(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能の向上方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20231114BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20231114BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20231114BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/14 A
C04B18/08 Z
C04B18/14 Z
E04B1/94 U
(21)【出願番号】P 2019201252
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】519396061
【氏名又は名称】藤原 浩巳
(73)【特許権者】
【識別番号】592037907
【氏名又は名称】株式会社デイ・シイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 浩巳
(72)【発明者】
【氏名】藤原 了
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127375(JP,A)
【文献】特開2019-026490(JP,A)
【文献】特開2012-214343(JP,A)
【文献】特開2008-189491(JP,A)
【文献】特開2009-269786(JP,A)
【文献】特開平01-280506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
累積体積通過率50%の粒径が0.5~5.0μmである高炉スラグ微粉末を結合材
に対して5~30%添加し、かつ水結合材比が17.5~25%となるようにすることを特徴とする高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能の向上方法。
【請求項2】
請求項1
記載の高強度コンクリートの耐火性能の向上方法において、前記結合材はセメント、またはセメントを含むセメント系結合材であることを特徴とする高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能を向上させる方法に関するものであり、セメントなどの結合材の一部を高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ微粉末に置き換えることにより耐火性能を向上させるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉スラグやフライアッシュ、シリカヒュームを混合した混合セメントが使用されており、それらを用いて、高強度モルタルやコンクリートが製造されている。セメント組成物に配合するためのフライアッシュおよびフライアッシュを用いたモルタルまたはコンクリートに関する従来技術としては、例えば以下の特許文献1~6記載の発明がある。
【0003】
特許文献1には、ポルトランドセメントと、BET比表面積が2m2/g以上5m2/g未満であるフライアッシュと、水と、セメント分散剤とを含んでなる超高強度モルタル組成物であって、ポルトランドセメントとフライアッシュとの質量比が90:10~70:30であり、水/結合材比が0.1~0.2であり、セメント分散剤がポリカルボン酸系分散剤を含有していることを特徴とする超高強度モルタル組成物、およびこれに粗骨材が配合された超高強度コンクリート組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、粉砕して微粒子化したフライアッシュであって、質量平均粒径(μm)が0.1乃至0.73μmの範囲にあり、かつ粒径3.73μm以下における質量累積率(%)が95%以上となり、また、ブレーン比表面積が2.5m2/g(25000cm2/g)以上であることを特徴とする多機能性フライアッシュが開示されており、従来のフライアッシュを用いたセメントおよびコンクリート硬化体の早期強度の低下といった問題を克服し、その硬化体の28日強度並びに長期強度も増進させ、しかもセメント硬化体以外のものにも多用途化できる旨が記載されている。
【0005】
特許文献3には、結合材にブレーン比表面積が2500~10000cm2/gのフライアッシュを含む混合物を用いた水結合材比が10~20%の高強度ポーラスコンクリートの開示がある。
【0006】
特許文献4には、セメント、シリカフューム、及び、シリカフュームに比べて大きな粒度を有するフィラー(分級フライアッシュ:ブレーン比表面積は、好ましくは4000~50000cm2/g、より好ましくは6000~30000cm2/g、特に好ましくは7000~20000cm2/gである。)も含む結合材を用いた水結合材比0.18以下であり、圧縮強度が80N/mm2以上のコンクリートからなる耐摩耗版の製造方法の開示がある。
【0007】
特許文献5には、特許請求項に粒径20μm以下のフライアッシュを2~25重量%配合したことを特徴とする高層鉄筋コンクリート構造物や鋼管充填コンクリート(CFT)構造物等の施工に用いられる設計基準強度80N/mm2程度以下の高強度・高流動コンクリートに関し、シリカヒュームによることなく低水セメント比で高い流動性及び低い粘性を示し、熱履歴を受けた場合でも高い強度発現性を示す高強度・高流動コンクリート用セメントを提供する技術の開示がある。
【0008】
特許文献6には、粉体成分としてポルトランドセメントおよびブレーン比表面積7000~30000cm2/gの石灰石粉、フライアッシュ及び高炉水砕スラグよりなる群から選択された1種以上の無機質高微粉砕粉末を含み、該無機質高微粉砕粉末が該粉体成分に5~30重量%含まれていることを特徴とする高強度セルフレベリング性セメント組成物が記載されている。
【0009】
また、高炉スラグやシリカヒュームを用いたコンクリートにおいて耐火性を上げる技術も知られており、例えば特許文献7~9記載の発明がある。
【0010】
特許文献7には、セメント、シリカヒューム、細骨材、粗骨材及び高性能減水剤を含み且つ膨張材を含まない、水/結合材比が10~15質量%のコンクリートの圧縮強度の90%以上の圧縮強度を同一材齢で有する、結合材の一部を膨張材で置換含有させた又は膨張材を添加配合したコンクリートを60~90℃で5日間以上加熱促進養生して製造するにあたり、結合材の0.6~2.8質量%を膨張材で置換含有させるか又は結合材の0.6~2.8質量%量の膨張材を添加配合し、コンクリート打設後24時間以上経過後に、加熱促進養生を行うことを特徴とする、高強度コンクリートの製造方法が記載されており、耐火爆裂抑制材として、ポリプロピレン繊維等の耐火爆裂抑制材を含む実施形態が記載されている。
【0011】
特許文献8には、コンクリート構造体に用いられる耐火性コンクリートであって、所定の温度で気化する性質を有するとともに、紐状で、長さと太さの比であるアスペクト比が410以上700以下の有機繊維と、結合材のうち50重量%以上60重量%以下の割合で含まれる高炉スラグと、靭性を向上させるための鋼繊維とを含むことを特徴とする耐火性コンクリートが記載されている。
【0012】
特許文献9には、珪酸リチウムを含有することを特徴とする耐火耐熱コンクリートが記載されており、無機添加物として、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、天然岩石の微粉末、人口セラミックの微粉末及びフライアッシュ微粉末からなる群から選ばれた1種又は2種以上を配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2008-189491号公報
【文献】特許第4034945号公報
【文献】特開2018-002510号公報
【文献】特開2017-024933号公報
【文献】特開平11-278908号公報
【文献】特許第3528301号公報
【文献】特開2015-048288号公報
【文献】特開2010-120839号公報
【文献】特開2005-187275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
高強度コンクリートの耐火性に関しては、例えば上述した特許文献7~9などにもあるように、従来、ポリプロピレン繊維などの繊維を加えることが多い。しかしながら、ポリプロピレン繊維を加えることにより、一般にコンクリートのフロー値が低下する傾向がある。
【0015】
本発明は、このような背景のもとに開発されたものであり、高強度モルタルまたは高強度コンクリートの配合において、高炉スラグ微粉末および/またはフライアッシュ微粉末を添加することにより、低水結合材比で高い流動性および低い粘性を示し、かつ耐火性能を持つ高強度モルタルまたは高強度コンクリートを得られる方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能の向上方法は、累積体積通過率50%の粒径が0.5~5.0μmである高炉スラグ微粉末および/またはフライアッシュ微粉末を結合材に添加することを特徴とするものである。
【0017】
高炉スラグ微粉末とフライアッシュ微粉末は、結合材に何れか一方を添加すればよいが、その場合に限らず高炉スラグ微粉末とフライアッシュ微粉末の両者を併用して添加してもよい。
【0018】
水結合材比W/P15~30%(P=N+AD)の高強度モルタルまたは高強度コンクリートに累積体積通過率50%の粒径が0.5~5.0μmである高炉スラグ微粉末および/またはフライアッシュ微粉末を5~30%添加することにより高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能を向上させることができる。
【0019】
高強度モルタルまたは高強度コンクリートの配合において、流動性などのフレッシュ性状の観点からは、水結合材比は好ましくは17.5~25%、より好ましくは20~25%である。
【0020】
高炉スラグ微粉末および/またはフライアッシュ微粉末の置換率(AD/P)は、5~30%が好ましい。置換率が大きい範囲ではフレッシュ性状における流動性が良好であるが、耐火性能の面では、より好ましくは5~20%、さらに好ましくは5~15%である。
【0021】
高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ微粉末の累積体積通過率50%粒径は好ましくは0.5~3.5μm、より好ましくは0.9~3.2μmである。累積体積通過率50%粒径が大きくなるとモルタル化時間が大きくなってしまう傾向があり、また累積体積通過率50%粒径が小さくなると、混和材料の置換率によっては耐火性能の向上の面で性能がやや低下する傾向がある。
【0022】
本発明の高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能の向上方法における結合材としては、各種ポルトランドセメント、混合セメントなどを用いることができ、またモルタルまたはコンクリートの目的に応じた性能を高めるためにセメントの一部を他の材料に置き換えた各種セメント系材料などにも適用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能の向上方法では、累積体積通過率50%の粒径が0.5~5.0μmである高炉スラグ微粉末および/またはフライアッシュ微粉末を結合材に添加することで、シリカフューム微粉末などが添加される場合に比べ、高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能が顕著に向上する。
【0024】
また、従来、高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能の向上に用いられることがあるポリプロピレン繊維との併用においてもフロー値の低下を抑えつつ、耐火性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能の向上方法を、その効果を確認するために行った試験に基づいて説明する。
【0026】
〔使用材料〕
試験に用いた使用材料を表1に示す。
【0027】
【0028】
〔試験方法〕
試験方法としては、モルタルを作製して評価した。モルタルの配合は、高強度コンクリートの粗骨材を抜いたものとした。材料は表1に示すものを用いた。練混ぜの器具としては一般的に用いられているホバートミキサ(容量3L、0.125kwh)を使用した。ミキサに材料を投入した後、フロー試験が可能となるような混合状態と目視できた時間をモルタル化時間として測定した。モルタル化時間を測定した後に90秒間撹拌した。フロー試験は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠した方法で行なった。フロー値が260±10mmとなるようにSP添加量を調整した。練り混ぜたモルタルを4×4×16cmの型枠に成型後、24時間後に脱型してから材齢7日、28日まで封函養生した試料(4×4×6cmに切断)を用い、耐火試験を実施した。
【0029】
耐火試験は、電気炉に試料を投入して400℃まで40℃/分、400℃~1100℃まで10℃/分で電気炉の温度を上昇させた。1100℃で70分保持後、自然冷却させた。電気炉での加熱前後の試料の質量変化率から耐火性能を評価した。質量変化率は、(加熱前の質量-加熱後の質量)÷加熱前の質量×100で算出した。加熱中の試料の爆裂の評価は、爆裂なし、爆裂あり(試料破片回収可能)、爆裂あり(試料回収不可能)の3種類とした。なお、爆裂あり(試料回収不可能)のときの質量変化率は100%とした。
【0030】
〔試験結果〕
(1) フレッシュ性状
フレッシュ性状の試験結果を表2に示した。混和材の置換率を変化させた水準1~25において、混和材の置換率AD/P(P=N+AD)が5%のときは混和材の種類によらずモルタル化時間が大きくなった。混和材が15%のときは、F3.2およびBF1.8以外では90秒以下とモルタル化時間が短くなった。混和材が20%以上では、F3.2以外でモルタル化時間が90秒以下となり、流動性が良好なモルタルが得られた。
【0031】
水結合材比を変化させた水準26~37において、フライアッシュの粒度が大きく水結合材比が小さい水準36、37は、モルタル化時間が大きく、練り混ぜが困難であった。
【0032】
ポリプロピレン繊維を添加した水準38~43において、シリカフュームにポリプロピレン繊維を0.155、0.135Vol%(コンクリートで0.1、0.2Vol%相当)の添加で、フロー値が低下した。しかし、フライアッシュ微粉末であるF0.9にポリプロピレン繊維を0.155、0.135Vol%(コンクリートで0.1、0.2Vol%相当)の添加では、フロー値の低下は認められなかった。
【0033】
【0034】
(2) 耐火性能
耐火性能の試験結果を表3に示した。混和材の置換率を変化させた水準1~25において、シリカフュームを混和材に使用した場合は、5%添加の材齢28日以外はすべて爆裂した。フライアッシュ微粉末を添加した場合は、置換率15%まではF0.9の材齢7日の一部を除き爆裂をしなかった。ただし、置換率25%以上ではいずれも爆裂をした。高炉スラグ微粉末を用いた水準はいずれも爆裂をしなかった。
【0035】
水結合材比を変化させた水準26~37において、シリカフュームを混和材に使用した場合は、いずれも爆裂をした。フライアッシュ微粉末を用いた場合は、F0.9の一部で爆裂した。ほかの粒度のフライアッシュ微粉末ではいずれも爆裂しなかった。
【0036】
ポリプロピレン繊維を添加した水準38~43において、シリカフュームを混和材として使用した場合は、ポリプロピレン繊維を添加した水準も含めて爆裂をした。フライアッシュ微粉末F0.9にポリプロピレン繊維を添加した水準では爆裂をしなかった。
【0037】
【0038】
以上のモルタルのフレッシュ性状に関する試験結果および耐火性能の評価においては、シリカフューム微粉末に比べ、フライアッシュ微粉末および高炉スラグ微粉末が、高強度モルタルまたは高強度コンクリートの耐火性能に関して有効であること、高強度コンクリートの耐火性能の向上に用いられることがあるポリプロピレン繊維との併用においてもフロー値の低下を抑えつつ、耐火性能が向上することが確認された。