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特許7384326高炉の溶銑温度予測方法、高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法、高炉の操業方法、高炉の溶銑温度予測装置、高炉の溶銑温度予測システムおよび端末装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】高炉の溶銑温度予測方法、高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法、高炉の操業方法、高炉の溶銑温度予測装置、高炉の溶銑温度予測システムおよび端末装置
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20231114BHJP
   C21B 7/24 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C21B5/00 323
C21B7/24
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023536390
(86)(22)【出願日】2023-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2023007608
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022034139
(32)【優先日】2022-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】益田 稜介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳也
(72)【発明者】
【氏名】島本 拓幸
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-018569(JP,A)
【文献】特表2021-507115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
C21B 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって構築された装置によって実行される高炉の溶銑温度予測方法であって、
前記コンピュータが備える画像変換処理部が、炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理ステップと、
前記コンピュータが備える溶銑温度予測処理部が、前記画像変換処理ステップにおいて出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて前記画像変換処理ステップにおいて出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理ステップと、
を含む高炉の溶銑温度予測方法。
【請求項2】
前記炉体の温度データは、炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度のうちの少なくとも一つ以上を含み、
前記画像変換処理ステップは、前記炉体の温度を測定位置に対応させて二次元配置し、温度の値を、異なる色または濃淡によって画像化する、
請求項1に記載の高炉の溶銑温度予測方法。
【請求項3】
前記入力データは、所定時間周期ごとの複数の画像データからなり、炉体温度分布の時間変化を示すデータである請求項1または請求項2に記載の高炉の溶銑温度予測方法。
【請求項4】
前記溶銑温度予測処理ステップは、直近の所定時間の溶銑温度の平均値に対する、所定時間後の溶銑温度の差分の絶対値を予測する請求項1に記載の高炉の溶銑温度予測方法。
【請求項5】
コンピュータによって構築された装置によって実行される高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法であって、
前記コンピュータが備える画像変換処理部が、炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理ステップと、
前記コンピュータが備えるモデル学習処理部が、前記画像変換処理ステップにおいて出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして、溶銑温度予測モデルの学習を行うモデル学習処理ステップと、
を含む高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法。
【請求項6】
前記モデル学習処理ステップは、基準時刻の前の所定期間における複数の炉体温度分布を示す画像データを入力データとし、前記基準時刻の前の所定期間における溶銑温度の平均値に対する、前記基準時刻の後の所定期間後の溶銑温度の差分を出力データとして、前記溶銑温度予測モデルの学習を行う請求項5に記載の高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法。
【請求項7】
請求項1に記載の高炉の溶銑温度予測方法を用いて溶銑温度を予測し、予測された溶銑温度に基づいて操業条件を変更する高炉の操業方法。
【請求項8】
コンピュータによって構築された高炉の溶銑温度予測装置であって、
炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理部と、
前記画像変換処理部において出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて前記画像変換処理部において出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理部と、
を備える高炉の溶銑温度予測装置。
【請求項9】
前記炉体の温度データは、炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度のうちの少なくとも一つ以上を含み、
前記画像変換処理部は、前記炉体の温度を測定位置に対応させて二次元配置し、温度の値を、異なる色または濃淡によって画像化する、
請求項8に記載の高炉の溶銑温度予測装置。
【請求項10】
前記入力データは、所定時間周期ごとの複数の画像データからなり、炉体温度分布の時間変化を示すデータである請求項8または請求項9に記載の高炉の溶銑温度予測装置。
【請求項11】
前記溶銑温度予測処理部は、直近の所定時間の溶銑温度の平均値に対する、所定時間後の溶銑温度の差分の絶対値を予測する請求項8に記載の高炉の溶銑温度予測装置。
【請求項12】
高炉の溶銑温度予測サーバ装置と、端末装置と、を備える高炉の溶銑温度予測システムであって、
前記高炉の溶銑温度予測サーバ装置は、
炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理部と、
前記画像変換処理部において出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて前記画像変換処理部において出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理部と、
前記溶銑温度予測処理部において予測された将来の溶銑温度を少なくとも含む情報を、前記端末装置に出力する出力部と、
を備え、
前記端末装置は、
前記高炉の溶銑温度予測サーバ装置から将来の溶銑温度を少なくとも含む情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報を表示する表示部と、
を備える高炉の溶銑温度予測システム。
【請求項13】
高炉の溶銑温度予測サーバ装置から、現在の炉体の温度データを二次元画像化した画像データに基づいて予測された、将来の溶銑温度を少なくとも含む情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報を表示する表示部と、
を備え、
前記高炉の溶銑温度予測サーバ装置は、
炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理部と、
前記画像変換処理部において出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて前記画像変換処理部において出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理部と、
を備える端末装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の溶銑温度予測方法、高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法、高炉の操業方法、高炉の溶銑温度予測装置、溶銑温度予測システムおよび端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉プロセスでは、溶銑温度、通気度、造銑速度が一定になるように操業が行われている。高効率かつ安定的な高炉操業を実現するために、溶銑温度の制御は重要である。溶銑温度が著しく低下すると、副生成物であるスラグの温度も低下してスラグの粘度が上昇する。場合によっては、炉下部の溶銑やスラグが固まる炉冷事故となり、長期間の操業停止に至る。
【0003】
反対に、溶銑温度が高い場合は、燃料である微粉炭やコークスが過剰に消費されることを意味しており、還元材比の上昇につながる。近年の高炉操業では、CO削減および溶銑コスト削減のために、低還元材比および低コークス比を目指しており、溶銑温度ばらつき低減のニーズは大きい。
【0004】
高炉のオペレータは、操業条件および様々なセンサ情報に基づいて溶銑温度の将来予測を行い、コークス比や送風湿分、送風温度、微粉炭流量を操作する。高炉は、熱容量の大きいプロセスであるため、操作変数を変更した場合に溶銑温度が変化するまでの時間遅れが大きい。そのため、過去の操作の影響を的確に予測することができず、操作が過剰となる傾向がある。結果として、溶銑温度の目標値に対する過大と過少とを周期的に繰り返し、溶銑温度ばらつきがますます大きくなることが課題であった。
【0005】
このような背景から、物理モデルに基づいた溶銑温度制御方法(特許文献1参照)や、統計モデルに基づいた溶銑温度制御方法(特許文献2参照)が提案されている。例えば、特許文献1では、還元材比、ソルーションロスカーボン量、造銑速度およびガス利用率のうちの少なくとも一つの計算値と実測値との誤差を補償するために、以下のような方法が提案されている。
【0006】
すなわち、特許文献1では、物理モデル中のガス還元平衡パラメータまたは炉頂におけるコークス比のパラメータを調整しつつ、現在の操作量が保持されたと仮定して物理モデルを用いて溶銑温度の予測値を算出する。そして、算出された予測値に基づいて溶銑温度を制御する。
【0007】
また、特許文献2では、過去の操業データの中から現在の操業条件に類似する操業データを抽出し、抽出された操業データに基づいて溶銑温度の予測値を算出し、算出された予測値に基づいて溶銑温度を制御する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-24935号公報
【文献】特開2007-4728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1で提案された方法では、荷下り(原料降下速度)の変動や原料である鉱石中の鉄分の変動等の測定が難しく物理モデルに反映することも困難な外乱が発生した場合、溶銑温度の予測精度が低下する。そのため、結果として、溶銑温度の制御精度が低下する可能性がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の方法では、現在の操業条件が過去に実績のない操業条件である場合、溶銑温度の予測精度が低下し、結果として、溶銑温度の制御精度が低下する可能性がある。
【0011】
一方で、オペレータは、高炉の炉体に設置された温度計から測定される温度の高低や、円周方向における温度のばらつき度合いによって、溶銑温度の変動を含む炉況の良し悪しを判断している。例えば、高炉の羽口に埋設された熱電対において測定された羽口埋込温度は、炉内のコークス充填層や溶銑からの輻射の影響を受けるため、溶銑温度に先行して変化する傾向がある。
【0012】
また、高炉のストックライン直上の炉壁から炉内に突き出して設置された熱電対において測定された温度をスキンフロー温度と呼ぶ。スキンフロー温度の上昇は、炉壁近傍のガス温度が上昇したことを意味し、炉内のガスの周辺流が増加したことを示す。すなわち、スキンフロー温度が上昇すると、通気性が悪化し、鉄鉱石の還元不良を生じて溶銑温度が低下する可能性がある。また、上記のような炉体の円周方向で測温できる項目における円周方向における温度ばらつきは、円周方向の原料のばらつきや炉内の還元反応やガス流れのばらつきに起因する。そのため、出銑口間の溶銑温度の偏差につながり、炉況悪化に至る可能性もある。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、測定可能な炉体の円周方向における温度分布のみを用いて、溶銑温度の急上昇や急低下を予測することができる、高炉の溶銑温度予測方法、高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法、高炉の操業方法、高炉の溶銑温度予測装置、溶銑温度予測システムおよび端末装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る高炉の溶銑温度予測方法は、コンピュータによって構築された装置によって実行される高炉の溶銑温度予測方法であって、前記コンピュータが備える画像変換処理部が、炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理ステップと、前記コンピュータが備える溶銑温度予測処理部が、前記画像変換処理ステップにおいて出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて前記画像変換処理ステップにおいて出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理ステップと、を含む。
【0015】
また、本発明に係る高炉の溶銑温度予測方法は、上記発明において、前記炉体の温度データが、炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度のうちの少なくとも一つ以上を含み、前記画像変換処理ステップが、前記炉体の温度を測定位置に対応させて二次元配置し、温度の値を、異なる色または濃淡によって画像化する。
【0016】
また、本発明に係る高炉の溶銑温度予測方法は、上記発明において、前記入力データが、所定時間周期ごとの複数の画像データからなり、炉体温度分布の時間変化を示すデータである。
【0017】
また、本発明に係る高炉の溶銑温度予測方法は、上記発明において、前記溶銑温度予測処理ステップが、直近の所定時間の溶銑温度の平均値に対する、所定時間後の溶銑温度の差分の絶対値を予測する。
【0018】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法は、コンピュータによって構築された装置によって実行される高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法であって、前記コンピュータが備える画像変換処理部が、炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理ステップと、記コンピュータが備えるモデル学習処理部が、前記画像変換処理ステップにおいて出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして、溶銑温度予測モデルの学習を行うモデル学習処理ステップと、を含む。
【0019】
また、本発明に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法は、上記発明において、前記モデル学習処理ステップが、基準時刻の前の所定期間における複数の炉体温度分布を示す画像データを入力データとし、前記基準時刻の前の所定期間における溶銑温度の平均値に対する、前記基準時刻の後の所定期間後の溶銑温度の差分を出力データとして、前記溶銑温度予測モデルの学習を行う。
【0020】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る高炉の操業方法は、上記の高炉の溶銑温度予測方法を用いて溶銑温度を予測し、予測された溶銑温度に基づいて操業条件を変更する。
【0021】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る高炉の溶銑温度予測装置は、炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理部と、前記画像変換処理部において出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて前記画像変換処理部において出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理部と、を備える。
【0022】
また、本発明に係る高炉の溶銑温度予測装置は、上記発明において、前記炉体の温度データが、炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度のうちの少なくとも一つ以上を含み、前記画像変換処理部が、前記炉体の温度を測定位置に対応させて二次元配置し、温度の値を、異なる色または濃淡によって画像化する。
【0023】
また、本発明に係る高炉の溶銑温度予測装置は、上記発明において、前記入力データが、所定時間周期ごとの複数の画像データからなり、炉体温度分布の時間変化を示すデータである。
【0024】
また、本発明に係る高炉の溶銑温度予測装置は、上記発明において、前記溶銑温度予測処理部が、直近の所定時間の溶銑温度の平均値に対する、所定時間後の溶銑温度の差分の絶対値を予測する。
【0025】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る溶銑温度予測システムは、溶銑温度予測サーバ装置と、端末装置と、を備える溶銑温度予測システムであって、前記溶銑温度予測サーバ装置が、炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理部と、前記画像変換処理部において出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて前記画像変換処理部において出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理部と、前記溶銑温度予測処理部において予測された将来の溶銑温度を少なくとも含む情報を、前記端末装置に出力する出力部と、を備え、前記端末装置が、前記溶銑温度予測サーバ装置から将来の溶銑温度を少なくとも含む情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部が取得した情報を表示する表示部と、を備える。
【0026】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る端末装置は、溶銑温度予測サーバ装置から、現在の炉体の温度データを二次元画像化した画像データに基づいて予測された、将来の溶銑温度を少なくとも含む情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部が取得した情報を表示する表示部と、を備える。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る高炉の溶銑温度予測方法、高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法、高炉の操業方法、高炉の溶銑温度予測装置、溶銑温度予測システムおよび端末装置によれば、測定可能な炉体の円周方向における温度分布のみを用いて、溶銑温度の急上昇や急低下を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習装置および高炉の溶銑温度予測装置を実現するための情報処理装置の概略的な構成を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法および高炉の溶銑温度予測方法における、画像変換処理ステップの流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法における、モデル学習処理ステップの流れを示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測方法における、溶銑温度予測処理ステップの流れを示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の実施形態に係る溶銑温度予測システムの概略的な構成を示す図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法および高炉の溶銑温度予測方法の実施例であり、炉体の温度データに対して画像変換処理を実施した後のコンター図の一例を示す図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法および高炉の溶銑温度予測方法の実施例であり、図6のコンター図において、CNNの畳み込み演算方向を説明するための図である。
図8図8は、CNNの構造の一例を示すブロック図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法および高炉の溶銑温度予測方法の実施例であり、検証用データにおける8時間後の溶銑温度の予測値および実績値を、1ステップ30分ごとの時系列で並べたトレンドである。
図10図10は、本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法および高炉の溶銑温度予測方法の実施例であり、検証用データにおける直近32時間の溶銑温度平均値からの差分に対する、8時間後の溶銑温度の予測値および実績値を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る高炉の溶銑温度予測モデルの学習装置(以下、「モデル学習装置」という)、高炉の溶銑温度予測装置、高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法(以下、「モデル学習方法」という)および高炉の溶銑温度予測方法について、図面を参照しながら説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0030】
〔装置構成〕
実施形態に係るモデル学習装置および溶銑温度予測装置の装置構成について、図1を参照しながら説明する。同図は、実施形態に係るモデル学習装置および溶銑温度予測装置を実現するための情報処理装置1の構成の一例を示している。情報処理装置1は、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータによって実現される。
【0031】
情報処理装置1は、入力部10と、記憶部20と、演算部30と、出力部40と、を備えている。実施形態に係るモデル学習装置は、情報処理装置1の構成要素のうち、演算部30の溶銑温度予測処理部33を除いた構成要素によって実現可能である。また、実施形態に係る溶銑温度予測装置は、情報処理装置1の構成要素のうち、演算部30のモデル学習処理部32を除いた構成要素によって実現可能である。
【0032】
入力部10は、演算部30に対する入力手段であり、例えばキーボード、マウスポインタ、テンキー等の入力装置によって実現される。
【0033】
記憶部20は、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)およびリムーバブルメディア等の記録媒体から構成される。リムーバブルメディアとしては、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)のようなディスク記録媒体が挙げられる。記憶部20には、オペレーティングシステム(Operating System:OS)、各種プログラム、各種テーブル、各種データベース等が格納可能である。記憶部20には、温度DB(データベース)21および画像DB22が格納されている。
【0034】
温度DB21には、高炉の炉体の温度データ(以下、「炉体温度データ」というが格納されている。炉体温度データとしては、例えば炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度のうちの少なくとも一種類以上の履歴データ、溶銑温度の履歴データ等が挙げられる。また、この温度DB21は、データ読み取り可能な形態で演算部30に接続されている。
【0035】
画像DB22には、演算部30の画像変換処理部31において、炉体温度データから画像変換処理された画像データ(例えばコンター図)が格納されている。また、この画像DB22は、データ読み取り可能な形態で演算部30に接続されている。
【0036】
演算部30は、例えばCPU(Central Processing Unit)等からなるプロセッサと、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等からなるメモリ(主記憶部)と、によって実現される。
【0037】
演算部30は、プログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等を制御することにより、所定の目的に合致した機能を実現する。演算部30は、前記したプログラムの実行を通じて、画像変換処理部31、モデル学習処理部32および溶銑温度予測処理部33として機能する。なお、図1では、各部の機能を一台のコンピュータ(演算部)によって実現する場合の例を示しているが、各部の機能の具体的な実現方法は特に限定されず、例えば各部の機能を複数台のコンピュータによって実現してもよい。
【0038】
画像変換処理部31は、炉体温度データを二次元画像化する画像変換処理ステップを実施する。画像変換処理部31は、例えば炉体の温度を測定位置に対応させて二次元配置し、温度の値を、異なる色または濃淡によって画像化することにより、コンター図(図6参照)を生成する。そして、画像変換処理部31は、生成した画像データ(例えばコンター図)を、画像DB22に格納する。
【0039】
なお、「炉体温度データ」は、高炉の炉体の円周方向に設置された温度計によって測定されたものである。この炉体温度データは、予め測定され、温度DB21に格納されている。また、炉体温度データには、例えば炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度のうちの少なくとも一つ以上が含まれる。このように、本実施形態では、炉体から測定可能な温度のうち、炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度等の、溶銑温度との相関が高いものを用いて予測モデルの学習を行う。
【0040】
モデル学習処理部32は、現在の炉体の温度分布に対する将来の溶銑温度を予測する予測モデルの学習を行う。モデル学習処理部32は、具体的には、画像変換処理部31において出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして、溶銑温度予測モデルの学習を行うモデル学習処理ステップを実施する。モデル学習処理部32では、例えば畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)等の機械学習手法により溶銑温度予測モデルの学習を行う。
【0041】
ここで、溶銑温度予測モデルの学習を行う際の入力データとしては、予め画像DB22に格納された画像データを用いることができる。この画像データは、例えば所定時間周期ごとの複数の画像データ(例えばコンター図)からなり、炉体温度分布の時間変化を示すデータで構成される。
【0042】
溶銑温度予測処理部33は、現在の炉体の温度分布に対する将来の溶銑温度を予測する。溶銑温度予測処理部33は、具体的には、モデル学習処理部32で学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体温度データについて画像変換処理部31で出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理ステップを実施する。溶銑温度予測処理部33は、例えば直近の所定時間の溶銑温度の平均値に対する、所定時間後の溶銑温度の差分の絶対値を予測する。
【0043】
すなわち、溶銑温度予測処理部33は、溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度を示す画像データを入力することにより、溶銑温度が所定時間後にどの程度変化するのかを予測する。なお、溶銑温度予測処理部33は、溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度を示す画像データを入力することにより、所定時間後の溶銑温度を直接予測してもよい。
【0044】
ここで、将来の溶銑温度の予測を行う際の入力データとしては、予め画像DB22に格納された画像データを用いることができる。この画像データは、例えば所定時間周期ごとの複数の画像データ(例えばコンター図)からなり、炉体温度分布の時間変化を示すデータで構成される。
【0045】
出力部40は、演算部30によって処理されたデータの出力手段であり、例えばLCDディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置、プリンタ等の印刷機器等によって実現される。
【0046】
〔モデル学習方法〕
実施形態に係るモデル学習方法について、図2および図3を参照しながら説明する。モデル学習方法は、コンピュータによって構築された情報処理装置1によって実行される。また、モデル学習方法は、画像変換処理部31による画像変換処理ステップと、モデル学習処理部32によるモデル学習処理ステップと、を行う。なお、モデル学習処理ステップの前に画像変換処理ステップを行うことは必須ではなく、例えば画像変換処理ステップを予め行っている場合は、モデル学習方法としてモデル学習処理ステップのみを実施してもよい。
【0047】
(画像変換処理ステップ)
図2は、画像変換処理ステップの具体的な流れを示すフローチャートである。同図のフローチャートは、モデル学習装置(情報処理装置1)に対して画像変換処理の実行指令が入力されたタイミングで開始となり、画像変換処理はステップS1の処理に進む。
【0048】
ステップS1の処理では、画像変換処理部31が、温度DB21から炉体温度データを取得する。これにより、ステップS1の処理は完了し、画像変換処理はステップS2の処理に進む。
【0049】
ステップS2の処理では、画像変換処理部31が、ステップS1の処理において取得した炉体温度データの中に、測温不良等に起因した異常値が含まれないか判定する。ステップS2の処理において、いずれかのセンサにおいて異常値が観測される場合(ステップS2でYes)、当該センサの観測値を除外して(ステップS7)、画像変換処理はステップS3の処理に進む。また、いずれのセンサにおいても異常値が観測されない場合(ステップS2でNo)、画像変換処理はそのままステップS3の処理に進む。
【0050】
ステップS3の処理では、画像変換処理部31が、ステップS2の処理において必要に応じて異常値除去が行われた炉体温度データに対して、炉体の円周方向の内挿処理を行う。この内挿処理では、例えば東を0°として、反時計回りに45°ごとの推定値を抽出する。
【0051】
内挿処理は、センサごとに円周方向の測温点数が異なる場合において、二次元画像データの横軸である円周方向の点数を揃えるために必要である。但し、半径方向に複数の測温点があるセンサにおいては、炉体中心からの距離が等しい測温点ごとに内挿処理を行う。また、炉体高さ方向に複数の測温点があるセンサにおいては、炉頂からの距離が等しい測温点ごとに内挿処理を行う。これにより、ステップS3の処理は完了し、画像変換処理はステップS4の処理に進む。
【0052】
ステップS4の処理では、画像変換処理部31が、ステップS3の処理において内挿処理が行われた炉体温度の推定値に対して、値域を揃えるための標準化を行う。この標準化は、例えば炉体温度の推定値ごとに直近32時間の平均値および標準偏差を求めることによって行う。これにより、ステップS4の処理は完了し、画像変換処理はステップS5の処理に進む。
【0053】
ステップS5の処理では、画像変換処理部31が、ステップS4の処理において標準化されたデータを用いて、例えば縦軸が炉体高さ方向であり、横軸が円周方向(方角)であるコンター図(例えば図6参照)を作成する。このコンター図では、高炉の炉体温度について、炉体の周方向のみならず、炉体の高さ方向においても補間されて画像化される。そのため、このようなコンター図を作成して利用することにより、炉体温度全体を画像として統一的に扱うことができ、炉体温度の変化を捉えやすくなるという効果がある。これにより、ステップS5の処理は完了し、画像変換処理はステップS6の処理に進む。
【0054】
ステップS6の処理では、画像変換処理部31が、ステップS5の処理において作成された画像データ(コンター図)を画像DB22に格納する。これにより、ステップS6の処理は完了し、一連の画像変換処理を終了する。
【0055】
(モデル学習処理ステップ)
図3は、モデル学習処理ステップの具体的な流れを示すフローチャートである。同図のフローチャートは、モデル学習装置(情報処理装置1)に対してモデル学習処理の実行指令が入力されたタイミングで開始となり、モデル学習処理はステップS11の処理に進む。
【0056】
ステップS11の処理では、モデル学習処理部32が、画像DB22から画像データを取得する。これにより、ステップS11の処理は完了し、モデル学習処理はステップS12の処理に進む。
【0057】
ステップS12の処理では、モデル学習処理部32が、温度DB21から溶銑温度の履歴データを取得する。これにより、ステップS12の処理は完了し、モデル学習処理はステップS13の処理に進む。
【0058】
ステップS13の処理では、モデル学習処理部32が、ステップS12で取得した溶銑温度の履歴データに対して、時刻t-αから時刻tにおける溶銑温度の平均値に対する、時刻t+βの溶銑温度の差分ΔTを算出する。なお、α、βの値は、例えば炉体の時定数等に基づいて予め定めるものとする。
【0059】
αを決定するにあたって、送風流量、コークス比、送風湿分等の操業諸元が類似の期間であることが好ましい。一方で、高炉は、炉内のガス流れや温度分布の円周方向のばらつきの影響により、複数の出銑口間で溶銑温度の偏差が発生することがある。そのため、長時間の溶銑温度の平均値を求めることが必要である。従って、αは1~3日程度とすることが好ましい。また、βを決定するにあたって、溶銑温度の急変化に対して操業アクションで対応できる値であることが必要である。送風湿分の操作は、溶銑温度への即効性が高いが、炉底における溶銑の滞留時間が2時間程度である。そのため、βは2よりも大きい値である必要がある。これにより、ステップS13の処理は完了し、モデル学習処理はステップS14の処理に進む。
【0060】
ステップS13の処理では、モデル学習処理部32が、ステップS12で取得した溶銑温度の履歴データに対して、時刻t-αから時刻tにおける溶銑温度の平均値に対する、時刻t+βの溶銑温度の差分ΔTを算出する。なお、α、βの値は、例えば炉体の時定数等に基づいて予め定めるものとする。これにより、ステップS13の処理は完了し、モデル学習処理はステップS14の処理に進む。
【0061】
ステップS14の処理では、モデル学習処理部32が、ステップS11で取得した画像データのうち、時刻t-γから時刻tにおけるものと、ステップ13で算出したΔTとを関連付けた学習データを生成する。なお、γの値は、例えば炉体の時定数等に基づいて予め定めるものとする。「γ=0」の場合は、時刻tにおける画像データのみを使用するが、炉体温度分布の時間変化を学習するために、γは0よりも大きい値とし、連続した複数時刻における画像データを関連付けて機械学習させることが好ましい。γを決定するにあたって、炉頂から装入された原料が羽口に降下するまでの時間を目安とするとよい。これにより、ステップS14の処理は完了し、モデル学習処理はステップS15の処理に進む。
【0062】
ステップS15の処理では、モデル学習処理部32が、ステップS14の処理において生成された学習データを用いて、溶銑温度予測モデルを機械学習する。この溶銑温度予測モデルは、時刻t-γから時刻tにおける炉体温度分布の時間変化を画像化した画像データを入力データとし、時刻t-αから時刻tにおける溶銑温度の平均値に対する時刻t+βの溶銑温度の差分ΔTを出力データとして、炉体温度分布の時間変化から将来の溶銑温度を予測するものである。
【0063】
ここで、機械学習によって生成する溶銑温度予測モデルは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)であることが好ましい。また、CNNの畳み込み演算は、画像データの縦軸方向および横軸方向、すなわち炉体の高さ方向および円周方向に行うことが好ましい(図7参照)。これにより、ステップS15の処理は完了し、モデル学習処理はステップS16の処理に進む。
【0064】
ステップS16の処理では、モデル学習処理部32が、ステップS15の処理において生成された溶銑温度予測モデルを出力する。これにより、ステップS16の処理は完了し、一連のモデル学習処理は終了する。
【0065】
なお、温度DB21に新たな温度データが追加された場合、画像変換処理部31は、例えば新たに追加された炉体温度データを画像化して画像DB22に追加で格納する。そして、モデル学習処理部32は、新たに追加された画像データを追加学習用データとして溶銑温度予測モデルを追加学習させることにより、モデルを更新することが好ましい。
【0066】
〔溶銑温度予測方法〕
実施形態に係る溶銑温度予測方法について、図4を参照しながら説明する。溶銑温度予測方法は、コンピュータによって構築された情報処理装置1によって実行される。また、溶銑温度予測方法は、溶銑温度予測処理部33による溶銑温度予測処理ステップを行う。また、溶銑温度予測方法は、必要に応じて、画像変換処理部31による画像変換処理ステップ(図2参照)を、溶銑温度予測処理ステップの前に行ってもよい。
【0067】
(溶銑温度予測処理ステップ)
図4は、溶銑温度予測処理ステップの具体的な流れを示すフローチャートである。同図のフローチャートは、溶銑温度予測装置(情報処理装置1)に対して溶銑温度予測処理の実行指令が入力されたタイミングで開始となり、溶銑温度予測処理はステップS21の処理に進む。
【0068】
ステップS21の処理では、溶銑温度予測処理部33が、画像DB22から、現在時刻をt0としたときに、時刻t0-γから時刻t0における画像データを取得する。これにより、ステップS21の処理は完了し、溶銑温度予測処理はステップS22の処理に進む。
【0069】
ステップS22の処理では、溶銑温度予測処理部33が、温度DB21から、時刻t0-αから時刻t0における溶銑温度の履歴データを取得する。これにより、ステップS22の処理は完了し、溶銑温度予測処理はステップS23の処理に進む。
【0070】
ステップS23の処理では、溶銑温度予測処理部33が、時刻t0-αから時刻t0における溶銑温度の平均値Taveを算出する。これにより、ステップS23の処理は完了し、溶銑温度予測処理はステップS24の処理に進む。
【0071】
ステップS24の処理では、溶銑温度予測処理部33が、モデル学習処理部32で出力された溶銑温度予測モデルを用いて、時刻t0-γから時刻t0における炉体温度分布の時間変化を画像化した画像データを入力データとして、時刻t0-αから時刻t0における溶銑温度の平均値Taveに対する時刻t0+βの溶銑温度の差分ΔT0preを出力する。これにより、ステップS24の処理は完了し、溶銑温度予測処理はステップS25の処理に進む。
【0072】
ステップS25の処理では、溶銑温度予測処理部33が、時刻t0+βにおける溶銑温度の予測値をTave+ΔT0preとして出力する。これにより、ステップS25の処理は完了し、一連の溶銑温度予測処理は終了する。
【0073】
〔高炉の操業方法〕
実施形態に係る高炉の操業方法は、例えばコンピュータによって構築された装置等によって実行される。高炉の操業方法では、上記の溶銑温度予測方法を用いて溶銑温度を予測する溶銑温度予測処理ステップと、溶銑温度予測処理ステップで予測された溶銑温度に基づいて操業条件を変更する操業条件変更ステップと、を行う。例えば、t0+βにおける溶銑温度の予測値が、溶銑温度の目標値に対して大幅に低下する場合、送風湿分を下限値まで低下させたり、炉頂におけるコークス比を大幅に増加させたりするとよい。
【0074】
〔溶銑温度予測システム〕
実施形態に係る溶銑温度予測システム2は、図5に示すように、溶銑温度予測サーバ装置3と、端末装置4と、を備えている。溶銑温度予測サーバ装置3および端末装置4は、例えばインターネット回線網等のネットワークNを通じて通信可能に構成されている。また、溶銑温度予測システム2のうち、端末装置4は、例えば製鉄所内に配置される。
【0075】
溶銑温度予測サーバ装置3は、例えばクラウド上に配置されたサーバ等により実現される。この溶銑温度予測サーバ装置3は、図1に示した情報処理装置1によって実現される溶銑温度予測装置のネットワーク対応サーバ装置であり、当該溶銑温度予測装置と同様の構成を備えている。すなわち、溶銑温度予測サーバ装置3は、情報処理装置1の構成要素のうち、画像変換処理部および溶銑温度予測処理部として機能する演算部と、出力部と、を少なくとも備えている。
【0076】
溶銑温度予測サーバ装置3の画像変換処理部は、炉体の温度データを二次元画像化する。また、溶銑温度予測サーバ装置3の溶銑温度予測処理部は、溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて画像変換処理部において出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する。また、溶銑温度予測サーバ装置3の出力部は、溶銑温度予測処理部において予測された将来の溶銑温度を少なくとも含む情報を、ネットワークN経由で端末装置4に出力する。なお、上記の溶銑温度予測モデルは、画像変換処理部において出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習されたモデルである。
【0077】
端末装置4は、溶銑温度予測サーバ装置3からネットワークNを通じて各種情報を取得して表示する。この端末装置4は、例えばパソコン等の汎用コンピュータ、タブレット型コンピュータ等のモバイル情報処理機器によって実現される。また、端末装置4は、情報取得部および表示部として機能する演算部を備えている。また、端末装置4には、例えば液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)、タッチパネルディスプレイ等の外部ディスプレイが接続されている。
【0078】
端末装置4の情報取得部は、溶銑温度予測サーバ装置3から、当該溶銑温度予測サーバ装置3によって予測された将来の溶銑温度を少なくとも含む情報を取得する。この将来の溶銑温度は、現在の炉体の温度データを二次元画像化した画像データに基づいて予測されたものである。また、溶銑温度予測サーバ装置3から取得する情報としては、将来の溶銑温度以外にも、例えば温度DB21に格納されている炉体温度データ、画像変換処理部31で生成された画像データ(例えばコンター図)等が挙げられる。そして、端末装置4の表示部は、情報取得部が取得したこれらの情報を、上記の外部ディスプレイに表示させる。
【0079】
以上説明した実施形態に係る高炉の溶銑温度予測方法、高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法、高炉の操業方法、高炉の溶銑温度予測装置、溶銑温度予測システムおよび端末装置によれば、炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度等の、測定可能な炉体の円周方向における温度分布のみを用いて、溶銑温度の急上昇や急低下を精度よく予測することができる。
【0080】
〔実施例〕
実施形態に係るモデル学習方法および溶銑温度予測方法の実施例について、図6図10を参照しながら説明する。
【0081】
本実施例では、モデル学習処理における係数α,β,γ(図3のステップS13,S14参照)について、αを32時間、βを8時間、γを10時間とした。また、炉体温度データは、30分周期で取得されたものを使用した。すなわち、炉体温度分布の画像データ20枚を入力データとすることで、直近10時間分の温度変化からCNNで特徴を抽出することとした。
【0082】
また、本実施例では、炉頂ゾンデ温度、スキンフロー温度、クーリングステーブ温度、羽口埋込温度の履歴データを用いて炉体温度分布の画像データを作成した。炉頂ゾンデ温度は、中心に近い程ノイズが多いため、炉体中心からの距離が最大となる測定点のみを使用した。また、クーリングステーブ温度は、炉体高さ方向に10段分の測定点を使用した。
【0083】
上から炉頂からの距離が小さい順に、炉頂ゾンデ温度13、スキンフロー温度12、クーリングステーブ温度2~11、羽口埋込温度1として、内挿処理および標準化を行った後のコンター図を図6に示す。同図の縦軸は、炉体の高さ方向である。また、同図の横軸は、炉体の円周方向、すなわち方角を示しており、左端と右端が東である。
【0084】
続いて、作成した画像データと、直近32時間における溶銑温度の平均値に対する8時間後の溶銑温度の差分ΔTのデータとを関連付けたデータセット20500点(約600日分)を作成した。続いて、最初の20000点でCNNによる溶銑温度予測モデルの機械学習を行い、残りの500点で溶銑温度予測モデルの精度を検証した。
【0085】
CNNでは、図7の矢印で示すように、縦軸方向(炉体の高さ方向)および横軸方向(炉体の円周方向)に畳み込み演算を行う。機械学習で用いたCNNの構造を図8に示す。同図におけるブロックは、それぞれ畳み込み層(Convolution)、プーリング層(Pooling)、ドロップアウト層(Dropout)、畳み込み層(Convolution)、プーリング層(Pooling)、平坦化(Flatten)、全結合層(Affine)、全結合層(Affine)を示している。また、同図の括弧内の数字は、データ配列の大きさを示している。例えば「(13,9,20)」は、「縦13×横9×チャンネル数20」の三次元配列を示している。但し、同図に示したCNNの構造は一例であり、同図に示した構造以外の構造としてもよい。
【0086】
本実施例における検証結果を図9および図10に示す。図9は、検証用データにおける8時間後の溶銑温度の予測値および実績値を、1ステップ30分ごと時系列で並べたトレンドである。同図における「×」のプロットは溶銑温度の予測値を、「〇」のプロットは溶銑温度の実績値をそれぞれ示している。
【0087】
図10は、直近32時間の溶銑温度平均値からの差分に対する8時間後の溶銑温度の予測値と実績値の散布図である。図9に示すように、溶銑温度の予測値および実績値の傾向は一致している。また、予測値と実績値との差が±20℃以内のケースは96.4%、根二乗平均誤差は10.2℃であり、良好な予測精度であることが確認できた。
【0088】
以上、本発明に係る高炉の溶銑温度予測方法、高炉の溶銑温度予測モデルの学習方法、高炉の操業方法、高炉の溶銑温度予測装置、溶銑温度予測システムおよび端末装置について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0089】
1 情報処理装置
10 入力部
20 記憶部
21 温度DB
22 画像DB
30 演算部
31 画像変換処理部
32 モデル学習処理部
33 溶銑温度予測処理部
40 出力部
2 溶銑温度予測システム
3 溶銑温度予測サーバ装置
4 端末装置
N ネットワーク
【要約】
高炉の溶銑温度予測方法は、コンピュータによって構築された装置によって実行される高炉の溶銑温度予測方法であって、コンピュータが備える画像変換処理部が、炉体の温度データを二次元画像化する画像変換処理ステップと、コンピュータが備える溶銑温度予測処理部が、画像変換処理ステップにおいて出力された画像データを入力データとし、溶銑温度を出力データとして学習された溶銑温度予測モデルに対して、現在の炉体の温度データについて画像変換処理ステップにおいて出力される画像データを入力することにより、将来の溶銑温度を出力する溶銑温度予測処理ステップと、を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10