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特許7384672C末端CDNF断片及びC末端MANF断片、それらを含む医薬組成物、並びにそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】C末端CDNF断片及びC末端MANF断片、それらを含む医薬組成物、並びにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20231114BHJP
   C07K 14/475 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/475
A61K38/22
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61K48/00
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019560290
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 FI2018050332
(87)【国際公開番号】W WO2018202957
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】20175392
(32)【優先日】2017-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】518073457
【氏名又は名称】ヘルシンギン ユリオピスト
【氏名又は名称原語表記】HELSINGIN YLIOPISTO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】マート サーマ
(72)【発明者】
【氏名】ミッコ アイラバアラ
(72)【発明者】
【氏名】メリャ ヴティライネン
(72)【発明者】
【氏名】リイン ユ
(72)【発明者】
【氏名】マリア リンダール
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/034805(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
UniProt/GeneSeq
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1:
MPAMKICEKL KKLDSQICEL KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECRACAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
に記載の配列、又は配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列の5661個の連続アミノ酸残基からなるCDNFポリペプチドの断片であり、前記断片は、配列番号1の位置78~81のER残留シグナルKTELと配列番号1の位置52~55のCXXCモチーフを含み、Xは任意のアミノ酸であり、前記断片は細胞膜透過性ペプチドであり、神経細胞に対する保護効果を有する、医薬として使用するためのCDNFポリペプチドの断片。
【請求項2】
配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する前記配列が、配列番号3:
MPAMKICEKL KKLDSQICEL KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECXXCAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
の配列であって、Xは任意のアミノ酸である配列の5661個の連続アミノ酸残基からなる、請求項1に記載の断片。
【請求項3】
配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する前記配列が、配列番号1の位置52~55に配列CKGCを含む、請求項に記載の断片。
【請求項4】
配列番号4:
KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECRACAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
の配列、又は配列番号4の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の断片。
【請求項5】
配列番号1の配列と100%の配列同一性を有する配列を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の断片。
【請求項6】
配列番号1の位置81にC末端アミノ酸Lを含む、請求項のいずれか一項に記載の断片。
【請求項7】
C末端のアミド化及びN末端のアセチル化からなる群から選択される酵素分解から前記断片を保護する修飾を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載の断片。
【請求項8】
検出可能な化学的又は生化学的部分に更に結合している、請求項1~のいずれか一項に記載の断片。
【請求項9】
細胞透過性ペプチドであり、ヒト血液脳関門を透過することができる、請求項1~のいずれか一項に記載の断片。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の断片と、生理学的に許容される担体、緩衝液、賦形剤、防腐剤、及び安定剤のうちの少なくとも1つとを含む、医薬組成物。
【請求項11】
静脈内投与、末梢投与、腹腔内、皮下、くも膜下腔内、脳室内、鼻腔内、経皮、脳内、筋肉内、眼内、又は動脈内投与のための、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記断片が、C末端のアミド化及びN末端のアセチル化からなる群から選択される酵素分解から前記断片を保護する修飾を含む、請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記断片が、検出可能な化学的又は生化学的部分に結合している、請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
医薬として使用するための、請求項1013のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
変性疾患又は障害の治療に使用するための、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記変性疾患又は障害が、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症、軽度認知障害、ハンチントン病、外傷性脳損傷、薬物中毒、及び脳卒中からなる群から選択される中枢神経系(CNS)疾患である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
I型又はII型糖尿病の治療に使用するための、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
網膜色素変性症等の網膜障害の治療に使用するための、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項19】
配列番号1:
MPAMKICEKL KKLDSQICEL KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECRACAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
に記載の配列、又は配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列の5661個の連続アミノ酸残基からなるCDNFポリペプチドの断片の使用であり、前記断片は、配列番号1の位置78~81のER残留シグナルKTELと配列番号1の位置52~55のCXXCモチーフを含み、Xは任意のアミノ酸である、変性疾患又は障害の治療のための医薬を製造するためのCDNFポリペプチドの断片の使用。
【請求項20】
前記断片が、配列番号1の配列と100%の配列同一性を有する配列を有する、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記変性疾患が神経変性疾患である、請求項19又は20に記載の使用。
【請求項22】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症、軽度認知障害、ハンチントン病、外傷性脳損傷、薬物中毒、及び脳卒中からなる群から選択される中枢神経系(CNS)疾患である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記CNS疾患がパーキンソン病である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記変性疾患がI型又はII型糖尿病である、請求項19又は20に記載の使用。
【請求項25】
前記変性疾患が筋萎縮性側索硬化症である、請求項21に記載の使用。
【請求項26】
前記変性疾患が網膜色素変性症等の網膜障害である、請求項21に記載の使用。
【請求項27】
前記断片が、静脈内投与、腹腔内、皮下、くも膜下腔内、脳室内、鼻腔内、経皮、脳内、筋肉内、眼内、又は動脈内投与により投与されるか、又は、ウイルス発現ベクターを介して投与される、請求項19~26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
前記静脈内投与が末梢投与である、請求項27に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物活性タンパク質断片及び細胞膜透過性ペプチドの分野、並びに神経栄養因子及び小胞体(ER)に位置するタンパク質の分野に関し、より具体的には、中枢神経系疾患、糖尿病、及び網膜障害等の変性疾患又は障害の治療分野に関する。
【背景技術】
【0002】
神経栄養因子である脳ドーパミン神経栄養因子(CDNF)及び中脳星状細胞由来神経栄養因子(MANF)(非特許文献1、非特許文献2)は、現在、パーキンソン病(PD)の6-OHDAモデルのラットの治療に最も効率的なタンパク質である。両因子は、毒素の前に適用された場合、パーキンソン病の6-OHDA誘発性の行動症状及び組織学的症状を強力に防止する(非特許文献3、非特許文献4)。更に重要なことに、いずれの因子による後治療(即ち、6-OHDA誘発後の治療)も、パーキンソン病の6-OHDA誘発性症状が既に広範囲に及んでいる段階で適用すると、正常な運動行動及び線条体のドーパミン作動性神経支配を効果的に回復させた(非特許文献3、非特許文献5)。CDNFは、パーキンソン病のマウス及びアカゲザルのMPTPモデルにおいてもドーパミンニューロンを保護及び修復する。サルMPTPモデル及び重症げっ歯類6-OHDAモデルにおいて、CDNFは、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)よりも、黒質緻密部(SNPc)のドーパミンニューロンの回復及び運動行動の回復において効率的である(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。これらの因子に対するニューロン保護の背後にあるメカニズムは完全には明らかではないが、これらは、抗アポトーシス経路を促進する古典的な生存の活性化に加えて、酸化ストレス及びERストレスを緩和し、ERストレス誘導アポトーシス細胞死を抑制することを目的とする小胞体ストレス応答(UPR)経路を調節することが示唆されている(非特許文献8、非特許文献2、非特許文献9)。糖尿病、並びにパーキンソン病、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及びハンチントン病(HD)等の神経変性疾患を含む多くの病態生理学的状態及び変性疾患は、ERストレス及びUPR経路の活性化の引き金となるタンパク質の誤った折り畳み及び凝集に関連している。従って、CDNF及びMANFの効果は、様々な中枢神経系疾患において示されている(特許文献1、特許文献2、及び非特許文献10)。また、CDNF及びMANFは、全てではないがほとんどのCNS疾患及び損傷の病態生理に関与する神経炎症を抑制する(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13)。
【0003】
更に、特許文献3は、機能的MANF遺伝子を天然にコード及び発現する遺伝子に対する破壊された対立遺伝子を含む遺伝子組み換え非ヒト動物を開示しており、当該動物は、破壊された非機能的MANF遺伝子により、膵臓ベータ細胞量の漸進的な生後減少を示す。また、1型又は2型糖尿病の膵臓内治療で使用するためのMANF若しくはCDNFポリペプチド又はその機能的断片の有効量を送達する遺伝子治療ベクターも提案されている。更に、非特許文献8は、MANFタンパク質が膵臓ベータ細胞の増殖及び生存に不可欠であり、それによりベータ細胞の保護及び再生の治療候補となることを開示している。
【0004】
特許文献4は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脳卒中、末梢神経障害、てんかん、糖尿病、又は薬物中毒の治療に使用するための、配列CXXCを含む4~40アミノ酸の長さの細胞透過性MANF又はCDNFペプチドを開示している。
【0005】
CDNF及びMANFの構造研究により、これらのタンパク質はサポシン様N末端ドメイン(非特許文献14)とSAP様C末端(非特許文献15)の2つのドメインで構成されることが示されている。CXXCモチーフ(ヒトMANFの残基149~152、NCBI参照配列:NP_006001.3)は、ドメインのヘリカルコアの外側にあるループ領域のC末端ドメイン(C-MANF)に位置し、システインはジスルフィド結合で結合している(非特許文献15)。CDNFの対応するモチーフは、同じ位置にある(NCBI参照配列:NP_001025125.2)。C-MANFは、交感神経ニューロン内で発現すると、インビトロで強力な抗アポトーシス性を示すことが示されている(非特許文献15)。非特許文献16には、MANF及びCDNFの構造的及び機能的決定因子の特徴が開示されている。
【0006】
選択的透過性を備えた細胞膜は、細胞内膜が内部コンパートメント内で行うのと同様にして、サイトゾルと細胞外環境との間の分子交換を制御する。このため、しばしば細胞膜は、多くの分子、特に、完全長タンパク質等の高分子量分子の細胞内送達に対する困難な障害となる。そのような障壁を通る高分子量分子の能動輸送には、脂質二重層を透過することが可能な特定の担体が必要となることが多い。細胞透過性ペプチド(CPP)は、一般に、5~30アミノ酸長のペプチド(又はペプチド内のモチーフ)であり、細胞膜を透過するその能力ゆえに、タンパク質、プラスミドDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、リポソーム、及び抗がん剤を細胞内に送達するために広く使用されている(非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2009/133247号
【文献】国際公開第2007/068803号
【文献】国際公開第2014/191630号
【文献】国際公開第2013/034805号
【文献】欧州特許第1969003号明細書
【文献】国際公開第2016/057579号
【文献】米国特許第3773919号明細書
【文献】欧州特許第58481号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Lindholm, P., and M. Saarma. 2010. Novel CDNF/MANF family of neurotrophic factors. Dev. Neurobiol. 70:360-371.
【文献】Lindahl M, Saarma M, Lindholm P, M. 2017 Unconventional neurotrophic factors CDNF and MANF: structure, physiological functions and therapeutic potential. Neurobiology of Disease, 97, 90-102.
【文献】Lindholm, P., M.H. Voutilainen, J. Lauren, J. Peranen, V.M. Leppanen, J.O. Andressoo, M. Lindahl, S. Janhunen, N. Kalkkinen, T. Timmusk, R.K. Tuominen, and M. Saarma. 2007. Novel neurotrophic factor CDNF protects and rescues midbrain dopamine neurons in vivo. Nature. 448:73-77.
【文献】Voutilainen, M.H., S. Back, E. Porsti, L. Toppinen, L. Lindgren, P. Lindholm, J. Peranen, M. Saarma, and R.K. Tuominen. 2009. Mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor is neurorestorative in rat model of Parkinson's disease. J.Neurosci. 29:9651-9659. doi: 10.1523/JNEUROSCI.0833-09.2009.
【文献】Voutilainen, M.H., S. Back, J. Peranen, P. Lindholm, A. Raasmaja, P.T. Mannisto, M. Saarma, and R.K. Tuominen. 2011. Chronic infusion of CDNF prevents 6-OHDA-induced deficits in a rat model of Parkinson's disease. Exp.Neurol. 228:99-108.
【文献】Airavaara M, Harvey BK, Voutilainen MH, Shen H, Chou J, Lindholm P, Lindahl M, Tuominen RK, Saarma M, Hoffer B, and Wang Y. CDNF protects the nigrostriatal dopamine system and promotes recovery after MPTP treatment in mice. Cell Transplant. 2012;21(6):1213-23. doi: 10.3727/096368911X600948.
【文献】Voutilainen, MH, Arumae U, Airavaara M, Saarma M. 2015 Therapeutic potential of the endoplasmic reticulum located and secreted CDNF/MANF family of neurotrophic factors in Parkinson's disease. FEBS letters 589 3739-3748.
【文献】Lindahl M, Danilova T, Palm E, Pulkkila P, Voikar V, Hakonen E, Ustinov J, Andressoo J-O, Harvery B, Otonkoski T, Rossi J and Saarma M. 2014. MANF is indispensable for the proliferation and survival of pancreatic β-cells. Cell Reports, 7(2):366-75.
【文献】Voutilainen MH, De Lorenzo F, Stepanova P, Back S, Yu LY, Lindholm P, Porsti E, Saarma M, Mannisto PT, Tuominen RK 2017 Evidence for an Additive Neurorestorative Effect of Simultaneously Administered CDNF and GDNF in Hemiparkinsonian Rats: Implications for Different Mechanism of Action. eNeuro. Mar 13;4(1)
【文献】Airavaara, M., H. Shen, C.C. Kuo, J. Peranen, M. Saarma, B. Hoffer, and Y. Wang. 2009. Mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor reduces ischemic brain injury and promotes behavioral recovery in rats. J.Comp.Neurol. 515 (1): 116-124.
【文献】Nadella R, Voutilainen MH, Saarma M, Gonzalez-Barrios JA, Leon-Chavez BA, Jimenez JM, Jimenez SH, Escobedo L, Martinez-Fong D. Transient transfection of human CDNF gene reduces the 6-hydroxydopamine-induced neuroinflammation in the rat substantia nigra. J. Neuroinflammation. 11: 209, 2014.
【文献】Neves J, Zhu J, Sousa-Victor P, Konjikusic M, Riley R, Chew S, Qi Y, Jasper H, Lamba DA, Immune modulation by MANF promotes tissue repair and regenerative success in the retina. Science 2016 Jul 1;353(6294).
【文献】Zhao H, Liu Y, Cheng L, Liu B, Zhang W, Guo YJ, Nie L. 2013 Mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor inhibits oxygen-glucose deprivation-induced cell damage and inflammation by suppressing endoplasmic reticulum stress in rat primary astrocytes. J. Mol. Neurosci. 51(3): 671-8, 2013.
【文献】Parkash, V., P. Lindholm, J. Peranen, N. Kalkkinen, E. Oksanen, M. Saarma, V.M. Leppanen, and A. Goldman. 2009. The structure of the conserved neurotrophic factors MANF and CDNF explains why they are bifunctional. Protein Eng.Des.Sel. 22:233-241.
【文献】Hellman, M., U. Arumae, L.Y. Yu, P. Lindholm, J. Peranen, M. Saarma, and P. Permi. 2011. Mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor (MANF) has a unique mechanism to rescue apoptotic neurons. J.Biol.Chem. 286:2675-2680.
【文献】Lindstrom, R., P. Lindholm, J. Kallijarvi, Y. Li-ying, T.P. Piepponen, U. Arumae, M. Saarma and T.I. Heino, 2013. Characterization of the Structural and Functional Determinants of MANF/CDNF in Drosophila In Vivo Model. PLoS One 8(9),e73928.
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【文献】Bode & Lowik, Constrained cell penetrating peptides. Drug Discovery Today: Technologies; 2017, Vol. 26, pages 33-42
【文献】Kalafatovic & Giralt, Cell-Penetrating Peptides: Design Strategies beyond Primary Structure and Amphipathicity. Molecules. 2017 Nov 8;22(11). pii: E1929. doi: 10.3390/molecules22111929.
【文献】Mie Kristensen, Ditlev Birch and Hanne Morck Nielsen. Applications and Challenges for Use of Cell-Penetrating Peptides as Delivery Vectors for Peptide and Protein Cargos. Int. J. Mol. Sci. 2016, 17, 185; doi:10.3390/ijms17020185
【文献】Bai M, Vozdek R, Hnizda A, Jiang C, Wang B, Kuchar L, Li T, Zhang Y, Wood C, Feng L, Dang Y, and Ma DK. Conserved roles of C. elegans and human MANFs in sulfatide binding and cytoprotection. Nat Commun. 2018 Mar 1;9(1):897. doi: 10.1038/s41467-018-03355-0.
【文献】Marino, Giada, Ulrich Eckhard, and Christopher M. Overall, Protein Termini and Their Modifications Revealed by Positional Proteomics. 2015, ACS Chem. Biol. 10:1754-1764
【文献】Oakes and Papa, Annu. Rev. Pathol. Mech. Dis. 2015. 10:173-94.
【文献】Dornburg R (1995), Gene Therap. 2: 301-310.
【文献】Hamner, S., U. Arumae, Y. Li-Ying, Y.F. Sun, M. Saarma, and D. Lindholm. 2001. Functional characterization of two splice variants of rat bad and their interaction with Bcl-w in sympathetic neurons. Mol.Cell.Neurosci. 17:97-106.
【文献】Lindholm, D., E.A. Mercer, L.Y. Yu, Y. Chen, J. Kukkonen, L. Korhonen, and U. Arumae. 2002. Neuronal apoptosis inhibitory protein: Structural requirements for hippocalcin binding and effects on survival of NGF-dependent sympathetic neurons. Biochim. Biophys. Acta. 1600:138-147.
【文献】Sun, Y.F., L.Y. Yu, M. Saarma, T. Timmusk, and U. Arumae. 2001. Neuron-specific Bcl-2 homology 3 domain-only splice variant of Bak is anti-apoptotic in neurons, but pro-apoptotic in non-neuronal cells. J.Biol.Chem. 276:16240-16247.
【文献】Aalto, A.P., L.P. Sarin, A.A. van Dijk, M. Saarma, M.M. Poranen, U. Arumae, and D.H. Bamford. 2007. Large-scale production of dsRNA and siRNA pools for RNA interference utilizing bacteriophage phi6 RNA-dependent RNA polymerase. RNA. 13:422-429.
【文献】Yu, L.Y., E. Jokitalo, Y.F. Sun, P. Mehlen, D. Lindholm, M. Saarma, and U. Arumae. 2003. GDNF-deprived sympathetic neurons die via a novel nonmitochondrial pathway. J.Cell Biol. 163:987-997.
【文献】Sun, Y.F., L.Y. Yu, M. Saarma, and U. Arumae. 2003. Mutational analysis of N-Bak reveals different structural requirements for antiapoptotic activity in neurons and proapoptotic activity in nonneuronal cells. Mol.Cell.Neurosci. 23:134-143.
【文献】Yu, L.Y., M. Saarma, and U. Arumae. 2008. Death receptors and caspases but not mitochondria are activated in the GDNF- or BDNF-deprived dopaminergic neurons. J.Neurosci. 28:7467-7475.
【文献】Yu, L.Y., and U. Arumae. 2008. Survival assay of transiently transfected dopaminergic neurons. J.Neurosci.Methods. 169:8-15.
【文献】Penttinen AM, I. Suleymanova, K Albert, J Anttila, MH Voutilainen, M Airavaara. 2016 Characterization of a new low-dose 6-hydroxydopamine model of Parkinson's disease in rat. J Neurosci Res. Jan 13. doi: 10.1002/jnr.23708
【文献】Gurney, ME., Cutting, FB., Zhai, P., Doble, A., Taylor, CP., Andrus, PK. and Hall, ED. 1996 Benefit of vitamin E, riluzole, and gabapentin in a transgenic model of familial amyotrophic lateral sclerosis. Ann Neurol 39 (2) 147-57
【文献】Shibata, N. 2001. Transgenic mouse model for familial amyotrophic lateral sclerosis with superoxide dismutase-1 mutation. Neuropathology 21(1):82-92
【文献】Chen ST, Hsu CY, Hogan EL, Maricq H, Balentine JD. A model of focal ischemic stroke in the rat: reproducible extensive cortical infarction. Stroke. 1986;17(4):738-743.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において、CDNFタンパク質のC末端断片は、インビトロ及びインビボでERストレスを受けた交感神経ニューロン及びドーパミン作動性ニューロンを驚くほど保護し、また、完全長CDNFとは対照的に、インビボで神経細胞膜及び血液脳関門を透過することが可能なことを発見した。
【0010】
従って、本発明の目的は、配列番号1:
MPAMKICEKL KKLDSQICEL KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECRACAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
に記載の配列、又は配列番号1の配列と少なくとも90%の相同性又は配列同一性を好ましくは有する配列の少なくとも50個の連続アミノ酸残基からなるC末端CDNF断片を提供することである。
【0011】
また、本発明は、C末端CDNF断片と、生理学的に許容される担体、緩衝液、賦形剤、防腐剤、及び安定化剤のうちの少なくとも1つとを含む医薬組成物を提供する。
【0012】
更に、本発明の結果は、中枢神経系(CNS)疾患、糖尿病、又は網膜疾患を含む変性疾患又は障害の治療に使用するための上記C末端CDNF断片を提供し、上記CNS疾患は、好ましくは、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及びその他のアミロイド病、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症、軽度認知障害、外傷性脳損傷、末梢神経損傷、嗜癖、及び脳卒中からなる群から選択される。
【0013】
また、本発明は、MANFのC末端断片(C-MANF)が、成熟MANFタンパク質とは対照的に、ドーパミンニューロンの細胞膜を透過することができ、培養中のニューロンを保護することを示す。
【0014】
従って、本発明の別の目的は、配列番号2:
ICEKLKKKDS QICELKYDKQ IDLSTVDLKK LRVKELKKIL DDWGETCKGC AEKSDYIRKI NELMPKYAPK AASARTDL
に記載の配列、又は配列番号2の配列と少なくとも90%の相同性又は配列同一性を好ましくは有する配列の少なくとも50個の連続アミノ酸残基からなり、静脈内又は末梢投与、腹腔内、皮下、鼻腔内、経皮、筋肉内、眼内、又は動脈内投与により投与される、中枢神経系(CNS)疾患を含む変性疾患又は障害の治療に使用するためのC末端MANF断片を提供することである。
【0015】
また、上記C末端MANF断片と、生理学的に許容される担体、緩衝液、賦形剤、及び安定剤のうちの少なくとも1つとを含み、静脈内又は末梢投与、腹腔内、皮下、鼻腔内、経皮、筋肉内、眼内、又は動脈内投与により投与される、中枢神経系(CNS)疾患を含む変性疾患又は障害の治療に使用するための医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明の更なる目的は、配列番号2:
ICEKLKKKDS QICELKYDKQ IDLSTVDLKK LRVKELKKIL DDWGETCKGC AEKSDYIRKI NELMPKYAPK AASARTDL
に記載の配列、又は配列番号2の配列と少なくとも90%の相同性又は配列同一性を好ましくは有する配列の少なくとも50個の連続アミノ酸残基からなり、1型又は2型糖尿病又は網膜疾患の治療に使用するためのC末端MANF断片を提供することである。
【0017】
また、本発明は、C末端MANF断片と、生理学的に許容される担体、緩衝液、賦形剤、防腐剤、及び安定剤のうちの少なくとも1つとを含み、1型又は2型糖尿病又は網膜疾患の治療に使用するための医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明の上記及びその他の利点及び利益は、添付の特許請求の範囲に特徴として記載された手法で達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)CDNFは、2つのドメイン:N末端ドメイン及びC末端ドメインを有する。N末端ドメインは、酸化リン脂質に結合することができ(及び少なくともMANF N末端ドメインは、3-O-スルホガラクトシルセラミドとしても知られる脂質スルファチドにも結合、非特許文献21参照)、サポシン様ドメインである。C末端ドメインは、C-X-X-C(即ち、C-R-A-C)配列及びC末端ER残留シグナルKTELを有し、SAPLIP様ドメインである。CDNFをインビトロでタンパク質分解的に切断し、これら2つのドメインを生成することができ。(B)MANF及びCDNFの構造の概略図。黒い縦棒は、8つの保存されたシステイン残基の位置を示す。
図2】プラスミドから発現したCDNF及びCDNFのC末端断片は、ERストレスを受けた上頸神経節(SCG)交感神経ニューロンを救出する。実験において、神経成長因子(10ng/mLのNGF)を培地に加えた際に、7日齢ラット/マウスからのSCGニューロンに、CDNFを発現する指示プラスミド、CDNFのC末端断片(C-CDNF)を発現する指示プラスミド、コントロールプラスミドPCR3.1、及びポジティブコントロールをマイクロインジェクションした。翌日、2μMのツニカマイシン(TM)を添加してERストレス誘導細胞死を引き起こし、次いで3日後に、生きている蛍光ニューロンをカウントした。結果を初期のニューロンに対する割合として示す。
図3】CDNF及びCDNF断片タンパク質は、細胞質にマイクロインジェクションされると、ERストレスを受けたSCGニューロンを救出する。実験において、出生後1日齢のマウスからSCGニューロンを調製し、7日間培養した後、組み換えヒトCDNF又はC-CDNFタンパク質をそれぞれ注入した。翌日、ツニカマイシン(2μM)を添加し、3日後に生きている蛍光ニューロンをカウントした。結果を初期のニューロンに対する割合として示す。
図4】MANFのC末端断片(C-MANF)は、培養中のドーパミン作動性ニューロンを保護する。胎生13日(E13)のNMRIマウスの中脳底の解離培養物を、C-MANF、GDNF(ポジティブコントロール)を培地に添加して、又はコントロールとして成長因子なしで、96ウェルプレート上で5日間成長させた。その後、培養物をチロシンヒドロキシラーゼ(TH)について染色した。画像をCellInsight(商標)でスキャンし、免疫陽性ニューロンをCellProfiler及びCellProfiler解析ソフトウェアでカウントした。データを、GDNF保持TH陽性ニューロンに対する割合として表す。
図5】CDNFのC末端断片(C-CDNF)は、インビトロでドーパミン作動性ニューロンを保護する。E13.5 NMRIマウスの中脳底の解離培養物を、CDNF又はCDNF断片を所定の濃度で培地に添加して、96ウェルプレート上で5日間成長させた。GDNF(100ng/mL)で、又は神経栄養因子なしで培養したドーパミンニューロンをコントロールとした。培養物をチロシンヒドロキシラーゼ(TH)について免疫染色し、画像をCellInsight(商標)でスキャンした。TH陽性ニューロンを、CellProfiler及びCellProfiler解析ソフトウェアでカウントし、GDNF保持ニューロンに対する割合として表した。
図6】CDNFのC末端断片(C-CDNF)及びMANFのC末端断片(C-MANF)は、ドーパミンニューロン及びPC6細胞の細胞膜を透過する。A.125I-C-CDNFは、125I-CDNFとは異なり、インビトロでE14ドーパミンニューロンに効率的に取り込まれ、C-CDNFの細胞透過性を示す。培養中のE14ドーパミンニューロンを30,000cpmのヨウ素化CDNF又はC-CDNFと共に37℃で2時間インキュベートした。次に、細胞を氷上に置き、0.2M酢酸、0.5M NaCl(pH2.8)で洗浄し、ガンマカウンターでカウントした。細胞内の放射能を測定した。B.125I-C-CDNF及び125I-C-MANFは、完全長ヨウ素化CDNFとは異なり、ラットPC6細胞の細胞膜を透過する。成長因子の添加前に3時間、タプシガルギンあり又はなしで処理したPC6細胞に、ヨウ素化CDNF又はC-CDNF及びC-MANFを適用した。内在化を37℃で90分間行った。細胞を氷上に置いた後、0.2M酢酸、0.5M NaCl(pH2.8)で洗浄し、ガンマカウンターを用いて細胞内の放射能を測定した。
図7125I-CDNF、125I-C-CDNF、及び125I-C-MANFの血液脳関門透過。125I-CDNF、125I-C-CDNF、及び125I-C-MANFをラットに皮下注射した。2時間後にラットにPBSを灌流し、脳を解剖した。脳内の放射能をガンマカウンターで分析した。データを平均±SEMで示す。**p<0.01、p<0.05、事後比較及びその後の一元配置分散分析(one-way ANOVA)。
図8】PDのラット6-OHDAモデルにおける損傷後2、4、6、及び8週間の累積回転数。CDNF、N末端CDNF断片(N-CDNF)、C-CDNF、又はビヒクル(PBS)を、6-OHDA損傷の2週間後にラットの脳に線条体内注射した。C-CDNFは、6-OHDA損傷ラットのアンフェタミン誘発回転の累積量を大幅に減らすため、神経機能の回復において完全長CDNFよりも有効である。データを平均±SEMで示す。一元配置分散分析の後、Tukey-Kramer事後検定、****p<0.0001。
図9】MANFの短い4アミノ酸長のC末端断片(MANF4)は、当該ペプチドを6-OHDA損傷の2週間後から線条体に注入し、アンフェタミン誘発回転数を損傷後1、4、6、8、10、及び12週間(A)又は累積的(B)に測定する場合、パーキンソン病のラット6-OHDAモデルにおいて有効ではない。GDNFをポジティブコントロールとして使用した。
図10】C末端MANF断片(C-MANF)は、マウスのベータ細胞の増殖を刺激する。マウスの膵島を胎盤性ラクトゲン、C-MANF、又はMANFと共に5日間インビトロで培養した後のベータ細胞へのClick EdUの取り込み(n=3ウェル/ポイント)。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図11】C-CDNFでの処理は、ALSのスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)1マウスモデルの臨床スコアに優れた効果を発揮する。SOD1-G93Aマウスに、13週齢で、C-CDNF(3.75μg)又はPBSを脳室内に単回注射した。(A)雌動物の臨床状態。C-CDNF処理SOD1マウスは、PBS処理マウスよりも統計的に有意に優れた臨床スコアを示したことから、C-CDNF処理は症状の発症を遅らせる。(B)バランス、協調、筋力をロータロッドで分析した。加速度4~40rpm、カットオフ時間4分。落下までの時間(秒)を左側に示す。SOD1-G93A雌。C-CDNF処理は、PBS処理マウスと比較して、SOD1-G93Aマウスの運動行動を改善する。
図12】SOD1-G93AマウスALSモデルにおける1.5μg/24時間のC-CDNFの4週間長期脳室内注入の効果。(A)体重の相対的な変化、性別の分類なし。12週(ミニポンプの設置前)をベースラインとして示す。18週と19週とで体重における処理間の有意差が検出された(p<0.05、両側不対t検定)。(B)4週間の長期脳室内C-CDNF注入は、SOD1-G93Aマウスのロータロッド能力により測定される運動協調を改善する。ロータロッド試験では、加速度4~40rpm、カットオフ時間4分を用いた。C-CDNF処理とPBS処理との差は、13週から19週まで有意だった(p<0.01、反復測定ANOVA)。
図13】皮下注射したC-CDNFは、脳虚血のラットモデルにおいて梗塞体積を減少させる。C-CDNF(50μg)を、遠位中大脳動脈閉塞の30~50分前及び再灌流直後に100μLの容量で投与した。C-CDNF処理は、大脳皮質の吻側部分から測定した梗塞体積を減少させる(Studentのt検定p<0.05)。C-CDNF処理ラットでは、ビヒクル処理ラットよりも損傷が約50%小さかった。PBSをコントロールとして用いた。はP<0.05を示す。値は、PBSに対するパーセンテージとしての平均値±SEM、n=8~9で表す。体系的に投与したC-CDNFは、血圧及び心拍数に影響しない。血圧及び心拍数の変化は、損傷体積の変化を引き起こすことがよく知られているため、このデータは、C-CDNFが直接的な神経保護効果を有することを示唆している。
図14】C-CDNF及びC-MANFの配列アライメント及び比較。両神経栄養因子のC末端構造は、3つのαヘリックスモチーフ(ヘリックス1、2、3)を含む。
図15】野生型マウスに皮下注射したC-CDNFの効果。オープンフィールド実験の結果。種々の用量のC-CDNFの皮下投与は、自発運動に影響しない。
図16】ハンチントン病モデルにおけるC-CDNFの効果。A.落下までの時間。QA+PBSとQA+C-CDNFとの間でp=0.01(反復測定双方向ANOVA)。B.握力(左足)、3週:QA+PBSとQA+C-CDNFとの間でp=0.004。5週:QA+PBSとQA+C-CDNFとの間でp=0.02(反復測定ANOVA)。成体ウィスターラットに、キノリン酸(QA)の片側線条体内注射を単回投与した。キノリン酸は、興奮毒性プロセスにより線条体ニューロンの死を誘導する毒素である。C-CDNFは、ロータロッドと握力の両試験で運動能力を改善した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、神経栄養因子タンパク質CDNFに関する。CDNFポリペプチドは、シグナルペプチドを有する全長187アミノ酸の完全長ヒトCDNF、及びシグナルペプチドを有しない全長161アミノ酸の成熟ヒトCDNFである(図1B参照)。
【0021】
また、本発明は、神経栄養因子タンパク質MANFに関する。特に重要なMANFポリペプチドは、シグナルペプチドを有する全長179アミノ酸の完全長ヒトMANF、及びシグナルペプチドを有しない全長158アミノ酸の成熟ヒトMANFである(図1B参照)。
【0022】
本明細書で用いる場合、CDNF又はMANFポリペプチドに適用される用語「C末端断片」は、通常、上記ポリペプチドのC末端SAP様ドメインに位置する、少なくとも約50個の隣接又は連続アミノ酸、典型的には少なくとも約55個の隣接又は連続アミノ酸、より典型的には少なくとも約57個又は60個の隣接又は連続アミノ酸を含んでいてよい(図1A及び1B参照)。また、C末端断片は、61個又は65個の隣接又は連続アミノ酸の長さよりも長くてもよく、場合によっては70個の隣接又は連続アミノ酸よりも長くてもよい。最も好ましくは、C末端断片は、C末端ドメインの57~61個又は60~65個の隣接又は連続アミノ酸を含む。これらのC末端断片は、完全なポリペプチドの生物学的活性を少なくとも部分的に保持している「機能的断片」であり、完全なポリペプチドにはない特性さえも有する場合がある。
【0023】
CDNF/MANFの天然に存在する対立遺伝子変異体に加えて、コードされたCDNF/MANFポリペプチド又はそれらのC末端断片のアミノ酸配列に伸長、挿入、及び欠失等の変化をもたらすCDNF/MANF核酸配列への突然変異により、変化を導入することができる。CDNF/MANFポリペプチド及びそれらのC末端ドメインの配列において、「非必須」アミノ酸残基におけるアミノ酸置換に至る、ヌクレオチド置換を行うことができる。
【0024】
「非必須」アミノ酸残基は、CDNF/MANFの野生型配列において、その生物学的活性を変化させることなく修飾することができる残基であり、一方、「必須」アミノ酸残基は、そのような生物学的活性に必要である。例えば、本発明のCDNF/MANF分子間で保存されているアミノ酸残基は、必須であり、特に変化を受けにくいと予測される。保存的置換を行うことができるアミノ酸は、当該技術分野で周知である。
【0025】
各アミノ酸は、天然又は非天然のアミノ酸である。用語「非天然アミノ酸」は、天然アミノ酸に類似した構造を有して天然アミノ酸の構造及び反応性を模倣するという点で天然アミノ酸の同族体である、有機化合物を指す。非天然アミノ酸は、修飾されたアミノ酸及び/又はアミノ酸類似体であってもよいが、20個の天然に存在する一般的なアミノ酸、又は希少な天然アミノ酸であるセレノシステイン又はピロリシンの1つではない。また、非天然アミノ酸は、天然アミノ酸のD-異性体であってもよい。適切なアミノ酸の例としては、これらに限定されないが、アラニン、アロイソロイシン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シクロヘキシルアラニン、2,3-ジアミノプロピオン酸、4-フルオロフェニルアラニン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ホモプロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、ナフチルアラニン、ノルロイシン、フェニルアラニン、フェニルグリシン、ピペコリン酸、プロリン、ピログルタミン酸、サルコシン、セリン、セレノシステイン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、それらの誘導体又は組み合わせが挙げられる。
【0026】
本発明の特定の実施形態は、少なくとも1、2、3、4、又はそれ以上の連続アミノ酸が交互にキラリティを有するC末端CDNF断片又はC末端MANF断片を含む。本明細書で用いる場合、キラリティは、アミノ酸の「D」及び「L」異性体を指す。本発明の特定の実施形態において、少なくとも1、2、3、4、又はそれ以上の連続アミノ酸は交互にキラリティを有し、残りのアミノ酸はL-アミノ酸である。
【0027】
本開示において、本発明のC末端CDNF断片及びC末端MANF断片の神経細胞への細胞取り込みが実証されている。特定の実施形態において、取り込みは、好ましくは、完全長CDNF又はMANFと比較して少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12倍良好であり、特定のペプチドでは、完全長CDNF又はMANFよりも13倍も良好である。特定の実施形態において、本発明は、完全長ヒトCDNF等のコントロールと比較して、本発明のC末端CDNF断片では細胞取り込み効率が改善したことを示す。特定の実施形態おいて、本発明は、完全長ヒトMANF等のコントロールと比較して、本発明のC末端MANF断片では細胞取り込み効率が改善したことを示す。
【0028】
本明細書で用いる場合、細胞取り込み効率は、C末端CDNF断片又はC末端MANF断片の細胞膜を透過する能力を指す。本発明のC末端CDNF断片又はC末端MANF断片の細胞取り込みは、受容体又は細胞種に依存しない。
【0029】
当業者は、(i)細胞種(例えば、神経細胞、内皮細胞等)に取り込まれたC末端CDNF断片又はC末端MANF断片等の細胞透過性ペプチドの量と、(ii)同じ細胞種に取り込まれた完全長CDNF/MANF等のコントロールペプチドの量とを比較することにより、C末端CDNF断片及び/又はC末端MANF断片の取り込み効率を試験することができる。細胞取り込み効率の測定にあたり、C末端CDNF断片又はC末端MANF断片等の細胞透過性ペプチドの存在下で、細胞種を特定の時間(例えば、30分、1時間、2時間等)インキュベートし、その後、細胞に取り込まれた細胞透過性ペプチドの量を定量してもよい。それとは別に、同じ濃度のコントロールを細胞種の存在下で同じ時間インキュベートし、細胞に取り込まれた当該もう1つペプチドの量を定量する。定量は、C末端CDNF断片又はC末端MANF断片等の細胞透過性ペプチドを蛍光標識し(例えば、FITC色素で)、当該技術分野で周知の技術を用いて蛍光強度を測定することにより行うことができる。
【0030】
また、本発明のC末端CDNF断片及びC末端MANF断片は、適切なコントロールと比較して、細胞、例えば、神経細胞に対して保護効果を示す。本明細書で用いる場合、保護効果とは、本発明のC末端CDNF断片又はC末端MANF断片が、例えば、ドーパミン作動性ニューロン又はERストレスを受けたニューロン細胞等の生存を促進する能力を指す。当業者は、(i)細胞種(例えば、交感神経細胞又はドーパミン作動性ニューロン等)の生存に対する本発明のC末端CDNF断片又はC末端MANF断片の用量と、(ii)同じ細胞種によるコントロールペプチドの生存レベル、又は同じ細胞種による神経栄養因子の添加なしでの生存レベルとを比較することにより、上記保護効果を試験することができる。細胞生存率の測定にあたり、本発明のC末端CDNF断片及びC末端MANF断片の存在下で、細胞種を特定の時間(例えば、30分、1時間、2時間等)インキュベートし、その後、細胞の細胞生存率を定量してもよい。それとは別に、同じ濃度のコントロールペプチドを細胞種の存在下で同じ時間インキュベートし、細胞による当該もう1つペプチドの細胞生存率を定量する。或いは、細胞種を神経栄養因子なしで同じ時間インキュベートし、細胞による細胞生存率を定量する。
【0031】
一実施形態において、細胞生存率の測定にあたり、細胞種に本発明のC末端CDNF断片又はC末端MANF断片を注入し、特定の時間(例えば、30分、1時間、2時間等)インキュベートし、その後、細胞の細胞生存率を定量してもよい。コントロール細胞には緩衝液を注入し(即ち、神経栄養因子なし)、コントロール細胞を同じ時間インキュベートし、細胞による細胞生存率を定量する。
【0032】
特定の実施形態において、本発明のC末端CDNF断片の保護効果(細胞生存率として測定)は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞と比較して、少なくとも1.09倍、少なくとも1.20倍、少なくとも1.24倍、少なくとも1.85倍、少なくとも1.96、少なくとも2.11倍、又は少なくとも2.20倍である。
【0033】
一実施形態において、保護効果は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞に対して少なくとも1.09倍である。
【0034】
一実施形態において、保護効果は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞に対して少なくとも1.20倍である。
【0035】
一実施形態において、保護効果は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞に対して少なくとも1.24倍である。
【0036】
一実施形態において、保護効果は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞に対して少なくとも1.85倍である。
【0037】
一実施形態において、保護効果は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞に対して少なくとも1.96倍である。
【0038】
一実施形態において、保護効果は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞に対して少なくとも2.11倍である。
【0039】
一実施形態において、保護効果は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞に対して少なくとも2.20倍である。
【0040】
特定の実施形態において、本発明のC末端MANF断片の保護効果は、成長因子を加えずにインキュベートした細胞、又は成長因子を含まない緩衝液を注入した細胞と比較して、少なくとも1.18倍である。
【0041】
従って、本発明は、配列番号1:
MPAMKICEKL KKLDSQICEL KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECRACAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
に記載の配列、又は配列番号1の配列と少なくとも90%相同である配列の少なくとも50個の連続アミノ酸残基からなるC末端CDNF断片を提供する。
【0042】
また、本発明は、配列番号2:
ICEKLKKKDS QICELKYDKQ IDLSTVDLKK LRVKELKKIL DDWGETCKGC AEKSDYIRKI NELMPKYAPK AASARTDL
に記載の配列、又は配列番号2の配列と少なくとも90%相同である配列の少なくとも50個の連続アミノ酸残基からなるC末端MANF断片に関する。
【0043】
本明細書及び以下の特許請求の範囲のセクションで用いる場合、用語「断片」には、天然ペプチド(分解産物、合成的に合成したペプチド、又は組み換えペプチドのいずれか)、及び修飾ペプチドが含まれ、当該修飾ペプチドは、例えば、ペプチドをより安定にする又はより免疫原性の低いものとする修飾を有してもよい。そのような修飾としては、これらに限定されないが、環化、N末端修飾、C末端修飾、ペプチド結合修飾、骨格修飾、及び残基修飾が挙げられる。また、断片は、更に伸長、欠失、又は挿入を含んでいてもよい。
【0044】
本発明の実施形態において、断片の長さは、50~81アミノ酸の範囲にある。好ましくは、断片の長さは、55~75、55~70、55~61、61~65、又は61~70アミノ酸の範囲にある。より好ましくは、断片の長さは、57~61、55~69、55~68、55~67、55~66、56~69、56~68、56~67、56~61、57~69、57~68、57~67、57~61、58~69、58~68、58~67、58~61、59~69、59~68、59~67、59~61、60~69、60~68、60~67、60~66、60~64、60~63、61~62、61~63、61~64、61~65、61~66、又は61~67アミノ酸の範囲にある。例えば、好ましい断片は、少なくとも55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、又は75個のアミノ酸からなるものとすることができる。断片は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリン等の天然に存在するアミノ酸のいずれかだけでなく、非従来型又は修飾型アミノ酸を含んでいてもよい。好ましくは、断片は、ヒトCDNF又はMANFタンパク質のC末端ドメインの配列と、少なくとも100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、85%、又は80%の相同性又は配列同一性を有する。より好ましくは、断片は、ヒトCDNF又はMANFタンパク質のC末端ドメインの配列と少なくとも80%の相同性又は配列同一性を有する。本明細書で用いる場合、「相同性」又は「相同である」は、参照配列ともう1つの配列の少なくとも断片との間における配列類似性を指す。以下に記載のとおり、BLASTでは、パーセント同一性及び類似性に基づいて配列を比較する。
【0045】
用語「同一の」又はパーセント「同一性」は、2つ以上のアミノ酸配列の文脈において、同じである2つ以上の配列又はサブ配列を指す。以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いて又は手動のアラインメント及び目視検査により測定して、比較ウィンドウ又は指定領域にわたり最大一致について比較し整列させたときに、2つの配列が特定のパーセンテージの同じであるアミノ酸残基を有する場合(即ち、特定の領域にわたり、又は、特定されない場合は配列全体にわたり、29%の同一性、必要に応じて30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の同一性)、2つの配列は「実質的に同一」である。必要に応じて、同一性は、少なくとも約10アミノ酸の長さである領域にわたり、或いはより好ましくは、10、15、20、25、30、又はそれ以上のアミノ酸の長さである領域にわたり存在する。
【0046】
配列比較では、典型的には、1つの配列が参照配列として機能し、テスト配列と比較される。配列比較アルゴリズムを用いる場合、テスト配列及び参照配列をコンピュータに入力し、必要であれば、サブ配列の座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。デフォルトプログラムパラメータを用いるか、又は、代替パラメータを指定することができる。次に、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に対するテスト配列のパーセント配列同一性を算出する。2つの配列の同一性を比較する場合、配列が連続している必要はないが、ギャップがあると、全体的なパーセント同一性を低下させるペナルティを伴うだろう。
【0047】
本明細書で用いる場合、「比較ウィンドウ」は、2つの配列を最適に整列させた後、配列を連続位置の同じ数の参照配列と比較することができる、連続位置の数のいずれか1つのセグメントへの参照を含む。比較のための配列の整列方法は、ClustalW又はFASTA等、当該技術分野で周知である。
【0048】
パーセント配列同一性及び配列類似性を決定するのに好適なアルゴリズムの2つの例として、BLAST及びBLAST2.0アルゴリズムがあり、それぞれ、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res 25(17):3389-3402及びAltschul et al. (1990) J. Mol Biol 215(3)-403-410に記載されている。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3のワード長、及び10の期待値(E)、及びBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff, (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89(22):10915-10919参照)、50のアラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、及び両鎖の比較を用いる。短いアミノ酸配列については、PAM30スコアリングマトリックスを適用することができる。
【0049】
また、BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計分析も実施する(例えば、Karlin and Altschul, (1993) Proc Natl Acad Sci USA 90(12):5873-5877参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の尺度の1つは、2つのアミノ酸配列間の一致が偶然に生じうる確率の指標を提供する最小合計確率(P(N))である。
【0050】
好ましくは、配列番号1の配列と少なくとも90%相同であるC末端CDNFは、配列番号1の位置52~55に配列CXXC(式中、Xは任意のアミノ酸)を含む。より好ましくは、配列番号1の配列と少なくとも90%相同である上記配列は、配列番号3:
MPAMKICEKL KKLDSQICEL KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECXXCAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
(式中、Xは任意のアミノ酸)
の配列の少なくとも50個の連続アミノ酸残基からなる。
【0051】
別の好ましい実施形態において、配列番号1の配列と少なくとも90%相同である上記配列は、配列番号1の位置52~55に配列CKGCを含む。
【0052】
最も好ましい実施形態において、上記配列は、配列番号4:
KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECRACAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
の配列、又は配列番号4の配列と少なくとも90%の相同性又は配列同一性を有する配列を有する。
【0053】
一実施形態において、C末端CDNF断片は、その天然のC末端アミノ酸、即ち、ER残留シグナルを含まない。従って、好ましい実施形態において、断片は、配列番号1の位置78~81に相当するER残留シグナルKTELを欠く。
【0054】
また、本発明は、断片が、FITC標識等の検出可能な化学的又は生化学的部分に結合することができることを示す。本明細書で用いる場合、「検出可能な化学的又は生化学的部分」とは、ペプチドの検出を容易にする目的でアミノ酸配列又は検出可能な化学的又は生化学的部分を提示するタグを意味し、例えば、可視、蛍光、化学発光、又はその他の検出可能な色素;基質の存在下で検出可能な酵素、例えば、NBT+BCIPとアルカリホスファターゼ、又は適切な基質とペルオキシダーゼ等;検出可能なタンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質等から選択される検出可能な分子が挙げられる。好ましくは、タグは、標的細胞への断片の透過を防止又は妨害しない。
【0055】
また、断片の安定性及び/又は細胞透過性を高めるためのC末端CDNF断片又はC末端MANF断片のN末端及び/又はC末端修飾も好ましい。CDNF断片又はMANF断片の末端のアセチル化-アミド化(即ち、N末端アセチル化及びC末端アミド化)は、当該技術分野で知られている選択肢の1つである(例えば、非特許文献22参照).
【0056】
C末端CDNF断片及びC末端MANF断片は、どちらもドーパミンニューロンを死から強力に保護するため(図4及び5参照)、特許文献1及び特許文献5等の従来技術は、断片を、アルツハイマー病、パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症、軽度認知障害、ハンチントン病(HD)、外傷性脳損傷、薬物中毒、及び脳卒中等の中枢神経系(CNS)疾患の治療に用いることができることを示す。本発明を支持する更なる結果は、PDモデルにおけるC-CDNFの効果を示す図8、及びALSモデルにおけるC-CDNFの効果を示す図11及び12にて提供する。また、短いMANFペプチド(MANF4)は、パーキンソン病のラット6-OHDAモデルにおいて、神経修復のより臨床志向の設定でテストした場合、即ち、6-OHDAの後に添加した場合、有効ではないことも重要である(図9参照)。
【0057】
CNSにおけるC末端CDNF断片又はC末端MANF断片の効果には、ニューロンだけでなく、ミクログリア、星状細胞、及び神経幹細胞又は神経前駆細胞等のCNSの他の細胞種、及び、生存の他にそれらが有する他の特性、例えば、移動、増殖、分化、及び成熟等を標的とすることが含まれる。
【0058】
図10に示す結果は、C末端MANF断片がI型及びII型糖尿病の治療に有効であることを裏付けている。更に、特許文献6は、CDNF及びMANFが網膜障害においても活性があることを開示している。従って、本発明は、前記中枢神経系(CNS)疾患、糖尿病、及び網膜障害の治療に関する。また、ERストレス誘導アポトーシス細胞死は、罹患組織又は臓器の機能又は構造が時間とともに徐々に悪化する他の変性疾患にも寄与する(非特許文献23参照)。そのような変性疾患の更なるいくつかの例は、加齢黄斑変性症、スタルガルト病、緑内障、網膜色素変性症、及び視神経変性;ニーマン-ピック病;アテローム性動脈硬化症;進行性核上麻痺;癌;テイ・サックス病;円錐角膜;炎症性腸疾患(IBD);前立腺炎;変形性関節症;骨粗鬆症;及び関節リウマチ、並びに外傷性脳損傷又は虚血再灌流損傷等のより急性の状態、例えば、心筋虚血損傷、腎虚血損傷、又は脳卒中である。従って、本発明はまた、変性疾患又は障害の治療に関する。
【0059】
治療方法では、薬学的有効量のC末端断片を患者に投与する。言い換えれば、本発明に係る断片は、アルツハイマー病、パーキンソン病(PD)、PDの非運動症状(便秘、うつ病、及び幻覚等)、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、虚血性脳卒中、末梢神経障害、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症、軽度認知障害、ハンチントン病、てんかん、外傷性脳損傷、末梢神経損傷、出血性脳卒中、又は嗜癖(例えば、コカイン、モルヒネ、アンフェタミン、又はアルコールの乱用)等の中枢神経系(CNS)疾患及び他の神経障害、並びにI型及びII型糖尿病又は網膜障害を含む変性疾患又は障害の治療に用いるためのものである。より好ましくは、断片は、パーキンソン病又は筋萎縮性側索硬化症の治療に用いるためのものである。
【0060】
患者に投与するCDNF又はMANFのC末端断片の実際の投与量(例えば、有効量)は、体重、状態の重症度、治療下の疾患の種類、以前の又は同時の治療的介入、患者の特発性疾患、及び投与経路等の物理的及び生理学的要因により決定することができる。投与に対する責任を担う医師は、組成物中の活性成分(複数可)の濃度及び個々の対象に対する適当な用量(複数可)を決定することができる。
【0061】
本発明の一実施形態において、C末端CDNF断片又はMANF断片を医薬組成物に組み込むことができる。本発明のそのような組成物は、所望の純度を有するペプチドと、任意選択の生理学的に許容される担体(ナノ担体等)、賦形剤、又は安定剤(Remington's Pharmaceutical Sciences, 22nd edition, Allen, Loyd V., Jr, Ed., (2012))とを混合することにより、凍結乾燥ケーキ又は水溶液の形態で保存用に調製する。許容される担体、賦形剤、又は安定剤は、使用する用量及び濃度でレシピエントに無害であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸を含む抗酸化剤;低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖、二糖、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又はツイーン(Tween)、プルロニック(Pluronic)、又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0062】
また、断片は、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合により調製したマイクロカプセル(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)中、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)中、又はマクロエマルジョン中に封入されてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences(上記参照)に開示されている。
【0063】
一実施形態において、医薬組成物は、例えば、少なくとも約0.1%の活性化合物を含むことができる。他の実施形態において、活性化合物は、例えば、ユニットの重量の約2%~約75%、又は約25%~約60%、及びそこから導き出せる任意の範囲で含むことができる。
【0064】
他の非限定的な例において、医薬組成物又は製剤の用量は、投与単位あたり、約1ng/kg/体重のC末端CDNF断片又はC末端MANF断片から、約5ng/kg/体重、約10ng/kg/体重、約50ng/kg/体重、約100ng/kg/体重、約200ng/kg/体重、約350ng/kg/体重、約500ng/kg/体重、1μg/kg/体重、約5μg/kg/体重、約10μg/kg/体重、約50μg/kg/体重、約100μg/kg/体重、約200μg/kg/体重、約350μg/kg/体重、約500μg/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重から、約1000mg/kg/体重のC末端CDNF断片又はC末端MANF断片又はそれ以上まで、及びそこから導き出せる任意の範囲を含むことができる。本明細書に列挙される数字から導き出せる範囲の非限定的な例において、約5mg/kg/体重から約100mg/kg/体重、約5μg/kg/体重から約500ミリグラム/kg/体重の範囲のC末端CDNF断片又はC末端MANF断片等を、上記の数字に基づいて、投与することができる。
【0065】
また、本発明は、神経細胞を更に含むことができる医薬組成物を特徴とする。神経細胞は、例えば、ニューロン、神経幹細胞、又は神経前駆細胞とすることができる。
【0066】
別の実施形態において、医薬組成物は、上記で定義したC末端断片をコードするヌクレオチド配列を含む組み換えベクター、上記で定義したC末端断片をコードするヌクレオチド配列を含む組み換えウイルスベクター、又は上記で定義したC末端断片を発現する宿主細胞の治療有効量を含む。前記ウイルスベクターは、好ましくは、上記で定義したC末端断片をコードするポリヌクレオチドを含む、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス等のレトロウイルス、ヘルペスウイルス、及びパピローマウイルスからなる群から選択される。典型的には、組み換えベクター及び組み換えウイルスベクターは、インビトロ及びインビボの様々な系で本発明のポリヌクレオチドの発現を指示する組織特異的又は細胞種特異的プロモーターのような発現制御配列を含む。また、ベクターは、複数の系での発現に必要な調節要素を含むハイブリッドベクターであってもよい。これらの様々な調節系を含むベクターは市販されており、当業者は、本明細書で定義されるC末端断片をそのようなベクターに容易にクローニングすることができるだろう。本発明での使用に適した組み換えウイルスベクターの選択、C末端断片を発現するための核酸配列をベクターに挿入する方法、及び目的の細胞にウイルスベクターを送達する方法は、当該技術分野の技術の範囲内である。例えば、非特許文献24参照。
【0067】
投与経路は、既知の方法、並びに静脈内又は末梢投与、腹腔内、皮下、くも膜下腔内、脳室内、鼻腔内、経皮、脳内、筋肉内、眼内、動脈内、又は病変内手段、又は下記の徐放系による注射又は注入の一般的経路に従う。C末端断片又は当該断片を含む医薬組成物は、注入又はボーラス注射により連続的に投与することができる。一般に、その障害が許す場合、部位特異的送達用に断片を製剤化し投与するべきである。投与は連続的又は定期的に行うことができる。投与は、一定流量又はプログラム可能な流量の埋め込み型ポンプ又は定期的な注射により行うことができる。本発明は、C末端MANF断片及びCDNF断片がどちらも神経細胞膜及び血液脳関門を透過することができることを示していることから、末梢投与又は全身投与が好ましい(図6及び7参照)。他の好ましい投与経路は、皮下、くも膜下腔内、脳室内、鼻腔内、又は経皮投与である。図13は、脳卒中を誘発したラットにおけるC-CDNFタンパク質の皮下注射の効果を示す。
【0068】
徐放性製剤の好適な例としては、断片を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは、造形品、例えば、フィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、Langer et al., J. Biomed. Mater. Res., 15:167-277 (1981)及びLanger, Chem. Tech., 12:98-105 (1982)に記載されるヒドロゲル、又はポリビニルアルコール、ポリラクチド(特許文献7、特許文献8)、又は非分解性エチレン-酢酸ビニル(Langer et al.上記参照)が挙げられる。
【0069】
遺伝子治療ベクターは、ペプチド断片のために、上記で定義した対応する投与様式を用いて、好ましくは、例えば、静脈内注射により、又は腹腔内、皮下、くも膜下腔内、又は脳室内投与により、対象に送達することができる。遺伝子治療ベクターの医薬製剤は、許容可能な希釈剤を含むことができ、又は遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれた徐放性マトリックスを含むことができる。
【0070】
図14の配列アラインメントは、C末端CDNF及びMANFペプチドの高い配列同一性を示している。従って、本発明者らは、本明細書に示した結果から、C末端MANF断片においても、細胞膜透過及び神経細胞に対する保護効果に重要なアミノ酸配列モチーフが配列内に同様に位置することを推定する。よって、本発明は、配列番号2:
ICEKLKKKDS QICELKYDKQ IDLSTVDLKK LRVKELKKIL DDWGETCKGC AEKSDYIRKI NELMPKYAPK AASARTDL
に記載の配列、又は配列番号2の配列と少なくとも90%の相同性又は配列同一性を有する配列の少なくとも50個の連続アミノ酸残基からなり、静脈内又は末梢投与、腹腔内、皮下、鼻腔内、経皮、筋肉内、眼内、又は動脈内投与により投与される、中枢神経系(CNS)疾患を含む変性疾患又は障害の治療に用いるためのC末端MANF断片に関する。
【0071】
図10に示される結果に基づいて、本発明は更に、配列番号2:
ICEKLKKKDS QICELKYDKQ IDLSTVDLKK LRVKELKKIL DDWGETCKGC AEKSDYIRKI NELMPKYAPK AASARTDL
に記載の配列、又は配列番号2の配列と少なくとも90%相同である配列の少なくとも50個の連続アミノ酸残基からなり、1型又は2型糖尿病の治療に用いるためのC末端MANF断片に関する。
【0072】
上記の全ての実施形態について、配列番号2の配列と少なくとも90%相同である上記配列は、配列番号2の位置47~50に配列CXXC(式中、Xは任意のアミノ酸)を含むことが好ましい。
【0073】
より好ましくは、配列番号2の配列と少なくとも90%相同である上記配列は、配列番号6:
QICELKYDKQ IDLSTVDLKK LRVKELKKIL DDWGETCXXC AEKSDYIRKI NELMPKYAPK AASARTDL
(式中、Xは任意のアミノ酸)
の配列の少なくとも50個の連続しミノ酸残基からなる。
【0074】
最も好ましくは、上記MANF断片は、配列番号5:
KYDKQ IDLSTVDLKK LRVKELKKIL DDWGETCKGC AEKSDYIRKI NELMPKYAPK AASARTDL
の配列、又は配列番号5の配列と少なくとも90%相同である配列を有する。
【0075】
一実施形態において、C末端MANF断片は、その天然のC末端アミノ酸、即ち、ER残留シグナルを含まない。従って、好ましい実施形態において、断片は、配列番号2の位置75~78に相当するER残留シグナルRTDLを欠く。
【0076】
C末端MANF断片は、C末端CDNF断片について上記で述べたのと同じ方法で修飾することができる。
【0077】
更に、本発明は、C末端MANF断片と、生理学的に許容される担体、緩衝液、賦形剤、及び安定剤のうちの少なくとも1つとを含む、中枢神経系(CNS)疾患、1型又は2型糖尿病、又は網膜障害の治療に使用するための医薬組成物に関する。C末端MANF断片を含む上記医薬組成物は、好ましくは患者に末梢的に投与され、従って、好ましくは末梢投与に適している。
【0078】
また、本明細書は、薬学的有効量の本明細書で定義されるC末端CDNF断片又はC末端MANF断片が患者を投与する、中枢神経系(CNS)疾患、I型又はII型糖尿病、又は網膜障害を含む変性疾患又は障害の治療方法に関する。好ましくは、上記断片は末梢的に投与される。
【0079】
また、本明細書は、中枢神経系(CNS)疾患、I型又はII型糖尿病、又は網膜障害を含む変性疾患又は障害の治療用の医薬の製造のための、本明細書で定義されるC末端CDNF断片又はC末端MANF断片の使用に関する。
【0080】
また、本発明は、配列番号4:
KYEKTLDLAS VDLRKMRVAE LKQILHSWGE ECRACAEKTD YVNLIQELAP KYAATHPKTE L
の配列、又は配列番号4の配列と少なくとも90%の相同性又は配列同一性を有する配列を有するC-CDNF断片をコードするヌクレオチド配列を含む単離ポリヌクレオチドを提供する。
【0081】
更に、本発明は、上記の単離ポリヌクレオチドをコードする発現ベクター及び当該ベクターで形質転換した宿主細胞を提供する。上記単離ポリヌクレオチドを発現するのに適した組み換えベクターの選択、C-CDNF断片を発現するための核酸配列をベクターに挿入する方法、及び目的の細胞に組み換えベクターを送達する方法は、当該技術分野の技術の範囲内である。例えば、Tuschl, T. (2002), Nat. Biotechnol, 20: 446-448参照。
【0082】
本発明の背景を明らかにするため、特に、その実施に関する追加の詳細を提供するため、本明細書で使用される刊行物及び他の資料は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、本発明の範囲を限定することを意図しない以下の実施例において更に説明する。
【実施例
【0083】
上頸神経節細胞を用いた試験
交感神経ニューロンの培養のため(非特許文献15、非特許文献25、非特許文献26、非特許文献27、非特許文献28)、出生後(P)0~3日のマウスの上頸神経節をコラゲナーゼ(2.5mg/mL、ワージントン)、ディスパーゼ(5mg/mL、ロシュモレキュラーバイオケミカルズ)、及びトリプシン(10mg/mL、ワージントン)を用いて37°Cで45分間消化し、シリコン処理したガラスパスツールピペットで機械的に解離した。広範なプレプレーティングにより、非神経細胞を除去した。ほぼ純粋なニューロンを、ポリオルニチン/ラミニン(シグマ)でコーティングされた35mmプラスチックディッシュにおいて、ニューロベーサル培地及びB27サプリメント(インビトロジェン/ギブコ)中の小型標準マイクロアイランドで、30ng/mLのマウス神経成長因子(NGF)(プロメガ)の存在下で5~6日間培養した。徹底的な洗浄と機能阻害抗NGF抗体(ロシュ)の添加によりNGFを除去した。ニューロンを、特別なニューロンマイクロインジェクション装置(非特許文献15、非特許文献25、非特許文献26、非特許文献27、非特許文献29)で圧力マイクロインジェクションした(非特許文献27、非特許文献30)。生存分析のため、マイクロアイランド上の全てのニューロンを実験の開始時(初期数)及び終了時(3日間)にカウントし、初期に対する割(%)で表した。
【0084】
交感神経ニューロンのマイクロインジェクションを、前述のように行った(非特許文献29)。CDNF用のプラスミドは先に述べた。簡単に説明すれば、新生マウスSCGニューロンをNGF(プロメガ)で5~6日間成長させた後、完全長(FL)-CDNF及びC-CDNF用の発現プラスミドを、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)用のレポータープラスミドと共に、各実験で10ng/uLのベクター濃度を用いて、核にマイクロインジェクションした。50ng/uLのプラスミド濃度でも同様の結果が得られた。タンパク質のマイクロインジェクションでは、200ng/uLのPBS中の組み換え完全長(FL)-CDNF、C-CDNFタンパク質を、注入に成功したニューロンの識別を容易にする蛍光レポーターであるデキストランテキサスレッド(分子量70000Da)(インビトロジェン、モレキュラープローブス)と共に、直接細胞質にマイクロインジェクションした。翌日、ツニカマイシン(2μM)を添加し、3日後に生きている蛍光ニューロンをカウントした。生きている蛍光(EGFPを発現、又はデキストランテキサスレッドを含む)ニューロンを3日後に「盲目的に(blindly)」カウントし、マイクロインジェクションの2~3時間後にカウントした初期の生きている蛍光ニューロンに対する割合(%)として表した。プラスミドを用いた実験を、プラスミド実験のために独立した培養で5回繰り返し、一方で4回の独立したタンパク質注入実験を行った。平均して、実験群につき50~80個のニューロンで注入に成功した。結果を平均±SEMで表した。各実験群のデータを、一元配置分散分析及び事後のDunnettのt検定により、コントロールプラスミドPCR3.1(ベクター)又はPBS(タンパク質注入実験において)と比較した。帰無仮説はp<0.05で棄却した。
【0085】
CDNF発現プラスミド
完全長(FL)又はカルボキシ末端(C)ドメインをコードする構築物を、TOPO/TAクローニングシステム(インビトロジェン)又は制限エンドヌクレアーゼを用いて、pCR3.1ベクター(インビトロジェン)に挿入した。pCR3.1ベクター中の完全長CDNFは、それぞれ537bp(179アミノ酸)及び561bp(187アミノ酸)のアミノ酸長であり、ERターゲティングのためのN末端シグナル配列を有する。C-CDNFは186bpの長さであり、FL-CDNFのアミノ酸127-187に相当する。
【0086】
E511:pCR3.1中のヒトCDNF/双方向TOPO TA。停止コドンを含む完全長cDNA(タグなし)。アンピシリン選択。DH5α。シーケンシングにより検証済み。
E811:シグナル配列を有するpCR3.1 hCDNF C-ヒトCDNF C末端配列。PCR及びインビトロジェンTAクローニングシステムによりクローニング。挿入サイズ207bp。DH5a細胞に形質転換。アンピシリン選択。シーケンシングにより検証済み。
【0087】
タンパク質及びペプチド断片を発現するプラスミド
ヒト組み換えCDNF(26アミノ酸長のシグナル配列と161アミノ酸長の成熟CDNF配列とを有する、187アミノ酸からなる完全長pre-CDNF)、ヒトN-CDNF(26アミノ酸のヒトCDNFシグナル配列と成熟CDNFのアミノ酸1~アミノ酸100の部分とからなる)、及びヒトC-CDNF(アミノ酸101からアミノ酸161に及ぶ成熟CDNFのC末端ドメインと融合した26アミノ酸長のCDNFシグナル配列からなる)。
【0088】
ヒト組み換えMANF(21アミノ酸長のシグナル配列と158アミノ酸長の成熟MANF配列とを有する、179アミノ酸からなる完全長のpre-MANF)、ヒトN-MANF(21アミノ酸のヒトMANFシグナル配列と成熟MANFのアミノ酸1~アミノ酸95の部分とからなる)、及びヒトC-MANF(アミノ酸96からアミノ酸158に及ぶ成熟MANFのC末端ドメインと融合した21アミノ酸長のCDNFシグナル配列からなる)。
【0089】
コドンによりhMANF及びhCDNFのcDNA合成を最適化し、それらのドメインをジーンウィズに注文して、それぞれのpQMCF発現ベクターを構築した。N-CDNF、C-CDNF、N-MANF、及びC-MANF構築物は、C末端にヒスチジンタグを有した。最終ベクターでシーケンシングすることにより、cDNAを検証した。hMANF及びhCDNFタンパク質をCHO由来の懸濁細胞株CHOEBNALT85により産生し、既知組成無血清培地を細胞培養に用いた。
【0090】
CHOEBNALT85細胞に1μgの発現プラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、700μg/mLのG418を添加して、細胞集団を含むプラスミドを選択した。タンパク質の発現及び分泌を、トランスフェクションの48時間後に、細胞溶解物及び上清において還元状態で分析した。
【0091】
hMANF及びhCDNFタンパク質を、2段階イオン交換クロマトグラフィーで精製し、PBS(pH7.4)中にゲルろ過した。CDNF抗体及びMANF抗体(MANF 4E12-HRP及びCDNF-7D6-HRP、イコサゲン タルトゥ、エストニア)を用いたSDS-PAGE及びウェスタンブロット分析の結果、使用したタンパク質の純度は99%以上であった。
【0092】
CDNF及びMANFのC末端ドメイン及びN末端ドメインをNiアフィニティーカラムで精製し、当該タンパク質を、抗Hisタグマウスモノクローナル抗体(カタログ番号A00186、ジェンスクリプト)を用いてSDS-PAGE及びウエスタンブロッティングにより分析した。
産生されたタンパク質は以下の配列を有した。
【0093】
成熟ヒトCDNF:
QEAGGRPGADCEVCKEFLNRFYKSLIDRGVNFSLDTIEKELISFCLDTKGKENRLCYYLGATKDAATKILSEVTRPMSVHMPAMKICEKLKKLDSQICELKYEKTLDLASVDLRKMRVAELKQILHSWGEECRACAEKTDYVNLIQELAPKYAATHPKTEL(配列番号7)
【0094】
ヒトN-CDNF:
QEAGGRPGADCEVCKEFLNRFYKSLIDRGVNFSLDTIEKELISFCLDTKGKENRLCYYLGATKDAATKILSEVTRPMSVHMPAMKICEKLKKLDSQICEL(配列番号8)
【0095】
ヒトC-CDNF:
KYEKTLDLASVDLRKMRVAELKQILHSWGEECRACAEKTDYVNLIQELAPKYAATHPKTEL(配列番号4)
【0096】
成熟ヒトMANF:
LRPGDCEVCISYLGRFYQDLKDRDVTFSPATIENELIKFCREARGKENRLCYYIGATDDAATKIINEVSKPLAHHIPVEKICEKLKKKDSQICELKYDKQIDLSTVDLKKLRVKELKKILDDWGETCKGCAEKSDYIRKINELMPKYAPKAASARTDL(配列番号9)
【0097】
ヒトN-MANF:
LRPGDCEVCISYLGRFYQDLKDRDVTFSPATIENELIKFCREARGKENRLCYYIGATDDAATKIINEVSKPLAHHIPVEKICEKLKKKDSQICEL(配列番号10)
【0098】
ヒトC-MANF:
KYDKQIDLSTVDLKKLRVKELKKILDDWGETCKGCAEKSDYIRKINELMPKYAPKAASARTDL(配列番号5)
【0099】
ドーパミンニューロンを用いた試験
ドーパミンニューロンを試験するため(非特許文献31、非特許文献32)、13.5日齢のNMRI系マウスの胚の腹側中脳から中脳底を切除した。組織を0.5%トリプシン(ICNバイオケミカル)を用いてインキュベートした後、大きな先端熱加工パスツールピペットを用いて機械的に解離した。ニューロンを、ポリ-L-オルニチン(シグマ))でコーティングされた96ウェル培養プレート上で、N2サプリメント(インビトロジェン)を含むDMEM/F12培地(インビトロジェン)を用い、GDNF(100ng/mL)の存在下又は非存在下で、又は種々の濃度のCDNF、MANF、C-CDNF、及びC-MANFポリペプチドと共に5日間成長させた。実験の開始時に、同量のニューロンを各ウェルにプレーティングした。神経栄養因子を添加しない培養物を、ネガティブコントロールとした。中脳培養物はいくつかのニューロン種を含むため、培養物を固定し、ドーパミン作動性ニューロンの特異的マーカーであるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)(ミリポア)に対する抗体で免疫染色した。各ウェルの画像をCellInsight(商標)でスキャンし、免疫陽性ニューロンをCellProfiler及びCellProfiler解析ソフトウェアでカウントした。データを、GDNF保持TH陽性ニューロンに対する割合(%)として表す。全ての実験を、独立した培養で少なくとも3回繰り返した。結果を平均SEMで表し、有意性について一元配置分散分析及びTukeyの事後検定、又は2-両側Studentのt検定のいずれかによりテストした。帰無仮説はp≦0.05で棄却した。
【0100】
CDNF、C-CDNF、C-MANFのヨウ素化
ラクトペルオキシダーゼ法を用いて、CDNF、C-CDNF、及びC-MANFを125I-Naでヨウ素化した。問題のタンパク質を30μLの0.25Mリン酸緩衝液(pH7.5)に溶解し、125I-Na(1mCi/2.8μL、1mCi=37mBq、GEヘルスケア)と混合した。50μg/mLのラクトペルオキシダーゼ10μLと0.05%Hとを加えることにより、反応を開始した。混合物を室温で20分間インキュベートし、0.1M NaI、0.4M NaClを含む3容量の0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)を加えて反応を停止した後、25μLの2.5%BSAを加えた。Sephadex G-25カラム(PM10、GEヘルスケア)でのゲルろ過により、遊離ヨウ素とヨウ素化タンパク質とを分離した。カラムの平衡と溶出には、1%BSAを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)を使用した。場合によっては、ヨウ素化成長因子をYM-10 Centriconカラム(ミリポア)を用いて濃縮した。125I標識CDNF、C-CDNF、N-CDNF、C-MANF、及びN-MANFの比活性を、Wizard3 1480自動ガンマカウンター(パーキンエルマー、ウォラック)で測定したところ、約10cpm/μgタンパク質であった。標識タンパク質を4°Cに保ち、標識後3週間以内に使用した。
【0101】
El3.5ドーパミン作動性ニューロンの内在化実験
24ウェルプレート上で成長させたマウスの培養El3.5ドーパミンニューロンを、ウェルあたり30,000cpmのヨウ素化CDNF又はC-CDNFと共に37℃で2時間インキュベートした。細胞を氷に移し、0.5mLの氷冷培地で1回洗浄した。次に、細胞をエッペンドルフチューブに移し、4℃で0.2M酢酸、0.5M NaCl(pH2.8)で1回洗浄した。1000gで10分間遠心分離した後、細胞を0.5mLの0.5N NaOHに溶解し、Wizard3 1480自動ガンマカウンター(パーキンエルマー、ウォラック)でカウントした。
【0102】
ラットの血液脳関門透過試験
125I-CDNF、125IC-CDNF、又は125IC-MANF(全てのタンパク質について10μL中10cpm)を、成体雄ウィスターラットに皮下注射した。2時間後に動物にPBSを灌流した。ガンマカウンターにより、種々の脳領域で放射能を分析した。データを平均±SEMで示す。群間の違いをANOVAで分析した後、Tukey-Kramer事後検定を行った。
【0103】
PC6.3細胞の内在化実験
ラットPC6.3褐色細胞腫細胞を、24ウェルプレート上で、10%FCS及び5%ウマ血清を含むDMEM培養液で成長させた。細胞をPBSで洗浄し、ウェルあたり30,000cpmのヨウ素化CDNF、C-CDNF、又はC-MANFと共に37℃で90分間インキュベートした。細胞を氷上に置き、0.5mLの氷冷培地で1回洗浄した。次に、細胞をエッペンドルフチューブに移し、0.2M酢酸、0.5M NaCl(pH2.8)で1回洗浄した。1000gで10分間遠心分離した後、細胞を0.5mLの0.5N NaOHに溶解し、Wizard3 1480自動ガンマカウンター(パーキンエルマー、ウォラック)でカウントした。
【0104】
PDのラット6-OHDAモデルにおける神経修復試験
PDの神経修復モデルでは、前述のようにラットを6-OHDAで損傷させた(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献33)。簡単に説明すれば、ラットに対し、イソフルラン麻酔下で、左線条体に3×2μgの6-OHDAを片側定位注射(10°の角度)した(ブレグマ及び硬膜に対する座標A/P +1.6;L/M -2.8;D/V -6、A/P 0.0:L/M -4.1;D/V -5.5、及びA/P -1.2;L/M -4.5;D/V -5.5)。2週間後、アンフェタミン誘発回転の結果(損傷のサイズ)に基づいて、ラットを群分けした。その後、CDNF(10μg)、C-CDNF(CDNF10μgと等モル)、及びN-CDNF(CDNF10μgと等モル)を、6-OHDAと同じ座標を使用してラットに線条体内注射した。ラットを群分けした後の参照実験では、浸透圧ミニポンプを皮下に挿入し、カニューレを損傷線条体に入れた。ミニポンプによりMANF4(即ち、MANFペプチドCKGC、特許文献4参照)、GDNF、又はビヒクル溶液を線条体へ2週間送達した後、ミニポンプとカニューレを取り除いた。ニューロン内部において、6-OHDAは相乗的に作用する以下の2つの作用を有する:1)サイトゾルに蓄積し、酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルを形成する、2)ミトコンドリア呼吸鎖複合体I及びIVの強力阻害剤である。ノルアドレナリン作動性ニューロンは、NAT阻害剤デシプラミンを用いて(15mg/kg、腹腔内投与、6-OHDA注射の30分前)、保護した。片側損傷のサイズ及び治療効果を、CDNF、C-CDNF、N-CDNF、及びPBS処理ラットを対象とした実験では損傷から2、4、6、及び8週間後に、MANF4及びGDNFを対象とした参照実験では1、4、8、10、及び12週後に、アンフェタミン誘発回転行動で測定した。アンフェタミンに誘発される(2.5mg/kg、腹腔内投与)完全な(360°)同側及び反対側への回転数を、30分間の馴化期間の後、120分間記録した。結果を損傷側への正味同側回転で表す。除外基準は、平均(正味回転数)±2×STDEVとした。
【0105】
チロシンヒドロキシラーゼ(TH)-免疫組織化学
灌流及び組織処理。神経修復試験の直後、ペントバルビタールナトリウムの過剰投与(90mg/kg、腹腔内投与、オリオンファーマ)によりラットに麻酔をかけ、PBSで、続いて0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒドで心内灌流した。脳を摘出し、後固定を4時間行い、20%スクロースを含むリン酸ナトリウム緩衝液に4℃で保存した。厚さ40μmの連続冠状凍結切片をスライド式ミクロトームで切り出した。他に記載されているように(非特許文献4)、免疫組織化学を行った。灌流した脳を、4℃で一晩、パラホルムアルデヒド中で後固定し、20%スクロース中で保存した。脳を、6つの連続した厚さ40μmの切片にカットした。浮動性切片をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、内因性ペルオキシダーゼ活性を0.3%過酸化水素(シグマアルドリッチ)でクエンチした。抗体の非特異的結合をブロックするために、切片をブロッキング緩衝液(1×PBS中の4%ウシ血清アルブミン及び0.1%Triton X-100)で1時間インキュベートした。切片を、4°Cで、ブロッキング緩衝液中のマウスモノクローナル抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH)抗体(1:2,000、カタログ番号MAB318、RRID:AB_2201528、ミリポア、ビレリカ、マサチューセッツ州)で一晩インキュベートした後、ビオチン化二次抗体(1:200、抗ラット又は抗マウス、ベクター、バーリンゲーム、カリフォルニア州)でインキュベートした。アビジン-ビオチン-酵素複合体(ABCキット、ベクター)で染色を増強し、色素原としての3’,3’-ジアミノベンジジンを用いてシグナルを可視化した。
【0106】
黒質からのTH陽性細胞数
黒質緻密部(SNpc)のTH陽性細胞について、ブレグマに対しておよそA/P -4.5~-6.0のSNpcにまたがる6つの切片から分析した。3DHistechスキャナーで得られた画像から、Matlab(RRID:nlx_153890、マスワークス、ネイティック、マサチューセッツ州)アルゴリズムを用いて細胞をカウントした。スキャナーの解像度は、×20NA0.8対物で0.24μm/ピクセルとした。
【0107】
線条体のTH陽性神経突起の吸光度分析
線条体のTH陽性神経突起の吸光度は、各ラットのブレグマに対しておよそA/P +2.2、+0.84、及び-0.12の3つの線条体切片で測定した。バックグラウンドシグナルを減らすために、切片を自動スキャナー(3DHistech、ブダペスト、ハンガリー;ヘルシンキ大学バイオテクノロジー研究所が提供するスキャンサービス)でスキャンし、画像を16ビットグレースケールに変換した。脳梁にはTHシグナルがないため、それを非特異的バックグラウンド染色の尺度として用いた。得られた画像から、面積当たりの総密度(integrated densities)をImageJ(NIH)で分析した。データを、健側に対する割合(%)で表す。
【0108】
ベータ細胞増殖アッセイ
8週齢の雌の処女C57bl6Rccマウスから膵島を単離した。膵島を成長培地中で一晩回復させ、翌日、同数の膵島/ウェル(70/ウェル)を胎盤性ラクトゲン(PL 500ng/mL)、C-MANF、又はMANFで5日間処理した。培地の半分を、成長因子を含む新鮮な培地に毎日交換した。BrdUに代わるヌクレオシド類似体Edu(Click-iT(登録商標)Edu増殖キット、インビトロジェン)を、膵島採取の48時間前に添加した。膵島をトリプシンで破壊し、細胞遠心分離機のスライドガラス上に遠心分離した。サイトスピン及び増殖細胞をClick-iT AlexaFluorアジド発色試薬で染色した後、固定し、4℃で一晩インスリン染色(モルモット1:200、アブカム、ケンブリッジ、英国)してベータ細胞を検出した。細胞を洗浄し、Alexa Fluor(登録商標)488(1:400、モレキュラープローブス、ライフテクノロジーズ、カリフォルニア州、米国)と結合した二次抗体で染色した。スライドを、DAPI(ベクターラボラトリーズ、バーリンゲーム、カリフォルニア州、米国)を含むベクタシールドマウンティング媒体(Vectashield mounting medium)でマウントした。12個の画像(倍率10倍)を、40×/Plan-Apochromat/0.95 Corr M27、及び63×/Plan-Apochromat/1.40 Oil/M27、及び483 AxioCam HRmカメラを装備した蛍光Zeiss AxioImager M2 482落射蛍光顕微鏡で、AxioVision4ソフトウェアを用いて取得し、Image Pro Plusソフトウェア(メディアサイバネティクス、ベセスダ、メリーランド州、米国)により分析し、DAPI陽性核の数を定量した。増殖中のベータ細胞の相対数を定量し、3~5反復/処理のウェルと比較した。
【0109】
ALSのマウスモデル
トランスジェニックSOD1 G93Aマウスを、この試験におけるALSのトランスジェニックマウスモデルとした。種々のヒトSOD1変異を含むトランスジェニックマウスは、進行性の神経変性及び運動ニューロン(MN)死を発症し、前臨床試験で一般的に使用され、FALSの病因の理解に大きく貢献している動物モデルを提供する(非特許文献34)。トランスジェニックSOD1マウスは、常染色体優性様式で伝染するALS様の臨床的特徴を示す。これらのマウスでは、後肢の脱力と振戦様運動が初期症状として8~10週齢で現れ、その後、進行性の運動麻痺及び神経原性筋萎縮等の主要な症状が現れる(非特許文献35)。これらのマウスは、その後、歩行、飲食の障害を示し、数週間以内に、通常14~16週齢で死亡する。グリシン93をアラニンに変異させたヒトSOD1を保有するトランスジェニックマウスは、元々The Jackson Laboratory(http://www.jax.org、バーハーバー、メイン州、系統B6SJL-TgN(SOD1-G93A)1Gur)から入手した。トランスジェニック発現は、DNAテールテスト及びPCRで、他者が以前行った特定のオリゴヌクレオチド及び条件を用いて(Jackson Labのホームページ参照)、分析した。全ての実験において、野生型B6SJL-TgN(SOD1)2Gurをコントロールとして含めた。
【0110】
ALSマウスの実験設定(セットアップ)
単回投与実験において、約13週齢のマウスに、イソフルラン麻酔下でPBS又はC-CDNF(PBSで希釈した、完全長CDNF10μgと等モルである3.75μg)を脳室内に単回注射した。その後、病気の徴候及び体重変化について、マウスを週2回評価した。評価は、マウスの運動活動を評価するように考案された、ロータロッド等のテストを含む一連の行動テストにより完了した。
【0111】
長期注入実験において、12週齢のSOD1マウスに、イソフルラン麻酔下で脳注入カニューレ(カテーテルチューブを介してAlzet浸透圧ミニポンプに接続)を右側脳室に挿入した。C-CDNF(1.5μg/24h)を28日間注入した。運動行動をロータロッドで評価した。マウスの臨床徴候及び体重変化を評価した。
【0112】
ALSマウスの臨床スコアリング
ジャクソン研究所からの説明書を用いてSOD1マウスの臨床スコアリングを行った。マウスを、12週齢になった後、週に2回注意深く検査した。動物を尾の付け根でそっと持ち上げ、震え、こわばり、手足を伸ばす能力を観察することにより、採点した。臨床スコアリングは、ALSTDI(ALSセラピー開発研究所)の後肢神経スコアリングシステムに基づいた1~5段階である。
【0113】
ロータロッド
ロータロッドでは、マウスを回転ロッド(加速度4~40rpm/分)に置いた(ウゴバジレ、イタリア)。カットオフ時間を4分とした。ロータロッド試験は、マウスが12週齢になった後、週に2回行った。
【0114】
脳卒中のモデルとしての中大脳動脈の遠位閉塞
オスのSprague Dawleyラット(体重230~270g、エンヴィーゴ、オランダ)を実験に用いた。当該実験は、実験動物の管理と使用に関するEU指令2010/63/EUの3R原則(現地の法律及び規制)に従って実施し、フィンランド国立動物実験委員会により承認された。全ての実験を盲検法で行い、ラットを異なる治療群にランダムに割り当てた。ラットに抱水クロラール(0.4g/kg、腹腔内投与)で麻酔をかけた。皮質脳卒中を、上述ように(非特許文献36)、遠位中大脳動脈(dMCA)を両側総頸動脈(CCA)閉塞とともに60分間閉塞することにより誘発した。簡単に説明すれば、両側CCAを特定し、腹側正中頸部切開により単離した。ラットを定位固定装置に入れ、開頭術を右半球で行った。右(MCA)を10-0縫合糸で結紮し、両側総頸動脈(CCA)を非外傷性動脈クランプで60分間結紮した。虚血の60分後、MCAの周囲の縫合糸及びCCAの動脈クリップを取り外して、再灌流障害を誘導した。麻酔から回復後、ラットをホームケージに戻した。手術中及び手術後の体温を37℃に維持した。
【0115】
皮下C-CDNFの神経保護効果を試験するために、50μgのC-CDNFを、dMCA閉塞の30~50分前及び再灌流直後に、100μLの容量で皮下投与した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)をビヒクルコントロールとして使用した。dMCAoの2日後にラットを安楽死させ、2%塩化2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム(TTC、シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州)染色により梗塞体積を測定した。ラットを断頭し、脳を摘出し、アクリル製ラット脳ブロックを用いて厚さ2.0mmの切片にスライスした。脳スライスを2%TTC溶液(シグマ、セントルイス、ミズーリ州、米国)中で室温にて15分間インキュベートした後、固定のため4%パラホルムアルデヒド溶液に移した。各スライスの梗塞領域をデジタルスキャナー及びImageJソフトウェアで測定した。各動物の梗塞体積を、検査した吻側脳スライスの平均スライス厚(2mm)と梗塞面積の合計との積から得た。統計分析にはStudentのt検定を使用した。
【0116】
健常動物における皮下注射したC-CDNFの効果
野生型マウスに、3週間、週に2回C-CDNF(0.17mg/kg、1.77又は17.7mg/kg)を注射した。マウスの自発運動を、C-CDNF皮下注射の直後に週に1回、オープンフィールド試験で60分間測定した。C-CDNF皮下注射を繰り返しても体重の変化は見られなかった。コントロール群とC-CDNFの投与を受けた群との間で、行動パターンの統計的差異は検出されなかった。結果を図15に示す。
【0117】
ハンチントン病ラットモデルにおけるC-CDNFの効果
成体ウィスターラットに、座標:A/P +0.7;L/M +2.8;D/V -6.0へのキノリン酸(QA)225nmolの片側線条体内注射を単回投与した。キノリン酸は、興奮毒性プロセスにより線条体ニューロンの死を誘導する毒素である。2週間後、ラットに対し、同じ座標へPBS、CDNF(10マイクログラム)、C-CDNF(等モル量のCDNFに相当する量)の線条体内注射を単回投与した。処理を開始する前に、ラットを群にランダムに分けた。ロータロッド及び握力テストを毎週行った。
【0118】
キノリン酸損傷後、ロータロッド試験及び握力試験において、C-CDNFのみが、CDNFとは異なり、統計的に有意に運動行動を改善し、C-CDNFは3週間及び5週間の時点で能力を大幅に改善した。結果を図16に示す。
【0119】
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引用特許文献:
欧州特許第58481号明細書
欧州特許第1969003号明細書
米国特許3773919号明細書
国際公開第2007/068803号
国際公開第2009/133247号
国際公開第2013/034805号
国際公開第2014/191630号
国際公開第2016/057579号
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