(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】移動型空気清浄機
(51)【国際特許分類】
F24F 8/80 20210101AFI20231114BHJP
F24F 8/108 20210101ALI20231114BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20231114BHJP
B01D 46/24 20060101ALI20231114BHJP
B01D 46/46 20060101ALI20231114BHJP
A47L 9/28 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F24F8/80 220
F24F8/108
B01D46/00 F
B01D46/24 Z
B01D46/46
A47L9/28 E
(21)【出願番号】P 2019201317
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】京谷 浩平
(72)【発明者】
【氏名】網野 梓
(72)【発明者】
【氏名】大平 昭義
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 佐知
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第205957336(CN,U)
【文献】国際公開第2018/074052(WO,A1)
【文献】特開2005-331128(JP,A)
【文献】特開2018-047357(JP,A)
【文献】実開平01-077823(JP,U)
【文献】特開2016-125664(JP,A)
【文献】特開2004-049593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/003
B01D 46/00
B01D 46/24
B01D 46/46
A47L 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に設けられ筒状に形成されるとともに外周面から内周面に向かって通過する空気を濾過するフィルタと、
前記筐体内に設けられ前記フィルタに空気を通過させるとともに、その上端面が前記フィルタの上端面よりも高い位置に設置された羽根車と、
前記筐体内に設けられ前記羽根車を駆動する第1のモータと、
前記筐体の底部に設けられ、空気を吸い込む吸込口が形成された底面板と、
前記筐体に装着され前記底面板を設置面から離間させる複数の車輪と、
前記設置面に接触するように前記底面板から下方に突出するブラシと、を備え
、
前記フィルタは円筒状に形成され、前記フィルタの外周の半径は、前記吸込口外径よりも短い
ことを特徴とする移動型空気清浄機。
【請求項2】
筐体と、
前記筐体内に設けられ筒状に形成されるとともに外周面から内周面に向かって通過する空気を濾過するフィルタと、
前記筐体内に設けられ前記フィルタに空気を通過させるとともに、その上端面が前記フィルタの上端面よりも高い位置に設置された羽根車と、
前記筐体内に設けられ前記羽根車を駆動する第1のモータと、
前記筐体の底部に設けられ、空気を吸い込む吸込口が形成された底面板と、
前記筐体に装着され前記底面板を設置面から離間させる複数の車輪と、
前記設置面に接触するように前記底面板から下方に突出するブラシと、を備え、
前記ブラシの幅であるブラシ幅は、底面視における前記ブラシの中心点から、前記吸込口の領域のうち前記中心点から最遠点までの距離である吸込口外径の2倍よりも短い
ことを特徴
とする移動型空気清浄機。
【請求項3】
前記ブラシの幅であるブラシ幅は、底面視における前記ブラシの中心点から、前記吸込口の領域のうち前記中心点から最短点までの距離である吸込口内径の2倍よりも短い
ことを特徴とする請求項2に記載の移動型空気清浄機。
【請求項4】
複数の前記車輪を駆動する第2のモータをさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型空気清浄機。
【請求項5】
筐体と、
前記筐体内に設けられ筒状に形成されるとともに外周面から内周面に向かって通過する空気を濾過するフィルタと、
前記筐体内に設けられ前記フィルタに空気を通過させるとともに、その上端面が前記フィルタの上端面よりも高い位置に設置された羽根車と、
前記筐体内に設けられ前記羽根車を駆動する第1のモータと、
前記筐体の底部に設けられ、空気を吸い込む吸込口が形成された底面板と、
前記筐体に装着され前記底面板を設置面から離間させる複数の車輪と、
前記設置面に接触するように前記底面板から下方に突出するブラシと、を備え、
底面視における前記ブラシの中心点から前記車輪の最短位置までの距離である車輪距離は、前記吸込口外径よりも短い
ことを特徴
とする移動型空気清浄機。
【請求項6】
前記ブラシは、前記設置面に対して摺動しつつ回転する
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型空気清浄機。
【請求項7】
前記ブラシを回転させる第3のモータをさらに備える
ことを特徴とする請求項6に記載の移動型空気清浄機。
【請求項8】
前記ブラシの回転軸は、前記設置面に対して直交する方向である
ことを特徴とする請求項6に記載の移動型空気清浄機。
【請求項9】
筐体と、
前記筐体内に設けられ筒状に形成されるとともに外周面から内周面に向かって通過する空気を濾過するフィルタと、
前記筐体内に設けられ前記フィルタに空気を通過させるとともに、その上端面が前記フィルタの上端面よりも高い位置に設置された羽根車と、
前記筐体内に設けられ前記羽根車を駆動する第1のモータと、
前記筐体の底部に設けられ、空気を吸い込む吸込口が形成された底面板と、
前記筐体に装着され前記底面板を設置面から離間させる複数の車輪と、
前記設置面に接触するように前記底面板から下方に突出するブラシと、を備え、
前記ブラシは、前記設置面に対して摺動しつつ回転するものであり、
前記第1のモータは、前記羽根車とともに前記ブラシを回転させる
ことを特徴
とする移動型空気清浄機。
【請求項10】
筐体と、
前記筐体内に設けられ筒状に形成されるとともに外周面から内周面に向かって通過する空気を濾過するフィルタと、
前記筐体内に設けられ前記フィルタに空気を通過させるとともに、その上端面が前記フィルタの上端面よりも高い位置に設置された羽根車と、
前記筐体内に設けられ前記羽根車を駆動する第1のモータと、
前記筐体の底部に設けられ、空気を吸い込む吸込口が形成された底面板と、
前記筐体に装着され前記底面板を設置面から離間させる複数の車輪と、
前記設置面に接触するように前記底面板から下方に突出するブラシと、を備え、
前記ブラシは、前記設置面に対して摺動しつつ回転するものであり、
前記筐体の底面外周の長さを底面境界長Dmとし、前記吸込口と前記設置面との距離を離間距離Lとし、Dm×Lを底面境界面積Aとし、前記羽根車による送風量を風量Qとし、Q/(60×A)を速度Vaとし、
前記ブラシの幅であるブラシ幅をDbとし、前記ブラシの回転速度をブラシ回転速度Ndとし、Db×π×Nd/60を前記ブラシの先端速度Vbとしたとき、Va/Vbは0.1よりも大きい
ことを特徴
とする移動型空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動型空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
自律走行型空気清浄機の一例として、下記特許文献1の段落[0007]には、「…自走式空気清浄機においては、筐体の上面の中央部に吸気口が設けられ、側面、又は、上面の外縁部及び側面に排気口が設けられているので、自走式空気清浄機から排気される清浄な空気の流れには水平方向の成分が含まれる。その結果、部屋の中層空間、所謂生活空間における空気清浄(清浄な空気による置換)を速やかに行うことができる。また、第1フィルター部材及び第2フィルター部材を備えているので、一層確実に空気を清浄することができる。更には、モータによって、第1フィルター部材及び第2フィルター部材を回転させるが故に、静音性と高い集塵性とを両立させることができる。また、ファン、第1フィルター部材及び第2フィルター部材を容易に一体化することが可能であり、自走式空気清浄機の小型化を達成することができる。」と記載されている。
また、自走式掃除機の一例として、特許文献2の段落[0011]、[0012]には、「発明の効果」として「本発明の補助ブラシ用回転軸の支持構造は、回転軸の回転時において、回転軸の第1摺接面とすべり軸受の第2摺接面とが回転軸の軸心方向に圧接可能かつ回転方向に摺接可能に構成されているため、回転軸と筐体の底部との摺接が防止される。」、「その結果、本発明によれば、サイドブラシの回転軸及び回転軸及び筐体底部の摩耗とそれによるがたつきの発生を軽減できる補助ブラシ用回転軸の支持構造およびそれを備えた自走式掃除機を提供することができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/074052号
【文献】特開2018-47357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、居住空間内に存在する花粉やハウスダスト等の微粒子は、長時間浮遊し続けるものと比較的短時間で床面に堆積するものがある。そして、一度、床面に堆積した微粒子であっても、人の活動によって再度舞い上がり、人が吸引してしまう懸念がある。そのため、これら微粒子の清浄化を図る際は、空気中に浮遊するものと、床面に堆積したものと、の両方を捕集することが好ましいと考えられる。しかし、特許文献1に記載された自走式空気清浄機では、床面に堆積した微粒子を捕集する機能が低い。また、特許文献2に記載された自走式掃除機では、空気中に浮遊する微粒子を捕集する機能が低い。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、空気中に浮遊する微粒子および床面に堆積した微粒子の双方を適切に捕集できる移動型空気清浄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の移動型空気清浄機は、筐体と、前記筐体内に設けられ筒状に形成されるとともに外周面から内周面に向かって通過する空気を濾過するフィルタと、前記筐体内に設けられ前記フィルタに空気を通過させるとともに、その上端面が前記フィルタの上端面よりも高い位置に設置された羽根車と、前記筐体内に設けられ前記羽根車を駆動する第1のモータと、前記筐体の底部に設けられ、空気を吸い込む吸込口が形成された底面板と、前記筐体に装着され前記底面板を設置面から離間させる複数の車輪と、前記設置面に接触するように前記底面板から下方に突出するブラシと、を備え、前記フィルタは円筒状に形成され、前記フィルタの外周の半径は、前記吸込口外径よりも短いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、空気中に浮遊する微粒子および床面に堆積した微粒子の双方を適切に捕集できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】好適な第1実施形態による移動型空気清浄機の斜視図である。
【
図5】移動型空気清浄機における流れ場の数値シミュレーション結果を示す図である。
【
図6】移動型空気清浄機における他の流れ場の数値シミュレーション結果を示す図である。
【
図8】好適な第2実施形態による移動型空気清浄機の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではない。本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能であり、下記の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。そして、
図1等に示すように前後・上下・左右を定義する。
【0009】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
(全体構成)
図1は、好適な第1実施形態による移動型空気清浄機1の斜視図である。
移動型空気清浄機1は、扁平な略円柱状に形成された本体1Hと、本体1Hを走行させる走行機構1rと、を備えている。走行機構1rは、側方車輪9s1を含んでいる。本体1Hは、上面および側面を覆う外装カバー2(筐体)を備えており、外装カバー2の上面には複数の本体排出口2oが形成されている。
【0010】
さらに、本体1Hは、センサ部22と、制御部24と、蓄電池26と、を備えている。センサ部22は、本体1Hの前部に配置されている。センサ部22は、塵埃を検知する埃センサ、匂いを検知する匂いセンサ、障害物を検知する赤外線センサ、および/または障害物との距離を測定するTOF(Time of Flight)センサ等を備えるとよい。
【0011】
また、蓄電池26は、移動型空気清浄機1の各部の動力源であり、本体1Hの内部に配置されている。また、制御部24も、本体1Hの内部に配置されている。制御部24には、蓄電池26から電源電力が供給される。これにより、制御部24は、センサ部22からの情報に基づいて、移動型空気清浄機1の各部を制御する。すなわち、制御部24は、センサ部22からの情報に基づいて、移動型空気清浄機1に対して、「弱」、「標準」、「強」の3種類の運転モードのうち何れかを選択する。このように、複数の運転モードを有することにより、移動型空気清浄機1は、空気または床面の汚れ具合に適した運転モードを自動的に選択できる。但し、運転モードは、ユーザがマニュアル操作で指定してもよい。
【0012】
図2は、移動型空気清浄機1の平面図である。外装カバー2の上面は、略円板状に形成されている。そして、上述した本体排出口2oは、長円を円弧状に湾曲させた形状を有し、外装カバー2の上面外周に沿って、周回方向等分8カ所位置に形成されている。
【0013】
図3は、移動型空気清浄機1の底面図である。
図3に示すように、本体1Hの底面は、略円板状の底面カバー2t(底面板)に覆われている。外装カバー2の底面形状は、円形よりも左右方向に若干広がった形状を有している。外装カバー2の左右方向に若干広がった部分の内側には、左右一対の側方車輪9s1,9s2(車輪)と、左右一対の車輪用モータ9m1,9m2(第2のモータ)と、プーリ9p1,9p2と、が収納されている。これらは、走行機構1rに含まれる。車輪用モータ9m1,9m2の回転力は、動力伝達機構としてのベルト(図示せず)と、プーリ9p1,9p2と、を介して側方車輪9s1,9s2に伝達される。これにより、車輪用モータ9m1,9m2は、それぞれ側方車輪9s1,9s2を回転駆動する。
【0014】
ブラシ10bは、略長方形板状に形成され、底面カバー2tの中心点Oには、ブラシ10bの中心部が、回転自在に軸支されている。ブラシ10bが回転駆動されると、ブラシ10bは床面と摺動し、床面に堆積した微粒子を巻き上げる。ブラシ10bは、床清掃機構1zに含まれる。ブラシ10bの幅をブラシ直径Db(ブラシ幅)と呼ぶ。ブラシ10bは、矢印βの方向に、先端速度がVbになるように回転駆動される。ブラシ10bの回転範囲の若干前方において、前方車輪9kはキャスタ9cを介して底面カバー2tに装着されている。キャスタ9cは、底面カバー2tに回転可能に支持されている。ここで、側方車輪9s1,9s2は駆動輪になり、前方車輪9kは従動輪になる。また、前方車輪9kおよびキャスタ9cも、走行機構1rに含まれる。
【0015】
また、底面カバー2tの前部および後部には、長円を円弧状に湾曲させた形状を有する貫通孔である本体吸込口2i(吸込口)が、底面カバー2tの外周に沿って、合計4カ所の位置に形成されている。ここで、図示のように、本体吸込口2iの開口領域のうち、中心点Oから最短点Pmまでの距離を吸込口内径Rmと呼ぶ。また、本体吸込口2iの開口領域のうち、中心点Oから最遠点Pnまでの距離を吸込口外径Rnと呼ぶ。
【0016】
ブラシ直径Dbは、吸込口外径Rnの2倍よりも短くすることが好ましい。これにより、ブラシ10bが巻き上げた埃を本体吸込口2iから捕集しやすくなるため、室内に撒き散らされる埃の量を抑制できるためである。さらに、図示の例のように、ブラシ直径Dbは、吸込口内径Rmの2倍よりも短くすることが、一層好ましい。これにより、ブラシ10bが巻き上げた埃が、本体吸込口2iから一層捕集しやすくなるためである。また、側方車輪9s1,9s2が占める領域のうち、中心点Oから最短位置Pwまでの距離を車輪距離Rwと呼ぶ。車輪距離Rwも吸込口外径Rnより短くすることが好ましい。これにより、側方車輪9s1,9s2が巻き上げた埃を本体吸込口2iから捕集しやすくなるため、室内に撒き散らされる埃の量を抑制できるためである。
【0017】
図4は、
図2のIV-IV断面図である。
図4に示すように、移動型空気清浄機1は、本体1Hの下方から上方に風を送風する送風機構1wと、本体1Hを走行させる走行機構1rと、床面Y(設置面)を清掃する床清掃機構1zと、フィルタ3と、これらを内包する外装カバー2と、底面カバー2tと、を備えている。すなわち、本体1Hは、扁平な略円柱状の筐体である外装カバー2と、底面カバー2tと、で覆われている。
【0018】
図示のように、底面カバー2tは、床面Yから離間距離Lだけ上方に位置している。従って、本体吸込口2i(
図3参照)も、離間距離Lだけ床面から離れている。本体1Hの全周における床面Y付近の空気は、矢印α1,α7に沿って、本体吸込口2i(
図3参照)を介して、本体1Hの内部に流入する。流入した空気に含まれる塵埃等は、フィルタ3において除去される。そして、浄化された空気は、矢印α2に沿って、本体排出口2o(
図2参照)から外部に排出される。
【0019】
送風機構1wは、遠心羽根車6(羽根車)と、羽根車用モータ6m(第1のモータ)と、翼付ディフューザ7と、を備えている。羽根車用モータ6mは、遠心羽根車6と同軸配置され、遠心羽根車6を回転駆動する。遠心羽根車6は、複数の羽根6hを備え、これら羽根6hの上端面6h2は、略平面である。また、図示のように、側方車輪9s1は、底面カバー2tから下方に向かって突出し、床面Yに接触する。他方の側方車輪9s2(
図3参照)も側方車輪9s1に対して対称を成すように配置されている。
【0020】
図4に示すフィルタ3は、略円筒状に形成され、本体吸込口2i(
図3参照)よりも内側に配置されている。フィルタ3の構造については図示を省略するが、フィルタ3は、外周から内周に向かって、粒径の大きい塵埃を除去するためのプレフィルタと、粒径の小さい塵埃を除去するためのHEPAフィルタと、臭い成分を除去するための脱臭フィルタと、を備えている。
【0021】
図4において、吸込口外径Rnおよび吸込口内径Rmの意味は、
図3について述べた通りである。本実施形態においては、フィルタ3の外周面の半径R3は、吸込口外径Rnよりも短い。これにより、フィルタ3の外周面から内周面に向かう空気の流れを形成しやすくなる。さらに、
図4に示すように、半径R3を吸込口内径Rmよりも短くすると、フィルタ3の外周面から内周面に向かう空気の流れを一層形成しやすくなり、さらに好ましい。
【0022】
ブラシ用モータ10m(第3のモータ)は、鉛直な(より詳細には床面Yに直交する)回転軸Mを有し、ブラシ10bを回転駆動する。制御部24(
図1参照)は、センサ部22(
図1参照)からの各種センサ情報に基づいて、羽根車用モータ6m、車輪用モータ9m1,9m2(
図3参照)、ブラシ用モータ10m等を制御する。これにより、移動型空気清浄機1は、自律走行しながら部屋の空気を、フィルタ3を通過させて清浄化する。
【0023】
(空気流の詳細)
次に、
図4を参照して、本実施形態における空気流の詳細を説明する。
図4の矢印α3に示すように、羽根車用モータ6mが回転駆動されると、これに連結された遠心羽根車6が回転する。遠心羽根車6の回転により、矢印α1,α7に示すように、室内の空気が、本体吸込口2i(
図3参照)から本体1Hの内部に吸い込まれる。本体吸込口2iから流入した空気は、
図4の矢印α4に沿って、フィルタ3を外周面から内周面に通過する。これにより、空気から、塵埃、臭い等が除去され空気が清浄化される。清浄化された空気は、フィルタ3の内周面から上方に向かって略直角に偏向され、遠心羽根車6の吸入口6iに達する。
【0024】
遠心羽根車6において、上方に向かっていた空気は、矢印α5に示すように、側方に向くように略直角に偏向される。側方に流れた空気は、遠心羽根車6の外周に設けられた翼付ディフューザ7に達する。翼付ディフューザ7に達した空気は、
図4の矢印α6に示すように、翼付ディフューザ7の内部で減速して昇圧されつつ、矢印α2に沿って、本体排出口2o(
図2参照)から外部(室内)に放出される。
【0025】
(フィルタ3と遠心羽根車6の配置)
図4に示すように、本実施形態においては、フィルタ3を本体1Hの中心よりも側方寄りに配置している。これにより、フィルタ3の外周から流入した空気(
図4の矢印α1,α7)は、略直角に偏向して遠心羽根車6の吸入口6iに流入する。換言すれば、フィルタ3を外周面から内周面に通過した空気は、略直角に偏向されて遠心羽根車6の吸入口6iに流入する。フィルタ3は、遠心羽根車6よりも下方に配置されているため、本体吸込口2i(
図3参照)から吸入された微粒子は、吸入直後にフィルタ3で捕集されるため、本体1Hの内部に塵埃が堆積することを抑制できる。
【0026】
また、遠心羽根車6の吸入口6iの床面Yからの高さは、フィルタ3の上端面3aと略同一である。この構成により、フィルタ3を通過した空気が、本体吸込口2iに流入する際のエネルギー損失を低減することができる。
【0027】
(浮遊微粒子の捕集)
次に空気中に浮遊している微粒子の捕集について説明する。
図4において、本体吸込口2iは床面Yに対向して開口しているが、底面カバー2tが離間距離Lだけ床面Yから離れているため、外装カバー2の周囲から、矢印α7に沿って、空気を吸入し、空気中に浮遊している微粒子を捕集することができる。また、本体吸込口2iを床面Yから離間して設けたことにより、外装カバー2の周囲から本体吸込口2iに至るまでの流れの圧力損失を低減することができる。その結果、本体1Hが吸引する風量が大きくなり、速やかに室内の空気を清浄化することができる。なお、本体吸込口2iと床面Yとの離間距離Lは、例えば20mmである。また、外装カバー2の下方の空間において、外装カバー2の底面縁部に沿って、離間距離Lの幅を有する帯状の領域を「底面境界D」と呼ぶ。
【0028】
(堆積微粒子の捕集)
次に床面Yに堆積した微粒子の捕集について説明する。
図4において、ブラシ10bは、ブラシ用モータ10mによって、鉛直方向(より詳細には床面Yに直交する方向)を軸として
図3の矢印βの方向に回転駆動することで、床面Yに堆積した微粒子を巻き上げる。ブラシ10bによって巻き上げられた微粒子は、
図4の矢印α1に沿って、空気とともに本体1Hに取り込まれて清浄化される。
【0029】
図5および
図6は、
図4のV-V断面における流れ場を示した数値シミュレーション結果である。これらの図において、矢印の向きは空気の流れの向きに対応し、矢印の長さは風速に対応する。
図5は底面境界Dの全周において、流れ方向が半径方向内向きの場合の例を示している。一方、
図6は底面境界Dの一部の領域Gにおいて、流れ方向が半径方向外向きになる場合を示している。ここで、「底面境界長Dm(底面境界Dの長さ)」および「本体吸込口2iと床面Yとの離間距離L」の積を底面境界面積Aと呼ぶ。すなわち、底面境界面積Aは、下式(1)で示される。
A = Dm×L …式(1)
式(1)において、底面境界面積Aの単位は例えば[m
2]であり、底面境界長Dmおよび離間距離Lの単位は例えば[m]である。
【0030】
図5、
図6において、底面境界Dから外装カバー2の下方に流れ込む空気の風量、換言すれば遠心羽根車6による送風量を風量Qと呼ぶ。風量Qが比較的大きく、ブラシ10bの先端速度Vb(
図3)が比較的低い場合には、
図5に示すように、底面境界Dの全周に渡って、空気は外部から底面境界Dの内部に流れる。一方、風量Qが比較的小さく、ブラシ10bの先端速度Vbが比較的高い場合には、
図6に示すように、底面境界Dの一部において、空気の流れ方向が半径方向外向きになる領域Gが生じる。この
図6に示す状態では、ブラシ10bによって巻き上げられた微粒子が、空気中に撒き散らされる懸念が生じる。
【0031】
図7は、速度比Va/Vbと面積比A
1/Aとの関係を示す図である。
図7において、横軸は速度Vaと先端速度Vbとの速度比Va/Vbである。ここで、速度Vaおよび先端速度Vbは、それぞれ下式(2)、(3)で示される値である。風量Qの単位は例えば[m
3/min
-1]であり、ブラシ直径Dbの単位は例えば[m]であり、ブラシ回転速度Ndの単位は例えば[min
-1]である。
Va = Q/(60×A) …式(2)
Vb = Db×π×Nd/60 …式(3)
【0032】
また、
図7の縦軸は、底面境界Dにおいて半径方向外向きの流れが生じた、二つの領域G(
図6参照)の面積A
1と、底面境界面積Aとの面積比A
1/Aである。
図7に示す通り、速度比Va/Vbの値が小さくなるほど、面積比A
1/Aの値が大きくなり、空気中に撒き散らされる微粒子量が増加する。ここで、速度比Va/Vbは0.1以上に設定することが好ましい。その理由は、図示のように、速度比Va/Vbを0.1以上に設定すると、面積比A
1/Aを0.01未満に抑制でき、ブラシ10bによって巻き上げられた微粒子が、空気中に撒き散らされることを充分に抑制できるためである。
【0033】
なお、
図5および
図6に示す数値シミュレーション結果は、それぞれ速度比Va/Vbが0.28および0.02の場合を示している。
本実施形態の標準モードにおける具体的なパラメータの一例として、Dm=0.95[m]、L=0.02[m]、Db=0.12[m]、Nd=1000[min
-1]、Q=1.0[m
3/min
-1]とすると、速度比Va/Vbを0.14にすることができる。
【0034】
〈第1実施形態の効果〉
以上のように本実施形態の移動型空気清浄機(1)は、筐体(2)内に設けられフィルタ(3)に空気を通過させるとともに、その上端面(6h2)がフィルタ(3)の上端面(3a)よりも高い位置に設置された羽根車(6)と、筐体(2)内に設けられ羽根車(6)を駆動する第1のモータ(6m)と、筐体(2)の底部に設けられ、空気を吸い込む吸込口(2i)が形成された底面板(2t)と、筐体(2)に装着され底面板(2t)を設置面(Y)から離間させる複数の車輪(9s1,9s2)と、設置面(Y)に接触するように底面板(2t)から下方に突出するブラシ(10b)と、を備え、ブラシ(10b)の幅であるブラシ幅(Db)は、底面視におけるブラシ(10b)の中心点(O)から、吸込口(2i)の領域のうち中心点(O)から最遠点(Pn)までの距離である吸込口外径(Rn)の2倍よりも短い。これにより、本実施形態によれば、空気中に浮遊する微粒子および床面に堆積した微粒子の双方を適切に捕集できる。
【0035】
また、ブラシ(10b)の幅であるブラシ幅(Db)は、底面視におけるブラシ(10b)の中心点(O)から、吸込口(2i)の領域のうち中心点(O)から最遠点(Pn)までの距離である吸込口外径(Rn)の2倍よりも短いことが好ましく、ブラシ幅(Db)は、底面視におけるブラシ(10b)の中心点(O)から、吸込口(2i)の領域のうち中心点(O)から最短点(Pm)までの距離である吸込口内径(Rm)の2倍よりも短いことが一層好ましい。これにより、ブラシ(10b)が巻き上げた埃を吸込口(2i)から捕集しやすくなる。
また、移動型空気清浄機(1)は、複数の車輪(9s1,9s2)を駆動する第2のモータ(9m1,9m2)をさらに備えることが一層好ましい。これにより、移動型空気清浄機(1)を自動的に走行させることができる。
【0036】
また、中心点(O)から車輪(9s1,9s2)の最短位置(Pw)までの距離である車輪距離(Rw)は、吸込口外径(Rn)よりも短いことが一層好ましい。これにより、車輪(9s1,9s2)が巻き上げた埃等を吸込口(2i)から効果的に捕集できる。
【0037】
また、ブラシ(10b)は、設置面(Y)に対して摺動しつつ回転させると、一層好ましい。これにより、移動型空気清浄機(1)の移動速度よりも速い速度でブラシ(10b)を設置面(Y)に摺動させることができる。
【0038】
また、ブラシ(10b)を回転させる第3のモータ(10m)をさらに備えると一層好ましい。これにより、ブラシ(10b)の回転速度を羽根車(6)の回転速度から独立して制御できる。
【0039】
また、ブラシ(10b)の回転軸(M)は、設置面(Y)に対して直交する方向にすると一層好ましい。これにより、設置面(Y)の広い範囲に対してブラシ(10b)を摺動させることができる。
【0040】
また、筐体(2)の底面外周の長さを底面境界長Dmとし、吸込口(2i)と設置面(Y)との距離を離間距離Lとし、Dm×Lを底面境界面積Aとし、羽根車(6)による送風量を風量Qとし、Q/(60×A)を速度Vaとし、ブラシ幅(Db)をDbとし、ブラシ(10b)の回転速度をブラシ回転速度Ndとし、Db×π×Nd/60をブラシ(10b)の先端速度Vbとしたとき、Va/Vbは0.1よりも大きくすると一層好ましい。これにより、空気中に撒き散らされる微粒子量を効果的に抑制できる。
【0041】
また、フィルタ(3)を円筒状に形成し、フィルタ(3)の外周の半径(R3)は、吸込口外径(Rn)よりも短くすると、一層好ましい。これにより、フィルタ(3)の外周面から内周面に向かう空気の流れを形成しやすくなる。
【0042】
[第2実施形態]
図8は、好適な第2実施形態による移動型空気清浄機1Cの底面図である。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
第1実施形態の本体吸込口2i(
図3参照)に代えて、本実施形態においては、
図8に示すように、本体吸込口2i2が底面カバー2tに形成されている。本体吸込口2i2は、長円を円弧状に湾曲させた形状を有し、底面カバー2tの外周に沿って周回方向等分4カ所位置に形成されている。
【0043】
また、第1実施形態における側方車輪9s1,9s2(
図3参照)に代えて、本実施形態においては、
図8に示すように、吸込口内径Rmよりも内側に側方車輪9s3,9s4が装着されている。本実施形態においても、ブラシ10b(
図3参照)は設けられているが、
図8においてブラシ10bの図示は省略する。但し、本実施形態において、ブラシ直径Dbは、車輪距離Rwの2倍よりも短くなっている。上述した以外の本実施形態の構成は、第1実施形態のもの(
図1~
図7参照)と同様である。
【0044】
本実施形態においては、側方車輪9s3,9s4の全体が吸込口外径Rnよりも内側に位置する。これにより、側方車輪9s3,9s4が巻き上げた埃等を本体吸込口2i2から効果的に捕集でき、埃等を外部(室内)に撒き散らすことを一層抑制できる。また、
図8に示すように、側方車輪9s3,9s4の全体を吸込口内径Rmよりも内側に位置させると、一層好ましい。これは、側方車輪9s3,9s4が巻き上げた埃等を本体吸込口2i2から一層効果的に捕集できるためである。
【0045】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
(1)上記各実施形態において、ブラシ10b(
図4参照)はブラシ用モータ10mによって回転駆動された。しかし、ブラシ10bは必ずしも回転させる必要はない。すなわち、ブラシ10bが底面カバー2tに固定されていたとしても、移動型空気清浄機1,1Cが移動すると、ブラシ10bは床面Yに摺動するため、床面Yに堆積した微粒子を巻き上げることができる。
【0046】
(2)上記各実施形態においては、ブラシ10bを回転駆動するブラシ用モータ10mと、遠心羽根車6を回転駆動する羽根車用モータ6mとを設けた。しかし、共通の1つのモータ(例えば羽根車用モータ6m)がブラシ10bと遠心羽根車6とを回転駆動させるようにしてもよい。これにより、モータの数を減らし、移動型空気清浄機1,1Cのコストダウンを実現できる。
【0047】
(3)
上記各実施形態においては、フィルタ3を略円筒状に形成したが、長方形板状または湾曲板状に形成されたフィルタ板(図示せず)を環状に連結することによってフィルタ3を形成してもよい。
【0048】
(4)上記各実施形態において、遠心羽根車6の吸入口6iの床面Yからの高さは、フィルタ3の上端面3aの高さと略同一であった。しかし、吸入口6iがフィルタ3の内周側の空間(符号なし)に遊挿されるようにしてもよい。換言すれば、吸入口6iの高さを上端面3aの高さよりも低くしてもよい。すなわち、フィルタ3の上端面3aが、遠心羽根車6の羽根6hの上端面6h2より下方に配置されていればよい。
【0049】
(5)上記各実施形態において、ブラシ10bは略長方形板状であったが、ブラシ10bは、例えば下面視が十字状であってもよく、アスタリスク字状(*)であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 移動型空気清浄機
2 外装カバー(筐体)
2i 本体吸込口(吸込口)
2t 底面カバー(底面板)
3 フィルタ
3a 上端面
6 遠心羽根車(羽根車)
6m 羽根車用モータ(第1のモータ)
6h2 上端面
9m1,9m2 車輪用モータ(第2のモータ)
9s1,9s2 側方車輪(車輪)
10b ブラシ
10m ブラシ用モータ(第3のモータ)
M 回転軸
O 中心点
Y 床面(設置面)
Db ブラシ直径(ブラシ幅)
Pm 最短点
Pn 最遠点
Pw 最短位置
R3 半径(外径半径)
Rm 吸込口内径
Rn 吸込口外径
Rw 車輪距離