(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】立体型便座クッション、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A47K 13/14 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
A47K13/14
(21)【出願番号】P 2019218618
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591205684
【氏名又は名称】オカ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087815
【氏名又は名称】岡本 昭二
(72)【発明者】
【氏名】赤松 豊
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-079387(JP,U)
【文献】特開2015-131073(JP,A)
【文献】実開昭51-084135(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 13/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座に装着して用いる、対称的な左右一対の本体
部(2)を有する便座クッション(1)であり、
各便座クッション(1)は、長手方向両側部に立ち上がり部(22,23)を有し、前記便座の立体形状に沿うようにかぶせて取り付けられる立体的な形状を有し、
前記本体部(2)は、全体が軟質発泡樹脂(7)で一体成型されたものであ
り、
前記便座クッション(1)の位置がずれたりせずに安定的に取り付けられるように、便座クッション(1)の裏面に滑り止め用の固定部(3)が取り付けられており、
前記固定部(3)の中央部(31)は前記便座クッション(1)の裏面に接着されていない非固定部分となっている
ことを特徴とする便座クッション。
【請求項2】
各便座クッション(1)が、平面状に押し広げて計測したとき、Hが380mm~450mm、Wが170mm~210mm、W1が100 mm~140mm、W2が110 mm~140mm、W3が100 mm~130mmであることであり、ここで、Hは前記便座クッションの縦方向の長さ、Wは前記便座クッションの横方向の長さ、W1は便座の0点から前方へ100mm地点(a)における前記便座クッションの幅方向長さ、W2は前記便座の0点から前方へ200mm地点(b)における前記便座クッションの幅方向長さ、W3は前記便座の中央線より平行に40mmずらした地点(c)における前記便座クッションの幅方向長さであり、0点は便座中心線と便座中央開口が交差する後方側である請求項1記載の便座クッション。
【請求項3】
前記軟質発泡樹脂(7)がポリエチレンフォームまたはEVA(エチレン酢酸ビニル)フォームである請求項1又は2記載の便座クッション。
【請求項4】
完成品において、前記軟質発泡樹脂(7)の色彩を、マンセル表色系で使用されている10段階の明度で表したとき、7~10である請求項1~3のいずれかに記載の便座クッション。
【請求項5】
請求項1項記載の便座クッション(1)を製造する方法であって、
便座クッションの相補形の凹部を有する上下金型(61,62)を用意する工程と、
板状の軟質発泡樹脂素材(7)を100~150℃で加熱する工程と、
前記上下金型(61,62)の間に前記軟質発泡樹脂素材(7)を置き、便座クッションの形状に成形する工程と、
前記便座クッション(1)を前記
上下金型から取り出してバリ取りをする工程
と、
便座クッション(1)の裏面に滑り止め用の固定部(3)を取り付ける工程であって、前記固定部(3)の中央部(31)を前記便座クッション(1)の裏面に接着せずに非固定部分とする工程
を有することを特徴とする便座クッション(1)の製造方法。
【請求項6】
前記軟質発泡樹脂がポリエチレンフォームまたはEVA(エチレン酢酸ビニル)フォームである請求項
5記載の方法。
【請求項7】
前記
上下金型(61,62)に複数個の空気抜き孔を設けて、前記便座クッションの立ち上がり部(22,23)端部に現れる凹み(24)をなくした請求項
5または
6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋式便器の便座の上部を被覆する立体型の便座クッション、その製造方法および使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂製の便座に直接座ったときの冷たい感触を避けるため便座を覆うカバーが用いられてきた。
【0003】
近年は便座表面に貼り付けて使用する一対の三日月形の基布タイプのカバーが主流である。これは「便座シート」と呼ばれることが多い。便座シートを便座表面に貼り付ける方法としては、自己粘着性を有する樹脂を基布に積層する方法(例:特開2002-233476)が一般的である。便座シートは、洗濯や取り付けが容易である等の利点があるが、平面的であるためシートの縁部において人体と便座とが直接接触してしまうことがあるのを避けられず、十分満足できるものではなかった。
【0004】
この問題を解決するために、本出願人は、太腿と便座が接触する範囲を覆い、なおかつ洗浄ノズルの動作の妨げとならない程度に、十分な大きさと形状を有する、新規な構造の便座シートを提案し(特開2015―131073)、「便座クッション」と名付けた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-233476
【文献】特開2015―131073
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特開2015―131073の製品は一般に好評を博しているが、その販路を病院や要介護施設に拡大しようとしたとき、新しい課題が生まれた。すなわち、便座クッションが汚れたときにはその箇所がはっきりと判別できるものであるとともに、洗濯を必要とせず除菌ウェットティッシュなどですぐに汚れを拭き取れるようなものとすることである。これは視覚的にも衛生的にも清潔で美しい便座クッションを維持するためである。上記特開2015―131073の製品はパイル地等の表面生地層やその下部のスポンジ層を有するので、このような課題には十分に応えられなかった。
【0007】
本発明はこの課題に応えるもので、全体を軟質発泡樹脂で一体成型した便座クッションを提供することを目的とする。本発明はまたそのような便座クッションの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、便座に装着して用いる、対称的な左右一対の本体部を有する便座クッションであり、各便座クッションは、長手方向両側部に立ち上がり部を有し、前記便座の立体形状に沿うようにかぶせて取り付けられる立体的な形状を有し、前記本体部は、全体が軟質発泡樹脂で一体成型されたものであり、前記便座クッションの位置がずれたりせずに安定的に取り付けられるように、便座クッションの裏面に滑り止め用の固定部が取り付けられており、前記固定部の中央部は前記便座クッションの裏面に接着されていない非固定部分となっていることを特徴とする。
【0009】
前記立体的な形状は、好ましくは、添付の
図5において、各便座クッションは、平面状にして計測したとき、Hが380mm~450mm、Wが170mm~210mm、W1が100 mm~140mm、W2が110 mm~140mm、W3が100 mm~130mmであることであり、ここで、Hは前記便座クッションの縦方向の長さ、Wは前記便座クッションの横方向の長さ、W1は便座の0点から前方へ100mm地点(a)における前記便座クッションの幅方向長さ、W2は前記便座の0点から前方へ200mm地点(b)における前記便座クッションの幅方向長さ、W3は前記便座の中央線より平行に40mmずらした地点(c)における前記便座クッションの幅方向長さであり、0点は便座中心線と便座中央開口が交差する後方側である。なお、W1,W2,W3は立体型便座クッションを平面になるように押し広げて計測したときの数値である。
【0010】
好ましくは、前記軟質発泡樹脂はポリエチレンフォームまたはEVA(エチレン酢酸ビニル)フォームである。
【0011】
また、好ましくは、完成品において、前記軟質発泡樹脂の色彩を明度の高い色彩とする。便座を使用中に汚れが付着したとき視認が容易であるからである。具体的には、マンセル表色系で使用されている10段階(0(黒)~10(白))の明度で表したとき、7~10程度であることである。特に白(10)または淡いクリーム色などが好ましい。
【0012】
さらに好ましくは、便座クッションの位置がずれたりせずに安定的に取り付けられるように、便座クッションの裏面に滑り止め用の固定部を取り付けられる。
【0013】
本発明の便座クッションの製造方法は、請求項1項記載の便座クッションを製造する方法であって、便座クッションの相補形の凹部を有する上下金型を用意する工程と、板状の軟質発泡樹脂素材を100~150℃で加熱する工程と、前記上下金型の間に前記軟質発泡樹脂素材を置き、便座クッションの形状に成形する工程と、前記便座クッションを前記上下金型から取り出してバリ取りをする工程と、便座クッションの裏面に滑り止め用の固定部を取り付ける工程であって、前記固定部の中央部を前記便座クッションの裏面に接着せずに非固定部分とする工程を有することを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記軟質発泡樹脂はポリエチレンフォームまたはEVA(エチレン酢酸ビニル)フォームである。
【0015】
好ましくは、前記金型に複数個の空気抜き孔を設けて、前記便座クッションの立ち上がり部端部に現れる凹みをなくす。
【0016】
本発明はまた前記便座クッションの使用法であって、前記便座クッションを上下方向に2~5枚積み重ねて使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の便座クッションは立体的であり、便座に定置しやすい。さらに軟質発泡樹脂で一体成型されているので、汚れを判別すること及びそれをすぐに拭き取るのが容易である。また、本発明の便座クッションは、使用者の太腿と便座が接触する範囲が実質的にカバーされる大きさと形状を有するものであり、便座に直接座ったときの冷たい感触を避けることができる。さらに数枚の便座クッションを積み重ねることにより高さを安定的に調節をすることもできる。
【0018】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の1実施例に係る便座クッションを便座に装着した状態の斜視図である。
【
図2】使用者の着座体勢において左側に位置する便座クッションの(a)正面図、(b)左側面図、(c)平面図、(d)右側面図、(e)底面図、(f)背面図である。
【
図3】
図2の(a)A-A矢視端面図、(b)B-B矢視端面図、(c)C-C矢視端面図である。
【
図4】(a)(b)(c)は、本実施例の便座クッション製造過程を示す断面図である。
【
図5】(a)(b)は同便座クッションの立ち上がり部端部の断面図である。(a)は凹みのない理想的な状態、(b)は凹みができている未改良状態である。
【
図6】同便座クッションの寸法計測基準を示す便座クッション平面図である。便座の輪郭線が複数表現されているのは各便器メーカーの販売する便座の形状を示している。
【
図7】同便座クッションの別態様実施例の使用法を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、この便座クッション1は左右対称で一対になったものであり、便器4上端の便座5の上に取り付けて使用する。洗浄ノズル(図示せず)の動作の妨げとならないように配置する。
【0021】
図2~5に示すように、便座クッション1は変形三日月状の本体2と、便座に装着するための固定部3からなる。
図2各図からはっきり見て取れるように、この便座クッション1は立体的であり、便座5の立体形状に沿うようにこれにかぶせて取り付けられる。本体2の長手方向両側部に顕著な立ち上がり部(外側立ち上がり部22および内側立ち上がり部23)が形成されている。この便座クッションは全ての輪郭が曲面で構成され、直線的な部分は存在しない。従来の製品では、ポリエチレン、EVA、スポンジ等の合成樹脂は抜き加工し、平面的に熱プレス加工することが多いため、直線的、平面的になりやすいが、本実施例の製品はこれらとは明確に異なる。
【0022】
本体2の大きさは、
図6に示すように、平面状にして計測したとき、Hが380mm~450mm、Wが170mm~210mm、W1が100 mm~140mm、W2が110 mm~140mm、W3が100 mm~130mmである。ここで、Hは前記便座クッション1の縦方向の長さ、Wは前記便座クッション1の横方向の長さ、W1は便座の0点から前方へ100mm地点(a)における前記便座クッション1の幅方向長さ、W2は前記便座の0点から前方へ200mm地点(b)における前記便座クッション1の幅方向長さ、W3は前記便座の中央線より平行に40mmずらした地点(c)における前記便座クッション1の幅方向長さであり、0点は便座中心線と便座中央開口が交差する後方側である。なお、W1,W2,W3は立体型便座クッションを平面になるように押し広げて計測したときの数値である。
【0023】
この大きさは、便座メーカーが過去に販売し、または本願出願時に販売している各種便座及びその同等物において、少なくとも太腿と便座5が接触する範囲を覆うのに十分な大きさと形状である。その根拠については、本出願人の特開2015―131073の明細書[0009]~[0014]を参照されたい。
【0024】
本体2の裏面には、
図2(e)、
図3(a)に示すような滑り止め用の固定部3であるベルトが2個所設けられている。固定部3は、便座クッション1側から外側に向かって順に、接着剤層、基布層、吸着材層、離型紙層を有する。
【0025】
図3(c)に示すように、固定部3の中央部31は接着剤層により便座クッション本体2と接着されていない非固定部分となっている。これは複数の便座メーカーにより製造される便座の形状が微妙に相違するのに対応するためのものである。すなわち、中央部31が接着剤層により便座クッション本体2と密着していると、あるメーカーの製品には適合するが、別のメーカーの製品では密着性が悪く、吸着面が確保できずに十分な固定力が得られない、というような事態を避けるためである。
【0026】
この立体的な便座クッション1は次のようにして製造される。
【0027】
まず、
図4に示すような金型6(61,62)を製作する。このとき使用する型は複数の便座メーカーの便座を産業用X線CTでスキャンして3Dデータ化したうえで合成して製作したものである。金型の素材はアルミニウムまたは鋼材が好ましい。
【0028】
次に、所定の大きさに裁断した便座クッションの素材7を加熱する。そして加熱された素材を上下金型61,62の間に挟み、成型するとともに自然冷却させる(
図4(b))。便座クッションの素材7としては、ポリエチレンフォーム、EVA(エチレン酢酸ビニル)フォーム、ブタジエン共重合体ラテックス(MBR,NBR,SBR)、PVC(ポリ塩化ビニル)を使用することができる。中でもポリエチレンフォーム、EVA(エチレン酢酸ビニル)フォームが好ましい。
【0029】
このとき、便座クッションの素材7を上下金型61,62で挟み込むだけでは、便座クッション側部の立ち上がり部22、23が均一な厚み(
図5(a))を持つことができず、凹み24(
図5(b))となることが多い。これは上下金型61,62によって挟まれた空気が逃げ場を失い、便座クッションの素材7を内方へ押し付けるためであると思われる。この凹み24があることにより、機能的に困ることはないが、見栄えを悪くする。
【0030】
この凹み24をなくして、なるべく
図5(a)のような均一な厚みとするため、金型に空気抜き孔63(
図4(b))を設けることが好ましい。
【0031】
ポリエチレンフォームとして特に好ましいのは、見かけ密度が30~120kg/m3、より好ましくは40~100kg/m3、最も好ましくは50~80kg/m3、のものであり、25%圧縮応力が45~240kPa、より好ましくは70~200kPa、最も好ましくは120~140kPa、のものである。具体的には、例えば三和化工株式会社(本社京都市)の「サンペルカ」(登録商標)「L-1500」を使用することができる。
【0032】
EVAフォームとして特に好ましいのは、見かけ密度が0.170~0.065kg/m3、より好ましくは0.080~0.055kg/m3、最も好ましくは0.090~0.050kg/m3、のものであり、25%圧縮硬さが20.0~10.0N/cm2、より好ましくは15.0~7.0N/cm2、最も好ましくは12.0~4.0N/cm2のものである。具体的には、例えば株式会社第一化学(本社明石市)の「トランスフォーム」(登録商標)「TC-1000」を使用することができる。
【0033】
上記素材7はさまざまに着色することができるが、マンセル表色系で使用されている10段階(0(黒)~10(白))の明度で表したとき、7~10程度であることであることが好ましく、特に白(10)または淡いクリーム色などが好ましい。便座クッションの汚れの判別が容易であるからである。
【0034】
また素材7の厚みは加工前が約10~13mm、加工後に約8mmとなるようにするとよい。用途によればさらに加工後の厚みを増すことができる。
【0035】
加熱は100~150℃、好ましくは120~130℃で行うことができる。
【0036】
このようにして、
図4(c)に示すような立体的な便座クッション1が得られる。その後、バリ21を除去し、裏面の固定部3を取り付けて完成させる。
【0037】
このようにして製造された便座クッション1は立体的であり、各便器メーカーが販売する便座に定置させやすい。また、この便座クッション1は、使用者の太腿と便座が接触する範囲が実質的にカバーされる大きさと形状を有するものであり、便座に直接座ったときの冷たい感触を避けることができる。
【0038】
さらに軟質発泡樹脂で一体成型されているので、排便中に便座クッション1を汚したときでも汚れの判別が容易であり、除菌ウェットティッシュなどですぐに汚れを完全に拭き取ることができる。本発明の便座クッションは、病院や要介護施設で使用するのに適している。
【0039】
上記したように本実施例の便座クッションの製品としての厚みは約8mmである。しかし、用途に応じて、これを2~5枚程度、好ましくは3~4枚を積み重ねて使用することもできる。
図7では3枚積み重ねている。本発明の立体型便座クッションは数枚重ねても間が密着するとともに、形状が安定的に維持されるので、高さ方向の調節が容易である。背の高い便座クッションが好まれる用途の一例として挙げられるのは、車椅子使用の人が便座に座るときである。車椅子から便座に乗り移るとき、両者の間に段差が大きければスムーズに移動できないことがある。このような時に積み重ねた便座クッションにより高さをそろえることができれば移動が楽になる。
【符号の説明】
【0040】
1 便座クッション
2 本体
21 バリ
22 外側立ち上がり部
23 内側立ち上がり部
3 固定部
31 固定部の中間部
4 便器
5 便座
6(61,62) 金型
63 空気抜き孔
7 便座クッションの素材