(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】3D堆積用バイオインク
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231114BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20231114BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20231114BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20231114BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20231114BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20231114BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231114BHJP
C12N 5/077 20100101ALN20231114BHJP
【FI】
C12M1/00 A
A61L27/38 300
A61L27/38 100
A61L27/50
A61L27/44
A61L27/22
A61L27/24
C12N5/10
C12N5/077
(21)【出願番号】P 2021521336
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 US2019057009
(87)【国際公開番号】W WO2020081982
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-06-17
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】ブレンダ エム.オ-グル
(72)【発明者】
【氏名】リン ウェイ-ハン
(72)【発明者】
【氏名】モリー イー.クプファー
(72)【発明者】
【氏名】ディダルル ビュイヤン
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/071639(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/214592(WO,A1)
【文献】特開2017-101015(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181342(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/078130(WO,A1)
【文献】久保田 晃史 他,P-03-045 3Dプリント装置を用いたiPS由来三次元心筋組織体の調製と機能評価,第17回日本再生医療学会総会プログラム・抄録 ,2018年03月23日,p. 81
【文献】Jun Yin et al.,ACS Appl. Mater. Interfaces,2018年02月06日,Vol. 10,p. 6849-6857
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12M
A61K
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10~
15重量/容積%のゼラチンメタクリレートと、0.1~1.0重量/容積%のコラーゲンメタクリレートとを含むバイオインク組成物。
【請求項2】
フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩をさらに含む、請求項1に記載のバイオインク組成物。
【請求項3】
mTeSR培地;酢酸;および水酸化ナトリウム(NaOH)を含む溶媒をさらに含む、請求項2に記載のバイオインク組成物。
【請求項4】
前記溶媒が74重量/容積%のmTeSR 培地;20重量/容積%の20 mM酢酸;および1重量/容積%の1M NaOHを含む、請求項3に記載のバイオインク組成物。
【請求項5】
前記バイオインク組成物が、10重量/容積%のゼラチンメタクリレート;0.25重量/容積%のコラーゲンメタクリレート;および0.5重量/容積%のフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のバイオインク組成物。
【請求項6】
フィブロネクチンまたはラミニンの少なくとも1つをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のバイオインク組成物。
【請求項7】
前記組成物が、100ミリグラム/ミリリットル(mg/mL)のコラーゲンメタクリレート;2.5 mg/mLのゼラチンメタクリレート;5 mg/mLのフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩;93.8マイクログラム/ミリリットル(μg/mL)のフィブロネクチン;および93.8μg/mLのラミニンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のバイオインク組成物。
【請求項8】
ヒト人工多能性幹細胞をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のバイオインク組成物。
【請求項9】
前記ヒト人工多能性幹細胞が、ミオシン重鎖(MHC)のもとでサイクリンD2(CCND2)を過剰発現するヒト心臓線維芽細胞由来の人工多能性幹細胞を含む、請求項8のバイオインク組成物。
【請求項10】
前記ヒト人工多能性幹細胞が心筋細胞前駆体を含む、請求項8のバイオインク組成物。
【請求項11】
心筋細胞をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項のバイオインク組成物。
【請求項12】
前記バイオインク組成物が、心筋細胞へのヒト人工多能性幹細胞の分化を促進するように構成される、請求項1~11のいずれか一項に記載のバイオインク組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項のバイオインク組成物を使って三次元構造体を印刷することを含む方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項のバイオインク組成物を使って三次元構造体を印刷することが、前記バイオインクを使って三次元構造体を印刷して少なくとも1つの室を構築することを含む、請求項13の方法。
【請求項15】
前記三次元構造体が、ヒト人工多能性幹細胞を含み、そして前記方法が、Wnt/β-カテニン経路を調節することによりヒト人工多能性幹細胞を心筋細胞へと分化するように誘導することをさらに含む、請求項13~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の関与
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって付与されたHL137204の下で政府の支援を受けて成された。政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、一般に、組織構造体の三次元印刷のためのバイオインクに関する。
【背景技術】
【0003】
バイオプリンティングは、生物学的材料を所望のパターンに堆積させるための三次元印刷技術の適用を含む。細胞パターンは、結果として得られる印刷構築物中に細胞機能と生存能力が保持され、かつ医学および/または組織工学の目的に用いることができるように、Layer-by-Layer法(LbL;積層法)で構築される。
【発明の概要】
【0004】
構造体の三次元(3D)印刷に使用することができるバイオインク、および関連の印刷可能な構造体が記載されている。一例では、バイオインク組成物は、ゼラチンメタクリレート、コラーゲンメタクリレート、およびフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩(LAP)を含むことができるが、バイオインク用の他の配合物、例えば、ゼラチンメタクリレートとコラーゲンメタクリレートの様々な寄与率(contribution)を含む種々の配合物も記載されている。いくつかの例では、バイオインクはフィブロネクチンおよびラミニンも含むことができる。本明細書に記載のバイオインクの例は、例えば、流体ポンプのような機能的3D構造に増殖することができる心筋細胞のような特定の細胞型への幹細胞の分化を促進するように構成され得る。いくつかの例では、既に分化した細胞は、機能的3D構造に増殖させるのにバイオインクを使って適用され得る。
【0005】
一例では、バイオインク組成物は、ゼラチンメタクリレートおよびコラーゲンメタクリレートを含む。
【0006】
別の例では、バイオインク組成物は、ゼラチンメタクリレート、コラーゲンメタクリレート、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩、フィブロネクチン、ラミニン、および、mTeSR培地と酢酸と水酸化ナトリウム(NaOH)とを含む溶媒を含む。
【0007】
別の例では、方法は、ゼラチンメタクリレート、コラーゲンメタクリレート、およびフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩で構成されるバイオインクを使用して三次元構造を印刷することを含む。
【0008】
本開示の技術の1または複数の例の詳細は、添付図面と以下の説明に記載される。本技術の他の特徴、目的および利点は、明細書と図面から、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aは、室に仕切られた例示的なヒト心臓ポンプ(hChaMP)の断面の概念図である。
【0010】
図1Bは、
図1Aの例示的hChaMPを構築するための方法の流れ図である。
【0011】
【
図2A】
図2Aは、本明細書に記載のバイオインクの異なる例を使用した、例示的な細胞の生存能力および増殖の画像を含む。
【0012】
【
図2B】
図2Bは、本明細書に記載のバイオインクの種々の例の間の比較を示すマトリックスである。
【0013】
【
図3】
図3は、印刷された例示的バイオインク構造体の剛性を示すグラフである。
【0014】
【
図4】
図4は、本明細書に記載のバイオインクを使用した例示的な3D印刷方法の画像を含む。
【0015】
【
図5A】
図5A、5Bおよび5Cは、本明細書に記載の例示的バイオインクを使用した、印刷された心臓組織の機能を表す画像とグラフを含む。
【0016】
【
図6】
図6Aおよび6Bは、3D印刷された例示的な心臓モデルを示す概念図である。
【0017】
【
図7】
図7は、例示的な幹細胞コロニーを示す画像を含む。
【0018】
【
図8】
図8は、例示的なバイオインクを使用した例示的な3D印刷方法を示す画像を含む。
【0019】
【
図9】
図9は、例示的な印刷構造体のカルシウム過渡現象のグラフである。
【0020】
【
図10】
図10は、実際のモデルと印刷された心臓との差異を示す、印刷された心臓のMRIスキャンデータおよびヒートマップである。
【0021】
【
図11】
図11Aは、本明細書に記載のバイオインクを用いた、例示的な印刷された心臓の圧力の動力学を示すグラフである。
【0022】
図11Bは、本明細書に記載のバイオインクを用いた、例示的な印刷された心臓の光学マップである。
【0023】
【
図12】
図12は、バイオインクを用いて例示的なゲルを形成する技術の概念図である。
【0024】
【
図13】
図13は、各々異なるバイオインク配合物についての例示的な細胞面積被覆率の画像群である。
【0025】
【
図14】
図14Aは、例示的なバイオインク配合物についての32日目の例示的な心筋細胞の分化を示す画像である。
【0026】
図14Bは、例示的なバイオインク配合物についての貯蔵弾性率と損失弾性率のグラフである。
【0027】
図14Cは、天然の心臓組織と比較した、例示的なバイオインクからの分化後の心筋細胞の例示的DNA含量を示すグラフである。
【0028】
【
図15】
図15Aは、例示的な完全ヒト心臓の3Dモデル(テンプレート)の断面図である。
【0029】
図15Bは、例示的なバイオインク配合物を用いた例示的な3D印刷した構造体(印刷物)の断面図である。
【0030】
【
図16】
図16は、
図15Aと15Bのテンプレートと印刷物との間の幾何学的差異を示すヒートマップである。
【0031】
【
図17】
図17は、本明細書に記載のバイオインクを用いた例示的な印刷構造体の画像である。
【0032】
【0033】
【
図19】
図19は、例示的なバイオインクをバイオプリンティングしたhiPCS(ヒト人工多能性幹細胞)と組み合わせてhChaMPを形成するための技術の概念図である。
【0034】
【0035】
図20Cは、0日目のコロニーが占める、総面積の百分率(%)のグラフである。
【0036】
【
図21】
図21A、21Bおよび21Cは、乳酸処理とKi67染色から6週間後の例示的コロニーの免疫蛍光の画像である。
【0037】
【0038】
【
図22】
図22A、22Bおよび22Cは、乳酸処理とTUNEL染色から6週間後の例示的コロニーの免疫蛍光を示す画像である。
【0039】
図22Dは、
図22A~22Cにおけるコロニーが占める、総面積の百分率(%)のグラフである。
【0040】
【
図23】
図23A、23Bおよび23Cは、乳酸処理から6週間後の例示的コロニーの免疫蛍光、並びにcTnl、αSMAおよびCD31染色のそれぞれを示す画像である。
【0041】
【0042】
【
図24】
図24A、24Bおよび24Cは、心臓トロポニンT(cTnT)について染色された例示的hChaMP部分の明視野画像である。
【0043】
【
図25】
図25A、25Bおよび25Cは、Cx43マーカーについての分化および免疫標識後の、例示的hChaMPの心筋細胞の画像である。
【0044】
【0045】
【
図26】
図26A、26Bおよび26Cは、Kir2.lマーカーについての分化および免疫標識後の、例示的hChampの心筋細胞の画像である。
【0046】
【0047】
【
図27】
図27A、27B、27Cは、Binlマーカーについての分化および免疫標識後の、例示的hChampの心筋細胞の画像である。
【0048】
【0049】
【
図28】
図28A、28Bおよび28Cは、RyrR2マーカーについての分化および免疫標識後の、例示的hChaMPの心筋細胞の画像である。
【0050】
【0051】
【
図29】
図29A、29Bおよび29Cは、SERCA2マーカーについての分化および免疫標識後の、例示的hChaMPの心筋細胞の画像である。
【0052】
【0053】
【
図30】
図30Aおよび30Bは、分化後の経過時間に関するhChampのカルシウム過渡活性のピーク振幅とスパイク間間隔のグラフである。
【0054】
【
図31】
図31は、例示的hChaMPにおけるイソプロテレノールの用量応答効果の例のグラフである。
【0055】
【
図32】
図32は、例示的hChaMPにおける電圧伝達の時系列による画像である。
【0056】
【
図33】
図33A、33Bおよび33Cは、例示的hChaMPの自発電気的活性、活性化時間、および活動電位持続時間の画像である。
【0057】
図33Dは、例示的なhChaMPの平均APD80を示すグラフである。
【0058】
【
図34】
図34A、34B、34Cおよび34Dはそれぞれ、異なるペーシングでの例示的な電圧活動と電気的活動の画像である。
【0059】
【
図35】
図35Aと35Bは、例示的hChaMPの自発的またはイソプロテレノール誘導活性のグラフである。
【0060】
【
図36】
図36は、自発的な活性を有する例示的hChaMPの被覆面積のグラフである。
【0061】
【
図37】
図37Aと37Bは、例示的hChaMPの心筋細胞についての、心拍数(BPM)および収縮率の点からの収縮性のグラフである。
【0062】
【
図38】
図38は、例示的hChaMPにおける拍動数に対するイソプロテレノールの用量応答効果の例のグラフである。
【0063】
【
図39】
図39は、hChaMPの心室内(interchamber)圧と容積を測定するための例示的システムの概念図である。
【0064】
【
図40】
図40は、心室拍動中の例示的hChaMPについての心室内圧のグラフである。
【0065】
【
図41】
図41は、心室拍動中の例示的hChaMPについての拍動数のグラフである。
【0066】
【
図42】
図42Aと
図42Bは、イソプロテレノールの使用の有無のもとでの、心室内圧と容積の動力学のグラフである。
【0067】
【
図43】
図43は、例示的hChaMPについての拍動数の面からのイソプロテレノール応答の例を示すグラフである。
【0068】
【
図44】
図44Aおよび44Bは、例示的hChaMPについてのイソプロテレノール使用の有無のもとでの容積と圧力のグラフである。
【0069】
【
図45】
図45は、本明細書に記載のバイオインク組成物を用いた、例示的な3D印刷方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
(詳細な説明)
本開示は、構造体の三次元(3D)印刷に用いることができるバイオインク用の組成物を記載する。心臓組織工学の目標は、生理学的および解剖学的構造の理解を助けるインビトロ(in vitro)モデルシステムを作製することである。例えば、症状を緩和しかつ生存能力のアウトプットを改善する治療薬を創製するために、発達、成長および疾患に関して心臓をより詳細に理解することが望ましい場合がある。当該分野は、多能性幹細胞を効率的に利用して高効率で全ての心細胞型を誘導し、典型的にはヒトの筋肉を模倣した、可撓性基板(フレキシブルポスト)により担持されたマイクロスケールの組織片の形をとっている、しばしば「ミクロ組織」と称されるモデル系の開発へと移行した。このような組織片は、医薬品産業への恩恵を伴う薬物の試験に非常に有望であるが、組織片はまた、心室のような構造体のアーキテクチャと機能性出力を正確に再現する能力を欠いている。これは、組織の性能を動物またはヒトの心臓の性能と直接比較することは不可能であり、そのような性能は心室の圧力と容積の変化を測定することによって評価できるために、重大な制限因子である。さらに、疾患を伴う心臓のリモデリングは、複雑な流動プロファイルと、関連する心室に加わる力の刺激とその応答により、実質的に影響を受ける。
【0071】
複雑な組織模倣体の3Dバイオプリンティングに対する重要な課題は、印刷適性並びに細胞の健全性と機能をサポートするバイオインクを処方することである。幹細胞の健全性と機能のサポートは、特に課題があり、特殊な細胞型の分化を可能にするバイオインクは稀であるか、または存在しない。例えば、心筋(すなわち心筋細胞)の分化をサポートする既知バイオインクは作製されていない。特殊な細胞型の3Dバイオプリンティングは、所望の構造体中への堆積後に幹細胞の分化(すなわち人工多能性幹細胞)を支持および/または促進するバイオインクを使用しなければおそらく可能でないだろう。
【0072】
バイオインクの例示的組成物は、効率的に沈着させることができ(例えばプリントすることができ)、そして幹細胞の健全性と心筋細胞のような特殊な細胞型への分化をサポートすることができる。他の例では、記載されたバイオインクはまた、沈着した幹細胞から多くの他の細胞型の軟組織への分化をサポートすることもできる。本明細書に記載のバイオインクは、印刷することができ、かつ心筋細胞への分化といった所望の幹細胞挙動をサポートすることができる材料を提供することができる。バイオインクは、いくつかの例では、細胞挙動のインビトロ研究、心臓血管デバイスおよび薬物の試験、または組織置換療法として実施される、心臓組織模倣体の製造を容易にすることもできる。
【0073】
バイオインクの例示的組成物は、ゼラチンメタクリレートおよびコラーゲンメタクリレートを含むことができる。いくつかの例では、バイオインクはまた、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩(LAP)を含むことができる。LAPは、タンパク質を連結する作用を果たすことができる光活性化可能なリンカーであってもよいが、他の例ではLAPの代わりに別の化合物または化学物質を使用してもよい。いくつかの例では、バイオインクは、フィブロネクチンまたはラミニンの少なくとも1つを含むこともできる。バイオインクは、動物由来の人工多能性幹細胞またはヒト由来の人工多能性幹細胞(hiPSC)などの幹細胞を含むことができるが、他の例では別の種類の幹細胞を使用してもよい。これらの幹細胞は、心筋細胞前駆体を含むことができる。いくつかの例では、バイオインク組成物は、ヒト由来人工多能性幹細胞の心筋細胞への分化を促進するように構成される。いくつかの例では、心筋細胞それ自体が、本明細書に記載のバイオインク配合物中に含まれ得る。心臓組織と心筋細胞は本明細書に例示的に記載されているが、本明細書に記載されるバイオインクは、体の外側で構造体を工作するために上手く操作するのが困難でありうる細胞型といった、任意の細胞型に適用することができる。それらの別の細胞型は容易に増殖または移動することはできないかもしれないが、本明細書に記載のバイオインク配合物は、任意の細胞型について増殖および/または移動を促進することが可能である。さらに、任意の細胞型に適用されるようなバイオインク配合物は、一次元(細胞の列)、二次元(細胞の層)または三次元(複数の層または細胞の骨組)構造を印刷するためまたは他の方法で構築するために使用することができる。
【0074】
バイオインクのためのいくつかの例示的配合物が本明細書に記載されている。いくつかの例では、バイオインクは、約5~20重量/容積%(上限と下限の数値を包む。以下、「包括的」と記載する)の量のゼラチンメタクリレートと、約0.1~1.0重量/容積%(包括的)の量のコラーゲンメタクリレートとを含むことができる。別の例では、バイオインクは、約8~12重量/容積%(包括的)の量のゼラチンメタクリレートと、約0.15~0.30重量/容積%(包括的)のコラーゲンメタクリレートとを含むことができる。いくつかの例では、バイオインクは、約0.1~2.0重量/容積%(包括的)のフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩を含む。いくつかの例では、バイオインクは、約10~1000マイクログラム/ミリリットル(μg/mL)(包括的)のフィブロネクチンを含むことができる。いくつかの例では、バイオインクは、約10~100μg/mL(包括的)のラミニンを含むことができる。
【0075】
一例では、バイオインクは、約10重量/容積%のゼラチンメタクリレート、約0.25重量/容積%のコラーゲンメタクリレート、および約0.5重量/容積%のフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩を含むことができる。別の例では、バイオインク組成物は、約100ミリグラム/ミリリットル(mg/mL)のコラーゲンメタクリレート、約2.5 mg/mLのゼラチンメタクリレート、約5 mg/mLのフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩、約93.8μg/mLのフィブロネクチン、および約93.8μg/mLのラミニンを含むことができる。
【0076】
いくつかの例では、バイオインクは、mTeSR培地のような培地、酢酸、および/または水酸化ナトリウム(NaOH)を含む溶媒を含み得る。いくつかの例では、バイオインクは、約50~90重量/容積%(包括的)のmTeSR1培地、約10~50重量/容積%(包括的)の20 mM酢酸、約0.5~2重量/容積%(包括的)の1M NaOHを含む溶媒を含むことができる。一例では、バイオインクは、約74重量/容積%のmTeSR培地、20重量/容積%の20 mM酢酸、および1重量/容積%の1M NaOHを含む溶媒を含むことができる。別の例では、バイオインク組成物は、ゼラチンメタクリレート、コラーゲンメタクリレート、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩、フィブロネクチン、ラミニン、および、mTeSR培地、酢酸および水酸化ナトリウム(NaOH)を含む溶媒を含むことができる。
【0077】
本明細書に記載のバイオインクの様々な例は、機能的で複雑な心臓構造の3Dバイオプリンティングを可能にするように構成され得る。バイオインク組成物は、細胞外マトリックスタンパク質と幹細胞との間の相互作用を利用して、幹細胞から特定の細胞型への分化を可能にすることができる。個々の心細胞型の特定化(specification)をサポートする細胞外マトリックスタンパク質の種々の組み合わせが記載されている。一例では、特定の配合物を心筋細胞の特定化に使用して、組み込まれたヒト多能性幹細胞を天然組織のものに近似した密度へと増大させるように構成されたバイオインクを製造することができる。この細胞型は穏当な増殖と移動のみを可能にするため、この工程は、典型的には心筋細胞の直接3D印刷が適度な細胞密度をもたらすので構造体への沈着を促進する。栄養分のアクセスが複雑なアーキテクチャによって困難となり得る上に、現在のところ、このタイプの構造の全体に渡って完全な分化を制限しているので、バイオインクは、室に仕切られた心臓構造体において高効率で幹細胞から心筋細胞への分化も促進することができる。バイオインクはまた、高解像度印刷を可能にしながら、幹細胞の拡大をサポートするのに必要とされるタイプの比較的低粘度のバイオインクの利点を提供する、約250ミクロンの最小形状まで落とした印刷しやすさを促進する。加えて、本明細書に記載のバイオインクは、管状の流体出入口によって供給される、密閉された室を有するセンチメートルスケールの構造体を形成するために用いることができる。バイオインク沈着後の拡大された培養物および関連細胞の伸展および分化の後、構造体は、当初は軟質で脆弱なものから、漏出を伴わずに流体の流れをサポートすることができる構造体へと転換することができる。
【0078】
本明細書に記載のこれらのバイオインクは、さまざまな分野で、例えば心臓学の分野で、流れプロファイルを維持することができ、かつ本来の心臓の圧力-容積力学特性を示すことができる、ヒトモデル系へのアクセスを提供することができる構造体を用いて、有用性を提供することができる。したがって、このような心臓の例示的モデルは、いくつかの例として、機械的損傷、遺伝学的素因または減量によって課される心疾患の進行に関連したリモデリングを理解するうえで有用となりうる。それらのバイオインク印刷構造体はまた、薬物毒性または有効性を試験するのにも有用であり得、スケールが与えられれば、医療装置の試験、マウスにおける異所性位置への移植に適しており、臨床移植にさえも適切であり得る。
【0079】
図1Aは、本明細書に記載の技術を用いて構築され得る例示的な構造体である、例示的な、室に仕切られたヒト心臓ポンプ(hChaMP)の断面の概念図である。本明細書で論じられるように、生体外(ex vivo)で誘導されるヒト心筋は、薬物の効力と毒性を試験するための支持体として、心筋損傷または疾患に関連する組織のリモデリングを研究するための類似器官として、および臨床的心修復への準備段階(プレリュード)として、高い需要があり得る。これらの組織モデルは、幹細胞生物学、生体材料、および3D製作技術の力を利用することによって構築することができる。いくつかの設計された心臓組織は、細胞外マトリックスベースのゲル中で心筋細胞を造形することによって作製された、幾何学的に単純な構造(小片またはリング)から成る。これらのタイプの組織は、組織が収縮し、機械的負荷をコントロールすることができる抵抗を提供するために、剛性または可撓性の基板に据え付けることができる。しかしながら、これらに構造上の複雑性が欠如していることは、心機能と疾患のインビトロ(in vitro)モデリングのためのそれらの適用可能性を制限してしまう。容積を取り扱う他の心臓組織モデルは、心臓の圧力-容積動力学を概括することができる。しかしながら、これらの組織は、単一の心室モデルに限定され、従って灌流のための容積を欠いている。
【0080】
3Dバイオプリンティングは、ボトムアップ式に(下位から上位に)より複雑な組織を生成するための手段であってもよい。完全に天然のタンパク質、細胞および/または生体適合性の合成成分から構成される組織を印刷する能力は予想可能であり、利用可能である。生物学的材料を使用して心臓臓器モデル全体を印刷することは可能であるが、得られる構成物は、細胞を欠いているかまたは電気機械的機能の証拠を欠いたものであってもよい。マクロスケールの収縮機能が、3D印刷された室に仕切られた(chambered)心臓モデルにおいてまだ達成されていないという事実は、成熟した心筋細胞を取り扱うことに関連する難題を伴う可能性がある。より具体的には、心筋細胞は、3D印刷された組織塊中に空きスペースを追加するように容易に増殖または移動しないことがあり、よって構築物全体にわたって細胞同士の接合の形成を防止する可能性がある。別のアプローチは、高増殖性である幹細胞を印刷し、次いで細胞の繁殖後にその場での成熟を誘導することである。
【0081】
増殖を助けるために、バイオインクは多孔質であってもよく、そして/または幹細胞コロニーが無制限に(自由に)伸展することができるように分解を受けやすくてもよい。分化を助けるために、バイオインクは、心筋細胞特異的な分化に関連するシグナル伝達を増強する細胞係合モチーフを含むことから恩恵を得ることができる。本明細書に記載されるように、幹細胞の成熟および分化、並びにそれらに由来する細胞の適切な機能は、発生中のおよび生体外(ex vivo)幹細胞培養の文脈において、ある所定の臓器系における細胞外マトリックス(ECM)の時間的および空間的な係合に依存し得る。多くの例の1つとして、中胚葉の特定化(specification)は、α5β1インテグリン活性化に関連付けられている。ECM(特に、ラミニン511/111およびフィブロネクチン)によるこのインテグリンの係合はBMP4発現を調節し、これはWnt、線維芽細胞増殖因子、および形質転換増殖因子β/ノーダル/アクチビンのシグナル伝達と共に、中胚葉への分化を媒介することができる。加えて、ヒト胎児性幹細胞中のβ1、α2およびα3インテグリンを介した線維芽細胞由来ECMの係合は、MEK-ERK経路を介してWnt/β-カテニン経路を活性化し、それが内胚葉分化を駆動する。最後に、フィブロネクチン/インテグリンβ1/β-カテニンシグナル伝達は、人工多能性幹細胞からの中胚葉の発生を促進し得る。本明細書に記載されるように、焦点接着要素、すなわちインテグリン連結キナーゼ(ILK)とβ-カテニンの主要アンタゴニストであるGSK3βとの間に直接的な関連性が存在する。
【0082】
本明細書に記載の技術および組成物は、ECM製剤の能力を活用して心筋細胞分化を促進し、そしてヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)増殖に寄与しかつ空間的忠実度で沈着させることができるバイオインク中に本製剤を配合することによって、ECM係合と幹細胞分化を解明することの上に成り立っている。本明細書の1つの例として説明したように、最終結果は、
図1Aに示す通り、生存可能な密に充填された機能性心筋細胞を収容しながら、天然の心臓の心室、壁構造および大血管導管を模倣する生体ポンプである。これらの例示的な室に仕切られたヒト筋肉ポンプ(hChaMP)は、長期間維持することができ、かつ空間的に指定されたペースメーカー細胞および関連の伝導システム、健康、障害または疾患をリモデリングするのをサポートする心外膜、並びに、動脈および静脈栄養交換システムをはじめとする他の重要な属性を含むことができる、ますます複雑化しつつある構造体を作製するための方法への道を切り開くことができる。他の例では、本明細書に記載の斯かるバイオインクおよび技術は、他の循環構造や他の生体組織構造を構築するために用いることができる。
【0083】
したがって、
図1Aに示すように、設計テンプレート2の断面図は、本明細書に記載のバイオインクおよび技術を使用して製造することができる室に仕切られた(chambered)心臓を示す。テンプレート2は、ヒト心臓のMRIスキャンから誘導され、それを10倍スケール(その最長軸のところで1.3 cm、これはマウス心臓のサイズに近い)に縮小し、心臓テンプレートの心室を通る一方向流れループを収容するように改変した。このようにして、鋳型2は、連続した筋肉および関連のポンプ機能を有する構造上複雑な心臓組織を含むことができる。
【0084】
図1Bは、
図1Aの例示的hChaMPを構築するための方法の流れ図である。
図1Bに示すように、hChaMPのような構造体を構築するための技術の例は、中胚葉誘導、心筋細胞特定化および心筋細胞の成熟を含みうる、バイオプリンティング、細胞(例えば幹細胞)の繁殖、および心筋細胞の成熟を含む。バイオプリンティングと増殖プロセスは、14日間など、数日間または数週間かかることがある。成熟は、幹細胞の分化後の数日後または数週間後、例えば24日以上後に起こり得る。心筋細胞特定化は、例えば、中胚葉誘導の後、3日目に起こり得る。このオルガノイド様アプローチは、ヒト人工多能性細胞(hiPSC)を、最適化されたECMベースのバイオインクを用いて沈着させ、組織様濃度を達成するようにhiPSCを拡張し、続いて心筋細胞への分化を可能にした。時間経過とともに、hChaMPは同期して拍動し、圧力を発生させ、生体ポンプと同様に流体を移動させることができる。これは、かような構造体を構築するための技術の一例である。例示的バイオインクを使用して3D構造体を作製するためのこのような例示的技術を以下に説明する。1つの例示的な実験が
図2A~
図11に関して説明されている。もう1つの例示的な実験が
図12~44Bに関して説明されている。これらの例のいずれにおいても、例示的バイオインクの異なる配合物を用いて、特定の機能のために所望の構造体に細胞(例えば幹細胞)を印刷し、沈着させ、造形し、または他の方法で配置することができる。例えば、作製されたhChaMPの心筋細胞は、収縮してhChaMPを介して流体をポンプ輸送することができる。
【0085】
図2Aは、本明細書に記載のバイオインクの様々な例を使用した、例示的な細胞生存能力および増殖の画像を含む。本明細書に記載されるように、複雑な心臓組織の3Dバイオプリンティングは、心筋細胞前駆体の伸展を可能にし、次いで成熟心筋細胞の結合(例えば電気機械結合)を可能にするバイオインクを利用する。これら2つの重要な因子(例えば、心筋細胞前駆体の伸展および成熟心筋細胞の結合)の非存在下では、印刷された構造体は天然組織に近似した細胞密度を達成することができず、従って、適切な機能を果たす潜在能力を得ることができない。本明細書に記載の例示的バイオインクは、これらの重要な機能を果たすことができ、3D印刷技術の力を最終的に利用する、複雑な心臓組織構造体(ウッドパイル、ディスクおよびリングを超える)の機能を実証することができる。
【0086】
1つの例示的バイオインクは、2.5 mg/mLのコラーゲンメタクリレート(ColMA)、100 mg/mLのゼラチンメタクリレート(GelMA)、93.8μg/mLのフィブロネクチン(FN)、93.8μg/mLのラミニン-111 (LN)、および5 mg/mLのフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩(LAP)を含む。この低粘度バイオインクは、多能性幹細胞を含むことができ、立体造形法を用いて単純なもしくは複雑な構造体に印刷することができ、または懸濁されたヒドロゲルの自由造形可逆的埋込みを形成することができる。このようにして印刷された構造体の細胞は、長期に渡り耐久性があり、二次元(2D)培養に匹敵する速度で増殖することができる。高細胞密度が達成されたら、心筋細胞の分化を誘導する可溶性因子を培養培地に添加することができる。センチメートルスケールの複雑な構造体を定着させるための機能性心筋細胞の分化は、このようにして達成され、健康および疾患を伴う心臓機能の研究に有用な圧力/容積関係を複製することができるマクロ組織を作製するステップを表す。いくつかの例では、このタイプのマクロ組織はまた、心臓医療デバイスおよび/または治療用組織移植のためのたたき台(testbed)として機能し得る。
【0087】
代替心筋は、先天性心不全、心筋梗塞および心筋炎を含む多数の症状を治療するために多大な需要がある。これらの病状は合わせると、1年当たり米国における死亡の1/3以上を占める。足場材料および天然組織の組成を反映した細胞の3D印刷は、代替筋肉を作製するための手段として提案されている。その構想は、本来のタンパク質、細胞および/または合成成分から完全に構成されている構造体を印刷する能力が可能であり、多くの研究室に利用可能であるという、牽引力を獲得することである。しかし、特に、細胞を包含することに関しては、非常に大きなハードルがある。特に、心筋細胞は、空間視力を使って3D印刷組織塊を定着させる(すなわち正しい位置に正しい細胞型を)ために容易に繁殖または移動することができないので、成熟心筋細胞の包含は困難である。高増殖性である幹細胞がその代わりに使用される場合、分化のためのキュー(合図)が必要であり、これらのキューは心臓細胞タイプ間で異なっている。
【0088】
細胞外マトリックスからの適切なキューは、これらの障害を克服するために使用することができる。幹細胞の成熟と分化並びにそれらの各々の正常機能は、発達中および生体外(ex vivo)幹細胞培養中の所与の臓器系における細胞外マトリックス(ECM)の時間的および空間的特定化に依存する。多くの例のうちの1つとして、中胚葉特定化はα5β1インテグリン活性化に関連付けられている。ECM(特に、ラミニン511/111およびフィブロネクチン)によるこのインテグリンの係合は、Wnt、線維芽細胞増殖因子および形質転換増殖因子-β/ノーダル/アクチビンのシグナル伝達と共に、この分化を媒介することができ、BMP4の発現を調節(モジュレート)することができる。このインテグリンのペプチド活性化は、PI3K/Aktシグナル伝達を介して活性化されるWnt/β-カテニン経路を介して、間葉系幹細胞の骨形成分化を誘導することもできる。さらに、ヒト胎児性幹細胞中の線維芽細胞由来ECMとβ1、α2およびα3インテグリンとの係合は、MEK-ERK経路を介してWnt/β-カテニン経路を活性化することができ、これは最終的に内胚葉分化を駆動する。最後に、フィブロネクチン/インテグリンβ1/β-カテニンシグナル伝達は、人工多能性幹細胞からの中胚葉の出現を促進することができる。このようにして、焦点接着成分(すなわちインテグリン結合キナーゼ(ILK))と、GSK3βと、β-カテニンの一次アンタゴニストとの間には、直接的な関連性が存在する。
【0089】
本明細書でさらに説明するように、ECM係合と幹細胞の分化は、心筋細胞の分化を促すECM配合物を使って改善することができ、この配合物を空間忠実度で沈着させることができるバイオインク中に折り重ねることができる。心臓組織の例では、最終結果は、生存可能な、密に充填された機能性の生存心筋細胞を収容しつつ、天然の心臓の心室と壁構造を模倣する組織である。このタイプの構造は、長期間維持することができ、かつ動脈および静脈の循環を含む他の重要な属性の宿主と共に、具体的に指定されたペースメーカー細胞および関連の伝導システムを含みうる、ますます複雑化している構造を作製するための道を開くだろう。
【0090】
図2Aに示されるように、7日間にわたる多能性細胞の生存能力と増殖が2種類のバイオインクの例について示されている。約10重量/容積%のゼラチンメタクリレート(GelMA)と約0.25重量/容積%のコラーゲンメタクリレート(ColMA)とを含む底部のバイオインクは、約15重量/容積%のGelMAと約0.25重量/容積%のColMAとを含む上部のバイオインクと比較すると、改善された細胞生存能力と分化を示す。
【0091】
図2Bは、1つの実験に従って、材料の取り扱い、コロニーの成長および心筋細胞の拍動または収縮について本明細書に記載のバイオインクの様々な例の間の比較を示すマトリックスである。より高い数字は、各カテゴリーの改善された性能を示す(例えば、「3」は「2」よりも良好な性能を示し、「2」は「1」よりも良好な性能を示す)。このデータによれば、10%GelMAを含むバイオインクは15%GelMAを含むバイオインクよりも性能が良好であり、10%GelMAと0.25%ColMAとを含むバイオインクは、これらの6つの配合物例の中で最良に機能した。
【0092】
図3は、印刷された例示的バイオインク構造体の剛性を表すグラフである。印刷された構造体の剛性(貯蔵弾性率)のこの機械的特性は、胎児心臓組織のものと同様である。
図3に示すように、掃引周波数がより高周波数のところでは、バイオインク材料の貯蔵弾性率の増加をもたらした。より高濃度のGelMAは一般に配合物の粘性もまた増加させ、そしてより高濃度のGelMAは、より高い粘性であるがゆえに印刷適性を低下させ始めることに留意されたい。
【0093】
図4は、本明細書に記載のバイオインクを使用した例示的3D印刷方法の画像を含む。バイオインクのバイオプリンティングは、多能性細胞増殖のために最適化することができる。FRESH法を用いて成功が収められた(ゼラチンスラリーへの印刷、上の図面)。上部左側画像10は実際の印刷工程を示し、中央は印刷後構造体12および14を示し、右側は開存している心室開口部を確認するためおよびデジタルテンプレートに対する忠実度を測定するためのMRIスキャン16を示す。
図4の下の画像は、印刷中の心室を強化するためにプルロニック(Pluronic;登録商標)犠牲材料を用いて空気中での押出しが可能であることを示している。画像18が印刷工程を示し、印刷構造体20および22が生成する構造体を示し、MRIスキャン24が印刷構造体の画像化の例であるように、FRESH法の場合と同じパネルシリーズがAIR法について同様に示されている。本明細書に記載のバイオインクは、任意の印刷または微細加工方法を使用して沈着され得る。FRESH技術は本明細書に記載されており、Air法と比較した場合に有利であり得るが、本明細書に記載のバイオインク配合物は任意のタイプの印刷または微細加工方法において使用することができる。本明細書に記載の方法は、バイオインクの記載例を実施するための斯かる方法の単なる一例である。
【0094】
図5A、5Bおよび5Cは、本明細書に記載の例示的バイオインクを使用して、印刷された心臓組織の機能性を表す画像とグラフを含む。印刷後に重合を可能にするバイオインクの成分(例えばColMA、GelMA、LAP)に加えて、追加の細胞外マトリックスタンパク質が、フィブロネクチンおよびラミニンのような心筋細胞分化を支持し増強することができる。第一の最適化(増殖を促進するための重合)と第二の最適化(分化を可能にするため)との組み合わせを、例示的バイオインクのために一緒に使用してもよい。
図5は、画像30および32においてディスクの印刷、画像34および36にリングの印刷、並びに画像38および40に複雑な心臓の印刷を示す。
図5Bは、各ディスク(画像38および40)、リング(画像34および36)、および複雑な心臓(画像38および40)の代表的なトレース42A、42Bおよび42Cを示す。
図5Cは、心筋細胞の機能を示す組織中のカルシウム過渡現象を示すビデオで撮影した画像を示す。
【0095】
図6Aおよび6Bは、例示的な3D印刷した心臓モデルを示す概念図である。
図6Aは、3D印刷した心臓の斜視図であり、
図6Bは、心室を示す3D印刷した心臓の断面図である。例えば、3D印刷した心臓(例えばhChaMP)は、流体を心臓の入口の方に引き込みそして心臓の出口を通って流体を排出するように構成された1または複数の心室を含み得る。印刷された心臓の心臓組織の収縮により、心室は、室内に増大した圧力を発生させて、流体を室から流出させ、心臓組織の弛緩時に新たな流体を室内に戻すことができる。この動作は、ヒト心臓のような哺乳動物心臓のものと同様であり得る。
【0096】
本明細書に記載のバイオインク例は、細胞内および細胞間でイオンを往来させる能力を提供し、電気的勾配に応答して収縮し、複雑な心臓組織構造体の範囲内ですべての力を発生させる構造体を構築するために使用することができる。例えば、バイオインク組成物は、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の成長と分化を支持するための、ゼラチンメタクリレート(GelMA)、コラーゲンメタクリレート(ColMA)、フィブロネクチン(FN)、およびラミニン(LN)、並びにメタクリル化成分を光架橋するためのLAPを含むことができる。hiPSCを用いて印刷し、続いて心筋細胞の分化を行うために使用することができる様々なインク組成物が記載されており、その心筋細胞の分化は、小分子でWnt/β-カテニン経路を調節する(モジュレートする)ことによって誘導することができる。
図6Aと6Bの例は、バイオリアクター内で培地の循環を可能にするために、湾曲した中隔を有するマウス様スケールのヒト心臓を印刷したものである。低粘度のバイオインクを収容するために、FRESH印刷法を用いてhiPSCを含有するバイオインクを堆積させた。簡単に言えば、温度を上げることで除去することができる熱可逆性ゼラチンマイクロゲルから構成された支持槽中にバイオインクを押し出した。バイオインクの印刷忠実度は、MRIスキャンおよびCloudCompare(点群データ編集用のフリーソフト)によって確認することができる。イメージング技術は、心筋細胞表現型を確認し、カルシウム過渡、収縮性、および電圧の伝播を測定するために使用することができる。
【0097】
図7は、例示的な幹細胞コロニーを示す画像を含む。
図7に示すように、画像46Aは、ゲル形成後7日間に渡りバイオインク中で架橋された大型のhiPSCコロニーの形成を支持するバイオインクの例を示す。また、該インクは心筋細胞の分化も許容し、それは
図7の画像46Bに示されるように、DAPI(青)で対比染色された核を有する、心臓トロポニンT(cTnT)(赤)の免疫染色によって確認された(スケールバーは100μmを表す)。
【0098】
図8は、例示的バイオインクを使用する例示的な3D印刷方法を示す画像を含む。画像48Aは、支持槽中の印刷された心臓の明瞭な上下逆の輪郭を示しており、赤色の食用色素を用いたFRESH印刷法で識別することができた。支持槽を除去した後、細胞なしの心臓(すなわち、画像48Bの心臓)と細胞を含む心臓(すなわち画像48Cの心臓)の両方とも、明瞭な血管を有する無傷の構造を有しており、細胞を含まない心臓は滑らかな表面を有するように見えた。各画像48Bと48Cのスケールバーは1 cmを表す。
【0099】
図9に示されるように、印刷された心臓内の分化後hiPSCのカルシウムハンドリングおよびイオノトロピック応答は、カルシウムのトレースによって確認された。複雑な心臓の場合、
図9は、薬物ベラパミルとカフェインに対する応答を示し、対照の拍動数に対比して、それぞれ拍動数を遅くするおよび加速することを示した。
図10は、実際のモデルと印刷された心臓との差異を示す、印刷された心臓のMRIスキャンデータとヒートマップである。
図10中の印刷された構造体のMRIスキャンは、構築物の内部に明瞭な室および管状構造を顕示し、それは印刷された心臓の相互接続性とテンプレートに対する忠実度を示唆している。
【0100】
図11Aは、本明細書に記載のバイオインクを使用して印刷された例示的な心臓の圧動力学のグラフである。
図11Aに示すように、本明細書に記載のバイオインクを使用して構築された、印刷された心臓の心室様の室について流体圧力(液圧)を測定した。最高の振幅を有するトレースは、室の自発的機械活性を示し、そしてより低いピークを有するトレースはブレビスタチンの存在下での同室の圧力であり、それはミオシン遮断の存在下での抑制された圧力振幅を実証する。比較的平坦な線は、収縮をしないシステムのベースラインである。他の臨床的に重要な、生理学的に複雑な機械パラメータも測定することができる。
図11Bは、本明細書に記載のバイオインクを使用して印刷された、例示的な心臓の光学マップである。
図11Bに示すように、本明細書に記載のバイオインクを使用して印刷された心臓について、活動電位(画像50AのADPマップ)と、カルシウム過渡現象および伝導速度(画像50Bの活性化時間(AT)マップ)とを含む、電気的パラメータが示されている。
【0101】
図12~44Bは、心臓構造体のような3D構造体を構築するためのバイオインクおよび技術の別の例を示す。本明細書で論じられるように、心臓組織工学の目標は、動物モデルを置換することができ、最終的に生体内(in vivo)療法として機能することができる、生体外の生きている人体ポンプの作製である。軟質の生体材料を有する室と大血管とを収容している複雑な心臓構造を複製するモデルは、3Dバイオプリンティングを使用して達成することができる。しかしまだ、ポンプ機能を支持するための、連続した生きた筋肉の包含は達成されていない。1つの課題は、心筋細胞、特に非増殖性細胞型のものの高密度を達成することである。1つの戦略は、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を用いて印刷することであり、その細胞は、高密度に増殖し、組織空間を充満し、続いてそれらをその場で(in situ)心筋細胞に分化させることができる。このように、これらの技術は、連続した心筋から構成された、電気機械的に機能する、室に仕切られたオルガノイドを3D印刷するために、hiPSC増殖および心筋細胞の分化を促進することができる、例示的なバイオインクを記載している。しかしながら、これらのバイオインクは、他の例では、別のタイプの細胞(すなわち心筋細胞以外の細胞)の増殖も促進してしまう可能性がある。
【0102】
例えば、天然の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の光架橋性製剤は、2つの室と血管出入口とを有する3D印刷hiPSC積層構造体へと作製される、例示的バイオインクを構成することができる。hiPSCを十分な密度まで増殖させた後、細胞を構造内で分化させ、結果として生成された室に仕切られた筋肉ポンプ(hChaMP)の機能を実証した。これらの構築されたhChaMPは、下記に更に説明するように、薬物に対する応答性およびペーシングを有するマクロスケールの拍動性および連続的な活動電位の伝播を実証した。連結された心室は、灌流を考慮しており、心臓機能の研究および健康と疾患とでのリモデリングの基礎となる、圧力/容積関係の複製を可能にした。これらのバイオインク、および作製が可能である得られる構造体は、凝集体ベースの有機オルガネラに類似したマクロスケール組織を作製するために利用することもできるが、心臓筋肉のポンプ機能に不可欠な幾何学的構造を有するという重要な利点を有している。加えて、この種のこのような生成された印刷構造体(例えば、室に仕切られたオルガノイド)は、心臓医療デバイスおよび/または治療用組織移植のためのたたき台としても役立つことができる。
【0103】
以下の技術を用いて、種々のバイオインクを試験し、そして例示的なバイオインクを用いて
図12~44Bに関して記載された構造体を印刷および構築した。本明細書中で論じられる通り、hChaMPは、ゼラチンメタクリレート(GelMA)、コラーゲンメタクリレート(ColMA)、フィブロネクチン、ラミニン-111、および光架橋剤としてのフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩を含有する、例示的なバイオインクから構成された。以下の例では、バイオインク前駆体溶液を調製するために、2%(重量/容積%(w/v))のLAPおよび40%(w/v)のGelMAを60℃で2時間、mTesR(商標)1中に溶解した。1%のColMAを室温で20 mM酢酸に溶解した。(濃度は、以下に記載する通り、インク最適化実験ごとに変化した。)ColMA溶液を、1:1の比(容積/容積(v/v))でGelMA溶液と混合し、次いで37℃で1時間インキュベートした。細胞と混合する前に、1:100の比率(v/v)でバイオインクに1 M水酸化ナトリウム溶液を加え、バイオインクのpHを中和した。最終的な細胞含有バイオインクを製造するために、この溶液を、187.5μg/mLのLNとFN並びに10 mMのY-27632 2HCL ROCK阻害剤を含有するmTesT(商標)1中、30万個の細胞/mLの懸濁液と1:1混合した。最終溶液は、10%GelMA、0.25%ColMA、93.75μg/mLのLNとFN、0.5%LAP、および5μM ROCK阻害剤を含む、15万個の細胞/mLを含んでいた。
【0104】
バイオインクの粘度を測定するために、一連の組成物(下記の表1に示す)を細胞なしで調製した。水浴に接続されたLVDVII+ 円錐型および平板状粘度計を使用して、未架橋ポリマー溶液の粘度を決定した。水浴温度と印刷温度の両方を27℃に設定し、粘度計の速度は全ての測定で1.5 RPMであった。システムが熱平衡に達し、読み取り値が1分間に渡り0.1センチポアズ(cP)を超えて変化しなかったときに、粘度を記録した。
【0105】
最適化されたバイオインクの比較的低い粘性に適応するために、3D印刷は、印刷された構築物の構造を熱可逆性ゼラチン支持槽中で維持することができる、自由形状可逆性懸濁性ハイドロゲル包埋(Freeform Reversible Embedding of Suspended Hydrogels:FRESH)法を使用して行われた。ゼラチンスラリーは、4.5%(w/v)ゼラチンA型を150 mLのPBS溶液中に溶かし、次いでそれを4℃で一晩固化させることにより調製した。次いで、ゼラチンハイドロゲルを、4℃に予冷した350 mLのPBSで消費者向けブレンダーに移し、次いで、その内容物を、2秒間オン(ON)と3秒間オフ(OFF)の時間循環において低グレード設定にて3分間に渡りブレンドし、次いでハイグレード設定にて5分間に渡りブレンドし、均質化されたゼラチン微粒子を作製した。次いで、混合したゼラチンスラリーを50 mLの円錐管に入れ、3000 rpmで2分間遠心分離し、上清を捨て、沈殿したゼラチン微粒子を使用するまで4℃で保存した。
【0106】
ミオシン重鎖(MHC)遺伝子の下でサイクリンD2(CCDN2)を過剰発現するhiPSCを、mTesR(商標)l (Stem Cell Technologies社製、カナダ国バンクーバー)中に維持し、3~7日毎にReLeSR(商標)を用いて継代した。これらの細胞は、ミオシン重鎖(MHC)の存在下でサイクリンD2(CCND2)を過剰発現するヒト心臓線維芽細胞由来の人工多能性幹細胞と呼ぶことができる。インク最適化実験中またはhChaMPの印刷用の細胞を調製するために、hiPSCをアキュターゼ(Accutase;登録商標)を用いて8分間解離させ、FNとLN(常に組み合わせて使用する)を含むまたは含まないTesR(商標)1中で10μM ROCK阻害剤を用いて30万個の細胞/mLの濃度に再懸濁した。続いて、細胞-ECM懸濁液を、GelMA/ColMAインクと1:1混合して、5μM ROCK阻害剤を用いて15万個の細胞/mLの最終細胞濃度のバイオインクを作製した。
【0107】
3D印刷されたhChaMPまたはインク最適化用のピペッティングしたサンプルを、架橋形成後24時間にわたり、5μM ROCK阻害剤を補足したmTesR(商標)1中で培養し、その後、それらを毎日の培地交換を伴ってmTesR(商標)中で更に13日間培養した。細胞を14日間増殖させた後、RPMI+B-27サプリメント(インスリン不含)中で12μM CHIR99021で構築物を処理することにより分化を開始させた。24時間後、CHIR培地を除去し、新鮮なRPMI+B-27(インスリン不含)培地と交換した。3日目に、新旧半々のRPMI+B-27(インスリン不含)培地中で5μM IWP-2で処理した。5日目に、培地をRPMI+B-27サプリメント(インスリン含有)に置換し、続いて7日目の培地交換とその後3日毎の培地交換を行った。20日目に出発して、4 mM L-乳酸ナトリウムを含むグルコース不含DMEMでサンプルを合計4日間処理し、22日目に新鮮な乳酸培地を添加した。24日目にサンプルをPBSで洗浄し、培地をRPMI+B-27(インスリン含有)で置き換えることによりサンプルを回収し、その後、組織構築物のさらなる試験または固定まで3日毎に培地を交換した。
【0108】
hiPSCを解離させ、10μM ROCK阻害剤と共に、各ColMA濃度に対して適当な濃度の2倍のFNとLNを含有するmTesR(商標)1中に30万個の細胞/mLの濃度になるように再懸濁した。細胞懸濁液を、予め作製されたGelMA/ColMAバイオインクと1:1混合した後、FNとLNの最終濃度は、0.1%ColMA条件では37.5μg/mL、0.25%ColMA条件では93.75μg/mL、0.5%ColMA条件では187.5μg/mLであり、そして全ての条件について15万個の細胞/mLのバイオインクを使用した。FNまたはLNを含まない条件下では、GelMA/ColMAと混合する前に、ROCK阻害剤を用いて単独のmTesR(商標) lに細胞を再懸濁した。得られた細胞を積載したバイオインクを、ウェル当たり50μLをピペッティングすることにより、12ウェルプレートに堆積させた。5μM ROCK阻害剤を有する2 mLのmTesR(商標)lを添加する前に、サンプルを405 nmの閃光により20秒間架橋させた。これらの構築物の維持、分化および乳酸精製を上記と同様に行った。Axio vert CFL 40顕微鏡を用いて、-13日目と0日目の明視野像を撮影し、分化が完了した後に拍動をビデオ撮影した。心臓トロポニンの免疫染色を実施できるように、サンプルを10%緩衝化ホルマリン液中で分化後または乳酸処理後のいずれかに固定した。
【0109】
%細胞面積を測定することにより、表1に記載の種々のバイオインク配合物について-13日目の細胞生存率を評価した。単一細胞を、Fijiソフト上でのエッジ検出を介して、10倍(10×)画像において検出した。次いで、細胞面積を埋め込み、全体像のパーセントとして測定することができる。Fiji上での閾値処理を用いて0日目の4倍(4×)画像上で細胞コロニー面積を測定することによりコロニーを検出し、そして総面積の百分率として計算することにより、増殖を評価した。
【0110】
最適化された配合物からの3つのピペッティングした組織サンプルを、DNA単離のために最適化実験から採取した。組織重量を計り、次いで、PureLink(商標)ゲノムDNAミニキット(Invitrogen(商標)社製、カリフォルニア州カールスバッド)を用いて、これらのサンプルからDNAを抽出した。DNA収率を最大にするように溶出容積を設定し、得られたDNA濃度を、Take3(商標)マイクロ容積プレートおよびマイクロプレートリーダー(Biotek社製、バーモント州ウィヌースキ)を用いて測定した。この測定から、組織重量当たりの総DNA重量を計算した。
【0111】
架橋した最適化されたバイオインクの粘弾性を把握するために、最適化バイオインクをPDMS型に添加することによって直径8 mmおよび厚さ2 mmの円形ディスクを作製した。構築物を405 nmの閃光で20秒間架橋を行ってヒドロゲルを形成させ、次いでPBS中に一晩保存した。血流分析はAR-G2回転式血流計により実施し、37℃で1.0%ひずみで0.1から10ラド/秒(rad/s)までの範囲で周波数掃引を行った。
【0112】
hiPSCを解離させ、187.5μg/mLのLNとFNおよび10μMのROCK阻害剤を含有するmTesR(商標)1中に30万個の細胞/mLの濃度に再懸濁した。次いで、この懸濁液を、バイオインク前駆体溶液と1:1混合した。得られたバイオインクは、10%GelMA、0.25%ColMA、93.75μg/mLのLNとFN、0.5%LAP、および5μMのROCK阻害剤を含んだ。室温に維持された上述のゼラチン微粒子支持槽中にhChaMPをINKREDIBLE バイオプリンター(CellInk社製、スウェーデン国ヨーテボリ)上に印刷した。印刷圧力は、27℃で針(27ゲージ、1インチ)から最適なインクの流れを達成するように設定された。圧力は印刷ごとに変化したけれども、それは28~38 kPaの範囲内に入っていた。hChaMPを405 nmの閃光で20秒間、6面全てにおいて架橋させ、次いで37℃で少なくとも30分間インキュベートして、ゼラチン支持槽を液化させた。ゼラチンを除去した後、hChaMPをPBSで3回洗浄し、次いで5μM ROCK阻害剤が補足された8 mLのmTesR(商標)1を用いて6ウェルプレートに移した。hChaMPを上記のように維持し、分化させた。
【0113】
健常患者の心臓のMRI像のスタックは、ミネソタ大学のVisible Heart Labから得られた。画像スタックはセグメント化され、スケールが10倍縮小され、そしてMimics ソフトウェア一式を使って.stl形式に変換された。閉鎖ループ灌流をサポートするために、3Dモデルにおいて心室間に隔壁貫通路を作出した。3l cmボアの9.4 Tesla MRIを使用して、3D印刷構造体のMRI画像スタックを得た。MRI画像スタックをセグメント化し、Slicer 4.10.0ソフトウェアを用いて.stl形式で3Dモデルに変換した。
【0114】
印刷忠実度は、CloudCompare (登録商標) 2.10.2ソフトウェア(www.cloudcompare.org)を介して、「印刷したモデル」を「テンプレートモデル」と比較することによって得られた。最初に、手動式のモデルシフトを通して「印刷したモデル」が「テンプレートモデル」と重なるように、印刷したモデルを配置させた。次いで、2つのモデルを、50,000点の40反復において、比較基準(リファレンス)として「テンプレートモデル」を用いる3Dレジストレーションを使って、正確に重ね合わせた。最も正確な重ね合わせ(オーバーラップ)を得るために、各反復において基準となる「テンプレートモデル」を用いて、両モデル上で3Dレジストレーションが三度実施された。レジストレーション後、クラウド上で、2つのモデルをCloudCompareソフト中のメッシュツールで比較し、距離ヒートマップと、「印刷したモデル」と「テンプレートモデル」との点群間距離差のヒストグラムを作成した(
図16に示す通り)。次に、CloudCompare中の距離スケールをmmに較正し、正確な誤差測定を可能にした。印刷忠実度は、予め作成されたヒストグラムによって与えられた所与の許容誤差の間に入る点の百分位数(パーセンタイル値)によって求められた。
【0115】
断面積(CSA)は、CloudCompareソフトウェアを使って「印刷されたモデル」と「テンプレートモデル」の両方からスライスを取ることにより得られた。このスライスをBlender 2.79bソフトウェアを使って埋め、それをCloudCompare中に再インポートし、そしてNIH Fijiソフトウェアを使用して解析した。
【0116】
簡単な染料灌流試験を行って、hChaMPの内部の室どうしが連結されていること、漏れがないこと、そして灌流可能であることを確認した。hChaMPを10 cmの皿に置き、そして3.175 mmおよび1.588 mmの外径をそれぞれ有するチューブを大血管と小血管にそれぞれ挿入した。血管を固定するために接合部に余分なバイオインクを付着させた。染料液は、1:500(v/v)の比で、青色食用色素を50%グリセロール溶液に添加することによって調製した。次いで、染料溶液を、21ゲージの針が付いた注射器に装填し、そして着色した流体が大血管から流出するまで、小血管を通して注入した。
【0117】
hChaMPを10%緩衝化ホルマリン液中で24時間固定し、次いで30%ショ糖中で少なくとも24時間脱水した後、OCT化合物に包埋した。組織を5~10μmの厚さで薄片にした。表現型マーカーと成熟マーカーの免疫染色のために、凍結切片を4%PFAで固定し、0.25%Triton X-100中で透過性にし、Ultra-V Block緩衝液中でブロックし、一次抗体(マウス抗α-筋節アクチニン(Sigma-Aldrich社、ミズーリ州セントルイス)、ヤギ抗CD3l (Santa Cruz Biotech社、テキサス州ダラス)、マウス抗αSMA(Sigma-Aldrich社、ミズーリ州セントルイス)、ウサギ抗cTnI(Abeam社、英国ケンブリッジ)、ウサギ抗Cx 43(Abeam社、英国ケンブリッジ)、ウサギ抗Ki67(Abeam社、英国ケンブリッジ)、マウス抗Kir2.1(Abeam社、英国ケンブリッジ)、ウサギ抗Binl(Abeam社、英国ケンブリッジ)、ウサギ抗RyR2(Abeam社、英国ケンブリッジ)、およびウサギ抗SERCA2(Abeam社、英国ケンブリジ)をPBSで洗浄し、次いで対応する蛍光二次抗体(Jackson ImmunoResearch Lab、ペンシルバニア州ウエストグローブ)で染色した。4′,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核染色し、スライドを洗浄し、FV3000共焦点顕微鏡(オリンパス株式会社製、東京)の下で試験した。
【0118】
アポトーシスは、製造業者の指示書により示されたin-situ細胞死検出キット(Roche Applied Science社、ドイツ国ペンズベルグ)で評価した。全細胞数と末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識陽性(TUNEL+)細胞数の両方を決定し、次いで、TUNEL+核の数とHPE当たりの核の総数との比としてアポトーシスを定量した。分析は自動化され、FIJIソフトウェアで実装された。
【0119】
ゲル中およびhChaMP中の心臓トロポニンT(cTnT)並びにhChaMP中のECMタンパク質の染色のために、組織を0.2%Triton-Xで1時間透過性にし、0.1%Triton X-100、1%グリシン、5%ウシ血清アルブミンおよび2%ヤギ血清を含むブロック用緩衝液中で2時間処理した。サンプルを一次抗体〔マウス抗cTnT (ThermoFisher社、マサチューセッツ州ウォルサムまたはAbcam社、英国ケンブリッジ)、マウス抗フィブロネクチン(Sigma-Aldrich社、ミズーリ州セントルイス)、ラット抗ラミニン1(αおよびβ鎖、Sigma-Aldrich社)、マウス抗コラーゲンI(Abcam社、英国ケンブリッジ)、およびマウス抗コラーゲンIII(Calbiochem社、カリフォルニア州サンディエゴ)〕と共に一晩インキュベートし、次いで、対応する二次抗体(ヤギ抗マウスAlexaFluor(登録商標) 647(ThermoFisher社、マサチューセッツ州ウォルサム)およびヤギ抗ラットAlexaFluor(登録商標)647(ThermoFisher社、マサチューセッツ州ウォルサム)と共に2時間インキュベートした。サンプルをDAPIで共染色した。
【0120】
hChaMP中のカルシウムの移動は、DMi8蛍光顕微鏡(Leica社、ドイツ国ウエッツラー)を用い、乳酸処理から回収後に記録した。hChaMPは最初に5μM Fluo-4 アセトキシメチルエステル(AM)と共に37℃で30分間培養し、次いでタイロード(Tyrode)塩溶液を用いて37℃で別の30分間洗浄した。その後、hChaMPを有するプレートを顕微鏡のステージ上に移し、加熱プレートで覆ってその温度を37℃に維持した。Fluo-4 AMの強度は、30 msの露光時間を使って6.90 Hzのフレームレート(画面書換速度)で記録した。取得データをFijiおよびMATLAB(登録商標)(MathWorks)中の特注スクリプトにより処理した。カルシウムトレースを作成するために、非活性領域のバックグラウンド信号を拍動部位の蛍光信号から減算し、次いでベースライン強度に対して正規化した。hChaMPのカルシウム活性に対するイオノトロピック薬剤の効果は、画像化される前に、Fluo-4 AM処理済のhChaMPを1μMイソプロテレノールまたは0.5μMベラパミルと共に37℃で10分間インキュベートすることによっても分析した。カルシウム過渡現象は、平均ピーク振幅および平均相互スパイク間隔と共に、経時的に正規化強度(f/fo)として提示される。
【0121】
hChaMPを、クレブス-リンゲル(Krebs-Ringer)緩衝液中の電圧感受性色素:ジ-4-ANEPPSの10μM溶液に20分間浸漬した。このインキュベーションの後、染料溶液の半分を除去し、RPMI+B27(インスリン含有)培地と置換した。2~5分間安定化した後、hChaMPを2ダイオード励起の連続励起緑色レーザー(532 nm、1 W)で励起させ、14ビット、80×80画素解像度のカメラを用いて毎秒500フレームで15秒間蛍光強度を記録した。いくつかのhChaMPにおいては、双極電極を介して1 Hzと2 Hzでペーシングが提供され、そのペーシング中に光学マッピング・ムービーを記録した。薬物試験用には、hChaMPを1μMのイソプロテレノールで処理し、光学マッピング・ムービーをペーシングの有無のもとで記録した。
【0122】
光学活動電位持続時間(APD)を80%再分極で測定し、二次元(2D)APDマップを構築して、hChaMP表面上のAPDの空間分布を明らかにした。局所伝導速度(CV)を前述のように計算した。具体的には、3×3画素の空間領域について(dV/dt)maxで測定した活性化時間(AT)の分布を平面にフィットさせ、そして活性化時間の勾配gxとgyをそれぞれx軸とy軸に沿って各平面について計算した。局所CVの大きさは、各画素について(gx
2+gy
2)-1/2として計算した。CVの平均値は可視表面について計算した。マクロスケールのビデオは、Leica S6 D顕微鏡上に搭載されたMoticam 1000 1.3 メガ画素カメラを使ってMotic Images Plus 2.0ソフトウェアを用いて収集した。
【0123】
hChaMPの拍動ビデオは、Axivert CFL 40顕微鏡上で毎秒8.7フレームにて4回取得した。拍動数(収縮期、弛緩期、および心拍数(BMP))は、100×100画素のマクロブロックサイズと50画素の最大移動検出とを有するオープン・ソース自動ビデオ分析アルゴリズムを使用して、拍動数(収縮期、緩和期、および心拍数(BPM))を得、組織のロバストな動きに適応させたhChaMP全体にわたる収縮性のヒートマップを生成するために、ビデオ分析アルゴリズムにおいて25×25画素に設定されたマクロブロックサイズと共にマクロスケールビデオが使用され、より低い倍率には20画素の最大動き検出を用いた。
【0124】
hChaMPのパルス圧力および1回拍出量を、PVカテーテルを備えたADV 500 PVシステムを使用して測定した。37℃に予熱した加熱板上の20 mLのRPMI+B-27サプリメント(インスリン含有)を用いて、hChaMPを10 cm皿に移し、動作温度が常に30℃以上であるように確保した。明確な圧力と容積信号を得るために、PVカテーテルをhChaMPに挿入してその頂点近くに配置し、そしてカテーテルを挿入した血管を結索して構築物を安定化させた。イソプロテレノールは、20μLの1 mM溶液を皿に添加することによって投与し、1μMの最終濃度を得た。データ取得は5000 Hzの標本抽出率(サンプリングレート)で実行され、容積信号を生成するために用いられるパラメータは、中抵抗率(0.7オーム・m)およびシグマ:イプシロン比(σ:ε)(500000)を含む予備パイロット測定において得られた。容積の読み値は、色素(染料)希釈試験を実施することによって更に較正した。簡単に言うと、まず初めに無細胞hChaMPを、側方から1.45 mm、2.9 mmおよび4.35 mmの深さだけ圧縮と解放を行いながら、ADV500 PVシステムによりモニタリングした。その後、無細胞hChaMPをRPMI+B-27サプリメント(インスリン含有)中で2%エオシンYと共に一晩インキュベートし、次いでPBSで3回すすいだ後、20 mLのRPMI+B-27サプリメント(インスリン含有)を使って10 cm皿に移した。次に、hChaMPを側方から1.45 mmの深さだけ3回圧縮と解放を行い、次いでhChaMPを除去し、大量の培地を収集し、そして524 nmでの吸光度をCytation 3(登録商標)マイクロプレートリーダーにより測定し、その値から排出容積を決定することができる。他の2種類の圧縮深さ、すなわち2.9 mmと4.35 mmを使って染料希釈試験を繰り返した。結果としての容積出力を、対応する圧縮深さを用いてADV500 PVシステムにより取得された値と比較し、較正係数を決定した。
【0125】
得られたデータを後処理し、そしてMATLAB(登録商標)中の特注スクリプトにより解析した。簡単に言うと、カットオフ周波数0.1 Hzおよび20 Hzを有するバンドパスフィルタを適用して、信号のノイズを低減した。次いで、信号を高速フーリエ変換により周波数ドメインに変換し、hChaMPの拍動数を、少なくとも50秒の長さを有する3つの異なるセグメントからの最大強度を有する周波数値によって求めた。hChaMPによって生成された1回拍出量を検査するために、5回のランダム収縮周期をPVループの作成に使用し、そしてそのループ内の関心領域によって1回拍出量を決定した。
【0126】
この例示的な技術はまた、低粘度バイオインクの3Dバイオプリンティングのための最新アプローチとしての、充填を伴う反転幾何学を利用している。例えば、hChaMPデジタルテンプレート(鋳型)は、最長軸が約1.3 cmであるように、Mimicsソフトウェア一式(Materialise社、ベルギー国ルーバン)を使って、マウス心臓のサイズにスケーリングされたヒト心臓(Visible Heart Lab、ミネソタ大学)のMRIスキャンから得られた。加えて、心室間の隔壁を部分的に除去して、栄養供給を容易にするために、印刷された構造を通って一方向の流れを伝播させることができるようにした。3Dテンプレートの室出口を、バイオプリンティングを容易にしかつ灌流試験中のカテーテルの接続を可能にするために拡大した。得られたデジタルテンプレートを使用して、製作工程の残り部分をガイドした。GelMAベースのバイオインクは室温で液体形状を有するので、堆積後および架橋前にその形状を完全には維持することができない。従って、デジタルテンプレートのネガ型は、反転幾何学的アプローチを介した3Dバイオプリンティング法を容易にするように作成された。このアプローチでは、Pluronic (プルロニック;登録商標)F-127バイオインクは、支持足場として作用し、架橋の前にバイオインクの堆積によって形成される心臓の形状を維持するのを助ける。支持インクは、90%(v/v)脱イオン水と10%(v/v)グリセロールの溶液に添加された40%(wt/v) Pluronic (登録商標)F-127(Sigma-Aldrich社、ミズーリ州セントルイス)からなり、そして氷浴中で最低2時間攪拌して結合した。次いで前記Pluronic溶液を30 ccのシリンジに移し、プラスチック製パラフィンフィルムで密封し、使用まで4℃で保存した。
【0127】
支持インクを用いて反転モデルを作製し、これをSlic3r(登録商標)ソフトウェアを用いて層にセグメント化し、3D印刷の前にGコードに変換した。3Dバイオプリンティングは、2つの独立したz軸ヘッドを有する特注の3D印刷システムを介して行われた。バイオプリンティング工程を開始する前に、全てのバイオインク、ツール、印刷足場、シリンジ、ニードル、ガラス基板、および他の関連するアクセサリを滅菌した。比較的無菌の環境を構築するのを助けるために、バイオプリンティング工程の間、比較的無菌の環境を作り出すのを助けるためにアルコールランプを使用した。バイオインクおよび支持材Pluronicを、高精度ディスペンサによって制御された2本のシリンジから、510μmの内径のノズル(21 GA GP0.20×0.25 EFD)を介して堆積させた。GelMAベースのバイオインクで充填する前に、Pluronic支持構造体を印刷するために400μmの層高さを用いた(すなわち反転幾何学)。印刷が完了した後、構造体をリン酸緩衝食塩水(PBS)中に4℃にて少なくとも30分間置いて、Pluronic支持材を液化し、希薄化して取り除いた。
【0128】
MRIおよび解剖学的忠実度分析は、充填アプローチを用いて反転幾何学で製作された心臓模擬物について達成されてもよい。この例では、印刷された構造体の元のテンプレートに対する忠実度を評価するために、3Dバイオプリンティングした心臓模倣物にMRIスキャンを行った。これに先立って、3Dバイオプリンティングした心臓模倣物をガラスバイアル内に入れた水道水の中に配置し、そしてバイアルの底部にプラスチック小片を配置することによって固定した。次いで、MRIシステム(16.4 Tesla、Varian/Magnex)を用いてイメージングを行い、その一方で3D印刷された心臓模倣物を26 cmボアの中に配置した。スキャンとビューの数は、それぞれ256と128000に設定された。次いで、MRI画像スタックをセグメント化し、Mimicsソフトウェアパッケージを用いてステレオリソグラフィー(STL)形式で3Dモデルに変換した。3Dバイオプリンティングした心臓模倣物と修正後のデジタルテンプレートとの間の「.stl」ファイルの3Dレジストレーションは、CloudCompare 2.10ソフトウェア(www.cloudcompare.org)のオープンソースソフトウェアを使って達成された。CloudCompareは、2つの3Dモデルを積層し、40回の反復で3×105ボクセルでの、テンプレートと印刷された構築物との間のオフセットのヒストグラムと連動して距離マップを取得するためにも使用した。結果は、2つのモデル間の解剖学的差異が、外側表面と内側の仕切られた表面の両面において有意ではなく、テンプレートの0.5 mm以内の印刷構造体のボクセルの割合は71.9%であることを示し、印刷物からテンプレートまでの距離のピークが0 mmに近いことを示した。
【0129】
充填アプローチを用いて反転幾何学において製作された心臓模倣物について、灌流試験を実施することも可能である。3Dバイオプリンティングした心臓模倣物の灌流能力を評価するために、組織接着剤を用いて、ポリエチレンカテーテルを構築物の入口に取り付けた。次いで、染料インクを含有するシリンジをカテーテルのもう一方の端に連結した。3Dバイオプリンティングした心臓模倣物の入口から染料が注入され、1つの室から別の室への連続的な流れを可能にし、そして別の血管を通って流出した。
【0130】
hiPSCを包含した状態で印刷された3Dバイオプリンティングした心臓模倣物を、5μM ROCK阻害剤を含むmTesR(商標)1(Stem cell Technologies社、カナダ国バンクーバー)中で、印刷後最初の24時間にわたり培養し、次いでmTesR(商標)1中に維持した。印刷後1、3、5および7日目にAxiovert CFL 40顕微鏡上で画像を取得し、細胞の生存能力を評価した。
【0131】
本明細書に記載されるのは、人工多能性幹細胞からの心筋細胞の分化を支持し得る細胞外マトリックスタンパク質の配合例である。この実験の一部として、数種のバイオインク配合物を評価して、複雑な心臓組織の生成を支持するために細胞外マトリックスベースのバイオインクを特定した。この例では、設計基準として、210μmの線幅解像度をもたらす27ゲージの針からの押出を支持するための印刷適性;印刷された構造体の容易な原材料取り扱い(マテリアル・ハンドリング);バイオインク中に直接組み込まれたヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の増殖を支持する能力;および前記hiPSCの心筋細胞分化を支持する能力が含まれる。
【0132】
上記の例示的な細目によれば、
図12は、例示的なゲルをバイオインクで形成させるための技術の概念図である。
図12に示すように、ゼラチンメタクリレート(GelMA)基材は、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩(LAP)による光活性化を介して架橋され、印刷適性要件を達成しかつ合成支持材料(100)の包含を回避するように得られた。原材料の取り扱い(マテリアル・ハンドリング)については、最終的な構造がもろく容易に損傷されるため、10%GelMAよりも低い濃度は達成が困難であったが;一方で印刷適性については、材料の制御を困難にし、時には細胞損傷を生じさせうる高圧での押出を必要とするため、15%GelMAより上では達成が困難であった。従って、いくつかの例では、細胞外マトリックスは、有利には10%(100 mg/mL)GelMAまたは15%(150 mg/mL)GelMAのいずれかを含むことができる。GelMAには、心筋細胞分化を支持することができるhiPSCおよびECMタンパク質、すなわちそれぞれ0~0.1875 mg/mL、0~0.1875 mg/mL、および0~0.5%(または0~5 mg/mL)の範囲のフィブロネクチン、ラミニン-111およびコラーゲンメタクリレートがGelMA(102)に添加された。フィブロネクチンおよびラミニンは全ての条件下で等量で添加し、その濃度をColMA濃度に対してスケーリングした(0.1%ColMAでは0.0375 mg/mLフィブロネクチンおよびラミニン、0.5%ColMAでは0.09375 mg/mLフィブロネクチンおよびラミニン、0.25%ColMAでは0.1875 mg/mLフィブロネクチンおよびラミニン)。他の例では、異なる量のフィブロネクチンおよびとラミニンを添加することができる。全ての条件には、GelMA(G)濃度、ColMA(C)濃度、および対応する量のフィブロネクチン(F)とラミニン(L)の存在に注釈が付けられている。例えば、10G0.10CFLは、フィブロネクチンとラミニンが補足された、10%GelMAおよび0.10%ColMAからなるバイオインクを指す。次いで、各配合材料を細胞外マトリックス (ECM)(104)のアレイに添加し、各配合物を光活性化(106)によって架橋し、次いで架橋した各配合物を評価して、以下の表1に示す値を得た。
【0133】
【0134】
上記表1に示すように、異なるバイオインク配合物についての例示的な観測データが提供される。配合物の列では、「G」はゼラチンメタクリレートを表し、「C」はコラーゲンメタクリレートを表し、「L」はラミニン-111を表し、そして「F」はフィブロネクチンを表す。各文字に先行する数字は、重量/容積%を示す。例えば、「10G0.10CFL」は、フィブロネクチンとラミニンが補足された10%ゼラチンメタクリレート(GelMA)および0.10%コラーゲンメタクリレート(ColMA)を含むバイオインクを指す。ラベル「d-X」は、パラメータが測定される前に堆積から何日間が経過したかを示す。例えば、粘度は15日目に測定された。「拍動」の尺度(スケール)は、関連のバイオインク配合物を使って作製された心臓組織の収縮性能に関する評価等級を指す(例えば、ゼロ「0」評価値は拍動がないことを示し、そして「3」の値は比較的高い拍動性能であることを示す)。
【0135】
設計に従い、インク配合物は全て10~40 cPの範囲内に入り、これは印刷の際の低圧要件(28~38 kPa)を確保する。換言すれば、約10 cP~約40 cPの粘度を有するバイオインク配合物を選択することが有利であろう。しかしながら、この範囲より下または上の粘度が、幾つかの用途と構造体にとっては適当である場合もある。hiPSC健常性をサポートする能力は、細胞生存能力の指標として-13日目の印刷構造体における細胞面積の測定と、継続的な細胞健常性を有する増殖の指標として0日目のコロニー面積の測定とによって評価した。本発明者らは、15%GelMAからもっぱら構成されるインクを除いて、-13日目の全ての配合物にわたって生存能力が比較的一貫していることを見出した。
図13に示すように、各々異なるバイオインク配合物について細胞面積被覆率が変化した。サンプル110は、10G0.25CFLに対して比較的良好な被覆率を示し、サンプル112は、15G0.25Cに対して比較的高い被覆率を示し、そしてサンプル114は、15G0に対して比較的低い被覆率を示す。
【0136】
しかしながら、増殖は配合物間で実質的に変動したが、10%GelMAを含むゲルは15%GelMAを含むものを通常上回った。
図13に示されるように、サンプル116は、10G0.25CFLに対して比較的良好な増殖を示すが、15G0.25Cのサンプル118および15G0のサンプル120は両方とも、比較的貧弱な増殖を示す。不十分なサンプルであっても、ある種の条件下で印刷された構造体を支持するのに十分であり得ることに留意されたい。特定の配合物10G0.25CFL、10G0.50CFL、および10G0.10Cは、最高レベルの増殖(範囲、55.2~61.8%コロニー面積)を支持した。心筋細胞へのhiPSCの分化を支持する能力は、心臓トロポニンT(cTnT)の測定を介して評価した。分化のアウトカムは、GelMAの割合に対応するだけでなく、フィブロネクチンとラミニンの添加にも依存していた。例えば、
図14Aに示されるように、10G0.25CFL配合物は、分化後32日目に比較的良好な心筋細胞分化を示した。特定の配合物10G0.10CFL、10G0.25CFLおよび10G 0.25CFLは一般に、最高レベルの分化を支持した。いくつかの異なる配合物は、バイオインクに適しているが、1つの配合物が全ての基準についてトップ3にあり、高くランク付けされた。その配合物は10G0.25CFLまたは100 mg/mLゼラチンメタクリレート(GelMA)、2.5 mg/mLコラーゲンメタクリレート(ColMA)、95μg/mLフィブロネクチン(FN)、95μg/mLラミニン-111(LN)、および5 mg/mLフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩(LAP)である。この特定の配合物の架橋ゲルの場合、貯蔵男性率(G’、6.14±1.13 kPa)は、損失弾性率(G”、0.09±0.06 kPa)よりもほぼ2桁高い大きさであった(
図14B)。このことは、後期胎児性心臓のものと同様の剛性を有するゲルの弾力性を示唆する。さらに、この配合物は、0.1 mg DNA/gゲル(天然の心臓組織、約0.3 mg DNA/g心筋質量)
31の細胞密度を達成した(
図14Cに示す)。従って、この細胞密度は心臓組織のそれと類似しているだろう。従って、その後の全ての実験および分析には、10G0.25CFLのこの配合物を使用した。
【0137】
しかしながら、いくつかの異なるバイオインク配合物は、構造体の印刷を促進するように構成され得ることに留意されたい。例えば、例示的なバイオインク配合物は、約10パーセントから約15パーセントまでのGelMAを有し得る。例示的なバイオインクはまた、約0.1%~約0.5%のColMAを有し得る。フィブロネクチンおよびラミニンは、バイオインク中に含まれていてもよいが、他の例では、バイオインクはフィブロネクチンおよび/またはラミニンを含まない細胞でもまだ印刷することが可能であるだろう。
【0138】
図16に示されるように、大血管の延在部を有する、バイオプリンティングされた、室に仕切られた心臓模倣体は、デジタル・テンプレートに対して高い忠実度を示す。選択されたバイオインク(10G0.25CFL)は針から押し出すことができるが、そのバイオインクは低い相対粘度(14.7 cP)であったので、単純な積層幾何学の域を超えて構造体を作製する能力は、標準的な押出様式(Air法)では、可能であるかもしれないが難題であるに違いない。従って、印刷は、犠牲インクで作られた反転形状を埋め戻す(backfilling)ことを含む技術を用いて達成された。この様式を用いて複雑な構造を構築することができた。しかしながら、犠牲インクに関連する低い細胞生存能力と増殖力が、更なる使用を制限した。最終的には、印刷は、懸濁したヒドロゲルの自由形状の可逆的埋め込みを成功裏に引き起こし、ここで、埋め込み材料または「スラリー」は、ゼラチン微粒子から構成されていた。このようにして、このバイオプリンティングアプローチを、本明細書に記載の例の残り部分のために使用した。
【0139】
印刷物テンプレート(
図15)は、最長軸が約1.3 cmであるようにマウス心臓のサイズにスケーリングされたヒト心臓のMRIスキャンから誘導された。加えて、心室間の隔壁を部分的に除去して、栄養供給の容易さのために、一方向の流れが印刷された構造体を通って伝搬され得るような貫通路(throughway)を提供した。ゼラチン粒子のサイズは、室に仕切られた心臓模倣物を複製するのに必要な形状寸法(feature size)を獲得するための印刷パラメータの中で最も重要であった。ゼラチン微粒子のサイズは、印刷物の解像度と逆にスケーリングされた。約100μmの粒子は、
図15Bに示されるように、完全な心室、開存している大血管および取り扱いを促進する材料特性を有する、室に仕切られた心臓模倣物の印刷をサポートすることができる。バイオプリンティングされた構造体のMRIスキャンは、無傷の室と容積を示しており、バイオプリンティングされた心臓模倣物の3Dデジタル再構成は、CloudCompare(登録商標) 2.10.2ソフトウェア(www.cloudcompare.org)を使って、容積型3Dデジタルテンプレートと比較した。定性的な断面比較は、内部室の高レベル忠実度を示し(
図15Aおよび15B)、これは重ね合わせたテンプレートと印刷された構造体からの距離マップの作製によって定性的に実証された(
図16および17)。
図16のヒートマップは、テンプレートと、該テンプレートから+1.0 mm~-1.0 mmのスケールでの印刷物との間の幾何学的差異を示す。テンプレートから0.5 mm以内の印刷された構造体のボクセルの割合は86%であることが判明した。さらに、ポリエチレン製チューブおよびフッ素化エチレンプロピレンを、組織接着剤を使って、印刷した構造体にしっかりと取り付けることができた。例えば、
図18A~18Dに示されるように、灌流液中に染料を含めることによって、バイオプリンティングされた室に仕切られた心臓模倣物の内部空隙の中に、無傷でかつ灌流可能な室があることが明らかになった。例えば
図18Aでは、入口130に入った流体は、室を通過し、hChaMPの出口132を出た。
図18Dは、染料が出口132から室を出ていく様子を示す。
【0140】
最適化されたバイオインク中で3D印刷されたhiPSCは、連続した筋肉壁から室に仕切られたヒト筋肉ポンプ(hChaMP)の形成を引き起こす。ヒト多能性幹細胞が増殖してhChaMP全体を定着させる(populate)かどうかを決定するために、
図19に示されるように、サンプルバイオインク配合物を使って、印刷中にhiPSCを組み込んだ。例えば、GelMAおよびColMA配合物を混合し(134)、hiPSC、ラミニン、およびフィブロネクチンを添加し(136)、そして得られた配合物をhcChaMPの形でバイオプリンティングし、次いで光活性化した(138)。次に、hChaMPを温水浴から取り出し、分化が誘導された皿(140)に添加し、得られた構造体を本明細書に記載のような性能について評価した(142)。
【0141】
このような大きな構築物において個々の細胞を計数する際の画像の複雑さを考慮に入れて、本発明者らは、代わりに、培養期間中の2週間で8つの異なるhiChaMPのうちの4つより多くの無作為に選択された領域中のコロニーサイズを定量した。14日目に、
図20Aに示されるように、バイオインク容積の約90%が単独の細胞と大きなコロニーの形の細胞の両方で生息し、40%±11%がコロニー面積に相当した。
図20Cは、この段階でのコロニーにより被覆された面積の百分率を示す。この時点で、
図1Bに示される通り、心筋細胞分化プロトコルが課された。乳酸精製から6週間後、hChaMPの細胞を再び増殖のために探査し、今回は
図21A、21Bおよび21Cによって示されるKi67の発現を介して行った。
図21D中のKi67による免疫蛍光染色に示されるように、約20%の細胞がこの段階で増殖性である。同じ時点で、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)法によって細胞死を評価したところ、非常に限定された細胞死(例えば、
図22A、22Bおよび22C中の染色と、
図22Dに示される死細胞の割合による)を示し、hChaMP中の細胞の健常性が持続している(on going)ことを示唆している。
【0142】
hiPSCがhChaMP中で心筋細胞への効率的な分化を受けることができるかどうか、そしてそれによって連続的な筋肉量を形成するかどうかを決定するために、hChaMPを、筋節タンパク質、心臓トロポニンI(cTnI)について染色した。
図23Dに示すように、構造体の細胞のほぼ85%は、cTnIの発現に応じて心筋細胞であった(
図23A)。中胚葉誘導に続いて心臓線維芽細胞、内皮または平滑筋細胞への分化が起こるので、この方法で他の心臓細胞型を使用することもできる。心臓線維芽細胞(ジスコイジンドメイン受容体2(DDR2)についての染色による;図示せず)の強制的な証拠は認められないが、平滑筋細胞(α平滑筋アクチン(αMA)についての染色による;
図23Bに示すような)および内皮細胞(CD31の染色による;
図23Cに示すような)は、hChaMP中に存在していた。組み合わされた心臓細胞カクテルは、
図24Aに示すように、しばしばhChaMPを完全に回避する。壁の厚さは、典型的には100μm~500μmであり、最も厚い領域は、500μmを超えていた。
図24Cは、
図24Bの壁の拡大部分を示しており、拡大部分はhChaMP内の筋節の縞を示している。乳酸精製後6週間目の細胞の大部分が壁の外側部分に関連づけられた。バイオインクは、hChaMP壁の内側部分で識別することができるが、
図24Aの白色楕円形に示されるように大部分が細胞を有しなかった。
【0143】
印刷したhChaMPは、成熟心筋細胞表現型と一致するタンパク質を発現し局在化する。hChaMPを、分化および乳酸精製プロトコルの完了後、数週間にわたり培養した。延長した培養の前に、hChaMPを静置培養物から対流環境へと移し、そこにおいて恐らく揺動により栄養素交換がより良好に達成されるだろう。分化開始前に動的培養を開始することは、壁の細胞の厚さ、純度または機能の面でhChaMPの質を改善しなかった。hChaMPは、バイオリアクター内で灌流されず、制御された抵抗性の機械刺激に暴露されず、電気刺激にもさらされなかった;これらのすべての因子は成熟を改善することが示されている。そうであっても、ギャップ結合タンパク質であるコネキシン43(Cx43)のロバストな発現が、隣接心筋細胞の間の実質的プラークにおいて認められた。また細胞表面においても、
図25A~25Dおよび26A~26Dに示されるように、静止膜電位を安定化させる胎児および成人心筋細胞で発現される内向き整流カリウムチャンネルKir2.1が、高レベルで検出された。
図25Dと26Dはそれぞれ、α-アクチニンおよびcTn1の百分率としてのCx43およびKir2.1の量を示す。
図27A~27Dに示されるように、筋線維鞘および筋小胞体に関連する細胞内機構も良好に発現され、適切に組織化された。特に、横管(t-tubule)の形成とそれらの関連機能に必須の膜足場タンパク質である架橋インテグレーター1(Binl)は、筋原線維に沿ったポジティブなストライエーション(線条;striation)において見出された。
図27Dは、Binlがα-アクチニンの約1.5%であったことを示す。筋小胞体ATPアーゼ2a (SERCA2a)は、
図29A~29Dに示すように大多数の細胞でシグナルを示し、筋原線維に近接した並置での染色を示した。同様に、リアノジン受容体2(RyR2)は、
図28A~28Dに示されるように、分化後同様な時点で2D単層に導出された心筋細胞において観察されるものよりも大きな規則性をもって、筋原線維に沿って、はしご状の規則的な網状構造を形成した。この事実は、hChaMPにおける高度の成熟を示唆している。
【0144】
さらに、hChaMPは、連続した電気的機能とポンプ動力学を示した。hChaMPは、マクロスケールの拍動が観察されるように慣例的に製作することができる。複合構造全体にわたって電気機械的機能が保存される程度を決定するために、最初に、hChaMPのランダムに選択された領域(n≧3のhChaMP、hChaMPあたり n≧3の領域、
図30Aと30Bに示す)のカルシウム過渡によって電気的機能を測定した。経時的にカルシウム動態を決定するために、分化および精製プロトコルの停止後、2週間目と6週間目の両時点でカルシウム過渡現象(トランジェント)を測定した。個々のhChaMPは、ピーク振幅(
図30A)とスパイク間間隔(
図30B)の両方において、ある程度の変動性を示した(誤差バーにより示される通り)が、これはおそらく単位容積あたりの心筋細胞の密度に対する構築物の不均一性と、別の心臓細胞型(または非心臓細胞型、それらは少数の型であるが)に対比した構築物の不均一性に相当するのだろう。さらに、ピーク振幅は経時的に変化せず、スパイク間間隔も変化しなかった。このことは、成熟度が2週間までに大部分達成され、hChaMPの健常性を長期間維持することができたことを示唆している。カルシウム処理は、非選択的βアドレナリン作動薬であるイソプロテレノールの添加によって周波数を増加させることができ、かつ、薬物刺激に適切に応答するhChaMPの能力を支持するフェニルアラニンカルシウムチャネル遮断薬であるベラパミルの添加により、振幅を減少させることができた。加えて、
図31に示すように、拍動数に対するイソプロテレノール濃度の効果を調べるために、カルシウム過渡データから用量応答曲線を作成した。hChaMPにおけるイソプロテレノールのこの用量応答効果は、2つの異なるhChaMPに渡って存在する5つの異なる領域から、拍動数という形でのカルシウム過渡活性によって測定された。この曲線から、最大応答の50%(EC50)をもたらすイソプロテレノール濃度は、0.009 mMであると決定され、これは、幹細胞由来の心筋細胞について以前に報告されたものと非常に類似している。
【0145】
次に、光学マッピングを用いて、hChaMP構造体の全体にわたって電圧変化を測定した(n≧3のhChaMP、
図32~35B)。
図32に示されるように、この光学マッピングは、像150、152、154、156、および158の順の進行に示されるように、リアルタイムでhChaMP全体を通しての電気信号伝播の可視化を提供した。ほとんどの場合、hChaMPの電気活性は、1つの領域で始まり、次いで構造体全体にわたって伝播した。活性が伝播された構造体のもとの位置は、時には大血管から、時には大血管の近くの領域から、時には頂点の近くの領域から、と確率論的であった。この結果はおそらく、優位を占める所定の領域での自発的膜脱分極の能力を有し、従って応答を開始させる、ペースメーカー細胞または未成熟心筋細胞の集積を反映するだろう。
図33Aは、50%の再分極(AT)の所での活性化時間(
図33B)と、
図33C中の80%の再分極(APD80)の所での活動電位持続時間とを含む、hChaMPの自発電気活性を示す。
図33Dは、3つの異なるhChaMPからの自発活性を有するAPD80についてのミリ秒単位での平均時間を示す。しかしながら、場合によっては、
図34Aに示すように、脱分極の自発発生源は克服され得、そして伝播の方向性がhChaMP内の別の位置での電気的な点刺激によって変化された。
図34B、34Cおよび34Dは、その各々の矢印の方向により刺激の伝播の方向を描写している。さらに、hChaMPは、変更されたペーシング周波数に対して(
図35A)およびイソプロテレノールでの薬物刺激に対して(
図35B)、動的および予測様式で応答した。注目すべきなのは、1時間未満のペーシングが、活動電位が検出される総面積を増加させたことであり、このことは、電気的刺激が接続性(連結度)を促進することができ、かつhChaMPの同調機能を更に高めることができることを示唆している。電気的刺激がない場合、
図36は、活動電位がhChaMPの総表面積の56%±28%を超えて検出されたことを示す。カルシウム染料で処理された組織の同時染色から、電気的に活性な領域がcTnT陽性であることが確証されることから、おそらく検出可能な電気信号の位置が、hChaMP全体にわたる心筋細胞の分布に相応するのだろう。
【0146】
機械的ポンプ機能を調べるために、hChaMPを最初に収縮性能について評価した。拍動数(心拍数(BPM))並びに収縮および弛緩の速度は、個々のhChaMP内であまり変化しなかったが、hChaMP間ではかなり大きく変化し、これはおそらく心筋細胞の相対数およびhChaMPあたりの壁の厚さを反映している。
図37Aと37Bは、それぞれ、同じhChaMPの異なるインスタンス間での、拍動数および収縮と弛緩の速度の変動を示す。
図37Aと37Bの各々の右側の2つのバーは、異なるhChaMP間の変動性を示す。さらに、収縮性能は時間と共に増強されなかったが、いずれも有意には低下しなかったことから、hChaMPの長期健常性を支持している。収縮性分析は、
図38に示されるように、hChaMPのイソプロテレノール処理に対する用量応答を測定するためにも用いられた。hChaMPにおけるイソプロテレノールの用量応答効果は、2つのhChaMPにわたる少なくとも3点の異なる領域からの拍動数という形で収縮性により測定された。この分析は、カルシウム過渡分析から導出された値と同一である、0.009μMのEC50を生成した。
【0147】
図39に示されたこの新モデルシステムについて臨床的に関連する比較対象として圧力容積動力学を決定するために、圧力変換器を有するコンダクタンスカテーテルをhChaMPの1つの室の中に挿入した。
図39は、カテーテルから心室壁までの距離と、逆算による心室容積のそれぞれの推定値を得るために、コンダクタンスカテーテルに連結された圧力変換器を使用して室間の圧力および容積を取得する、例示的な方法の概要を示す。hChaMPの頂部から延在する大血管の1つにカテーテルを通し、そして温度制御された加熱台上にマウントされた培地の入った37℃の浴中に浸漬した。カテーテルの読み出しを増幅し、圧力および容積のリアルタイム測定値を提供した。高速フーリエ変換を用いて、圧力対時間の関連性(
図40)を拍動数(beating rate)に変換した。心室内の圧力と容積の動力学は、対応する圧力-容積ループを発生させるためにイソプロテレノールを用いずに2.5秒間隔で実施した。拍動数は、
図41に示すように、圧力対時間プロットの高速フーリエ変換を介して決定された。
【0148】
圧力変換器とコンダクタンスカテーテルとの連結は、
図42Aおよび
図42Bに示されるように、時間の関数として圧力と容積の両方の同時プロットを可能にし、それは自発的に収縮するhChaMPおよびイソプロテレノール処理したhChaMPについて実施した。
図43に示すように、この設定を使用して、イソプロテレノールの複数の濃度に対応する心拍数の変化を検出した。拍動数に関してのイソプロテレノール応答は、カテーテルにより測定され、3つのフラグメントからサンプルトレース全体を通して広がった。各々のhChaMPを排出させそして充填するのに耐えるための弁が1つも存在しないという事実にも関わらず、圧力-容積対時間のプロットを使用して圧・容積曲線を作成し、それらから1回拍出量(例えば
図44Aと44B)を決定することができる。
図44Aのグラフ160は、心筋細胞の自発収縮の場合の圧力-容積ループを示し、グラフ162は各収縮の1回拍出量を示す。同様に、
図44Bのグラフ164は、心筋細胞のイソプロテレノール誘導収縮の場合の圧力-容積ループを示し、そしてグラフ166は各収縮の1回拍出量を示す。グラフ162と比較すると、この場合の1回拍出量は、グラフ166に示されるようにイソプロテレノールの存在下で減少した。1回拍出量は、5回の異なる収縮サイクルから得られた。心室を通って移動する通常の容積は0.5μLであり、室を通って移動する最大容積は5.0μLであった。この数値は成体マウス心臓の平均1回拍出量の約25%であった。これらのデータは、バイオインク配合物と幹細胞とを使用して構築された、印刷された心臓構造体が、流体ポンプとして機能しうることを示している。
【0149】
図45は、本明細書に記載のバイオインク組成物を使った例示的な3D印刷方法の流れ図である。本明細書に記載の例示的なバイオインクのいずれも、この方法に使用することができ、この方法の代替物を使用することもできる。例えば、約10重量/容積%の量のゼラチンメタクリレート、約0.25重量/容積%のコラーゲンメタクリレート、および約0.5重量/容積%のフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩を含有するバイオインクは、約74重量/容積%のmTeSR培地、20重量/容積%の20 mM酢酸、および1重量/容積%の1M NaOHを含有する溶媒などの溶媒と徹底的に混合することができる。次いで、この溶液を、約0.19 mg/mLフィブロネクチンと0.19 mg/mLラミニン-111を含有するヒト人工多能性幹細胞の懸濁液に添加することができる(例えば1:1の比で)。フィブロネクチンおよびラミニン-111の最終濃度は、各々約93.75μg/mLであり得る。
【0150】
図12に示すように、調製されたバイオインク組成物は、所望の三次元構造体を構築するために層中に堆積(沈着)される(例えば印刷される)。この堆積方法は、少なくとも1つの室(例えば心臓の1または複数の室)および/または他の血管を生成するために、バイオインクを使用して三次元構造体を印刷することを含む。いくつかの例では、バイオインクは、シリンジによって支持槽中に堆積され得る。他の例では、バイオインクが同軸ノズルの1つのオリフィス(穴)から流出し、それと同時に架橋剤がその同軸ノズルの別のオリフィス(穴)から分配されるように、1または複数の同軸ノズルがバイオインクを分配することができる。同軸ノズルからの分配は、分配された材料への光の投光(架橋剤が光活性化可能である場合)の前または最中に実施することができる。印刷後、該工程は、幹細胞のWnt/α-カテニン経路を小分子で調節することで心筋細胞分化を誘導することを含みうる (202)。バイオインクは、本明細書において印刷の観点から記載されているが、バイオインクの堆積は、バイオインクをマトリックス内の適切な位置に配置することができる任意の技術、例えば沈着、ピペッティング、射出、または造形、鋳造、または成形)によって行うことができる。このように、バイオインクは、細胞の所望の構造を構築するような形態に堆積することができる物質を指すことができる。
【0151】
支持槽(浴)は、少なくともある程度の分化の後に除去してもよいが、他の例では、分化の前に、支持槽を除去することができる。別の例では、犠牲固体材料を、支持槽(またはスラリー)の代わりに使用してもよい。この場合、比較的低い粘度を有することができるバイオインクを犠牲固体材料に適用することができ、次いで、その固体材料を、機械的、熱的、および/または化学的プロセスを介して印刷構造体から取り除くことができる。
【0152】
本明細書に記載されるように、センチメートル・スケールの複合構造体を一体化するための機能的心筋細胞の分化は、バイオインクの印刷によって達成することができ、これは健康および疾患状態の心臓機能の研究に重要な圧力/容積関係を複製することができる、マクロ組織に向かう重要なステップを表している。一例のバイオインクは、10重量/容積%のゼラチンメタクリレート、0.5重量/容積%のフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩、0.25重量/容積%のコラーゲンメタクリレート、並びに、高い印刷適性を有しかつ幹細胞の成長と増殖を許容する74%のmTeSR培地、20%の20 mM酢酸および1%の1M NaOHからなる溶媒を包含することができる。いくつかの例では、mTeSR培地は、インスリン、セレン、トランスフェリン、アスコルビン酸、FGF2(bFGF)、および/または、NaHCO3でpHが調整されているTGFPもしくは結節、が補足されたDMEM/F12基礎培地を含むことができる。
【0153】
心臓組織工学は、ヒト心筋細胞および微細加工技術のためのロバストな分化プロトコルを利用して、薬物試験用のマイクロスケールモデル系を作製することができる。ヒト心臓の構造と機能を複数のスケールで検査することができるマクロスケールモデルへの拡張は、医療装置の試験、前臨床心臓学をサポートすることができ、更に研究を臨床移植に近いものに推し進めることができる。ここで、ヒト心臓構造体のマクロスケールの室に仕切られたモデルは、ECM幹細胞動力学における基本的な科学的発見と、3Dバイオプリンティングにおける技術的進歩と、ヒトオルガノイド培養物からの学習で得られた知識とを組み合わせることによって構築することができる。バイオインクのECM排他的性質により、リモデリングが外来物質により邪魔されずに出現することが可能である。実際、バイオインク中に提供されたエピトープは、α1β1、α2β1、α10β1、α11β1(コラーゲン)、α5β1、αvβ3(ゼラチン)、α6β1、α7β1、α6β4(ラミニン-111)、α4β1、α5β1、αvδαvβ3(フィブロネクチン)をはじめとする幾つかのインテグリンヘテロ二量体と係合する。これらのうち、hiPSCは、バイオインクの全てのECMの受容体、すなわち、α11β1、α5β1およびα6β1を発現する。hiPSCのECMへの係合は、それが細胞の生存能力、多能性、および増殖しているコロニーの定着を促進する限り、有利に働いた。多能性の維持と分化開始との間のバランスをとることは、ECMの存在下では困難である。その理由は、α6β1だけが多能性を促進すると報告されており、その他の全てはECM型に特異的な方法で分化を促進するようであるからである。hiPSCを改善しようする試みにおいて、バイオインクの残りの成分を包含する前に、hiPSCをラミニン-l11(α6β1)と共にプレインキュベートした。さらに、高い細胞密度を用いて、細胞-細胞間相互作用が細胞-マトリックス間相互作用よりも優勢になる(排除はしないけれども)のを可能にした。また、コロニーが増殖すると、ECM加水分解またはマトリックス・メタロプロテイナーゼ(MMP)を介したEMCの直接リモデリングのいずれかが空間を提供する。hiPSCはMMP 1、5および6を発現し、ここでMMP1は、コラーゲンとゼラチンの両方を分解することのできるプロテアーゼである。この拡張期は、天然の組織のもの(約0.3 mg DNA/g心筋質量)と同じオーダーの大きさ(約0.3 mg DNA/g hChaMP)の最終細胞密度を可能にした。時間とともに、別のECMタンパク質1、最も顕著にはIII型コラーゲン、がhChaMP中に出現した。タンパク質は、hChaMP由来心筋細胞において高度に発現される少なくともインテグリンα1β1およびα2β1と係合する(かみ合う)であろう。さらに、iPSC由来の心筋細胞は、hiPSC由来の平滑筋細胞が発現するのと同様に1~3、10、11、14~16および19を含む無数のMMP(hChaMPには稀ではあるが存在していた)を発現する。このタイプの生体ポンプの生産的リモデリングは、機能的性能を改善し、従ってモデルシステムとしておよび将来の治療適合性としての潜在能力を向上させることができる。
【0154】
いくつかの例では、筋肉壁の厚さ、均質性および秩序を増加させること、並びに個々の心筋細胞の成熟を促進させることが有益であり得る。筋肉の厚さの増加は、ポンプ機能を改善し、かつ破裂を防ぐことができる。新生児ラット心室筋細胞を用いた工作された心臓の束状構造を動力学条件下で2週間培養することにより、静置状態と比較して2.5倍大きい筋肉面積をもたらすことができる。加えて、厚さの平均1.8倍増加は、静置状態と比較して振動性のプラットフォーム上で培養した脂肪由来幹細胞を有する自己組織化組織から生じうる。注目すべきは、この同じプラットフォームが、線維芽細胞によって形成される組織に対して最小限の影響しか示さず、このことは、動的培養プロトコルがシステム特異的でありうること、そして異なる組織型に対する最適化を必要とし得ることを示唆している。hChaMPの複雑さゆえに、振動によってhChaMPに対流を導入したけれども、室を通過する適切な流れを確保しかつ生理学的状態をより正確に模倣するために灌流バイオリアクターが有益であるかもしれない。灌流バイオリアクターは、心臓の生理学的環境を模倣するために拍動性流動プロファイルを反復発生し、かつ機械的および電気的刺激と組み合わせられ、再細胞形成された心臓ECM構成物が天然の心筋のものと同様な細胞密度を達成し、そして拍出を実行できるようにすることが示されている。この考察を考慮すると、心臓の生体力学は、収縮周期中だけでなく、発生段階によっても継続的に変化するという事実とともに、灌流バイオリアクターによって行われる長時間スケールと短時間スケールの両方にわたって時間依存性(時変)特性を有する動的培養プロトコルを使用して、組織のロバスト性とhChaMPの生理学的機能をさらに改善することができる。
【0155】
外部培養システムを操作することに加えて、組織の厚さを増加させるための別のアプローチは、十分に発達した血管網によって、工作された組織内への栄養と酸素の供給を維持することであってよい。心臓パッチにおける血管内皮細胞と線維芽細胞の埋め込みは、血管内腔形成を有意に増加させ、かくして移植後の細胞生存能力を有意に増加させることが示されている。iPSC由来の心筋細胞と血管細胞の組合せは、インビトロでの組織成熟、生成する管状構造並びに機能性移植片(インプラント)のインビボ結合を強化することができる。さらに、内皮細胞と心筋細胞との共培養は、外部血管床と灌流可能なネットワークを形成することができる管状の内腔をもたらすことができる。組織形成中に予め血管形成された構造体を組み込むことは、機能的血管系を獲得するための別のアプローチでありうる。3D印刷は、原材料と細胞の両方の空間的制御を可能にするので、この目的を達成するのに特に適している。血管構造は、内皮細胞が積層されたバイオインクまたは犠牲材料のいずれかを用いて印刷することができ、続いて内皮化誘導(endothelialization)を行い、印刷された構築物全体にわたって機能的血管新生を生じさせることができる。本明細書に記載されるように、内皮の分化および管形成は意図的に含まれていないが、将来の設計の反復は、内皮の分化および血管網の形成の刺激を含むべきである。1つの可能なアプローチとして、3D印刷されたマイクロカプセルベースのシステムは、空間的に限定された幹細胞分化を利用することによってhChaMPを血管新生するための強力な手段であり得る。
【0156】
hChaMP内の心筋の厚さを増加させることに加えて、このモデルの改善として、心筋細胞および対応するポンプ機能の増強された成熟を挙げることができる。成熟マーカーの発現は、細胞間結合、イオンハンドリング、および興奮収縮連関に関連づけられているが、成熟細胞の整列および筋節の組織化は依然として欠如している。さらに、構造的組織化に加えて、機能的成熟の多数の測定基準(metrics)も、生体ポンプの性能を増大させるために達成すべきである。
【0157】
幹細胞由来心筋細胞の恒久的な批判は、それらが構造的または機能的に成熟していないというものであり、そのためにこの欠陥に対処する文献が大量に出現し続けている。最も普及しているのは、2D培養におけるまたは工作された組織における、幹細胞由来心筋細胞への電気的および機械的刺激の負荷である。中でも注目されるのは、3D組織における幹細胞由来心筋細胞の領域刺激が、イオンのハンドリングおよび活動電位の伝播、並びに細胞の整列および構造的成熟の改善を促進することが示されている点である。さらに、研究者らは、領域刺激を機械的負荷と組み合わせることにより、天然の心臓組織の決定的特徴である正の力-周波数応答を示す新生児ラット心筋細胞を用いて3D組織を作製している。別の場合では、制御された後負荷がhiPSC由来の心臓組織に課され、該組織はその後、正のFrank-Starling法則関係を示した。
【0158】
従って、hChaMPに電気機械的コンディショニングを導入することは、成熟および結果として生じる機能を有意に改善しうると考えられる。さらに、いくつかの改変および改善を伴って、hChaMPは、天然の心臓の特徴的なFrank-Starling法則関係を調べるためのユニークなシステムを提供する。ほとんどの組織工学的構築物におけるこの関係の試験管内(in vitro)評価は、収縮の長さ対結果として生じる力に基づいているが、生理学的には、それは1回拍出量を拡張末期容積に関連づける計量法である。従って、容積を保持することができる組織工学構築物は、この関係を説明するために有益である。hChaMPを用いてこれを達成する際の主な制限は、制御された前負荷(pre-load)の発生を排除する弁膜構造が欠けていることである。弁を組み込んだ灌流バイオリアクターは、hChaMP内に圧力の生成を可能にするだけでなく、構築物の充填容量の制御も可能にするだろう。フィールド刺激と同期して、このようなシステムは、成熟を促進するための電気機械的コンディショニング、より多くの生理学的圧力-容積ループの生成、および1回拍出量と前負荷に基づいたFrank-Starling法則関係を測定する能力を可能にする。短期間で、この目的を達成するために最も実現可能な方法は、管の入口と出口に取り付けられるチューブに機械弁を組み込むことである。しかしながら、組織工学により作製された弁を使用することもでき、これは心房と心室の両方の充填のための弁を備えた4室構造体の構築を可能にするであろう。
【0159】
hChaMPに電気機械的刺激を組み込む際に、考慮すべき因子はコンディショニングのタイミングであろう。幹細胞由来心筋細胞が分化後に機械的に刺激される段階は、その結果得られる成熟のレベルに影響を及ぼすことがあり、そして初期段階の心筋細胞はこの処置に対してより応答性である。しかしながら、hChaMPの心筋細胞はその場で(in situ)分化するので、分化の完了前に、これよりも早期にコンディショニングを行うことができる。心外膜脂肪から誘導することができる前駆細胞の電気的刺激は、これらの細胞から分化する心筋細胞の成熟を促進する。このことは、分化中期の(mid-differentiation)電気機械的刺激がhChaMPの文脈において有益であり得ることを示唆している。
【0160】
電気的および機械的刺激に加えて、心筋細胞成熟を促進するために探索されている無数の可溶性因子が存在する。これらの中でも、ホルモンであるトリヨード-L-チロニン、α-アドレナリン作動性アゴニストであるフェニレフリン、およびインスリン様増殖因子が挙げられる。マイクロRNAは、幹細胞由来心筋細胞の代謝的成熟を駆動するうえで重要な役割を果たすことも示されている。電気的および物理的な合図(キュー)と共に可溶性シグナルを組み込むことにより、hChaMPから更に成熟した心筋細胞への道筋を提供することができる。
【0161】
従って、本明細書中に記載のバイオインクおよび構造体は、室に仕切られた複雑な構造においてマクロスケールの拍動機能を可能にすることができる。このアウトカムは、分化の前に広範囲な幹細胞増殖を可能にしそして厚さ500μmまでの連続下筋肉壁を生成する例示的なバイオインクによって可能になった。このアプローチは、分化後に貧弱な増殖性と移行能力を有する多数の別の細胞型に適用することができた。最後に、ここに示された生存ヒトポンプおよび将来設計の反復は、マルチスケールでのインビトロ心臓学アッセイ、損傷および疾患のモデル化、医療装置の検査、および再生医学研究のための用途を見出すだろう。これらは臨床的に関連したアウトカムへと一層容易に移行するだろう。
【0162】
次の例をここに記載する。例1:ゼラチンメタクリレートとコラーゲンメタクリレートとを含むバイオインク組成物。
【0163】
例2:フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩をさらに含む、例1のバイオインク組成物。
【0164】
例3:mTeSR培地、20重量/容積%の20 mM酢酸、および1重量/容積%の1M NaOHをさらに含む、例2のバイオインク組成物。
【0165】
例4:前記溶媒が約74重量/容積%の20 mM酢酸、20重量/容積%の20 mM酢酸、および1重量/容積%の1M NaOHを含む、例3のバイオインク組成物。
【0166】
例5:前記バイオインク組成物が約10重量/容積%のゼラチンメタクリレート、約0.25重量/容積%のコラーゲンメタクリレート、および約0.5重量/容積%のフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩を含む、例1~4のいずれかのバイオインク組成物。
【0167】
例6:フィブロネクチンまたはラミニンのうちの少なくとも1つをさらに含む、例1~5のいずれかのバイオインク組成物。
【0168】
例7:前記組成物が、約100ミリグラム/ミリリットル(mg/mL)のコラーゲンメタクリレート;約2.5 mg/mLのゼラチンメタクリレート;約5 mg/mLのフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩;約93.8マイクログラム/ミリリットル(μg/mL)のフィブロネクチン;および93.8μg/mLのラミニンを含む、例1~6のいずれかのバイオインク組成物。
【0169】
例8:ヒト人工多能性幹細胞をさらに含む、例1~7のいずれかのバイオインク組成物。
【0170】
例9:前記ヒト人工多能性幹細胞が、サイクリンD2(CCND2)を過剰発現するヒト人工多能性幹細胞を含む、例8のバイオインク組成物。
【0171】
例10:前記ヒト人工多能性幹細胞が心筋細胞前駆体を含む、例8のバイオインク組成物。
【0172】
例11:心筋細胞をさらに含む、例1~10のいずれかのバイオインク組成物。
【0173】
例12:前記バイオインク組成物が心筋細胞へのヒト人工多能性幹細胞の分化を促進するように構成される、例1~11のいずれかのバイオインク組成物。
【0174】
例13:例1~12のいずれかのバイオインク組成物を使って三次元構造体を印刷することを含む方法。
【0175】
例14:例1~12のいずれかのバイオインク組成物を使って三次元構造体を印刷することが、バイオインクを使って三次元構造体を印刷して少なくとも1つの室を構築することを含む、例13の方法。
【0176】
例15:前記三次元構造体が、ヒト人工多能性幹細胞を含み、そして前記方法が、小分子でWnt/β-カテニン経路を調節することによりヒト人工多能性幹細胞を心筋細胞へと分化するように誘導することをさらに含む、例13および14のいずれかの方法。
【0177】
例16:ゼラチンメタクリレート、コラーゲンメタクリレート、およびフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩から構成されるバイオインクを使って三次元構造体を印刷することを含む方法。
【0178】
例17:前記バイオインクを使って三次元構造体を印刷することが、バイオインクを使って三次元構造体を印刷して少なくとも1つの室を構築することを含む、例16の方法。
【0179】
例18:前記三次元構造体がヒト人工多能性幹細胞を含み、そして前記方法が、小分子でWnt/β-カテニン経路を調節することによりヒト人工多能性幹細胞を心筋細胞へと分化するように誘導することをさらに含む、例16および17のいずれかの方法。
【0180】
例19:前記ヒト人工多能性幹細胞を心筋細胞へと分化するように誘導することが、ヒト人工多能性幹細胞を、心臓組織に近似した細胞密度を有する心筋細胞へと分化するように誘導することを含む、例16~18のいずれかの方法。
【0181】
例20:ゼラチンメタクリレート;コラーゲンメタクリレート;フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩;フィブロネクチン;ラミニン;およびmTeSR培地、酢酸および水酸化ナトリウム(NaOH)を含む溶媒を含む、バイオインク組成物。
【0182】
例21:前記バイオインク組成物が、約10重量/容積%のゼラチンメタクリレート;約0.25重量/容積%のコラーゲンメタクリレート;および約0.5重量/容積%のフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム塩を含む、例21のバイオインク組成物。
【0183】
様々な例を記載してきた。それらおよび他の例は下記の特許請求の範囲内に含まれる。