IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー ハウスホールド アンド ヘルスケア リミテッドの特許一覧

特許7384518難溶性成分安定化用組成物及びそれを含む化粧料組成物
<>
  • 特許-難溶性成分安定化用組成物及びそれを含む化粧料組成物 図1
  • 特許-難溶性成分安定化用組成物及びそれを含む化粧料組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】難溶性成分安定化用組成物及びそれを含む化粧料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/55 20060101AFI20231114BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20231114BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
A61K8/55
A61K8/34
A61K8/44
A61Q19/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021527207
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 KR2019010157
(87)【国際公開番号】W WO2020105840
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】10-2018-0142721
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514112488
【氏名又は名称】エルジー ハウスホールド アンド ヘルスケア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】スジュン・ハ
(72)【発明者】
【氏名】ナム・ソ・ソン
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1851388(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0023295(KR,A)
【文献】特開2001-181168(JP,A)
【文献】国際公開第2009/020067(WO,A1)
【文献】特開2008-297273(JP,A)
【文献】特開2017-081868(JP,A)
【文献】米国特許第04247411(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0139518(US,A1)
【文献】特開2016-079183(JP,A)
【文献】特開2007-077084(JP,A)
【文献】特表2014-527989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/55
A61K 8/34
A61K 8/44
A61Q 19/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水添レシチン及びアニオン性界面活性剤を有効成分として含む難溶性成分安定化用組成物であって、
前記アニオン性界面活性剤は、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムであり、
前記水添レシチンと前記ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムの混合比は、重量で1:0.6~1:0.8であり、
前記水添レシチンは、難溶性成分安定化用組成物の総重量に対して0.5~5重量%含まれ、
前記難溶性成分は、セドロール(cedrol)である、難溶性成分安定化用組成物。
【請求項2】
前記組成物は、オイルをさらに含む、請求項1に記載の難溶性成分安定化用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の難溶性成分安定化用組成物及び難溶性成分を含む化粧料組成物。
【請求項4】
水添レシチンとアニオン性界面活性剤を混合するステップを含む、難溶性成分を化粧料の剤形に安定化させる方法であって、
前記アニオン性界面活性剤は、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムであり、
前記水添レシチンと前記ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムの混合比は、重量で1:0.6~1:0.8であり、
前記水添レシチンは、難溶性成分安定化用組成物の総重量に対して0.5~5重量%含まれ、
前記難溶性成分は、セドロール(cedrol)である、難溶性成分を化粧料の剤形に安定化させる方法。
【請求項5】
(S1)溶媒に難溶性成分、水添レシチン及びアニオン性界面活性剤を添加するステップと、
(S2)前記S1ステップの生成物を水相に添加するステップと
を含み、
前記アニオン性界面活性剤は、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムであり、
前記水添レシチンと前記ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムの混合比は、重量で1:0.6~1:0.8であり、
前記水添レシチンは、難溶性成分安定化用組成物の総重量に対して0.5~5重量%含まれ、
前記難溶性成分は、セドロール(cedrol)である、難溶性成分が溶解した化粧料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水添レシチン及びアニオン性界面活性剤を有効成分として含む難溶性成分安定化用組成物に関する。
【0002】
本発明は、前記難溶性成分安定化用組成物を用いて難溶性成分を化粧料の剤形に安定化させる方法、前記難溶性成分安定化用組成物及び難溶性成分を含む化粧料組成物、並びに前記化粧料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
化粧品の開発において、皮膚に美白やシワ改善などの皮膚改善効果を付与する成分中には、水にもオイルにも溶解しない難溶性物質が多数存在する。このような難溶性物質を化粧品に含有させて皮膚改善効果を付与するために、それを安定化させる様々な方法が試みられてきた。
【0004】
一例として、水を含まず、過剰量のポリオールを含み、密閉力を有する乳化剤を用いた剤形のクリームを開発し、水中で容易に析出する成分を安定化して化粧料製品の展延性、密閉力を付与しようと試みた(特許文献1)。しかし、経時的な不安定性が伴い、過剰量のポリオール使用により重苦しい使用感をもたらすなど、他の問題が依然として解決されていない。
【0005】
このような剤形化技術と共に、両親媒性ブロック共重合体を用いた高分子ミセル又はナノ粒子の形態に難溶性薬物を製造して安定化し、薬剤学的に使用可能な組成物を開発する研究も進められている(特許文献2)。しかし、それを化粧料製品に製造すると、ブロック共重合体間の凝集現象が発生し、経時的な析出の問題が依然として存在するので、難溶性物質を安定化して製品に用いるには依然として限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0031850号公報
【文献】韓国公開特許第10-2010-0084399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、難溶性成分の機能性効果を十分に発揮しながらも析出が生じない化粧料組成物を開発するために研究した結果、水添レシチンとアニオン性界面活性剤の組み合わせを用いて、難溶性物質を化粧料の剤形中に十分に安定化させることができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水添レシチン及びアニオン性界面活性剤を有効成分として含む難溶性成分安定化用組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記難溶性成分安定化用組成物及び難溶性成分を含む化粧料組成物を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、水添レシチンとアニオン性界面活性剤を混合するステップを含む、難溶性成分を化粧料の剤形に安定化させる方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、難溶性成分が溶解した化粧料組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難溶性効果成分安定化用組成物は、化粧料の剤形中に難溶性成分を安定化させることにより、分離や析出を防止する。よって、経時的な析出の問題で化粧料組成物に適用が困難であった難溶性成分の限界を克服することにより、様々なタイプの剤形を有する難溶性成分含有化粧料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】水添レシチンとリン酸セチルの各重量比における剤形の濁度を示す写真である。
図2】実施例10及び比較例1の経時的安定性を顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0015】
本発明の一態様は、水添レシチン及びアニオン性界面活性剤を有効成分として含む難溶性成分安定化用組成物を提供する。
【0016】
一般に、化粧品に用いられる安定化剤のみでは、油相と水相の両方における溶解度が低い難溶性成分を安定して含むことが困難である。難溶性成分は化粧料の剤形中に不安定な状態で存在し、不安定性は時間経過によりさらに高まるので、再結晶が進んで析出が生じるという問題がある。
【0017】
本発明は、前記問題を解決するために、難溶性成分を化粧料の剤形中に安定して含める用途の組成物を開発したものであり、水添レシチンにアニオン性界面活性剤を混合することにより、高圧乳化工程を経ずに安定した構造体、すなわちミセル(micelle)を形成する低粘度の透明な剤形を製造した。また、前記安定した構造体に難溶性成分を安定化させることにより、難溶性成分の分離や析出を防止したことを特徴とする。
【0018】
本発明における「水添レシチン(hydrogenated lecithin)」とは、レシチンの水素添加物を意味し、構造体の安定性を向上させる役割を果たす。前記レシチンとは、代表的な天然由来の界面活性剤であり、リン酸、コリン、脂肪酸、グリセリン、糖脂質、トリグリセリド、リン脂質から構成される動植物組織から発生する黄褐色の脂肪物質群を総括する意味であり、本発明におけるレシチンには、卵黄、大豆、トウモロコシなどの動植物、大腸菌などの微生物から抽出される天然由来のレシチンや合成レシチンなどが全て含まれる。具体的には、レシチンの例として、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチンなどの天然リン脂質や、又はジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、パルミトイルホスファチジルコリン、オレオイルホスファチジルコリンなどの合成レシチンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一般に、天然由来のレシチンは、ホスファチジルコリンの含有量が23~95重量%であり、ホスファチジルエタノールアミンの含有量が20重量%以下であるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の水添レシチンは、水添ホスファチジルコリン(hydrogenated phosphatidylcholine)の含有量が10~99重量%、具体的には50~90重量%のものが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
化粧料の剤形中で水添レシチンを単独で安定化剤として用いると、リポソーム(liposome)形態の構造体が形成される。しかし、この構造体は開放された形態であり、構造体自体の柔軟性が高いので、構造が変形しやすく、崩れやすいなど、形態の維持が困難である。よって、難溶性物質の安定性の確保が困難であり、時間経過による安定性の変化も大きい。本発明においては、アニオン性界面活性剤を水添レシチンと共に用いることにより前記問題を解決した。
【0021】
前記水添レシチンは、難溶性成分安定化用組成物の総重量に対して0.1~20重量%含まれ、具体的には0.3~10重量%、0.5~5重量%、又は1~5重量%含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
水添レシチンの含有量が0.1重量%未満では、難溶性成分を十分に溶解できず、難溶性成分の沈殿や析出が生じうるという問題があり、20重量%を超えると、構造体の粒子サイズが大きくなり、剤形が不安定になるという問題がある。
【0023】
本発明における「アニオン性界面活性剤」とは、イオン性又はイオン化可能基としてアニオン性官能基のみを含む界面活性剤を意味する。アニオン性界面活性剤は水添レシチンと共に混合すると低粘度の透明な剤形を形成するので、水添レシチンのパッキングパラメーター(packing parameter)を調節し、レシチンと共に安定した構造体を形成できるようにする。前述したように作製した構造体は、難溶性成分を安定化することにより、難溶性成分の分離や析出を防止するものである。
【0024】
本発明において、当該技術分野で公知の通常のアニオン性界面活性剤であればいかなるものでも用いることができ、前記アニオン性界面活性剤に含まれるアニオン性官能基は、具体的にはPO 3-、-CO 、-SO 、-OSO 、-HPO 、-PO 2-、-HPO 、-PO 2-、-PO又はそれらの組み合わせであり、より具体的にはリン酸塩(PO 3-)、カルボン酸の金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、とりわけカルボン酸のナトリウム塩、又はそれらの組み合わせであるが、これらに限定されるものではない。それ以外にも、水添レシチンと混合して安定した構造体を形成することができるものであれば、いかなる種類のものでも用いることができる。
【0025】
具体的には、アニオン性界面活性剤は、アミノ酸由来界面活性剤、アルキルリン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルモノグリセリルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホコハク酸塩、アルキルスルホスクシンアミド酸塩、アルキルアミドスルホコハク酸塩、アルキルカルボン酸塩、アルキルアミドエーテルカルボン酸塩、アルキルコハク酸塩、脂肪アシルサルコシン酸塩、脂肪アシルアミノ酸、脂肪アシルタウリン塩、脂肪アルキルスルホ酢酸塩又はそれらの組み合わせであってもよく、具体的にはアルキルリン酸塩であるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
前記アミノ酸由来界面活性剤は、アミノ酸のカルボン酸塩から誘導されるものであり、具体的にはリシンに由来するグルタミン酸-リシン-グルタミン酸の構造を有するジラウラミドグルタミドリシンナトリウム(sodium dilauramidoglutamide lysine)を含んでもよい。
【0027】
前記アルキルリン酸塩は、リン酸セチル(cetyl phosphate)、PPG-10セチルリン酸、PPG-5-セテス-10リン酸(PPG-5-ceteth-10 phosphate)、オレス-3リン酸(oleth-3 phosphate)、オレス-10リン酸(oleth-10 phosphate)、セテス-10リン酸(ceteth-10 phosphate)、リン酸ジセチル(dicetyl phosphate)、リン酸ステアリル(stearyl phosphate)又はそれらの混合物であってもよく、より具体的にはリン酸セチルであるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
具体的には、本発明の目的上、アニオン性界面活性剤は、リン酸セチル、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウム又はそれらの混合物であってもよく、前記物質を水添レシチンと混合することにより難溶性成分を化粧料組成物中で安定化させる組成物を製造することができる。
【0029】
本発明において、アニオン性界面活性剤は、難溶性成分安定化用組成物の総重量に対して0.001~4重量%含まれ、具体的には0.01~2重量%、0.2~1.0重量%、又は0.1~0.5重量%含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
アニオン性界面活性剤の含有量が0.001重量%未満では、水添レシチンのパッキングパラメーターを調節することができず、透明な剤形が製造されないという問題があり、4重量%を超えると、アニオン性界面活性剤が析出するという問題がある。
【0031】
本発明の難溶性成分安定化用組成物に含まれる水添レシチンとアニオン性界面活性剤の混合比により、組成物の安定性が変化しうる。また、アニオン性界面活性剤の種類により、組成物の安定性を最大に高める水添レシチンとの混合比が変化しうる。
【0032】
具体的には、アニオン性界面活性剤がリン酸セチルである場合、水添レシチンとアニオン性界面活性剤の混合比は、重量で1:0.005~40であってもよく、より具体的には1:0.02~1、1:0.05~1、1:0.2~1、1:0.2~0.5、1:0.2~0.3、1:0.2~0.25であるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
また、アニオン性界面活性剤がジラウラミドグルタミドリシンナトリウムである場合、水添レシチンとアニオン性界面活性剤の混合比は、重量で1:0.005~40であってもよく、より具体的には1:0.1~2、1:0.3~2、1:0.6超1:2以下、1:0.6超1:1以下、1:0.6超1:0.8以下、1:0.8~1:1であるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の難溶性成分安定化用組成物は、オイルをさらに含んでもよい。本発明の難溶性成分安定化用組成物がオイルをさらに含むと、難溶性成分の安定化効果がさらに高まる。前記オイルは、当該技術分野で通常用いられるオイルであればいかなるものでも用いることができる。
【0035】
具体的には、前記オイルとして、炭化水素系オイル、エステル系オイル、シリコーンオイル又はそれらの混合が用いられるが、これらに限定されるものではない。炭化水素系オイルとして、水添ポリイソブテン、水添ポリデセン、パラフィン又はそれらの組み合わせ、エステル系オイルとして、ジペンタエリスリチルヘキサC5-9アシッドエステル、リンゴ酸ジイソステアリル、C12-15オクタン酸アルキル、乳酸ミリスチル、エチルヘキサン酸セチル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ラウリン酸ヘキシル、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、トリイソステアリン酸ジグリセリル又はそれらの組み合わせ、シリコーンオイルとして、ジメチコン、シクロメチコン、ポリジメチルシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルシクロポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラデカメチルヘキサシロキサン、オクタメチルトリシロキサン又はそれらの組み合わせなどを用いることができ、本発明の目的上、水添ポリイソブテンを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の一実施例においては、水添レシチン、リン酸セチルと共に水添ポリイソブテンを含む難溶性成分安定化用組成物を製造し、それを難溶性成分と共に化粧料の剤形に含ませると、製造後4週間経過しても化粧料の剤形の性状が維持され、析出が生じず、難溶性成分が長期間安定して溶解していることが確認された(表7)。
【0037】
本発明の他の態様は、前記難溶性成分安定化用組成物及び難溶性成分を含む化粧料組成物を提供する。
【0038】
「難溶性成分安定化用組成物」については前述した通りである。
【0039】
本発明における「難溶性成分」とは、水にもオイルにも十分に溶解せず、不安定に存在する物質を意味し、シワ改善、皮膚美白、皮膚保湿などの皮膚に有用な効果を付与するために化粧料組成物に用いられる。
【0040】
具体的には、本発明の組成物に含まれる難溶性成分は、セドロール(cedrol)、ホルモノネチン(formononetin)、マグノロール(magonolol)、ホノキオール(honokiol)、フロレチン(phloretin)、セラミド(ceramide)、センテラアジアティカ定量抽出物、フィセチン(fisetin)、ダイゼイン(daidzein)、ゲニステイン(genistein)、グリシテイン(glycitein)、アデノシン(adenosine)、ポリダチン(polydatin)、レチノール(retinol)、γ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid)、アルブチン(arbutin)、マセリグナン(macelignan)、アセチルフィトスフィンゴシン(acetyl phytosphingosine)、ヒドロキノン(hydroquinone)、ヒドロキシアニソール(hydroxyanisole)、アスコルビン酸(ascorbic acid)、コウジ酸(kojic acid)及びレチノイド(retinoids)からなる群から選択される少なくとも1種であり、具体的にはセドロールであるが、これらに限定されるものではない。当該技術分野において皮膚に好ましい効果をもたらすために通常用いられる成分であれば、いかなる種類のものでも本発明に用いることができる。
【0041】
本発明の一実施例においては、セドロールを水添レシチンとリン酸セチルの混合物と共に化粧料の剤形に含有させることにより、セドロールの析出を防止できることが確認された。このように、本発明の化粧料組成物は、難溶性成分を安定して含むので、その分離や析出を防止する効果があり、具体的には-20~60℃の温度条件で分離や析出が生じないという利点を有する。すなわち、本発明の化粧料組成物は、常温はもとより、低温、高温条件でも長期間安定した形態を維持することができる。
【0042】
本発明の難溶性成分安定化用組成物は、高粘度の剤形から低粘度の剤形までの様々な剤形にわたって難溶性成分を安定化させることができる。本発明の難溶性成分を含む化粧料組成物は、当該技術分野において通常製造されるいかなる剤形にも剤形化することができ、高粘度のクリーム、低粘度のスキンローション、ローション、エッセンス、ミスト、スプレー剤形などの様々な応用が可能である。
【0043】
例えば、スキンローション、ローション、エッセンス、クリーム又はアイクリーム、溶液、外用軟膏、フォーム、栄養化粧水、柔軟化粧水、パック、柔軟水、乳液、メイクアップベース、石鹸、液体洗浄料、入浴剤、サンスクリーンクリーム、サンオイル、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、パウダー、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファンデーション、乳濁液ファンデーション、ワックスファンデーション、パッチ及びスプレーからなる群から選択される剤形に製造することができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
また、本発明の化粧料組成物は、一般の皮膚化粧料に配合される化粧品学的に許容される担体を1種以上さらに含んでもよく、通常の成分として、例えば油分、水、界面活性剤、保湿剤、低級アルコール、増粘剤、キレート剤、色素、防腐剤、香料などを適宜配合してもよいが、これらに限定されるものではない。本発明の化粧料組成物に含まれる化粧品学的に許容される担体は、剤形によって様々である。
【0045】
本発明のさらに他の態様は、水添レシチンとアニオン性界面活性剤を混合するステップを含む、難溶性成分を化粧料の剤形に安定化させる方法を提供する。
【0046】
「水添レシチン」、「アニオン性界面活性剤」、「難溶性成分」については前述した通りである。
【0047】
具体的には、水添レシチンとアニオン性界面活性剤を混合した組成物を難溶性成分と共に混合することにより、化粧料組成物中で難溶性成分を安定化させることができる。
【0048】
水添レシチンとアニオン性界面活性剤は、順次、逆順又は同時に添加して混合してもよい。また、難溶性成分は、水添レシチンとアニオン性界面活性剤を全て混合した後に添加してもよく、混合の前に難溶性成分を先に水添レシチン又はアニオン性界面活性剤と混合し、その後残りの成分を添加して混合してもよい。最終的に水添レシチン、アニオン性界面活性剤、難溶性成分を全て含む化粧料組成物を製造して難溶性成分を安定化させることができるものであれば、それらを添加して混合する時期と順序はいかなるものでもよい。
【0049】
前記アニオン性界面活性剤は、リン酸セチル、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウム又はそれらの混合物であってもよい。
【0050】
本発明のさらに他の態様は、(S1)溶媒に難溶性成分、水添レシチン及びアニオン性界面活性剤を添加するステップと、(S2)前記S1ステップの生成物を水相に添加するステップとを含む、難溶性成分が溶解した化粧料組成物の製造方法を提供する。
【0051】
前記アニオン性界面活性剤は、リン酸セチル、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウム又はそれらの混合物であってもよい。
【0052】
「水添レシチン」、「アニオン性界面活性剤」、「難溶性成分」については前述した通りである。
【0053】
本発明の製造方法により製造した化粧料組成物には難溶性成分が安定して含まれるので、様々な剤形、温度条件において長期間にわたって難溶性成分の分離や析出が生じず、安定して維持されうる。
【実施例
【0054】
以下、本発明の理解を容易にするために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明の実施例は様々な他の形態に変形してもよく、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。本発明の実施例は、当該技術分野における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供するものである。
【0055】
実験例1.難溶性成分安定化用組成物の剤形性状及び濁度の確認
1-1.難溶性成分安定化用組成物の製造
表1に示すように、様々な種類の配合成分を含む化粧料組成物を製造した。
【0056】
まず、油相と水相をそれぞれ65℃に加熱して溶解した。水相をホモミキサーにて2000rpmで攪拌しながら油相を徐々に添加した。油相を完全に添加し、次いでホモミキサーにて2000~2500rpmで3分間攪拌し、その後28℃まで冷却して製造した。当該難溶性成分安定化用組成物はスキンローションの剤形に製造した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
1-2.製造直後の剤形性状及び濁度の測定
製造例1で製造した難溶性成分安定化用組成物の剤形が透明であるかを確認するために、製造例1で組成物を製造した直後の性状を観察した。剤形性状の比較は、肉眼で濁度の程度を確認し、濁度計を用いて濁度を測定した。濁度の測定は、光散乱法により濁度を測定するHACH社のTL2350モデルを用いて測定し、計5回の測定の平均値で示す。各実施例は25℃で測定した。その結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3及び図1から分かるように、水添レシチンの含有量に比べて、リン酸セチル又はジラウラミドグルタミドリシンナトリウムの含有量が多くなるほど、組成物が透明になることが確認された。これは、肉眼で観察した結果と、濁度測定の結果の両方において確認されたものである。
【0062】
1-3.経時的な剤形性状及び濁度の比較
難溶性成分の安定化に適した水添レシチン及びアニオン性界面活性剤の条件を調べるために、実施例1~8の化粧料組成物の経時的な剤形安定性を評価した。実験例1と同様の方法で剤形性状の比較実験を行った。その結果を表4及び表5に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
表4に示すように、水添レシチンの含有量に比べてリン酸セチルの含有量が増加しても、常温条件で性状が変化せず、透明な状態が維持されるのに対して、リン酸セチルの含有量が相対的に低い実施例1~3において、時間の経過に伴って性状が変化し、濁度が生じることが確認された。
【0066】
一方、長期安定性を比較すると、水添レシチンを1重量%、リン酸セチルを0.15重量%以下にした実施例1~3においては、翌日から製造後1週間以内に性状が変化し、濁度が生じ、-20℃での安定性においても懸濁が生じた。
【0067】
一方、リン酸セチルを0.2重量%以上にした実施例4及び5においては、製造後4週間経過しても、性状が維持される。これは、水添レシチンとリン酸セチルの重量比が重要であり、水添レシチン1重量部に対するリン酸セチルの重量が0.2重量部以上であれば、難溶性成分安定化用組成物の安定性が維持されることを示唆するものである。
【0068】
また、表5に示すように、水添レシチンの含有量に比べてジラウラミドグルタミドリシンナトリウムの含有量が増加しても、常温条件で性状が変化せず、透明な状態が維持されるのに対して、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムの含有量が相対的に低い実施例6、7において、時間の経過に伴って性状が変化し、濁度が生じることが確認された。
【0069】
長期安定性を比較すると、水添レシチンを1重量%、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムを0.6重量%以下にした実施例6、7においては、翌日から性状が変化し、濁度が生じ、-20℃での安定性においても懸濁が生じた。
【0070】
一方、ジラウラミドグルタミドリシンナトリウムを0.6重量%より大きくした実施例8においては、製造後4週間経過しても、性状が維持される。これは、水添レシチンとジラウラミドグルタミドリシンナトリウムの重量比が重要であり、水添レシチン1重量部に対してジラウラミドグルタミドリシンナトリウムが0.6重量部より大きければ、難溶性成分安定化用組成物の安定性がさらに優れることを示唆するものである。
【0071】
実験例2.難溶性成分を含む化粧料組成物の剤形性状及び安定性の比較
2-1.難溶性成分を含む化粧料組成物の製造
実験例1において、水添レシチンとアニオン性界面活性剤の混合比が1:0.2である実施例4の難溶性成分安定化用組成物が安定性に最も優れることが確認されたので、実施例4の難溶性成分安定化用組成物に難溶性成分を適用して実際に化粧料組成物を製造した。
【0072】
具体的には、表6に示す成分及び含有量で化粧料組成物を製造した。まず、水相と油相をそれぞれ65℃に加熱して溶解した。水相をホモミキサーにて2000rpmで攪拌しながら油相を徐々に添加した。油相を完全に添加し、次いでホモミキサーにて2000~2500rpmで3分間攪拌し、その後28℃まで冷却して製造した。当該難溶性効果成分を含む化粧料組成物はスキンローションの剤形に製造した。
【0073】
【表6】
【0074】
2-2.剤形性状及び安定性の比較
難溶性効果成分(セドロール)に適した条件を調べるために、実施例9~11、比較例1、2の化粧料組成物の剤形安定性を評価した。安定性評価は、透明プラスチック容器に蓋をして密封し、常温の条件で保管して肉眼及び顕微鏡で評価した。その結果を表7に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
表7に示すように、水添レシチン及びリン酸セチルを用いた実施例9~11においては、常温条件で析出が生じなかった。それに対して、リン酸セチルを添加しないと、セドロール含有量を増加させた比較例2においては、製造後1日目から析出が生じた。
【0077】
長期安定性を比較すると、リン酸セチルを添加しない一般可溶化剤形の比較例1及び2においては、製造後1週間以内に全て析出が生じた。一方、水添ポリイソブテンを添加しない実施例9においては、製造後4週間経過すると析出が生じた。水添ポリイソブテンを用いた実施例10及び11においては、製造後4週間経過しても析出が生じず、性状が維持される。実施例10及び比較例1の経時的な剤形安定性を偏光顕微鏡で観察した。それを図2に示す。
【0078】
これらの結果から、水添レシチン及びリン酸セチルを含む化粧料組成物においてセドロールなどの難溶性成分の安定性が高まり、また、水添ポリイソブテンなどのオイルを共に用いると長期的な安定性にさらに有利であることが確認された。
【0079】
実験例3.化粧料組成物の各粘度における剤形性状及び安定性の比較
3-1.低粘度及び高粘度の透明な化粧料組成物の製造
表8に示す成分及び含有量で低粘度及び高粘度の透明な化粧料組成物を製造した。製造方法は、実験例2-1と同様のものとした。
【0080】
【表8】
【0081】
3-2.剤形性状及び安定性の比較
難溶性効果成分を含む様々な剤形(低粘度及び高粘度の透明な剤形)の安定性を確認するために、実施例12~14の安定性を評価した。安定性評価は、透明プラスチック容器に蓋をして密封し、常温及び-20℃の条件で保管して肉眼で観察した。その結果を表9に示す。
【0082】
【表9】
【0083】
表9に示すように、様々な剤形の実施例12~14の全てにおいて、製造後4週間までセドロールが析出せず、安定して維持されることが確認された。すなわち、本発明で製造した化粧料組成物は、各種剤形において難溶性成分を安定化させることができることが分かった。
【0084】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2