(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】マット材及び排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
F01N3/28 311N
(21)【出願番号】P 2019237445
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 達也
(72)【発明者】
【氏名】向後 雄太
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149604(JP,A)
【文献】特開2007-162583(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108868984(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも無機繊維によって構成されたマット材であって、
前記マット材は厚さ方向に貫通する貫通孔を有するとともに、
前記マット材は平面視において、通常領域と、前記貫通孔の周縁の少なくとも一部から当該マット材の外縁の少なくとも一部に渡って連続的に形成され、かつ、前記通常領域より強度の高い補強領域と、を含
み、
前記補強領域には、前記通常領域を構成する材料より強度の高い補強材が埋め込まれている、
マット材。
【請求項2】
前記補強材が、有機材料、無機材料及び金属材料のうち少なくとも1つからなる、
請求項
1に記載のマット材。
【請求項3】
前記マット材は、平面視において長手方向及び当該長手方向に垂直な幅方向を有する平面視略矩形であって、
前記補強領域は、前記長手方向に沿った前記周縁の少なくとも全長に渡って形成される、
請求項1
又は2に記載のマット材。
【請求項4】
少なくとも2つの前記補強領域が、前記幅方向における前記貫通孔の両側に形成される、
請求項
3に記載のマット材。
【請求項5】
前記補強領域及び前記通常領域は、互いに別部材でない一体のマットから形成される、請求項1~
4のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項6】
前記マット材は平面視において、前記通常領域の面積が前記補強領域の面積より大きい、請求項1~
5のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項7】
前記マット材は、給湯器、オーブンレンジ、ガスコンロ、バーナー試験機、加熱試験機、内燃機関及び焼成炉のいずれかから選択される装置の一つに適用される、
請求項1~
6のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項8】
排ガス処理体と、
前記排ガス処理体を収容するケーシングと、
前記排ガス処理体と前記ケーシングとの間に配置され、前記排ガス処理体を保持するマット材と、を備える排ガス浄化装置であって、
前記マット材は、請求項1~
7のいずれか1項に記載のマット材である、
排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット材及び排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の内燃機関から排出された排ガス中に含まれる有害ガス等の有害物質を浄化するため、内燃機関の排気通路(排ガスが流通する排気管等)には、排ガス浄化装置が設けられている。排ガス浄化装置は、内燃機関の排気通路にケーシングを設け、ケーシングの中に排ガス処理体を配置した構造となっている。排ガス処理体の一例としては、触媒担体又はディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が挙げられる。排ガス処理体に触媒が担持された排ガス浄化装置による有害物質の浄化効率を高めるためには、内燃機関の排気通路及び排ガスの温度を触媒活性化に適した温度(以下、「触媒活性化温度」もいう。)に維持する必要がある。
【0003】
上述した通り、排ガス処理体に触媒が担持された排ガス浄化装置は、所定の触媒活性化温度に達するまで昇温した状態でないと、充分な触媒作用を奏することができない。したがって、エンジン始動直後の排ガス浄化装置では、排ガス浄化性能が充分なレベルに達するまでにある程度の時間がかかるという問題がある。
【0004】
このような問題に対して、エンジン始動直後に排出される有害物質を低減させることを目的として、触媒を急速に加熱する電気加熱触媒コンバータ(EHC;Electrically Heated Catalyst)が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体をケーシング内に備え、電極部材等がケーシングの孔と保持シール材の貫通部を通過するように設けられている排ガス浄化装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、尿素SCRシステムに用いる排ガス浄化装置に適用した際に、長期間の使用後にも高い保持力を保つことのできる保持シール材として、マット状であり、尿素を吸着させるための吸着部と、排ガス保持体を保持するための保持部とからなり、上記吸着部の長側面と上記保持部の長側面が空間を介して互いに対向しており、上記吸着部と上記保持部が連結部を介して連結されており、上記吸着部の幅が上記保持部の幅よりも小さいものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-149604号公報
【文献】国際公開第2010/004637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1においては、保持シール材であるマット材に貫通部である貫通孔が形成され、貫通孔を通過するように排ガス処理体加熱用の電極部材が配置される。排ガス浄化装置の製造においては、排ガス処理体とマット材をケーシングに挿入する工程が存在するが、挿入の際に貫通孔に隣接したマット材の本体の一部が変形しやすく、貫通孔に向けて当該部分が変形し、円滑なケーシングへの挿入が妨げられるおそれがある。
また、特許文献2においても同様に、保持シール材であるマット材に貫通部が形成されているため、特許文献1のマット材と同様の課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、貫通孔が形成されたマット材であっても、排ガス処理体への巻き付けの容易性を確保するとともに、ケーシングに挿入する際の変形を抑制することの可能なマット材を提供する。
【0010】
本発明のマット材は、少なくとも無機繊維によって構成されたマット材であって、前記マット材は厚さ方向に貫通する貫通孔を有するとともに、前記マット材は平面視において、通常領域と、前記貫通孔の周縁の少なくとも一部から当該マット材の外縁の少なくとも一部に渡って連続的に形成され、かつ、前記通常領域より強度の高い補強領域と、を含む。
【0011】
本発明のマット材は、例えば、平面視において長手方向及び当該長手方向に垂直な幅方向を有する平面視略矩形であって、前記補強領域は、前記長手方向に沿った前記周縁の少なくとも全長に渡って形成される。
【0012】
本発明のマット材は、例えば、少なくとも2つの前記補強領域が、前記幅方向における前記貫通孔の両側に形成される。
【0013】
本発明のマット材は、例えば、前記補強領域及び前記通常領域は、互いに別部材でない一体のマットから形成される。
【0014】
本発明のマット材は、例えば、前記マット材は、前記通常領域及び前記補強領域に有機バインダ又は無機バインダを含有し、前記補強領域における当該有機バインダ又は当無機バインダの含有量が、前記通常領域の当該有機バインダ又は当無機バインダの含有量より多い。
【0015】
本発明のマット材は、例えば、前記通常領域及び前記補強領域にニードルパンチング処理がされており、前記補強領域における当該ニードルパンチング処理の密度が、前記通常領域の当該ニードルパンチング処理の密度より高い。
【0016】
本発明のマット材は、例えば、前記補強領域には、前記通常領域を構成する材料より強度の高い補強材が埋め込まれている。
【0017】
本発明のマット材は、例えば、前記補強材が、有機材料、無機材料及び金属材料のうち少なくとも1つからなる。
【0018】
本発明のマット材は、例えば、平面視において、前記通常領域の面積が前記補強領域の面積より大きい。
【0019】
本発明のマット材は、例えば、給湯器、オーブンレンジ、ガスコンロ、バーナー試験機、加熱試験機、内燃機関及び焼成炉のいずれかから選択される装置の一つに適用される。
【0020】
本発明の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、前記排ガス処理体を収容するケーシングと、前記排ガス処理体と前記ケーシングとの間に配置され、前記排ガス処理体を保持する上述のいずれかのマット材と、を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、通常領域より強度の高い補強領域が特定の位置に形成されており、排ガス処理体への巻き付けの容易性を確保するとともに、ケーシングに挿入する際の変形を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係るマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示す排ガス浄化装置のA-A線断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置を構成するケーシングの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)及び
図6(d)は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の第二実施形態に係るマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の第三実施形態に係るマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0024】
(第一実施形態)
以下、本発明のマット材、排ガス浄化装置、及び、排ガス浄化装置の製造方法の一実施形態である第一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
まず、本発明の第一実施形態に係るマット材について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係るマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すマット材10Aは、少なくともアルミナ-シリカ繊維等の無機繊維からなり、マット状である。より詳細には、マット材10Aは、所定の長さ(
図1中、矢印L
1で示す)、幅(
図1中、矢印W
1で示す)、及び、厚さ(
図1中、矢印T
1で示す)を有する平面視略矩形の平板状の形状を有している。また、マット材10Aは、マット材10Aの幅W
1方向に平行な第1の端面11(11a、11b及び11c)、並びに、第2の端面12(12a、12b及び12c)を有している。さらに、マット材10Aは、貫通孔14aを有している。
本明細書において、「マット材の長手方向の長さ」とは、マット材の長さ方向における、第1の端面と第2の端面との距離をいうこととする。「マット材の長手方向の長さ」を、単に「マット材の長さ」とも記載する。また、マット材10Aの平面視において、長手方向L
1(矢印L
1の方向)、幅方向W
1(矢印W
1の方向)、厚さ方向T
1(矢印T
1の方向)がそれぞれ定義される。
【0026】
本実施形態のマット材では、上記第1の端面及び上記第2の端面には、それぞれ、少なくとも1つの突出部からなる段差が設けられている。
図1に示すマット材10Aでは、第1の端面11に2つの突出部13a及び13cが形成されており、第2の端面12に1つの突出部13bが形成されている。なお、マット材10Aの第1の端面11と第2の端面12とを当接させた際、突出部13bが形成する凸部と、突出部13a及び13cが形成する凹部とは嵌合される。このように、
図1に示すマット材10Aには、第1の端面11及び第2の端面12にそれぞれ3段の段差が設けられている。
図2は、
図1に示すマット材の平面図である。
図2には、マット材10Aに形成されている突出部13a、13b及び13cの具体的な位置を示している。
なお、本実施形態のマット材では、嵌合される突出部13a、突出部13b及び13cの形状として、いわゆる凹凸型を採用しているが、公知形状であるL字型の嵌合部を有する形状であってもよい。
【0027】
本明細書において、「突出部」とは、以下の領域を指すこととする。マット材の端面(第1の端面又は第2の端面)において、各段差の始点が属する端面と該段差の終点が属する端面との間の領域に存在するマット材の部分を「突出部」ということとする。したがって、マット材の突出部は、マット材の第1の端面側及び第2の端面側にそれぞれ存在する。
【0028】
本実施形態のマット材では、マット材の長さ方向において、突出部の長さは略等しいことが好ましい。つまり、マット材のいずれの部分においても、第1の端面と第2の端面との距離が略等しいことが好ましい。
図1に示すマット材10Aでは、マット材10Aの長さL
1方向において、突出部13aの長さ(
図1中、矢印X
1で示す)、突出部13bの長さ(
図1中、矢印X
2で示す)、及び、突出部13cの長さ(
図1中、矢印X
3で示す)がいずれも略等しくなっている。したがって、
図1に示すマット材10Aは、一定の長さL
1を有している。なお、「略等しい」とは、完全に同じ長さでないことを許容するものであり、実質的に同じ長さと同視し得る場合を含む。
【0029】
本実施形態のマット材には、少なくとも1つの貫通孔が形成されている。また、1つの貫通孔は、マット材の厚さ方向にマット材を貫通するように形成されている。
【0030】
本実施形態のマット材において、貫通孔が形成されている位置は特に限定されないが、突出部以外の部分に形成されていることが好ましい。
【0031】
本実施形態のマット材において、マット材の貫通孔の形状としては、例えば、略円柱状、略角柱状、略楕円柱状、略円錐台状、略直線と略円弧で囲まれた底面を有する柱状等が挙げられ、貫通孔の断面の形状としては、例えば、略円形状、略四角形状等の略多角形状、略楕円形状、略長円形状(略レーストラック形状)等が挙げられる。本実施形態のマット材を用いて排ガス浄化装置を製造する場合、マット材の貫通孔の断面の形状を電極部材等の断面形状に合わせることができる。なお、貫通孔の断面とは、マット材の主面に平行な方向の断面をいう。また、本明細書において、「略円柱状」、「略円形状」、「略垂直」、「略平行」等の語は、数学的に厳密な形状でないことを許容するものであり、「円柱状」、「円形状」、「垂直」、「平行」等の形状と実質的に同視し得る形状を含む。
【0032】
本実施形態のマット材において、マット材の貫通孔の断面の径は、1~100mmであることが好ましく、20~40mmであることがより好ましい。マット材の貫通孔の断面の径が、1mm未満であると、マット材の貫通孔の断面積が小さすぎるため、マット材を排ガス浄化装置に用いる際に、マット材の貫通孔に電極部材等を配置することが困難である。一方、マット材の貫通孔の断面の径が、100mmを超えると、マット材の面積が小さくなりすぎるため、保持シール材としてのマット材の保持力が低下してしまう。また、マット材の貫通孔の断面の径が、100mmを超えると、マット材の幅方向に占めるマット材の面積が減少するために、マット材の引っ張り強度が低下してしまう。
【0033】
また、本実施形態のマット材において、マット材の貫通孔の断面の面積は、1~10000mm2であることが好ましく、400~1600mm2であることがより好ましい。マット材の貫通孔の断面の面積が、1mm2未満であると、マット材を排ガス浄化装置に用いる際に、電極部材及び/又はセンサーを配置するために充分な面積を確保することができない。一方、マット材の貫通孔の断面の面積が、10000mm2を超えると、マット材の面積が小さくなりすぎるため、マット材の保持力が低下してしまう。
【0034】
なお、貫通孔の断面の径とは、マット材の厚み方向に垂直な部分における径のことであり、貫通孔の断面形状が円形状以外の場合には、断面の中心を通る最大長さのことをいう。貫通孔の断面の径とは、例えば、貫通孔が略円柱状である場合にはその断面の直径、略楕円柱状である場合にはその断面の長径、略四角柱状や略多角柱状である場合にはその断面の最も長い部分の長さをいう。貫通孔が略円錐台状である場合には、大きい方の円の直径をいう。
【0035】
図1に示すマット材10Aにおいて、貫通孔14aの形状は、略角柱状であり、貫通孔14aの断面の形状は、略四角形状である。
【0036】
さらに本実施形態のマット材10Aは、その平面視において、通常領域16と、貫通孔14aの周縁14a1の少なくとも一部からマット材10Aの外縁18の少なくとも一部に渡って連続的に形成され、通常領域16より強度の高い補強領域15aとを含むように構成される。ここで通常領域16は、補強領域15a以外のマット材10Aの他の領域を指す。そして、マット材10Aの特定の位置に補強領域15aが形成され、その強度は通常領域16より高くなるように設定されている。本実施形態では、突出部13a、13b及び13cも通常領域16に含まれ得る。
【0037】
一般的に、マット材には、有機バインダ又は無機バインダ等のバインダを付与することができる。マット材に付与されたバインダによって、マット材を構成する無機繊維同士を互いに固着することができ、マット材をケーシングに圧入する際のマット材の嵩を低減させたり、無機繊維の飛散を防止したりすることができる。また、有機バインダ又は無機バインダの含有量を増やすことにより、マット材の強度を向上させることができる。
本実施形態のマット材10Aは、通常領域16及び補強領域15aの双方に有機バインダ又は無機バインダを含有し、補強領域15aにおける有機バインダ又は無機バインダの含有量が、通常領域16の有機バインダ又は無機バインダの含有量より多くなっている。なお、通常領域16における有機バインダ又は無機バインダの含有量がゼロ(すなわち、通常領域16に有機バインダ又は無機バインダを含まない)であってもよい。
【0038】
添加する有機バインダは、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。上記有機バインダの中では、ゴム系樹脂(ラテックス)等が好ましい。有機バインダを含有する有機バインダ含有液としては、例えば、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体を溶解させた溶液、アクリルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム又はスチレン-ブタジエンゴムを水に分散させたラテックス等が挙げられる。
【0039】
添加する無機バインダも、特に限定されるものではなく、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、イットリア、セリア、亜鉛、マグネシア、ジルコニア、更にはこれらから選択された、もしくは、これらの組み合わせからなるコロイダルゾル等が挙げられる。
【0040】
本実施形態のマット材の製造方法の一例について説明する。例えば、紡糸法により、無機繊維を絡み合わせて作製した素地マットを所望の形状に打ち抜く方法等によりマット材を製造した後、製造したマット材を打ち抜き刃等を用いて所定の形状に打ち抜くことにより貫通孔を形成する方法、及び、素地マットを打ち抜く際に、貫通孔も合わせて打ち抜く方法等が考えられる。以上のような方法により、本実施形態のマット材を製造することができる。
また、本実施形態のマット材は、抄造又は立体成形により製造されるものであってもよい。
【0041】
次に、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置について説明する。
図3(a)は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視断面図である。
図3(b)は、
図3(a)に示す排ガス浄化装置のA-A線断面図である。
図3(a)及び
図3(b)に示す排ガス浄化装置100は、ケーシング120と、ケーシング120内に収容された排ガス処理体130と、排ガス処理体130及びケーシング120の間に配置されたマット材110とを備えている。排ガス浄化装置100は、排ガス処理体130と接続し、マット材110を通過し、かつ、ケーシング120を貫通するセンサー140aをさらに備えている。マット材110は、排ガス処理体130の周囲に巻き付けられており、マット材110によって排ガス処理体130が保持されている。すなわち、マット材110は、所定の保持力により排ガス処理体130を保持するとともに、排ガス処理体130とケーシング120をシールする保持シール材として機能する。ケーシング120の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と排ガス処理体を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続される。
【0042】
本実施形態の排ガス浄化装置を構成するマット材について説明する。本実施形態の排ガス浄化装置では、本実施形態のマット材が用いられている。
図3(a)及び
図3(b)に示す排ガス浄化装置100では、マット材110として、
図1に示したマット材10Aが用いられている例を示している。
図3(a)及び
図3(b)に示すように、排ガス処理体130の周囲に巻き付けられたマット材110には、貫通孔114aが形成されている。そして、この貫通孔114aにセンサー140aが配置されている。なお、センサー140aの代わりに電極部材等を配置してもよい。
【0043】
本実施形態の排ガス浄化装置において、マット材の第1の端面及び第2の端面は、隙間なく当接していてもよいし、所定の隙間が形成されていてもよい。マット材の当接部における第1の端面及び第2の端面の間に隙間が形成されていると、上記隙間に電極部材及び/又はセンサーを配置することができる。マット材の第1の端面及び第2の端面の間に隙間が形成されている場合、マット材の第1の端面と第2の端面との間の距離は、100mm以下であることが好ましく、20~100mmであることがより好ましく、20~40mmであることがさらに好ましい。マット材の第1の端面と第2の端面との間の距離が、100mmを超えると、排ガス処理体に接触するマット材の面積が少なくなるため、マット材が排ガス処理体を保持しにくくなる。マット材の当接部における第1の端面と第2の端面との間の距離が、20mm未満であると、隙間の大きさが小さすぎるため、上記隙間に電極部材及び/又はセンサーを配置しにくくなる。
【0044】
本実施形態の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体について説明する。
図4は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の一例を模式的に示す斜視図である。
図4には、排ガス処理体の一例として、触媒担体の例を示している。
【0045】
図4に示す排ガス処理体130は、主に多孔質セラミックからなり、その形状は略円柱状である。また、排ガス処理体130の外周には、排ガス処理体130の外周部を補強したり、形状を整えたり、排ガス処理体130の断熱性を向上させたりする目的で、コート層133が設けられている。なお、コート層は、必要に応じて設けられていればよい。
【0046】
図4に示す排ガス処理体130は、隔壁132を隔てて長手方向(
図4中、両矢印aで示した方向)に多数の貫通孔131が並設されたハニカム構造体となっている。排ガス処理体130では、ハニカム構造体の隔壁132に、排ガス中に含まれるCO、HC、NOx等の有害なガス成分を浄化するための触媒が担持されている。上記触媒としては、例えば、白金等が挙げられる。
【0047】
本実施形態の排ガス浄化装置を構成するケーシングについて説明する。
図5は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置を構成するケーシングの一例を模式的に示す斜視図である。
図5に示すケーシング120は、主にステンレス等の金属からなり、その形状は、略円筒状である。ケーシング120には、センサーを貫通させるための孔121aが設けられている。ケーシング120の内径は、
図4に示す排ガス処理体130の端面の直径と、排ガス処理体130に巻き付けられた状態のマット材の厚さとを合わせた長さより若干短くなっている。なお、ケーシングの長さは、排ガス処理体の長手方向における長さより若干長くなっていてもよいし、排ガス処理体の長手方向における長さと略同一であってもよい。
【0048】
図3(a)及び
図3(b)に示した排ガス浄化装置100において、マット材110の貫通孔114aの位置は、ケーシング120の孔121aの位置と一致している。そして、センサー140aは、マット材110の貫通孔114a及びケーシング120の孔121aに配置されている。
【0049】
本実施形態の排ガス浄化装置を構成するセンサーについて説明する。本実施形態の排ガス浄化装置において、センサーの種類は特に限定されないが、例えば、排ガス浄化装置又は雰囲気の温度を測定するための温度センサー、酸素センサー等が挙げられる。これらのセンサーは、マット材の貫通孔に配置される限り、単独で用いられてもよいし、複数のセンサーを組み合わせて用いられてもよい。
【0050】
以下、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)及び
図6(d)は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)及び
図6(d)では、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の製造方法の一例として、
図3(a)及び
図3(b)に示した排ガス浄化装置100の製造方法について説明する。
【0051】
まず、
図6(a)に示すように、マット材110を排ガス処理体130の周囲に巻き付けることにより、巻付体(マット材が巻き付けられた排ガス処理体)160を作製する巻き付け工程を行う。マット材110として、
図1に示したマット材10Aを用いる。
図6(a)において、マット材110には、貫通孔114aが形成されている。
【0052】
次に、
図6(b)に示すように、作製した巻付体160を、略円筒状のケーシング120に収容する収容工程を行う。巻付体をケーシングに収容する方法としては、圧入方式(スタッフィング方式)、サイジング方式(スウェージング方式)、及び、クラムシェル方式等が挙げられる。圧入方式(スタッフィング方式)では、圧入治具等を用いて、ケーシングの内部の所定の位置まで巻付体を圧入する。サイジング方式(スウェージング方式)では、巻付体をケーシングの内部に挿入した後、ケーシングの内径を縮めるように外周側から圧縮する。クラムシェル方式では、ケーシングを、第1のケーシング及び第2のケーシングの2つの部品に分離可能な形状としておき、巻付体を第1のケーシング上に載置した後に第2のケーシングを被せて密封する。巻付体をケーシングに収容する方法の中では、圧入方式(スタッフィング方式)又はサイジング方式(スウェージング方式)が好ましい。圧入方式(スタッフィング方式)又はサイジング方式(スウェージング方式)では、ケーシングとして2つの部品を用いる必要がないため、製造工程の数を少なくすることができるからである。
【0053】
図6(b)では、圧入治具170を用いて、巻付体160をケーシング120に圧入する方法を示している。圧入治具170は、全体として略円筒状であり、その内部が一端から他端に向かってテーパー状に広がっている。圧入治具170の一端は、ケーシング120の内径よりわずかに小さな径に相当する内径を有する短径側端部171となっている。また、圧入治具170の他端は、少なくとも巻付体160の外径に相当する内径を有する長径側端部172となっている。圧入治具170を用いることにより、巻付体160をケーシング120に容易に圧入することができる。なお、巻付体をケーシングに圧入する方法としては特に限定されず、例えば、手で巻付体を押すことにより巻付体をケーシングに圧入する方法等であってもよい。
【0054】
しかしながら、このような排ガス処理体130とマット材110を含む巻付体160をケーシングに圧入する際、マット材110の貫通孔114aに隣接した部分(本図における補強領域15aに相当する部分)が、圧入治具170又はケーシング120の内周と接触して、貫通孔114aに向けた方向(
図6(b)の矢印と逆方向)へ当該部分が変形し、円滑なケーシングへの挿入が妨げられるおそれがある。
【0055】
本実施形態のマット材10Aでは、上述した通り、通常領域16より強度の高い補強領域15aが、圧入方向について貫通孔14aに隣接して設けられている。強度の高い補強領域15aは、圧入の際に圧入治具170又はケーシング120の内周に接触しても抵抗力が高く、変形が抑制される。よって、円滑な圧入ひいては円滑な排ガス浄化装置の製造を実現することができる。また、補強領域15aが一部にのみ形成されているため、マット材10Aの剛性が過剰に大きくならず、排ガス処理体130の周囲への巻き付け作業も容易に行うことができる。
【0056】
図1及び
図2に示すように、補強領域15aは、貫通孔14aの断面の形状を画定する周縁14a1と、マット材10Aの形状を画定する外縁18に渡って連続的に形成される。「連続的に」は、補強領域15aが周縁14a1と外縁18の間で切れ目なく存在することを意味する。本実施形態においては、補強領域15aは、長手方向L
1に沿った周縁14a1の少なくとも全長(
図2の長さL
2)に渡って形成されており、所定の強度を確保している。このような構成により、十分な強度を確保することができる。ただし、必要な強度を確保できるなら、補強領域15aの長さは長手方向L
1において長さL
2より短くてもよい。また、マット材10Aの排ガス処理体130の周囲への巻き付け作業が困難にならない限り、補強領域15aの長さは長手方向L
1において長さL
2より長くてもよい。
【0057】
また、本実施形態においては、少なくとも2つの補強領域が、幅方向W
1における貫通孔14aの両側に形成されており、
図6(b)示したマット材10Aの圧入を
図6(b)とは逆の方向からも容易に行うことができる。
【0058】
補強領域15a及び通常領域16は、互いに別部材でない一体のマット(素地マット)から形成可能である。すなわち、作製した素地マットに対し添加する有機バインダの量を調整することにより、一体の素地マットから補強領域15a及び通常領域16を生成することが可能である。補強領域15aを構成する部品と、通常領域16を構成する部品とを別々に用意して組み立てる場合に比べて、容易にマット材10Aを製造することが可能である。
【0059】
続いて、
図6(c)に示すように、マット材110に形成された貫通孔114aの位置を、ケーシング120の孔121aの位置に合わせる位置調整工程を行う。貫通孔の位置をケーシングの孔の位置に合わせる方法としては、例えば、ケーシングに収容された巻付体を回転する方法等が挙げられる。なお、上記収容工程において、貫通孔の位置とケーシングの位置とが一致するように巻付体をケーシングに収容する場合には、収容工程及び位置調整工程を同時に行うことができる。
【0060】
その後、排ガス処理体に接続し、マット材を通過し、かつ、ケーシングを貫通するようにセンサーを配置する配置工程(第1の配置工程)を行う。
図6(d)に示すように、配置工程(第1の配置工程)では、温度センサー等のセンサー140aを、マット材110に形成された貫通孔114a及びケーシング120の孔121aに通し、上記センサー140aを排ガス処理体130に接続させる。以上の工程を経ることにより、
図3(a)及び
図3(b)に示した排ガス浄化装置100を製造することができる。
【0061】
(第二実施形態)
マット材においては、無機繊維から構成された素地マットに対してニードルパンチング処理を施すことができる。ニードルパンチング処理とは、ニードル等の繊維交絡手段を素地マットに対して抜き差しする処理のことをいう。ニードルパンチング処理が施されたマット材では、比較的繊維長の長い無機繊維が3次元的に交絡する。そのため、マット材の強度が向上することとなる。
【0062】
図7は、本発明の第二実施形態に係るマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
図7に示すマット材10Bは、第一実施形態に係るマット材10Aと基本的に同じ構成を有するが、通常領域16及び補強領域15bの双方にニードルパンチング処理がされており、補強領域15bにおけるニードルパンチング処理の密度が、通常領域16のニードルパンチング処理の密度より高く設定されている。このような処理により、補強領域15bと通常領域16を生成することができる。なお、通常領域16におけるニードルパンチング処理は、なしであってもよい。
【0063】
(第三実施形態)
図8は、本発明の第三実施形態に係るマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
図8に示すマット材10Cは、第一実施形態に係るマット材10Aと基本的に同じ構成を有するが、補強領域15cには、通常領域16を構成する材料(無機繊維等)より強度の高い補強材15dが埋め込まれている。このような処理により、補強領域15cと通常領域16を生成することができる。
補強材15dは、有機材料、無機材料又は金属材料等、種々の材料により構成することができ、その種類は特に限定されない。補強材15dの材料は、有機物(樹脂、ゴム)、セラミック、金属等、一定の強度を確保できるものならば特に限定はされない。
補強材15dを形成するより具体的な材料の例として、例えば、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリフェニレンエーテル、エラストマー、ポリフェニレンサルファイド、アクリロニトリルスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、フッ素樹脂等の樹脂、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム等のゴム、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、チタン又はそれらの合金等を挙げることができる。また、補強材15dの形状や数等も特に限定はされない。
【0064】
上述した実施形態において、貫通孔14aの形状は、略角柱状であり、貫通孔14aの断面の形状は、略四角形状である。そして、二つの貫通孔14aがマット材の長手方向に沿って並べられている。しかしながら、貫通孔14aの形状、数、位置等は特に限定されず、貫通孔14aの具体的な態様に応じて適切に補強領域15cが設けられればよい。
【0065】
マット材は平面視において、例えば通常領域の面積が補強領域の面積より大きく設定される。これにより、マット材の剛性が過剰に増大するのを抑制して、排ガス処理体への巻き付けの容易性を確保することができる。
【0066】
また、本発明のマット材は種々の装置に適用可能であるが、ジェットエンジンや自動車用エンジンの如き内燃機関のみならず、給湯器、オーブンレンジ、ガスコンロ、バーナー試験機、熱間面圧測定機等の加熱を必要とする加熱試験機、焼成炉等に対し適用可能である。
【0067】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0068】
10A、10B、10C、110 マット材
11、11a、11b、11c 第1の端面
12、12a、12b、12c 第2の端面
13a、13b、13c 突出部
14a、114a 貫通孔
14a1 周縁
15a、15b、15c 補強領域
15d 補強材
16 通常領域
18 外縁
100 排ガス浄化装置
120 ケーシング
121a 孔
130 排ガス処理体
131 貫通孔
132 隔壁
133 コート層
140a センサー
160 巻付体
170 圧入治具
171 短径側端部
172 長径側端部