欠き部11の内部に適切な大きさと形状の突出部12を形成可能であり、かつ、切欠き部11の内部に後述する継手構造2の挟持部21や押圧部31(
図3等参照。)を収容可能であれば、切欠き部11の凹形状と大きさを多様に変更してもよい。
【0048】
突出部12は、切欠き部11の内部に突出形成される突起である。突出部12は、後述する継手構造2の挟持部21(
図3等参照。)により挟持される部分である。突出部12は、当該挟持部21を係止するストッパーとしての機能を有する。
【0049】
本実施形態では、
図2に示すように、1つの切欠き部11の中に、相互に対称な形状を有する2つの突出部12が形成されている。2つの突出部12は、切欠き部11のY方向の2つの側面から、相互に対向する方向(Y方向)に突出しており、対となっている。Y方向に対向配置された2つの突出部12の間には、所定幅の隙間が形成されている。かかる隙間には、後述する継手構造2の挟持部材20の一部と押圧部材30の一部が配置される。
【0050】
突出部12の形成位置は、切欠き部11の内部空間のうち床版1の接合面1c側の位置である。図示の例では、突出部12は、床版1の接合面1cに対して面一となるように、切欠き部11内に配置されている。このため、切欠き部11の内部空間のうち突出部12が形成された領域は、狭くなっており、当該突出部12のX方向の内側の領域は、比較的広い中空空間となっている。かかる突出部12を切欠き部11内の接合面1c側に設けることにより、床版1の接合面1cの近傍に鉤型の凹部が形成される。この鉤型の凹部に対して、後述する継手構造2の挟持部21(
図3等参照。)を引っ掛けることで、継手構造2は床版1を係止することが可能になる。
【0051】
このように、本実施形態では、1つの切欠き部11内の接合面1c側に、2つの突出部12が対となるように突出形成されている。かかる切欠き部11と突出部12を床版1に設けることにより、隣り合う床版1、1を継手構造2を用いて簡便に接合することが可能になる。
【0052】
なお、突出部12の設置数は、
図2の例に限定されない。例えば、1つの切欠き部11内に、突出部12を1つだけ設けてもよいし、3つ以上の突出部12を設けてもよい。また、突出部12の形状、配置、突出方向なども、
図2の例に限定されない。継手構造2の挟持部21(
図4等参照。)が突出部12を係止可能であれば、突出部12の形状、配置、突出方向などを多様に変更してもよい。
【0053】
また、突出部12の設置方法として、床版1の本体と突出部12とを別部材で構成し、突出部12を床版1の切欠き部11内に取り付けてもよい。これにより、切欠き部11内に突出部12を容易に形成することができる。この場合、別部材である突出部12の材質は、強度確保の観点から、鋼または鉄などの金属であることが好ましい。しかし、かかる例に限定されず、突出部12の材質は、例えば、コンクリート、鉄筋コンクリートなどの他の材質であってもよい。また、突出部12と床版1の本体とを、同一の材料で一体に構成してもよい。例えば、切欠き部11と突出部12が予め形成されたプレキャスト床版を施工現場以外で製造しておき、当該プレキャスト床版を施工現場に搬入して、床版1として用いてもよい。また、床版1の本体と突出部12の境目には、床版1、1を継手構造2を用いて接合する際に応力集中がかかるため、応力集中を低減するために、床版1の本体と突出部12の境目に曲面(R面)や傾斜面(C面)を形成してもよい。
【0054】
また、
図2の例では、1つの床版1の1つの接合面1cに切欠き部11が2つずつ設けられ、1つの床版1全体では合計4つの切欠き部11が設けられている。1つの接合面1cにおける2つの切欠き部11は、Y方向に所定の間隔を空けて配置されている。これにより、
図2に示すように、隣り合う2つの床版1、1において、2対の切欠き部11、11が相互に対向配置され、当該2対の切欠き部11、11にそれぞれ継手構造2を設置して、2つの床版1、1を安定的かつ強固に接合することができる。
【0055】
しかし、切欠き部11の設置数と配置は、
図2の例に限定されない。例えば、床版1の1つの接合面1cに、切欠き部11を1つだけ設けてもよいし、3つ以上の切欠き部11を設けてもよい。1つの接合面1cにおける切欠き部11の設置数が多いほど、隣り合う床版1同士を多数の継手構造2で安定的に接合できるので、接合強度を向上できるというメリットがある。一方、多数の継手構造2を設置するために施工時間が増加するというデメリットもある。このため、1つの床版1における切欠き部11と継手構造2の設置数と配置は、床版1の大きさや強度、橋梁3に求められる強度、橋梁3の周辺環境などに応じて、適切な設置数と配置に調整されることが好ましい。
【0056】
また、
図2の例では、床版1の2つの面(表面1aと接合面1c)に跨るように、切欠き部11が形成されている。これにより、継手構造2により床版1を接合するために必要な切欠き部11と突出部12を、比較的簡便に形成できるというメリットがある。しかし、かかる例に限定されず、床版1の表面のうち、接合面1cを含む少なくとも2つの面に跨るように切欠き部11を形成するのであれば、切欠き部11の形成位置は、多様に設計変更可能である。例えば、床版1の3つの面(表面1aと接合面1cと裏面1b)に跨るように、切欠き部11が形成されてもよい。あるいは、床版1の他の3つの面(表面1aと接合面1cと側端面1d)に跨るように、切欠き部11が形成されてもよい。あるいは、床版1の他の2つの面(接合面1cと裏面1b)に跨るように、切欠き部11が形成されてもよい。
【0057】
[3.継手構造の構成]
次に、
図3~
図8を参照して、本実施形態に係る床版1の継手構造2の構成について詳細に説明する。
図3は、本実施形態に係る継手構造2を示す平面図である。
図4および
図5は、本実施形態に係る継手構造2を示す断面図である。
図3および
図4は、継手構造2を締結する前の状態を示し、
図5は、継手構造2を締結した後の状態を示している。
【0058】
図3~
図5に示すように、本実施形態に係る継手構造2は、橋軸方向(X方向)に隣り合う2つの床版1、1を接合するためのものであり、当該隣り合う2つの床版1、1の接合面1cの周辺に設置される。
【0059】
継手構造2は、隣り合う2つの床版1、1にそれぞれ形成された一対若しくは複数対の切欠き部11および突出部12と、挟持部材20と、押圧部材30と、締結部材40とを備える。
【0060】
挟持部材20、押圧部材30および締結部材40の設置数は、隣り合う2つの床版1、1に形成された切欠き部11の対の数に対応している。例えば、当該2つの床版1、1に切欠き部11が1対のみ設けられる場合、挟持部材20、押圧部材30および締結部材40は、それぞれ1つだけ設置される。また、
図2に示したように、当該2つの床版1、1に切欠き部11が複数対(例えば2対)設けられる場合、挟持部材20、押圧部材30および締結部材40は、それぞれ複数(例えば2つ)ずつ設置される。
【0061】
床版1の切欠き部11および突出部12は、前述したとおりであるので(
図2参照。)、詳細説明を省略する。以下では、挟持部材20、押圧部材30および締結部材40についてそれぞれ詳細に説明する。
【0062】
[3.1.挟持部材]
まず、継手構造2の挟持部材20について説明する。挟持部材20は、隣り合う2つの床版1、1にそれぞれ設けられた一対の突出部12、12を挟持する機能を有する。
【0063】
挟持部材20は、橋軸方向(X方向)に延びるように配置され、かつ、隣り合う2つの床版1、1の一対の切欠き部11、11に跨って配置される。挟持部材20の一端部は、一方の床版1の切欠き部11内に配置され、挟持部材20の他端部は、他方の床版1の切欠き部11内に配置される。挟持部材20は、当該一対の切欠き部11、11内にそれぞれ設けられる一対の突出部12、12を、橋軸方向(X方向)の両側から挟持する。
【0064】
ここで、
図6を参照して、挟持部材20の構成について詳細に説明する。
図6は、本実施形態に係る挟持部材20を示す平面図、縦断面図(A-A断面図)および側面図である。
【0065】
図6に示すように、挟持部材20は、一対の挟持部21、21と、シャフト22と、取付部23とを有する。挟持部材20の挟持部21、21、シャフト22および取付部23の材質は、強度確保の観点から、鋼または鉄などの金属であることが好ましい。しかし、かかる例に限定されず、これら部材の材質は、例えば、コンクリート、鉄筋コンクリートなどの他の材質であってもよい。
【0066】
シャフト22は、橋軸方向(X方向)に延びる棒状の軸部材である。シャフト22は、隣り合う2つの床版1、1の一対の切欠き部11、11に跨るように配置される。シャフト22は、一対の挟持部21、21を支持する機能と、シャフト22の軸方向(X方向)に沿った挟持部21、21の移動を案内する機能とを有する。シャフト22の回転を防止するために、シャフト22の断面形状は、
図6に示すように四角形などの角型形状であり、円形ではないことが好ましい。かかる角型形状の断面形状を有するシャフト22は、後述する回転規制機構の一例である。
【0067】
取付部23は、シャフト22の中央部に設けられる。取付部23は、
図4および
図5に示す締結部材40の雄ネジ部42(詳細は後述する。)をシャフト22に取り付けるための部材である。取付部23の内部には、当該雄ネジ部42と螺合する雌ネジ部41が形成されている。雌ネジ部41は、取付部23を鉛直方向(Z方向)に貫通するように設けられている。
【0068】
挟持部21は、上述した床版1の突出部12を挟持するためのブロック状の部材である。1つのシャフト22に対して2つの挟持部21、21が取り付けられる。例えば、左右一対の挟持部21、21が、シャフト22の軸方向(X方向)の両側に取り付けられる。
【0069】
各々の挟持部21は、シャフト22に対して、シャフト22の軸方向(X方向)に移動可能に取り付けられる。このために、挟持部21を軸方向(X方向)に貫通する貫通孔24が形成されている。挟持部21の貫通孔24にはシャフト22が挿通される。貫通孔24の断面形状は、シャフト22の断面形状に対応しており、例えば四角形などの角型形状であり、円形ではない。貫通孔24のサイズは、シャフト22のサイズよりも若干大きい。かかる構造により、挟持部21は、シャフト22に対して軸方向に摺動自在に取り付けられる。
【0070】
図4~
図6に示すように、個々の挟持部21は、床版1の切欠き部11内に収容可能な大きさと形状を有するブロック材である。挟持部21の全体形状は、例えば、略直方体状のブロック材の上側の一方の角部を斜めに切り落とした形状である。
【0071】
挟持部21は、被押圧面21aと、当接面21bとを有する。被押圧面21aは、挟持部21の複数の面のうち、シャフト22の軸方向(X方向)の外側(即ち、突出部12とは反対側)かつ上側に配置される面である。被押圧面21aは、後述する押圧部材30の押圧部31により押圧される面である。以下、橋幅方向(Y方向)における挟持部21の幅は、押圧部31の幅と同じものとして説明する。したがって、
図3においては、挟持部21は、押圧部31に隠れて見えない状態となっている。ただし、これはあくまでも一例に過ぎず、挟持部21の幅は、押圧部31の幅より大きくてもよいし、小さくてもよい。
【0072】
被押圧面21aは、軸方向(X方向)の外側に向けて下るように傾斜した傾斜面であることが好ましい。この傾斜面の傾斜角は、例えば45°であるが、他の角度であってもよい。
図4および
図5に示すように、押圧部材30が挟持部材20に向けて下降したときに、挟持部21の被押圧面21aは、押圧部31の押圧面31aにより下方(Z方向)に向けて押圧される。この押圧時に、被押圧面21aと押圧面31aが、同一の傾斜角を有する傾斜面であれば、挟持部21がシャフト22の軸方向(X方向)の内側(即ち、突出部12側)に向けて移動するようになる。このように、挟持部21の被押圧面21aは、押圧部31の下向き(Z方向)の押圧力を、挟持部21の軸方向(X方向)の移動力に変換する機能を有する。
【0073】
当接面21bは、挟持部21の複数の面のうち、シャフト22の軸方向(X方向)の内側(即ち、突出部12側)に配置される面である。当接面21bは、
図5に示すように挟持部21が軸方向(X方向)の内側に移動したときに、突出部12に当接する面である。当接面21bは、軸方向(X方向)に対して垂直な鉛直面であることが好ましい。
【0074】
また、
図3および
図6に示すように、橋幅方向(Y方向)における挟持部21の幅は、切欠き部11の幅よりも小さく、かつ、当該切欠き部11内の2つの突出部12、12間の隙間の幅よりも大きい。これにより、
図5に示すように挟持部21が2つの突出部12、12に向けて軸方向(X方向)に移動したときに、挟持部21の当接面21bは、2つの突出部12、12の双方に当接することができる。したがって、1つの挟持部21により、2つの突出部12、12をバランスよく好適に係止することができる。よって、左右一対の挟持部21、21により、一対の突出部12、12を安定的に挟持できるようになる。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る挟持部材20は、シャフト22に沿って移動可能な一対の挟持部21、21を備える。かかる挟持部材20は、隣り合う2つの床版1、1にそれぞれ設けられた一対の突出部12、12を、一対の挟持部21、21により挟持する。これにより、2つの床版1、1を接合および固定することができる。なお、挟持部材20の構成は、本実施形態の例に限定されず、一対の挟持部21、21により一対の突出部12、12を挟持可能な構成であれば、他の構成に変更してもよい。
【0076】
[3.2.押圧部材]
次に、継手構造2の押圧部材30について説明する。押圧部材30は、上記挟持部材20に隣接して配置され、挟持部材20を押圧する機能を有する。
【0077】
押圧部材30は、橋軸方向(X方向)に延びるように配置され、かつ、隣り合う2つの床版1、1の一対の切欠き部11、11に跨って配置される。押圧部材30の一端部は、一方の床版1の切欠き部11内に配置され、押圧部材30の他端部は、他方の床版1の切欠き部11内に配置される。押圧部材30は、当該一対の切欠き部11、11内にそれぞれ配置された一対の挟持部21、21を、鉛直方向(Z方向)に押圧する。
【0078】
ここで、
図7を参照して、押圧部材30の構成について詳細に説明する。
図7は、本実施形態に係る押圧部材30を示す平面図、正面図、底面図および側面図である。
【0079】
図7に示すように、押圧部材30は、一対の押圧部31、31と、連結部32と、貫通孔33とを有する。押圧部材30の押圧部31、31および連結部32の材質は、強度確保の観点から、鋼または鉄などの金属であることが好ましい。しかし、かかる例に限定されず、これら部材の材質は、例えば、コンクリート、鉄筋コンクリートなどの他の材質であってもよい。
【0080】
連結部32は、橋軸方向(X方向)に延びる棒状の部材である。連結部32は、隣り合う2つの床版1、1の一対の切欠き部11、11に跨るように配置される。連結部32の両端には、一対の押圧部31、31が設けられる。連結部32は、一対の押圧部31、31を支持および連結する機能を有する。
【0081】
連結部32の軸方向の中央部には、貫通孔33が形成されている。貫通孔33には、後述する締結部材40の雄ネジ部42が挿通される。貫通孔33には雌ネジ部が形成されておらず、貫通孔33は雄ネジ部42とは螺合しない。
【0082】
押圧部31は、上述した挟持部材20の挟持部21を押圧するためのブロック状の部材である。左右一対の押圧部31、31が、連結部32の軸方向(X方向)の両端に設けられる。押圧部31、31は、連結部32に対して固定されている。押圧部31、31と連結部32は、一体に構成されてもよいし、別部材で構成されてもよい。一対の押圧部31、31は、上述した挟持部材20の一対の挟持部21、21に対して、上下方向に対向配置される。
【0083】
図3~
図5、
図7に示すように、個々の押圧部31は、床版1の切欠き部11内に収容可能な大きさと形状を有するブロック材である。押圧部31の全体形状は、例えば、略直方体状のブロック材の下側の一方の角部を斜めに切り落とした形状である。
【0084】
押圧部31は、押圧面31aを有する。押圧面31aは、押圧部31の複数の面のうち、シャフト22の軸方向(X方向)の内側(即ち、突出部12側)かつ下側に配置される面である。押圧面31aは、上記挟持部材20の挟持部21の被押圧面21aに対して押圧される面である。押圧面31aは、被押圧面21aに当接可能な位置に配置される。
【0085】
押圧面31aは、軸方向(X方向)の内側に向けて下るように傾斜した傾斜面であることが好ましい。この傾斜面の傾斜角は、例えば45°であるが、他の角度であってもよい。押圧面31aの傾斜角は、上述した挟持部21の被押圧面21aの傾斜角と同一であることが好ましい。これにより、上述したとおり、
図4および
図5に示すように押圧部31の押圧面31aにより挟持部21の被押圧面21aを押圧したときに、押圧部31の下向きの押圧力を、挟持部21の軸方向(X方向)の移動力に変換することができる。
【0086】
また、
図3および
図7に示すように、橋幅方向(Y方向)における押圧部31の幅は、切欠き部11の幅よりも小さく、かつ、挟持部21の幅と同じである。また、橋軸方向(X方向)における押圧部31の長さは、突出部12の内側の切欠き部11の長さよりも小さく、かつ、挟持部21の長さと同程度である。これにより、押圧部31を切欠き部11内に収容できるとともに、押圧部31の押圧面31aにより挟持部21の被押圧面21a全体をバランスよく好適に押圧できる。この結果、一対の押圧部31、31により一対の挟持部21、21を軸方向(X方向)の内側に向けて円滑に移動させて、当該一対の挟持部21、21により、一対の突出部12、12を安定的に挟持できるようになる。
【0087】
また、
図7に示すように、押圧部31の底部側には、上記シャフト22に対応する位置に、切欠き34が形成されていてもよい。切欠き34は、シャフト22を収容可能な大きさを有する。これにより、押圧部材30の押圧部31を挟持部材20の挟持部21に接近させたときに、シャフト22を切欠き34に収容できるので、シャフト22と押圧部31が干渉しないようにできる。
【0088】
以上のように、本実施形態に係る押圧部材30は、鉛直方向に移動可能な一対の押圧部31、31と、締結部材40の雄ネジ部42により係止される連結部32とを備える。かかる押圧部材30は、締結部材40の雄ネジ部42を締めることにより、挟持部材20に向けて接近して、一対の押圧部31、31により一対の挟持部21、21を押圧する。この結果、一対の挟持部21、21により一対の突出部12、12を挟持する動作を実行させることができる。なお、押圧部材30の構成は、本実施形態の例に限定されず、押圧部材30により挟持部材20を押圧することで、挟持部材20の挟持部21、21による挟持動作が実行されるような構成であれば、他の構成に変更してもよい。
【0089】
[3.3.締結部材]
次に、継手構造2の締結部材40について説明する。締結部材40は、上記挟持部材20と押圧部材30を締結して、押圧部材30を挟持部材20に押し付ける機能を有する。
【0090】
図3~
図5に示すように、締結部材40は、上記挟持部材20のシャフト22に設けられる雌ネジ部41と、上記押圧部材30と係合しつつ、雌ネジ部に螺合する雄ネジ部42とを有する。締結部材40の雌ネジ部41、雄ネジ部42の材質は、強度確保の観点から、鋼または鉄などの金属であることが好ましい。
【0091】
雌ネジ部41は、例えば、
図6に示すように挟持部材20のシャフト22の中央部の取付部23に設けられる。雌ネジ部41は、取付部23を鉛直方向(Z方向)に貫通するように形成される。
【0092】
雄ネジ部42は、
図4および
図5に示すように、押圧部材30の連結部32に形成された貫通孔33(
図7参照。)に、上方から挿通される。これにより、雄ネジ部42の頭部によって連結部32が係止されるため、押圧部材30は鉛直方向(Z方向)の下方に向けて拘束され、上方への移動が制限される。雄ネジ部42のネジ本体は貫通孔33と螺合しておらず、雄ネジ部42のネジ部の外径は貫通孔33の内径よりも小さい。したがって、雄ネジ部42は貫通孔33内を回転自在である。一方、雄ネジ部42のネジ本体の先端側は、挟持部材20に設けられた雌ネジ部41に螺合している。したがって、雌ネジ部41に対して雄ネジ部42を深く螺合させるほど、雄ネジ部42の頭部により係止された押圧部材30を下方に移動させることができる。
【0093】
かかる構成により、
図5に示すように、締結部材40の雌ネジ部41に対して雄ネジ部42を締めることにより、押圧部材30を鉛直方向(Z方向)の下方に移動させて、押圧部材30と挟持部材20を接近させ、挟持部材20と押圧部材30とが締結される。したがって、締結部材40の雌ネジ部41に対して雄ネジ部42を締めるだけで、挟持部材20と押圧部材30を簡便に締結できる。
【0094】
なお、締結部材40の構成は、本実施形態の例に限定されず、挟持部材20と押圧部材30を締結可能な構成であれば、他の構成に変更してもよい。例えば、1組若しくは複数組のボルトおよびナット、またはクランプ機構などにより、挟持部材20と押圧部材30を締結してもよい。
【0095】
[3.4.継手構造による床版の接合動作]
次に、
図3~
図8を参照して、上記構成の継手構造2により、隣り合う2つの床版1、1を接合する動作について説明する。なお、
図8は、本実施形態に係る継手構造2を示す部分拡大断面図である。
図8では、
図6のA-A線の位置で継手構造2を切断したときの断面図と、
図6のB-B線の位置で継手構造2を切断したときの断面図を示してある。
【0096】
図4は、隣り合う床版1、1の接合面1c、1cの間に継手構造2の各部材を組み立てた後であって、締結部材40により挟持部材20と押圧部材30を締結する前の状態を示している。
図4の状態では、挟持部材20の一対の挟持部21、21は、押圧部材30の押圧部31、31、床版1の切欠き部11の内壁面、および、突出部12、12のいずれに対しても接触しておらず、自由に移動できる状態である。また、挟持部材20のシャフト22は、床版1、1の台座部13、13の上に載置された状態である。台座部13は、床版1の切欠き部11の接合面1c側において、上方に向けて突設された部分である。かかる台座部13、13によりシャフト22を支持することで、当該シャフト22の両端の一対の挟持部21、21は、切欠き部11、11内で宙に浮いた状態となっている。なお、台座部13は、床版1と一体に構成されてもよいし、別部材で構成されてもよい。台座部13の材質は、強度確保の観点から、鋼または鉄などの金属であることが好ましい。しかし、かかる例に限定されず、台座部13の材質は、例えば、コンクリート、鉄筋コンクリートなどの他の材質であってもよい。また、床版1の本体と台座部13の境目には、床版1、1を継手構造2を用いて接合する際に応力集中がかかるため、応力集中を低減するために、床版1の本体と台座部13の境目に曲面(R面)や傾斜面(C面)を形成してもよい。
【0097】
この
図4の状態から、締結部材40の雄ネジ部42を雌ネジ部41に対して締め付ける。すると、
図5に示すように、雄ネジ部42の頭部により係止された押圧部材30が下方に移動して、挟持部材20に接近していく。
【0098】
この結果、押圧部材30の一対の押圧部31、31が、挟持部材20の一対の挟持部21、21を同時に押圧する。この際、押圧部31の押圧面31aが挟持部21の被押圧面21aに当接して押圧する。上記のとおり押圧面31aと被押圧面21aとは同一の傾斜角の傾斜面であるので、傾斜した押圧面31aで被押圧面21aを下方に押圧すると、押圧部31による下向きの押圧力が、挟持部21を軸方向(X方向)の内側に向かう移動力に変換される。したがって、一対の挟持部21、21は、シャフト22に沿って軸方向(X方向)の内側に向けて移動し、相互に接近していく。その後、雄ネジ部42をさらに締め付けると、一対の挟持部21、21は、床版1、1の突出部12、12および台座部13、13に当接し、突出部12、12を挟み込む。これにより、隣り合う床版1、1の一対の突出部12、12を挟持部材20の一対の挟持部21、21で挟持するという簡素な継手構造2により、当該床版1、1を迅速かつ安定的に接合することができる。
【0099】
[3.5.継手構造のまとめ]
以上のように、本実施形態に係る継手構造2によれば、締結部材40により挟持部材20と押圧部材30とを締結することで、隣り合う床版1、1の一対の突出部12、12を挟持部材20で挟持して、当該床版1、1を接合できる。
【0100】
したがって、挟持部材20により一対の突出部12、12を挟持するという簡素な継手構造2により、複数の床版1、1を迅速かつ適切に接合できる。よって、床版1の取替工事において、床版1を簡便かつ迅速に取り替え可能になるので、当該工事に要する交通規制時間を短縮できる。
【0101】
この点、特許文献1に記載のような従来技術では、複数の鉄筋コンクリート床版を一定の隙間を空けて配列した後に、当該隙間に間詰めコンクリートを打設することで、床版同士を接合していた。この作業には多くの人手や重機を要する上、床版の位置決めと配列に膨大な時間を要していた。
【0102】
これに対し、本実施形態に係る継手構造2によれば、床版取替工事において、締結部材40を締結するだけで、新設の床版1、1同士の接合作業と、各床版1の位置ずれの矯正作業を実行することができる。したがって、新設の床版1、1同士の接合と位置決めに要する時間は、例えば数分程度の短時間で済む。さらに、橋軸方向(X方向)、橋幅方向(Y方向)および鉛直方向(Z方向)の3方向に対して、床版1の位置ズレの矯正を容易に行うことが可能である。新設の床版1、1の間に間詰めをするとしても、特許文献1に記載のような従来技術と比較して、新設の床版1、1の間の隙間は非常に狭くすることが可能なため、間詰めにかかる時間を大幅に短縮できる。よって、所定距離の床版取替工事を迅速に施工できるので、車線6の交通規制時間を最低限に抑制できる。
【0103】
さらに、本実施形態に係る継手構造2によれば、締結部材40により挟持部材20と押圧部材30とを締結することによって、押圧部材30の一対の押圧部31、31が、挟持部材20の一対の挟持部21、21を軸方向(X方向)の内側に押圧する。これにより、押圧された一対の挟持部21、21が相互に近づく方向に移動して、一対の突出部12、12を挟持する。したがって、締結部材40を締結するだけで、一対の挟持部21、21により一対の突出部12、12を迅速かつ適切に挟持できるので、より簡便に床版1、1を接合することができる。
【0104】
また、本実施形態に係る継手構造2によれば、締結部材40の雄ネジ部42を締めるだけで、挟持部材20と押圧部材30とを迅速かつ簡便に締結することができる。
【0105】
さらに、本実施形態に係る継手構造2によれば、締結部材40による挟持部材20と押圧部材30との締結量を調整することによって、一対の挟持部21、21の軸方向(X方向)の移動量を調整可能である。例えば、締結部材40の雄ネジ部42の締め込み量を調整するだけで、一対の挟持部21、21の軸方向(X方向)の移動量を調整できる。これにより、締結部材40による締結量を調整するだけで、一対の挟持部21、21の軸方向の移動量を容易に調整できるので、一対の挟持部21、21により一対の突出部12、12を挟持するときの挟持力も容易に調整可能になる。よって、一対の突出部12、12を適切な挟持力で挟持でき、突出部12、12などを破損させることなく、床版1、1を安定的に接合できる。また、一対の挟持部21、21の軸方向(X方向)の移動量を調整可能であるため、床版1、1の間の距離を要求に応じて任意に設定することが可能になる。
【0106】
また、本実施形態に係る継手構造2によれば、押圧部材30の一対の押圧部31、31の押圧面31a、31aにより、挟持部材20の一対の挟持部21、21の被押圧面21a、21aを押圧する。これにより、一対の挟持部21、21を軸方向の内側に向けて移動させて、相互に接近させることができる。この結果、当該接近した一対の挟持部21、21の当接面21b、21bにより、隣り合う床版1、1の一対の突出部12、12をより適切に挟持することができる。
【0107】
さらに、本実施形態に係る継手構造2によれば、挟持部21の被押圧面21aと押圧部31の押圧面31aは、軸方向(X方向)に対して同一の傾斜角(例えば45°)で傾斜した傾斜面を含んでいる。これにより、一対の押圧部31、31の押圧面31a、31aにより一対の挟持部21、21の被押圧面21a、21aを押圧したときに、一対の挟持部21、21を軸方向の内側に好適に移動させて、相互に接近させることができる。なお、被押圧面21aと押圧面31aの傾斜角や形状は、上記の例に限定されず、例えば、45°以外の傾斜角であってもよいし、被押圧面21aおよび押圧面31aが湾曲面を含んでいてもよい。
【0108】
また、本実施形態に係る継手構造2によれば、挟持部材20のシャフト22は、シャフト22に対する挟持部21の軸周りの回転を規制する回転規制機構を有してもよい。本実施形態では、
図6に示すように、シャフト22の断面形状と、挟持部21に形成された貫通孔24の断面形状を、円形ではなく、四角形などの多角形からなる角型にすることによって、回転規制機構を実現している。
【0109】
かかる回転規制機構により、シャフト22の軸周りに挟持部21が回転しないので、一対の押圧部31、31の押圧面31a、31aと、一対の挟持部21、21の被押圧面21a、21aとを対向配置するための位置決めが容易になる。また、一対の挟持部21、21をシャフト22に沿って軸方向の内側に移動させるときに、当該挟持部21、21が回転しないので、一対の挟持部21、21により一対の突出部12、12を好適に挟持できる。
【0110】
なお、シャフト22に対する挟持部21の軸周りの回転を規制する回転規制機構は、上記角型の断面形状の例に限定されない。例えば、シャフト22と挟持部21に、キーとキー溝のような嵌合構造を設けることで、回転規制機構を実現してもよい。
【0111】
また、本実施形態に係る継手構造2によれば、床版1の切欠き部11に収容された挟持部21は、床版1に対して軸方向にのみ接触可能に配置される。例えば、
図4、
図5および
図8に示すように、切欠き部11に収容された挟持部21は、シャフト22により支持されているため、切欠き部11内で宙に浮いた状態になっており、床版1の切欠き部11の内面とは接触していない。このため、締結部材40の締め付けにより挟持部21が軸方向に移動する際に、挟持部21と床版1との間の摩擦がないので、挟持部21を容易かつ円滑に移動させることができる。
【0112】
さらに、本実施形態に係る継手構造2によれば、
図4、
図5および
図8に示すように、床版1の切欠き部11の内部には、挟持部材20のシャフト22を支持する台座部13が突設されている。これにより、床版1の切欠き部11内に挟持部材20の挟持部21を収容した状態で、床版1の台座部13により挟持部材20のシャフト22を支持できる。よって、継手構造2を組み立てる時に、隣り合う床版1、1の切欠き部11、11に跨って挟持部材20を安定的に設置できる。なお、床版1の台座部13を設けずに、挟持部材20の挟持部21を床版1の切欠き部11内に直置きしてもよい。
【0113】
また、本実施形態に係る継手構造2によれば、
図7に示すように、押圧部材30の押圧部31の底部側には、切欠き34が形成されている。これにより、締結部材40により挟持部材20と押圧部材30とを締結したときに、押圧部31の切欠き34は、挟持部材20のシャフト22を収容可能である。つまり、押圧部31の切欠き34は、締結部材40の締結量を調整するための調整代となり得る。したがって、締結部材40による締結時に、押圧部31の切欠き34にシャフト22を収容できるため、シャフト22と押圧部31が干渉しない。よって、締結部材40により挟持部材20と押圧部材30とを好適に締結でき、継手構造2による床版1、1の接合作業を円滑に実行できる。
【0114】
[4.床版取替方法]
次に、本実施形態に係る床版取替方法について説明する。本実施形態に係る床版取替方法によれば、既存の橋梁3において老朽化した既設床版1Aを撤去するとともに、新設床版1Bを架設し、上述した継手構造2を用いて、隣り合う新設床版1B、1B同士を接合することで、橋梁3の床版1を簡便かつ迅速に取り替えることができる。以下に、本実施形態に係る床版取替方法の具体例について詳述する。
【0115】
[4.1.床版取替工事の手順]
まず、
図9を参照して、本実施形態に係る床版取替方法が適用される床版取替工事の全体工程について説明する。
図9は、本実施形態に係る床版取替工事の全体工程を示すフローチャートである。
【0116】
図9に示すように、橋梁3の道路5において床版取替工事を実施する場合、まず、床版1の取替対象となる1つまたは複数の車線6について交通規制を開始する(S10)。この際、
図1に示すように、道路5の複数の車線6のうち、床版1の取替対象となる1つの車線6に対してのみ交通規制を実施し、他の車線6に対しては交通規制を実施しないことが好ましい。これにより、交通規制される車線6の数を最小限に抑制でき、道路5の交通渋滞を緩和できる。
【0117】
なお、交通規制の開始(S10)前に予め、新たに敷設される新設床版1Bとして、例えば、複数のプレキャスト床版を施工現場以外の場所で製造しておき、当該新設床版1Bを施工現場まで運搬しておくことが好ましい。これにより、施工現場における新設床版1Bの製造時間を割愛して、交通規制時間を短縮できる。
【0118】
次いで、床版取替対象の車線6の舗装材を切削して除去する(S12)。舗装材は、アスファルトなどであり、車線6に沿って配列された複数の既設床版1Aの上に舗装されている。かかる舗装材を除去することで、道路5の表面上に既設床版1Aが露出する。
【0119】
さらに、切断機を用いて、上記露出した既設床版1Aを所定の大きさの複数片に切断する(S14)。既設床版1Aは、例えば、従来の鉄筋コンクリート製の複数の床版を、従来の間詰めコンクリートを用いた継手部で相互に接合したものであり、橋軸方向の長い距離に渡って一体化されている。したがって、既設床版1Aを撤去するためには、既設床版1Aを、運搬可能な大きさの複数片に切断する必要がある。これにより、床版取替機50により複数片に切断された既設床版1Aを順次、運搬することが可能になる。
【0120】
一方、上記の舗装材の切削工程(S12)および既設床版1Aの切断工程(S14)と同時並行して、交通規制された床版取替対象の車線6上に、床版取替機50が組み立てられる(S16)。床版取替対象の車線6上において、上記切削工程(S12)および切断工程(S14)が行われている位置とは異なる橋軸方向の位置で、床版取替機50を組み当てることは可能である。そこで、上記切削工程(S12)および切断工程(S14)と、床版取替機50の組立工程(S16)を同時並行で実行することで、工事全体の施工時間を短縮できる。
【0121】
ここで、床版取替機50は、床版1を取り替えるための専用の重機である。床版取替機50は、後述する既設床版1Aの撤去工程(S20)、新設床版1Bの架設工程(S22)において、既設床版1Aおよび新設床版1Bを運搬する。床版取替機50の構成例については後述する。
【0122】
その後、既設床版1Aの撤去工程(S20:第1工程)と、新設床版1Bの架設工程(S22:第2工程)と、新設床版1B、1Bの接合工程(S24:第3工程)とが実行される。
【0123】
既設床版1Aの撤去工程(S20)では、少なくとも1台の床版取替機50を用いて、上記S14で切断された複数の既設床版1Aを運搬し、主桁9上から撤去する。
【0124】
新設床版1Bの架設工程(S22)では、上記床版取替機50を用いて、新設床版1Bを運搬して、上記既設床版1Aが撤去された位置に架設する。この新設床版1Bは、本実施形態に係る床版1(
図1等参照)であり、継手構造2により接合可能な床版1である。
【0125】
新設床版1B、1Bの接合工程(S24)では、本実施形態に係る継手構造2によって、橋軸方向に隣り合う新設床版1B、1Bを相互に接合する。継手構造2による床版1、1の接合方法は、上述したとおりである(
図3~
図5参照。)。
【0126】
なお、継手構造2により新設床版1B、1Bを接合した後に、当該新設床版1B、1Bの間の隙間にコンクリートを打設して、当該隙間を間詰めしてもよい。本実施形態に係る継手構造2により接合された新設床版1B、1Bの間の隙間は、従来と比べて非常に狭い。したがって、当該隙間を間詰めする場合であっても、間詰め作業やコンクリートの養生などに要する時間を、従来と比べて大幅に短縮可能である。また、当該隙間の間詰めを省略すれば、施工時間をより短縮することが可能になる。例えば、間詰めを省略できる構造として、締結部材40が台座部13に干渉しない構造にすればよい。具体的には、締結部材40の雌ネジ部41と雄ネジ部42を螺合させる位置をより上部に配置させるような構造にしたうえで、雄ネジ部42を接合面1c、1cが接触するまで締め込んでも雄ネジ部42が台座部13に干渉しない長さに設定すればよい。
【0127】
上記3つの工程(S20、S22、S24)は、相互に並行して実行されることが好ましい。例えば、既設床版1Aの撤去(S20)と新設床版1Bの架設(S22)および接合(S24)を、1枚ずつ若しくは数枚ずつ繰り返し行って、これら3つの工程を並行して進めてもよい。具体的には、床版1の取替作業を、S20→S22→S24→S20→S22→24→・・・のように繰り返し実行してもよい。このように3つの工程を並行して進めることにより、取り外した既設床版1Aの外部への搬出や、外部からの新設床版1Bの搬入、車線6上での床版取替機50による既設床版1Aまたは新設床版1Bの運搬などの各種作業を、効率的に実施できる。よって、作業人員、機材、時間などの観点から、作業効率を向上でき、工事全体の施工時間を短縮できる。
【0128】
さらに、上記3つの工程(S20、S22、S24)の少なくとも一部は、相互に同時並行して行われることがより好ましい。ここで、3つの工程(S20、S22、S24)の全てを同時並行で行うことが好ましいが、3つの工程(S20、S22、S24)のうち少なくとも2つの工程を同時並行で実行してもよい。例えば、既設床版1Aの撤去(S20)中に新設床版1B、1Bの接合(S24)を行ってもよい。また、後続の他の新設床版1Bの架設(S22)中に、架設済みの新設床版1B、1Bの接合(S24)を行ってもよい。このように、上記3つの工程(S20、S22、S24)の少なくとも一部を同時並行して実行することより、当該3つの工程全体の作業効率を大幅に向上でき、工事全体の施工時間を大幅に短縮できる。
【0129】
その後、橋軸方向に接合された複数の新設床版1Bに隣接して、壁高欄7が必要に応じて設置される(S30)。この場合、上記床版取替機50を用いて、壁高欄7を運搬および設置してもよい。なお、本工程では、壁高欄7に替えて、仮防護柵が設置されてもよい。また、新設床版1Bと一体化された壁高欄7を用いる場合には、上記新設床版1Bの架設工程(S22)を実行すれば、壁高欄7の設置工程(S30)を実行する必要はない。
【0130】
次いで、上記S24にて接合された新設床版1B上に、アスファルトなどの舗装材が敷設される(S32)。本工程における舗装材の敷設は、仮舗装であってもよいし、本舗装であってもよい。早期に交通規制を解除する必要がある場合には、仮舗装であることが好ましい。
【0131】
一方、上記の舗装材の敷設工程(S32)と同時並行して、交通規制された車線6上で床版取替機50が解体される(S34)。交通規制された床版取替対象の車線6上において、上記舗装材の敷設工程(S32)が行われている位置とは異なる橋軸方向の位置で、床版取替機50を解体することは可能である。上記敷設工程(S32)と、床版取替機50の解体工程(S34)を同時並行で実行することで、工事全体の施工時間を短縮できる。
【0132】
その後、床版取替対象の車線6の交通規制を解除する(S36)。これにより、当該車線6が開放され、当該車線6を自動車が走行可能になる。なお、片側2車線以上の道路5において、1車線ずつ床版取替工事を行ってもよい。例えば、高速道路の追越車線と走行車線の双方の床版取替工事を連続的に行ってもよい。この場合、まず、追越車線のみの交通規制を開始して、高速道路の追越車線の床版取替工事を行う。次いで、追越車線の床版取替工事の完了後に、追越車線の交通規制を解除する。その後、走行車線の交通規制を開始し、走行車線の床版取替工事を行う。このように交通規制対象の車線6を切り替えることにより、片側2車線の道路5を全線通行止めにすることなく、2つの車線6、6の床版取替工事を連続的に順次実行できる。よって、施工効率を向上できるとともに、2車線分のトータルの施工時間も短縮できる。
【0133】
以上、本実施形態に係る床版取替方法を適用した床版取替工事の手順について説明した。本実施形態によれば、新設床版1Bの接合工程(S24)において、簡素な継手構造2により複数の新設床版1Bを迅速かつ適切に接合できるので、床版1の取替工事において、簡便に床版1を取替可能になり、交通規制時間を短縮できる。
【0134】
また、架設工程(S22:第2工程)により既に架設された新設床版1B、1B同士を接合する工程(S24:第3工程)の少なくとも一部は、既設床版1Aの撤去工程(S20:第1工程)、または、他の新設床版1Bを架設する工程(S22:第2工程)の一方もしくは双方と同時並行して行われることが好ましい。つまり、架設済みの新設床版1B、1Bの接合工程(S24)は、既設床版1Aの撤去工程(S20)または別の新設床版1Bの架設工程(S22)と時間的に重複して行われてもよい。これにより、床版取替機50により他の床版1を取り替える工程(S20、S22:第1工程または第2工程)と同時並行して、新設床版1B、1Bの接合工程(S24:第3工程)を進めることが可能になる。よって、床版取替工事を迅速かつ効率的に実行でき、交通規制時間をさらに短縮できる。
【0135】
なお、撤去工程(S20)、架設工程(S22)および接合工程(S24)は、上記のように所定枚数の床版1ごとに、並行して実行されてもよい(例えば、S20→S22→S24→S20→S22→S24→・・・)。また、撤去工程(S20)、架設工程(S22)および接合工程(S24)の少なくとも一部は、相互に同時並行して実行されてもよい(例えば、S20+S22+S24)。あるいは、撤去工程(S20)、架設工程(S22)および接合工程(S24)の各工程が、個別に順次実行されてもよい(例えば、S20→S22→S24)。
【0136】
[4.2.床版取替機の構成]
次に、
図10を参照して、本実施形態に係る床版取替方法で用いられる床版取替機50の構成について説明する。
図10は、本実施形態に係る床版取替機50を示す平面図、正面図、側面図である。
【0137】
図10に示すように、本実施形態に係る床版取替機50は、基台51と、門型のフレーム構造52と、延出部53と、吊持部54とを備える。
【0138】
基台51は、床版取替機50の機体を支持する土台である。基台51は、床版取替対象の車線6の路面上に設置される。基台51は、床版取替機50が、車線6に沿って自走可能であるための走行機構(図示せず。)を備えてもよい。走行機構は、例えば、複数の車輪と、当該車輪を回転させる回転駆動部とから構成されてもよい。あるいは、走行機構は、道路5上に敷設されるレールと、当該レールに沿って床版取替機50を移動させるための駆動部とから構成されてもよい。
【0139】
門型のフレーム構造52は、道路5の車線6を跨ぐように設置される。門型のフレーム構造52は、基台51上に構築されて、延出部53および吊持部54を支持する。
【0140】
延出部53は、門型のフレーム構造52から橋軸方向(X方向)に延びるように設置される。延出部53は、橋軸方向(X方向)に伸縮可能であることが好ましい。これにより、床版取替機50を移動させることなく、橋軸方向(X方向)に配列された複数の床版1を運搬することが可能になる。
【0141】
吊持部54は、延出部53に設けられ、延出部53に沿って橋軸方向(X方向)に移動可能である。吊持部54は、例えばクレーンで構成される。吊持部54は、取替対象の床版1(既設床版1A、新設床版1B)を吊持して運搬することができる。
【0142】
上記構成を有する床版取替機50を用いて床版取替工事を行うことにより、簡素な構成の床版取替機50を用いて、床版1を車線6に沿って自由に運搬できるので、既設床版1Aの撤去工程(S20)と新設床版1Bの架設工程(S22)を簡便に実行できる。よって、床版取替工事を簡便に行うことができる。
【0143】
さらに、本実施形態に係る床版取替機50の門型のフレーム構造52は、
図1に示すように、床版取替対象の1つの車線6を跨ぐように設置され、当該フレーム構造52の橋幅方向(Y方向)の幅は、当該1つの車線6の幅以下である。かかる床版取替機50を用いることにより、車線6を1つだけ有する道路幅の狭い橋梁でも工事可能になる。また、複数の車線6を有する橋梁3では、床版取替工事のために交通規制される車線6が最小限で済む。つまり、交通規制された床版取替対象の1つの車線6に床版取替機50を設置したとしても、交通規制されていない他の車線6における自動車4の走行を、床版取替機50により妨げることがない。
【0144】
また、本実施形態に係る床版取替機50は、床版取替対象の1つの車線6に沿って自走可能である。これにより、1台の床版取替機50によって、当該車線6に沿って配列される複数の既設床版1Aを運搬および撤去したり、当該車線6に沿って配列される複数の新設床版1Bを運搬および架設することができる。したがって、当該1台の床版取替機50を用いて、上述した既設床版1Aの撤去工程(S20)および新設床版1Bの架設工程(S22)を実行できる。このように、1台の床版取替機50を橋軸方向に移動させて、多数の既設床版1Aの撤去と、多数の新設床版1Bの架設を実行できるので、簡素な床版取替機50により床版取替工事を簡便に行うことができる。
【0145】
次に、
図11を参照して、本実施形態に係る床版取替方法で用いられる床版取替機50の変更例について説明する。
図11は、本実施形態の変更例に係る床版取替機50を示す正面図である。
【0146】
図11に示すように、変更例に係る床版取替機50は、上述した基台51、門型のフレーム構造52、延出部53および吊持部54に加えて、支持脚55をさらに備える。
【0147】
支持脚55は、ヒンジ部56を介して延出部53に取り付けられ、延出部53に対して回動可能に設けられる。
【0148】
図11Aに示すように、延出部53が収縮しているときや、床版取替機50が走行しているときには、支持脚55は、延出部53に向けて上側に回動し、延出部53内に収容された退避状態となる。
【0149】
一方、
図11Bに示すように、延出部53が橋軸方向(X方向)の前方に伸張した状態で、吊持部54により床版1を運搬するときには、支持脚55は、延出部53から道路5に向けて回動して展開される。この展開状態では、支持脚55の先端が道路5の表面に当接して、支持脚55は、上記伸張した延出部53を支持する。
【0150】
これにより、床版取替機50のフレーム構造52から延出部53が橋軸方向に長く延びた状態のときに、支持脚55により延出部53の先端付近を支持できる。これにより、長く延びた延出部53に沿って吊持部54が床版1を運搬するときに、吊持部54や床版1の重量が延出部53に作用したとしても、支持脚55が延出部53を支持することで、床版取替機50が傾倒することを防止できる。よって、床版取替機50が同一位置のまま移動せずとも、床版取替機50による床版1の取替可能枚数を増加させることが可能になる。
【0151】
さらに、道路5が坂道であり、床版取替機50が傾斜面の道路5上に設置される場合であっても、支持脚55により延出部53を支持できる。これにより、床版取替機50を傾倒させることなく、当該坂道の道路5の床版1を好適に取り替えることが可能になる。
【0152】
[4.3.床版取替方法の詳細]
次に、
図12および
図13を参照して、本実施形態に係る床版取替方法における、既設床版1Aの撤去工程(S20)と、新設床版1Bの架設工程(S22)と、新設床版1B、1Bの接合工程(S24)について、より詳細に説明する。
図12は、本実施形態に係る既設床版1Aの切断工程(S14)と撤去工程(S20)を示す平面図である。
図13は、本実施形態に係る新設床版1Bの架設工程(S22)と接合工程(S24)を示す平面図である。
【0153】
本実施形態に係る床版取替方法では、アスファルトなどの舗装材を切削して除去(S12)した後に、
図12Aに示すように、老朽化した既設床版1Aを、予め定められた所定の間隔で複数片に切断する(S14)。かかる切断工程(S14)により、複数片に分割された既設床版1Aを撤去可能になる。なお、舗装材の切削工程(S12)および既設床版1Aの切断工程(S14)と同時並行で、車線6上に床版取替機50を組み立てることにより(S16)、床版取替工事全体の施工時間を短縮できる。
【0154】
次いで、
図12Bに示すように、床版取替機50を用いて、S14で分割された複数の既設床版1Aを順次運搬して、撤去する(S20)。この際、
図12Bおよび
図12Cに示すように、既設床版1Aを1つずつ撤去してもよいし、あるいは、複数の既設床版1Aをまとめて撤去してもよい。
図12Cに示すように、既設床版1Aが撤去されると、当該既設床版1Aが載置されていた主桁9、9が露出する。
【0155】
さらに、
図13Aに示すように、床版取替機50を用いて、新設床版1Bを順次運搬して、上記既設床版1Aが撤去された位置に架設する(S22)。この際、
図13Aおよび
図13Bに示すように、複数の新設床版1Bをまとめて架設してもよいし、あるいは、既設床版1Aを1つずつ架設してもよい。上述した床版取替機50によれば、延出部53を延ばすことで、複数の新設床版1Bを広い範囲に運搬および架設できるので、架設工程(S22)の作業効率を向上できる。
【0156】
その後、
図13Bに示すように、架設された複数の新設床版1B、1Bを継手構造2により相互に接合する(S24)。この接合工程(S24)では、上述した継手構造2の締結部材40の雄ネジ部42を締め込むだけで、容易かつ迅速に新設床版1B、1Bを接合できるとともに、新設床版1Bの位置ずれを矯正することもできる。また、雄ネジ部42の締結量を調整することで、挟持部材20の一対の挟持部21、21間のX方向の距離を調整できるため、隣り合う新設床版1B、1B間の隙間の大きさを適切な大きさに調整することもできる。
【0157】
その後は、上記と同様にして、既設床版1Aの撤去(S20)、新設床版1Bの架設(S22)と接合(S24)を繰り返す。この際、
図13Bに示すように、橋軸方向(X方向)における床版取替機50の位置と、既に架設された新設床版1B、1Bの接合位置とが重ならないときに、当該新設床版1B、1Bを接合する工程(S24:第3工程)を行うことが好ましい。換言すると、橋幅方向(Y方向)から見たときに、新設床版1B、1Bの接合位置が床版取替機50の位置と重ならない範囲R(
図13B参照。)にあるときに、当該新設床版1B、1Bを接合する(S24)ことが好ましい。
【0158】
これにより、床版取替機50を用いた既設床版1Aの撤去工程(S20)や新設床版1Bの架設工程(S22)と、架設済みの新設床版1B、1Bの接合工程(S24)とを同時並行で実行できる。よって、多数の床版1を取り替えるための3つの工程(S20、S22、S24)のトータルの施工時間を大幅に短縮できるとともに、簡素な構成の床版取替機50を用いて床版取替工事を簡便に実行できる。
【0159】
[5.まとめ]
以上、本実施形態に係る床版1および継手構造2と、当該継手構造2と床版取替機50を用いた床版取替方法について詳細に説明した。
【0160】
従来では、床版同士を鉄筋コンクリートで接合していたので、コンクリート強度を発現させるための養生期間や、大型の床版架設機の組立や解体に多くの時間を要していた。このため、従来の床版取替工事では、交通規制の解除まで長期間を要していた。
【0161】
これに対し、本実施形態によれば、上述した簡素な継手構造2と、コンパクトな床版1の取り替えを可能とした小型の床版取替機50を組み合わることによって、上記従来の問題を解決することができる。即ち、簡素な継手構造2により、床版1、1同士を迅速かつ容易に接合できるとともに、床版取替機50を用いて、1つの車線6の既設床版1Aの撤去と、新設床版1Bの架設および接合を効率的かつ迅速に実行でき、床版取替機50の組立や解体も短時間で済む。
【0162】
よって、例えば24時間以内の施工完了も可能になるので、交通規制時間を従来よりも大幅に短縮することができる。例えば、交通規制を開始した当日中に、当該交通規制を解除することも可能になる。本実施形態に係る床版取替方法は、例えば、高速道路の橋梁の大規模な更新工事のうち、当該高速道路の半断面で床版取替工事を施工する場合に、特に有効である。なお、半断面で床版取替工事を施工することに限らず、施行場所の制限を受けない場合は、床版取替機50の代わりに従来から存在するクレーンを用いてもよい。
【0163】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0164】
1 床版
1A 既設床版
1B 新設床版
2 継手構造
3 橋梁
5 道路
6 車線
11 切欠き部
12 突出部
13 台座部
20 挟持部材
21 挟持部
21a 被押圧面
21b 当接面
22 シャフト
30 押圧部材
31 押圧部
31a 押圧面
32 連結部
33 貫通孔
34 切欠き
40 締結部材
41 雌ネジ部
42 雄ネジ部
50 床版取替機
52 門型のフレーム構造
53 延出部
54 吊持部
55 支持脚
【要約】
【課題】橋梁の床版取替工事において、より簡便な機構で床版同士を接合可能にし、交通規制時間を短縮する。
【解決手段】複数の床版1を接合する継手構造2であって、床版1の各々の少なくとも2つの面に跨るように形成された切欠き部11と、切欠き部11の内部に設けられる突出部12と、隣り合う床版1、1の一対の切欠き部11、11にそれぞれ設けられる一対の突出部12、12を挟持する挟持部材20と、を備える。
【選択図】
図5