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特許7384554ブレーキECU、システム、制御方法及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ブレーキECU、システム、制御方法及び車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/06 20060101AFI20231114BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20231114BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20231114BHJP
   B60T 8/88 20060101ALI20231114BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20231114BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20231114BHJP
【FI】
B60W50/06
B60R16/02 660B
B60T8/17 A
B60T8/88
B60T17/18
B60W30/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018161524
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020032892
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳久
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】河端 賢
【審判官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0166744(US,A1)
【文献】特開2016-134049(JP,A)
【文献】特開2012-096619(JP,A)
【文献】特開2012-096618(JP,A)
【文献】特開2011-198049(JP,A)
【文献】特開2010-083427(JP,A)
【文献】特開2017-033236(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178264(WO,A1)
【文献】特開2009-51402(JP,A)
【文献】特開2017-154554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0098886(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキアクチュエータを制御するブレーキECUであって、
当該ブレーキECUの外部の運転支援システムから、車両の運動を実現するための複数の第1の要求を受け付け、前記複数の第1の要求を調停し、調停結果に基づいて、要求される車両の運動を実現するために必要な第2の要求を算出し、前記第2の要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する、ブレーキECU。
【請求項2】
車両のブレーキアクチュエータを制御するブレーキECUであって、
当該ブレーキECUの外部の複数のADASアプリケーションから、車両の運動を実現するための複数の要求を受け付け、前記複数の要求を調停し、調停結果に基づいて、要求される車両の運動を実現するために必要な運動要求を算出し、前記運動要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する、ブレーキECU。
【請求項3】
車両のブレーキアクチュエータを制御するブレーキECUであって、
当該ブレーキECUの外部の複数の運転支援アプリケーションから、車両の運動を実現するための複数の第1の要求を受け付け、前記複数の第1の要求を調停し、調停結果に基づいて、要求される車両の運動を実現するために必要な第2の要求を算出し、前記第2の要求を複数のアクチュエータの少なくとも1つに分配する、ブレーキECU。
【請求項4】
複数のアクチュエータシステムと、車両のブレーキアクチュエータを制御するブレーキECUとを備えるシステムであって、
前記ブレーキECUは、
当該ブレーキECUの外部の複数のADASアプリケーションから、車両の運動を実現するための複数の要求を受け付け、前記複数の要求を調停し、調停結果に基づいて、要求される車両の運動を実現するために必要な運動要求を算出し、前記運動要求を前記複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する、システム。
【請求項5】
車両のブレーキアクチュエータを制御するブレーキECUが実行する制御方法であって、
当該ブレーキECUの外部の複数のADASアプリケーションから、車両の運動を実現するための複数の要求を受け付け、前記複数の要求を調停し、調停結果に基づいて、要求される車両の運動を実現するために必要な運動要求を算出し、前記運動要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する、制御方法。
【請求項6】
請求項2に記載のブレーキECUを備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキを制御するブレーキシステム、ブレーキ制御装置、システム、制御方法及びブレーキシステムを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フロントステア、リアステア及びブレーキのそれぞれに設けられたアクチュエータを駆動することにより、車両の横方向の運動を制御する車両横方向運動制御システムが記載されている。特許文献1に記載のシステムでは、各アクチュエータの制御可能範囲を表すアベイラビリティを取得し、取得したアベイラビリティを用いて、各アクチュエータをフィードフォワード制御するためのF/F要求値と、各アクチュエータをフィードバック制御するためのF/B要求値とを算出し、算出したF/F要求値及びF/B要求値に基づいて、制御対象となる機構と当該機構に最終的に発生させる制御量とを決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-96619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動運転や自動駐車等の運転支援システムが増加している。運転支援システムは、車両の駆動、制動及び操舵を制御するアクチュエータに対して要求を行う。運転支援システムの種類が増えると、各アクチュエータに対する要求も増えるため、各アクチュエータを制御する制御装置(ECU)において、複数の要求の取り扱いが煩雑となる。
【0005】
それ故に、本発明は、運転支援機能を実現する複数のアプリケーションからの要求を総合的に管理することができるブレーキシステム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様は、車両のブレーキアクチュエータを制御するブレーキECUであって、ブレーキECUの外部の運転支援システムから、車両の運動を実現するための複数の第1の要求を受け付け、複数の第1の要求を調停し、調停結果に基づいて、要求される車両の運動を実現するために必要な第2の要求を算出し、第2の要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、運転支援機能を実現する複数のアプリケーションからの要求を総合的に管理することができるブレーキシステム等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る車両制御システムを示す機能ブロック図
図2】実施形態に係るブレーキ制御ECUの構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
本発明の一実施形態において、ブレーキを制御する車両制御装置(ブレーキ制御ECU)に、複数のアプリケーション要求部から複数のアクチュエータへの要求を総合的に管理する機能と、複数のアプリケーション要求部に対して車両の挙動をフィードバックする機能とを設ける。複数のアプリケーション要求部から各アクチュエータに対して同時に要求が行われた場合、ブレーキ制御ECUにおいて複数の要求を調停することにより、各アクチュエータを制御する制御部における処理を簡易に行うことができる。
【0010】
<構成>
図1は、実施形態に係る車両制御システムを示す機能ブロック図であり、図2は、実施形態に係るブレーキ制御ECUの構成を示すブロック図である。
【0011】
図1に示す車両制御システムは、複数のアプリケーション要求部1a~1cと、アクセル2と、ブレーキ3と、ステアリング4と、要求調停部5と、要求生成部6a~6cと、車両運動制御部7と、パワートレイン制御部8と、ブレーキ制御部9と、ステアリング制御部10と、アクチュエータ12a~12dとを備える。
【0012】
アプリケーション要求部1a~1cは、自動運転や自動駐車、アダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシスト、衝突軽減ブレーキ等の車両の運転支援機能を実現するアプリケーション(先進安全アプリケーションと呼ばれる場合もある)であり、それぞれの運転支援機能に基づき、車両の運動を制御するための要求をアクチュエータ12a~12dに対して出力する。アプリケーション要求部1a~1cは、典型的には、ECUがアプリケーションを実行することによって実現される。利用される運転支援機能に応じて、複数のアプリケーション要求部1a~1cが同時にアプリケーションを実行する場合がある。尚、図1においては、説明を簡略化するため、3つのアプリケーション要求部1a~1cを示しているが、運転支援機能を実現するアプリケーション要求部の数は限定されず、2以下または4以上のアプリケーション要求部が車両に実装される場合もある。アプリケーション要求部1a~1cは、アクチュエータ12a~12dを動作させるための要求信号を、後述する要求調停部5に出力する。
【0013】
アクセル2、ブレーキ3及びステアリング4は、それぞれ車両の運動を制御するためにドライバによって操作される入力装置である。ドライバがアクセル2(アクセルペダル)を操作して入力した要求は、ドライバにより求められる推進力または制動力の大きさを特定する情報を含み、要求生成部6aと要求調停部5とに通知される。また、ドライバがブレーキ3(ブレーキペダル)を操作して入力した要求は、ドライバにより求められる制動力の大きさを特定する情報を含み、要求生成部6bと要求調停部5とに通知される。また、ドライバがステアリング4(ステアリングホイール)を操作して入力した要求は、ドライバにより求められる車両の横方向への移動量または旋回量を特定する情報を含み、要求生成部6cと要求調停部5とに通知される。アクセル2、ブレーキ3及びステアリング4の操作に基づく要求が要求調停部5に通知されるのは、入力された要求を、要求調停部5を介して、アプリケーション要求部1a~1cに通知可能とするためである。
【0014】
要求調停部5は、複数のアプリケーション要求部1a~1cから出力される要求信号を受け付け、受け付けた要求を調停する。
【0015】
図2に示すように、要求調停部5は、調停部15と、フィードバック(FB)コントローラ16と、指令値分配部17とを備える。
【0016】
調停部15は、アプリケーション要求部1a~1cのアクチュエータ12a~12dに対する要求を調停する。調停部5は、アプリケーション要求部1a~1cから受信した要求信号に含まれる車両の前後方向の運動を表す情報と、受け付けたデータセットに含まれる車両の横方向の運動を表す情報とのそれぞれについて調停を行う。アプリケーション要求部1a~1cから指示される車両の前後方向の運動を表す情報は、例えば、加速度で有り、車両の横方向の運動を表す情報は、例えば、加速度または操舵角である。例えば、調停部15は、所定の選択基準に基づいて、受け付けた複数の要求信号の中から1つの要求信号を選択したり、受け付けた複数の要求信号に基づいて制御の許容範囲を設定したりすることにより調停を行う。
【0017】
FBコントローラ16は、シャシーに設けられたシャシー系センサ14の出力値に基づいて、車両の運動を測定する。シャシー系センサ14は、車両の状態量やドライバによる操作部の操作量を測定する複数種類のセンサを含む。車両の状態量を測定するセンサとしては、各車輪に設けられる車輪速センサや、車両の前後方向及び/又は左右方向の加速度を測定する加速度センサ、車両のヨーレートを測定するヨーレートセンサ等が挙げられる。また、ドライバによる操作部の操作量を測定するセンサとしては、ハンドル操作量を検出するハンドル角センサ、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ等が挙げられる。また、FBコントローラ16は、後述するパワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10から通知される、アクチュエータ12a~12dの制御実績値や動作状態を表す情報等を取得する。FBコントローラ16は、取得した各種情報を、アプリケーション要求部1a~1cにフィードバックすると共に、後述する指令値分配部17にも出力する。アプリケーション要求部1a~1cは、FBコントローラ16からフィードバックされる各種情報に基づいて、運転支援機能を提供するための制御処理の実行状況をモニターし、必要に応じての制御処理の変更や中止を行うことができる。FBコントローラ16から指令値分配部17に出力される各種情報は、指令値分配部17が後述する要求生成部6a~6cに対する指令値を生成する際に用いられ、車両の運動を、調停部15による調停結果である目標の運動に近づけるための、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10のフィードバック制御に用いられる。
【0018】
指令値分配部17は、調停部15による調停結果に基づいて、複数のアクチュエータ12a~12dを制御する制御部に対する指令値を分配する。指令値分配部17は、指令値を分配するにあたり、FBコントローラ16から出力された各種情報を参照して、車両の運動が目標の運動に近づくように、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10のそれぞれに対する指令値を生成する。指令値分配部17は、分配した各指令値を後述する要求生成部6a~6cに出力する。分配部17がFBコントローラの出力に基づいて指令値を分配することによって、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10は、それぞれの制御実績値に基づいてフィードバック制御される。
【0019】
要求生成部6aは、指令値分配部17から出力された指令値に基づいて、アクチュエータ12a及び12bに対する要求を生成し、生成した要求をパワートレイン制御部8に出力する。同様に、要求生成部6b及び6cは、指令値分配部17から出力された指令値に基づいて、それぞれ、アクチュエータ12c及び12dに対する要求を生成し、生成した要求をブレーキ制御部9及びステアリング制御部10に出力する。要求生成部6a~6cには、アクセル2、ブレーキ3及びステアリング4の操作によって入力されたドライバからの要求と、アプリケーション要求部1a~1cからの1以上の要求とが同時に入力される場合がある。例えば、自動運転中や自動駐車中にドライバが危険回避等の意図でブレーキ3を操作して車両を減速または停止させるシーンや、レーンキープアシストによる制御中にドライバ危険回避等の意図でステアリング4を操作して車両を横移動または旋回させるシーンが考えられる。そこで、要求生成部6a~6cは、ドライバからの要求とアプリケーション要求部1a~1cからの1以上の要求とが同時に入力された場合、予め用意された選択基準に基づいていずれか1つの要求を選択する。要求生成部6a、6b及び6cは、調停により選択した1つの要求に基づいて、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10にそれぞれ駆動指示を行う。また、要求生成部6a、6b及び6cは、ドライバからの要求とアプリケーション要求部1a~1cからの1以上の要求のいずれかを選択した場合、選択結果を要求調停部5に通知する。
【0020】
車両運動制御部7は、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10を介してアクチュエータ12a~12dを制御することにより、車両の走行安定性を総合的に制御する。車両運動制御部7が行う制御としては、パワートレインの出力や制動力を制御することによりタイヤの空転や車両の横滑りを抑制する制御や、急ブレーキ時にタイヤのロックを防止する制御や、ブレーキの踏み込み量及び踏み込み速度から緊急ブレーキであることを検出して強い制動力を発生させる制御等を例示できる。車両運動制御部7が行う走行安定性を維持するための制御は、車両の走行安定性が損なわれると即座に行う必要があるので、ドライバからの駆動指示及びアプリケーション要求部1a~1cによる駆動指示とは独立して実行される。車両運動制御部7は、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10のいずれかに対して駆動指示を実行した場合、アクチュエータ12a~12dが現在実現可能な制御量(アベイラビリティ)に関する情報を要求調停部5に通知する。このアベイラビリティに関する情報は、要求調停部5からアプリケーション要求部1a~1cへと通知される。車両運動制御部7の動作中は、アプリケーション要求部1a~1cが要求した要求をアクチュエータ12a~12dが実現できない場合がある。車両運動制御部7がアベイラビリティに関する情報を、要求調停部5を介してアプリケーション要求部1a~1cに通知することにより、アプリケーション要求部1a~1cが、実行中の制御処理を変更または調整することができる。
【0021】
パワートレイン制御部8は、パワートレイン(ドライブトレインと呼ばれる場合もある)を構成するアクチュエータ12a及び12bの動作を制御することにより、要求生成部6aまたは車両運動制御部7から要求された推進力または制動力を発生させる。パワートレイン制御部8は、例えば、エンジン制御ECU、ハイブリッド制御ECU、トランスミッションECU等のいずれかまたは組み合わせにより実現される。図1においては、説明の簡略化のために、パワートレイン制御部8の制御対象として、2つのアクチュエータ12a及び12bを示しているが、パワートレイン制御部8が制御するアクチュエータの数は、車両のパワートレインの構成に応じて1つまたは3以上の場合もある。パワートレインを構成するアクチュエータ12a及び12bの例としては、エンジン、駆動用モータ、クラッチ、トルクコンバータ、トランスミッション、四輪駆動車において前輪・後輪にトルクを配分する機構等が挙げられる。
【0022】
ブレーキ制御部9は、各車輪に設けられたブレーキアクチュエータの動作を制御することにより、要求生成部6bまたは車両運動制御部7から要求された制動力を発生させる。ブレーキ制御部9には、シャシー系センサ14と信号線を介して直接接続されており、シャシー系センサ14に含まれる各車輪の車輪速センサ13の出力値が当該信号線を通じて入力される。
【0023】
ステアリング制御部10は、電動パワーステアリング(EPS)のモータの回転力を制御することにより、ラック&ピニオン機構を介して接続されたタイヤの向きを制御する。ステアリング制御部10は、例えば、パワーステアリング制御ECUにより実現される。
【0024】
上述したように、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10には、要求生成部6a~6cのいずれかからの要求と、車両運動制御部7からの要求とが同時に入力される場合がある。例えば、ドライバによるアクセル2の操作に基づいてパワートレイン制御部8が要求された推進力を発生させている場合に、車輪の横滑りが検出されると、車両運動制御部7は、車両の横滑りを抑制するために、各車輪のブレーキアクチュエータに発生させる制動力と、エンジンまたは駆動用モータの出力とを制御する。この場合、車両運動制御部7による横滑り抑制を優先させるために、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10は、車両運動制御部7からの要求を優先して、アクチュエータ12a~12dを制御する。
【0025】
パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10は、要求生成部6a~6cのそれぞれからの要求に基づいて、アクチュエータ12a~12dを駆動する。パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10は、アクチュエータ12a~12dからの応答信号またはセンサによる測定値に基づいて、アクチュエータ12a~12dの動作状態に関する情報を取得する。アクチュエータの動作状態に関する情報の例としては、アクチュエータのアベイラビリティを表す情報(アクチュエータが期待される通りに反応できるか否かを表す情報)や、アクチュエータが実現している推進力、制動力、ヨーレート、操舵角等のアクチュエータの出力のモニター値を表す情報、ブレーキパッドの温度が過熱方向に遷移しているか否かなどアクチュエータに固有の情報等が挙げられる。パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10は、制御対象のアクチュエータの出力のモニター値を表す情報及びアクチュエータに固有の情報を要求調停部5に通知する。また、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10は、制御対象のアクチュエータが故障していることを検出した場合、制御対象のアクチュエータのアベイラビリティを表す情報を要求調停部5に通知する。アクチュエータ12a~12dのそれぞれの動作状態に関する情報は、更に、要求調停部5からアプリケーション要求部1a~1cへと通知される。アプリケーション要求部1a~1cは、通知されたアクチュエータ12a~12dの動作状態に基づいて、実行中の制御処理を変更または調整することができる。
【0026】
図2に示すように、ブレーキを制御するための制御装置であるブレーキ制御ECU20は、ブレーキ制御部9に加えて、図1に示した要求調停部5と、要求生成部6a~6cと、車両運動制御部7とを含む。ブレーキ制御ECU20と、アプリケーション要求部1a~1cと、パワートレイン制御部8と、ステアリング制御部10とは、ECU間通信により通信可能である。
【0027】
<効果等>
本実施形態に係るブレーキ制御ECU20の構成には、以下のような利点がある。
【0028】
まず、ブレーキ制御ECU20が要求調停部5を備えることにより、複数のアプリケーション1a~1cからの要求を一元的に管理し、要求される車両の運動を実現するために必要な制御量(指令値)を、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10に分配することができる。このように、要求調停部5を用いて複数のアプリケーション要求部1a~1cの要求を一元的に管理する構成には、新たな運転支援機能を実現する新たなアプリケーション要求部が追加された場合でも、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10の制御処理を変更する必要がなくなるという利点もある。ブレーキ制御ECU20は、どの種類の車両にも搭載される。したがって、要求調停部5及び要求生成部6a~6cをブレーキ制御ECU20に実装すれば、どの車種においても、運転支援機能を実現する複数のアプリケーション要求部1a~1cからの要求を一元的に管理することが可能となる。既存のブレーキ制御ECU20に要求調停部5及び要求生成部6a~6cを設けた場合、アプリケーション1a~1cからの要求を一元的に管理する制御装置(ECU)を新たに設ける場合と比べて、ECUや通信システムに要するコストと、ECUや通信システムの種類増加を抑制することもできる。
【0029】
車種にかかわらず車両に搭載されているECUとしては、パワートレインを制御するECU(パワートレイン制御部8)やステアリングを制御するECU(ステアリング制御部10)もあるが、ECU間の通信が途絶した場合、ステアリングを制御するECUは、単独で制動力を発生させることができない。また、パワートレイン制御ECUは、ポンピングロスにより制動力を発生させることができるが、摩擦ブレーキを使用できないため、発生できる制動力には限界がある。したがって、故障時の十分なブレーキ機能残存性の観点から、要求調停部5及び要求生成部6a~6cをブレーキ制御ECU20に設けることが最も好ましい。
【0030】
また、複合制御システムの一部に故障が発生した場合、安全を確保するために行うべき制御が車両の速度に応じて異なる。例えば、故障発生時の車速が3km/h以下の場合には、即座にブレーキをかけて車両を停止させることが好ましいのに対して、故障発生時の車速が50km/hの場合には、徐々に減速してから車両を停止させることが求められる。車速を信頼性高く検出するためには、車輪速センサが不可欠であるが、ブレーキ制御ECU20には、車輪速センサの測定値が信号線を介して直接入力される。したがって、車速に応じて安全状態に遷移させるための制御を行う観点でも、要求調停部5及び要求生成部6a~6cをブレーキ制御ECU20に設けることが望ましい。
【0031】
本実施形態に係るブレーキ制御ECU20は、フィードバック制御に用いるための車両の制御実績値を測定するFBコントローラ11を備えている。車両の縦方向(前後方向)の運動の制御実績値をフィードバックするコントローラと、車両の横方向(左右方向)の運動の制御実績値をフィードバックするコントローラとをそれぞれ運転支援系の制御機能毎に設ける場合と比べて、コントローラの数を最小にできるという利点がある。また、FBコントローラ11をブレーキ制御ECU20に設けた場合、FBコントローラ11が測定した制御実績値をアプリケーション要求部1a~1cにフィードバックする際の通信量を抑制して、通信負荷を軽減することができる。
【0032】
また、アプリケーション要求部1a~1cは、運転支援機能を実現するための制御処理を継続して行うため、アクチュエータ12a~12dに指示した要求の実行状況に関する情報やアクチュエータ12a~12dの健全性に関する情報を必要とする。要求調停部5は、パワートレイン制御部8、ブレーキ制御部9及びステアリング制御部10が取得したアクチュエータ12a~12dの動作状態に関する情報を集約してアプリケーション要求部1a~1cに通知するため、アクチュエータ12a~12dの動作状態に関する情報の通知に要する通信負荷を軽減することができる。
【0033】
また、本実施形態のように、車両の運動安定性を自律的に制御する車両運動制御部7を車両に実装する場合、車両運動制御部7もブレーキ制御ECU20に実装することが好ましい。車両運動制御部7が制御を実行している間、アクチュエータ12a~12dを優先的に使用するため、アクチュエータ12a~12dのアベイラビリティに関する情報をアプリケーション要求部1a~1cに対して通知する必要がある。本実施形態においては、車両運動制御部7が、同じブレーキ制御ECU20に設けられた要求調停部5に対して最小の遅延で情報の通知を行うことができる。要求調停部5においては、アプリケーション要求部1a~1cに通知すべき情報を一元的に管理することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、車両に搭載されるブレーキ制御装置の利用価値を高めることができる。
【符号の説明】
【0035】
1a~1c アプリケーション要求部
5 要求調停部
6a~6c 要求生成部
8 パワートレイン制御部
9 ブレーキ制御部
10 ステアリング制御部
12a~12d アクチュエータ
15 調停部
16 フィードバック(FB)コントローラ
17 指令値分配部
図1
図2