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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ゲート駆動回路および電源回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20231114BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M3/155 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020130812
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027042
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 和淑
(72)【発明者】
【氏名】古田 潤
(72)【発明者】
【氏名】長尾 詢一郎
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-092884(JP,A)
【文献】特開2020-068631(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104617752(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子のゲート端子を駆動するゲート駆動回路であって、
第1~第5のトランジスタと、キャパシタとを備え、
第1のトランジスタの第1の被制御端子および第3のトランジスタの第1の被制御端子は、第1の電位に接続され、
第1のトランジスタの第2の被制御端子は、第2のトランジスタの第1の被制御端子および前記キャパシタの第1の電極に接続され、
第2のトランジスタの第2の被制御端子は、第1の電位より低い第2の電位に接続され、
第3のトランジスタの第2の被制御端子は、前記スイッチング素子の前記ゲート端子および第4のトランジスタの第1の被制御端子に接続され、
第4のトランジスタの第2の被制御端子は、前記キャパシタの第2の電極および第5のトランジスタの第1の被制御端子に接続され、
第5のトランジスタの第2の被制御端子は、第2の電位に接続されている、ゲート駆動回路。
【請求項2】
第5のトランジスタの制御端子に接続される第1の抵抗をさらに備えた、請求項1に記載のゲート駆動回路。
【請求項3】
第6のトランジスタをさらに備え、
第5のトランジスタの第2の被制御端子は、第6のトランジスタを介して第2の電位に接続されている、請求項1または2に記載のゲート駆動回路。
【請求項4】
第6のトランジスタの制御端子に接続される第2の抵抗をさらに備えた、請求項3に記載のゲート駆動回路。
【請求項5】
第1および第3のトランジスタは、PMOSトランジスタであり、
第2、第4~第6トランジスタは、NMOSトランジスタである、請求項1~4のいずれかに記載のゲート駆動回路。
【請求項6】
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子のゲート端子を駆動するゲート駆動回路とを備え、
前記ゲート駆動回路は、請求項1~5のいずれかに記載のゲート駆動回路である、電源回路。
【請求項7】
前記スイッチング素子は、GaN系の高電子移動度トランジスタである、請求項6に記載の電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のゲート端子を駆動するゲート駆動回路に関し、特に、GaN‐HEMTに関する。
【背景技術】
【0002】
次世代パワー半導体であるGaN系の高電子移動度トランジスタ(GAN‐HEMT、Gallium Nitride High Electron Mobility Transistor)は、従来のSi(Silicon)デバイスに比べてオン抵抗が低く高周波特性が優れており、GaN‐HEMTを用いた電源回路(電力変換回路)は回路の小型軽量化、高効率化を実現出来ることから幅広い用途での利用が期待されている。GaN‐HEMTは多数キャリアのみが導通に関係するため、逆回復による損失が生じないことから、PFC(Power Factor Correction)回路などの電源回路の更なる高効率化が可能となる。
【0003】
しかし、GaN‐HEMTには、誤点弧現象が生じやすく、還流動作時の逆導通損失も大きいなど、従来のSiデバイスにはない問題がある。
【0004】
誤点弧現象のメカニズムを図10および図11を参照して説明する。図10は、GaN‐HEMTである2つのスイッチング素子S1,S2を備えるハーフブリッジ方式の電源回路(ハーフブリッジ回路)100を示しており、図11は、ローサイドのスイッチング素子S2を示している。ハイサイドのスイッチング素子S1がターンオンするとローサイドのスイッチング素子S2のドレイン端子に高dV/dtが生じる。この高dV/dtにより、ミラー電流imillerがスイッチング素子S2のミラー容量Cgdを介してゲート抵抗Rgや内部ゲート抵抗に流れる。この時生じるゲート電圧がスイッチング素子S2のしきい値電圧を超えると、意図しないスイッチング素子S2のターンオン、すなわち誤点弧が生じる。
【0005】
従来のSiデバイスのしきい値電圧が3Vから4V程度であるのに対し、GaN‐HEMTのしきい値電圧は1Vから2V程度と低いため、誤点弧がより生じやすい。電源回路で誤点弧現象が生じ、ハイサイドとローサイド双方のスイッチング素子S1,S2が同時にオンすると貫通電流がデバイスに流れるため、大きな電力損失が生じるほか、最悪の場合デバイスが破壊されるため、誤点弧現象の対策は必須である。
【0006】
誤点弧対策の従来手法としては、負電圧をゲート端子に印加してスイッチング素子をオフにする手法が一般的である。
【0007】
次に、還流動作時の逆導通損失について、図10および図12を参照して説明する。図10に示すハーフブリッジ回路100では、スイッチング素子S1,S2がOFFであるデットタイム時に、電流ISDがインダクタL、キャパシタCoutおよびスイッチング素子S2のループを還流する。これにより、電流ISDはスイッチング素子S1を逆導通する。
【0008】
図12(a)は、スイッチング素子S2の逆導通時の等価回路であり、図12(b)は、GaN‐HEMTの逆導通特性を示すグラフである。GaN‐HEMTはボディダイオードがない横型デバイスであるため、VGSに依存する逆導通特性をもつデバイスである。スイッチング素子S2のソースドレイン間には、寄生容量Cgd,Csdがある。VGSが0Vの時、Cgs両端の電位差は0Vであり、この時電流がソースから流れると、寄生容量Cgdと寄生容量Csdが充電され、VGDがしきい値電圧Vthに達するとチャネルが形成される。電流は形成されたチャネルを介して流れ、ソースドレイン間の電圧降下はVSD=VGD=Vthと表される。これがGaN‐HEMTの逆導通の原理である。ゲートに負電圧が印加されている場合、寄生容量Cgsを介して寄生容量Cgdが充電されるため、寄生容量Cgsに印加されている電圧、すなわちVGS分の電圧降下が生じる。従って負電圧印加時のVSDは次式で表される。
SD=VGD-VGS(1)
このためGaN‐HEMTの場合、単に負電圧を用いて誤点弧を防止する従来手法は逆導通損失の増加の原因となる。
【0009】
これに対し、スイッチング素子のターンオフ時には負電圧を印加し、その後のデッドタイム時に0Vを印加することにより、誤点弧現象の防止および逆導通損失の低減を図る技術が提案されている(例えば、非特許文献1~3)。すなわち、非特許文献1~3には、スイッチング素子のゲート端子に、正電圧、負電圧および0Vの3レベルの電圧を印加可能とする構成が開示されている。図13図15はそれぞれ、非特許文献1~3に記載のゲート駆動回路200,300,400を示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Zhi-Liang Zhang、"Three-Level Gate Drivers for eGaN‐HEMTs in Resonant Converters"、2017
【文献】Achim Seidel、"A Fully Integrated Three-Level 11.6nC Gate Driver Supporting GaN Gate Injection Transistors"、2018
【文献】"GaN-Tr Application Note(PGA26E07BA)"、Panasonic Semiconductor Solutions Co., Ltd、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図13に示す非特許文献1に記載のゲート駆動回路200は、スイッチング素子S1のゲート端子を3レベルで駆動するために、中間電圧生成回路(Mid-level generator)201に接続されている。中間電圧生成回路201は、ゲート駆動回路200に用いられる電源電圧VCCとは異なる電源V-Vを使用する。すなわち、非特許文献1では、追加の電源V-Vを必要とするために、回路面積が増大するという問題がある。
【0012】
図14に示す非特許文献2に記載のゲート駆動回路300は、スイッチング素子S1のゲート端子を駆動するために必要とする電源は電源VDRVのみであるが、スイッチング素子S1のゲート端子だけでなくソース端子にも接続されている。そのため、破線矢印に示すように、スイッチング素子S1のソース電流がゲート駆動回路300に流れる可能性があり、信頼性に問題がある。
【0013】
図15に示す非特許文献3に記載のゲート駆動回路400は、2つのトランジスタT401,T402に加え、抵抗Rin,Rg_on,Rg_offおよびキャパシタCsが設けられている。抵抗Rinの抵抗値は高く(1500Ω)、抵抗Rg_on,Rg_offの抵抗値は低いため、スイッチング素子S1のターンオン時は、抵抗Rg_onおよびキャパシタCsに電流が流れ、キャパシタCsに電荷が蓄えられ、キャパシタCsの充電が完了すると、抵抗Rinに電流が流れる。ターンオフ時は、キャパシタCsが放電し、キャパシタCsから抵抗Rg_offに電流が流れるため、キャパシタCsにおける電位差により、スイッチング素子S1のゲート端子には負電圧が印加される。キャパシタCsの放電が終了するとスイッチング素子S1のゲート電圧は0Vとなる。その後、ターンオン時には、キャパシタCsにおける電位差は0Vであるため、即座にスイッチング素子S1のゲート端子に正電圧が印加される。
【0014】
しかし、ターンオフ後、キャパシタCsの放電が終了する前にターンオンすると、キャパシタCsの電極間に電位差が存在するため、キャパシタCsが再充電された後でなければ、スイッチング素子S1のゲート電圧は正電圧にならない(抵抗Rinは抵抗値が非常に高いため、キャパシタCsが再充電されるまではキャパシタCsに電流が流れ、抵抗Rinには電流は流れない)。よって、ゲート駆動回路400は高周波動作に不向きであるという問題がある。
【0015】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、誤点弧現象の防止および逆導通損失の低減を実現でき、かつ、構成が簡易で、信頼性が高く、高周波動作が可能なゲート駆動回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明に係るゲート駆動回路は、スイッチング素子のゲート端子を駆動するゲート駆動回路であって、第1~第5のトランジスタと、キャパシタとを備え、第1のトランジスタの第1の被制御端子および第3のトランジスタの第1の被制御端子は、第1の電位に接続され、第1のトランジスタの第2の被制御端子は、第2のトランジスタの第1の被制御端子および前記キャパシタの第1の電極に接続され、第2のトランジスタの第2の被制御端子は、第1の電位より低い第2の電位に接続され、第3のトランジスタの第2の被制御端子は、前記スイッチング素子の前記ゲート端子および第4のトランジスタの第1の被制御端子に接続され、第4のトランジスタの第2の被制御端子は、前記キャパシタの第2の電極および第5のトランジスタの第1の被制御端子に接続され、第5のトランジスタの第2の被制御端子は、第2の電位に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、誤点弧現象の防止および逆導通損失の低減を実現でき、かつ、構成が簡易で、信頼性が高く、高周波動作が可能なゲート駆動回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るゲート駆動回路の回路図である。
図2】ゲート駆動回路を制御する制御信号、スイッチング素子のゲートソース間電圧およびドレインソース間電圧の波形である。
図3】ターンオン時におけるゲート駆動回路の動作を示す回路図である。
図4】ターンオフ時におけるゲート駆動回路の動作を示す回路図である。
図5】デッドタイム時におけるゲート駆動回路の動作を示す回路図である。
図6】本発明の変形例に係るゲート駆動回路の回路図である。
図7】本発明の比較例として用いた従来のゲート駆動回路の回路図である。
図8】下回生型ハーフブリッジ回路の回路図である。
図9】ターンオフ時のスイッチング素子のゲートソース間電圧およびドレインソース間電圧の波形である。
図10】ハーフブリッジ方式の電源回路の回路図である。
図11】誤点弧現象の説明図である。
図12】還流動作時の逆導通損失の説明図である。
図13】従来のゲート駆動回路の回路図である。
図14】従来のゲート駆動回路の回路図である。
図15】従来のゲート駆動回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
(回路構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るゲート駆動回路1の回路図である。ゲート駆動回路1は、GaN‐HEMTであるスイッチング素子S1のゲート端子を駆動する。
【0021】
ゲート駆動回路1は、第1~第6のトランジスタT1~T6と、キャパシタCsubと、ゲート抵抗Rgとを備えている。第1および第3のトランジスタT1,T3は、PMOSトランジスタであり、第2、第4~第6トランジスタT2,T4~T6は、NMOSトランジスタである。
【0022】
第1のトランジスタT1のソース端子(第1の被制御端子)および第3のトランジスタT3のソース端子(第1の被制御端子)は、電源電位(第1の電位)VDDに接続されている。第1のトランジスタT1のドレイン端子(第2の被制御端子)は、第2のトランジスタT2のドレイン端子(第1の被制御端子)およびキャパシタCsubの第1の電極に接続されている。第2のトランジスタT2のソース端子(第2の被制御端子)は、接地電位(第2の電位)に接続されている。第3のトランジスタT3のドレイン端子(第2の被制御端子)は、スイッチング素子S1のゲート端子および第4のトランジスタT4のドレイン端子(第1の被制御端子)に接続されている。第4のトランジスタT4のソース端子(第2の被制御端子)は、キャパシタCsubの第2の電極および第5のトランジスタT5のドレイン端子(第1の被制御端子)に接続されている。第5のトランジスタT5のソース端子(第2の被制御端子)は、第6のトランジスタT6を介して接地電位に接続されている。すなわち、第5のトランジスタT5のソース端子は、第6のトランジスタT6のドレイン端子に接続され、第6のトランジスタT6のソース端子は、接地電位に接続されている。
【0023】
以上のように、ゲート駆動回路1は、トランジスタの数が6個、キャパシタの数が1個であり、制御信号も2つであるため、構成が簡易である。また、図13に示す従来のゲート駆動回路200のように、追加の電源VX-VZを必要としないため、回路面積も小さくて済む。また、図14に示す従来のゲート駆動回路300とは異なり、ゲート駆動回路1は、スイッチング素子S1のゲート端子のみに接続されているため、スイッチング素子S1からゲート駆動回路1に電流が流れることがなく、信頼性に問題はない。
【0024】
(動作原理)
以下、ゲート駆動回路1の動作原理を説明する。第1~第4のトランジスタT1~T4の各ゲート端子には、制御信号SigAが印加され、第5および第6のトランジスタT5,T6の各ゲート端子には、制御信号SigBが印加される。図2に、制御信号SigA,SigB、スイッチング素子S1のゲートソース間電圧VGSおよびドレインソース間電圧VDSの波形を示す。
【0025】
(ターンオン)
時間t1において、制御信号SigBはハイレベルであり、制御信号SigAがハイレベルからローレベルになる。これにより、トランジスタT1,T3,T5,T6がONになり、図3に示すように、電源電位VDDからの電流は、ノードN1において分岐し、一方の電流は、トランジスタT3を通ってスイッチング素子S1のゲート端子に流れる。他方の電流は、トランジスタT1、キャパシタCsub、トランジスタT5およびT6を通って接地電位に流れる。このとき、キャパシタCsubに電荷が蓄積され、電位差が生じる。
【0026】
(ターンオフ)
時間t2において、制御信号SigAがハイレベルになり、制御信号SigBがローレベルになる。これにより、トランジスタT1,T3,T5,T6がOFFになる一方、トランジスタT2,T4がONになる。その結果、図4に示すように、キャパシタCsubの電荷が放電され、スイッチング素子S1のゲート端子からトランジスタT4、キャパシタCsubおよびトランジスタT2を介して接地電位に電流が流れる。これにより、スイッチング素子S1のゲートソース間電圧VGSは負電圧になり、誤点弧現象が防止される。
【0027】
(デッドタイム)
時間t3において、制御信号SigBをハイレベルに立ち上げる。これにより、トランジスタT5,T6がONになり、図5に示すように、トランジスタT6側の接地電位からスイッチング素子S1のゲート端子へ電流が流れ、ゲートソース間電圧VGSは0Vにクランプされる。よって、還流動作時の逆導通損失が低減される。
【0028】
以上のように、トランジスタT1~T6をON/OFFすることで、スイッチング素子S1のゲート端子には、正電圧、負電圧および0Vの3レベルの電圧が印加される。これにより、誤点弧現象の防止および逆導通損失の低減を実現できる。
【0029】
デッドタイム後、時間t4において、制御信号SigAをローレベルに立ち下げると、スイッチング素子S1がターンオンし、図4に示す電流が流れる。ここで、キャパシタCsubの放電が完了しておらず、電荷が残っていたとしても、破線矢印に示すように、キャパシタCsubを通過する電流はスイッチング素子S1のゲート端子に流れず、この電流とは別に、実線矢印に示す電流がスイッチング素子S1のゲート端子に流れる。そのため、キャパシタCsubの再充電期間に破線矢印に示す電流が止まっても、スイッチング素子S1の駆動に影響を与えない。すなわち、キャパシタCsubを完全に放電する前にスイッチング素子S1をターンオンしても正常に動作するため、数百kHzから数MHz程度の高周波動作が可能である。
【0030】
一方、図15に示す従来のゲート駆動回路400では、スイッチング素子S1のゲート端子に直接キャパシタCsが接続されている。そのため、オフ期間においてキャパシタCsを完全に放電する前にスイッチング動作を行うと、キャパシタCsが再充電されなければスイッチング素子S1をONにできず、ターンオン時間は大きくなる。よって、高周波動作で動作させた場合、GaN‐HEMTのもつ高速スイッチング性能を十分に引き出すことができない。
【0031】
以上のように、本実施形態に係るゲート駆動回路1は、誤点弧現象の防止および逆導通損失の低減を実現でき、かつ、構成が簡易で、信頼性が高く、高周波動作が可能であるという特徴を有する。
【0032】
(変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0033】
図6は、本発明の変形例に係るゲート駆動回路1’の回路図である。ゲート駆動回路1’は、図1に示すゲート駆動回路1において、第1および第2の抵抗R1,R2をさらに備えた構成である。第1の抵抗R1は、第5のトランジスタT5のゲート端子(制御端子)に接続され、第2の抵抗R2は、第6のトランジスタT6のゲート端子(制御端子)に接続されている。
【0034】
図2に示すように、時間t3において、制御信号SigBをハイレベルに立ち上げることにより、スイッチング素子S1のゲートソース間電圧VGSは0Vにクランプされるが、実際は瞬間的に1V程度にまでオーバーシュートする(下記実施例(図9)では0.98V)。図6に示すゲート駆動回路1’では、第1および第2の抵抗R1,R2によって、制御信号SigBの立ち上がり速度が遅くなり、トランジスタT5,T6がOFFからONに切り替わる時間が長くなる。これにより、オーバーシュートによる電圧VGSの上昇幅が抑えられ、電圧VGSがスイッチング素子S1のしきい値電圧を超えることを確実に防止することができる。
【0035】
なお、図1に示すゲート駆動回路1において、第5および第6のトランジスタT5,T6の一方を省略してもよい。
【実施例
【0036】
実施例では、図1に示す本発明のゲート駆動回路1が、誤点弧現象を防止でき、かつ、従来のゲート駆動回路に比べ逆導通損失を低減できるか評価した。ゲート駆動回路1のキャパシタCsubは4.7nFのセラミックコンデンサを使用した。
【0037】
従来のゲート駆動回路は、図7に示すように、PMOSトランジスタT11と、NMOSトランジスタT12と、ゲート抵抗Rgとを備えたゲート駆動回路11を使用した。具体的には、SILABS社製のゲート駆動回路(SI8275GB)を使用し、負電圧VEEは-2.5Vとした。
【0038】
また、評価用の電源回路として、図8に示す下回生型ハーフブリッジ回路を使用した。ハーフブリッジ回路を構成するスイッチング素子S1,S2は、GaN Systems社製のGaN‐HEMT(GS66504B-E01(Vth(typ)=1.3V))を用いた。入力電圧Vinは50V、入力電流は4Aとし、インダクタLのインダクタンスは100μH、スイッチング周波数は500kHz、デッドタイムは100nsとした。
【0039】
実施例では、スイッチング素子S1,S2を駆動する2つのゲート駆動回路に、図1に示すゲート駆動回路1を使用した。比較例では、当該2つのゲート駆動回路に図7に示すゲート駆動回路11を使用した。そして、ローサイドのスイッチング素子S2のゲートソース間電圧Vgsおよびドレインソース間電圧Vdsを測定した。
【0040】
図9は、ターンオフ時のスイッチング素子S2の電圧Vgs,Vdsの波形を示している。ゲート駆動回路1を用いた実施例では、ターンオフ時にスイッチング素子S2を負電圧で駆動しているため、スイッチング素子S1のスイッチング時に生じるミラー電流によるゲート電圧振動は0.98Vに抑えられ、しきい値電圧(1.3V)を超えなかった。一方、ゲート駆動回路11を用いた比較例では、ゲート電圧振動が1.6Vとなり、しきい値電圧を超えた。
【0041】
また、デッドタイム時の電圧降下Vsdと逆導通損失の評価結果は、従来のゲート駆動回路11がそれぞれ3.77V、11.4Wであったのに対し、本発明のゲート駆動回路1は、2.34V、8.7Wであった。このように、ゲート駆動回路1は、電圧降下を抑えることで、ゲート駆動回路11に比べ逆導通損失が23.7%低減された。
【0042】
以上のように、本発明のゲート駆動回路1により誤点弧の対策と逆導通損失を低減することが可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るゲート駆動回路は、GaN‐HEMTの駆動に好適であるが、これに限定されず、例えば、Si系半導体デバイスの駆動にも適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 ゲート駆動回路
1’ ゲート駆動回路
2 ゲート駆動回路
Csub キャパシタ
R1 第1の抵抗
R2 第2の抵抗
Rg ゲート抵抗
S1 スイッチング素子
S2 スイッチング素子
T1 第1のトランジスタ
T2 第2のトランジスタ
T3 第3のトランジスタ
T4 第4のトランジスタ
T5 第5のトランジスタ
T6 第6のトランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15