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特許7384645柱と扁平梁との接合部における耐力算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】柱と扁平梁との接合部における耐力算出方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20231114BHJP
   E04B 1/21 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
E04B1/58 505A
E04B1/21 B ESW
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019213526
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2021085190
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼発行日:令和1年7月20日 刊行物:2019年度大会(北陸)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集、第115~116頁、一般財団法人日本建築学会 ▲2▼発行日:令和1年7月20日 刊行物:2019年度大会(北陸)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集、第117~118頁、一般財団法人日本建築学会 ▲3▼発行日:令和1年9月1日 刊行物:奥村組技術年報No.45、第77~84頁、株式会社奥村組技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山際 創
(72)【発明者】
【氏名】岸本 剛
(72)【発明者】
【氏名】浜口 慶生
(72)【発明者】
【氏名】服部 晃三
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140635(JP,A)
【文献】特開2015-061961(JP,A)
【文献】特開2015-021254(JP,A)
【文献】足立将人、平田延明、中岡章郎、室重行、入江貴弘,幅広扁平梁架構の構造性能に関する実験的研究,日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿),399,400,日本建築学会,2014年07月20日
【文献】平田延明、太田雄介、中岡章郎,幅広扁平梁柱接合部の張出部補強筋による構造性能への影響に関する実験的研究,日本建築学会大会学術講演梗概集(九州),405,406,日本建築学会,2016年07月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04B 1/38-1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と前記柱の柱幅より広い梁幅を有する扁平梁との接合部構造における耐力を算出する方法であって、
前記柱の柱幅外に配置された前記扁平梁内に配置されている梁主筋が負担する応力が前記柱の柱幅内に配置された前記扁平梁内に配置されている梁主筋が負担する応力より小さくなる影響を考慮し、前記扁平梁の長期許容曲げモーメント又は短期許容曲げモーメント (N・mm)を、次式(1)によって算出することを特徴とする耐力算出方法。
=ξ・a ・gf ・j ・・・ (1)
ただし、a は前記扁平梁の引張鉄筋断面積(mm )、 は前記扁平梁の梁主筋の長期又は短期の許容応力度(N/mm )、jは前記扁平梁の応力中心距離(mm)、低減係数ξは、柱・梁幅比αに応じた低減係数であって、1以上2未満である場合は1-0.15(α-1)、柱・梁幅比αが2以上3以下である場合は0.85-0.1(α-2)である。
【請求項2】
前記柱と前記扁平梁との接合部を含む前記柱の柱せいの内側において、前記扁平梁内に、前記扁平梁内に配置されている複数の梁主筋を取り囲むように複数の第1の補強筋が設けられており、各前記第1の補強筋は2個に分割されてそれぞれコの字状からなり、前記柱の柱幅の内側において、前記コの字の両端部が前記柱幅の方向に重複して前記梁主筋に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の耐力算出方法。
【請求項3】
前記柱せいより外側において、前記扁平梁内に複数の第2の補強筋が配置されており、
前記第2の補強筋は、前記扁平梁内に配置されている複数の梁主筋の外周を囲繞する囲繞筋と、前記囲繞筋の途中において前記柱の延在する方向に連結する複数の連結筋とから構成されていることを特徴とする請求項2に記載の耐力算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と扁平梁との接合部における耐力を算出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造ラーメン架構の建物において、柱幅より広い幅を有する扁平梁を用いる扁平梁工法が提案されている。この扁平梁工法は、梁せいを小さく抑えて、梁下に開放的な空間を構築することができるので、建物の全体高さを低くしつつ十分な室内高さを確保することが可能となる。しかし、扁平梁工法においては、梁せいが小さいため、柱と扁平梁との接合部において支持可能な曲げモーメントが小さくなる。特に梁端部において柱幅から跳ね出す部分は、柱と接合されないため剛性が低く、曲げ変形が生じやすいので、結果として梁全体で支持可能な曲げモーメントも通常の断面計算に基いた結果よりも小さくなる。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、梁幅と柱幅との差に基づき扁平梁の曲げ終局強度を算出することが記載されている。また、特許文献2には、扁平梁の柱幅の外側に配置された引張主筋(梁主筋)の材料強度又は主筋量を低減して、柱幅の外側に位置する扁平梁の曲げ耐力を柱幅内の部位よりも低下させて扁平梁の設計を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6243238号公報
【文献】特許6267905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術においては、柱の外側に張り出した跳ね出し部を十分に柱と扁平梁との接合部に一体化しておらず、そのため、跳ね出し部の強度が劣るものとしているが、柱幅と梁幅の差を元に曲げ耐力を低減しており、柱が梁の中央にある場合と幅方向の一方に寄っている場合の違いを考慮していない。
【0006】
また、上記特許文献2に開示された技術においては、意図的に跳ね出し部(扁平梁の柱幅の外側に位置する部分)に配置される梁主筋の材料強度又は主筋量が低減されており、意図的に跳ね出し部の強度を劣らせているが、跳ね出し部の曲げ終局強度のみを考慮するものであり、せん断耐力等については考慮されていない。
【0007】
このような方法で跳ね出し部の強度を劣らせることは、計算方法が現実の条件と合致しておらず、十分な評価ができていないものと考えられる。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、扁平梁に対する柱の位置関係を考慮して、柱と扁平梁との接合部における耐力の算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、柱と前記柱の柱幅より広い梁幅を有する扁平梁との接合部構造における耐力を算出する方法であって、前記柱の柱幅外に配置された前記扁平梁内に配置されている梁主筋が負担する応力が前記柱の柱幅内に配置された前記扁平梁内に配置されている梁主筋が負担する応力より小さくなる影響を考慮し、前記扁平梁の長期許容曲げモーメント又は短期許容曲げモーメント (N・mm)を、次式(1)によって算出することを特徴とする。
=ξ・a ・gf ・j ・・・ (1)
ただし、a は前記扁平梁の引張鉄筋断面積(mm )、 は前記扁平梁の梁主筋の長期又は短期の許容応力度(N/mm )、jは前記扁平梁の応力中心距離(mm)、低減係数ξは、柱・梁幅比αに応じた低減係数であって、1以上2未満である場合は1-0.15(α-1)、柱・梁幅比αが2以上3以下である場合は0.85-0.1(α-2)である。
【0010】
本発明によれば、発明者が実験した結果から、接合部と跳ね出し部とを十分に一体化した状態における柱と扁平梁との接合部における耐力を安全側に適切に算出することが可能となる。
【0012】
本発明において、前記柱と前記扁平梁との接合部を含む前記柱の柱せいの内側において、前記扁平梁内に、前記扁平梁内に配置されている複数の梁主筋を取り囲むように複数の第1の補強筋が設けられており、各前記第1の補強筋は2個に分割されてそれぞれコの字状からなり、前記柱の柱幅の内側において、前記コの字の両端部が前記柱幅の方向に重複して前記梁主筋に固定されていることが好ましい。
【0013】
この場合、第1の補強筋によって接合部及び扁平梁の柱の柱せいの内側部分である跳ね出し部内における梁主筋が拘束されているので、これらの部分におけるせん断力とねじれによる変形を抑制することが可能となる。これにより、特にねじれによる変形を抑制することが可能となる共に、効果的にせん断力による変形を抑制することが可能となる。
【0014】
また、本発明において、前記柱せいより外側において、前記扁平梁内に複数の第2の補強筋が配置されており、前記第2の補強筋は、前記扁平梁内に配置されている複数の梁主筋の外周を囲繞する囲繞筋と、前記囲繞筋の途中において前記柱の延在する方向に連結する複数の連結筋とから構成されていることが好ましい。
【0015】
この場合、第2の補強筋は中子筋によって途中が連結されているので、扁平梁の第2の補強筋を内設した部分におけるせん断力による変形を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の柱梁接合部構造のXY平面における模式断面図。
図2図1図5及び図9のIIーII線における模式断面図。
図3図1図5及び図9のIIIーIII線における模式断面図。
図4図1及び図9のIVーIV線における模式断面図。
図5】第2の柱梁接合部構造のXY平面における模式断面図。
図6図5のVIーVI線における模式断面図。
図7図5のVIIーVII線における模式断面図。
図8図5のVIIIーVIII線における模式断面図。
図9】第3の柱梁接合部構造のXY平面における模式断面図。
図10図9のXーX線における模式断面図。
図11図9のXIーXI線における模式断面図。
図12】本発明の実施形態に係る柱と扁平梁との接合部における耐力の算出方法における第1の算出方法にて用いる低減係数を示すグラフ。
図13】耐力の算出方法における第2の算出方法にて用いる低減係数を示すグラフ。
図14】耐力の算出方法における第2の算出方法にて用いる低減係数を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の実施形態に係る耐力算出方法が適用される第1の柱梁接合部構造100について図1から図4を参照して説明する。
【0018】
柱梁接合部構造100は、一体構築された鉄筋コンクリート造(RC)の柱10と扁平梁20とが十字状に交差して接合されてなる接合部40を含む構造である。例えば、柱10は建物の内部に位置する中柱である。
【0019】
扁平梁20は、梁せいDg(不図示)に対して梁幅Bgが幅広な扁平梁であり、梁幅Bgは柱幅Bcより幅広となっている。柱幅Bcに対する梁幅Bgの比率(柱・梁幅比)は、3以下であることが好ましい。接合部40から扁平梁20の梁幅方向に柱10の側面から外側に張り出した扁平梁20の部分が跳ね出し部41となっている。跳ね出し部41の柱10の側面から張り出した部分の寸法は、柱幅Bc及び柱せいDc以下、かつ扁平梁20の梁せいDgの2倍以下であることが好ましい。
【0020】
ここでは、柱10の軸心Ocと扁平梁20の軸心Ogが交差する場合、すなわち扁平梁20に対して柱10が偏心しないで接合されている場合について説明するが、偏心があっても、すなわち扁平梁20に対して柱10が片寄せされて接合されていてもよい。この場合、上記比率(柱・梁幅比)を計算する際の梁幅Bgは、跳ね出し部41の幅のうち大きい方の幅の2倍と柱10の幅の和として算定する。
【0021】
以下、扁平梁20の軸心Ogが延在する方向をX軸方向とし、柱10の軸心Ocが延在する方向をZ軸方向とし、X軸及びZ軸と直交する方向をY軸方向として説明する。
【0022】
柱10には、Z軸方向に延在する複数の柱主筋11、及びこれら柱主筋11の外周を囲繞し、Z軸方向に間隔を隔てて配置された複数のフープ筋12が内設されている。
【0023】
扁平梁20には、X軸方向に延在する複数の梁主筋21が配置されている。梁主筋21は、Y軸方向に等間隔に配置されていてもよいが、柱せい外と比較して柱せい内において間隔が狭くなるように配置されていることが好ましい。
【0024】
さらに、扁平梁20のうち柱せい内の部分、すなわち、柱10と扁平梁20との接合部40及び跳ね出し部41からなる部分において、複数の梁主筋21を取り囲むように、複数のねじり補強筋22がX軸方向に間隔を隔てて配置されている。ねじり補強筋22は、本発明の第1の補強筋に相当する。
【0025】
各ねじり補強筋22は、2個に分割されてそれぞれコの字状からなり、具体的には、基部22aと基部22aの両端からそれぞれ延びる2本の足部22bとから構成されている。そして、基部22aが跳ね出し部41の端部内に配置されている梁主筋21の端面側の外側に接触して位置し、各足部22bがY軸方向に間隔を隔てて配置されている梁主筋21の上端筋の上側と下端筋の下側に接触して位置している。そして、各足部22bの基部22aと接続されていない側の端部が、柱幅内にて重複した部分を有するように梁主筋21に直接的又は間接的に固定されている。
【0026】
このように構成された各ねじり補強筋22によって、接合部40及び跳ね出し部41内における梁主筋21が拘束されており、接合部40及び跳ね出し部41におけるせん断力とねじれによる変形を抑制することが可能となる。
【0027】
これにより、特にねじれによる変形を抑制することが可能となる共に、効果的にせん断力による変形を抑制することが可能となる。さらに、跳ね出し部41に生じる曲げモーメントは、ねじり補強筋23によってねじり抵抗力として柱10に伝達される。なお、ねじり補強筋22は、柱10と扁平梁20との接合部40におけるせん断力とねじれによる変形を所望量以下に抑制することが可能となる量を配筋すればよい。
【0028】
さらに、扁平梁20のうち柱せいの外側である範囲、すなわち柱10の前後面よりX軸方向の外側の両部分には、X軸方向に間隔を隔てて複数のせん断補強筋23が配筋されている。せん断補強筋23は、本発明の第2の補強筋に相当する。なお、せん断補強筋23は、扁平梁20の柱せいの外側のX軸正負両方向全体に亘って配置されている。
【0029】
せん断補強筋23は、複数の梁主筋21の外周を囲繞するあばら筋24と、1本のあばら筋24の途中において柱10の延在する方向、すなわちZ軸方向に連結する複数の中子筋25とから構成されている。あばら筋24は本発明の囲繞筋に相当し、中子筋25は本発明の連結筋に相当する。
【0030】
中子筋25は、Y方向に間隔を開けて複数本配置されている。中子筋25は、Y方向に等間隔に配置されていてもよいが、柱幅外と比較して柱幅内において間隔が狭くなるように配置されていることが好ましい。
【0031】
このように構成されたせん断補強筋23は、複数の梁主筋21の柱幅外における部分を拘束している。せん断補強筋23は中子筋25によって途中が連結されているので、扁平梁20のせん断補強筋23を内設した部分におけるせん断力による変形を効果的に抑制することが可能となる。
【0032】
なお、扁平梁20におけるせん断補強筋23の配筋量は、通常の梁のせん断補強筋と同程度であってよく、扁平梁20の断面積に対する最低配筋量以上、かつ、所望の許容せん断応力から求めた最小補強筋量以上とすればよい。
【0033】
次に、本発明の実施形態に係る耐力算出方法が適用される第2の柱梁接合部構造200について図5から図8図2及び図3を参照して説明する。ただし、前述した第1の柱梁接合部構造100と同じ構成に関しては説明を省略する。
【0034】
柱梁接合部構造200は、一体構築された鉄筋コンクリート造(RC)の柱10と扁平梁20とがトの字状に接合されてなる接合部40を含む構造である。例えば、柱10は建物の側周部に位置する側柱である。
【0035】
扁平梁20内に配置されている梁主筋21は、扁平梁20の柱10の外側面と面一となる外側面側の端部、すなわち扁平梁20の背面の端部に定着部21aを備えている。
【0036】
そして、扁平梁20のうち柱せい内の部分、すなわち、柱10と扁平梁20との接合部40及び跳ね出し部41からなる部分において、複数の梁主筋21を取り囲むように、2個に分割されてそれぞれコの字状からなる複数のねじり補強筋22がX軸方向に間隔を隔てて配置されている。
【0037】
このように構成された各ねじり補強筋22によって、接合部40及び跳ね出し部41内における梁主筋21が拘束されており、接合部40及び跳ね出し部41におけるせん断力とねじれによる変形を抑制することが可能となる。
【0038】
さらに、扁平梁20のうち柱せいの外側である範囲、すなわち柱10の前後面よりX軸方向外側の部分には、X軸方向に間隔を隔てて複数のせん断補強筋23が配筋されている。
【0039】
また、扁平梁20の跳ね出し部41には、コの字状の背面補強筋(小口部ひび割れ補強筋)26が梁幅方向(Y軸方向)に間隔を開けて、梁主筋21の間に配置されている。背面補強筋26は、柱幅より外側の扁平梁20の端面である背面部に配置されている。このような背面補強筋26の存在によって、扁平梁20の背面部におけるひび割れの発生を抑制することが可能となる。
【0040】
背面補強筋26は、コの字状であり、具体的には、基部26aと基部26aの両端からそれぞれ延びる2本の足部26bとから構成されている。そして、基部26aが跳ね出し部41の最も背面に近く部分に配置されている梁主筋21の端面側の外側に接触して位置し、各足部26bがX軸方向に間隔を隔てて配置されているねじり補強筋22と交差する部分においてねじり補強筋22の上下の足部の内側にそれぞれ接触して固定されている。上側の足部26bは梁主筋21の上端筋の上面位置と、下側の足部26bは梁主筋21の下端筋の下面とそれぞれ略同一の高さに配置されている。そして、各足部26bの基部26aと接続されていない側の端部は、特に他の鉄筋と固定されていない。
【0041】
背面補強筋26は、扁平梁20の背面から内部に向って挿入されて配筋され、扁平梁20の内部に定着される。背面補強筋26は、鉄筋としてのかぶり厚さを確保し、かつ、なるべく背面側に配置されることが望ましい。
【0042】
ただし、背面補強筋26は、せん断力とねじりに抵抗するために必要な鉄筋量を配置することが好ましいが、接合部40の耐力算出には考慮に入れない。
【0043】
次に、本発明の実施形態に係る耐力算出方法が適用される第3の柱梁接合部構造300について図9から図11及び図2から図4を参照して説明する。ただし、前述した第1及び第2の柱梁接合部構造100,200と同じ構成に関しては説明を省略する。
【0044】
柱梁接合部構造300は、一体構築された鉄筋コンクリート造(RC)の柱10と扁平梁20とが接合され、さらに柱10及び扁平梁20と直交する直交梁30とが接合されてなる接合部40を含む構造である。例えば、柱10は建物の側周部に位置する側柱である。柱10、扁平梁20及び直交梁30のそれぞれの一の外側面が面一となるように接続されている。跳ね出し部41の柱10側の柱10の柱幅の外側は、扁平梁20と直交梁30との梁の接合部42となっている。
【0045】
扁平梁20内に配置されている梁主筋21は、扁平梁20の柱10の外側面と面一となる外側面側の端部、すなわち扁平梁20の背面の端部に定着部21aを備えている。梁の接合部42の外側面側の端部、すなわち梁の接合部42の背面側の端部に定着部21aが位置している。
【0046】
そして、直交梁30には、接合部40及び梁の接合部42を貫通してY軸方向に延在する複数の梁主筋31、及び接合部40内以外においてこれら梁主筋31の外周を囲繞し、Y軸方向に間隔を隔てて配置された複数のフープ筋32が内設されている。
【0047】
例えば扁平梁20と直交梁30の上端面が一致する場合、接合部40及び梁の接合部42において、扁平梁20の上端の梁主筋21か直交梁30の上端の梁主筋31の何れかが上方に配置されることになる。扁平梁20は梁せいDgが低いため、上下の梁主筋21の距離である有効梁せいを大きく確保するために上端の梁主筋21を直交梁30の上端の梁主筋31よりも上方に配置することが好ましい。
【0048】
この場合、扁平梁20の上端の梁主筋21が鉄筋によって拘束されないと、梁の接合部42におけるせん断力やねじれに対する耐力が低下する。そこで、梁の接合部42内には、コの字状のかんざし筋33が直交梁30の梁幅方向(X軸方向)に間隔を開けて、梁主筋31の間に配置されている。かんざし筋33は、梁の接続部42の上面側から梁主筋21と直交する方向(Z軸方向)に下方に向って延びるように配置されている。
【0049】
かんざし筋33は、梁の接続部42内の扁平梁20の梁主筋21の定着部21aの直前まで配置されている。例えば、定着部21aが機械式の場合、かんざし筋33は定着板のスリーブ部の直前まで延びている。また、定着部21aが定着板を鉄筋の先端に直接接合する構成の場合、かんざし筋33は定着板の直前まで延びている。
【0050】
かんざし筋33は、コの字状であり、具体的には、基部33aと基部33aの両端からそれぞれ延びる2本の足部33bとから構成されている。そして、基部33aが梁の接合部42内における上端の梁主筋21の上面に接触して位置し、各足部33bが上下方向(Z軸方向)に間隔を隔てて配置されている梁主筋31の外側に接触して位置している。これにより、かんざし筋33は、梁の接合部42内における梁主筋21をコの字状に取り囲んでいる。なお、各足部33bの基部33aと接続されていない側の端部は、特に他の鉄筋と固定されていないともよい。
【0051】
かんざし筋33は、梁の接合部42の上面側から内部に向って挿入されて配筋され、直交梁30の内部に定着される。かんざし筋33は、せん断力とねじりに抵抗するために必要な鉄筋量を配置することが好ましいが、扁平梁20の耐力算出には考慮しないことが好ましい。
【0052】
このように構成されたかんざし筋33によって、梁の接合部42内における扁平梁20の梁主筋21を拘束することが可能となるので、この部分におけるせん断力によるねじれや梁の接合部42の上面にひび割れが発生することを抑制することができる。
【0053】
なお、梁の接合部42内の背面側の端部には直交梁30内のフープ筋32が存在しているので、これにより、背面補強筋26を用いることなく、梁の接合部42の背面にひび割れが生じることが抑制される。
【0054】
なお、上述した柱梁接続部構造100,200,300又はこれらを含む構造体は、現場打ちコンクリートからなるものであっても、ハーフプレキャストコンクリートからなるものであってもよい。
【0055】
また、本発明の耐力算出方法は、上述した柱梁接合部構造100,200,300の構造を有するものに限定的に適用されるものではなく、接合部40と跳ね出し部41とを十分に一体化した状態における柱10と扁平梁30との任意の接合部構造に適用することができる。
【0056】
以下、本発明の実施形態に係る柱と扁平梁との接合部における耐力の算出方法について説明する。この算出方法は、発明者が上述した柱梁接合部構造100,200,300を有する多数の試験体に対して耐力試験などを行うことによって導き出したものである。
【0057】
なお、試験体として、柱幅Bcに対する梁幅Bgの比率である柱・梁幅比α(=Bg/Bc)は、1.5,2.0,3.0としたものを用いた。よって、本算出方法は、柱・梁幅比αが3以下のものに適用可能である。
【0058】
また、試験体として、跳ね出し部41の柱10の側面から張り出した部分の寸法は、柱幅Bc及び柱せいDc以下、かつ扁平梁20の梁せいDgの2倍以下であるものを用いた。よって、本算出方法は、このような構成のものに適用可能である。なお、本算出方法は、柱10と扁平梁20とが偏心して接合されているものにも適用可能である。そして、建物の最上層を扁平梁20を用いて構築する場合、原則として鉛直スタブを設けるものとする。
【0059】
第1の算出方法として、柱10外に配置された扁平梁20の梁主筋21が負担する応力が柱10の柱幅内に配置された扁平梁20の梁主筋21が負担する応力より小さくなる影響を考慮し、扁平梁20の許容曲げモーメントを柱・梁幅比αに応じ低減して算出する。具体的には、長期許容曲げモーメント又は短期許容曲げモーメント(N・mm)は、次式(1)によって算出する。
=ξ・a・j ・・・ (1)
【0060】
ここで、ξは柱・梁幅比αに応じた低減係数、aは扁平梁20の引張鉄筋断面積(mm)、は扁平梁20の梁主筋21の長期又は短期の許容応力度(N/mm)、jは扁平梁20の応力中心距離(mm)である。そして、低減係数ξは、図12に示したグラフのように1.00から0.75へと柱・梁幅比αに応じて低減させる。
【0061】
なお、低減係数ξは、柱10内における梁主筋21の平均歪みに対する全ての梁主筋21の平均歪みの比について、各試験体の接合部40の扁平梁20を柱10に対して1/100、1/200、1/400の変形角に変形させた際における、柱10内における値の比の平均として算出した。
【0062】
第2の算出方法として、柱10外に配置された扁平梁20の梁主筋21が負担する応力が、柱10の柱幅内に配置された扁平梁20の梁主筋21が負担する応力より小さくなる影響を考慮し、扁平梁20の終局曲げモーメントyを柱・梁幅比αに応じ低減して算出する。具体的には、終局曲げモーメントy(N・mm)は、次式(2)によって算出する。なお、式(2)は、一般財団法人建築行政情報センター及び一般財団法人日本建築防災協会編集の「2015年度 建築物の構造関係技術基準解説書」の651頁から652頁の記載に基いている。
y=β・0.9・aσ・d ・・・ (2)
【0063】
ここで、βは柱・梁幅比αに応じた低減係数、aは扁平梁20の引張鉄筋断面積(mm)、σは扁平梁20の梁主筋21の降伏強度(N/mm)、dは扁平梁20の有効せい(mm)である。そして、低減係数βは、図13に示したグラフのように1.00から0.85へと柱・梁幅比αに応じて低減させる。
【0064】
なお、柱・梁幅比αが2.0の試験体を実験したところ、柱10外に配置された梁主筋21を含め、全ての梁主筋21が耐力に寄与することが確認できたため、柱・梁幅比αが2.0における低減係数βは1.00とした。一方、柱・梁幅比αが3.0の試験体を実験したところ、柱10外に配置された梁主筋21の負担応力が減少することが確認されたため、試験結果が安全側となる値として、低減係数βを0.85とした。
【0065】
第3の算出方法として、柱10外に配置された扁平梁20の梁主筋21が負担する応力が、柱10の柱幅内に配置された扁平梁20の梁主筋21が負担する応力より小さくなる影響を考慮し、接合部40のせん断終局強度Vjuを柱・梁幅比αに応じ低減して算出する。具体的には、接合部40のせん断終局強度Vju(N)は、次式(3)によって算出する。なお、式(3)は、靭性保証指針式を元に、式中の柱幅と梁幅を読み替えた式である。
ju=γ・κ・φ・F・b・D ・・・ (3)
【0066】
ここで、γは柱・梁幅比αに応じた低減係数、κは形状係数、φは直交梁30の有無による補正係数、Fは直交梁30の有無による補正係数(N/mm)、扁平梁20の梁主筋21の降伏強度(N/mm)、Dは梁主筋20の定着長さ又は柱せいDc(mm)である。bは、接合部40の有効幅(mm)であり、式(4)、(5)によって算出する。
=B+ba1+ba2 ・・・ (4)
ai=min(b/2,D/4) ・・・ (5)
【0067】
ここで、bは、柱10の端面から扁平梁30の端面までのY軸方向におけるそれぞれの距離(mm)である。扁平梁30に対して偏心しないで柱10が接続されている場合、b=b=(Bg-Bc)/2となる。Dcは上述した柱せい(mm)である。
【0068】
そして、低減係数γは、図14に示したグラフのように1.00から0.90へと柱・梁幅比αに応じて低減させる。
【0069】
形状係数κは、柱梁接合部構造100のように柱10と扁平梁20とが十字状に接合されている場合は1.0であり、柱梁接合部構造200のように柱10と扁平梁20とがト字に接合されている場合は0.7である。補正係数φは、柱梁接合部構造300のように柱10の柱幅両方向外側に直交梁30が接合されている場合は1.0であり、それ以外に場合は0.85である。
【0070】
そして、Fは以下の式(6)によって求めることができる。
=0.8・F 0.7 ・・・ (6)
【0071】
なお、柱・梁幅比αが2.0又は3.0の試験体を実験し、試験結果が安全側となる値として、低減係数γを0.90とした。柱・梁幅比αが1.0場合は低減する必要がないので、低減係数γを1.00とした。
【0072】
上記の式(1)~(3)を用いて、扁平梁20及び柱10と扁平梁20との接合部40の支持可能な曲げモーメントやせん断耐力を求める。式(1)は、扁平梁10の支持可能な曲げモーメントを求める式であり、許容応力を設計する際に用いる。式(2)、(3)は、終局耐力を算定する式である。式(2)は扁平梁20の終局曲げモーメントを、式(3)は扁平梁20と柱10との接合部40のせん断終局強度をそれぞれ算定する際に用いる。
【0073】
実際的な計算方法としては、式(1)によって扁平梁20が長期及び短期の許容曲げモーメントを支持可能であることを確認したうえで、式(2)、(3)によって柱10と扁平梁20との接合部40の耐力を求めて、この耐力が終局時に発生する応力よりも大きいことを確認すればよい。そして、何れかを満たさない場合は、扁平梁20などの断面寸法などを変更すればよい。
【0074】
なお、本発明の耐力算出方法は、上述した3つの算出方法に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0075】
10…柱、 11…柱主筋、 12…フープ筋、 20…扁平梁、 21…梁主筋、 22…ねじり補強筋(第1の補強筋)、 23…せん断補強筋(第2の補強筋)、 24…あばら筋(囲繞筋)、 25…中子筋(連結筋)、 26…背面補強筋(第2の補強筋)、 26a…基部、 26b…足部、 30…直交梁、 31…梁主筋、 32…フープ筋、 33…かんざし筋、 40…接合部、 41…跳ね出し部、 42…梁の接合部、 100,200,300…柱梁接合部構造。
図1
図2
図3
図4
図5
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図11
図12
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図14