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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】細胞傷害性T細胞枯渇用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231114BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231114BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231114BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P37/02
A61P43/00 111
C07K16/28
C12N15/13
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019547003
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2018037139
(87)【国際公開番号】W WO2019070013
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2017194945
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100119622
【弁理士】
【氏名又は名称】金原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】六笠 隆太
(72)【発明者】
【氏名】清澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 真之亮
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-516681(JP,A)
【文献】特表2010-526052(JP,A)
【文献】特許第6865758(JP,B2)
【文献】松崎順子, LAG-3分子の基礎と臨床応用, 最新医学, 2015, 70(3):360-365
【文献】化学と生物,1999年,Vol. 37, No. 3,177-184
【文献】Dokkyo Journal of Medical Science,2008年,35(1),T99-T112
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1997年,Vol. 94,pp. 5744-5749
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P
C07K 16/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)乃至(vii)記載の性質を有する抗LAG-3抗体又はその結合断片を含む、細胞傷害性T細胞枯渇用組成物であって、細胞傷害性T細胞が、CD28陰性CD4陽性T細胞、CD28陰性CD8陽性T細胞、CD57陽性CD4陽性T細胞及びCD57陽性CD8陽性T細胞よりなる群から選択され、且つ、LAG-3陽性である、該組成物:
(i)イン・ビトロADCC活性を有する;
(ii)該細胞傷害性T細胞に対してdepletion活性を奏する
iii)ヒト活性化T細胞に結合する
(iv)ヒトLAG-3のドメイン3に結合する;
(v)該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3とヒト主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子は結合する;
(vi)該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏する;及び
(vii)ヒトLAG-3に対する解離定数が1×10 -9 M以下である。
【請求項2】
免疫抑制剤抵抗性の細胞傷害性T細胞関連疾患の治療又は予防に使用される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
免疫抑制剤がステロイドである、請求項記載の組成物。
【請求項4】
免疫抑制剤がカルシニューリン阻害剤である、請求項記載の組成物。
【請求項5】
該抗体又はその結合断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体若しくはヒト抗体又はその結合断片である、請求項1乃至のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項6】
該抗体又はその結合断片が、配列番号50又は図65で示されるアミノ酸配列を有するCDRL1、配列番号51又は図66で示されるアミノ酸配列を有するCDRL2及び配列番号52又は図67で示されるアミノ酸配列を有するCDRL3を含む軽鎖、ならびに、配列番号47又は図62で示されるアミノ酸配列を有するCDRH1、配列番号48又は図63で示されるアミノ酸配列を有するCDRH2及び配列番号49又は図64で示されるアミノ酸配列を有するCDRH3を含む重鎖、を含んでなる、請求項1乃至のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項7】
該抗体又はその結合断片が、ヒト化抗体又はその結合断片である、請求項記載の組成物。
【請求項8】
該抗体又はその結合断片が、配列番号28又は図43で示されるアミノ酸配列において、第68番の位置に相当するアミノ酸がGlyであるか又はAlaに置換され、第103番の位置に相当するアミノ酸がAsnであるか又はAspに置換されてなるアミノ酸配列を含む重鎖、並びに、配列番号32又は図47で示されるアミノ酸配列において、第21番の位置に相当するアミノ酸がAspであるか又はAsnに置換され、第31番の位置に相当するアミノ酸がLeuであるか又はMetに置換され、第33番の位置に相当するアミノ酸がAlaであるか又はIleに置換され、第41番の位置に相当するアミノ酸がIleであるか又はMetに置換され、第58番の位置に相当するアミノ酸がGlnであるか又はLysに置換され、第63番の位置に相当するアミノ酸がAlaであるか又はSerに置換され、第80番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はAspに置換され、第85番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はGlyに置換され、第87番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はTyrに置換され、第98番の位置に相当するアミノ酸がLeuであるか又はValに置換され、第103番の位置に相当するアミノ酸がPheであるか又はAlaに置換され、第105番の位置に相当するアミノ酸がThrであるか又はPheに置換され、第124番の位置に相当するアミノ酸がValであるか又はLeuに置換され、126番の位置に相当するアミノ酸がIleであるか又はLeuに置換されてなるアミノ酸配列を含む軽鎖、を含んでなる、請求項記載の組成物。
【請求項9】
下記[i]乃至[x]よりなる群から選択される軽鎖可変領域のアミノ酸配列及び重鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、請求項7又は8記載の組成物:
[i]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号34(図49)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号30(図45)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;
[ii]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号32(図47)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号28(図43)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;
[iii]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号36(図51)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸をからなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号30(図45)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;
[iv]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号34(図49)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号28(図43)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;
[v]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号36(図51)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号28(図43)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;
[vi]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号38(図53)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号28(図43)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;
[vii]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号40(図55)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号28(図43)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;
[viii]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号32(図47)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号30(図45)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;
[ix]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号38(図53)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号30(図45)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる;及び、
[x]軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号40(図55)の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸からなり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号30(図45)の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸からなる。
【請求項10】
該抗体又はその結合断片の、軽鎖が配列番号32、34、36、38及び40からなる群より選択されるアミノ酸配列の第21番アミノ酸乃至第234番アミノ酸からなるアミノ酸配列を含み、重鎖が配列番号28及び30からなる群より選択されるアミノ酸配列の第20番アミノ酸乃至第470番アミノ酸からなるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列のカルボキシル末端において1乃至数個のアミノ酸が欠失してなるアミノ酸配列を含む、請求項7又は8記載の組成物。
【請求項11】
該抗体又はその結合断片が、下記[i]乃至[x]よりなる群から選択されるか、又は、下記[i]乃至[x]よりなる群から選択される一つに記載の抗体又はその結合断片に含まれる軽鎖を含み、且つ、当該抗体又はその結合断片に含まれる重鎖のアミノ酸配列のカルボキシル末端において1乃至数個のアミノ酸が欠失してなるアミノ酸配列を有する重鎖を含む、請求項7乃至10のいずれか一つに記載の組成物:
[i]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[ii]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号32(図47)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[iii]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号36(図51)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[iv]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[v]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号36(図51)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[vi]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号38(図53)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[vii]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号40(図55)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[viii]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号32(図47)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[ix]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号38(図53)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;及び、
[x]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号40(図55)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片。
【請求項12】
下記(i)又は(ii)記載の性質を有する抗体又はその結合断片を含んでなる、請求項1又は6記載の組成物:
(i)請求項11の[i]乃至[x]のいずれか一つに記載の抗体又はその結合断片が認識するヒトLAG-3のドメイン3上の部位に結合する;
(ii)請求項11の[i]乃至[x]のいずれか一つに記載の抗体又はその結合断片と、ヒトLAG-3のドメイン3への結合において競合する。
【請求項13】
他の医薬と組み合わせて使用される、請求項1乃至12のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項14】
下記(i)乃至(vii)記載の性質を有する抗LAG-3抗体又はその結合断片を含む、CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性の細胞傷害性T細胞枯渇用組成物:
(i)イン・ビトロADCC活性を有する;
(ii)該細胞傷害性T細胞に対してdepletion活性を奏する;及び、
(iii)ヒト活性化T細胞に結合する;
(iv)該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3とヒト主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子は結合する
v)該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏する
(vi)ヒトLAG-3のドメイン3に結合する;
;及び
(vii)ヒトLAG-3に対する解離定数が1×10 -9 M以下である。
【請求項15】
CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性が、細胞傷害性T細胞又はその細胞膜画分を含む生物学的サンプルについて判定されることを特徴とする、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
該生物学的サンプルが、細胞傷害性T細胞関連疾患に罹患しているか又は罹患を回避することが望ましい個体に由来することを特徴とする、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
細胞傷害性T細胞関連疾患が、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症、バセドウ病、強直性脊椎炎、扁平部炎、喘息、関節リウマチ、多発性筋炎・皮膚筋炎、封入体筋炎、急性冠症候群、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、強皮症、クローン病、潰瘍性大腸炎、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、シェーグレン症候群、ヴェゲナー肉芽腫症、乾癬、2型糖尿病、宿主対移植片反応、慢性B型肝炎、及び/又は、サルコイドーシスである、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
細胞傷害性T細胞関連疾患がLAG-3陽性である、請求項16又は17に記載の組成物。
【請求項19】
細胞傷害性T細胞関連疾患が免疫抑制剤抵抗性である、請求項16乃至18のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項20】
免疫抑制剤がステロイドである、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
免疫抑制剤がカルシニューリン阻害剤である、請求項19記載の組成物。
【請求項22】
該抗体又はその結合断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体若しくはヒト抗体又はその結合断片である、請求項14乃至21のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項23】
該抗体又はその結合断片が、低フコース形態にある、請求項14乃至22のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項24】
イン・ビボでLAG-3陽性細胞数を低減させる、請求項23記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体、その結合断片等を含む細胞傷害性T細胞枯渇用組成物、細胞傷害性T細胞枯渇のための抗体、その結合断片等の使用、抗体、その結合断片等を投与する工程を含む傷害性細胞T細胞の枯渇方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
Tリンパ球(T細胞)は、免疫応答において中心的な役割を果たしている細胞であり、多様な抗原に対処するため、生体内には1000万ないし10億クローンともいわれる種々の抗原特異性を持ったT細胞が存在している。体内に抗原が侵入すると、そのような膨大なT細胞のレパートリーのうちのごく限られた抗原特異的なクローンのみが増殖・活性化し、サイトカイン産生や細胞傷害活性などを介して生体防御に働く。自己免疫疾患においては、何らかの自己の抗原に対する異常な免疫応答が引き金となって、種々の病態が形成されると考えられている。このような状況においても、抗原特異性を有さない大部分の他のクローンは、増殖・活性化されず休止状態にある。そのため、活性化T細胞のみを選択的に除去することができれば、他の抗原特異性を有する大部分のT細胞に影響を与えることなく、特異的に免疫を抑制することが可能になり、自己免疫疾患、移植物の拒絶、アレルギー性疾患等に対する有用な治療法あるいは予防法となりうる。一方、制御性T細胞など免疫系を負に制御するT細胞が主に活性化している状況では、これを除去することで、悪性腫瘍、慢性感染症等に対する有用な治療法あるいは予防法となりうる。
【0003】
LAG-3(CD223)は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する1回膜貫通型の分子であり、活性化T細胞にほぼ選択的に発現することが知られている分子である(非特許文献1)。ラット同種異系心臓移植モデルに、ラットLAG-3分子に対する補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有するウサギ抗血清を投与すると、移植片中のLAG-3陽性細胞が減少し、移植片が拒絶されるまでの期間が若干延長することが報告されている(非特許文献2)。また、ヒヒに交差性を有し、抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)活性を示す抗ヒトLAG-3キメラ抗体A9H12が、その用量反応性は不明確ながら、ヒヒの遅延型過敏反応を抑制すること(非特許文献3)、そのヒト化体が作製されたこと(特許文献2)も報告されている。
【0004】
LAG-3は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子に結合することで、T細胞に何らかの抑制性のシグナルを伝達し、T細胞の機能を負に制御することが知られている(非特許文献1)。LAG-3とMHCクラスII分子の結合には、LAG-3の細胞外の4つの免疫グロブリン様ドメインのうち、N末端のドメイン1および2が重要であると考えられており(非特許文献4)、またこのLAG-3を介したT細胞機能の抑制は、PD-1分子などを介した他のT細胞機能を抑制するシグナルと協同的に発揮されることも報告されている(非特許文献5)。実際、LAG-3のT細胞抑制機能を阻害することによって免疫細胞の働きを活発にし、がん細胞を攻撃する新たながん治療法の開発が近年盛んに行われている(非特許文献6および7)。そのため、ADCC活性などによりLAG-3陽性細胞を除去するLAG-3抗体、言い換えれば、LAG-3陽性細胞を枯渇(depletion)させるLAG-3抗体を自己免疫疾患に適用する場合、LAG-3本来のT細胞抑制機能を阻害する活性を有さない抗体である方が、免疫系が異常に活性化されて自己免疫疾患がかえって悪化してしまうリスクがなく、より望ましいと考えられる。上述のCDC活性を有する抗ラットLAG-3ウサギ抗血清およびADCC活性を示す抗ヒトLAG-3キメラ抗体A9H12(IMP731:特許文献1及び2)はいずれも、LAG-3陽性細胞の除去は完全ではなく(非特許文献2および3)、除去され残ったT細胞の異常な反応による副反応の可能性及び自己免疫疾患の抑制に対する負の影響が想定される。
【0005】
T細胞サブセットのうち、CD4+(陽性)CD28-(陰性)T細胞、CD8+CD28-T細胞、CD4+CD57+T細胞、CD8+CD57+T細胞はパーフォリン、グランザイムBなどを高発現する細胞傷害性のT細胞群である(非特許文献12、非特許文献13)。ステロイド薬剤は免疫系疾患の治療に広く用いられているが、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような免疫系疾患ではステロイド難治性の患者集団が存在する(非特許文献14)。近年、ある種の自己免疫疾患においては、前述のような細胞傷害性T細胞が病態に関与する主な炎症系細胞のひとつとして報告されている(非特許文献12, 非特許文献15)。細胞傷害性T細胞は高い細胞傷害作用を有する一方、ステロイド処置による抗炎症作用あるいはアポトーシス誘導への耐性が報告されている(非特許文献16)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開2011/0070238A1号
【文献】国際公開2014/140180号
【非特許文献】
【0007】
【文献】トリーベル、エフ(Triebel,F.)、ラグ3:・レビュレーター・オブーティー・セル・アンド・ディーシー・レスポンシズ・アンド・イッツ・ユース・イン・セラピューティック・ヴァクシネーション(LAG-3: a regulator of T-cell and DC responses and its use in therapeutic vaccination.)、トレンズ・イン・イムノロジー(Trends Immunol.)、2003年12月刊;24巻(12号):619-22ページ
【文献】ハウデブルグ,ティー他(Haudebourg,T. et al.)、ディプリーション・オブ・ラグ3・ポジティブ・セルズ・イン・カーディアック・アログラフト・リヴィール・ゼア・ロール・イン・リジェクション・アンド・トレランス(Depletion of LAG-3 positive cells in cardiac allograft reveals their role in rejection and tolerance.)、トランスプランテーション(Transplantation)、2007年12月刊;84巻(11号):1500-06ページ
【文献】ハウデブルグ,ティー他(Haudebourg,T. et al.)、アンチボディー-メディエイテッド・ディプリーション・オブ・リンフォサイト-アクティベーション・ジーン-3(ラグ3(+))-アクティベーテッド・T・リンフォサイツ・プリベンツ・ディレイータイプ・ハイパーセンシティティヴィティ・イン・ノン・ヒューマン・プライメイティーズ(Antibody-mediated depletion of lymphocyte-activation gene-3 (LAG-3(+) )-activated T lymphocytes prevents delayed-type hypersensitivity in non-human primates)、クリニカル・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clin.Exp.Immunol.)2011年5月刊;164巻(2号):265-74ページ
【文献】ヒュアード,ビー他(Huard, B. et al.)、キャラクタリゼーション・オブ・ザ・メイジャー・ヒストコンパティビリティー・コンプレックス・クラス・ツー・バインディング・サイト・オン・ラグ3・プロテイン(Characterization of the major histocompatibility complex class II binding site on LAG-3 protein)、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユー・エス・エー(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)、1997年5月27日刊;94巻(11号):5744-49ページ
【文献】オカザキ,ティー他(Okazaki,T. et al.)、ピーディー1・アンド・ラグ3・インヒビトリー・コーレセプター・アクト・シナージスチカリー・トゥ・プリベント・オートイミュニティ・イン・マイス(PD-1 and LAG-3 inhibitory co-receptors act synergistically to prevent autoimmunity in mice)、ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディスン(J.Exp.Med.)、2011年2月7日刊;208巻(2号):395-407ページ
【文献】ニューイン,エル・ティー(Nguyen,L.T.)及びオハシ,ピー・エス(Ohashi,P.S.)、クリニカル・ブロッケード・オブ・ピーディー1・アンド・ラグ3――ポテンシャル・メカニズムス・オブ・アクション(Clinical blockade of PD1 and LAG3--potential mechanisms of action)、ネイチャー・レビュー・オブ・イムノロジー(Nat.Rev.Immunol.)、2015 年1月刊;15巻(1号):45-56ページ
【文献】ターニス,エム・イー他(Turnis,M.E. et al.)、インヒビトリ・レセプターズ・アズ・ターゲッツ・フォー・キャンサー・イミュノセラピー(Inhibitory receptors as targets for cancer immunotherapy)、ヨーロピアン・ジャ^ナル・オブ・イムノロジー(Eur.J.Immunol.)、2015年7月刊;45巻(7号):1892-905ページ
【文献】ヒュアード,ビー他(Huard,B.et al.)、ティー・セル・メイジャー・ヒストコンパティビリティー・コンプレックス・クラスII・モレキュールズ・ダウン-レギュレート・シーディー4ポジティブ・ティーセル・クローン・レスポンシズ・フォロウィング・ラグ3・バインディング(T cell major histocompatibility complex class II molecules down-regulate CD4+ T cell clone responses following LAG-3 binding)、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Eur.J.Immunol.)、1996年5月;26巻(5号):1180-06ページ
【文献】メソン-レメトレ,エル(Macon-Lemaitre,L)及びトリーベル,エフ(Triebel,F)、ザ・ネガティブ・レギュラトリー・ファンクション・オブ・ザ・リンフォサイト-アクティベーション3・ジーン・コーレセプター(シーディー334)オン・ヒューマン・ティー・セルズ(The negative regulatory function of the lymphocyte-activation gene-3 co-receptor (CD223) on human T cells)、イミュノロジー(Immunology)、2005年6月刊;115巻(2号):170-08ページ
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
細胞傷害性T細胞を枯渇させるための組成物等を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)
下記(i)乃至(iii)記載の性質を有する抗LAG-3抗体又はその結合断片を含む、細胞傷害性T細胞枯渇用組成物:
(i)イン・ビトロADCC活性を有する;
(ii)低フコース形態で、イン・ビボでLAG-3陽性細胞数を低減させる;及び、
(iii)ヒト活性化T細胞に結合する、
(2)
細胞傷害性T細胞が、パーフォリン陽性T細胞、グランザイムB陽性T細胞、CD28陰性CD4陽性T細胞、CD28陰性CD8陽性T細胞、CD57陽性CD4陽性T細胞及びCD57陽性CD8陽性T細胞よりなる群から選択される、(1)記載の組成物、
(3)
細胞傷害性T細胞がLAG-3陽性である、(1)又は(2)に記載の組成物、
(4)
抗LAG-3抗体又はその結合断片が、ヒトLAG-3のドメイン3に結合し、下記(i)乃至(iii)記載の性質を有する、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の組成物:
(i)低フコース形態で、イン・ビボで実験的自己免疫性脳脊髄炎を抑制する;
(ii)該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3とヒト主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子は結合する;及び
(iii)該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏する、
(5)
免疫抑制剤抵抗性の細胞傷害性T細胞関連疾患の治療又は予防に使用される、(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の組成物、
(6)
免疫抑制剤がステロイドである、(5)記載の組成物、
(7)
免疫抑制剤がカルシニューリン阻害剤である、(5)又は(6)記載の組成物、
(8)
該抗体又はその結合断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体若しくはヒト抗体又はその結合断片である、(1)乃至(7)のいずれか一つに記載の組成物、
(9)
該抗体又はその結合断片が、配列番号50又は図65で示されるアミノ酸配列を有するCDRL1、配列番号51又は図66で示されるアミノ酸配列を有するCDRL2及び配列番号52又は図67で示されるアミノ酸配列を有するCDRL3を含む軽鎖、ならびに、配列番号47又は図62で示されるアミノ酸配列を有するCDRH1、配列番号48又は図63で示されるアミノ酸配列を有するCDRH2及び配列番号49又は図64で示されるアミノ酸配列を有するCDRH3を含む重鎖、を含んでなる、(4)記載の組成物、
(10)
該抗体又はその結合断片が、ヒト化抗体又はその結合断片である、(9)記載の組成物、
(11)
該抗体又はその結合断片が、配列番号28又は図43で示されるアミノ酸配列において、第68番の位置に相当するアミノ酸がGlyであるか又はAlaに置換され、第103番の位置に相当するアミノ酸がAsnであるか又はAspに置換されてなるアミノ酸配列を含む重鎖、並びに、配列番号32又は図47で示されるアミノ酸配列において、第21番の位置に相当するアミノ酸がAspであるか又はAsnに置換され、第31番の位置に相当するアミノ酸がLeuであるか又はMetに置換され、第33番の位置に相当するアミノ酸がAlaであるか又はIleに置換され、第41番の位置に相当するアミノ酸がIleであるか又はMetに置換され、第58番の位置に相当するアミノ酸がGlnであるか又はLysに置換され、第63番の位置に相当するアミノ酸がAlaであるか又はSerに置換され、第80番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はAspに置換され、第85番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はGlyに置換され、第87番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はTyrに置換され、第98番の位置に相当するアミノ酸がLeuであるか又はValに置換され、第103番の位置に相当するアミノ酸がPheであるか又はAlaに置換され、第105番の位置に相当するアミノ酸がThrであるか又はPheに置換され、第124番の位置に相当するアミノ酸がValであるか又はLeuに置換され、126番の位置に相当するアミノ酸がIleであるか又はLeuに置換されてなるアミノ酸配列を含む軽鎖、を含んでなる、(10)記載の組成物、
(12)
該抗体又はその結合断片の、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号32、34、36、38及び40からからなる群より選択されるアミノ酸配列の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸を含み、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号28及び30からなる群より選択されるアミノ酸配列の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸を含む、(10)又は(11)記載の組成物、
(13)
該抗体又はその結合断片の、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号32、34、36、38及び40からからなる群より選択されるアミノ酸配列の第21番アミノ酸乃至第234番アミノ酸を含み、重鎖のアミノ酸配列が配列番号28及び30からなる群より選択されるアミノ酸配列の第20番アミノ酸乃至第470番アミノ酸を含む、(10)乃至(12)のいずれか一つに記載の組成物、
(14)
該抗体又はその結合断片が、下記[i]乃至[x]よりなる群から選択される、(10)乃至(13)のいずれか一つに記載の組成物:
[i]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[ii]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号32(図47)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[iii]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号36(図51)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[iv]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[v]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号36(図51)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[vi]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号38(図53)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[vii]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号40(図55)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[viii]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号32(図47)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[ix]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号38(図53)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;及び、
[x]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号40(図55)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片、
(15)
該抗体又はその結合断片の有する軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のアミノ酸配列と、それぞれ95%以上同一なアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と重鎖可変領域を有する抗体又はその結合断片を含んでなる、(14)記載の組成物、
(16)
該抗体又はその結合断片の有する軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はそれに相補的なヌクレオチド配列を有する第1の核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする第2の核酸分子が含むヌクレオチド配列によりコードされる軽鎖可変領域アミノ酸配列、および、該抗体又はその結合断片の有する重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はそれに相補的なヌクレオチド配列を有する第3の核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする第4の核酸分子が含むヌクレオチド配列によりコードされる重鎖可変領域アミノ酸配列、を含む抗体又はその結合断片を含んでなる、(14)記載の組成物、
(17)
下記(i)又は(ii)記載の性質を有する抗体又はその結合断片を含んでなる、(14)記載の組成物:
(i)該抗体又はその結合断片が認識するヒトLAG-3のドメイン3上の部位に結合する;
(ii)該抗体又はその結合断片と、ヒトLAG-3のドメイン3への結合において競合する、
(18)
該抗体又はその結合断片が、低フコース形態にある、(1)乃至(17)のいずれか一つに記載の組成物、
(19)
該抗体又はその結合断片が、そのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子若しくは該核酸分子を含むベクターを含む細胞、又は、該抗体又はその結合断片を生産する細胞を培養する工程を含んでなる、該抗体又はその結合断片の製造方法により得られる、(1)乃至(18)のいずれか一つに記載の組成物、
(20)
該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏しない、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の組成物、
(21)
該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3とヒト主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子は結合しない、(1)乃至(3)及び(20)のいずれか一つに記載の組成物、
(22)
該抗体又はその結合断片が、低フコース形態にある、(20)又は(21)に記載の組成物、
(23)
細胞傷害性T細胞枯渇に使用される、下記(i)乃至(iii)記載の性質を有する抗LAG-3抗体又はその結合断片:
(i)イン・ビトロADCC活性を有する;
(ii)低フコース形態で、イン・ビボでLAG-3陽性細胞数を低減させる;及び、
(iii)ヒト活性化T細胞に結合する、
(24)
細胞傷害性T細胞枯渇のための、下記(i)乃至(iii)記載の性質を有する抗LAG-3抗体又はその結合断片の使用:
(i)イン・ビトロADCC活性を有する;
(ii)低フコース形態で、イン・ビボでLAG-3陽性細胞数を低減させる;及び、
(iii)ヒト活性化T細胞に結合する、
(25)
下記(i)乃至(iii)記載の性質を有する抗LAG-3抗体又はその結合断片を投与することを含む、細胞傷害性T細胞を枯渇させる方法:
(i)イン・ビトロADCC活性を有する;
(ii)低フコース形態で、イン・ビボでLAG-3陽性細胞数を低減させる;及び、
(iii)ヒト活性化T細胞に結合する、
(26)
他の医薬と組み合わせて使用される、(1)乃至(22)のいずれか一つに記載の組成物、
(27)
下記(i)乃至(iii)記載の性質を有する抗LAG-3抗体又はその結合断片を含む、 パーフォリン陽性、グランザイムB陽性、CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性の細胞傷害性T細胞関連疾患の治療用又は予防用医薬組成物:
(i)イン・ビトロADCC活性を有する;
(ii)低フコース形態で、イン・ビボでLAG-3陽性細胞数を低減させる;及び、
(iii)ヒト活性化T細胞に結合する、
(28)
パーフォリン陽性、グランザイムB陽性、CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性が、細胞傷害性T細胞又はその細胞膜画分を含む生物学的サンプルについて判定されることを特徴とする、(27)記載の医薬組成物、
(29)
該生物学的サンプルが、細胞傷害性T細胞関連疾患に罹患しているか又は罹患を回避することが望ましい個体に由来することを特徴とする、(28)記載の医薬組成物、
(30)
細胞傷害性T細胞関連疾患が、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症、バセドウ病、強直性脊椎炎、扁平部炎、喘息、関節リウマチ、多発性筋炎・皮膚筋炎、封入体筋炎、急性冠症候群、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、強皮症、クローン病、潰瘍性大腸炎、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、シェーグレン症候群、ヴェゲナー肉芽腫症、乾癬、2型糖尿病、宿主対移植片反応、慢性B型肝炎、及び/又は、サルコイドーシスである、(27)乃至(29)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(31)
細胞傷害性T細胞関連疾患がLAG-3陽性である、(27)乃至(30)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(32)
抗LAG-3抗体又はその結合断片が、ヒトLAG-3のドメイン3に結合し、下記(i)乃至(iii)記載の性質を有する、(27)乃至(31)のいずれか一つに記載の医薬組成物:
(i)低フコース形態で、イン・ビボで実験的自己免疫性脳脊髄炎を抑制する;
(ii)該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3とヒト主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子は結合する;及び
(iii)該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏する、
(33)
細胞傷害性T細胞関連疾患が免疫抑制剤抵抗性である、(27)乃至(32)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(34)
免疫抑制剤がステロイドである、(33)記載の医薬組成物、
(35)
免疫抑制剤がカルシニューリン阻害剤である、(33)又は(34)記載の医薬組成物、
(36)
該抗体又はその結合断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体若しくはヒト抗体又はその結合断片である、(27)乃至(35)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(37)
該抗体又はその結合断片が、配列番号50で示されるアミノ酸配列を有するCDRL1、配列番号51で示されるアミノ酸配列を有するCDRL2及び配列番号52で示されるアミノ酸配列を有するCDRL3を含む軽鎖、ならびに、配列番号47で示されるアミノ酸配列を有するCDRH1、配列番号48で示されるアミノ酸配列を有するCDRH2及び配列番号49で示されるアミノ酸配列を有するCDRH3を含む重鎖、を含んでなる、(27)乃至(36)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(38)
該抗体又はその結合断片が、ヒト化抗体又はその結合断片である、(37)記載の医薬組成物、
(39)
該抗体又はその結合断片が、配列番号28で示されるアミノ酸配列において、第68番の位置に相当するアミノ酸がGlyであるか又はAlaに置換され、第103番の位置に相当するアミノ酸がAsnであるか又はAspに置換されてなるアミノ酸配列を含む重鎖、並びに、配列番号32で示されるアミノ酸配列において、第21番の位置に相当するアミノ酸がAspであるか又はAsnに置換され、第31番の位置に相当するアミノ酸がLeuであるか又はMetに置換され、第33番の位置に相当するアミノ酸がAlaであるか又はIleに置換され、第41番の位置に相当するアミノ酸がIleであるか又はMetに置換され、第58番の位置に相当するアミノ酸がGlnであるか又はLysに置換され、第63番の位置に相当するアミノ酸がAlaであるか又はSerに置換され、第80番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はAspに置換され、第85番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はGlyに置換され、第87番の位置に相当するアミノ酸がSerであるか又はTyrに置換され、第98番の位置に相当するアミノ酸がLeuであるか又はValに置換され、第103番の位置に相当するアミノ酸がPheであるか又はAlaに置換され、第105番の位置に相当するアミノ酸がThrであるか又はPheに置換され、第124番の位置に相当するアミノ酸がValであるか又はLeuに置換され、126番の位置に相当するアミノ酸がIleであるか又はLeuに置換されてなるアミノ酸配列を含む軽鎖、を含んでなる、(38)記載の医薬組成物、
(40)
該抗体又はその結合断片の、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号32、34、36、38及び40からからなる群より選択されるアミノ酸配列の第21番アミノ酸乃至第129番アミノ酸を含み、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号28及び30からなる群より選択されるアミノ酸配列の第20番アミノ酸乃至第140番アミノ酸を含む、(38)又は(39)記載の医薬組成物、
(41)
該抗体又はその結合断片の、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号32、34、36、38及び40からからなる群より選択されるアミノ酸配列の第21番アミノ酸乃至第234番アミノ酸を含み、重鎖のアミノ酸配列が配列番号28及び30からなる群より選択されるアミノ酸配列の第20番アミノ酸乃至第470番アミノ酸を含む、(38)乃至(40)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(42)
該抗体又はその結合断片が、下記[i]乃至[x]よりなる群から選択される、(38)乃至(41)のいずれか一つに記載の医薬組成物:
[i]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[ii]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号32(図47)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[iii]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号36(図51)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[iv]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[v]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号36(図51)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[vi]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号38(図53)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[vii]配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号40(図55)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[viii]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号32(図47)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;
[ix]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号38(図53)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片;及び、
[x]配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号40(図55)のアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体又はその結合断片、
(43)
該抗体又はその結合断片の有する軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のアミノ酸配列と、それぞれ95%以上同一なアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と重鎖可変領域を有する抗体又はその結合断片を含んでなる、(42)記載の医薬組成物、
(44)
該抗体又はその結合断片の有する軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はそれに相補的なヌクレオチド配列を有する第1の核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする第2の核酸分子が含むヌクレオチド配列によりコードされる軽鎖可変領域アミノ酸配列、および、該抗体又はその結合断片の有する重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はそれに相補的なヌクレオチド配列を有する第3の核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする第4の核酸分子が含むヌクレオチド配列によりコードされる重鎖可変領域アミノ酸配列、を含む抗体又はその結合断片を含んでなる、(42)記載の医薬組成物、
(45)
下記(i)又は(ii)記載の性質を有する抗体又はその結合断片を含んでなる、(42)記載の医薬組成物:
(i)該抗体又はその結合断片が認識するヒトLAG-3のドメイン3上の部位に結合する;
(ii)該抗体又はその結合断片と、ヒトLAG-3のドメイン3への結合において競合する、
(46)
該抗体又はその結合断片が、低フコース形態にある、(27)乃至(45)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(47)
該抗体又はその結合断片が、そのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子若しくは該核酸分子を含むベクターを含む細胞、又は、該抗体又はその結合断片を生産する細胞を培養する工程を含んでなる、該抗体又はその結合断片の製造方法により得られる、(27)乃至(46)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(48)
該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏しない、(27)乃至(31)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(49)
該抗体又はその結合断片存在下で、ヒトLAG-3とヒト主要組織適合遺伝子複合体クラスII分子は結合しない、(27)乃至(31)及び(48)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(50)
該抗体又はその結合断片が、低フコース形態にある、(48)又は(49)に記載の医薬組成物、
(51)
他の医薬と組み合わせて使用される、(27)乃至(50)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(52)
パーフォリン陽性、グランザイムB陽性、CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性の細胞傷害性T細胞関連疾患に罹患しているか又は罹患を回避することが望ましい個体に(1)乃至(22)のいずれか一つに記載の組成物、又は(27)乃至(51)のいずれか一つに記載の医薬組成物を投与する工程を含む、細胞傷害性T細胞関連疾患を治療又は予防する方法、
(53)
細胞傷害性T細胞関連疾患が、免疫抑制剤抵抗性である、(52)記載の方法、
(54)
免疫抑制剤がステロイドである、(53)記載の方法、
(55)
免疫抑制剤がカルシニューリン阻害剤である、(53)又は(54)記載の方法、
(56)
細胞傷害性T細胞又はその細胞膜画分を含む生物学的サンプルについて、パーフォリン陽性、グランザイムB陽性、CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性か否かを判定する工程を含む、(52)乃至(55)のいずれか一つに記載の方法、
(57)
該生物学的サンプルが、細胞傷害性T細胞関連疾患に罹患しているか又は罹患を回避することが望ましい個体に由来する、(56)記載の方法、
等に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の提供する組成物は、細胞傷害性T細胞を枯渇させるので、細胞傷害性T細胞関連疾患(後述)の治療及び/又は予防に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)のLAG-3を発現するヒトPHA blastに対する結合活性をフローサイトメトリー法により検証した図。縦軸はフローサイトメトリー法により測定された平均蛍光強度を示す。
図2】ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)のADCC活性を示した図。ヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞を標的細胞、ヒトPBMCをエフェクター細胞として用いた。
図3図3Aは、ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)のLAG-3/MHCクラスII結合試験における阻害活性を示した図。Negative controlとしてはラットIgG2bを、Positive controlとしては別途作製したLAG-3のドメイン1を認識するラット抗LAG-3抗体をそれぞれ用いた。抗体はいずれも10μg/mLで評価した。図3Bは、公知の抗体であるヒトキメラ化抗LAG-3抗体IMP731がLAG-3/MHCクラスII結合試験において阻害活性を示すことを表した図。市販のマウス抗ヒトLAG-3抗体である17B4も、阻害活性を示した。
図4】ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)の293T-hLAG-3/Raji細胞接着試験における阻害活性を示した図。Negative controlとしてはラットIgG2bを、Positive controlとしては実施例2)-6で作製したLAG-3のドメイン1を認識するラット抗LAG-3抗体(クローン6D7)をそれぞれ用いた。抗体はいずれも10μg/mLで評価した。
図5図5Aは、ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212およびrLA225)のヒトLAG-3結合エピトープをフローサイトメトリー法により検証した図。縦軸はフローサイトメトリー法により測定された平均蛍光強度を示す。Positive controlとして用いた抗FLAG抗体の結合もあわせて示す。抗体はいずれも10μg/mLで評価した。 図5Bは、先行技術の抗体であるヒトキメラ化抗LAG-3抗体IMP731のヒトLAG-3結合エピトープをフローサイトメトリー法により検証した図。縦軸はフローサイトメトリー法により測定された平均蛍光強度を示す。Antiserumは、実施例1)-1の免疫したラットから得た抗血清を500倍希釈で使用した。他の抗体はいずれも10μg/mLで評価した。6D7は、実施例2)-6で作製したLAG-3のドメイン1を認識するラット抗LAG-3抗体である。
図6】ヒトキメラ化抗LAG-3抗体cLA212のヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞に対する結合活性をフローサイトメトリー法により検証した図。縦軸はフローサイトメトリー法により測定された平均蛍光強度を示す。
図7】ヒト化抗LAG-3抗体の結合能を解離定数として示す図。
図8】10種類のヒト化抗LAG-3抗体およびヒトキメラ化抗LAG-3抗体cLA212のヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞に対する結合活性をフローサイトメトリー法により検証した図。縦軸はフローサイトメトリー法により測定された平均蛍光強度を示す。
図9】10種類のヒト化抗LAG-3抗体およびヒトキメラ化抗LAG-3抗体cLA212のADCC活性を示した図。ヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞を標的細胞、ヒトPBMCをエフェクター細胞として用いた。
図10】ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H3/L2およびヒトキメラ化抗LAG-3抗体IMP731のLAG-3のT細胞抑制機能に対する影響を検討した図。各々の抗体存在下でヒトPBMCをSEBで4日間刺激した際の培養上清へのIL-2産生を測定した。抗体はいずれも10μg/mLで評価した。
図11】ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H4/L2のヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞に対する結合活性をフローサイトメトリー法により検証した図。縦軸はフローサイトメトリー法により測定された平均蛍光強度を示す。
図12】ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H4/L2のADCC活性を示した図。ヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞を標的細胞、ヒトPBMCをエフェクター細胞として用いた。
図13】ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスにおけるヒトLAG-3の発現が、マウスLAG-3の発現と一致していることを示す図。ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウス(Tg)およびコントロールの野生型マウス(Non-Tg)の末梢血から得た白血球をCon Aで刺激して得た活性化T細胞におけるヒトおよびマウスLAG-3の発現をフローサイトメトリー法(多重染色)により検討した。解析のためにCD3陽性T細胞にゲートをかけた結果を示す。なおグラフの4分割は、ヒトおよびマウスLAG-3に対する染色抗体を含まないサンプルを用いて設定した。
図14】ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H4/L2のin vivoにおけるLAG-3発現細胞に対するdepletion活性を示した図。縦軸は、ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスに抗体およびCon Aを投与した2日後の末梢血のT細胞におけるヒトLAG-3陽性率を表す。抗体は30mg/kgの用量で、Con A投与の直前に腹腔内投与した。
図15】ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H4/L2がin vivoにおいて自己免疫疾患モデルを抑制する活性を有することを示す図。ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスにEAEを誘導し、ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H4/L2あるいはコントロール抗体を投与したマウスにおけるEAEの臨床スコアを経時的に示す。抗体はいずれも30mg/kgの用量で感作日およびその7日後に静脈内投与した。
図16】rLA204抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号1)
図17】rLA204抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号2)
図18】rLA204抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号3)
図19】rLA204抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号4)
図20】rLA212抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号5)
図21】rLA212抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号6)
図22】rLA212抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号7)
図23】rLA212抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号8)
図24】rLA225抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号9)
図25】rLA225抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号10)
図26】rLA225抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号11)
図27】rLA225抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号12)
図28】rLA869抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号13)
図29】rLA869抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号14)
図30】rLA869抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号15)
図31】rLA869抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号16)
図32】rLA1264抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号17)
図33】rLA1264抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号18)
図34】rLA1264抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号19)
図35】rLA1264抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号20)
図36】ヒト軽鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号21)
図37】ヒト重鎖分泌シグナル及びヒトIgG1定常領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号22)
図38】cLA212抗体の重鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号23)
図39】cLA212抗体の重鎖のアミノ酸配列(配列番号24)
図40】cLA212抗体の軽鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号25)
図41】cLA212抗体の軽鎖のアミノ酸配列(配列番号26)
図42】hLA212抗体の重鎖H2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号27)
図43】hLA212抗体の重鎖H2のアミノ酸配列(配列番号28)
図44】hLA212抗体の重鎖H3のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号29)
図45】hLA212抗体の重鎖H3のアミノ酸配列(配列番号30)
図46】hLA212抗体の軽鎖L1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号31)
図47】hLA212抗体の軽鎖L1のアミノ酸配列(配列番号32)
図48】hLA212抗体の軽鎖L2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号33)
図49】hLA212抗体の軽鎖L2のアミノ酸配列(配列番号34)
図50】hLA212抗体の軽鎖L3のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号35)
図51】hLA212抗体の軽鎖L3のアミノ酸配列(配列番号36)
図52】hLA212抗体の軽鎖L4のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号37)
図53】hLA212抗体の軽鎖L4のアミノ酸配列(配列番号38)
図54】hLA212抗体の軽鎖L5のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号39)
図55】hLA212抗体の軽鎖L5のアミノ酸配列(配列番号40)
図56】rLA204抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(配列番号41)
図57】rLA204抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(配列番号42)
図58】rLA204抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(配列番号43)
図59】rLA204抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(配列番号44)
図60】rLA204抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(配列番号45)
図61】rLA204抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(配列番号46)
図62】rLA212抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(配列番号47)
図63】rLA212抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(配列番号48)
図64】rLA212抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(配列番号49)
図65】rLA212抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(配列番号50)
図66】rLA212抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(配列番号51)
図67】rLA212抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(配列番号52)
図68】rLA225抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(配列番号53)
図69】rLA225抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(配列番号54)
図70】rLA225抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(配列番号55)
図71】rLA225抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(配列番号56)
図72】rLA225抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(配列番号57)
図73】rLA225抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(配列番号58)
図74】rLA869抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(配列番号59)
図75】rLA869抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(配列番号60)
図76】rLA869抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(配列番号61)
図77】rLA869抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(配列番号62)
図78】rLA869抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(配列番号63)
図79】rLA869抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(配列番号64)
図80】rLA1264抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(配列番号65)
図81】rLA1264抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(配列番号66)
図82】rLA1264抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(配列番号67)
図83】rLA1264抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(配列番号68)
図84】rLA1264抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(配列番号69)
図85】rLA1264抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(配列番号70)
図86】プライマーRG2AR3(配列番号71)
図87】プライマーRKR5(配列番号72)
図88】プライマー3.3-F1(配列番号73)
図89】プライマー3.3-R1(配列番号74)
図90】プライマー212H-F(配列番号75)
図91】プライマー212H-R(配列番号76)
図92】プライマー212L-F(配列番号77)
図93】プライマー212L-R(配列番号78)
図94】オリゴヌクレオチドLAG-3-H1(配列番号79)
図95】オリゴヌクレオチドLAG-3-H2(配列番号80)
図96】オリゴヌクレオチドLAG-3-H3(配列番号81)
図97】オリゴヌクレオチドLAG-3-H4(配列番号82)
図98】オリゴヌクレオチドLAG-3-H5(配列番号83)
図99】オリゴヌクレオチドLAG-3-H6(配列番号84)
図100】ヒトLAG-3のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号85)
図101】ヒトLAG-3のアミノ酸配列(配列番号86)
図102】ヒト活性化CD8T細胞において、ヒトLAG-3の発現がパーフォリンの発現と相関していることを示す図。ヒトPBMCをDynabeads Human T-Activator CD3/CD28で刺激した細胞におけるLAG-3およびパーフォリンの発現をフローサイトメトリー法(多重染色)により検討した。解析のためにCD3陽性CD8陽性T細胞にゲートをかけた結果を示す。なおグラフの4分割は、ヒトLAG-3およびヒトパーフォリンに対する染色抗体を含まないサンプル(左端の図)を用いて設定した。
図103】ヒト活性化CD8T細胞において、CD28陰性細胞の多くがLAG-3を発現していることを示す図。ヒトPBMCをDynabeads Human T-Activator CD3/CD28で刺激した細胞におけるLAG-3およびCD28の発現をフローサイトメトリー法(多重染色)により検討した。解析のためにCD3陽性CD8陽性T細胞にゲートをかけた結果を示す。なおグラフの4分割は、ヒトLAG-3およびヒトCD28に対する染色抗体を含まないサンプル(左端の図)を用いて設定した。
図104】ヒト活性化CD8T細胞において、CD57陽性細胞の多くがLAG-3を発現していることを示す図。ヒトPBMCをDynabeads Human T-Activator CD3/CD28で刺激した細胞におけるLAG-3およびCD57の発現をフローサイトメトリー法(多重染色)により検討した。解析のためにCD3陽性CD8陽性T細胞にゲートをかけた結果を示す。なおグラフの4分割は、ヒトLAG-3およびヒトCD57に対する染色抗体を含まないサンプル(左端の図)を用いて設定した。
図105】LAG-3抗体がパーフォリン陽性CD8T細胞を選択的にdepleteすることを示す図。ヒトPBMCを、ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H4/L2、タクロリムス(Tac)、デキサメタゾン(Dex)の存在下で、Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28で4日間刺激し、得られた細胞をフローサイトメトリー法(多重染色)により解析した。二人のドナー由来のPBMCを用いた結果を示す(PBMC1およびPBMC2)。図105AはトータルのT細胞数を、図105Bはパーフォリン陽性CD8T細胞数をそれぞれ示す。
図106】LAG-3抗体がCD28陰性T細胞をdepleteすることを示す図。ヒトPBMCを、ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H4/L2(最終濃度10、1、0.1μg/mL)、コントロール抗体(最終濃度10μg/mL)、タクロリムス(Tac)、デキサメタゾン(Dex)の存在下で、Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28で4日間刺激し、得られた細胞をフローサイトメトリー法(多重染色)により解析した。二人のドナー由来のPBMCを用いた結果を示す(PBMC1およびPBMC2)。図106AはCD28陰性CD4T細胞数を、図106BはCD28陰性CD8T細胞数をそれぞれ示す。
図107】LAG-3抗体がCD57陽性T細胞をdepleteすることを示す図。ヒトPBMCを、ヒト化抗LAG-3抗体hLA212_H4/L2(最終濃度10、1、0.1μg/mL)、コントロール抗体(最終濃度10μg/mL)、タクロリムス(Tac)、デキサメタゾン(Dex)の存在下で、Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28で4日間刺激し、得られた細胞をフローサイトメトリー法(多重染色)により解析した。二人のドナー由来のPBMCを用いた結果を示す(PBMC1およびPBMC2)。図107AはCD57陽性CD4T細胞数を、図107BはCD57陽性CD8T細胞数をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.定義
本発明において、「遺伝子」とは、蛋白質のアミノ酸をコードするヌクレオチド配列が含まれる核酸分子またはその相補鎖を意味し、例えば、蛋白質のアミノ酸をコードするヌクレオチド配列またはその配列に相補的なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNA、mRNA、cDNA、cRNA等は「遺伝子」の意味に含まれる。かかる遺伝子は一本鎖、二本鎖又は三本鎖以上のヌクレオチドであり、DNA鎖とRNA鎖の会合体、一本のヌクレオチド鎖上にリボヌクレオチド(RNA)とデオキシリボヌクレオチド(DNA)が混在するもの及びそのようなヌクレオチド鎖を含む二本鎖又は三本鎖以上のヌクレオチドも「遺伝子」の意味に含まれる。本発明の「LAG-3遺伝子」としては、例えば、LAG-3蛋白質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が含まれるDNA、mRNA、cDNA、cRNA等をあげることができる。
【0013】
本発明において、「ヌクレオチド」と「核酸」及び「核酸分子」は同義であり、例えば、DNA、RNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、プライマー等もそれらの意味に含まれる。かかるヌクレオチドは一本鎖、二本鎖又は三本以上の鎖からなるヌクレオチドであり、DNA鎖とRNA鎖の会合体、一本のヌクレオチド鎖上にリボヌクレオチド(RNA)とデオキシリボヌクレオチド(DNA)が混在するもの及びそのようなヌクレオチド鎖を含む二本鎖又は三本以上の鎖の会合体も「ヌクレオチド」の意味に含まれる。
【0014】
本発明において、「ポリペプチド」、「ペプチド」および「蛋白質」は同義である。
【0015】
本発明において、「抗原」を「免疫原」の意味に用いることがある。
【0016】
本発明において、「細胞」には、動物個体に由来する各種細胞、継代培養細胞、初代培養細胞、細胞株、組換え細胞及び微生物等も含まれる。
【0017】
本発明においては、LAG-3と結合する抗体及びLAG-3を認識する抗体を、いずれも「抗LAG-3抗体」と表記するか又は「LAG-3抗体」と略記することがある。抗LAG-3抗体には、モノクローナル抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体等が含まれる。
【0018】
本発明における「抗体の結合断片」とは、元の抗体が奏する機能の少なくとも一部を奏する抗体断片を意味する。「抗体の結合断片」としては、例えば、Fab、F(ab’)2、scFv、Fab’、一本鎖免疫グロブリン等をあげることができるが、それらに限定されるものではない。かかる抗体の結合断片は、抗体蛋白質の全長分子をパパイン、ペプシン等の酵素で処理することによって得られたものに加え、組換え遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生された組換え蛋白質であってもよい。
【0019】
本発明において、抗体が結合する「部位」、すなわち抗体が認識する「部位」とは、抗体が結合又は認識する抗原上の部分ペプチド又は部分高次構造を意味する。本発明においては、かかる部位のことをエピトープ、抗体の結合部位とも呼ぶ。抗LAG-3抗体が結合又は認識するLAG-3蛋白質上の部位としては、LAG-3蛋白質上の部分ペプチド又は部分高次構造等を例示することができる。
【0020】
抗体分子の重鎖及び軽鎖にはそれぞれ3箇所の相補性決定領域(CDR:Complemetarity determining region)があることが知られている。相補性決定領域は、超可変領域(hypervariable domain)とも呼ばれ、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域内にあって、一次構造の変異性が特に高い部位であり、重鎖及び軽鎖のポリペプチド鎖の一次構造上において、通常、それぞれ3ヶ所に分離している。本発明においては、抗体の相補性決定領域について、重鎖の相補性決定領域を重鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRH1、CDRH2、CDRH3と表記し、軽鎖の相補性決定領域を軽鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRL1、CDRL2、CDRL3と表記する。これらの部位は立体構造の上で相互に近接し、結合する抗原に対する特異性を決定している。重鎖可変領域アミノ酸配列中のCDRH1乃至CDRH3以外の部分をフレームワーク(Framework Region:以下FR)と呼び、アミノ末端からCDRH1の手前まで、CDRH1の次からCDRH2の手前まで、CDRH2の次からCDRH3の手前まで、及び、CDRH3の次からカルボキシル末端までを、それぞれFRH1乃至FRH4と呼ぶ。同様に、軽鎖可変領域アミノ酸配列中のCDRL1乃至CDRL3以外の部分もFRであり、アミノ末端からCDRL1の手前まで、CDRL1の次からCDRL2の手前まで、CDRL2の次からCDRL3の手前まで、及び、CDRL3の次からカルボキシル末端までを、それぞれFRL1乃至FRL4と呼ぶ。すなわち、重鎖及び軽鎖の可変領域(のアミノ酸配列)においては、FRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4及びFRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3-CDRL3-FRL4の順でアミノ末端側からカルボキシル末端に向けて連続的に並んでいる。
【0021】
本発明において、「抗体変異体」とは、元の抗体が有するアミノ酸配列においてアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入(以下、「変異」と総称する)してなるアミノ酸配列を有し、且つLAG-3蛋白質に結合するポリペプチドを意味する。かかる抗体変異体における変異アミノ酸の数は、1個、1乃至2個、1乃至3個、1乃至4個、1乃至5個、1乃至6個、1乃至7個、1乃至8個、1乃至9個、1乃至10個、1乃至12個、1乃至15個、1乃至20個、1乃至25個、1乃至30個、1乃至40個又は1乃至50個である。かかる抗体変異体も本発明の「抗体」に包含される。
【0022】
本発明において、「1乃至数個」における「数個」とは、3乃至10個を指す。
【0023】
本発明においてLAG-3抗体が奏する活性・性質としては、例えば、生物的活性、理化学的性質等を挙げることができ、具体的には、各種生物活性、抗原やエピトープに対する結合活性、製造や保存時における安定性、熱安定性等をあげることができる。
【0024】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、5×SSCを含む溶液中で65℃にてハイブリダイゼーションを行い、ついで2×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、0.5×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、ならびに、0.2×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、それぞれ洗浄する条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることを意味する。SSCとは150mMNaCl-15mMクエン酸ナトリウムの水溶液であり、n×SSCはn倍濃度のSSCを意味する。
【0025】
本発明において「細胞傷害」とは、何らかの形で、細胞に病理的な変化をもたらすことを指し、直接的な外傷にとどまらず、DNAの切断や塩基の二量体の形成、染色体の切断、細胞分裂装置の損傷、各種酵素活性の低下などあらゆる細胞の構造や機能上の損傷を意味する。
【0026】
本発明において「細胞傷害活性」とは上記細胞傷害を引き起こすことを意味する。
【0027】
本発明において「抗体依存性細胞傷害活性」とは、「antibody dependent cellular cytotoxicity(ADCC)活性」を指し、NK細胞等が抗体を介して標的細胞を傷害する作用活性を意味する。
【0028】
本発明において、「宿主対移植片反応」とは、臓器移植後に観察される被移植者の免疫亢進状態およびこれによる移植臓器の傷害をいう。
【0029】
本発明において、「移植片対宿主病」とは、造血細胞移植後の移植細胞による被移植者への免疫的攻撃によって発症する症状をいう。
【0030】
本発明において、「depletion」、「枯渇」および「除去」は同義であり、相互に置き換え可能であり、細胞傷害活性等により、特定の細胞群に含まれる細胞の数が減少した状態又は増加していない状態をいう。同様に「deplete」、「枯渇させる」および「除去する」は同義であり、相互に置き換え可能であり、細胞傷害活性等により、特定の細胞群に含まれる細胞の数を減少させるか又は増加させないことをいう。
【0031】
本発明において、「細胞傷害性T細胞」とは、特定の細胞群に含まれる細胞に対し細胞傷害性を有するT細胞を意味し、例えば、CD4+(陽性)CD28-(陰性)T細胞、CD8+CD28-T細胞、CD4+CD57+T細胞、CD8+CD57+T細胞、パーフォリン+T細胞、グランザイムB+T細胞等のT細胞サブセットをあげることができる。細胞傷害性T細胞は、喘息及び重症喘息(以下まとめて「喘息」という)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の免疫系疾患や自己免疫疾患に関与する主要な炎症系細胞の一つとして報告されており(非特許文献12, 非特許文献15)、高い細胞傷害作用を有する一方、ステロイド処置による抗炎症作用あるいはアポトーシス誘導への耐性が報告されている(非特許文献16)
【0032】
2.抗原蛋白質
(2-1)特性
LAG-3蛋白質(以下単に「LAG-3」とも記す)は膜貫通型受容体蛋白質で、免疫グロブリン様ドメイン(IgD1乃至4)から成るリガンド結合部位を含む細胞外領域、I型1回膜貫通領域、および細胞内領域から構成されている。LAG-3はCD223と同義である。
【0033】
本発明において、LAG-3は脊椎動物由来、好適には哺乳動物由来であり、より好適にはヒト由来である。
LAG-3蛋白質は以下の性質を有する。
(i)抗原提示細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子に結合する。
(ii)MHCクラスII分子に結合して、当該分子を発現するT細胞に抑制性のシグナルを伝達し、該T細胞の機能を負に制御する。
(iii)本発明においてLAG-3蛋白質は、次の(a)乃至(d)のいずれか一つに記載のアミノ酸配列(以下、「LAG-3アミノ酸配列」という)を含んでなるか、LAG-3アミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるか、またはLAG-3アミノ酸配列からなる:
(a)配列番号86(図101)で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号86(図101)で示されるアミノ酸配列と80%以上、82%以上、84%以上、86%以上、88%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を示し且つMHCクラスII分子結合活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列;
(c)配列番号86(図101)で示されるアミノ酸配列において1乃至50個、1乃至45個、1乃至40個、1乃至35個、1乃至30個、1乃至25個、1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、または1個のアミノ酸が置換、欠失、付加または挿入してなり且つMHCクラスII分子結合活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列;及び、
(d)配列番号86(図101)で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド(核酸分子)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド(核酸分子)の有するヌクレオチド配列によりコードされ、且つ、MHCクラスII分子結合活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列。
【0034】
(b)乃至(d)記載のいずれか一つに記載のポリペプチドは、MHCクラスII分子結合活性に加え、LAG-3の有する他の活性を有していてもよい。
(iv)LAG-3蛋白質は、脊椎動物、好適には哺乳動物、より好適にはマウス、ラット等のげっ歯類及びヒト、より一層好適にはヒト、ラット又はマウスの、LAG-3を発現している細胞、組織又は癌組織、かかる組織由来の細胞、かかる細胞の培養物等より得ることができる。
LAG-3は、生体内では炎症部位の活性化T細胞等に発現が認められ、正常組織の細胞においてはほとんど発現していないか又は発現レベルが非常に低い。
【0035】
LAG-3蛋白質は天然型(非組換型)及び組換え型のいずれであってもよい。また、担体やタグなど他のペプチドや蛋白質との融合物もLAG-3蛋白質の意味に含まれる。さらに、PEG等のポリマー付加を含む化学修飾、及び/又は、糖鎖修飾を含む生物学的修飾がなされたものもLAG-3蛋白質の意味に含まれる。また、LAG-3蛋白質断片もLAG-3蛋白質の意味に含まれる。LAG-3蛋白質断片のうち上記(i)及び/又は(ii)記載の性質を具備したものをLAG-3蛋白質結合断片と呼ぶ。
【0036】
(2-2)抗原遺伝子
本発明においてLAG-3遺伝子は、次の(a)乃至(c)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列(以下、「LAG-3遺伝子配列」という)を含んでなるか、LAG-3遺伝子配列を含むヌクレオチド配列からなるか、またはLAG-3遺伝子配列からなる:
(a)配列番号86(図101)で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(b)配列番号86(図101)で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド(核酸分子)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし且つMHCクラスII分子結合活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(核酸分子)が有するヌクレオチド配列;及び
(c)配列番号86(図101)で示されるアミノ酸配列において1乃至50個、1乃至45個、1乃至40個、1乃至30個、1乃至25個、1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、または1個の塩基が置換、欠失、付加または挿入してなるアミノ酸配列をコードし且つMHCクラスII分子結合活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列。
【0037】
(b)又は(c)記載のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、MHCクラスII分子結合活性に加え、LAG-3の有する他の活性を有していてもよい。
【0038】
LAG-3遺伝子の発現及び発現量の測定は、LAG-3遺伝子の転写産物及びLAG-3蛋白質のいずれを指標としてもよく、前者はRT-PCR法、ノーザンブロット・ハイブリダーゼーション法等により、後者はフローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング法、免疫組織染色法等の免疫アッセイ法等により、それぞれ測定することができる。
【0039】
(2-3)抗原蛋白質の調製
LAG-3蛋白質は、動物組織(体液を含む)、該組織由来の細胞もしくは該細胞培養物からの精製及び単離、遺伝子組換え、インビトロ翻訳、化学合成等により調製することができる。
(2-3-1)非組換型LAG-3の精製、単離
非組換型LAG-3蛋白質は、LAG-3を発現している細胞より精製、単離することができる。LAG-3を発現している細胞としては(2-1)の(iv)記載のものを例示することができるが、非組換型LAG-3蛋白質の由来はそれらに限定されるものではない。
【0040】
かかる組織、細胞、細胞培養物等からの精製・単離は当業者に周知の分画、クロマトグラフィー等の手法を組み合わせることにより行うことができる。
(2-3-2)組換型LAG-3蛋白質の調製
LAG-3蛋白質は、組換型としても調製することができる。すなわち、LAG-3蛋白質又はLAG-3蛋白質断片のアミノ酸配列をコードする遺伝子を宿主細胞に導入し、かかる細胞の培養物からLAG-3蛋白質を回収することができる。また、アミノ末端(N末)及び/又はカルボキシ末端(C末)が天然型と同一の分子のみならず、分泌シグナル、細胞内局在化シグナル、アフィニティー精製用タグ、パートナーペプチドとの融合蛋白質として発現させることもできる。かかる組換え細胞培養物からのLAG-3蛋白質の精製、単離は、(2-3-1)記載の非組換型LAG-3蛋白質の精製、単離に記載の分画、クロマトグラフィー等の操作を適宜組み合わせることにより行うことができる。また、LAG-3蛋白質含有溶液は、ゲルろ過やCentriprep等の濃縮装置でバッファー交換及び/又は濃縮することができる。
【0041】
(2-3-3)インビトロ翻訳
LAG-3蛋白質はインビトロ翻訳によっても調製することができる。かかる翻訳法としては、転写及び翻訳に必要な酵素、基質並びにエネルギー物質を含む無細胞翻訳系を利用した方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、ロシュ・ダイアグノスティックス社製のラピッドトランスレーションシステム(RTS)を利用する方法をあげることができる。
(2-3-4)化学合成
LAG-3蛋白質は化学合成によっても調製することができる。化学合成法としては、例えば、Fmoc合成法、Boc合成法などのペプチド固相合成法をあげることができる。
【0042】
3.抗体
(3-1)抗体の分類
本発明においてLAG-3抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよい。モノクローナル抗体としては、非ヒト動物由来の抗体(非ヒト動物抗体)、ヒト由来の抗体(ヒト抗体)、キメラ化抗体(「キメラ抗体」ともいう)、ヒト化抗体等をあげることができる。
【0043】
非ヒト動物抗体としては、哺乳類、鳥類等の脊椎動物に由来する抗体等をあげることができる。哺乳類由来の抗体としては、マウス抗体、ラット抗体等げっ歯類由来の抗体等をあげることができる。鳥類由来の抗体としては、ニワトリ抗体等をあげることができる。抗ヒトLAG-3ラットモノクローナル抗体としては、例えば、rLA204、rLA212、rLA225、4LA869、rLA1264等をあげることができるが、それらに限定されない。
【0044】
キメラ化抗体としては、非ヒト動物抗体由来の可変領域とヒト抗体(ヒト免疫グロブリン)定常領域とを結合してなる抗体等をあげることができるが、それに限定されるものではない。非ヒト動物抗体由来の可変領域とヒト抗体定常領域が結合してなるキメラ化抗体としては、前述のラットモノクローナル抗体rLA204、rLA212、rLA225、4LA869又はrLA1264由来の重鎖及び軽鎖可変領域、ならびに、ヒト重鎖及び軽鎖定常領域を有するもの(それぞれ「cLA204」、「cLA212」、「cLA225」、「cLA869」又は「cLA1264」と呼ぶ)等をあげることができる。
【0045】
ヒト化抗体としては、非ヒト動物抗体の可変領域中のCDRをヒト抗体(ヒト免疫グロブリンの可変領域)に移植したもの、CDRに加え非ヒト動物抗体のFRの配列も一部ヒト抗体に移植したもの、それらのいずれかの非ヒト動物抗体由来の1つ又は2つ以上のアミノ酸をヒト型又は他のアミノ酸で置換したもの等をあげることができるが、それらに限定されるものではない。非ヒト動物抗体の可変領域中のCDRとしては、前述のrLA204、rLA212、rLA225、rLA869又はrLA1264由来の重鎖可変領域中のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖可変領域中のCDRL1乃至CDRL3を例示することができ、rLA212由来の重鎖可変領域中のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖可変領域中のCDRL1乃至CDRL3を含むヒト化抗体としては、hLA212_H2/L1乃至H2/L5、hLA212_H3/L1乃至H3/L5、hLA212_H4/L2等をあげることができる。
【0046】
ヒト抗体としては、LAG-3蛋白質を認識する抗体であれば特に限定されるものではないが、LAG-3抗体のCDRを有する抗体と同一の部位に結合するヒト抗体、前述の非ヒト動物抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体等のいずれか一つとLAG-3上で同一の部位に結合するヒト抗体、かかるいずれかの抗体とLAG-3への結合において競合する抗体等を例示することができる。
【0047】
本発明における抗体は、LAG-3に結合する活性を有していれば、複数の異なる抗体に由来する部分から構成される抗体であってもよく、例えば、複数の異なる抗体間で重鎖及び/又は軽鎖を交換したもの、重鎖及び/又は軽鎖の全長を交換したもの、可変領域のみ又は定常領域のみを交換したもの、CDRの全部又は一部のみを交換したもの等をあげることができる。キメラ化抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、異なるLAG-3抗体に由来してもよい。ヒト化抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域中のCDRH1乃至CDRH3並びにCDRL1乃至CDRL3は、2種又はそれ以上のLAG-3抗体に由来してもよい。ヒト抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域中のCDRH1乃至CDRH3並びにCDRL1乃至CDRL3は、2種又はそれ以上のLAG-3抗体が有するCDRの組合せであってもよい。そのような複数の異なる抗体に由来する部分から構成される抗体又はその結合断片は、以下に記される(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
【0048】
モノクローナル抗体のアイソタイプは特に限定されるものではないが、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のIgG、IgM、IgA1、IgA2等のIgA、IgD、IgE等をあげることができ、好適にはIgGおよびIgMを挙げることができる。モノクローナル抗体のアイソタイプ及びサブクラスは、例えば、オクテルロニー(Ouchterlony)法、Enzyme-linked immuno-sorbent assay:以下、「ELISA」という)法、Radio immunoassay(以下、「RIA」という)法等で決定することができる、市販の同定用のキット(マウスタイパーキット:バイオラッド社製、RAT MONOCLONAL ANTIBODY ISOTYPING TEST KIT:serotec社 等)も利用することができる。
【0049】
(3-2)抗体の結合特異性
本発明においてLAG-3抗体はLAG-3蛋白質を認識する。言い換えれば、LAG-3抗体はLAG-3蛋白質に結合する。かかる抗体は「抗LAG-3抗体」とも表記される。また、本発明に使用される好適な抗体はLAG-3蛋白質を特異的に認識する。言い換えれば、本発明に使用される好適な抗体はLAG-3蛋白質に特異的に結合する(以上、まとめて抗体の「LAG-3結合活性という)。さらに、本発明に使用されるより好適な抗体はLAG-3蛋白質の細胞外領域に特異的に結合し、より一層好適な抗体はLAG-3蛋白質の有する免グロブリン様ドメイン(以下、「Ig様ドメイン」という)に特異的に結合し、さらにより一層好適な抗体はかかるIg様ドメイン3に特異的に結合する。
【0050】
本発明において「特異的な認識」、すなわち「特異的な結合」とは、非特異的な吸着ではない結合を意味する。結合が特異的であるか否かの判定基準としては、例えば、解離定数(Dissociation Consitant:以下、「KDという」)をあげることができる。本発明に使用される好適な抗体のLAG-3蛋白質に対するKD値は1×10-5以下、5×10-6以下、2×10-6以下または1×10-6以下、より好適には5×10-7以下、2×10-7以下または1×10-7以下、より一層好適には5×10-8以下、2×10-8以下または1×10-8以下、さらにより一層好適には5×10-9以下、2×10-9以下または1×10-9以下、最適には5×10-10以下、2×10-10以下または1×10-10以下である。
【0051】
本発明における抗原と抗体の結合は、ELISA法、RIA法、Surface Plasmon Resonance(以下、「SPR」という)解析法等により測定または判定することができる。SPR解析に用いる機器としては、BIAcoreTM(GEヘルスケア社製)、ProteOnTM(BioRad社製)、SPR-NaviTM(BioNavis社製)、SpreetaTM(Texas Instruments社製)、SPRi-PlexIITM(ホリバ社製)、Autolab SPRTM(Metrohm社製)等を例示することができる。細胞表面上に発現している抗原と抗体との結合は、フローサートメトリー法、Cell ELISA法等により測定することができる。
【0052】
(3-3)抗体の細胞傷害活性
本発明に使用される抗LAG-3抗体は、そのある態様において、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を有し、好適にはイン・ビトロでADCC活性を有し、より好適にはLAG-3を発現するT細胞に対してADCC活性を有する。本発明に使用される抗LAG-3抗体は、ADCC活性に加え、補体依存性細胞傷害(CDC)活性及び/又は抗体依存性細胞媒介食活性(ADCP)活性を有していてもよい。本発明においては「イン・ビトロのADCC活性」を単に「ADCC活性」ということがある。
【0053】
ADCC活性は公知の方法により測定することができる。ADCC活性の測定には、目的とする抗原を発現する細胞(標的細胞)と、その標的細胞を殺傷するエフェクター細胞が用いられる。エフェクター細胞はFcγ受容体を介して、標的細胞に結合した抗体のFc領域を認識する。Fcγ受容体から伝達されるシグナルにより、エフェクター細胞が標的細胞を殺傷する。ヒト由来のFc領域を有する抗体のADCC活性を測定する場合、エフェクター細胞としてヒトNK細胞が用いられる。ヒトNK細胞はヒト末梢血単核球(PMBC)から公知の方法により調製することができる。あるいはPBMCをそのままエフェクター細胞として用いることもできる。
【0054】
(3-4)抗体のイン・ビボLAG-3陽性細胞数低減活性
本発明においてLAG-3抗体は、そのある態様において、LAG-3陽性細胞数を低減させ、好適にはイン・ビボ(in vivo)でLAG-3陽性細胞数を低減させ、より好適には低フコース形態で、イン・ビボ(in vivo)でLAG-3陽性細胞数を低減させる。
【0055】
LAG-3陽性細胞には、LAG-3を強制発現させた細胞、刺激によりLAG-3発現が誘導された細胞等が含まれるが、LAG-3を発現している細胞であればそれらに限定されない。
【0056】
LAG-3陽性細胞数は定法、例えば、フローサイトメトリーによりカウントすることができる。
【0057】
本発明において「低フコース形態」とは、(i)ある抗体又はその結合断片に結合しているN-グリコシド結合複合型糖鎖中のフコース(フコース残基)の量が、元(親)の抗体又はその結合断片に結合しているN-グリコシド結合複合型糖鎖中のフコース(フコース残基)の量より少い形態、(ii)ある抗体又はその結合断片に結合しているN-グリコシド結合複合型糖鎖中のフコース(フコース残基)の量が、天然において抗体又はその結合断片に結合しているN-グリコシド結合複合型糖鎖中のフコース(フコース残基)の量より少ない形態、又は(iii)ある抗体若しくはその結合断片に結合しているN-グリコシド結合複合型糖鎖中のフコース(フコース残基)又はフコース(フコース残基)を含む糖鎖が、物理的又は化学的な分析(好適には質量分析)において検出限界以下である形態、を意味する。ある改変された抗体又はその結合断片に結合しているN-グリコシド結合複合型糖鎖中のフコース(フコース残基)の量が、かかる改変前と比較して少ない場合、かかる改変された抗体又はその結合断片は「低フコース形態」にあると解される。後述するヒト化抗体の修飾体hLA212_H4/L2も、低フコース形態にある抗体の一態様である。低フコース形態にある抗体又は結合断片は、低フコース形態にないものに比して、Fcγ受容体IIIAに対する親和性が高く、ADCC活性が強い。
【0058】
(3-5)抗体のイン・ビボ実験的自己免疫性脳脊髄炎抑制活性
本発明においてLAG-3抗体は、そのある態様において、脳脊髄炎抑制活性を有し、好適にはイン・ビボ(in vivo)で実験的自己免疫性脳脊髄炎抑制活性を有し、より好適には低フコース形態で、イン・ビボ(in vivo)で実験的自己免疫性脳脊髄炎抑制活性を有する。
【0059】
本発明において、実験的自己免疫性脳脊髄炎は、中枢神経のミエリン構成タンパク質の1つであるMOG(Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein)由来のペプチドをFreund‘s Adjuvantと共にマウスに注射することにより惹起する脳脊髄炎を意味する 。
【0060】
実験的自己免疫性脳脊髄炎抑制活性は、麻痺の程度を反映した臨床スコアを経日的に観察することで測定することができる。臨床スコアは、例えば以下のように設定することができる: スコア0:無症状、スコア1:尾の脱力、スコア2:歩行異常・正向反射消失、スコア3:後肢麻痺、スコア4:前肢の部分麻痺、スコア5:死亡または安楽殺。
【0061】
(3-6)抗体のヒト活性化T細胞結合活性
本発明においてLAG-3抗体は、そのある態様において、ヒト活性化T細胞に結合し、好適にはLAG-3陽性ヒト活性化T細胞に結合する。
抗体と活性化ヒト活性化T細胞の結合は、例えば、フローサイトメトリー法により測定又は検出することができる。
【0062】
(3-7)抗体の存在下でヒトLAG-3とヒトMHCクラスII分子は結合する
本発明のある態様では、抗体の存在下において、ヒトLAG-3とヒトMHCクラスII分子は結合することができるか、又は、本発明においてLAG-3抗体は、ヒトLAG-3とヒトMHCクラスII分子の結合を阻害しない。
【0063】
LAG-3分子の細胞外領域とIgGのFc部分の融合タンパク質の、内因性にMHCクラスII分子を高発現するRaji細胞への結合は、例えば、フローサイトメトリー法により測定又は検出することで評価することができる。
【0064】
(3-8)抗体の存在下でヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏する
また他の態様において、本発明におけるLAG-3抗体の存在下で、ヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏する。
【0065】
本発明において「T細胞抑制機能」とは、T細胞を刺激した際に産生されるサイトカイン量の減少又は抑制を意味する。
【0066】
ヒトLAG-3によるT細胞抑制機能は、例えばヒトT細胞を刺激してLAG-3発現を誘導した際に産生されるサイトカインを定量することにより測定することができる。
【0067】
本発明において、ヒトT細胞の刺激は、特に限定されないが、例えば、特異抗原、抗CD3抗体、抗CD3抗体と抗CD28抗体の組合せ、スーパー抗原、別のドナー由来の細胞による刺激、好適にはStaphylococcal Enterotoxin B、MHCの異なる別のドナー由来の細胞による刺激等をあげることができる。
サイトカインとしては、例えば、活性化T細胞から産生されるサイトカイン、好適には各種インターローキンおよびインターフェロン、より好適にはインターロイキン2(IL-2)およびインターフェロンγ等をあげることができる。
【0068】
(3-9)モノクローナル抗体
本発明は抗LAG-3モノクローナル抗体及びその結合断片を提供する。モノクローナル抗体には、ラット抗体、マウス抗体、ウサギ抗体、ニワトリ抗体、魚類抗体等の非ヒト動物由来のモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、それらの結合断片、それらの修飾体等が含まれる。このうち、ラットモノクローナル抗体の例としては、rLA204、rLA212、rLA225、rLA869、rLA1264等をあげることができる。
【0069】
rLA204は実施例1に記載の方法により得られた抗ヒトLAG-3ラットモノクローナル抗体である。rLA204の重鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号1(図16)に、アミノ酸配列は配列番号2(図17)に記載されている。rLA204の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号3(図18)に、アミノ酸配列は配列番号4(図19)に記載されている。rLA204のCDRH1のアミノ酸配列は配列番号41(図56)に、CDRH2のアミノ酸配列は配列番号42(図57)に、CDRH3のアミノ酸配列は配列番号43(図58)に、CDRL1のアミノ酸配列は配列番号44(図59)に、CDRL2のアミノ酸配列は配列番号45(図60)に、CDRL3のアミノ酸配列は配列番号46(図61)にそれぞれ記載されている。
【0070】
rLA212は実施例1に記載の方法により得られた抗ヒトLAG-3ラットモノクローナル抗体である。rLA212の重鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号5(図20)に、アミノ酸配列は配列番号6(図21)に記載されている。rLA212の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号7(図22)に、アミノ酸配列は配列番号8(図23)に記載されている。rLA212のCDRH1のアミノ酸配列は配列番号47(図62)に、CDRH2のアミノ酸配列は配列番号48(図63)に、CDRH3のアミノ酸配列は配列番号49(図64)に、CDRL1のアミノ酸配列は配列番号50(図65)に、CDRL2のアミノ酸配列は配列番号51(図66)に、CDRL3のアミノ酸配列は配列番号52(図67)にそれぞれ記載されている。
【0071】
rLA225は実施例1に記載の方法により得られた抗ヒトLAG-3ラットモノクローナル抗体である。rLA225の重鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号9(図24)に、アミノ酸配列は配列番号10(図25)に記載されている。rLA225の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号11(図26)に、アミノ酸配列は配列番号12(図27)に記載されている。rLA225のCDRH1のアミノ酸配列は配列番号53(図68)に、CDRH2のアミノ酸配列は配列番号54(図69)に、CDRH3のアミノ酸配列は配列番号55(図70)に、CDRL1のアミノ酸配列は配列番号56(図71)に、CDRL2のアミノ酸配列は配列番号57(図72)に、CDRL3のアミノ酸配列は配列番号58(図73)に記載されている。
【0072】
rLA869は実施例1に記載の方法により得られた抗ヒトLAG-3ラットモノクローナル抗体である。rLA869の重鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号13(図28)に、アミノ酸配列は配列番号14(図29)に記載されている。rLA869の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号15(図30)に、アミノ酸配列は配列番号16(図31)に記載されている。rLA869のCDRH1のアミノ酸配列は配列番号59(図74)に、CDRH2のアミノ酸配列は配列番号60(図75)に、CDRH3のアミノ酸配列は配列番号61(図76)に、CDRL1のアミノ酸配列は配列番号62(図77)に、CDRL2のアミノ酸配列は配列番号63(図78)に、CDRL3のアミノ酸配列は配列番号64(図79)に記載されている。
【0073】
rLA1264は実施例1に記載の方法により得られた抗ヒトLAG-3ラットモノクローナル抗体である。rLA1264の重鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号17(図32)に、アミノ酸配列は配列番号18(図33)に記載されている。rLA1264の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列番号19(図34)に、アミノ酸配列は配列番号20(図35)に記載されている。rLA1264のCDRH1のアミノ酸配列は配列番号65(図80)に、CDRH2のアミノ酸配列は配列番号66(図81)に、CDRH3のアミノ酸配列は配列番号67(図82)に、CDRL1のアミノ酸配列は配列番号68(図83)に、CDRL2のアミノ酸配列は配列番号69(図84)に、CDRL3のアミノ酸配列は配列番号70(図85)に記載されている。
【0074】
他の抗ヒトLAG-3モノクローナル抗体としては、抗ヒトLAG-3マウス抗体A9H12(WO2008/132601参照)等を例示することができる。
【0075】
本発明において、抗体変異体には、好適には、蛋白質の分解もしくは酸化に対する感受性の低下、生物活性の改善、抗原結合能の改善、又は理化学的性質もしくは機能的性質の付与等がなされている。そのような抗体変異体の例として、抗体の有するアミノ酸配列において1又は2以上、好適には1乃至数個のアミノ酸が保存的アミノ酸置換されたアミノ酸配列を有する抗体をあげることができる。保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸側鎖に関連のあるアミノ酸グループ内で生じる置換である。
【0076】
好適なアミノ酸グループは、以下のとおりである:酸性グループ=アスパギン酸、グルタミン酸;塩基性グループ=リジン、アルギニン、ヒスチジン;非極性グループ=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および非帯電極性ファミリー=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。他の好適なアミノ酸グループは次のとおりである:脂肪族ヒドロキシグループ=セリン及びスレオニン;アミド含有グループ=アスパラギン及びグルタミン;脂肪族グループ=アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;並びに芳香族グループ=フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン。かかる抗体変異体におけるアミノ酸置換は、元(親)の抗体が有する抗原結合活性を低下させない範囲で行うのが好ましい。
【0077】
蛋白質中に含まれるアスパラギン酸は、そのC末側に連結するアミノ酸が小さい側鎖を有する場合は異性化によりイソアスパラギン酸に変換され易く、一方で、アスパラギンの場合は脱アミド化によりアスパラギン酸に変換され易く、さらに異性化によりイソアスパラギン酸に変換される可能性がある。そのような異性化や脱アミド化が進めば、蛋白質の安定性に影響が生じ得る。そこで、かかる異性化や脱アミド化を回避するために、蛋白質中のアスパラギン酸やアスパラギンあるいはそれらに隣接するアミノ酸等を他のアミノ酸で置換することができる。かかるアミノ酸置換がなされた抗体変異体は、元の抗体が有する抗原結合活性を保持していることが好ましい。
【0078】
本発明のrLA204、rLA212、rLA225、rLA869、rLA1264又はA9H12が有するアミノ酸配列において保守的アミノ酸置換がなされたアミノ酸配列を有する抗体変異体、ならびに、rLA204、rLA212、rLA225、rLA869、LA1264又はA9H12は由来のCDRH1乃至CDRH3及びCDRL1乃至CDRL3のいずれかのアミノ酸配列において保守的アミノ酸変異がなされたアミノ酸配列を有する該CDRを含むマウス抗体、ラット抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体等も本発明に包含される。
【0079】
本発明のrLA204、rLA212、rLA225、rLA869、rLA1264又はA9H12由来のCDRH1乃至CDRH3及びCDRL1乃至CDRL3のいずれか1つ又は2つ以上のアミノ酸配列において1乃至数個、好適には1乃至3個、より好適には1又は2個、最適には1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなるアミノ酸配列を有するCDRH1乃至CDRH3及びCDRL1乃至CDRL3を含む抗体の変異体であって、且つヒトLAG-3に結合するものは、本発明における抗体の変異体に包含される。
また、複数の抗体に由来するCDRH1乃至CDRH3およびCDRL1乃至CDRL3を有する抗体も、抗体変異体に含まれる。そのような変異体の例として、CDRH3のみある抗体に由来し、CDRH1及びCDRH2ならびにCDRL1乃至CDRL3は別の抗体に由来する抗体変異体をあげることができる。
本発明においては抗体変異体も「抗体」に包含される。
本発明における抗体の定常領域としては、特に限定されるものではないが、細胞傷害性T細胞枯渇のためのLAG-3抗体としては、好適にはヒト抗体のものが使用される。ヒト抗体の重鎖定常領域としては、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、Cε等をあげることができる。ヒト抗体の軽鎖定常領域としては、例えば、Cκ、Cλ等をあげることができる。
【0080】
(3-10)キメラ抗体
本発明に使用される抗LAG-3キメラ化抗体又はその結合断片は、(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
本発明のラット-ヒトキメラ化抗体として例示されるcLA212の重鎖ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列ならびに軽鎖ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号23、24、25及び26(図38、39、40及び41)にそれぞれ示される。重鎖のヌクレオチド配列におけるヌクレオチド番号1乃至57、ならびに、重鎖のアミノ酸配列におけるアミノ酸番号1乃至19は、シグナル配列であり、通常大部分の成熟重鎖のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列にはそれぞれ含まれない。同様に、軽鎖のヌクレオチド配列におけるヌクレオチド番号1乃至60、ならびに、軽鎖のアミノ酸配列におけるアミノ酸番号1乃至20は、シグナル配列であり、通常大部分の成熟軽鎖のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列にはそれぞれ含まれない。
【0081】
ラット-ヒトキメラ抗体であるcLA204、cLA225、cLA869及びcLA1264については他の箇所に記載されている。
【0082】
本発明の他のキメラ抗体としては、抗ヒトLAG-3マウス抗体A9H12のマウス-ヒト・キメラ体であるIMP731(キメラ型A9H12:WO2008/132601参照)等を例示することができる。
【0083】
(3-11)抗体の結合断片
本発明に使用される抗体は一つの態様として、抗LAG-3抗体の結合断片であってよい。抗体の結合断片とは、該抗体の有する機能の少なくとも一部を保持する断片を意味する。かかる抗体の機能としては、一般的には、抗原結合活性、抗原の活性を調節する活性、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性等を挙げることができる。本発明に使用される好適な抗LAG-3抗体の結合断片は、(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
抗体の結合断片としては、該抗体の有する活性の少なくとも一部を保持している該抗体の断片であれば特に限定されないが、例えば、Fab、F(ab’)2、Fv、重鎖及び軽鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、diabody(diabodies)、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の断片であるFab’等をあげることができるが、それらに限定されるものではない。リンカー部分を保有するscFvのように、抗体の断片以外の部分を含む分子も、抗体の結合断片の意味に包含される。
【0084】
抗体蛋白質のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端のアミノ酸が1乃至数個又はそれ以上を欠失してなり、且つ該抗体の有する機能の少なくとも一部を保持している分子も、抗体の結合断片の意味に包含される。例えば、哺乳類培養細胞で生産される抗体の重鎖のカルボキシル末端のリジン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A,705:129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リジンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry,360:75-83(2007))。しかし、これらの重鎖配列の欠失及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞傷害作用など)には影響を及ぼさない。そのような抗体の結合断片の修飾体も、抗体もしくはその結合断片、又はその修飾体(後述)に包含される。
【0085】
本発明において、抗体又はその結合断片は、少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異性を有する多特異性抗体であってもよい。多特異性抗体は、2種類の異なる抗原に結合する二重特異性抗体(bispecific antibody)に限定されず、3種以上の異なる抗原に対して特異性を有する抗体も本発明の「多特異性抗体」の意味に包含される。
【0086】
本発明の多特異性抗体は、全長抗体又はその結合断片であってもよい(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)。二重特異性抗体は2種類の抗体の重鎖と軽鎖(HL対)を結合させて作製することもできる。また、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを2種類以上融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することによっても、得ることができる(Millstein et al.,Nature(1983)305,p.537-539)。多特異的抗体も同様の方法により調製することができる。
【0087】
本発明におけるLAG-3抗体の一つの態様は、一本鎖抗体(以下、「scFv」という)である。scFvは、抗体の重鎖V領域と軽鎖V領域とをポリペプチドのリンカーで連結することにより得られる(Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,113,Rosenburg及びMoore編,Springer Verlag,New York,p.269-315(1994)、Nature Biotechnology(2005),23,p.1126-1136)。また、2つのscFvをポリペプチドリンカーで結合させて作製されるBiscFvを二重特異性抗体として使用することができる。さらに3つ以上のscFvよりMultiscFvも多特異性抗体として使用することができる。
【0088】
本発明では、抗体の重鎖及び軽鎖の全長配列を適切なリンカーを用いて連結した一本鎖イムノグロブリン(single chain immunoglobulin)が含まれる(Lee,H-S,et.al.,Molecular Immunology(1999)36,p.61-71;Shirrmann,T.et.al.,mAbs(2010),2,(1)p.1-4)。このような一本鎖イムノグロブリンは二量体化することによって、本来は四量体である抗体と類似した構造と活性を保持することが可能である。また、本発明において、抗体は、単一の重鎖可変領域を有し、軽鎖配列を有さない抗体であってもよい。このような抗体は、単一ドメイン抗体(single domain antibody:sdAb)又はナノボディ(nanobody)と呼ばれており、抗原結合能が保持されていることが報告されている(Muyldemans S.et.al.,Protein Eng.(1994)7(9),1129-35,Hamers-Casterman C.et.al.,Nature(1993)363(6428)446-8)。これらの抗体も、抗体の機能性断片の意味に包含される。
【0089】
(3-12)ヒト化抗体およびヒト抗体
本発明はその一つの態様において、ヒト化抗体又はその結合断片を提供する。
【0090】
本発明に使用される好適なヒト化抗LAG-3抗体又はその結合断片は、(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
【0091】
本発明に使用される好適なヒト化抗体の例としては、以下のA乃至Fに記載するように、rLA204、rLA212、rLA225、rLA869、rLA1264、A9H12又はH5L7の重鎖のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖のCDRL1乃至CDRL3を有するヒト化抗体等をあげることができる。
【0092】
(A.rLA204抗体の重鎖のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖のCDRL1乃至CDRL3を有するヒト化抗体)
本発明のヒト化抗LAG-3抗体又はその結合断片としては、例えば、配列番号41(図56)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号42(図57)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号43(図58)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む可変領域を有する重鎖、並びに、配列番号44(図59)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号45(図60)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号46(図61)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む可変領域を有する軽鎖からなり、LAG-3蛋白質を認識するヒト化抗体もしくはその結合断片、またはその変異体等をあげることができる。
【0093】
(B.rLA212抗体の重鎖のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖のCDRL1乃至CDRL3を有するヒト化抗体)
また、他のヒト化抗LAG-3抗体又はその結合断片としては、例えば、配列番号47(図62)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号48(図63)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号49(図64)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む可変領域を有する重鎖、並びに、配列番号50(図65)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号51(図66)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号52(図67)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む可変領域を有する軽鎖からなり、LAG-3蛋白質を認識するヒト化抗体もしくはその結合断片、またはその変異体等をあげることができる。
【0094】
(C.rLA225抗体の重鎖のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖のCDRL1乃至CDRL3を有するヒト化抗体)
さらに、他のヒト化抗LAG-3抗体又はその結合断片としては、例えば、配列番号53(図68)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号54(図69)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号55(図70)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む可変領域を有する重鎖、並びに、配列番号56(図71)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号57(図72)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号58(図73)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む可変領域を有する軽鎖からなり、LAG-3蛋白質を認識するヒト化抗体もしくはその結合断片、またはその変異体等をあげることができる。
【0095】
(D.rLA869抗体の重鎖のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖のCDRL1乃至CDRL3を有するヒト化抗体)
さらに、他のヒト化抗LAG-3抗体又はその結合断片としては、例えば、配列番号59(図74)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号60(図75)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号61(図76)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む可変領域を有する重鎖、並びに、配列番号62(図77)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号63(図78)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号64(図79)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む可変領域を有する軽鎖からなり、LAG-3蛋白質を認識するヒト化抗体もしくはその結合断片、またはその変異体等をあげることができる。
【0096】
(E.rLA1264抗体の重鎖のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖のCDRL1乃至CDRL3を有するヒト化抗体)
さらに、他のヒト化抗LAG-3抗体又はその結合断片としては、例えば、配列番号65(図80)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号66(図81)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号67(図82)に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む可変領域を有する重鎖、並びに、配列番号68(図83)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号69(図84)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号70(図85)に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む可変領域を有する軽鎖からなり、LAG-3蛋白質を認識するヒト化抗体もしくはその結合断片、またはその変異体等をあげることができる。
【0097】
(F.A9H12抗体又はH5L7抗体の重鎖のCDRH1乃至CDRH3および軽鎖のCDRL1乃至CDRL3を有するヒト化抗体)
A9H12抗体又はH5L7抗体に含まれるCDRH1乃至CDRH3およびCDRL1乃至CDRL3を含み、LAG-3蛋白質を認識するヒト化抗体もしくはその結合断片、またはその変異体等をあげることができる。
【0098】
本発明に使用される好適なヒト化抗体には、上記A乃至F記載のものが含まれ、より好適なヒト化抗体の例としてはhLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、hLA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5及びhLA212_H4/L2(下の[i]乃至[x]参照)並びにIMP731のヒト化体であるH5L7、H1L7、J7L7、H4L7、J11L7、H2L7、J13L7、H7L7、J0L7、H0L7及びH5L7BW(特許文献2)等を挙げることができるが、それらに限定されるものではなく、例えば、hLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、hLA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5、hLA212_H4/L2、H5L7及びH5L7BWのいずれか一つのヒト化抗体の重鎖可変領域を含む重鎖、ならびに、hLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、hLA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5、hLA212_H4/L2、H5L7及びH5L7BWのいずれか一つのヒト化抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含んでなる抗体も、本発明に使用されるより好適なヒト化抗体に含まれる。
【0099】
[i]
[iの1]hLA212_H3/L2は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号29(図44)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号33(図48)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の細胞傷害性T細胞枯渇用組成物、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療又は予防の方法、治療又は予防のための使用等に適した物性(データ示さず)、(3-2)、及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し且つ(3-8)記載の性質すなわち該抗体存在下でヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-7)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0100】
[iの2]hLA212_H4/L2は、実施例8において得られた、糖鎖修飾が調節されたヒト化抗体であり、低フコース形態にあるhLA212_H3/L2の一つである。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号29(図44)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号33(図48)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の細胞傷害性T細胞枯渇用組成物、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療又は予防の方法、治療又は予防のための使用等に適した物性(データ示さず)、(3-2)乃至(3-6)記載のLAG-3結合活性、イン・ビトロADCC活性、LAG3-陽性細胞数低減活性、実験的自己免疫性脳脊髄炎抑制活性及びヒト活性化T細胞結合活性を有し且つ(3-7)記載の性質すなわち該抗体の存在下でヒトLAG-3とヒトMHCクラスII分子は結合し(実施例参照)、(3-8)記載の性質すなわち該抗体存在下でヒトLAG-3はヒトT細胞抑制機能を奏することは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0101】
[ii]hLA212_H2/L1は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号27(図42)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号31(図46)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号32(図47)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0102】
[iii]hLA212_H3/L3は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号29(図44)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号35(図50)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号36(図51)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0103】
[iv]hLA212_H2/L2は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号27(図42)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号33(図48)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号34(図49)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0104】
[v]hLA212_H2/L3は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号27(図42)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号35(図50)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号36(図51)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0105】
[vi]hLA212_H2/L4は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号27(図42)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号37(図52)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号38(図53)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0106】
[vii]hLA212_H2/L5は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号27(図42)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号28(図43)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号39(図54)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号40(図55)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0107】
[viii]hLA212_H3/L1は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号29(図44)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号31(図46)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号32(図47)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0108】
[ix]hLA212_H3/L4は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号29(図44)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号37(図52)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号38(図53)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG-3結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0109】
[x]hLA212_H3/L5は実施例6において得られたヒト化抗体である。当該抗体の重鎖のヌクレオチド配列は配列番号29(図44)のヌクレオチド番号58乃至1410(うち可変領域は58乃至420)を、アミノ酸配列は配列番号30(図45)のアミノ酸番号20乃至470(うち可変領域は20乃至140)を、軽鎖のヌクレオチド配列は配列番号39(図54)のヌクレオチド番号61乃至702(うち可変領域は61乃至387)を、アミノ酸配列は配列番号40(図55)のアミノ酸番号21乃至234(うち可変領域は21乃至129)を、それぞれ含んでいる。該抗体は本発明の組成物、治療又は予防等に適した物性(データ示さず)、(3-2)及び(3-3)記載のLAG3-結合活性及びイン・ビトロADCC活性を有し(実施例参照)、(3-4)乃至(3-8)記載の活性、性質等を有していることは、例えば、実施例記載の方法により評価することができる。
【0110】
上記[i]乃至[x]等において、(3-4)及び(3-5)記載の活性は、好適には低フコース形態において評価することができる。
本発明において「物性」とは、本発明に使用される抗体及びその結合断片等のモノとしての安定性を意味し、公知の指標を用いて評価することができる。モノとしての安定性として熱安定性、保存安定性等をあげることができ、それらの指標としてはサーモグラムから導き出されるTm値、保存条件下又は加速劣化条件下での抗原結合活性の変化又は経時的変化等をあげることができる。
【0111】
また、hLA212抗体_H4/L2を実施例10のヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスに単回投与したところ、体重減少、その他の顕著な毒性所見は認められなかった。このように本発明に使用される抗体は、細胞傷害性T細胞枯渇、細胞傷害性T細胞関連疾患(他の箇所で定義されている)の治療または予防等に適した安全性を具備していることが望ましい。
上述の、本発明に使用される好適なヒト化抗LAG-3抗体及びその結合断片のうち、より一層好適なものはhLA212_H3/L2、hLA212_H2/L1、hLA212_H3/L3、hLA212_H3/L6、hLA212_H4/L2、H5L7およびH5L7BWである。
【0112】
本発明に使用されるより好適なヒト化抗LAG-3抗体の範囲に含まれるhLA212_H2/L1乃至H2/L5、hLA212_H3/L1乃至H3/L5、hLA212_H4/L2、H5L7及びH5L7BW等は、重鎖のアミノ酸配列のうちFRL1乃至FRL4において、1乃至数個、好適には1又は2個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列からなる重鎖、並びに、軽鎖のアミノ酸配列のうちFRH1乃至FRH4において、1個以上、好適には1乃至14個のうち任意の個数のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列からなる軽鎖、を含むことができる。
【0113】
かかるヒト化抗体hLA212_H2/L1乃至H2/L5、hLA212_H3/L1乃至H3/L5、hLA212_H4/L2等のより好適な軽鎖においては、FRL1の第1番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第1番アミノ酸(配列番号32又は図47の第21番の位置に相当するアミノ酸)がAsp又はAsnであり、FRL1の第11番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第11番アミノ酸(配列番号32又は図47の第31番の位置に相当するアミノ酸)がLeu又はMetであり、FRL1の第13番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第13番アミノ酸(配列番号32又は図47の第33番の位置に相当するアミノ酸)がAla又はIleであり、FRL1の第21番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第21番アミノ酸(配列番号32又は図47の第41番の位置に相当するアミノ酸)がIle又はMetであり、FRL2の第4番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第38番アミノ酸(配列番号32又は図47の第58番の位置に相当するアミノ酸)がGln又はLysであり、FRL2の第9番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第43番アミノ酸(配列番号32又は図47の第63番の位置に相当するアミノ酸)がAla又はSerであり、FRL3の第4番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第60番アミノ酸(配列番号32又は図47の第80番の位置に相当するアミノ酸)がSer又はAspであり、FRL3の第9番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第65番アミノ酸(配列番号32又は図47の第85番の位置に相当するアミノ酸)がSer又はGlyであり、FRL3の第11番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第67番アミノ酸(配列番号32又は図47の第87番の位置に相当するアミノ酸)がSer又はTyrであり、FRL3の第22番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第78番アミノ酸(配列番号32又は図47の第98番の位置に相当するアミノ酸)がLeu又はValであり、FRL3の第27番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第83番アミノ酸(配列番号32又は図47の第103番の位置に相当するアミノ酸)がPhe又はAlaであり、FRL3の第29番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第85番アミノ酸(配列番号32又は図47の第105番の位置に相当するアミノ酸)がThr又はPheであり、FRL4の第7番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第104番アミノ酸(配列番号32又は図47の第124番の位置に相当するアミノ酸)がVal又はLeuであり、FRL4の第9番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第106番アミノ酸(配列番号32又は図47の第126番の位置に相当するアミノ酸)がIle又はLeuである。
【0114】
かかるヒト化抗体hLA212_H2/L1乃至H2/L5、hLA212_H3/L1乃至H3/L5、hLA212_H4/L2等のより好適な重鎖においては、FRH2の第14番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第49番アミノ酸(配列番号28又は図43の第68番の位置に相当するアミノ酸)がGly又はAlaであり、FRH3の第25番アミノ酸すなわち成熟可変領域の第84番アミノ酸(配列番号28又は図43の第103番の位置に相当するアミノ酸)がAsn又はAspである。
【0115】
本発明のrLA204、rLA212、rLA225、rLA869、rLA1264、cLA204、cLA212、cLA225、cLA869、rLA1264及びA9H12、並びに、ヒト化hLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、hLA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5、hLA212_H4/L2、H5L7及びH5L7BWのいずれか一つに記載の抗体の重鎖及び/又は軽鎖の全長又は可変領域のアミノ酸配列とそれぞれ80%以上、82%以上、84%以上、86%以上、88%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上又は99%以上の同一なアミノ酸配列を含む重鎖及び/又は軽鎖を含み、且つLAG-3に結合する抗体又はその結合断片も、本発明に包含される。かかる配列同一性は、好適には94%以上、より好適には96%以上、より一層好適には98%以上、最適には99%以上である。また、それらの抗体又はその結合断片は、(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
【0116】
二種類のアミノ酸配列間の同一性あるいは相同性は、Blast algorithm version 2.2.2(Altschul, Stephen F.,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaffer, Jinghui Zhang, Zheng Zhang, Webb Miller, and David J.Lipman(1997),「Gapped BLAST and PSI-BLAST:a new generation of protein database search programs」,Nucleic Acids Res.25:3389-3402)のデフォルトパラメーターを使用することによって決定することができる。Blast algorithmは、例えば、インターネットでhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/にアクセスすることによっても使用することができる。
【0117】
本発明のrLA204、rLA212、rLA225、rLA869、rLA1264、cLA204、cLA212、cLA225、cLA869、cLA1264及びA9H12、並びに、hLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、hLA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5、hLA212_H4/L2、H5L7及びH5L7BWのいずれか一つに記載の抗体の重鎖及び/又は軽鎖の全長又は可変領域のアミノ酸配列においてそれぞれ1乃至50個、1乃至45個、1乃至40個、1乃至35個、1乃至30個、1乃至25個、1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、または1個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなるアミノ酸配列を含む重鎖及び/又は軽鎖を含み、且つLAG-3に結合する抗体又はその結合断片も、本発明に包含される。かかるアミノ酸変異は好適には置換であり、変異されるアミノ酸の個数は好適には1乃至5個、より好適には1乃至4個、より一層好適には1乃至3個、さらにより一層好適には1乃至2個、最適には1個である。また、それらの抗体又はその結合断片は、(3-2)、および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
【0118】
本発明のrLA204、rLA212、rLA225、rLA869、rLA1264、cLA204、cLA212、cLA225、cLA869、cLA1264及びA9H12、並びに、hhLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、hLA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5、hLA212_H4/L2、H5L7及びH5L7BWのいずれか一つに記載の抗体の重鎖及び/又は軽鎖の全長又は可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有するヌクレオチドとそれぞれストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチドの有するヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含む重鎖及び/又は軽鎖を含み、且つLAG-3に結合する抗体又はその結合断片も、本発明に包含される。それらの抗体又はその結合断片は、(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
【0119】
本発明は別の一つの態様において、ヒト抗体又はその結合断片を提供する。ヒト抗体又はその結合断片は、LAG-3に結合するヒト由来の抗体又はその結合断片であれば特に限定されるものではないが、(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
【0120】
(3-13)エピトープに結合する抗体
本発明に使用される抗体と「同一の部位に結合する抗体」も本発明に使用することができる。ある抗体と「同一の部位に結合する抗体」とは、該抗体が認識する抗原分子上の部位に結合する他の抗体を意味する。第一抗体が結合する抗原分子上の部分ペプチド又は部分立体構造に第二抗体が結合すれば、第一抗体と第二抗体は同一の部位に結合すると判定することができる。また、第一抗体の抗原に対する結合に対して第二抗体が競合する、すなわち、第二抗体が第一抗体と抗原の結合を妨げることを確認することによって、具体的な結合部位のペプチド配列又は立体構造が決定されていなくても、第一抗体と第二抗体が同一の部位に結合すると判定することができる。さらに、第一抗体と第二抗体が同一の部位に結合し、且つ第一抗体がADCC活性などの効果を有する場合、第二抗体も同様の活性を有する蓋然性は極めて高い。従って、第一の抗LAG-3抗体の結合する部位に第二の抗LAG-3抗体が結合すれば、第一抗体と第二抗体がLAG-3蛋白質上の同一の部位に結合すると判定することができる。また、第一の抗LAG-3抗体のLAG-3蛋白質への結合に対して第二の抗LAG-3抗体が競合することを確認できれば、第一抗体と第二抗体がLAG-3蛋白質上の同一の部位に結合する抗体と判定することができる。
【0121】
本発明においては、モノクローナル抗体が認識するLAG-3蛋白質上の部位に結合する抗体も、本発明に使用可能な抗体に含まれる。そのような抗体及びその結合断片は、(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
【0122】
抗体の結合部位は、免疫アッセイ法など当業者に周知の方法により決定することができる。例えば、抗原のアミノ酸配列をC末またはN末から適宜削ってなる一連のペプチドを作製し、それらに対する抗体の反応性を検討し、大まかな認識部位を決定した後に、さらに短いペプチドを合成してそれらのペプチドへの抗体の反応性を検討することにより、結合部位を決定することができる。抗原断片ペプチドは、遺伝子組換、ペプチド合成等の技術を用いて調製することができる。
【0123】
抗体が抗原の部分高次構造に結合又は認識している場合、かかる抗体の結合部位は、X線構造解析を用いて、当該抗体に隣接する抗原上のアミノ酸残基を特定することにより決定することができる。例えば、抗体又はその断片および抗原又はその断片を結合させて結晶化し、構造解析を行うことにより、抗体と相互作用距離を有する抗原上のアミノ酸残基を特定することができる。相互作用距離は8Å以下であり、好適には6Å以下であり、より好適には4Å以下である。そのような抗体との相互作用距離を有するアミノ酸残基は1つまたはそれ以上で抗体の抗原結合部位(エピトープ)を構成し得る。かかるアミノ酸残基が2つ以上の場合、各アミノ酸は一次配列上で互いに隣接していなくてもよい。
【0124】
本発明におけるLAG-3抗体のエピトープは、ヒトLAG-3又はそのアミノ酸配列中に存在する。かかるエピトープに結合するか、かかるエプトープへの結合において本発明に使用される抗体と競合するか、または、かかるアミノ酸残基と相互作用距離を有する抗体、その結合断片またはその修飾体も、本発明に使用可能な抗体、その結合断片またはその修飾体に包含される。
【0125】
(3-14)抗体の修飾体
本発明は、抗体又はその結合断片の修飾体を含む組成物を提供する。抗体又はその結合断片の修飾体とは、抗体又はその結合断片に化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合またはO-結合炭水化物鎖の化学修飾体等が含まれる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合またはO-結合 への糖鎖付加、N末またはC末のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによりN末にメチオニン残基が付加したもの等が含まれる。また、抗体または抗原の検出または単離を可能にするために標識されたもの、例えば、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾物の意味に含まれる。このような抗体又はその結合断片の修飾物は、元の抗体又はその結合断片の安定性および血中滞留性の改善、抗原性の低減、かかる抗体又は抗原の検出又は単離等に有用である。
【0126】
化学的修飾体に含まれる化学部分としては、ポリエチレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを例示することができる。
【0127】
生物学的な修飾体としては、酵素処理や細胞処理等により修飾が施されたもの、遺伝子組換えによりタグ等他のペプチドが付加された融合体、ならびに内因性又は外来性の糖鎖修飾酵素を発現する細胞を宿主として調製されたもの等をあげることができる。
【0128】
抗体又はその結合断片に結合している糖鎖修飾を調節すること(グリコシル化、脱フコース化等)によって、抗体依存性細胞傷害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、例えば、WO99/54342、WO00/61739、WO02/31140等に記載された方法が知られているが、これらに限定されるものではない。本発明においては、抗体の修飾体には当該糖鎖修飾が調節された抗体も含まれる。
【0129】
かかる修飾は、抗体またはその結合断片における任意の位置に、または所望の位置において施されてもよく、1つ又は2つ以上の位置に同一又は2種以上の異なる修飾がなされてもよい。
【0130】
本発明において「抗体断片の修飾体」は「抗体の修飾体の断片」をもその意味に含むものである。
【0131】
本発明においては抗体の修飾体、その結合断片の修飾体を、単に「抗体」、「抗体の結合断片」と呼ぶことがある。
前述の通り、hLA212_H4/L2は実施例8において得られた、糖鎖修飾が調節されたヒト化抗体である。該ヒト化抗体も、本発明に使用可能な抗体に包含される。
【0132】
以上のような本発明に使用可能な抗体、その結合断片、及びその修飾体は、好適には、本発明の細胞傷害性T細胞枯渇用組成物、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療又は予防の方法、治療又は予防のための使用等に適した物性、体内動態、血中滞留性、安全性等を有する。
【0133】
(3-15)細胞傷害性T細胞に対するdepletion活性
細胞傷害性T細胞枯渇用に供し得るLAG-3抗体は、好適には、LAG-3発現細胞に対してADCC活性、CDC活性及び/又はADCP活性などの細胞傷害活性を示す抗体であり、より好適には、ADCC活性、CDC活性及び/又はADCP活性が増強されたLAG-3抗体である。低フコース化、脱フコース化(afucosylation)等によりADCC活性が増強されたLAG-3抗体、すなわち低フコース形態にあるLAG-3抗体としては、例えば、hLA212_H4/L2、H5L7BW等をあげることができる。
【0134】
LAG-3抗体が奏する細胞傷害性T細胞に対するdepletion活性は、当該分野で公知のアッセイに基づいて評価することができ、イン・ビトロのアッセイとしては実施例13及び14記載のもの、イン・ビボのアッセイとしては実施例11-1)記載のものを、それぞれ例示することができるが、それらに限定されない。
【0135】
4.抗体の製造方法
(4-1)ハイブリドーマを用いる方法
抗LAG-3抗体は、コーラーとミルスタインの方法(Kohler and Milstein,Nature (1975)256,p.495-497、Kennet,R.ed.,Monoclonal Antibody,p.365-367,Prenum Press,N.Y.(1980))に従って、LAG-3蛋白質又はその可溶型フォームで免疫した動物の脾臓より抗LAG-3抗体の産生細胞を単離し、該細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、かかるハイブリドーマの培養物からモノクローナル抗体を取得することができる。
【0136】
(4-1-1)抗原の調製
抗LAG-3抗体を作製するための抗原は、本発明の他の部分に記載された天然型または組換え型のLAG-3蛋白質の調製法等に従って、取得することができる。そのようにして調製し得る抗原としては、LAG-3蛋白質若しくはその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列を含むことからなるLAG-3蛋白質断片、またはそれらに任意のアミノ酸配列や担体が付加された誘導体等(以下、まとめて「LAG-3抗原」とよぶ:「LAG-3蛋白質」と同義)を挙げることができる。
【0137】
組換え型LAG-3抗原は、LAG-3抗原の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が含まれる遺伝子を宿主細胞に導入し、該細胞の培養物から該抗原を回収することにより、調製することができる。かかる組換型抗原は、免疫グロブリンのFc領域など他の蛋白質との融合蛋白質であってもよい。また、LAG-3抗原のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が含まれる遺伝子をイン・ビトロ(in vitro)翻訳系により無細胞系において得られるLAG-3抗原も組換え型LAG-3抗原に含まれる。非組換型LAG-3抗原は、LAG-3を発現している細胞等から精製、単離することができる。
【0138】
その存在下でもLAG-3のT細胞機能抑制機能が発揮される、あるいはLAG-3のT細胞機能抑制機能を抑制又は阻害しない抗LAG-3モノクローナル抗体を取得するために、好適な免疫原として、例えば、免疫グロブリン様ドメイン1及び2を欠失させたLAG-3変異体を用いることができる。
【0139】
(4-1-2)抗LAG-3モノクローナル抗体の製造
モノクローナル抗体の製造は、通常、下記のような工程を経る。
(a)抗原を調製する工程、
(b)抗体産生細胞を調製する工程、
(c)骨髄腫細胞(以下、「ミエローマ」という)を調製する工程、
(d)抗体産生細胞とミエローマとを融合させる工程、
(e)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群を選別する工程、及び
(f)単一細胞クローンを得る工程(クローニング)。
【0140】
必要に応じてさらに、(g)ハイブリドーマの培養工程、ハイブリドーマを移植した動物の飼育工程等、(h)モノクローナル抗体の生物活性の測定工程・判定工程等が加わる。
【0141】
以下、モノクローナル抗体の作製法を上記工程に沿って詳述するが、該抗体の作製法はこれに制限されず、例えば脾細胞以外の抗体産生細胞を使用することもできる。
【0142】
(a)抗原の精製
前記(2-3)記載のLAG-3蛋白質の調製法に準ずる。
【0143】
(b)抗体産生細胞を調製する工程
工程(a)で得られた抗原と、フロインドの完全又は不完全アジュバント、又はカリミョウバンのような助剤とを混合し、免疫原として実験動物に免疫する。実験動物は公知のハイブリドーマ作製法に用いられる動物を支障なく使用することができる。具体的には、たとえばマウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ等を使用することができる。ただし、摘出した抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞の入手容易性等の観点から、マウス又はラットを被免疫動物とするのが好ましい。
【0144】
また、実際に使用するマウス及びラットの系統は特に制限はなく、マウスの場合には、例えば、A、AKR、BALB/c、BALB/cAnNCrj、BDP、BA、CE、C3H、57BL、C57BL、C57L、DBA、FL、HTH、HT1、LP、NZB、NZW、RF、R III、SJL、SWR、WB、129等が、ラットの場合には、例えば、Wistar、Low、Lewis、Spraque、Daweley、ACI、BN、Fischer等を用いることができる。
【0145】
これらのマウス及びラットは例えば日本クレア、日本チャ-ルスリバー、等実験動物飼育販売業者より入手することができる。
【0146】
このうち、後述のミエローマ細胞との融合適合性を勘案すれば、マウスではBALB/c系統が、ラットではWistar及びLow系統が被免疫動物として特に好ましい。
【0147】
また、抗原のヒトとマウスでの相同性を考慮し、自己抗体を除去する生体機構を低下させたマウス、すなわち自己免疫疾患マウスを用いることも好ましい。
【0148】
なお、これらマウス又はラットの免疫時の週齢は、好ましくは5乃至12週齢、さらに好ましくは6乃至8週齢である。
【0149】
LAG-3蛋白質で動物を免疫するには、例えば、Weir, D.M.,Handbook of Experimental Immunology Vol.I.II.III.,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1987)、Kabat,E.A.and Mayer,M.M.,Experimental Immunochemistry,Charles C Thomas Publisher Spigfield,Illinois(1964) 等の方法を用いることができる。
【0150】
抗体価の測定法としては、例えば、RIA法、ELISA法等の免疫アッセイを挙げることができるが、それらの方法に限定されるものではない。
【0151】
免疫された動物から分離された脾臓細胞又はリンパ球に由来する抗体産生細胞は、例えば、Kohler et al.,Nature(1975)256,p.495,;Kohler et al.,Eur.J.Immnol.(1977)6,p.511,;Milstein et al.,Nature(1977),266,p.550,;Walsh,Nature,(1977)266,p.495,)等の公知の方法に従って調製することができる。
【0152】
脾臓細胞の場合には、脾臓を細切して細胞をステンレスメッシュで濾過した後、イーグル最小必須培地(MEM)等に浮遊させて抗体産生細胞を分離する一般的方法を採用することができる。
【0153】
(c)ミエローマを調製する工程
細胞融合に用いるミエローマ細胞には特段の限定はなく、公知の細胞株から適宜選択して用いることができるが、融合細胞からハイブリドーマを選択する際の利便性を考慮して、その選択手続が確立しているHGPRT(Hipoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase)欠損株、すなわちマウス由来のX63-Ag8(X63)、NS1-ANS/1(NS1)、P3X63-Ag8.Ul(P3Ul)、X63-Ag8.653(X63.653)、SP2/0-Ag14(SP2/0)、MPC11-45.6TG1.7(45.6TG)、FO、S149/5XXO、BU.1等、ラット由来の210.RSY3.Ag.1.2.3(Y3)等、ヒト由来のU266AR(SKO-007)、GM1500・GTG-A12(GM1500)、UC729-6、LICR-LOW-HMy2(HMy2)、8226AR/NIP4-1(NP41)等を用いるのが好ましい。これらのHGPRT欠損株は例えば、American Type Culture Collection (ATCC)等から入手することができる。
【0154】
これらの細胞株は、適当な培地、例えば8-アザグアニン培地[RPMI-1640培地にグルタミン、2-メルカプトエタノール、ゲンタマイシン、及びウシ胎児血清(以下「FBS」という)を加えた培地に8-アザグアニンを加えた培地]、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;以下「IMDM」という)、又はダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)で継代培養するが、細胞融合の3乃至4日前に正常培地[例えば、10% FBSを含むASF104培地(味の素(株)社製)]で継代培養し、融合当日に2×107以上の細胞数を確保しておく。
【0155】
(d)抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合させる工程
抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合は、公知の方法(Weir,D.M.,Handbookof Experimental Immunology Vol.I.II.III.,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1987)、Kabat,E.A.and Mayer,M.M.,Experimental Immunochemistry,Charles C Thomas Publisher Spigfield,Illinois(1964)等)に従い、細胞の生存率を極度に低下させない程度の条件下で実施することができる。例えば、ポリエチレングリコール等の高濃度ポリマー溶液中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合する化学的方法、電気的刺激を利用する物理的方法等を用いることができる。
【0156】
(e)目的とする抗体を産生するハイブロドーマ群を選別する工程
細胞融合により得られるハイブリドーマの選択方法は特に制限はないが、通常HAT(ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン)選択法(Kohler et al., Nature(1975)256,p.495;Milstein et al.,Nature(1977)266,p.550)が用いられる。この方法は、アミノプテリンで生存し得ないHGPRT欠損株のミエローマ細胞を用いてハイブリドーマを得る場合に有効である。すなわち、未融合細胞及びハイブリドーマをHAT培地で培養することにより、アミノプテリンに対する耐性を持ち合わせたハイブリドーマのみを選択的に残存させ、かつ増殖させることができる。
【0157】
(f)単一細胞クローンを得る工程(クローニング)
ハイブリドーマのクローニング法としては、例えば、メチルセルロース法、軟アガロース法、限界希釈法等の公知の方法を用いることができるが(例えば、Barbara, B.M. and Stanley, M.S.:Selected Methods in Cellular Immunology,W.H. Freeman and Company,San Francisco(1980)参照)、好適には限界希釈法である。
【0158】
(g)ハイブリドーマの培養工程、ハイブリドーマを移植した動物の飼育工程
選択されたハイブリドーマを培養することにより、モノクローナル抗体を産生することができるが、好適には所望のハイブリドーマをクローニングしてから抗体の産生に供する。
【0159】
かかるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体は、該ハイブリドーマの培養物から回収することができる。また、該モノクローナル抗体遺伝子が導入された細胞の培養物から組換え抗体として回収することもできる。さらに、同系統のマウス(例えば、上記のBALB/cAnNCrj)、あるいはNu/Nuマウスの腹腔内にハイブリドーマを注射し、該ハイブリド-マを増殖させることにより、その腹水から回収することもできる。
(h)モノクローナル抗体の生物活性の測定工程・判定工程
各種生物試験を目的に応じて選択し、適用することができる。
【0160】
(4-2)細胞免疫法
天然型のLAG-3蛋白質を発現する細胞、組換え型LAG-3蛋白質またはその断片を発現する細胞等を免疫原として使用することにより、前記のハイブリドーマ法により抗LAG-3抗体を調製することができる。
LAG-3を発現している細胞は、1×105乃至1×109個、好適には1×106乃至1×108個、より好適には0.5乃至2×107個、より一層好適には1×107個を1回の免疫に用いるが、LAG-3蛋白質の発現量に応じて免疫に供する細胞数を変えることができる。かかる免疫源は、一般的には腹腔内に投与するが、皮内等に投与することもできる。ハイブリドーマの作製手法としては(4-1-2)記載の方法を適用することができる。
【0161】
(4-3)遺伝子組換え
本発明に使用される抗体は、その重鎖アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が含まれるヌクレオチド(重鎖ヌクレオチド)及びその軽鎖アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が含まれるヌクレオチド(軽鎖ヌクレオチド)、又は、かかる重鎖ヌクレオチドが挿入されたベクター及び軽鎖ヌクレオチドが挿入されたベクターを宿主細胞に導入し、該細胞を培養した後その培養物からかかる抗体を回収することにより調製することができる。一つのベクターに重鎖ヌクレオチド及び軽鎖ヌクレオチドが挿入されていてもよい。
【0162】
宿主細胞としては、原核細胞又は真核細胞を用いることができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真核微生物を用いることができる。
【0163】
動物細胞としては、例えば、哺乳類由来の細胞、すなわち、サル由来のCOS細胞(Gluzman, Y. Cell(1981)23,p.175-182、ATCC CRL-1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL-1658)、マウスNS0細胞株(ECACC)、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)、そのジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(CHOdhfr-:Urlaub,G.and Chasin,L.A. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1980)77,p.4126-4220)、CHOK1SV(Lonza Biologics)、ニワトリ等鳥類由来の細胞、昆虫由来の細胞等を挙げることができる。
【0164】
また、抗体等の蛋白質の糖鎖修飾を調節するよう改変された細胞も宿主として用いることができる。例えば、抗体のFc領域に結合するN-グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンに結合しているフコースを減らすかまたは無くすよう改変されたCHO細胞を用いて抗体等を発現させれば、低フコース化又は脱フコース化した抗体(抗体の修飾体とも呼ぶ)を調製することが可能である(WO00/61739号、WO02/31140号等)。
【0165】
真核微生物としては、例えば、酵母等をあげることができる。
【0166】
原核細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌等をあげることができる。
【0167】
抗体(各種動物由来のモノクローナル抗体、ラット抗体、マウス抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体等)を分泌させるためのシグナルペプチドとしては、当該抗体と同種、同タイプ及び同サブタイプの抗体の分泌シグナル、ならびに、当該抗体自体の分泌シグナルに限定されるものではなく、他のタイプもしくはサブタイプの抗体の分泌シグナル、または、他の真核生物種もしくは原核生物由来の蛋白質の分泌シグナルであれば、任意のものを選択して利用することができる。
【0168】
(4-4)ヒト化抗体のデザイン法および調製法
ヒト化抗体としては、非ヒト動物抗体のCDRのみがヒト由来の抗体に組込まれ抗体(Nature(1986)321,p.522-525参照)、CDR移植法によりCDRの配列に加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(WO90/07861号、US6972323号公報参照)、それらのいずれかにおける非ヒト動物抗体の1つまたは2つ以上のアミノ酸がヒト型のアミノ酸で置換されてなる抗体等を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0169】
(4-5)ヒト抗体の調製法
本発明に使用可能な抗体としては、さらに、ヒト抗体を挙げることができる。抗LAG-3ヒト抗体とは、ヒト由来の抗体のアミノ酸配列からなる抗LAG-3抗体を意味する。抗LAG-3ヒト抗体は、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒトゲノムDNA断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka,K.et al.,Nature Genetics(1997)16,p.133-143,; Kuroiwa,Y.et.al.,Nuc.Acids Res.(1998)26,p.3447-3448;Yoshida, H.et.al.,Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10,p.69-73(Kitagawa, Y.,Matuda,T.and Iijima,S.eds.),Kluwer Academic Publishers,1999.;Tomizuka,K.et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,p.722-727等を参照。)によって取得することができる。
【0170】
ヒト抗体産生動物は、具体的には、非ヒト哺乳動物の内在性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が破壊され、代わりに酵母人工染色体(Yeast artificial chromosome,YAC)ベクターなどを介してヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が導入された組換え動物、それらの動物同士を掛け合わせることにより作り出された組換え動物のいずれであってもよい。
【0171】
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより真核細胞を形質転換し、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することにより、この抗体を培養上清中から得ることもできる。
【0172】
ここで、宿主としては例えば真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞を用いることができる。
【0173】
また、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone,I.M.et.al,Investigative Ophthalmology & Visual Science.(2002)43(7),p.2301-2308;Carmen,S.et.al.,Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002),1(2),p.189-203;Siriwardena,D.et.al.,Opthalmology(2002)109(3),p.427-431等参照。)も知られている。
【0174】
例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージ表面に発現させて、抗原に結合するファージを選択するファージディスプレイ法(Nature Biotechnology(2005),23,(9),p.1105-1116)を用いることができる。
【0175】
抗原に結合することで選択されたファージの遺伝子を解析することによって、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。
【0176】
抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する発現ベクターを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによりヒト抗体を取得することができる(WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388、Annu.Rev.Immunol(1994)12,p.433-455、Nature Biotechnology(2005)23(9),p.1105-1116)。
【0177】
(4-6)抗体の結合断片の調製法
一本鎖抗体を作成する方法は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第4,946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,455,030号等を参照)。このscFvにおいて、重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、コンジュゲートを作らないようなリンカー、好ましくはポリペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988),85,p.5879-5883)。scFvにおける重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、同一の抗体に由来してもよく、別々の抗体に由来してもよい。
【0178】
可変領域を連結するポリペプチドリンカーとしては、例えば12乃至19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0179】
scFvをコードするDNAは、前記抗体の重鎖又は重鎖可変領域をコードするDNA、及び軽鎖又は軽鎖可変領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにポリペプチドリンカー部分をコードするDNA、及びその両端が各々重鎖、軽鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。
【0180】
scFvをコードするDNAを用いて、該DNAを含有する発現ベクター、及び該発現ベクターにより形質転換された宿主細胞を常法に従って調製することができ、また、その宿主細胞を培養することにより、常法に従ってかかる培養物から該scFvを回収することができる。
【0181】
その他の抗体の結合断片も、前記の方法に準じて該結合断片をコードする遺伝子を取得して細胞に導入し、該細胞の培養物から該結合断片を回収することにより、得ることができる。
【0182】
抗体は、多量化して抗原に対する親和性を高めたものであってもよい。多量化する抗体としては、1種類の抗体であっても、同一の抗原の複数のエピトープを認識する複数の抗体であってもよい。抗体を多量化する方法としては、IgG CH3ドメインと2つのscFvとの結合、ストレプトアビジンとの結合、へリックス-ターン-へリックスモチーフの導入等を挙げることができる。
【0183】
抗体は、アミノ酸配列が異なる複数種類の抗LAG-3抗体の混合物、すなわちポリクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体としては、例えば、CDRの一部又は全部が異なる複数種類の抗体の混合物を挙げることができる。そのようなポリクローナル抗体は、異なる抗体の産生細胞を混合培養し、該培養物から回収することができる(WO2004/061104号)。また、別個に調製した抗体を混合することも可能である。さらに、ポリクローナル抗体の一つの態様である抗血清は、動物を所望の抗原で免疫し、定法に従って、該動物から血清を回収することにより調製することができる。
【0184】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。
【0185】
抗体は、更にこれらの抗体と他の薬剤がコンジュゲートを形成しているもの(Immunoconjugate)でもよい。このような抗体の例としては、該抗体が放射性物質や薬理作用を有する化合物と結合している物を挙げることができる(Nature Biotechnology(2005)23,p.1137-1146)。
【0186】
なお、(3-11)、(3-14)、(4-6)等に例示又は記載されるような抗体、その結合断片、それらの修飾物は、「抗体又はその結合断片を含む分子」とも呼ばれる。
【0187】
(4-7)抗体の精製
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。
【0188】
例えばクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Strategies for Protein Purification and Charcterization:A Laboratoy Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996);Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1988))が、これらに限定されるものではない。
【0189】
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0190】
これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0191】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラム、抗原カラム等をあげることができる。
【0192】
プロテインAカラムとしては、例えば、Hyper D(ポール社製、,POROS(アプライドシステムズ社製),Sepharose F.F.(GEヘルスケア社製)等が挙げられる。
【0193】
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
【0194】
(4-8)抗体をコードするヌクレオチド・組換ベクター・組換細胞
抗体もしくはその結合断片またはその修飾体をコードするヌクレオチド(「抗体遺伝子」という)、該遺伝子が挿入された組換えベクター、該遺伝子又はベクターが導入された細胞(「抗体遺伝子導入細胞」という)、その他抗体もしくは結合断片またはその修飾体を産生する細胞(「抗体産生細胞」という)も本発明の組成物を調製するために使用される。
【0195】
抗体遺伝子は、好適には、次の(a)乃至(e)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列(以下、「抗体遺伝子配列」という)を含んでなるか、抗体遺伝子配列を含むヌクレオチド配列からなるか、または抗体遺伝子配列からなる:
(a)ラット抗体rLA204、rLA212、rLA225,rLA869、及びrLA1264並びにマウス抗体A9H12、それらの重鎖及び軽鎖の定常領域をヒト抗体のもので置き換えたキメラ体であるcLA204、cLA212、cLA225、cLA869、cLA1264及びキメラ型A9H12(IMP731)、ならびに、それらのヒト化体であるhLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、LA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5、H5L7及びH5L7BWのいずれか一つの抗体の重鎖アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と軽鎖アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の組合せ;
(b)ラット抗体rLA204、rLA212、rLA225,rLA869及びrLA1264並びにマウス抗体A9H12、それらの重鎖及び軽鎖の定常領域をヒト抗体のもので置き換えたキメラ体であるcLA204、cLA212、cLA225、cLA869、cLA1264及びキメラ型A9H12(IMP731)、ならびに、それらのヒト化体であるhLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、LA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5、H5L7及びH5L7BWのいずれか一つの抗体のCDRH1乃至CDRH3を含む重鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列とCDRL1乃至CDRL3を含む軽鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の組合せ;
(c)ラット抗体rLA204、rLA212、rLA225,rLA869及びrLA1264並びにマウス抗体A9H12、それらの重鎖及び軽鎖の定常領域をのヒト抗体のもので置き換えたキメラ体であるcLA204、cLA212、cLA225、cLA869及びcLA1264及びキメラ型A9H12(IMP731)、ならびに、それらのヒト化体であるhLA212_H2/L1乃至hLA212_H2/L5、LA212_H3/L1乃至hLA212_H3/L5、H5L7及びH5L7BWのいずれか一つの抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を含む重鎖アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む軽鎖アミノ酸配列コードするヌクレオチド配列の組合せ;
(d)(a)乃至(c)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし且つLAG-3に結合する抗体のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;および、
(e)(a)乃至(c)のいずれか一つに記載のアミノ酸配列において1乃至50個、1乃至45個、1乃至40個、1乃至30個、1乃至25個、1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、または1個の塩基が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなるアミノ酸配列をコードし且つLAG-3に結合する抗体のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(d)又は(e)記載のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を有する抗体は、(3-2)および(3-3)、好適にはそれらに加えて(3-4)、より好適にはそれらに加えて(3-5)、より一層好適には(3-2)乃至(3-8)全て、に記載の性質、機能、活性等をそれぞれ有する。
【0196】
ただし、抗体遺伝子は、上記(a)乃至(e)記載のものに限定されない。
【0197】
本発明における抗体もしくはその結合断片又はその修飾体は、(4-3)記載のように、抗体遺伝子導入細胞を培養する工程、および、その培養物から抗体もしくはその結合断片又はその修飾体を回収する工程、を含む、抗体もしくはその結合断片又はその修飾体の製造方法により得ることができる。
【0198】
5.組成物
本発明は抗LAG-3抗体もしくはその結合断片またはその修飾体を含む細胞傷害性T細胞枯渇用組成物を提供する。
【0199】
本発明の組成物は、細胞傷害性T細胞の関わる疾患(以下、「細胞傷害性T細胞関連疾患」という)に対する医療において、好適には、免疫抑制剤抵抗性の細胞傷害性T細胞関連疾患に対する医療において、細胞傷害性T細胞を枯渇させることにより、臨床上のベネフィットをもたらし得る。かかる疾患としては、慢性閉塞性肺疾患(COPD:非特許文献16)、多発性硬化症(非特許文献15)、バセドウ病 (Sun,Z. et al.、J.Clin.Immunol.、2008年;第28巻(5号):464-472ページ)、強直性脊椎炎(Schirmer,M. et al.、Arthritis.Res.、2002年;第4巻(1号):71-76ページ),、扁平部炎 (Pedroza-Seres,M. et al,、Br.J.Ophthalmol.、2007年; 第91巻(10号):1393-1398ページ)、喘息(Hamzaoui,A. et al.、Mediators.Inflamm.、2005年;3号:160-166ページ)、関節リウマチ(Wang,EC. et al.、Arthritis.Rheum.、1997年;第40巻(2号):237-248ページ:Scarsi,M. et al.、J. Rheumatol.、2010年;第37巻(5号):911-916ページ)、多発性筋炎・皮膚筋炎(Fasth,AE. et al.、J.Immunol.、2009年;第183号(7巻):4792-4799ページ)、封入体筋炎(Keller, CW. et al.、Ann.Clin.Transl.Neurol.、2017年;第4巻(6号):422-445ページ)、急性冠症候群(非特許文献15)、全身性エリテマトーデス(Zabinska et al. 2016, J Immunol Res.1058165)、ループス腎炎(Zabinska et al. 2016, J Immunol Res.1058165)、強皮症(Li et al. 2017, J Invest Dermatol. 137(5):1042-1050)、クローン病(Dai et al. 2017, Clin Res Hepatol Gastroenterol. 41(6):693-702)、潰瘍性大腸炎(Dai et al. 2017, Clin Res Hepatol Gastroenterol. 41(6):693-702)、再生不良性貧血(Kook et al. 2001, Exp Hematol. 29(11):1270-7)、骨髄異形成症候群(Kook et al. 2001, Exp Hematol. 29(11):1270-7)、シェーグレン症候群(Smolenska et al. 2012, Cell Immunol. 278(1-2):143-51)、ヴェゲナー肉芽腫症(Lamprecht et al. 2001, Thorax. 56(10):751-7)、乾癬(Lima et al. 2015, Br J Dermatol. 173(4):998-1005)、2型糖尿病(Giubilato et al. 2011, Eur Heart J. 32(10):1214-26)、宿主対移植片反応(Mendes et al. 2008, Clinics (Sao Paulo). 63(5):667-76)、慢性B型肝炎(Wang et al. 2009, Immunol Invest. 2009;38(5):434-46)、サルコイドーシス(Roberts et al. 2005, Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 22(1):13-9)等を例示することができる。すなわち、本発明の組成物は、好適には、免疫抑制剤抵抗性のCOPD、免疫抑制剤抵抗性のバセドウ病、免疫抑制剤抵抗性の強直性脊椎炎、免疫抑制剤抵抗性の扁平部炎、免疫抑制剤抵抗性の喘息、免疫抑制剤抵抗性の関節リウマチ、免疫抑制剤抵抗性の多発性筋炎・皮膚筋炎、免疫抑制剤抵抗性の封入体筋炎、免疫抑制剤抵抗性の急性冠症候群、免疫抑制剤抵抗性の全身性エリテマトーデス、免疫抑制剤抵抗性のループス腎炎、免疫抑制剤抵抗性の強皮症、免疫抑制剤抵抗性のクローン病、免疫抑制剤抵抗性の潰瘍性大腸炎、免疫抑制剤抵抗性の再生不良性貧血、免疫抑制剤抵抗性の骨髄異形成症候群、免疫抑制剤抵抗性のシェーグレン症候群、免疫抑制剤抵抗性のヴェゲナー肉芽腫症、免疫抑制剤抵抗性の乾癬、免疫抑制剤抵抗性の2型糖尿病、免疫抑制剤抵抗性の宿主対移植片反応、免疫抑制剤抵抗性の慢性B型肝炎、免疫抑制剤抵抗性のサルコイドーシス等(以下まとめて「免疫抑制剤抵抗性の細胞傷害性T細胞関連疾患」という)の治療又は予防に有用である。
【0200】
細胞傷害性T細胞と細胞傷害性T細胞関連疾患については、例えば、次の報告がなされている:特発性肺線維症では、CD4+CD28-T細胞数と予後悪化の間に相関が報告されている(Gilani et.al.、PLoS One 2010、5(1):e8959);強直性脊椎炎では、疾患重症度と血中CD8+CD28-T細胞数に相関がある(Schirmer,M. et al.、Arthritis.Res.、2002年;第4巻(1号):71-76ページ);全身性エリテマトーデスとループス腎炎については、CD8+CD28-T細胞が増悪に関与することが示唆された(Zabinska et al. 2016, J Immunol Res.1058165);強皮症については、CD8+CD28-T細胞が初期ステージ病態に関与することが示唆された(Li et al. 2017, J Invest Dermatol. 137(5):1042-1050);多発性筋炎・皮膚筋炎については、CD28-T細胞が病態に関与している(Fasth,AE. et al.、J.Immunol.、2009年;第183号(7巻):4792-4799ページ);封入体筋炎については、CD28-T細胞が病態に関与している(Pandya et al. 2010, Arthritis Rheum. 62(11):3457-66);クローン病及び潰瘍性大腸炎は、CD8+CD28-T細胞割合が増加すると予後不良(Dai et al. 2017, Clin Res Hepatol Gastroenterol. 41(6):693-702);再生不良性貧血及び骨髄異形成症候群では、患者のCD8+CD28-T細胞数が増加している(Kook et al. 2001, Exp Hematol. 29(11):1270-7);多発性硬化症については、CD4+CD28-T細胞数が予後の予測因子となる(Peeters et al. 2017, Front Immunol.8:1160);シェーグレン症候群については、CD8+CD28-T細胞数と重症度に相関が見られる(Smolenska et al. 2012, Cell Immunol. 278(1-2):143-51);ヴェゲナー肉芽腫症については、CD28-T細胞が病態に関与している(Lamprecht et al. 2001, Thorax. 56(10):751-7);乾癬については、CD4+CD28-T細胞が病態に関与している(Lima et al. 2015, Br J Dermatol. 173(4):998-1005);2型糖尿病については、CD4+CD28-T細胞が病態に関与している(Giubilato et al. 2011, Eur Heart J. 32(10):1214-26);バセドウ病 においては、CD28-T細胞数が増加している(Sun,Z. et al.、J.Clin.Immunol.、2008年;第28巻(5号):464-472ページ);宿主対移植片反応については、CD8+CD28-T細胞数と発症に相関が見られる(Mendes et al. 2008, Clinics (Sao Paulo). 63(5):667-76);喘息においては、CD8+CD28-T細胞数が増加している(Hamzaoui,A. et al.、Mediators.Inflamm.、2005年;3号:160-166ページ);慢性B型肝炎については、CD4+CD28-T細胞が病態に関与している(Wang et al. 2009, Immunol Invest. 2009;38(5):434-46);サルコイドーシスにおいては、CD4+CD28- T cell数が増加している(Roberts et al. 2005, Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 22(1):13-9)。
【0201】
免疫抑制剤抵抗性については、例えば、次の報告がなされている:Abatacept抵抗性の関節リウマチではCD8+CD28-T細胞が多い(Scarsi et al. 2011, J Rheumatol. 38(10):2105-11);COPDでは、ステロイド耐性にCD8+CD28- T細胞が関与している(非特許文献16)。
【0202】
本発明において、免疫抑制剤とは、自己免疫疾患の治療等に用いられる、免疫系に対して抑制的に作用する薬剤を意味し、葉酸代謝拮抗剤、カルシニューリン阻害剤、副腎皮質ステロイド剤(単に「ステロイド」ともいう)、抗胸腺細胞グロブリン剤、核酸代謝拮抗剤、核酸合成阻害剤、細胞表面抗原を標的とする生物製剤、またはサイトカインもしくはサイトカイン受容体を標的とする生物製剤等を含む。具体的には、葉酸代謝拮抗剤であるMethotrexate、カルシニューリン阻害剤であるCyclosporin、Tacrolimus、副腎皮質ステロイド剤であるMethylprednisolone、Prednisolone、Dexamethasone、核酸合成阻害剤であるCyclophosphamide、Azathioprine、抗胸腺細胞グロブリン剤であるZetbulin、Lymphoglobuline、Thymoglobulin、核酸代謝拮抗剤であるMycophenolate mofetil、細胞表面抗原を標的とする生物製剤であるAlemtuzumab、Rituximab、Abatacept、Denosumab、サイトカインあるいはサイトカイン受容体を標的とする生物製剤であるAdalimumab、Infliximab、Etanercept、Tocilizumab、S1PR1(スフィンゴシン-1-リン酸受容体1つ)アゴニストであるフィンゴリモド等を例示することができる。
【0203】
本発明において、免疫抑制剤抵抗性とは、上記のような免疫抑制剤による治療によっても疾患のコントロールが十分にできていない状態を指し、上記のような免疫抑制剤による治療で、無効あるいは効果不十分の場合、疾患の再発を起こす場合、副作用によって当該薬剤による治療が困難になる場合、等を含む。
本発明において、疾患の治療または予防には、かかる疾患、好適にはLAG-3蛋白質を発現している個体におけるかかる疾患の発症の予防、増悪化又は進行の抑制又は阻害、かかる疾患に罹患した個体が呈する一つ又は二つ以上の症状の軽減、増悪化若しくは進行の抑制または寛解、二次性疾患の治療又は予防等が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0204】
本発明は抗LAG-3抗体もしくはその結合断片またはその修飾体を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、好適には、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療及び/又は治療に適用され得、より好適には、パーフォリン陽性、グランザイムB陽性、CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性であり、より一層好適には、パーフォリン陽性、グランザイムB陽性、CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性が、細胞傷害性T細胞又はその細胞膜画分を含む生物学的サンプルについて判定されることを特徴とし、さらにより一層好適には、該生物学的サンプルが、細胞傷害性T細胞関連疾患に罹患しているか又は罹患を回避することが望ましい個体に由来するか又は該個体に由来することを特徴とする。かかる生物学的サンプルは、好適には、病変部位に由来するか又は病変部位から採取された、細胞傷害性T細胞を含むサンプルであり、より好適には、病変部位に浸潤している細胞傷害性T細胞を含むサンプルである。
【0205】
本発明の医薬組成物により治療又は予防され得る細胞傷害性T細胞関連疾患は、好適には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症、バセドウ病、強直性脊椎炎、扁平部炎、喘息、関節リウマチ、多発性筋炎・皮膚筋炎、封入体筋炎、急性冠症候群、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、強皮症、クローン病、潰瘍性大腸炎、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、シェーグレン症候群、ヴェゲナー肉芽腫症、乾癬、2型糖尿病、宿主対移植片反応、慢性B型肝炎、及び/又は、サルコイドーシスである。
【0206】
また、本発明の医薬組成物により治療又は予防され得る細胞傷害性T細胞関連疾患は、好適には、LAG-3陽性であり、より好適には、細胞傷害性T細胞関連疾患に罹患しているか又は罹患を回避することが望ましい個体に由来する生物学的サンプルについてLAG-3陽性と判定された該疾患である。かかる生物学的サンプルは、好適には、病変部位に由来するか又は病変部位から採取された、細胞傷害性T細胞を含むサンプルであり、より好適には、病変部位に浸潤している細胞傷害性T細胞を含むサンプルである。
【0207】
さらに、本発明の組成物又は医薬組成物は、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療又は予防の方法において、個体に投与され得る。すなわち本発明は、パーフォリン陽性、グランザイムB陽性、CD28陰性CD4陽性、CD28陰性CD8陽性、CD57陽性CD4陽性、及び/又は、CD57陽性CD8陽性の細胞傷害性T細胞関連疾患に罹患しているか又は罹患を回避することが望ましい個体に、本発明の組成物又は医薬組成物を投与する工程を含む、細胞傷害性T細胞関連疾患を治療又は予防する方法をも提供する。「罹患を回避することが望ましい」の範囲には、予防又は予防的処置の対象となる、予防又は予防的処置を施されるべき、予防又は予防的処置が予定される、も含まれる。「予防」の範囲には、発症、再発又は症状悪化の予防等が含まれ、治療等により症状が改善されたか又は寛解した個体に、その状態の維持又は再発予防の目的で、本発明の組成物又は医薬組成物を投与する場合を例示することができる。また、本発明においては、疾患、病態又は症状の悪化又は進行を遅らせることも「治療又は予防」の範囲に包含される。
【0208】
本発明の組成物又は医薬組成物には、治療または予防に有効な量の抗LAG-3抗体又は該抗体の結合断片と薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含有せしめることができる。
【0209】
「治療または予防に有効な量」とは、特定の疾患、投与形態および投与径路につき治療又は予防効果を奏する量を意味し、「薬理学的に有効な量」と同義である。
【0210】
本発明の組成物又は医薬組成物には、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、無菌性、該組成物又はそれに含まれる抗体の安定性、溶解性、徐放性、吸収性、浸透性、剤型、強度、性状、形状等を変化させたり、維持したり、保持したりするための物質(以下、「製剤用の物質」という)を含有せしめることができる。製剤用の物質としては、薬理学的に許容される物質であれば特に限定されるものではない。例えば、非毒性又は低毒性であることは、製剤用の物質が好適に具備する性質である。
【0211】
製剤用の物質として、例えば、以下のものをあげることができるが、これらに限定されるものではない; グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素ナトリウム、トリス-塩酸(Tris-Hcl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β-シクロデキストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類やグルコース、マンノースやデキストリン等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルビテート20やポリソルビテート80等ポリソルビテート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールやソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、希釈剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。
【0212】
これらの製剤用の物質の添加量は、抗LAG-3抗体もしくはその結合断片またはその修飾体の重量に対して0.001乃至1000倍、好適には0.01乃至100倍、より好適には0.1乃至10倍である。
【0213】
抗LAG-3抗体もしくはその結合断片またはその修飾体をリポソーム中に含有せしめたイムノリポソーム、抗体とリポソームとが結合してなる抗体修飾体(米国特許第6214388号等)を含有する組成物又は医薬組成物も、本発明の組成物又は医薬組成物に含まれる。
【0214】
賦形剤や担体は、通常液体又は固体であり、注射用の水、生理食塩水、人工脳脊髄液、その他の、経口投与又は非経口投与用の製剤に用いられる物質であれば特に限定されない。生理食塩水としては、中性のもの、血清アルブミンを含むもの等をあげることができる。
【0215】
緩衝剤としては、組成物又は医薬組成物の最終pHが7.0乃至8.5になるように調製されたTrisバッファー、同じく4.0乃至5.5になるように調製された酢酸バッファー、同じく5.0乃至8.0になるように調製されたクエン酸バッファー、同じく5.0乃至8.0になるように調製されたヒスチジンバッファー等を例示することができる。
【0216】
本発明の組成物又は医薬組成物は、固体、液体、懸濁液等である。凍結乾燥製剤をあげることができる。凍結乾燥製剤を成型するには、スクロース等の賦形剤を用いることができる。
【0217】
本発明の組成物又は医薬組成物の投与径路としては、経腸投与、局所投与及び非経口投与のいずれでもよく、例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、経皮投与、骨内投与、関節内投与等をあげることができる。
【0218】
かかる組成物又は医薬組成物の組成は、投与方法、抗体のLAG-3蛋白質結合親和性等に応じて決定することができる。抗LAG-3抗体もしくはその結合断片またはその修飾体のLAG-3蛋白質に対する親和性が高いほど(KD値が低いほど)、少ない投与量でその薬効を発揮し得る。
【0219】
抗LAG-3抗体の投与量は、薬理学的に有効な量であれば限定されず、個体の種、疾患の種類、症状、性別、年齢、持病、該抗体のLAG-3蛋白質結合親和性又はその生物活性、その他の要素に応じて適宜決定することができるが、通常、0.01乃至1000mg/kg、好適には0.1乃至100mg/kgを、1乃至180日間に1回、又は1日2回若しくは3回以上投与することができる。
【0220】
組成物又は医薬組成物の形態としては、注射剤(凍結乾燥製剤、点滴剤を含む)、坐剤、経鼻型吸収製剤、経皮型吸収製剤、舌下剤、カプセル、錠剤、軟膏剤、顆粒剤、エアーゾル剤、丸剤、散剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、生体埋め込み型製剤等を例示することができる。
【0221】
抗LAG-3抗体もしくはその結合断片またはその修飾体を有効成分として含む組成物又は医薬組成物は、他の医薬と同時に又は別個に投与することができる。例えば、他の医薬を投与した後に抗LAG-3抗体又は該抗体の結合断片を有効成分として含む組成物又は医薬組成物を投与するか、かかる組成物又は医薬組成物を投与した後に、他の医薬を投与するか、または、当該組成物又は医薬組成物と他の医薬とを同時に投与してもよい。
【0222】
本発明の組成物又は医薬組成物と組み合わせて使用される他の医薬としては、例えば、葉酸代謝拮抗剤、カルシニューリン阻害剤、副腎皮質ステロイド剤、抗胸腺細胞グロブリン剤、核酸代謝拮抗剤、核酸合成阻害剤、細胞表面抗原を標的とする生物製剤、またはサイトカインもしくはサイトカイン受容体を標的とする生物製剤等を挙げることができ、それらは自己免疫疾患及び/又は移植物の拒絶の治療又は予防のために好適である。それら他の医薬としては、葉酸代謝拮抗剤であるMethotrexate、カルシニューリン阻害剤であるCyclosporin、Tacrolimus、副腎皮質ステロイド剤であるはMethylprednisolone、Prednisolone、核酸合成阻害剤であるCyclophosphamide、Azathioprine、抗胸腺細胞グロブリン剤であるZetbulin、Lymphoglobuline、Thymoglobulin、核酸代謝拮抗剤であるMycophenolate mofetil、細胞表面抗原を標的とする生物製剤であるAlemtuzumab、Rituximab、Abatacept、Denosumab、サイトカインあるいはサイトカイン受容体等を標的とする生物製剤であるAdalimumab、Infliximab、Etanercept、Tocilizumab、抗Orai1抗体等を例示することができる。また、本発明の組成物又は医薬組成物は、大量免疫グロブリン静注療法(IVIg)、血漿交換療法などと併用して自己免疫疾患及び/又は移植物の拒絶の治療又は予防に使用することもできる。それら他の医薬及び療法は、自己免疫疾患及び移植物の拒絶以外の疾患の治療又は予防においても本発明の組成物と組み合わせることができる。
【0223】
悪性腫瘍の治療又は予防において本発明の組成物又は医薬組成物と組み合わせることができる医薬及び療法としては、抗がん剤、例えば、各種分子標的薬、化学療法剤、放射線療法、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体をはじめとする各種がん免疫療法剤等を挙げることができる。
【0224】
これらの他の医薬及び療法は、1種類の場合もあり、2、3あるいはそれ以上の種類を投与するか又は受けることもできる。それらをまとめて本発明の医薬組成物と「他の医薬との併用」又は「他の医薬との組み合わせ」と呼び、LAG-3抗体、その結合断片若しくはその修飾体に加えて他の医薬を含むか又は他の療法と組み合わせて使用される本発明の組成物も「他の医薬との併用」又は「他の医薬との組み合わせ」の態様として本発明に含まれる。
【0225】
本発明は細胞傷害性T細胞を枯渇させる方法、細胞傷害性T細胞を枯渇させるための若しくは細胞傷害性T細胞枯渇用組成物又は医薬組成物を調製するためのLAG-3抗体の使用、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療または予防のためのLAG-3抗体の使用、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療または予防のためのLAG-3抗体、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療または予防に使用されるLAG-3抗体、をも提供する。LAG-3抗体を含む細胞傷害性T細胞枯渇用キット、細胞傷害性T細胞関連疾患の治療用または予防用キットも本発明に含まれる。
【実施例
【0226】
以下、実施例において本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0227】
なお、下記実施例において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキュラークローニング(Molecular Cloning)」(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.およびManiatis,T.著,Cold SpringHarbor Laboratory Pressより1989年発刊)に記載の方法及びその他の当業者が使用する実験書に記載の方法により行うか、または、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って行った。
【0228】
実施例1.ラット抗ヒトLAG-3抗体の作製
1)-1 免疫
ヒトLAG-3(配列番号86:図101)の細胞外の4つの免疫グロブリン様ドメインのうちN末端から1および2番目(23-262番の領域)を欠失させた変異体をpcDNA3.1(Life Technologies社)にクローニングした発現プラスミドpcDNA3.1-hLAG-3_D3D4を、EndoFree Plasmid Giga Kit(QIAGEN社)を用い大量調製した。WKY/Izmラットの雌(日本エスエルシー社)両足下腿部をHyaluronidase(Sigma社)にて前処理後、同部位にpcDNA3.1-hLAG-3_D3D4を筋注した。続けて、ECM830(BTX社)を使用し、2ニードル電極を用いて、同部位にインビボエレクトロポレーションを実施した。二週間に一度、同様のインビボエレクトロポレーションを合計3あるいは5回繰り返した後、ラットのリンパ節を採取しハイブリドーマ作製に用いた。
【0229】
1)-2 ハイブリドーマ作製
リンパ節細胞あるいは脾臓細胞とマウスミエローマSP2/0-ag14細胞とをHybrimune Hybridoma Production System(Cyto Pulse Sciences社製)を用いて電気細胞融合し、ClonaCell-HY Selection Medium D(StemCell Technologies社製)に希釈して培養した。出現したハイブリドーマコロニーを回収することでモノクローンハイブリドーマを作製した。回収された各ハイブリドーマコロニーを培養し、得られたハイブリドーマ培養上清用いて抗LAG-3抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングを行った。
【0230】
1)-3 Cell-ELISA法による抗体スクリーニング
HEK293細胞に、Lipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いて、pcDNA3.1にヒトあるいはカニクイザルのLAG-3をクローニングして作製した発現プラスミド(pcDNA3.1/hLAG-3およびpcDNA3.1/cynoLAG-3)もしくはコントロールのプラスミドを導入し、96穴マイクロプレート(Corning社製)にて、10%FBS含有DMEM培地中で37℃、5%CO2の条件下で一晩培養した。培養上清を除去後、ハイブリドーマ培養上清を添加し、4℃で1時間静置した。ウェル中の細胞を5% FBS含有PBSで1回洗浄後、5% FBS含有PBSで500倍に希釈したAnti-Rat IgG-Peroxidase antibody produced in rabbit(Sigma社製)を加えて、4℃で1時間静置した。ウェル中の細胞を5% FBS含有PBSで5回洗浄した後、OPD発色液(OPD溶解液(0.05 M クエン酸3ナトリウム、0.1M リン酸水素2ナトリウム・12水 pH4.5)にo-フェニレンジアミン二塩酸塩(和光純薬社製)、H2O2をそれぞれ0.4mg/mL、0.6%(v/v)になるように溶解)を25μL/ウェルで添加した。時々攪拌しながら発色反応を行い、1M HClを25μL/ウェルを添加して発色反応を停止させた後、プレートリーダー(ENVISION:PerkinElmer社)で490nmの吸光度を測定した。細胞膜表面上に発現するLAG-3に特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択するため、LAG-3遺伝子を含まないコントロールのプラスミドを導入したHEK293細胞と比較し、LAG-3発現ベクター導入HEK293細胞の方でより高い吸光度を示す培養上清を産生するハイブリドーマを抗LAG-3抗体産生陽性として選択した。
【0231】
1)-4 フローサイトメトリーによる抗体スクリーニング
実施例1)-3のCell-ELISAで陽性と判定されたハイブリドーマが産生する抗体が、より生理的なLAG-3発現細胞であるPHA(phytohemagglutinin)活性化ヒトT細胞(PHA blast)に結合することを、フローサイトメトリー法によりさらに確認した。ヒトPBMCを2μg/mLのPHA(Sigma社製)で3日間刺激した細胞に対しハイブリドーマ培養上清を加えて懸濁し、4℃で30分間反応させた。FACSバッファー(PBS、0.1%BSA、0.1%アジ化ナトリウム)で洗浄した後、LIVE/DEAD Fixable Dead Cell Stain Kit-near-IR fluorescent reactive dye(Invitrogen社製)を含むFACSバッファーで200倍に希釈したAnti-Rat IgG PE conjugate(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)等の二次抗体を加えて懸濁し、4℃で30分間静置した。FACSバッファーで洗浄した後、1ないし2%パラホルムアルデヒド含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(CantoII:BD社製あるいはFC500:BeckmanCoulter社製)で検出を行った。データ解析はFlowJo(TreeStar社製)で行った。LIVE/DEAD Fixable Dead Cell Stain Kit-near-IR fluorescent reactive dye陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞の蛍光強度のヒストグラムを作成した。
【0232】
1)-5 ADCCアッセイによるスクリーニング
1)-5-1 標的細胞の作製
pLenti6/V5-GW/lacZ、およびViraPowerTM Packaging Mix(Invitorogen社)を添付プロトコールに従って293FT細胞(Invitrogen社)にトランスフェクションすることにより、β-ガラクトシダーゼ遺伝子を発現する組み換えレンチウイルスを作製した。得られた組み換えレンチウイルスをViraPower Lentiviral Expression Systems(Invitrogen社)のプロトコールに従って293T細胞に感染させ、10μg/mLのブラストサイジン(Invitrogen社)でウイルス感染細胞を選択することにより、β-ガラクトシダーゼの安定発現株を取得した。このβ-ラクトシダーゼを安定発現する293T細胞(以下293T-lacZと表記)に、ヒトLAG-3全長の発現プラスミドをLipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて導入し、1日間培養した後、TrypLExpress(Invitrogen社製)を用いて剥離・回収した。5% FBSを含むフェノールレッド不含RPMI1640(以下「ADCC用培地」と略す)にて2回洗浄し、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測し、ADCC用培地で1×105 細胞/mlになるよう再懸濁したものを標的細胞として用いた。
【0233】
1)-5-2 エフェクター細胞の調製
ヒト末梢血からフィコール遠心分離にてPBMCを分離し、ADCC用培地にて生細胞密度で1.2×106 細胞/mLになるように懸濁したものを、エフェクター細胞として使用した。
【0234】
1)-5-3 ADCCアッセイ
ハイブリドーマ培養上清50μL/ウェルを含む96穴U底マイクロプレートに、1)-5-1の標的細胞を50μL/ウェル添加し、4℃で30分間静置した。ADCC用培地150μL/ウェルを添加して撹拌した後、室温で1200rpm×5分間遠心し、上清200μL/ウェルを除いた。そこに、1)-5-2のエフェクター細胞を125μL/ウェル添加し、室温で1200rpm×5分間遠心の後、37℃、5% CO2の条件下で一晩培養した。翌日、上清50μLを黒色プレート(Corning社製)に回収し、β-Gloアッセイシステム(Promega社製)溶液50μLを添加し、発光量をプレートリーダー(ENVISION:PerkinElmer社製)で測定した。ADCC活性による細胞溶解率は次式で算出した。
【0235】
細胞溶解率(%)=(A-B)/(C-B)×100
A:サンプルウェルのカウント
B:自然放出(抗体非添加ウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時にADCC用培地を50μL添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
C:最大放出(標的細胞を界面活性剤で溶解させたウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時およびエフェクター細胞添加時にADCC用培地を50μLおよび75μLそれぞれ添加した。測定時には、細胞を含むウェルに175μlのβ-Gloアッセイシステム溶液を添加して混和し、そのうち100μl分を黒色プレートに加えて測定を実施した。
【0236】
1)-6 LAG-3/MHCクラスII結合試験によるスクリーニング
既報(非特許文献8)に準じて実施した。すなわち、96穴U底マイクロプレートに10%FBSを含むRPMI1640で25nMに希釈したLAG-3-Fc(R&D Systems社製)を20μL/ウェル加え、そこにハイブリドーマ培養上清20μL/ウェルを加えて撹拌し、4℃で20分間静置した。そこに内因性にMHCクラスII分子を高発現するRaji細胞を10μL/ウェル(2.5×105 細胞/ウェル)添加して撹拌し、4℃でさらに30分間静置した。細胞をPBSもしくはFACSバッファーで2回洗浄した後、FACSバッファーで200倍に希釈したAnti-Human IgG PE conjugate(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)を加えて懸濁し、4℃で20分間静置した。細胞をPBSもしくはFACSバッファーで洗浄した後、1ないし2%パラホルムアルデヒド含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(CantoII:BD社製あるいはFC500:BeckmanCoulter社製)で検出を行った。データ解析はFlowJo(TreeStar社製)で行い、阻害率は次式で算出した。
【0237】
阻害率(%)=100-(A-B)/(C-B)×100
【0238】
A:サンプルウェルの平均蛍光強度
B:バックグラウンドの平均蛍光強度。LAG-3-Fcおよび抗体添加時に培地をそれぞれ20μL添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
C:最大結合の平均蛍光強度。抗体添加時に培地を20μL添加した。
【0239】
1)-7 モノクローナル抗体の精製
ラット抗ヒトLAG-3モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養上清から精製した。すなわち、まずPBSで平衡化したProteinGカラム(GEヘルスケア社製)にハイブリドーマの培養上清をアプライした。PBSでカラムを洗浄した後、0.1 Mグリシン/塩酸水溶液(pH2.7)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。集めた画分に1M Tris-HCl(pH9.0)を加えてpH7.0~7.5に調製した後に、Centrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF30K、Sartorius社製)にてPBSへのバッファー置換を行うとともに抗体の濃縮を行い、抗体濃度を2mg/mL以上に調製した。最後にMinisart-Plus filter(Sartorius社製)でろ過し、精製サンプルとした。
【0240】
実施例2.ラット抗ヒトLAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)のin vitro評価
2)-1 取得ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)のヒト活性化T細胞への結合性
実施例1)-7に記載の方法により、精製したラット抗ヒトLAG-3抗体rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264の、ヒト活性化T細胞への結合性を検討した。図1に示すとおり、これらのラット抗ヒトLAG-3抗体はいずれもin vitro活性化ヒトT細胞として調製したPHA blastに濃度依存的に結合した。
【0241】
2)-2 取得ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)のADCC活性
精製したラット抗ヒトLAG-3抗体rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264のADCC活性を、以下の方法により検討した。抗体溶液50μL/ウェルを含む96穴U底マイクロプレートに、実施例1)-5-1の標的細胞(以下、293T-lacZ/hLAG-3細胞と記載)を50μL/ウェル添加し、4℃で30分間静置した。そこに、実施例1)-5-2のように調製したエフェクター細胞(ただし、2×106 細胞/mLになるように懸濁したもの)を75μL/ウェル添加し、室温で1200rpm×5分間遠心の後、37℃、5% CO2の条件下で一晩培養した。翌日、上清50μLを黒色プレート(Corning社製)に回収し、β-Gloアッセイシステム(Promega社製)溶液50μLを添加し、発光量をプレートリーダー(ENVISION:PerkinElmer社製)で測定した。ADCC活性による細胞溶解率は次式で算出した。
【0242】
細胞溶解率(%)=(A-B)/(C-B)×100
A:サンプルウェルのカウント
B:自然放出(抗体非添加ウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時にADCC用培地を50μL添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
C:最大放出(標的細胞を界面活性剤で溶解させたウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時およびエフェクター細胞添加時にADCC用培地を50μLおよび75μLそれぞれ添加した。測定時には、細胞を含むウェルに175μlのβ-Gloアッセイシステム溶液を添加して混和し、そのうち100μl分を黒色プレートに加えて測定を実施した。
【0243】
図2に示すとおり、これらのラット抗ヒトLAG-3抗体はいずれも、ヒトLAG-3発現細胞に対して濃度依存的なin vitro ADCC活性を示した。これに対して、ヒトLAG-3遺伝子をトランスフェクトしてない293T-lacZ細胞に対しては、これらの抗体はADCC活性を示さず、作用は特異的であった。
【0244】
2)-3 取得ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)のLAG-3/MHCクラスII結合試験における阻害活性の検討
【0245】
実施例1)-6に記載のLAG-3/MHCクラスII結合試験により、精製した抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)が、LAG-3とそのリガンドと報告されているMHCクラスII分子の結合を阻害する活性を有するか検討した。その結果、図3Aに示すとおりこれら5クローンの抗体はいずれも、LAG-3/MHCクラスII結合試験においてほとんど阻害活性を示さず、LAG-3のT細胞抑制機能発揮に必要と考えられているMHCクラスII分子との結合に影響を与えないことが明らかになった。これに対して図3Bに示すとおり、先行技術の抗体であるヒトキメラ化抗LAG-3抗体IMP731(特許文献1)は、LAG-3/MHCクラスII結合試験において濃度依存的に強力な阻害活性を示した。
【0246】
2)-4 取得ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)の293T-hLAG-3/Raji細胞接着試験における阻害活性の検討
実施例2)-3に記載のLAG-3/MHCクラスII結合試験においては、LAG-3-Fcへの抗LAG-3抗体の結合に伴う立体障害によって、Raji細胞へのLAG-3-Fcの結合を検出するための二次抗体Anti-Human IgG PE conjugateの結合が阻害され、実際には抗体がLAG-3/MHCクラスII結合を直接阻害していないにも関わらず見かけ上、低い蛍光強度を示す可能性を完全には排除できない。そこで検出用の二次抗体を使用しない評価系として、以下のような293T-hLAG-3/Raji細胞接着試験系を構築し、抗体の評価を行った。
【0247】
293T細胞にLipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いて、ヒトLAG-3発現プラスミドpcDNA3.1/hLAG-3を導入し、BioCoat Poly-D-Lysineコート96穴マイクロプレート(BD社製)に播種して一晩培養した。一方、Raji細胞を培地(10%FBS含有RPMI1640)中で蛍光色素のBCECF-AM(Dojindo社製、10μMで使用)で37℃にて1時間標識し、洗浄後、1.6×106 細胞/mLになるように培地に懸濁した。トランスフェクション後一晩培養した細胞(293T-hLAG-3細胞)の培地を除去し、50μL/ウェルの培地および25μL/ウェルの抗体溶液を加え、37℃で30分間プレインキュベーションした。その後、BCECF-AM標識したRaji細胞を25μL/ウェル加えて、900rpmで30秒間遠心した後、37℃で1時間インキュベーションした。反応後、培地で2ないし3回ウェルを洗浄して非接着細胞を除き、0.1%NP-40を含むTrisバッファー(25mM、pH8.0)100μL/ウェルで細胞を溶解し、ウェルの蛍光強度をプレートリーダー(ENVISION:PerkinElmer社製)で測定した。阻害率は次式で算出した。
【0248】
阻害率(%)=100-(A-B)/(C-B)×100
A:サンプルウェルの蛍光強度
B:バックグラウンドの蛍光強度。Raji細胞および抗体添加時に培地を添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
C:最大結合の蛍光強度。抗体添加時に培地を添加した。
【0249】
その結果、図4に示すとおり精製ラット抗LAG-3抗体rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264はいずれも、293T-hLAG-3/Raji細胞接着試験においてほとんど阻害活性を示さず、LAG-3のT細胞抑制機能発揮に必要と考えられているMHCクラスII分子との結合に影響を与えないことがさらに支持された。これに対して先行技術の抗体であるヒトキメラ化抗LAG-3抗体IMP731(特許文献1)は、本試験において10μg/mLの濃度で阻害率90%と強力な阻害活性を示した。
【0250】
2)-5 取得ラット抗LAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)のエピトープの同定
ラット抗LAG-3抗体rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264は、LAG-3の細胞外領域に存在する4つの免疫グロブリン様ドメインのうちN末端から1および2番目(以下、それぞれドメイン1および2と表記)を欠失させた変異体を免疫原として作製した抗体であることから、残るN末端から3および4番目(以下、それぞれドメイン3および4と表記)のいずれのドメインにこれらの抗体が結合するのかを明らかにする目的で、ドメイン3と4、あるいはドメイン4のみを発現させた細胞に対する取得ラット抗LAG-3抗体の結合をフローサイトメトリーにより検討した。
【0251】
N末端にFLAGタグ配列(DYKDDDDK)を付加したヒトLAG-3のドメイン3以下(263-525)あるいはドメイン4以下(353-525)の発現プラスミド(いずれもpcDNA3.1にクローニング)をLipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いてHEK293T細胞に導入し、1日間培養した後に回収して、実施例1)-4に記載の方法でフローサイトメトリーにより、抗体の結合性を検討した。その結果、図5Aに示すとおり、精製ラット抗LAG-3抗体rLA204、rLA212およびrLA225はいずれも、ドメイン3および4を含むコンストラクトを発現させた細胞には結合したのに対し、ドメイン4のみを含むコンストラクトを発現させた細胞には結合しなかった。これら結果から、取得ラット抗LAG-3抗体rLA204、rLA212およびrLA225はいずれも、LAG-3細胞外領域に存在する4つの免疫グロブリン様ドメインのうちドメイン3に結合することが明らかになった。
【0252】
ハイブリドーマ培養上清を用いた同様の実験から、取得ラット抗LAG-3抗体rLA869およびrLA1264も、ドメイン3に結合することが明らかになっている。
【0253】
同様の方法で先行技術の抗体であるヒトキメラ化抗ヒトLAG-3抗体IMP731の結合ドメインを検討した結果を図5Bに示す。図5Aの2種類のコンストラクトに加えて、N末端にFLAGタグ配列(DYKDDDDK)を付加したヒトLAG-3のドメイン2以下(ヒトLAG-3アミノ酸配列/配列番号86、図101のアミノ酸番号173-525)、およびヒトLAG-3の全長の発現プラスミドも用いた(いずれもpcDNA3.1を用いて構築;ヒトLAG-3のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は配列番号85、図100に記載されている)。IMP731および実施例2)-6で作製したラット抗ヒトLAG-3抗体クローン6D7はいずれも、全長のヒトLAG-3を発現した細胞には結合したものの、ドメイン1を欠いた変異体(FLAG-D2D3D4、FLAG-D3D4、FLAG-D4)には結合せず、ドメイン1に結合することが明らかになった。すなわち、LAG-3細胞外領域に存在する4つの免疫グロブリン様ドメインのうちドメイン3に結合する取得ラット抗LAG-3抗体rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264は、ドメイン1に結合するIMP731とは異なるエピトープを認識することが明らかになった。
【0254】
2)-6 精製LAG-3タンパク質を免疫原としたラット抗ヒトLAG-3抗体の取得
実施例1)-1とは別の免疫方法として、精製LAG-3タンパク質を免疫原としてラット抗ヒトLAG-3抗体の取得を行った。ヒトLAG-3の細胞外領域(1-450)のC末端にHisタグを付加したタンパク質をFreund‘s Complete Adjuvant(和光純薬社製)と混合(体積比で1:2)してエマルジョンにしたものを8週齢のWKY/Izmラットの雌(日本エスエルシー社)の尾根部に1匹あたり200μg投与した。3週間後に抗原タンパク質のみを尾根部に1匹あたり200μg投与し、さらにその2週間後にリンパ節を採取し、実施例1)-2の方法によりハイブリドーマを作製した。実施例1)-3および1)-4などの方法でスクリーニングを行い、得られたモノクローナル抗体のエピトープを実施例2)-5の方法によって解析したところ、評価したクローンの58%がLAG-3細胞外領域に存在する4つの免疫グロブリン様ドメインのうちドメイン1に、26%がドメイン2に結合し、N末端に近い部分に対するモノクローナル抗体が優先的に取得されたことが明らかになった。その中で、フローサイトメトリーでヒト活性化T細胞(PHA blast)に強く結合するクローンの多くは、クローン6D7を含め、LAG-3のドメイン1に結合し、それらはいずれも実施例2)-3に記載のLAG-3/MHCクラスII結合試験で強い阻害活性を示した。この結果は、LAG-3とMHCクラスII分子の結合には、LAG-3の細胞外の4つの免疫グロブリン様ドメインのうち、N末端のドメイン1および2が重要であるというこれまでの知見(非特許文献4)とよく一致するものであり、LAG-3とMHCクラスII分子の結合を阻害しない、すなわちLAG-3のT細胞抑制機能を阻害しない抗体を取得するためには、実施例1)-1のような免疫方法の工夫をしてモノクローナル抗体を作製する必要があることを示している。
【0255】
実施例3.ラット抗ヒトLAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
3)-1 rLA204の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
3)-1-1 rLA204産生ハイブリドーマからのtotal RNAの調製
rLA204の可変領域を含むcDNAを増幅するため、rLA204産生ハイブリドーマよりTRIzol Reagent(Ambion社)を用いてtotal RNAを調製した。
【0256】
3)-1-2 cDNA(5’-RACE-Ready cDNA)の合成
cDNA(5’-RACE-Ready cDNA)の合成は実施例3)-1-1で調製したtotal RNAの約1μgを用い、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)を用いて実施した。
【0257】
3)-1-3 5’-RACE PCRによるrLA204の重鎖可変領域を含むcDNAの増幅と配列の決定
rLA204の重鎖遺伝子の可変領域のcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM (Universal Primer A Mix:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)、及び
5’-CTCCAGAGTTCCAGGTCACGGTGACTGGC-3’(RG2AR3;配列番号71)の配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。UPMはSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)に付属のものを使用し、RG2AR3はデータベースのラット重鎖の定常領域の配列から設計した。
【0258】
このプライマーの組み合わせと、実施例3)-1-2で合成したcDNA(5’-RACE-Ready cDNA)を鋳型とした5’-RACE PCRによりrLA204の重鎖の可変領域を含むcDNAを増幅した。PCRは、PolymeraseとしてKOD-Plus-(TOYOBO社)を用い、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)のマニュアルに従い、タッチダウンPCRプログラムで実施した。
【0259】
5’-RACE PCRで増幅した重鎖の可変領域を含むcDNAをMinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社)を用いて精製後、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングし、クローニングした重鎖の可変領域を含むcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。
【0260】
シークエンスプライマーとして、データベースのラット重鎖の定常領域の配列から設計した
5’-CTCCAGAGTTCCAGGTCACGGTGACTGGC-3’(RG2AR3;配列番号71)の配列を有するオリゴヌクレオチド、及びNUP (Nested Universal Primer A:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)を用いた。
【0261】
決定されたrLA204の重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号1に示し、アミノ酸配列を配列番号2に示した。
【0262】
3)-1-4 5’-RACE PCRによるrLA204の軽鎖可変領域を含むcDNAの増幅と配列の決定
rLA204の軽鎖遺伝子の可変領域のcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM (Universal Primer A Mix:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)、及び
5’-TCAGTAACACTGTCCAGGACACCATCTC-3’(RKR5;配列番号72)の配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。UPMはSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)に付属のものを使用し、RKR5はデータベースのラット軽鎖の定常領域の配列から設計した。
【0263】
このプライマーの組み合わせと、実施例3)-1-2で合成したcDNA(5’-RACE-Ready cDNA)を鋳型とした5’-RACE PCRによりrLA204の軽鎖の可変領域を含むcDNAを増幅した。PCRは、PolymeraseとしてKOD-Plus-(TOYOBO社)を用い、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)のマニュアルに従い、タッチダウンPCRプログラムで実施した。
【0264】
5’-RACE PCRで増幅した軽鎖の可変領域を含むcDNAをMinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社)を用いて精製後、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングし、クローニングした軽鎖の可変領域を含むcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。
【0265】
シークエンスプライマーとして、データベースのラット軽鎖の定常領域の配列から設計した
5’-TCAGTAACACTGTCCAGGACACCATCTC-3’(RKR5;配列番号72)の配列を有するオリゴヌクレオチド、及びNUP (Nested Universal Primer A:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)を用いた。
【0266】
決定されたrLA204の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号3に示し、アミノ酸配列を配列番号4に示した。
【0267】
3)-2 rLA212の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
実施例3)-1と同様の方法で配列を決定した。
【0268】
決定されたrLA212の重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号5に示し、アミノ酸配列を配列番号6に示した。軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号7に示し、アミノ酸配列を配列番号8に示した。
【0269】
3)-3 rLA225の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
実施例3)-1と同様の方法で配列を決定した。
【0270】
決定されたrLA225の重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号9に示し、アミノ酸配列を配列番号10に示した。軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号11に示し、アミノ酸配列を配列番号12に示した。
【0271】
3)-4 rLA869の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
実施例3)-1と同様の方法で配列を決定した。
【0272】
決定されたrLA869の重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号13に示し、アミノ酸配列を配列番号14に示した。軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号15に示し、アミノ酸配列を配列番号16に示した。
【0273】
3)-5 rLA1264の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
実施例3)-1と同様の方法で配列を決定した。
【0274】
決定されたrLA1264の重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号17に示し、アミノ酸配列を配列番号18に示した。軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号19に示し、アミノ酸配列を配列番号20に示した。
【0275】
実施例4.ヒトキメラ化抗ヒトLAG-3抗体(cLA212)の作製
4)-1 キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA-LKの構築
プラスミドpcDNA3.3-TOPO/LacZ(Invitrogen社)を制限酵素XbaI及びPmeIで消化して得られる約5.4kbのフラグメントと、配列番号21に示すヒト軽鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を、In-Fusion Advantage PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて結合して、pcDNA3.3/LKを作製した。
【0276】
pcDNA3.3/LKを鋳型として、下記プライマーセットでPCRを行い、得られた約3.8kbのフラグメントをリン酸化後セルフライゲーションすることによりCMVプロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、及びヒト軽鎖定常領域を持つ、キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA-LKを構築した。
プライマーセット
5’-TATACCGTCGACCTCTAGCTAGAGCTTGGC-3’(3.3-F1;配列番号73)
5’-GCTATGGCAGGGCCTGCCGCCCCGACGTTG-3’(3.3-R1;配列番号74)
【0277】
4)-2 キメラ及びヒト化抗体IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA-G1の構築
pCMA-LKをXbaI及びPmeIで消化して軽鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域を取り除いたDNA断片と、配列番号22に示すヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG1定常領域のアミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片を、In-Fusion Advantage PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて結合して、CMVプロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、ヒトIgG1重鎖定常領域をもつキメラ及びヒト化抗体IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA-G1を構築した。
【0278】
4)-3 cLA212重鎖発現ベクターの構築
実施例3)-2で得られたrLA212の重鎖の可変領域を含むcDNAをテンプレートとして、KOD-Plus-(TOYOBO社)と下記のプライマーセットで重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅し、キメラ及びヒト化IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA-G1を制限酵素BlpIで切断した箇所にIn-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて挿入することにより、cLA212重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA-G1/cLA212」と命名した。cLA212重鎖のヌクレオチド配列を配列番号23に示し、アミノ酸配列を配列番号24に示した。
cLA212重鎖用プライマーセット
5’-CCAGATGGGTGCTGAGCGAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGGGGGAGG-3’(212H-F;配列番号75)
5’-CTTGGTGGAGGCTGAGCTGACTGTGACCATGACTCCTTGGCCCCAG-3’(212H-R;配列番号76)
【0279】
4)-4 cLA212軽鎖発現ベクターの構築
実施例3)-2で得られたrLA212の軽鎖の可変領域を含むcDNAをテンプレートとして、KOD-Plus-(TOYOBO社)と下記のプライマーセットで軽鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDAN断片を増幅し、キメラ及びヒト化軽鎖発現汎用ベクターpCMA-LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所にIn-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて挿入することにより、cLA212の軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA-LK/cLA212」と命名した。cLA212の軽鎖のヌクレオチド配列を配列番号25に示し、アミノ酸配列を配列番号26に示した。
cLA212軽鎖用プライマーセット
5’-ATCTCCGGCGCGTACGGCAACATTGTGATGACCCAGTCTCCCAAATCC-3’(212L-F;配列番号77)
5’-GGAGGGGGCGGCCACAGCCCGTTTCAGTTCCAGCTCGGTCCCAGC-3’(212L-R;配列番号78)
【0280】
4)-5 cLA212の生産
FreeStyle 293F細胞(Invitrogen社)はマニュアルに従い、継代、培養をおこなった。対数増殖期の1.2×109個のFreeStyle 293F細胞(Invitrogen社)を3L Fernbach Erlenmeyer Flask(CORNING社)に播種し、FreeStyle293 expression medium (Invitrogen社)で希釈して2.0×106細胞/mlに調製したのちに、37℃、8%CO2インキュベーター内で90rpmで1時間振とう培養した。Polyethyleneimine(Polyscience #24765)1.8mgをOpti-Pro SFM培地(Invitrogen社)20mlに溶解し、次にNucleoBond Xtra(TaKaRa社)を用いて調製したH鎖発現ベクター(0.24mg)及びL鎖発現ベクター(0.36mg)を20mlのOpti-Pro SFM培地(Invitrogen社)に添加した。Polyethyleneimine/Opti-Pro SFM混合液20mlに、発現ベクター/Opti-Pro SFM混合液20mlを加え穏やかに攪拌し、さらに5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。37℃、8%CO2インキュベーターで4時間、90rpmで振とう培養後に600mlのEX-CELL VPRO培地(SAFC Biosciences社)、18mlのGlutaMAX I(GIBCO社)、及び30mlのYeastolate Ultrafiltrate(GIBCO社)を添加し、37℃、8%CO2インキュベーターで7日間、90rpmで振とう培養して得られた培養上清をDisposable Capsule Filter (Advantec #CCS-045-E1H)でろ過した。
【0281】
pCMA-G1/cLA212とpCMA-LK/cLA212との組合せによって取得されたrLA212のヒトキメラ抗体を「cLA212」と命名した。
【0282】
4)-6 cLA212の精製
実施例4)-5で得られた培養上清から抗体をrProtein Aアフィニティークロマトグラフィー(4-6℃下)で精製した。rProtein Aアフィニティークロマトグラフィー精製後のバッファー置換工程は4-6℃下で実施した。最初に培養上清をPBSで平衡化したMabSelectSuRe(GEヘルスケア社製)が充填されたカラムにアプライした。培養液がカラムに全て入ったのち、カラム容量2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette)によりHBSor(25mM ヒスチジン/5% ソルビトール、pH6.0)への液置換を行った。最後にCentrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社,4℃下)にて濃縮し、IgG濃度を2mg/ml以上に調製し精製サンプルとした。最後にMinisart-Plus filter(Sartorius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0283】
4)-7 ヒトキメラ化抗LAG-3抗体(cLA212)の抗原結合活性
293T-lacZ細胞(実施例1)-5-1に記載)に対し、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて、ヒトLAG-3の発現プラスミドpcDNA3.1-hLAG-3を導入し、一日間培養した後、フローサイトメトリーに使用した。フローサイトメトリーは、実施例1)-4に記載の方法に準じて行い、ただし二次抗体はFACSバッファーで200倍に希釈したAnti-Human IgG PE conjugate(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)を使用した。図6に示すように、ヒトキメラ化抗LAG-3抗体cLA212は、濃度依存的にヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞に結合し、キメラ化によっても結合活性を保持していることが明らかになった。
【0284】
実施例5.ラット抗ヒトLAG-3抗体(rLA212)のヒト化バージョン(hLA212)の設計
5-1 ラット抗ヒトLAG-3抗体rLA212のヒト化体デザイン
5)-1-1 rLA212の可変領域の分子モデリング
rLA212の可変領域の分子モデリングは、ホモロジーモデリングとして公知の方法(Methods in Enzymology,203,121-153,(1991))によって実行された。Protein Data Bank(Nuc.Acid Res.35,D301-D303(2007))に登録されているヒト免疫グロブリンの可変領域の1次配列(X線結晶構造から誘導される三次元構造が入手可能である)を、実施例3)-2で決定されたrLA212の可変領域と比較した。結果として2GHWと2ARJがrLA212の重鎖と軽鎖の可変領域に対して最も高い配列同一性を有するとして選択された。フレームワーク領域の三次元構造は、rLA212の重鎖及び軽鎖に対応する2GHWと2ARJの座標を組み合わせて、「フレームワークモデル」を得ることによって作製された。次いで、それぞれのCDRについての代表的なコンホメーションがフレームワークモデルに組み込まれた。最後に、エネルギーの点でrLA212の可変領域の可能性のある分子モデルを得るために、不利な原子間接触を除くためのエネルギー計算を行った。上記手順を、市販のタンパク質立体構造解析プログラムDiscovery Studio(Accelrys社製)を用いて行った。
【0285】
5)-1-2 ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212に対するアミノ酸配列の設計
ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212の構築を、CDRグラフティング(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029-10033(1989))として一般的に公知の方法によって行った。アクセプター抗体は、フレームワーク領域内のアミノ酸同一性に基づいて選択された。
【0286】
rLA212のフレームワーク領域の配列を、KABAT et al. (Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service National Institutes of Health, Bethesda,MD.(1991))において既定されるヒトのサブグループ・コンセンサス配列やGermline配列のフレームワーク領域と比較した。結果として、重鎖についてはヒトgamma鎖サブグループ3のコンセンサス配列が、軽鎖についてはヒトkappa鎖サブグループ1のコンセンサス配列が、そのフレームワーク領域において高い配列同一性に有することに起因して、アクセプターとして選択された。アクセプターについてのフレームワーク領域のアミノ酸残基を、rLA212についてのアミノ酸残基と整列させ、異なるアミノ酸が使用される位置を同定した。これらの残基の位置は、実施例5)-1-1で構築されたrLA212の三次元モデルを使用して分析され、そしてアクセプター上にグラフティングされるべきドナー残基が、Queen et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029-10033(1989))によって与えられる基準によって選択された。選択された幾つかのドナー残基をアクセプター抗体に移入することによって、ヒト化hLA212の配列を以下の実施例に記載されるように構築した。
【0287】
5)-2 rLA212重鎖のヒト化
5)-2-1 ヒト化hLA212_H2タイプ重鎖
配列番号24に示されるキメラcLA212の重鎖のうち可変領域部分のアミノ酸番号16目のアルギニンをグリシンに、アミノ酸番号19目のリジンをアルギニンに、アミノ酸番号42目のスレオニンをグリシンに、アミノ酸番号43目のアルギニンをリジンに、アミノ酸番号49目のアラニンをグリシンに、アミノ酸番号84目のアスパラギン酸をアスパラギンに、アミノ酸番号88目のセリンをアラニンに、アミノ酸番号93目のスレオニンをバリンに、アミノ酸番号115目のバリンをスレオニンに、アミノ酸番号116目のメチオニンをロイシンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化hLA212重鎖を「ヒト化hLA212_H2タイプ重鎖」(「hLA212_H2」と呼ぶこともある)と命名した。
【0288】
ヒト化hLA212_H2タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号28に記載されている。配列番号28のアミノ酸配列の1乃至19番目のアミノ酸残基からなる配列、20乃至140番目のアミノ酸残基からなる配列、141乃至470番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域、重鎖定常領域に相当する。配列番号28のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号27に記載されている。配列番号27のヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなる配列、58乃至420番目のヌクレオチドからなる配列、421乃至1410番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域配列、重鎖定常領域配列をコードしている。配列番号27のヌクレオチド配列及び配列番号28のアミノ酸配列は、それぞれ図42及び43にも記載されている。
【0289】
5)-2-2 ヒト化hLA212_H3タイプ重鎖
配列番号24に示されるキメラcLA212の重鎖のうち可変領域部分のアミノ酸番号16目のアルギニンをグリシンに、アミノ酸番号19目のリジンをアルギニンに、アミノ酸番号42目のスレオニンをグリシンに、アミノ酸番号43目のアルギニンをリジンに、アミノ酸番号88目のセリンをアラニンに、アミノ酸番号93目のスレオニンをバリンに、アミノ酸番号115目のバリンをスレオニンに、アミノ酸番号116目のメチオニンをロイシンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化hLA212重鎖を「ヒト化hLA212_H3タイプ重鎖」(「hLA212_H3」と呼ぶこともある)と命名した。
【0290】
ヒト化hLA212_H3タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号30に記載されている。配列番号30のアミノ酸配列の1乃至19番目のアミノ酸残基からなる配列、20乃至140番目のアミノ酸残基からなる配列、141乃至470番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域、重鎖定常領域に相当する。配列番号30のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号29に記載されている。配列番号29のヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなる配列、58乃至420番目のヌクレオチドからなる配列、421乃至1410番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域配列、重鎖定常領域配列をコードしている。配列番号29のヌクレオチド配列及び配列番号30のアミノ酸配列は、それぞれ図44及び45にも記載されている。
【0291】
5)-3 rLA212軽鎖のヒト化
5)-3-1 ヒト化hLA212_L1タイプ軽鎖
配列番号26に示されるキメラcLA212の軽鎖のうち可変領域部分のアミノ酸番号1目のアスパラギンをアスパラギン酸に、アミノ酸番号3目のバリンをグルタミンに、アミノ酸番号9目のリジンをセリンに、アミノ酸番号11目のメチオニンをロイシンに、アミノ酸番号13目のイソロイシンをアラニンに、アミノ酸番号21目のメチオニンをイソロイシンに、アミノ酸番号22目のアスパラギンをスレオニンに、アミノ酸番号38目のリジンをグルタミンに、アミノ酸番号43目のセリンをアラニンに、アミノ酸番号60目のアスパラギン酸をセリンに、アミノ酸番号63目のスレオニンをセリンに、アミノ酸番号65目のグリシンをセリンに、アミノ酸番号67目のチロシンをセリンに、アミノ酸番号76目のアスパラギンをセリンに、アミノ酸番号78目のバリンをロイシンに、アミノ酸番号80目のアラニンをプロリンに、アミノ酸番号83目のアラニンをフェニルアラニンに、アミノ酸番号85目のフェニルアラニンをスレオニンに、アミノ酸番号100目のアラニンをグルタミンに、アミノ酸番号103目のグルタミン酸をリジンに、アミノ酸番号104目のロイシンをバリンに、アミノ酸番号106目のロイシンをイソロイシンに、アミノ酸番号109目のアラニンをスレオニンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化hLA212軽鎖を「ヒト化hLA212_L1タイプ軽鎖」(「hLA212_L1」と呼ぶこともある)と命名した。
【0292】
ヒト化hLA212_L1タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号32に記載されている。配列番号32のアミノ酸配列の1乃至20番目のアミノ酸残基からなる配列、21乃至129番目のアミノ酸残基からなる配列、130乃至234番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域に相当する。配列番号32のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号31に記載されている。配列番号31のヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなる配列、61乃至387番目のヌクレオチドからなる配列、388乃至702番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域配列、軽鎖定常領域配列をコードしている。配列番号31のヌクレオチド配列及び配列番号32のアミノ酸配列は、それぞれ図46及び47にも記載されている。
【0293】
5)-3-2 ヒト化hLA212_L2タイプ軽鎖
配列番号26に示されるキメラcLA212の軽鎖のうち可変領域部分のアミノ酸番号1目のアスパラギンをアスパラギン酸に、アミノ酸番号3目のバリンをグルタミンに、アミノ酸番号9目のリジンをセリンに、アミノ酸番号11目のメチオニンをロイシンに、アミノ酸番号13目のイソロイシンをアラニンに、アミノ酸番号21目のメチオニンをイソロイシンに、アミノ酸番号22目のアスパラギンをスレオニンに、アミノ酸番号38目のリジンをグルタミンに、アミノ酸番号60目のアスパラギン酸をセリンに、アミノ酸番号63目のスレオニンをセリンに、アミノ酸番号65目のグリシンをセリンに、アミノ酸番号76目のアスパラギンをセリンに、アミノ酸番号78目のバリンをロイシンに、アミノ酸番号80目のアラニンをプロリンに、アミノ酸番号83目のアラニンをフェニルアラニンに、アミノ酸番号85目のフェニルアラニンをスレオニンに、アミノ酸番号100目のアラニンをグルタミンに、アミノ酸番号103目のグルタミン酸をリジンに、アミノ酸番号104目のロイシンをバリンに、アミノ酸番号106目のロイシンをイソロイシンに、アミノ酸番号109目のアラニンをスレオニンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化hLA212軽鎖を「ヒト化hLA212_L2タイプ軽鎖」(「hLA212_L2」と呼ぶこともある)と命名した。
【0294】
ヒト化hLA212_L2タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号34に記載されている。配列番号34のアミノ酸配列の1乃至20番目のアミノ酸残基からなる配列、21乃至129番目のアミノ酸残基からなる配列、130乃至234番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域に相当する。配列番号34のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号33に記載されている。配列番号33のヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなる配列、61乃至387番目のヌクレオチドからなる配列、388乃至702番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域配列、軽鎖定常領域配列をコードしている。配列番号33のヌクレオチド配列及び配列番号34のアミノ酸配列は、それぞれ図48及び49にも記載されている。
【0295】
5)-3-3 ヒト化hLA212_L3タイプ軽鎖
配列番号26に示されるキメラcLA212の軽鎖のうち可変領域部分のアミノ酸番号3目のバリンをグルタミンに、アミノ酸番号9目のリジンをセリンに、アミノ酸番号11目のメチオニンをロイシンに、アミノ酸番号13目のイソロイシンをアラニンに、アミノ酸番号21目のメチオニンをイソロイシンに、アミノ酸番号22目のアスパラギンをスレオニンに、アミノ酸番号63目のスレオニンをセリンに、アミノ酸番号76目のアスパラギンをセリンに、アミノ酸番号78目のバリンをロイシンに、アミノ酸番号80目のアラニンをプロリンに、アミノ酸番号83目のアラニンをフェニルアラニンに、アミノ酸番号100目のアラニンをグルタミンに、アミノ酸番号103目のグルタミン酸をリジンに、アミノ酸番号104目のロイシンをバリンに、アミノ酸番号106目のロイシンをイソロイシンに、アミノ酸番号109目のアラニンをスレオニンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化hLA212軽鎖を「ヒト化hLA212_L3タイプ軽鎖」(「hLA212_L3」と呼ぶこともある)と命名した。
【0296】
ヒト化hLA212_L3タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号36に記載されている。配列番号36のアミノ酸配列の1乃至20番目のアミノ酸残基からなる配列、21乃至129番目のアミノ酸残基からなる配列、130乃至234番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域に相当する。配列番号36のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号35に記載されている。配列番号35のヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなる配列、61乃至387番目のヌクレオチドからなる配列、388乃至702番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域配列、軽鎖定常領域配列をコードしている。配列番号35のヌクレオチド配列及び配列番号36のアミノ酸配列は、それぞれ図50及び51にも記載されている。
【0297】
5)-3-4 ヒト化hLA212_L4タイプ軽鎖
配列番号26に示されるキメラcLA212の軽鎖のうち可変領域部分のアミノ酸番号1目のアスパラギンをアスパラギン酸に、アミノ酸番号3目のバリンをグルタミンに、アミノ酸番号9目のリジンをセリンに、アミノ酸番号22目のアスパラギンをスレオニンに、アミノ酸番号60目のアスパラギン酸をセリンに、アミノ酸番号63目のスレオニンをセリンに、アミノ酸番号65目のグリシンをセリンに、アミノ酸番号67目のチロシンをセリンに、アミノ酸番号76目のアスパラギンをセリンに、アミノ酸番号80目のアラニンをプロリンに、アミノ酸番号83目のアラニンをフェニルアラニンに、アミノ酸番号85目のフェニルアラニンをスレオニンに、アミノ酸番号100目のアラニンをグルタミンに、アミノ酸番号103目のグルタミン酸をリジンに、アミノ酸番号109目のアラニンをスレオニンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化hLA212軽鎖を「ヒト化hLA212_L4タイプ軽鎖」(「hLA212_L4」と呼ぶこともある)と命名した。
【0298】
ヒト化hLA212_L4タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号38に記載されている。配列番号38のアミノ酸配列の1乃至20番目のアミノ酸残基からなる配列、21乃至129番目のアミノ酸残基からなる配列、130乃至234番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域に相当する。配列番号38のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号37に記載されている。配列番号37のヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなる配列、61乃至387番目のヌクレオチドからなる配列、388乃至702番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域配列、軽鎖定常領域配列をコードしている。配列番号37のヌクレオチド配列及び配列番号38のアミノ酸配列は、それぞれ図52及び53にも記載されている。
【0299】
5)-3-5 ヒト化hLA212_L5タイプ軽鎖
配列番号26に示されるキメラcLA212の軽鎖のうち可変領域部分のアミノ酸番号3目のバリンをグルタミンに、アミノ酸番号9目のリジンをセリンに、アミノ酸番号22目のアスパラギンをスレオニンに、アミノ酸番号63目のスレオニンをセリンに、アミノ酸番号76目のアスパラギンをセリンに、アミノ酸番号80目のアラニンをプロリンに、アミノ酸番号100目のアラニンをグルタミンに、アミノ酸番号103目のグルタミン酸をリジンに、アミノ酸番号109目のアラニンをスレオニンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化hLA212軽鎖を「ヒト化hLA212_L5タイプ軽鎖」(「hLA212_L5」と呼ぶこともある)と命名した。
【0300】
ヒト化hLA212_L5タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号40に記載されている。配列番号40のアミノ酸配列の1乃至20番目のアミノ酸残基からなる配列、21乃至129番目のアミノ酸残基からなる配列、130乃至234番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域に相当する。配列番号40のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号39に記載されている。配列番号39のヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなる配列、61乃至387番目のヌクレオチドからなる配列、388乃至702番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域配列、軽鎖定常領域配列をコードしている。配列番号39のヌクレオチド配列及び配列番号40のアミノ酸配列は、それぞれ図54及びb55にも記載されている。
【0301】
5)-4 重鎖及び軽鎖の組み合わせによるヒト化hLA212の設計
ヒト化hLA212_H2タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L1タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H2/L1」(「hLA212_H2/L1」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H2タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L2タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H2/L2」(「hLA212_H2/L2」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H2タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L3タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H2/L3」(「hLA212_H2/L3」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H2タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L4タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H2/L4」(「hLA212_H2/L4」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H2タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L5タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H2/L5」(「hLA212_H2/L5」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H3タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L1タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H3/L1」(「hLA212_H3/L1」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H3タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L2タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H3/L2」(「hLA212_H3/L2」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H3タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L3タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H3/L3」(「hLA212_H3/L3」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H3タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L4タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H3/L4」(「hLA212_H3/L4」と呼ぶこともある)と命名した。ヒト化hLA212_H3タイプ重鎖及びヒト化hLA212_L5タイプ軽鎖からなる抗体を設計し「ヒト化hLA212_H3/L5」(「hLA212_H3/L5」と呼ぶこともある)と命名した。以上により設計した抗体は、実施例6に準じて作製し、実施例7及び実施例8に準じて評価することができる。
【0302】
実施例6.ヒトキメラ化抗LAG-3抗体cLA212のヒト化抗体(hLA212)の発現および精製
6)-1 hLA212の重鎖発現ベクターの構築
6)-1-1 hLA212_H2タイプ重鎖発現ベクターの構築
配列番号27に示すhLA212_H2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至437に示されるhLA212_H2の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 Strings DNA Fragments)。合成したDNA断片を、キメラ及びヒト化抗体IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA-G1を制限酵素BlpIで切断した箇所にIn-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて挿入することによりhLA212_H2発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/hLA212_H2」と命名した。
【0303】
6)-1-2 hLA212_H3タイプ重鎖発現ベクターの構築
配列番号29に示すhLA212_H3のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至437に示されるhLA212_H2の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 Strings DNA Fragments)。実施例6)-1-1と同様の方法でhLA212_H3発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/hLA212_H3」と命名した。
【0304】
6)-2 hLA212の軽鎖発現ベクターの構築
6)-2-1 hLA212_L1タイプ軽鎖発現ベクターの構築
配列番号31に示すhLA212_L1のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示されるhLA212_L1の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 Strings DNA Fragments)。合成したDNA断片を、キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA-LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所にIn-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて挿入することによりhLA212_L1発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/hLA212_L1」と命名した。
【0305】
6)-2-2 hLA212_L2タイプ軽鎖発現ベクターの構築
配列番号33に示すhLA212_L2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示されるhLA212_L2の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 Strings DNA Fragments)。実施例6)-2-1と同様の方法でhLA212_L2発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/hLA212_L2」と命名した。
【0306】
6)-2-3 hLA212_L3タイプ軽鎖発現ベクターの構築
配列番号35に示すhLA212_L3のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示されるhLA212_L3の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 Strings DNA Fragments)。実施例6)-2-1と同様の方法でhLA212_L3発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/hLA212_L3」と命名した。
【0307】
6)-2-4 hLA212_L4タイプ軽鎖発現ベクターの構築
配列番号37に示すhLA212_L4のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示されるhLA212_L4の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 Strings DNA Fragments)。実施例6)-2-1と同様の方法でhLA212_L4発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/hLA212_L4」と命名した。
【0308】
6)-2-5 hLA212_L5タイプ軽鎖発現ベクターの構築
配列番号39に示すhLA212_L5のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示されるhLA212_L5の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 Strings DNA Fragments)。実施例6)-2-1と同様の方法でhLA212_L5発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/hLA212_L5」と命名した。
【0309】
6)-3 hLA212抗体の調製
6)-3-1 hLA212抗体の生産
実施例4)-5と同様の方法で生産した。すなわち、pCMA/hLA212_H2とpCMA/hLA212_L1との組合せによって、hLA212_H2/L1を取得した。pCMA/hLA212_H2とpCMA/hLA212_L2との組合せによって、hLA212_H2/L2を取得した。pCMA/hLA212_H2とpCMA/hLA212_L3の組合せによって、hLA212_H2/L3を取得した。pCMA/hLA212_H2とpCMA/hLA212_L4との組合せによって、hLA212_H2/L4を取得した。pCMA/hLA212_H2とpCMA/hLA212_L5との組合せによって、hLA212_H2/L5を取得した。pCMA/hLA212_H3とpCMA/hLA212_L1との組合せによって、hLA212_H3/L1を取得した。pCMA/hLA212_H3とpCMA/hLA212_L2との組合せによって、hLA212_H3/L2を取得した。pCMA/hLA212_H3とpCMA/hLA212_L3の組合せによって、hLA212_H3/L3を取得した。pCMA/hLA212_H3とpCMA/hLA212_L4との組合せによって、hLA212_H3/L4を取得した。pCMA/hLA212_H3とpCMA/hLA212_L5との組合せによって、hLA212_H3/L5を取得した。
6)-3-2 hLA212抗体の精製
6)-3-1で得られた培養上清を、実施例4)-6と同様の方法で精製した。
【0310】
実施例7.ヒト化抗ヒトLAG-3抗体(hLA212)のin vitro評価
7)-1 ヒト化抗ヒトLAG-3抗体(hLA212)のBiacoreによる抗原結合活性測定
ヒトLAG-3の細胞外の4つの免疫グロブリン様ドメインのうちN末端から3および4番目(263-450番の領域)の部分のC末端にHisタグを付加したタンパク質LAG-3_D3D4-Hisを、FreeStyle 293F細胞(Invitrogen社)に発現させた。得られた培養上清をバッファー置換(20mM HEPES、300mM NaCl、pH7.5)し、HisTrap HPカラム(GEヘルスケア社)さらにSuperdex75カラム(GEヘルスケア社)を用いて、ヒトLAG-3_D3D4-Hisタンパク質を精製した。最終バッファーはPBSとした。
【0311】
抗体と抗原(LAG-3_D3D4-His)との解離定数測定は、Biacore T200(GEヘルスケア社)を使用し、固定化した抗ヒトIgG(Fc)抗体(Human Antibody Capture kit、GEヘルスケア社)に抗体をリガンドとして捕捉(キャプチャー)し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。抗ヒトIgG(Fc)抗体は、センサーチップCM5(GEヘルスケア社)へアミンカップリング法にて約1000RUを目標に共有結合させた。リファレンスセルにも同様に固定化した。ランニングバッファーとしてHBS-EP+(10mM HEPES pH7.4、0.15M NaCl,3mM EDTA、0.05%Surfactant P20)を用いた。抗ヒトIgG(Fc)抗体を固定化したチップ上に、抗体を約1分間添加した後、抗原の希釈系列溶液(0.06-20nM)を流速90μl/分で300秒間添加し、引き続き3600秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、3M塩化マグネシウム溶液を流速10μl/分で30秒間添加した。データの解析には、分析ソフトウェア(Biacore T200 Evaluation Software,version 1.0)の1:1結合モデルを用いて、結合速度定数ka、解離速度定数kd及び解離定数(KD;KD=kd/ka)を算出した。解離定数は図7に示されている。
【0312】
7)-2 ヒト化抗ヒトLAG-3抗体(hLA212)のフローサイトメトリーによるヒトLAG-3発現細胞への結合性の検討
293T-lacZ細胞(実施例1)-5-1に記載)に対し、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて、ヒトLAG-3の発現プラスミドpcDNA3.1/hLAG-3を導入し、一日間培養した後、フローサイトメトリーに使用した。フローサイトメトリーは、実施例1)-4に記載の方法に準じて行い、ただし二次抗体はFACSバッファーで200倍に希釈したAnti-Human IgG PE conjugate(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)を使用した。図8に示すように、10クローンのヒト化抗ヒトLAG-3抗体(hLA212_H2/L1、hLA212_H2/L2、hLA212_H2/L3、hLA212_H2/L4、hLA212_H2/L5、hLA212_H3/L1、hLA212_H3/L2、hLA212_H3/L3、hLA212_H3/L4、およびhLA212_H3/L5)はいずれも、ヒトキメラ化抗LAG-3抗体cLA212と同程度に、濃度依存的なヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞に対する結合性を示し、ヒト化によっても結合活性を保持していることが明らかになった。
【0313】
7)-3 ヒト化抗ヒトLAG-3抗体(hLA212)のADCC活性
実施例2)-2に記載の方法により、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体(hLA212)のADCC活性を検討した。その結果、図9に示すように、10クローンのヒト化抗ヒトLAG-3抗体(hLA212_H2/L1、hLA212_H2/L2、hLA212_H2/L3、hLA212_H2/L4、hLA212_H2/L5、hLA212_H3/L1、hLA212_H3/L2、hLA212_H3/L3、hLA212_H3/L4、およびhLA212_H3/L5)はいずれも、ヒトキメラ化抗LAG-3抗体cLA212とほぼ同程度に、濃度依存的なヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞に対するADCC活性を示し、ヒト化によってもADCC活性を保持していることが明らかになった。
【0314】
7)-4 ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H3/L2のLAG-3のT細胞抑制機能に対する影響の検討
LAG-3は、MHCクラスII分子に結合することで、T細胞に何らかの抑制性のシグナルを伝達し、T細胞の機能を負に制御することが知られている(非特許文献1)。LAG-3とMHCクラスII分子の結合には、LAG-3の細胞外の4つの免疫グロブリン様ドメインのうち、N末端のドメイン1および2が重要であると考えられている(非特許文献4)。実施例1の方法で取得した5クローンのラット抗ヒトLAG-3抗体(rLA204、rLA212、rLA225、rLA869およびrLA1264)はいずれもドメイン3を認識し、LAG-3/MHCクラスII結合試験および293T-hLAG-3/Raji細胞接着試験で阻害活性を示さなかったのに対し、先行技術の抗体であるヒトキメラ化抗ヒトLAG-3抗体IMP731はドメイン1を認識し、LAG-3/MHCクラスII結合試験および293T-hLAG-3/Raji細胞接着試験で強力な阻害活性を示したことを実施例2において明らかにした。これらの結果から、実施例1の方法で取得したクローンおよびそれに由来するヒト化抗ヒトLAG-3抗体はLAG-3本来のT細胞抑制機能に影響を与えないのに対し、IMP731はそれを阻害することが想定された。このことを実験的に確かめるために、既報(非特許文献9)に準じて、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H3/L2の、LAG-3のT細胞抑制機能に対する影響を検討した。ヒト末梢血からフィコール遠心分離にて分離したPBMCを、2×105 細胞/ウェルで96穴マイクロプレートに播種し、抗体を添加した後、37℃で30分間プレインキュベーションした。そこにSEB(Staphylococcal Enterotoxin B、Sigma社製)を最終濃度1 ng/mLになるように加え、4日間培養したときの培養上清中のIL-2濃度をHuman IL-2 Immunoassay kit(PerkinElmer社製)により定量した。その結果、図10に示すように、作製したヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H3/L2はほとんどIL-2産生に影響を与えなかったのに対し、IMP731はIL-2産生を増加させた。すなわち、当初の予測どおり、作製したヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H3/L2はLAG-3のT細胞抑制機能に影響を与えないのに対し、IMP731はこれを阻害することで、逆に免疫系を活性化してしまうリスクがあることが明らかになった。
【0315】
実施例8.糖鎖修飾が調節されたヒト化抗体の調製
配列番号30(図45)で示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号20乃至470を含む重鎖、および、配列番号34(図49)で示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号21乃至234を含む軽鎖を含んでなるヒト化抗体を、公知の方法に従って、該抗体蛋白質に結合する糖鎖修飾を脱フコース化することにより調節し、得られた抗体をhLA212_H4/L2と命名した。当該修飾体を質量分析に供したところ、フコースを含有するH鎖のピークは検出限界以下であった。本発明においては、hLA212_H4/L2のように糖鎖修飾が調節された抗体も「抗体」または「抗体の修飾体」と呼ぶ。
【0316】
実施例9.ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2のin vitro評価
9)-1 ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2のLAG-3発現細胞に対する結合活性
実施例7)-2に記載の方法によりヒトLAG-3を発現させた293T-lacZ細胞に対する、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2の結合をフローサイトメトリーにより検討した。その結果、図11に示すように、hLA212_H4/L2の濃度依存的な結合が観察された。
【0317】
9)-2 ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2のin vitro ADCC活性
実施例7)-2に記載の方法により、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2のin vitro ADCC活性を評価した。その結果、図12に示すように、hLA212_H4/L2はヒトLAG-3発現293T-lacZ細胞に対して濃度依存的なADCC活性を示した。これに対し、ヒトLAG-3を発現させていない293T-lacZ細胞に対しては、ADCC活性を示さなかった。
【0318】
実施例10.ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスの作製
ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2は、実施例9に示すようにヒトLAG-3には結合するものの、げっ歯類のLAG-3には交差しないことが明らかになっている。そこでhLA212_H4/L2のin vivoでの評価を可能にするため、ヒトLAG-3をマウスLAG-3の発現調節機構を利用して生理的に発現させたBAC(Bacterial Atrificial Chromosome)トランスジェニックマウスを作製することとした。また、hLA212_H4/L2のような糖鎖修飾の調節によってADCC活性が増強されるためには、ヒトFcγIIIAが必要であり(Junttila,T.T.,et al.,Cancer Res.,vol.70(No.11):pp4481-9(2010))、既報(非特許文献10)に準じてヒトFcγRIIIA遺伝子を含むBACもあわせて導入することとした。
【0319】
10)-1 Red/ET反応を用いた組換えBAC発現ベクターのコンストラクション
大腸菌内での能動型相同組み換え反応 であるRed/ET Recombination Technology (Zhang Y et al, A new logic for DNA engineering using recombination in E.Coli., Nature 20 (1998) 123-128) を利用して、ヒトLAG-3 RecBACの組換えBACクローンを構築した。
【0320】
ヒトLAG-3およびマウスLAG-3遺伝子座をそれぞれ含むBACゲノムクローン、RP11-101F21およびRP23-30O1を入手した。下の表に示したように、ヒトLAG-3遺伝子のイントロン5の配列、ヒトLAG-3遺伝子の翻訳開始コドンから終止コドンまでのゲノムDNA配列の両端の配列、およびマウスBACクローンのLAG-3遺伝子の翻訳開始コドンから終止コドンまでのゲノムDNA配列の3’側末端、5’側末端を大腸菌内での能動型相同組み換え反応のためのキー配列とした。
【0321】
LAG-3-H1 ヒトLAG-3遺伝子の開始コドン付近の配列
[5’]ATGTGGGAGGCTCAGTTCCTGGGCTTGCTGTTTC[3’](配列番号79)
LAG-3-H2 ヒトLAG-3遺伝子の終止コドン付近の配列
[5’]GCCCGAGCCCGAGCCCGAGCCGGAGCAGCTCTGA[3’](配列番号80)
LAG-3-H3 Rpsl-kan挿入サイト、5’側
[5’]GAGTATGTGTTGACTGGTTGATAACTATCG[3’](配列番号81)
LAG-3-H4 Rpsl-kan挿入サイト、3’側
[5’]GCCATGACAGATTAGCCATGTCTGCAGCAC [3’](配列番号82)
LAG-3-H5 マウスLAG-3遺伝子の5’UTR
[5’]CAGGACCTTTTTCTAACCTCCCTTGGAGGGCTGGGGAGGCCCGGGCCATAGAGGAG[3’](配列番号83)
LAG-3-H6 マウスLAG-3遺伝子の3’UTR
[5’]CCTGGAGCCGAGGCAGCCAGCAGGTCTCAGCAGCTCCGCCCGCCCGCCCGCCCGCC[3’](配列番号84)
【0322】
まず、ヒトBACクローンのLAG-3遺伝子のイントロン5にポジティブ/ネガティブセレクションマーカーカセット(Rpsl-kan)を挿入するために、LAG-3-H3配列、Rpsl-kan、およびLAG-3-H4配列をタンデムにつないだDNAフラグメントを、LA-Taq(タカラバイオ)を用いたPCRにより構築した(LAG-3 Rpsl-Kanブレークインフラグメント)。Red/ET反応の能力を有した大腸菌株に、LAG-3遺伝子座を含むヒトBACクローンとLAG-3 Rpsl-Kanブレークインフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed/ET反応を誘導し、クロラムフェニコール耐性、かつカナマイシン耐性のコロニーをピックアップすることにより、LAG-3 Rpsl-kanブレークインフラグメントをLAG-3遺伝子座のイントロン5に挿入した組み換えBACクローンをスクリーニングした(ヒトLAG-3 Intermediate)。そして、このヒトLAG-3 Intermediate から、Rpsl-kanカセットを挿入したヒトLAG-3遺伝子のゲノムDNA配列をプラスミドベクターにサブクローニングするため、H2-H6-SacBpBluescript-H5-H1をタンデムにつないだDNAカセットを構築した(LAG-3 プレトランスファープラスミド)。上記と同様の方法で、Red/ET反応の能力を有する大腸菌株に、ヒトLAG-3 Intermediateとともに、直鎖化したLAG-3プレトランスファープラスミドを導入し、このホスト大腸菌内でRed/ET反応を誘導してアンピシリンおよびカナマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、Rpslkanカセットを挿入したヒトLAG-3遺伝子のゲノムDNA配列を持つプラスミドをスクリーニングした(ヒトLAG-3 トランスファープラスミド)。
【0323】
次に、制限酵素反応により、このヒトLAG-3 トランスファープラスミドから、マウスゲノム配列に由来するH5配列とH6配列を両端に持ち、Rpsl-kanカセットを挿入したヒトLAG-3遺伝子のゲノムDNA配列をプラスミドベクターから切り出した(ヒトLAG-3 トランスファーフラグメント)。上記と同様の方法で、Red/ET反応の能力を有する大腸菌株に、マウスLAG-3BACクローンとともに、ヒトLAG-3 トランスファーフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed/ET反応を誘導してクロラムフェニコール、およびカナマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、マウスLAG-3遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列を、ヒトLAG-3 トランスファーフラグメントの翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列と正確に置換したマウスLAG-3/ヒトLAG-3遺伝子の組換えBACクローンをスクリーニングした(マウスLAG-3/ヒトLAG-3 RecBACIntermediate)。
【0324】
最後に、ヒトLAG-3遺伝子座のイントロン5配列をPCRで増幅し、ネガティブセレクションによりヒトLAG-3遺伝子のイントロン5に挿入したRpsl-Kanを除去するためのDNA配列とした(ヒトLAG-3 リペアーフラグメント)。上記と同様の方法で、Red/ET反応の能力を有する大腸菌株にマウスLAG-3/ヒトLAG-3 RecBAC Intermediateとともに、ヒトLAG-3 リペアーフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed/ET反応を誘導してクロラムフェニコール、およびストレプトマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、マウスLAG-3遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列を、ヒトLAG-3遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列と正確に置換したマウスLAG-3/ヒトLAG-3遺伝子の組換えBACクローンの構築を行なった(ヒトLAG-3 RecBAC)。シークエンス解析により、Red/ET反応で接合したH1~H6のゲノムDNA配列を確認した。
【0325】
10)-2 高純度BAC DNAフラグメントの精製
ヒトLAG-3 RecBAC遺伝子発現コンストラクトである組換えBACクローンにより形質転換したDH10Bセルを、クロラムフェニコールを含むLBアガー培地上でクローニングし、そのシングルコロニーをピックアップして液体培地で一昼夜震盪培養した。
【0326】
ヒトLAG-3 RecBAC遺伝子発現コンストラクトを、一部改変した阿部らの方法(Exp Anim. 2004 53(4):311-20.Establishment of an efficient BAC transgenesis protocol and its application to functional characterization of the mouse Brachyury locus. Abe K, Hazama M, Katoh H, Yamamura K, Suzuki M.)に従い、ヒトLAG-3 RecBAC組換えBACクローンをプラスミド抽出キット(マッキリーナーゲル社、Nucleobond BAC100キット)を用いて精製し、PI-SceIを加えて37℃、16時間反応させてダイジェスチョンを行った。
【0327】
直鎖化したヒトLAG-3 RecBAC組換えBACクローンを1%SeaKem GTG アガロースゲル(タカラバイオ)にアプライし、パルスフィールド電気泳動装置(バイオラッド、CHEF DR-II)により、6 v/cm、0.1-40 sec、15hr、14℃の条件で電気泳動を行った。サンプルの一部をガイドマーカーとしてUVトランスイルミネーターにより可視化することによって、アガロースゲル中に分離した直鎖化したヒトLAG-3 RecBAC組換えBACクローンをUV照射することなく、カミソリで切り出した。得られた長鎖DNA断片を電気溶出法によりアガロースゲルから抽出し、マイクロインジェクション用に調製したTEバッファーで、4℃、2時間透析した。精製したDNA断片をパルスフィールド電気泳動にアプライして、より長鎖DNA断片が分断することなく高度に精製されていることを確認するとともに、NanoDrop分光光度計(旭テクノグラス社)によりそのDNA濃度を決定した。このDNA断片の溶液を0.5 ng/μlになるように希釈してトランスジェニックマウス作出用の発現コンストラクトの溶液を調製した。
【0328】
10-3)C57BL/6J マウス胚マイクロインジェクション
雌性C57BL/6J マウスにPMSGおよびhCGを投与して過排卵を誘起し、同系統の雄性マウスと交配した後、受精卵を採取した。
【0329】
マイクロマニュピレーターを用いて、C57BL/6J マウスの前核期胚の雄性核に、精製したヒトLAG-3 RecBAC/ヒトFcγR BAC発現コンストラクトを直接注入した。このDNA注入胚を偽妊娠誘起した受胚雌マウスの卵管に移植した。
【0330】
10-4)ファウンダーのサザンスクリーニング
ヒトLAG-3 RecBAC/ヒトFcγR BAC発現コンストラクトを注入したC57BL/6J マウス受精卵から自然分娩により得た産子を、離乳まで保育した。ヒトLAG-3 RecBAC/ヒトFcγR BACトランスジェニックマウス、ファウンダー候補個体を3週令で離乳し、個体識別のための耳標をつけた後に、尾部組織を生検して解析に供するまで-80℃に保管した。
【0331】
-80℃で保存しておいたヒトLAG-3 RecBAC/ヒトFcγR BACトランスジェニックマウスの候補個体の尾部組織を室温で融解し、1%SDS(和光純薬)、1 mg/mlアクチナーゼE(科研製薬)および0.15 mg/mlプロテナーゼK(メルク)を含むライシスバッファーを加え、55℃で16時間震盪して組織を可溶化した。フェノール抽出、およびフェノール/クロロフォルム抽出を行って、組織から可溶化したゲノムDNAに結合するタンパク質を除去した。ゲノムDNAに混在するRNAをRNase A(Sigma社)により分解した後、イソプロパノール沈澱により高分子ゲノムDNAを析出した。析出したゲノムDNAを70%エタノールで洗浄して風乾した後、50μlのTEに再溶解した。
【0332】
各検体から調製したゲノムDNA溶液のDNA濃度を吸光法により決定し、各検体のDNA濃度の値からDNA5μgに相当するゲノムDNA溶液の容量を算出した。
【0333】
各検体から調製したゲノムDNA、陽性対照DNA(マイクロインジェクションに使用した発現コンストラクトを加えたコントロールマウスのゲノムDNA)、および陰性対照DNA(コントロールマウスのゲノムDNA)に制限酵素を加えて、37℃、16時間の反応を行った。生成したゲノムDNAの断片をイソプロパノール沈澱により析出し、70%エタノールで洗浄して風乾した後、TEに再溶解した。これらのゲノムDNA断片を1.2%のアガロースゲルにアプライして電気泳動し、アガロースゲル中に分離したゲノムDNA断片をUVトランスイルミネーターにより可視化し、スケールとともに写真撮影した。
【0334】
このアガロースゲルを0.25N塩酸に浸して10分間緩やかに震盪した後、0.4N水酸化ナトリウムに浸してさらに10分間緩やかに震盪した。0.4N水酸化ナトリウムを用いたキャピラリー法により、アガロースゲル中に分離したゲノムDNA断片を、室温で16時間、ナイロンメンブレン (Hybond-XL;GEヘルスケア社)にトランスファーした。ゲノムDNA断片をトランスファーしたナイロンメンブレンを2×SSCに浸して10分間緩やかに震盪した後に風乾し、ハイブリダイゼーションに用いるまで室温で保存した。
【0335】
DNAラベル化キット(Megaprime DNA Labelling System;GEヘルスケア社)を用いて、ランダムプライム法によりDNAフラグメントを [32P]ラベルした。セファデックススピンカラム(ProbeQuant G-50 Micro Columns;GEヘルスケア社)を用いて[32P]ラベル化したフラグメントを精製し、[32P]ラベル化プローブとした。
【0336】
ゲノムDNA断片をトランスファーしたナイロンメンブレンをハイブリダイゼーションバッファーに入れて、65℃で1時間プレインキュベートした。その後、95℃、5分間加熱し、直後に5分間氷冷し変性した[32P]ラベル化プローブを加えて、65℃で4時間インキュベートした。インキュベーション終了後にナイロンメンブレンを取り出し、0.1% SDS、0.5×SSCで65℃で約15分間洗浄した。サーベイメーターでメンブレンに結合したプローブに由来する放射活性をモニターし、放射活性がほぼ一定になるまでこの洗浄を繰り返した。
【0337】
洗浄したメンブレンをサランラップ(登録商標)で覆い、暗室内でX線フィルム(BioMax MS; コダック)を重ねてオートラジオグラフィーカセットに入れた。4℃で1週間感光した後にX線フィルムを現像した。ヒトLAG-3 RecBAC/ヒトFcγR BAC発現コンストラクトに由来する特異的なシグナルをオートラジオグラフィーで検出し、[32P]ラベル化プローブとのハイブリダイゼーションによる特異的なシグナルをもたらす個体を、ヒトLAG-3 RecBAC/ヒトFcγR BACトランスジェニックマウス、ファウンダー個体として同定した。
【0338】
10-5)F1マウスの作出および繁殖
ファウンダー個体の後代動物を得てジェノタイピングを行ない、Tgマウスの系統化をおこなった。サザン解析で同定したTgマウス・ファウンダーと野生型C57BL/6Jマウスを体外受精または自然交配し、F1個体を作出した。ジェノタイピングによりF1個体にトランスジーンを伝達し、系統化できたラインを、野生型C57BL/6Jマウスとの体外受精または自然交配による繁殖に供し、ジェノタイピングによりヒトLAG-3およびヒトFcγRIIIAがいずれもヘテロで導入されているマウスを実験に使用した。
【0339】
10-6)ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスのフェノタイプの確認
取得したヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスにおける導入した遺伝子の発現をフローサイトメトリー法により検討した。マウスの尾静脈から末梢血をヘパリン処理ヘマトクリット毛細管に採血し、PharmLyse(BD社製)により赤血球を溶血して白血球を得た。その一部をフローサイトメトリー法によるヒトFcγRIIIAの発現解析に使用し、残りについてはLAG-3の発現を誘導するため2μg/mL Concanavalin A(Con A:Sigma社)を含む培地で3日間刺激して活性化T細胞を得た。後者について、PE標識抗マウスLAG-3抗体(BD社製)、ATTO647標識抗ヒトLAG-3抗体(EnzoLifeSciences社製)、FITC標識抗マウスCD3抗体(BD社製)、およびLIVE/DEAD Fixable Dead Cell Stain Kit-near-IR fluorescent reactive dye(Invitrogen社製)を加えて懸濁し、4℃で30分間静置した。なお、ネガティブ集団の位置の同定に使用するために、PE標識抗マウスLAG-3抗体およびATTO647標識抗ヒトLAG-3抗体を含まないコントロールも作製し、同様に処理した。FACSバッファーで洗浄した後、1%パラホルムアルデヒド含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(CantoII:BD社製)で検出を行った。データ解析はFlowJo(TreeStar社製)で行った。LIVE/DEAD Fixable Dead Cell Stain Kit-near-IR fluorescent reactive dye陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞を解析対象とした。その結果、図13に示すとおり、コントロールの野生型マウス由来のCon A活性化T細胞には、マウスLAG-3の発現のみが認められヒトLAG-3の発現は認められなかったのに対し、ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウス由来のCon A活性化T細胞にはマウスLAG-3およびヒトLAG-3の発現がいずれも認めら、しかも個々の細胞を表すドットプロットのドットはほぼ対角線上に分布していた。なお、活性化させていない休止状態のT細胞にはマウスLAG-3およびヒトLAG-3いずれの発現もほとんど認められなかった。これらの結果から、作製したヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスにおいては、BACトランスジェニックという手法を用いることで当初計画したように、ヒトLAG-3が内因性のマウスLAG-3の発現パターンにしたがって発現することが明らかになった。また、ヒトFcγRIIIAについては、作製したヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスの末梢血NK細胞(CD3-DX5+)の約47%に発現が認められ、既報(非特許文献10)と同様の結果が確認された。
【0340】
実施例11.ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2のin vivo評価
11-1)ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2のLAG-3陽性細胞除去活性
実施例10のヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスを用いて、取得したヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2がin vivoにおいてLAG-3陽性細胞を除去する活性を有するかを検討した。ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスの腹腔内にヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2(30mg/kg)あるいは溶媒を投与した直後に、ポリクローナルなT細胞活性化作用を有するCon A(Sigma社製)を15mg/kgの用量で静脈内投与した。その2日後に採血した血液からPharmLyse(BD社製)により赤血球を溶血して白血球を得、フローサイトメトリーに使用した。白血球をFcBlock(BD社製)と反応させた後、PE標識抗マウスLAG-3抗体(BD社製)、ATTO647標識抗ヒトLAG-3抗体(EnzoLifeSciences社製)、FITC標識抗マウスCD3抗体(BD社製)、およびLIVE/DEAD Fixable Dead Cell Stain Kit-near-IR fluorescent reactive dye(Invitrogen社製)を加えて懸濁し、4℃で30分間静置した。なお、ネガティブ集団の位置の同定に使用するために、PE標識抗マウスLAG-3抗体およびATTO647標識抗ヒトLAG-3抗体を含まないコントロールも作製し、同様に処理した。FACSバッファーで洗浄した後、1%パラホルムアルデヒド含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(CantoII:BD社製)で検出を行った。データ解析はFlowJo(TreeStar社製)で行った。LIVE/DEAD Fixable Dead Cell Stain Kit-near-IR fluorescent reactive dye陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞を解析対象とした。CD3陽性T細胞におけるヒトLAG-3陽性率を算出したところ、図14に示すとおり、無処置のヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスの末梢血T細胞においてはヒトLAG-3陽性細胞がほとんど認められなかったのに対し、ポリクローナルなT細胞活性化作用を有するCon A投与により、抗体非投与群では末梢血T細胞のうち平均24%がヒトLAG-3陽性となった。これに対し、hLA212_H4/L2を投与したCon A投与マウスでは、末梢血T細胞におけるヒトLAG-3陽性率が著明に低下していた。同様の傾向は、脾臓におけるT細胞、およびCon Aを投与した翌日の末梢血T細胞でも認められており、またマウスLAG-3および他の活性化マーカーであるCD69の陽性率でみても同様の結果であった。これらの結果から、取得したヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2がin vivoにおいてLAG-3陽性細胞を除去する活性を有することが明らかになった。
【0341】
11-2)T細胞依存性自己免疫疾患モデルに対するヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2の活性
LAG-3陽性細胞をin vivoにおいて除去する活性を有するヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2が、自己免疫疾患の治療に有用であるかどうかを明らかにする目的で、代表的なT細胞依存性の自己免疫疾患(多発性硬化症)モデルであるEAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)モデル(非特許文献11)に対する薬効を検討した。
【0342】
中枢神経のミエリンを構成するタンパク質の1つであるMOG(Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein)由来のペプチド(アミノ酸35-55、ペプチド研究所)を4mg/mLの濃度で生理食塩水に溶解したものを、8mg/mLのKilled Mycobacterium Tuberculosis H37Ra(BD社製)を添加したFreund‘s Incomplete Adjuvant(和光純薬社製)と等量混合してエマルジョンにした。これをDay0に、ヒトLAG-3/ヒトFcγRIIIAダブルトランスジェニックマウスの両わき腹に50μLずつ皮下注射し、さらに生理食塩水で希釈した百日咳毒素0.2μgを静脈内投与することでEAEを誘導した。その後、EAEの臨床スコアを以下のように経日的に観察した。すなわち、スコア0:無症状、スコア1:尾の脱力、スコア2:歩行異常・正向反射消失、スコア3:後肢麻痺、スコア4:前肢の部分麻痺、スコア5:死亡または安楽殺。ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2およびコントロール抗体は、Day0および7にそれぞれ30mg/kgの用量で静脈内投与した。その結果、図15に示すように、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2投与群ではコントロール抗体投与群に比べて、EAEの臨床スコアの平均値が観察期間中50%以下に抑制されていた。さらに、hLA212_H4/L2投与群ではEAE進行に伴う体重減少も抑制されていた。これらの結果から、LAG-3陽性細胞をin vivoにおいて除去する活性を有するヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2は、代表的なT細胞依存性の自己免疫疾患モデルであるEAEを抑制することが明らかになり、ヒトの自己免疫疾患の治療薬となりうることが示された。
【0343】
実施例12.ヒト活性化T細胞におけるLAG-3とパーフォリン、CD28、およびCD57の発現の関係
ヒト末梢血からフィコール遠心分離にてPBMCを分離し、96穴U底マイクロプレートに4×105細胞/ウェル添加した。ヒトIL-2(Peprotech社、最終濃度100ng/mL)およびDynabeads Human T-Activator CD3/CD28(Life Technologies社、4×105個/ウェル)を加えて4日間培養し、T細胞を活性化した。得られた細胞を回収し、FACSバッファー(PBS、0.1%BSA、0.1%アジ化ナトリウム)に懸濁した後、Human BD Fc Block(BD社)と室温で10分間反応させた。続いてLIVE/DEAD Fixable Dead Cell Stain Kit-near-IR fluorescent reactive dye(Invitrogen社製)を含むFACSバッファーで希釈した蛍光標識抗体と4℃で30分間反応させて細胞表面の染色を行った後、FACSバッファーで洗浄した。蛍光標識抗体としては、FITC標識抗ヒトCD8抗体、PerCP-Cy5.5標識抗ヒトCD3抗体、APC標識抗ヒトCD28抗体、PacificBlue標識抗ヒトCD57抗体(いずれもBD社)、PE標識抗ヒトCD28抗体(Biolegend社)、PE標識キット(Dojindo社)を用いて標識した抗ヒトLAG-3抗体およびアイソタイプコントロール抗体を種々の組み合わせで使用した。一部のサンプルについてはさらに、BD Cytofix/Cytoperm Fixation/Permeabilization Solution Kit(BD社)およびAPC標識抗ヒトパーフォリン抗体(eBiosciences社)を用いて、細胞内のパーフォリンの染色も行った。洗浄後の細胞は、1%パラホルムアルデヒド含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(BD社製CantoIIあるいはMiltenyi社製MACSQuantX)で検出を行った。データ解析はFlowJo(TreeStar社製)で行った。LIVE/DEAD Fixable Dead Cell Stain Kit-near-IR fluorescent reactive dye陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のみについてさらにCD3陽性CD8陽性のCD8T細胞にゲートをかけて解析した。
【0344】
LAG-3と細胞内のパーフォリンの発現の関係を解析した結果を図102に示す。右端の図において細胞集団がほぼ対角線上に分布していることから、ヒト活性化CD8T細胞においては、LAG-3と細胞内のパーフォリンの発現はほぼパラレルになっていることが明らかになった。なおこのとき、PE標識したLAG-3抗体のアイソタイプコントロール(中央の図)では非標識のサンプル(左端の図)とほとんど変わらない横軸方向の蛍光強度の分布を示していたことから、ヒトLAG-3の染色の特異性が確認された。
【0345】
図103は、LAG-3とCD28の発現の関係を解析した結果を示す。右端の図において、CD28陽性の細胞ではLAG-3陽性の細胞は50%未満であったのに対し、CD28陰性の細胞ではCD28陽性の細胞に比べて細胞集団が全体的にLAG-3陽性側にシフトしておりかつ割合としては2/3の細胞がLAG-3陽性となっていたことから、ヒト活性化CD8T細胞においては、CD28陽性細胞に比較するとCD28陰性細胞でよりLAG-3の発現が認められることが明らかになった。
【0346】
図104は、LAG-3とCD57の発現の関係を解析した結果を示す。右端の図において、CD57陰性の細胞のうち42%の細胞がLAG-3陽性であったのに対し、CD57陽性の細胞ではCD57陰性細胞に比べて細胞集団が全体的にLAG-3陽性側に大きくシフトしておりかつ割合としては79%の細胞がLAG-3陽性となっていたことから、ヒト活性化CD8T細胞においては、CD57陰性細胞に比較するとCD57陽性細胞でよりLAG-3の発現が認められることが明らかになった。
【0347】
実施例13.LAG-3抗体のパーフォリン陽性CD8T細胞に対する作用
実施例12の実験系における、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2、カルシニューリン阻害薬であるタクロリムス、コルチコステロイドであるデキサメタゾンの作用を検討した。ヒトPBMCを、hLA212_H4/L2(最終濃度10μg/mL)、コントロールヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社、最終濃度10μg/mL)、タクロリムス(Focus社、最終濃度10 nM)、およびデキサメタゾン(ENZO Life Sciences社、最終濃度1 μM)と37℃で30分間プレインキュベーションした後、実施例12のようにDynabeads Human T-Activator CD3/CD28で4日間培養し、得られた細胞をフローサイトメトリーに供した。なお、これらの抗体および化合物の濃度は、既報(Henderson,DJ et al.、Immunol.、1991年;第73巻(3号):316-321ページ:Brunetti,M.et al.、Pharmacol.Exp.Ther.、1998年;第285巻(2号):915-919ペーシ゛)等に基づき、最大の薬効を示すと考えられる濃度に設定した。
【0348】
結果を図105に示す。図105Aのように、hLA212_H4/L2およびタクロリムスを添加した場合はコントロールと比較して、培養後のトータルのT細胞数はわずかに減少しており、デキサメタゾンを添加した場合はコントロールとほとんど変わらなかった。当アッセイは二人のドナー由来のPBMCで実施し、同様の傾向が見られた(PBMC1およびPBMC2)。
【0349】
これに対しパーフォリン陽性CD8T細胞数については、図105Bに示すように、hLA212_H4/L2によってコントロールと比較して著明に減少していた。一方、タクロリムスを添加した場合はコントロールとほとんど差がなく、デキサメタゾンを添加した場合は、PBMC1ではコントロールよりも増加しており、PBMC2ではコントロールと同レベルであった。これらの結果から、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2は、T細胞全体への影響に比べてパーフォリン陽性CD8T細胞を選択的にdepletionすること、およびカルシニューリン阻害薬であるタクロリムスならびにコルチコステロイドであるデキサメタゾンにはそのような作用が認められないことが明らかになった。なお、データは示さないが、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2は、グランザイム陽性CD8T細胞数も減少させた。
【0350】
実施例14.LAG-3抗体のCD28陰性T細胞およびCD57陽性T細胞に対する作用
実施例13のアッセイ系におけるCD28陰性T細胞およびCD57陽性T細胞に対する、ヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H4/L2、カルシニューリン阻害薬であるタクロリムス、コルチコステロイドであるデキサメタゾンの作用を検討した。ヒトPBMCを、hLA212_H4/L2(最終濃度10、1、および0.1μg/mL)、コントロールヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社、最終濃度10μg/mL)、タクロリムス(Focus社、最終濃度10 nM)、およびデキサメタゾン(ENZO Life Sciences社、最終濃度1 μM)と37℃で30分間プレインキュベーションした後、実施例12のようにDynabeads Human T-Activator CD3/CD28で4日間培養し、得られた細胞をフローサイトメトリーに供した。なお、生細胞のうち、CD3陽性CD8陰性の画分をCD4T細胞、CD3陽性CD8陽性の画分をCD8T細胞とそれぞれして解析した。
【0351】
CD28陰性T細胞に対する作用を解析した結果を図106に示す。CD28陰性CD8T細胞については、図106Bのように、実施例13のパーフォリン陽性CD8T細胞の場合と同様に、hLA212_H4/L2によって著明にその数が低下していた。この作用はhLA212_H4/L2の濃度依存的であり、二人のドナー由来のいずれのPBMCを用いた場合にも同様の結果であった。これに対し、タクロリムスおよびデキサメタゾンを添加した場合には、LAG-3抗体で認められたような著明なCD28陰性CD8T細胞数の低下は認められなかった。また図106Aのように、CD28陰性CD4T細胞についても、CD28陰性CD8T細胞ほど顕著ではないものの、LAG-3抗体hLA212_H4/L2によりその細胞数の低下が認められ、タクロリムスおよびデキサメタゾンはほとんど効果を示さないかむしろ増加させた。
【0352】
CD57陽性T細胞に対する作用を解析した結果を図107に示す。CD57陽性CD8T細胞については、図107Bのように、実施例13のパーフォリン陽性CD8T細胞および上記のCD28陰性CD8T細胞の場合と同様に、hLA212_H4/L2によって著明にその数が低下していた。この作用はhLA212_H4/L2の濃度依存的であり、二人のドナー由来のいずれのPBMCを用いた場合にも同様の結果であった。これに対し、タクロリムスおよびデキサメタゾンを添加した場合には、LAG-3抗体で認められたような著明なCD57陽性CD8T細胞数の低下は認められなかった。また図107Aのように、CD57陽性CD4T細胞についても、CD57陽性CD8T細胞ほど顕著ではないものの、LAG-3抗体hLA212_H4/L2によりその細胞数の低下が認められ、タクロリムスおよびデキサメタゾンにはそのような効果はほとんど認められなかった。
【0353】
また、低フコース形態にはないヒト化抗ヒトLAG-3抗体hLA212_H3/L2、抗ヒトLAG-3マウス-ヒトキメラ抗体A9H12、および抗ヒトLAG-3ラット-ヒトキメラ化抗体cLA212は、低フコース形態にあるhLA212_H4 /L2と比較して弱いものの、CD28陰性T細胞数およびCD57陽性T細胞数を低下させる傾向を示した(データ示さず)。
【0354】
これらの結果から、抗LAG-3抗体は、細胞傷害性で免疫系疾患におけるステロイド抵抗性に関わるとされるCD28陰性T細胞およびCD57陽性T細胞を枯渇させること、並びに、かかるT細胞枯渇活性は低フコース化により増強されることが明らかになり、免疫抑制剤抵抗性の細胞傷害性T細胞関連疾患の医療における有望な細胞傷害性T細胞枯渇薬となる可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0355】
本発明の組成物は細胞傷害性T細胞枯渇に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0356】
配列番号1:rLA204抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図16
配列番号2:rLA204抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(図17
配列番号3:rLA204抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図18
配列番号4:rLA204抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(図19
配列番号5:rLA212抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図20
配列番号6:rLA212抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(図21
配列番号7:rLA212抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図22
配列番号8:rLA212抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(図23
配列番号9:rLA225抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図24
配列番号10:rLA225抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(図25
配列番号11:rLA225抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図26
配列番号12:rLA225抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(図27
配列番号13:rLA869抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図28
配列番号14:rLA869抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(図29
配列番号15:rLA869抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図30
配列番号16:rLA869抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(図31
配列番号17:rLA1264抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするcDNAのヌクレオチド配列(図32
配列番号18:rLA1264抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(図33
配列番号19:rLA1264抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図34
配列番号20:rLA1264抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(図35
配列番号21:ヒト軽鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図36
配列番号22:ヒト重鎖分泌シグナル及びヒトIgG1定常領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図37
配列番号23:cLA212抗体の重鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図38
配列番号24:cLA212抗体の重鎖のアミノ酸配列(図39
配列番号25:cLA212抗体の軽鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図40
配列番号26:cLA212抗体の軽鎖のアミノ酸配列(図41
配列番号27:hLA212抗体の重鎖H2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図42
配列番号28:hLA212抗体の重鎖H2のアミノ酸配列(図43
配列番号29:hLA212抗体の重鎖H3のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図44
配列番号30:hLA212抗体の重鎖H3のアミノ酸配列(図45
配列番号31:hLA212抗体の軽鎖L1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図46
配列番号32:hLA212抗体の軽鎖L1のアミノ酸配列(図47
配列番号33:hLA212抗体の軽鎖L2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図48
配列番号34:hLA212抗体の軽鎖L2のアミノ酸配列(図49
配列番号35:hLA212抗体の軽鎖L3のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図50
配列番号36:hLA212抗体の軽鎖L3のアミノ酸配列(図51
配列番号37:hLA212抗体の軽鎖L4のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図52
配列番号38:hLA212抗体の軽鎖L4のアミノ酸配列(図53
配列番号39:hLA212抗体の軽鎖L5のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図54
配列番号40:hLA212抗体の軽鎖L5のアミノ酸配列(図55
配列番号41:rLA204抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(図56
配列番号42:rLA204抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(図57
配列番号43:rLA204抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(図58
配列番号44:rLA204抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(図59
配列番号45:rLA204抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(図60
配列番号46:rLA204抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(図61
配列番号47:rLA212抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(図62
配列番号48:rLA212抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(図63
配列番号49:rLA212抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(図64
配列番号50:rLA212抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(図65
配列番号51:rLA212抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(図66
配列番号52:rLA212抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(図67
配列番号53:rLA225抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(図68
配列番号54:rLA225抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(図69
配列番号55:rLA225抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(図70
配列番号56:rLA225抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(図71
配列番号57:rLA225抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(図72
配列番号58:rLA225抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(図73
配列番号59:rLA869抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(図74
配列番号60:rLA869抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(図75
配列番号61:rLA869抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(図76
配列番号62:rLA869抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(図77
配列番号63:rLA869抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(図78
配列番号64:rLA869抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(図79
配列番号65:rLA1264抗体の重鎖CDRH1のアミノ酸配列(図80
配列番号66:rLA1264抗体の重鎖CDRH2のアミノ酸配列(図81
配列番号67:rLA1264抗体の重鎖CDRH3のアミノ酸配列(図82
配列番号68:rLA1264抗体の軽鎖CDRL1のアミノ酸配列(図83
配列番号69:rLA1264抗体の軽鎖CDRL2のアミノ酸配列(図84
配列番号70:rLA1264抗体の軽鎖CDRL3のアミノ酸配列(図85
配列番号71:プライマーRG2AR3(図86
配列番号72:プライマーRKR5(図87
配列番号73:プライマー3.3-F1(図88
配列番号74:プライマー3.3-R1(図89
配列番号75:プライマー212H-F(図90
配列番号76:プライマー212H-R(図91
配列番号77:プライマー212L-F(図92
配列番号78:プライマー212L-R(図93
配列番号79:オリゴヌクレオチドLAG-3-H1(図94
配列番号80:オリゴヌクレオチドLAG-3-H2(図95
配列番号81:オリゴヌクレオチドLAG-3-H3(図96
配列番号82:オリゴヌクレオチドLAG-3-H4(図97
配列番号83:オリゴヌクレオチドLAG-3-H5(図98
配列番号84:オリゴヌクレオチドLAG-3-H6(図99
配列番号85:ヒトLAG-3のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図100
配列番号86:ヒトLAG-3のアミノ酸配列(図101
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