(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】位置推定システム、飛行体、情報処理装置、位置推定用の学習済みモデルの作成方法、及び、位置推定用の学習済みモデル
(51)【国際特許分類】
G01S 5/02 20100101AFI20231114BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
(21)【出願番号】P 2021026694
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔馬
(72)【発明者】
【氏名】タン ザカン
(72)【発明者】
【氏名】土屋 恒平
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-180882(JP,A)
【文献】国際公開第2020/208987(WO,A1)
【文献】特開2020-051766(JP,A)
【文献】特開2015-040721(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021300(WO,A1)
【文献】特開2005-229449(JP,A)
【文献】特開2020-160014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S 19/00-19/55
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波発信源である位置推定対象の位置を推定する位置推定システムであって、
推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行するように飛行制御する飛行制御部、推定対象エリア内に存在する前記位置推定対象から発せられる電波を前記所定ルートの飛行中に受信する電波受信部、及び、前記電波受信部で受信した前記電波の
受信電力を含む受信パラメータ情報を送信する送信部、を備える飛行体と、
前記送信部から送信される前記受信パラメータ情報を受信する受信部、前記飛行体の位置情報を取得する取得部、及び、前記受信部で受信した前記受信パラメータ情報と前記取得部で取得した前記飛行体の位置情報とに基づいて前記位置推定対象の位置を推定する位置推定部、を備える情報処理装置と、を有し、
前記位置推定部は、
前記推定対象エリアに対応する学習対象エリア内に位置する
学習用発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で
前記所定ルート
と同じルートを飛行している
前記飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報
に含まれる受信電力、前記飛行体の位置情報、及び、前記
学習用発信源の位置情報を含む
、前記同じルートにおける前記飛行体の互いに異なる複数の位置に対応する複数の学習点で測定された複数の学習データを用いて
予め学習し
て作成した位置推定用の学習済みモデルをコンピュータに実行させることにより、
前記推定対象エリアの上方で前記飛行体が前記所定ルートを飛行しているときに前記受信部で受信した前記受信パラメータ情報に含まれる受信電力と前記取得部で取得した前記飛行体の位置情報とを含む、前記所定ルートにおける前記飛行体の互いに異なる複数の位置に対応する複数のサンプリング点での複数の測定データに基づいて、前記位置推定対象の位置を推定することを特徴とする位置推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、
前記学習済みモデルは、ニューラルネットワークモデルを使用したものであることを特徴とする位置推定システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の位置推定システムにおいて、
前記受信パラメータ情報は
、前記位置推定対象から発せられる電
波の到来角情
報を含
み、
前記複数の測定データは、前記推定対象エリアの上方で前記飛行体が前記所定ルートを飛行しているときに前記受信部で受信した前記受信パラメータ情報に含まれる受信電力及び到来角情報と前記取得部で取得した前記飛行体の位置情報とを含むことを特徴とする位置推定システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の位置推定システムにおいて、
前記飛行体を複数備え、
前記位置推定部は、前記受信部で受信した複数の前記飛行体からの前記
複数の測定データに基づいて、前記位置推定対象の位置を推定することを特徴とする位置推定システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の位置推定システムに用いられる飛行体であって、
推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行するように飛行制御する飛行制御部と、
推定対象エリア内に存在する前記位置推定対象から発せられる電波を前記所定ルートの飛行中に受信する電波受信部と、
前記電波受信部で受信した前記電波の
受信電力を含む受信パラメータ情報を送信する送信部と、を備えることを特徴とする飛行体。
【請求項6】
電波発信源である位置推定対象の位置を推定する位置推定システムに用いられる情報処理装置であって、
推定対象エリア内に存在する前記位置推定対象から発せられる電波を該推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行している飛行体の電波受信部によって受信したときの
前記電波の受信電力を含む受信パラメータ情報を該飛行体から受信する受信部と、
前記飛行体の位置情報を取得する取得部と、
前記受信部で受信した前記受信パラメータ情報及び前記取得部で取得した前記飛行体の位置情報に基づいて前記位置推定対象の位置を推定する位置推定部と、を備え、
前記位置推定部は、
前記推定対象エリアに対応する学習対象エリア内に位置する
学習用発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で
前記所定ルート
と同じルートを飛行している
前記飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報
に含まれる受信電力、前記飛行体の位置情報、及び、前記
学習用発信源の位置情報を含む
、前記同じルートにおける前記飛行体の互いに異なる複数の位置に対応する複数の学習点で測定された複数の学習データを用いて
予め学習し
て作成した位置推定用の学習済みモデルをコンピュータに実行させることにより、
前記推定対象エリアの上方で前記飛行体が前記所定ルートを飛行しているときに前記受信部で受信した前記受信パラメータ情報に含まれる受信電力と前記取得部で取得した前記飛行体の位置情報とを含む、前記所定ルートにおける前記飛行体の互いに異なる複数の位置に対応する複数のサンプリング点での複数の測定データに基づいて、前記位置推定対象の位置を推定することを特徴とする情報処理装置
。
【請求項7】
推定対象エリア内に存在する電波発信源である位置推定対象
から発せられる電波を該推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行している飛行体の電波受信部によって受信したときの前記電波の受信電力を含む受信パラメータ情報及び前記飛行体の位置情報に基づいて、前記位置推定対象の位置を推定する情報処理装置のコンピュータに実行される位置推定用の学習済みモデルの作成方法であって、
前記推定対象エリアに対応する学習対象エリア内に位置す
る学習用発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で
前記所定ルート
と同じルートを飛行している
前記飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報
に含まれる受信電力、前記飛行体の位置情報、及び、前記
学習用発信源の位置情報を含む
、前記同じルートにおける前記飛行体の互いに異なる複数の位置に対応する複数の学習点で測定された複数の学習データを取得することと、
取得した複数の学習データを用いて、
前記推定対象エリアの上方で前記飛行体が前記所定ルートを飛行しているときに前記電波受信部によって受信した前記受信パラメータ情報に含まれる受信電力と前記飛行体の位置情報とを含む、前記所定ルートにおける前記飛行体の互いに異なる複数の位置に対応する複数のサンプリング点での複数の測定データに基づいて前記位置推定対象の位置を推定する位置推定用の学習済みモデルを作成することと、を含むことを特徴とする位置推定
用の学習済みモデルの作成方法。
【請求項8】
推定対象エリア内に存在する電波発信源である位置推定対象
から発せられる電波を該推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行している飛行体の電波受信部によって受信したときの前記電波の受信電力を含む受信パラメータ情報及び前記飛行体の位置情報に基づいて、前記位置推定対象の位置を推定する情報処理装置のコンピュータに実行される位置推定用の学習済みモデルであって、
前記推定対象エリアに対応する学習対象エリア内に位置す
る学習用発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で
前記所定ルート
と同じルートを飛行している
前記飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報
に含まれる受信電力、前記飛行体の位置情報、及び、前記
学習用発信源の位置情報を含む
、前記同じルートにおける前記飛行体の互いに異なる複数の位置に対応する複数の学習点で測定された複数の学習データを用いて
予め学習し
て作成した位置推定用の学習済みモデルであり、
前記推定対象エリアの上方で
前記飛行体が前記所定ルートを飛行している
ときに前記電波受信部によって受信した
前記受信パラメータ情報
に含まれる受信電力と前記飛行体の位置情報
とを含む、前記所定ルートにおける前記飛行体の互いに異なる複数の位置に対応する複数のサンプリング点での複数の測定データに基づいて前記位置推定対象の位置を推定する位置推定部として、前記コンピュータを機能させることを特徴とする位置推定用の学習済みモデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置推定システム、飛行体、情報処理装置、位置推定用の学習済みモデルの作成方法、及び、位置推定用の学習済みモデルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電波発信源である位置推定対象の位置を推定する位置推定システムが知られている。例えば、特許文献1に記載の位置推定システムは、推定対象エリアに複数設置したセンサ(電波受信装置)で、推定対象エリア内の第1電波発信源(位置推定対象)からの電波を受信し、受信した電波の第1観測情報(受信情報)に基づいて第1電波発信源の位置を推定する。この位置推定システムでは、複数設置した前記センサで、事前測定用である複数の第2電波発信源からの電波を受信し、受信した電波の第2観測情報(受信情報)と各第2電波発信源の位置とを位置指紋として記憶部に記憶しておく。そして、第1電波発信源の位置推定を行う際には、記憶部に記憶された位置指紋を用い、第1電波発信源からの電波の第1観測情報に基づいて第1電波発信源の位置を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、位置指紋法により位置推定を行う従来の位置推定システムでは、地上(地上の建物等を含む)に固定設置される電波受信装置により、電波発信源である位置推定対象からの電波を受信する。そのため、電波受信装置を設置するための設備コストが高騰するという課題がある。特に、より高精度な位置推定を行うためには多くの電波受信装置を設置することが必要であるため、設備コストの高騰は深刻な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る位置推定システムは、電波発信源である位置推定対象の位置を推定する位置推定システムであって、推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行するように飛行制御する飛行制御部、推定対象エリア内に存在する前記位置推定対象から発せられる電波を前記所定ルートの飛行中に受信する電波受信部、及び、前記電波受信部で受信した前記電波の受信パラメータ情報を送信する送信部、を備える飛行体と、前記送信部から送信される前記受信パラメータ情報を受信する受信部、前記飛行体の位置情報を取得する取得部、及び、前記受信部で受信した前記受信パラメータ情報と前記取得部で取得した前記飛行体の位置情報とに基づいて前記位置推定対象の位置を推定する位置推定部、を備える情報処理装置と、を有する。
【0006】
前記位置推定システムにおいて、前記位置推定部は、学習対象エリア内に位置する電波発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で所定ルートを飛行している飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報、前記飛行体の位置情報、及び、前記電波発信源の位置情報を含む複数の学習データを用いて学習した学習済みの位置推定モデルをコンピュータに実行させることにより、前記位置推定対象の位置を推定してもよい。
【0007】
また、前記位置推定システムにおいて、前記受信パラメータ情報は、少なくとも、前記位置推定対象から発せられる電波を受信したときの受信電力と該電波の到来角情報とを含んでもよい。
【0008】
また、前記位置推定システムにおいて、前記飛行体を複数備えてもよく、前記位置推定部は、前記受信部で受信した複数の前記飛行体からの前記受信パラメータ情報と、前記取得部で取得した複数の前記飛行体の位置情報とに基づいて、前記位置推定対象の位置を推定してもよい。
【0009】
本発明の他の態様に係る飛行体は、電波発信源である位置推定対象の位置を推定する位置推定システムに用いられる飛行体であって、推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行するように飛行制御する飛行制御部と、推定対象エリア内に存在する前記位置推定対象から発せられる電波を前記所定ルートの飛行中に受信する電波受信部と、前記電波受信部で受信した前記電波の受信パラメータ情報を送信する送信部と、を備える。
【0010】
本発明の更に他の態様に係る情報処理装置は、電波発信源である位置推定対象の位置を推定する位置推定システムに用いられる情報処理装置であって、推定対象エリア内に存在する前記位置推定対象から発せられる電波を該推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行している飛行体の電波受信部によって受信したときの受信パラメータ情報を該飛行体から受信する受信部と、前記飛行体の位置情報を取得する取得部と、前記受信部で受信した前記受信パラメータ情報及び前記取得部で取得した前記飛行体の位置情報に基づいて前記位置推定対象の位置を推定する位置推定部と、を備える。
【0011】
また、本発明の更に他の態様に係る情報処理装置は、電波発信源である位置推定対象の位置を推定する情報処理装置であって、推定対象エリア内に位置する電波発信源から発せられる電波を該推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行している又は所定位置に静止している飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報を該飛行体から受信する受信部と、前記飛行体の位置情報を取得する取得部と、前記受信部で受信した前記受信パラメータ情報及び前記取得部で取得した前記飛行体の位置情報に基づいて前記位置推定対象の位置を推定する位置推定部と、を備え、前記位置推定部は、学習対象エリア内に位置する電波発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で所定ルートを飛行している又は所定位置に静止している飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報、前記飛行体の位置情報、及び、前記電波発信源の位置情報を含む複数の学習データを用いて学習した学習済みの位置推定モデルをコンピュータに実行させることにより、前記位置推定対象の位置を推定する。
【0012】
本発明の更に他の態様に係る位置推定モデルの作成方法は、電波発信源である位置推定対象の位置を推定する情報処理装置のコンピュータに実行される位置推定モデルの作成方法であって、学習対象エリア内に位置する電波発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で所定ルートを飛行している又は所定位置に静止している飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報、前記飛行体の位置情報、及び、前記電波発信源の位置情報を含む複数の学習データを取得することと、取得した複数の学習データを用いて、推定対象エリア内に存在する前記位置推定対象の位置を推定する位置推定モデルを作成することと、を含む。
【0013】
本発明の更に他の態様に係る位置推定モデルは、電波発信源である位置推定対象の位置を推定する情報処理装置のコンピュータに実行される位置推定モデルであって、学習対象エリア内に位置する電波発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で所定ルートを飛行している又は所定位置に静止している飛行体の電波受信部で受信したときの受信パラメータ情報、前記飛行体の位置情報、及び、前記電波発信源の位置情報を含む複数の学習データを用いて学習した学習済みの位置推定モデルであり、推定対象エリア内に存在する前記位置推定対象から発せられる電波を該推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行している又は所定位置に静止している飛行体の電波受信部によって受信したときの受信パラメータ情報、及び、前記飛行体の位置情報に基づいて前記位置推定対象の位置を推定する位置推定部として、前記コンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位置推定システムにおける電波受信装置の設備コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る位置推定システムの概要を示す概略構成図。
【
図2】同位置推定システムの主要構成を示す機能ブロック図。
【
図3】実施形態における位置推定処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】推定対象エリアの上方の所定地点(空中)に静止させた状態(ホバリング状態)のドローンで電波の受信を行う一例を示す説明図。
【
図5】ニューラルネットワークを構成する1つのニューロンのモデルの一例を示す説明図。
【
図6】複数層構造のニューラルネットワークの一例を示す説明図。
【
図7】実施形態における位置推定モデル(学習済みモデル)の作成方法を実施する位置推定モデル作成システムの主要部を示す機能ブロック図。
【
図8】同位置推定モデル作成システムの概要を示す説明図。
【
図9】同位置推定モデル作成システムにより位置推定モデルを作成する手順を示すフローチャート。
【
図10】同位置推定モデル作成システムにより作成した2つの位置推定モデル(ニューラルネットワークモデルと回帰木モデル)と、プログラマーによってプログラミングされた最近傍法による推定プログラムとを用いた位置推定のシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図11】同シミュレーションのイメージ図(学習対象エリアを上から見た図)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る位置推定システムの概要を示す概略構成図である。
図2は、本実施形態における位置推定システムの主要構成を示す機能ブロック図である。
位置推定対象である発信源40は、例えばユーザ(利用者)が使用する携帯端末(ユーザ装置、UE、携帯端末などともいう。)であるが、電波を発信するものであればどのような装置であってもよい。
【0017】
本実施形態の位置推定システムは、対象エリアの上方に位置するドローン(無人航空機、UAV:Unmanned Aerial Vehicle)等の飛行体に、位置推定対象である発信源40から発信される電波を受信する電波受信部としての受信機を搭載し、受信機で受信した受信パラメータ情報に基づいて位置推定対象の位置を推定する。本実施形態では、飛行体としてドローンを用いる。ドローン70は、移動通信網等からなる通信網80を介して通信可能に接続される遠隔操作装置(以下、「遠隔ドローン操作装置」という。)82によって遠隔操作される。ドローン70は、遠隔ドローン操作装置82と通信することにより、自律制御により又は外部からの制御により所定の空域に滞在(空中に静止)又は移動(飛行)する。
【0018】
遠隔ドローン操作装置82は、通信網80を介してドローン70と通信する通信装置と、オペレータが操作するためのユーザインターフェース部と、ユーザインターフェース部を介したオペレータの操作に基づいてドローン70の飛行ルートデータを生成するデータ生成部とを備える。
【0019】
本実施形態において、通信網80には、情報処理装置としての位置推定装置300が通信可能に接続されている。位置推定装置300は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置で構成され、位置推定部301と、通信部302とを備える。位置推定部301は、位置推定対象の電波発信源である発信源40からの電波の受信パラメータ情報に基づいて当該発信源40の位置を推定する。また、通信部302は、ドローン70の通信機74から送信される情報(後述する受信パラメータ情報など)を受信する受信部、及び、ドローン70の位置情報を取得する取得部として機能する。
【0020】
ドローン70の位置情報は、ドローン70に組み込まれているGPS(グローバル・ポジショニング・システム)受信装置で取得されるGPS情報を取得するものでもよいし、遠隔ドローン操作装置82からドローン70の位置情報を取得するものでもよい。
【0021】
ドローン70は、遠隔ドローン操作装置82によって遠隔操作される無人航空機(UAV)である。ドローン70は、遠隔ドローン操作装置82から送られてくる飛行ルートデータを通信機74を介して受信し、この飛行ルートデータの示す飛行ルートでドローン70が飛行するように飛行制御を行う飛行制御部(フライトコントローラ)71を備えている。また、本実施形態では、位置推定対象である発信源40から発せられる電波を電波受信部としての受信機73を介して受信し、その受信電波に基づいて受信パラメータ情報を測定する受信情報処理部72を備えている。ドローン70に搭載されている通信機74は、受信情報処理部72で測定した受信電波の受信パラメータ情報を送信する送信部として機能する。ドローン70の通信機74から送信される受信パラメータ情報は、通信網80を経由して、位置推定装置300に取得される。
【0022】
ドローン70の飛行制御部71は、内部に組み込まれたコンピュータ等で構成され、制御プログラムを実行することにより、自身の飛行(移動)を自律制御してもよい。例えば、ドローン70の飛行制御部71は、自身の現在位置情報(例えばGPS位置情報)、予め記憶した位置制御情報(例えば飛行ルートデータ)などを取得し、それらの情報に基づいて所定ルートを自律的に飛行するようにしてもよい。
【0023】
図3は、本実施形態における位置推定処理の一例を示すフローチャートである。
遠隔ドローン操作装置82からドローン70の飛行制御部71に対して所定の飛行ルートデータを送信してドローン70を飛行させると(S11)、ドローン70は、推定対象エリアの上方を所定ルートで飛行する。ドローン70の飛行ルートは、適宜設定することができる。例えば、推定対象エリアの上空を一定の高さで円軌道又は円以外の形状の軌道を描くように周回移動するルートであってもよい。また、例えば、推定対象エリアの上空で高さを変化させながら周回移動する3次元的なルートであってもよい。また、例えば、同じルートを周回移動するルートである必要はない。
【0024】
このようにして推定対象エリアの上空を所定ルートで飛行するドローン70の受信機73が発信源40からの電波を受信したとき(S12のYes)、その受信電波についての受信パラメータ情報を受信情報処理部72により計測して取得する(S13)。
【0025】
受信パラメータ情報は、受信機73が発信源40から受信した電波に関する情報であって、発信源40の位置を推定するのに有用な情報であれば特に制限はない。具体例としては、受信電波の受信電力、受信電波の到来角に関する情報(到来角情報)、受信電波を受信したときのドローン70の位置情報(受信位置情報)などが挙げられる。
【0026】
受信電波の受信電力は、ドローン70の位置から発信源40(位置推定対象)までの距離を推定するのに有用なパラメータである。ドローン70の位置から発信源40までの距離を推定するのに有用なパラメータは、受信電力に限らず、他のパラメータを利用してもよい。
【0027】
受信電波の到来角情報は、ドローン70の位置から発信源40(位置推定対象)の方向を推定するのに有用なパラメータである。ドローン70の位置から発信源40の方向を推定するのに有用なパラメータは、到来角情報に限らず、他のパラメータを利用してもよい。
【0028】
受信電波を受信したときのドローン70の位置情報(受信位置情報)は、例えば、ドローン70に組み込まれているGPS受信装置で取得されるGPS情報を用いることができる。なお、受信電波を受信したときのドローン70の位置情報(受信位置情報)は、位置推定装置300が遠隔ドローン操作装置82などから別途取得できる場合には、受信パラメータ情報に必ずしも含める必要はない。
【0029】
このようにして受信情報処理部72で取得された受信パラメータ情報は、通信機74から送信され(S14)、通信網80を経由して、位置推定装置300に受信される(S21)。
【0030】
位置推定装置300は、通信部302で受信した受信パラメータ情報を位置推定部301に入力する(S22)。位置推定部301は、通信部302で受信したドローン70からの受信パラメータ情報と、これに含まれるドローン70の位置情報とに基づいて、発信源40の位置を推定する位置推定処理を行う(S23)。
【0031】
この位置推定処理は、所定の推定プログラムをコンピュータで実行することにより行われる。本実施形態の推定プログラムは、所定の学習対象エリア内に位置する学習用の電波発信源から発せられる電波を該学習対象エリアの上方で所定ルートを飛行しているドローン70の受信機73で受信したときの受信パラメータ情報とドローン70の位置情報と当該学習用の電波発信源の位置情報とを含む学習データを用いて学習した学習済みの位置推定モデルを用いる。ただし、推定プログラムは、プログラマーによってプログラミングされた最尤推定法等による推定プログラムを用いてもよい。
【0032】
位置推定部301は、学習済みの位置推定モデルにより発信源40(位置推定対象)の位置を推定したら、その推定結果を出力する(S24)。位置推定モデルから出力される推定結果の形式には特に制限はない。本実施形態の推定結果は、最も信頼度(確からしさ)の高い位置情報を1つだけ出力する形式であるが、例えば、複数の位置情報をそれぞれの信頼度情報とともに出力する形式であってもよい。
【0033】
従来システムは、位置推定対象からの電波を受信する電波受信装置を地上(地上の建物等を含む)に固定設置するものであったため、設置場所の確保、設置工事費などに費用がかかり、電波受信装置の設備コストが高騰する。特に、広い推定対象エリアで位置推定対象の位置を推定する場合には、多くの電波受信装置が必要となるため、設備コストの高騰は深刻である。
【0034】
これに対し、本実施形態における位置推定システムでは、推定対象エリアの上方で所定ルートを飛行するように飛行制御されるドローン70によって発信源40(位置推定対象)の電波を受信する。したがって、設置場所の確保、設置工事費などの費用が不要となり、電波受信装置の設備コストを抑制することができる。
【0035】
しかも、地上に設置される電波受信装置で位置推定対象の電波を受信する従来システムでは、地上の建造物(建物など)や自然物(山林など)などの遮蔽物が受信電波の邪魔になりやすく、位置推定の精度を落とす要因になっている。これに対し、本実施形態の位置推定システムでは、推定対象エリアの上方に位置するドローン70で電波を受信するため、地上の遮蔽物が受信電波の邪魔になりにくい。そのため、従来システムよりも位置推定精度の高い位置推定システムを実現できる。
【0036】
更に、本実施形態では、推定対象エリアの上方を所定ルートでドローン70を飛行させながら電波の受信を行う。そのため、従来システムでは複数の電波受信装置を配置してカバーしていた広い推定対象エリアも、より少ない台数、例えば1台のドローン70だけでカバーすることが可能である。したがって、本実施形態の位置推定システムによれば、電波受信装置の設備コストを大幅に抑制することが可能である。本実施形態は、従来の位置指紋法による位置推定に対し、その位置指紋情報(固定配置された複数の電波受信装置で取得される位置指紋情報)を時間軸に対して拡大することで低コストかつ高精度の位置推定手法を実現したものと言える。
【0037】
なお、
図4に示すように、推定対象エリアの上方の所定地点(空中)に静止させた状態(ホバリング状態)のドローン70で電波の受信を行うようにしてもよい。この場合も、地上の遮蔽物が受信電波の邪魔になりにくいことから、従来システムでは複数の電波受信装置を配置してカバーしていた広い推定対象エリアを、より少ない台数のドローン70でカバーすることが可能である。しかも、ドローン70の位置が固定されるため、位置推定部301が位置推定処理において、受信パラメータ情報とドローン70の位置との対応をとる処理が不要となり、より簡易な位置推定処理を実現することができる。ただし、本実施形態のように推定対象エリアの上方を所定ルートでドローン70を飛行させながら電波の受信を行う方がより少ない台数のドローン70での運用が可能であるので、両者のメリット、デメリットを比較考量して適宜選択すればよい。
【0038】
また、本実施形態の位置推定システムでの位置推定精度を高める目的で、複数のドローン70を用いてもよい。この場合、位置推定装置300は、複数のドローン70のそれぞれから、同一の発信源40(位置推定対象)からの電波に関する受信パラメータ情報を取得し、その複数の受信パラメータ情報から位置推定部301が当該発信源40の位置を推定する。これによれば、互いに異なる地点に位置する複数のドローンで同一の発信源40(位置推定対象)からの電波を受信した複数の受信パラメータ情報から位置推定を行うため、より精度の高い位置推定を行うことができる。
【0039】
本実施形態の位置推定システムは、様々な場面での適用が可能である。例えば、遭難者の捜索時に利用される場面、違法電波を監視する場面などが挙げられる。したがって、推定対象エリアは、市街地環境、山林などの非市街地環境、海上、空中など、あらゆるエリアに適用され得る。また、本実施形態の位置推定システムは、電波を発信する様々な電波発信源を位置推定対象とした位置推定が可能であり、様々な場面での適用が可能である。例えば、地上の電波発信源に限らず、電波発信源を搭載して飛行する航空機(無線航空機を含む)の位置推定にも適用可能である。
【0040】
また、本実施形態においては、位置推定処理を、位置推定装置300において実施しているが、位置推定処理の一部または全部の処理を他の装置(ドローン70や基地局など)において実施するようにしてよい。
【0041】
次に、本実施形態における位置推定装置300の位置推定部301においてコンピュータ装置に実行される学習済みの位置推定モデルの作成方法について、説明する。
本実施形態における学習済みの位置推定モデル(学習済みモデル)は、発信源40から発信される電波の受信パラメータ情報から当該発信源40の位置を推定するものである。そのため、本実施形態では、学習対象エリア内における多数の既知位置に位置する学習用の電波発信源から発信される電波を当該学習対象エリアの上方で所定ルートを飛行するドローン70で受信し、その受信パラメータ情報を含む学習データを用いて所定のモデルに学習させることにより、上述した学習済みモデルを作成する。なお、本実施形態では、所定のモデルとしては、ニューラルネットワークモデルを採用するが、他の機械学習モデルを使用することも可能である。
【0042】
「教師あり学習」では、一般に、ある入力と結果(ラベル)のデータの組を大量に機械学習装置に与えることで、それらのデータセットにある特徴を学習し、入力から結果を推定するモデル、すなわち、その関係性を帰納的に獲得することができる。これは、後述のニューラルネットワークやSVM(Support Vector Machine)などのアルゴリズムを用いて実現することができる。
【0043】
ニューラルネットワークは、例えば、
図5に示すようなニューロンのモデルを模したニューラルネットワークを実現する演算装置及びメモリ等で構成される。
図5に示すように、ニューロンは、複数の入力x(ここでは一例として、入力x1~入力x3としているが、その入力数は、より少ない数でもよいし、より多くの数でもよい。)に対する出力yを出力するものである。各入力x1~x3には、それぞれの入力xに対応する重みW(W1~W3)が乗算される。これにより、ニューロンは、次の式(1)により表現される出力yを出力する。なお、式(1)において、θはバイアスであり、fkは活性化関数である。
【0044】
y = fk{Σ(W×x)-θ} ・・・(1)
【0045】
ニューラルネットワークの動作には、学習モードと評価モードとがあり、学習モードでは学習データセットを用いて重みWを学習し、評価モードではその重みWを用いて評価用データの入力に対する出力を得る。なお、学習モードは、実際に位置推定装置300の位置推定部301において学習済みモデルとして稼働させた状態で得られる電波発信源からの電波の受信パラメータ情報を学習データとして学習に利用し、その後の位置推定部301における位置推定結果に反映させるようにすることも含まれる。
【0046】
重みW1~W3は、誤差逆伝搬法(バックプロパゲーション)等により学習可能である。誤差逆伝搬法は、入力xが入力されたときの出力yと正解の出力y(正解ラベル)との差分を小さくするように、各ニューロンについての重みを調整(学習)する手法である。
【0047】
ニューラルネットワークは、
図6に示すように、深層学習あるいはディープラーニングを呼ばれる複数層構造にすることが可能である。
図6の例は、中間層(隠れ層)が3層構造になっている例である。各層は複数のノード(ニューロン)で構成され、各層間のノードはそれぞれ異なる重みWで連結されている。入力層に投入された入力x1~x6は、重みWの異なる中間層内のノードを通過する中で、入力x1~x6が重みWによって重み付けされながら合成され、出力層を通過して出力yを導出する。
【0048】
本実施形態では、
図6に示すような複数層構造のニューラルネットワークからなるニューラルネットワークモデルを採用し、所定の学習対象エリア内における既知位置の電波発信源から発信される電波を当該推定対象エリアの上方に位置するドローン70で受信し、その受信パラメータ情報から作成される学習データを用い、当該既知位置を正解ラベルとして、教師あり学習をさせることにより、学習済みモデルを作成する。
【0049】
図7は、本実施形態における位置推定モデル(学習済みモデル)の作成方法を実施する位置推定モデル作成システムの主要部を示す機能ブロック図である。
【0050】
本実施形態の位置推定モデル作成システム320は、
図7に示すように、主に、学習データの元になる元データを収集して蓄積するデータ収集蓄積部321と、データ収集蓄積部で蓄積された元データから学習データを作成する学習データ作成部322と、学習データ作成部で作成された学習データを用いて所定のモデルに学習させて学習済みモデルである位置推定モデルを作成する学習部323とから構成される。本実施形態では、位置推定モデル作成システムのこれらの機能部が、単一の学習済みモデル作成装置に組み込まれているが、その一部の機能部を他の装置に組み込んでもよい。
【0051】
データ収集蓄積部321は、学習用の電波発信源である学習用発信源からの電波を、学習対象エリアの上方を所定ルートで飛行する飛行体であるドローン70で受信し、その受信パラメータ情報(ドローン70の位置情報を含む)を収集して蓄積するとともに、当該学習用発信源の位置情報も一緒に蓄積する。これにより、学習対象エリア内に位置する学習用発信源から発せられる電波を当該学習対象エリアの上方で所定ルートを飛行しているドローン70で受信したときの受信パラメータ情報、ドローンの位置情報、及び、学習用の発信源40の位置情報をそれぞれ蓄積することができる。このとき、より精度を高めるために、位置推定を行うための特徴量として有用な他の情報も併せて取得してもよい。
【0052】
なお、ここでは、学習対象エリアの上方を所定ルートで飛行する飛行体であるドローン70で受信する例であるが、学習対象エリアの上方で複数の位置(空中)にそれぞれ静止させた複数のドローン70で電波を受信するようにしてもよい。このときの複数のドローン70各位置は、位置推定モデルで位置推定対象の位置推定を行うときのドローン70の飛行ルートに対応するように設定するのが好ましい。
【0053】
データ収集蓄積部321が蓄積する受信パラメータ情報及びこれに含まれるドローン70の位置情報は、ドローン70の通信機74から送信され、通信網80を経由して、位置推定モデル作成システム320で受信することで、取得できる。なお、位置推定モデル作成システム320で用いるドローン70は、作成される位置推定モデルを用いて位置推定対象の位置推定を行うときのドローン70と同じものを用いる例であるが、別構成をもった飛行体を用いてもよい。
【0054】
データ収集蓄積部321が蓄積する学習用発信源の位置情報は、例えば学習用発信源に組み込まれているGPS受信装置で取得されるGPS情報を用いることができる。また、学習用発信源として移動通信端末を用いる場合、例えば、移動通信網の基地局や移動通信網内の装置に記憶されている各移動通信端末の位置登録情報を用いることができる。また、学習用発信源として移動通信端末を用いる場合、学習用発信源は、学習対象エリア内でユーザに使用されている使用中の移動通信端末を利用することが可能であり、この場合、効率の良いデータ収集が可能となる。もちろん、学習用発信源には、学習専用の電波発信源を利用してもよく、この場合、より詳細なデータ収集が可能になるといったメリットがある。
【0055】
学習対象エリアは、作成される位置推定モデルを用いて位置推定処理を行う予定の推定対象エリアと同じであることが好ましいが、必ずしも同じであることを要しない。ただし、学習対象エリアは、作成される位置推定モデルを用いて位置推定処理を行う予定の推定対象エリアと近似した電波条件(電波の遮蔽物の状況など)であるのが好ましい。
【0056】
学習データ作成部322は、データ収集蓄積部321で蓄積された元データから学習データ(学習用データセット)を作成する。本実施形態の学習データは、上述したように、学習対象エリア内に位置する学習用発信源から発せられる電波を当該学習対象エリアの上方で所定ルートを飛行しているドローン70で受信したときの受信パラメータ情報、ドローンの位置情報、及び、学習用発信源の位置情報(正解ラベル)を含む。
【0057】
学習部323は、学習データ作成部322で作成された学習データを所定のモデル(ニューラルネットワークモデル、回帰木モデル等)に入力して学習させることにより、上述した位置推定モデル(学習済みモデル)を作成する。このとき、生成した学習済みモデルを用いて学習済みモデルの作成(学習モード)を試行し、パラメータチューニングを実行してもよい。パラメータチューニングで調整(チューニング)するパラメータとは、学習済みモデルにおける設定値や制限値(ハイパーパラメータ)などをいう。パラメータチューニングは、例えば、モデルが最適解を出せるパラメータを走査して設定する作業である。パラメータチューニングの種類としては、グリッドサーチ法やランダムサーチ法などがあり、これらを用いることができる。
【0058】
また、学習済みモデルに対してモデル評価を行ってもよい。このモデル評価には、例えば、クロスバリデーションやホールドアウト法などを用いることができる。ホールドアウト法とクロスバリデーションを併用してモデル評価を行うこともできる。
【0059】
具体的には、ホールドアウト法では、元データを、事前に、学習モードで使用する学習データと、評価モードで使用するテストデータとに分割しておき、学習データだけを用いて学習済みモデルの作成を試行する。その後、作成した学習済みモデルにテストデータを入力し、その出力結果と当該テストデータの正解ラベルとの比較(誤差=推定精度)を行ってモデル評価を行う。
【0060】
また、クロスバリデーションでは、元データを例えば5グループに分け、1回目は、そのうちの1つのグループをテストデータとし、それ以外のグループを学習データとして、学習済みモデルの作成とモデル評価を行う。2回目は、1回目とは異なるグループをテストデータとし、3回目は1回目及び2回目とは異なるグループをテストデータとして、同様に学習済みモデルの作成とモデル評価を行う。これを5グループすべてについて行い、各回で評価したモデル評価(推定精度)の平均を取る。
【0061】
また、本実施形態の推定プログラム(学習済みモデル)を蒸留して、新たに同様の機能を備えた推定プログラム(蒸留モデル)を作成することもできる。具体的には、本実施形態の推定プログラム(学習済みモデル)に対し、蒸留用入力データとして、既知位置の発信源からの電波をドローン70で受信したときの受信パラメータ情報を入力し、その形態端末の位置推定結果を出力させる。そして、出力された位置推定結果を蒸留用入力データの正解ラベルとした蒸留用の学習データを作成し、この蒸留用の学習データを用いてモデルに学習させることにより、本実施形態の推定プログラム(学習済みモデル)と同様の機能を備えた新たな推定プログラム(蒸留モデル)を作成する。このようにして作成される新たな推定プログラム(蒸留モデル)は、一般に、本実施形態の推定プログラム(学習済みモデル)よりも軽量化される。また、蒸留用入力データを工夫するなどすることで、本実施形態の推定プログラム(学習済みモデル)よりも推定精度を高めることも可能である。
【0062】
図8は、本位置推定モデル作成システムの概要を示す説明図である。
図9は、本位置推定モデル作成システムにより位置推定モデル(学習済みモデル)を作成する手順を示すフローチャートである。
本実施形態の手順では、まず、学習対象エリアを決定したうえで(S31)、ドローン70の飛行ルートを設定するとともに(S32)、学習用発信源41の通信パラメータを設定する(S33)。ここで設定される通信パラメータは、学習用発信源41から発信する電波の設定パラメータであり、例えば、電波の周波数(例えばミリ波、マイクロ波)や、電波の送信電力などが挙げられる。
【0063】
その後、設定した飛行ルートのデータを遠隔ドローン操作装置82からドローン70の飛行制御部71へ送る。これにより、ドローン70は、処理ステップS31で決定した学習対象エリアの上方を、処理ステップS32で設定した飛行ルートで飛行する(S34)。また、学習用発信源41は、処理ステップS33で設定された通信パラメータが設定され、この通信パラメータに従った電波を発信しながら、処理ステップS31で決定した学習対象エリア内の所定位置(例えば
図8中のP1~P5)を順次移動する(S35)。
【0064】
学習用発信源の位置情報ukは、学習用発信源に組み込まれているGPS受信装置で取得されるGPS情報を用い、学習用発信源40から位置推定モデル作成システム320へ送られ、データ収集蓄積部321に取得される(S36)。一方、学習用発信源から発信された電波は、ドローン70の受信機73で受信され、その受信パラメータ情報(受信電波の受信電力、受信電波の到来角に関する情報(到来角情報)、受信電波を受信したときのドローン70の位置情報(受信位置情報)等)F(uk)がドローン70から位置推定モデル作成システム320へ送られ、データ収集蓄積部321に取得される(S37)。この受信パラメータ情報F(uk)は、対応する電波を発信した学習用発信源の位置情報ukに関連づけられ、例えば位置指紋情報として蓄積される。
【0065】
ここでは、学習用発信源41を所定位置で停止させた状態でドローン70が飛行ルート(周回ルート)を少なくとも1周する間にデータ収集を行うという処理を、所定位置を順次移動させながら繰り返す。そして、すべての所定位置P1~P5でのデータ収集を終えたら(S38のYes)、位置推定モデル作成システム320の学習データ作成部322において、収集したデータから学習データ(学習用データセット)を作成する(S39)。そして、学習データ作成部322で作成された学習データは学習部323へ送られ、学習部323において、所定のモデル(ニューラルネットワークモデル、回帰木モデル等)に入力して学習させることにより、位置推定モデルR(F)を作成する(S40)。ここで作成される位置推定モデルR(F)は、位置指紋情報の回帰モデルとなる。
【0066】
このように作成した位置推定モデルR(F)は、位置推定装置300の位置推定部301のコンピュータにインストールされて実行される。これにより、位置推定装置300は、推定対象エリア内の位置推定対象(発信源40)からの電波をドローン70が受信したときの受信パラメータ情報(受信電波の受信電力、受信電波の到来角情報、受信電波を受信したときのドローン70の位置情報(受信位置情報)等)を位置指紋情報F(u)として取得すると、これを位置推定モデルR(F)に入力することで、位置情報u=R(F(u))が当該位置推定対象の位置推定結果として出力される。
【0067】
図10は、本実施形態の位置推定モデル作成システムにより作成した2つの位置推定モデル(ニューラルネットワークモデルと回帰木モデル)と、プログラマーによってプログラミングされた最近傍法による推定プログラムとを用いた位置推定のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11は、本シミュレーションのイメージ図(学習対象エリアを上から見た図)である。
なお、本シミュレーションの主な条件は下記の表1に示すとおりである。
【0068】
【0069】
図11に示すように、本シミュレーションでは、100m×100mの学習対象エリアの上方でドローン70を同じ高さで半径30mの円軌道の飛行ルートを飛行させた例である。この例において、当該学習対象エリアに対して1m間隔でメッシュ状に位置指紋データベースを作成し、評価には1万点のターゲット発信源を学習対象エリアに対して一様にランダムな位置に発生させ、各ターゲット発信源からの電波をドローンで受信し、その受信パラメータ情報(位置指紋情報)を用いて、本実施形態に係る2種類の位置推定モデル(ニューラルネットワークと回帰木)及び比較例に係る最近傍法のそれぞれで位置推定を行い、各ターゲット発信源について位置推定誤差距離を算出した。
【0070】
本実施形態の位置推定モデルについては、1台のドローン70を円軌道の飛行ルートで巡回させ、時間軸に次元拡大した次元拡大位置指紋法を用いたのに対し(サンプリングレートは1周回につき500点)、比較例ではフィールド上に3台のドローンを空中静止させ(固定配置し)、ターゲット発信源について最近傍探索を用いて位置指紋データベースと比較して位置推定を行った。
【0071】
図10に示すように、比較例に係る最近傍法による位置推定精度が最も低く、本実施形態に係る2種類の位置推定モデルの方が高い位置推定精度が得られた。また、本実施形態に係る2種類の位置推定モデルのうち、回帰木モデルよりもニューラルネットワークモデルの方が高い位置推定精度が得られた。
【0072】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに位置推定システム、位置推定装置、位置推定モデル作成システム、基地局及び発信源(UEなど)等の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0073】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、eNodeBやgNode等の各種基地局装置、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0074】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、前記構成要素を実現するために用いられる各部は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置や記憶装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0075】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0076】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0077】
40 :発信源
70 :ドローン
71 :飛行制御部
72 :受信情報処理部
73 :受信機
74 :通信機
80 :通信網
82 :遠隔ドローン操作装置
300 :位置推定装置
301 :位置推定部
302 :通信部
310 :情報管理サーバ
320 :位置推定モデル作成システム
321 :データ収集蓄積部
322 :学習データ作成部
323 :学習部