(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】車体用構造体、補強部材および補強部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/06 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
B62D25/06 A
(21)【出願番号】P 2019226632
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】清水 慧
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正之
(72)【発明者】
【氏名】小松 隆
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0167713(US,A1)
【文献】特開2016-159813(JP,A)
【文献】米国特許第09187135(US,B1)
【文献】特開2010-173634(JP,A)
【文献】特開2002-145117(JP,A)
【文献】特開2000-219095(JP,A)
【文献】特開2007-269241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の支持部材と、
前記車体の支持部材の長手方向に沿って配置され、該車体の支持部材を補強する補強部材と、を備え、
前記支持部材は、各々の縁が接合しろである複数の部材を含み、
前記複数の部材の各々の前記接合しろが接合され、
前記補強部材は、母材から管状体を成形してなる加工物であり、パイプ部と、前記パイプ部の外周側から突出し、前記車体の支持部材の長手方向に形成されたフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、前記母材の管壁の一部同士が重なり合って形成されており、
前記フランジ部は、前記複数の部材の各々の前記接合しろが接合される部分以外の箇所で、前記車体の支持部材の前記部材に接合される、
ことを特徴とする車体用構造体。
【請求項2】
前記車体の支持部材は、該車体の最外装を構成する第一部材と、前記車体の内装を構成する第二部材と、前記第一部材と前記第二部材との間に位置する第三部材とを有する中空体で構成され、
前記補強部材は、前記第一部材、前記第二部材および前記第三部材のうちの1つに接合される請求項1に記載の車体用構造体。
【請求項3】
前記フランジ部は、前記車体の側面外方に臨む請求項1または2に記載の車体用構造体。
【請求項4】
前記車体の支持部材は、前記支持部材の1つである柱部材に接合され、
前記補強部材の一部は、前記柱部材の延長線と重なる請求項1~3のいずれか1項に記載の車体用構造体。
【請求項5】
前記補強部材の全長は、前記車体の支持部材の全長よりも短い請求項4に記載の車体用構造体。
【請求項6】
前記補強部材は、ポール側面衝突時の乗員保護試験(車両等の型式認定相互承認協定に基づく規則 第135号)を行った際、前記車体の支持部材の前記車体の内側への折れ曲がりを防止または抑制する部材である請求項1~5のいずれか1項に記載の車体用構造体。
【請求項7】
前記フランジ部は、前記車体の支持部材に溶接により接合される請求項1~6のいずれか1項に記載の車体用構造体。
【請求項8】
前記溶接は、スポット溶接である請求項7に記載の車体用構造体。
【請求項9】
車体の支持部材の長手方向に沿って配置され、該車体の支持部材を補強する補強部材であって、
前記支持部材は、各々の縁が接合しろである複数の部材を含み、
前記複数の部材の各々の前記接合しろが接合され、
母材から管状体を成形してなる加工物であり、
パイプ部と、
前記パイプ部の外周側から突出し、前記車体の支持部材の長手方向に形成されたフランジ部と、
を有し、
前記フランジ部は、前記母材の管壁の一部同士が重なり合って形成されており、
前記フランジ部は、前記複数の部材の各々の前記接合しろが接合される部分以外の箇所で、前記車体の支持部材に接合される、
ことを特徴とする補強部材。
【請求項10】
請求項
9に記載の補強部材を製造する方法であって、
前記補強部材の母材となる、横断面形状が円形の管状体に対して、外側および内側から力を付与して成形し、横断面形状が非円形のパイプ部と、該パイプ部の外周側から突出したフランジ部とを形成することを特徴とする補強部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体用構造体、補強部材および補強部材の製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばセダン型やワゴン型等の自動車は、車体の骨格の一部を構成するルーフサイドレールを備えることが知られている。また、この自動車には、ルーフサイドレールを補強する補強部材をさらに備える自動車がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、補強部材として、同特許文献1の
図3中に示すパイプ状補強部材や、同特許文献1の
図7中に示す補強部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前者の補強部材であるパイプ状補強部材は、横断面形状がリング状をなす1つの中空部材で構成されている。このような中空部材は、例えば自動車の側方から衝撃を受けた場合、ルーフサイドレールとともに容易に折れ曲がるおそれがある。
また、後者の補強部材は、2つの板状部材を接合して管状に形成した中空部材で構成されている。このような中空部材は、2つの板状部材を接合した分、前記の1つの中空部材で構成されている場合よりも、補強強度が低下する。
以上のように、双方の補強部材は、ルーフサイドレールに対する補強が不十分であった。
【0005】
本発明の目的は、簡単な構成で、ルーフサイドレールを十分に補強することができる車体用構造体、補強部材、および、かかる補強部材を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車体用構造体の一つの態様は、車体の支持部材と、前記車体の支持部材の長手方向に沿って配置され、該車体の支持部材を補強する補強部材と、を備え、前記支持部材は、各々の縁が接合しろである複数の部材を含み、前記複数の部材の各々の前記接合しろが接合され、前記補強部材は、母材から管状体を成形してなる加工物であり、パイプ部と、前記パイプ部の外周側から突出し、前記車体の支持部材の長手方向に形成されたフランジ部と、を有し、前記フランジ部は、前記母材の管壁の一部同士が重なり合って形成されており、前記フランジ部は、前記複数の部材の各々の前記接合しろが接合される部分以外の箇所で、前記車体の支持部材の前記部材に接合される、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の補強部材の一つの態様は、車体の支持部材の長手方向に沿って配置され、該車体の支持部材を補強する補強部材であって、前記支持部材は、各々の縁が接合しろである複数の部材を含み、前記複数の部材の各々の前記接合しろが接合され、母材から管状体を成形してなる加工物であり、パイプ部と、前記パイプ部の外周側から突出し、前記車体の支持部材の長手方向に形成されたフランジ部と、を有し、前記フランジ部は、前記母材の管壁の一部同士が重なり合って形成されており、前記フランジ部は、前記複数の部材の各々の前記接合しろが接合される部分以外の箇所で、前記車体の支持部材に接合される、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の補強部材の製造方法の一つの態様は、本発明の補強部材を製造する方法であって、前記補強部材の母材となる、横断面形状が円形の管状体に対して、外側および内側から力を付与して成形し、横断面形状が非円形のパイプ部と、該パイプ部の外周側から突出したフランジ部とを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フランジ部を有する補強部材を、フランジ部でルーフサイドレールに接合するという簡単な構成で、フランジ部での機械強度が高まることとなり、よって、ルーフサイドレールを十分に補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の車体用構造体(第1実施形態)を備える車両の平面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す車両に対して、ポール側面衝突時の乗員保護試験を行った状態の平面図である。
【
図5】
図5は、従来の車両に対して、ポール側面衝突時の乗員保護試験を行った状態の平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の車体用構造体(第1実施形態)が備える補強部材の製造過程を順に示す図(型開き状態を示す横断面図)である。
【
図7】
図7は、本発明の車体用構造体(第1実施形態)が備える補強部材の製造過程を順に示す図(型締め状態を示す横断面図)である。
【
図8】
図8は、本発明の車体用構造体(第2実施形態)を備える車両の横断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の車体用構造体(第3実施形態)を備える車両の横断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の車体用構造体(第4実施形態)を備える車両の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の車体用構造体、補強部材および補強部材の製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の車体用構造体(第1実施形態)を備える車両の平面図である。
図2は、
図1中の矢印A方向から見た図である。
図3は、
図2中のB-B線断面図である。
図4は、
図1に示す車両に対して、ポール側面衝突時の乗員保護試験を行った状態の平面図である。
図5は、従来の車両に対して、ポール側面衝突時の乗員保護試験を行った状態の平面図である。
図6は、本発明の車体用構造体(第1実施形態)が備える補強部材の製造過程を順に示す図(型開き状態を示す横断面図)である。
図7は、本発明の車体用構造体(第1実施形態)が備える補強部材の製造過程を順に示す図(型締め状態を示す横断面図)である。なお、以下では、説明の都合上、自動車の全長方向をX軸方向、自動車の車幅方向をY軸方向、自動車の車高幅方向をZ軸方向とする。
【0013】
図1、
図2に示すように、自動車10は、車体の骨格を構成する複数の支持部材を備え、これらの支持部材には、2本のルーフサイドレール9と、2本のセンタピラー(Bピラー)11と、1本のルーフレインフォース12とが含まれる。
各ルーフサイドレール9は、自動車10の左右両側にそれぞれ配置される梁部材である。
各センタピラー11は、自動車10の左右両側の中央部にそれぞれ配置される柱部材である。センタピラー11は、ルーフサイドレール9に接合されている。この接合方法としては、特に限定されず、例えば、溶接による方法を用いることができる。
【0014】
ルーフレインフォース12は、自動車10の上部に配置され、2本のルーフサイドレール9の間に架設される梁部材である。ルーフレインフォース12もルーフサイドレール9に接合されている。この接合方法としては、特に限定されず、例えば、センタピラー11とルーフサイドレール9との接合方法と同じ方法を用いることができる。
なお、ルーフサイドレール9、センタピラー11およびルーフレインフォース12は、それぞれ、例えば、アルミニウム等の金属材料で構成されている。
また、自動車10として、本実施形態では、ワゴン型の自動車を一例に説明するが、自動車10については、ワゴン型の自動車に限定されず、例えば、セダン型の自動車、トラック等であってもよい。また、本発明は、自動車10の他の車体についても適用可能である。
【0015】
図3に示すように、ルーフサイドレール9は、サイドアウタ91と、ルーフサイドインナ92と、ルーフサイドアウタ93とを有し、これらが互いに接合された中空体で構成される。
サイドアウタ91は、自動車10の最外装を構成する部材である。サイドアウタ91は、長尺な板部材で構成され、その幅方向両側に位置する縁部がそれぞれ接合しろ911となる。サイドアウタ91の幅方向の中央部912、すなわち、接合しろ911の間の部分である中央部912は、複数個所が所望の形状に湾曲または屈曲して塑性変形した変形部913を有する。また、中央部912の横断面形状は、全体として、自動車10の外側に向かって膨らんだ形状をなす。
【0016】
ルーフサイドインナ92は、自動車10の内装を構成する部材である。ルーフサイドインナ92も、長尺な板部材で構成され、その幅方向両側に位置する縁部がそれぞれ接合しろ921となる。ルーフサイドインナ92の幅方向の中央部922、すなわち、接合しろ921の間の部分である中央部922は、複数個所が所望の形状に湾曲または屈曲して塑性変形した変形部923を有する。また、中央部922の横断面形状は、全体として、自動車10の内側に向かって膨らんだ形状をなす。
【0017】
ルーフサイドアウタ93は、サイドアウタ91とルーフサイドインナ92との間に位置する部材である。ルーフサイドアウタ93も、長尺な板部材で構成され、その幅方向両側に位置する縁部がそれぞれ接合しろ931となる。ルーフサイドアウタ93の幅方向の中央部932、すなわち、接合しろ931の間の部分である中央部932は、複数個所が所望の形状に湾曲または屈曲して塑性変形した変形部933を有する。また、中央部932の横断面形状は、全体として、自動車10の外側に向かって膨らんだ形状をなす。
【0018】
ルーフサイドレール9は、サイドアウタ91の各接合しろ911と、ルーフサイドインナ92の各接合しろ921と、ルーフサイドアウタ93の各接合しろ931とが重なり合った状態で接合されている。この接合方法としては、特に限定されず、例えば、溶接による方法を用いることができ、特に、スポット溶接を用いるのが好ましい。スポット溶接を用いることにより、板部材同士、すなわち、接合しろ911、接合しろ921および接合しろ931を一括して迅速かつ容易に接合することができる。以下、接合しろ911、接合しろ921および接合しろ931が一括接合された部分を「接合部94」という。
【0019】
ルーフサイドレール9では、2つの接合部94のうちの一方の接合部94Aがドア13側に位置し、他方の接合部94Bがルーフパネル14側に位置する。また、接合部94Bは、ルーフパネル14の下側(裏側)に接合される。この接合方法にもスポット溶接を用いることができる。
【0020】
図3に示すように、ルーフサイドレール9内には、ルーフサイドレール9を補強する補強部材3が配置されている。補強部材3は、ルーフサイドレール9の一部として用いられるルーフサイドレール用部材2とともに車体用構造体1を構成する。以下、車体用構造体1について説明する。
【0021】
車体用構造体1は、ルーフサイドレール用部材2と、ルーフサイドレール用部材2に接合される補強部材3とを備えている。
本実施形態では、補強部材3が接合されるルーフサイドレール用部材2は、サイドアウタ91、ルーフサイドインナ92およびルーフサイドアウタ93のうちのルーフサイドインナ92となる。そして、ルーフサイドインナ92は、補強部材3が接合されたことにより、補強されて、外力に対する機械的強度が向上する。特に、ルーフサイドレール9(ルーフサイドインナ92)は、自動車10が側方からの衝突を受けた際、その衝撃に対する耐性が望まれる。そこで、補強部材3は、ルーフサイドレール9の耐衝撃性を向上させる機能を有する。
【0022】
ルーフサイドレール9の耐衝撃性を評価するのに際して、車両等の型式認定相互承認協定に基づく規則第135号に規定の「ポール側面衝突時の乗員保護試験(以下単に「乗員保護試験」という)」が行われることがある。
図4に示すように、乗員保護試験は、例えば車幅が1.5m以下の自動車10の場合、当該自動車10のフロント側に乗っている乗員CRの頭部HDが想定される位置に向かって、電柱等を模したポール(インパクタ)20を衝突させる。このときの衝突角度θ
20は、X軸方向と平行な軸OXに対して75°である。衝突速度V
20は、32km/hである。また、ポール20の直径φd
20は、254mmである。
【0023】
図3、
図4に示すように、補強部材3は、管状をなし、ルーフサイドインナ92(ルーフサイドレール用部材2)の長手方向に沿って配置されている。後述するように、補強部材3は、当該補強部材3の母材3’となる、横断面形状が円形の1本の管状体を成形してなる成形体、すなわち、加工物である。これにより、補強部材3は、例えば複数の部材を接合した接合体で構成されている場合よりも、補強部材3自体の機械的強度が高まる。
【0024】
そして、母材3’からの加工物である補強部材3は、横断面形状が非円形のリング状をなすパイプ部(リング状部)31と、パイプ部31の外周側から突出したフランジ部32とを有する。
パイプ部31は、補強部材3の中でフランジ部32よりも占有率(体積比率)が高い。
【0025】
フランジ部32は、補強部材3の外周部に突出し、ルーフサイドインナ92の長手方向に沿って、補強部材3の全長にわたって板状に形成された突出片である。このフランジ部32は、母材3’が潰されて、母材3’の管壁の一部同士が重なり合った重なり部となっている。また、フランジ部32の突出方向は、自動車10の側面外方、すなわち、ポール20の衝突方向と反対のY軸方向負側に臨む。
【0026】
フランジ部32は、ルーフサイドインナ92に接合される。この接合箇所としては、ルーフサイドインナ92(ルーフサイドレール用部材2)の補強部材3と異なる他の部材、すなわち、サイドアウタ91、ルーフサイドアウタ93と一括して接合される接合しろ921以外の箇所であり、本実施形態では、中央部922である。
【0027】
また、フランジ部32は、ルーフサイドレール用部材2に溶接により接合される。そして、この溶接には、例えば、スポット溶接を用いることができる。これにより、ルーフサイドインナ92と補強部材3とが自動車10の一部として組み込まれる以前に、ルーフサイドインナ92の中央部922と補強部材3のフランジ部32とを、スポット溶接で用いられる陽極15と陰極16との間で挟持した状態で電圧を印加して(
図3中の二点鎖線で示す陽極15および陰極16参照)、これらを迅速かつ容易に接合することができる。なお、中央部922とフランジ部32とは、板状となった部分の積層体となるため、スポット溶接が可能となる。
【0028】
以上のような構成の補強部材3が接合されたルーフサイドレール9(ルーフサイドインナ92)に対して乗員保護試験を行った場合(
図4参照)と、補強部材3が省略されたルーフサイドレール9に対して乗員保護試験を行った場合(
図5参照)とを比較してみる。
図4に示すように、前者の乗員保護試験の場合、ルーフサイドレール9は、ポール20が衝突した瞬間の衝突点O
9を中間点として、ルーフサイドレール9の長手方向に沿った直線状の所定の範囲AR
9が自動車10の内側へ入り込むが、乗員CRの頭部HDに至るまで入り込むのが防止されている(衝突後のルーフサイドレール9の状態を二点鎖線で示す)。これにより、乗員CRの頭部HDが保護される。
【0029】
これに対し、
図5に示すように、後者の乗員保護試験の場合、ルーフサイドレール9は、衝突点O
9で折れ曲がって自動車10の内側へ入り込み、乗員CRの頭部HDに至ってしまう(衝突後のルーフサイドレール9の状態を二点鎖線で示す)。
【0030】
以上のように、補強部材3は、乗員保護試験を行った際、ルーフサイドレール9(ルーフサイドレール用部材2)の自動車10の内側への不本意な折れ曲がりを防止または抑制する部材となっている。これにより、衝突時に乗員CRの頭部HDを保護することができる。従って、フランジ部32付きの補強部材3をルーフサイドレール9に接合するという簡単な構成で、ルーフサイドレール9を十分に補強することができ、よって、自動車10の衝突安全性能が高まる。
【0031】
また、フランジ部32は、ルーフサイドインナ92(ルーフサイドレール用部材2)の補強部材3と異なる他の部材、すなわち、サイドアウタ91およびルーフサイドアウタ93と接合される以外の箇所で、ルーフサイドインナ92に接合される。これにより、板状のフランジ部32の突出方向を、自動車10の側面外方、すなわち、ポール20の衝突方向と反対のY軸方向負側に臨ませることができる。そして、この板状のフランジ部32を幅方向に衝突点O9で折れ曲げるのは極めて困難である。これにより、補強部材3の機械的強度がさらに向上して、衝突時にルーフサイドレール9が不本意に自動車10の内側へ折れ曲がるのを十分に防止または抑制することができる。
【0032】
また、フランジ部32は、ルーフサイドインナ92のみと接合されるため、その接合にスポット溶接を用いることができる。この場合、スポット溶接が容易となり、また、溶接後のフランジ部32とルーフサイドインナ92との接合状態を長期にわたって強固に維持することができる。
【0033】
図4に示すように、補強部材3の一部は、センタピラー11の延長線O
11と重なる。これにより、衝突時にルーフサイドレール9がルーフレインフォース12で内側に折れ曲がる(
図5中の二点鎖線で示す衝突後のルーフサイドレール9参照)のを防止することができ、乗員CRの頭部HDの保護に寄与する。なお、延長線O
11は、ルーフレインフォース12とも重なる。
また、補強部材3の全長は、ルーフサイドインナ92(ルーフサイドレール用部材2)の全長よりも短い。これにより、ルーフサイドインナ92の補強したい部分に対して、重点的に(優先的に)過不足なく補強することができる。
【0034】
前述したように、補強部材3は、ルーフサイドレール9の内側に配置されている。これに対し、補強部材3がルーフサイドレール9の外側に配置されている例として、補強部材3が自動車10の外側に配置されている場合、補強部材3が目立ち、自動車10の外観が損なわれるおそれがある。また、補強部材3がルーフサイドレール9の外側に配置されている他の例として、補強部材3が自動車10の内側(車内)に配置されている場合、自動車10の居住空間が狭くなり、車内での居住性が損なわれるおそれがある。しかしながら、補強部材3がルーフサイドレール9の内側に配置されていることにより、自動車10の外観が損なわれたり、居住性が損なわれたりするのを防止することができる。
なお、補強部材3は、例えば、Fe-C系合金等の金属材料で構成されている。
【0035】
次に、補強部材3を製造する方法について説明する。この製造方法では、成形装置8を用いる。
図6、
図7に示すように、成形装置8は、上金型81と、下金型82と、気体供給部83と、加熱部84と、冷却部85と、駆動部86と、制御部87とを備える。
【0036】
下金型82は、固定され、上金型81は、下金型82に対して接近、離間可能に支持される。
図6に示すように、上金型81と下金型82とは、型開き状態で、上金型81と下金型82との間に母材3’を配置することができる。また、
図7に示すように、上金型81と下金型82とは、型締め状態で、パイプ部31を形成する第1キャビティ88と、フランジ部32を形成する第2キャビティ89とを画成することができる。
【0037】
気体供給部83は、母材3’内に高圧空気を供給する。これにより、型締め状態での母材3’の過剰な潰れを防止することができる。気体供給部83の構成としては、特に限定されず、例えば、コンプレッサを有する構成とすることができる。
加熱部84は、母材3’を加熱する。加熱部84の構成としては、特に限定されず、例えば、母材3’に電気的に接続される2つの電極と、これらの電極間に電圧を印可する電圧印加部とを有する構成とすることができる。これにより、母材3’を通電状態として、母材3’を加熱して軟化させることができる。
【0038】
冷却部85は、補強部材3(母材3’)を急冷却する。冷却部85の構成としては、特に限定されず、例えば、上金型81および下金型82にそれぞれ設けられ、冷媒が通過する流路を有する構成とすることができる。そして、冷媒が流路を通過した際、上金型81および下金型82ごと、補強部材3を急冷却することができる。なお、冷媒は、液体、気体いずれでもよい。
【0039】
駆動部86は、上金型81を移動させて、上金型81を下金型82に対して接近、離間させることができる。これにより、型開き状態と、型締め状態とを切り換えることができる。駆動部86の構成としては、特に限定されず、例えば、モータと、モータに接続されたボールねじと、ボールねじに接続されたリニアガイドとを有する構成とすることができる。
制御部87は、気体供給部83、加熱部84、冷却部85、駆動部86の作動を制御する。制御部87の構成としては、特に限定されず、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、各種メモリとを有する構成とすることができる。
【0040】
成形装置8は、以下のように作動する。
まず、
図6に示すように、上金型81と下金型82とを型開き状態として、上金型81と下金型82との間に母材3’を配置する。
次いで、型開き状態のまま、加熱部84を作動させる。これにより、母材3’を軟化させることができる。
【0041】
次いで、上金型81を下金型82に接近させた状態とする。この状態は、
図7に示す型締め状態には至らず、上金型81と下金型82との間に隙間が形成された状態である。そして、気体供給部83を作動させて、1次ブローを行う。これにより、上金型81と下金型82との間の前記隙間に母材3’の一部が膨出して入り込む。
【0042】
次いで、
図7に示す型締め状態として、気体供給部83を作動させて、2次ブローを行う。これにより、母材3’は、補強部材3の形状に向かって変形することができる、すなわち、パイプ部31とフランジ部32とを有する補強部材3となる。
【0043】
次いで、冷却部85を作動させて、補強部材3を急冷却する。これにより、補強部材3では、オーステナイトがマルテンサイトに変態する。
次いで、再度型開き状態として、補強部材3を取り出す。その後、補強部材3を所望の長さに切断して、ルーフサイドレール用部材2に接合することができる。
【0044】
<第2実施形態>
図8は、本発明の車体用構造体(第2実施形態)を備える車両の横断面図である。
以下、この図を参照して本発明の車体用構造体、補強部材および補強部材の製造方法の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、補強部材3が接合される相手側が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0045】
図8に示すように、本実施形態の車体用構造体1では、補強部材3が接合されるルーフサイドレール用部材2は、サイドアウタ91、ルーフサイドインナ92およびルーフサイドアウタ93のうちのルーフサイドアウタ93となる。この場合、補強部材3のフランジ部32は、ルーフサイドアウタ93の中央部932に接合される。
【0046】
また、補強部材3は、第1実施形態での補強部材3と姿勢が異なり、上下反転されて配置された状態となっている。そして、補強部材3のフランジ部32の突出方向は、Y軸方向正側に臨む。これにより、前記第1実施形態と同様に、フランジ部32を幅方向に折れ曲げるのは極めて困難となり、よって、補強部材3の機械的強度がさらに向上して、衝突時にルーフサイドレール9が不本意に自動車10の内側へ折れ曲がるのを十分に防止または抑制することができる。
以上のような車体用構造体1は、補強部材3をルーフサイドアウタ93に接合したい場合に有効な構成となる。
【0047】
<第3実施形態>
図9は、本発明の車体用構造体(第3実施形態)を備える車両の横断面図である。
以下、この図を参照して本発明の車体用構造体、補強部材および補強部材の製造方法の第3実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、補強部材3の構成(形状)が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0048】
図9に示すように、本実施形態では、補強部材3は、2つのフランジ部32を有する。各フランジ部32は、パイプ部31を介して、その両側にそれぞれ配置されている。
また、2つのフランジ部32の一方のフランジ部32Aの突出方向は、Y軸方向負側に臨んでおり、他方のフランジ部32Bの突出方向は、上側(Z軸方向正側)に臨んでいる。
以上のような構成の補強部材3は、2つのフランジ部32を有する分、第1実施形態での補強部材3よりも機械的強度が増加する。これにより、ルーフサイドレール9の耐衝撃性をさらに向上させることができる。
【0049】
<第4実施形態>
図10は、本発明の車体用構造体(第4実施形態)を備える車両の横断面図である。
以下、この図を参照して本発明の車体用構造体、補強部材および補強部材の製造方法の第4実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、補強部材3が接合される相手側が異なること以外は前記第3実施形態と同様である。
【0050】
図10に示すように、本実施形態の車体用構造体1では、補強部材3が接合されるルーフサイドレール用部材2は、ルーフサイドアウタ93となる。
また、補強部材3は、第3実施形態での補強部材3と姿勢が異なり、上下反転されて配置された状態となっている。そして、補強部材3のフランジ部32Aの突出方向は、Y軸方向正側に臨み、フランジ部32Bの突出方向は、下側(Z軸方向負側)に臨む。
【0051】
以上のような車体用構造体1は、補強部材3をルーフサイドアウタ93に接合したい場合に有効な構成となる。
【0052】
以上、本発明の車体用構造体、補強部材および補強部材の製造方法を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。また、車体用構造体、補強部材を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、本発明の車体用構造体、補強部材および補強部材の製造方法は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0053】
また、補強部材3が接合されるルーフサイドレール用部材2は、第1実施形態および第3実施形態ではルーフサイドインナ92となり、第2実施形態および第4実施形態ではルーフサイドアウタ93となるが、これらに限定されず、サイドアウタ91として用いられる場合であってもよい。
また、補強部材3は、ルーフサイドレール9の内側に配置されているが、これに限定されず、ルーフサイドレール9の外側に配置されていてもよい。
また、成形装置8により、フランジ部32の厚さを適宜調整することもできる。これにより、フランジ部32の接合箇所を、例えば、ルーフサイドインナ92とルーフサイドアウタ93と間とすることもできる。
【符号の説明】
【0054】
10 自動車
1 車体用構造体
2 ルーフサイドレール用部材
3 補強部材
3’ 母材
31 パイプ部(リング状部)
32、32A、32B フランジ部
8 成形装置
81 上金型
82 下金型
83 気体供給部
84 加熱部
85 冷却部
86 駆動部
87 制御部
88 第1キャビティ
89 第2キャビティ
9 ルーフサイドレール
91 サイドアウタ
911 接合しろ
912 中央部
913 変形部
92 ルーフサイドインナ
921 接合しろ
922 中央部
923 変形部
93 ルーフサイドアウタ
931 接合しろ
932 中央部
933 変形部
94、94A、94B 接合部
11 センタピラー(Bピラー)
12 ルーフレインフォース
13 ドア
14 ルーフパネル
15 陽極
16 陰極
20 ポール(インパクタ)
AR9 範囲
CR 乗員
φd20 直径
HD 頭部
OX 軸
O9 衝突点
O11 延長線
V20 衝突速度
θ20 衝突角度