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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
F16K31/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020159554
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022052991
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】谷田貝 洋臣
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-146299(JP,A)
【文献】特開2011-153632(JP,A)
【文献】特開2011-208729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/00-31/05
H02K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁本体と、前記弁本体に取り付けられたキャンと、前記キャンの外側に取り付けられたステーターユニットと、を有する電動弁であって、
前記キャンは、円筒部と、前記円筒部の一端に連設された天井部と、を有し、
前記ステーターユニットは、キャップ形状のカバーと、前記カバーの内側に配置された円筒形状のステーターと、前記ステーターと前記カバーとの間に充填された充填樹脂からなるモールドと、を有し、
前記ステーターユニットは、前記キャンが軸方向に挿入される開口を有し、
前記カバーは、前記天井部が内側に配置されるドーム部を有し、
前記ドーム部は、その内面に延在するリブを有し、
前記キャンの前記円筒部は、複数の半球形状の突部を有し、
前記ステーターユニットは、前記円筒部の外周面に対向して配置される複数の保持片を有し、
前記複数の保持片は、貫通孔または凹部からなる保持部を有し、
前記保持部の前記軸方向の大きさは、前記突部の径以下であり、
前記保持部の前記軸方向の中心から前記リブまでの前記軸方向の長さをL3とし、前記突部の中心から前記天井部における前記リブに接する箇所までの前記軸方向の長さをL4とし、前記保持部の前記軸方向の大きさをD1とすると、以下の式(2)を満足し、
L3-L4<D1/2 ・・・ (2)
前記キャンが取付位置にあるとき、前記保持部の前記軸方向の中心と前記突部の中心とが一致して前記保持部に前記突部が保持され、前記リブが前記天井部と前記軸方向に間隔をあけて対向し、
前記キャンが前記取付位置から移動されて前記リブが前記天井部と面接触する位置に前記キャンがあるとき、前記保持片が弾性変形されることを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記キャンが前記開口に前記取付位置まで挿入されたとき、前記リブが前記天井部と前記軸方向に間隔をあけて対向するように配置され、
前記キャンが前記取付位置よりさらに前記開口に挿入されたとき、前記リブの先端面が前記天井部と面接触するように形成されている、請求項に記載の電動弁。
【請求項3】
前記リブが、前記キャンと同軸に配置され、前記キャンの外径より小さい径を有する円形状または円弧形状を有している、請求項または請求項に記載の電動弁。
【請求項4】
前記ドーム部の頂部の厚さは、前記ドーム部の外面から前記リブの先端面までの厚さより小さい、請求項~請求項のいずれか一項に記載の電動弁。
【請求項5】
前記ドーム部の頂部に開口が設けられている、請求項~請求項のいずれか一項に記載の電動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動弁の一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1の電動弁は、電動弁本体と、ステーターユニット(電動弁用コイル)と、を有している。電動弁本体は、金属製の外殻を有している。ステーターユニットは、カバーと、ステーターと、を有している。カバーは、合成樹脂製である。カバーは、キャップ形状を有している。ステーターは、円筒形状を有している。ステーターは、カバー内に配置される。カバーとステーターとの間には、充填樹脂が充填されている。ステーターユニットは、電動弁本体が挿入される開口を有している。カバーには、ドーム部が設けられている。ドーム部の内側には、電動弁本体の半球形状の天井部が配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-343085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した電動弁は、例えば、エアコンの室外機ユニットなどの装置に組み込まれることがあり、装置の動作時に電動弁に対して振動が伝わることがある。そして、電動弁のステーターユニットは弾性を有する保持片によって電動弁本体に取り付けられているので、振動によってドーム部にキャンの天井部が繰り返し衝突することがあり、ドーム部が破損してしまうおそれがあった。また、電動弁は、ステーターユニットの開口に電動弁本体を挿入することにより組み立てられる。しかしながら、この開口への電動弁本体の挿入を進めると、天井部の頂部がドーム部に突き当たり、電動弁本体を挿入する力が一点に集中してドーム部が破損してしまうおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、ステーターユニットのカバーの破損を抑制できる電動弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る電動弁は、弁本体と、前記弁本体に取り付けられたキャンと、前記キャンの外側に取り付けられたステーターユニットと、を有する電動弁であって、前記キャンは、円筒部と、前記円筒部の一端に設けられた天井部と、を有し、前記ステーターユニットは、キャップ形状のカバーと、前記カバーの内側に配置された円筒形状のステーターと、前記ステーターと前記カバーとの間に充填された充填樹脂からなるモールドと、を有し、前記ステーターユニットは、前記キャンが軸方向に挿入される開口を有し、前記カバーは、前記天井部が内側に配置されるドーム部を有し、前記キャンが前記開口に所定の取付位置まで挿入されたとき、前記ドーム部が前記天井部と前記軸方向に間隔をあけて対向するように配置され、前記キャンが前記取付位置よりさらに前記開口に挿入されたとき、前記ドーム部が前記天井部と接触するように形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、カバーは、キャンの天井部が内側に配置されるドーム部を有している。キャンがステーターユニットの開口に所定の取付位置まで挿入されたとき、ドーム部が天井部と軸方向に間隔をあけて対向するように配置される。そして、キャンが取付位置よりさらに開口に挿入されたとき、ドーム部が天井部と接触するように形成されている。このようにしたことから、キャンが取付位置にあるとき、つまり、ステーターユニットがキャンに正しく取り付けられているとき、天井部とドーム部とが間隔をあけて配置され、電動弁に振動が伝わってもドーム部とキャンの天井部とが繰り返し衝突することを回避できる。したがって、ステーターユニットのカバーの破損を抑制できる。
【0009】
本発明において、前記ドーム部は、その内面に角部を有し、前記キャンが前記開口に前記取付位置まで挿入されたとき、前記角部が前記天井部と前記軸方向に間隔をあけて対向するように配置され、前記キャンが前記取付位置よりさらに前記開口に挿入されたとき、前記角部が前記天井部と線接触するように形成されていることが好ましい。このようにすることで、キャンが取付位置よりさらに奥まで開口に挿入されたとき、キャンの天井部がカバーの角部に線接触し、キャンを挿入する力が一点に集中することを回避できる。したがって、ステーターユニットのカバーの破損を抑制できる。
【0010】
本発明において、前記角部が、前記キャンと同軸に配置され、前記キャンの外径より小さい径を有する円形状または円弧形状を有していることが好ましい。このようにすることで、天井部が角部に突き当たったときに、ドーム部がより均等に力を受けることができる。そのため、カバーの破損をより効果的に抑制できる。
【0011】
本発明において、前記ドーム部は、その内面に角部を有する。前記キャンの前記円筒部は、複数の半球形状の突部を有し、前記ステーターユニットは、前記円筒部の外周面に対向して配置される複数の保持片を有し、前記複数の保持片は、前記キャンが前記取付位置にあるときに前記突部が保持される貫通孔または凹部からなる保持部を有し、前記保持部の前記軸方向の大きさは、前記突部の径以下であり、前記保持部の前記軸方向の中心から前記角部までの前記軸方向の長さをL1とし、前記突部の中心から前記天井部における前記角部に接する箇所までの前記軸方向の長さをL2とし、前記保持部の前記軸方向の大きさをD1とすると、「L1-L2<D1/2」を満足する。前記キャンが取付位置にあるとき、前記保持部の前記軸方向の中心と前記突部の中心とが一致して前記保持部に前記突部が保持され、前記角部が前記天井部と前記軸方向に間隔をあけて対向する。前記キャンが前記取付位置から移動されて前記角部が前記天井部と線接触する位置に前記キャンがあるとき、前記保持片が弾性変形される。このようにすることで、天井部と角部とが接した状態において、突部の中心が、保持部内でかつ保持部の上記軸方向の中心よりドーム部に近い箇所に位置付けられる。このとき、保持片が弾性変形しており、保持片の復元力によって突部の中心と保持部の軸方向の中心とが一致する位置(取付位置)にキャンが移動される。これにより、ステーターユニットに対して、キャンを正しく位置付けることができる。
【0012】
本発明において、前記ドーム部の頂部の厚さは、前記ドーム部の外面から前記角部までの厚さより小さいことが好ましい。このようにすることで、ドーム部の厚さを薄くすることでき、カバーの成形時に生じるおそれのある樹脂のひけを抑制できる。
【0013】
本発明において、前記ドーム部は、その内面に延在するリブを有し、前記キャンが前記開口に前記取付位置まで挿入されたとき、前記リブが前記天井部と前記軸方向に間隔をあけて対向するように配置され、前記キャンが前記取付位置よりさらに前記開口に挿入されたとき、前記リブの先端面が前記天井部と面接触するように形成されていることが好ましい。このようにすることで、キャンが取付位置よりさらに奥まで開口に挿入されたとき、キャンの天井部がカバーのリブに面接触し、キャンを挿入する力が一点に集中することを回避できる。したがって、ステーターユニットのカバーの破損を抑制できる。
【0014】
本発明において、前記リブが、前記キャンと同軸に配置され、前記キャンの外径より小さい径を有する円形状または円弧形状を有していることが好ましい。このようにすることで、天井部がリブに突き当たったときに、ドーム部がより均等に力を受けることができる。そのため、カバーの破損をより効果的に抑制できる。
【0015】
本発明において、前記ドーム部は、その内面に延在するリブを有する。前記キャンの前記円筒部は、複数の半球形状の突部を有し、前記ステーターユニットは、前記円筒部の外周面に対向して配置される複数の保持片を有し、前記複数の保持片は、前記キャンが前記取付位置にあるときに前記突部が保持される貫通孔または凹部からなる保持部を有し、前記保持部の前記軸方向の大きさは、前記突部の径以下であり、前記保持部の前記軸方向の中心から前記リブまでの前記軸方向の長さをL3とし、前記突部の中心から前記天井部における前記リブに接する箇所までの前記軸方向の長さをL4とし、前記保持部の前記軸方向の大きさをD1とすると、「L3-L4<D1/2」を満足する。前記キャンが取付位置にあるとき、前記保持部の前記軸方向の中心と前記突部の中心とが一致して前記保持部に前記突部が保持され、前記リブが前記天井部と前記軸方向に間隔をあけて対向する。前記キャンが前記取付位置から移動されて前記リブが前記天井部と面接触する位置に前記キャンがあるとき、前記保持片が弾性変形される。このようにすることで、天井部とリブとが接した状態において、突部の中心が、保持部内でかつ保持部の上記軸方向の中心よりドーム部に近い箇所に位置付けられる。このとき、保持片が弾性変形しており、保持片の復元力によって突部の中心と保持部の軸方向の中心とが一致する位置(取付位置)にキャンが移動される。これにより、ステーターユニットに対して、キャンを正しく位置付けることができる。
【0016】
本発明において、前記ドーム部の頂部の厚さは、前記ドーム部の外面から前記リブの先端面までの厚さより小さいことが好ましい。このようにすることで、ドーム部の厚さを薄くすることでき、カバーの成形時に生じるおそれのある樹脂のひけを抑制できる。
【0017】
本発明において、前記ドーム部の頂部に開口が設けられていることが好ましい。このようにすることで、電動弁の軸方向の大きさをより小さくできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ステーターユニットのカバーの破損を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例に係る電動弁を示す図である。
図2図1の電動弁が有するステーターユニットのカバーの底面図である。
図3図2のカバーの一部断面を含む斜視図である。
図4図1の電動弁が有するステーターユニットのステーターの断面図である。
図5図1の電動弁の拡大図である。
図6図1の電動弁の他の拡大図である。
図7図1の電動弁の変形例の構成を示す図である。
図8図7の電動弁が有するステーターユニットのカバーの底面図である。
図9図8のカバーの一部断面を含む斜視図である。
図10図7の電動弁の拡大断面図である。
図11図1の電動弁の他の変形例の構成を示す図である。
図12】従来の電動弁を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例に係る電動弁について、図1図6を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施例に係る電動弁を示す正面図である。図2は、図1の電動弁が有するステーターユニットのカバーの底面図である。図3は、図2のカバーの一部断面を含む斜視図である。図4は、図1の電動弁が有するステーターユニットのステーターの断面図である。図5図6は、図1の電動弁の拡大正面図である。図5は、キャンがステーターユニットの開口に取付位置まで挿入された状態を示す。図6は、キャンが取付位置よりさらにステーターユニットの開口に挿入された状態を示す。図1図5図6では、ステーターユニットを断面図で示している。
【0022】
図1に示すように、電動弁1は、弁本体10と、キャン20と、ステーターユニット30と、を有している。なお、以下の説明において、「上下」は、各図面における位置関係を示している。
【0023】
弁本体10は、有底円筒形状を有している。弁本体10は、弁室と、弁室に開口した弁口と、を有している。弁本体10には、第1導管11および第2導管12がろう付けされている。第1導管11は、弁室に接続されている。第2導管12は、弁口に接続されている。弁室には、弁口を開閉する弁体(図示なし)が配置されている。
【0024】
キャン20は、上端が塞がれた円筒形状を有している。キャン20は、円筒部21と、天井部22と、を一体的に有している。円筒部21の下端には、弁本体10が取り付けられている。円筒部21の外周面には、複数の突部23が設けられている。各突部23は、半球形状を有している。なお、本明細書において「半球形状」とは、球体を正確に半分にした形状、および、球体を平面(球体の中心を含まないもの)で切断したドーム形状などの略半球形状を含む。複数の突部23は、円筒部21の外周面に90度間隔で4つ設けられている。天井部22は、半球形状を有している。天井部22は、円筒部21の上端(一端)に連設されている。天井部22は、円筒部21の上端を塞いでいる。キャン20の内側には、ローター(図示なし)が配置されている。ローターは、ステーターユニット30とともにステッピングモーターを構成する。弁本体10はステンレス製または真ちゅう製である。キャン20はステンレス製である。
【0025】
ステーターユニット30は、キャン20の外側に配置される。ステーターユニット30は、カバー40と、ステーター50と、モールド60と、を有している。
【0026】
カバー40は、合成樹脂製である。カバー40は、射出成形によって作製されている。カバー40は、キャップ形状を有している。カバー40は、周壁部41と、上端壁部42と、を一体的に有している。周壁部41は、その内側にステーター50が配置されたときに周壁部41とステーター50との間にスペースが設けられるように、ステーター50の外形より大きく形成されている。上端壁部42は、周壁部41の上端41a(一端)に連設されている。上端壁部42におけるキャン20と対向する箇所には、上方に突出するドーム部43が設けられている。ドーム部43の内径は、キャン20の外径と同一である。
【0027】
図2図3に示すように、ドーム部43は、その内面に線状に延在する角部46を有している。角部46は、下方を向く環状平面46aと、環状平面46aの内周縁に接続された内向きの円周面46bと、によって形成されている。環状平面46aと円周面46bとは、直交している。角部46は、キャン20と同軸に配置され、キャン20の外径より小さい径を有する円形状を有している。なお、角部46は、楕円形状や、円周が部分的に切断されてなる複数の円弧形状などを有していてもよい。ドーム部43の頂部の厚さは、ドーム部43の外面から角部46までの厚さより小さい。
【0028】
カバー40は、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT、線膨張係数2.5×10-5/℃)やポリフェニレンエーテル(PPE、線膨張係数6.6×10-5/℃)などの硬質樹脂で構成されている。
【0029】
ステーター50は、円筒形状を有している。ステーター50は、第1ステーター51と、第2ステーター52と、固定部材53と、リード線接続部57と、を有している。第1ステーター51と第2ステーター52と固定部材53とは、上下方向(軸線L方向)に並べて配置されている。
【0030】
第1ステーター51は、金属部品であるヨーク51aと、ボビン51bと、コイル51cと、を有している。ヨーク51aには、コイル51cを構成するコイル線材がボビン51bを介して巻回されている。ヨーク51aは、複数のクローポール型の極歯51dを有している。複数の極歯51dは、先端(細い方の端部)が下方を向く下向き極歯と、先端が上方を向く上向き極歯と、を有している。下向き極歯と上向き極歯とは、周方向に交互に並べて配置されている。
【0031】
第2ステーター52は、第1ステーター51と同様に、金属部品であるヨーク52aと、ボビン52bと、コイル52cと、複数の極歯52dと、を有している。第1ステーター51および第2ステーター52の内径は、キャン20の外径と同一である。
【0032】
固定部材53は、円環状の平板部54と、複数の接続片55と、複数の保持片56と、を有している。固定部材53は、平板部54、複数の接続片55および複数の保持片56の形状に板金を打ち抜き、複数の接続片55を、平板部54に対して直交するように一方向に折り曲げ、複数の保持片56を平板部54に対して直交するように他方向に折り曲げて形成される。平板部54には、複数の貫通孔54aが設けられている。複数の接続片55は、第2ステーター52のヨーク52aに溶接されている。第1ステーター51と、第2ステーター52と、固定部材53と、は同軸に配置されている。
【0033】
本実施例において、複数の保持片56は、キャン20の複数の突部23に対応するように4つ設けられている。複数の保持片56は、キャン20の円筒部21と横方向(軸線Lと直交する方向)に対向して配置されている。複数の保持片56は、弾性変形可能に構成されている。複数の保持片56には、貫通孔からなる保持部56aが設けられている。保持部56aの上下方向の大きさD1は、キャン20の突部23の径D2以下である。キャン20が取付位置(図1図5)にあるとき、保持部56aの上下方向の中心と突部23の中心とが重なり、保持部56aが突部23を保持する。これにより、キャン20とステーターユニット30との位置が固定される。すなわち、取付位置は、キャン20がステーターユニット30に固定される位置である。キャン20が取付位置にあるとき、キャン20とステーターユニット30とが正しく取り付けられた状態となる。なお、保持部56aは、貫通孔に代えて、突部23の形状に沿った凹部であってもよい。
【0034】
リード線接続部57は、ステーター50から軸線Lと直交する方向に延びるコイル端子ピン58の先端に接続された基板である。リード線接続部57には、リード線59が接続されている。
【0035】
本実施例において、ステーター50の内径(具体的には、第1ステーター51および第2ステーター52の内径)は、カバー40のドーム部43の内径と同一である。
【0036】
ステーター50は、カバー40の内側に配置される。ステーター50は、第1ステーター51が上端壁部42に接している。
【0037】
モールド60は、ステーター50の内部(具体的には、第1ステーター51の内部、第2ステーター52の内部、第2ステーター52と平板部54との間、および、平板部54の複数の貫通孔54a)に充填されている。平板部54は、モールド60に埋もれている。また、モールド60は、カバー40とステーター50との間にも充填されている。
【0038】
モールド60は、例えば、ウレタン、エポキシ、シリコーンなどの可とう性の高い樹脂(以下、「充填樹脂」という。)で構成されている。本実施例において、充填樹脂として、熱硬化性のウレタンを用いている。
【0039】
ステーターユニット30は、開口30aを有している。開口30aには、キャン20が軸線L方向に挿入されている。キャン20は、円筒部21がステーター50の内側に配置され、天井部22がドーム部43の内側に配置される。ドーム部43の内側において、天井部22は、角部46と軸線L方向に間隔をあけて配置される。
【0040】
電動弁1において、弁本体10、キャン20、ステーターユニット30(開口30a、ドーム部43、角部46、ステーター50)は、それぞれの中心軸が軸線Lに一致するように配置されている。
【0041】
次に、電動弁1の組立方法の一例について説明する。
【0042】
弁本体10に、第1導管11および第2導管12をろう付けする。キャン20に、弁体やローターなどの部品(図示なし)を組み込んで、キャン20の下端を弁本体10の上端に溶接する。
【0043】
カバー40の下端41bを上方に向け、カバー40の内側にステーター50を配置する。ステーター50およびカバー40のドーム部43に、キャン20の外径とおなじ外径を有する円筒状の治具(図示なし)を挿入する。これにより、カバー40とステーター50とが位置決めされる。そして、液状の充填樹脂であるウレタンをカバー40に注ぎ込み、ウレタンをステーター50の内部およびカバー40とステーター50との間に充填する。ウレタンが硬化してモールド60が形成される。そして、ステーター50およびカバー40のドーム部43から治具を引き抜く。治具があった部分が、ステーターユニット30の開口30aとなる。
【0044】
そして、複数の保持片56の保持部56aとキャン20の複数の突部23とを軸線L方向に並ぶように配置し、ステーターユニット30の開口30aに、キャン20を軸線L方向に挿入する。図5に示すように、キャン20が開口30aに所定の取付位置まで挿入されたとき、複数の保持片56の保持部56aにキャン20の複数の突部23が保持される。具体的には、保持部56aの上下方向の中心と突部23の中心とが一致する。図5に示す線K1は、保持部56aの上下方向の中心と突部23の中心とを通る線である。このとき、カバー40の角部46がキャン20の天井部22と上下方向に間隔をあけて対向するように配置される。
【0045】
また、キャン20を開口30aに挿入する力が強く、キャン20が取付位置よりさらに奥まで開口30aに挿入されたとき、図6に示すように、角部46が天井部22と線接触する。そして、本実施例の電動弁1は、保持部56aの上下方向の中心から角部46までの上下方向の長さをL1とし、キャン20の突部23の中心から天井部22における角部46に接する箇所P1までの上下方向の長さをL2とし、保持部56aの上下方向の大きさをD1とすると、以下の式(1)を満足するように構成されている。
L1-L2<D1/2 ・・・ (1)
【0046】
この構成により、天井部22と角部46とが接した状態において、突部23の中心が、保持部56a内でかつ保持部56aの上下方向の中心よりドーム部43に近い箇所に位置付けられる。図6に示す線K2は、突部23の中心を通る線である。このとき、保持片56が弾性変形しており、作業者がキャン20から手を離すと、保持片56の復元力によって突部23の中心と保持部56aの上下方向の中心とが一致する位置(取付位置)にキャン20が自動的に移動される。これにより、ステーターユニット30に対して、キャン20を正しく位置付けることができる。
【0047】
なお、キャン20とステーターユニット30の取付方法として、保持部56aと突部23とを軸線L方向に並ぶように配置し、ステーターユニット30の開口30aに、キャン20を軸線L方向に挿入する方法を例に説明したが、取付方法はこれに限定されない。例えば、保持片56と突部23とを軸線L方向に並ばないように配置し、ステーターユニット30の開口30aにキャン20を軸線L方向に挿入して、キャン20の天井部22をカバー40の角部46に当接させる。天井部22が角部46に当接した状態で、カバー40(ステーターユニット30)に対してキャン20を軸線L周りに回転させる。これにより、軸線Lを回転軸とする回転方向に突部23が移動して、突部23の中心が保持部56a内に進入する。そして、作業者がキャン20から手を離すと、保持片56の復元力によって突部23の中心と保持部56aの上下方向の中心とが一致する位置(取付位置)にキャン20が自動的に移動される。このような取付方法でも、上述した取付方法と同様にステーターユニット30に対してキャン20を正しく位置付けることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施例の電動弁1は、カバー40が、キャン20の天井部22が内側に配置されるドーム部43を有している。ドーム部43の内面は、角部46を有している。キャン20がステーターユニット30の開口30aに取付位置まで挿入されたとき、角部46が天井部22と上下方向に間隔をあけて対向するように配置される。そして、キャン20が取付位置よりさらに奥まで開口30aに挿入されたとき、角部46が天井部22と線接触するように形成されている。このようにしたことから、キャン20が取付位置にあるとき、つまり、ステーターユニット30がキャン20に正しく取り付けられているとき、天井部22と角部46とが間隔をあけて配置され、電動弁1に振動が伝わってもドーム部43とキャン20の天井部22とが繰り返し衝突することを回避できる。また、キャン20が取付位置よりさらに奥まで開口30aに挿入されたとき、キャン20の天井部22がカバー40の角部46に線接触し、キャン20を挿入する力が一点に集中することを回避できる。したがって、ステーターユニット30のカバー40の破損を抑制できる。
【0049】
また、角部46が、キャン20と同軸に配置され、キャン20の外径より小さい径を有する円形状を有している。このようにすることで、天井部22が角部46に突き当たったときに、ドーム部43がより均等に力を受けることができる。そのため、カバー40の破損をより効果的に抑制できる。
【0050】
また、キャン20の円筒部21は、複数の半球形状の突部23を有している。ステーターユニット30は、円筒部21の外周面に対向して配置される複数の保持片56を有している。複数の保持片56は、キャン20が取付位置にあるときに突部23が保持される保持部56aを有している。保持部56aの上下方向の大きさは、突部23の径以下である。保持部56aの上下方向の中心から角部46までの上下方向の長さをL1とし、突部23の中心から天井部22における角部46に接する箇所P1までの上下方向の長さをL2とし、保持部56aの上下方向の大きさをD1とすると、「L1-L2<D1/2」を満足する。このようにすることで、天井部22と角部46とが接した状態において、突部23の中心が、保持部56a内でかつ保持部56aの上下方向の中心よりドーム部43に近い箇所に位置付けられる。このとき、保持片56が弾性変形しており、保持片56の復元力によって突部23の中心と保持部56aの上下方向の中心とが一致する位置(取付位置)にキャン20が移動される。これにより、ステーターユニット30に対して、キャン20を正しく位置付けることができる。なお、本実施例において、キャン20が取付位置にあるときのキャン20の天井部22と角部46との間隔の大きさは、電動弁1が振動しても天井部22と角部46とが衝突しない程度の大きさであり、好ましくは、0.5~3mmである。
【0051】
なお、電動弁1は、ドーム部43の頂部が塞がれているが、ドーム部43の頂部に開口が設けられていてもよい。図11に、ドーム部43の頂部に開口49が設けられたカバー40Bを有する電動弁1Bを示す。開口49は、角部46の内側に設けられている。このようにすることで、電動弁1Bは、上下方向の大きさをより小さくできる。
【0052】
また、ドーム部43の頂部の厚さは、ドーム部43の外面から角部46までの厚さより小さい。このようにすることで、カバー40の成形時に生じるおそれのある樹脂のひけを抑制できる。例えば、図12に示す従来の電動弁1Cは、剛性を確保するために厚さを大きくしたドーム部43Cを有するカバー40Cを有している。電動弁1Cは、カバー40C以外は、上述した電動弁1と同一の構成を有している。このように、ドーム部43Cの厚さが大きいと、カバー40Cの成形時に樹脂のひけ(凹み)が生じて、成形不良となるおそれがある。
【0053】
上述した電動弁1では、カバー40が角部46を有する構成であったが、本発明は、このような構成に限定されるものではない。図7図10に、上述した電動弁1の変形例である電動弁1Aを示す。
【0054】
図7は、本発明の電動弁の変形例の構成を示す正面図である。図8は、図7の電動弁が有するステーターユニットのカバーの底面図である。図9は、図8のカバーの一部断面を含む斜視図である。図10は、図7の電動弁の拡大正面図である。図7図10では、ステーターユニットを断面図で示している。図10は、キャンがステーターユニットの開口に取付位置まで挿入された状態を示す。
【0055】
電動弁1Aは、リブ48を有するカバー40Aを有している。電動弁1Aは、カバー40A以外は、上述した電動弁1と同一の構成を有する。
【0056】
カバー40Aは、合成樹脂製である。カバー40Aは、射出成形によって作製されている。カバー40Aは、キャップ形状を有している。カバー40Aは、周壁部41と、上端壁部42と、を一体的に有している。上端壁部42におけるキャン20と対向する箇所には、上方に突出するドーム部43が設けられている。
【0057】
図8図9に示すように、ドーム部43は、その内面に線状に延在するリブ48を有している。リブ48は、ドーム部43の内面から下方(周壁部41の下端41b側)に突出している。リブ48は、キャン20と同軸に配置され、キャン20の外径より小さい径を有する円形状を有している。なお、リブ48は、楕円形状や、円周が部分的に切断されてなる複数の円弧形状などを有していてもよい。ドーム部43の頂部の厚さは、ドーム部43の外面からリブ48の先端面48aまでの厚さより小さい。
【0058】
電動弁1Aでは、キャン20がステーターユニット30の開口30aに所定の取付位置まで挿入されたとき、リブ48が天井部22と上下方向に間隔をあけて対向するように配置される。そして、キャン20が取付位置よりさらに奥まで開口30aに挿入されたとき、リブ48の先端面48aが天井部22と面接触するように形成されている。このようにしたことから、キャン20が取付位置にあるとき、つまり、ステーターユニット30がキャン20に正しく取り付けられているとき、天井部22とリブ48とが間隔をあけて配置され、電動弁1に振動が伝わってもドーム部43とキャン20の天井部22とが繰り返し衝突することを回避できる。また、キャン20が取付位置よりさらに奥まで開口30aに挿入されたとき、キャン20の天井部22がカバー40Aのリブ48に面接触し、キャン20を挿入する力が一点に集中することを回避できる。したがって、ステーターユニット30のカバー40Aの破損を抑制できる。
【0059】
また、リブ48が、キャン20と同軸に配置され、キャン20の外径より小さい径を有する円形状を有している。このようにすることで、天井部22がリブ48に突き当たったときに、ドーム部43がより均等に力を受けることができる。そのため、カバー40Aの破損をより効果的に抑制できる。
【0060】
また、キャン20の円筒部21は、複数の半球形状の突部23を有している。ステーターユニット30は、円筒部21の外周面に対向して配置される複数の保持片56を有している。複数の保持片56は、キャン20が取付位置にあるときに突部23が保持される保持部56aを有している。保持部56aの上下方向の大きさD1は、突部23の径D2以下である。保持部56aの上下方向の中心からリブ48までの上下方向の長さをL3とし、突部23の中心から天井部22におけるリブ48に接する箇所P2までの上下方向の長さをL4とし、保持部56aの上下方向の大きさをD1とすると、「L3-L4<D1/2」を満足する。天井部22とリブ48とが接した状態において、突部23の中心が、保持部56a内でかつ保持部56aの上下方向の中心よりドーム部43に近い箇所にある。このとき、保持片56が弾性変形しており、保持片56の復元力によって突部23の中心と保持部56aの上下方向の中心とが一致する位置(取付位置)にキャン20が移動される。これにより、ステーターユニット30に対して、キャン20を正しく位置付けることができる。なお、本実施例において、キャン20が取付位置にあるときのキャン20の天井部22とリブ48との間隔の大きさは、電動弁1Aが振動しても天井部22とリブ48とが衝突しない程度の大きさであり、好ましくは、0.5~3mmである。
【0061】
また、ドーム部43の頂部の厚さは、ドーム部43の外面からリブ48の先端面48aまでの厚さより小さい。このようにすることで、ドーム部43の厚さを薄くすることでき、カバー40Aの成形時に生じるおそれのある樹脂のひけを抑制できる。
【0062】
上記に本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の実施例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨に反しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1、1A、1B…電動弁、10…弁本体、11…第1導管、12…第2導管、20…キャン、21…円筒部、22…天井部、23…突部、30…ステーターユニット、40、40A、40B…カバー、41…周壁部、42…上端壁部、43…ドーム部、46…角部、46a…環状平面、46b…円周面、48…リブ、48a…先端面、49…開口、50…ステーター、51…第1ステーター、51a…ヨーク、51b…ボビン、51c…コイル、51d…極歯、52…第2ステーター、52a…ヨーク、52b…ボビン、52c…コイル、52d…極歯、53…固定部材、54…平板部、54a…貫通孔、55…接続片、56…保持片、56a…保持部、57…リード線接続部、58…コイル端子ピン、59…リード線、60…モールド、L…軸線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12