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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ナノカーボン分離装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/172 20170101AFI20231114BHJP
   B01D 57/02 20060101ALI20231114BHJP
   B03C 5/00 20060101ALI20231114BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231114BHJP
【FI】
C01B32/172
B01D57/02
B03C5/00 Z
B82Y40/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019549774
(86)(22)【出願日】2017-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2017038727
(87)【国際公開番号】W WO2019082337
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-01-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】井原 和紀
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】山口 大志
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/150808(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/172
B01D 57/02
C01B 32/159
C01B 32/174
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノカーボンを含む分散液を収容する分離槽と、
前記分離槽内の上部に設けられた第1の電極と、
前記分離槽内の下部に設けられた第2の電極と、
前記分散液の物理的状態または化学的状態の測定を行う測定手段と、
前記測定の結果に基づいて、前記分散液に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段と、を備え、
前記判断手段が、前記金属型ナノカーボンと前記半導体型ナノカーボンの分離の終了を判断することを特徴とするナノカーボン分離装置。
【請求項2】
前記測定手段は、前記分散液の電位を測定する手段、前記分散液のpHを測定する手段、前記分散液の吸光度を測定する手段、前記分散液の発光スペクトルを測定する手段、前記分散液の屈折率を測定する手段、前記分散液の導電率を測定する手段および前記第1の電極と前記第2の電極との間の電流値を測定する手段からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン分離装置。
【請求項3】
前記測定手段が、前記分離槽内の複数の位置において前記測定を行う請求項1又は2に記載のナノカーボン分離装置。
【請求項4】
前記測定手段が、前記分離槽の高さ方向に沿って配置されている前記複数の位置において前記測定を行う請求項に記載のナノカーボン分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートル領域のサイズを有する炭素材料(以下、「ナノカーボン」という。)は、その機械的特性、電気的特性、化学的特性等から様々な分野への適用が期待されている。
ナノカーボンでは、製造の段階で性質の異なるナノカーボンが同時に生成され、混合物となる場合がある。電気的特性の異なるナノカーボンが混合した状態で、そのナノカーボンを電子材料として用いた場合、特性の低下等の問題が生じる可能性がある。そこで、生成されたナノカーボン混合物から、所望の性質を持つナノカーボンを分離することが必要である。
【0003】
ナノカーボン混合物を分離するために、特許文献1には、異なる複数の電荷を持つナノカーボンミセル群に分散した、ナノカーボン材料の分散溶液と、該ナノカーボン材料と異なる比重を持つ保持溶液とを、電気泳動槽内に所定の方向に積層して導入配置する工程と、該積層して導入配置した分散溶液と保持溶液に、直列方向に電圧を印加することにより、該ナノカーボンミセル群を2以上のナノカーボンミセル群に分離する工程と、を含むナノカーボン材料分離方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/150808号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の分離方法では分離状態を客観的に把握できないという課題があった。また、目視で、正確な分離の終点を決定する手段がなかった。
【0006】
本発明は、性質の異なるナノカーボン混合物の分離において、分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現するナノカーボン分離装置を提供することを目的とする。また、本発明は、ナノカーボン混合物の分離において、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上するナノカーボン分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のナノカーボン分離装置は、ナノカーボンを含む分散液を収容する分離槽と、前記分離槽内の上部に設けられた第1の電極と、前記分離槽内の下部に設けられた第2の電極と、前記分散液の物理的状態または化学的状態を評価する評価手段と、前記物理的状態または前記化学的状態から、前記分散液に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段と、を備える。
【0008】
本発明のナノカーボンの分離方法は、分離槽にナノカーボンを含む分散液を注入する工程と、前記分離槽内の上部に設けられた第1の電極と前記分離槽内の下部に設けられた第2の電極との間に直流電圧を印加して、前記分散液に含まれる金属型ナノカーボンを前記第1の電極側に移動させるとともに、前記分散液に含まれる半導体型ナノカーボンを前記第2の電極側に移動させて、前記金属型ナノカーボンと前記半導体型ナノカーボンを分離する工程と、前記分散液の物理的状態または化学的状態を評価する工程と、前記物理的状態または前記化学的状態から、前記金属型ナノカーボンと前記半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、性質の異なるナノカーボン混合物の分離において、分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、本発明によれば、ナノカーボン混合物の分離において、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。
図2】本発明のナノカーボン分離装置の最小構成を示す模式図である。
図3】第1の実施形態のナノカーボンナノカーボンの分離方法を示す模式図である。
図4】本発明のナノカーボンの分離方法を示すフローチャートである。
図5】実施例1における単層カーボンナノチューブ分散液の電位の評価結果を示す図である。
図6】実施例1における単層カーボンナノチューブ分散液の電位の評価結果を示す図である。
図7】実施例1における単層カーボンナノチューブ分散液の電位の評価結果を示す図である。
図8】第2の実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。
図9】第2の実施形態のナノカーボンナノカーボンの分離方法を示す模式図である。
図10】実施例2における単層カーボンナノチューブ分散液のpHの評価結果を示す図である。
図11】第3の実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。
図12】第3の実施形態のナノカーボンナノカーボンの分離方法を示す模式図である。
図13】実施例3における単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度の分布の評価結果を示す図である。
図14】第4の実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。
図15】第4の実施形態のナノカーボンナノカーボンの分離方法を示す
図16】実施例4における単層カーボンナノチューブ分散液内における第1の電極と第2の電極との間の電流値の評価結果を示す図である。
図17】第5の実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。
図18】第5の実施形態のナノカーボンナノカーボンの分離方法を示す模式図である。
図19】第6の実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。
図20】第6の実施形態のナノカーボンナノカーボンの分離方法を示す模式図である。
図21】第7の実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。
図22】第7の実施形態のナノカーボンナノカーボンの分離方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のナノカーボン分離装置およびナノカーボンの分離方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
[第1の実施形態]
(ナノカーボン分離装置)
図1は、本実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。
本実施形態のナノカーボン分離装置10は、ナノカーボンを含む分散液(以下、「ナノカーボンの分散液」と言う。)30を収容する分離槽(電気泳動槽)11と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と、分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態を評価する評価手段14と、評価手段14で評価したナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態から、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段15とを備える。また、本実施形態のナノカーボン分離装置10は、第1の電極12と第2の電極13との間に直流電圧を印加する直流電源16を備えている。直流電源16は、電気泳動のための電源部であり、ケーブル17を介して第1の電極12に電気的に接続され、ケーブル18を介して第2の電極13に電気的に接続されている。
【0013】
本実施形態のナノカーボン分離装置10では、評価手段14が、分離槽11の高さ方向に沿って等間隔に配置された複数の評価用電極19と、評価用電極19に電気的に接続され、各評価用電極19におけるナノカーボンの分散液30の電位を計測する電位計20とを有する。本実施形態のナノカーボン分離装置10では、評価手段14がナノカーボンの分散液30の電位を測定するためのものである。
【0014】
評価手段14の電位計20は、ケーブル21を介して、判断手段15と電気的に接続されている。
また、判断手段15は、ケーブル22を介して、直流電源16と電気的に接続されている。
【0015】
分離槽11は、分離対象であるナノカーボンの分散液30を収容し、無担体電気泳動法により、収容したナノカーボンの分散液30に分散したナノカーボンの分離を行うためのものである。分離槽11は、ナノカーボンの分散液30を収容できるものであれば、その形状や大きさは特に限定されない。
【0016】
分離槽11は、中空管形状を有する容器である。分離槽11は、上端に開口を有する。分離槽11の下端は閉じられており、容器の底になっている。
【0017】
分離槽11の材質は、ナノカーボンの分散液30に対して安定であり、かつ絶縁性の材質であれば特に限定されない。分離槽11の材質としては、例えば、ガラス、石英、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0018】
分離槽11は、下端に、分離槽11の外底面に連通する注入/回収口(図示略)を有していてもよい。注入/回収口は、分離槽11にナノカーボンの分散液30を注入、および、分離槽11からナノカーボンの分散液30を回収するために用いられる。また、注入/回収口は、すり合わせを有する回転式のコック等の密閉構造(図示略)を備える。
【0019】
本実施形態のナノカーボン分離装置10において、例えば、第1の電極12が陰極、第2の電極13が陽極である。この場合、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、電界の向きが分離槽11の下部から上部へ向かう。
【0020】
第1の電極12および第2の電極13としては、無担体電気泳動法に用いることができ、ナノカーボンの分散液30に対して安定なものであれば特に限定されない。第1の電極12および第2の電極13としては、例えば、白金電極等が挙げられる。
【0021】
第1の電極12および第2の電極13の構造は、特に限定されず、分離槽11内において、分離槽11内に収容されるナノカーボンの分散液30の量(体積)等に応じて適宜選択される。第1の電極12の構造は、評価用電極19の上部に配置され、かつ分離槽11内において、評価用電極19の上端の広い領域に配置されるものであれば特に限定されない。第2の電極13の構造としては、評価用電極19の下部に配置され、かつ分離槽11内において、評価用電極19の下端の広い領域に拡がるように配置されるものであれば特に限定されない。第1の電極12および第2の電極13の構造としては、例えば、分離槽11の平面視において、円環状、円板状、棒状等が挙げられる。また、第1の電極12および第2の電極13の構造としては、多数の微細孔が均質に設けられた多孔板状が挙げられる。
【0022】
評価手段14の評価用電極19としては、無担体電気泳動法に用いることができ、ナノカーボンの分散液30に対して安定なものであれば特に限定されない。評価用電極19としては、例えば、白金電極等が挙げられる。
【0023】
評価用電極19の構造は、分離槽11内において、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの移動を妨げない構造で、ナノカーボンの分散液30に接していれば特に限定されない。
【0024】
複数の評価用電極19を配置する間隔は、特に限定されず、分離槽11の高さや、分離槽11内に収容されるナノカーボンの分散液30の量(体積)等に応じて適宜調整される。分離の終了時に、あらかじめ注目すべきナノカーボンの分散液30の場所が分かっていれば、その周囲のみに評価用電極19を配置することも可能である。例えば、分離後に分離槽11の下側に集まるナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態に基づいて、分離の終点を決定する場合には、評価用電極19は、分離槽11の下側に配置されていればよい。
【0025】
評価手段14の電位計20としては、各評価用電極19における電位を測定することができるものであれば特に限定されない。また、電位計20は、各評価用電極19における電位の測定結果を電気信号に変換して、判断手段15へ出力することができるようになっている。
【0026】
判断手段15は、評価手段14から発信された、電位計20で測定した電位に関する電気信号を受信し、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。判断手段15は、電位計20で測定した電位に関する電気信号に基づいて、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。さらに、判断手段15では、例えば、電位の勾配が大きく変化する点が、規定の測定位置以下になった場合に、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離の終了を判断する。
判断手段15が、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離の終了を判断すると、直流電源16へ直流電圧の印加の停止を指示する電気信号を発信し、第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。
【0027】
また、後述するナノカーボン分離装置10を用いた、ナノカーボンの分離方法において、分離槽11内に温度勾配が生じると、分離槽11内にてナノカーボンの分散液30の対流現象が生じることがある。その結果、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを安定に分離することができなくなる。そこで、ナノカーボン分離装置10は、分離槽11内のナノカーボンの分散液30の温度を一定に保つための温度調節手段を備えることが好ましい。温度調節手段としては、特に限定されず、容器内に収容された液体の温度を一定に保つことができるものであれば、例えば、水冷ジャケットの装着等、いかなる手段でも用いることができる。
【0028】
本実施形態のナノカーボン分離装置10では、第1の電極12が陰極、第2の電極13が陽極である場合を例示したが、本実施形態のナノカーボン分離装置10はこれに限定されない。本実施形態のナノカーボン分離装置10にあっては、第1の電極12が陽極、第2の電極13が陰極であってもよい。
【0029】
本実施形態のナノカーボン分離装置10によれば、分離槽11内にて第1の電極12と第2の電極13の間に、ナノカーボンの分散液30の電位を測定する、評価用電極19と電位計20を有する評価手段14を設けている。さらに、判断手段15を設けることにより、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。この結果、後述するナノカーボンを分離する工程において、目視による分離状態の確認方法や、電気泳動の電圧印加時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0030】
なお、図2は、本発明のナノカーボン分離装置の最小構成を示す模式図である。
【0031】
(ナノカーボンの分離方法)
図1図4を用いて、ナノカーボン分離装置10を用いた、ナノカーボンの分離方法を説明するとともに、ナノカーボン分離装置10の作用を説明する。
図4は、本発明のナノカーボンの分離方法を示すフローチャートである。
【0032】
本実施形態のナノカーボンの分離方法は、分離槽11にナノカーボンの分散液30を注入する工程(以下、「注入工程」と言う。)と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13との間に直流電圧を印加して、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンを第1の電極12側に移動させるとともに、ナノカーボンの分散液30に含まれる半導体型ナノカーボンを第2の電極13側に移動させて、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを分離する工程(以下、「分離工程」と言う。)と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態を評価する工程(以下、「評価工程」と言う。)と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態から、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する工程(以下、「判断工程」と言う。)と、を有する。
また、本実施形態のナノカーボンの分離方法は、分離工程の後に、ナノカーボン分散液に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを回収する工程(以下、「回収工程」と言う。)を有していてもよい。
【0033】
本実施形態のナノカーボンの分離方法において、ナノカーボンとは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノツイス卜、グラフェン、フラーレン等の主に炭素から構成される炭素材料を意味する。本実施形態のナノカーボンの分離方法では、ナノカーボンとして単層カーボンナノチューブが分散した分散液から、半導体型単層カーボンナノチューブと、金属型単層カーボンナノチューブと、を分離する場合について詳述する。
【0034】
単層カーボンナノチューブは、チューブの直径、巻き方によって金属型と半導体型という2つの異なる性質に分かれることが知られている。従来の製造方法を用いて単層カーボンナノチューブを合成すると、金属的な性質を有する金属型単層カーボンナノチューブと半導体的な性質を有する半導体型単層カーボンナノチューブが統計的に1:2の割合で含まれる単層カーボンナノチューブの混合物が得られる。
【0035】
単層カーボンナノチューブの混合物は、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブとを含むものであれば特に制限されない。また、本実施形態における単層カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ単体であってもよいし、一部の炭素が任意の官能基で置換された単層カーボンナノチューブや、任意の官能基で修飾された単層カーボンナノチューブであってもよい。
【0036】
まず、単層カーボンナノチューブの混合物が、界面活性剤とともに分散媒に分散した単層カーボンナノチューブ分散液を調製する。
【0037】
分散媒としては、単層カーボンナノチューブの混合物を分散させることができるものであれば特に限定されない。分散媒としては、例えば、水、重水、有機溶媒、イオン液体等が挙げられる。これらの分散媒の中でも、単層カーボンナノチューブが変質しないことから、水または重水が好適に用いられる。
【0038】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤等が用いられる。単層カーボンナノチューブにナトリウムイオン等のイオン性の不純物が混入することを防ぐためには、非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0039】
非イオン性界面活性剤としては、イオン化しない親水性部位とアルキル鎖等の疎水性部位とを有する非イオン性界面活性剤が用いられる。このような非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤が挙げられる。
このような非イオン性界面活性剤としては、下記式(1)で表わされるポリオキシエチレンアルキルエーテルが好適に用いられる。
2n(OCHCHOH (1)
(但し、n=12~18、m=20~100である。)
【0040】
上記式(1)で表わされるポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(商品名:Brij L23、シグマアルドリッチ社製)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(商品名:Brij C20、シグマアルドリッチ社製)、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(商品名:Brij S20、シグマアルドリッチ社製)、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル(商品名:Brij O20、シグマアルドリッチ社製)、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(商品名:Brij S100、シグマアルドリッチ社製)等が挙げられる。
【0041】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(分子式:C6412626、商品名:Tween 60、シグマアルドリッチ社製)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(分子式:C2444、商品名:Tween 85、シグマアルドリッチ社製)、オクチルフェノールエトキシレート(分子式:C1422O(CO)、n=1~10、商品名:Triton X-100、シグマアルドリッチ社製)、ポリオキシエチレン(40)イソオクチルフェニルエーテル(分子式:C1740(CHCH2040H、商品名:Triton X-405、シグマアルドリッチ社製)、ポロキサマー(分子式:C10、商品名:Pluronic、シグマアルドリッチ社製)、ポリビニルピロリドン(分子式:(CNO)、n=5~100、シグマアルドリッチ社製)等を用いることもできる。
【0042】
単層カーボンナノチューブ分散液における非イオン性界面活性剤の含有量は、0.1wt%以上5wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上2wt%以下であることがより好ましい。
非イオン性界面活性剤の含有量が5wt%以下であれば、単層カーボンナノチューブ分散液の粘度が高くなり過ぎることがなく、無担体電気泳動法によって容易に、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブを分離することができる。
【0043】
単層カーボンナノチューブ分散液における単層カーボンナノチューブの含有量は、1μg/mL以上100μg/mL以下であることが好ましく、5μg/mL以上40μg/mL以下であることがより好ましい。
単層カーボンナノチューブの含有量が上記の範囲であれば、無担体電気泳動法によって容易に、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブを分離することができる。
【0044】
単層カーボンナノチューブ分散液を調製する方法としては、特に限定されず、公知の方法が用いられる。例えば、単層カーボンナノチューブの混合物と界面活性剤を含む分散媒の混合液を超音波処理して、分散媒に、単層カーボンナノチューブの混合物を分散させる方法が挙げられる。この超音波処理により、凝集していた金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブが充分に分離し、ナノカーボン分散液は、分散媒に金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブが均一に分散したものとなる。したがって、後述する無担体電気泳動法により、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブを分離し易くなる。なお、超音波処理により分散しなかった金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブは、超遠心分離により分離、除去することが好ましい。
【0045】
次いで、注入工程にて、単層カーボンナノチューブ分散液を分離槽11内に注入する。
また、分離槽11に単層カーボンナノチューブ分散液を注入することにより、単層カーボンナノチューブ分散液に第1の電極12と第2の電極13が接する。
【0046】
次いで、第1の電極12と第2の電極13に、所定時間(例えば、1時間~100時間)、直流電圧を印加することにより、分離槽11内にて、電界を形成する。具体的には、電界の向きが分離槽11の下方から上方へ向かうように電界を形成する。この電界と、単層カーボンナノチューブの電荷とにより生じる電気泳動力により、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブは第1の電極12側に移動し、半導体型単層カーボンナノチューブは第2の電極13側に移動する。以上のように、無担体電気泳動法により、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブとに分離する。
【0047】
無担体電気泳動の結果、図3に示すように、単層カーボンナノチューブ分散液は、相対的に金属型単層カーボンナノチューブの含有量が多い分散液相(以下、「分散液相A」という。)と、相対的に半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が多い分散液相(以下、「分散液相B」という。)と、分散液相Aと分散液相Bの間に形成され、相対的に金属型単層カーボンナノチューブおよび半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が少ない分散液相(以下、「分散液相C」という。)との3相に相分離する。
【0048】
本実施形態では、第1の電極12側に分散液相Aが形成され、第2の電極13側に分散液相Bが形成される。
【0049】
第1の電極12と第2の電極13に印加する直流電圧は、特に限定されず、第1の電極12と第2の電極13との間の距離や単層カーボンナノチューブ分散液における単層カーボンナノチューブの混合物の含有量等に応じて適宜調整される。
【0050】
単層カーボンナノチューブ分散液の分散媒として、水または重水を用いた場合、第1の電極12と第2の電極13に印加する直流電圧を、0Vより大きく、1000V以下の間の任意の値とする。
【0051】
また、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加したとき、第1の電極12と第2の電極13の間の電界は、0.5V/cm以上15V/cm以下であることが好ましく、1V/cm以上10V/cm以下であることがより好ましい。
【0052】
分離工程において、分離槽11に収容されている単層カーボンナノチューブ分散液の温度は、単層カーボンナノチューブ分散液の分散媒が変質したり、蒸発したりしない温度であれば特に限定されない。
【0053】
次いで、評価工程にて、単層カーボンナノチューブ分散液の物理的状態または化学的状態を評価する。
本実施形態のナノカーボンの分離方法では、分離槽11の高さ方向に沿って等間隔に配置された複数の評価用電極19と、評価用電極19に電気的に接続され、各評価用電極19における電位を計測する電位計20とを有する評価手段14を用いて、各評価用電極19における電位を計測する。単層カーボンナノチューブ分散液の電位勾配は、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離の進行に応じて変化する。したがって、無担体電気泳動時の電位勾配から、単層カーボンナノチューブ分散液の分離状態を評価することができる。
【0054】
次いで、判断工程にて、判断手段15により、評価工程で得られた電位勾配から、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離状態を判断する。判断工程では、例えば、電位勾配が大きく変化する点が、規定の測定位置以下になった時、すなわち、半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が多い分散液相Bが十分集約された時を金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離の終点と判断する。
【0055】
判断工程にて、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。
なお、評価工程と判断工程は、分離工程と同時に行ってもよい。同時に行うことにより、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離終点をリアルタイムに正確に判断することができ、より効率的である。
【0056】
次いで、回収工程にて、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブを回収する。すなわち、分離槽11から、分離した分散液相Aと分散液相Bとをそれぞれ回収(分取)する。
【0057】
回収の方法は、特に限定されず、分散液相Aと分散液相Bが拡散混合しない方法であればいかなる方法であってもよい。
回収の方法としては、例えば、第1の電極12と第2の電極13への直流電圧の印加を止め、それぞれの相から、ピペットにより静かに少量ずつ吸い出す方法が挙げられる。
また、回収の方法としては、分離槽11の下端に、分離槽11の外底面に連通する回収口を設けて、その回収口を介して、例えば、ペリスタポンプ等を用いて静かに単層カーボンナノチューブ分散液の回収を行う方法が挙げられる。これにより、回収時に、液面の変化に合わせて回収口を移動させる必要がなく、分離槽11内部の液相界面を乱すことなく、回収操作を行うことができる。また、分離槽11を高容量化した場合に、長い回収ノズルを用意する必要もなく、非常に合理的である。
【0058】
回収した単層カーボンナノチューブ分散液を、再び、分離槽11に収容し、上述と同様にして、無担体電気泳動法により、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブを分離する操作を繰り返し実施することにより、純度が高い金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブを得ることができる。
【0059】
本実施形態のナノカーボン分離装置10を用いたナノカーボンの分離方法によれば、目視により分散液相が形成されたことを確認する方法や、一対の電極間に直流電圧を印加する時間に依らずに、単層カーボンナノチューブ分散液の電位勾配により、単層カーボンナノチューブ分散液の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。また、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0060】
なお、本実施形態のナノカーボンの分離方法では、単層カーボンナノチューブの混合物を、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブに分離する場合を例示したが、本実施形態のナノカーボンの分離方法はこれに限定されない。本実施形態のナノカーボンの分離方法は、例えば、分離槽11内にて、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブに分離した後、目的の性質を有する単層カーボンナノチューブのみを回収する、単層カーボンナノチューブの精製方法として行ってもよい。
【実施例1】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
「単層カーボンナノチューブ分散の調製」
重水に、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(商品名:Brij S100、シグマアルドリッチ社製)を1.0質量%溶解した溶液AAを調製した。
溶液AAに対して、単層カーボンナノチューブの混合物(eDIPS(enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis:改良直噴熱分解合成)単層カーボンナノチューブ、平均直径:1.0nm)を単分散させた。
単層カーボンナノチューブの混合物を単分散させた重水に対して、ホーン型超音波破砕機(商品名:Digital Sonifier 450、ブランソン社製)により、出力40Wで20分間、超音波分散処理を行った。その後、超遠心機(商品名:CS100GX、日立工機社製)により、250000×g、10℃にて1時間、超遠心分離操作を行った。そして、上澄み50%を、単層カーボンナノチューブの混合物の分散液として得た。
次いで、単層カーボンナノチューブの混合物の分散液に溶液Aを添加し、単層カーボンナノチューブの含有量が10μg/mL、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルの含有量が1.0wt%の単層カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0063】
「単層カーボンナノチューブ分散液の注入」
上述のように調製した単層カーボンナノチューブ分散液を、図1に示すナノカーボン分離装置10の分離槽11に注入した。
分離槽11内には、その高さ方向に沿って、1cm間隔で9本の評価用電極19を配置した。最上部の第1の電極12(陰極)と第2の電極13(陽極)の距離を10cmとした。
【0064】
「分離操作」
ナノカーボン分離装置10の第1の電極12(陰極)と第2の電極13(陽極)に60Vの直流電圧を印加した。
【0065】
「評価」
電圧印加直後、電圧印加開始から6時間後、および、電圧印加開始から100時間後に、電位計20により、最下部の第2の電極13(陽極)に対する各評価用電極19、および、最上部の第1の電極12(陰極)における相対電位の絶対値を計測した。
電圧印加直後の単層カーボンナノチューブ分散液の電位の測定値を図5に示す。縦軸は第2の電極13(陽極)を基準とした相対電位の絶対値を示し、横軸は電極位置を示す。電極0は最下部の第2の電極13(陽極)、電極10は最上部の第1の電極12(陰極)、1~9は各評価用電極19を示しており、数字が大きくなるに従い、分離槽11の上方になっている。電極10の電位は、電気泳動のために印加した直流電圧に等しく、60Vである。電圧印加直後は、分散液は均一であるために、分離槽11内の電位勾配は均一で、図5に示すように、測定位置と電位との関係はほぼ直線的である。
【0066】
6時間後の測定結果を図6に示す。6時間後には、分離が進行している。電気泳動力により、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブは第1の電極12側に移動し、半導体型単層カーボンナノチューブは第2の電極13側に移動する。6時間後には、半導体型単層カーボンナノチューブが多い分散液相Bと、相対的に単層カーボンナノチューブの含有量が少ない分散液相Cの界面は、電極位置7近辺にあった。図6では、電極位置7で電位勾配が変化していることがわかる。分離槽11の電極位置7より上方の部分では、電位勾配が大きく、分離槽11の電極位置7より下方の部分では、電位勾配が小さくなっている。すなわち、分離槽11内の半導体型単層カーボンナノチューブが多い分散液相Bでは、他の部分と比較して、電位勾配が小さくなっていることがわかる。
【0067】
100時間後の測定結果を図7に示す。100時間後には、さらに分離が進行している。図7では、電極位置5より下方では、ほとんど電位勾配が見られない。この時、半導体型単層カーボンナノチューブは、分離槽11内で電極位置5より下方に集まっている。このように、分離槽11内に複数の電位評価用電極19を設け、電位の場所依存性を測定することで、分離槽11を目視せずとも分離状況を検出することができることを明らかにした。
【0068】
例えば、半導体型単層カーボンナノチューブが多い分散液相Bが、電極位置5より下方にある時を分離の終点と設定すると、図7のように電位勾配が大きく変化する点が電極位置5になった時に、電気泳動の電圧印加を停止すればよい。この終点位置は、所望の分離の進行度に合わせて、変更することができる。分離で要求される半導体型単層カーボンナノチューブの純度がそれほど高くない場合には、例えば、図6のように電極位置7で電位勾配が変化したときに分離を停止すればよい。また、高い半導体型単層カーボンナノチューブの純度が要求される場合には、さらに分離操作を継続して、電極位置4または、3など、分離槽11のさらに下方の場所で電位勾配が変化したときに分離を停止すればよい。
【0069】
なお、評価工程と判断工程は、分離工程と同時に行ってもよい。同時に行うことにより、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離終点をリアルタイムに正確に判断することができ、効率的である。
【0070】
本実施例のナノカーボン分離装置10を用いたナノカーボンの分離方法によれば、分離槽11内にて第1の電極12と第2の電極13の間に、ナノカーボンの分散液30の電位を測定する、評価用電極19と電位計20を有する評価手段14を設けている。さらに判断手段15を設けることにより、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。この結果、目視により分散液相が形成されたことを確認する方法や、一対の電極間に直流電圧を印加する時間に依らずに、単層カーボンナノチューブ分散液の電位勾配により、単層カーボンナノチューブ分散液の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。また、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0071】
[第2の実施形態]
(ナノカーボン分離装置)
図8は、本実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。なお、図8において、図1に示した第1の実施形態のナノカーボン分離装置と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0072】
本実施形態のナノカーボン分離装置100では、評価手段110が、分離槽11の高さ方向に沿って等間隔に配置された複数のpHセンサー111と、pHセンサー111に電気的に接続され、各pHセンサー111におけるナノカーボンの分散液30のpHを計測するpH計112とを有する。
【0073】
評価手段110のpH計112としては、各pHセンサー111におけるpHを測定することができるものであれば特に限定されない。
また、評価手段110のpH計112は、ケーブル21を介して、判断手段120と電気的に接続されている。pH計112は、各pHセンサー111におけるpHの測定結果を電気信号に変換して、判断手段120へ出力することができるようになっている。
【0074】
評価手段110のpH計112は、ケーブル21を介して、判断手段120と電気的に接続されている。
また、判断手段120は、ケーブル22を介して、直流電源16と電気的に接続されている。
【0075】
評価手段110のpHセンサー111としては、無担体電気泳動法に用いることができ、ナノカーボンの分散液30に対して安定なものであれば特に限定されない。pHセンサー111としては、一般的に溶液のpHの測定に用いられるものが挙げられる。
【0076】
複数のpHセンサー111を配置する間隔は、特に限定されず、分離槽11の高さや、分離槽11内に収容されるナノカーボンの分散液30の量(体積)等に応じて適宜調整される。分離の終了時に、あらかじめ注目すべきナノカーボンの分散液30の場所が分かっていれば、その周囲のみにpHセンサー111を配置することも可能である。例えば、分離後に分離槽11の下側に集まるナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態に基づいて、分離の終点を決定する場合には、pHセンサー111は、分離槽11の下側に配置されていればよい。
【0077】
図9に示すように、分離槽11内に単層カーボンナノチューブ分散液を収容した状態で、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、第1の電極12(陰極)側に金属型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Aが形成される。また、第2の電極13(陽極)側に半導体型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Bが形成される。また、分散液相Aと分散液相Bの間には、相対的に金属型単層カーボンナノチューブおよび半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が少ない分散液相Cが形成される。
【0078】
判断手段120は、評価手段110から発信された、pH計112で測定したpHに関する電気信号を受信し、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。
【0079】
分離槽11内に単層カーボンナノチューブ分散液を収容した状態で、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、分離槽11内にpH勾配が形成される。金属型単層カーボンナノチューブが集まる第1の電極12(陰極)側(分散液相A)にはpHが6~7の領域が形成され、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる第2の電極13(陽極)側(分散液相B)にはpHが4~5の領域が形成される。
したがって、pHが4~5の領域は、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相B)である。pHを計測することにより、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相B)を検出し、判断手段120は、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相B)が十分集約された時点を分離の終点と判断する。
判断手段120が、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。
【0080】
本実施形態のナノカーボン分離装置100では、第1の電極12が陰極、第2の電極13が陽極である場合を例示したが、本実施形態のナノカーボン分離装置100はこれに限定されない。本実施形態のナノカーボン分離装置100にあっては、第1の電極12が陽極、第2の電極13が陰極であってもよい。
【0081】
本実施形態のナノカーボン分離装置100によれば、分離槽11内にて第1の電極12と第2の電極13の間に、ナノカーボンの分散液30のpHを測定する、pHセンサー111とpH計112を有する評価手段110を設けている。さらに判断手段15を設けることにより、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。この結果、後述するナノカーボンを分離する工程において、目視による分離状態の確認方法や、電気泳動の電圧印加時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0082】
(ナノカーボンの分離方法)
本実施形態のナノカーボンの分離方法は、分離槽11にナノカーボンの分散液30を注入する工程(以下、「注入工程」と言う。)と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13との間に直流電圧を印加して、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンを第1の電極12側に移動させるとともに、ナノカーボンの分散液30に含まれる半導体型ナノカーボンを第2の電極13側に移動させて、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを分離する工程(以下、「分離工程」と言う。)と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態を評価する工程(以下、「評価工程」と言う。)と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態から、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する工程(以下、「判断工程」と言う。)と、を有する。
また、本実施形態のナノカーボンの分離方法は、分離工程の後に、ナノカーボン分散液に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを回収する工程(以下、「回収工程」と言う。)を有していてもよい。
【実施例2】
【0083】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
「単層カーボンナノチューブ分散の調製」
実施例1と同様に平均直径が1.0nmの単層カーボンナノチューブの含有量が10μg/mL、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルの含有量が1.0wt%の単層カーボンナノチューブ分散液を用意した。
【0085】
「単層カーボンナノチューブ分散液の注入」
上述のように調製した単層カーボンナノチューブ分散液を、実施例1と同様に、図8に示すナノカーボン分離装置10の分離槽11に注入した。
本実施例のナノカーボンの分離方法では、分離槽11内には、その高さ方向に沿って、15本のpHセンサー111を配置した。
【0086】
「分離操作」
実施例1と同様に、ナノカーボン分離装置10の第1の電極12(陰極)と第2の電極13(陽極)に120Vの直流電圧を印加した。
【0087】
「評価」
電圧を印加して100時間経過後の、pHの測定結果を図10に示す。縦軸は測定したpHを示し、横軸はpHセンサーの位置を示す。測定位置1は最下部のpHセンサー111での測定値、測定位置15は最上部のpHセンサー111での測定値であり、数字が大きくなるに従い、分離槽11の上方になっている。
【0088】
第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、分離槽11内にpH勾配が形成される。図10では、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる第2の電極13(陽極)側のpHセンサー位置4より下方(分散液相B)にはpHが5以下の領域が形成されている。金属型単層カーボンナノチューブが集まる第1の電極12(陰極)側のpHセンサー位置11~13の領域(分散液相A)にはpHが6~7の領域が形成されている。
したがって、pHを計測することにより、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相B)を検出できることがわかる。この結果、pHが5以下の領域、すなわち、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相B)が十分集約された時点を分離の終点とする。
判断工程にて、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。
【0089】
図10に示した状態では、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相B)は、pHセンサー4より下側に集約されていることがわかる。このように、分離槽11内に複数のpHセンサー111を設け、pHの場所依存性を測定することで、分離槽11を目視せずとも分離状況を検出することができる。例えば、半導体型単層カーボンナノチューブが多い分散液相Bが、pHセンサー4より下方にある時を分離の終点と設定し、図10のようにpHが5以下になる点がpHセンサー位置5になった時に、電気泳動の電圧印加を停止した。この終点位置は、所望の分離の進行度に合わせて、変更することができるのは、実施例1の電位測定の場合と同様である。
【0090】
なお、評価工程と判断工程は、分離工程と同時に行ってもよい。同時に行うことにより、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離終点をリアルタイムに正確に判断することができ、より効率的である。
【0091】
本実施形態のナノカーボン分離装置100によれば、分離槽11内にて第1の電極12と第2の電極13の間に、ナノカーボンの分散液30のpHを測定する、pHセンサー111とpH計112を有する評価手段110を設けている。さらに判断手段120を設けることにより、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。この結果、ナノカーボンの分離する工程において、目視による分離状態の確認方法や、電気泳動の電圧印加時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0092】
[第3の実施形態]
(ナノカーボン分離装置)
図11は、本実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。なお、図11において、図1に示した第1の実施形態のナノカーボン分離装置と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0093】
本実施形態のナノカーボン分離装置200では、評価手段210が、分離槽11内に収容されたナノカーボンの分散液30の吸光度を評価する。
評価手段210は、分離槽11内に収容されたナノカーボンの分散液30に光を入射(照射)する光源211と、分離槽11の高さ方向に沿って等間隔に配置された複数の検知部を有する検知器212とを有する。検知器212の検知部は、光源211から出射され、分離槽11内に収容されたナノカーボンの分散液30を透過した光を受光する。評価手段210では、光源211からナノカーボンの分散液30への光の照射量と、検知器212の検知部における受光量とから、ナノカーボンの分散液30の吸光度を測定する。
【0094】
評価手段210の検知器212は、ケーブル21を介して、判断手段220と電気的に接続されている。
また、判断手段220は、ケーブル22を介して、直流電源16と電気的に接続されている。
【0095】
評価手段210の光源211としては、例えば、波長200nm~800nmの可視域の光を発するものが用いられる。
【0096】
評価手段210の検知器212としては、一般的に溶液の吸光度の測定に用いられるものが挙げられる。また、検知器212は、各検知部における吸光度の測定結果を電気信号に変換して、判断手段220へ出力することができるようになっている。
【0097】
検知器212において、複数の検知部を配置する間隔は、特に限定されず、分離槽11の高さや、分離槽11内に収容されるナノカーボンの分散液30の量(体積)等に応じて適宜調整される。分離の終了時に、あらかじめ注目すべきナノカーボンの分散液30の場所が分かっていれば、その周囲のみに検知器212の検知部を配置することも可能である。例えば、分離後に分離槽11の下側に集まるナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態に基づいて、分離の終点を決定する場合には、検知器212の検知部は、分離槽11の下側に配置されていればよい。
【0098】
図12に示すように、分離槽11内に単層カーボンナノチューブ分散液を収容した状態で、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、第1の電極12(陰極)側に金属型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Aが形成される。また、第2の電極13(陽極)側に半導体型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Bが形成される。また、分散液相Aと分散液相Bの間には、相対的に金属型単層カーボンナノチューブおよび半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が少ない分散液相Cが形成される。
【0099】
判断手段220は、評価手段210から発信された、検知器212で測定した吸光度に関する電気信号を受信し、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。判断手段220は、吸光度の変化量が大きく変動する点が、規定の測定位置以下になった場合に、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断する。判断手段220が、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。すなわち、判断手段220は、直流電源16に対して、直流電圧の印加の停止を指示する電気信号を発信する。
【0100】
本実施形態のナノカーボン分離装置200では、第1の電極12が陰極、第2の電極13が陽極である場合を例示したが、本実施形態のナノカーボン分離装置200はこれに限定されない。本実施形態のナノカーボン分離装置200にあっては、第1の電極12が陽極、第2の電極13が陰極であってもよい。
【0101】
本実施形態のナノカーボン分離装置200によれば、分離槽11内にて第1の電極12と第2の電極13の間に、ナノカーボンの分散液30の吸光度を測定する、検知器212を有する評価手段110を設け、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段220を設けることにより、例えば、後述するナノカーボンを分離する工程において、目視により分散液相が形成されたことを確認する方法や、一対の電極間に直流電圧を印加する時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の吸光度により、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0102】
(ナノカーボンの分離方法)
本実施形態のナノカーボンの分離方法は、分離槽11にナノカーボンの分散液30を注入する工程(以下、「注入工程」と言う。)と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13との間に直流電圧を印加して、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンを第1の電極12側に移動させるとともに、ナノカーボンの分散液30に含まれる半導体型ナノカーボンを第2の電極13側に移動させて、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを分離する工程(以下、「分離工程」と言う。)と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態を評価する工程(以下、「評価工程」と言う。)と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態から、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する工程(以下、「判断工程」と言う。)と、を有する。
【実施例3】
【0103】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0104】
「単層カーボンナノチューブ分散の調製」
実施例1と同様にeDIPS法で合成された平均直径が1.0nmの単層カーボンナノチューブの含有量が10μg/mL、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルの含有量が1.0wt%の単層カーボンナノチューブ分散液を用意した。
【0105】
「単層カーボンナノチューブ分散液の注入」
上述のように調製した単層カーボンナノチューブ分散液を、実施例1と同様に、図11に示すナノカーボン分離装置10の分離槽11に注入した。
本実施例のナノカーボンの分離方法では、分離槽11内に収容された単層カーボンナノチューブ分散液に光を入射する光源211と、分離槽11の高さ方向に沿って等間隔に配置された複数の検知部を有する検知器212とを有する評価手段210を用いて、検知器212に設けられた各検知部における吸光度を計測して、単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度を評価する。分離槽11内で、その高さ方向に沿って、15か所での吸光度を評価した。
吸光度の評価では、単層カーボンナノチューブの直径依存性の少ない波長の310nm、半導体型単層カーボンナノチューブに特有な649nm、金属型単層カーボンナノチューブに特有な503nmでの吸光度を測定した。また、簡易的に半導体型単層カーボンナノチューブと金属型単層カーボンナノチューブの割合を示す指標として、649nmと503nmでの吸光度の比率を算出した。
【0106】
「分離操作」
実施例1と同様に、ナノカーボン分離装置10の第1の電極12(陰極)と第2の電極13(陽極)に120Vの直流電圧を印加した。
【0107】
「評価」
電圧を印加して100時間経過後の、吸光度の測定結果を図13に示す。左の縦軸は測定した310nmを示し、分離層11内の単層カーボンナノチューブの濃度に対応している。右の縦軸は649nmと503nmでの吸光度の比率である。この649nm/503nmの比率が大きいほど、半導体型単層カーボンナノチューブの純度が高いことを示す。横軸は吸光度の測定位置を示す。測定位置1は最下部で、測定位置15は最上部の測定値であり、数字が大きくなるに従い、分離槽11の上方になっている。
【0108】
図13では、単層カーボンナノチューブの濃度を示す、310nmの吸光度が、測定位置1~3と、測定位置11~13で大きくなっており、電気泳動により単層カーボンナノチューブ混合物が、2つの領域に分離されていることがわかる。さらに、測定位置1~4では、649nm/503nmの比率が大きく、半導体型単層カーボンナノチューブの純度が高く(分散液相B)、濃縮されていることがわかる。一方、測定位置11~13では、649nm/503nmの比率が小さく、金属型単層カーボンナノチューブの純度が高い(分散液相A)ことがわかる。このように、吸光度を測定することにより、半導体型単層カーボンナノチューブと金属型単層カーボンナノチューブの分離状態を検知することができる。
したがって、吸光度を測定することにより、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相B)、および、金属型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相A)を検出できることがわかる。この結果、310nmの吸光度が大きく、かつ、649nm/503nmの比率が大きい領域、すなわち、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相A)が十分集約された時点を分離の終点とした。
判断工程にて、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。
【0109】
図13に示した状態では、半導体型単層カーボンナノチューブが集まる領域(分散液相B)は、測定値3より下側に集約されていることがわかる。このように、分離槽11内の複数の測定位置で、吸光度を測定することで、分離槽11を目視せずとも分離状況を検出することができることを明らかにした。例えば、半導体型単層カーボンナノチューブが多い分散液相Bが、測定位置3より下方にある時を分離の終点と設定すると、図13のように310nmの吸光度が大きく、かつ、649nm/503nmの比率が大きい領域が測定位置3以下になった時に、電気泳動の電圧印加を停止すればよい。この終点位置は、所望の分離の進行度に合わせて、変更することができるのは、実施例1の電位測定の場合と同様である。
【0110】
なお、評価工程と判断工程は、分離工程と同時に行ってもよい。同時に行うことにより、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離終点をリアルタイムに正確に判断することが、より効率的である。
【0111】
本実施形態のナノカーボン分離装置100によれば、分離槽11内にて複数の位置で、ナノカーボンの分散液30の吸光度を測定する評価手段210を設けている。さらに判断手段220を設けることにより、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。この結果、ナノカーボンの分離する工程において、目視による分離状態の確認方法や、電気泳動の電圧印加時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0112】
[第4の実施形態]
(ナノカーボン分離装置)
図14は、本実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。なお、図14において、図1に示した第1の実施形態のナノカーボン分離装置と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0113】
本実施形態のナノカーボン分離装置600は、分離槽11と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と、分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13と、第1の電極12と第2の電極13との間に直流電圧を印加する直流電源16を備えている。直流電源16は、ケーブル17を介して第1の電極12に電気的に接続され、ケーブル18を介して第2の電極13に電気的に接続されている。ケーブル17、または、ケーブル18の途中には、第1の電極12と第2の電極13との間に流れる電流を測定する電流計613を有しており、第1の電極12と第2の電極13との間に流れる電流を測定することができる。本実施形態の評価手段610は、電流計613を用いて、第1の電極12と第2の電極13との間に流れる電流を測定する。さらに、第1の電極12と第2の電極13との間に流れる電流値から、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段620とを備える。
【0114】
本実施形態のナノカーボン分離装置600では、評価手段610が、分離槽11内にて、第1の電極12と、第2の電極13に流れる、電気泳動時の電流を計測する電流計613を有する。
【0115】
評価手段610の電流計613は、ケーブル21を介して、判断手段620と電気的に接続されている。
また、判断手段620は、ケーブル22を介して、直流電源16と電気的に接続されている。
【0116】
評価手段610の電流計613としては、第1の電極12と第2の電極13に流れる電流値を測定することができるものであれば特に限定されない。また、電流計613は、第1の評価用電極611と第2の評価用電極612の間の電流値の測定結果を電気信号に変換して、判断手段620へ出力することができるようになっている。
なお、電流計613を設置する代わりに、直流電源16として、例えば高精度の電流計を内蔵したソース・メジャー・ユニット(製品の例、ケースレー社製、2400ソースメータ)を用いても効果は同様である。
【0117】
図15に示すように、分離槽11内に単層カーボンナノチューブ分散液を収容した状態で、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、第1の電極12(陰極)側に金属型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Aが形成される。また、第2の電極13(陽極)側に半導体型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Bが形成される。また、分散液相Aと分散液相Bの間には、相対的に金属型単層カーボンナノチューブおよび半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が少ない分散液相Cが形成される。
【0118】
判断手段620は、評価手段610から発信された、電流計613で測定した電流値に関する電気信号を受信し、ナノカーボンの分散液30の分離状態を判断する。
判断手段620は、第1の電極12と第2の電極13に流れる電流値が、規定の値以下になった場合に、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断する。
判断手段620が、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。すなわち、判断手段620は、直流電源16に対して、直流電圧の印加の停止を指示する電気信号を発信する。
【0119】
本実施形態のナノカーボン分離装置600では、第1の電極12が陰極、第2の電極13が陽極である場合を例示したが、本実施形態のナノカーボン分離装置600はこれに限定されない。本実施形態のナノカーボン分離装置600にあっては、第1の電極12が陽極、第2の電極13が陰極であってもよい。
【0120】
本実施形態のナノカーボン分離装置600によれば、電気泳動中のナノカーボンの分散液30内における、第1の電極12と第2の電極13との間の電流値を測定するための電流計613を有する評価手段610を設け、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段620を設けた。これにより、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを分離する工程において、目視により分散液相が形成されたことを確認する方法や、一対の電極間に直流電圧を印加する時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30における、第1の電極12と第2の電極13との間の電流値により、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0121】
(ナノカーボンの分離方法)
本実施形態のナノカーボンの分離方法は、分離槽11にナノカーボンの分散液30を注入する工程(以下、「注入工程」と言う。)と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13との間に直流電圧を印加して、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンを第1の電極12側に移動させるとともに、ナノカーボンの分散液30に含まれる半導体型ナノカーボンを第2の電極13側に移動させて、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを分離する工程(以下、「分離工程」と言う。)と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態を評価する工程(以下、「評価工程」と言う。)と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態から、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する工程(以下、「判断工程」と言う。)と、を有する。
【実施例4】
【0122】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0123】
「単層カーボンナノチューブ分散の調製」
実施例1と同様にeDIPS法で合成された平均直径が1.0nmの単層カーボンナノチューブの含有量が10μg/mL、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルの含有量が1.0wt%の単層カーボンナノチューブ分散液を用意した。
【0124】
「単層カーボンナノチューブ分散液の注入」
上述のように調製した単層カーボンナノチューブ分散液を、実施例1と同様に、図14に示すナノカーボン分離装置600の分離槽11に注入した。
本実施例のナノカーボンの分離方法では、電気泳動中のナノカーボンの分散液30内における、第1の電極12と第2の電極13との間の電流値を測定するための電流計613を有する評価手段610を設け、電気泳動中の電流値を評価する。
【0125】
「分離操作」
実施例1と同様に、ナノカーボン分離装置10の第1の電極12(陰極)と第2の電極13(陽極)に120Vの直流電圧を印加した。
【0126】
「評価」
電圧を印加と同時に、電気泳動中の電流値を測定し、96時間経過するまでの、電気泳動中の電流値の測定結果を図16に示す。左の縦軸は測定した電気泳動中の電流値を示し、横軸は電圧印加時間を示す。
図16に示したように、電圧印加直後は、最大で300uAを超える電流が流れた。しかし24時間後には、電流は100uA以下になり、さらに、45時間後には、70uA以下まで低下している。このように、電気泳動が進行し、分離槽11内を移動する物質が少なくなると、電気泳動中の電流値が小さくなることが確認された。したがって、電気泳動中の電流値が十分小さくなったときに分離の終点とすることができる。
判断工程にて、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。
【0127】
図16に示した状態では、例えば、電気泳動の電流値が70uA以下まで低下した時に、電気泳動の電圧印加を停止すればよい。この終点位置は、所望の分離の進行度に合わせて、変更することができるのは、実施例1の電位測定の場合と同様である。
なお、電気泳動の電流は、印加する電圧、分離槽11の形状、第1の電極12と第2の電極13の形状、並びに、ナノカーボンの分散液30の組成等により変化する。したがって、再現性を確保するためには、こうした分離操作の条件を合わせておく必要がある。
本実施例のように、電気泳動の電流値から電気泳動中の電流値から状態を判断する場合には、装置構成が最も簡単で良いことが利点である。また、評価工程と判断工程が、分離工程と同時に行うことができ、単層カーボンナノチューブ分散液に含まれる金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離終点をリアルタイムに正確に判断することができる。
【0128】
本実施形態のナノカーボン分離装置600によれば、分離槽11内にて1の電極12と第2の電極13との間の電流値を測定する評価手段610を設けている。さらに判断手段620を設けることにより、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する。この結果、ナノカーボンの分離する工程において、目視により分離状態の確認方法や、電気泳動の電圧印加時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0129】
[第5の実施形態]
(ナノカーボン分離装置)
図17は、本実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。本実施形態は、第2の実施形態の変形例である。なお、図17において、図1に示した第1の実施形態のナノカーボン分離装置と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0130】
本実施形態のナノカーボン分離装置500は、分離槽11と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と、分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13と、ナノカーボンの分散液30の導電率を評価する評価手段510と、評価手段510で評価したナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態から、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段520とを備える。また、本実施形態のナノカーボン分離装置500は、第1の電極12と第2の電極13との間に直流電圧を印加する直流電源16を備えていてもよい。直流電源16は、ケーブル17を介して第1の電極12に電気的に接続され、ケーブル18を介して第2の電極13に電気的に接続されている。
【0131】
評価手段510の導電率計512は、ケーブル21を介して、判断手段520と電気的に接続されている。
また、判断手段520は、ケーブル22を介して、直流電源16と電気的に接続されている。
【0132】
評価手段510の評価用電極511としては、無担体電気泳動法に用いることができ、ナノカーボンの分散液30に対して安定なものであれば特に限定されない。
【0133】
複数の評価用電極511を配置する間隔は、特に限定されず、分離槽11の高さや、分離槽11内に収容されるナノカーボンの分散液30の量(体積)等に応じて適宜調整される。分離の終了時に、あらかじめ注目すべきナノカーボンの分散液30の場所が分かっていれば、その周囲のみに評価用電極511を配置することも可能である。例えば、分離後に分離槽11の下側に集まるナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態に基づいて、分離の終点を決定する場合には、評価用電極511は、分離槽11の下側に配置されていればよい。
【0134】
図18に示すように、分離槽11内に単層カーボンナノチューブ分散液を収容した状態で、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、第1の電極12(陰極)側に金属型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Aが形成される。また、第2の電極13(陽極)側に半導体型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Bが形成される。また、分散液相Aと分散液相Bの間には、相対的に金属型単層カーボンナノチューブおよび半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が少ない分散液相Cが形成される。
【0135】
判断手段520は、評価手段510から発信された、導電率計512で測定した導電率に関する電気信号を受信し、ナノカーボンの分散液30の分離状態を判断する。
判断手段520では、導電率の変化量が大きく変動する点が、規定の測定位置以下になった場合に、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断する。
【0136】
判断手段520が、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。すなわち、判断手段520は、直流電源16に対して、直流電圧の印加の停止を指示する電気信号を発信する。
【0137】
本実施形態のナノカーボン分離装置500では、第1の電極12が陰極、第2の電極13が陽極である場合を例示したが、本実施形態のナノカーボン分離装置500はこれに限定されない。本実施形態のナノカーボン分離装置500にあっては、第1の電極12が陽極、第2の電極13が陰極であってもよい。
【0138】
本実施形態のナノカーボン分離装置500によれば、分離槽11内にて第1の電極12と第2の電極13の間に、ナノカーボンの分散液30の導電率を測定する、評価用電極511と導電率計512を有する評価手段510を設け、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段520を設けた。これにより、ナノカーボンを分離する工程において、目視により分散液相が形成されたことを確認する方法や、一対の電極間に直流電圧を印加する時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の導電率により、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0139】
[第6の実施形態]
(ナノカーボン分離装置)
図19は、本実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。本実施形態は、第3の実施形態の変形例である。図9において、図7に示した第3の実施形態のナノカーボン分離装置と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0140】
本実施形態のナノカーボン分離装置300は、分離槽11と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と、分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13と、ナノカーボンの分散液30の発光スペクトルを評価する評価手段310と、評価手段310で評価したナノカーボンの分散液30の発光スペクトルから、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段320とを備える。また、本実施形態のナノカーボン分離装置300は、第1の電極12と第2の電極13との間に直流電圧を印加する直流電源16を備えていてもよい。直流電源16は、ケーブル17を介して第1の電極12に電気的に接続され、ケーブル18を介して第2の電極13に電気的に接続されている。
【0141】
本実施形態のナノカーボン分離装置300では、評価手段310が、分離槽11内に収容されたナノカーボンの分散液30に光を入射(照射)する光源311と、分離槽11の高さ方向に沿って等間隔に配置された複数の検知部を有する検知器312とを有する。検知器312の検知部は、光源311から出射され、分離槽11内に収容されたナノカーボンの分散液30から発光した光を受光する。
【0142】
評価手段310の検知器312は、ケーブル21を介して、判断手段320と電気的に接続されている。
また、判断手段320は、ケーブル22を介して、直流電源16と電気的に接続されている。
【0143】
評価手段310の光源311は、分散液30のナノカーボンを励起するためのものである。
【0144】
評価手段310の検知器312としては、一般的に溶液の発光スペクトルの測定に用いられるものが挙げられる。また、検知器312は、各検知部における発光スペクトルの測定結果を電気信号に変換して、判断手段320へ出力することができるようになっている。
【0145】
検知器312において、複数の検知部を配置する間隔は、特に限定されず、分離槽11の高さや、分離槽11内に収容されるナノカーボンの分散液30の量(体積)等に応じて適宜調整される。分離の終了時に、あらかじめ注目すべきナノカーボンの分散液30の場所が分かっていれば、その周囲のみに検知器312の検知部を配置することも可能である。例えば、分離後に分離槽11の下側に集まるナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態に基づいて、分離の終点を決定する場合には、検知器312の検知部は、分離槽11の下側に配置されていればよい。
【0146】
図20に示すように、分離槽11内に単層カーボンナノチューブ分散液を収容した状態で、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、第1の電極12(陰極)側に金属型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Aが形成される。また、第2の電極13(陽極)側に半導体型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Bが形成される。また、分散液相Aと分散液相Bの間には、相対的に金属型単層カーボンナノチューブおよび半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が少ない分散液相Cが形成される。
【0147】
判断手段320は、評価手段310から発信された、検知器312で測定した発光スペクトルに関する電気信号を受信し、ナノカーボンの分散液30の分離状態を判断する。
判断手段320は、発光スペクトルの変化量が大きく変動する点が、規定の測定位置以下になった場合に、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断する。
判断手段320が、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。すなわち、判断手段320は、直流電源16に対して、直流電圧の印加の停止を指示する電気信号を発信する。
【0148】
本実施形態のナノカーボン分離装置300では、第1の電極12が陰極、第2の電極13が陽極である場合を例示したが、本実施形態のナノカーボン分離装置300はこれに限定されない。本実施形態のナノカーボン分離装置300にあっては、第1の電極12が陽極、第2の電極13が陰極であってもよい。
【0149】
本実施形態のナノカーボン分離装置300によれば、分離槽11内にて第1の電極12と第2の電極13の間に、ナノカーボンの分散液30の発光スペクトルを測定する、検知器312を有する評価手段310を設け、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段320を設ける。この結果、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを分離する工程において、目視により分散液相が形成されたことを確認する方法や、一対の電極間に直流電圧を印加する時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の発光スペクトルにより、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0150】
[第7の実施形態]
(ナノカーボン分離装置)
図21は、本実施形態のナノカーボン分離装置を示す模式図である。本実施形態は、第3の実施形態の変形例である。図21において、図11に示した第3の実施形態のナノカーボン分離装置と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0151】
本実施形態のナノカーボン分離装置400は、分離槽11と、分離槽11内の上部に設けられた第1の電極12と、分離槽11内の下部に設けられた第2の電極13と、ナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態を評価する評価手段410と、評価手段410で評価したナノカーボンの分散液30の屈折率から、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段420とを備える。また、本実施形態のナノカーボン分離装置400は、第1の電極12と第2の電極13との間に直流電圧を印加する直流電源16を備えていてもよい。直流電源16は、ケーブル17を介して第1の電極12に電気的に接続され、ケーブル18を介して第2の電極13に電気的に接続されている。
【0152】
本実施形態のナノカーボン分離装置400では、評価手段410が、分離槽11内に収容されたナノカーボンの分散液30に光を入射(照射)する光源411と、分離槽11の高さ方向に沿って等間隔に配置された複数の検知部を有する検知器412とを有する。検知器412の検知部は、光源411から出射され、分離槽11内に収容されたナノカーボンの分散液30を透過した光を受光し、屈折率を測定する。
【0153】
評価手段410の検知器412は、ケーブル21を介して、判断手段420と電気的に接続されている。
また、判断手段420は、ケーブル22を介して、直流電源16と電気的に接続されている。
【0154】
評価手段410の検知器412としては、一般的に溶液の屈折率の測定に用いられるものが挙げられる。また、検知器412は、各検知部における屈折率の測定結果を電気信号に変換して、判断手段420へ出力することができるようになっている。
【0155】
検知器412において、複数の検知部を配置する間隔は、特に限定されず、分離槽11の高さや、分離槽11内に収容されるナノカーボンの分散液30の量(体積)等に応じて適宜調整される。分離の終了時に、あらかじめ注目すべきナノカーボンの分散液30の場所が分かっていれば、その周囲のみに検知器412の検知部を配置することも可能である。例えば、分離後に分離槽11の下側に集まるナノカーボンの分散液30の物理的状態または化学的状態に基づいて、分離の終点を決定する場合には、検知器412の検知部は、分離槽11の下側に配置されていればよい。
【0156】
図22に示すように、分離槽11内に単層カーボンナノチューブ分散液を収容した状態で、第1の電極12と第2の電極13に直流電圧を印加すると、第1の電極12(陰極)側に金属型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Aが形成される。また、第2の電極13(陽極)側に半導体型単層カーボンナノチューブが集まり分散液相Bが形成される。また、分散液相Aと分散液相Bの間には、相対的に金属型単層カーボンナノチューブおよび半導体型単層カーボンナノチューブの含有量が少ない分散液相Cが形成される。
【0157】
判断手段420は、評価手段410から発信された、検知器412で測定した屈折率に関する電気信号を受信し、ナノカーボンの分散液30の分離状態を判断する。
判断手段420は、屈折率の変化量が大きく変動する点が、規定の測定位置以下になった場合に、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断する。
判断手段420が、金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離を終了すると判断すると、直流電源16からの第1の電極12と第2の電極13との間への直流電圧の印加を停止する。すなわち、判断手段420は、直流電源16に対して、直流電圧の印加の停止を指示する電気信号を発信する。
【0158】
本実施形態のナノカーボン分離装置400は、第1の実施形態と同様に、分離槽11内のナノカーボンの分散液30の温度を一定に保つための温度調節手段を備えることが好ましい。
【0159】
本実施形態のナノカーボン分離装置400では、第1の電極12が陰極、第2の電極13が陽極である場合を例示したが、本実施形態のナノカーボン分離装置400はこれに限定されない。本実施形態のナノカーボン分離装置400にあっては、第1の電極12が陽極、第2の電極13が陰極であってもよい。
【0160】
本実施形態のナノカーボン分離装置400によれば、分離槽11内にて第1の電極12と第2の電極13の間に、ナノカーボンの分散液30の屈折率を測定する、検知器412を有する評価手段410を設け、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンの分離状態を判断する判断手段420を設ける。この結果、ナノカーボンの分散液30に含まれる金属型ナノカーボンと半導体型ナノカーボンを分離する工程において、目視により分散液相が形成されたことを確認する方法や、一対の電極間に直流電圧を印加する時間に依らずに、ナノカーボンの分散液30の屈折率により、ナノカーボンの分散液30の分離状態を客観的に把握でき、正確な分離の終点を決定し、再現性良く、精度の高い分離を実現することができる。または、正確な分離の終点の決定を利用して、分離操作を自動化し、作業効率を向上することができる。
【0161】
上述の本発明の実施形態、および、実施例では、ナノカーボン分離装置が、評価手段として、ナノカーボン分散液の電位を測定する手段、ナノカーボン分散液のpHを測定する手段、ナノカーボン分散液の吸光度を測定する手段、第1の電極と第2の電極との間の電流値を測定する手段、ナノカーボン分散液の導電率を測定する手段、ナノカーボン分散液の発光スペクトルを測定する手段、および、ナノカーボン分散液の屈折率を測定する手段からなる群から選択される1つの手段を有する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、評価手段として、ナノカーボン分散液の電位を測定する手段、ナノカーボン分散液のpHを測定する手段、ナノカーボン分散液の吸光度を測定する手段、第1の電極と第2の電極との間の電流値を測定する手段、ナノカーボン分散液の導電率を測定する手段、ナノカーボン分散液の発光スペクトルを測定する手段、および、ナノカーボン分散液の屈折率を測定する手段からなる群から選択される2つ以上の手段を有していてもよい。
【0162】
上述の本発明の実施形態、および、実施例では、ナノカーボンの分離方法が、評価工程において、ナノカーボン分散液の分離状態を、ナノカーボン分散液の電位、ナノカーボン分散液のpH、ナノカーボン分散液の吸光度、第1の電極と第2の電極との間の電流値、ナノカーボン分散液の導電率、ナノカーボン分散液の発光スペクトル、および、ナノカーボン分散液の屈折率からなる群から選択される1つにより評価する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、ナノカーボンの分離方法が、評価工程において、ナノカーボン分散液の分離状態を、ナノカーボン分散液の電位、ナノカーボン分散液のpH、ナノカーボン分散液の吸光度、第1の電極と第2の電極との間の電流値、ナノカーボン分散液の導電率、ナノカーボン分散液の発光スペクトル、および、ナノカーボン分散液の屈折率からなる群から選択される2つ以上により評価していてもよい。
【0163】
以上、単層カーボンナノチューブの混合物を、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブに分離する場合に適用することができる実施形態を説明したが、多層カーボンナノチューブの混合物、ニ層カーボンナノチューブの混合物、グラフェンの混合物等を分離する場合にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0164】
10,100,200,300,400,500,600・・・ナノカーボン分離装置、
11・・・分離槽、
12・・・第1の電極、
13・・・第2の電極、
14,110,210,310,410,510,610・・・評価手段、
15,120,220,320,420,520,620・・・判断手段、
16・・・直流電源、
17,18,21,22・・・ケーブル、
19,511・・・評価用電極、
20・・・電位計、
30・・・ナノカーボンの分散液、
111・・・pHセンサー、
112・・・pH計、
211,311,411・・・光源、
212,312,412・・・検知器、
512・・・導電率計、
611・・・第1の評価用電極、
612・・・第2の評価用電極、
613・・・電流計。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22