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特許7384346マグネシウム二次電池用の絶縁抑制電解液及び絶縁抑制方法
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  • 特許-マグネシウム二次電池用の絶縁抑制電解液及び絶縁抑制方法 図1
  • 特許-マグネシウム二次電池用の絶縁抑制電解液及び絶縁抑制方法 図2
  • 特許-マグネシウム二次電池用の絶縁抑制電解液及び絶縁抑制方法 図3
  • 特許-マグネシウム二次電池用の絶縁抑制電解液及び絶縁抑制方法 図4
  • 特許-マグネシウム二次電池用の絶縁抑制電解液及び絶縁抑制方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】マグネシウム二次電池用の絶縁抑制電解液及び絶縁抑制方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20231114BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20231114BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20231114BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20231114BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231114BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231114BHJP
【FI】
H01M10/0567
C22C23/00
H01M4/134
H01M4/46
H01M10/054
H01M10/0569
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019201082
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021077459
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000142872
【氏名又は名称】株式会社戸畑製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】吉本 信子
(72)【発明者】
【氏名】山吹 一大
(72)【発明者】
【氏名】福井 一輝
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏治
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0108919(US,A1)
【文献】特表2015-523703(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168995(WO,A1)
【文献】特開2015-133314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/39
H01M 4/00- 4/84
C22C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム塩、ニトリル系溶媒及びクラウンエーテルを含有し、前記クラウンエーテルが、18C6、21C7、24C8及びその誘導体から選択されるクラウンエーテルであり、前記クラウンエーテルの含有量が、マグネシウムイオン濃度に対して0.1~1当量であり、前記ニトリル系溶媒が、炭素数が1~6のアルキル基を有するニトリルであることを特徴とするマグネシウム二次電池用電解液。
【請求項2】
ニトリル系溶媒が、ブチロニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル及びイソブチロニトリルから選択されることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム二次電池用電解液。
【請求項3】
負極がマグネシウム-ビスマス合金であるマグネシウム二次電池に使用するための電解液であって、前記マグネシウム-ビスマス合金のマグネシウム含量が、50質量%以上であり、及び/又はビスマス含量が、10~50質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシウム二次電池用電解液。
【請求項4】
電解質層に請求項1又は2に記載の電解液を含み、さらに正極及び負極を備えたことを特徴とするマグネシウム二次電池。
【請求項5】
負極がマグネシウム-ビスマス合金であることを特徴とする請求項4に記載のマグネシウム二次電池。
【請求項6】
電解質層に請求項3に記載の電解液を含み、さらに正極及び負極を備え、前記負極が、マグネシウム含量が、50質量%以上であり、及び/又はビスマス含量が、10~50質量%であるマグネシウム-ビスマス合金であることを特徴とするマグネシウム二次電池。
【請求項7】
マグネシウム塩及びニトリル系溶媒を含む電解液であって、前記ニトリル系溶媒が、炭素数が1~6のアルキル基を有するニトリルである電解液に、18C6、21C7、24C8及びその誘導体から選択されるクラウンエーテルを、マグネシウムイオン濃度に対して0.1~1当量添加することを特徴とする、マグネシウム含量が、50質量%以上であり、及び/又はビスマス含量が、10~50質量%であるマグネシウム-ビスマス合金電極の酸化被膜形成抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム二次電池のサイクル特性を改善し、電流値を向上させることのできるマグネシウム二次電池用の電解液や、該電解液を用いたマグネシウム二次電池や、該電解液を用いたマグネシウム二次電池に用いるためのマグネシウム合金電極や、マグネシウム合金電極の酸化被膜形成抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池としてリチウムイオン二次電池が実用化され、電子デバイス等の様々な用途に使用されている。しかしながら、今後の車載用途や大型用途に対しては、リチウムイオン二次電池では対応することが難しく、他の二次電池の開発が行われている。そこで、体積当たりの電気容量でリチウムイオン二次電池を凌ぐ特性を有するマグネシウム二次電池の開発が盛んに行われている。マグネシウムは、体積当たりの電気容量がリチウムの約2倍であるだけでなく、融点がリチウムの186℃に比べて650℃と高い。リチウムイオン二次電池は、電池内部での短絡等により加熱、発火するとの問題が指摘されているが、この原因の一つとしてリチウムの融点の低さが挙げられている。この点、マグネシウムはリチウムに比べて融点が高いため、安全性が高い。また、マグネシウムは、希少金属であるリチウムに比べて地球上に多く存在し、資源的にも豊富である。しかし、従来のマグネシウム負極は、その表面に絶縁層である酸化被膜が形成されるため、電気が流れにくく過電圧が大きくなり、本来の電池容量特性が発揮できないとの問題があった。
【0003】
そこで、上記問題を解決するためにいくつかの提案がなされている。例えば、電解質を改良することにより酸化被膜の形成を抑制する方法として、EtMgBr/THFを電解液として用いてマグネシウム負極表面の酸化被膜を除去する方法が提案されている(非特許文献1)。しかし、この方法では、酸化側の電位に対して耐性がなく、電解液の分解が生じるため長期での充放電が行えないとの問題がある。また、負極にマグネシウムとビスマスのモル比が3:2に調製された金属間化合物(MgBi)を用いることにより、負極表面への酸化被膜の形成を抑制する方法が提案されている(特許文献1、非特許文献2)。しかしこの方法の場合、負極のマグネシウム含量を高めることができず、十分な電池容量を得られないという問題点がある。
【0004】
本発明者らは、上記のマグネシウム-ビスマス金属間化合物(MgBi)の問題点に着目し、より少ないビスマス量の合金にて酸化被膜の形成が抑制され、高電位かつ高容量なマグネシウム二次電池用の電極として使用できることを報告している(特許文献2)。かかるマグネシウム-ビスマス合金電極は、十分に高いマグネシウム含有量を有し、且つ成形加工特性に優れた電極材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-512637号公報
【文献】国際公開第2018/168995号
【非特許文献】
【0006】
【文献】D. Aurbach,Z. Lu, A. Schechter, Y. Gofer, H. Gizbar, R. Turgeman, Y. Cohen, M. Moshkovich& E. Levi“Prototype systems for rechargeablemagnesium batteries”, Nature, 407, 724-727 (2000).
【文献】Timothy S. Arthur, Nikhilendra Singh, Masaki Matsui,“ElectrodepositedBi, Sb and Bi1-xSbx alloys as anodes for Mg-ion batteries”, Electrochemistry Communications, 16, 103-106 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、マグネシウム含有量が16質量%のマグネシウム-ビスマス金属間化合物(MgBi)に比べて、マグネシウム含有量を50質量%に増量することにより、より高エネルギー密度かつ過電圧が低減されたマグネシウム負極を提供することに成功している(特許文献2)。しかし、さらなる高エネルギー密度化のためにマグネシウムの割合を大きくすると、ビスマスによる酸化被膜の抑制効果が低下し、電池中の過電圧の増大に繋がるため、このトレードオフの改善が求められる。したがって、本発明の課題は、マグネシウム二次電池の負極にマグネシウム含有量の高いマグネシウム合金電極を用いた場合であっても酸化被膜形成を抑制できるようにすることにより、負極の酸化-還元間の過電圧を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、マグネシウム含有量を増大させた状態でも、マグネシウム表面に形成される酸化被膜の抑制を抑えつつ可逆的な充放電を行うために鋭意検討を重ねた結果、電解液にニトリル系有機溶媒を使用し、マグネシウム配位性のあるクラウンエーテルを添加することで、マグネシウム表面の改質が行われ、酸化被膜を除去できることを見いだした。これによって、ビスマスによる酸化被膜抑制効果に加えて、ニトリル電解液中の配位性化合物による酸化被膜除去効果が相乗的に作用することになり、マグネシウム含有量の高いビスマスとの合金材料においても高エネルギー密度および過電圧低減効果(電池の高電位)の両立が可能となった。本発明のポイントは、以下のとおりである。
ポイント1.電解液にニトリル系有機溶媒を使用し、マグネシウムに対して配位性のあるクラウンエーテルを添加することで、マグネシウム-ビスマス合金負極表面の酸化被膜除去が可能。
ポイント2.マグネシウムの含有量を増やし金属間化合物による酸化被膜抑制効果が低下したとしても、上記電解液による被膜除去効果により、過電圧の低減を達成。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)マグネシウム塩、ニトリル系溶媒及びクラウンエーテルを含有することを特徴とするマグネシウム二次電池用電解液。
(2)クラウンエーテルが、18C6、21C7、24C8及びその誘導体から選択されるクラウンエーテルであることを特徴とする上記(1)に記載のマグネシウム二次電池用電解液。
(3)ニトリル系溶媒が、ブチロニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル及びイソブチロニトリルから選択されることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のマグネシウム二次電池用電解液。
(4)電解質層に上記(1)~(3)のいずれかに記載の電解液を含み、さらに正極及び負極を備えたことを特徴とするマグネシウム二次電池。
(5)負極がマグネシウム-ビスマス合金であることを特徴とする上記(4)に記載のマグネシウム二次電池。
(6)マグネシウム-ビスマス合金のマグネシウム含量が、50質量%以上であり、及び/又はビスマス含量が、10~50質量%であることを特徴とする上記(4)又は(5)に記載のマグネシウム二次電池。
(7)マグネシウムを50質量%以上含むマグネシウム合金電極であって、上記(1)~(3)のいずれかに記載の電解液を含む電解質層を備えたマグネシウム二次電池に用いられることを特徴とする、前記マグネシウム合金電極。
(8)マグネシウム塩及びニトリル系溶媒を含む電解液に、クラウンエーテルを添加することを特徴とするマグネシウム合金電極の酸化被膜形成抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明者らが報告したマグネシウム-ビスマス合金材料を負極として用い、本発明の電解液を使用することで、絶縁性の形成を抑制することが可能であり、高電位かつ高容量なマグネシウム二次電池の開発を安価に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例において用いた試験用セルの概要を示す図である。
図2】A31を試験極としたときのサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。
図3】Mg-Bi合金1(Mg 50質量%,Bi 50質量%)を試験極としたときのサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。
図4】Mg-Bi合金2(Mg 70質量%,Bi 30質量%)を試験極としたときのサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。Aは、18C6を添加していない電解液、Bは、18C6を添加した電解液におけるサイクリックボルタンメトリーの結果を示す。
図5】比較例の、本発明の電解液に代えてトリグライムを用いたときのサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、マグネシウム塩、ニトリル系溶媒及びクラウンエーテルを含有することを特徴とするマグネシウム二次電池用電解液(以下、「本電解液」という)や、電解質層に本電解液を含み、さらに正極及び負極を備えたことを特徴とするマグネシウム二次電池(以下、「本マグネシウム二次電池」という)や、マグネシウムを50質量%以上含むマグネシウム合金電極であって、本電解液を含む電解質層を備えたマグネシウム二次電池に用いられることを特徴とする、前記マグネシウム合金電極(以下、「本マグネシウム合金電極」という)や、マグネシウム塩及びニトリル系溶媒を含む電解液に、クラウンエーテルを添加することを特徴とするマグネシウム合金電極の酸化被膜形成抑制方法(以下、「本酸化被膜形成抑制方法」という)に関する。本明細書において、マグネシウム二次電池とは、金属マグネシウム又はマグネシウム合金を負極として備える二次電池を意味する。本発明は、ニトリル系溶媒を用いた電解液にクラウンエーテルを添加することにより、マグネシウム合金電極表面の酸化被膜形成を抑制することができるという知見に基づくものである。
【0013】
本電解液において、マグネシウム塩としては、ニトリル系溶媒中で解離してマグネシウムイオンを放出する(有機マグネシウム錯体を形成しない)マグネシウム塩であれば特に制限されず、例えば、過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO)、臭化マグネシウム(MgBr2)等のハロゲン化マグネシウム、硝酸マグネシウム(Mg(NO32)、マグネシウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(Mg(TFSI))、Mg(SOCF、ホウフッ化マグネシウム(Mg(BF)、トリフルオロメチルスルホン酸マグネシウム(Mg(CFSO)、ヘキサフルオロ燐酸マグネシウム(Mg(PF)、マグネシウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Mg(FSI))等を挙げることができる。マグネシウム塩の濃度としては、電解液中のマグネシウムイオン濃度が0.01~2M、好ましくは0.1~1M、より好ましくは0.3~0.7Mとなる濃度を挙げることができる。
【0014】
本電解液に用いることのできるニトリル系溶媒としては、炭素数が1~6のアルキル基を有するニトリルが好ましく、中でもブチロニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリルが好ましく、ブチロニトリル、イソブチロニトリルがさらに好ましく、これらのニトリルは単独で用いても組み合わせて用いてもよい。また、クラウンエーテルとしては、例えば、15-クラウン-5、18-クラウン-6、21-クラウン-7、24-クラウン-8等を挙げることができ、これらのクラウンエーテルは単独で用いても組み合わせて用いてもよい。本電解液において、ニトリル系溶媒の含有量は50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は実質的に100質量%であり、クラウンエーテルの含有量は、電解液中のマグネシウムイオン濃度に対して好ましくは0.1~2当量、より好ましくは0.5~1当量を挙げることができる。好ましくは、本電解液は非水電解液である。本電解液は、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)及び/又はテトラグライムジメチルエーテル(テトラグライム)を含んでも含まなくてもよい。本電解液の製造にあたっては、マグネシウム塩、ニトリル系溶媒及びクラウンエーテルをいかなる順番で混合してもよい。
【0015】
本二次電池においては、本電解液をそのまま、或いはセパレータに含浸させ、電解質層として用いることができる。ここで、セパレータとしては、非水電解質二次電池のセパレータとして使用されるものであればどのようなものでも使用可能であり、例えば、高率放電性能を有する多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することができる。セパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体や、セルロースやセルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースなど)等を挙げることができる。
【0016】
本二次電池は、上記電解質層を備え、さらに負極及び正極を備えることを特徴とする。本二次電池に用いられる負極は、好ましくはマグネシウムを50質量%以上含むマグネシウム合金電極(本マグネシウム合金電極)であり、より好ましくは本マグネシウム合金電極はマグネシウム-ビスマス合金である。上記マグネシウム-ビスマス合金のビスマス含量は10~50質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。好ましい態様において、上記マグネシウム-ビスマス合金は、マグネシウムとビスマスの固溶体を含む、又はマグネシウムとビスマスの固溶体とマグネシウムとビスマスの金属間化合物を含むことを特徴とする。ここで、マグネシウムとビスマスの固溶体とマグネシウムとビスマスの金属間化合物を含むとは、マグネシウムとビスマスの固溶体と金属間化合物とが共晶の組織形態で合金中に存在する場合も含む。マグネシウム(Mg)とビスマス(Bi)の二元系合金は、その状態図から合金におけるBi含有量が固溶限である8.87質量%(1.12at%)までは金属Mg及びMg-Bi固溶体を形成し、8.87質量%(1.12at%)から共晶点である58.9質量%(14.3at%)まではMg-Bi固溶体とMg-MgBi共晶を形成し、58.9質量%(14.3at%)から82.2質量%(35at%)まではMg-MgBi共晶とMgBi金属間化合物を形成し、82.2質量%(35at%)以上ではMgBi金属間化合物とBi-Mg固溶体及び金属Biを形成することが知られており、製造条件によって組織の形態が異なる。上記マグネシウム-ビスマス合金においては、マグネシウムとビスマスの固溶体、又はマグネシウムとビスマスの固溶体とマグネシウムとビスマスの金属間化合物を含む。すなわち、上記マグネシウム-ビスマス合金の組成は、金属Mg及びMg-Bi固溶体が共存する形態、Mg-Bi固溶体とMg-MgBi共晶が共存する形態、及びMg-MgBi共晶とMgBi金属間化合物が共存する形態を含む。上記マグネシウム-ビスマス合金のビスマスの含有量は、電池反応が金属Mg及びMg-Bi固溶体の溶解-析出を伴うため、その体積当たりの電気容量を大きくする観点から、合金中に固溶体が形成されなくなるマグネシウム合金全体に対して58.9質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。上記マグネシウム-ビスマス合金のビスマスの含有量は、マグネシウム合金の加工成形性の観点から、マグネシウム合金全体に対して1~50質量%であることが好ましい。また、上記マグネシウム-ビスマス合金のビスマスの含有量は、酸化被膜形成の抑制効果の観点から、マグネシウム合金全体に対して1~58.9質量%であることが好ましく、1~50質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。上記マグネシウム-ビスマス合金におけるマグネシウムとビスマスの固溶体(Mg1-xBi)では、xは固溶体として実質的に存在できる下限である0.001以上、固溶限である0.0112以下の範囲が好ましい。本二次電池の負極における合金層は、マグネシウム(Mg)とビスマス(Bi)との固溶体(Mg1-xBi;ただし、xは0.001~0.0112)を含む、又はマグネシウム(Mg)とビスマス(Bi)との固溶体(Mg1-xBi;ただし、xは0.001~0.0112)とマグネシウム(Mg)とビスマス(Bi)との金属間化合物(MgBi)を含んでもよい。また、本マグネシウム合金電極は、本電解液とともに使用したときにマグネシウムの溶解-析出反応及び好ましくは合金-脱合金反応が見られるマグネシウム合金を使用して製造してもよい。ここでのマグネシウム合金としては、上記マグネシウム-ビスマス合金に加え、マグネシウムと、Al、Zn、Zr、Mn、Fe、Si、Cu、Ni及びCaから選択されるいずれか1又は2以上の金属との合金、具体的にはAZ31、AZ61、AZ80、ZK60、AZ91D、AM60B、AM50A、AM20、AS41B、AS21、AE42等を例示することができる。本マグネシウム合金電極は、これらの合金から製造したマグネシウム合金板を試験極として本電解液中でサイクリックボルタンメトリーを行い、マグネシウムの溶解-析出反応の有無を確認することにより選抜することができる。
【0017】
本二次電池における正極及び必要に応じて他の構成要素は、従来のマグネシウム二次電池に使用されているものを使用することができる。例えば、正極としては、正極活物質がバインダーにより集電体上に固定されたものを挙げることができ、必要に応じて導電助剤を含んでもよい。正極活物質としては、例えば、硫黄又は硫黄化合物、V、硫黄ドープV等のV系、MnO系、MnO、MgMnO等のMnO系などの酸化物系の正極、Mo系等の硫化物系の正極、Mg1.03Mn0.97SiO、MgCoSiO、MgFeSiO、MgMnSiO4、MoSe11、FePOなどを挙げることができる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース等の樹脂材料などを挙げることができる。また、導電助剤としては、例えば、無定型炭素、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素質物質などを挙げることができる。
【0018】
本酸化被膜形成抑制方法におけるマグネシウム塩及びニトリル系溶媒としては、本電解液に用いることのできるマグネシウム塩及びニトリル系溶媒であればよく、クラウンエーテルとしては、例えば、15-クラウン-5、18-クラウン-6、21-クラウン-7、24-クラウン-8等を挙げることができる。上記マグネシウム塩の濃度としては、電解液中のマグネシウムイオン濃度が0.01~2M、好ましくは0.1~1M、より好ましくは0.3~0.7Mとなる濃度を挙げることができ、上記クラウンエーテルの添加量としては、上記ニトリル系溶媒中のマグネシウムイオン濃度に対して好ましくは0.1~2当量、より好ましくは0.5~1当量になる添加量を挙げることができる。
【0019】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例
【0020】
1.材料及び方法
1-1 試験極の前処理
以下の合金からなる直径7mm、厚さ2mmの円柱状金属片の両面を、エメリーペーパー#220~#600~#2000の順番で研磨し、純アセトンで洗浄してサイクリックボルタンメトリーにおける試験極(Working electrode)とした。Mg-Bi合金1、Mg-Bi合金2は、特許文献2に記載の方法により製造した。
・AZ31(Mg 96質量%,Al 3質量%,Zn 1質量%)
・Mg-Bi合金1(Mg 50質量%,Bi 50質量%)
・Mg-Bi合金2(Mg 70質量%,Bi 30質量%)
【0021】
1-2 試験用セル
サイクリックボルタンメトリーの試験用セルとして、三極式ビーカーセルを用いた。概要を図1に示す。試験極、参照極、対極、電解液は以下のとおりとした。
試験極;上記1-1で前処理したMg合金板
参照極;Ag線
対極;Mgリボン
電解液;0.5M Mg(TFSA)/ブチロニトリル(BN)
0.5M Mg(TFSA)/ブチロニトリル(BN)
+0.25M 18-crown 6-ether(18C6)
*Mg(TFSA);マグネシウムビストリフルオロメタンスルホンイミド
【0022】
1-3 電気化学的測定(サイクリックボルタンメトリー)
上記サンプルに対して、サイクリックボルタンメトリーにより検証した。走査範囲は、-3.0~0.0Vで行った。走査速度は10mV/s、還元-酸化のサイクル数は100サイクルで行った。
【0023】
2.結果
2-1 AZ31
図2に、AZ31を試験極として用いたサイクリックボルタンメトリーの、50サイクル目の結果を示す。クラウンエーテルを添加していないニトリル系電解液を用いた場合には、試験極のマグネシウムの溶解-析出反応は消失したが、Mg配位性のクラウンエーテル(18C6)を添加することで、完全な被膜除去には至らず過電圧が生じてはいるものの、マグネシウムの溶解-析出反応を確認することができた。ここでの結果より、Biを含有していないMg電極でも、ニトリル系電解液にクラウンエーテルを添加することにより、酸化被膜を除去できることが示された。
【0024】
2-2 Mg-Bi合金1(Mg 50質量%,Bi 50質量%)
図3に、Mg-Bi合金1(Mg 50質量%,Bi 50質量%)を試験極として用いたサイクリックボルタンメトリーの、50サイクル目の結果を示す。試験極にマグネシウム-ビスマス合金電極を用いた場合は、過電圧低減については大きな変化は観察されなかったが、クラウンエーテルを添加することで電流値は2倍程度に増加し、マグネシウムの溶解-析出反応が加速されていることが示唆された。
【0025】
2-3 Mg-Bi合金2(Mg 70質量%,Bi 30質量%)
図4に、Mg-Bi合金2(Mg 70質量%,Bi 30質量%)を試験極として用いたサイクリックボルタンメトリーの、1、10、50、100サイクル目の結果を示す。図4A(18C6なし)と、図4B(18C6あり)を比較した結果、50サイクル以降に顕著な電流値の差が見られており、マグネシウムの含有量を増やした電極においてもクラウンエーテルの添加によってマグネシウムの溶解-析出反応の促進が観察され、マグネシウム負極の酸化被膜除去効果があることが示唆された。
【0026】
[比較例]
上記1-2の試験用セルにおいて、電解液を0.5M Mg(TFSA)/トリグライム(G3)に変更し、Mg-Bi合金1(Mg 50質量%,Bi 50質量%)を試験極として用いて10サイクルのサイクリックボルタンメトリーを行った。
【0027】
図5に、1、2、5、10サイクル目の結果を示す。本電解液を用いた図3の結果では、50サイクル目においても優れた電流値を示したのに対し、トリグライムを電解液として用いた場合には、サイクルを重ねるごとに電流値が低下し、トリグライムの酸化被膜除去効果(過電圧抑制効果)の持続性が本電解液よりも低いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、マグネシウム二次電池の負極(マグネシウム合金電極)への絶縁性の酸化被膜形成を抑制することができる。そのため、マグネシウム二次電池の課題であったサイクル特性の改善、電流値の向上を実現することができ、高電位かつ高容量なマグネシウム二次電池の開発を安価に行うことができる。本発明に係る電解液を用いて製造された二次電池は、これまでのリチウム二次電池の適用が難しかった車載用、宅地用など大容量蓄電デバイスに用いることができるため、産業上の利用可能性は極めて高い。
図1
図2
図3
図4
図5