(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】制振接合体と建物架構
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
E04H9/02 311
(21)【出願番号】P 2020012865
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西塔 純人
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-197591(JP,A)
【文献】特開2000-081085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物架構において斜材と繋がれる制振接合体であって、
延性を有する金属板材により形成され、第一スリットを備えている、芯材と、
板材により形成され、該板材の広幅面を前記芯材の広幅面に直交させた状態で前記第一スリットを介して該芯材に嵌まり込む第二スリットを備えている、拘束材と、を有し、
前記芯材のうち、前記拘束材の前記第二スリットにて挟まれている箇所は、他の箇所よりも幅の狭い狭幅部であることを特徴とする、制振接合体。
【請求項2】
前記第一スリットの端面と前記第二スリットの端面の間に、前記芯材に引張力が作用した際の設計伸び量に相当する第一隙間がある状態で、該芯材に対して前記拘束材が嵌り込んでいることを特徴とする、請求項1に記載の制振接合体。
【請求項3】
前記第二スリットの少なくとも一部の幅は前記芯材の厚みよりも大きく、
前記芯材に前記拘束材が嵌まり込んでいる状態において、前記第二スリットと該芯材の間に第二隙間を備えていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の制振接合体。
【請求項4】
前記拘束材の厚みが前記芯材に比べて相対的に薄い、もしくは、前記拘束材の幅が前記芯材に比べて相対的に狭い、もしくは、前記拘束材が前記芯材に比べて相対的に軟質な材料により形成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の制振接合体。
【請求項5】
前記第二スリットは、上方第二スリットと、該上方第二スリットに連続する下方第二スリットとを有するとともに、該下方第二スリットの下端の左右位置には、前記芯材の二つの広幅面を挟持する二つのガイド突起が設けられており、
前記上方第二スリットの幅は前記芯材の厚みに等しく、前記下方第二スリットの幅は芯材の厚みよりも大きく、前記二つのガイド突起の間の離間長さは前記芯材の厚みに等しくなっており、
前記上方第二スリットが前記芯材に嵌まり込んだ状態において、該上方第二スリットが前記芯材の広幅面を挟持する上方挟持部と、二つの前記ガイド突起が前記芯材の広幅面を挟持する下方挟持部とにより、該上方挟持部と該下方挟持部の間の、前記第二スリットと前記芯材の広幅面が接触しない区間の長さに相当する、前記芯材の座屈の有効長さが保証されることを特徴とする、請求項3又は請求項3に従属する請求項4に記載の制振接合体。
【請求項6】
建物架構の少なくとも一箇所に請求項1乃至5のいずれか一項に記載の制振接合体が接続され、該制振接合体に対して前記斜材が接続されていることを特徴とする、建物架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振接合体と建物架構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態、鋼製の芯材の周囲を集成材等の木材で補剛した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ここで、建物に対して必要なエネルギー吸収性能を与えつつ、建物の剛性を高めることができ、かつ軽量化も可能とした、座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、帯状の鋼板からなる芯材と、芯材の両面に沿って対向配置された一対の拘束材とを有する座屈拘束ブレースである。各拘束材は、それぞれ芯材の幅方向に並べられて長手方向に延び、互いに接合されている複数の鋼材の組み合わせ体により構成される。芯材の長手方向の一部分には長手方向に沿うスリットが設けられており、対向する一対の拘束材が、芯材のスリット内と幅方向両端において相互に接合される。さらに、各拘束材におけるスリットで分割された芯材の幅方向範囲内に、各拘束材の長手方向に延びるリブが設けられることにより、座屈拘束ブレースが形成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースをはじめとして、従来の座屈拘束ブレースでは、例えば大地震時に建物架構が大きく変形した際に、座屈拘束ブレースを構成する芯材の一部もしくは全部を可及的に低荷重下にて降伏させた後、塑性変形させる設計が施されている。例えば、芯材の一部に降伏領域(及び塑性変形領域)を設けることにより、座屈拘束ブレースの降伏荷重を可及的に小さくしながら芯材の変形量を可及的に大きくする(変形性能を最大限に発揮させる)制御を実現することができる。しかしながら、芯材が塑性変形した後は、座屈拘束ブレースの全体を交換する必要があることから、座屈拘束ブレースが適用される建物架構においては、座屈拘束ブレースのメンテナンス性に課題がある。
【0006】
また、座屈拘束ブレースは、芯材と、芯材を拘束する拘束材とを少なくとも有し、特許文献1に記載の座屈拘束ブレースにおいてはさらに、柱や梁等の鉄骨材と接続される芯材の端部にリブを備えた断面十字状の継手が設けられていることから、一般のブレースに比べて構造が複雑であり、製作コストが嵩む傾向にある。そのため、建物の建設コスト増の要因となり得るといった課題を有している。
【0007】
さらに、座屈拘束ブレースにおいては、建物架構の寸法ごとにその長手方向の寸法を変更する必要がある。例えば、ターンバックル等の長さ調整手段を内蔵する一般のブレースにおいては、長さ調整手段を調整することによりブレースの長さを所望に調整できるが、座屈拘束ブレースでは、芯材と、芯材を包囲する拘束材とのユニット構造であることから、その全体の長さを所望に調整することは原則的には不可能であり、従って、建物ごとに固有の座屈拘束ブレースを用意する必要があるといった課題も有している。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、メンテナンス性に優れ、建物の施工コストを抑制しながら、可及的に狭い範囲内で建物架構の安定した制振性能を保証することのできる、制振接合体と、この制振接合体と斜材を備えている建物架構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による制振接合体の一態様は、
建物架構において斜材と繋がれる制振接合体であって、
延性を有する金属板材により形成され、第一スリットを備えている、芯材と、
板材により形成され、該板材の広幅面を前記芯材の広幅面に直交させた状態で前記第一スリットを介して該芯材に嵌まり込む第二スリットを備えている、拘束材と、を有し、
前記芯材のうち、前記拘束材の前記第二スリットにて挟まれている箇所は、他の箇所よりも幅の狭い狭幅部であることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、建物架構において斜材と繋がれる制振接合体が、芯材と拘束材(もしくは補剛材)を備え、芯材の有する狭幅部を降伏荷重にて降伏させるとともに塑性変形させることにより、長尺な斜材に比べて格段にコンパクトな制振接合体により規定される可及的に狭い範囲内において、建物架構の安定した制振性能を保証することができる。また、例えば希にしか発生しない大地震時の後のメンテナンス時には、長尺な斜材の代わりにコンパクトな制振接合体のメンテナンス(取り換えを含む)を行えばよいことから、優れたメンテナンス性を享受することができる。さらに、斜材の軸方向に延びる芯材と拘束材のみにより制振接合体が構成され、この芯材に作用する圧縮力や引張力により芯材の狭幅部を塑性変形させ、拘束材にてこの塑性変形を拘束することから、設計も容易となり、構成もシンプルな制振接合体を提供することができる。拘束材によって芯材が拘束されることから、芯材が降伏荷重にて降伏して塑性変形し、最大荷重(圧縮時、引張時)に到達した後の急激な荷重低減を解消することができる。
【0011】
ここで、「斜材」には、ブレースと方杖等が含まれる。そして、大地震時に建物架構が大きく変形する際には、制振接合体の芯材の狭幅部を降伏させ、塑性変形させることから、斜材としては、平鋼やターンバックル等により形成される一般的なブレースが適用されてよく、座屈拘束ブレースの適用は必要なく、座屈拘束ブレースの適用に起因する施工コスト増の課題を解消できる。尤も、斜材であるブレースとして、座屈拘束ブレースの適用を完全に排除する趣旨ではない。
【0012】
本態様の制振接合体は、延性を有する金属板材からなる芯材と、板材からなる拘束材とを有し、芯材の備える第一スリットに対して拘束材の備える第二スリットが嵌まり込むことにより、芯材と拘束材が相互に直交する態様で一体に勘合されている。ここで、芯材を形成する「延性を有する金属板材」としては、例えば軟鋼や低降伏点鋼等の鉄を挙げることができる。一方、拘束材を形成する「板材」としては、延性がない、もしくは延性に乏しい金属である、アルミニウムやその合金の他、集成材をはじめとする木材等を挙げることができる。
【0013】
芯材のうち、拘束材の第二スリットにて挟まれている領域を、他の領域よりも幅の狭い狭幅部とすること(そのように芯材と拘束材を構成すること)により、狭幅部を降伏領域(座屈変形領域、引張変形領域)に設定することができる。また、芯材と拘束材が相互に勘合している構成により、芯材に圧縮力が作用した際に芯材が過度に面外方向へスライドすることを防止でき、このことは芯材を設計通りに座屈変形させることに繋がる。
【0014】
また、本発明による制振接合体の他の態様は、前記第一スリットの端面と前記第二スリットの端面の間に、前記芯材に引張力が作用した際の設計伸び量に相当する第一隙間がある状態で、該芯材に対して前記拘束材が嵌り込んでいることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、第一スリットの端面と第二スリットの端面の間に、芯材に引張力が作用した際の設計伸び量に相当する第一隙間がある状態で芯材に対して拘束材が嵌り込んでいることにより、芯材に引張力が作用して塑性変形する際に、芯材の狭幅部の引張方向への十分な変形を拘束材が拘束して阻害することが回避され、制振接合体に引張力が作用した際の芯材に期待される変形性能を保証することができる。
【0016】
また、本発明による制振接合体の他の態様において、前記第二スリットの少なくとも一部の幅は前記芯材の厚みよりも大きく、
前記芯材に前記拘束材が嵌まり込んでいる状態において、前記第二スリットと該芯材の間に第二隙間を備えていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、芯材に拘束材が嵌まり込んでいる状態において、第二スリットと芯材の間に第二隙間が存在することにより、第二隙間の間で芯材の狭幅部が座屈し易くなり、芯材に圧縮力が作用した際に芯材を降伏から塑性変形へスムーズに移行させることができる。例えば、第二スリットの上方の幅が芯材の厚みに等しく、第二スリットの下方の幅が芯材の厚みよりも大きい場合には、第二スリットの上方が芯材に嵌まり込み、第二スリットの下方が芯材の広幅面との間に第二隙間を形成する。仮に、芯材の狭幅部が拘束材にて完全に拘束されていると、芯材が座屈変形し難くなり、芯材を所望の降伏荷重にて座屈させ難くなる。建物架構の各構成部材(梁、柱、斜材等)はいずれも、例えば大地震時の大きな変形の際に固有の降伏荷重にて降伏(座屈等)し、所定の変形量まで塑性変形した後に破断荷重に至る。二次設計(大地震時の設計)の際の最大荷重を可及的に低く設定できれば、建物架構の設計において各構成部材の断面を小さくできることから好ましい。仮に、制振接合体を構成する芯材が拘束材にて完全に拘束されていると、制振接合体とその周辺の各構成部材(柱、梁、斜材等)の最大荷重は、芯材が拘束材にて完全に拘束されていない場合に比べて大きくなり、二次設計において建物架構の各構成部材の断面が大きくならざるを得なくなる。このように、制振接合体の周囲の各構成部材の断面低減の観点からも、第二スリットと芯材の間に第二隙間が設けられているのがよい。
【0018】
ここで、第二隙間が大き過ぎると拘束材の剛性が低くなることから、第二スリットの中央に芯材が嵌まり込んだ状態において片側の第二隙間は0.5mm乃至1mm程度に設定されるのがよい。
【0019】
また、本発明による制振接合体の他の態様は、前記拘束材の厚みが前記芯材に比べて相対的に薄い、もしくは、前記拘束材の幅が前記芯材に比べて相対的に狭い、もしくは、前記拘束材が前記芯材に比べて相対的に軟質な材料により形成されていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、拘束材の厚みが芯材に比べて相対的に薄い、もしくは、拘束材の幅が芯材に比べて相対的に狭い、もしくは、拘束材が芯材に比べて相対的に軟質な材料により形成されている、即ち、芯材に比べて拘束材の剛性が弱いことにより、例えば芯材が座屈して塑性変形し、第二隙間を介して拘束材の第二スリットの壁面に当接し、第二スリットの内側から外側へ拘束材を押圧した際に、拘束材を変形し易くできる。このように、座屈変形した芯材からの押圧力によって拘束材が外側に変形することにより、芯材の最大荷重を可及的に低減することができ、二次設計において制振接合体とその周辺の建物架構の各構成部材の断面を可及的に小断面に設計することができる。ここで、「拘束材が芯材に比べて相対的に軟質な材料により形成されている」とは、金属製の芯材に対して、例えば木製の拘束材を適用する形態が挙げられる。
【0021】
また、本発明による制振接合体の他の態様において、前記第二スリットは、上方第二スリットと、該上方第二スリットに連続する下方第二スリットとを有するとともに、該下方第二スリットの下端の左右位置には、前記芯材の二つの広幅面を挟持する二つのガイド突起が設けられており、
前記上方第二スリットの幅は前記芯材の厚みに等しく、前記下方第二スリットの幅は芯材の厚みよりも大きく、前記二つのガイド突起の間の離間長さは前記芯材の厚みに等しくなっており、
前記上方第二スリットが前記芯材に嵌まり込んだ状態において、該上方第二スリットが前記芯材の広幅面を挟持する上方挟持部と、二つの前記ガイド突起が前記芯材の広幅面を挟持する下方挟持部とにより、該上方挟持部と該下方挟持部の間の、前記第二スリットと前記芯材の広幅面が接触しない区間の長さに相当する、前記芯材の座屈の有効長さが保証されることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、上方挟持部と下方挟持部により、第二スリットと芯材の広幅面が接触しない区間の長さが規定され、この接触しない区間は芯材の座屈する区間となることから、芯材の座屈の有効長さを保証することが可能になる。ここで、「芯材の座屈の有効長さが保証される」とは、上方挟持部と下方挟持部の間の長さが厳密に芯材の座屈の有効長さを保証することのほか、ほぼ芯材の座屈の有効長さに相当する長さを保証することも含む。
【0023】
また、本発明による建物架構の一態様は、
建物架構の少なくとも一箇所に前記制振接合体が接続され、該制振接合体に対して前記斜材が接続されていることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、軸組構造の建物における建物架構の少なくとも一箇所に本発明の制振接合体が接続され、制振接合体に対して斜材が接続されていることにより、降伏及び塑性変形箇所を制振接合体に限定することができ、可及的に狭い範囲内で建物架構の安定した制振性能を保証するとともに、例えば大地震時の後は制振接合体のみをメンテナンスすることで足り得ることから、優れたメンテナンス性を享受できる。
【0025】
ここで、「建物架構の少なくとも一箇所に制振接合体が接続され」とは、例えば、梁と梁により形成される矩形枠状の構面の対向する二つの隅角部の一方に制振接合体が接続され、この制振接合体と他方の隅角部にブレースが接続される形態や、矩形枠状の構面の対向する二つの隅角部の双方に制振接合体が接続され、双方の制振接合体にブレースが接続される形態等を含む意味である。大地震時における建物架構の変形に対して、一つの制振接合体の変形量のみで対応可能な場合は、ブレース(斜材)の一方端のみに制振接合体があればよいし、二つの制振接合体の変形量で対応可能な場合は、ブレース(斜材)の両端が制振接合体を介して建物架構に接続されることになる。尚、本態様の建物架構にはさらに、ラーメン架構のような軸組構造の建物架構内の適所に耐力壁が配置され、耐力壁における対角位置にある一対の隅角部の双方に制振接合体が接続され、双方の制振接合体にブレースが接続される形態が含まれる。また、耐力壁を構成する対向する一対の柱のうち、一方の柱の中間位置に二つの制振接合体が接続され、それぞれの制振接合体と他方の柱の上端及び下端が二つのブレースにて繋がれることにより、正面視K型もしくは逆K型を呈するK型ダンパーが形成されるが、このようなK型ダンパーを備えた耐力壁を内蔵する建物架構も本態様に含まれる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の制振接合体と建物架構によれば、メンテナンス性に優れ、建物の施工コストを抑制しながら、可及的に狭い範囲内で建物架構の安定した制振性能を保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態に係る建物架構の一例を示す正面図である。
【
図2】
図1のII部の拡大図であって、実施形態に係る制振接合体の一例がブレースに接続されている状態を示す図である。
【
図3】実施形態に係る制振接合体の一例の分解斜視図である。
【
図4】実施形態に係る制振接合体の一例の斜視図である。
【
図5】制振接合体を構成する芯材に大変形時の引張力が作用している際の制振接合体を示す斜視図である。
【
図6】制振接合体を構成する芯材に大変形時の圧縮力が作用している際の制振接合体を示す斜視図である。
【
図7】実施例の制振接合体と比較例の制振接合体の変形量-荷重曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施形態に係る制振接合体と建物架構について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0029】
[実施形態に係る建物架構と制振接合体]
図1乃至
図7を参照して、実施形態に係る建物架構と制振接合体の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る建物架構の一例を示す正面図であり、
図2は、
図1のII部の拡大図であって、実施形態に係る制振接合体の一例がブレースに接続されている状態を示す図である。また、
図3は、実施形態に係る制振接合体の一例の分解斜視図であり、
図4は、実施形態に係る制振接合体の一例の斜視図である。
【0030】
図1に示す建物架構70は、木造の軸組構造の住宅における例えば壁を構成する架構である。建物架構70は、下階(例えば一階)及び上階(例えば二階)の木製梁11,12と、木製梁11,12を繋ぐ木製柱13,14(図示例は通し柱)とにより形成される、正面視矩形枠状の構面と、構面内に配設されている耐力壁20とを有する。
【0031】
木製梁11,12と木製柱13,14はいずれも、無垢材であってもよいし、ラミナが積層された集成材であってもよい。木製梁11,12と木製柱13,14は、例えば、側面視形状がT字状の埋め込みプレートとドリフトピン(いずれも図示せず)等により締結されてよい。例えば、木製柱13,14の下端に収容溝を設けておき、T字状の埋め込みプレートのフランジを木製梁11にボルトにて固定し、埋め込みプレートのウエブを木製柱13,14の収容溝に収容する。ウエブと木製柱13,14の対応する位置にはピン孔が設けられており、この収容姿勢において対応する双方のピン孔が連通孔を形成し、連通孔にドリフトピン(図示せず)を挿通することにより、木製梁11と木製柱13,14が締結される。木製梁12と木製柱13,14も、同様の方法により相互に締結することができる。その他、L型の締結金具を木製梁11,12と木製柱13,14の隅角部に配設し、ボルトやビス等の締結手段により木製梁11,12と木製柱13,14を締結してもよい。
【0032】
耐力壁20は、間隔を置いて立設される一対の木製の縦材21,22と、二本の木製ブレース23,24(斜材の一例)とを有する。耐力壁20の幅sは、通常の1P幅(Pはモジュールを示し、800mm乃至1100mmの間で、例えば910mm幅等、モジュール設計仕様により任意に設定可能)の他、0.5P幅や0.25P幅に設定できる。
【0033】
一方の縦材21と木製梁11,12との格点15、16にはそれぞれ、ガセットプレート37Bが複数のボルト39により固定されている。一方、他方の縦材22の中央位置25には、別途のガセットプレート37Aが複数のボルト39により固定されている。
【0034】
それぞれのガセットプレート37Bには制振接合体50が取り付けられており、ガセットプレート37Aには、二つの制振接合体50が取り付けられている。そして、対応する二つで一組の制振接合体50に対して、それぞれ木製ブレース23、24が接続されることにより、正面視逆K型(見る方向を変えれば正面視K型)を呈するK型ダンパーが形成され、K型ダンパーを備えた耐力壁20が構成される。
【0035】
建物架構70は、四つの制振接合体50と木製ブレース23、24の接続箇所を備えており、いずれもガセットプレートの形態以外は同一の構成を備える。その中で、
図1におけるII部の拡大図である
図2と、制振接合体の一例を示す
図4等を参照して、制振接合体50と木製ブレース23の接続構造について説明する。
【0036】
図4に示すように、制振接合体50は、芯材30と拘束材40が相互に嵌め合いされることにより形成され、その上方から見た平面視形状が十字状を呈している。一方、木製ブレース23の少なくとも端部には、十字状の芯材30と拘束材40が挿通される挿通溝(図示せず)が設けられている。この挿通溝は、制振接合体50と同様に十字状の溝であってもよいし、芯材30と拘束材40が収容される矩形柱状の溝であってもよい。
【0037】
そして、木製ブレース23の端部の側面には複数のピン孔23aが設けられており、
図2に示すように芯材30と拘束材40が挿通溝に挿通された状態において、芯材30の有する各ピン孔34と木製ブレース23の各ピン孔23aが対応する位置に位置決めされ、対応するピン孔23a、34にそれぞれドリフトピン60が挿通されることにより、制振接合体50と木製ブレース23が接続される。尚、接続手段はドリフトピンに限定されるものでなく、ビスやボルト等であってもよい。
【0038】
芯材30の脚部には脚片35が固定されており、脚片35にはボルト孔36aを備えた回動片36が固定されている。ガセットプレート37Aは、縦材22に当接して接続される当接片37bと、当接片37bから立設する立ち上がり片37aとを有し、立ち上がり片37aの有するボルト孔(図示せず)と回動片36の有するボルト孔36aが位置決めされ、双方のボルト孔にボルト38が挿通されてボルト接合されることにより、制振接合体50と縦材22が接続される。図示例においては、立ち上がり片37aに対して回動片36を所望の角度に回動させた後、ボルト接合することが可能になる。
【0039】
以下で詳説するように、建物架構70においては、例えば大地震時に建物架構70が大きく変形した際に、耐力壁20を構成する木製ブレース23,24ではなくて、木製ブレース23,24と縦材21,22や木製梁11,12を繋ぐ制振接合体50が塑性変形することにより、建物架構70の大きな変形に耐力壁20が追随しながら、制振性能を発揮する。そして、大地震後のメンテナンスにおいては、長尺な木製ブレース23,24ではなく、塑性変形している制振接合体50のみをメンテナンスすることで足りる。
【0040】
図1からも明らかなように、制振接合体50は長尺な木製ブレース23,24に比べてコンパクトであることから、メンテナンス性に優れている。また、建物架構70に制振性を付与する部材が制振接合体50であることから、高価な座屈拘束ブレースの適用を不要にでき、従って、建物の施工コスト増を抑制することができる。
【0041】
制振接合体50と木製ブレース23,24やガセットプレート37A,37Bとの接合態様から明らかなように、制振接合体50の中で、建物架構70が変形した際に引張力を受ける部材は芯材30であり、拘束材40はあくまでも芯材30を拘束して、芯材30が横方向にずれることや、芯材30が降伏荷重にて降伏して塑性変形し、最大荷重(圧縮時、引張時)に到達した後の急激な荷重低減を解消するための部材である。
【0042】
尚、図示例においては、各木製ブレース23,24がその両端に制振接合体50を備えているが、建物架構70が大きく変形した際に、一基の制振接合体50の変形性能(塑性変形量)のみで対応可能である場合は、各木製ブレース23,24の一端にのみ制振接合体50が設けられている形態であってもよい。
【0043】
また、図示例はK型ダンパーの耐力壁20を例示するものであるが、例えば、耐力壁20を具備せず、木製柱13,14と木製梁11,12による四つの隅角部のうち、対角線上にある一対の隅角部の双方もしくは一方に制振接合体50が配設され、双方の制振接合体50の間において、もしくは制振接合体50と構面の隅角部の間において、長尺の木製ブレースが配設される形態であってもよい。その他、斜材が木製ブレースでなく、木製方杖等であり、木製柱13,14と木製梁11,12による四つの隅角部のうちのいずれかもしくは複数の隅角部の近傍に木製方杖が配設される形態であってもよい。この形態においても、木製方杖の一端もしくは両端に制振接合体50が配設される。
【0044】
さらに、図示例の建物架構70は木製の架構であるが、柱や梁、縦材がH形鋼等の形鋼材や角形鋼管等により形成される形態であってもよい。この形態において、斜材であるブレースには、ターンバックル等の長さ調整手段を内蔵する一般のブレース(平鋼とターンバックルの組み合わせ、鋼棒とターンバックルの組み合わせ等)が適用されることで足りる。すなわち、上記するように、制振接合体50により建物架構70の制振性能が保証されることから、例えば鋼製の芯材の周囲を集成材等の木材で補剛した座屈拘束ブレースの適用は不要である。
【0045】
次に、
図3乃至
図7を参照して、実施形態に係る制振接合体50について詳説する。ここで、
図5は、制振接合体を構成する芯材に大変形時の引張力が作用している際の制振接合体を示す斜視図であり、
図6は、制振接合体を構成する芯材に大変形時の圧縮力が作用している際の制振接合体を示す斜視図である。
【0046】
制振接合体50は、芯材30と拘束材40とを有する。芯材30は、延性を有して厚みt1の金属板材からなり。幅u1の一般部31と、一般部31よりも幅u2が狭い狭幅部32とを有する。一般部31の広幅面の正面視形状は矩形(長方形もしくは正方形)であり、狭幅部32は、一般部31から湾曲状にくびれて狭幅となる正面視形状が略台形の領域と、幅u2で正面視形状が矩形の領域が連続した形状を有する。ここで、延性を有する金属としては鉄が挙げられ、SN材(建築構造用圧延鋼材)、LY材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材が一例として挙げられる。
【0047】
芯材30において、一般部31の広幅面の中央位置には第一スリット33が設けられており、第一スリット33の左右に複数(図示例は二つ)のピン孔34が開設されている。
【0048】
芯材30の下端(狭幅部32の下端)には、例えば芯材30と同素材の金属からなる脚片35が溶接等により接続されており、脚片35の下面に回動片36が溶接等により接続されている。
【0049】
一方、拘束材40は平面視矩形の板材41により形成され、下端の中央位置において、上方に延設する第二スリット42を備えている。拘束材40は、延性がない、もしくは延性に乏しい金属である、アルミニウムやその合金の他、集成材をはじめとする木材等により形成される。特に、芯材30に比べて拘束材40が低剛性材料にて形成されていることにより、以下で詳説するように、座屈変形した拘束材40から作用する押圧力により拘束材40が変形し、芯材30(制振接合体50)の最大荷重を可及的に低減することが可能になる。
【0050】
図3及び
図4を参照すると明らかなように、拘束材40の広幅面を芯材30の広幅面に直交させた状態で第一スリット33に第二スリット42を嵌まり込ませ、第二スリット42にて狭幅部32を挟持させながら拘束材40の下端を脚片35に当接させることにより、制振接合体50が形成される。
【0051】
図4に示す制振接合体50において、第一スリット33の端面と第二スリット42の端面の間には、第一隙間45が形成される。
【0052】
一方、
図3に示すように、第二スリット42の幅t3は、芯材30の板厚t1と、左右の幅t2の総和であり、
図4に示す制振接合体50において、第二スリット42の中央位置に芯材30が位置決めされた状態において、芯材30の広幅面と第二スリット42の間には幅t2の第二隙間46が形成される。
【0053】
より具体的には、第二スリット42は、上方第二スリット42aと、上方第二スリット42aに連続する下方第二スリット42bとを有し、下方第二スリット42bの長さは座屈の有効長さLに設定されている。そして、上方第二スリット42aの幅はt1であり、下方第二スリット42bの幅はt3である。従って、芯材30に対して拘束材40が嵌め合いされた状態において、上方第二スリット42aと芯材30の広幅面は接しており、芯材30の広幅面と下方第二スリット42bの間に幅t2の第二隙間46がある。
【0054】
また、下方第二スリット42bの下端の左右位置には、スリットの中央側に突出するガイド突起43が設けられており、左右の二つのガイド突起43の間の離間長さはt1に設定されている。離間長さt1の左右の二つのガイド突起43を有することにより、芯材30に対して拘束材40を嵌め合いする際に、芯材30の広幅面に二つのガイド突起43を摺接させながら嵌め合いすることができ、芯材30に対する拘束材40の取り付け性が良好になる。さらに、第二スリット42は、上方第二スリット42aが芯材30の広幅面を挟持する上方挟持部44を有し、二つのガイド突起43が芯材30の広幅面を挟持する下方挟持部となることにより、これら上方挟持部44と下方挟持部43の間における、第二スリット42と芯材30の広幅面が接触しない区間の長さに相当する(もしくはほぼ相当する)、芯材30の座屈の有効長さLを保証(もしくは規制)することができる。
【0055】
上記するように、芯材30の狭幅部32は、一般部31から湾曲状にくびれて狭幅となる正面視形状が略台形の領域と、幅u2で正面視形状が矩形の領域が連続しているが、芯材30に拘束材40が組み付けられた
図4に示す状態において、芯材30の狭幅部32における幅u2で正面視形状が矩形の領域の上端位置もしくは上端近傍位置(正面視形状が略台形の領域の下端位置もしくは下端近傍位置)に、上方第二スリット42aの上方挟持部44が位置する。すなわち、狭幅部32における幅u2で正面視形状が矩形の領域の高さ(もしくは当該矩形の領域の高さ程度の高さ)が、座屈の有効長さLとなる。
【0056】
芯材30のうち、拘束材40の第二スリット42(の特に下方第二スリット46b)にて挟まれている領域を、他の領域よりも幅の狭い狭幅部32とすることにより、狭幅部32を芯材30における降伏領域(座屈変形領域、引張変形領域)に設定することができる。また、芯材30と拘束材40が相互に勘合している構成により、
図6に示すように、芯材30に圧縮力Cが作用した際に芯材30が過度に面外方向へスライドすることを防止でき、このことは芯材30を設計通りに座屈変形させることに繋がる。
【0057】
また、芯材30に拘束材40が嵌まり込んでいる状態において、第二スリット42(の特に下方第二スリット46b)と芯材30の間に第二隙間46が存在することにより、第二隙間46の間で芯材30の狭幅部32が
図6に示すように座屈し易くなり、芯材30に圧縮力Cが作用した際に芯材30を降伏から塑性変形へスムーズに移行させることができる。
【0058】
ここで、第二隙間46が大き過ぎると拘束材40の剛性が低くなることから、第二スリット42の中央に芯材30が嵌まり込んだ状態において、片側の第二隙間46は0.5mm乃至1mm程度に設定されるのがよい。例えば、芯材30の厚みt1が1cmの場合に、左右の第二隙間46の合計幅を1mm(0.5mm×2)乃至2mm(1mm×2)とすることから、第二スリット42の全幅は1.1cm乃至1.2cm程度に設定されるのがよい。
【0059】
また、芯材30に比べて拘束材40の剛性を弱く設定しておくことにより、
図6に示すように、芯材30が座屈して塑性変形し(変形量δ2)、第二隙間46を介して拘束材40の第二スリット42の壁面に当接し(図示例は、二箇所P1,P2で当接)、第二スリット46の内側から外側へ拘束材40を押圧した際に、拘束材40を変形し易くできる(変形量δ3)。
【0060】
ここで、拘束材40の剛性を相対的に弱くする形態としては、拘束材40の厚みが芯材30の厚みに比べて相対的に薄い形態、拘束材40の幅が芯材30の幅に比べて相対的に狭い形態、拘束材40が芯材30に比べて相対的に軟質な材料により形成されている形態、もしくはそれらの複合形態等が挙げられる。
【0061】
一方、第一隙間45の縦方向の長さは、
図5に示すように、芯材30に引張力T(大地震時の引張力)が作用した際の設計伸び量δ1(塑性変形量)以上に設定される。第一スリット33の端面と第二スリット42の端面の間に、芯材30に引張力が作用した際の設計伸び量に相当する第一隙間45がある状態で芯材30に対して拘束材40が嵌り込んでいることにより、芯材30に引張力が作用して塑性変形する際に、芯材30の狭幅部32の引張方向への十分な変形を拘束材40が拘束して阻害することが回避され、制振接合体70に引張力が作用した際の芯材30に期待される変形性能を保証することができる。
【0062】
図示する制振接合体50によれば、その構成部材である芯材30の塑性変形後の最大荷重を可及的に低減することができる。ここで、
図7は、実施例の制振接合体と比較例の制振接合体の変形量-荷重曲線の一例を示す図である。尚、図示する変形量-荷重曲線は、ひずみ-応力曲線として示すこともできる。
【0063】
ここで、実施例とは、図示する制振接合体50(の芯材30)でり、比較例とは、例えば
図4において、第二隙間46が無く、拘束材の剛性が芯材と同程度かそれ以上の制振接合体を意味している。
【0064】
図7において、Pyは降伏荷重、Peは実施例の最大荷重、Pe'は比較例の最大荷重、δyは降伏時の変形量、δeは最大荷重時の変形量、Δδは塑性変形量を示している。
【0065】
制振接合体50では、第二隙間46があり、かつ芯材30に比べて拘束材40の剛性が相対的に低い。このことにより、芯材30はスムーズに塑性域へ移行することができ、拘束材40による過度な拘束がないことにより最大荷重Peは比較例の最大荷重、Pe'に比べて低減される。
【0066】
制振接合体50の最大荷重が低くなることにより、建物架構70を構成する制振接合体50の周辺部材の設計においてもそれらの最大荷重を低く設定することができ、各構成部材のスリム化を図ることが可能になる。
【0067】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0068】
11,12:木製梁
13,14:木製柱
20:耐力壁
21,22:縦材
23,24:木製ブレース(斜材)
30:芯材
31:一般部
32:狭幅部
33:第一スリット
34:ピン孔
35:脚片
36:回動片
37A,37B:ガセットプレート
39:ボルト
40:拘束材
41:板材
42:第二スリット
42a:上方第二スリット
42b:下方第二スリット
43:ガイド突起(下方挟持部)
44:上方挟持部
45:第一隙間
46:第二隙間
50:制振接合体
60:ドリフトピン(接続部材)
70:建物架構