(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】微生物凍結乾燥組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20231114BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20231114BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20231114BHJP
A01N 63/30 20200101ALI20231114BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12N1/20 B
A01N25/04 102
A01N25/12
A01N63/30
A01P3/00
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2019551170
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2018039398
(87)【国際公開番号】W WO2019082907
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017208588
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11426
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11427
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11428
(73)【特許権者】
【識別番号】000000169
【氏名又は名称】クミアイ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390034348
【氏名又は名称】ケイ・アイ化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【氏名又は名称】松本 久紀
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡信
(72)【発明者】
【氏名】明星 亘俊
(72)【発明者】
【氏名】服部 新吾
(72)【発明者】
【氏名】堀内 達也
(72)【発明者】
【氏名】川口 章
(72)【発明者】
【氏名】桐野 菜美子
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/067127(WO,A1)
【文献】特開昭63-063373(JP,A)
【文献】特開平10-243781(JP,A)
【文献】特開2017-007985(JP,A)
【文献】森地敏樹,微生物の凍結乾燥,真空,1971年,Vol. 14, No. 7,pp. 252-259
【文献】飯島貞二ほか,大腸菌の真空乾燥保存について(第2報),凍結および乾燥研究会会誌,Vol. 17,1971年,pp. 16-20
【文献】HIGL, B et al.,Bewertung und Optimierung Gefrier- und Vakuumtrocknungs- verfahren in der Herstellung von mikrobiellen Starterkulturen,Chemie Ingenieur Technik,2008年,Vol. 80, No. 8,pp. 1157-1164
【文献】HUNGRIA, M et al.,Preservation of rhizobia,Working with rhizobia,Australian Centre for International Agricultural Research,2016年,pp. 61-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾビウム(Rhizobium)属菌の生菌と5~10質量%の水分を含有してなる微生物凍結乾燥組成物の製造方法であって、該リゾビウム(Rhizobium)属菌が、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)から選ばれる1種又は2種以上であり、該生菌と10質量%を超える水分を含有してなる組成物を凍結乾燥する工程を含み、前記工程は、該組成物を凍結後に水分含量が10質量%となるまで減圧乾燥して以降、水分含量が5質量%未満となる以前に該乾燥を終了して、該生菌と5~10質量%の水分を含有する凍結乾燥組成物を得る工程である、微生物凍結乾燥組成物の製造方法により製造した微生物凍結乾燥組成物を0~10℃で保存することを特徴とする、該微生物凍結乾燥組成物中のリゾビウム(Rhizobium)属菌生菌生存率低下抑制方法。
【請求項2】
リゾビウム(Rhizobium)属菌の生菌と5~10質量%の水分を含有してなる微生物凍結乾燥組成物の製造方法であって、該リゾビウム(Rhizobium)属菌が、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株から選ばれる1種又は2種以上であり、該生菌と10質量%を超える水分を含有してなる組成物を凍結乾燥する工程を含み、前記工程は、該組成物を凍結後に水分含量が10質量%となるまで減圧乾燥して以降、水分含量が5質量%未満となる以前に該乾燥を終了して、該生菌と5~10質量%の水分を含有する凍結乾燥組成物を得る工程である、微生物凍結乾燥組成物の製造方法により製造した微生物凍結乾燥組成物を0~10℃で保存することを特徴とする、該微生物凍結乾燥組成物中のリゾビウム(Rhizobium)属菌生菌生存率低下抑制方法。
【請求項3】
リゾビウム(Rhizobium)属菌の生菌と5~10質量%の水分を含有してなる微生物凍結乾燥組成物の製造方法であって、該リゾビウム(Rhizobium)属菌が、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株から選ばれる1種又は2種以上であり、該生菌と10質量%を超える水分を含有してなる組成物を凍結乾燥する工程を含み、前記工程は、該組成物を凍結後に水分含量が10質量%となるまで減圧乾燥して以降、水分含量が5質量%未満となる以前に該乾燥を終了して、該生菌と5~10質量%の水分を含有する凍結乾燥組成物を得る工程である、微生物凍結乾燥組成物の製造方法により製造した微生物凍結乾燥組成物を水に投入
して、リゾビウム(Rhizobium)属菌の生菌の懸濁液
を得た後、定植前の有用植物の苗木を
当該懸濁液に浸漬することを特徴とする、根頭がんしゅ病の防除方法。
【請求項4】
リゾビウム(Rhizobium)属菌の生菌と5~10質量%の水分を含有してなる微生物凍結乾燥組成物の製造方法であって、該リゾビウム(Rhizobium)属菌が、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株から選ばれる1種又は2種以上であり、該生菌と10質量%を超える水分を含有してなる組成物を凍結乾燥する工程を含み、前記工程は、該組成物を凍結後に水分含量が10質量%となるまで減圧乾燥して以降、水分含量が5質量%未満となる以前に該乾燥を終了して、該生菌と5~10質量%の水分を含有する凍結乾燥組成物を得る工程である、微生物凍結乾燥組成物の製造方法により製造した微生物凍結乾燥組成物を微粉砕し、該粉砕物を含むリゾビウム(Rhizobium)属菌の生菌を含有する粉体を、定植前の有用植物の苗木に粉衣することを特徴とする、根頭がんしゅ病の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リゾビウム(Rhizobium)属菌生菌の凍結乾燥組成物等に関する。詳細には、リゾビウム属菌の生菌含有率(生菌残存率)が高い凍結乾燥組成物、その製造方法及びその使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
根頭がんしゅ病は、主に土壌中に生息する細菌である病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)(異名:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))、病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)(異名:アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes))、病原性リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)(異名:アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium vitis))(以下、本明細書において、これらを総称して「根頭がんしゅ病菌」という場合もある)が、植物体に感染し、「根頭がんしゅ」と呼ばれるがんしゅ(癌腫)を形成することにより、樹勢などを低下させたり、激しい場合は植物体を衰弱・枯死させる植物病の一種である。この根頭がんしゅ病は、日本国内においては、主に果樹や花卉に発生していることから、特に、果樹及び花卉の農業生産現場や公園等の樹木管理に深刻な被害をもたらす植物病である。
【0003】
根頭がんしゅ病では、前記根頭がんしゅ病菌のいずれもがTi(tumor-inducing)プラスミドを保有しており、かかる保有するTiプラスミドの一部(T-DNA領域)が、植物細胞核DNAに形質転換されることにより腫瘍化が誘導される。一度腫瘍が形成されると、根頭がんしゅ病菌を除去しても腫瘍は増殖を続け、植物体の衰弱・枯死などを引き起こす。従って、現状の技術では、植物体が根頭がんしゅ病を一度発病してしまうと、治療することは困難である。そのため、根頭がんしゅ病に関しては、植物体が根頭がんしゅ病菌に感染しないように予防措置をとることが重要である。
【0004】
このような根頭がんしゅ病菌の感染に対する予防措置としては、従来、根頭がんしゅ病菌に汚染された土壌に対して、土壌全体を加熱滅菌したり、クロルピクリン剤や臭化メチル剤等の土壌殺菌剤を用いて土壌を薫蒸消毒したり、根頭がんしゅ病菌がグラム陰性であるため、グラム陰性細菌用抗生物質で当該土壌を処理したりすることがなされてきた。しかし、このような方法では、当該土壌に含まれる、根頭がんしゅ病菌以外の有用土壌細菌も殺菌・除去されてしまうので、当該土壌の土質が改悪される。このように改悪された土壌を、本来の植物栽培に適した土壌に回復させるには、有機肥料の投与等が必要であるため、多大な経費・労力と、多時間とを要するという問題が生じる。さらに、土壌殺菌剤を用いた土壌の薫蒸消毒では、土壌殺菌剤の毒性がきわめて高く、作業者及び周辺住民の健康を害する危険性がある。
【0005】
そこで、上記に代わる方法として、近年、非病原性菌を生物農薬として用いる防除方法が提案されている。特に有効なものとして、非病原性リゾビウム属菌を生物農薬として用いる方法が提案され、例えば、非病原性のリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)(異名:アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium vitis))F2/5(pT2TFXK)株を拮抗細菌として用いる方法(特許文献1)、非病原性のリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株、ARK-2株、ARK-3株を生物農薬として用いる防除方法(特許文献2)、非病原性のリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)VAR03-1株を拮抗細菌として用いる方法(非特許文献1)、非病原性のリゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)(異名:アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter))K84株を生物農薬として用いる拮抗的防除方法(非特許文献2)などが開示されている。
【0006】
これらのようなリゾビウム属菌は、好気的条件下に、例えば通気撹拌培養法、振盪培養法などの液体培養法又は固体培養法等によって培養することができるが、短時間で大量の生菌を得ることを目的とする工業的方法としては液体培養法が適する。例えば、LB(Luria-Bertani)培地などの液体培地を用いてリゾビウム属菌を培養し、リゾビウム属菌の生菌を濃厚に含有する水性培養液を得ることができる。
【0007】
非病原性リゾビウム属菌を農薬活性成分とする生物農薬として最も容易な形態は、前記水性培養液をそのまま原料とした水性液状農薬組成物であるが、リゾビウム属菌は偏性好気性菌であるため、その生菌は継続的に水性液状農薬組成物中の溶存酸素を消費する。よって、水性培養液中のリゾビウム属菌の生菌の生存状態を維持するためにはエアレーションなどによる酸素供給が必須となる。しかしながら、前記水性培養液を農薬組成物として流通可能な形態とするためには、前記水性培養液をボトルなどに充填して封を施す必要があるのであって、包装後の酸素供給は期待できない。したがって、前記水性培養液を主成分とする水性液状農薬組成物の製品は貯蔵に適さず、実用に耐えない。そこで、非病原性リゾビウム属菌の生菌を農薬活性成分とする生物農薬としては、何らかの手段により前記水性培養液を固形化した固形農薬組成物が適当な形態と考えられる。
【0008】
しかし、液体培地を主成分とする水性培養液は多量の水分を含有するため、シリカ(ホワイトカーボン)などの吸水性担体に吸着して粉体化する方法では多量の吸水性担体が必要となり、この方法では単位質量あたりの生菌数が少ない。すなわち、農薬活性成分の希薄な固形農薬組成物しか得ることができない。このような固形農薬組成物は、防除効果を発揮しうる生菌数での処理を行うために実用場面において大量に使用しなければならず、使い勝手が悪いうえ、荷姿が大きくなるために輸送や保管の過程でも不利となる。
【0009】
したがって、前記水性培養液を固形化する手段としては、乾燥により水分を除去し、残渣を固形分として得る方法が選択される。けれども、リゾビウム属菌の生菌は熱被曝に対しても脆弱であるため、高温曝露を前提とするスプレードライ法などの乾燥方法は適用しにくい。そこで、乾燥により水分を除去する手段としては、非加熱的に水分を除去できる凍結乾燥法が有力となる。なお、凍結乾燥法は、予め冷却して凍結させた含水組成物を真空に近い減圧条件下に置き、氷状態の水を昇華させることにより組成物中の水分を除去する方法であって、微生物の生菌を含有する組成物への凍結乾燥法の適用も多い(特許文献3~5、非特許文献3)。
【0010】
このような先行技術例などを参考に、リゾビウム属菌の生菌を含有する凍結乾燥組成物を得ることは可能であったが、現状では、凍結乾燥工程におけるリゾビウム属菌の生菌減少率は大きく、リゾビウム属菌生菌を含有する農薬組成物の工業的製造法としては非効率的であり、満足できるものではなかった。また、このようにして得られた凍結乾燥組成物を貯蔵した際のリゾビウム属菌生菌の長期生残性も充分なものではなかった。
【0011】
このような背景技術の中、当業界では、生菌生存率の高いリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物の製造技術、長期保存後の生残性に優れたリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物の製造・保管技術などの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第7141395号明細書
【文献】国際公開第2012/67127号
【文献】特表2005-538939号公報
【文献】特表2007-517888号公報
【文献】特表2012-525122号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Kawaguchi,A.,Studies on the diagnosis and biological control of grapevine crown gall and phylogenetic analysis of tumorigenic Rhizobium vitis.Journal of General Plant Pathology 75:462-463(2009)
【文献】Nicholas C.McClure et al.,Construction of a Range of Derivative of the Biological Control Strain Agrobacterium rhizogenes K84:a Study of Factors Involved in Biological Control of Crown Gall Disease.Appl.Environ.Microbiol.64:3977-3982(1998)
【文献】光岡知足編著、「ビフィズス菌の研究」、公益財団法人日本ビフィズス菌センター、1994年7月、p.256-259
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、生菌生存率の高いリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物の製造方法、長期保存後の生残性に優れたリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物等を提供することを目的とする。更には、該方法等により、効率的に製造可能且つ実際の作物生産現場に供給可能な非病原性リゾビウム属菌を農薬活性成分とする農薬組成物を用いる根頭がんしゅ病の防除方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行った結果、リゾビウム属菌の生菌と10質量%を超える水分を含有してなる組成物を水分含量が10質量%となるまで凍結乾燥して以降、水分含量が5質量%未満となる以前に該乾燥を終了し、該生菌と5~10質量%の水分を含有する凍結乾燥組成物とすることで、生菌生存率が高く且つ長期保存後の生残性に優れたリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)リゾビウム属菌の生菌を含有してなる凍結乾燥組成物であって、5~10質量%の水分を含有することを特徴とする、微生物凍結乾燥組成物。
(2)リゾビウム属菌が、リゾビウム・ラジオバクター、リゾビウム・リゾゲネス、リゾビウム・ヴィティスから選ばれる1種又は2種以上である、(1)に記載の凍結乾燥組成物。
(3)リゾビウム属菌が非病原性である、(1)又は(2)に記載の凍結乾燥組成物。
(4)リゾビウム属菌が、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株から選ばれる1種又は2種以上である、(3)に記載の凍結乾燥組成物。
(5)(1)~(4)のいずれか1つに記載の凍結乾燥組成物を0~10℃で保存することを特徴とする、凍結乾燥組成物中のリゾビウム属菌生菌生存率低下抑制方法。
(6)(3)又は(4)に記載の凍結乾燥組成物を水に投入して分散させた非病原性リゾビウム属菌の生菌の懸濁液に、定植前の有用植物の苗木を浸漬することを特徴とする、根頭がんしゅ病の防除方法。
(7)(3)又は(4)に記載の凍結乾燥組成物を微粉砕し、該粉砕物を含む非病原性リゾビウム属菌の生菌を含有する粉体を、定植前の有用植物の苗木に粉衣することを特徴とする、根頭がんしゅ病の防除方法。
(8)リゾビウム属菌の生菌と10質量%を超える水分を含有してなる組成物を凍結乾燥する工程を含み、前記工程は、該組成物を凍結後に水分含量が10質量%となるまで減圧乾燥して以降、水分含量が5質量%未満となる以前に該乾燥を終了して、リゾビウム属菌の生菌と5~10質量%の水分を含有する凍結乾燥組成物を得る工程であることを特徴とする、微生物凍結乾燥組成物の製造方法。
(9)リゾビウム属菌が、リゾビウム・ラジオバクター、リゾビウム・リゾゲネス、リゾビウム・ヴィティスから選ばれる1種又は2種以上である、(8)に記載の方法。
(10)リゾビウム属菌が非病原性である、(8)又は(9)に記載の方法。
(11)リゾビウム属菌が、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株から選ばれる1種又は2種以上である、(10)に記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リゾビウム属菌生菌の損失が少ない(生菌生存率の高い)凍結乾燥組成物を得ることができ、また、長期保存安定性良好なリゾビウム属菌生菌の凍結乾燥組成物を得ることができる。更に、非病原性リゾビウム属菌を本発明に適用した生物農薬組成物を製造して施用することにより、実際の作物生産現場等における根頭がんしゅ病の効果的な防除が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、リゾビウム属菌生菌を凍結乾燥組成物とするものであるが、本発明に用いられるリゾビウム属菌としては、例えば、リゾビウム・アラミ(Rhizobium alamii)、リゾビウム・アルカリソリ(Rhizobium alkalisoli)、リゾビウム・セルロシライティカム(Rhizobium cellulosilyticum)、リゾビウム・ダエジェオネンス(Rhizobium daejeonense)、リゾビウム・エンドフィティカム(Rhizobium endophyticum)、リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)、リゾビウム・ファバエ(Rhizobium fabae)、リゾビウム・ガリカム(Rhizobium gallicum)、リゾビウム・ギアルディニ(Rhizobium giardinii)、リゾビウム・グラハミ(Rhizobium grahamii)、リゾビウム・ハイナネンセ(Rhizobium hainanense)、リゾビウム・フアウトレンス(Rhizobium huautlense)、リゾビウム・ガレガーエ(Rhizobium galegae)、リゾビウム・インディカ(Rhizobium indica)、リゾビウム・インディカス(Rhizobium indicus)、リゾビウム・インディゴフェラエ(Rhizobium indigoferae)、リゾビウム・ラリームーレイ(Rhizobium larrymoorei)、リゾビウム・レグミノサルム(Rhizobium leguminosarum)、リゾビウム・ロイカエナエ(Rhizobium leucaenae)、リゾビウム・ロエセンス(Rhizobium loessense)、リゾビウム・ルピニ(Rhizobium lupini)、リゾビウム・ラシタナム(Rhizobium lusitanum)、リゾビウム・メソシニカム(Rhizobium mesosinicum)、リゾビウム・ミルオネンス(Rhizobium miluonense)、リゾビウム・モンゴレンス(Rhizobium mongolense)、リゾビウム・マルチホスピティウム(Rhizobium multihospitium)、リゾビウム・ナガージュナ・ナガレンシス(Rhizobium nagarjuna nagarensis)、リゾビウム・オリゼ(Rhizobium oryzae)、リゾビウム・ファゼオリ(Rhizobium phaseoli)、リゾビウム・ピシ(Rhizobium pisi)、リゾビウム・ピュセンス(Rhizobium pusense)、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)、リゾビウム・ルビ(Rhizobium rubi)、リゾビウム・セレニティレデゥセンス(Rhizobium selenitireducens)、リゾビウム・ソリ(Rhizobium soli)、リゾビウム・スラエ(Rhizobium sullae)、リゾビウム・ティベティカム(Rhizobium tibeticum)、リゾビウム・トリフォリ(Rhizobium trifolii)、リゾビウム・トロピシ(Rhizobium tropici)、リゾビウム・ツクストレンス(Rhizobium tuxtlense)、リゾビウム・アンディコラ(Rhizobium undicola)、リゾビウム・ヴァリダム(Rhizobium validum)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)などが挙げられ、これらを人工的に改変(変異処理や遺伝子組み換えなど)した株も用いることができる。
【0019】
本発明は、上記したリゾビウム属菌の中でも、リゾビウム・ラジオバクター、リゾビウム・リゾゲネス、リゾビウム・ヴィティスへの適用が好適である。本発明の凍結乾燥組成物やその製造方法は、このように根頭がんしゅ病菌、非病原性リゾビウム属菌のいずれのリゾビウム属菌にも適用できるが、根頭がんしゅ病の防除などの生物農薬に使用できるのは非病原性リゾビウム属菌である。本発明を好適に適用できる非病原性リゾビウム属菌の例としては、例えばリゾビウム・ヴィティス(異名:アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium vitis))F2/5(pT2TFXK)株(特許文献1参照)、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株、リゾビウム・リゾゲネス(異名:アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter))K84株(商品名:バクテローズ(登録商標)、日本農薬株式会社製品)などを挙げることができ、この他の天然由来又は人工的に変異処理や遺伝子組み換えなどがされた非病原性リゾビウム属菌に適用することもできるが、なかでも非病原性のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株、ARK-2株、ARK-3株、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株は特に好適に適用可能である。以下、本明細書において、非病原性リゾビウム属菌を用いた本発明の凍結乾燥組成物を指して、「本発明の農薬組成物」又は単に「農薬組成物」と言うことがある。
【0020】
この非病原性リゾビウム属菌のうち、ARK-1菌株、ARK-2菌株及びARK-3菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(現独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2010年(平成22年)10月14日付で上記名称で寄託された後、2011年(平成23年)10月31日付けで国際寄託に移管されており、その受託番号は、ARK-1菌株はFERM BP-11426であり、ARK-2菌株はFERM BP-11427であり、そしてARK-3菌株はFERM BP-11428である。
【0021】
さらに、農薬組成物とはならない場合があるが、例えば圃場実験などにおける病原菌の接種用材料として、根頭がんしゅ病菌を本発明の凍結乾燥物としてもよいし、その他、生菌の保存などのあらゆる用途に供するために、全てのリゾビウム属菌を本発明の凍結乾燥組成物とすることができる。
【0022】
本発明に用いるリゾビウム属菌は、単離された種菌を培養することにより増殖させることができる。この種菌は、上記寄託菌株や市販品株を平板培地などで培養して得る方法以外であっても、天然に普遍的に存在する菌株であれば当業者は自ら単離することにより入手可能であり、例えば外来種の菌株や閉鎖環境中で突然変異を起こした菌株についても、公知のものであれば独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NRBC)のような生物遺伝資源機関などから入手することができる。天然に全く存在しない、例えば人為的に遺伝子を組み換えた菌株は、自ら実験室内などで作成し或いは他者から譲渡された菌株又はそれらを純粋培養して得た菌株を種菌として用いてもよい。
【0023】
また、リゾビウム属菌は、前培養及び本培養のどちらについても、液体培養法又は固体培養法のいずれによっても培養することができるが、短時間で大量の生菌を得ることを目的とする工業的培養方法としては液体培養法が適する。
【0024】
液体培養法の培地に用いる炭素源としては、グルコース、スクロース、可溶性デンプン、デンプン糖化液、糖蜜等の糖類、クエン酸等の有機酸など、窒素源としては、アンモニア、硫安、燐安、塩安、硝安等のアンモニウム塩や硝酸塩が適宜使用される。無機塩としては、リン酸、カリウム、マグネシウム、マンガン等の塩類、例えばリン酸二水素カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸第一鉄などがあげられる。また、所望によりビタミン、アミノ酸、核酸関連物質等の微量有機栄養素や、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粕等の有機物を添加してもよい。さらに、必要に応じて消泡剤等の種々の添加剤を添加することもできる。
【0025】
リゾビウム属菌の液体培養に適した具体的な培地組成の例としては、酵母エキス0.5g、マンニトール5g、ラクトース5g、リン酸水素二カリウム0.5g、塩化ナトリウム0.2g、塩化カルシウム2水和物0.2g、硫酸マグネシウム7水和物0.1g、塩化鉄(III)6水和物0.1g及び蒸留水1000mLからなりpH7に調整した培地や、酵母エキス1g、マンニトール10g、土壌抽出液200mL及び蒸留水800mLからなりpH7.2に調整した培地などを挙げることができる他、LB培地(トリプトン5g、酵母エキス2.5g、塩化ナトリウム5g、5規定の水酸化ナトリウム水溶液0.2mL及び蒸留水1000mLを混合したもの)なども使用することができるが、これらの例示に限定されることなく、当業者は目的とする菌株の栄養要求特性などに応じて最適化した培地組成を設計することができる。また、流加培養を行うことも可能である。
【0026】
なお、前記培地の調製を含め、リゾビウム属菌の培養操作は全て無菌的に行う。培地成分とする材料には滅菌したものを用いる。滅菌方法としては、典型的にはオートクレーブを用いた蒸気滅菌が採用されるが、高温や高圧に耐えない材料においては、適当な代替手段を採ってもよい。蒸気滅菌以外の滅菌方法としては火炎滅菌、乾熱滅菌などの加熱による方法、γ線、X線、波長200~280nmの紫外線(UV-C)のような電離放射線又はマイクロ波や高周波のような非電離放射線などの電磁波照射による滅菌方法、酸化エチレンガスなどによるガス滅菌、エタノール滅菌、過酸化水素低温プラズマ滅菌、グルタルアルデヒド、フタルジアルデヒド、次亜塩素酸、過酢酸などによる化学滅菌などの化学作用による滅菌方法、濾過滅菌などの分離除去による滅菌方法などを挙げることができるが、特に限定されない。
【0027】
さらに、リゾビウム属菌は偏性好気性菌であり、水性培養液中の溶存酸素を消費するため、これを補充するために通気培養を行うことが好ましい。また、リゾビウム属菌が培地中の栄養成分を効率的に利用できるよう、撹拌培養又は振盪培養を行うことも好ましい。
【0028】
そして、単離したリゾビウム属菌は前記調製した培地に接種して培養する。この際、最初に少量の培地を用いて、菌数の増殖曲線が定常期に至るまで前培養(拡大培養)を行い、ある程度菌数を増やしてから、大量の培地を用いた本培養を行うとよい。培養温度は通常10~40℃程度、好ましくは15~35℃程度の範囲から選択されるが、特に限定されず、当業者は目的とする菌株の最適生育温度に応じて適切な培地温度を選択することができる。また、培養時間は24~72時間程度が目安として示されるが、これも菌株の生育状況等に応じて適宜調整できる。
【0029】
培養を終了した水性培養液は、そのまま凍結乾燥組成物の材料としてもよいが、この水性培養液は大量の水分を含むため、凍結乾燥工程に多大な電力量を要する。したがって、凍結乾燥工程の前に水性培養液中の水分をある程度取り除き、リゾビウム属菌の生菌の濃縮物を得て、前記濃縮物を凍結乾燥組成物の材料とすることが極めて好ましい。前記水性培養液からリゾビウム属菌の生菌の濃縮物を得る方法は、生菌を傷害しない方法であれば特に限定されないが、例えば遠心分離による脱水方法などを挙げることができる。
【0030】
例示した遠心分離法による濃縮工程では、水性培養液中の水分の大半と、それに溶解している培地成分やリゾビウム属菌の産生物などを同時に取り除くことができる。リゾビウム属菌の生菌の濃縮物に含まれる不純物を更に少なくしたい場合は、該濃縮物を滅菌水などに分散して、調製した分散液を再度遠心分離すればよく、濃縮物中の不純物含有率が所望の水準以下となるまでこの洗浄操作を繰り返せばよい。
【0031】
また、リゾビウム属菌のような微生物生菌の凍結乾燥においては、細胞内で氷結した水分がもたらす細胞傷害から生菌を保護することなどを目的として、凍結乾燥工程前(培養終了時あるいは濃縮後)に保護剤を添加することが好ましい。前記保護剤としては、例えばタンパク質及びその加水分解物、炭水化物(糖質)、糖アルコール、アミノ酸及びその塩類、イオン性ハロゲン化物塩などを挙げることができ、以下にそれぞれの具体例を示すが、本発明の保護剤は以下に示された例に限定されるものではない。
【0032】
タンパク質としては、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、卵アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリン、大豆タンパク質、小麦タンパク質、スキムミルク、カゼイン、乳清タンパク質などのタンパク質を挙げることができる。また、これらタンパク質の加水分解物を使用することも可能である。
【0033】
炭水化物(糖質)としては、例えばジヒドロキシアセトン、グリセルアルデヒドなどのトリオース;エリトルロース、エリトロース、トレオースなどのテトロース;リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボースなどのペントース;プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース、ラムノースなどのヘキソース;セドヘプツロース、コリオースなどのヘプトース;スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ネオラクトース、ガラクトスクロース、シラビオース、ルチノース、ビシアノース、キシロビオース、プリメベロースなどの二糖類;ニゲロトリオース、マルトトリオース、メレジトース、マルトトリウロース、ラフィノース、ケストースなどの三糖類;アカルボース、ニストース、ニゲトテトラオース、スタキオースなどの四糖類;マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、マンナンオリゴ糖などのオリゴ糖;アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、キシログルカン、寒天などの多糖類などを挙げることができる。
【0034】
糖アルコールとしては、例えばグリセロール、エリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ボレミトール、ペルセイトール、イノシトール、クエルシトールなどを挙げることができる。
【0035】
アミノ酸としては、例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンなどを挙げることができる。また、これらアミノ酸の塩を使用することも可能である。
【0036】
イオン性ハロゲン化物塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化マグネシウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化亜鉛、臭化アンモニウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アンモニウムなどを挙げることができる。
【0037】
この他、例えば硫酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの塩類、メチルアミンなどのアルキルアミン、トリメチルグリシンなどのベタイン、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル、更にはプロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、界面活性剤なども保護剤として使用可能である。
【0038】
また、保護剤以外にも、所望により酸や塩基などのpH調整剤、シリコーン系やポリエーテル系などの消泡剤、色素などの着色剤などを添加することもできる。
【0039】
前記保護剤等は1種を単独で用いてもよいし、任意2種以上を組み合わせて用いても何ら問題ない。また、これらの保護剤などは、予め若干量の滅菌水などに溶解し、保護剤溶液として、リゾビウム属菌の生菌の水性培養液又はその濃縮物に直接添加し、混合してもよい。以下の本明細書において、リゾビウム属菌の生菌の水性培養液及びその濃縮物、ならびにそれら自身に保護剤などが添加された組成物を含めて総称し、「リゾビウム属菌の生菌原液」、又は単に「生菌原液」と言う場合がある。
【0040】
かくして得られたリゾビウム属菌の生菌原液は、まず常圧条件下にて冷却し、予備凍結する。この予備凍結に用いられる温度は、生菌原液の共晶点未満であれば特に限定されないが、通常は-80~-20℃程度の低温で実施される。なお、特定株のリゾビウム属菌生菌原液1種を単独で予備凍結させるのが通常であるが、所望により、複数種の生菌原液を混合して予備凍結させることも可能である。
【0041】
次いで、予備凍結した生菌原液を、1~100Pa程度の減圧条件下、凍結状態の水分を昇華させることにより乾燥する。ここで、凍結乾燥工程そのものは公知の方法に拠って実施することができるが、常法にしたがって生菌ケーキの水分含量が5質量%未満となるまで凍結乾燥を実施すると、凍結乾燥に要する時間がより長くなり、凍結乾燥前の生菌原液に含まれていたリゾビウム属菌の生菌数と比較して、凍結乾燥組成物中の生菌数はかなり減少してしまう。本発明の凍結乾燥組成物の製造においては、最終的な凍結乾燥組成物に5質量%以上の水分を残存させるため、通常の凍結乾燥法においては未乾燥と判断される時点で乾燥を終了しなければならない。一方、水分含量が10質量%を超える凍結乾燥組成物は無視できない程度の粘着性を示して取り扱いに難渋するうえ、貯蔵中に雑菌が繁殖して凍結乾燥組成物が腐敗することがあり、また、凍結乾燥組成物を貯蔵した際のリゾビウム属菌の生菌の長期生残性にも悪影響を及ぼす場合があって好ましくない。したがって、生菌ケーキの含有水分が5~10質量%の範囲となる時点を乾燥の終点に設定する必要がある。
【0042】
従来、微生物の生菌を含有する凍結乾燥組成物において、その水分含量は5質量%未満とすることが好ましいとされており、例えば0.1~4.5質量%、例えば約3質量%程度が好ましいと言われてきた。凍結乾燥組成物にあえて5質量%以上の水分を残存させることによって、凍結乾燥工程前後におけるリゾビウム属菌の生菌生存率が向上し、しかもかかる凍結乾燥組成物中の生菌の長期生残性も向上したという本発明の知見は、前記技術常識に反するものであって、驚くべきことであるが、前記乾燥の終点は乾燥が比較的速やかに進行する定率乾燥期間の途上にある場合が多く、乾燥強度を乾燥時間で管理するときは適正な乾燥時間の範囲が狭いため厳密に設定する必要がある。終点の設定方法としては、例えば、実際の製造と同じ条件で生菌ケーキの残存水分が5~10質量%となる乾燥時間を実験的に定める方法を挙げることができるが、特に限定されず、合理的なものであればいずれの方法に拠ってもよい。
【0043】
乾燥を終えた凍結乾燥組成物はそのまま、あるいは所望により粉砕などの加工をして、所定の容器に包装し、使用するまで室温の冷暗所、冷蔵庫、冷凍庫などに貯蔵する。なお、必要であれば、ここで複数種の菌株の生菌凍結乾燥組成物を混合して包装しても良い。包装の形態は特に限定されないが、アンプル、バイアル、アルミ袋などの密封可能な材質が好ましい。あるいは、粒状粒子としてからコーティング物質(ペクチンなどの糖質、ゼラチンなどのタンパク質等)でコーティングすることもできる。本発明の凍結乾燥組成物が含有するリゾビウム属菌の生菌は、0~10℃、例えば5℃の冷蔵保存では経時的な生菌数減少がほとんどないため、年単位での貯蔵が可能である。
【0044】
本発明の凍結乾燥組成物は、その製造において、減圧に耐えうる気密容器或いは気密室、氷の昇華熱を補う加熱装置、気化した水を気密室から排気して捕捉するコールドトラップ及び減圧状態を作り出す真空ポンプ又はそれら全てのパッケージである凍結乾燥装置を必要とするが、ひとたび製造してしまえばその貯蔵は極めて簡便であり、かかる貯蔵に要するコストも僅かなものである。微生物の生菌の保存手段として、現在汎用されている技術はグリセロールストックであるが、この方法は、例えば-80℃程度の低温設定が可能なディープフリーザーなどの高性能冷凍装置を必要とする。貯蔵すること自体が目的であるため、貯蔵期間の終点が明確でない微生物の生菌の保存において、グリセロールストックは高性能冷凍装置が半永久的に大量の電力を消費し続け、また該電力が安定して供給され続けることを前提とするものであり、開発途上国などの電力供給が不安定な地域においてはそもそも成立し難いし、先進国においても不慮の停電に対して脆弱であるという事情は変わらないのであって、停電対策として発電装置などの予備電源を併設する必要がある。本発明の凍結乾燥組成物は、ごく一般的な家庭用の冷蔵庫程度で長期貯蔵が可能であり、また、数ヶ月程度の常温貯蔵にも充分耐えることができるため、数時間から数日間程度の長期停電にも特に対策を必要とせず、高性能冷凍装置及びその運転に必要な予備電源などの周辺設備を必要としないリゾビウム属菌の生菌の保存方法となりうる。
【0045】
本発明に用いたリゾビウム属菌が非病原性である場合、本発明の凍結乾燥組成物は農薬組成物として用いることができる。かかる農薬組成物の形態としては、実際の作物生産現場で水に希釈することを予定して、本発明の凍結乾燥組成物をそのまま用いてもよいし、衝撃式粉砕機など公知の粉砕装置を用いて本発明の凍結乾燥組成物を粉砕し、更には所望により界面活性剤や固体担体等の、農薬組成物に通常用いられる補助剤などを配合して混合し、水和剤や粉剤の形態に加工してもよい。
【0046】
本発明の農薬組成物によれば、これを植物体(種子を含む)又は土壌に適用することにより農園芸作物を根頭がんしゅ病から防除することができ、種子発芽率向上も図ることができる。なお、本発明において「防除」とは、対象とする植物が根頭がんしゅ病菌に感染することを防止することにより、当該植物が根頭がんしゅ病に罹患し、がんしゅが形成されることを回避することを意味する。
【0047】
上記農薬組成物は、植物にがんしゅ形成を促す病原性を有する根頭がんしゅ病菌により植物に引き起こされる根頭がんしゅ病の防除に顕著な効果を示す。対象とする植物の種類は特に制限されないが、具体的にはリンゴ、バラ、スモモ、オウトウなどのバラ科植物、キクなどのキク科植物、ブドウなどのブドウ科植物、トマトなどのナス科植物を例示することができる。前記のARK-1株及びARK-3株は、上記植物のいずれに対しても高い根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。また、ARK-2株は、上記植物のうち、特にバラ、ブドウ及びトマトに対して根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。K84株は、上記植物のうち、特にリンゴ、バラ、キクに対して根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。
【0048】
本発明の農薬組成物の施用法は、前述の農薬組成物の形態に応じ、作物によって適宜選択されてよいが、例えば地上散布処理、土壌灌注処理、植物を菌液に浸漬する処理、植物に菌粉を粉衣する処理などがある。
【0049】
本発明の農薬組成物を水に投入して分散させた非病原性リゾビウム属菌の生菌の懸濁液として使用する場合、該懸濁液に含まれる非病原性リゾビウム属菌の生菌の菌濃度は、所望の防除結果が得られるものであればよく、何ら限定されるものではないが、あまり菌濃度が薄いと十分な結果が得られず、逆にあまり菌濃度を濃くしても菌が無駄になることがあるので、例えば107~109CFU/mLの範囲で適宜調整することができる。
【0050】
本発明の凍結乾燥組成物を微粉砕し、該粉砕物を含む非病原性リゾビウム属菌の生菌を含有する粉体である農薬組成物を直接植物に接触させる方法で使用する場合も、該粉体に含まれる非病原性リゾビウム属菌の生菌の菌濃度は何ら限定されるものではないが、例えば107~109CFU/gの範囲で適宜調整することができる。
【0051】
本発明の農薬組成物の施用量は前述の適用作物や農薬組成物の形態などによって異なるため、一概には規定できないが、例えば農薬組成物を水に投入して分散させた懸濁液を土壌に灌注する場合には、ブドウやリンゴなどの果樹類であれば樹木の大きさに応じて1本あたり1~200Lとしてもよく、処理は定植前の定植を予定している位置又は定植後の株元が好ましい。また、農薬組成物を水に投入して分散させた懸濁液に植物を浸漬する処理では、特に限定されるものではないが、例えば定植前の樹木の根を、根が充分に浸かる量の前記懸濁液に10分間~24時間漬け込むようにしてもよく、それよりも小さい草本植物の苗の根であれば、10~60分間漬け込むようにしてもよい。更に、粉体の形態に加工した農薬組成物を直接植物に接触させる処理では、特に限定されるものではないが、例えば前記粉体を定植前の樹木の根に粉衣すればよい。処理対象物が種子である場合は、前記懸濁液に10~120分間種子を漬け込むか、種子と前記粉体を混合して粉衣するか、種子を土壌に播種した後に種子表面に前記懸濁液を散布(土壌灌注処理)する方法でもよい。
【0052】
このようにして、リゾビウム属菌の生菌と10質量%を超える水分を含有してなる組成物を水分含量が10質量%となるまで凍結乾燥して以降、水分含量が5質量%未満となる以前に該乾燥を終了し、該生菌と5~10質量%の水分を含有する凍結乾燥組成物とすることで、生菌生存率の高いリゾビウム属菌生菌の凍結乾燥組成物が得られ、これを0~10℃で保管することで、該凍結乾燥組成物中のリゾビウム属菌生菌生存率低下が抑制され、長期安定保存が可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。なお、下記実施例の操作は全て無菌的に行った。また、以下の記載において「部」は質量部を表す。
【0054】
(試験例1:凍結乾燥直後の生菌生存率)
<NA(Nutrient Agar)平板培地の調製>
肉エキス5部、ペプトン10部、塩化ナトリウム5部、寒天15部及び水1000部を混合し、加熱して完全に溶解させた後、シャーレに流し入れ、冷却して、NA平板培地を調製した。
【0055】
<前培養用培地の調製>
大豆ペプチド17部、酵母エキス3部、グルコース2.5部、塩化ナトリウム5部及び水1000部を混合して前培養用培地を調製した。
【0056】
<本培養用培地の調製>
グルコース2.5部をマルトース20部に変更し、消泡剤としてポリオキシアルキレングリコール5部を添加したこと以外は前培養用培地の調製と同様にして、本培養用培地を調製した。
【0057】
<保護剤水溶液の調製>
トレハロース20部、グルタミン酸ナトリウム10部、システイン塩酸塩8部カルボキシメチルセルロースナトリウム1部及び水61部を混合し、若干量の水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整して保護剤水溶液を調製した。
【0058】
<生菌原液の調製>
リゾビウム・ヴィティス ARK-1株のグリセロールストックを解凍して前記NA平板培地に植菌し、28℃で1日間静置培養した。形成したコロニーを白金耳にて1エーゼ掻き取り、前記前培養用培地に植菌し、26時間撹拌培養した。この水性培養液を前記本培養用培地に植菌し、28℃で43時間撹拌培養した。本培養終了後の水性培養液を遠心分離して上澄みを捨て、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌の濃縮物を得た。該濃縮物50部と前記保護剤水溶液50部を混合し、若干量の水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH7に調整し、生菌原液を調製した。生菌原液中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌数濃度を前記NA平板培地を用いて希釈平板法により測定したところ3.6×1011CFU/mLであった。
【0059】
<凍結乾燥組成物の調製>
[実施例1]
前記生菌原液25gを100mL容ナスフラスコに取り、-80℃に設定したディープフリーザーで予備凍結した後、凍結乾燥装置(FDU-2100型、東京理化器械株式会社製品)を用いて、ナスフラスコ内を5~10Pa程度に減圧して凍結乾燥を15時間実施し、凍結乾燥組成物を得た。ナスフラスコ内の凍結乾燥組成物の全質量は8.1g、水分含量は6.3質量%であった。
【0060】
[比較例1]
凍結乾燥を6時間としたこと以外は実施例1と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。ナスフラスコ内の凍結乾燥組成物の全質量は11.6g、水分含量は25.9質量%であった。この凍結乾燥組成物は粘着性を有した。
【0061】
[比較例2]
凍結乾燥を10時間としたこと以外は実施例1と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。ナスフラスコ内の凍結乾燥組成物の全質量は9.5g、水分含量は14.8質量%であった。この凍結乾燥組成物は粘着性を有した。
【0062】
[比較例3]
凍結乾燥を24時間としたこと以外は実施例1と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。ナスフラスコ内の凍結乾燥組成物の全質量は7.1g、水分含量は1.5質量%であった。
【0063】
[比較例4]
凍結乾燥を48時間としたこと以外は実施例1と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。ナスフラスコ内の凍結乾燥組成物の全質量は7.0g、水分含量は0.6質量%であった。
【0064】
<凍結乾燥後の生菌生存率評価>
前期実施例1及び比較例1~4の凍結乾燥組成物中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌数濃度(CFU/g)を、前記NA平板培地を用いて希釈平板法により測定し、これに調製された凍結乾燥組成物の全質量(g)を乗じて、凍結乾燥組成物中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株総生菌数(CFU)を求めた。この総生菌数を前記生菌原液25g中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の総生菌数9×1012CFU(=3.6×1011CFU/g×25g)で除し、凍結乾燥後のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌生存率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
この結果から、リゾビウム属菌の生菌原液を水分含量が6質量%程度の組成物となるように凍結乾燥することで、水分含量が1.5質量%以下、あるいは、水分含量が15質量%以上の組成物と比較して15~25%程度生菌生存率が高いリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物が得られることが明らかとなった。また、上記条件においては、乾燥時間を13~17時間程度とすることが本発明の凍結乾燥組成物製造において好ましいことも示された。
【0067】
(試験例2:長期保存後の生菌生存率)
<生菌原液の調製>
リゾビウム・ヴィティス ARK-1株のグリセロールストックを解凍して前記NA平板培地に植菌し、28℃で1日間静置培養した。形成したコロニーを白金耳にて1エーゼ掻き取り、前培養用培地に植菌し、25時間撹拌培養した。この水性培養液を前記本培養用培地に植菌し、30Lジャーファーメンターを用いて28℃で42時間撹拌培養した。本培養終了後の水性培養液を遠心分離して上澄みを捨て、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌の濃縮物を得た。該濃縮物50部と試験例1で作製した保護剤水溶液50部を混合し、若干量の水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH7に調整し、生菌原液を調製した。生菌原液中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌数濃度を前記NA平板培地を用いて希釈平板法により測定したところ3.5×1011CFU/mLであった。
【0068】
<凍結乾燥組成物の調製>
前記生菌原液7.0gを10mL容バイアル瓶に取り、-80℃に設定したディープフリーザーで予備凍結した後、凍結乾燥装置(Vir Tis25L Genesis SQ Super ES-55、SP Industries,Inc.製品)を用いて、200m Torr程度に減圧して凍結乾燥を48時間実施し、凍結乾燥組成物を得た。バイアル瓶内の凍結乾燥組成物の全質量は2.0g、水分含量は7.0質量%であった。
【0069】
<保存後の生菌生存率評価>
前記凍結乾燥組成物を密封したバイアル瓶のまま4℃の冷蔵室又は28℃の恒温室で静置保存した。所定期間保存した後、バイアル瓶内のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌数濃度(CFU/g)を、前記NA平板培地を用いて希釈平板法により測定し、これに調製された凍結乾燥組成物の全質量(g)を乗じて、凍結乾燥組成物中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株総生菌数(CFU)を求めた。この総生菌数を前記生菌原液7.0g中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の総生菌数2.5×1012CFU(=3.5×1011CFU/g×7.0g)で除し、保存後のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌生存率(%)を算出した。4℃保存の結果を表2、28℃保存の結果を表3に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
この結果から、本発明によるリゾビウム属菌の凍結乾燥組成物は、4℃の冷蔵保存では1年半経過しても生菌生存率は低下せず、28℃という厳しい保存条件下でも1/2程度にしか低下せず、長期に亘って保存できることが明らかとなった。
【0073】
(試験例3:水分含量と生菌生存率の関係)
NA(Nutrient Agar)平板培地の調製、前培養用培地の調製、及び保護剤水溶液の調製は、試験例1と同様にして行い、本培養用培地の調製は次のようにして行った。
【0074】
<本培養用培地の調製>
大豆ペプチド102部、酵母エキス18部、塩化ナトリウム30部、マルトース120部、ディスホームNQH-7403(消泡剤)を30部及び水6000部を混合して調製した。
【0075】
<生菌原液の調製>
リゾビウム・ヴィティス ARK-1株、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株及びアグロバクテリウム・ラジオバクター K84株のグリセリンストックを解凍して前記NA平板培地に植菌し、28℃で1日間静置培養した。前記前培養培地に種菌より一白金耳量を接種し、28℃の恒温室内で190rpmのロータリーシェーカーを用いて1日間前培養を行った。前培養液をそれぞれ接種して、10Lジャーファーメンターを用いて28℃で2日間本培養を行った。本培養中は、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株及びリゾビウム・ヴィティス ARK-3株はpHが7.0を超えないように、リン酸を用いてpH7.0以下制御とし、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株はpH6.0を超えないようにリン酸を用いてpH6.0以下制御で本培養を行った。本培養終了後の培養液を遠心分離して上澄みを捨て、生菌の濃縮物を得た。該濃縮物50部と前記保護剤水溶液50部を混合し、若干量の水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH7に調整し、生菌原液を調製した。生菌原液中の生菌数濃度を常法により測定した。
【0076】
<凍結乾燥組成物の調製>
前記各菌株の生菌原液25gを100mL容ナスフラスコに取り、-80℃に設定したディープフリーザーで予備凍結した後、凍結乾燥装置(FDUー2100型、東京理化器械株式会社製品)を用いて、ナスフラスコ内を5~10Pa程度に減圧して、凍結時間を変えて凍結乾燥を実施し、凍結乾燥組成物を得た。
【0077】
<凍結乾燥後の生菌生存率評価>
前記各凍結乾燥組成物中の菌株の生菌数濃度(cfu/g)を常法により測定し、これに調製された凍結乾燥組成物の全質量(g)を乗じて、凍結乾燥組成物中の総生菌数(cfu)を求めた。この総生菌数を前記各生菌原液25g中の菌株の総生菌数で除し、凍結乾燥後の各菌株の生菌生存率(%)を算出した。
【0078】
各菌株の生菌原液の凍結乾燥前のナスフラスコ当り総生菌数を下記表4に示す。
【0079】
【0080】
リゾビウム・ヴィティス ARK-1株の凍結乾燥後の生菌数と生存率を下記表5に示す。
【0081】
【0082】
リゾビウム・ヴィティス ARK-2株の凍結乾燥後の生菌数と生存率を下記表6に示す。
【0083】
【0084】
リゾビウム・ヴィティス ARK-3株の凍結乾燥後の生菌数と生存率を下記表7に示す。
【0085】
【0086】
アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株の凍結乾燥後の生菌数と生存率を下記表8に示す。
【0087】
【0088】
リゾビウム・ヴィティス ARK-1株、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株及びアグロバクテリウム・ラジオバクター K84株全ての菌株において、水分含量が低い程生菌生存率が低下した。また、水分含量が高いと凍結乾燥組成物が吸湿し易くなることや、カビが発生し易くなること等が考えられる。水分含量が5~10質量%である凍結乾燥組成物とすることにより、生菌生存率が高い製剤を安定して得られる。
【0089】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0090】
本発明は、生菌生存率の高いリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物の製造方法、長期保存後の生残性に優れたリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物等を提供することを目的とする。
【0091】
そして、リゾビウム属菌の生菌と10質量%を超える水分を含有してなる組成物を水分含量が10質量%となるまで凍結乾燥して以降、水分含量が5質量%未満となる以前に該乾燥を終了し、該生菌と5~10質量%の水分を含有する凍結乾燥組成物とすることで、生菌生存率が高く且つ長期保存後の生残性に優れたリゾビウム属菌生菌凍結乾燥組成物を得ることができる。
【受託番号】
【0092】
本発明で寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。
(1)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株(FERM BP-11426)
(2)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-2株(FERM BP-11427)
(3)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-3株(FERM BP-11428)