(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】土壌改良資材およびその製造方法ならびに土壌改良方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20231114BHJP
C09K 17/32 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12N1/14 B
C09K17/32 H
(21)【出願番号】P 2020104455
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2022-03-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年度 研究成果発表会(開催日:令和1年(2019年)6月25日)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】501083540
【氏名又は名称】株式会社大石物産
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】大石 倫斗
(72)【発明者】
【氏名】松元 賢
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-219832(JP,A)
【文献】特開平06-024925(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107058268(CN,A)
【文献】新潟畜セ研報,2001年,No.l3,16,17頁,https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/220523.pdf参照
【文献】Environ. Control Biol.,2020年01月01日,Vol.58, No.1,pp.7-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-38
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリコデルマ属の菌、浄水ケーキおよびセルロース材料を含む混合物を調製する第1工程と、前記混合物中で前記トリコデルマ属の菌を培養する第2工程と、を有し、
前記トリコデルマ属の菌が、トリコデルマ ビレンスである、土壌改良資材の製造方法。
【請求項2】
前記セルロース材料が、紙である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
固形分換算での前記浄水ケーキに対する前記セルロース材料の質量比が、0.001~0.8である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程で用いられるトリコデルマ属の菌は、セルロースを埋め込んだ土壌中で3月以上培養し、前記セルロースが分解された層の土壌から採取された菌である請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの製造方法で製造された土壌改良資材を用いて、土壌を改良する土壌改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌改良資材およびその製造方法ならびに土壌改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同じ場所で同じ作物を繰り返し栽培し続けることで作物が生育不良となる障害(いわゆる連作障害)が発生する。この連作障害を予防・改善するために、微生物を含有する防除剤や資材が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のトリコデルマ(Trichoderma)属菌の培養物、湿菌体、又は乾燥菌体を含有することを特徴とする植物病原菌防除剤が開示されている。
しかし、微生物を含有する防除剤や資材は、保存管理が煩雑であること、調製後にすぐに使用する必要があり、施工毎に防除剤を調製する必要があるなど取り扱いが難しいこと、製造コストが高いことなどといった問題があった。また、微生物の培養液など液体タイプは、使用者が菌を生で扱うことに抵抗感を感じる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、取り扱いやすく、安価な土壌改良資材およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の土壌改良資材を用いた土壌改良方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> トリコデルマ属の菌、浄水ケーキおよびセルロース材料を含む混合物を調製する第1工程と、前記混合物中で前記トリコデルマ属の菌を培養する第2工程と、を有する、土壌改良資材の製造方法。
<2> 前記セルロース材料が、紙である、前記<1>に記載の製造方法。
<3> 固形分換算での前記浄水ケーキに対する前記セルロース材料の質量比が、0.001~0.8である、前記<1>または<2>に記載の製造方法。
<4> 前記第1工程で用いられるトリコデルマ属の菌は、セルロースを埋め込んだ土壌中で3月以上培養し、前記セルロースが分解された層の土壌から採取された菌である前記<1>から<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかの製造方法で製造された土壌改良資材。
<6> 前記<1>から<4>のいずれかの製造方法で製造された土壌改良資材を用いて、土壌を改良する土壌改良方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、取り扱いやすく、安価な土壌改良資材およびその製造方法が提供される。また、本発明の土壌改良資材を用いた土壌改良方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】菌のPCR産物の電気泳動プロファイルである。
【
図2】(a)はサイクル閾値とトリコデルマ・ビレンス911菌のDNA濃度の関係に基づく標準曲線、(b)は融解曲線(蛍光対温度)、(c)はさまざまな濃度のトリコデルマ・ビレンス911菌のDNAのリアルタイム増幅曲線を示す図である。
【
図3】各培養温度における菌の培養試験の結果を示す図である。
【
図5】培養40日後のトリコデルマ菌を培養した三角フラスコの状態および取り出した土壌改良資材の状態を示す写真である。
【
図6】コマツナの生育試験の結果を示す写真である。
【
図7】トマト苗の生育試験の結果を示す写真と図である。
【
図8】ダイコンの生育試験の結果を示す写真である。
【
図10】土壌毎に栽培したサラダ菜の重量の平均値を示した図である。
【
図11】定植50日目のハクサイの写真と、土壌毎に栽培したハクサイ可食部の重量の平均値を示した図である。
【
図12】収穫時のニンジンの写真と、土壌毎に栽培したニンジン可食部の重量の平均値を示した図である。
【
図13】土壌毎に栽培したジャガイモ、チンゲンサイおよびブロッコリーの可食部の重量の平均値を示した図である。
【
図14】病原菌未接種土壌、土壌サプリメント未処理の汚染土壌(病原菌接種土壌)および土壌サプリメントを混合した汚染土壌(病原菌接種+土壌サプリ混入)でトマト苗を栽培した結果を示す写真である。
【
図15】定植後30日の各土壌で栽培したトマトの写真と、栽培日数に対する菌数を示した図である。
【
図16】定植後30日の各土壌で栽培したダイズの写真と、栽培日数に対する菌数を示した図である。
【
図17】コマツナの連続栽培試験の第1回目と第2回目の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0011】
<本発明の土壌改良資材の製造方法>
本発明は、トリコデルマ属の菌と、浄水ケーキと、セルロース材料とを含む混合物を調製する第1工程と、前記混合物中で、前記トリコデルマ属の菌を培養する第2工程と、を有する、土壌改良資材の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある)に関するものである。
【0012】
本発明者らは、浄水ケーキはトリコデルマ属の菌の培養担体として好適であること、この浄水ケーキを担体としてセルロース材料の存在下でトリコデルマ属の菌を培養することで得られる土壌改良資材が連作障害の抑制や作物の生育促進等に優れた効果を有することを見出した。
また、得られる土壌改良資材は、複雑な保存管理を行わなくても、土壌改良資材中のトリコデルマ属の菌の菌数を安定して維持できることがわかった。このため、土壌改良資材の保存管理を容易なものとできる。
【0013】
また、本発明の土壌改良資材の原料の一つとして使用される浄水ケーキは、その一部が建築資材や道路補修に利用されているだけであり、その大半は埋め立て処理で廃棄されていた。本発明によれば、浄水ケーキの使用用途を拡げることもできる。
浄水ケーキには、浄水場の処理工程で使用されるポリ塩化アルミニウムなどのアルミニウム系凝集剤が含まれやすく、これを土壌改良のために用いた場合、作物の栄養素となる土壌中のリン酸成分がアルミニウムにより固定され問題となることがあった。しかし、本発明の製造方法で得られる土壌改良資材では、トリコデルマ属の菌により土壌の肥沃度を高めたり、作物の栄養素の吸収を高めたりすることができ、浄水ケーキ中のアルミニウムによるリン酸の固定の影響も小さいことがわかった。
【0014】
[第1工程]
第1工程は、トリコデルマ属の菌と、浄水ケーキと、セルロース材料とを含む混合物を調製する工程である。
【0015】
(トリコデルマ属の菌)
トリコデルマ属の菌は、土壌等に常在する糸状菌の一種である。トリコデルマ属の菌としては、トリコデルマ ビレンス(Trichoderma virens)やトリコデルマ ハリジアヌム(Trichoderma harziamun)、トリコデルマ ハマタム(Trichoderma hamatum)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)などがある。
【0016】
本発明の製造方法で用いられるトリコデルマ属の菌は、セルロース分解能を有する。トリコデルマ属の菌がセルロース分解能を有するか否かは、例えば、炭素源としてセルロースを用いた培地に菌を接種して培養し、菌の生育の状況から判断することができる。また、トリコデルマ属の菌の粗酵素液のセルラーゼ活性の有無から判断してもよい。粗酵素液のセルラーゼ活性は、ろ紙と粗酵素液とを酵素反応させ、酵素反応により生成した還元糖をDNS法などにより定量することで算出することができる。
【0017】
第1工程で用いるトリコデルマ属の菌は、セルロースを埋め込んだ土壌中で3月以上培養し、前記セルロースが分解された層の土壌から採取された菌に由来するものであることが好ましい。土壌は、例えば、畑の土壌や庭の土壌など屋外の土壌が挙げられ、具体的には、真砂土、鹿沼土、赤玉土、腐葉土などである。トリコデルマ属の菌は、これらの屋外の土壌にも常在している。これらの土壌中にセルロースを埋め込み、自然環境下に長期間置くことで、常在するトリコデルマ属の菌がセルロースを分解し栄養源として増殖する。セルロースを埋め込み3カ月以上培養(放置)した土壌中の前記セルロースが分解された層からは、トリコデルマ属の菌の中でもセルロース分解能が高いトリコデルマ属の菌を採取することができる。培養(放置)時期は特に限定されないが、土壌にセルロースを埋め込み秋から春(0℃~25℃程度の環境)にかけて3カ月以上(例えば、3~7か月)培養することで、セルロースが分解された層から採取される菌の取捨選択が行いやすく、セルロース分解能が高いトリコデルマ属の菌を得やすい。
【0018】
土壌中から採取された菌は、顕微鏡観察による形態的な特徴に基づき属レベルを同定でき、リボソーム遺伝子のPCRによる増幅産物の塩基配列情報に基づいた遺伝子解析で種レベルを同定できる。遺伝子解析は、例えば、トリコデルマ属の菌の細胞から抽出されたDNAを鋳型とし、特定のプライマーを用いるPCRにより行うことができる。DNAの抽出は、常法により行うことができ、一般的なDNA抽出キットを用いることができる。例えば、Qiagen社製DNeasy Plant Mini Kitなどを用いることができる。
【0019】
トリコデルマ属の菌は、トリコデルマ ビレンス(Trichoderma virens)および/またはトリコデルマ ハリジアヌム(Trichoderma harziamun)が好ましく、トリコデルマ ビレンス(Trichoderma virens)がより好ましい。これらの菌は、作物の育成に与える影響が小さく、土壌病害の原因となる病原菌や線虫類を殺したり、土壌中の有機物分解による作物の栄養吸収を助ける作用を発揮しやすい。
【0020】
トリコデルマ・ビレンスとして、例えば、その細胞から抽出されたDNAを鋳型とし、配列番号1(5’-GTTGGGGATCGGCCCTTTAC-3’)で表される塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号2(5’-CAGCGGGTATTCCTACCTGA-3’)で表される塩基配列を含むリバースプライマーとを用いてPCRを行うことで増幅されるDNAを含む菌を用いることができる。このような菌は、その菌の細胞から抽出されたDNAを鋳型とし、配列番号1(5’-GTTGGGGATCGGCCCTTTAC-3’)で表される塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号2(5’-CAGCGGGTATTCCTACCTGA-3’)を用いてPCRを行い、蛍光の有無で、菌の有無の判定や菌数の算出ができる。
【0021】
上記フォワードプライマーと上記リバースプライマーとを用いたPCRによる菌の判定や生存菌数の算出は、具体的には、以下のように行うことができる。この方法は、トリコデルマ・ビレンスの1種であるトリコデルマ・ビレンス911菌(単に、「911菌」と記載する場合がある。)の判定や生存菌数に好適である。
【0022】
(菌の判定)
(a1)サンプル(土壌や土壌改良資材、土壌改良資材を混合した培土など)約1gを20mLの滅菌水の入った試験管の中に入れ、軽く攪拌し、この懸濁液0.5mLをトリコデルマ菌用半合成選択培地(組成:ジャガイモ煎汁液1000mL,L-(-)-ソルボース20g,ローズベンガル30mg,クロラムフェニコール0.25g,寒天20g,加圧蒸気滅菌後,トルクロフォスメチル水和剤50mg,40%メパニピリム水和剤0.05mL,pH6.8)に塗布し、25℃で3日間培養する。
(a2)上記(a1)の選択培地上で生育した菌のコロニーをクロラムフェニコール加用PDA培地(組成:ジャガイモ煮汁液1000mL,デキストロース25g,寒天20g、クロラムフェニコール0.25gを加圧蒸気滅菌したもの,pH7.0)上に移植し、25℃、5日間培養する。
(a3)上記(a2)のクロラムフェニコール加用PDA培地上で形成されたコロニーから含有胞子細胞の菌体100mg程度を掻き取り、含有菌体細胞から菌由来のクロモゾームDNAをQiagen社製DNeasy Plant Mini Kitを用いて抽出する。
(a4)菌由来の細胞から抽出されたクロモゾームDNAを鋳型として、上記配列番号1で表される塩基配列を含むフォワードプライマーと、上記配列番号2で表される塩基配列を含むリバースプライマーの判別プライマーを用いて菌特異的PCR法を行う。である。また、PCRの反応液の組成は、2.5μLの10×反応用バッファー,2μLのdNTPs(各2mM),1μLのプライマー(10μM),0.25μLのTaqポリメラーゼ(2.5units/μL)(Toyobo,Osaka,Japan),2μLの鋳型DNA,16.25μLの滅菌水を入れて、25μLに調製した。また、PCRの反応条件は、95℃で2分間,さらに95℃で30秒間,55℃で50秒間、72℃で1分間を39サイクル、さらに、72℃で5分間伸長させる条件で実施した。PCR反応の終了後に、反応液10μLを3%アガロース電気泳動に供試し、エチジウムブロマイドのUV光源による蛍光反応により、増幅されたDNA断片(約170bp)を視覚的に確認することによって、菌の見分けが可能である。
【0023】
(菌の生存菌数)
サンプル中の菌の生存菌数(土壌中の菌の胞子数)をモニタリングするために、リアルタイムPCR法による定量PCR法によって診断する方法は下記の通りである。
(b1)サンプル中からのDNAの抽出は、ISOIL DNA extraction kit(日本ジーン社製)を使用する。定量PCR法に使用する菌のモニタリング用プライマーとして、上記配列番号1で表される塩基配列を含むフォワードプライマーと、上記配列番号2で表される塩基配列を含むリバースプライマーを使用する。
(b2)プライマーの反応液の組成は、5μLの2×SYBR Green Supermix,1μLのフォワードプライマー(100nM)、1μLのリバースプリマー(50nM)、1μLの鋳型DNA、2μLの滅菌水、計10μLに調製する。
(b3)定量PCRの温度反応条件は、96℃、3分間1サイクル、次に、95℃、20秒間、60℃25秒間、72℃25秒間の49サイクルである。解離曲線は、65℃から95℃の範囲で0.5℃の5秒刻みで設定し、非特異的PCR産物の発生状況を確認した。最終的には、サンプル1g当たりの菌のDNA量(ピコグラム)を定量化して、DNA量に相対する胞子数を算出する。
【0024】
トリコデルマ属の菌は、混合物中のトリコデルマ属の菌の菌数が5.0×102個/g(cfu/g)~1.0×105個/gや、1.0×103~1.0×104個/gとなるように混合(播種)することができる。トリコデルマ属の菌が少なすぎると所定量の菌数まで増殖させるための時間が長くなるため好ましくない。
トリコデルマ属の菌は、所定の菌量となるように、水などに懸濁させたトリコデルマ含有懸濁液を調製し、この懸濁液の量によって混合物中のトリコデルマ属の菌の菌数を調製・管理することができる。例えば、1.0×108個/mL~1.0×1010個/mLの911菌懸濁液を使用することができる。
【0025】
(浄水ケーキ)
浄水ケーキは、浄水場における沈殿処理、ろ過処理の工程で発生した土砂等の沈殿物(浄水汚泥、沈積汚土)を濃縮、脱水、乾燥したものである。浄水ケーキは、砂や粘土などの粒子が主成分である。また、沈殿処理等の工程で使用される凝集剤等を含んでいてもよい。
浄水ケーキは、菌の生育を妨げず、多孔質のためトリコデルマ属の菌が吸着しやすい。また、適度に水を含有させることができるため、通気性や水分量を調整し、好気性のトリコデルマ属の菌が増殖しやすい生育環境とすることができる。このため、浄水ケーキは担体として優れている。また、浄水ケーキをトリコデルマ属の菌の培養担体として用いることで、培養後に菌を分離等せずにそのまま土壌改良資材として使用することができる。
【0026】
浄水ケーキは、浄水場から提供される浄水ケーキや市販の浄水ケーキをそのまま使用してもよいし、焼結や粉砕、分級等を行った後に使用してもよい。例えば、目開きが10mm以下、8mm以下、5mm以下の篩を用いて篩掛けすることで大きな塊を除去して用いることができる。
【0027】
浄水ケーキの含水率は、浄水場での乾燥処理方法によるが、例えば、10~80質量%である。調製する混合物の含水率に応じて、浄水ケーキはそのまま用いてもよいし、乾燥させてから用いてもよい。
【0028】
(セルロース材料)
セルロース材料としては、紙、紙製品、木材、おがくず、草、綿などが挙げられる。浄水ケーキと混合しやすいため、これらのセルロース材料は、粉砕または裁断して使用することが好ましい。
【0029】
セルロース材料の中でも、紙が好ましい。紙は、コピー用紙などの一般用紙や、この他にも、ラミネート紙などの加工紙や、新聞、段ボール等であってもよく、未使用のものであっても、古紙(使用済みの紙)であってもよい。また、混合性や分解のされやすさから、紙の中でも、紙を裁断した細片および/または綿状になるまで粉砕した綿状物が好ましい。
従来、木材やおがくず等の植物由来の材料と比較して、紙は分解されずに残存した場合に製品の外観品質が低下することが懸念されるため、土壌改良資材の製造のための材料として使用されにくかった。しかし、本発明の製造方法とすることで、特に、紙の細片や綿状物を用いることで、その大部分を分解することができ、外観品質も良好であることがわかった。紙の細片は、例えば、一辺を1mm~1cmや1mm~5mmなどとすることができる。
【0030】
廃棄物を有効活用できる点から、セルロース材料として、古紙を用いることが好ましい。例えば、シュレッダー古紙は、従来、繊維長が短く製紙原料への再利用には不向きで、機密性の観点からも通常は焼却処分されており、リサイクルがほとんど進んでいなかった。本発明の製造方法では、繊維長の短いシュレッダー古紙はトリコデルマ属の菌に分解されやすく、最終生成物(土壌改良資材)に残存しにくく、機密性の観点からのリサイクル材料としての使用に対する抵抗感も低減できる。また、シュレッダーで裁断されたシュレッター古紙などは、安価に調達も可能なため、好適なセルロース材料のひとつである。
【0031】
(その他の成分)
混合物は、トリコデルマ属の菌、浄水ケーキおよびセルロース材料以外の成分を含んでよい。例えば、後述するように、設定した含水率となるように水を加えてもよい。また、混合物中の通気性を調製するために、バーミキュライト、スメクタイト、カオリナイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイト、ソーコナイト、スティブンサイト、雲母等の粘土鉱物を含んでもよい。例えば、浄水ケーキ(固形分換算)1質量部に対して粘土鉱物を0.01~0.5質量部とすることで、浄水ケーキとセルロース材料を混合しやすくなったり、混合物の通気性が向上し、トリコデルマ属の菌が増殖しやすくなる場合がある。
【0032】
(混合物)
第1工程で調製される混合物は、トリコデルマ属の菌と、浄水ケーキと、セルロース材料とを含む。
【0033】
混合物は、固形分換算で、浄水ケーキおよびセルロース材料を主成分とすることが好ましい。固形分換算での混合物に対する浄水ケーキとセルロース材料との合計の質量比((浄水ケーキ(固形物換算)の質量+セルロース材料の質量)/混合物(固形分換算)の質量×100(%))は、55質量%以上や、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上などとすることができる。また、その上限は、100質量%以下や、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、85質量%以下、75質量%以下などとすることができる。なお、混合物(固形分換算)の質量は、「混合物の質量×(100%-含水率(%))/100」で算出することができ、浄水ケーキ(固形分換算)の質量は、「浄水ケーキの質量×(100%-含水率(%))/100」で算出することができる。
【0034】
また、固形分換算での浄水ケーキに対するセルロース材料の質量比(セルロースの質量/浄水ケーキ(固形分換算)の質量)は、0.001~0.8が好ましい。その下限は、好ましくは0.005以上であり、より好ましくは0.008以上であり、さらに好ましくは0.01以上である。また、0.05以上や0.1以上としてもよい。その上限は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.35以下であり、さらに好ましくは0.25以下である。トリコデルマ属の菌の供給量等にもよるが、浄水ケーキに対してセルロース材料が少なすぎると、トリコデルマ属の菌の増殖のピークアウトが早くなるため、菌数増殖が抑制される傾向にある。また、浄水ケーキに対してセルロース材料が多すぎると、分解されずに残存するセルロース材料が多くなり、土壌改良資材の外観品質が低下しやすくなる。
【0035】
混合物の含水率は、特に制限はないが、混合物の含水率が多すぎると、嫌気状態となり、トリコデルマ属の菌が増殖できなかったり、増殖速度が著しく低下する。また、混合物の含水率は少なすぎても、トリコデルマ属の菌の増殖速度が低下する傾向にある。混合物の含水率(水の質量/混合物の質量×100(%))は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下や40質量%以下などとしてもよい。また、その下限は、10質量%以上や、20質量%以上、30質量%以上などとできる。使用する浄水ケーキの含水率に応じて、浄水ケーキを乾燥したり、浄水ケーキに水を加えたり、トリコデルマ含有懸濁液の濃度を調整したりして、調製される混合物が設定した含水率となるようにすればよい。
【0036】
中でも、第1工程は、トリコデルマ属の菌と、浄水ケーキと、古紙とを含む混合物を調製する工程とすることが好ましい。これにより、廃棄物を、トリコデルマ属の菌の担体および栄養源として有効利用するので、原料コストを低減し、安価に製造することができる。
【0037】
(混合方法)
トリコデルマ属の菌と、浄水ケーキと、セルロース材料との混合順に特に制限はないが、浄水ケーキとセルロース材料とを混合した後、トリコデルマ属の菌を混合することが好ましい。トリコデルマ属の菌は通常は懸濁液として供給されるため、トリコデルマ属の菌と浄水ケーキとを混合した後、セルロース材料を混合すると、混合物中に塊(ダマ)が発生しやすく、均一に混合しにくい。また、トリコデルマ属の菌とセルロース材料とを混合した後、浄水ケーキを混合した場合も、混合物中に塊(ダマ)が発生しやすく、均一に混合しにくい。なお、トリコデルマ属の菌の懸濁液の水分量等を調製することで、塊(ダマ)の発生を抑制することもできる。
【0038】
浄水ケーキ等にもトリコデルマ属の菌やそれ以外の菌が含まれるが、混合物は、浄水ケーキおよびセルロース材料に、別途、トリコデルマ属の菌を有用菌として加えることで調製される。浄水ケーキおよびセルロース材料に加えられる有用菌は、実質的にトリコデルマ属の菌のみであることが好ましい。
【0039】
[第2工程]
第2工程は、第1工程で調製した混合物中で、トリコデルマ属の菌を培養する工程である。
【0040】
第2工程の培養の温度は、トリコデルマ属の菌が増殖可能な温度であれば特に限定されない。培養の温度は40℃以下とすることが好ましく、35℃以下とすることがより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。また、培養の温度は15℃以上とすることが好ましく、25℃以上とすることがより好ましい。
【0041】
第2工程の培養の期間は、温度や初期の菌数に応じて適宜変更されるが、トリコデルマ属の菌の菌数が1.0×105個/g以上や1.0×108個/g以上となるまで行うことが好ましい。土壌改良資材中の菌の菌数は、上記のPCR法を利用したり、実施例にて後述するようにコロニー個数から逆算して算出してもよい。培養の期間は、例えば、5日以上が好ましく、10日以上がより好ましく、20日以上がさらに好ましい。その上限は特に制限されないが、60日以下や40日以下などとしてもよい。
【0042】
トリコデルマ属の菌の培養期間中は、所定の温度を維持するために、送風機等を利用して、風通しの良い環境としてもよい。また、混合物の乾燥を防ぐために、適時、灌水等を行ってもよい。
【0043】
例えば、第1工程の混合は、撹拌機等で行うことができる。第2工程では、撹拌機等で調製された混合物をフレキシブルコンテナバック等の通気性を有する容器に収容し、所定の温度下でそのまま静置したり、さらに小袋に小分けして静置したりする。これにより、トリコデルマ属の菌を培養し、増殖させることができる。小袋は、市販の培土の保存などに用いられる培土袋でよい。通気性がより高い素材の袋を用いたり、細かく通気性を管理しなくても、本発明の製造方法で得られる土壌改良資材は、培土袋の数か所に穴を空けておけば積み上げて保管しても、安定的に菌数を保つことができる。
【0044】
<本発明の土壌改良資材>
本発明の製造方法により得られる土壌改良資材(以下、「本発明の土壌改良資材」と記載する場合がある)は、優占種としてトリコデルマ属の菌を含む。土壌改良資材中のトリコデルマ属の菌の菌数は、1.0×105個/g~1.0×109個/gや、1.0×107個/g~1.0×108個/gとすることができる。菌数は、上記のPCR法を利用したり、実施例にて後述するようにコロニー個数から逆算して算出してもよい。
本発明の土壌改良資材は、トリコデルマ属の菌を利用して土壌を改良するため、化学農薬を使用することで起こりうる問題(人体や家畜、自然環境に対する悪影響や、作物への薬害、病原菌の薬剤耐性など)が起こりにくい。
【0045】
<土壌改良方法>
本発明の土壌改良資材を用いて土壌を改良することができる。本発明の土壌改良資材は、対象となる土壌と混合して用いられる。土壌改良資材は、トリコデルマ属の菌の菌濃度を測定し、土壌改良資材の施用時の土壌のトリコデルマ属の菌の濃度が1.0×104個/g~1.0×106個/gや、5.0×104個/g~5.0×105個/gとなるように施用することが好ましい。
本発明の土壌改良資材は、圃場の土壌に直接施工してもよいし、土壌改良資材と農業土や園芸土などの培土と混合した後に、その土壌を用いて作物を栽培してもよい。
また、土壌改良資材中のトリコデルマ属の菌が培土中に十分に広がるように、土壌改良資材と培土とを混合した後に一定期間(例えば、10日以上や20日以上)静置し、作物の栽培に用いてもよい。特に、30日以上静置すると、土壌改良資材中のトリコデルマ属の菌が培土全体中に広がった状態で使用できる。
【0046】
本発明の土壌改良資材は、作物の生育促進や発芽率の向上のために使用することができる。作物としては、特に限定はないが、コマツナ、ホウレンソウ、シュンギク、ネギ、セロリ、サラダ菜、チンゲンサイ、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー等の葉菜類、トマト、スイカ、イチゴ、キュウリ、ナス等の果菜類、ダイコン、ニンジン、ジャガイモ、ゴボウ等の根菜類が挙げられる。
【0047】
本発明の土壌改良資材は、連作障害を抑制するために使用することができる。また、根腐萎凋病や炭そ病などの植物病害の防除のために使用してもよい。
【0048】
(土壌改良方法の一例)
c1)土壌改良資材と、市販の培土とを1:80~1:120(kg/kg)になるように混合する。
c2)土壌改良資材を混合した培土をコンクリートミキサーで30~1時間撹拌する。塊(ダマ)が生じた場合はほぐす。
c3)土壌改良資材を混合した培土を約1か月静置した後、作物の栽培に用いる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<使用原料>
浄水ケーキは、株式会社ナガト焼成品(キルンで熱殺菌処理をした後に篩がけした4mmアンダーの粒状焼成品、比重0.8~0.85kg/L、含水率34.3質量%)を用いた。
【0051】
鉱物粘土(その他の成分)は、バーミキュライト細粒(中国河北省産蛭石/大石物産焼成)(大きさ約1mm)を用いた。
【0052】
セルロース材料は、紙綿状物とシュレッダー古紙を用いた。紙綿状物は、厚さ5mmの高級ふすま紙を1cm幅に裁断し、シュレッダーで細かくチップ状に粉砕したふすまチップ片を、さらに、高速粉砕器にかけて紙綿状にしたものである。シュレッダー古紙は、1mm×5mmまたは1mm×9.6mmの細片を用いた。
【0053】
トリコデルマ属の菌は、トリコデルマ・ビレンスの1種であるトリコデルマ・ビレンス911菌を九州大学熱帯農学研究センターより入手し用いた。1mLにつき109個の分生胞子が存在している濃度(109個/mL)となるようにトリコデルマ・ビレンス911菌を水に懸濁した懸濁液(トリコデルマ菌液)を調製し使用した。
【0054】
なお、トリコデルマ・ビレンス911菌は、シュレッダーで粉砕したシュレッダー古紙(1mm×5mm)を埋め込んだ土壌中で約半年培養し、シュレッダー古紙が分解された層の土壌から採取した菌を培地上で選択培養し、他の菌を純粋培養で除去して、単一の種類の菌になった状態のものである。
具体的には、屋外の土壌(真砂土)に縦25cm、幅25cm、深さ30cm程度の穴を掘り、その中にシュレッダー古紙(1mm×5mm)を深さ10cm程度になるように入れた。さらに、上から土壌を覆土し、約半年(秋から春)ほど経過した後に、覆土した土壌を深さ20cm掘り下げ、シュレッダー古紙が十分に分解された層の土壌中から菌を採取した。この菌を培地上で選択培養し、他の菌を純粋培養で除去し、単一の種類となった状態で保存した。
【0055】
このトリコデルマ・ビレンス911菌は、以下の性質を有する。
(A1)セルロース分解能を有する。
(A2)細胞から抽出されたDNAを鋳型とし、配列番号1(5’-GTTGGGGATCGGCCCTTTAC-3’)で表される塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号2(5’-CAGCGGGTATTCCTACCTGA-3’)で表される塩基配列を含むリバースプライマーとを用いてPCRを行うことで増幅されるDNAを含む。
【0056】
<参考例>
(1)PCR法による評価
図1に、トリコデルマ・ビレンス911菌とその他4種の菌(いずれも九州大学熱帯農学研究センターより入手)について、上記プライマーを用いたPCRによるPCR産物の電気泳動プロファイルを示す。
図1に示すように、トリコデルマ・ビレンス911菌は蛍光が確認された。
また、
図2は、培養液から抽出したトリコデルマ・ビレンス911菌のゲノムDNAの10倍希釈(4×10
1から4×10
-5ng)系列で、qPCRの感度を評価した結果である。
図2(a)がサイクル閾値とトリコデルマ・ビレンス911菌のDNA濃度の関係に基づく標準曲線、
図2(b)が融解曲線(蛍光対温度)、
図2(c)がさまざまな濃度のトリコデルマ・ビレンス911菌のDNAのリアルタイム増幅曲線である。
図2に示すように、トリコデルマ・ビレンス911菌は上記プライマーを用いたqPCRの感度が高いことがわかる。
【0057】
(2)菌の培養試験
3属種菌についてそれぞれ2菌株ずつを用いて、培養試験を行った。
・供試菌株(いずれも九州大学熱帯農学研究センターより入手)
Trichoderma virens 211菌、911菌
Trichoderma harzianum 32B菌、1511菌
Clonostachys rosea 811菌、1523菌
・方法
各菌株をPDA平板培地で前培養し、直径9mmのコルクボーラーで打ち抜いた。これを新しいPDA平板培地の端部に置き、5℃~35℃の温度条件で7日間培養し、培養後の各菌株について菌糸の長さを培養温度毎に測定した。
・結果
図3に示すように、トリコデルマ属の菌は良好な結果を示した。
【0058】
(3)セルラーゼ活性
Trichoderma virens 911菌、Trichoderma harzianum 32B菌、Clonostachys rosea 811菌をそれぞれPDA平板培地上で培養(25℃,暗黒下で8日間)しコルクボーラーで培地ごと打ち抜き、直径10mmのディスクを得た。
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩:20g,(NH4)2HPO4:1.5g,KH2PO4:0.46g,K2HPO4:1.0g,MgSO4・7H2O:0.5g,塩酸チアミン:500μg/L,水:1000mL(殺菌後培地pH:7.4)の組成の培地を作製し、500mLのフラスコに100mLを分注して20分間高圧殺菌した。この培地に、上記各菌の直径10mmのディスクを接種した。次いで、30℃暗黒下で3~13日間振とう培養(110rpmの往復振とう)し、菌体をろ別して得たろ液を粗酵素液とした。
幅1cm,長さ6cmのろ紙(ワットマン(登録商標)No.1、約50mg)に0.1M緩衝液(pH4.8,pH6.0,pH9.5)1.0mLと粗酵素液0.5mLを加え50℃で60分間酵素反応を行った。なお,0.1M緩衝液については、pH4.8には酢酸塩緩衝液を、pH6.0にはリン酸塩緩衝液を、pH9.5には炭酸塩緩衝液を用いた。次いで、DNS溶液4mLを加え、100℃条件下で5分間置き、9.5mLの純水を加えた。その後、540nmにおける吸光度を算出した。ブランクには、粗酵素液に変えて純水を用いた。測定の繰り返しは2回とした。
表1に、Trichoderma harzianum 32B菌に対する各菌の吸光度の比((各菌の粗酵素を用いた場合の吸光度-ブランクの吸光度)/(32B菌の粗酵素液を用いた場合の吸光度-ブランクの吸光度))を示す。値は2回の測定の平均値とした。
【0059】
【0060】
<製造例1>
浄水ケーキ:紙綿状物=10:1(質量比)(4:1(容積比))となるように混合して、含水率40%になるように蒸留水を加えて、オートクレーブした。この浄水ケーキと紙綿状物の混合物に分生胞子1000cfu/mL、すなわち、1mLにつき1000個の分生胞子が存在している濃度となるようにトリコデルマ菌液を加え、浄水ケーキと紙綿状物とトリコデルマ菌を含む混合物を得た。この混合物を30℃で4週間培養し、土壌改良資材1(土壌サプリメント1)を得た。
【0061】
土壌改良資材の分生胞子の濃度は、培養1週間ごとに測定した。分生胞子の濃度測定は、混合物1g中の分生胞子の個数として計算した。分生胞子の個数測定は、混合物1gを10mLの滅菌水に懸濁し、これを基準として、10倍および100倍希釈した溶液100μLをPDA平板培地に塗布し、30℃で5日間培養後、生えてきたコロニーの数を実測して、コロニー個数から逆算して胞子個数(濃度)を算出した。
図4に示すように、接種濃度1000cfu/mLから最初の一週間で胞子数は急激に増加した。またその後も長期間安定的に生存することが確認された。
【0062】
<製造例2>
[製造例2-1]
200mLの三角フラスコに、シュレッダー古紙(1mm×5mm):浄水ケーキ:バーミキュライト=1:8:1(質量比)になるように混合し、オートクレーブで蒸気圧滅菌を行った後、菌の胞子密度が103cfu/mLになるようにトリコデルマ菌液を入れ、混合物を調製した。この混合物を30℃で40日間培養し、土壌改良資材2(土壌サプリメント2)を得た。
【0063】
[製造例2-2]
シュレッダー古紙(1mm×5mm)をシュレッダー古紙(1mm×9.6mm)に変更した以外は製造例2-1と同様にして、土壌改良資材3(土壌サプリメント3)を得た。
【0064】
土壌改良資材2と土壌改良資材3の菌の胞子数を比較すると、混合物の培養1週間では土壌改良資材3の菌の胞子数が多い傾向にあったが、培養20日以上では土壌改良資材2の菌の胞子数の方が増加した。培養40日後、土壌改良資材2ではトリコデルマ菌が3.5×106cfu/g程度まで、土壌改良資材3ではトリコデルマ菌が4.0×105cfu/g程度まで増殖した。
【0065】
図5に、培養40日後のトリコデルマ菌を培養した三角フラスコの状態および取り出した土壌改良資材の状態を示す。
図5の写真に示しているように、内部を取り出した結果、シュレッダー用紙は分解されていることから、得られる土壌改良資材の中にシュレッダー用紙の残骸(残渣)が残る可能性は少なく、最初のトリコデルマ菌の濃度をある程度多めに入れて処理すれば、製品のクオリティーには影響しないことが示唆された。特に、1mm×5mmまで裁断した紙細片では、分解されずに残る残骸はほとんどなかった。
【0066】
<製造例3>
大型撹拌機に、浄水ケーキ(3000L)とバーミュキュライト(300L)を投入した。撹拌しながらシュレッダー紙(1mm×5mm、24kg)を投入し、さらに5分間撹拌した。ここに、トリコデルマ菌液(1L)を水(100L)で希釈した溶液をシャワーリングし、さらに10分間撹拌した。混合物(約3300L,含水率37.3質量%)を、フレキシブルコンテナバック(フレコン)3本に排出した。
フレコン内の混合物を、20L袋に袋詰した。これを、倉庫内(25℃~30℃)で1ヶ月程度保存し、これを土壌改良資材4(土壌サプリメント4)とした。
【0067】
<植物の栽培試験(I)>
以下の4つの試作培土を作製した。
・「農業土(未処理)」
農業用土壌のみ(土壌サプリメント1未適用)である。
・「園芸土(未処理)」
園芸用土壌のみ(土壌サプリメント1未適用)である。
・「農業土(処理)」
土壌サプリメント1:農業用土壌=1:100(重量)になるように混合し、15℃で暗所に1ヶ月間静置した培土である。
・「園芸土(処理)」
土壌サプリメント1:園芸用土壌=1:100(重量)になるように混合し、15℃で暗所に1ヶ月間静置した培土である。
なお、土壌サプリメント1を適用する培土において、1ヶ月間静置させるのは、農業用土壌または園芸用土壌中でトリコデルマ菌が土壌全体に広がる時間を1ヶ月程度と想定して、土壌中における目的菌の十分な繁殖(生育)を促すためである。
また、農業用土壌は、ビートモス22wt%、調製ビート30wt%、バーミュライト37wt%、竹炭2wt%、焼土9wt%を用いた。園芸用土壌は、ビートモス15wt%、ぼら土20wt%、バーミュキュライト10wt%、焼もみ18wt%、バーク22wt%、バーライト15wt%を用いた。
作製した4つの試作培土を用いて培土試験区を作製し、植物の栽培試験を行った。
【0068】
(1-1)コマツナの植物栽培試験
9号の素焼きの鉢に試作土壌を2L入れ、コマツナ(品種:丸葉)30種子を鉢中の土壌表面に等間隔で置き、上から同じ試作土壌を被覆する。播種が終了した鉢を九州大学生物環境利用センターの人工気象器(ファイトトロン施設)に持参し、室温(最低温度15℃、最高温度20℃以上、日照は自然コントロール)の環境下で4週間培養した。コマツナ種子の発芽率を4つの試作培土の試験区内で比較した。また、播種4週間後に、生育したコマツナの全長および乾物重を測定し、4つの試作培土の試験区内で比較した。
【0069】
表2は、コマツナ種子の発芽率について、試作培土毎の割合について示したものである。園芸用培土と比較して、農家用培土はコマツナの種子の発芽率が低い傾向にあった。また、トリコデルマ菌を処理した区と未処理の区を比較した場合、有用菌を接種した土壌の発芽率が高い傾向にあった。このことは、接種したトリコデルマのコマツナの種子の発芽促進に関与している可能性をもたらした。
【0070】
【0071】
図6は、播種1週間後と3週間後のコマツナの幼苗の写真である。
図6の写真からもわかるように、土壌改良資材で処理した試験区(サ処理)と未処理の試験区ではコマツナの生育に明確な違いが認められた。
【0072】
表3は、コマツナの播種4週間後のコマツナ幼苗の植物長と乾物重の平均値を示したものである。植物長は、土壌改良資材を適用した試験区(サ処理)と未処理の試験区、さらには土壌の違い(農家用培土と園芸用培土)に統計的な有意差は認められなかった。一方、乾物重に関しては、試作培土の違いにより明確な差違が認められた。特に、土壌改良資材を適用した試験区(サ処理)と未処理の試験区のデータは、処理した区の方が1.5~1.7倍も高いデータを示し、土壌改良資材の処理が、コマツナ幼苗の乾物重の増加に顕著に効果を示していることを明らかにした。
【0073】
【0074】
(1-2)トマト苗の栽培試験
トマト種子(品種マティナ)を素焼きの鉢に播種し、4~5枚の葉が展開した苗を作製した。作製したトマト苗は、長さ30cmのプランターに5本ずつ移植し、上記のファイトトロン施設で、20℃の室温で生育させた。
【0075】
図7に、トマト苗の1ヶ月後の生育試験の結果について示す。
図7に示すように、土壌改良資材を添加した処理区において、農業土および園芸土のいずれの培土でも全長が10~20%、乾物重は1.3~1.6倍に増加し、トマト苗についても、コマツナの試験結果と同様に植物の生育を促進する効果が示された。
この結果は、土壌改良資材を培土に添加することにより、植物の種子の発芽率の向上と苗の生長に非常に効果的に働いていることを証明するものである。また、果実等の収穫物の産生量も増加させることが期待できる。
【0076】
土壌改良資材を処理した試験区のコマツナと、未処理の試験区のコマツナの肥料要素(窒素、リン酸、カリウム)の吸収量を比較したところ、土壌改良資材を処理した試験区のコマツナは肥料要素の吸収量が1.5~3倍程度増加した。また、土壌改良資材を処理した試験区のトマトの肥料の吸収量も、未処理の試験区に比べて肥料要素の吸収量が1.5倍程度増加した。
【0077】
<植物の栽培試験(II)>
土壌改良資材として、土壌サプリメント1に変えて土壌サプリメント2を使用した以外は植物の栽培試験(I)と同様にして、4つの試作培土を作製した。作製した4つの試作培土を用いて培土試験区を作製し、植物の栽培試験を行った。
【0078】
(2-1)ダイコンの栽培試験
播種後1ヶ月目の育苗の生育調査を行った。表4および
図8に結果を示す。特に、根茎の肥大効果が土壌改良資材の適用によって顕著に表れた。農業土および園芸土のいずれも土壌サプリメント1を混合した試作培土で10%以上の葉茎長と、50%以上のダイコン組織(根茎)の肥大がみられた。従って、土壌改良資材はダイコンのような根菜類の栽培には非常に適している可能性が示唆された。
【0079】
【0080】
(4)オクラの栽培試験
苗の定植後、2ヶ月までの苗の全長と平均果実の重量について測定した。表5に結果を示す。平均長については、土壌改良資材の添加による試作培土の効果は、農業土および園芸土に共通して有意差はみられなかったが、平均果実重量については、いずれの試作培土区においても15%程度の増加がみられ、土壌改良資材が果実の収量増加に影響していることが判明した。
【0081】
【0082】
(5)ピーマン
ピーマンについては、苗の定植後、40日程度までの植物全長と平均果実重のデータを収集した。植物全長については、表6に結果を示す。土壌改良資材の効果はみられず、農業土および園芸土の間で明確な差異は認められなかった。しかし、平均果実重については、土壌改良資材の効果が顕著に認められ、農業土では15%、園芸土では23%程度の増加が認められた。プランターによる定植で、追肥等の施用は行わなかったにもかかわらず、土壌改良資材の適用により、露地栽培と同等レベルの収穫量の増加が期待できると示唆された。
【0083】
【0084】
(6)セロリ
図9はセロリの生育試験の結果である。セロリの生育試験では、根の張りが良いことが確認された。
【0085】
<植物の栽培試験(III)>
(3-1)サラダ菜の栽培試験
以下の土壌改良資材を用いて、株式会社大石物産のハウスを試験場所として、サラダ菜(株式会社福岡園芸支給)の生育評価を行った。
【0086】
(使用した土壌改良資材)
・土壌改良資材:土壌サプリメント4
・比較土壌改良資材1:菌の黒汁連作障害ブロックW(株式会社ヤサキ製)(ゼオライトにヤサキの製品である微生物資材「菌の黒汁(登録商標)」(光合成細菌)を染み込ませた土壌改良資材)
・比較土壌改良資材2:土づくり達人(自然応用科学株式会社製)(バーミキュライトに微生物資材「VS菌」を染み込ませた土壌改良資材)
・比較土壌改良資材3:保肥力(株式会社コメリ製)(主成分がフミン酸で構成された粒状の土壌改良資材)
・比較土壌改良資材4:モルデン連作君(株式会社飛馬)(構成成分がゼオライト100%の土壌改良資材)
【0087】
(生育評価方法)
定植するサラダ菜を事前にセルトレーで育苗(株式会社大石物産で販売の播種培土を使用)した。
また、畑の一部を6×3の計18区画に区分けし、5種類の土壌改良資材を縦横同列に被らないように1種類につき3区画に適量施用した。3区画については、土壌改良資材を施用しなかった。
次いで、1区画につき5~6株のサラダ菜を定植した。適宜追肥や農薬散布を行い、40~50日後に収穫した。収穫時に作物重量を測定した。区画ごとに重量を比較し生育度合いを比較した。
【0088】
結果を
図10に示す。
図10に示すように、土壌サプリメント4の適用した土壌で栽培したサラダ菜は作物の重量の増加が見られた。
【0089】
(3-2)ハクサイの栽培試験
土壌改良資材(土壌サプリメント4)および比較土壌改良資材1を用いて、ハクサイの生育評価を行った。
土壌改良資材を施用した土壌で栽培したハクサイは、70日目に収穫した。ハクサイは全て結球であった。比較土壌改良資材1を使用した土壌で栽培したハクサイは、90日目に収穫した。ハクサイはその半数は非結球であった。また、土壌改良資材を施用しなかった土壌では、ハクサイは全て非結球であったので、収穫を行わなかった。
図11は、定植50日目のハクサイの写真および土壌毎に栽培したハクサイ可食部の重量の平均値を示した図である。
図11に示すように、土壌サプリメントの適用した土壌でハクサイの収量増大が確認できた。
【0090】
(3-3)ニンジン等の栽培試験
ニンジン、ジャガイモ、チンゲンサイ、ブロッコリーについても、土壌改良資材(土壌サプリメント4)および比較土壌改良資材1を用いて生育評価を行った。結果を
図12、
図13に示す。
図12、
図13に示すように、ニンジン、ジャガイモ、チンゲンサイ、ブロッコリーについても土壌サプリメントの適用した土壌で収量増大が確認できた。
【0091】
<土壌病害抑止効果の評価試験>
(4-1)トマト根腐萎凋病の抑制効果の評価(I)
トリコデルマ菌は他の糸状菌を栄養源として寄生する菌寄生性の性質があるため、土壌中の病原菌の繁殖を抑える効果が期待できる。そこで、トマトの重要土壌病害であるトマト根腐萎凋病(病原菌名:フザリウム菌)の病害抑止効果を検証するために、まず、園芸土または農業土に病原菌のフザリウム菌の胞子数が1000個/gとなるように混合した汚染土壌を作製した。つぎに、汚染土壌をポットに入れて、1ヶ月経過した汚染土壌に土壌サプリメント2(トリコデルマ菌添加)を混合した汚染土壌(病原菌接種+土壌サプリ混入)を作製した。この土壌でトマト苗を栽培して、トマト苗の発病の様子を観察した。コントロールとして、園芸土または農業土(病原菌未接種土壌)および土壌サプリメント未処理の汚染土壌(病原菌接種土壌)でトマト苗を栽培して、トマト苗の発病の様子を観察した。
発病は約1ヶ月必要であるため、移植1ヶ月後のトマト苗の発病状態を観察して、トマト根腐萎凋病の抑止効果を検証した。
【0092】
表7および
図14に結果を示す。表7および
図14に示すように、土壌改良資材は、トマト土壌病害に対して抑制的に働いていることが証明された。トマト全長については、病原菌未接種土壌(健全)が平均28cmであったのに対し、病原菌接種土壌区では、17cmとトマト根腐萎凋病菌によりトマトの生育が抑制されたが、汚染土壌に土壌改良資材を入れた処理区では、41cmと健全個体と比較して20%以上の生育促進が観察された。
本試験結果より、土壌改良資材はトマト根腐萎凋病などが原因で進行する土壌病害連作障害を抑止するとともに、植物の生長を促進する働きがあることが判明し、複数の相乗効果が期待できることが証明された。
【0093】
【0094】
(4-2)トマト根腐萎凋病の抑制効果の評価(II)
汚染土壌と、土壌改良資材2を混合した汚染土壌(汚染土壌+サプリ)と、土壌改良資材2を混合した園芸土(非汚染土壌+サプリ)の3つの試験区を設定し、播種1週間後の苗を定植し、1週間ごとに各試験土壌のトリコデルマ菌および土壌病原菌の菌数を測定した。
図15に、定植後30日の各土壌で栽培したトマトの写真と、栽培日数に対する菌数をプロットした結果を示す。
【0095】
トマトでは連作病害である根腐萎凋病は汚染土壌で激しい枯死を引き起こしているが、土壌改良資材を適用することにより、枯死被害を軽減していることが明らかである。また、トマト根腐萎凋病菌は栽培30日まで土壌中で発病を可能にする菌数(106~107胞子数/g)を維持していることが判明した。トリコデルマ菌については栽培15日まで安定的に増殖し栽培30日まで接種濃度より高い菌数(104胞子数/g)を維持していた。汚染土壌に土壌改良資材を適応した土壌では、栽培5日までに菌数が逆転し、トリコデルマ菌は栽培30日まで根腐萎凋病菌を強く抑制していることが明らかとなった。
【0096】
(4-3)ダイズ炭そ病の抑制効果の評価
ダイズ炭そ病に感染させた汚染土壌と、土壌改良資材2を混合した汚染土壌(汚染土壌+サプリ)と、土壌改良資材2を混合した園芸土(非汚染土壌+サプリ)の3つの試験区を設定し、直接種子を播種して、1週間ごとに各試験土壌のトリコデルマ菌および土壌病原菌の菌数を測定した。
図16に、定植後30日の各土壌で栽培したダイズの写真と、栽培日数に対する菌数をプロットした結果を示す。
【0097】
ダイズでは連作病害である炭そ病は汚染土壌では激しい枯死をともなうが、土壌改良資材を適用することにより、枯死を回避することができることがわかった。ダイズ炭疽病菌は発病を可能にする菌数(106~107胞子数/g)を栽培後30日まで維持していることがわかった。トリコデルマ菌は栽培10日後までは順調に増加し、15日後でやや低下するものの、30日まで105胞子数/gの菌数を維持していた。汚染土壌に土壌改良資材を適用することにより、栽培3日後に菌数は逆転し、トリコデルマ菌は炭そ病菌の繁殖を安定的に抑制している傾向が示された。
【0098】
<連続栽培試験>
土壌サプリメント2を土壌改良資材として用い、作製した4つの試作培土を用いて培土試験区を作製し試験を行った。
コマツナの発芽苗生育栽培試験を実施した後に、同じ土壌を用いて引き続きコマツナ種子を栽培し、土壌改良資材中のトリコデルマ菌がコマツナの連続栽培にもたらす影響について調査するために、連続栽培試験を実施した。
試験は、土壌サプリメントを混入した培土(園芸土および農業度)を用いてコマツナを栽培した試験区で、2回目の試験では追加の肥料を培土に入れずに、連続してコマツナの栽培を実施した。また、土壌サプリメント中のトリコデルマ菌の残効性を調査するために、土壌中の菌胞子密度を測定した。また、コマツナの栽培評価は、生物重の平均値をデータとして測定した。表8に結果を示す。
【0099】
【0100】
表8に示すように、連続栽培におよぼす土壌サプリメントのトリコデルマ菌の残効性については、連続栽培により、20~30%程度のトリコデルマ菌の減少が観察された。おそらくは、ポット栽培により、トリコデルマ菌の流亡による土壌中での菌密度の低下が増殖を上回る結果であると推察された。また、連続栽培により、2回目のコマツナは全体的に薄い緑色を呈し、生物重も30~40%程度も低下していた(
図17)。このことは、肥料不足による成長不良を引き起こしている可能性が示唆された。
しかしながら、土壌サプリメントを添加した農業土および園芸土の方が15~20%程度生物重が増加している結果となったことからも、土壌サプリメントはコマツナの連続栽培で、トリコデルマ菌が植物生育に悪い影響を与えてはおらず、また、残効性も十分担保されていることを証明した。
以上の点から、土壌サプリメントの残効性や栽培地外への流出により、植物栽培環境への安全性は極めて高いものであると結論づけられる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の土壌改良資材を使用することで、連作障害の予防や改善や作物の生育が促進させる土壌に改良することができる。これにより、作物の収量が向上する。
【配列表】