IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社加来野製作所の特許一覧

<>
  • 特許-無菌乾燥装置および無菌乾燥方法 図1
  • 特許-無菌乾燥装置および無菌乾燥方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】無菌乾燥装置および無菌乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 21/04 20060101AFI20231114BHJP
   F26B 9/06 20060101ALI20231114BHJP
   F26B 25/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F26B21/04 C
F26B9/06 Z
F26B25/00 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020110198
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007300
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】599094532
【氏名又は名称】株式会社加来野製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】加来野 利光
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-052786(JP,A)
【文献】特開平09-322705(JP,A)
【文献】特開昭52-120155(JP,A)
【文献】実開平05-003886(JP,U)
【文献】特開平03-025280(JP,A)
【文献】特開平10-141850(JP,A)
【文献】特開平08-178522(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025328(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 21/04
F26B 9/06
F26B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乾燥物を収容する乾燥室と、
前記乾燥室内に設けられた殺菌装置と、
前記乾燥室内の空気を、吸気ダクトを通じて吸引し、除湿して、排気ダクトを通じて前記乾燥室内へ戻し、前記乾燥室内の被乾燥物を5~40℃の温度範囲内で乾燥するための除湿機と、
前記被乾燥物の乾燥終了後、前記乾燥室内の温度を80~85℃に昇温した後、所定時間加熱する加熱装置と
前記加熱装置の動作中、前記吸気ダクトおよび前記排気ダクトをそれぞれ遮断するダンパと
を備えた無菌乾燥装置。
【請求項2】
前記加熱装置は、前記乾燥室内に温風を供給する温風発生器である請求項記載の無菌乾燥装置。
【請求項3】
殺菌装置が設けられた乾燥室内に被乾燥物を収容し、前記乾燥室内の空気を、吸気ダクトを通じて除湿機に吸引し、除湿して、排気ダクトを通じて前記乾燥室内へ戻し、前記乾燥室内の被乾燥物を5~40℃の温度範囲内で乾燥すること、
前記被乾燥物の乾燥終了後、前記乾燥室内の温度を加熱装置により80~85℃に昇温した後、所定時間加熱すること
前記加熱装置の動作中、前記吸気ダクトおよび前記排気ダクトをそれぞれダンパにより遮断すること
を含む無菌乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農産物、林産物、魚産物、衣類や衛生器具等の被乾燥物を低温で乾燥し、無菌化する無菌乾燥装置および無菌乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乾燥装置として、例えば特許文献1~3に記載のものが知られている。特許文献1に記載の乾燥装置は、外部より導入する空気を導入空気加熱装置により加熱または導入空気冷却装置により冷却もしくは同時に加熱、冷却して乾燥室内に導入することにより、乾燥室内を循環する空気の温度または循環する空気の温度および被乾燥物の温度を目標値に合わせつつ被乾燥物の乾燥を促進するものである。また、この乾燥装置は、循環空気の一部を蒸発水分とともに外部に排除する排風機を備える。さらに、この乾燥装置は、乾燥室内部を循環する空気の温度または循環する空気の温度および被乾燥物の温度を目標値に合わせつつ、空気の導入時の通過面積を変更することにより導入空気量を調節する導入空気量調節装置を備えており、この導入空気量を調節することにより排出空気量を調節している。
【0003】
また、特許文献2に記載の乾燥装置は、乾燥室と、乾燥室の内気を除湿する除湿手段としての除湿機と、内気を循環させるための風路を形成する風路形成手段としての非通気性部材と、内気を送風する送風手段としての送風機と、種子収納容器としてのコンテナとを有している。なお、除湿機は冷却手段を備えており、乾燥室内の熱を乾燥室外に排出して乾燥室の内気を冷却できるようになっている。
【0004】
また、特許文献3に記載の乾燥装置は、氷結点近傍に保持可能な低温貯蔵庫と、この低温貯蔵庫内に配設された除湿手段および殺菌手段と、低温貯蔵庫内の空気を攪拌する送風手段とを備えている。この乾燥装置では、低温貯蔵庫内の循環空気を加熱することによって温度調整を行う。
【0005】
特許文献1に記載の乾燥装置では、被乾燥物の温度を目標値に合わせるために外部より導入する空気を加熱および冷却するとともに、この導入する空気量を調節することで、排風機から外部に排除する排出空気量の調整を行い、蒸発水分を循環空気とともに外部に排出するようにしているが、このように乾燥のための空気を外部より導入して加熱および冷却することは非常に効率が悪い。すなわち、外気に含まれる水分を加熱および冷却して除湿し、送風機室に入った空気を排風機により外部に排出しているため、無駄に捨てているエネルギが多い。
【0006】
また、特許文献2に記載の乾燥装置では、乾燥室の内気を種子の発芽率が低下する温度より低い温度とするために、乾燥室内の熱を除湿機に備えた冷却手段により冷却しているが、除湿機から出てくる空気を温度調整のためにさらに冷却することは非効率的であり、無駄が多い。同様に、特許文献3に記載の乾燥装置においても、低温貯蔵庫内の温度調整のために除湿手段によって除湿された循環空気を温度調整のために加熱することは非効率的であり、無駄が多い。
【0007】
そこで、本発明者は、低コストで低温での乾燥を効率良く行うことが可能な乾燥装置として、特許文献4に記載の乾燥装置を開発している。この乾燥装置では、被乾燥物を乾燥室に収容し、乾燥室内の空気を、吸気ダクトを通じて除湿機へ吸引し、除湿し、排気ダクトを通じて乾燥室内へ戻し、乾燥室内の温度が予め設定された5~40℃の温度範囲内に収まるようにすることで、被乾燥物を低コストかつ低温で効率良く乾燥可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭62-91783号公報
【文献】特開2004-286296号公報
【文献】特開平11-142059号公報
【文献】特許第5635952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、従来、低温乾燥装置としては多種多様のものがあるが、いずれも多少の除菌は可能であるものの、1台の低温乾燥装置で一般細菌や大腸菌等を無菌化するものはない。
そこで、本発明においては、被乾燥物を低温で乾燥するだけでなく、無菌化することが可能な無菌乾燥装置および無菌乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の無菌乾燥装置は、被乾燥物を収容する乾燥室と、乾燥室内に設けられた殺菌装置と、乾燥室内の空気を、吸気ダクトを通じて吸引し、除湿して、排気ダクトを通じて乾燥室内へ戻し、乾燥室内の被乾燥物を5~40℃の温度範囲内で乾燥するための除湿機と、被乾燥物の乾燥終了後、乾燥室内の温度を80~85℃に昇温した後、所定時間加熱する加熱装置とを備えたものである。
【0011】
本発明の無菌乾燥方法は、殺菌装置が設けられた乾燥室内に被乾燥物を収容し、乾燥室内の空気を、吸気ダクトを通じて除湿機に吸引し、除湿して、排気ダクトを通じて乾燥室内へ戻し、乾燥室内の被乾燥物を5~40℃の温度範囲内で乾燥すること、被乾燥物の乾燥終了後、乾燥室内の温度を加熱装置により80~85℃に昇温した後、所定時間加熱することを含むことを特徴とする。
【0012】
これらの発明によれば、乾燥室内の空気を殺菌装置により殺菌しながら除湿機により循環して除湿することで、乾燥室内に収容された被乾燥物はその表面が殺菌装置により殺菌されつつ、殺菌除湿された空気により5~40℃の低温の温度範囲内で乾燥されることにより、被乾燥物は変色、脱香および化学的変質がなく、乾燥して形状が収縮する。また、この乾燥終了後の被乾燥物は乾燥室内の温度が80~85℃に昇温された後、所定時間加熱されることで、無菌化される。このとき、被乾燥物は一旦乾燥が完了した後に80~85℃で加熱されるため、細胞は損傷することなく、無菌化される。
【0013】
なお、加熱装置の動作中、吸気ダクトおよび排気ダクトはそれぞれダンパにより遮断する構成とすることが望ましい。加熱装置の動作中、乾燥室内の温度が80~85℃の高温となるため、ダンパにより吸気ダクトおよび排気ダクトを遮断することで、除湿機がこの80~85℃の高温に晒されることを防止し、除湿機を保護することができる。
【発明の効果】
【0014】
(1)殺菌装置が設けられた乾燥室内に被乾燥物を収容し、乾燥室内の空気を、吸気ダクトを通じて除湿機に吸引し、除湿して、排気ダクトを通じて乾燥室内へ戻し、乾燥室内の被乾燥物を5~40℃の温度範囲内で乾燥し、被乾燥物の乾燥終了後、乾燥室内の温度を加熱装置により80~85℃に昇温した後、所定時間加熱する構成により、被乾燥物はその細胞が損傷することなく、無菌化され、変色、脱香および化学的変質がなく、形状が収縮するのみであり、カビや腐食がなく、長期保存が可能となる。
【0015】
(2)加熱装置の動作中、吸気ダクトおよび排気ダクトはそれぞれダンパにより遮断する構成により、加熱装置の動作中に除湿機が80~85℃の高温に晒されることを防止して除湿機を保護することができ、除湿機の故障を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の無菌乾燥装置の概略平面図である。
図2図1の無菌乾燥装置の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の無菌乾燥装置の概略平面図、図2図1の無菌乾燥装置の概略正面図である。
【0018】
図1および図2に示すように、本発明の実施の形態における無菌乾燥装置1は、被乾燥物を収容する乾燥室2と、乾燥室2内の空気を除湿する除湿機3と、乾燥室2内を加熱する加熱装置としての温風発生器4とを有する。乾燥室2内には、殺菌装置としての紫外線殺菌灯5が設けられている。また、乾燥室2には、乾燥室2内の温度を計測する温度計6が設けられている。
【0019】
乾燥室2は直方体状であり、その一面が開閉可能な扉2Aとなっている。乾燥室2内には、被乾燥物を載置するための台車を収容可能となっている。この台車には被乾燥物を載置可能な棚を複数段設置することが可能となっている。台車は、走行用の車輪を有しており、被乾燥物を載置したままの状態で扉2Aを開いて乾燥室2の内外に出し入れ可能となっている。
【0020】
除湿機3は、乾燥室2内と吸気ダクト7および排気ダクト8によって接続されている。吸気ダクト7は乾燥室2の下方に接続されている。吸気ダクト7の途中には遮断用のダンパ9Aを備えている。排気ダクト8は乾燥室2の上方に接続されている。排気ダクト8の途中には遮断用のダンパ9Bを備えている。
【0021】
乾燥室2内の空気は、吸気ダクト7を通じて除湿機3に吸引され、除湿機3により除湿されて、排気ダクト8を通じて乾燥室2内へ戻されることにより、乾燥室2内と除湿機3内との間で循環する。このとき、温度計6により計測される乾燥室2内の温度が5~40℃の温度範囲内となるように除湿機3の動作を制御する。
【0022】
温風発生器4は、被乾燥物の乾燥終了後、乾燥室2内の温度を80~85℃に昇温した後、所定時間加熱するものである。温風発生器4は、例えば乾燥室2内の温度が80~85℃に昇温した後、30~40分間保持することにより、被乾燥物を加熱して殺菌し、無菌化する。保持時間は被乾燥物により異なる。また、この温風発生器4の動作中は、ダンパ9A,9Bにより吸気ダクト7および排気ダクト8をそれぞれ遮断する。
【0023】
紫外線殺菌灯5は少なくとも除湿機3による被乾燥物の乾燥中点灯し、乾燥空気の殺菌および被乾燥物の表面の殺菌を同時に行う。温風発生器4の動作中、紫外線殺菌灯5は点灯しても点灯しなくても良いが、点灯することで被乾燥物がより確実に無菌化される。
【0024】
次に、上記構成の無菌乾燥装置1を用いた無菌乾燥方法について説明する。まず、紫外線殺菌灯5が設けられた乾燥室2内に被乾燥物を収容し、扉2Aを閉じて乾燥室2を密閉し、除湿機3の電源を入れる。このとき、ダンパ9A,9Bは開いておく。これにより、乾燥室2内の空気を、吸気ダクト7を通じて除湿機3に吸引し、除湿して、排気ダクト8を通じて乾燥室2内へ戻し、乾燥室2内の被乾燥物を5~40℃の温度範囲内で乾燥する。
【0025】
乾燥室2内の被乾燥物の表面は紫外線殺菌灯5により照射される紫外線により殺菌される。また、乾燥室2内の空気も紫外線殺菌灯5により殺菌される。乾燥中、乾燥室2は密閉されており、乾燥室2内の空気は入れ替わることなく除湿機3との間で循環し、殺菌された空気が、乾燥室2内の被乾燥物の表面を撫でるようにして接触する。これにより、被乾燥物の表面が除菌され、被乾燥物は無菌に近い状態で乾燥される。乾燥時間は被乾燥物にもよるが、12時間~24時間、36時間、あるいは48時間程度である。
【0026】
なお、乾燥室2内の温度は40℃が上限であり、好ましくは38℃以下とする。温度計6の測定誤差や応答速度等の問題もあり、乾燥時の乾燥室2内の温度を確実に40℃以下とするために38℃以下に制御することが望ましい。40℃以下で乾燥した場合、被乾燥物の栄養分が損なわれず、変色も起こらない。また、40℃以下で乾燥された被乾燥物は、お湯で戻すと生のように元に戻るため、野菜、穀物、農産物、果物や海産物等の被乾燥物に好適である。一方、40℃を超えた場合、細胞が壊れてしまい、元に戻らなくなる。
【0027】
被乾燥物の乾燥終了後、除湿機3の電源を切り、ダンパ9A,9Bを閉じて、温風発生器4の電源を入れる。これにより、乾燥室2内の温度を温風発生器4により80~85℃に昇温する。昇温完了までの時間は30~35分程度である。そして、乾燥室2内の温度を80~85℃で30~40分間保持し、被乾燥物を加熱する。これにより、既に乾燥が完了した被乾燥物は細胞が損傷することなく無菌化される。なお、乾燥が完了しておらず、生乾きの状態で同様に加熱した場合、被乾燥物内の水分が一気に蒸発して細胞が壊れることになる。
【0028】
その後、温風発生器4の電源を切り、乾燥室2内の温度が60℃程度まで下がったところで乾燥室2の扉2Aを開き、被乾燥物を取り出す。処理後の被乾燥物は、細胞が損傷することなく、無菌化されており、変色、脱香および化学的変質がなく、形状が収縮するのみであり、カビや腐食がなく、長期保存することが可能である。
【0029】
また、本実施形態における無菌乾燥装置1では、温風発生器4の動作中、吸気ダクト7および排気ダクト8はそれぞれダンパ9A,9Bにより遮断するため、温風発生器4の動作中に除湿機3が80~85℃の高温に晒されることなく、除湿機3は保護されており、除湿機3の故障が防止される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、農産物、林産物、魚産物、衣類や衛生器具等の被乾燥物を低温で乾燥するだけでなく、無菌化することが可能な無菌乾燥装置および無菌乾燥方法として有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 無菌乾燥装置
2 乾燥室
2A 扉
3 除湿機
4 温風発生器
5 紫外線殺菌灯
6 温度計
7 吸気ダクト
8 排気ダクト
9A,9B ダンパ
図1
図2