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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61K 13/00 20060101AFI20231114BHJP
   B61D 49/00 20060101ALI20231114BHJP
   B61F 3/14 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B61K13/00 Z
B61D49/00 Z
B61F3/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020017636
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021123219
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】高見 創
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
(72)【発明者】
【氏名】野口 雄平
(72)【発明者】
【氏名】中出 孝次
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏章
(72)【発明者】
【氏名】清水 政宏
(72)【発明者】
【氏名】梅田 啓
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義博
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】実公昭58-015251(JP,Y2)
【文献】実開昭58-168960(JP,U)
【文献】実開昭60-053669(JP,U)
【文献】特開2018-065414(JP,A)
【文献】特開平07-172311(JP,A)
【文献】特許第4614745(JP,B2)
【文献】特開昭57-151465(JP,A)
【文献】特開平05-229430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 49/00
B61F 3/14
B61F 5/50
B61F 19/00
B61K 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方及び後方の端部ふさぎ板と、左方及び右方の側面カバーとで囲繞された台車収容空間に台車を収容した鉄道車両であって、
前記側面カバーに設けられた前記側面カバーの外側面から走行風を取り込むインテーク部と、
前記インテーク部で取り込まれた空気を前記端部ふさぎ板へ向けて吹き出すノズル部であって、吹き出し方向が前記端部ふさぎ板の板面に沿った方向のノズル部と、
を備える鉄道車両。
【請求項2】
前方及び後方の端部ふさぎ板と、左方及び右方の側面カバーとで囲繞された台車収容空間に台車を収容した鉄道車両であって、
前記側面カバーに設けられた前記側面カバーの外側面から走行風を取り込むインテーク部と、
前記インテーク部で取り込まれた空気を前記端部ふさぎ板へ向けて吹き出すノズル部であって、前記端部ふさぎ板と前記側面カバーとの入隅部分に設けられたノズル部と、
を備える鉄道車両。
【請求項3】
前方及び後方の端部ふさぎ板と、左方及び右方の側面カバーとで囲繞された台車収容空間に台車を収容した鉄道車両であって、
前記側面カバーに設けられた前記側面カバーの外側面から走行風を取り込むインテーク部と、
前記インテーク部で取り込まれた空気を前記端部ふさぎ板へ向けて吹き出すノズル部であって、前記端部ふさぎ板と前記側面カバーと前記台車収容空間の天井面との三面でなる入隅部分を覆うように構成されたノズル部と、
を備える鉄道車両。
【請求項4】
前方及び後方の端部ふさぎ板と、左方及び右方の側面カバーとで囲繞された台車収容空間に台車を収容した鉄道車両であって、
前記側面カバーに設けられた前記側面カバーの外側面から走行風を取り込むインテーク部と、
前記インテーク部で取り込まれた空気を前記端部ふさぎ板へ向けて吹き出すノズル部であって、前記インテーク部から排出される空気を取り入れる入口開口部の開口面積よりも、吹き出し口の開口面積の方が小さいノズル部と、
を備える鉄道車両。
【請求項5】
前記ノズル部は、上下方向において前記台車収容空間の天井寄りに吹き出し口が設けられ、前記端部ふさぎ板の左右中央に向けて前記吹き出し方向が定められている、
請求項1~4の何れか一項に記載の鉄道車両。
【請求項6】
前記インテーク部は、上下方向において前記側面カバーの上方寄りに設けられている、
請求項1~の何れか一項に記載の鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
降雪地域を走行する鉄道車両に係る着雪対策には、空力的な対策や、融雪ヒータなどの熱源による対策、材質的対策、が知られる。例えば、特許文献1には、車両床下の台車の前後にダミー部材を設置することで、台車周りの空気の流れを改善し、台車周りへの着雪を抑制する空力的な対策に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4614745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
台車前後の車体に設置される「端部ふさぎ板」は着雪対策における重点箇所の1つである。端部ふさぎ板は、法線方向が雪交じりの走行風に対してほぼ正対するため着雪し易い。そして、端部ふさぎ板は着雪面積が大きいことも手伝って、着雪の密度および質量が大きくなり易く、付着した雪が塊となって落雪したときの影響が大きくなり易いため優先的な対策が望まれている。
【0005】
空力的な着雪対策の方法として、「台車底面を塞いで平滑にする」「端部ふさぎ板に傾斜をつける」「入隅部をなめらかにする」などが検討され得る。しかしこれらは、台車の機能や、台車の保守性、車両床下の機器スペース(端部ふさぎ板で隔てられた端部ふさぎ板の奥方のスペース)への影響が大きい問題がある。特に、既存車両の改良を前提とする場合には実現性が低い。
【0006】
また、特許文献1に開示されるようなダミー部材は、車両限界の範囲内に納めようとすると、ダミー部材の寸法の制限が厳しくなり十分な効果が得られ難くなる。また、ダミー部材による効果を高めるほど、空力音(騒音)が増加する傾向にあるのも問題となる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、端部ふさぎ板への着雪対策に係る新たな技術を提供することであり、より望ましくは、台車の機能や保守性、車両床下の機器スペースをできるだけ維持した上で、車両限界の寸法内に構成でき、空力音が小さい着雪対策の技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための第1の発明は、前方及び後方の端部ふさぎ板と、左方及び右方の側面カバーとで囲繞された台車収容空間に台車を収容した鉄道車両であって、前記側面カバーに設けられた前記側面カバーの外側面から走行風を取り込むインテーク部と、前記インテーク部で取り込まれた空気を前記端部ふさぎ板へ向けて吹き出すノズル部と、を備える鉄道車両である。
【0009】
「側面カバー」は、台車カバーなどとも呼ばれる台車の側方を覆う板状部材である。「端部ふさぎ板」は、台車の前方や後方の床下にて各種機器類が吊り下げられた領域(機器スペース)と台車とを隔てる部材である。端部ふさぎ板への着雪は、端部ふさぎ板の板面付近での雪の接線速度(板面に沿った速度)の低下に起因する。
【0010】
第1の発明によれば、インテーク部で取り込まれた空気をノズル部で端部ふさぎ板へ向けて吹き付けるので、端部ふさぎ板の板面付近での雪の接線速度の低下を抑制し、着雪を抑制できる。
【0011】
側面カバーは、車両の側方を覆う部品である。従って、例えば、第1の発明のインテーク部を設けた仕様の側面カバーを別途用意して、既存の車両が備える既存の側面カバーと交換すれば、既存の車両であっても容易に第1の発明を実施できる。また、インテーク部を設けただけなので、従来の側面カバーと比べても台車の機能や台車の保守性を損なうことはない。また、フラッシュインレットタイプのエアインテークであれば、インテーク部を設けた仕様の側面カバーであっても、外形寸法がインテーク部の無い従来の側面カバーから変化しない(或いはほとんど変化しない)ので、車両限界の寸法内で第1の発明を実現できる。また、インテーク部の形状を適切に選択することで、空力音も、インテーク部の無い従来の側面カバーから変化しない(或いはほとんど変化しない)。
【0012】
また、台車収容空間内へは、従来に比べてノズル部を追加することになるが、台車収容空間内に後付けが可能であるので、既存の車両への適用が容易である。そして、ノズル部30を追加しても、台車の機能や保守性について従来に比べて損なうところが無く、車両限界を超えることも無い。また、同様の理由により、空力音の変化も少なくて済む。
【0013】
第2の発明は、前記ノズル部の吹き出し方向が前記端部ふさぎ板の板面に沿った方向である、第1の発明の鉄道車両である。
【0014】
第2の発明によれば、雪の接線速度の低下を効果的に抑制できる。
【0015】
第3の発明は、前記ノズル部が、上下方向において前記台車収容空間の天井寄りに吹き出し口が設けられ、前記端部ふさぎ板の左右中央に向けて前記吹き出し方向が定められている、第2の鉄道車両である。
【0016】
走行風下流の着雪は、入隅ほど付着し易い。台車収容空間の天井寄り部分は、当該天井と端部ふさぎ板との二面の入隅となるため端部ふさぎ板のなかでも比較的付着が多くなりやすい箇所である。第3の発明によれば、ノズル部は、その入隅部を狙って空気を吹き付けることになる。しかも吹き出し方向が端部ふさぎ板の左右中央に向いているため、雪の接線速度の低下を抑制する効果も得られる。よって、付着抑制効果を向上できる。
【0017】
第4の発明は、前記ノズル部が、前記端部ふさぎ板と前記側面カバーとの入隅部分に設けられている、第1~第3の何れかの発明の鉄道車両である。
【0018】
第5の発明は、前記ノズル部が、前記端部ふさぎ板と前記側面カバーと前記床下収容空間の天井面との三面でなる入隅部分を覆うように構成されている、第1~第4の何れかの発明の鉄道車両である。
【0019】
第4又は第5の発明によれば、ノズル部自体が、雪が付着しやすい端部ふさぎ板と側面カバーの入隅を占めるように配置されるため、入隅部への着雪を効果的に抑制できる。
【0020】
第6の発明は、前記ノズル部が、前記インテーク部から排出される空気を取り入れる入口開口部の開口面積よりも、吹き出し口の開口面積の方が小さい、第1~第5の何れかの発明の鉄道車両である。
【0021】
第6の発明によれば、絞り効果により吹き出す空気の流速を高めることができる。よって、雪の接線速度の低下を抑制するのみならず、仮に雪が付着したとしても、比較的付着量が少ないうちに吹き飛ばすことが可能になる。
【0022】
第7の発明は、前記インテーク部が、上下方向において前記側面カバーの上方寄りに設けられている、第1~第6の何れかの発明の鉄道車両である。
【0023】
付着のもとになる雪の多くは、軌道を鉄道が走行することで巻き上げられる雪煙であって、雪煙は軌道から離れて上方に向かうほど急速に薄くなる。
第7の発明によれば、インテーク部を、側面カバーの上方寄りに設けているので、下方寄りに設けた場合よりもインテーク部に取り込まれる走行風に混じる雪の量を大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態の鉄道車両の要部を示す斜視外観図。
図2】左側面カバーと右側面カバーの構成例を示す概略図。
図3】ノズル部の構成例を示す斜視図(その1)。
図4】ノズル部の構成例を示す斜視図(その2)。
図5】側面カバーとノズル部との相対位置関係を示す部分斜視図。
図6】列車模型走行装置の構成例を示す図。
図7】無対策の鉄道車両に相当する仕様の列車模型で実験した場合における台車周りの粉体(擬似雪)の付着状態を撮影した画像。
図8】インテーク部は装着しノズル部は装着しない鉄道車両に相当する列車模型で実験した場合における台車周りの粉体の付着状態を撮影した画像。
図9】インテーク部とノズル部の両方を装着した鉄道車両に相当する列車模型で実験した場合における台車周りの粉体(擬似雪)の付着状態を撮影した画像。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を適用した実施形態の一例を説明するが、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限られないことは勿論である。
【0026】
図1は、本実施形態の鉄道車両の構成例を示す要部概要図であって、台車周りを下方から見上げた斜視外観図に相当する。なお、本実施形態の鉄道車両として、前後の方向を理解し易いように先頭車を例示しているが、中間車両についても本実施形態を同様に適用できる。また、各図中の直交三軸は鉄道車両の走行方向を基準とした前方・上方・左方の方向を示す。
【0027】
鉄道車両3は、台車4を、床下に設けられた台車収容空間10内に備える。
台車収容空間10は、下方に向けて開口する箱型空間であって、前方の端部ふさぎ板11Fと、後方の端部ふさぎ板11Rと、左方の側面カバー13Lと、右方の側面カバー13Rと、車両下面すなわち当該台車収容空間にとっての天井面15と、で囲繞された空間である。
【0028】
図2は、左方の側面カバー13Lと右方の側面カバー13Rの構成例を示す概略図であって、側面カバーの後部の部分斜視図に相当する。左方の側面カバー13Lと右方の側面カバー13Rは、左右対称形をしているので、以降では、左方の側面カバー13Lを代表として取り上げて説明する。
【0029】
左方の側面カバー13Lは、インテーク部20(前方のインテーク部20F、後方のインテーク部20R;図1参照)を有する。インテーク部20は、左方の側面カバー13Lの外側面から走行風を取り込み、取り込んだ空気を内側へ導くフラッシュインレットである。例えば、NACA(National Advisory Committee for Aeronautics)ダクトにより実現される。なお、フラッシュインレットの形態は、これに限らない。
【0030】
具体的には、インテーク部20(20F,20R)は、車両横方向の外側面上方寄りに設けられている。前方のインテーク部20Fは、先端が車両後方に向いており、後方のインテーク部20Rは先端が車両前方に向いている。
【0031】
車両の走行方向に対し前方を向いた後方のインテーク部20Rは、走行風圧を利用して側面カバー13Lの外側面から走行風を取り込むことができる。これに対し、車両の走行方向に対し後方を向いた前方のインテーク部20Fは、走行風圧が作用しないため、走行風の取り込みは行われない。このため、車両の走行方向が反転した場合、インテーク部20Rとインテーク部20Fの役目は自動的に切り替わり、インテーク部20Fから走行風を取り込むことができる。
【0032】
インテーク部20(20F,20R)は、カバーの内部に通風路21を有し、通風路21の出口23は、最寄りの端部ふさぎ板11(前方の端部ふさぎ板11F或いは後方の端部ふさぎ板11R)の左右方向において、左右端に寄せて開口している(図1,5参照)。
【0033】
図1に戻って、鉄道車両3は、台車収容空間10の四隅、具体的には、端部ふさぎ板11と側面カバー13との入隅部分にそれぞれノズル部30を備える。
【0034】
ノズル部30は、インテーク部20(20F,20R)と1対1で用意され、対応するインテーク部20(20F,20R)で取り込まれた空気を最寄りの端部ふさぎ板11(11F,11R)へ向けて吹き出す構造体である。
【0035】
図3及び図4は、ノズル部30の構成例を示す斜視図である。図5は、側面カバー13とノズル部30との相対位置関係を示す部分斜視図である。なお、これらの図において、太い黒色の矢印は、通風方向の概要を示している。
【0036】
ノズル部30は、端部ふさぎ板11と側面カバー13と、台車収容空間10の天井面15との三面でなる入隅部分を覆うように構成されている。ノズル部30の外観を概括すれば、全体として底面が略直角三角形の略三角柱となっているが、図2に示すように側方カバー13の内側下端が内方に向けて左右方向に絞られるデザインとなっている関係から、側方カバー13の内側面に合わせるように、略三角柱の下部は、左右方向に絞った形状になっている。また、側面カバー13と台車収容空間10の天井面15と端部ふさぎ板11との入隅部分に該当する上部の角部分が切り欠かれた形状を有する。
【0037】
上部の角部分が切り欠かれた部位を、切り欠き部31という。切り欠き部31の内側面と、端部ふさぎ板11と、台車収容空間10の天井面15と、でダクト空間33が形成される。ダクト空間33の入口開口部33iは、インテーク部20の通風路21の出口23(図5参照)より連通する位置に設定されている。そして、ダクト空間33の吹き出し口33dは、走行方向前方から見て、台車4の車輪の背部(車輪外周と端部ふさぎ板11との対向面)又は背部より少し外側に設定されている。
【0038】
従って、ダクト空間33の入口と出口に着目して述べれば、ノズル部30は、上下方向において台車収容空間10の天井面15寄りに吹き出し口33dが設けられており、ノズル部30の吹き出し方向は、最寄りの端部ふさぎ板11の板面に沿った方向であり、端部ふさぎ板11の左右中央に向けて定められている。
【0039】
そして、ノズル部30は、インテーク部20から排出される空気を取り入れる入口開口部33iの開口面積よりも、吹き出し口33dの開口面積の方が小さく設定されており、絞り効果により流速を高めて吹き出すように構成されている。
【0040】
次に、本実施形態が適用された鉄道車両3の着雪抑制効果について説明する。
図6は、列車模型走行装置100の構成例を示す図である。列車模型走行装置100は、高速走行時の車両床下部への着雪対策の効果を検証するための試験に用いることを前提に構成された装置であって、列車模型に、雪を模擬した粉体が散布された散布区間を走行させる全長が100mを超える装置である。
【0041】
具体的には、列車模型走行装置100は、
(1)本実施形態が適用された鉄道車両3の縮尺模型である列車模型120と、
(2)列車模型120を走行させる直線状に敷設された模型用の線路130と、
(3)列車模型120に一端が接続された第1索状体141及び列車模型120に他端が接続された第2索状体142と、
(4)第1索状体141を巻き取るための第1巻取装置150と、
(5)第2索状体142を巻き出すための第2巻取装置160と、
(6)第1巻取装置150及び第2巻取装置160の動作を電子・電気制御する制御装置170と、を備える。
【0042】
線路130は、列車模型120のための軌道であって、およそ100メートルの加速区間と、およそ100mの減速区間と、加速区間と減速区間の間に設けられた100メートル以上の実験区間と、を有する合計300メートル以上の直線状の模型軌道である。
【0043】
実験区間は、列車模型走行装置100を使用して効果検証するための模型実験を行う主区間であって、実験区間には積雪状態を再現すべく雪を模した粉体8が散布される。
【0044】
粉体8は、胡桃殻の粉、石灰粉、樹脂粉、などにより実現される。粒子径は、列車模型120の模型スケールや走行速度などの条件に応じて適宜設定する。本実施形態では、列車模型走行装置100を車両床下部への着雪対策の効果検証に用いる前提なので、粉体8として、列車模型120の走行により雪のように舞い上がり列車模型120に付着することができる粒子径に選定した。
【0045】
制御装置170は、第1巻取装置150の近傍に設置されてその動作制御を担う親制御装置171と、第2巻取装置160の近傍に設置されてその動作制御を担う子制御装置172と、親制御装置171及び子制御装置172を通信接続する通信ケーブル173と、図示されていない電源部と、を備える。
【0046】
実験は、制御装置170で、第1巻取装置150及び第2巻取装置160を制御して、列車模型120を粉体8が散布された実験区画を往復させて、列車模型120への粉体8を確認することで行った。
【0047】
図7は、無対策の鉄道車両(インテーク部20及びノズル部30を有しない鉄道車両)に相当する仕様の列車模型120で実験した場合における台車周りの粉体8の付着状態を撮影した画像である。画像の下方が走行方向の下流側すなわち台車収容空間10に進入した雪混じりの走行風が当たる側である。
【0048】
台車収容空間10内への粉体8の付着に着目すると、無対策の鉄道車両に相当する列車模型120では、走行方向の後方にあたる端部ふさぎ板11において、第1付着部91(図7中の短い破線で囲んだ楕円範囲)と、第2付着部92(図7中の長破線で輪郭線を描いた範囲)とに比較的多く付着が生じる。
【0049】
第1付着部91は、台車収容空間10の天井面15と端部ふさぎ板11との入隅部のうち車輪41より左右外側の範囲である。第2付着部92は、台車収容空間10の天井面15と、端部ふさぎ板11との入隅部のうち左右の車輪41の間に対応する範囲である。
【0050】
図8は、インテーク部20は装着するがノズル部30は装着しない鉄道車両に相当する列車模型120で実験した場合における台車周りの粉体8の付着状態を撮影した画像である。
【0051】
図8における第1付着部91への付着は、無対策の結果(図7参照)と比較すると、インテーク部20を装着することで、著しく減少したことが明らかである。図8における第2付着部92の輪郭線は、図7に示した無対策における第2付着部92の付着範囲を示している。図8における第2付着部92への付着は、車軸42付近への付着が図7の第2付着部92のそれよりも減少しているが、第2付着部92への付着抑制としては十分とは言えない。
【0052】
インテーク部20は装着するがノズル部30は装着しない場合、インテーク部20で取り込まれた走行風は、出口23で一気に吹き出されて開放されると考えられる。吹き出された空気によって、車輪41付近に浸入した雪の接線速度が増加され、第1付着部91での付着が抑制されたと考えられる。しかし、走行風が出口23で一気に吹き出されて開放されたために、吹き出す流速は低く、第2付着部92までには及ばなかったために、第2付着部92での付着抑制効果は十分得られなかったと推測される。
【0053】
図9は、インテーク部20とノズル部30の両方を装着した鉄道車両に相当する列車模型120で実験した場合における台車周りの粉体8の付着状態を撮影した画像である。
【0054】
図9における第1付着部91への付着は、インテーク部20のみ装着した場合(図8参照)と比較すると僅かに付着が生じているが、無対策の場合(図7参照)と比較すると著しく減少したことが明らかである。
【0055】
図9における第2付着部92の輪郭線は、図8に示したインテーク部20のみ装着した場合の付着範囲を示している。図9における第2付着部92への付着は、インテーク部20のみ装着した場合のそれと比較すると付着が大きく低減したことが明らかである。
【0056】
このように、本実施形態によれば、インテーク部20で取り込まれた空気をノズル部30で端部ふさぎ板11へ向けて吹き付けるので、端部ふさぎ板11の板面付近での雪の接線速度の低下を抑制し、着雪を抑制できる。
【0057】
側面カバー13は、車両の側方を覆う付属部品であるので、本実施形態のインテーク部を設けた仕様の側面カバー13を別途用意して、既存の車両が備える既存の側面カバーと交換すれば、容易に本実施形態と同じ作用効果を奏する鉄道車両を構成することができる。その側面カバー13も、インテーク部20を設けただけなので、従来の側面カバーと比べて台車の機能や台車の保守性を損なうことはない。
【0058】
また、インテーク部20は、フラッシュインレットタイプのエアインテークなので、インテーク部20を設けた仕様の側面カバー13であっても、外形寸法がインテーク部20の無い従来の側面カバーから変化しない(或いはほとんど変化しない)ので、車両限界の寸法内で本実施形態を実現できる。インテーク部20の形状も、NACAインテークとすることで、インテーク部20の無い従来の側面カバーや、空力的性能を考慮しない吸気口形状を採用する場合と比較すると、空力音の変化も少なくて済む。
【0059】
また、付着のもとになる雪の多くは、軌道を鉄道が走行することで巻き上げられる雪煙であって、雪煙は軌道から離れて上方に向かうほど急速に薄くなる。従って、インテーク部20を、側面カバー13の上方寄りに設けることで、下方寄りに設けた場合よりもインテーク部20に取り込まれる走行風に混じる雪の量を大幅に低減することができる。
【0060】
また、従来に比べて、台車収容空間10にノズル部30を追加することになるが、台車収容空間10内の四つの入隅部に後付けが可能であるので、既存の車両への適用が容易であり、台車4の機能や保守性も損なうことも車両限界を超えることも無い。また、同様の理由により、空力音の変化も少なくて済む。
【0061】
また、ノズル部30は、絞り効果により吹き出す空気の流速を高めることができる。よって、雪の接線速度の低下を抑制するのみならず、仮に雪が付着したとしても、比較的付着量が少ないうちに吹き飛ばすことが可能になる。
【0062】
以上、本発明を適用した実施形態の一例を説明したが、本発明が適用可能な形態は上記の実施形態そのものに限らない。例えば、図1では鉄道車両3を先頭車両(進行方向によっては最後尾車両となり得る。)として描いているが、中間車両にも本実施形態を適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
3…鉄道車両
4…台車
10…台車収容空間
11(11F,11R)…端部ふさぎ板
13(13L,13R)…側面カバー
15…天井面
20(20F,20R)…インテーク部
21…通風路
23…出口
30…ノズル部
31…切り欠き部
33…ダクト空間
33d…吹き出し口
33i…入口開口部
41…車輪
42…車軸
91…第1付着部
92…第2付着部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9