(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】電池診断装置および方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20231114BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231114BHJP
G01R 31/396 20190101ALI20231114BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20231114BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
G01R31/396
G01R31/367
(21)【出願番号】P 2022512418
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 KR2020017931
(87)【国際公開番号】W WO2021125676
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172451
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ジン・キム
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-002055(JP,A)
【文献】特開2013-254664(JP,A)
【文献】特開2017-133870(JP,A)
【文献】特開2016-126894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/44
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電中の電池セルの異常を診断する電池診断装置であって、
電池セルの電圧を測定する電圧測定部と、
前記電圧測定部により測定された前記電池セルの電圧
で前記電池セルの容量を微分した微分信号
を算出し、前記微分信号に対して統計値を算出する信号変換部と、
前記微分信号
に対する統計値に基づいて前記電池セルの異常を診断する異常診断部と、
を含む、電池診断装置。
【請求項2】
前記異常診断部は、前記微分信号に対する統計値が予め設定された基準値以上である場合、前記電池セルの異常が発生したと診断する、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項3】
前記異常診断部は、前記統計値に対して、スライディングウィンドウ(Sliding Window)方式で、前記電池セルの異常を診断する、請求項
2に記載の電池診断装置。
【請求項4】
前記微分信号に対する統計値は、標準偏差である、請求項
3に記載の電池診断装置。
【請求項5】
前記信号変換部は、前記電池セルの電圧が4V~4.2Vの領域に対して微分信号に変換する、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項6】
前記電池セルの電圧データを前処理することで、前記電池セルの電圧が予め設定された区間において微分可能となるように変換するデータ処理部をさらに含む、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項7】
前記データ処理部は、前記電圧データに対するサンプリングを通じて、前記電池セルの電圧を単調増加または単調減少形態のデータに変換する、請求項
6に記載の電池診断装置。
【請求項8】
前記データ処理部は、同一な電圧大きさを有する前記電池セルの容量値を分類し、前記電圧大きさ別に前記電池セルの容量値の平均値を算出することで、前記電圧に対するサンプリングを行う、請求項
7に記載の電池診断装置。
【請求項9】
前記データ処理部は、平滑化スプライン(Smoothing Spline)を通じて、前記電池セルの電圧の傾きが連続性を満たすように変換する、請求項
6に記載の電池診断装置。
【請求項10】
充電中の電池セルの異常を診断する電池診断方法であって、
電池セルの電圧を測定するステップと、
前記電池セルの測定された電圧
で前記電池セルの容量を微分した微分信号
を算出するステップと、
前記微分信号に対して統計値を算出するステップと、
前記微分信号
に対する統計値に基づいて前記電池セルの異常を診断するステップと、
を含む、電池診断方法。
【請求項11】
前記微分信号に対する統計値が予め設定された基準値以上である場合、前記電池セルの異常が発生したと診断するステップと、
をさらに含む、請求項
10に記載の電池診断方法。
【請求項12】
前記統計値に対して、スライディングウィンドウ方式で、前記電池セルの異常を診断するステップをさらに含む、請求項
11に記載の電池診断方法。
【請求項13】
前記微分信号に対する統計値は、標準偏差である、請求項
12に記載の電池診断方法。
【請求項14】
前記電池セルの電圧データを前処理することで、前記電池セルの電圧が予め設定された区間において微分可能となるように変換するステップをさらに含む、請求項
10に記載の電池診断方法。
【請求項15】
前記電池セルの電圧が予め設定された区間において微分可能となるように変換するステップは、前記電圧データに対するサンプリングを通じて、前記電池セルの電圧を単調増加または単調減少形態のデータに変換する、請求項
14に記載の電池診断方法。
【請求項16】
前記電池セルの電圧が予め設定された区間において微分可能となるように変換するステップは、平滑化スプラインを通じて、前記電池セルの電圧の傾きが連続性を満たすように変換する、請求項
14に記載の電池診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年12月20日付けの韓国特許出願第10-2019-0172451号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、微分信号を用いて、電池の充電中に内部短絡による異常電圧降下現象を検出する電池診断装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、二次電池に対する研究開発が活発に行われている。ここで、二次電池は、充放電が可能な電池であって、従来のNi/Cd電池、Ni/MH電池などと、最近のリチウムイオン電池とを何れも含む意味である。二次電池の中でも、リチウムイオン電池は、従来のNi/Cd電池、Ni/MH電池などに比べて、エネルギー密度が遥かに高いという長所がある、また、リチウムイオン電池は、小型、軽量に製作することができるため、移動機器の電源として用いられる。また、リチウムイオン電池は、電気自動車の電源にまでその使用範囲が拡張され、次世代エネルギー貯蔵媒体として注目を浴びている。
【0004】
また、二次電池は、一般的に複数の電池セルが直列および/または並列に連結された電池モジュールを含む電池パックとして用いられる。そして、電池パックは、電池管理システムにより、状態および動作が管理および制御される。
【0005】
かかる二次電池の場合、充電周期中に、内部短絡(internal short)と疑われる異常電圧降下現象が観察されたりもする。かかる異常電圧降下を診断するための方法として、電池の電圧を測定して電圧の減少有無を検出することができるが、実際、電圧の減少には多様な原因が存在するため、単に電圧のみを測定することによっては、内部短絡による電圧降下であるか否かを判断し難い場合が多い。また、異常電圧降下を診断するために電池の抵抗をリアルタイムで測定する方法も用いられているが、CP充電の場合、電流の変化が少なく、抵抗計算の偏差が大きくなるため、正常セルと不良セルを区分し難いという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電池の電圧に対する微分信号を用いて、電池の充電中に内部短絡による異常電圧降下現象を正確且つ容易に検出することができる、電池診断装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る電池診断装置は、電池セルの電圧を測定する電圧測定部と、前記電圧測定部により測定された前記電池セルの電圧を微分信号に変換する信号変換部と、前記微分信号に基づいて前記電池セルの異常を診断する異常診断部と、を含むことができる。
【0008】
本発明の一実施形態に係る電池診断方法は、電池セルの電圧を測定するステップと、前記電池セルの測定された電圧を微分信号に変換するステップと、前記微分信号に基づいて前記電池セルの異常を診断するステップと、を含むことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電池診断装置および方法によると、電池の電圧に対する微分信号を用いて、電池の充電中に内部短絡による異常電圧降下現象を正確且つ容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電池制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電池診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図3a】電池の測定電圧のローデータを示すグラフである。
【
図3b】
図3aの電圧のローデータの微分信号を示すグラフである。
【
図4】電池の電圧データの重複信号を除去するためにサンプリングを行う方法を示す図である。
【
図5a】電池の電圧データに対してサンプリングおよび平滑化スプラインを通じて前処理を行った結果を示すグラフである。
【
図5b】電池の電圧データの前処理段階別の微分の概形を示すグラフである。
【
図6】異常電圧降下による不安定挙動を電池の電圧に対する微分信号を通じて示すグラフである。
【
図7a】電池の充電サイクル別の微分信号のヒストグラムを示す図である。
【
図7b】電池の充電サイクル別の標準偏差を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る電池診断装置において、微分信号の標準偏差を通じて電池の異常を診断することを示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る電池診断方法を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施形態に係る電池診断方法において、データを前処理する方法を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る電池診断装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の多様な実施形態について詳細に説明する。本文書において、図面上の同一な構成要素に対しては同一な参照符号を付し、同一な構成要素に対して重複した説明は省略する。
【0012】
本文書に開示されている本発明の多様な実施形態に対して、特定の構造的ないし機能的説明は、単に本発明の実施形態を説明するための目的で例示されたものであり、本発明の多様な実施形態は、種々の形態で実施されてもよく、本文書に説明された実施形態に限定されるものと解釈されてはならない。
【0013】
多様な実施形態で用いられた「第1」、「第2」、「1番目」、または「2番目」などの表現は、多様な構成要素を、順序および/または重要度に関係なく修飾してもよく、当該構成要素を限定しない。例えば、本発明の権利範囲から逸脱せずに、第1構成要素は第2構成要素と命名してもよく、それと同様に、第2構成要素も第1構成要素に変更して命名してもよい。
【0014】
本文書で用いられた用語は、単に特定の実施形態を説明するために用いられたものであって、他の実施形態の範囲を限定しようとするものではない。単数の表現は、文脈上、明らかに他を意味しない限り、複数の表現を含んでもよい。
【0015】
技術的または科学的な用語を含めてここで用いられる全ての用語は、本発明の技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解されるものと同一な意味を有する。一般的に用いられる辞書に定義された用語は、関連技術の文脈上有する意味と同一または類似した意味を有するものと解釈されてもよく、本文書で明らかに定義しない限り、理想的または過度に形式的な意味に解釈されない。場合によっては、本文書で定義された用語であるとしても、本発明の実施形態を排除するように解釈されてはならない。
【0016】
図1は、電池制御システムの構成を示すブロック図である。
図1を参照すると、本発明の一実施形態に係る電池パック1と上位システムに含まれている上位コントローラ2とを含む電池制御システムを概略的に示す。
【0017】
図1に示されたように、電池パック1は、1つ以上の電池セルからなり、充放電可能な電池モジュール10と、電池モジュール10の+端子側または-端子側に直列に連結され、電池モジュール10の充放電電流の流れを制御するためのスイッチング部14と、電池パック1の電圧、電流、温度などをモニターして、過充電および過放電などを防止するように制御管理する電池管理システム20と、を含む。
【0018】
ここで、スイッチング部14は、電池モジュール10の充電または放電に対する電流の流れを制御するための半導体スイッチング素子であり、例えば、少なくとも1つのMOSFETを用いることができる。
【0019】
また、BMS20は、電池パック1の電圧、電流、温度などをモニターするために、半導体スイッチング素子のゲート、ソース、およびドレインなどの電圧および電流を測定するかまたは計算することができ、また、半導体スイッチング素子14に隣接して備えられたセンサ12を用いて、電池パックの電流、電圧、温度などを測定することができる。BMS20は、上述した各種パラメータを測定した値の入力を受けるインターフェースであり、複数の端子、およびこれらの端子と連結され、入力を受けた値の処理を行う回路などを含むことができる。
【0020】
また、BMS20は、スイッチング素子14、例えば、MOSFETのON/OFFを制御することもでき、電池モジュール10に連結され、電池モジュール10の状態を監視することができる。
【0021】
上位コントローラ2は、BMS20に電池モジュールに対する制御信号を伝送することができる。これにより、BMS20は、上位コントローラから印加される信号に基づいて動作が制御されることができる。本発明の電池セルがESS(Energy Storage System)または車両などに用いられる電池パックに含まれた構成であってもよい。但し、このような用途に限定されるものではない。
【0022】
かかる電池パック1の構成およびBMS20の構成は公知の構成であるため、より具体的な説明は省略することにする。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係る電池診断装置の構成を示すブロック図である。
図2を参照すると、本発明の一実施形態に係る電池診断装置200は、電圧測定部210、信号変換部220、異常診断部230、およびデータ処理部240を含むことができる。
【0024】
電圧測定部210は、電池セルの電圧を測定することができる。この際、電圧測定部210は、電池セルの電圧を一定の時間間隔で測定することができる。
信号変換部220は、電圧測定部210により測定された電池セルの電圧を微分信号に変換することができる。この場合、信号変換部220は、電池セルの容量および電圧に対して微分信号(例えば、dQ/dV)を算出することができる。
【0025】
また、信号変換部220は、電池セルの電圧が4V~4.2Vの領域に対して微分信号に変換することができる。これは、電池セルの電圧が4V~4.2Vの高電圧領域において電池の内部短絡による不安定電圧の概形を検出することができ、電池セル間の偏差や劣化などの他の要因による微分ピーク(peak)の変化の影響を排除することができるためである。しかし、本発明の一実施形態に係る信号変換部220により変換される微分信号が必ずしも4V~4.2Vの電圧範囲に制限されるものではなく、その他にも任意の電圧範囲に対して微分信号に変換することができる。
【0026】
信号変換部220は、変換された微分信号に対して統計値を算出することができる。この際、信号変換部220により算出された微分信号の統計値は、後述するように、スライディングウィンドウ(Sliding Window)(または、ムービングウィンドウ(Moving Window))方式で、電池の非正常挙動を判別するためのものである。例えば、微分信号に対する統計値は、標準偏差を含むことができる。
【0027】
異常診断部230は、信号変換部220により変換された微分信号に基づいて電池セルの異常を診断することができる。具体的に、異常診断部230は、電池の電圧の微分信号に対する統計値が予め設定された基準値以上である場合、電池セルに異常電圧降下が発生したと診断することができる。
【0028】
また、異常診断部230は、電池の電圧に対する微分信号の統計値に対して、スライディングウィンドウ方式で、電池セルの異常を診断することができる。このように、異常診断部230がスライディングウィンドウ方式で電池セルの異常を診断する場合、ウィンドウのサイズは、ユーザにより任意に設定されてもよい。この際、電池の電圧の微分信号に対する統計値は、標準偏差を含むことができる。
【0029】
データ処理部240は、電池セルの電圧データを前処理することで、電池セルの電圧が一定区間において微分可能となるように変換することができる。すなわち、後述するように、一般的に測定された電池の電圧データは、重複信号および不連続区間などにより、微分分析が不可能な場合が発生し得る。よって、データ処理部240は、微分信号の変換前に電池セルの電圧データを前処理することで、電池セルの電圧が一定区間において微分可能となるように変換することができる。
【0030】
具体的に、データ処理部240は、電圧データに対するサンプリングを通じて、電池セルの電圧を単調増加または単調減少形態のデータに変換することができる。例えば、データ処理部240は、同一な電圧大きさ(V)を有する電池セルの容量値(Q)を分類し、電圧大きさ別に電池セルの容量値の平均値を算出することで、電圧に対するサンプリングを行うことができる。これについては、
図4に基づいて後述する。
【0031】
また、データ処理部240は、平滑化スプライン(Smoothing Spline)を通じて、隣接したデータ間の連続性を満たすように変換することができる。これにより、電池セルの電圧データの傾きの曲線を緩やかな形態に変換することができる。
【0032】
一方、
図2には示されていないが、本発明の一実施形態に係る電池診断装置200は、メモリ部およびアラーム部をさらに含むことができる。この場合、メモリ部は、電圧測定部210により測定された電池セルの電圧、および信号変換部220により算出された電圧の微分信号などを格納することができる。この際、メモリ部は、電池診断装置200の内部に含まれてもよく、また、外部サーバ(図示せず)に含まれて別の通信モジュールを介して電池診断装置200とデータを送受信してもよい。
【0033】
また、アラーム部は、異常診断部230により電池セルに異常が発生したと判断されると、警告アラームを発生させることができる。この際、警告アラームは、ディスプレイ部(図示せず)上にメッセージ形態で提供されるか、または光や音信号として提供されてもよい。
【0034】
このように、本発明の一実施形態に係る電池診断装置によると、電池の電圧に対する微分信号を用いて、電池の充電中に内部短絡による異常電圧降下現象を正確且つ容易に検出することができる。
【0035】
図3aは、電池の測定電圧のローデータを示すグラフであり、
図3bは、
図3aの電圧のローデータの微分信号を示すグラフである。この際、
図3aの横軸は電池の容量(Ah)を示し、縦軸は電池の測定電圧(V)を示す。また、
図3bの横軸は電池の電圧(V)を示し、縦軸は電池の容量および電圧に対する微分信号(dQ/dV)を示す。
【0036】
図3aを参照すると、電池の測定電圧データは、電圧センサ自体のエラーによるノイズや重複電圧信号などが現れ得る。よって、
図3bに示されたように、電圧または電流データに対する微分信号を分析するのに困難な場合が発生し得る。
【0037】
図4は、電池の電圧データの重複信号を除去するためにサンプリングを行う方法を示す図である。
図4を参照すると、それぞれの時間に対する電池の容量および電圧の測定データが示されている。ここで、電池の容量が43Ah、44Ah、46Ahの区間においては、電圧が3.23Vとして同一であり、電池の容量が45Ah、47Ahの区間においては、電圧が3.24Vとして同一である。よって、
図3aおよび3bに示されたように、電圧データの重複信号が発生して微分分析が不可能となり得る。
【0038】
この場合には、電池の容量および電圧データに対して特定大きさの電圧を基準に電池の容量値を分類し、その平均値を計算することで、電池の電圧データをサンプリングすることができる。例えば、
図4に示されたように、重複して現れる電池の電圧である3.23Vおよび3.24Vを基準として、各電圧に該当する容量値の平均値を計算することができる。例えば、電圧が3.23Vである場合には、電池の容量43Ah、44Ah、46Ahの平均値である44.3Ahを容量値に決め、電圧が3.24Vである場合には、電池の容量45Ah、47Ahの平均値である46Ahを容量値に決めることができる。
【0039】
このように、本発明の一実施形態に係る電池診断装置においては、
図4に示された方法によりサンプリングを行うことで、測定電圧を基準に電圧データを単調増加(または単調減少)形態に変換することができる。
【0040】
図5aは、電池の電圧データに対してサンプリングおよび平滑化スプラインを通じて前処理を行った結果を示すグラフでであり、
図5bは、電池の電圧データの前処理段階別の微分の概形を示すグラフである。この際、
図5aの横軸は電池の容量(Ah)を示し、縦軸は電池の測定電圧(V)を示す。また、
図5bの横軸は電池の電圧(V)を示し、縦軸は電池の容量および電圧に対する微分信号(Ah/V)を示す。
【0041】
図5aに示されたように、電圧のローデータの場合は、重複信号およびノイズが発生しているが、
図4に従いサンプリング処理をした電圧データの場合は、単調増加形態で現れることが分かる。
【0042】
一方、電圧のローデータに対してサンプリング処理を行うとしても、隣接したデータ間の傾き差により微分が不可能な区間が現れ得る。これに対し、
図5bを参照すると、単に電圧のローデータにサンプリング処理のみを行った場合には、微分信号の値が完全に現れないことが分かる。
【0043】
したがって、サンプリング処理をした電圧データに平滑化スプラインを行うことで、電池の電圧データの傾きが連続性を満たすように変換することができる。例えば、平滑化スプラインの計算式は、次のように表すことができる。
【0044】
【数1】
前記平滑化スプライン式を通じ、サンプリングされた電圧データの傾きが急激に変化するのを防止し、連続的な曲線に変換することができる。この際、λ値が大きくなるほど、曲線はさらに緩やかになる。例えば、λ値は、それぞれ0.001(V)および0.01(Q)であってもよい。
【0045】
再び
図5aを参照すると、サンプリング処理された電圧データに平滑化スプライン(S.S)を適用した場合、電圧データの傾きの連続性を満たし且つ微分可能な形態に変換されることが分かる。また、
図5bに示されたように、サンプリング処理に平滑化スプライン(S.S)をさらに行った微分信号の場合、グラフがノイズなしに緩やかになることを確認することができる。
【0046】
このように、本発明の一実施形態に係る電池診断装置によると、電池の電圧の微分信号を用いて異常電圧降下を検出する前に、前述した方法により前処理を行うことで、データを微分可能となるように変換することができる。
【0047】
図6は、異常電圧降下による不安定挙動を電池の電圧に対する微分信号を通じて示すグラフである。この際、
図6の横軸は電池の電圧を示し、縦軸は微分信号を示す。
【0048】
図6を参照すると、電池セルの電圧が4V~4.2Vの領域に対して微分信号を示している。これは、前述したように、電池セルの電圧が4V~4.2Vの高電圧領域において電池の内部短絡による不安定電圧の概形を検出することができ、電池セル間の偏差や劣化などのその他の要因に応じた微分ピークの変化の影響を排除することができるためである。
【0049】
また、
図6は、各充電サイクルに応じた微分信号の変化を概略的に示している。
図6に示されたように、特定の充電サイクルでは、微分信号が不安定な区間(
図6の4.18V部分)が現れることを確認することができる。
【0050】
図7aは、電池の充電サイクル別の微分信号のヒストグラムを示し、
図7bは、電池の充電サイクル別の標準偏差を示す図である。この際、
図7aの横軸は微分信号値のBinsを示し、縦軸は各微分信号値の数を示す。また、
図7bの横軸は電圧(V)を示し、縦軸は微分信号の標準偏差を示す。一方、
図7aおよび7bの場合、ムービング(スライディング)ウィンドウの大きさを60にして導き出した結果を示したものである。
【0051】
図7aを参照すると、充電サイクルがそれぞれ113、135、140である場合に対する微分信号のヒストグラムを示している。
図7aに示されたように、充電サイクルが113である場合には、正常な充電状態の概形が現れるが、充電サイクルが135および140である場合には、不安定なの概形が現れることを確認することができる。
【0052】
一方、
図7bを参照すると、微分信号の標準偏差が電圧に対して均一な場合には、正常な電圧挙動が現れることを意味し、微分信号の標準偏差が特定の電圧区間において急激に上昇する場合には、電圧の不安定挙動が発生することを意味する。
【0053】
このように、電池の電圧に対する微分信号の分析ウィンドウ内での標準偏差の変化により、電圧が不安定であるか否かを検出することができる。よって、本発明の一実施形態に係る電池診断装置によると、電池の電圧の正常挙動または非正常挙動の判別条件を定量化することができる。
【0054】
図8は、本発明の一実施形態に係る電池診断装置において、微分信号の標準偏差を通じて電池の異常を診断することを例示的に示す図である。この際、
図8は、ムービング(スライディング)ウィンドウの大きさを10にして導き出した結果を示し、横軸は電圧(V)を、縦軸は微分信号の標準偏差を示す。
【0055】
図8に示されたように、本発明の一実施形態に係る電池診断装置は、微分信号の標準偏差が予め設定された基準値以上であるか否かに基づいて、電池の内部短絡による異常電圧降下を診断することができる。例えば、
図8を参照すると、電池の電圧が4.16~4.18Vの領域において異常電圧降下が発生したと判断することができる。
【0056】
一方、
図8のように微分信号の標準偏差を用いる場合には、スライディングウィンドウの大きさが小さいほど、不安定挙動の弁別力が増加するため、電圧降下現象をさらに容易且つ正確に検出することができる。
【0057】
また、上記では電池の電圧の微分信号に対する標準偏差を用いて異常であるか否かを判断するものと説明したが、本発明がこれに制限されるものではなく、標準偏差の他にも、微分信号に対する平均値、中央値、歪度、尖度などの多様な統計値が用いられてもよい。
【0058】
図9は、本発明の一実施形態に係る電池診断方法を示すフローチャートである。
図9を参照すると、先ず、電池セルの電圧を測定する(S910)。この際、ステップS910においては、電池セルの電圧を一定の時間間隔で測定することができる。
【0059】
そして、電池セルの測定された電圧を微分信号に変換する(S920)。この際、微分信号は、前述したように、電池の容量および電圧に対して算出されることができる。また、変換された微分信号に対して標準偏差を算出する(S930)。微分信号の標準偏差は、各充電サイクルに対して算出されることができる。
【0060】
次に、微分信号に対する標準偏差が予め設定された基準値以上であるか否かを判断する(S940)。この際、微分信号の標準偏差に応じた異常診断は、スライディング(ムービング)ウィンドウ方式で行われてもよく、ウィンドウの大きさは、ユーザにより任意に設定されてもよい。
【0061】
仮に、微分信号に対する標準偏差が予め設定された基準値未満である場合には、ステップS910に戻る。一方、微分信号に対する標準偏差が予め設定された基準値以上である場合(YES)には、電池セルの異常が発生したと判断する(S950)。また、上記では微分信号に対する標準偏差を通じて電池セルの異常を判断したが、標準偏差の他にも多様な形態の統計値が活用されてもよい。
【0062】
このように、本発明の一実施形態に係る電池診断方法によると、電池の電圧に対する微分信号を用いて、電池の充電中に内部短絡による異常電圧降下現象を正確且つ容易に検出することができる。
【0063】
図10は、本発明の一実施形態に係る電池診断方法において、データを前処理する方法を示すフローチャートである。
図10を参照すると、先ず、電池セルの電圧を測定する(S1010)。そして、測定された電圧データに対するサンプリングを通じて電池セルの電圧を単調増加(または単調減少)形態にデータを変換する(S1020)。次に、平滑化スプラインを通じて前記電池セルの電圧の傾きが連続性を満たすように変換する(S1030)。
図10に係るデータの前処理方法の具体的な内容は上記で説明したため、詳しい説明は省略する。
【0064】
このように、本発明の一実施形態に係る電池診断方法においては、電圧データに対して前処理を行うことにより、ノイズ、重複信号、不連続区間などが存在する電圧データを一定区間において微分可能となるように変換することで、微分分析を行うようにすることができる。
【0065】
図11は、本発明の一実施形態に係る電池診断装置のハードウェア構成を示す図である。
図11を参照すると、電池診断装置1100は、各種処理および各構成を制御するマイクロコントローラ(MCU)1110と、オペレーティングシステムプログラムおよび各種プログラム(例えば、電池診断プログラム、微分信号算出プログラムなど)などが記録されるメモリ1120と、電池セルモジュールおよび/または半導体スイッチング素子との間で入力インターフェースおよび出力インターフェースを提供する入出力インターフェース1130と、有無線通信網を介して外部と通信可能な通信インターフェース1140と、を備えることができる。このように、本発明に係るコンピュータプログラムは、メモリ1120に記録され、マイクロコントローラ1110により処理されることで、例えば、
図2に示した各機能ブロックを行うモジュールとして実現されてもよい。
【0066】
以上、本発明の実施形態を構成する全ての構成要素が1つに結合するかまたは結合して動作するものと説明されたからといって、本発明が必ずしもこのような実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の目的の範囲内であれば、その全ての構成要素が1つ以上に選択的に結合して動作してもよい。
【0067】
また、以上に記載された「含む」、「構成する」、または「有する」などの用語は、特に反する記載がない限り、当該構成要素が内在できることを意味するため、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいものと解釈されなければならない。技術的または科学的な用語を含む全ての用語は、別に定義しない限り、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解されるものと同一な意味を有する。辞書に定義された用語のように一般的に用いられる用語は、関連技術の文脈上の意味と一致するものと解釈されなければならず、本発明で明らかに定義しない限り、理想的または過度に形式的な意味に解釈されない。
【0068】
以上の説明は本発明の技術思想を例示的に説明したものにすぎず、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲内で多様な修正および変形が可能であろう。よって、本発明に開示された実施形態は本発明の技術思想を限定するためのものではなく説明するためのものであって、このような実施形態により本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は後述の請求範囲により解釈されなければならず、それと同等な範囲内にある全ての技術思想は本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0069】
1 電池パック
2 上位コントローラ
10 電池モジュール
12 センサ
14 スイッチング部、スイッチング素子、半導体スイッチング素子
20 電池管理システム(BMS)
200 電池診断装置
210 電圧測定部
220 信号変換部
230 異常診断部
240 データ処理部
1100 電池診断装置
1110 マイクロコントローラ、MCU
1120 メモリ
1130 入出力インターフェース
1140 通信インターフェース