(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物、合成繊維、及び合成繊維の処理方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/53 20060101AFI20231114BHJP
D06M 13/02 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/188 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/262 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/295 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/328 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/345 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/352 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/358 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/392 20060101ALI20231114BHJP
D06M 13/402 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
D06M15/53
D06M13/02
D06M13/17
D06M13/188
D06M13/224
D06M13/256
D06M13/262
D06M13/292
D06M13/295
D06M13/328
D06M13/345
D06M13/352
D06M13/358
D06M13/392
D06M13/402
(21)【出願番号】P 2022199269
(22)【出願日】2022-12-14
【審査請求日】2022-12-14
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】巴山 貴晶
(72)【発明者】
【氏名】新井 伸明
(72)【発明者】
【氏名】寺田 光良
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-106148(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102978934(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/00 - 15/715
D06M 13/00 - 13/535
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、
ブロモ基を有する有機系防腐剤、及び任意選択で平滑剤を含む紡糸工程用合成繊維処理剤と、水
、又は水と低級アルコールからなる溶媒とを含有する紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物であって、
前記紡糸工程用合成繊維処理剤中における前記非イオン性界面活性剤、前記イオン性界面活性剤、及び前記平滑剤の含有量の合計を100質量部とすると、前記非イオン性界面活性剤を10質量部以上99.8質量部以下、前記イオン性界面活性剤を0.01質量部以上20質量部以下、及び前記平滑剤を80質量部以下の割合で含み、
前記紡糸工程用合成繊維処理剤100質量部に対して、前記溶媒を0.1質量部以上20質量部未満の割合で含有し、
前記紡糸工程用合成繊維処理剤中の臭素元素の含有量が0ppm超300ppm以下であることを特徴とする紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物。
【請求項2】
前記紡糸工程用合成繊維処理剤中の臭素元素の含有量が0.1ppm以上180ppm以下である請求項1に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物。
【請求項3】
前記紡糸工程用合成繊維処理剤が、前記平滑剤を含まないものであって、
前記イオン性界面活性剤が、カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、及び有機リン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物。
【請求項4】
前記紡糸工程用合成繊維処理剤中における前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有量の合計を100質量部とすると、前記有機系防腐剤を0.001質量部以上1質量部以下の割合で含有する請求項3に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物。
【請求項5】
前記紡糸工程用合成繊維処理剤が、前記平滑剤を含むものであって、
前記平滑剤が、脂肪族アルコールと脂肪酸とのエステル化合物を含み、且つ
前記イオン性界面活性剤が、カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、及び有機リン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物。
【請求項6】
前記紡糸工程用合成繊維処理剤中における前記非イオン性界面活性剤、前記イオン性界面活性剤、及び前記平滑剤の含有量の合計を100質量部とすると、前記有機系防腐剤を0.001質量部以上1質量部以下の割合で含有する請求項5に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤を、合成繊維に対し0.1質量%以上5質量%以下となるように付着させることを特徴とする合成繊維の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性を向上できる紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物、製造性を向上できる合成繊維及び合成繊維の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸工程において、摩擦を低減し、糸切れ等の繊維の損傷を低減させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着する処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される合成繊維用処理剤エマルションが知られている。特許文献1は、平滑剤を40~75質量%、界面活性剤を25~60質量%、防腐剤を0.0005~0.01質量%の割合で含有して成る合成繊維用処理剤100質量部当たり、水を20~100000質量部の割合で含有する合成繊維用処理剤エマルションであって、溶存酸素濃度が10mg/L以下又は気体発生量が10mL/L以下であることを特徴とする合成繊維用処理剤エマルションについて開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の合成繊維用処理剤において、長期保管が想定される溶媒を少量含有する合成繊維用処理剤含有組成物及び溶媒で希釈した希釈液の保存安定性が不十分という問題があった。さらには、合成繊維用処理剤が付与された繊維の紡糸性又は仮撚加工性等の製造性も不十分という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、溶媒を含有する紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物において、所定量の非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、及び溶媒を配合し、臭素元素の含有量を所定の範囲に規定した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物は、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、ブロモ基を有する有機系防腐剤、及び任意選択で平滑剤を含む紡糸工程用合成繊維処理剤と、水、又は水と低級アルコールからなる溶媒とを含有する紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物であって、前記紡糸工程用合成繊維処理剤中における前記非イオン性界面活性剤、前記イオン性界面活性剤、及び前記平滑剤の含有量の合計を100質量部とすると、前記非イオン性界面活性剤を10質量部以上99.8質量部以下、前記イオン性界面活性剤を0.01質量部以上20質量部以下、及び前記平滑剤を80質量部以下の割合で含み、前記紡糸工程用合成繊維処理剤100質量部に対して、前記溶媒を0.1質量部以上20質量部未満の割合で含有し、前記紡糸工程用合成繊維処理剤中の臭素元素の含有量が0ppm超300ppm以下であることを特徴とする。
【0008】
態様2は、態様1に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物において、前記紡糸工程用合成繊維処理剤中の臭素元素の含有量が0.1ppm以上180ppm以下である。
態様3は、態様1又は2に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物において、前記紡糸工程用合成繊維処理剤が、前記平滑剤を含まないものであって、前記イオン性界面活性剤が、カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、及び有機リン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0009】
態様4は、態様3に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物において、前記紡糸工程用合成繊維処理剤中における前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有量の合計を100質量部とすると、前記有機系防腐剤を0.001質量部以上1質量部以下の割合で含有する。
【0010】
態様5は、態様1又は2に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物において、前記紡糸工程用合成繊維処理剤が、前記平滑剤を含むものであって、前記平滑剤が、脂肪族アルコールと脂肪酸とのエステル化合物を含み、且つ前記イオン性界面活性剤が、カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、及び有機リン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0011】
態様6は、態様5に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物において、前記紡糸工程用合成繊維処理剤中における前記非イオン性界面活性剤、前記イオン性界面活性剤、及び前記平滑剤の含有量の合計を100質量部とすると、前記有機系防腐剤を0.001質量部以上1質量部以下の割合で含有する。
【0012】
態様7の合成繊維は、態様1~6のいずれか一態様に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤が付着していることを特徴とする。
態様8の合成繊維の処理方法は、態様1~6のいずれか一態様に記載の紡糸工程用合成繊維処理剤を、合成繊維に対し0.1質量%以上5質量%以下となるように付着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物及び希釈液の保存安定性を向上できるとともに、紡糸工程用合成繊維処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、本発明の紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物(以下、処理剤含有組成物という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤含有組成物は、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、ブロモ基を有する有機系防腐剤、及び任意選択で平滑剤を含む紡糸工程用合成繊維処理剤(以下、処理剤という)と、水、又は水と低級アルコールからなる溶媒とを含有する。
【0015】
(非イオン性界面活性剤)
処理剤は、非イオン性界面活性剤を含有する。処理剤中に非イオン性界面活性剤が含まれることにより、処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる。また、処理剤含有組成物が溶媒に希釈された希釈液の乳化性を向上できる。
【0016】
非イオン性界面活性剤としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物、天然油脂又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた化合物又はその化合物とカルボン酸類とをエステル化させた化合物、アミン化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、脂肪酸アミド類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、アミン化合物とカルボン酸類とを縮合させたアミド化合物等が挙げられる。
【0017】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0018】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸、(5)リシノール酸等のヒドロキシカルボン酸、(6)ヒマシ油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核脂肪酸、ヤシ油脂肪酸等の天然由来の脂肪酸等が挙げられる。
【0019】
非イオン性界面活性剤の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上250モル以下、より好ましくは1モル以上200モル以下、さらに好ましくは2モル以上150モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが二種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0020】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0021】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられるアミン化合物の具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等の脂肪族アミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
【0022】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられる脂肪酸アミドの具体例としては、例えばオクチル酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド等が挙げられる。
【0023】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えばポリオキシアルキレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルエーテル、ポリオキシアルキレンオレアート、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油エーテルトリオレアート、ポリオキシアルキレンオクチルエーテルパルミタート、ジエタノールアミンオレイン酸アミド等が挙げられる。
【0024】
これらの非イオン性界面活性剤は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中において、非イオン性界面活性剤の含有割合の下限は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。かかる非イオン性界面活性剤の含有割合の上限は、好ましくは99.8質量%以下、より好ましくは99.2質量%以下である。かかる含有割合の範囲に規定することにより、処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる。また、処理剤含有組成物が溶媒に希釈された希釈液の乳化性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、処理剤含有組成物中における処理剤は、105℃で2時間熱処理することで処理剤含有組成物中の溶媒を揮発させることにより得られたものである(以下、同じ)。
【0025】
(イオン性界面活性剤)
処理剤は、イオン性界面活性剤を含有する。処理剤中にイオン性界面活性剤が含まれることにより、処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる。また、処理剤含有組成物が溶媒に希釈された希釈液の乳化性を向上できる。
【0026】
本実施形態の処理剤に供されるイオン性界面活性剤としては、公知のものを適宜採用できる。イオン性界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0027】
アニオン界面活性剤としては、公知のものを適宜採用できる。アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ラウリルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、イソセチルリン酸エステル塩、オクチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩、イソステアリルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩、(2)ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したもののリン酸エステル塩、(3)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、二級アルキル(C13以上15以下)スルホン酸塩、二級アルカン(C11以上14以下)スルホン酸塩、二級アルキル(C12以上15以下)スルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等の脂肪族スルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸塩等の、有機スルホン酸塩、(4)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(5)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(6)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩等の天然由来の脂肪酸の硫酸エステル塩、(7)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩等の天然油脂の硫酸エステル塩、(8)2-エチルヘキサン酸塩、ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩等のカルボン酸塩、(9)ジオクチルスルホコハク酸塩等の脂肪族アルコールのスルホコハク酸エステル塩、(10)ドコセニルコハク酸塩等のアルケニルコハク酸塩等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン塩、ジブチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0028】
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0029】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。これらのイオン性界面活性剤は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0030】
これらの中で、処理剤含有組成物が、紡糸延伸用途(FDY)又は紡糸-仮撚加工用途(POY-DTY)に用いられる場合、上記(1)及び(2)に例示される有機リン酸エステル塩、上記(3)に例示される有機スルホン酸塩、及び上記(8)に例示されるカルボン酸塩から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。かかる化合物が適用されることにより処理剤が付与された繊維の紡糸性又は仮撚加工性等の製造性をより向上できる。
【0031】
イオン性界面活性剤の具体例としては、例えばオレイン酸塩、ドデセニルコハク酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、二級アルキル(炭素数12~15)スルホン酸塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、イソセチルリン酸エステル塩、ラウリル硫酸エステル等が挙げられる。
【0032】
処理剤中において、イオン性界面活性剤の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。かかるイオン性界面活性剤の含有割合の上限は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。かかる含有割合の範囲に規定することにより、処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる。また、処理剤含有組成物の希釈液の乳化性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0033】
(平滑剤)
処理剤は、必要により平滑剤が配合される。特に処理剤含有組成物が生糸(Flat yarn)に対する紡糸延伸用途(FDY)において平滑剤が配合される。なお、処理剤含有組成物が加工糸、例えば仮撚加工糸(DTY)に対する紡糸-仮撚加工用途(POY-DTY)においては、平滑剤は必ずしも配合されるわけではない。平滑剤としては、例えばエステル油、鉱物油、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0034】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0035】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば脂肪族アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0036】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミタート、ドデシルオレアート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカナート、グリセリンジオレアート、グリセリントリオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸とのトリエステル、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、ペンタエリスリトールテトラオクタート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジイソステアリルアジパート、ジオレイルアゼラート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジオレイルチオジプロピオナート、ジイソセチルチオジプロピオナート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸とのエステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0037】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することができる。
【0038】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用することができる。
【0039】
これらの平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中で処理剤含有組成物が、紡糸延伸用途(FDY)に用いられる場合、平滑剤は、脂肪族アルコールと脂肪酸とから得られるエステル化合物を含むことが好ましい。かかる化合物を使用することにより紡糸延伸用途(FDY)において紡糸性を向上できる。
【0040】
処理剤において平滑剤が用いられる場合、処理剤中における平滑剤の含有割合の上限は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは77質量%以下である。処理剤含有組成物が生糸(Flat yarn)に対する紡糸延伸用途(FDY)において用いられる場合、かかる平滑剤の含有割合の下限は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。かかる範囲に規定されることにより、処理剤が付与された繊維の紡糸性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0041】
処理剤中において、前記非イオン性界面活性剤、前記イオン性界面活性剤、及び前記平滑剤の含有量の合計を100質量部とすると、前記非イオン性界面活性剤を10質量部以上99.8質量部以下、前記イオン性界面活性剤を0.01質量部以上20質量部以下、及び前記平滑剤を80質量部以下の含有割合に規定される。かかる含有割合の範囲に規定することにより、処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる。また、処理剤含有組成物が溶媒に希釈された希釈液の乳化性を向上できる。
【0042】
(有機系防腐剤)
処理剤含有組成物は、有機系防腐剤を含有する。有機系防腐剤としては、例えばイソチアゾロン系防腐剤、トリアジン系防腐剤、ニトロブロモ系防腐剤、ニトロクロロ系防腐剤、チオシアネート系防腐剤等が挙げられる。
本発明においては、ブロモ基を有する有機系防腐剤が用いられる。以下、ブロモ基を有する有機系防腐剤以外は、参考例とする。
【0043】
イソチアゾロン系防腐剤の具体例としては、例えば5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-ブチル-3-イソチアゾロン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ベンジル-3-イソチアゾロン、2-フェニル-3-イソチアゾロン、2-メチル-4,5-ジクロロイソチアゾロン、5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。
【0044】
トリアジン系防腐剤の具体例としては、例えばヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリエチル-S-トリアジン等が挙げられる。
【0045】
ニトロブロモ系防腐剤の具体例としては、例えば5-ブロモ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド、2,2-ジブロモ-2-ニトロメタノール等が挙げられる。
【0046】
ニトロクロロ系防腐剤の具体例としては、例えば5-クロロ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン、2-クロロ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール等が挙げられる。
チオシアネート系防腐剤の具体例としては、例えばメチレンビスチオシアネート等が挙げられる。
【0047】
処理剤中において、有機系防腐剤の含有割合の下限は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上である。かかる含有割合が0.0001質量%以上の場合、処理剤含有組成物を溶媒で希釈した希釈液の保存安定性をより向上できる。かかる有機系防腐剤の含有割合の上限は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。かかる含有割合が1質量%以下の場合、処理剤含有組成物の保存安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0048】
処理剤が、平滑剤を含まない場合、処理剤中における前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有量の合計を100質量部とすると、有機系防腐剤の含有量の下限は、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上の割合で含む。有機系防腐剤の含有量が0.0001質量部以上の場合、処理剤含有組成物を溶媒で希釈した希釈液の保存安定性をより向上できる。処理剤が、平滑剤を含まない場合、処理剤中における前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有量の合計を100質量部とすると、有機系防腐剤の含有割合の上限は、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下の割合で含む。かかる含有割合が1質量部以下の場合、処理剤含有組成物の保存安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0049】
処理剤が、平滑剤を含む場合、処理剤中における前記非イオン性界面活性剤、前記イオン性界面活性剤、及び前記平滑剤の含有量の合計を100質量部とすると、有機系防腐剤の含有量の下限は、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上の割合で含む。有機系防腐剤の含有量が0.0001質量部以上の場合、処理剤含有組成物を溶媒で希釈した希釈液の保存安定性をより向上できる。処理剤が、平滑剤を含む場合、処理剤中における前記非イオン性界面活性剤、前記イオン性界面活性剤、及び前記平滑剤の含有量の合計を100質量部とすると、有機系防腐剤の含有割合の上限は、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下の割合で含む。かかる含有割合が1質量部以下の場合、処理剤含有組成物の保存安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0050】
(溶媒)
処理剤含有組成物が供される溶媒は、大気圧における沸点が105℃以下である溶媒である。溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。本発明においては、水、又は水と低級アルコールからなる溶媒が用いられる。以下、水、又は水と低級アルコールからなる溶媒以外は、参考例とする。
有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等、ヘキサン等の低極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で使用してもよいし、又は2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で、各成分の分散性又は溶解性に優れる観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、ハンドリング性に優れる観点から水がより好ましい。
【0051】
処理剤含有組成物中において、処理剤100質量部に対して、溶媒の配合割合の下限は、0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上である。かかる溶媒の配合割合が0.1質量部以上の場合、処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる。処理剤含有組成物中において、処理剤100質量部に対して、溶媒の配合割合の上限は、20質量部未満、好ましくは18質量部以下である。かかる溶媒の配合割合が20質量部未満の場合、処理剤含有組成物の保存安定性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0052】
(その他)
処理剤中の臭素元素の含有量の下限は、0ppm超、好ましくは0.1ppm以上である。かかる臭素元素の含有量の下限が、0ppm超の場合、処理剤含有組成物を溶媒で希釈した希釈液の保存安定性を向上できる。処理剤中の臭素元素の含有量の上限は、300ppm以下、好ましくは180ppm以下である。かかる臭素元素の含有量の上限が、300ppm以下の場合、処理剤含有組成物の保存安定性を向上できる。
【0053】
処理剤中における臭素元素の含有量は、10ppm以上の場合は蛍光X線分析を用いて測定した値、10ppm未満の場合は燃焼イオンクロマトグラフィーにて測定した値が採用される。処理剤中の臭素元素の含有量は、次のように測定する。処理剤含有組成物1gをシャーレ(外径5cm、高さ15mm、厚み0.6mm)に採取し、105℃で2時間熱処理することで処理剤含有組成物中の溶媒を揮発させて、残存した不揮発分からなる処理剤を得る。蛍光X線分析は、上記残存した不揮発分を一定量採取し、蛍光X線分析装置(例えばZSX Primus:リガク社製)を用い、真空条件下にて臭素の蛍光X線の強度(Br-Kα線)が測定される。臭素元素含有量は、既知の処理剤サンプルを用いて検量線を作成し、対象の処理剤の臭素元素含有量を定量する。
【0054】
<第2実施形態>
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態に記載の処理剤が付着している合成繊維である。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、第1実施形態の処理剤含有組成物をさらに希釈溶媒で希釈した希釈液、例えば低粘度鉱物油溶液、有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。合成繊維は、水性液等の希釈液を、紡糸工程において合成繊維に付着させる工程を経て得られる。合成繊維に付着した希釈液は、延伸工程、乾燥工程により希釈溶媒を蒸発させてもよい。なお、紡糸工程には、紡糸後、延伸処理を含む紡糸延伸工程、紡糸後、延伸処理を経ず、仮撚工程を含む紡糸-仮撚加工工程等が含まれる。
【0055】
処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。
【0056】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1質量%以上5質量%以下(水等の溶媒を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0057】
上記実施形態の処理剤含有組成物及び合成繊維の効果について説明する。
(1)上記実施形態の処理剤含有組成物では、所定量の非イオン性界面活性剤、所定量のイオン性界面活性剤、有機系防腐剤、及び任意選択で平滑剤を含む処理剤と、水を含む溶媒とを含有して構成した。また、処理剤中の臭素元素の含有量を0ppm超300ppm以下に規定した。したがって、長期保管が想定される処理剤含有組成物及び希釈液の保存安定性を向上できる。処理剤が付与された繊維の紡糸性又は仮撚加工性等の製造性を向上できる。また、処理剤含有組成物がさらに溶媒により希釈された希釈液について、乳化性を向上できる。
【0058】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記の処理剤、処理剤含有組成物、希釈液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤等の製造途中又は製造後に、処理剤等の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、上記以外の防腐剤、防錆剤等の通常処理剤等に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、特に限定のない限り、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0060】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示されるように、平滑剤としてドデシルオレアート(A-2)を42部、トリメチロールプロパントリラウラート(A-3)12部、ソルビタンモノオレアートを(A-5)を4部、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(5モル:アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。(以下同じ))ラウリルエーテル(B-1)を6部、ポリオキシエチレン(6モル)ポリオキシプロピレン(10モル)ブチルエーテル(B-2)を6部、ポリオキシエチレン(12モル)硬化ヒマシ油エーテルトリオレアート(B-5)を12部、ポリオキシエチレン(5モル)オクチルエーテルパルミタート(B-6)を10部、イオン性界面活性剤としてオレイン酸カリウム(C-1)を2部、ドデセニルコハク酸カリウム(C-2)を3部、二級アルキル(炭素数12~15)スルホン酸ナトリウム(C-4)を3部、有機系防腐剤として2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1、3-ジオール(DB-1)を0.04部、その他成分として1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン(E-1)を0.1部、ポリエーテル変性シリコーン(E-2)を2部、エチレングリコールを1部含む処理剤と、溶媒として水を処理剤100質量部に対して11部を混合することにより実施例1の処理剤含有組成物を調製した。
【0061】
(実施例2~13、比較例1~7)
実施例2~13、比較例1~7の処理剤含有組成物は、実施例1の処理剤含有組成物と同様にして、平滑剤、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、有機系防腐剤、その他成分、及び溶媒を表1,2に示した割合で含むように調製した。なお、表1の処理剤含有組成物は、平滑剤を含有する紡糸延伸用油剤として調製した。表2の処理剤含有組成物は、平滑剤を含有しない紡糸-仮撚加工用油剤として調製した。
【0062】
平滑剤の種類と含有量、非イオン性界面活性剤の種類と含有量、イオン性界面活性剤の種類と含有量、有機系防腐剤の種類と含有量、その他成分の種類と含有量、及び溶媒の種類と含有量を、表1,2の「平滑剤」欄、「非イオン性界面活性剤」欄、「イオン性界面活性剤」欄、「有機系防腐剤」欄、「その他成分」欄、「溶媒」欄にそれぞれ示す。なお、各成分の含有量は、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、及び必要により配合される平滑剤の含有量の合計を100部として表記する。
【0063】
また、処理剤中における臭素元素の含有量(ppm)は、臭素元素を含む有機系防腐剤及びその他成分である臭素カリウムの含有割合から求めた。結果を「処理剤中の臭素元素の含有量」欄に示す。
【0064】
【0065】
【表2】
表1,2に記載する平滑剤、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、有機系防腐剤、及びその他成分の詳細は以下のとおりである。
【0066】
<平滑剤>
A-1:オクチルパルミタート
A-2:ドデシルオレアート
A-3:トリメチロールプロパントリラウラート
A-4:ごま油
A-5:ソルビタンモノオレアート
A-6:グリセリンジオレアート
A-7:鉱物油(30℃、47mm2/s)
<非イオン性界面活性剤>
B-1:ポリオキシエチレン(5モル)ラウリルエーテル
B-2:ポリオキシエチレン(6モル)ポリオキシプロピレン(10モル)ブチルエーテル
B-3:ポリオキシエチレン(6モル)ポリオキシプロピレン(4モル)ノニルエーテル
B-4:ポリオキシエチレン(5モル)オレアート
B-5:ポリオキシエチレン(12モル)硬化ヒマシ油エーテルトリオレアート
B-6:ポリオキシエチレン(5モル)オクチルエーテルパルミタート
B-7:ジエタノールアミンオレイン酸アミド
<イオン性界面活性剤>
C-1:オレイン酸カリウム
C-2:ドデセニルコハク酸カリウム
C-3:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
C-4:二級アルキル(炭素数12~15)スルホン酸ナトリウム
C-5:ポリオキシエチレン(2モル)オレイルエーテルリン酸エステルとポリオキシエチレン(2モル)ラウリルアミンとの塩
C-6:イソセチルリン酸エステルとカリウムとの塩
c-1:ラウリル硫酸エステル
<防腐剤>
DB-1:2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1、3-ジオール
DB-2:2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド
D-1:2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン
D-2:5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン
D-3:1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン
D-4:メチレンビスチオシアネート
D-5:ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン
<その他の成分>
E-1:1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン
E-2:ポリエーテル変性シリコーン
E-3:エチレングリコール
E-4:プロピレングリコール
E-5:臭化カリウム
試験区分2(油剤安定性の評価)
上述したように調製した各処理剤含有組成物について、50℃のインキュベーターで1週間保管して、保管する前と後の変化を目視にて次の基準で判断することにより、処理剤含有組成物の保存安定性としての油剤安定性を評価した。結果を表1,2の「油剤安定性」欄に示す。
【0067】
・油剤安定性の評価基準
◎(良好):変化なしの場合
○(可):僅かに変色、粒子発生、成分分離があるが実用上問題なしの場合
×(不可):かなりの変色、粒子発生または成分分離がある場合
試験区分3(乳化性の評価)
200mLビーカーの中に25℃のイオン交換水を加え、撹拌羽根を用いて550rpmで撹拌しながら処理剤含有組成物を滴下し、処理剤の濃度が10質量%となるように希釈液としてのエマルション100gを調製した。その時の乳化する様子を目視にて判断することにより、乳化性を次の基準で評価した。結果を表1,2の「乳化性」欄に示す。
【0068】
・乳化性の評価基準
○(可):均一に乳化又は分散し、浮遊物又は沈殿物が無い場合
×(不可):均一に乳化又は分散しておらず、浮遊物又は沈殿物が残っている場合
試験区分4(紡糸性)
固有粘度0.64、酸化チタン含有量0.2質量%のポリエチレンテレフタレートのチップを定法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて295℃で紡糸し、口金から吐出して冷却固化した。その後の走行糸条に、濃度10%に調製した処理剤含有組成物の希釈液としてのエマルションを、計量ポンプを用いたガイド給油法により、処理剤としての付着量が1.0質量%となるように付着させた。なお、処理剤含有組成物は、表1に示される紡糸延伸用油剤を使用した。その後、ガイドで集束させ、表面速度1400m/分で表面温度90℃の第1ゴデットローラーと、表面速度4800m/分で表面温度150℃の第2ゴデットローラーとで延伸した。その後、4800m/分の速度で巻き取り、83デシテックス36フィラメントの延伸糸を得た。
【0069】
処理剤が付与された繊維について、製造性としての紡糸性を以下のように評価した。延伸糸を550000m製造したときの巻き取り直前に、毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製のDT-105)にて1時間当たりの毛羽数を測定し、以下の基準で評価した。結果を表1の「紡糸性」欄に示す。
【0070】
・紡糸性の評価基準
◎(良好):毛羽数が0個
○(可):毛羽数が1個以上5個以下
×(不可):毛羽数が6個以上
試験区分5(仮撚加工性)
固有粘度0.64、酸化チタン含有量0.2質量%のポリエチレンテレフタラートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて295℃で紡糸し、口金から吐出して冷却固化した。その後の走行糸条に、濃度10%に調製した処理剤含有組成物の希釈液としてのエマルションを、計量ポンプを用いたガイド給油法により、処理剤としての付着量が0.4質量%となるように付着させた。なお、処理剤含有組成物は、表2に示される紡糸-仮撚加工用油剤を使用した。その後、ガイドで集束させ、機械的な延伸を伴うことなく、3300m/分の速度で捲き取り、128デシテックス36フィラメントの部分延伸糸を得た。
【0071】
その後、上記で得た部分延伸糸を用いて、コンタクトヒーター式仮撚機(TMTマシナリー社製 ATF-21)を使用して、加工速度:800m/分、延伸倍率:1.60、施撚方式:3軸デイスク外接式摩擦方式(入り側ガイドデイスク1枚、出側ガイドデイスク1枚、硬質ポリウレタンデイスク5枚)、加撚側ヒーター=長さ2.5mで表面温度190℃、解撚側ヒーター=なし、目標撚り数=3300T/mの条件で仮撚加工をし、仮撚加工糸を得た。
【0072】
処理剤が付与された繊維について、製造性としての仮撚加工性を以下のように評価した。仮撚加工糸を巻き取る前に、毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製 DT-105)にて毛羽数を測定し、1時間当たりの平均毛羽数を計算して、以下の基準で評価した。結果を表2の「仮撚加工性」欄に示す。
【0073】
・仮撚加工性の評価基準
◎(良好):測定された毛羽数が3個未満
○(可):測定された毛羽数が3個以上6個未満
×(不可):測定された毛羽数が6個以上
試験区分6(エマルションタンク洗浄周期)
上述した延伸糸又は部分延伸糸の製造において、希釈液としてのエマルションを入れたエマルションタンクにスカムが発生してエマルションタンクの洗浄が必要になるまでの日数を次の基準で判断した。それにより、希釈液の保存安定性をエマルションタンク洗浄周期として評価した。なお、洗浄の必要性は、合成繊維の製造における毛羽・断糸の増加や、製造された合成繊維への処理剤付着量の低下を確認することで判断した。結果を表1,2の「エマルションタンク洗浄周期」欄に示す。
【0074】
・エマルションタンク洗浄周期の評価基準
◎(良好):14日以上
○(可):7日以上13日以下
×(不可):6日以下
表1,2の結果からも明らかなように、各実施例の処理剤は、油剤安定性、乳化性、紡糸性又は仮撚加工性、エマルションタンクの洗浄周期の評価がいずれも可以上であった。本発明によれば、処理剤含有組成物及び希釈液の保存安定性を向上できるとともに、処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる。また、処理剤含有組成物がさらに溶媒により希釈された希釈液について、乳化性を向上できる。
【要約】
【課題】紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物及び希釈液の保存安定性を向上できるとともに、紡糸工程用合成繊維処理剤が付与された繊維の製造性を向上できる紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物等を提供する。
【解決手段】本発明は、所定量の非イオン性界面活性剤、所定量のイオン性界面活性剤、及び任意選択で所定量の平滑剤を含む紡糸工程用合成繊維処理剤と、溶媒とを含有する紡糸工程用合成繊維処理剤含有組成物であって、前記紡糸工程用合成繊維処理剤100質量部に対して、前記溶媒を0.1質量部以上20質量部未満の割合で含有し、前記紡糸工程用合成繊維処理剤中の臭素元素の含有量が0ppm超300ppm以下であることを特徴とする。
【選択図】なし