(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】組成物、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20231114BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20231114BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20231114BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20231114BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20231114BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20231114BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231114BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231114BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231114BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20231114BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231114BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231114BHJP
H01M 10/0564 20100101ALI20231114BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231114BHJP
【FI】
C01G53/00 A
C23C14/08 K
C23C14/34 A
C23C14/58 A
H01M4/131
H01M4/1391
H01M4/36 A
H01M4/36 D
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0564
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2020554303
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(86)【国際出願番号】 GB2019050946
(87)【国際公開番号】W WO2019193324
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-01
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515189520
【氏名又は名称】イリカ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】ローラ パーキンス
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム リチャードソン
(72)【発明者】
【氏名】ルイス ターナー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス リスブリッジャー
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル グエリン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ヘイデン
(72)【発明者】
【氏名】オワイン クラーク
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ノーブル
(72)【発明者】
【氏名】ジーン-フィリップ スーリエ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ケイシー
(72)【発明者】
【氏名】キリアコス ジャグログロウ
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-262994(JP,A)
【文献】特開2001-273903(JP,A)
【文献】特開2011-233402(JP,A)
【文献】TINTIGNAC S. et al.,High performance sputtered LiCoO2 thin films obtained at a moderate annealing treatment combined to a bias effect,Electrochimica Acta,Vol. 60,,2012年,p.121-129,DOI: doi:10.1016/j.electacta.2011.11.033
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00 ー 53/12
C23C 14/00 ー 14/58
H01M 4/131
H01M 4/1391
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/66
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 10/0564
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
(a)Co
3O
4と、
(b)結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムと、を含有し、該結晶性酸化物が成分元素として、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
20~55原子%のコバルトと、
0~25原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加ドーパント元素と、を含有し、
前記組成物の総質量の
1.0%~10%がCo
3O
4であり、
前記組成物の総質量の90%~99.99%が、結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムであり、
前記組成物が底面及び上面を備え、
前記結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムが、以下のパラメータ(a)~(c)
のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる結晶構造を有し、前記パラメータ(a)~(c)は、
(a)前記結晶構造の少なくとも一部が、前記底面に平行な平面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)からなる群から選択される結晶配向を有すること、
(b)484cm
-1のバンドと、593cm
-1のバンドと、690cm
-1、526cm
-1、及び625cm
-1からなる群から選択される少なくとも1つのバンドと(前記バンドのそれぞれについて±25cm
-1)を有するラマンスペクトル、
(c)Cu Kα X線を用いて測定された2θ(±0.2°)が37.4°、39.1°、45.3°、及び66.4°からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピーク、
である、組成物。
【請求項2】
前記結晶性酸化物が、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
40~55原子%のコバルトと、
0~5原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素と、を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記結晶性酸化物が、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
42.5~55原子%のコバルトと、
0~2.5原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素と、を含有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記結晶性酸化物が、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
45~55原子%のコバルトと、を含有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記結晶性酸化物が、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
47.0~53.0原子%のリチウムと、
47.0~53.0原子%のコバルトと、を含有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記結晶性酸化物が、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
47.5~49.1原子のリチウム%と、
50.9~52.5原子%のコバルトと、を含有する請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の総質量の2.5%~10%がCo
3O
4である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項8】
前記上面及び前記底面のうちの少なくとも一方が、10~250nm、好ましくは30~250nm、より好ましくは50~250nmの平均表面粗さ(R
a)を有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物の総質量の5%~7.5%がCo
3O
4である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物の総質量の7.5%~10%がCo
3O
4である、請求項
1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、前記上面及び前記底面を備え、高さが1~50μmである薄膜層である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、前記上面及び前記底面を備え、高さが1~50μmである薄膜層であり、該薄膜層がCo
3O
4のシード層を含む、請求項
11に記載の組成物。
【請求項13】
前記結晶性酸化物が、(101)、(104)、又は(110)から選択される1、2、又は3つ全ての結晶配向を有する、請求項1~
12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記上面の少なくとも5%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である、請求項1~
13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記上面の少なくとも10%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である、請求項
14に記載の組成物。
【請求項16】
前記上面の少なくとも25%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である、請求項
15に記載の組成物。
【請求項17】
前記上面の少なくとも50%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である、請求項
16に記載の組成物。
【請求項18】
前記結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムが、空間群R-3m(166)の結晶菱面体構造を有する、請求項1~
17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記結晶性酸化物が、不規則な柱状晶構造と、ランダムに配向した板又はクラスタ状の角錐を含む上面とを含有する、請求項1~
18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記結晶性酸化物が、Cu Kα X線源を用いて測定された2θ(±0.2°)が37.4°、45.3°、又は37.4°及び45.3°の両方から選択されるX線粉末回折ピークを含むX線粉末回折パターンを示す結晶構造を有する、請求項1~
19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記結晶性酸化物がHT-LiCoO
2である、請求項1~
20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
組成物の作製方法であって、
該組成物は、
(a)Co
3
O
4
と、
(b)結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムと、を含有し、該結晶性酸化物が成分元素として、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
20~55原子%のコバルトと、
0~25原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加ドーパント元素と、を含有し、
前記組成物の総質量の0.01%~10%がCo
3
O
4
であり、
前記組成物の総質量の90%~99.99%が、結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムであり、
前記組成物が底面及び上面を備え、
前記結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムが、以下のパラメータ(a)~(c)のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる結晶構造を有し、前記パラメータ(a)~(c)は、
(a)前記結晶構造の少なくとも一部が、前記底面に平行な平面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)からなる群から選択される結晶配向を有すること、
(b)484cm
-1
のバンドと、593cm
-1
のバンドと、690cm
-1
、526cm
-1
、及び625cm
-1
からなる群から選択される少なくとも1つのバンドと(前記バンドのそれぞれについて±25cm
-1
)を有するラマンスペクトル、
(c)Cu Kα X線を用いて測定された2θ(±0.2°)が37.4°、39.1°、45.3°、及び66.4°からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピーク、であり、
前記方法は、
前記組成物の各成分元素のそれぞれの蒸気源を提供する工程であって、該蒸気源は、コバルトの供給源、リチウムの供給源、酸素の供給源、及び任意選択でマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、銅、モリブデン、ニッケル、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素の供給源を少なくとも含む工程と、
基板を約30℃~約900℃で加熱する工程と、
前記基板上に前記各成分元素を共堆積させる工程であって、該成分元素が基板上で反応して、リチウム、コバルト、及び任意選択で前記ドーパント元素のうちの1種以上を含有し、上面及び底面を備える結晶性酸化物を形成する工程と、
前記基板上に前記コバルトと前記酸素とを共堆積させる工程であって、前記コバルトと前記酸素とが前記基板上で反応してCo
3O
4を生成する工程と、を有する方法。
【請求項23】
リチウム、コバルト、及び任意選択で前記ドーパント元素のうちの1種以上を含有する前記結晶性酸化物と同時に前記Co
3O
4を堆積させ、前記Co
3O
4と、リチウム、コバルト、及び任意選択で前記ドーパント元素のうちの1種以上を含有する前記結晶性酸化物とを含有する混合層を形成する工程を有する、請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
リチウム、コバルト、及び任意選択で前記ドーパント元素のうちの1種以上を含有する結晶性酸化物の既存の層上に、前記混合層を堆積させる工程を有する、請求項
23に記載の方法。
【請求項25】
Co
3O
4と、リチウム及びコバルトを含有する結晶性酸化物との前記混合層の上に、リチウム、コバルト、及び任意選択で前記ドーパント元素のうちの1種以上を含有する結晶性酸化物の層を堆積させる工程を有し、前記混合層の上のリチウム、コバルト、及び任意選択で前記ドーパント元素のうちの1種以上を含有する結晶性酸化物の前記層は、上面及び底面を備え、前記底面に平行な平面に対し、(101)、(104)、(110)、又はそれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する、請求項
23に記載の方法。
【請求項26】
前記結晶性酸化物が、前記底面に平行な平面に対し、(101)、(104)、(110)、又はそれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する、請求項
22~
25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記基板が約200~約700℃に加熱される、請求項
22~
26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記基板が約300~約500℃に加熱される、請求項
27に記載の方法。
【請求項29】
前記方法が、前記成分元素のうちの1種以上
の流束を変化させて、前記Co
3O
4の形成量を増加させる工程を有する、請求項
22~
28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記リチウムの流束を減少させるか又はなくす工程を有する、請求項
29に記載の方法。
【請求項31】
前記コバルトの流束を増加させる工程を有する、請求項
29に記載の方法。
【請求項32】
前記酸素の流束を減少させる工程を有する、請求項
29に記載の方法。
【請求項33】
前記酸素を不活性ガスと共に供給する工程を有する、請求項
29に記載の方法。
【請求項34】
前記コバルトの流束が、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物とCo
3O
4との混合物の堆積に必要なコバルトの流束のレベルに増加され、前記リチウムの流束が、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物の堆積に必要なリチウムの流束のレベルに維持される、請求項
29に記載の方法。
【請求項35】
前記コバルトの流束が、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物の堆積に必要なコバルトの流束のレベルに維持され、前記リチウムの流束が、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物とCo
3O
4との混合物の堆積に必要なレベルである、請求項
29に記載の方法。
【請求項36】
組成物の作製方法であって、
該組成物は、
(a)Co
3
O
4
と、
(b)結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムと、を含有し、該結晶性酸化物が成分元素として、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
20~55原子%のコバルトと、
0~25原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加ドーパント元素と、を含有し、
前記組成物の総質量の0.01%~10%がCo
3
O
4
であり、
前記組成物の総質量の90%~99.99%が、結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムであり、
前記組成物が底面及び上面を備え、
前記結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムが、以下のパラメータ(a)~(c)のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる結晶構造を有し、前記パラメータ(a)~(c)は、
(a)前記結晶構造の少なくとも一部が、前記底面に平行な平面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)からなる群から選択される結晶配向を有すること、
(b)484cm
-1
のバンドと、593cm
-1
のバンドと、690cm
-1
、526cm
-1
、及び625cm
-1
からなる群から選択される少なくとも1つのバンドと(前記バンドのそれぞれについて±25cm
-1
)を有するラマンスペクトル、
(c)Cu Kα X線を用いて測定された2θ(±0.2°)が37.4°、39.1°、45.3°、及び66.4°からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピーク、であり、
前記方法は、
酸化コバルトを含有する第1のスパッタリングターゲットを提供する工程と、
(a)コバルト酸リチウム、又は(b)マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、銅、モリブデン、ニッケル、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有するコバルト酸リチウムの供給源を含む第2のスパッタリングターゲットを提供する工程と、
前記第1のスパッタリングターゲットと前記第2のスパッタリングターゲットとをスパッタリングして、Co
3O
4と、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物とを含有し、任意選択で前記ドーパント元素のうちの少なくとも1種がドープされている組成物を生成する工程と、を有するスパッタリング堆積法である、方法。
【請求項37】
前記方法が、任意選択で前記ドーパント元素のうちの少なくとも1種がドープされているリチウム及びコバルトの前記結晶性酸化物をアニーリングする工程を更に有する、請求項
36に記載の方法。
【請求項38】
請求項1~
21のいずれか一項に記載の組成物を含む、電極。
【請求項39】
前記組成物
が基板上に層を形成する、請求項
38に記載の電極。
【請求項40】
前記電極が、前記組成物と前記基板との間に集電材を更に備える、請求項
39に記載の電極。
【請求項41】
前記基板が、シリコン、酸化シリコン、酸化アルミニウム、アルミノケイ酸塩材料、ドープ酸化シリコン、ガラス、金属、及びセラミック材料からなる群から選択される、請求項
39又は
40に記載の電極。
【請求項42】
前記電極が、前記基板と前記電極との間に1層以上のパッシベーション層を備える、請求項
39~
41のいずれか一項に記載の電極。
【請求項43】
電気化学セルであって、
電解質と、
アノードと、
カソードと、を備え、
前記カソードが、請求項
38~
42のいずれか一項に記載の電極を備える、電気化学セル。
【請求項44】
前記電解質が、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)、硫化リン酸リチウム(xLi
2S-yP
2S
5)、リチウムシリコンスルフィドLi
2-SiS
2
、チオ-LISICON型イオン伝導体、ガーネット型固体電解
質又はLLZO(Li
7La
3Zr
2O
12)、ホウケイ酸リチウムLi
0.5La
0.5TiO
3
、リン酸塩ベースのLISICON型固体電解質、又は固体高分子電解質を含有する、請求項
43に記載の電気化学セル。
【請求項45】
前記電気化学セルが全固体電気化学セルである、請求項
43又は
44に記載の電気化学セル。
【請求項46】
固体電気化学セルの製造方法であって、該方法は、請求項
22~
37のいずれか一項に記載の方法を用いて
、結晶性組成物の層として前記セルの電極を堆積させる工程を有
し、
前記組成物は、
(a)Co
3
O
4
と、
(b)結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムと、を含有し、該結晶性酸化物が成分元素として、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
20~55原子%のコバルトと、
0~25原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加ドーパント元素と、を含有し、
前記組成物の総質量の0.01%~10%がCo
3
O
4
であり、
前記組成物の総質量の90%~99.99%が、結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムであり、
前記組成物が底面及び上面を備え、
前記結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムが、以下のパラメータ(a)~(c)のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる結晶構造を有し、前記パラメータ(a)~(c)は、
(a)前記結晶構造の少なくとも一部が、前記底面に平行な平面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)からなる群から選択される結晶配向を有すること、
(b)484cm
-1
のバンドと、593cm
-1
のバンドと、690cm
-1
、526cm
-1
、及び625cm
-1
からなる群から選択される少なくとも1つのバンドと(前記バンドのそれぞれについて±25cm
-1
)を有するラマンスペクトル、
(c)Cu Kα X線を用いて測定された2θ(±0.2°)が37.4°、39.1°、45.3°、及び66.4°からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピーク、である、方法。
【請求項47】
請求項
43~
45のいずれか一項に記載の電気化学セルを備える、電子機器。
【請求項48】
電極と電解質とを備える電気化学セルであって、前記電極は基板の上に支持された層である組成物を含み、前記組成物は、請求項1~
21のいずれか一項に記載の組成物である、電気化学セル。
【請求項49】
前記結晶性酸化物が、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
47.5~49.1原子のリチウム%と、
50.9~52.5原子%のコバルトと、を含有する請求項22~37および46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記組成物の総質量の1.0%~10%がCo
3
O
4
である、請求項22~37および46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記上面及び前記底面のうちの少なくとも一方が、10~250nm、好ましくは30~250nm、より好ましくは50~250nmの平均表面粗さ(R
a
)を有する、請求項22~37および46のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩塩構造を有する層状混合金属酸化物によって与えられる第1の相と、当該層状混合金属酸化物の結晶構造を有しない金属酸化物によって与えられる第2の相とを有する組成物に関する。より詳細には、本組成物は、本明細書に記載のように、Co3O4と、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物とを含有してよく、任意選択で1種以上のドーパント元素を含有する。また、本発明は、本組成物の作製方法及びその使用、特に、電気化学セル、特にリチウムイオン電池における電極としての使用に関する
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、充電式電池の一種であり、リチウムイオン(Li+)が放電時に負極から正極に移動し、充電時に逆方向に移動する。非充電式のリチウムイオン電池では金属リチウムが使用されるのに対し、リチウムイオン電池は、リチウムのインターカレーション化合物を電極材料の1つとして使用する。リチウムイオン電池の構成要素は、イオンの移動を可能にする電解質、及び2つの電極である。
【0003】
典型的には、リチウムイオン電池は少なくとも3つの構成要素から構成される。2つの活性電極(アノード及びカソード)が電解質によって分離される。これらの構成要素は、それぞれ支持基板上に順次堆積された薄膜として形成される。集電体、界面改質剤及び封止剤などの更なる構成要素を設けることもできる。製造時には、これら構成要素を、例えば、カソード集電体、カソード、電解質、アノード、アノード集電体及び封止剤の順序で堆積させることができる。
【0004】
リチウムイオンの例では、アノード及びカソードは、リチウムを可逆的に貯蔵することができる。アノード材料及びカソード材料に求められる別の性質として、少ない質量及び体積の材料からできる限り多くの貯蔵容量を重量及び体積面で得て、単位あたりの貯蔵リチウムイオン数をできる限り増やすことが挙げられる。これらの材料は、電池の充電及び放電プロセス中にイオン及び電子が電極を通って移動できるように、許容できる電子伝導性及びイオン伝導性を有する必要がある。
【0005】
多くの機器、限定するものではないが特に携帯型の電子機器は、R-3m空間群に属する岩塩構造を有する層状混合金属酸化物をベースとするリチウムイオン電池を使用する。この層状混合金属酸化物は、式LixM′yO2(M′は、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される遷移金属)を有する。この構造では、リチウムイオンの層と遷移金属のイオンの層とが酸化物イオンの立方最密充填格子の八面体部分を交互に占める。リチウムイオンはリチウム面に沿って優先的に拡散する。
【0006】
このような混合金属酸化物の例としては、LixMn1-yMyO2(Mは、クロム、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される遷移金属)及びコバルト酸リチウム(lithium cobalt oxide)(LiCoO2)が挙げられる。LiCoO2は六方晶層状結晶構造を有し、O‐Co‐Oのシート間の八面体部位にLi+イオンが存在している。リチウム面内の空格子点ホッピングによってLi+が拡散する。
【0007】
Li+の移動度、したがってLiCoO2の電気化学的特性が結晶配向に大きく依存することが当該技術分野で知られている。(101)、(104)、及び(110)の配向のカソードではLiの至適な拡散が生じることが文献に報告されている。コバルト酸リチウムのこれらの構造は、例えば、以下に引用する非特許文献2、及び以下に引用する非特許文献7に報告されているように、Liイオンの拡散が主として粒界領域に制限される(003)よりも好ましい。(110)配向は、基板に対して垂直に並んだリチウム面を有しており、この配向は、リチウムイオンに容易にアクセスして構造からの引き出しが比較的容易であり、Li+の高速な拡散と高いリチウム貯蔵容量とを可能にするため好ましい。(101)配向及び(104)配向は、(110)配向よりわずかにリチウム面が傾斜しているものの、Li+を容易に引き出して構造に導入することができる。(003)配向は、基板に平行に並んだLi+面からなり、この配向は、リチウムイオンにアクセスしにくく構造に効果的に捕捉されるため、あまり好ましくない。
【0008】
コバルト酸リチウムの多くの製造方法が当該技術分野で知られている。例えば、特許文献1は、コバルト酸リチウムなどの結晶性リチウム含有化合物を作製するための気相堆積法について記載している。基板上で成分元素が反応して結晶性材料を形成すると、基板上にコバルト酸リチウム膜が形成される。特許文献1に記載されている堆積法は、文献(非特許文献1)に報告されている物理気堆積(PVD)システム中で実施されている。
【0009】
非特許文献2は、アルゴン及びO2の混合ガス中でLiCoO2ターゲットから100~1000nm/分の速度で交流電圧を用いてスパッタリング(RFスパッタリング)することによるコバルト酸リチウム膜の製造を記載している。非特許文献2は、非常に薄いコバルト酸リチウム膜(膜厚0.5μm未満)では、表面エネルギーを最小化するために(003)配向が優先的に成長(RFスパッタリング)する傾向があるのに対し、厚いコバルト酸リチウム膜(膜厚1μm未満)では、アニーリングプロセス中に生じる体積歪みエネルギーを最小化するために、好ましい(101)‐(104)配向が生じることを報告している。非特許文献2は、アニーリングによって結晶化したX線非晶質膜が得られることを記載している。一部の膜ではX線回折パターンにCo2O3、Co3O4、Li1.47Co3O4、及びPt3O4が観察されるものの、これらについての更なる記載はない。加熱前の膜がX線非晶質であると記載があるため、これらはアニーリングプロセスの副生成物であると考えることができる。また、非特許文献2は基板温度の影響についても論じている。高温堆積時には、結晶粒が大きくなり、空隙の割合が増加する(すなわち、材料中の空いた空間の割合が、総体積に対する空隙の体積の割合として増加する)。非特許文献2は、Co3O4を膜に導入したりシーディング層として使用したりする試みについては記載しておらず、膜組成の分析も行っていない。
【0010】
非特許文献3は、パルスレーザ蒸着(PLD)で成長させた膜厚0.3~0.5μmのコバルト酸リチウム膜の配向に対する基板の影響について記載している。非特許文献3は、ステンレス鋼(SS)基板では表面が粗くランダムな配向の膜が得られる一方、シリカ/シリコン(SiO2/Si;SOS)基板では、好ましい(003)配向を持つ比較的滑らかな表面が得られると記載している。同文献に記載された電気化学的性質(electrochemistry)は、SS上に堆積した粗い膜は膜の利用度が高いのに対し、SOS上に堆積した滑らかな膜は容量保持能が高く、構造的に安定していることを示している。同文献は、X線回折パターン中の基板以外のピークは全てLiCoO2薄膜に起因し、XRDディフラクトグラムではCo3O4などの不純物のピークは観察されないことを報告している。
【0011】
非特許文献4では、基板温度及び/又はLi2Oバッファ層を用いて、スパッタリングによって成膜するコバルト酸リチウム層の配向を制御している。400℃で好ましい(110)配向又は(101)配向の膜が得られる。また、同文献は、Li2Oバッファ層が(003)配向の形成を抑制し、(110)配向を促進することを記載している。
【0012】
非特許文献5は、RFスパッタリング及びPLDを用いたコバルト酸リチウム膜の作製を記載している。同文献には、RFスパッタリングでは(110)配向の膜が得られ、PLDで堆積した膜は(003)配向を有することが記載されている。(110)配向膜はサイクル中に理論容量をほぼフルに利用するのに対し、(003)膜は可逆容量が低い。(003)膜の電気化学的特性は、熱処理、ステンレス鋼基板の使用、又はリソグラフィーパターニング法のいずれによって、欠陥及び凹凸を膜に導入することにより改善できる。非特許文献5に記載の方法によれば、化学量論的組成のLiCoO2ターゲットからのRFスパッタリング又はパルスレーザ蒸着(PLD)のいずれかを使用した後、膜をin situ又はex situのいずれかで600℃でアニールする。アニーリングプロセス中に揮発性のLi2Oが揮発し、Co3O4が生成される(Co3O4は推定5%程度)。
【0013】
しかしながら、同文献に教示されている長時間の高温処理による方法は、コバルト酸リチウム膜のモルフォロジを制御するものではない。詳細には、アニールしたRFシード層上にLiCoO2をPLDによって堆積させると、既存の(110)配向が引き継がれず、優先的な(001)配向が過剰成長することが教示されている。しかしながら、全ての(001)の反射が観察されているわけではないので、この膜の構造は、バルクシリコン(blank silicon)基板上に成長させた膜のものとは異なる。
【0014】
非特許文献6は、基板上へのコバルト酸リチウム膜の形成と、その後行うアニーリングについて更に記載している。同文献は、600℃でのアニーリング中にCo3O4が少々生成されること、すなわち、高温で揮発性のLi2Oが揮発し、その結果LiCoO2が転換されることを記載している。このプロセスはアニーリング処理中の酸素流を増やすことで促進されたようである。LiCoO2の(110)の回折ピークの最大値が、Co3O4の反射の増加と共に低下した。このように、同文献は、活性材料の損失を防ぐには、アニーリング時間をできるだけ短くする必要があることを教示している。
【0015】
更に、PLDで生成した膜とRFスパッタリングで生成した膜との相互に向かう好ましい格子方位の一貫性を調べるために、RFスパッタで形成した0.1mmのLiCoO2のシード層上にPLD膜を成長させ、600℃で30分間アニールしたことを同文献は報告している。比較のため、同時にバルクシリコン基板上にもPLDを実施した。この比較サンプルは典型的なPLD膜の回折パターンである(001)の格子面配向を示した。PLD前は(110)の反射のみを示していたシード層上に堆積したPLD膜は明瞭な(006)及び(0012)の反射を示したが、(003)と(009)の反射は一切観察されなかった。この結果は、膜構造が堆積法によって完全に決まるわけではないことを示している。
【0016】
特許文献2は、コバルト酸リチウムの作製、基板表面の改変によるスパッタ膜の配向の変更、基板表面上へのLiCoO2のシード層の追加、及び/又は異なる条件下(ガス種の変更)でコバルト酸リチウムをスパッタすることによる多層構造の堆積について記載している。
【0017】
非特許文献7は、スパッタリング中の酸素/アルゴンの比の変更による、10μmのLCO膜の結晶学的テクスチャの決定について記載している。4%のO2のみの導入により(003)配向の形成が抑制される。
【0018】
非特許文献8は、低酸素分圧下でのコバルト酸リチウム膜の堆積について記載している。詳細には、20mTorr(pO2=5mTorr)以外の使用圧力(working pressure)下で堆積した膜では、HT-LiCoO2相に加えてCo3O4の第2の相が得られることを記載している。しかしながら、酸素分圧が高い領域では、膜中のLi欠乏によりCo3O4相が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】国際公開第2015/104539号
【文献】米国特許出願公開第2014/0272560号明細書
【非特許文献】
【0020】
【文献】Guerin, S. and Hayden, B. E., Journal of Combinatorial Chemistry 2006, 8,66-73
【文献】Bates et al. J. Electrochem. Soc. 2000, 147, 59-70
【文献】Ceder et al. J Alloys and Compounds 2006, 417, 304-310
【文献】Yoon et al. J. Power Sources 2013, 226, 186-190
【文献】Bouwman et al. Solid-state Ionics 2002 152,181-188
【文献】Bouwman et al. J. Electrochem. Soc. 2001, 148 (4), A311-A317
【文献】Trask et al. J Power Sources 2017, 350, 56-64
【文献】Liao et al. J Power Sources 2004, 128, 263-269
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来の文献のいずれも、Co3O4の濃度局在(localised concentration)を有する結晶性コバルト酸リチウム組成物について教示しておらず、そのような濃度の存在により、容量及びサイクル寿命といったリチウムイオン電池において有利な特性を有する結晶配向を有するコバルト酸リチウムの作製が可能となることも教示していない。また、従来技術のいずれも、Co3O4の濃度局在を制御された方法で導入してコバルト酸リチウムの結晶配向を制御できるような結晶性コバルト酸リチウム組成物の作製方法を教示していない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の第1の態様によれば、
(a)Co3O4と、
(b)結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムと、を含有し、該結晶性酸化物が成分元素として、前記結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
20~55原子%のコバルトと、
0~25原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加ドーパント元素と、を含有し、
前記組成物の総質量の0.01%~10%がCo3O4であり、
前記組成物の総質量(酸素を含む)の90%~99.99%が、結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムであり、
前記組成物が底面及び上面を備え、
前記結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウムが、以下のパラメータ(a)~(c)
(a)(101)、(104)、(110)、及び(012)からなる群から選択される少なくとも1つの結晶配向、
(b)484cm-1のバンドと、593cm-1のバンドと、690cm-1、526cm-1、及び625cm-1からなる群から選択される少なくとも1つのバンドと(前記バンドのそれぞれについて±25cm-1)を有するラマンスペクトル、
(c)2θ(±0.2°)が37.4°、39.1°、45.3°、及び66.4°からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピーク、のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる結晶構造を有する、組成物が提供される。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様に係る結晶性組成物の作製方法が提供され、該方法は、
前記結晶性酸化物の各成分元素のそれぞれの蒸気源を提供する工程であって、前記各成分元素が、コバルトと、リチウムと、酸素と、任意選択で、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、銅、モリブデン、ニッケル、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素とを含む工程と、
基板を約30℃~約900℃で加熱する工程と、
前記基板上に各成分元素を共堆積させる工程であって、前記成分元素が前記基板上で反応して、リチウム、コバルト及び前記ドーパント元素のうちの1種以上を任意選択で含有する結晶性酸化物を形成する工程と、
前記基板上に前記コバルトと前記酸素とを共堆積させる工程であって、前記コバルトと前記酸素とが前記基板上で反応してCo3O4を生成する工程と、を有する。
【0024】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様又は第7の態様の組成物を含む電極が提供される。前記電極は、正極又は負極であってよい。一実施形態では、前記電極は正極である。
【0025】
本発明の第4の態様によれば、
電解質と、
アノードと、
カソードと、を備え、
前記アノード及び/又は前記カソードが、本発明の第3の態様に係る電極を備える電気化学セルが提供される。一実施形態では、前記カソードは、本発明の第3の態様に係る電極を備える。
【0026】
本発明の第5の態様によれば、固体電気化学セルの製造方法が提供され、該方法は、本発明の第2の態様に係る方法を用いて、本発明の第1の態様に係る結晶性組成物の層として前記セルの電極を堆積させる工程を有する。
【0027】
本発明の第6の態様によれば、本発明の第4の態様に係る電気化学セルを備える電子機器が提供される。
【0028】
本発明の第7の態様によれば、
(a)R-3m空間群に属する岩塩構造を有する層状混合金属酸化物によって与えられる主相であって、前記層状混合金属酸化物が成分元素として、前記層状酸化物中の酸素を除く全原子に対する%で原子%を表した場合に、
45~55原子%のリチウムと、
20~55原子%の、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の遷移金属と、
0~25原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、銅、ルテニウム、亜鉛、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される1種以上の追加ドーパント元素と、を含有する主相と、
(b)前記層状混合金属酸化物の結晶構造を有しない金属酸化物によって与えられ、前記層状混合金属酸化物に含まれる、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、及びコバルトからなる群から選択される前記遷移金属のうちの1種以上を含有する副次相と、を有し、
前記主相が前記組成物の総質量の90%~99.5%を与え、前記副次相が前記組成物の総質量の0.5%~10%を与える組成物が提供される。
【0029】
実際のところ、前記副次相は前記層状混合金属酸化物の結晶構造を乱すと考えられる。特定の実施形態では、前記副次相が非晶質であってよい。別の実施形態では、前記副次相が、結晶であるが前記層状混合金属酸化物とは異なる結晶構造、例えば、異なる空間群に属する結晶構造を有してよい。特定の実施形態では、前記副次相が、Fd-3m空間群に属する結晶構造を有してよい(前記副次相が例えばCo3O4によって与えられる場合)。
【0030】
第8の態様によれば、本発明は、本発明の第7の態様に係る組成物の作製方法を提供してよく、該方法は、
-リチウムの供給源と、
-クロム、マンガン、鉄、ニッケル、及びコバルトからなる群から選択される遷移金属の供給源と、
-酸素の供給源と、
-任意選択で、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、銅、ルテニウム、亜鉛、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素の供給源と、
を少なくとも含む、前記組成物の各成分元素のそれぞれの蒸気源を提供する工程と、
基板を約30℃~約900℃で加熱する工程と、
前記各成分元素の流束を前記基板上に供給する工程であって、前記成分元素が前記基板上で反応して、R-3m空間群に属する岩塩構造を有する層状混合金属酸化物によって与えられる第1の相を形成する工程と、
少なくとも前記遷移金属と前記酸素との流束を前記基板上に供給する工程であって、前記遷移金属と前記酸素とが前記基板上で反応して、前記第1の相の結晶構造を有しない金属酸化物によって与えられる第2の相を形成する工程と、を有する。
【0031】
第9の態様によれば、本発明は、本発明の第7の態様に係る組成物の作製方法を提供してよく、該方法が、
リチウムと、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の遷移金属と、任意選択で、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、銅、ルテニウム、亜鉛、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される1種以上のドーパント元素とを含有する混合金属酸化物を含有するスパッタリングターゲットを提供する工程と、
前記第1のスパッタリングターゲットに含まれる、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、及びコバルトからなる群から選択される前記遷移金属のうちの1種以上を含有する金属酸化物相を含む更なるスパッタリングターゲットを提供する工程と、
前記スパッタリングターゲットと、前記更なるスパッタリングターゲットとをスパッタリングして組成物を作製する工程と、を有するスパッタリング堆積法であり、前記組成物が、
任意選択で前記ドーパント元素のうちの少なくとも1種がドープされた、リチウムと、前記遷移金属のうちの1種以上との層状混合金属酸化物によって与えられ、かつR-3m空間群に属する岩塩構造を有する第1の相と、
前記第1相の結晶構造を有しない金属酸化物によって与えられ、前記層状混合金属酸化物に含まれる、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、及びコバルトからなる群から選択される前記遷移金属のうちの1種以上を含有する第2の相と、を含む。
【0032】
本発明の第10の態様によれば、固体電気化学セルの製造方法が提供され、該方法は、本発明の第8又は第9の態様に係る方法を用いて、本発明の第7の態様に係る組成物の層として前記セルの電極を堆積させる工程を有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施形態に係る方法の実施に好適な装置の例の概略図である。
【
図2】レーザアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)によって測定したコバルト酸リチウム中のリチウムのパーセンテージと、25℃の温度において1Cの速度で100%の放電深度(DoD)でサイクルしたときに放電容量の80%(5サイクル目)に達するまでのサイクル数との関係を示す。
【
図3】LA-ICP-MSによってLi:Co比を測定したときのコバルト酸リチウム中のリチウムのパーセンテージと、温度25℃での利用数(面積及び厚さで正規化した容量)との関係を示す。
【
図4】本発明の一態様に係る組成物を含む膜(実施例に記載の膜1)の上で測定したラマンスペクトルを示す。
【
図5】本発明の一態様に係る組成物を含む膜1~3と、(本発明に係るものではない)膜4とのX線回折図を示す。
【
図6】(本発明に係るものではない)膜4の断面ラマンスペクトルを示す。
【
図7】(本発明に係るものではない)膜4のLCO層の走査型電子顕微鏡(SEM)断面像及び上面像を示す。
【
図8】本発明の一態様に係る膜1~3におけるSEM上面像、断面ラマンスペクトル、及びコバルトに対するリチウムの平均パーセンテージを示す。
【
図9】本発明の一態様に係る膜1のLCO層のSEM断面像及び上面図を示す。
【
図10】膜の中にCo
3O
4層を含む(本発明の一態様に係る)膜5のSEM上面像及び断面ラマンスペクトルを示す。
【
図11】本発明の一態様に係るLiCoO
2(膜1)を備える固体電池の断面を示す図である。
【
図12】(本発明の一態様に係る)膜1~3と、(本発明に係るものではない)膜4とのSEMを示し、これらのデータを表3及び表4に示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[利点及び意外な知見]
本発明の一態様によれば、本明細書に開示のさまざまな方法、限定するものではないが、特に物理気相堆積法(PVD)によって結晶性コバルト酸リチウムを成長させる。コバルト酸リチウム膜は、電気化学セル、特に固体電池に用いるために、例えば、不活性基板上の膜として、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)固体電解質などの電解質と組み合わせて電極に用いられてよい。
【0035】
一般に、リチウムと、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の遷移金属とを含有し、R-3m空間群に属する層状岩塩構造を有する層状混合金属酸化物が、例えばPVDにより成長されてよい。得られた膜は、電気化学セル、特に固体電池に用いるために、例えば、不活性基板上の膜として、任意選択でオキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)固体電解質などの電解質と組み合わせて電極に用いられてよい。このような層状混合金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウムのほか、LixMn1-yMyO2(Mは、クロム、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される遷移金属)が挙げられる。
【0036】
従来、電池の電極中に電極活物質(コバルト酸リチウム又はLixMn1-yMyO2など)の量を最大に増やすことが望ましく、このため、電池の総容量に寄与しない他の相の存在を阻止することが好ましいと考えられていた。
【0037】
例えば、酸化コバルト(Co3O4)は、電気化学的に不活性であり、LiCoO2組成物内の不純物と考えられてきた。例えば、Jo et al. 2009 J. Electrochem. Soc. 156(6) A430-A434;Tintignac et al. 2012 Electrochimica Acta 60 121-129;Antaya et al. J. Electrochem Soc Vol.140 No.3 31993参照。これら文献はそれぞれ、その全体を参照により本明細書に援用する。LiCoO2のカソードを備える電池の容量は、LiCoO2材料の量によって規定される。したがって、LiCoO2材料にCo3O4を添加すると、電池の総容量が低下することになる。エネルギー密度(例えば、重量あたりの容量(Wh/kg)を規定する重量エネルギー密度)を考えると、Co3O4の添加は重量に寄与するが、容量を増加させることはない。したがって、酸化リチウムの組成物にCo3O4を意図的に添加することは一見不利なようにみえる。
【0038】
しかしながら、本明細書に開示の方法により、結晶性コバルト酸リチウム組成物の結晶構造中にCo3O4の濃度局在を制御された方法で導入することが可能となり、意外にも、これにより、従来技術で可能であったよりも組成物のモルフォロジの厳密な制御が可能となることを本発明者らは見出した。
【0039】
一例を挙げると、以下に詳述するように、結晶性コバルト酸リチウム組成物の作製方法が物理気相堆積(PVD)法である場合、(例えば、リチウムの流束に対してコバルトの流束を変化させることによって、供給ガスの分圧を変化させることによって、又は堆積中にリチウムの供給を止めることによって、)組成物の結晶構造にCo3O4の濃度局在を導入することにより、結晶性コバルト酸リチウム組成物のモルフォロジを制御できることが意外にも見出されている。堆積中に、ある原子の流束に対して別の原子の流束を制御すること、及びこの制御が構成物のモルフォロジに与える利点は、従来技術では開示されていない。
【0040】
同様に、成分元素を堆積させる物理気相堆積法により、別の層状混合金属酸化物(LixMn1-yMyO2など)を堆積中に、成分元素の相対流束を変化させる(例えば、リチウムの流束に対してマンガンの流束を変化させる、供給ガスの分圧を変化させる、又は堆積中にリチウムの供給を止めるなど)ことにより、結晶構造の異なる別個のリチウム欠乏相が層状酸化物中に形成されることが考えられる。
【0041】
当業者にとって明白なように、コバルト酸リチウムにCo3O4を導入したときに観察される効果に則り、この別個の相の存在により、層状酸化物のモルフォロジを改変することができる。
【0042】
また、典型的には、性質上均一性が低くかつ粗い、本明細書に記載の結晶配向を有する結晶性コバルト酸リチウム組成物は、固体電池において、平坦で滑らかな結晶配向を有する同一組成の膜と比較して、容量及びサイクル寿命の両方に関して(限定するものではないが、特に、100%の放電深度でサイクルした場合及び/又は温度25℃でサイクルした場合)、優れた電気化学的挙動を示すことを本発明者らは意外にも見出した。液体電解質を用いる電池への同様のモルフォロジを有するコバルト酸リチウム組成物の膜の適用が従来技術に教示されている可能性はあるものの、所定のモルフォロジを有するコバルト酸リチウム膜の固体電解質を用いる電池における適用、及び固体電解質と併用した場合の特性の改善(サイクル寿命、容量、下地層への密着性、応力の制御、クラックの低減)は、従来技術に開示されていない。
【0043】
より詳細には、滑らかな表面モルフォロジを有するコバルト酸リチウムの形成を教示する特許文献1の開示内容とは対照的に、コバルト酸リチウム組成物の均一性が低くかつ粗いモルフォロジが、平坦で滑らかな結晶配向を有する同じ組成の膜と比較して、固体電池において、容量及びサイクル寿命の両方に関する電気化学的挙動に優れ、集電体及び/又は電解質膜に対する密着性が改善され、クラックが少ないことが意外にも見出されている。
【0044】
本発明の方法を用いた膜のモルフォロジの調整及び膜表面の粗さの制御には更に利点がある。固体電池においては、固体電解質の薄層を、コバルト酸リチウム膜を覆うのに必要な程度には滑らかにしつつ、Li輸送特性(高い容量及びサイクル寿命)を向上させるのに十分な無秩序性を上記膜に導入することが有利となる。また、本発明の方法は、膜のモルフォロジの基板依存性を低下させる。更に、本発明の方法では、所望の配向を有するコバルト酸リチウムをより低温で成長させることができる。最後に、Co3O4をシーディング層として堆積させるので、堆積プロセス中に追加の供給源を追加する必要がない。
【0045】
コバルト酸リチウムと同じ結晶構造を有する他の層状酸化物材料においても、別個のリチウム欠乏相を設けることにより同様の効果が得られることは、当業者にとって明白であろう。
【0046】
[定義]
本明細書において、「X~Y」又は「XとYとの間」として本明細書中に記載する値の範囲は、終端値のXとYとを含む。
【0047】
本明細書に使用する「電池」という用語は、「セル」という用語と同義であり、化学反応から電気エネルギーを生成するか、又は電気エネルギーの導入により化学反応を促進することができる装置を指す。
【0048】
本明細書に使用する「結晶」という用語は、結晶に特徴的な原子、イオン、又は分子の規則的な内部配列を有する固体を意味し、すなわちその格子中で長い範囲の秩序を有することを意味する。
【0049】
本明細書で用いる「層状酸化物」という用語は、一般に、R-3m空間群に属する岩塩構造を有し、リチウムと、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の遷移金属とを含有する層状混合金属酸化物を指す。
【0050】
本明細書で用いる「結晶性酸化物」という用語は、本発明の特定の実施形態に関連して本明細書に記載する組成物の結晶性コバルト酸リチウム又は結晶性ドープコバルト酸リチウム成分を意味し、(Co3O4も含む組成物全体を意味するものではない)。一実施形態では、「結晶性酸化物」という用語は、結晶性コバルト酸リチウムを意味する、すなわち、リチウム、コバルト及び酸素のみを含有することを意味する。別の実施形態では、「結晶性酸化物」という用語は、ドープされた結晶性ドープコバルト酸リチウムを意味する、すなわち、リチウム、コバルト及び酸素に加えて、(本明細書に列挙されたものから選択される)少なくとも1種のドーパント元素も含むものを指す。
【0051】
[組成物]
特定の実施形態において、本発明は、Co3O4と、(本明細書において定義する)リチウム及びコバルトの結晶性酸化物、又は(本明細書において定義する)結晶性ドープコバルト酸リチウムとを含む組成物を提供する。一実施形態において、本発明は、Co3O4と、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物とから実質的になる組成物を提供する。一実施形態では、本発明は、Co3O4と、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物とからなる組成物を提供する。
【0052】
本発明の組成物において、一実施形態では、本組成物は、Co3O4と結晶性酸化物との両方を含有する固体構造を有する。一実施形態では、Co3O4と結晶性酸化物との両方が、組成物の固体構造内に組み入れられている。一実施形態では、Co3O4は、組成物の固体構造の表面に存在する。別の実施形態では、Co3O4は、膜厚1~50nmの層として、組成物の固体構造内に組み入れられている。別の実施形態では、Co3O4は、シード層として組成物の固体構造内に組み入れらている。
【0053】
本発明の特定の実施形態の組成物は、(本明細書において定義する)リチウム及びコバルトの結晶性酸化物、又は(本明細書において定義する)結晶性ドープコバルト酸リチウムを含有する。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも90質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも95質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも97質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも98質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも99質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも99.5質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも99.7質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも99.8質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも99.9質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の少なくとも99.95質量%が結晶性である。一実施形態では、コバルト酸リチウム又はドープコバルト酸リチウムの総質量の100質量%が結晶性である。
【0054】
当業者に公知のように、結晶性コバルト酸リチウムは、高温相、低温相、又はその混合物を含んでもよい。Gummow et al. Material Research Bulletin, 1992, 27, 327-337に記載のように、高温(典型的には700℃以上、好ましくは800~1000℃、より好ましくは約900℃)で合成されるLiCoO2の高温相では、最密充填された酸素イオンの平面間の別個の層にLi+イオンとCo3+イオンとが含まれる。これに対し、低温(典型的には500℃以下、好ましくは300~500℃、より好ましくは約350~450℃、最も好ましくは約400℃)で合成されるLiCoO2の低温相では、リチウム層中に約6%のコバルトが含まれる。
【0055】
一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも40質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも50質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも60質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも70質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも80質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも85質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも90質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも95質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも97質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも98質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも99質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも99.5質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも99.7質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、少なくとも99.9質量%の高温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、100%質量%の高温相を含む。
【0056】
一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大60質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大50質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大40質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大30質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大20質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大15質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大10質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大5質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大3質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大2質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大1質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大0.5質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大0.3質量%の低温相を含む。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、最大0.1質量%の低温相を含む。
【0057】
一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、45~90質量%の高温相と10~55質量%の低温相とを有する。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムが、結晶性コバルト酸リチウムの総質量に対し、60~95質量%の高温相と5~40質量%の低温相とを有する。結晶性コバルト酸リチウムの低温相と高温相との相対量は、Tintignac Electrochimica Acta, 2012,60, 121-129に記載のものと同様のラマンフィッティング法を用いて概算値を得ることができる。
【0058】
典型的には、組成物中に存在するコバルトの大部分が、+3の酸化状態にあり、コバルト酸リチウムの化学量論的組成は一般にLiCoO2で表される。特定の実施形態では、コバルト酸リチウムがリチウム欠乏状態にあり、このようなコバルト酸リチウムの化学量論的組成はLixCoO2(0<x<1)である。特定の実施形態では、コバルト酸リチウムが、リチウムを高い割合で含む、かつ/又は組成物中に存在するコバルトの少なくとも一部が+2の酸化状態にあり、このようなコバルト酸リチウムの化学量論的組成はLixCoO2(1<x≦2)である。
【0059】
本発明の特定の実施形態に係る結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、45~55原子%のリチウムを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、46~54原子%のリチウムを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、組成物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、47~53原子%のリチウムを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、47.0~53.0原子%のリチウムを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、47.1~52.0原子%のリチウムを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、47.2~51.0原子%のリチウムを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、47.3~50.0原子%のリチウムを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、47.4~49.5原子%のリチウムを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、47.5~49.1原子%のリチウムを含有する。
【0060】
本発明の特定の実施形態に係る結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、20~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、22.5~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、組成物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、25~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、27.5~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、組成物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、30~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、組成物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、32.5~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、組成物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、35~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、37.5~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、40~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、組成物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、42.5~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、45~55原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、46~54原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、46.5~53.5原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、47.0~53原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、49.0~52.8原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、50.0~52.7原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、50.5~52.6原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、50.5~52.5原子%のコバルトを含有する。一実施形態では、結晶性酸化物は、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、50.9~52.5原子%のコバルトを含有する。
【0061】
また、結晶性酸化物は、リチウム及びコバルトに加えて、ドーパント元素も含有してよい。本明細書において、「ドープ結晶性酸化物」という用語は、結晶構造中のリチウム、コバルト又は酸素が、他の元素(以下「ドーパント元素」)で置換されてよいリチウム及びコバルトの結晶性酸化物を意味する。一実施形態では、リチウムがそのようなドーパント元素で置換されている。一実施形態では、コバルトがそのようなドーパント元素で置換されている。一実施形態では、リチウムとコバルトとがそのようなドーパント元素で置換されている。一実施形態では、酸素がそのようなドーパント元素で置換されている。
【0062】
リチウムを置換することができるドーパント元素の例としては、ナトリウム及びカリウムが挙げられる。酸素を置換することができるドーパント元素の例としては、硫黄及びセレンが挙げられる。
【0063】
一実施形態では、コバルトを置換するドーパント元素が2価(換言すれば+2酸化状態)である。一実施形態では、コバルトを置換するドーパント元素が3価(換言すれば+3酸化状態)である。一実施形態では、コバルトを置換するドーパント元素が4価(換言すれば+4酸化状態)である。
【0064】
コバルトを置換することができるドーパント元素の例としては、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなど)、遷移金属(チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛など)、pブロック元素(ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマスなど)、及びランタノイド(ランタン、セリウム、ガドリニウム、ユウロピウムなど)が挙げられる。
【0065】
コバルトを置換するドーパント元素が存在する場合、ドープ原子は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、典型的には最大25%、例えば最大20%、例えば最大15%、例えば最大12.5%、例えば最大10%、例えば最大7.5%、例えば最大5%、例えば最大4%、例えば最大3%、例えば最大2%、例えば最大1.5%、例えば最大1%、例えば最大0.9%、例えば最大0.8%、例えば最大0.7%、例えば最大0.6%、例えば最大0.5%、例えば最大0.4%、例えば最大0.3%、例えば最大0.2%、例えば最大0.15%、例えば最大0.1%、例えば最大0.09%、例えば最大0.08%、例えば最大0.07%、例えば最大0.06%、例えば最大0.05%、例えば最大0.04%、例えば最大0.03%、例えば最大0.02%、例えば最大、0.01%、例えば最大0.009%、例えば最大0.008%、例えば最大0.007%、例えば最大0.006%、例えば最大0.005%、例えば最大0.004%、例えば最大0.003%、例えば最大0.002%、例えば最大0.001%の量で存在してよい。
【0066】
一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~25原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~20原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~15原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~10原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~5原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~2.5原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~2原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~1.5原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~1原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。一実施形態では、ドープ結晶性酸化物は、ドープ結晶性酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージで表した場合、0~0.5原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有する。
【0067】
一実施形態では、ドープ結晶性コバルト酸リチウム中の酸素を除く全原子の%で量を表した場合、ドープ結晶性コバルト酸リチウム成分が、45~55原子%のリチウムと、40~55原子%のコバルトと、0~5原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素と、を含有する本発明の組成物が提供される。
【0068】
一実施形態では、ドープ結晶性コバルト酸リチウム中の酸素を除く全原子の%で量を表した場合、ドープ結晶性コバルト酸リチウム成分が、45~55原子%のリチウムと、42.5~55原子%のコバルトと、0~2.5原子%の、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ルテニウム、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素と、を含有する本発明の組成物が提供される。
【0069】
一実施形態では、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で量を表した場合、結晶性コバルト酸リチウム成分が、45~55原子%のリチウムと、45~55原子%のコバルトとからなる本発明の組成物が提供される。
【0070】
一実施形態では、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で量を表した場合、結晶性コバルト酸リチウム成分が、47.0~53.0原子%のリチウムと、47.0~53.0原子%のコバルトとからなる本発明の組成物が提供される。
【0071】
一実施形態では、結晶性酸化物中の酸素を除く全原子の%で量を表した場合、結晶性コバルト酸リチウム成分が、47.5~49.1原子%のリチウムと、50.9~52.5原子%のコバルトとからなる本発明の組成物が提供される。
【0072】
本発明の実施形態の結晶性組成物は、リチウム、コバルト、及び(任意選択で)上に列挙したドーパント元素に加えて、結晶性組成物中で負イオン源を与える酸素も含有する。組成物は、組成物が電気的に中性となるのに十分な酸素を(酸化物イオンO2-として)含有し、酸素の厳密な量は、組成物中に存在する他の元素の原子パーセンテージ及び酸化状態によって決まることを理解することができる。
【0073】
本発明の実施形態の組成物の顕著な特徴は、組成物の結晶構造がCo3O4の濃度局在を含むことにある。結晶性コバルト酸リチウム組成物の結晶構造にCo3O4の濃度局在を導入することにより、組成物のモルフォロジを、従来技術よりも厳密に制御可能となることを本発明者らは意外にも見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、Co3O4の濃度局在はLiCoO2の微結晶(crystallite)層のためのシーディング層として作用する可能性があると考えられる。また、理論に拘束されることを望むものではないが、Co3O4の濃度局在は、コバルト酸リチウムの結晶構造中に、本明細書に記載の好ましい結晶配向を促進する欠陥を生じさせ、その結果、本明細書に記載の粗い又は不規則な結晶モルフォロジ(例えば、大きな板状の粒を含むものなど)が生じ、当該技術分野で公知のコバルト酸リチウム組成物よりも改善された電気化学的特性を示すと考えられる。組成物が膜の形態の場合、膜が典型的には0.2~3.0μm、好ましくは0.3~2.5μmのサイズの大型微結晶を示す。一実施形態では、膜が0.7~2.0μmのサイズの大型微結晶を示す。一実施形態では、膜が0.5~1.0μmのサイズの大型微結晶を示す。一実施形態では、膜が0.4~0.9μmのサイズの大型微結晶を示す。典型的には、微結晶のサイズは、手作業で、かつ/又は適切な測定装置と適切なハードウェア及び/若しくはソフトウェアとを備える走査電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される。
【0074】
典型的には、膜が、膜の面内において、少なくとも0.2μm、好ましくは少なくとも0.3μm、特定の実施態様では少なくとも0.4μmの最大寸法を有する微結晶を含む。典型的には、膜が、膜の面内において、最大3μm、場合によっては最大2μmの最大寸法を有する微結晶を含む。
【0075】
組成物が膜の形態の場合、膜の大型微結晶の平均面積は、典型的には0.1~2μm2、好ましくは0.2~1μm2である。一実施形態では、膜の大型微結晶の平均面積は0.8μm2である。一実施形態では、膜の大型微結晶の平均面積は0.3μm2である。大型微結晶の平均面積は、典型的には、適切な測定装置と適切なハードウェア及び/又はソフトウェアとを備える走査電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される。
【0076】
組成物が膜の形態の場合、膜の表面積の典型的には1~100%、好ましくは3~85%が大型微結晶によって覆われる。一実施形態では、膜の表面積の70~90%、例えば75~85%、例えば79%が大型微結晶によって覆われる。一実施形態では、膜の表面積の15~35%、例えば20~25%、例えば22%が大型微結晶によって覆われる。一実施形態では、膜の表面積の1~10%、好ましくは3~6%、例えば4.5~5.4%、例えば5%が大型微結晶によって覆われる。大型微結晶によって覆われている膜の割合は、典型的には、走査電子顕微鏡(SEM)により、撮像領域内の大型微結晶の面積及び個数からハードウェア及び/又はソフトウェアを用いて測定される。
【0077】
本明細書において、「微結晶(crystallite)」との用語は、結晶格子の配向が実質的に一定である膜領域を示すのに用いられる。したがって、隣り合う微結晶の境界は、典型的には、格子方位の変化によって示される。1つの微結晶が副次微結晶を含み、副次微結晶の結晶格子が全て実質的に同じ配向であってよい。典型的には、個々の副次微結晶は、隣接する副次微結晶を種として成長し、この結果、この2つの副次微結晶の格子方位が実質的に配向する。特定の場合には、本明細書に定義する微結晶は、当該技術分野では「粒(grain)」と呼ばれることがある。
【0078】
表面の粗さについては、触針式段差測定法などの手法を用いて測定して平均粗さRaを求めてよく、Raは、フィルタリングされた粗さプロファイルの算術平均値であり、評価対象の長さ内での中心線に対する偏差から求められる。組成物が膜の形態の場合、膜の平均表面粗さ(Ra)は、典型的には、10~200nm、例えば20~150nm、例えば、40~120nmである。膜の平均表面粗さ(Ra)は、少なくとも10nm、場合によっては少なくとも30nm、場合によっては少なくとも50nmであってよい。場合によっては、膜の平均表面粗さ(Ra)は、最大250nmであってよい。これに対し、本発明の目的には一般に望ましくない(003)配向が支配的である滑らかな結晶表面の膜の平均表面粗さRaは、10nm未満、例えば4nmである。典型的には、平均粗さは、触針式段差計を用いて測定され、その値Raは、平均粗さ(平均からの平均偏差)を示す。典型的には、平均Raは、数ミリメートル間隔を空けた異なる3点での測定値から計算され、各走査長は典型的には2mmである。
【0079】
組成物が膜の形態をとる実施形態では、Co3O4の濃度局在は、生成される結晶性膜の望ましい構造を促進する量で存在してよい。
【0080】
本発明の実施形態の組成物において、前記組成物の総質量の0.01%~10%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の0.01%~5%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の5%~7.5%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の7.5%~10%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の0.01%~0.05%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の0.05%~0.1%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の0.1%~0.5%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の0.5%~1.0%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の1.0%~1.5%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の1.5%~2.0%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の2.0%~3.0%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の3.0%~4.0%がCo3O4である。一実施形態では、前記組成物の総質量の4.0%~5.0%がCo3O4である。表した総質量には、酸素を含む全ての元素が含まれる。
【0081】
一実施形態では、組成物は、組成物中のCo3O4の分布が不均質である。
【0082】
典型的には、組成物は、膜の層、特に(以下に詳細に定義するように)基板上の膜の層の形態で形成される。一実施形態では、前記組成物は、上面及び底面を備え、高さが1~50μmである薄膜層である。一実施形態では、層の高さが1~30μmである。一実施形態では、層の高さが2~20μmである。一実施形態では、層の高さが、3~12μmである。一実施形態では、層の高さが5~10μmである。一実施形態では、層の高さが6~7μmである。
【0083】
一実施形態では、結晶性酸化物薄膜層がCo3O4のシード層を含む。一実施形態では、前記シード層が、底面からの高さの75%以内にある。一実施形態では、前記シード層が、底面からの高さの50%以内にある。一実施形態では、前記シード層が、底面からの高さの25%以内にある。一実施形態では、前記シード層が、底面からの高さの10%以内にある。一実施形態では、前記シード層が、底面からの高さの5%以内にある。一実施形態では、前記シード層が、底面からの高さの2.5%以内にある。一実施形態では、前記シード層が、薄膜層の底面を含む。
【0084】
一実施形態では、前記シード層の厚さが0.1~100nmである。一実施形態では、前記シード層の厚さが0.1~50nmである。一実施形態では、前記シード層の厚さが0.1~25nmである。一実施形態では、前記シード層の厚さが0.1~10nmである。一実施形態では、前記シード層の厚さが1~50nmである。一実施形態では、前記シード層の厚さが1~25nmである。一実施形態では、前記シード層の厚さが1~10nmである。一実施形態では、前記シード層の厚さが1~5nmである。
【0085】
一実施形態では、Co3O4の濃度局在が、Co3O4の有効層の厚さに関して規定されてよい。本明細書において、「有効層」とは、濃度局在に存在する全てのCo3O4が、層としての組成物の嵩(bulk)にわたって均一に分散したと仮定した場合を意味する。組成物の結晶性酸化物成分の厚さに対する有効層の厚さを、濃度局在に存在するCo3O4の量の概算値として用いることができる。
【0086】
一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウム組成物の厚さが1~5μmであり、有効Co3O4層の厚さが0.1~5μmである。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウム組成物の厚さが2~20μmであり、有効Co3O4層の厚さが0.2~500nmである。
【0087】
本発明の実施形態のコバルト酸リチウム組成物の更なる顕著な特徴は、その結晶構造にある。上述したように、本明細書に記載のモルフォロジを有する結晶性コバルト酸リチウム組成物は、従来技術に係る固体電池に用いられる結晶性コバルト酸リチウムよりも性質上均一性が低く粗く、そのような固体電池において、平坦で滑らかな結晶配向を有する同一組成の膜と比較して、容量及びサイクル寿命の両方に関して、より好ましい電気化学的挙動を示すことを本発明者らは意外にも見出した。
【0088】
一実施形態では、コバルト酸リチウム組成物又はドープコバルト酸リチウム組成物の結晶構造は、結晶格子面のミラー指数によって規定することができる。当業者に公知のように、ミラー指数は、結晶学において結晶(ブラベ)格子内の平面の表記法を規定する。詳細には、格子面群は、ミラー指数と呼ばれる3つの整数h、k、l、によって決定される。ミラー指数は、(hkl)で記述され、hb1+kb2+lb3(biは逆格子ベクトルの基底)に直交する平面群を示す。これらの整数は、典型的には、既約分数で、つまり、その最大公約数が1となるように記述される。
【0089】
一実施形態では、結晶性酸化物、すなわち結晶性コバルト酸リチウム組成物、結晶性ドープコバルト酸リチウムの結晶構造の少なくとも一部が、(101)、(104)、(110)、及び(012)、又はそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択されるミラー指数を有する配向を有する。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、(101)、(104)、又はその両方からなる群から選択されるミラー指数を有する配向を有する。
【0090】
本発明の実施形態の組成物において、結晶性酸化物の結晶構造の結晶配向が、組成物の底面に平行な面を基準に規定されてよい。したがって、一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、組成物の底面に平行な面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)、又はそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される結晶配向を有する。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、組成物の底面に平行な面に対し、(101)、(104)、又はその両方からなる群から選択される配向を有する。
【0091】
あるいは、本発明の実施形態の組成物において、結晶性酸化物の結晶構造の結晶配向が、組成物の底面に平行な少なくとも1つの格子面を基準に規定されてよい。一実施形態では、ミラー指数hによって規定される格子面が組成物の底面に平行である。一実施形態では、ミラー指数kによって規定される格子面が組成物の底面に平行である。一実施形態では、ミラー指数lによって規定される格子面が組成物の底面に平行である。
【0092】
したがって、一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、組成物の底面に平行な面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)、又はそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される結晶配向を有する。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、組成物の底面に平行な面に対し、(101)、(104)、又はその両方からなる群から選択される配向を有する。
【0093】
あるいは、本発明の実施形態の組成物において、結晶性酸化物の結晶構造の結晶配向が、結晶成長方向に垂直な面を基準に規定されてよい。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、結晶成長方向に垂直な面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)、又はそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される結晶配向を有する。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、結晶成長方向に垂直な面に対し、(101)、(104)、又はその両方からなる群から選択される配向を有する。
【0094】
あるいは、本発明の実施形態の組成物がリチウムイオン電池内に存在する場合、結晶性酸化物の結晶構造の結晶配向が、電池を通るリチウムイオン経路の方向に垂直な面を基準に規定されてよい。したがって、一実施形態では、本発明の組成物がリチウムイオン電池内に存在し、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも一部が、電池を通るリチウムイオン経路の方向に垂直な面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)、又はそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される結晶配向を有する。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、電池を通るリチウムイオン経路の方向に垂直な面に対し、(101)、(104)、又はその両方からなる群から選択される配向を有する。
【0095】
あるいは、本発明の実施形態の組成物が基板上に形成される場合、結晶性酸化物の結晶構造の結晶配向が、基板に平行な面を基準に規定されてよい。したがって、一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、基板に平行な面に対し、(101)、(104)、(110)、及び(012)、又はそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される結晶配向を有する。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、基板に平行な面に対し、(101)、(104)、又はその両方からなる群から選択される配向を有する。
【0096】
一実施形態では、組成物の結晶性酸化物成分の結晶構造の少なくとも一部が、ミラー指数が(101)である配向を有する(配向は、任意選択で上記の定義のいずれかを参照して規定される)。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.01質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.02質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.05質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.1質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.2質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.5質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも1質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも2質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも5質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも10質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも20質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも30質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも40質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも50質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも60質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも30質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも70質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも30質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも80質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも30質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも90質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも30質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも95質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも96質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも97質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも98質量%が(101)配向である。一実施形態では、コバルト酸リチウム組成物の結晶構造の少なくとも99質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.5質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも99.7質量%が(101)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.9質量%が(101)配向である。これらのパーセンテージは、結晶性組成物の総質量(すなわち、存在する全結晶配向)に対する質量で表される。
【0097】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも一部が、ミラー指数が(104)である配向を有する(配向は、任意選択で上記の定義のいずれかを参照して規定される)。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.01質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.02質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.05質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.1質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.2質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.5質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも1質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも2質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも5質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも10質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも20質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも30質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも40質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも50質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも60質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも70質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも80質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも90質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも95質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも96質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも97質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも98質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性組成物の結晶構造の少なくとも99質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.5質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも99.7質量%が(104)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも99.9質量%が(104)配向である。これらのパーセンテージは、結晶性酸化物の総質量(すなわち、存在する全結晶配向)に対する質量で表される。
【0098】
一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、ミラー指数が(110)である配向を有する(配向は、任意選択で上記の定義のいずれかを参照して規定される)。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.01質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.02質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.05質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.1質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.2質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.5質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも1質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも2質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも5質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも10質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも20質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも30質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも40質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも50質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも60質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも70質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも80質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも90質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも95質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも96質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも97質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも98質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.5質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.7質量%が(110)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.9質量%が(110)配向である。これらのパーセンテージは、結晶性組成物の総質量(すなわち、存在する全結晶配向)に対する質量で表される。
【0099】
一実施形態では、コバルト酸リチウム組成物の結晶構造の少なくとも一部が、ミラー指数が(012)である配向を有する(配向は、任意選択で上記の定義のいずれかを参照して規定される)。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.01質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.02質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.05質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.1質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.2質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも0.5質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも1質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも2質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも5質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも10質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも20質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも30質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも40質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも50質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも60質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも70質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも80質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも90質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも95質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも96質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも97質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも98質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.5質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.7質量%が(012)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の少なくとも99.9質量%が(012)配向である。これらのパーセンテージは、結晶性酸化物の総質量(すなわち、存在する全結晶配向)に対する質量で表される。
【0100】
一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の少なくとも一部が、ミラー指数(003)を有して配向している(配向は、任意選択で上記の定義のいずれかを参照して規定される)。(003)配向のみを有する微結晶の存在は、上記の好ましい配向の結晶が持つ粗さを持たない結晶となり、上記結晶配向を有するコバルト酸リチウムの好ましい電気化学的特性が固体電池に備わらないため、本発明の目的から望ましくない。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大99.9質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大99.7質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大99.5質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大99質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大97質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大95質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大90質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大80質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大70質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大60質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大50質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大40質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大30質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大20質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大10質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大5質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大4質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウムの結晶構造の最大3質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大2質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大1質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物組成物の結晶構造の最大0.5質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大0.3質量%が(003)配向である。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造の最大0.1質量%が(003)配向である。これらのパーセンテージは、結晶性組成物の総質量(すなわち、存在する全結晶配向)に対する質量で表される。
【0101】
本発明の実施形態の組成物が、薄膜層を含む場合(限定するものではないが、特に、薄膜層がCo3O4のシード層を含む場合)、一実施形態では、この薄膜層の上面の少なくとも2.5%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも4.5%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも5%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも7.5%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも10%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも25%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも50%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも75%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも80%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも90%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の少なくとも95%が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の95%超が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の97.5%超が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の99%超が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。一実施形態では、上面の99.5%超が、(101)、(104)、(110)、又はこれらの組み合わせから選択される結晶配向を有する結晶性酸化物である。
【0102】
上記に加えて、又は上記に替えて、組成物の結晶構造が、ラマンスペクトル中のバンドに関して規定されてもよい。当業者に公知のように、固体物理学では、材料の特性評価、温度測定、及びサンプルの結晶学的配向の決定にラマン分光法が使用される。
【0103】
典型的には、ラマン分光計は、レーザ光、典型的には、電磁スペクトルの可視又は近赤外域のレーザ光(390~1000nm)、例えば450~900nm、好ましくは500~550nm、より好ましくは530~540nm、最も好ましくは532nmを使用する。ラマン顕微鏡は、典型的には、5倍~500倍、好ましくは10倍~100倍の範囲の対物レンズを備える。ラマン分光計は、典型的には、0.5~2μm2、好ましくは1μm2の空間分解能(サンプル表面スポット面積として定義される)を有する。
【0104】
あるサンプルにおいては、ラマンスペクトル内のバンドが、特徴的なバンドを有する物質の量、結晶配向及び純度に応じて、示される波数からずれることがある。一実施形態では、ラマンスペクトル中のバンドの波数が±25cm-1で示される。一実施形態では、ラマンスペクトル中のバンドの波数が±20cm-1で示される。一実施形態では、ラマンスペクトル中のバンドの波数が±15cm-1で示される。一実施形態では、ラマンスペクトル中のバンドの波数が±10cm-1で示される。一実施形態では、ラマンスペクトル中のバンドの波数が±5cm-1で示される。一実施形態では、ラマンスペクトル中のバンドの波数が±2cm-1で示される。一実施形態では、ラマンスペクトル中のバンドの波数が±1cm-1で示される。
【0105】
一実施形態では、組成物が、ラマンスペクトルにおいて(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上に示した許容誤差で)690cm-1の波数のバンドを示す。このバンドは、典型的には、組成物中のCo3O4のA1gモードが存在する場合に特徴的である。
【0106】
一実施形態でが、ラマンスペクトルにおいて(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上に示した許容誤差で)526cm-1の波数のバンドを示す。このバンドは、典型的には、組成物中のCo3O4のF2gが存在する場合に特徴的である。
【0107】
一実施形態では、組成物が、ラマンスペクトルにおいて(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上に示した許容誤差で)625cm-1の波数のバンドを示す。このバンドは、典型的には、組成物中のCo3O4のF2gが存在する場合に特徴的である。
【0108】
一実施形態では、組成物が、ラマンスペクトルにおいて(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上に示した許容誤差で)484cm-1の波数のバンドを示す。
【0109】
一実施形態では、組成物が、ラマンスペクトルにおいて(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上に示した許容誤差で)539cm-1の波数のバンドを示す。
【0110】
一実施形態では、コバルト酸リチウム組成物の(R-3m)結晶構造が、ラマンスペクトルにおいて、それぞれA1gモード及びEgモードに起因する(いずれも、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上に示した許容誤差で)484cm-1及び593cm-1からなる群から選択される波数の少なくとも1つのバンドを示す。これらの波数のラマンバンドは、典型的には、上述した好ましい配向のいずれかの結晶構造を有するコバルト酸リチウムの高温相が存在する場合に特徴的である。
【0111】
一実施形態では、組成物が、ラマンスペクトルにおいて、(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上に示した許容誤差で)690cm-1の波数のバンドと、(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上に示した許容誤差で)484cm-1及び593cm-1からなる群から選択される波数の少なくとも1つの他のバンドとを示す。
【0112】
上記に加えて、又は上記に替えて、組成物の結晶構造が、その粉末X線回折パターンに関して規定されてもよい。当業者に公知のように、X線結晶解析は、結晶の原子及び分子の構造の決定に用いられる手法であり、入射X線のビームが結晶原子により多数の特定の方向に回折される。結晶学では、この回折ビームの角度及び強度を測定することにより、結晶内の電子密度の三次元画像を作成することができる。この電子密度から、結晶中の原子の平均位置のほか、原子間の化学結合、原子の無秩序性などのさまざまな情報を求めることができる。
【0113】
典型的には、X線回折ではCu Kα X線源を用いる。典型的には、θ1=11°、θ2=21°、走査時間=240秒の条件を用いて測定が行われる。一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造を、X線粉末回折パターン内の測定されたピークの2シータ(2θ)の測定値によって記述することができる。この測定値は、典型的には±0.2°、好ましくは±0.1°、より好ましくは±0.05°で示される。
【0114】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、2θ(±0.2°)が37.4°、39.1°、45.3°、及び66.4°からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピークを示す。
【0115】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、2θ(±0.2°)が37.4°であるX線粉末回折ピークを示す。このピークは、(101)の結晶配向のLiCoO2に特徴的である。
【0116】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、2θ(±0.2°)が39.1°であるX線粉末回折ピークを示す。このピークは、(012)の結晶配向のLiCoO2に特徴的である。
【0117】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、2θ(±0.2°)が45.3°であるX線粉末回折ピークを示す。このピークは、(104)の結晶配向のLiCoO2に特徴的である。
【0118】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、2θ(±0.2°)が66.4°であるX線粉末回折ピークを示す。このピークは、(110)の結晶配向のLiCoO2に特徴的である。
【0119】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造を、隣接する格子面の間隔値(d)(d間隔値)に対応する2θの測定値によって記述することができる。この測定値は、典型的には±0.2Å、好ましくは±0.1Å、より好ましくは±0.05Åで示される。
【0120】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、d値(Å)2.339(±0.1)に対応する2θが37.4°であるX線粉末回折ピークを示す。このピークは、(101)の結晶配向のLiCoO2に特徴的である。
【0121】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、d値(Å)2.301(±0.1)に対応する2θが39.1°であるX線粉末回折ピークを示す。このピークは、(012)の結晶配向のLiCoO2に特徴的である。
【0122】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、d値(Å)2.001(±0.1)に対応する2θが45.3°であるX線粉末回折ピークを示す。このピークは、(104)の結晶配向のLiCoO2に特徴的である。
【0123】
一実施形態では、結晶性酸化物の結晶構造が、d値(Å)1.406(±0.1)に対応する2θが66.4°であるX線粉末回折ピークを示す。このピークは、(110)の結晶配向のLiCoO2に特徴的である。
【0124】
一実施形態では、前記結晶性酸化物が、2.399Å、2.001Å、又は2.399Å及び2.001Åの両方から選択されるd値(Å)(±0.1Å)に対応する2θが37.4°、45.3°、又は37.4°及び45.3°の両方から選択されるX線粉末回折を示す結晶構造を有する。
【0125】
当業者であれば、コバルト酸リチウム組成物の結晶構造が、上記の配向のうちの2つ以上を有する微結晶を含んでよく、したがって、組成物のあるサンプルの粉末X線回折パターンに上記のピークのうちの2つ以上が観察されてよいことを理解するであろう。
【0126】
一実施形態では、コバルト酸リチウム組成物の結晶構造は、37.4°、45.3°(それぞれ±0.1Å)若しくはこれらの両方、及び/又は対応するd値(Å)が2.399、2.001(それぞれ±0.1Å)若しくはこれらの両方からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピークを示す。
【0127】
一実施形態では、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物を含む組成物が提供され、本組成物において、リチウム及びコバルトの原子%が、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上記に定義したとおりであり、組成物の結晶構造が、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて、上記に定義したようにCo3O4の濃度局在によって特徴づけられ、結晶構造が、更に、以下のパラメータ(a)~(c)
(a)(101)、(104)、(110)、及び(012)からなる群から選択される結晶配向、
(b)ラマンスペクトルの690cm-1(±5cm-1)の波数のバンド、並びに、484cm-1及び593cm-1(それぞれ±5cm-1)からなる群から選択される波数の少なくとも1つの他のバンド、
(c)37.4°、39.1°、45.3°、及び66.4°(それぞれ±0.2Å)並びに/又は対応するd値(Å)が2.399、2.301、2.001若しくは1.406(それぞれ±0.1°)からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピーク、のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる。
【0128】
一実施形態では、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物を含む組成物が提供され、本組成物において、リチウム及びコバルトの原子%が、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上記に定義したとおりであり、組成物の結晶構造が、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて、上記に定義したようにCo3O4の濃度局在と、(101)、(104)、(110)、及び(012)、好ましくは(101)又は(104)からなる群から選択される配向とによって特徴づけられる。
【0129】
一実施形態では、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物を含む組成物が提供され、本組成物において、リチウム及びコバルトの原子%が、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上記に定義したとおりであり、組成物の結晶構造が、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて、上記に定義したようにCo3O4の濃度局在と、ラマンスペクトルの690cm-1(±5cm-1)の波数のバンドとによって特徴づけられる。
【0130】
一実施形態では、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物を含む組成物が提供され、本組成物において、リチウム及びコバルトの原子%が、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて上記に定義したとおりであり、組成物の結晶構造が、その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて、上記に定義したようにCo3O4の濃度局在と、37.4°、39.1°、45.3°、及び66.4°(それぞれ±0.2Å)、並びに/又は対応する間隔値d(Å)が2.399、2.301、2.001若しくは1.406(それぞれ±0.1°)、好ましくは、間隔値d(Å)2.399又は2.001に対応する37.4°又は45.3°からなる群から選択される少なくとも1つのX線粉末回折ピークとによって特徴づけられる。
【0131】
典型的には、コバルト酸リチウムは、膜、特に(以下に詳細に定義する)基板上の膜の形態で形成される。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウム組成物の厚さが1~30μmである。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウム組成物の厚さが2~20μmである。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウム組成物の厚さが3~12μmである。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウム組成物の厚さが5~10μmである。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウム組成物の厚さが6~7μmである。
方法
【0132】
また、本発明は、Co3O4と、結晶性コバルト酸リチウムとを含む組成物、限定するものではないが、特に本発明の第1の態様に係る組成物の作製方法を提供することができる。本方法は、一般に、化合物の各成分元素の供給源を提供する工程であって、当該供給源が、リチウムの供給源、酸素の供給源、及びコバルトの供給源(及び任意選択で以下に定義する1種以上のドーパント元素の供給源)を含む工程と、基板、限定するものではないが、特に約50℃~約800℃に加熱した基板上にこれらを堆積させる工程とを有する。供給源から成分元素が基板上で反応して、(任意選択で以下に定義する1種以上の元素でドープされた)リチウム及びコバルトの結晶性酸化物を形成し、コバルトの供給源及び酸素の供給源から成分元素が基板上で反応してCo3O4を形成する。
【0133】
典型的には、本方法は、結晶性コバルト酸リチウム(又は結晶性ドープコバルト酸リチウム)を、膜、典型的には基板上の膜の形態で形成する。好適な基板は、当業者に公知であり、金属(例えば、白金、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、亜鉛、金、銀、ニッケル、モリブデン、これらの合金であり、合金は、炭素などの非金属を含有してよく、その例としてステンレス鋼などの鋼が挙げられる)、酸化アルミニウムなどの酸化物、特に、酸化インジウムスズ等の導電性金属酸化物、シリコン、シリカ、酸化シリコン(ドープ酸化シリコンを含む)、アルミノケイ酸塩材料、ガラス、及びセラミック材料などを含有する。
【0134】
従来技術に記載されている方法とは対照的に、本発明例の方法は、求める結晶構造を有するコバルト酸リチウム組成物の結晶成長を可能にするような(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて、上に定義した)Co3O4の濃度局在が形成されるように、本方法の1つ以上の条件が変更されるという顕著な特徴を有する。
【0135】
一実施形態では、本方法は、求める結晶構造を有する組成物の結晶成長を可能にし、かつ、(上述のように)従来技術よりも粗さ/凹凸が大きくなるよう、Co3O4の濃度局在がシード層として形成されるように、本方法の1つ以上の条件が変更されることを特徴とする。
【0136】
本方法は、一般に、化合物の各成分元素の供給源を提供する工程であって、当該供給源が、リチウムの供給源、酸素の供給源、コバルトの供給源、及び任意選択で、本明細書に列記したドーパント元素のうちの1種以上の供給源を含む工程を有する。この元素の供給源は、必要な元素が含有されている限り、その厳密な性質は本発明にとって重要ではない。
【0137】
化合物を形成するための成分元素の反応は、基板への堆積前の気相中ではなく、基板の表面で生じる。理論に拘束されることを望むものではないが、蒸気の形態の各成分元素が、加熱された基板表面に衝突して付着し、次に各元素の原子が表面上を移動し、それによって互いに反応して酸化化合物を形成することができると考えられる。
【0138】
一実施形態では、蒸気源は、電子ビーム蒸発器又はクヌーセンセル(K-Cell)を備え、これらは、低分圧の材料に適している。いずれの場合も、材料をるつぼの中に入れ、加熱することで、原子の流束が発生する。クヌーセンセルではるつぼの周囲に一連の加熱フィラメントが用いられているのに対し、電子ビーム蒸発器では、磁石を使用して高エネルギー電子ビームを材料に向けることによって加熱が行われる。
【0139】
典型的には、リチウム及びコバルトは、クヌーセンセル供給源又は電子銃(Eガン)から堆積させることができる。
【0140】
一実施形態では、酸素の供給源は分子状酸素である。一実施形態では、酸素の供給源は、(限定するものではないが、典型的には酸素プラズマ源によって生成される)原子状酸素である。一実施形態では、酸素の供給源はオゾン源である。
【0141】
酸素プラズマ源は、プラズマ相酸素、すなわち酸素原子、ラジカル、及びイオンの流束を供給する。供給源は、例えば高周波(RF)プラズマ源又はオゾン源であってよい。
【0142】
必要に応じて、酸素流に追加ガス(典型的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガス;又は窒素;好ましくはアルゴン及び/又は窒素)が少量添加されてもよい。1種以上の追加ガスが存在する場合、追加ガスの存在量は、合計割合で最大10%、例えば最大5%、例えば最大3%、例えば最大2%、例えば最大1%である。合計割合は、典型的には残留ガス分析装置(RGA)によって測定を行い、1種以上の追加のガスの分圧を酸素分圧で割ることにより、酸素100モル%に対するモル%として定義される。
【0143】
また、リチウム、コバルト及び酸素の各供給源に加えて、所期の組成物の結晶構造の一部を形成する(上で定義及び例示した)他のドーパント元素の供給源も存在してよい。一実施形態では、本方法は、更に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、銅、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される1種以上の元素が、求める結晶構造を有する結晶性組成物の一部を形成するように、当該1種以上の元素の供給源を提供する工程を有する。
【0144】
あるいは、アモルファス膜を堆積させ、次いでこのアモルファスの形態をアニールするために本発明の方法を使用することができる。しかしながら、この手法は、化学量論的化合物を低い基板温度で直接生成できる点や、堆積後の高温アニーリングが不要になる点といった、本発明の利点を示さないため、好ましいものではない。
【0145】
本発明の一実施形態に従って用いられる一般的な方法の1つは物理気相堆積(PVD)法である。この方法によれば、化合物の各成分元素の蒸気源を提供し、蒸気源から成分元素を基板、典型的には加熱した基板上に共堆積させることにより、リチウム、コバルト及び酸素の各成分元素から結晶性コバルト酸リチウム組成物が形成される。
【0146】
したがって、本実施形態では、リチウムの供給源と、酸素の供給源と、コバルトの供給源と、任意選択で、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、銅、モリブデン、ニッケル、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素の供給源と、を含む、化合物の各成分元素の蒸気源を提供し、リチウムの流束、コバルトの流束、及び、任意選択で、前記少なくとも1種のドーパント元素の流束を供給する工程と、基板を実質的に50℃~800℃に加熱する工程と、前記供給源から成分元素を基板上に堆積させて、任意選択で1種以上のドーパント元素を含有するリチウム及びコバルトの結晶性酸化物を形成する工程と、を有する気相堆積法が提供され、共堆積中又はその前に、求める結晶構造を有する組成物の結晶成長を可能にするようなCo3O4の濃度局在が形成されるように、気相堆積法の1つ以上の条件が変更されることを特徴とする。
【0147】
本発明の一態様に係る物理気相堆積(PVD)法は、典型的には、加熱した基板上に、蒸気源から成分元素を共堆積させる工程を有する。一実施形態では、基板が約150~約700℃に加熱される。一実施形態では、基板が約200~約700℃に加熱される。一実施形態では、基板が約300~約450℃に加熱される。
【0148】
本発明の一態様に係る物理気相堆積(PVD)法は、典型的には1×10-7~1×10-4Torr、好ましくは1×10-6~5×10-5Torr、より好ましくは5×10-6~2×10-5Torrの圧力で実施される。
【0149】
典型的には、本方法は、膜の堆積速度が0.1~10μm/時となるように実施される。一実施形態では、本方法は、膜の堆積速度が0.2~5μm/時となるように実施される。一実施形態では、本方法は、膜の堆積速度が0.3~1.6μm/時となるように実施される。一実施形態では、本方法は、膜の堆積速度が0.4~0.8μm/時となるように実施される。
【0150】
本発明の本態様によれば、求める結晶構造を有する組成物の結晶成長を可能にするようなCo3O4の濃度局在が形成されるように、気相堆積法の1つ以上の条件が変更される。一実施形態では、1つ以上の条件の変更は、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物を堆積させるために供給する流束比とは異なる流束比でコバルト及びリチウムを供給することを含む。理論に拘束されることを望むものではないが、結晶性コバルト酸リチウムを堆積させるために供給する流束比とは異なる流束比でコバルト及びリチウムを供給することにより、求める結晶構造を有するコバルト酸リチウム組成物の結晶成長を可能にするようなCo3O4が(典型的にはシーディング層として)形成可能となると考えられる。
【0151】
一実施形態では、コバルトの流束が0.1~13Å/秒である。一実施形態では、コバルトの流束が0.1~7Å/秒である。一実施形態では、コバルトの流束が0.4~2Å/秒である。一実施形態では、コバルトの流束が0.5~1Å/秒である。この流束は、典型的には基板面で測定される。典型的には、コバルトの流束は、酸素の存在下で測定される(このように測定すると、実際に測定される値は酸化コバルトの流束となる)。
【0152】
一実施形態では、リチウムの流束が0.1~26Å/秒である。一実施形態では、リチウムの流束が、0.5~13Å/秒である。一実施形態では、リチウムの流束が、0.7~4Å/秒である。一実施形態では、リチウムの流束が0.8~2.2Å/秒である。この流束は、典型的には基板面で測定される。典型的には、リチウムの流束は、酸素の存在下で測定される(このように測定すると、実際に測定される値は酸化リチウムの流束となる)。
【0153】
1種以上のドーパント元素が存在する場合、一実施形態では、ドーパント元素の流束が0.1~13Å/秒である。一実施形態では、ドーパント元素の流束が0.1~7Å/秒である。一実施形態では、ドーパント元素の流束が0.4~2Å/秒である。一実施形態では、ドーパント元素の流束が0.5~1Å/秒である。この流束は、典型的には基板面で測定される。典型的には、ドーパント元素の流束は、酸素の存在下で測定される(このように測定すると、実際に測定される値はドーパント元素に対応する酸化物の流束となる)。
【0154】
堆積中に、各原子流束の速度を測定して変更できることにより、膜厚全体にわたる組成物の制御が可能となり、蒸気源の条件の変化(例えば、供給源の劣化又は揺らぎ)に対処し、かつ、リチウム-コバルトの組成を膜全体で一定に保つことや、或いは、堆積中にリチウム-コバルトの組成が変化する膜を生成することができる。個々の原子流束の速度は、堆積中に供給源において直接的に、かつ/又は(堆積中の酸素分圧を測定することによって)間接的に測定することができる。一実施形態では、個々の原子流束の速度が、電子衝撃放出分光法(EIES)によって測定される。
【0155】
本発明の本態様によれば、堆積中の組成物の制御された変化を、膜内にシード層を生成するために有効に利用することができる。例えば、堆積中の膜内へのCo3O4のシード層の追加は、以下に記載する好ましい方法により個々の原子流束を変更することで行うことができる。
【0156】
一実施形態では、1つ以上の条件の変更は、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物の堆積に必要なリチウムの流束よりも、コバルトの流束を増やすことを含む。
【0157】
一実施形態では、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物の堆積に必要なコバルトの流束のレベルよりもコバルトの流束を増やし、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物の堆積に必要なリチウムの流束のレベルにリチウムの流束を維持する。
【0158】
一実施形態では、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物の堆積に必要なコバルトの流束のレベルにコバルトの流束を維持し、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物の堆積に必要なリチウムの流束のレベルよりもリチウムの流束を減らす。
【0159】
一実施形態では、酸素の流束を減らす。一実施形態において、酸素を(上に定義し例示した)不活性ガスと共に供給し、酸素の流束を同じレベルに維持しつつ、酸素を希釈することで酸素分圧を下げることにより制御が行われる。
【0160】
原子流束の速度の制御は、物理気相堆積法の実施形態においてコバルト酸リチウムのモルフォロジの制御に用いることができる方法の1つに過ぎない。Co3O4の濃度局在(シード層など)を提供するために用いることができる他の方法として、リチウムのシャッタを閉じてリチウムイオンの流束を止める方法や、(酸素の流速を変化させるか、又はアルゴンなど別のガスを添加することにより)チャンバ内の酸素分圧を変化させる方法が挙げられる。
【0161】
一実施形態では、気相堆積法において、加熱した基板上に成分元素を共堆積させる工程が、加熱した基板の表面上に成分元素を直接共堆積させることを含む。一実施形態では、気相堆積法において、加熱した基板上に成分元素を共堆積させる工程が、基板上に支持された1層以上の層上に成分元素を共堆積させることを含む。
【0162】
本発明の一例によれば、特許文献1に概要が記載されている気相堆積法が、求めるCo3O4の濃度局在を形成するために本発明の本態様に従って変更される。
【0163】
特許文献1に記載の堆積法が、50~800℃に加熱された物理気相堆積(PVD)システムで実施されているが、一実施形態では、ベア基板又は(熱に敏感な電池層を含まない)集電体層上にLCO膜を堆積させる場合、温度は300~450℃であることが好ましいが、最大800℃の高い基板温度を使用することもできる。
【0164】
一実施形態では、本方法は、堆積後に、堆積させたコバルト酸リチウム膜をアニーリングする工程を付加的に有する。この付加的工程は、堆積が400℃未満の温度で行われる場合に特に有用である。典型的には、堆積済みの電池層上にコバルト酸リチウム膜を堆積させて積層型電池を形成する場合、基板のアニール温度は好ましくは300~450℃である。
【0165】
従来、リチウム、酸素及びコバルトのそれぞれの蒸気源(及び任意選択で前記ドーパント元素のうちの1種以上の蒸気源)を提供し、それぞれの供給源の流束を制御して基板上に共堆積させ、これらを基板上で反応させて結晶性酸化物を形成する方法によって結晶性コバルト酸リチウムを堆積させることで、Co3O4の生成を阻止することができると考えられている(上述のように、従来、酸化コバルト(Co3O4)は、LiCoO2組成物中の不純物と考えられていた)。したがって、本方法を使用して、Co3O4と結晶性コバルト酸リチウムとを含む組成物を意図的に作製することは、一見不利なようにみえる。
【0166】
代替的に、本発明に係る方法が、スパッタリングによって実行されてもよい。当業者に公知のように、スパッタ堆積法は、スパッタリングによって薄膜を堆積する物理気相堆積(PVD)法である。スパッタリングは、必要な元素の供給源である1つ以上のターゲットから材料を放出させて基板上に向け、典型的には基板上の膜として必要な材料を成長させる工程を有する。
【0167】
したがって、一実施形態では、本発明の実施形態の組成物の作成方法が提供され、当該方法は、
リチウムの供給源を含む少なくとも1つのスパッタリングターゲットと、コバルトの供給源を含む少なくとも1つのスパッタリングターゲットと、任意選択でマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、銅、モリブデン、ニッケル、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素の供給源を含む1つ以上のスパッタリングターゲットを含む少なくとも1つのスパッタリングターゲットを提供する工程であって、前記スパッタリングターゲットは同じでも異なってもよい工程と、
前記スパッタリングターゲットをスパッタリングして、Co3O4と、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物とを含有し、任意選択で前記ドーパント元素のうちの少なくとも1種がドープされている組成物を生成する工程と、を有するスパッタリング堆積法である。
【0168】
典型的には、必要な元素の供給源を提供するスパッタリングターゲットは、当該ターゲットが元素の供給源と、酸素の供給源の少なくとも一部とを提供するように、その元素の酸化物を含有する。一実施形態では、リチウムの供給源であるスパッタリングターゲットは、酸化リチウム(Li2O)を含有する。一実施形態では、コバルトの供給源であるスパッタリングターゲットは、酸化コバルト(II)(CoO)を含有する。一実施形態では、コバルトの供給源であるスパッタリングターゲットは、酸化コバルト(III)(Co2O3)である。一実施形態では、コバルトの供給源であるスパッタリングターゲットは、Co3O4を含有する。
【0169】
一実施形態では、スパッタリングは、リチウム及びコバルトの両方の供給源を、好ましくは酸化物として提供する1つのターゲットを用いて実施されてもよい。この実施形態では、リチウム及びコバルトの両方の供給源を提供するスパッタリングターゲットは、LiCoO2を含有する。このターゲットは、リチウムの割合の高い組成物を提供するために、任意選択で、リチウム(例えば、Li2O)が追加添加されていてよい。この実施形態では、Co3O4の濃度を局在化させるために、組成物の堆積中に酸素分圧を変化させてもよい。
【0170】
一実施形態では、好ましくは酸化物として、より好ましくは(任意選択でLi2Oが添加されている)LiCoO2として、リチウムの供給源及びコバルトの供給源の一部を提供する1つのスパッタリングターゲットと、典型的にはCo3O4を含有しコバルトの供給源の一部を提供する少なくとも1つの別のスパッタリングターゲットとを用いてスパッタリングが実施されてもよい。
【0171】
所期の組成物が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、銅、モリブデン、ニッケル、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される1種以上のドーパント元素を含有する場合、スパッタリングターゲットは、典型的には、当該元素の酸化物を含有する。ドーパント元素の酸化物を含有するスパッタリングターゲットは、リチウムの酸化物及び/又はコバルトの酸化物を含有するスパッタリングターゲットと同じでも異なっていてもよい。
【0172】
スパッタリングターゲットが異なる場合、これらターゲットを同時にスパッタリングしても逐次的にスパッタリングしてもよい。
【0173】
一実施形態では、本発明の実施形態の組成物の作成方法が提供され、当該方法は、
酸化コバルトを含有する第1のスパッタリングターゲットを提供する工程と、
(a)コバルト酸リチウム、又は(b)マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、銅、モリブデン、ニッケル、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、スズ、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム、ガドリニウム、及びユウロピウムからなる群から選択される少なくとも1種のドーパント元素を含有するコバルト酸リチウム、の供給源を含む第2のスパッタリングターゲットを提供する工程と、
前記第1のスパッタリングターゲットと前記第2のスパッタリングターゲットとをスパッタリングして、Co3O4と、リチウム及びコバルトの結晶性酸化物とを含有し、任意選択で前記ドーパント元素のうちの少なくとも1種がドープされている組成物を生成する工程と、を有するスパッタリング堆積法である。
【0174】
一実施形態では、本発明の実施形態の組成物の作成方法が提供され、当該方法は、
前記第1のターゲットをスパッタリングしてCo3O4の薄膜層を生成し、次いで、前記第2のターゲットをスパッタリングして、任意選択で前記ドーパント元素のうちの少なくとも1種がドープされているリチウム及びコバルトの薄膜結晶性酸化物を生成する工程、を有するスパッタリング堆積法である。
【0175】
一実施形態では、本発明の実施形態の組成物の作成方法が提供され、当該方法は、
前記第1のターゲットをスパッタリングして、上面及び底面を備えるCo3O4の薄膜層を生成する工程と、
前記第2のターゲットをスパッタリングして、任意選択で前記ドーパント元素のうちの少なくとも1種がドープされているリチウム及びコバルトの薄膜結晶性酸化物を前記Co3O4の薄膜層の前記上面の上に生成する工程と、を有するスパッタリング堆積法である。
【0176】
一実施形態では、本発明の実施形態の組成物の作成方法が提供され、当該方法は、
Li2O及び/又はリチウム及びコバルトの酸化物を含有する第1のスパッタリングターゲットと、コバルトの酸化物(好ましくはCo3O4)を含有する第2のスパッタリングターゲットとを提供する工程と、
前記ターゲットを同時にスパッタリングして、Co3O4とリチウム及びコバルトの結晶性酸化物とを含有する混合薄膜層を生成する工程と、を有するスパッタリング堆積法である。
【0177】
一実施形態では、本発明の実施形態の組成物の作成方法が提供され、当該方法は、
Li2O或いは/又はリチウム及びコバルトの酸化物を含有する第1のスパッタリングターゲットと、コバルトの酸化物(好ましくはCo3O4)を含有する第2のスパッタリングターゲットとを提供する工程と、
前記第2のターゲットをスパッタリングしてCo3O4の薄膜層を生成し、次いで、前記第1のターゲットをスパッタリングして、前記Co3O4の薄膜層の上にリチウム及びコバルトの薄膜結晶性酸化物を生成する工程と、を有するスパッタリング堆積法である。
【0178】
典型的には、高エネルギー粒子が気体イオンである。一実施形態では、気体イオンはアルゴンイオンである。
【0179】
スパッタリング堆積法の種類の例としては、RFスパッタリング、DCスパッタリング、パルスDCスパッタリング、イオンビームスパッタリング、反応性スパッタリング、ターゲット高度利用スパッタリング(HiTUS)、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPiMS)、及びガスフロースパッタリングが挙げられる。
【0180】
本発明のこの例に係るスパッタリング法は、典型的には、1×10-4~1×10-2Torr、好ましくは5×10-4~5×10-2Torr、より好ましくは1×10-3~2×10-3Torrの圧力で実施される。
【0181】
代替的に、本発明に係る方法が、化学気相堆積法によって実施されてもよい。当業者に公知のように、化学気相堆積法は、必要とする元素を含有する1種以上の前駆体化合物を含む、所望の物質の各成分元素の蒸気源を提供する工程と、典型的には噴霧によって、揮発させた元素を加熱した基板上に堆積させる工程とを有する。供給源から成分元素が基板上で反応して所望の物質を形成する。
【0182】
したがって、結晶性コバルト酸リチウム組成物(限定するものではないが、特に本発明の実施形態の組成物)の作成方法が更に提供され、当該方法は、
化合物の各成分元素の供給源を提供する工程であって、前記供給源が、リチウムを含有する少なくとも1種の前駆体化合物、コバルトを含有する少なくとも1種の前駆体化合物、及び酸素を含有する少なくとも1種の前駆体化合物を含む少なくとも1種の前駆体化合物を含有する工程と、
基板を約200℃~約1000℃に加熱する工程と、
前記加熱した基板に前記前駆体化合物を噴霧する工程と、を有する気相堆積法であり、
前記供給源から成分元素が前記基板上で反応してリチウム及びコバルトの結晶性酸化物を形成し、
求める結晶構造を有する組成物の結晶成長を可能にするようなCo3O4の濃度局在が形成されるように、前記方法の1つ以上の条件が変更されることを特徴とする。
【0183】
一実施形態では、基板が250~950℃に加熱される。一実施形態では、基板が300~600℃に加熱される。
【0184】
本発明の本例に係るCVD法は、典型的には0.1~500Torr、好ましくは1~100Torrの圧力で実施される。
【0185】
一実施形態では、前駆体化合物が、加熱した基板への噴霧前に混合されてゾルを形成する。
【0186】
前駆体化合物は、少なくとも1種の前駆体化合物がリチウムを含有し、少なくとも1種の前駆体化合物がコバルトを含有する限り、特に限定されない。一実施形態では、リチウムを含有する前駆体化合物はリチウム塩を含有し、かつ/又はコバルトを含有する前駆体化合物はコバルト塩を含有する。
【0187】
[電極]
本発明の実施形態の結晶性コバルト酸リチウム組成物は、典型的には電気化学セル及び燃料電池などのセルに用いる電極の形成に特に有用である。
【0188】
したがって、更なる態様によれば、本発明は、(その最も広い態様又は好ましい態様のいずれかにおいて、上で定義した)本発明の実施形態の結晶性コバルト酸リチウム組成物を含む電極を更に提供する。
【0189】
典型的には、本発明の実施形態の電極において、結晶性コバルト酸リチウム組成物が支持体上に支持される。一実施形態では、結晶性コバルト酸リチウム組成物が、支持体上に層を形成する。
【0190】
典型的には、支持体は基板であり、その上に集電材が支持される。一実施形態では、集電材が、金属又は導電性金属酸化物である。一実施形態では、集電材が、白金、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、亜鉛、金、銀、ニッケル、モリブデン、酸化スズ、酸化インジウムスズ、及びステンレス鋼からなる群から選択される。
【0191】
典型的には、基板は不活性基板である。一実施形態では、基板が、シリコン、酸化シリコン、酸化アルミニウム、アルミノケイ酸塩材料、ドープ酸化シリコン、ガラス、金属、及びセラミック材料からなる群から選択される。
【0192】
一実施形態では、基板はシリコン基板である。一実施形態では、シリコン基板が、1層以上のパッシベーション層によって覆われる。一実施形態では、少なくとも1層のパッシベーション層が二酸化シリコンを含有する。一実施形態では、少なくとも1層の更なるパッシベーション層が窒化シリコンを含有する。
【0193】
一実施形態では、集電体と基板との間に接着層が存在する。一実施形態では、接着層が、金属及び金属酸化物から選択される。特定の実施形態では、当該接着層が、酸化チタン、チタン、ジルコニウム、及びクロムからなる群から選択される。
【0194】
[電気化学セル]
本発明の実施形態の結晶性コバルト酸リチウム組成物は、セル、特に電気化学セルに有用に用いることができる。
【0195】
したがって、本発明の更なる態様において、
電解質と、
アノードと、
カソードと、を備え、
前記アノード及び/又は前記カソードが、本発明の第3の態様に係る電極を備える電気化学セルが提供される。
【0196】
本発明の実施形態のコバルト酸リチウム組成物は、このようなセルのカソードでの使用に特に好適であることがわかっている。したがって、上に定義したように、本発明は、カソードが本発明に係る電極を備える電気化学セルを更に提供する。
【0197】
セルは、固体セル(固体電池とも呼ばれる)であってよい。
【0198】
典型的には、セルはリチウムイオン電池である。上に定義したように、リチウムイオン電池では、リチウムイオン(Li+)が放電時に負極から正極に移動し、充電時に逆方向に移動する。したがって、上に定義したように、本発明は、カソードが本発明に係る電極を備えるリチウムイオン電池を更に提供する。
【0199】
電解質は、電気化学セルに通常用いられるどのような電解質であってよい。しかしながら、電解質が固体電解質であることが特に好ましい。本発明の実施形態のコバルト酸リチウム組成物を、固体電解質を用いる電池に適用することにより、特性(特に、サイクル寿命、容量、下層への密着性、及び応力の制御)が改善され、このような利用は当該技術分野において開示されていない。
【0200】
固体電解質の例としては、以下が挙げられる。
-オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)
-ホウケイ酸リチウム(国際公開第2017/216532号、国際公開第2015/104540号、及び国際公開第2015/104538号に記載のものなど)
-硫化物ベースのガラス及びガラス-セラミック電解質、例:LPS(xLi2S-yP2S5)、Li2-SiS2
-ガーネット型固体電解質、例:Li5La3M2O12又はLLZO(Li7La3Zr2O12)
-アルジロダイト型固体電解質、例:Li6PS5X(XはCl、Br、I等のハロゲン)
-酸化物ベースのペロブスカイト型固体電解質、例:LLTO(Li0.5La0.5TiO3)
-LISICON型、例:Li10GeP2S12;NASICON型、例:Li1.4[Al0.4Ge1.6(PO4)3]、LATP(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3)
-固体高分子電解質、例:ポリエチレンオキサイド(PEO)
【0201】
一実施形態では、電解質は、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)を含有する。
【0202】
また、固体セルの製造方法も提供され、当該方法は、本発明に係る方法を用いて、本発明の実施態様に係る結晶性コバルト酸リチウム組成物の層としてセルの電極を堆積させる工程を有する。
【0203】
コバルト酸リチウム組成物の堆積後、物理気相堆積法又はスパッタリングなどの気相堆積法を用いて固体電池の更なる層を堆積させ、多層構造を形成する。PVDのみによる固体電池の作成については、国際公開第2015/104538号に記載されている。固体電池の好ましい層及びその製造方法を以下に示す。しかしながら、当業者に公知のように、固体電池の層及び製造方法は、以下に記載したものに限定されない。
【0204】
【0205】
一実施形態では、電気化学セルは燃料電池である。当業者に公知のように、燃料電池は、燃料(典型的には水素、又はメタノール、ギ酸などの単純な有機化合物)と酸素又は他の酸化剤との電気化学反応によって、燃料の化学エネルギーを電気に変換する電気化学セルである。電池では、化学エネルギーが電池内に存在する化学物質に由来するのに対し、燃料電池は、化学反応を持続するために燃料及び酸素の持続的な供給源(典型的には大気)を必要とする点で電池とは異なる。燃料電池は、燃料と酸素との供給が続く限り連続発電が可能である。
【0206】
したがって、本発明の更なる態様において、アノードと、カソードと、電解質とを備え、前記アノード及び/又は前記カソードが、本発明の実施形態の結晶性酸化物材料を含む燃料電池が提供される。
【0207】
また、燃料電池は、典型的には、燃料の供給源を備えるか、又は燃料の供給源に接続される。一実施形態では、燃料は水素である。一実施形態では、燃料は有機化合物であり、その代表例としては、メタン、メタノール、エタノール、ギ酸、及び酢酸が挙げられる。
【0208】
また、燃料電池は、典型的には、オキシダントの供給源を備えるか、又はオキシダントの供給源に接続される。一実施形態では、オキシダントは分子状酸素である。一実施形態では、オキシダントは酸化剤であり、その例は当業者に公知である。
【0209】
また、本発明に係る電気化学セル(特にリチウムイオン電池)を備える電子機器も提供される。このような電子機器の例は、当業者に公知であり、携帯電話などの携帯型電子機器が挙げられる。
【実施例】
【0210】
図1は、本発明の方法の物理気相堆積法の実施形態の実施に好適な一例の装置10の概略図を示す。堆積は真空システム12中で行われ、これは超高真空システムであってよい。(堆積する薄膜層の所期の目的に応じて決まる)所望の材料の基板14が真空システム12中に載置され、ヒータ16を用いて室温を超える温度まで加熱される。真空システム中には複数の蒸気源も存在し、所望の薄膜化合物のそれぞれの成分元素ごとに1つの蒸気源が設けられている。第1の蒸気源18は、酸素プラズマ源などの原子状酸素の供給源を含む。第2の蒸気源20はリチウム蒸気源を含む。第3の蒸気源22はコバルト蒸気源を含む。
【0211】
堆積プロセス中に、それぞれの蒸気源から、各成分元素の制御された流束が、加熱された基板14上に放出され、基板上に各種元素が共堆積される。これらの元素は基板14上で反応して、結晶性コバルト酸リチウムの薄膜層29を形成する。
【0212】
記載の物理気相堆積法の顕著な利点は、元素から化合物の成分を直接堆積させることで、成分元素の堆積速度によって化合物の組成及び構造を直接制御することができる点にある。各元素の流束は、それぞれの蒸気源を適切に操作することによって独立に制御することができ、それにより、必要に応じて、堆積させる化合物の化学組成を厳密な要求に従って調整することができる。
【0213】
堆積中に、リチウムの流束及びコバルトの流束の速度がモニタされ、必要に応じて、それぞれの蒸気源に対して適切な調整が行われる。リチウムの流束及びコバルトの流束の両方の堆積速度は、例えば、水晶微量天秤法(QCM)又は電子衝撃放出分光法(EIES)を用いて測定することができる。また、コバルトの流束は、残留ガス分析装置(RGA)又はイオンゲージを用いて堆積チャンバ内の酸素圧力の安定性をモニタすることによって間接的にモニタすることができる。酸素に対するコバルトの流束の反応性により、コバルトの流束が変化すると酸素の圧力に逆の変化が観察される。残留ガス分析装置(RGA)と、イオンゲージを用いて測定した全圧とを用いて、真空系に存在するガス、すなわち酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素(痕跡量)、及び一酸化炭素(痕跡量)をモニタすることができる。
【0214】
系内に導入されているガスの圧力の変更は、チャンバ内に導入するガスの流束を変えることによって行うことができる。これに加えて、例えばエリプソメトリや他の光学的手法により、堆積中に膜の成長をモニタすることもできる。
【0215】
組成が一定ではない膜の形成/シード層の追加は、例えば、欠陥を生じさせ、この欠陥が結晶成長のための核形成部として機能して、膜の構造及びモルフォロジの制御が可能になるので、有利となり得る。膜の組成をこのように制御することは、周囲の層に対する密着性といった膜の特性にも影響を及ぼし、膜内の応力を平衡させるのに有用である。本発明の方法は、このように膜の組成を厳密に制御し、堆積中に調整して、最終的な膜の特性を制御できるため、リチウムなどの軽い元素が損失を受けやすく、最終的な膜の組成の制御がより困難となるパルスレーザ堆積(PLD)などの他の技術よりも有利である。
【0216】
本方法によれば、固体電池に用いる厚さ1~30μmのLiCoO2膜を堆積してよい。固体電池に用いるLiCoO2を堆積させる際には、同じ方法で1μm未満(典型的には250nm程度)の試験用の薄いLiCoO2層を堆積させ、ラマン分光法及びレーザアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)でこの試験層の構造及び組成を分析する。
【0217】
適切な試験サンプルが得られた場合、堆積時間を長くしてこの条件を繰り返し、固体電池に用いる厚いLiCoO2膜を得る。
【0218】
ラマン分光法は、さまざまな結晶構造がラマンフィンガープリントを与えるため、LiCoO2の微小構造分析に極めて有用な手法である。R‐3m(高温)相(HT-LCO)の2つのラマンバンドと、低温(Fd3m)(LT-LCO)の4つのバンドとが観察されることが予想される。また、Co3O4は散乱強度が高いため、二次生成されたCo3O4を痕跡量/不純物レベルであってもラマン分光法により検出することができる。ラマン分光法はこれらの材料の研究に特に有効な方法である。
【0219】
実施例で使用したラマン分光計は、532nm(緑色)のレーザと、10倍、50倍、及び100倍の顕微鏡対物レンズとを備えたHORIBA XploRA Plusである。532nmのレーザとNA0.90/100倍の対物レンズにより、空間分解能は361nmであると予想される。しかしながら、ラマン顕微鏡分析の光学的プロセスは、標準的な光学顕微鏡による観察よりもはるかに複雑である。さまざまな要因により分解能が低下し得る。このため、代表的なラマン空間分解能は一般に1μmとされる(ただし、この値は理想的な条件では改善することがある)。
【0220】
ラマン分光測定を、表2に示す取得パラメータに従って行う。上面測定では、対物レンズ倍率50、スリット幅50、ホール100、フィルタ2%を使用する。断面測定では、上記と同じ設定を用いるが、対物レンズ倍率は100とし、ピッチ1μmのライン使用で積算回数は2、点数はサンプル全体をカバーする点数である。
【0221】
【0222】
膜中に存在するリチウムとコバルトの比は、レーザアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA‐ICP‐MS)を用いて決定する。好ましい態様では、コバルト酸リチウム膜が、わずかにリチウムが欠乏した組成、例えば、リチウム:コバルト比が、(酸素を除く全金属原子の割合として表した場合に)リチウムが47.5~49.1%に対してコバルトが52.5~50.9%で形成されてよい。
【0223】
しかしながら、形成される膜の特性及び性能は変動し、組成は膜の特性に影響を及ぼすものの、唯一の重要な因子ではないことが示唆される。
図2は、多くの膜のサイクル寿命を示し、Li:Co組成についてLiが47.5~49.1原子%の範囲では、Li:Co組成の等しい膜であっても、(同じサイクル条件下で)サイクル寿命が長くも短くもなり得ることを示す。利用数(面積及び厚さで正規化した容量)についても同様であり、
図3は、対象の組成範囲において利用数が広く分布していることを示す。
【0224】
堆積したLiCoO
2膜の結晶の性質は、ラマン分光法及びX線回折により示される。ラマン分光法は、堆積膜がHT-LiCoO
2相(R-3m)(
図4)であることを示し、この高温相は、典型的には特許文献1に記載されている膜よりも低い基板温度を用いて結晶性リチウム含有材料を堆積させることができる本合成法の性質により、400℃という比較的低い基板温度で形成された。六方晶R-3m相は、(例えば、Porthault et al. Vibrational Spec 62 (2012) 152-158に記載のような)交互に積層させたリチウム層とコバルト層とからなる規則ラメラ組織からなる。
【0225】
堆積膜のX線回折(XRD)パターン(
図5)は、膜は主として(001)配向であることを示しており、18.9°の(003)のピークが最も強度が高く、一部の実施例では、37.4°(101)、38.4°(006)、39.1°(012)、及び45.3°(104)の各ピークも観察され、他の配向の微結晶の存在が示される。これらの膜の断面ラマン分光法を実施したところ、堆積中のわずかな変化による膜の変化が示され、このような変化は膜のモルフォロジに関連している可能性がある。
【0226】
図6は、堆積時間にわたって堆積条件を一定にした(本発明に従って作製したものではない)膜(膜4)を示す。ラマンスペクトルは膜全体にわたって一定であり、膜の厚さ全体にわたって同じ相及び組成が存在することが示される。
【0227】
作製された膜は滑らかかつ平坦で、小さな微結晶のみを含み(
図7)、X線回折(XRD)では、膜が(003)方向に優先的に配向していることを示し、(003)配向及び(006)配向にそれぞれ対応する18.9°及び38.4°のピークのみがみられる(
図5)。LiCoO
2の(001)配向は、基板表面に平行に形成されたR‐3m構造の層を持つ。基板に平行な二次元のリチウム拡散面の存在により、リチウムが長い経路を移動しなければならず、リチウムのインターカレーションの発生速度が制限されるため、この配向はリチウムの電気化学的インターカレーションに理想的ではなく、このため、理論容量よりも容量が低くなることが示されている(非特許文献5)。事実、(本発明に係るものではない)膜4では強い(003)配向が観察され、記載の他の膜と同一サイクル条件で25℃においてサイクルした場合、5サイクル目の放電まででその理論容量(13μAh cm
-1-2μm
-1)の20%しか得られなかった。
【0228】
この膜のモルフォロジは、最密充填された緻密なものであり、基板表面に垂直に並んだ幅100~300(±50)nm及び長さ0.1~7μm(最大値は総膜厚(6700nm))の細い柱状微結晶からなり、性質上均一であって膜の表面は滑らかであり、上面視によるSEM上面像では、サイズが350nm未満の小さな微結晶のみが観察される(
図7)。場合によっては、この膜は、固体電池に悪影響を及ぼし得るクラックが生じやすいことがわかっている。
【0229】
図8は、堆積中に堆積条件を変化させた本発明の実施形態に係る膜の3つの例を示す図である。R-3mのLiCoO
2相に関連する2つのラマンバンドのみを有する膜を生成するため、Coの流束とLiの流束とが等しい状態で堆積を開始した。堆積の途中でCoの流束に対してLiの流束を変化させて、膜中のCoの量をわずかに増加させた。このことは、ラマンスペクトルにおいて、酸化コバルト相Co
3O
4A
1gモードに関連することが知られている690cm
-1の追加のバンドが現れていることからわかる。この変更のタイミング及び変更の大きさは、最終的な膜のモルフォロジに影響し、モルフォロジの調整を可能にする。膜中に添加される追加のコバルトの量は少なく、この領域に存在するLCO膜全体の平均組成はリチウムが47~49.5%となる。
【0230】
図8からわかるように、膜の堆積中に堆積条件をわずかに変更することにより、堆積膜のモルフォロジが変化する。例えば、長さが0.4~2μmの範囲のサイズ(典型的には0.3μm超)の大きな板状微結晶が膜内に観察され、これらの微結晶は膜の表面積の4%超を覆っているが、上面視で表面積の80%をも覆うこともあり(表3)、膜の残りは上述の小さな微結晶(典型的には0.3μm未満)からなる。
【0231】
表3に、
図12(膜1~3は本発明の実施形態に係る膜であり、膜4は本発明に係るものではない)に図示した本明細書に記載のLiCoO
2膜の微結晶サイズの比較を示す。膜4は非常に滑らかであるので、全体的に微結晶は観察されない。なお、膜3のサンプルは、その上に大きな微粒子が多数存在しており、平均粗さの計算が困難であった。
【0232】
【0233】
これらの膜のXRDパターンでは、(101)配向及び(104)配向の出現により37.4°及び45.3°のピークが現れており、膜が(003)配向優先でなくなることを示し、これらピークの強度は、膜内の大型微結晶の表面積が大きくなるほど大きくなっている(
図5)。このようなモルフォロジの変化は、少量種として添加したCo
3O
4が、(003)膜の大部分(bulk)とは異なる配向((101)及び(104))の微結晶を種成長させるシード層として機能したため観察されたと考えられる。
【0234】
配向の異なる微結晶の添加により、基板と平行ではなく膜を通るLi拡散経路が形成される。このことは、容量(利用数)が改善し、レート能の高い材料が得られるため、リチウムイオン電池での使用に有益である。また、均質性の低い膜を生成することにより、膜応力が低下すると共に膜の密着性が向上する。
【0235】
膜の断面像においては、(上述の)膜4で観察された構造と同じ構造を持ち、基板の表面に垂直に並んだ幅100~300(±50)nmの密に充填された微結晶からなる膜が、基板の近くで観察される。シーディング層として機能し得る少量種のCo
3O
4が形成されるよう膜の堆積条件を変更すると、この構造が、規則的かつ小さな微結晶の構造から逸脱し、300~2500nmの範囲のサイズが大きく規則性の低い結晶が形成された(
図9)。
図9は、膜1の断面像を示し、膜厚が3000nmに達した時点で膜内のモルフォロジの変化がみとめられ、この変化は、ラマン断面の変化に対応しており、Liの流束に対するCoの流束の比を変化させた堆積条件の変更に関連している可能性がある。
【0236】
図10に示す(本発明の実施形態による)別の例は膜5であり、膜5は、Co
3O
4との関連が知られている690cm
-1のピークに示されるように、膜の中央にCoに富む領域を有して成長している。このCoに富む領域は、膜厚全体に占める割合は小さいものの、SEM像より、膜モルフォロジが、膜表面の大部分を覆う大型微結晶からなることが確認でき、Co
3O
4がシーディング層として作用し、その後形成したコバルト酸リチウムが大きな板状微結晶として形成されていることが示される。この膜は、(結晶酸化物中の酸素を除く全原子のパーセンテージとして表した場合に)47原子%のリチウムを含む。
【0237】
上記の例は、コバルト酸リチウムの堆積中にCoとLiとの相対比を変化させることにより膜のモルフォロジを制御できること、及び、例えば、シーディング層として作用させるにはCo3O4が少量種のみでよいことを示す。Co3O4はカソード材料ではなく、Co3O4の存在によりコバルト酸リチウム膜の容量が低下するので、必要なCo3O4は少量でよい。
【0238】
同様の効果を得るために用いることができる他の方法として、コバルト酸リチウムの堆積の開始時にシーディング層を堆積させる、すなわち、コバルト酸リチウム膜中にCo3O4を少量種として点在させるのではなく、堆積中にLiの流束を短時間止めてCo3O4の薄層を形成する方法(膜5をより極端化した例)、コバルト酸リチウムの堆積を短時間から最大数日、中断する方法、堆積中に基板温度を変化させる方法、堆積の開始時又は堆積中のいずれかに追加の元素を用いてシーディング層を生成する方法などが挙げられる。
【0239】
パルスレーザ蒸着(PLD)膜内に設けた同様の凹凸が、液体電解質を用いて測定した場合に、リチウムインターカレーションの速度及び膜の容量を向上させることが先行技術に報告されている(非特許文献5)。しかしながら、液体電解質を使用する場合、表面積の広い膜の高いインターカレーション速度及び容量は、しばしば粗い表面に帰属される。すなわち、表面積が広いと液体電解質との接触面積が大きくなり、Liのインターカレーション及びデインターカレーションに有利となる(Jung et al. Thin Solid Films 546 (2013) 414-417)。
【0240】
本明細書に記載の測定は、液体電解質を含まない固体セルで実施したため、液体電解質のようには電極の表面を濡らすことのない固体電解質を用いた場合には、同じ傾向が得られないと考えられる。液体電解質は、微結晶間の空隙に入り込み、電極表面が粗いため表面積の大きな電極を十分に活用することができる。しかしながら、固体電解質は電極の上に膜として堆積されるため、(国際公開第2015/104538号に記載されているように)固体セルでは滑らかな膜が好ましいと考えられていた。したがって、LiCoO2のこのモルフォロジが、Liのインターカレーションを促進し、LiCoO2の能力を向上させるものの、これがそのまま固体セルの容量の増加につながるわけではない。更に、不規則なLiCoO2膜は、その不均一性のため研究には適さないと以前は考えられていた(上記非特許文献5等)。
【0241】
ここで、図に示すように、Pt/LiCoO
2/LiPON/Si/Ptの形で配置した白金集電体、LiCoO
2カソード、LiPON電解質、及びSiアノードからなる固体セルに不図示の封止剤を設け(
図11)、LiCoO
2膜の試験を行った。
【0242】
LiCoO2膜中の大型微結晶(0.3μm超)の存在により、小さな微結晶(0.3μm未満)のみが存在する場合と比べ、固体セルの利用数(容量)が改善している。しかしながら、意外にも、試験を行った範囲においては、微結晶のサイズ又は表面被覆率を更に高くしても、得られる利用数はさほど変化しなかった。
【0243】
固体電解質がLiCoO2の表面を覆っている場合、液体電解質を用いて試験したLiCoO2に比べて、サイクルに伴う容量低下が抑制されることが報告されている。理論的に束縛されることを望むものではないが、この容量低下は、液体電解質の劣化に関連すると考えられる(Tintignac et al. Electrochimica Acta 60 (2012) 121-129)。
【0244】
意外にも、不規則な微結晶を含む本発明の実施形態に係る膜(膜1~3)では、小さく均質な微結晶のみを含む本発明に係るものではない膜(膜4)に比べサイクル寿命が大幅に延びた。表3及び表4に示すように、この効果は、大型微結晶(0.4~0.9μm)の数が少ない(表面積の4.5%)膜でも示されている。
【0245】
表4は、上記のモルフォロジを有するLiCoO2膜を備える固体セルについて、25℃の温度において深度100%でサイクルしたときの、5サイクル目の放電容量の80%に達するまでのサイクル数を示す。
【0246】
【0247】
実際、表4に示したサイクル数が820サイクルの膜と190サイクルの膜とは、Li:Co組成が同一(Li48.25原子%)と測定されたにも関わらず、膜モルフォロジが異なっており、この結果は、所望のモルフォロジの重要性を示すものである。
【0248】
LiCoO2のモルフォロジがサイクル寿命に与える影響については多くは報告されてはいない。(003)配向のLiCoO2薄膜は容量が小さくなるものの、他の(101)配向又は(104)配向の膜よりも容量低下の少ない安定したサイクルを示すことが文献に報告されている(Kim et al. J. Electrochem. Soc. 151 (2004) A1062/Jung et al. Thin Solid Films 546 (2013) 414-417)。したがって、本発明の結果とは対照的に、(003)の配向度が高い小さな微結晶の滑らかな膜ではサイクル寿命が長くなると考えられてきた。
【0249】
[追加の表面粗度測定]
本発明の実施例(実施例A~D)及び(本発明に係るものではない)比較例Eに係る膜について更に表面粗度測定を実施した。この測定結果は、二乗平均平方根表面粗度、すなわち、プロファイル高さの表面の平均線からの偏差の二乗平均平方根で示される。結果を表5に示す。
【0250】
【0251】
本明細書に記載した全ての文献は、参照により本明細書に援用される。当業者にとっては、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、記載した本発明の方法及びシステムのさまざまな変更及び変形例が明らかであろう。本発明を具体的な好ましい実施形態に関して説明したが、特許請求の範囲に記載の本発明を、そのような具体的な実施形態に過度に限定すべきではないことを理解されたい。実際、記載の本発明を実施するための態様について、化学分野及び材料科学又は関連する分野の当業者にとって自明であるさまざまな変形例が下記の特許請求の範囲に包含されることが意図される。