(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】変流器及び零相変流器
(51)【国際特許分類】
H01F 38/30 20060101AFI20231114BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20231114BHJP
G01R 15/18 20060101ALI20231114BHJP
H01H 83/02 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
H01F38/30
H01F41/12 D
G01R15/18 B
H01H83/02 H
(21)【出願番号】P 2019197942
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】595176098
【氏名又は名称】甲神電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 恭典
(72)【発明者】
【氏名】吉川 徹
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-267396(JP,A)
【文献】実開昭56-154113(JP,U)
【文献】特開平06-290947(JP,A)
【文献】実開昭56-155419(JP,U)
【文献】特開平10-213603(JP,A)
【文献】米国特許第06018239(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/30
H01F 41/12
G01R 15/18
H01H 83/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い比透磁率特性を有する環状磁心に巻線を施したコイルを、底面及び二重円筒状壁を有するケースに収納し、加熱流動化した成形樹脂を成形金型注入口から前記ケースに注ぎ込み前記コイルと一体に加圧成形した変流器もしくは零相変流器であって、
前記ケースは、前記注入口から所定以上離れた成形樹脂充填領域にある前記二重円筒状壁の少なくとも一方の壁に、前記壁の前記充填領域側面に切り欠き形状を有する溝、又は前記壁の前記充填領域側に開放したスリットを有する円筒状の通気孔を備えることを特徴とする変流器もしくは零相変流器。
【請求項4】
前記円筒状の通気孔に備えられたスリットは前記ケースの天面から底面方向に有り、その深さは前記通気孔の位置での前記成形樹脂が充填される深さより深く、かつ
前記ケースの底面より所定以上の長さを有するだけ浅いことを特徴とする請求項1記載の
変流器もしくは零相変流器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電流または、直流が重畳した交流電流、例えば半波正弦波交流電流もしくはその漏洩電流を計測するための変流器及び零相変流器に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来の一般的な変流器を示す概略図である。従来の変流器は、環状の磁心からなる閉磁路に2次巻線W2が巻回されており、計測対象の電流の流れる1次巻線W1が閉磁路の中央開口を貫通している。その動作は、1次巻線W1に電流I1が流れると、電磁誘導によって電流I1の大きさに対応した、好ましくは比例した電流I2が2次巻線W2に発生する。このとき2次巻線W2に負担抵抗を接続することによって、電圧信号が2次巻線W2に出力され、その結果、1次巻線W1に流れる電流I1を電圧信号として計測することが可能になる。
【0003】
また従来の変流器の製造方法としては、金属の型を用意し、少なくとも一つの巻線を備えた磁心すなわちコイルを外ケースに組み込んだ状態で型内に挿入し、型を閉鎖して、加熱流動化した成形樹脂を加圧下で型に充填することにより、加圧成形し一体に封止成形する方法がある。(例えば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7は従来の変流器の加圧成形方法の説明図である。
図7のアイソメ図(a)、上面図(b)に示すように、外ケース1にコイル12及びリード線11を組み込んだものを、金型(下型)18にセットし、金型(上型)17を閉じて、加熱流動化した成形樹脂を金型(上型)17のゲート9から注ぎ込み加圧成形してコイル12を封止している。ゲート9から離れた箇所ほど成形樹脂の温度低下に伴う流動性の低下により充填性が低下するため、外ケース1の中心軸から見てゲート9の反対側を中心に広範囲に外ケース1の内側円筒2および外側円筒3とコイル12側面間の空隙にて成形樹脂が外ケース1底面まで充填されず空気溜まりが生じる。加圧成形後に変流器が高温雰囲気下にさらされた場合、密閉された内部の空気溜まりの膨脹に伴い外ケース1および成形樹脂の変形が生じ、規定された外形形状を維持できない。さらに、内部圧力の上昇に伴い、コイル12にも圧力が加わり、電気的特性の低下が生じる。
【0006】
また、空気溜まり対策として、成形樹脂充填前に型内を真空引きする方法が考えられるが、真空ポンプ、真空タンク等の設備が必要となり、コストが大幅に増加するため、容易には採用できない。
【0007】
また、
図8に示すように高温雰囲気下における前記空気溜まりの膨脹防止対策として簡易的な通気孔を設ける方法が考えられるが、外ケース1の底面
図8(a)、側面
図8(b)にて示すような通気孔21a、21bを設けた場合、コイル12を構成する巻線13が露出するため、変流器の耐電圧特性が著しく低下し採用できない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明における変流器もしくは零相変流器は、高い比透磁率特性を有する環状磁心に巻線を施したコイルを、底面及び二重円筒状壁を有するケースに収納し、加熱流動化した成形樹脂を成形金型注入口からケースに注ぎ込みコイルと一体に加圧成形する構造であって、ケースは、注入口から所定以上離れた成形樹脂充填領域にある二重円筒状壁の少なくとも一方の壁に、壁の充填領域側面に切り欠き形状を有する溝、又は壁の充填領域側に開放したスリットを有する円筒状の通気孔を備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は上記の通り、変流器の内部に生じる空気溜まりを切り欠き形状の溝や円筒状の通気孔と円筒状の通気孔が有する充填領域側に開放した天面から底面方向のスリットにより外気と通じさせることにより、高温雰囲気下における内部の空気溜まりの膨脹に伴う成形樹脂およびケースの変形を防止する効果を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】 本発明の実施の形態1~4における変流器もしくは零相変流器を示す図である。
【
図2】 本発明の実施の形態1における変流器もしくは零相変流器に用いる外ケース構造を示す図である。
【
図3】 本発明の実施の形態2における変流器もしくは零相変流器に用いる外ケース構造を示す図である。
【
図4】 本発明の実施の形態3における変流器もしくは零相変流器に用いる外ケース構造を示す図である。
【
図5】 本発明の実施の形態4における変流器もしくは零相変流器に用いる外ケース構造を示す図である。
【
図7】 一般的な変流器の加圧成形方法の説明図である。
【
図8】 耐電圧特性の低い外ケース構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における変流器もしくは零相変流器100で、
図1(a)は平面図、
図1(b)はA-A線断面図、
図1(c)は正面図、
図1(d)はコイル12のアイソメ図、
図1(e)は
図1(b)における空気溜まり16の拡大図を示す。
図1(d)にて示した12は集磁のためのトロイダル形状の磁心15(
図1(b)に示す)と磁心15を収めるためのトロイダル形状のケース14(
図1(b)に示す)および磁心15を収めたケース14に巻き付けられた磁心15内における磁束の変化を電流に変換するための巻線13(
図1(b)に示す)により構成されるコイルであり、11はコイル12と電気的に接続された被覆を有した引き出し線用リード線である。
図1(a)において、1はコイル12及びリード線11の一部を収納する外ケースで、10はゲート9(
図7に示す)から加圧充填されコイル12を封止する成形樹脂である。20はゲート9の位置を示す。
図1(e)はゲート位置20から最も離れた成形樹脂充填領域での充填状態を示しており、成形樹脂10は寸法Tの深さまでしか充填されておらず、広い範囲に空気溜まり16が存在する。
図2はこの発明の実施の形態1における変流器もしくは零相変流器100に用いる外ケース1で、
図2(a)は外ケース1の平面図、
図2(b)はA-A線断面図、
図2(c)はアイソメ図、
図2(d)は
図2(a)に示した切り欠き形状の溝7a及び7bの拡大図である。
図2(a)において4はコイル12を外ケース1に収める際に巻線13と電気的に接続されるリード線11の一部を収めるためのリード線挿入部、5はリード線挿入部4に収められたリード線11を通し、外ケース外部に引き出すための貫通穴であるリード線引き出し部、6はリード線挿入部4に収められたリード線11の先端と外ケース1内に収められた巻線13を電気的に接続するための巻線13の余長線を通すため設けた巻線引出し部である。
図2(a)(c)において、外ケース1は外側円筒3の成形樹脂充填領域側の壁面に沿って切り欠き形状の溝7a及び7bを有し、これは外ケース1の中心軸に対して成形樹脂充填に用いるゲート9の位置20の反対側を中心に空気溜まり16が広がる範囲(成形樹脂充填領域において、外ケース1の中心軸を中心にゲート位置20の両側に例えば角度135度以上離れた範囲)内に設けている。ここでは切り欠き形状の溝を2個設けたが任意の数を設けてもよい。切り欠き形状の溝7a及び7bは、その断面に先端部を持ち先端部に至る角度を鋭角(例えば60度)とすることで、成形樹脂充填の際、切り欠き形状の溝7a及び7b先端部における成形樹脂の充填性を低下させ、さらに、
図2(d)に示すように切り欠き形状の溝7a及び7bの先端部を樹脂の流動方向(
図2(d)に矢印で示す。ここではゲート位置20から注入された成形樹脂10が、時計回り方向と反時計回り方向の2方向に流れ、両矢印の指す所で衝突した状態を示している。)に対して対向する向きに傾けることでより充填性の低い構造とし、先端部が空隙となるようする。ここで樹脂の流動方向が時計回り方向の位置に設けた切欠き形状の溝7aは、その断面が例えば先端部角度60度の三角形状であるが、この三角形状は二等辺三角形状ではなく、樹脂の流動方向に対向する向きである反時計回り方向に例えば60度傾いた形状としている。また、樹脂の流動方向が反時計回り方向の位置に設けた切欠き形状の溝7bは、その断面が例えば先端部角度60度の三角形状であるが、この三角形状は二等辺三角形状ではなく、樹脂の流動方向に対向する向きである時計回り方向に例えば60度傾いた形状としている。また、ここで切り欠き形状の溝7a及び7bの断面は先端部が1個の三角形状としたが、先端部の数は任意でもよく、例えば先端部が2個の反台形形状でもよい。
上記のように構成された外ケース1を用いた変流器もしくは零相変流器100においては、切り欠き形状の溝7a及び7bの先端部において成形樹脂充填の際生じる空隙を通して、外ケース1の外側円筒3とコイル12の間に生じた空気溜まり16が外気と通じる形となり、高温雰囲気下においても空気溜まり16内の空気が切り欠き形状の溝7a及び7b先端部の空隙を通して外部に放出されることで減圧されるため、空気溜まり16内の空気の熱膨張に伴う外ケース1および成形樹脂10の変形を防ぐことができる。
また、変流器100の外部から巻線13までの沿面距離を
図1(e)に示すように成形樹脂10の厚みTを確保(例えば2.0mm以上)できるため、
図8の外ケース1底面図(a)、側面図(b)に示すコイル12の巻線13が露出するような通気孔21aもしくは21bを外ケース1に設ける場合と比較して、切り欠き形状の溝7a及び7bを設けた場合では高い耐電圧特性を得ることができる。
【0012】
実施の形態2.
本実施の形態では、実施の形態1と異なる部分について説明する。
図3はこの発明の実施の形態2における変流器もしくは零相変流器100の外ケース1で、
図3(a)は外ケース1の平面図、
図3(b)はA-A線断面図、
図3(c)はアイソメ図、
図3(d)は
図3(a)に示した切り欠き形状の溝7c及び7dの拡大図である。
図3(a)(c)において、外ケース1は内側円筒2の成形樹脂充填領域側の壁面に沿って切り欠き形状の溝7c及び7dを有し、これは外ケース1の中心軸に対して成形樹脂充填に用いるゲート9の位置20の反対側を中心に空気溜まり16が広がる範囲内に設けている。ここでは切り欠き形状の溝を2個設けたが任意の数を設けてもよい。切り欠き形状の溝7c及び7dは、その断面に先端部を持ち先端部に至る角度を鋭角(例えば60度)とすることで、成形樹脂充填の際、切り欠き形状の溝7c及び7d先端部における成形樹脂の充填性を低下させ、さらに、
図3(d)に示すように切り欠き形状の溝7c及び7dの先端部を樹脂の流動方向(
図3(d)に矢印で示す)に対して対向する向きに傾けることでより充填性の低い構造とし、先端部が空隙となるようする。
上記のように構成された外ケース1を用いた変流器もしくは零相変流器100においては、成形樹脂充填の際、切り欠き形状の溝7c及び7dの先端部において生じる空隙を通して、外ケース1の内側円筒2とコイル12の間に生じた空気溜まり16が外気と通じる形となり、高温雰囲気下においても空気溜まり16内の空気が切り欠き形状の溝7c及び7d先端部の空隙を通して外部に放出されることで減圧されるため、空気溜まり16内の空気の熱膨張に伴う外ケース1および成形樹脂10の変形を防ぐことができる。
また、変流器100の外部から巻線13までの沿面距離を
図1(e)に示すように成形樹脂10の厚みTを確保できるため、
図8の外ケース1底面図(a)、側面図(b)に示すコイル12の巻線13が露出するような通気孔21aもしくは21bを外ケース1に設ける場合と比較して、切り欠き形状の溝7c及び7dを設けた場合では高い耐電圧特性を得ることができる。
【0013】
実施の形態3.
本実施の形態では、実施の形態1と異なる部分について説明する。
図4はこの発明の実施の形態3における変流器もしくは零相変流器100の外ケース1で、
図4(a)は平面図、
図4(b)はA-A線断面図、
図4(c)はアイソメ図、
図4(d)はB-B線断面図を示す図である。
図4(a)(c)(d)において、外ケース1は外側円筒3に外ケース1の金型を作成する上で支障のない大きさである任意形状の通気孔8aを外ケース中心軸に対して成形樹脂充填に用いるゲート位置20の反対側を中心に空気溜まり16が広がる範囲で任意の数(例えば1個)を有する。通気孔8aは天面から底面の方向に外ケース1の内部(成形樹脂充填領域側)へと通じるスリット19aを有し、スリット19aは成形樹脂充填の際に通気孔8aおよびスリット19aの上部は成形樹脂10でふさがりつつスリット19aの底部の位置までは成形樹脂10でふさがることがないような幅(例えば0.5mm)と深さ(例えば
図1(e)のT+2.0mm以上)を有するものとする。
このように構成された変流器もしくは零相変流器100においては、空気溜まり16が通気孔8aおよびスリット19aを通して外気と通じる形となるため、高温雰囲気下においても空気溜まり16内の空気が通気孔8aを通して外部に放出されることで減圧されるため、空気溜まり16内の空気の熱膨張に伴う外ケース1および成形樹脂10の変形を防ぐことができる。
また、
図4(d)に示すようにスリット19a底部から外ケース底面までの長さLを確保(例えば2mm以上)することで、変流器100の表面から巻線13までの沿面距離を確保できるため、
図8の外ケース1底面図(a)、側面図(b)に示すコイル12の巻線13が露出するような通気孔21aもしくは21bを外ケース1に設ける場合と比較して、高い耐電圧特性を得ることができる。
【0014】
実施の形態4.
本実施の形態では、実施の形態1と異なる部分について説明する。
図5はこの発明の実施の形態4における変流器もしくは零相変流器100の外ケース1で、
図5(a)は平面図、
図5(b)はA-A線断面図、
図5(c)はアイソメ図、
図5(d)はB-B線断面図を示す図である。
図5(a)(c)(d)において、外ケース1は内側円筒2に外ケース1の金型を作成する上で支障のない大きさである任意形状の通気孔8bを外ケース中心軸に対して成形樹脂充填に用いるゲート位置20の反対側を中心に空気溜まり16が広がる範囲で任意の数(例えば1個)を有する。通気孔8bは天面から底面の方向に外ケース1の内部(成形樹脂充填領域側)へと通じるスリット19bを有し、スリット19bは成形樹脂充填の際に通気孔8bおよびスリット19bの上部は成形樹脂10でふさがりつつスリット19bの底部の位置まで成形樹脂10でふさがることがないような幅(例えば0.5mm)と深さ(例えば
図1(e)のT+2.0mm以上)を有するものとする。
このように構成された変流器もしくは零相変流器100においては、空気溜まり16が通気孔8bおよびスリット19bを通して外気と通じる形となるため、高温雰囲気下においても空気溜まり16内の空気が通気孔8bを通して外部に放出されることで減圧されるため、空気溜まり16内の空気の熱膨張に伴う外ケース1および成形樹脂10の変形を防ぐことができる。
また、
図5(d)に示すようにスリット19b底部から外ケース底面までの長さLを確保(例えば2mm以上)することで、変流器100の製品表面から巻線13までの沿面距離を確保できるため、
図8の外ケース1底面図(a)、側面図(b)に示すコイル12の巻線13が露出するような通気孔21aもしくは21bを外ケース1に設ける場合と比較して、高い耐電圧特性を得ることができる。
【符号の説明】
【0015】
1 外ケース
2 外ケース内側円筒
3 外ケース外側円筒
4 リード線挿入部
5 リード線引き出し部
6 巻線引き出し部
7a、7b、7c、7d 切り欠き形状
8a、8b 通気孔
9 ゲート(成形樹脂充填用)
10 成形樹脂
11 リード線
12 コイル
13 巻線
14 磁心を収めるケース
15 磁心
16 空気溜まり
17 金型(上型)
18 金型(下方)
19a、19b スリット部
20 ゲート位置
21a、21b 簡易的な通気孔例(耐電圧特性が得られない場合)
100 変流器及び零相変流器