(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】流路切替弁及び消火栓
(51)【国際特許分類】
F16K 11/07 20060101AFI20231114BHJP
A62C 35/68 20060101ALI20231114BHJP
A62C 35/20 20060101ALI20231114BHJP
F16K 31/44 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F16K11/07 C
A62C35/68
A62C35/20
F16K31/44 B
(21)【出願番号】P 2019144733
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229405
【氏名又は名称】日本ドライケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513154223
【氏名又は名称】株式会社クリマテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】森田 克久
(72)【発明者】
【氏名】其木 秀文
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-79736(JP,A)
【文献】特開2012-29968(JP,A)
【文献】特開2001-212256(JP,A)
【文献】特開2014-15954(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0338927(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 11/00-11/24,31/44
A62C 35/68,35/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の流入路から流入した流体の流れを第1流出路又は第2流出路のいずれか一方に切り替えることが可能な流路切替弁であって、
前記流入路、前記第1流出路及び前記第2流出路が内部に設けられた弁箱と、
円形の断面を有し、外周にシール部材が設けられた弁体と、
前記第2流出路の中心軸に沿って移動することが可能な可動部材と、
前記第2流出路の中心軸に沿って延び、一端が前記弁体に結合され、他端が前記可動部材に結合されたシャフトと、
前記第2流出路の中心軸に沿った付勢力を生じさせ、前記可動部材を外部に露出させるスプリングと、を備え、
前記弁体が、前記スプリングの付勢力によって前記第2流出路を閉鎖し、及び前記スプリングの付勢力に対抗する力によって前記第1流出路を閉鎖する
ことを特徴とする流路切替弁。
【請求項2】
前記スプリングが前記シャフトの外側に装着され、
前記可動部材と前記弁体との間に、前記スプリングを圧縮された状態で保持するためのストッパをさらに備えた請求項1に記載の流路切替弁。
【請求項3】
前記第2流出路内に挿入される略円筒状の挿入管をさらに備え、
前記弁体の前記シール部材が前記挿入管の内周面に接触することによって、前記第2流出路が閉鎖される請求項1又は2に記載の流路切替弁。
【請求項4】
前記弁箱の内部に、前記流入路と前記第1流出路とを連絡させる円形の連絡口が設けられ、
前記弁体の前記シール部材が前記連絡口の内周面に接触することによって、前記第1流出路が閉鎖される請求項1~3のいずれか1項に記載の流路切替弁。
【請求項5】
前記第2流出路に連絡する略円筒状の差し金具と、前記差し金具の外側に装着された押し輪とをさらに備え、
前記押し輪の一端外周には、前記押し輪を前記差し金
具の外周面に沿って移動させるためのフランジが設けられ、
前記差し金具の先端外周には、直径方向に均等に突出し、且つ前記押し輪の移動を制限することが可能な段部が形成された請求項1~4のいずれか1項に記載の流路切替弁。
【請求項6】
前記差し金具に装着される安全カバーをさらに備え、
前記安全カバーは、前記差し金具の前記段部の直径と略等しい内径を有する略円筒状の側壁と、前記側壁の上部を塞ぐ天壁とで構成され、
前記側壁には、中心軸と平行に延びるスリットと、前記スリットの上端に連続する通気口とが形成され、
前記側壁の内周面には、前記段部の端面に係合することが可能な凸部が形成され、
前記安全カバーは、前記差し金具から突出した前記可動部材に接触することなく、前記差し金具に装着される請求項5に記載の流路切替弁。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の流路切替弁を備えたことを特徴とする消火栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消防設備に汎用することが可能な流路切替弁、及びこの流路切替弁を備えた消火栓に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の自衛消防設備として、消火栓の設置が消防法などにより義務付けられる。消火栓は、ポンプから供給された水を放出するための各種弁、消火用ホース及び消火用ノズルを備える。また、消火栓は、定期的な点検が義務付けられる。従来の消火栓には、点検のための流路切替弁及び専用の点検装置を備えたものがある。
【0003】
例えば、特許第3273320号公報の
図1には、流入口43から流入した水の流れを第1流出口41又は第2流出口42のいずれか一方に切り替えることが可能な流路切替弁4が開示されている。この流路切替弁4は、スプリング50に付勢される弁体49を備える。通常時において、弁体49は、スプリング50に付勢され、第2流出口42に連絡する流路を閉鎖し、第1流出口41に連絡する流路を開放する。この場合、流入口43から流路切替弁4内に流入した水は、第1流出口41から消火用ホースへ供給される。一方、流路切替弁4を点検する際には、第2流出口42に流路接続挿入部71が挿入される。流路接続挿入部71は、スプリング50の付勢力に対抗して弁体49を移動させ、第1流出口41に連絡する流路を閉鎖し、第2流出口42に連絡する流路を開放する。この場合、流入口43から流路切替弁4内に流入した水は、第2流出口42から流路接続挿入部71を通って点検装置7へ供給される。第2流出口42から流路接続挿入部71を抜去すると、弁体49は、スプリング50に付勢力によって通常時の状態に復帰する。
【0004】
また例えば、特許第4863113号公報の
図1には、流入管11から流入した水の流れを点検用流出管20から通用流出管12に切り替えるときに、移動弁3が所定の弁座22に着座していないと、点検用接続装置4を取り外すことができない構成の流路切替弁Aが開示されている。具体的に、流路切替弁Aの移動弁3には、係合受け具31が設けられる。一方、点検用接続装置4には、係合爪442が設けられる。点検用接続装置4を点検用流出管20に接続すると、係合爪442が係合受け具31に係合する。この係合は、移動弁3が点検用流出管20を閉鎖させる弁座22に着座していないと解除されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3273320号公報
【文献】特許第4863113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
<メンテナンスの問題>
上述した従来の流路切替弁は、弁体の動作確認や内部清掃などのメンテナンスを容易に行うことができないという問題があった。すなわち、特許第3273320号公報の流路切替弁4は、点検装置7の流路接続挿入部71を第2流出口42に挿入しなければ、弁体49を動作させることができない。弁体49、スプリング50及びシャフト51の状態を目視で確認したり、清掃したりするためには、流路切替弁4を分解する必要がある。これと同様に、特許第4863113号公報の流路切替弁Aも、点検用接続装置4を点検用流出管20に接続しなければ、移動弁3を動作させることができない。移動弁3、スプリング16及びシャフト15の状態を目視で確認したり、清掃したりするためには、流路切替弁Aを分解する必要がある。
【0007】
<圧損の問題>
上述した従来の流路切替弁は、点検時以外の通常時における水の流れに圧損が生じてしまう問題があった。すなわち、特許第3273320号公報の流路切替弁4は、通常時において、流入口43から第1流出口41へ水が流れる構成となっている。一方、弁体49を動作させるためのスプリング50及びシャフト51は、流入口43と第1流出口41とを連絡する流路を垂直に横断する。このため、スプリング50及びシャフト51は、通常時の水の流れに曝され、圧損を生じさせる。これと同様に、特許第4863113号公報の流路切替弁Aも、通常時において、流入管11から通用流出管12へ水が流れる構成となっている。一方、移動弁3を動作させるためのスプリング16及びシャフト15は、通用流出管12を垂直に横断する。このため、スプリング16及びシャフト15は、通常時の水の流れに曝され、圧損を生じさせる。
【0008】
このように、従来の流路切替弁におけるスプリング及びシャフトの配置は、通常時における水の流れ、すなわち、実際に火災が発生した場合の消火用水の流れに圧損を生じさせる。また、ポンプから供給された水に含まれるごみや異物がスプリング及びシャフトに付着してしまい、火災発生時における弁体の正常な動作が損なわれる問題もある。
【0009】
<汎用性の問題>
上述した従来の流路切替弁は、弁体を動作させるための構成が専用設計されており、流路切替弁に対応して専用設計された点検装置しか使用することができないという問題があった。すなわち、特許第3273320号公報の流路切替弁4は、弁体49を第1弁座46まで移動させることが可能な長さの流路接続挿入部71を備えた、専用の点検装置7しか使用することができない。これと同様に、特許第4863113号公報の流路切替弁Aも、移動弁3の係合受け具31に係合することが可能な係合爪442を備えた、専用の点検用接続装置4しか使用することができない。
【0010】
このように、従来の流路切替弁は、いずれも専用の点検装置しか使用することができず、専用の点検装置がなければ、消火栓を点検することができない。さらに、従来の流路切替弁は、弁という汎用の機械要素であるにもかかわらず、消火栓の点検以外の用途に適用することができない。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、メンテナンス性に優れ、水の流れに圧損を生じさせず、消防設備に広く汎用することが可能な流路切替弁、及びこの流路切替弁を備えた消火栓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記目的を達成するために、本発明の流路切替弁は、一の流入路から流入した流体の流れを第1流出路又は第2流出路のいずれか一方に切り替えることが可能な流路切替弁であって、前記流入路、前記第1流出路及び前記第2流出路が内部に設けられた弁箱と、円形の断面を有し、外周にシール部材が設けられた弁体と、前記第2流出路の中心軸に沿って移動することが可能な可動部材と、前記第2流出路の中心軸に沿って延び、一端が前記弁体に結合され、他端が前記可動部材に結合されたシャフトと、前記第2流出路の中心軸に沿った付勢力を生じさせ、前記可動部材を外部に露出させるスプリングと、を備え、前記弁体が、前記スプリングの付勢力によって前記第2流出路を閉鎖し、及び前記スプリングの付勢力に対抗する力によって前記第1流出路を閉鎖する。
【0013】
(2)好ましくは、上記(1)の流路切替弁において、前記スプリングが前記シャフトの外側に装着され、前記可動部材と前記弁体との間に、前記スプリングを圧縮された状態で保持するためのストッパをさらに備える。
【0014】
(3)好ましくは、上記(1)又は(2)の流路切替弁において、前記第2流出路内に挿入される略円筒状の挿入管をさらに備え、前記弁体の前記シール部材が前記挿入管の内周面に接触することによって、前記第2流出路が閉鎖される。
【0015】
(4)好ましくは、上記(1)~(3)のいずれかの流路切替弁において、前記弁箱の内部に、前記流入路と前記第1流出路とを連絡させる円形の連絡口が設けられ、前記弁体の前記シール部材が前記連絡口の内周面に接触することによって、前記第1流出路が閉鎖される。
【0016】
(5)好ましくは、上記(1)~(4)のいずれかの流路切替弁において、前記第2流出路に連絡する略円筒状の差し金具と、前記差し金具の外側に装着された押し輪とをさらに備え、前記押し輪の一端外周には、前記押し輪を前記差し金具の外周面に沿って移動させるためのフランジが設けられ、前記差し金具の先端外周には、直径方向に均等に突出し、且つ前記押し輪の移動を制限することが可能な段部が形成される。
【0017】
(6)好ましくは、上記(5)の流路切替弁において、前記差し金具に装着される安全カバーをさらに備え、前記安全カバーは、前記差し金具の前記段部の直径と略等しい内径を有する略円筒状の側壁と、前記側壁の上部を塞ぐ天壁とで構成され、前記側壁には、中心軸と平行に延びるスリットと、前記スリットの上端に連続する通気口とが形成され、前記側壁の内周面には、前記段部の端面に係合することが可能な凸部が形成され、前記安全カバーは、前記差し金具から突出した前記可動部材に接触することなく、前記差し金具に装着される。
【0018】
(7)上記目的を達成するために、本発明の消火栓は、上記(1)~(6)のいずれかの流路切替弁を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、メンテナンス性に優れ、水の流れに圧損を生じさせず、消防設備に広く汎用することが可能な流路切替弁、及びこの流路切替弁を備えた消火栓を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る消火栓を示す正面図である。
図1(b)は、上記消火栓の内部の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る流路切替弁を示す断面図である。
【
図3】
図3は、上記流路切替弁の主な構成要素を示す分解斜視図である。
【
図4】
図4(a)は、上記流路切替弁の通常時に装着される安全カバーを示す断面図である。
図4(b)は、上記流路切替弁の通常時の状態を示す断面図である。
【
図5】
図5(a)は、上記流路切替弁の点検時に使用される点検装置の結合金具を示す断面図である。
図5(b)は、上記流路切替弁の点検時の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る流路切替弁及び消火栓について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
<消火栓の構成>
図1(a)において、本実施形態の消火栓1は、例えば、道路用トンネル内に設置されており、トンネル内で発生した火災に対する初期消火に用いられる。消火栓1は、消火栓扉10A、消火器扉10B及び保守用扉10Cを備える。消火栓扉10Aの内側には、
図1(b)に示す各種の弁15、16、2、消火用ホース17及び消火用ノズル18、点検装置4、開閉レバー15aなどが収納される。消火栓扉10Aは、ハンドル11aを操作して手動で開くことが可能である。消火栓扉10Aは、例えば、扉の下辺を中心にして上から下へ開く。消火栓扉10Aの裏面には、消火用ホース17に接続された状態の消火用ノズル18が着脱自在に保持される。また、開閉レバー15aは、消火栓扉10Aの裏面に設置されている。消火栓扉10Aの内側の各種の弁15、16、2については、後述する。
【0023】
消火器扉10Bの内側には、図示しない消火器が収納される。消火器扉10Bは、ハンドル11bを操作して手動で開くことが可能である。消火器扉10Bは、例えば、扉の左辺を中心して右から左へ開く。消火器扉10Bと保守用扉10Cとの間には、赤色表示灯12及び通報ボタン13が設けられている。赤色表示灯12は、常時点灯しており、遠方からでも消火栓1の設置場所を特定することが可能となっている。通報ボタン13を押すと発信信号が送信されるとともに、火災警報が出力される。発信信号は、図示しない監視室の受信機に受信される。
【0024】
ここで、
図1(b)に示される各種の弁15~17、2について、図示しないポンプから供給される水の流れに沿って説明する。消火栓1の右側面には、消火栓接続口14が配置されている。ポンプから供給される水は、消火栓接続口14に接続された図示しない配管を介して、消火栓1に供給される。
【0025】
消火栓1内において、消火栓接続口14には、消火栓弁15、自動調圧弁16及び流路切替弁2が、この順番で接続される。消火栓弁15は、開閉レバー15aを操作することにより、開閉動作する。開閉レバー15aを閉鎖位置から開放位置に操作すると、消火栓弁15が解放状態になるとともに、ポンプが起動して水の供給を開始する。これにより、配管内の圧力が上昇する。自動調圧弁16は、一次側配管内の圧力が指定の範囲内で変動したときに、自動的に二次側配管内の圧力を指定の範囲内に調整する。水は、自動調圧弁16から流路切替弁2を介して、消火用ホース17に供給され、消火用ノズル18から放出される。
【0026】
<流路切替弁の構成>
次に、本実施形態の流路切替弁2の構成について、
図2及び
図3を参照しつつ説明する。流路切替弁2は、消火栓1を点検するために設けられている。
【0027】
図2に示されるように、流路切替弁2は、主として、弁箱20、挿入管30、差し金具40、押し輪50、可動部材60、シャフト70、スプリング80、ストッパ90及び弁体100によって構成される。
【0028】
弁箱20の内部には、流入路21、第1流出路22及び第2流出路23が設けられている。流入路21と第1流出路22との間には、円形の連絡口24が設けられている。流入路21は、
図1(b)に示される自動調圧弁16に接続される。第1流出路22は、図示しないホース継手に接続される。このホース継手には、
図1(b)に示される消火用ホース17が接続される。流入路21から弁箱20内に流入した水は、弁体100が移動することによって、第1流出路22又は第2流出路23のいずれか一方に流れる。
【0029】
弁箱20の第2流路23は、10°~30°の傾きを有することが好ましい。本実施形態の第2流出路23は、垂直に対して約20°の傾きを有しており、連絡口24もまた、垂直に対して約20°の傾きを有している。第2流出路23と連絡口24とは、互いに中心軸を共有する。
【0030】
弁箱20の第2流出路23には、上述した挿入管30、差し金具40、押し輪50、可動部材60、シャフト70、スプリング80、ストッパ90及び弁体100が組み付けられている。
【0031】
挿入管30は、小径の流入口31と、大径の流出口32とを有する略円筒状の管である。挿入管30の流入口31側は、弁箱20の第2流出路23内に挿入される。挿入管30の流入口31の内径は、弁箱20の連絡口24の開口径に等しい。挿入管30の流出口32内には、ストッパ90が収納され、且つ差し金具40の流入口41が挿入される。挿入管30と第2流出路23と間は、Oリング33によってシールされる。一方、挿入管30と差し金具40との間は、Oリング34によってシールされる。
【0032】
差し金具40は、「マチノ式」と呼ばれる差込式結合金具の差し口を構成する。差し金具の外側には、押し輪50が装着される。押し輪50の下端外周には、押し輪50を差し金40の外周面に沿って移動させるためのフランジ51が設けられている。差し金具40の流出口42の外周には、直径方向に均等に突出し、且つ押し輪50の移動を制限することが可能な段部43が形成されている。
【0033】
ストッパ90は、円形の板部材からなり、挿入管30の流出口32と、差し金具40の流入口41との間に挟持される。ストッパ90の中心には、円形の挿通孔91が形成されている。挿通孔91は、シャフト70の外径と略等しい開口径を有し、シャフト70が移動可能に挿通される。ストッパ90の挿通孔91に挿通されたシャフト70は、弁箱20の第2流出路23の中心軸と一致する。また、ストッパ90には、3つの略扇形の通水孔92が均等に形成されている。各通水孔92は、挿通孔91を中心にして放射状に配置されている。弁箱20の流入路21から挿入管30内に流入した水は、各通水孔92を通過して、差し金具40の側に流出する。なお、ストッパ90の構成は、水の通過を可能とし、且つスプリング80の移動を止めることができるものであれば、特に限定されない。例えば、ストッパ90は、挿通孔91を中心にして、複数の円形の通水孔92が放射状に形成された構成としてもよい。
【0034】
可動部材60は、環状の本体61、3つの支持杆62、雌ねじ部63及び3つのガイド片64を一体に形成した構成となっている。環状の本体61は、押し子として機能する。各支持杆62は、環状の本体61に120°の角度で放射に配置されており、環状の本体61の中心で雌ねじ部63を支持する。各支持杆62は、水を通過させるための3つの開口部65を形成する。各ガイド片64は、環状の本体61の裏面において、3つの支持杆62のそれぞれと対応する位置に均等の間隔をおいて配置されている。各ガイド片64の外周面は、差し金具40の内周面と同じ曲率半径の曲面となっている。
【0035】
弁体100は、略円盤状の部材であり、ピストンとして機能する。弁体100の直径は、挿入管30の流入口31の内径、及び弁箱20の連絡口24の開口径よりも若干小さい。これにより、弁体100は、挿入管30の流入口31、及び弁箱20の連絡口24に出入りすることが可能となっている。弁体100の中心には、雌ねじ部101が設けられている。弁体100の環状の上面には、周縁に沿って3つのガイド片102が一体に形成されている。各ガイド片102は、互いに均等の間隔をおいて配置されている。各ガイド片102の外周面は、挿入管30の流入口31の内周面と同じ曲率半径の曲面となっている。弁体100の外周面には、シール部材としてのOリング103が装着される。
【0036】
ストッパ90の挿通孔91に挿通されたシャフト70に、可動部材60、スプリング80及び弁体100が組み付けられることによって、弁体100を動作させるための構成が形成される。
【0037】
すなわち、シャフト70のストッパ90よりも上の部分の外側には、スプリング80が装着される。このスプリング80が介在した状態で、可動部材60の雌ねじ部63が、シャフト70の一端に設けられた第1雄ねじ部71に螺合される。スプリング80は、可動部材60とストッパ90との間において、圧縮された状態で保持される。これにより、スプリング80は、常時、可動部材60を押し上げる方向の付勢力を生じさせる。スプリング80の付勢力を受けた可動部材60は、その半分以上の部分が差し金具40の流出口42から外部に露出した状態になる。
【0038】
一方、弁体100の雌ねじ部101は、シャフト70の他端に設けられた第2雄ねじ部72に螺合される。弁体100は、シャフト70を介して、常時、スプリング80の付勢力を受け、挿入管30の流入口31の中に入った状態になる。このとき、弁体100のOリング103が、挿入管30の流入口31の内周面に密接する。これにより、挿入管30の流入口31が、弁体100によって閉鎖される。つまり、流路切替弁2の第2流出路23は、常時、弁体100によって閉鎖される。
【0039】
そして、スプリング80の付勢力に対抗する力によって、可動部材60を差し金具40の流出口42の中へ押し込むと、シャフト70とともに弁体100が下方へ移動する。これにより、弁体100は、挿入管30の流入口31の中から出て、弁箱20の連絡口24の中に入った状態になる。このとき、弁体100のOリング103が、弁箱20の連絡口24の内周面に密接する。これにより、弁箱の連絡口24が、弁体100によって閉鎖される。つまり、可動部材60を差し金具40の流出口42の中へ押し込むと、流路切替弁2の第2流出路23が開放されるとともに、第1流出路22が閉鎖される。このようにして、流路切替弁2の流出路が、通常時の第1流出路22から点検時の第2流出路23に切り替えられる。
【0040】
<流路切替弁の通常時の状態>
図1(b)に示される消火栓1は、点検時以外の通常時において、いつでも消火用ノズル18から水を放出することが可能な状態になっている。流路切替弁2の通常時の状態は、
図4(b)に示される。通常時においては、スプリング80の付勢力を受けた可動部材60が、差し金具40の流出口42から外部に露出した状態になる。弁体100は、挿入管30の流入口31を閉鎖し、且つ弁箱20の連絡口24を開放する。この結果、弁箱20の第2流出路23が閉鎖され、且つ流入路21と第1流出路22とが、連絡口24を通じて連絡した状態になる。したがって、ポンプから消火栓1に供給された水は、弁箱20の流入路21から第1流出路22へ流れ、消防用ホース18に供給される(
図4(b)中の2つの灰色矢印を参照)。
【0041】
ここで、通常時の流路切替弁2には、
図4(a)に示される安全カバー3が用いられる。安全カバー3は、差し金具40に装着され、差し金具40を全体的に覆う。安全カバー3は、合成樹脂の成形体であって、差し金具40の段部43の直径と略等しい内径を有する略円筒状の側壁と、側壁の上部を塞ぐ天壁とで構成される。安全カバー3の側壁には、中心軸と平行に延びるスリット301と、スリット301の上端に連続する通気口302とが形成される。また、安全カバー3の側壁の内周面には、差し金具40の段部43の端面に係合することが可能な凸部303が形成される。
【0042】
図示しないが、スリット301及び通気口302は、安全カバー3の側壁の対向する位置に2つ形成される。一対のスリット301は、安全カバー3を差し金具40に装着するときに、安全カバー3の側壁を広げやすくする。一対の通気口302は、安全カバー3の内外に空気を流通させる役割を果たす。
【0043】
図4(b)に示されるように、安全カバー3は、差し金具40の流出口42から外部に露出する可動部材60に接触することなく、差し金具40の外側に装着される。このような安全カバー3により、流出口42から差し金具40内への塵埃の侵入が防止される。また、安全カバー3によって、通常時における可動部材60の誤動作が防止される。すなわち、可動部材60を安全カバー3で覆うことにより、可動部材60が誤って押し込まれることがなくなる。この結果、通常時において、第1流出路22から第2流出路23への意図しない切り替えが起こらなくなる。
【0044】
<流路切替弁の点検時の状態>
図1(b)に示される消火栓1は、定期的な点検が義務付けられる。ところが、実際の消火に用いられる消火用ホース17は、数十メートルの長さがある。このため、消火栓1の点検に消火用ホース17を用いると、消火用ホース17を再び元の状態に戻し、消火栓1内に収納するために多大な手間と時間を要する。そこで、消火栓1の点検には、
図5(a)に示されるような点検装置4が用いられる。
【0045】
図5(a)において、本実施形態の点検装置4は、結合金具(401~406)、点検用ホース500及び図示しない点検用ノズルを備える。点検用ホース500の長さは、数メートル程度と短く、水抜きや巻取りを容易に行うことができる。
【0046】
点検装置4の結合金具(401~406)は、流路切替弁2の差し金具40に対応しており、上述した「マチノ式」の差込式結合金具の受け口を構成する。この結合金具は、受け金具401、締め輪402、複数の爪403、爪座404、差し込み口405及びゴムバンド406を備える。
【0047】
受け金具401は、
図2に示す差し金具40の段部43の直径と略等しい内径の先端部を有する。締め輪402は、受け金具401の先端部の外側に装着され、差し金具40の段部43の直径と略等しい内径の先端部を有する。各爪403は、受け金具401の先端部と締め輪402の先端部との間に設けられた爪座404の上に載置される。各爪403は、受け金具401の先端部の直径方向に移動することが可能となっている。差し込み口405は、受け金具401の後方に一体的に設けられており、点検用ホース500に差し込まれる。ゴムバンド406は、締め輪402の外周に装着される。
【0048】
図5(b)に示されるように、消火栓1を点検する場合は、上述した点検装置4の結合金具(401~406)を、流路切替弁2の差し金具40に差込式結合させる。これにより、流路切替弁2の流出路が、第1流出路22から第2流出路23へ切り替えられる。
【0049】
すなわち、点検装置4の結合金具(401~406)を、流路切替弁2の差し金具40に差込式結合させると、受け金具401の内面によって、可動部材60が差し金具40の流出口42の中へ押し込まれ、シャフト70とともに弁体100が下方へ移動する。これにより、流路切替弁2の第2流出路23が開放されるとともに、第1流出路22が閉鎖される。このようにして、流路切替弁2の流出路が、通常時の第1流出路22から点検時の第2流出路23に切り替えられる。したがって、ポンプから消火栓1に供給された水は、弁箱20の流入路21から第2流出路23へ流れ、点検用ホース500に供給される(
図5(b)中の2つの灰色矢印を参照)。
【0050】
上述した流路切替弁2の流出路の切り替え動作が完了したと同時に、結合金具(401~406)の各爪403が、差し金具40の段部43の端面に係合する。これにより、結合金具(401~406)と差し金具40との差込式結合が強固に維持される。
【0051】
結合金具(401~406)と差し金具40との差込式結合は、押し輪50を差し金具40の外周面に沿って移動させることにより解除される。すなわち、押し輪50を上方に移動させると、押し輪50の先端が各爪403の傾斜面に当接する。これにより、各爪403が、差し金具40の先端部の直径方向に後退し、各爪403と段部43との係合が解除される。結合金具(401~406)を差し金具40から取り外すことにより、可動部材60が、スプリング80の付勢力によって押し上げられる。これにより、流路切替弁2の流出路が、点検時の第2流出路23から通常時の第1流出路22に切り替えられる。
【0052】
<作用効果>
本実施形態の流路切替弁2は、差し金具40の流出口42から外部に露出した可動部材60を手動で動作させることが可能である。これにより、流路切替弁2を分解することなく、弁体100の切り替え動作を確認することができ、及びシャフト70、スプリング80及びストッパ90の汚損状態を目視で確認することもできる。また、可動部材60を介して、差し金具40の内部にアクセスすることが可能であり、流路切替弁2を分解することなく、内部清掃を行うこともできる。
【0053】
本実施形態の流路切替弁2は、弁体100を移動させるための構成要素であるシャフト70、スプリング80及びストッパ90が、いずれも弁箱20の流入路21と第1流出路22とを連絡する流路内に配置されていない。これにより、シャフト70、スプリング80及びストッパ90のいずれもが、通常時の水の流れに曝されず、圧損を生じさせない。
【0054】
本実施形態の流路切替弁2の差し金具40は、消防用結合金具として一般的な「マチノ式」の差込式結合金具の受け口に対応している。これにより、点検装置の結合金具として汎用品をそのまま用いることが可能である。さらに、流路切替弁2の差し金具40は、「マチノ式」の差込式結合金具の受け口を備えた、点検装置以外の消防機器と差込式結合することができる。したがって、流路切替弁2の用途は、消火栓1の点検に限定されず、種々の消防設備に汎用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 消火栓
10A 消火栓扉
10B 消火器扉
10C 保守用扉
11a、11b ハンドル
12 赤色表示灯
13 通報ボタン
14 消火栓接続口
15 消火栓弁
15a 開閉レバー
16 自動調圧弁
17 消火用ホース
18 消火用ノズル
2 流路切替弁
20 弁箱
21 流入路
22 第1流出路
23 第2流出路
24 連絡口
30 挿入管
31 流入口
32 流出口
33、34 Oリング
40 差し金具
41 流入口
42 流出口
43 段部
50 押し輪
51 フランジ
60 可動部材
61 環状の本体
62 支持杆
63 雌ねじ部
64 ガイド片
65 開口部
70 シャフト
71 第1雄ねじ部
72 第2雄ねじ部
80 スプリング
90 ストッパ
91 挿通孔
92 通水孔
100 弁体
101 雌ねじ部
102 ガイド片
103 Oリング
3 安全カバー
301 スリット
302 通気孔
303 凸部
4 点検装置
401 受け金具
402 締め輪
403 爪
404 爪座
405 差し込み口
500 点検用ホース