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特許7384477再生可能エネルギー源を使用して恒常的に二酸化炭素を隔離するためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】再生可能エネルギー源を使用して恒常的に二酸化炭素を隔離するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/40 20060101AFI20231114BHJP
   B01D 53/14 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
E21B43/40
B01D53/14 200
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022121235
(22)【出願日】2022-07-29
(65)【公開番号】P2023024948
(43)【公開日】2023-02-21
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】63/230,843
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/705,792
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522303803
【氏名又は名称】プロトスター・グループ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PROTOSTAR GROUP LTD.
【住所又は居所原語表記】100 Cannon Street, London, EC4N 6EU,Great Britain
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】タラル・ハサン
(72)【発明者】
【氏名】カラン・キムジ
(72)【発明者】
【氏名】イーハブ・テスファイ
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-011964(JP,A)
【文献】特開2015-078677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0009561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00-49/10
B01D 53/14-53/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギー源を使用したin situ鉱化による二酸化炭素隔離のための方法であって、
一定量の二酸化炭素を水へと溶解させて二酸化炭素と水の混合液を形成することと、
一定量の前記二酸化炭素と水の混合液を、注入坑井(220、320、1020)を介して、かんらん岩を含む岩層へと注入することであって、前記二酸化炭素と水の混合液は、前記岩層内に配置された前記注入坑井または注入坑井配管を通して流され、前記注入坑井及び/または前記注入坑井配管は、前記岩層内で0.4~4kmの深さにおいて複数の縦穿孔を有する、前記注入することと、
観測坑井(230、330、1030)を介して前記岩層からの水を再循環させることと、
前記二酸化炭素と水の混合液中の二酸化炭素を前記岩層と反応させて、方解石及び菱苦土石を形成することと、
を含む、前記二酸化炭素隔離のための方法。
【請求項2】
前記注入坑井及び前記観測坑井は同一の深さを有している、請求項1に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
【請求項3】
前記縦穿孔は少なくとも15cmの長さ(l)を有し、前記注入坑井配管及び任意選択で前記注入坑井(220、320、1020)内の坑井ケーシングに沿った前記穿孔の密度は、透過ゾーンにおける流体流量に応じて選択される、請求項1に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
【請求項4】
前記再生可能エネルギー源は、太陽エネルギー、風力エネルギー、バイオ燃料エネルギー、水力、地熱エネルギー、及びその他のグリーンエネルギー源からなる群から選択される、請求項1に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
【請求項5】
水を再循環させて貯蔵タンク(340)に戻す工程をさらに含む、請求項1に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
【請求項6】
前記注入中に、前記注入坑井(220、320、1020)内の圧出区間の下に高圧ゾーンが生成され、前記観測坑井(230、330、1030)を通した前記再循環中に低圧ゾーンが生成される、請求項5に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素と水の混合液の大部分は前記高圧ゾーンから前記低圧ゾーンへと流れ、流体容積の大部分は前記観測坑井(230、330、1030)を通って再循環される、請求項6に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
【請求項8】
再生可能エネルギー源を使用したかんらん岩in situ鉱化の制御された強化のためのシステムであって、
岩層内に穿たれ非腐食性坑井ケーシングを備えた注入坑井(220、320、1020)と、
前記注入坑井内に配置された非腐食性注入坑井配管と、
前記注入坑井配管に連結され前記注入坑井内に配置されたパッカーモジュール(312、1012)と、
再生可能エネルギー源と、
前記再生可能エネルギー源に連結されたガス溶解モジュール(310)であって、二酸化炭素と水の混合液の排出ポートを備える前記ガス溶解モジュール(310)と、
を備える、前記システム。
【請求項9】
前記パッカーモジュール(312、1012)は、注入区間を前記注入坑井(220、320、1020)内の所定の深さにおいて流体単離するための膨張式ユニットである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記パッカーモジュール(312、1012)は最短1mのシール長を有し、前記システムは、
- 地上パッカー制御装置と、
- 前記パッカーモジュールの上流端及び下流端にあるインライン静水圧センサーと、
- インライン圧力センサーと、
- 注入ヘッドユニット及びポンプヘッドユニットと、
- 配線、データ取得、及びライブモニタリングのためのチャネルと、
を備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記再生可能エネルギー源は、太陽エネルギーモジュール、再生可能エネルギー貯蔵モジュール、風力タービン、水力、バイオ燃料発電機、及びその他の再生可能エネルギー源からなる群から選択されるハイブリッドエネルギー源である、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記再生可能エネルギー源は、太陽光発電パネル、ソーラーインバータ、同期型バイオ燃料発電機、エネルギー貯蔵モジュール、ならびにコントロールパネル及び開閉装置のうちの1つ以上を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項13】
前記再生可能エネルギー源は、地上モジュール及び地下モジュールに電力を供給する、請求項11または請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記ガス溶解モジュールは、前記注入坑井配管より前の二酸化炭素の水へのガス移動のために地上に設置される、請求項8に記載のシステム。
【請求項15】
前記ガス溶解モジュールは、1分間あたり最低15リットルのガス流量、最低8バールのガス圧、及び最低温度20℃で注入するように構成される、請求項14に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、かんらん岩の岩層内に恒常的に二酸化炭素(CO)を隔離するためのシステム及び方法に関する。より詳細には、本開示は、かんらん岩と隔離される二酸化炭素源との間の自然に発生するかんらん岩の炭酸塩化を加速及び制御することに関する。本開示はまた、産業排出、大気から捕捉される二酸化炭素、または流体中に含まれる二酸化炭素を恒常的に隔離するための方法に関する。本開示はまた、炭素捕捉プラント及び炭素貯留プロセス装置向けの再生可能エネルギー源の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
過去1世紀にわたって、産業活動、特に化石燃料の消費により、大気中のCOの濃度が劇的に増加した。この地球規模の炭素循環に対する人為的影響が、過去数十年間に観測された気候変動の主な理由である。地球規模の気候変動は、ハリケーン、干ばつ、洪水、氷河後退、及び海面上昇など、様々な他の現象と関連している。地球温暖化に関する最近の国連環境計画報告書によると、「21世紀じゅうずっと人間の影響は大気組成を変化させ続け」、これらの人間の活動の中で最も大きく負担となっているのが二酸化炭素である。COは、石炭、石油または天然ガスのような化石燃料、及びバイオマスのような再生可能燃料の燃焼によって、例えば、土地の開墾中に森林を燃やすことによって、ならびに特定の産業及び資源抽出プロセスによって、大気中に放出される。その結果、「化石燃料の燃焼によるCOの排出は、21世紀の間の大気中のCO濃度の動向に支配的な影響を及ぼすことは事実上確かなこと」であり、「世界平均気温及び海面の上昇が予測されている」。
【0003】
そのため、大気からCOを除去する効果的な炭素捕捉及び貯蔵(CCS)法を開発するために多大な努力がなされてきた。化学的風化は、地質学的時間スケールで大気中のCO濃度を制御するゆっくりとしたプロセスである。いくつかの先行技術文献は、地球規模の気候変動に対抗するために化学的風化を加速させることを提案している。風化を促進する目的は、ケイ酸塩鉱物の風化速度を速めて、溶存無機炭素の形で及び/または炭酸塩鉱物として、大気からのCOの除去を加速させることである。溶解速度が比較的速いため、風化の促進は苦鉄質岩及び超苦鉄質岩に集中している。
【0004】
Mgの濃度が高いため、地球の上部マントルから地質構造上露出したかんらん岩は、主として鉱物のかんらん石((Mg、Fe)SiO)、より低い比率の輝石鉱物((Mg、Fe、Ca)SiO)及び尖晶石((Mg、Fe)(Cr、Al)O)で構成されており、その含水変質物である蛇紋石(MgSi(OH))は、大気中の二酸化炭素を固体炭酸塩に変換するための有望な反応物と考えられている。かんらん岩の天然の炭酸塩化は、他の種類の岩石に比べて驚くほど急速であることが分かっている。例えば、オマーンのマントルかんらん岩の炭酸塩鉱脈の平均年数は、約26,000年であり、以前考えられていたような3000万~9500万年ではない。これらのデータ及び調査マッピングは、年間約104~105トンの大気中の二酸化炭素が、オマーンのかんらん岩風化を介して固体炭酸塩鉱物に変換されることを示している(Peter B.Kelemen and Jurg Matter,In situ carbonation of peridotite for CO storage,PNAS November 11,2008 105(45)17295-17300)。
【0005】
マントルかんらん岩は、通常、海底下6kmを超える深さにあり、地表では大気及び水との平衡から大きく外れている。大きな衝上断層及び地質構造プレート境界に沿って露出し、化学ポテンシャルエネルギーの大きな貯蔵層を形成する。利用可能な化学ポテンシャルがあるにもかかわらず、炭素隔離のための工学技術には多くの課題がある。工学技術的解決策には、かんらん岩を微粉末に粉砕し、反応容器を高圧で使用して二酸化炭素ガスを精製し、及び/または反応物を摂氏100度以上に加熱することが含まれ、これはかなりの財政的コスト及びエネルギーコストを伴う。
【0006】
高温でのかんらん石及び蛇紋石粉末の直接炭酸塩化、塩酸中へのかんらん石または蛇紋石の溶解とそれに続く溶液中でのMg及びカチオン類の炭酸塩化、ならびにかんらん石及び蛇紋石と炭酸との反応(天然変質作用と非常に類似した)を含む各種方法がこれまでに実験的に評価されている。反応表面積を拡大させるために、かんらん石または蛇紋石反応物の温度を摂氏100度を超えて上昇させ、微粉末に粉砕し、及び/または摂氏600度を超える温度で前処理しない限り、反応速度は二酸化炭素の有意な隔離には遅すぎることが分かっている。ほとんどの場合、加熱及び処理に対する必要条件が理由で、これらのアプローチは、経済的な観点ではあまりにも高価であり、より重要なことに、エネルギー消費においては、現時点では商業的に実行可能でないことが判明している。
【0007】
US9193594B2は、in situ及びex situの両方でかんらん岩の炭酸塩化速度を加速させる方法及びシステムについて開示している。いくつかの実施形態では、方法及びシステムは、多量のかんらん岩を破砕することと、多量のかんらん岩を加熱することと、多量のかんらん岩に調整可能な流量の二酸化炭素を注入することと、多量のかんらん岩に重炭酸塩材料を注入することと、発熱反応で多量のかんらん岩及び二酸化炭素で炭酸塩を形成し、それにより自動継続の熱源を生成することとを含み、該熱源は多量のかんらん岩を加熱するものである。
【0008】
US8524152B2は、かんらん岩のin situ炭酸塩化の速度を加速させる方法及びシステムについて開示している。いくつかの実施形態では、方法及びシステムは、in situで多量のかんらん岩を破砕することと、in situで多量のかんらん岩を加熱することと、in situで多量のかんらん岩に二酸化炭素を注入することと、in situで多量のかんらん岩及び二酸化炭素で炭酸塩を形成することと、を含む。
【0009】
US9266061B2は、地表及び地表近くに豊富に存在するかんらん岩火成岩(または化学的成分が類似した物質:玄武岩、斑糲岩、ダナイト、角閃岩、人工的に製造されたCa、Mg酸化物)が、産業活動によって発生するCOガスを吸収して含有することができるという事実を利用して、COを排出する産業プラントからのCOを処理するフィルターについて開示している。この化学的プロセスは自然に起こるが、大気中に放出される高濃度のCOを捕捉するために利用されたことはない。かんらん岩の酸化カルシウム及び酸化マグネシウムはCOと反応して、安定した炭酸塩鉱物を形成する。この発明は、石油、ガス、石炭、セメント/コンクリート及びCO排出産業からのCOなどの産業汚染物質を改質するためのこの自然プロセスを促進及び加速させ、建設(コンクリート)、鉄鋼、航空、及び農業ならびにその他の産業における材料用の資源を提供している。
【0010】
JP2007283279Aは、廃棄物などの有害物質及び汚染物質によって汚染された土壌を分解、不溶化、及び/または浄化し、土壌の環境基準以下のレベルで長期間にわたって汚染物質を抑制し、処理中のその反応過程を通じて空気中の二酸化炭素を自然に吸収かつ分解する、地球温暖化抑制技術について開示している。汚染物質の種類に応じて、軽焼菱苦土石、軽焼ドロマイト、溶成リン肥または焼成貝殻粉末を添加及び/または混合することによる可溶化の長期間の実施に加えて、汚染物質を分離及び/または分解するために、未焼成かんらん岩を主成分とする汚染物質処理剤が使用される。このようにして、汚染された領域が浄化される。さらに、この薬剤は、この薬剤を使用する過程中に空気中の二酸化炭素を大量に吸収するため、低コスト及び低環境負荷型の地球温暖化抑制技術として効果がある。
【0011】
CN108658104Aは、マグネシアの純度と回収率を高めるために、選鉱、粉砕、精製及び不純物除去、浮遊選鉱処理、マグネシウム沈降処理、不純物の酸浸出除去、浮遊選鉱精製、沈殿物分離などの処理工程を含む、マグネシアの一種のかんらん岩鉱石生産中のマグネシウム沈降技術について開示している。この方法は、最大99.7%以上、及び最大89.7~94.2%のマグネシア純度を提供することが開示されている。
【0012】
PCT/EP2020/064306(WO/2020/234464)は、地質学的貯蔵層における二酸化炭素(CO)及び/または硫化水素(HS)を減少させる方法及びシステムについて開示している。水は、水源から注入坑井にポンプで汲み上げられるか、または移送される。水の水圧が合流点でのCO及び/またはHSガスの圧力よりも低い条件下で、ガスは水と合流する。CO及び/またはHS気泡を含む水は、上記CO及び/またはHS気泡の上昇流速よりも高いある一定の速度でさらに下方に移動し、それにより気泡を確実に下方移動させ、圧力が上昇することに起因する上記CO及び/またはHSの水中への完全な溶解をもたらす。完全な溶解により、CO及びHSの減少をもたらす鉱物反応を促進するために必要な、地質学的(例えば、地熱)貯蔵層に入る水のpHが確実に低下する。この減少は、トレーサー物質を所定のモル比で上記溶解したCO及び/またはHSに溶解させることによって定量化し、かつモニタリング坑井でモニタリングすることができる。
【0013】
大規模かつ環境影響を低減した、効率的で実用的なCO鉱化のための改善された方法及びシステムが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
本開示は、再生可能エネルギーを使用したかんらん岩へのCO鉱化のための効率的かつ制御された方法を提供する。かんらん岩は、かんらん石及び輝石などのケイ酸塩鉱物を主に含むことが知られている。これらの種類の鉱物は、可溶化されたCOの存在下で活性し、種々の炭酸塩岩を生成する。本開示は、可溶化された二酸化炭素(水-CO混合液)をかんらん岩の岩層に注入し、鉱化反応を起こすための操作条件(温度及び圧力)を操作することによって、効率的な反応経路を作り出すといった着想に基づく。その結果として、COは菱苦土石(MgCO)及び方解石(CaCO)に変換され、鉱物形態で岩層に恒常的に貯蔵される。
【0015】
第1の態様は、再生可能エネルギー源を使用したin situ鉱化による二酸化炭素隔離の方法に関し、該方法は、
- 一定量の二酸化炭素を水に溶解させて二酸化炭素と水の混合液を形成する工程と、
- 一定量の上記二酸化炭素と水の混合液を、注入坑井を介して、かんらん岩を含む岩層へと注入することであって、該二酸化炭素と水の混合液は、岩層内に配置された注入坑井または注入坑井配管を通して流され、該注入坑井及び/または注入坑井配管は、岩層内で0.4~4kmの深さにおいて複数の縦穿孔を有する、注入する工程と、
- 観測坑井を介して上記岩層からの水を再循環させる工程と、
- 上記二酸化炭素と水の混合液中の二酸化炭素を上記岩層と反応させて、方解石及び菱苦土石を形成する工程と、を含む。
【0016】
上記の実施形態によれば、上記岩層は、主にかんらん岩からなる。
【0017】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、上記注入坑井及び観測坑井は同一の深さを有している。
【0018】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、上記縦穿孔は少なくとも15cmの長さ(I)を有し、注入坑井配管及び任意選択で注入坑井内の坑井ケーシングに沿った上記穿孔の密度は、透過可能ゾーンにおける流体流量に応じて選択される。
【0019】
上記の実施形態によれば、上記穿孔のそれぞれは、坑井ケーシング内で少なくとも15cmの間隙(R)で半径方向に離れている。
【0020】
第1の態様の実施形態によれば、上記再生可能エネルギー源は、太陽エネルギー、風力エネルギー、バイオ燃料エネルギー、水力、地熱エネルギー、及びその他のグリーンエネルギー源からなる群から選択される。
【0021】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、上記方法は、再循環された水を再循環させて貯蔵タンクに戻すことをさらに含む。
【0022】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能な別の実施形態によれば、注入中に、上記注入坑井内部の圧出区間の下に高圧ゾーンが生成され、観測坑井を通した再循環中に低圧ゾーンが生成される。
【0023】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能なさらに別の実施形態によれば、二酸化炭素と水の混合液の大部分は高圧ゾーンから低圧ゾーンに流れ、水の流体容積の大部分は観測坑井を通って再循環される。好ましい実施形態によれば、注入された水の少なくとも50%が再循環され、より好ましくは、80%~100%の水が再循環される。
【0024】
第2の態様は、再生可能エネルギー源を使用したかんらん岩in situ鉱化の制御された強化のためのシステムに関し、該システムは、
- 岩層に穿たれ非腐食性坑井ケーシングを備えた注入坑井と、
- 注入坑井内に配置された非腐食性注入坑井配管と、
- 注入配管に連結され注入坑井内に配置されたパッカーモジュールと、
- 再生可能エネルギー源と、
- 再生可能エネルギー源に連結されたガス溶解モジュールであって、二酸化炭素と水の混合液の排出ポートを備えるガス溶解モジュールと、を備える。
【0025】
上記の第2の態様の実施形態によれば、上記パッカーモジュールは、注入区間を注入坑井内の所定の深さにおいて流体単離するための膨張式ユニットである。
【0026】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能な別の実施形態によれば、パッカーモジュールは、水溶液及びガスのうち1つ以上を膨張するように構成される。
【0027】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能なさらに別の実施形態によれば、システムは、
- 最短1mのシール長を有するパッカーと、
- 地上パッカー制御装置と、
- 上記パッカーの上流端及び下流端にあるインライン静水圧センサーと、
- インライン圧力センサーと、
- 注入ヘッドユニット及びポンプヘッドユニットと、
- 配線、データ取得、及びライブモニタリングのためのチャンネルと、をさらに備える。
【0028】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能な第2の態様の別の実施形態によれば、再生可能エネルギー源は、太陽エネルギーモジュール、再生可能エネルギー貯蔵モジュール、風力タービン、水力、バイオ燃料発電機、及びその他の再生可能エネルギー源からなる群から選択されるハイブリッドエネルギー源である。
【0029】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能なさらに別の実施形態によれば、上記再生可能エネルギー源は、太陽光発電パネル、ソーラーインバータ、同期型バイオ燃料発電機、エネルギー貯蔵モジュール、ならびにコントロールパネル及び開閉装置のうち1つ以上を含む。
【0030】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能なさらに別の実施形態によれば、上記再生可能エネルギー源は、地上モジュール及び地下モジュールに電力を供給する。
【0031】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能なさらに別の実施形態によれば、ガス溶解モジュールは、注入坑井配管より前の二酸化炭素の水へのガス移動のために地上に設置される。
【0032】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能なさらに別の実施形態によれば、上記ガス溶解モジュールは、1分間あたり最低15リットルのガス流量、最低8バールのガス圧、及び最低温度20℃で注入するように構成される。
【0033】
上記のさらなる実施形態によれば、上記ガス溶解モジュールは、非腐食性坑井注入配管内の水流に100マイクロメートル未満のサイズの気泡を坑井注入配管内の水流に注入するように構成される。
【0034】
上記の実施形態と自由に組み合わせ可能なさらに別の実施形態によれば、上記坑井ケーシングは、直径約18~23cm(7~9インチ)である。
【0035】
別の実施形態によれば、上記坑井ケーシングは、少なくとも15cmの長さ(I)の縦穿孔を含む。
【0036】
好ましくは上記穿孔のそれぞれは、少なくとも30cmの間隙(L)で縦方向に離れている。これらの穿孔及びそれらの間隔を図11に概略的に示し、この図には、坑井ケーシングの縦断面(A)に加えてその横断面(B)に、長さ(I)、ならびに切り込み間の縦方向間隔(L)及び半径方向間隔(R)が示されている。
【0037】
前述したように、かんらん岩は、かんらん石及び輝石の2つの種類のケイ酸塩鉱物を含有している。かんらん石岩は、多くの場合、マグネシウム、酸素、及びケイ素を含有している。かんらん石は、深さ700kmまでの地球のマントルで最も豊富な鉱物である。その組成は、通常、SiOとMg2+との組み合わせである。典型的には、4つの酸素分子とケイ素が結合してピラミッド構造を形成し、カチオン及びアニオンの電荷が釣り合い、Mg2+がSiO構造の間の空の空間を占有する。これらの結合は、炭酸との反応を容易に引き起こすことができる。かんらん石とCOとの反応は、次の反応経路によって行われ得る。
MgSiO + 2CO → 2MgCO + SiO [1]
【0038】
水を導入することによって反応速度が著しく上がることも明らかとなっている。水は、COが可溶化されて炭酸を形成するのを助け、それにより、鉱化及びイオン交換プロセスを非常に簡単にかつより効率的にする。以下は、水の存在下での反応経路である。
CO + HO → HCO → H + HCO [2]
MgSiO + 4H → Mg + SiO + 2HO [3]
Mg2+ + HCO → MgCO + H [4]
【0039】
かんらん岩は、主に鉱物のかんらん石及び輝石を含有する。水及びCOの存在下では、以下の反応が起こる。
MgSiO(かんらん石) + CaMgSi(輝石) + 2CO + 2HO → MgSi(OH)(蛇紋石) + CaCO(方解石) + MgCO(菱苦土石)
【0040】
本開示は、上記の反応経路(特に式2~6)を利用して、本発明の第1の態様として上述したようにCOをかんらん岩に変換及び/または貯蔵する方法に関する。提案する方法はまた、上記の反応速度を高め、その結果、注入から2~12ヶ月以内に注入したCOの総量の完全な鉱化をもたらす。本発明はまた、温度、圧力、流量(岩石の透過性に依存する)など、プロセス効率に影響を与え、改善された隔離が得られる種々の操作条件も開示する。本発明のいくつかの実施形態はまた、再生可能エネルギーの利用、水ルーピング、ならびにプロセス構成及び設計などの技術的態様も対象として含む。
【0041】
別の態様は、輝石鉱物を利用した二酸化炭素隔離の方法に関する。輝石は、イノケイ酸塩鉱物のグループのうちの1つであり、輝石もかんらん岩中に豊富に含まれている。輝石の一般的な化学式は、AB(Si)であり、式中Aはナトリウム(Na)、カルシウム(Ca2+)、マンガン(Mn2+)、鉄(Fe2+)、マグネシウム(Mg2+)及びリチウム(Li)などのカチオンであり得、Bは、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、鉄(FeII)もしくは亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)もしくはリチウム(Li)であり、Bは、マンガン(Mn2+)、鉄(Fe2+、Fe3+)、マグネシウム(Mg2+)、アルミニウム(Al3+)、クロム(Cr3+)、チタン(Ti4+)である。最も一般的には、輝石は、しばしばCaMg(SiOとして見いだされる場合がある。自然では、輝石は、次式に従ってCOと反応する。
CaMg(SiO + 2CO → CaMg(CaCO + 2SiO [5]
【0042】
ただし、かんらん石と同様に、水は反応速度を上げるため、水の存在下では、CO-輝石の反応の反応経路は下式のようになる。
CaMgSiO + CO + HO → CaMgSi22(OH) + CaCO + SiO [6]
【0043】
図面は、本発明を説明する目的において、本開示主題の実施形態を示す。しかしながら、本出願が、以下の図中に示す正確な構成及び手段に限定されないということを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本開示主題の一部の実施形態に記載のシステム及び方法の概略的なプロセスフロー図である。
図2】本開示主題の一部の実施形態に記載のシステム及び方法の概略的なプロセスフロー図である。
図3】本開示主題の一部の実施形態に記載のシステム及び方法の概略的なプロセスフロー図である。
図4】本開示主題の一部の実施形態に記載の再生可能エネルギーモジュールを示す。
図5】岩層の空隙率のレベルを示す検層データの図表である。
図6】本開示主題の一部の実施形態に記載のシステム及び方法の未加工及び加工済みの圧力及び流量のデータの2つの図表を示す。
図7】本開示主題の一部の実施形態に記載のシステム及び方法のパッカー圧力を示す図表である。
図8】本開示主題の実施形態に記載のシステム及び方法を実施した5日間の試験処理中に記録された水質モニタリング結果(アルカリ度、完全溶解固体物質(TDS)、電気伝導率(EC)、及びpH)を示す図表である。
図9】本開示主題の実施形態に記載のシステム及び方法の5日間の試験処理中の圧力及び流量を示す。
図10】本実施例に使用したセットアップに対応する実施形態を概略的に示す。
図11】坑井ケーシングの縦断面(A)ならびに断面(B)(穿孔の長さ(l)、縦方向間隔(L)及び半径方向間隔(R)を示す)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
ここで図1を参照すると、記載した実施形態は、かんらん岩のin situ炭酸塩化を介して二酸化炭素を隔離するためのシステム及び方法を含む。このシステムは、炭素捕捉モジュール(B)と、ボアホールを通してCOを、鉱化のプロセス(M)が生じるかんらん岩層(P)へと供給する注入モジュール(110)、回収システム及びモニタリングモジュール(120)を備えている加速in situ CO鉱化のためのシステム(A)とを示し、上記システムは、エネルギー発電及び/または貯蔵モジュール(C)、例えば、2つの非限定的な例を挙げると、ソーラーパネルまたはバイオ燃料駆動式発電機からの再生可能エネルギーによる電力供給を受けている。直接捕捉モジュール(B)において、周囲空気(AA)は、COと反応してCOを捕えることができる1種または複数種の化学物質、例えば、水酸化カリウムと空気が接触することになる接触システムを介して循環し、濃縮及び精製され、その後、捕捉されたCOは圧縮される。圧縮されたCOをシステム(A)へと直接供給してもよく、または、in situ鉱化部位(A)に貯蔵及び移送してもよい。
【0046】
図2を参照すると、本開示発明の一部の実施形態は、水貯蔵モジュール(210)、二酸化炭素注入モジュール及び注入坑井(220)、かんらん岩層(ここでは、実質的に水平の層(P)として概略的に示している)、ならびに炭酸塩化反応をモニター及び制御するための観測坑井モジュール(230)を備えた水循環システムを含む。このプロセスは、好適な場所を同定することによって開始されるが、かんらん岩の層は少なくとも0.5kmの厚みである。このかんらん岩の層内に注入ボアホールをあける。上記ボアホールは少なくとも0.5kmの深さ及び最大1.8kmの深さでなければならず、好ましい深さは0.8~1.2kmの深さである。2ホール間に流体接続が生じるように観測ボアホールを注入ボアホールに沿ってあける。注入ボアホールに、地層内のかんらん岩の鉱化のために標的エリアに穿たれた工作坑井ケーシング(好ましくは鋼鉄またはコンクリート製)を取り付ける(さらなる詳細については、図11及び、さらに以下の本文を参照のこと)。連続注入プロセスでは、水を最初に、観測ボアホールまたは別の供給源から地上のバッファ貯蔵タンクへとポンプで汲み上げる。バッファタンクを取り付けて、異なる供給源、例えば、地下水資源、海水、処理水などから水を受け入れる。次に、一組のブースターポンプを使用することにより、周囲温度の水を、圧力により、注入パイプラインから注入ボアホール坑井ヘッドへとポンプで汲み上げる。1kmの深さの地層温度は約60~80℃である。この地層へと水をポンプで送ることはまた、その場所における温度の制御に役立ち、その結果、反応速度に対するより優れた制御がもたらされる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態では、水の循環を利用して、CO固定化プロセス(隔離)中における水の消費、ロス、及び/または使用を最小化する。地下地層(例えば、岩層またはかんらん岩層)内へと注入した水の量と回収坑井(例えば、観測ボアホール、モニタリングボアホール、または戻り坑井)において回収された水の量の水質量比率は、好ましくは、1:1に近い。ボアホール内に注入した水が岩層内へと入り込む侵入位置を工作すること、及び/または、割れ目または亀裂を備えた岩層の工作により、水の総合的な回収率を向上させる機能が得られ、水のロスが抑制される。注入ボアホールから地層へと入り込む水流は、注入ボアホールの内側に存在する坑井配管内または地層と接触するボアホールを取り囲むケーシング内における縦穿孔の慎重な配置によって、方向付けすることができる。好ましくは、穿孔は、注入ボアホールのボアホール壁から戻り坑井のボアホール壁への最短直線距離に相当する、注入のゾーン内に配置される。ボアホール内の穿孔は、ボアホールの片側の半球のみにおいて、ボアホールのケーシング内に配置されており、例えば、半球は、最短ボアホール-ボアホール間直線距離を包含する。このように穿孔を配置することにより、回収坑井から離れた方向への不必要または意図しない水の流れが抑制されるように作用する。回収坑井と流体連通している亀裂及び割れ目に穿孔を配列させることもまた、好ましい場合がある。
【0048】
縦穿孔は、好ましくは、上部境界面に近接した地層の標的ゾーンの内側である注入ボアホール内の深さに存在する。段階的により深いボアホールの深さの別の穿孔(しかし、好ましくは、同一半球内にある)は、かんらん岩含有岩層の最大深度に近接したボアホールへと下方に広がっていてもよい。回収ボアホールは、好ましくは、注入ボアホールの穿孔の最大深度と少なくとも同一の深さを有している。その他の実施形態では、回収ボアホールは、重力によって流れる水が回収ボアホールのより深い部分においてプールまたは収集されることになるように、注入ボアホールの最深穿孔よりも深い深さを有しており、その結果、水のロスが最小化される。回収ボアホールの深さは、好ましくは、かんらん岩を主に含む岩層の最大深度以浅である。
【0049】
水が岩層を通過するにつれて、水の総溶解固形分が減少する可能性がある。このように、回収ボアホールは、注入ボアホールに最初に注入された水(COに富む流体混合物)よりも純度の高い水を収集する。食塩水、汽水及び/または海水は、注入ボアホールを通過した後、岩層及び回収ボアホールを通過した後、全固形分が減少する可能性がある。
【0050】
同様に、水ループは、例えば、注入ボアホールへの注入前に回収ボアホールで収集された水を処理する際など、水の地上での取り扱い及び処理に利用される。好ましくは、注入ボアホールに注入された水の少なくとも大部分は、後で注入ボアホールへ追加のCOを注入するために、再循環または再利用される。好ましくは、回収ボアホールから得られた水はすべて、さらにCOを追加した後に注入ボアホールで使用される。このように水をループさせることで、岩層に注入する前に水を事前浄化する必要が最小限に抑えられ、水の再利用と再循環が最大化される。
【0051】
回収ボアホールは、好ましくは、水がより容易に回収ボアホールに入り、収集できるように、ケーシングされていない坑井である。他の実施形態では、回収ボアホールは部分的にケーシングされ、少なくともターゲットゾーンを通過するボアホールの長さの大部分はケーシングされないままである。回収ボアホールの部分的なケーシングにより、多孔性であることがある及び/または、そうでなければ、水の回収が不可能である他の地下の岩層と流体連通し得るターゲットゾーンの上及び/または下の地層での水のロスが減少する。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、COに富む流体混合物は、好ましくは25~30℃±15℃、好ましくは±10℃、より好ましくは±5℃の周囲温度で注入ボアホールを通して地層に注入される。当業者によって認識されるように、温度が低いほど、より多くの量のCOを溶解することができる。本発明のこの態様は、回収坑井、観察坑井、またはモニタリング坑井から得られる戻り流体の蒸発冷却に特に適している。
【0053】
地層に注入されたCOに富む流体混合物中のCOの固定は、好ましい実施形態では、本質的に完了する。例えば、注入ボアホールに注入されたCOに富む流体混合物は、戻り流体及びCOの総重量に基づいて、0.1重量%未満、好ましくは、0.05重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満の溶解CO量を有する戻り坑井(観測またはモニタリングボアホール)で収集された戻り流体を形成する。戻り流体は、COをまったく含まなくてもよい。
【0054】
本発明のなおさらなる実施形態において、地層は、COに富む流体混合物が注入される前に、最初に水または水溶液による前処理を受ける。水または水溶液で前処理すると、COの初期吸収と固定を強化することができる。酸性水溶液などの水溶液での処理は、地層内に空隙や隙間を形成することにより固定のCO吸収を高めることができ、それによって地層を通る流体の流れを強化する、及び/または、そうでなければ、COとの反応のためにかんらん岩形成を活性化する。
【0055】
地層の事前の機械的破砕は必要ない。好ましくは、COに富む流体混合物は、地層を機械的に破砕するために必要な圧力よりも実質的に低い圧力で地層に注入される。
【0056】
COは、ガス溶解モジュールを介して地上で流体に溶解され、ブースターポンプと注入坑井ヘッドの間で加圧水流になる。モニタリング/観測ボアホールを利用して、貯蔵貯留層内に注入されたCO-飽和流体を追跡するために、人工のコンサバティブトレーサーが使用される。COに対するトレーサーのモル比は注入坑井では一定に保たれているが、観測ボアホール内でのこの比率の変化は、かんらん岩との反応によるCOの減少を示している。COガスは、加圧された水流と混合されると溶解し、そこでターゲット注入ゾーンに運ばれる。加圧された水流内のガス圧は、ターゲット注入深さでの静水圧未満または静水圧に近くなるように設定される。次いで、COに富む流体混合物が注入ボアホール坑井ヘッドを通して注入される。注入坑井ヘッドは、非腐食性パイプを介して、ターゲット注入ゾーンのすぐ上に設置されたパッカーシステム(312)に接続されている。パッカーシステム(312)は、かんらん岩の岩層にCOに富む流体混合物を注入するためにカラムを流体単離する。注入されたCOに富む流体混合物は、溶解したCOがかんらん岩とin-situで反応するかんらん岩層内の環状部を通じて分散される。COに富む流体混合物の分散は、かんらん岩の特定の事前に決定された透過層をターゲットとする穿孔坑井ケーシングを介して行われる。地上で注入されたCOに富む流体混合物及び注入区間における水圧の両方のモニタリングは、センサーとデータ取得システムを使用して分析のために継続的に記録される。圧出区間より下の注入ボアホールからの試料は、膜システムを介して地表に収集され、連続的な溶存CO分析が行われる。注入坑井ヘッドにはCOガス検知装置が取り付けられており、地表におけるガス漏れの可能性をモニタリングする。このプロセス全体は、カーボンフットプリントを低く抑え、除去されるCOの正味量を最大化するために、ハイブリッド再生可能システムによって有益に駆動されている(以下のセクション2を参照)。
【0057】
COに富む流体混合物は、好ましくは、鋼製またはポリマーのチューブストリングを通して送達することによって、ターゲットゾーン内のボアホールに注入される。この実施形態では、ボアホール壁及び/またはケーシングとCOに富む流体混合物との接触は、ボアホールがかんらん岩のターゲットゾーン内に穿孔されている場所を除いて、最小限に抑えられる。COに富む流体混合物がチューブストリングからボアホールに放出されるポイントは、ボアホール内のさまざまな深さまたはさまざまな位置でパッカーを使用することによって決定することができる。好ましくは、パッカーは注入ボアホール内の注入ポイントの上流と下流の両方に設置され、そこではCOに富む流体混合物がチューブストリングからボアホールに放出され、ボアホールケーシング内の穿孔を通って岩層に放出される。好ましくは、COに富む流体混合物の放出を、かんらん岩の岩層に直接該当しかつ取り囲まれるボアホールの部分に制限するために、パッカーは、ターゲット層の最大深さより上かつターゲット層の最小深さより下に設定される。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、COに富む流体混合物(例えば、CO飽和水)が地層(例えば、かんらん岩貯留層)を通過するときに形成される戻り流体は、地表に戻った後に冷却される。再生可能な資源を有効に活用するために、戻り水の一部は蒸発冷却プロセスで使用される。例えば、地表に戻るとき、戻り流体は、戻り流体が少なくとも2つの部分に分割されるマニホルドシステムを通って流れることができる。主要部分は、COとさらに混合し、後で注入ボアホールに注入するために、別の場所、例えば、貯蔵タンク、または坑井注入ポイントに直接配管される。第2の、典型的にはより小さい部分は、蒸発冷却装置に移され、蒸発される。戻り流体の主要部分を移送するために使用される戻り流体パイプは、戻り流体パイプの外面と第2のパイプの内面との間に環状空間を形成するより大きな直径の第2のパイプ内に配置され得る。戻り水の第2の部分は、戻り流体の第2の部分が蒸発するガス流の存在下で環状部に噴霧されるまたは通過させられてもよく、それによって戻り流体パイプ内の流体を冷却する冷却効果を提供する。好ましくは、蒸発冷却で使用されるガス流はCOであり、これはその後地層に注入するために、CO貯蔵施設及び/または坑井注入ポイントに移送され得る。環状部を出るガス流は、蒸発した水と主に二酸化炭素ガスを含む。
【0059】
注入坑井へのCOに富む流体混合物の注入は、COに富む流体混合物からのCOの発泡を可能にする条件下にあり得る。地層中の気泡の形成により、例えば、二相混合物としての水流の崩壊及び地層面の特徴物とのCO気泡の衝突などを含む効果により、吸収及び/または固定の促進が可能になり得る。
【0060】
ハイブリッド再生可能システムは、好ましくは、太陽光から電気を生成するための複数の太陽光発電(PV)セルを含む。通常、蓄電設備が含まれる。PVパネルは、好ましくは、注入システムと貯蔵タンクの上に取り付けられる。特に注入システムの上に取り付けることに関しては、PVセルから得られる電気エネルギーを直接使用することができ、それによって長い電気伝送ラインの複雑さと費用を回避することができる。
【0061】
本発明の態様は、注入及び再生可能エネルギー構成要素の可搬性を含む。特に注入システムに関連する可搬性は、新たな地質物質の場所への注入装置及びエネルギー生成装置の再配置に特に有利である。かんらん岩の地層がCOと反応/飽和するにつれて、COをさらに固定する効率が低下する。次いで、戻り流体坑井を、(例えばセメンチングによって)密閉し、COに富む流体混合物の注入を最初の坑井とは異なる位置にある注入ポイントに移すことが有利である。
【0062】
図2及び3を参照すると、開示された主題のいくつかの実施形態は、連続注入方法を含み、他の実施形態は、CO注入システムの概要を示す。水中ポンプ(SP2)は観測ボアホールの深部に設置され、地上の貯蔵タンク(340)に地下水を汲み上げるために使用される。SP2の流速及び圧力は、好ましくは、地下地層の透過性と一致する。地上貯蔵タンク(340)には、SP2の操作を自動化するセンサーを装備し、観測ボアホールと注入ボアホールの間のバッファとして機能する。一実施形態では、タンクは、少なくとも5000Lの容積を有する。地上貯蔵タンクには、異なる他の供給源から水を受け入れるための結合コネクタも取り付けられる。一組のブースターポンプ(BP1、BP2)を並行して使用して、水を地上貯蔵タンク(340)から圧力をかけて注入坑井(320)に注入する。流体混合物の流量は、注入ボアホールでのターゲット注入ゾーンの透過性に適合される。COに富む流体混合物を注入する前に、注入ボアホールでこれらの速度を決定するために透過性試験が実施される。1つ以上の投与ポンプ(DP)が、トレーサータンク(360)からのトレーサー流体の流れを調節するために使用される。一実施形態では、上記タンクは少なくとも100lの容積を有し、フルオレセインがトレーサーとして使用される。
【0063】
トレーサーは、一組の投与ポンプ(DP)を使用して、BPと注入坑井ヘッドの間のパイプセクションにおいて圧力をかけて水流に注入される。投与速度は、注入プロセス全体で調整される。トレーサー流体は、観測ボアホール(333)を使用して地下に注入されたCOに富む流体混合物を追跡するために使用される。ガス溶解モジュール(310)は、注入坑井ヘッドの前のフランジ付きパイプセクションに取り付けられる。COガスは圧力をかけて水流に注入される。COガス注入圧力は、ガスマニホールドに接続されたマスフローコントローラデバイスによって調整される。ガスマニホールドは、CO貯蔵タンクからのCOガスの供給を調整された圧力レベルで制御する。ガス溶解モジュールは、溶解性のため、及び浮力効果を低減するために、注入パイプカラム内のガス移動効率及びバッファ容量を最大化し、<50μmでCO気泡を放出して気泡の表面積を最大化するように設計されている。COに富む流体混合物は、注入ボアホールの注入坑井ヘッドを通して地下に注入される。注入坑井ヘッドは、地表で支持された機械システムに吊り下げられたストリングアセンブリを保持する。ストリングアセンブリは以下から構成される。(1)地表の注入坑井ヘッドをパッカーシステム(312)に接続し、COに富む流体混合物のための注入カラムとしての働きをする非腐食性の流体パイプ、(2)注入ボアホールに配置され、ストリングアセンブリに接続された、注入プロセス中の任意の時点で、注入されたCOに富む流体混合物をポンプで戻すために使用される水中ポンプ(SP1)、(3)COに富む流体混合物がかんらん岩層に注入されると、注入区間を単離するために使用され、メンテナンス作業中に溶解していないCOの気泡が上昇して地表に戻るのを防ぐための安全対策として機能する、シャットインツール(SIT、311)、及び、(4)ターゲット注入ゾーンで区間を圧出するために使用される水またはガスのインフレーションパッカーからなるパッカーシステムまたはパッカーモジュール(PS)。パッカーにはさまざまなセンサーが装備されており、パッカー圧力だけでなく、圧出区間の上下のカラムの水圧もモニタリングする。PSは、注入ゾーン区間のライブモニタリング用に他のセンサーもセットアップされている。区間は、カラム静水圧との差で圧出され、圧出区間より下の水圧が増加し始めたときに、確実に適切なシールが維持されるようにする。
【0064】
従来のトレーサーに加えて、地層に注入されたCOが吸収・固定されていることの確認は、地表戻りサイトでの戻り流体のCO/流体比率と比較した坑井注入ポイントでのCO/流体比率を測定することで判断できる。地層に注入されたCOは、一定量のヌクレオチド標識物質(例えば、17Oで標識されたCOまたは14Cで標識されたCO)を含むように変更でき、戻り流体中の対応する量(濃度)と比較することができる。
【0065】
戻り流体のための流体回収坑井(330)は、COに富む流体混合物が地層を通過する距離がCOに富む流体混合物中のCOの実質的にすべてを吸収するのに及び/または固定するのに十分であるように、CO注入坑井(320)から離して配置することができる。この距離は、注入坑井の位置、地層の構造、及びCOに富む流体混合物を地層に注入するための水の利用可能性によって異なり得る。0.1~10km、好ましくは0.2~5km、0.5~1km、または0.7~0.9kmの距離を使用することができる。
【0066】
図4を参照すると、開示された主題のいくつかの実施形態は、例えば、太陽電池モジュール(410)、ソーラーインバータ(420)、バッテリシステムを含むエネルギー貯蔵モジュール(460)、エネルギー管理システム、EMS(470)、風力タービン(図示せず)、及び例えば同期発電機(440)、バイオ燃料を保持するための燃料タンク(450)を含むバイオ燃料モジュールからなる再生可能エネルギーシステムを含む。さらに、好ましくは、開閉装置(430)及びエネルギーメータ(480)が含まれる。再生可能エネルギーシステムは、日中は太陽エネルギーを使用して、地上のすべての注入システムに負荷を供給するように機能する。余剰の再生可能エネルギーは蓄えられ、システムパフォーマンスの向上と夜間の運用に使用される。夜間の動作中、蓄えられたエネルギーは、必要な負荷を供給するために使用される。サイトの消費量に基づいて、蓄えられたエネルギーは、夜間に稼働できる再生可能エネルギー源(風力タービンやバイオ燃料発電機など)と共に、夜間全体を通して夜間の負荷を供給するために利用される。太陽/オフグリッド運転から蓄電運転への移行中に電力の損失はなく、蓄えたエネルギーが瞬時に供給を引き継ぎ、蓄電運転のみにスムーズに移行する。ハイブリッドコントローラは、インバータ、ストレージ、バイオ燃料発電機間の通信、及びシステム内の全体的な電力転送を担当する。
【0067】
本発明の別の好ましい実施形態は、注入ボアホール(310、320)の開発である。これは、ボアホールの深さ全体で坑井の直径を16.5cmから25cmに増やすことと、注入ゾーンにスロットセクションまたはスクリーンを備える非腐食性のケーシング(理想的には直径7インチ(17.78cm))を恒常的に設置することとを伴う。掘削浸透率(ROP)を使用して、岩石の特性を解釈できる。浸透速度が遅いということは、岩石を破壊するためにドリルビットによる高い破壊応力が必要であることを示している。均質であることが知られている岩石の種類では、この情報はさまざまな深さでの空隙率のレベルの指標として役立つ。空隙率はバルク岩タイプの破壊応力を低下させるため、ROPの増加は空隙率が高いことを示している。
【0068】
図5を参照すると、この図表から、地表下100メートル(mbgl)より浅いより高速のROPが、より高いレベルの空隙率を示していること、したがって、水の岩に対する比率が高いことが確認できる。100mbglより深いところでは、空隙率が低くなるため、水の岩に対する比率が低くなると予想される。ただし、プロットは、100mbglより深部でROPが増加する明確な領域を示しており、これは、空隙率が高い区間の存在を示す。
【0069】
本発明の別の好ましい実施形態では、ダウンホール噴射アセンブリシステムが記述される。パッカーツール(312)は、ボアホールの残りの部分から注入区間を単離するために設置される。これにより、パッカーツール(312)の上下に圧力モニタリング装置を取り付けることができる。シャットインツール(311)を取り付けて、注入後に注入区間を単離し、注入された流体が上部区間に上向きにドリフトしないことを確実にする。水中ポンプ(SP-1)は、単離された注入区間から水を汲み上げるため、及びサンプリングの目的で使用される。ダウンホール注入配管と機器は、必要な注入圧力に耐えるように定格圧力が設定されている。設置された坑井ヘッドは、1)流入注入流体ポート、及び2)流出サンプリングポート、の2つのポートで構成される。開いたボアホールの完全な深さについて、詰まりがないかどうかを確認し、既存の詰まりをすべて取り除く必要があることに注意されたい。観測坑井(333)には水中取水ポンプ(SP2)が使用されている。水中ポンプは、観測坑井から水をくみ上げ、注入ボアホールに注入するために使用される。水中ポンプは少なくとも60mbglに配置され、注入ボアホールの注入区間より上から水を汲み上げる。これは、2つの坑井間に既存の地下接続がある場合の干渉を最小限に抑えるために行われる。水中ポンプは、推奨される運用スケジュールの下で、最小0.1L/秒、及び最小8640L/日の流量を実現するという流量基準に従ってサイズ決定される。水中ポンプは、設置深度は最低60mbglである、ポンプヘッドは水を地表に容易に送り出すのに十分でなければならない、という圧力基準に従ってサイズ決定される。水中ポンプは長時間の連続運転はできない。そのため、水中ポンプの断続的な性質を打ち消すために、観測坑井の水にはバッファタンクに一時的に貯められた水が供給されることになる。
【0070】
本発明の別の好ましい実施形態では、水バッファタンクが記載される。水バッファタンク(複数可)には、ポンピングの断続性、流れの断続性を打ち消し、圧力を安定させ、追加のプロセス制御及び操作上の理由のために、観測坑井または別の水源からの水を保持する。バッファタンクのサイズは、水中ポンプの選択に依存し、次の基準に基づいて決定される。1)タンクは、水中ポンプが運転スケジュールの推奨時間に従った毎日の必要量を送達するのに十分な量を保持する、及び2)タンクは、注入のために、少なくとも0.1L/秒の連続的かつ中断のない吸引を可能にする十分な容量を保持する必要がある。本発明者らが行った試験運転では、5500Lのバッファタンク容量が選択された。
【0071】
また、バッファタンクは、観測ボアホール内の水位の自然変動による圧力変動を緩和する重要な役割を果たし、それにより注入ポンプによる安定した圧力供給を可能にする。注入ポンプ(複数可)は継続的で中断のない運転のために選択される。ポンプのサイズは、次の基準に基づいて決定される。1)流量は最小0.1L/秒に設定される、2)注入区間での圧力水頭、システムアセンブリによる大小の水頭損失をカバーするのに十分な過剰圧力、及びシステムの水頭損失を計算するために使用されるエネルギー収支式によって、注入ゾーンを通過する流れを可能にするための圧力上昇を考慮し、ダルシーの法則が、線形の円筒状の外向きの流れを仮定することにより、注入ゾーンへの流れを決定するために使用される、ならびに3)定常状態の流れ条件で表面上に溶解したCOの溶解性を確保するのに十分高い圧力を提供する。投与ポンプ(DP1)を使用して設定量(少なくとも5mL/分)の液体保存トレーサー、例えばフルオレセインを、注入液と一緒に注入する。投与は注入ポンプ/ブースターポンプの後にインラインで行われる。注入開始後の地下圧力条件の動的な変化により、流量は条件の変化を反映して時間の経過と共に変化すると予想される。水流量計は、注入時間にわたる注入流体流量の変化を記録して、地下圧力に関するシステムの動作をモニタリングし、総注入量の正確な計算を可能にし、動的データ解釈を支援する。好ましくは、電磁流量計が、その均一な動作、応答性の高い読み取り時間、流れの中断がないこと、及び一貫した磁気的動作を可能にし、それにより一貫した流量読み取り精度が可能になる注入流体の均質な性質のために選択される。流量計は、予想される流量条件に対する流量計の精度を確保するために、本プロジェクトに適用するように特別にキャリブレーションされている。
【0072】
本発明の別の好ましい実施形態は、CO注入システムの開発である。自動COガス切り替えマニホールドは、COタンクからの圧力を安定させ、調整するために使用される。COタンクの圧力は、含まれるガスが枯渇するにつれて徐々に低下し、昼と夜の間のガス温度変動の敏感な熱力学的挙動により、タンク供給圧力に大きな影響を与える。さらに、さまざまなバルブやパイプを通るガスの膨張も、温度変化とそれに伴う圧力変化を伴う。正確で制御された圧力供給を可能にするために、マニホールドはタンクからの供給圧力を選択された設定値に調整する。マニホールドはまた、1つの翼(301)を作動させ、第2の翼(302)をスタンバイ状態に保つことにより、中断のないCO供給を保証する。一次翼からの供給圧力が目標設定値を満たすことができなくなると、マニホールドは自動的に二次のスタンバイ翼に切り替える。上流と下流の温度が流量に影響するため、ガスの流れを調整するのは困難である。ガス流量コントローラは、すべてのガス流量の変動を考慮して流量を調整し、最小1.3g/秒の安定した流量を維持する。COを水に混合するためにガス溶解モジュールが使用される。
【0073】
ガス溶解システム(310)を使用して気体液体接触表面積を最大化して気体溶解時間を最小化し、注入された水へのCOの完全な溶解を確実にすることができる。このシステムは、圧力が高いほどガスの溶解度が高くなるため、注入ポンプの後に配置される。このシステムは、気泡の直径が100μm未満のガスを溶解するように設計されており、水とガスの両方の流量と圧力を考慮して、本プロジェクトに適用するために特別に設計及び調整されている。システムの設計では、システム全体のガス圧力降下も考慮して、マニホールドから利用可能な最大供給圧力とガス送達システム内の追加の圧力降下とのバランスを取り、高圧水ラインへの流れを確保する。システムのハウジングは、水流の中断を最小限に抑えてすべてのコンポーネントを収容するように設計されており、整備のために内部に容易にアクセスができ、溶解滞留時間がユニット内の流体滞留時間と一致するように流速を遅くすることができる。
【0074】
別の好ましい実施形態は、モニタリングシステムを含む。モニタリングには、完全な水質検査、pH、全溶解固形分(TDS)、電気伝導率(EC)、温度、酸化還元電位(ORP)、及びその他の物理的特性が含まれる。独立した研究所による完全な水質検査のために、掘削作業後にボアホールの水から試料を収集した。最低60mbglに配置された水中ポンプを使用して、現場でpH、EC、TDS、温度、及びORP用の水を収集した。カチオン、アニオン、アルカリ度、及び溶存COをテストするための試料を収集するために、追加の水中ポンプを最低60mbglに配置した。さらに、モニタリングシステムには、COのトレーサーに対するモル比の変化をモニタリングするために、注入されたコンサバティブトレーサーも含み、そのモル比は注入坑井内で一定に保たれた。この比率の変化は、CO-水-岩反応を示し、したがってCO削減を示すことになる。さらに、安定した炭素、ストロンチウム、マグネシウム、及びカルシウム同位体などの天然トレーサーを利用して、注入されたCOを鉱化するかんらん岩システムの反応性を決定することができる。
【0075】
本発明の別の好ましい実施形態では、注入されたボアホールと観察用ボアホールの間の流体流路は、上向きもしくは下向き以外の他の方向に延びる自然破砕であるか、または自然破砕を制限する場合、透過性の向上により誘発された破砕ネットワークである。
【実施例
【0076】
the Samail Ophiolites in the Sultanate of Omanで実施され、本発明者らによって監督されたパイロットスケール実験では、図3及び10に概略的に示されるようなシステムが構築された。かんらん岩層(P)に到達するまで、2つのボアホール(1020及び1030)を岩石内に掘削した。第1のボアホール(1020)には、穿孔が開けられた(図11を参照)坑井ケーシングがかんらん岩の鉱化の対象となる領域に取り付けられた。パッカー(1012)を使用して、CO-水混合液をターゲットに注入するためにかんらん岩層(P)を単離した。パッカーの上のボアホール(1020)にある水中ポンプ(SP1)を使用して、サンプリングと分析のためにインキュベーション期間の後に注入された流体混合物を回収し、鉱化(M)の発生を証明した。反対側のボアホール(1030)にある水中ポンプ(SP2)を使用して、注入ボアホールに注入した地下水を汲み上げた。
【0077】
COを、事前に定義されたCO対水比でガス溶解モジュール(310)を使用して、地上で地下水に完全に溶解した。コンサバティブトレーサー(ここではフルオレセインナトリウム)は、地下での希釈を考慮した特定の速度で動作する投与ポンプを使用して、水注入流に計量投与した。CO飽和流体を、非腐食性パイプを介して、第1のボアホール(1020)内の流体単離されたターゲット注入区間に注入した。かんらん岩貯留層の自然破砕ネットワークを介して注入ボアホールに流体接続されたモニタリングボアホール(図示せず)を利用して、上記貯留岩のCO鉱化能力を推定した。試料は、第1のボアホール(1020)内のパッカー(1012)かんらん岩層(P)より浅い上部セクションでも採取した。
【0078】
モニタリング装置を使用して、上記コンサバティブトレーサーに対するCOのモル比を利用して、かんらん岩-水反応によるCO削減の程度をモニタリングした。注入された流体中の上記コンサバティブトレーサーの測定された濃度及びモニタリングボアホールで取り出された流体を使用して、分散を経た注入された流体の周囲貯留層地下水による希釈を計算することができた。注入ボアホール(上記注入用に固定)から観測ボアホールまでのコンサバティブトレーサー対COモル比の変化は、CO-かんらん岩反応、すなわち上記流路に沿ったCOの損失を示した。COの鉱化は、上記膜システムを介して注入された流体中及び観察ボアホール中の溶存CO含有量をモニタリングすることによって定量化することができた。注入ボアホール内の初期濃度と比較して観測ボアホール流体の溶存CO濃度が減少したことは、一定量のCOが隔離されたことを明確に示した。
【0079】
実験は6日間行われ、測定結果を図5~9に示している。結果は、システムが試験期間中に安定して動作し続けたことを示した。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1] 再生可能エネルギー源を使用したin situ鉱化による二酸化炭素隔離のための方法であって、
一定量の二酸化炭素を水へと溶解させて二酸化炭素と水の混合液を形成することと、
一定量の前記二酸化炭素と水の混合液を、注入坑井(220、320、1020)を介して、かんらん岩を含む岩層へと注入することであって、前記二酸化炭素と水の混合液は、前記岩層内に配置された前記注入坑井または注入坑井配管を通して流され、前記注入坑井及び/または前記注入坑井配管は、前記岩層内で0.4~4kmの深さにおいて複数の縦穿孔を有する、前記注入することと、
観測坑井(230、330、1030)を介して前記岩層からの水を再循環させることと、
前記二酸化炭素と水の混合液中の二酸化炭素を前記岩層と反応させて、方解石及び菱苦土石を形成することと、
を含む、前記二酸化炭素隔離のための方法。
[2] 前記注入坑井及び前記観測坑井は同一の深さを有している、[1]に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
[3] 前記縦穿孔は少なくとも15cmの長さ(l)を有し、前記注入坑井配管及び任意選択で前記注入坑井(220、320、1020)内の坑井ケーシングに沿った前記穿孔の密度は、透過ゾーンにおける流体流量に応じて選択される、[1]に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
[4] 前記再生可能エネルギー源は、太陽エネルギー、風力エネルギー、バイオ燃料エネルギー、水力、地熱エネルギー、及びその他のグリーンエネルギー源からなる群から選択される、[1]に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
[5] 水を再循環させて貯蔵タンク(340)に戻す工程をさらに含む、[1]に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
[6] 前記注入中に、前記注入坑井(220、320、1020)内の圧出区間の下に高圧ゾーンが生成され、前記観測坑井(230、330、1030)を通した前記再循環中に低圧ゾーンが生成される、[5]に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
[7] 前記二酸化炭素と水の混合液の大部分は前記高圧ゾーンから前記低圧ゾーンへと流れ、流体容積の大部分は前記観測坑井(230、330、1030)を通って再循環される、[6]に記載の二酸化炭素隔離のための方法。
[8] 再生可能エネルギー源を使用したかんらん岩in situ鉱化の制御された強化のためのシステムであって、
岩層内に穿たれ非腐食性坑井ケーシングを備えた注入坑井(220、320、1020)と、
前記注入坑井内に配置された非腐食性注入坑井配管と、
前記注入配管に連結され前記注入坑井内に配置されたパッカーモジュール(312、1012)と、
再生可能エネルギー源と、
前記再生可能エネルギー源に連結されたガス溶解モジュール(310)であって、二酸化炭素と水の混合液の排出ポートを備える前記ガス溶解モジュール(310)と、
を備える、前記システム。
[9] 前記パッカーモジュール(312、1012)は、注入区間を前記注入坑井(220、320、1020)内の所定の深さにおいて流体単離するための膨張式ユニットである、[8]に記載のシステム。
[10] 前記パッカー(312、1012)は最短1mのシール長を有し、前記システムは、
- 地上パッカー制御装置と、
- 前記パッカーの上流端及び下流端にあるインライン静水圧センサーと、
- インライン圧力センサーと、
- 注入ヘッドユニット及びポンプヘッドユニットと、
- 配線、データ取得、及びライブモニタリングのためのチャネルと、
を備える、[8]に記載のシステム。
[11] 前記再生可能エネルギー源は、太陽エネルギーモジュール、再生可能エネルギー貯蔵モジュール、風力タービン、水力、バイオ燃料発電機、及びその他の再生可能エネルギー源からなる群から選択されるハイブリッドエネルギー源である、[8]に記載のシステム。
[12] 前記再生可能エネルギー源は、太陽光発電パネル、ソーラーインバータ、同期型バイオ燃料発電機、エネルギー貯蔵モジュール、ならびにコントロールパネル及び開閉装置のうちの1つ以上を含む、[8]に記載のシステム。
[13] 前記再生可能エネルギー源は、地上モジュール及び地下モジュールに電力を供給する、[11]または[12]に記載のシステム。
[14] 前記ガス溶解モジュールは、前記注入坑井配管より前の二酸化炭素の水へのガス移動のために地上に設置される、[8]に記載のシステム。
[15] 前記ガス溶解モジュールは、1分間あたり最低15リットルのガス流量、最低8バールのガス圧、及び最低温度20℃で注入するように構成される、[14]に記載のシステム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11