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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】カーボン膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20231114BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C23C14/06 F
C23C14/34 U
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019102698
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020196915
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】小野田 淳吾
(72)【発明者】
【氏名】赤松 泰彦
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-199989(JP,A)
【文献】特開2004-156057(JP,A)
【文献】特開2011-114045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ法を用いたカーボン膜の成膜方法であって、
炭素(C)を含むターゲットを用い、非成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して非平行の位置に被処理体の一面を配し、かつ、成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して前記被処理体の一面が移動するように前記被処理体を保持して、
前記被処理体の一面上に炭素(C)を含む被膜を形成する際に、
前記被処理体側から見た、前記ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する手段Zであって、前記ターゲットの表面(スパッタ面)の上空において、前記露呈領域を形成するために所望の開口部を有する構造体(チムニ-)を用い、
前記手段Zには、接地配線が接続されるとともに、前記ターゲット近傍にプロセスガスを供給するガススリットが設けられ
前記スパッタ法が、前記ターゲットのスパッタ面の前方を、前記被処理体が通過する方式であることを特徴とするカーボン膜の成膜方法。
【請求項2】
スパッタ法を用いたカーボン膜の成膜方法であって、
炭素(C)を含むターゲットを用い、非成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して非平行の位置に被処理体の一面を配し、かつ、成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して前記被処理体の一面が移動するように前記被処理体を保持して、
前記被処理体の一面上に炭素(C)を含む被膜を形成する際に、
前記被処理体側から見た、前記ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する手段Zであって、前記ターゲットの表面(スパッタ面)の上空において、前記露呈領域を形成するために所望の開口部を有する構造体(チムニ-)を用い、
前記ターゲットおよび前記構造体を側方から見た場合において、
前記ターゲットの裏面に配置された磁気回路により生じる磁場ベクトルの該ターゲットの表面において垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる位置をA、前記構造体(チムニ-)の開口端の位置をB、前記ターゲットの表面または該ターゲットの表面から延長した線に対して前記位置Bから垂線を引いて交差する位置をC、と定義した場合、
前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25以上となる範囲を満たすように前記開口部を構成することを特徴とするカーボン膜の成膜方法。
【請求項3】
スパッタ法を用いたカーボン膜の成膜方法であって、
炭素(C)を含むターゲットを用い、非成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して非平行の位置に被処理体の一面を配し、かつ、成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して前記被処理体の一面が移動するように前記被処理体を保持して、
前記被処理体の一面上に炭素(C)を含む被膜を形成する際に、
前記被処理体側から見た、前記ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する手段Zであって、前記ターゲットの表面(スパッタ面)の上空において、前記露呈領域を形成するために所望の開口部を有する構造体(チムニ-)を用い、
前記ターゲットおよび前記構造体を側方から見た場合において、
前記ターゲットの裏面に配置された磁気回路により生じる磁場ベクトルの該ターゲットの表面において垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる位置をA、前記構造体(チムニ-)の開口端の位置をB、前記ターゲットの表面または該ターゲットの表面から延長した線に対して前記位置Bから垂線を引いて交差する位置をC、と定義した場合、
前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25を下回る範囲を満たすように前記開口部を構成することを特徴とするカーボン膜の成膜方法。
【請求項4】
前記スパッタ法が、前記ターゲットのスパッタ面の前方を、前記被処理体が通過する方式であることを特徴とする請求項2に記載のカーボン膜の成膜方法。
【請求項5】
前記スパッタ法が、前記ターゲットのスパッタ面の前方を、前記被処理体が通過する方式であることを特徴とする請求項3に記載のカーボン膜の成膜方法。
【請求項6】
前記ターゲットおよび前記構造体を側方から見た場合において、
前記ターゲットの裏面に配置された磁気回路により生じる磁場ベクトルの該ターゲットの表面において垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる位置をA、前記構造体(チムニ-)の開口端の位置をB、前記ターゲットの表面または該ターゲットの表面から延長した線に対して前記位置Bから垂線を引いて交差する位置をC、と定義した場合、
前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25以上となる範囲を満たすように前記開口部を構成することを特徴とする請求項1に記載のカーボン膜の成膜方法。
【請求項7】
前記被膜の膜密度[g/cm]を2.04以上2.31以下の範囲内で制御することを特徴とする請求項2、請求項4または請求項6の何れか一項に記載のカーボン膜の成膜方法。
【請求項8】
前記ターゲットおよび前記構造体を側方から見た場合において、
前記ターゲットの裏面に配置された磁気回路により生じる磁場ベクトルの該ターゲットの表面において垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる位置をA、前記構造体(チムニ-)の開口端の位置をB、前記ターゲットの表面または該ターゲットの表面から延長した線に対して前記位置Bから垂線を引いて交差する位置をC、と定義した場合、
前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25を下回る範囲を満たすように前記開口部を構成することを特徴とする請求項1に記載のカーボン膜の成膜方法。
【請求項9】
前記被膜の密度[g/cm]を1.77以上2.04未満の範囲内で制御することを特徴とする請求項3、請求項5または請求項8の何れか一項に記載のカーボン膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン膜の成膜方法に係る。より詳細には、成膜手法によって膜硬度や膜密度を制御可能な、カーボン膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図9に示すように、3種類に大別されるカーボン(ダイヤモンド、DLC、グラファイト)が知られている(非特許文献1)。
ダイヤモンド(Diamond)は、SP3構造のみからなり、膜密度(3.5g/cm)や膜硬度
(Hv9000-10000)が最も高い特性を有する。一方、グラファイト膜(Graphite film)は、SP2構造のみからなり、膜密度(2.3g/cm)であり、膜硬度は極めて小さい特性を有する。
【0003】
これに対して、ダイヤモンドとグラファイトとの間に位置する特性を備えるカーボンが、ダイヤモンドライクカーボン(DLC:diamond-like carbon)である。
DLCは、SP3構造とSP2構造が複雑に混じり合って構成されている。DLCは、水素含有DLCと水素フリーDLCとに大別される。いずれもSP2構造とSP3構造が混在した結晶構造をとるが、前者(水素含有DLC)に比べて、後者(水素フリーDLC)の方が、膜密度および膜硬度が高く、ダイヤモンドに近い特性を有する。つまり、DLCは、水素含有量の多少と、含まれる結晶質の電子軌道がダイヤモンド寄りかグラファイト寄りかによって、その性質が変化する。
【0004】
図10は、SP3/SP2/Hの比率を基にしたDLC組成の概念図として提案された3元相関図(非特許文献2)に、各種DLCの領域を追記した図である。図10において、「ta-C」はテトラヘドラルアモルファスカーボンを、「a-C」はアモルファスカーボンを、各々表している。「ta-C:H」は水素化テトラヘドラルアモルファスカーボンを、「a-C:H」は水素化アモルファスカーボンを、各々表している。
【0005】
DLCからなる薄膜(以下、DLC膜と呼称する)の製法としては、プラズマCVD法またはPVD法が一般的に用いられる。
プラズマCVD法は、原料として炭化水素ガスを用いてDLC膜を形成する。原料に水素が含まれているため、形成されるDLC膜は必ず水素を含むもの(水素含有DLC)となる。
これに対して、スパッタ法に代表されるPVD法は、原料である黒鉛(C)からなるターゲットを用い、真空中で、このターゲットから飛び散った炭素原子を被処理体上に付着させて成膜が行われる。このため、スパッタ法によれば水素フリーDLC膜を形成することができる。図11a及び図11Bに示すように、スパッタ粒子Rの飛翔方向を規制するために構造体(チムニー)10が配置されることについては知られていた。符号Dはスパッタ粒子Rの飛翔方向、符号Wは被処理体、符号cは被処理体の進行方向を表す。
【0006】
ゆえに、膜密度および膜硬度が高く、ダイヤモンドに近い特性を有する水素フリーDLC膜(以下では、単に「カーボン膜」と呼称する)の研究・開発が、各研究機関において進められている。ところが、カーボン膜の膜硬度や膜密度を制御する方法については、明確な手法は確立されていなかった。
このため、カーボン膜をスパッタ法により形成する際に、膜硬度や膜密度を制御可能な、カーボン膜の成膜方法の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】電子材料、1,63(1999)
【文献】A.C.Ferrari and J.Robertson,"Interpretation of Raman spectra of disordered and amorphous carbon",PHYSICAL REVIEW B Vol.61(20)(2000)p.14095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、カーボン膜をスパッタ法により形成する際に、膜硬度や膜密度を制御可能な、カーボン膜の成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載のカーボン膜の成膜方法は、スパッタ法を用いたカーボン膜の成膜方法であって、炭素(C)を含むターゲットを用い、非成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して非平行の位置に被処理体の一面を配し、かつ、成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して前記被処理体の一面が移動するように前記被処理体を保持して、前記被処理体の一面上に炭素(C)を含む被膜を形成する際に、前記被処理体側から見た、前記ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する手段Zであって、前記ターゲットの表面(スパッタ面)の上空において、前記露呈領域を形成するために所望の開口部を有する構造体(チムニ-)を用い、前記手段Zには、接地配線が接続されるとともに、前記ターゲット近傍にプロセスガスを供給するガススリットが設けられ、前記スパッタ法が、前記ターゲットのスパッタ面の前方を、前記被処理体が通過する方式であることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のカーボン膜の成膜方法は、スパッタ法を用いたカーボン膜の成膜方法であって、炭素(C)を含むターゲットを用い、非成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して非平行の位置に被処理体の一面を配し、かつ、成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して前記被処理体の一面が移動するように前記被処理体を保持して、前記被処理体の一面上に炭素(C)を含む被膜を形成する際に、前記被処理体側から見た、前記ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する手段Zであって、前記ターゲットの表面(スパッタ面)の上空において、前記露呈領域を形成するために所望の開口部を有する構造体(チムニ-)を用い、前記ターゲットおよび前記構造体を側方から見た場合において、前記ターゲットの裏面に配置された磁気回路により生じる磁場ベクトルの該ターゲットの表面において垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる位置をA、前記構造体(チムニ-)の開口端の位置をB、前記ターゲットの表面または該ターゲットの表面から延長した線に対して前記位置Bから垂線を引いて交差する位置をC、と定義した場合、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25以上となる範囲を満たすように前記開口部を構成することを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のカーボン膜の成膜方法は、スパッタ法を用いたカーボン膜の成膜方法であって、炭素(C)を含むターゲットを用い、非成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して非平行の位置に被処理体の一面を配し、かつ、成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して前記被処理体の一面が移動するように前記被処理体を保持して、前記被処理体の一面上に炭素(C)を含む被膜を形成する際に、前記被処理体側から見た、前記ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する手段Zであって、前記ターゲットの表面(スパッタ面)の上空において、前記露呈領域を形成するために所望の開口部を有する構造体(チムニ-)を用い、前記ターゲットおよび前記構造体を側方から見た場合において、前記ターゲットの裏面に配置された磁気回路により生じる磁場ベクトルの該ターゲットの表面において垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる位置をA、前記構造体(チムニ-)の開口端の位置をB、前記ターゲットの表面または該ターゲットの表面から延長した線に対して前記位置Bから垂線を引いて交差する位置をC、と定義した場合、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25を下回る範囲を満たすように前記開口部を構成することを特徴とする。
本発明の請求項4、5に記載のカーボン膜の成膜方法は、請求項2、3それぞれにおいて、前記スパッタ法が、前記ターゲットのスパッタ面の前方を、前記被処理体が通過する方式であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項6に記載のカーボン膜の成膜方法は、請求項1において、前記ターゲットおよび前記構造体を側方から見た場合において、前記ターゲットの裏面に配置された磁気回路により生じる磁場ベクトルの該ターゲットの表面において垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる位置をA、前記構造体(チムニ-)の開口端の位置をB、前記ターゲットの表面または該ターゲットの表面から延長した線に対して前記位置Bから垂線を引いて交差する位置をC、と定義した場合、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25以上となる範囲を満たすように前記開口端を構成することを特徴とする。
本発明の請求項7に記載のカーボン膜の成膜方法は、請求項2、請求項4または請求項6の何れか一項において、前記被膜の密度[g/cm]を2.04以上2.31以下の範囲内で制御することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項8に記載のカーボン膜の成膜方法は、請求項1において、前記ターゲットおよび前記構造体を側方から見た場合において、前記ターゲットの裏面に配置された磁気回路により生じる磁場ベクトルの該ターゲットの表面において垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる位置をA、前記構造体(チムニ-)の開口端の位置をB、前記ターゲットの表面または該ターゲットの表面から延長した線に対して前記位置Bから垂線を引いて交差する位置をC、と定義した場合、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25を下回る範囲を満たすように前記開口端を構成することを特徴とする。
本発明の請求項9に記載のカーボン膜の成膜方法は、請求項3、請求項5または請求項8の何れか一項において、前記被膜の密度[g/cm]を1.77以上2.04未満の範囲内で制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1~3に記載の発明は、スパッタ法により炭素(C)を含むターゲットを用いて被処理体の一面上に炭素(C)を含む被膜を形成する。
その際に、非成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して非平行の位置に被処理体の一面を配し、かつ、成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して前記被処理体の一面が移動するように前記被処理体を保持する。
成膜時には、前記被処理体側から見た、前記ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する手段Zを用いる。
これにより、手段Zによって制限されたスパッタ粒子は被処理体の一面上に到達できず、手段Zによって制限されることが無かったスパッタ粒子のみが被処理体の一面上に堆積される。手段Zにおいて、ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する度合い調整することにより、形成されたカーボン膜の膜硬度や膜密度を制御可能な、カーボン膜の成膜方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るカーボン膜の成膜方法に用いる成膜装置の一例を示す模式図。
図2図1の成膜装置における要部を拡大して示す断面図。
図3】ターゲットと構造体(チムニ-)との関係を示す断面図。
図4】構造体(チムニ-)の開口と膜密度との関係を示すグラフ。
図5】構造体(チムニ-)の開口と膜硬度との関係を示すグラフ。
図6】構造体(チムニ-)の開口と成膜速度との関係を示すグラフ。
図7】実験例1~5のカーボン膜におけるXRRの臨界角を示すグラフ。
図8A】実験例1のカーボン膜におけるXRR解析結果を示すグラフ。
図8B】実験例2のカーボン膜におけるXRR解析結果を示すグラフ。
図8C】実験例3のカーボン膜におけるXRR解析結果を示すグラフ。
図8D】実験例4のカーボン膜におけるXRR解析結果を示すグラフ。
図8E】実験例5のカーボン膜におけるXRR解析結果を示すグラフ。
図9】3種類に大別されるカーボンの説明図。
図10】SP3/SP2/Hの比率を基にしたDLC組成の概念図(3元相関図)に各種DLCの領域を追記した図。
図11A】スパッタ粒子の飛翔方向を規制する構造体を備えた場合を示す模式図。
図11B】スパッタ粒子の飛翔方向を規制する構造体を備えない場合を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る成膜装置および構造体(チムニー)の一実施形態を、図面に基づいて説明する。以下では、「被処理体側から見た、ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する手段Z」として、構造体(チムニー)を例として詳述する。本発明における手段Zは、ターゲットのスパッタ面の露呈領域を制限する機能さえ備えていれば、構造体はチムニーに限定されるものではない。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
図1は、本発明に係るカーボン膜の成膜方法に用いる成膜装置の一例を示す模式図であり、成膜装置の概略構成を表している。図1において、符号1は成膜装置である。
【0015】
図1に示した成膜装置(スパッタ装置)1は、インターバック式のスパッタ装置であり、図示しないが、たとえば無アルカリガラス基板等とされる基板(またはキャリア)を搬入/搬出するための仕込/取出室2と、基板上にカーボン膜からなる被膜をスパッタ法により形成するための内部空間を有する成膜室(真空槽)3とを備えている。
【0016】
仕込/取出室2には、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の粗引き排気手段4が設けられ、この室内には、基板Wa(W)を保持・搬送するための基板トレイ5が移動可能に配置されている。成膜装置1は、基板トレイ5を移動可能とする手段(不図示)を備えており、以下に説明する移動(矢印a~d)が可能とされている。
【0017】
仕込/取出室2から成膜室3への基板Wa(W)の移動(矢印aの方向)は、ドアバルブDVを開閉動作させることにより行われる。
成膜室3へ移動された基板Wb(W)は、成膜室3の内部空間において、最も右側に設けられた加熱ゾーンまで移動される。加熱ゾーンには、基板W(Wd)を加熱するためのヒータ11(11A、11B)が設けられており、基板の両面から熱処理することが可能とされている。
本発明において、「非成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して非平行の位置に被処理体[基板Wb(W)]の一面を配した状態」とは、基板Wd(W)を加熱ゾーンに移動した状態であり、ターゲットによって成膜可能領域R(図2)から外れた位置にあることを意味する。成膜可能領域Rは、本発明における「露呈領域」でもある。
【0018】
成膜室3には、ターゲットを保持するバッキングプレート6に負電位のスパッタ電圧を印加する電源7、成膜室3の内部空間にプロセスガスを導入するガス導入手段8、成膜室3の内部空間を高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段9、が設けられている。
【0019】
加熱ゾーンから加熱処理された基板W(Wd)を移動(矢印dの方向)させて、ターゲットを保持するバッキングプレート6の上空を右から左へ向けて、加熱処理された基板W(Wc)を通過させる(矢印aの方向)。その際、スパッタリング状態にあるターゲットからスパッタ粒子が基板W(Wc)の一面(図1では下面)上に堆積し、所望の被膜が形成される。
本発明において、「成膜時には前記ターゲットのスパッタ面に対して前記被処理体の一面が移動するように前記被処理体を保持する」とは、加熱ゾーンから加熱処理された基板W(Wd)を移動(矢印dの方向)させて、ターゲットを保持するバッキングプレート6の上空を右から左へ向けて、加熱処理された基板W(Wc)を通過させる(矢印aの方向)ことを意味する。つまり、被処理体が、ターゲットによって成膜可能領域R(ずなわち、露呈領域)を通過している間に、基板W(Wc)の一面(図1では下面)上に所望の被膜が形成される。
【0020】
図2は、図1の成膜装置における要部を拡大して示す断面図である。
図2において、符号13がバッキングプレート(図1の符号6に相当する)であり、符号14がバッキングプレート13に載置されたターゲットを表している。符号M1~M3は、バッキングプレート13の背面側に配置された磁石を表している。
【0021】
成膜室3の内部空間において、バッキングプレート13、ターゲット14、磁石M1~M3は、絶縁体12に載置された状態にある。バッキングプレート13には、基板Wcを通過させる軌道(矢印cの方向)に対して略平行に対面するように、ターゲット14のスパッタ面が配置される。これにより、ターゲット14のスパッタ面14spの前方空間を基板Wcが通過可能とするように構成されている。ここで、前方空間とは、図2において、ターゲット14のスパッタ面14spと、通過する基板Wcの一面(図1では下面)とによって挟まれた空間を意味する。
【0022】
バッキングプレート(カソード電極)13は、ターゲット14に対して負電位のスパッタリング電圧を印加する電極の役割を果たす。前述したとおり、バッキングプレート13は、負電位のスパッタリング電圧を印加する電源7に接続されている。
【0023】
本発明の成膜装置(スパッタ装置)1においては、ターゲット14の縁部の近傍に、ターゲット14の上方空間を制限する庇状の遮蔽部を有するチムニー(構造体)10が配置される。チムニー10は、電気的にシールド電極として機能する。
チムニー10は、接地配線Gに接続される。チムニー10は、ターゲット14が設置された領域よりも外側のバッキングプレート13の周縁部や他の部分がプラズマガスによってスパッタリングされてしまうのを防ぐ役割も果たす。
【0024】
チムニー10には、ターゲット14と対向する位置にある遮蔽部の側壁に開口端15A、15Bが設けられる。本発明の成膜装置(スパッタ装置)1においては、開口部15A、15Bの位置を変更することにより、ターゲット14の表面から飛翔したスパッタ粒子の進行方向を規制する。これにより、ターゲット14の前方空間を通過する基板Wcに対して、突入するスパッタ粒子の角度を制御可能としている。
【0025】
また、チムニー10には、ガススリット(不図示)が配置されてもよい。これにより、ガス導入手段8から成膜室3の内部空間へ導入されたプロセスガスは、ターゲット14の近傍へより積極的に供給可能となる。
【0026】
図3は、ターゲットと構造体(チムニ-)との関係を示す断面図である。
図3において、符号13はバッキングプレートであり、その上面にはターゲット14が、その下面には磁気回路を構成する磁石M1~M3が配置された状態を表している。チムニー10を構成する遮蔽部の側壁には開口端15A(15)が設けられる。
図3において、符号TCはターゲット14の幅方向(図3の左右方向)における中心位置である。符号TRはターゲット14の右半分を、符号TLはターゲット14の左半分を、それぞれ表している。
本発明では、開口端15A(15)の位置(B1~B3)を変更し、その作用・効果を検討した。
【0027】
ターゲット14の裏面側に存在する磁気回路から発生する磁場ベクトルBL0のターゲット14の表面側において、垂直成分B⊥が0(ゼロ)となる箇所βPから、ターゲット14の表面に垂線を引き、この垂線がターゲット14の表面と垂直に交差する箇所を点Aと定義する。
図3において、符号Dは、ターゲット14の幅方向の中心位置TCと前述した点Aとの距離を表している。
【0028】
チムニー10の開口端15A(15)に相当する異なる3つの位置を「点B1、点B2、点B3」と定義する。点B1はターゲット14と重なる上空の位置にある。点B2と点B3はターゲット14と重ならない上空の位置にあり、点B2に比べて点B3はターゲット14から見て、より離れた外方の位置にある。
【0029】
点B1、点B2、点B3から各々、ターゲット14の表面またはターゲット14の表面から延長した線に対して垂線を引き、各垂線がターゲット14の表面またはターゲット14の表面から延長した線に交差する箇所を点C1、点C2、点C3と定義する。
【0030】
図3において、線分A-B1は、点Aと点B1とを直線で結んだ線分である。同様に、線分A-B2は、点Aと点B2とを直線で結んだ線分であり、線分A-B3は、点Aと点B3とを直線で結んだ線分である。
また図3において、線分B1-C1は、点B1と点C1とを直線で結んだ線分である。同様に、線分B2-C2は、点B2と点C2とを直線で結んだ線分であり、線分B3-C3は、点B3と点C3とを直線で結んだ線分である。
図3において、符号Hは、チムニー10の高さ位置を表しており、たとえば、線分B1-C1の長さに相当する。
【0031】
以下では、チムニー10の開口端15A(15)の位置(B1~B3に相当する位置)を制御して、カーボン膜をスパッタ法により形成し、カーボン膜の膜密度、膜硬度、成膜速度(Deposition Rate)について評価した結果について述べる。
以下の実験例では、ターゲット14の全幅の半分の距離が、67.5mmのターゲットを用いた。
【0032】
(実験例1)
実験例1(ex1)は、チムニー10の開口端15A(15)の位置が最も内側に存在する場合であり、点TCと点C1に相当する距離を30mmとして成膜を行った。チムニー10の高さ位置Hは50mmとした。
【0033】
(実験例2)
実験例2(ex2)は、チムニー10の開口端15A(15)の位置が実験例1に次いで内側に存在する場合であり、点TCと点C1に相当する距離を50mmとして成膜を行った。チムニー10の高さ位置Hは50mmであり、実験例1と同じである。
【0034】
(実験例3)
実験例3(ex3)は、チムニー10の開口端15A(15)の位置が実験例2に次いで内側に存在する場合であり、点TCと点C2に相当する距離を70mmとして成膜を行った。チムニー10の高さ位置Hは50mmであり、実験例1と同じである。
【0035】
(実験例4)
実験例4(ex4)は、チムニー10の開口端15A(15)の位置が実験例3に次いで内側に存在する場合であり、点TCと点C2に相当する距離を115mmとして成膜を行った。チムニー10の高さ位置Hは50mmであり、実験例1と同じである。
【0036】
(実験例5)
実験例5(ex5)は、チムニー10を設置しなかった場合である。
【0037】
上述したチムニー14の開口端15A(15)の位置以外は、スパッタ成膜条件は、以下のとおり一定(所定の範囲)とした。
ターゲット:カーボン(東洋炭素社製、型番:IG-510、板厚[mm]:6)
プロセスガス:Ar
プロセス(成膜)圧力[Pa]:0.3
被処理体(基板):ガラス(Corning社製、型番:Eagle XG、板厚[mm]:0.7)
被処理体(基板)の搬送速度[mm/min]:36~88
被処理体(基板)の加熱温度[℃]:52~57
【0038】
[評価1:膜密度]
図4は、構造体(チムニ-)の開口とカーボン膜の膜密度との関係を示すグラフであり、ここで開口とは点TCと点C1(または、点C2、点C3)との距離を意味する。
図4より、以下の点が明らかとなった。
(a1)ex1~ex3、BC/AC≧1.25では、膜密度[g/cm]が2.04~2.31の範囲で制御することが可能である。
(a2)ex4~ex5、BC/AC<1.25では、膜密度[g/cm]が1.77~2.04の範囲で制御することが可能である。
以上の結果から、構造体(チムニ-)の開口を調整することにより、膜密度が特定の数値範囲で制御できることが確認された。
【0039】
[評価2:膜硬度]
図5は、構造体(チムニ-)の開口とカーボン膜の膜硬度との関係を示すグラフであり、ここで開口とは点TCと点C1(または、点C2、点C3)との距離を意味する。
図5より、以下の点が明らかとなった。
(b1)ex1~ex3、BC/AC≧1.25では、膜硬度[GPa]が12.3~12.9の範囲で制御することが可能である。
(b2)ex4~ex5、BC/AC<1.25では、膜硬度[GPa]が10.5~12.3の範囲で制御することが可能である。
以上の結果から、構造体(チムニ-)の開口を調整することにより、膜硬度が特定の数値範囲で制御できることが確認された。
【0040】
図4および図5の評価結果より、「請求項4の条件:開口部@ケースα(膜硬度&膜密度が大となる領域)」を満たすためには、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25以上となる範囲を満たすように前記開口部を構成すればよい。
特に、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25以上となる範囲とした場合(ケースαの場合)には、被膜(カーボン膜)の膜密度[g/cm]を2.04以上2.31以下の範囲内で制御可能である。
また、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25以上となる範囲とした場合(ケースαの場合)には、被膜の膜硬度[GPa]を12.3以上12.9以下の範囲内で制御可能である。
【0041】
図4および図5の評価結果より、「請求項7の条件:開口部@ケースβ(膜硬度&膜密度が小となる領域)」を満たすためには、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25を下回る範囲を満たすように前記開口部を構成すればよい。
特に、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25を下回る範囲とした場合(ケースβの場合)には、被膜(カーボン膜)の膜密度[g/cm]を1.77以上2.04未満の範囲内で制御可能である。
また、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25を下回る範囲とした場合(ケースβの場合)には、被膜の膜硬度[GPa]を10.5以上12.3未満の範囲内で制御可能である。
【0042】
また、図4および図5の評価結果より、「請求項7の条件:開口部@ケースβ(膜硬度&膜密度が小となる領域)」を満たすためには、前記Bと前記Cを結ぶ線分BCの長さを前記Aと前記Cを結ぶ線分ACの長さで除した値が1.25を下回る範囲を満たすように前記開口部を構成すればよいことが分かった。
【0043】
[評価3:成膜速度(Deposition Rate)]
図6は、構造体(チムニ-)の開口と成膜速度(Deposition Rate)との関係を示すグラフであり、ここで開口とは点TCと点C1(または、点C2、点C3)との距離を意味する。
図6より、BC/ACの値が小さいほど、成膜速度が上昇することが分かった。
以上の結果から、構造体(チムニ-)の開口を調整することにより、成膜速度を調整できることが確認された。
【0044】
図7は、実験例1~5において形成したカーボン膜におけるXRRの臨界角を示すグラフである。図7のグラフでは、たとえば、実験例1で形成したカーボン膜の評価プロファイルに符号ex1と付けて表している。実験例2~5についても、同様に表示した。
図7より、BC/ACの値が異なることで、XRRの臨界角が変化していることが分かる。
以上の結果から、構造体(チムニ-)の開口を調整することにより、XRRの臨界角を変化させることができることが確認された。
【0045】
図8A図8Eは各々、実験例1~実験例5のカーボン膜におけるXRR解析結果を示すグラフである。
図8A図8Eより、XRRの解析結果と測定結果が一致していることが分かる。ゆえに、解析の結果から得られた膜密度、膜厚、表面粗さの数値に妥当性がある。
以上の結果から、構造体(チムニ-)の開口を調整することにより、臨界角が変化しても解析することができ、膜密度の数値に信頼性があることが確認された。
【0046】
なお、上記の実験例では、ターゲットとして「カーボン(東洋炭素社製、型番:IG-510)」を用いて詳述したが、本発明は、この特定のターゲットに限定されるものではない。本発明の課題は、特定のターゲットに依存するものではない。
【0047】
したがって、本発明は、カーボン膜をスパッタ法により形成する際に、膜硬度や膜密度を制御可能な、カーボン膜の成膜方法の提供に貢献する。本発明は、各種のデバイスにおいて要求される膜特性(膜硬度や膜密度)や製造条件(成膜速度)に適合するカーボン膜の安定した作製に対応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るカーボン膜の成膜方法は、基材の表面硬質膜や、バリア膜などに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
a~d 基板トレイの移動方向、DV ドアバルブ、G 接地配線、M1、M2、M3磁石、R 成膜可能領域(露呈領域)、Wa、Wb、Wc、Wd(W) 基板、1 成膜装置(スパッタ装置)、2 仕込/取出室、3 成膜室(真空槽)、4 粗引き排気手段、5 基板トレイ、6 バッキングプレート、7 電源、8 ガス導入手段、9 高真空排気手段、10A、10B(10) チムニー(構造体)、11A、11B(11) ヒータ、12 絶縁体、13 バッキングプレート(カソード電極)、14 ターゲット、14sp スパッタ面、15A、15B(15) 開口端。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9
図10
図11A
図11B