(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20231114BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2020024491
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】仁田野 雅秀
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148690(JP,A)
【文献】特開2008-143200(JP,A)
【文献】特開2017-052447(JP,A)
【文献】特開2019-104488(JP,A)
【文献】特開2019-127218(JP,A)
【文献】特開2019-182266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させるべく転舵シャフトを軸方向に移動させるための動力となるモータトルクを発生するモータと、前記モータの回転を前記転舵シャフトに伝達する伝動機構とを有する操舵装置を制御対象とし、
前記伝動機構の状態を監視する状態監視部を備え、
前記状態監視部は、
前記転舵シャフトが軸方向へ移動する際の速度の変化率の減少度合いに基づいて前記転舵シャフトの軸方向への移動が機械的に規制されるエンド当てであるか否かを判定するエンド当て判定処理と、
前記エンド当て判定処理の判定結果に基づき前記エンド当ての発生状況を数値化して得られる値である判定値を算出する判定値算出処理と、
前記伝動機構の異常を検出するべく、前記判定値算出処理で算出された前記判定値が前記伝動機構に異常があることを示す値であるか否かを判定する異常状態判定処理と、を実行
し、
前記状態監視部は、前記判定値算出処理にて、前記エンド当て判定処理で前記エンド当てであることを判定する毎に得られる所定値を累積した値として前記判定値を算出するように構成されており、
前記状態監視部は、前記判定値算出処理にて、前記転舵シャフトが軸方向へ移動する際の速度に基づき算出されるゲインを、前記エンド当て判定処理で前記エンド当てであることを判定する毎に得られる固定値に乗算した値を前記所定値として算出するように構成されている
ことを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記転舵輪が転舵する際の構造上の限界の舵角である第1限界舵角未満の範囲で前記転舵輪が転舵する際の限界を制御的に設定する限界の舵角である第2限界舵角に規制する機能を有しており、
前記状態監視部は、前記エンド当て判定処理にて、前記エンド当てであることを判定する条件として、前記転舵輪の舵角に換算可能な状態変数が前記第1限界舵角に対応して設定されている第1限界値未満、且つ、前記第2限界舵角に対応して設定されている第2限界値よりも大きい範囲内にあることを設定するように構成されている請求項
1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記伝動機構は、
前記転舵シャフトに設けられたボールねじ部に複数のボールを介して螺合するボールナットと、
前記モータの回転を前記ボールナットに伝達する歯付きのベルトとを有するものである請求項1
又は請求項
2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記操舵装置は、運転者により操舵される操舵機構と、前記転舵シャフト、前記モータ及び前記伝動機構を有する転舵機構との間の動力伝達路が分離した構造を有するものである請求項1~請求項
3のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1の操舵装置は、モータの回転を転舵シャフトに伝達する構成としてベルト伝動機構を有している。ベルト伝動機構は、モータの出力軸に設けられる駆動プーリ、転舵シャフトに螺合されたボールナットに設けられる従動プーリ、および2つのプーリに巻き掛けられるベルトを有している。上記特許文献1には、こうした電動パワーステアリング装置のモータの駆動を制御する操舵制御装置の一例が開示されている。この操舵制御装置は、ステアリングホイールの操舵速度およびモータの回転速度に基づきベルト伝動機構の異常を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
操舵装置にはより高い信頼性が要求される。このため、モータの回転を転舵シャフトに伝達する伝動機構の円滑な動作が困難となる状況をより早く検出することが求められる。
本発明の目的は、モータの回転を転舵シャフトに伝達する伝動機構の状態を適切に監視できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する操舵制御装置は、車両の転舵輪を転舵させるべく転舵シャフトを軸方向に移動させるための動力となるモータトルクを発生するモータと、前記モータの回転を前記転舵シャフトに伝達する伝動機構とを有する操舵装置を制御対象とし、前記伝動機構の状態を監視する状態監視部を備え、前記状態監視部は、前記転舵シャフトが軸方向へ移動する際の速度の変化率の減少度合いに基づいて前記転舵シャフトの軸方向への移動が機械的に規制されるエンド当てであるか否かを判定するエンド当て判定処理と、前記エンド当て判定処理の判定結果に基づき前記エンド当ての発生状況を数値化して得られる値である判定値を算出する判定値算出処理と、前記伝動機構の異常を検出するべく、前記判定値算出処理で算出された前記判定値が前記伝動機構に異常があることを示す値であるか否かを判定する異常状態判定処理と、を実行するようにしている。
【0006】
ここで、転舵シャフトが軸方向へ移動している状態から当該移動が機械的に規制される場合、転舵シャフトが軸方向へ移動する際の速度の変化率が減少する現象として現れるところ、その減少度合いはエンド当てのなかでも転舵輪が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当てでより大きくなる。そして、こうした転舵輪が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当てでは、他の要因のエンド当てと比較して伝動機構に蓄積されるダメージが大きいことが一般的に知られている。
【0007】
上記構成によれば、転舵輪が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当てを検出することができるようになる。こうした転舵輪が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当ては、繰り返し発生することで伝動機構のダメージとして蓄積されて行くところ、発生状況を数値化することで伝動機構に蓄積されているダメージを定量的に検出することができるようになる。そして、伝動機構に蓄積されているダメージが大きくなるといずれモータの回転を転舵シャフトに伝達することができない伝動機構の円滑な動作が困難となる状態に陥らせる原因になる可能性がある。つまり、上記構成を用いては、伝動機構の円滑な動作が困難となる状態に至る前に、その予兆として伝動機構の異常、すなわち操舵装置の機械的な異常をより適切に検出することができるようになる。したがって、モータの回転を転舵シャフトに伝達する伝動機構の状態を適切に監視することができる。
【0008】
上述のように、伝動機構に蓄積されているダメージを定量的に検出する方法としては、具体的には、上記状態監視部は、前記判定値算出処理にて、前記エンド当て判定処理で前記エンド当てであることを判定する毎に得られる所定値を累積した値として前記判定値を算出するように構成されていることが好ましい。
【0009】
ここで、転舵シャフトが軸方向へ移動する際の速度は、大きいほどにエンド当てで伝動機構に蓄積されるダメージが大きくなる。
このため、上記操舵制御装置において、前記状態監視部は、前記判定値算出処理にて、前記転舵シャフトが軸方向へ移動する際の速度に基づき算出されるゲインを、前記エンド当て判定処理で前記エンド当てであることを判定する毎に得られる固定値に乗算した値を前記所定値として算出するように構成されていることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、伝動機構に蓄積されるダメージと相関のある転舵シャフトが軸方向へ移動する際の速度に基づき重み付けされた結果である所定値を累積することができるようになる。これにより、転舵シャフトが軸方向へ移動する際の速度が大きく、伝動機構の異常に与える影響が大きいと考えられる場合には所定値を判定値に対して大きく反映させることができ、伝動機構の異常の検出精度を高めるのに効果的である。
【0011】
また、上記操舵制御装置において、前記転舵輪が転舵する際の構造上の限界の舵角である第1限界舵角未満の範囲で前記転舵輪が転舵する際の限界を制御的に設定する限界の舵角である第2限界舵角に規制する機能を有しており、前記状態監視部は、前記エンド当て判定処理にて、前記エンド当てであることを判定する条件として、前記転舵輪の舵角に換算可能な状態変数が前記第1限界舵角に対応して設定されている第1限界値未満、且つ、前記第2限界舵角に対応して設定されている第2限界値よりも大きい範囲内にあることを設定するように構成されていることが好ましい。
【0012】
上記構成のような転舵輪が転舵する際の限界を制御的に設定する機能を有する場合には、制御的に設定する限界を転舵輪が少なくとも超えた状況でエンド当てが発生することになる。この点、上記構成によれば、エンド当てであることを判定する場合、制御的に設定する限界を転舵輪が少なくとも超えた状況を加味して判定できるので、転舵輪が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当ての検出精度を高めることができる。
【0013】
また、上記操舵制御装置において、前記伝動機構は、前記転舵シャフトに設けられたボールねじ部に複数のボールを介して螺合するボールナットと、前記モータの回転を前記ボールナットに伝達する歯付きのベルトとを有するものであることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、モータの回転を転舵シャフトに伝達する構成として歯付きのベルトを有する伝動機構が用いられている場合において、当該伝動機構の機能の要であるベルトの状態を適切に監視することができるようになる。したがって、モータの回転を転舵シャフトに伝達する伝動機構の異常を適切に検出することができるようになる。
【0015】
また、上記操舵制御装置において、前記操舵装置は、運転者により操舵される操舵機構と、前記転舵シャフト、前記モータ及び前記伝動機構を有する転舵機構との間の動力伝達路が分離した構造を有するものであることが好ましい。
【0016】
ここで、転舵機構の機械的な異常を検出することは、当該転舵機構と、上記操舵機構との間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置、所謂、ステアバイワイヤ式の操舵装置では特に重要である。これは、上記転舵機構に機械的な異常が発生したとしてもこのような状況が上記操舵機構を通じて運転者に伝達されないからである。
【0017】
この点、上記構成によれば、伝動機構の異常、すなわち転舵機構の機械的な異常を検出することができるようになる。したがって、所謂、ステアバイワイヤ式の操舵装置において、転舵機構の機械的な異常を検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の操舵制御装置によれば、モータの回転を転舵シャフトに伝達する伝動機構の状態を適切に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】転舵機構でのベルト異常を検出するための処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に適用した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の操舵装置1は、ステアバイワイヤ式の操舵装置である。操舵装置1は、当該操舵装置1の作動を制御する操舵制御装置2を備えている。操舵装置1は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵機構4と、運転者による操舵機構4の操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵機構6とを備えている。本実施形態の操舵装置1は、操舵機構4と、転舵機構6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。
【0021】
操舵機構4は、ステアリングホイール3が連結されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11を介してステアリングホイール3に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する操舵側アクチュエータ12とを備えている。
【0022】
操舵側アクチュエータ12は、駆動源となる操舵側モータ14と、ウォームアンドホイールからなる減速機15とを備えている。操舵側モータ14は、減速機15を介してステアリングシャフト11に連結されている。
【0023】
転舵機構6は、ピニオン軸21と、ピニオン軸21に連結された転舵シャフトとしてのラック軸22と、ラック軸22を軸方向への往復動可能に収容するラックハウジング23と、ピニオン軸21及びラック軸22からなるラックアンドピニオン機構24とを備えている。ラックハウジング23は、それぞれ円筒状に形成された第1ハウジング25と第2ハウジング26とを有している。ラック軸22とピニオン軸21とは、第1ハウジング25内に所定の交差角をもって配置されている。ラックアンドピニオン機構24は、ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとが噛合されることで構成されている。また、ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド27を介してタイロッド28が連結されており、タイロッド28の先端は、転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0024】
ピニオン軸21は、ラック軸22をラックハウジング23の内部に支持するために設けられている。すなわち、転舵機構6に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22はその軸線方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はラックハウジング23の内部に支持される。また、ラック軸22の回転が規制される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をラックハウジング23に支持する他の支持機構を設けてもよい。この場合、転舵機構6としてピニオン軸21を割愛した構成を採用してもよい。
【0025】
また、転舵機構6は、ラック軸22に対して転舵輪5を転舵させるべく軸方向へ移動するための動力を付与する転舵側アクチュエータ31を備えている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ32と、伝動機構33とを備えており、第1ハウジング25と第2ハウジング26との連結部分に設けられている。
【0026】
転舵側モータ32は、例えば、三相のブラシレスモータが採用される。転舵側モータ32は、第1ハウジング25の外側の部分に固定される。転舵側モータ32の出力軸32aはラック軸22に対して平行に延びている。
【0027】
図2に示すように、伝動機構33は、ボールナット40、歯付きの駆動プーリ41、歯付きの従動プーリ42、および歯付きの無端状のベルト43を有している。
ボールナット40は、ラック軸22に形成された螺旋状の溝であるボールねじ部22bに対して複数のボールを介して螺合されている。ボールねじ部22bは、ラック軸22における第1の端部(
図1中の左端部)に寄った所定範囲にわたって設けられている。駆動プーリ41は、転舵側モータ32の出力軸32aに固定されている。従動プーリ42は、ボールナット40の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト43は、駆動プーリ41と従動プーリ42との間に掛け渡されている。したがって、転舵側モータ32の回転は、駆動プーリ41、ベルト43、及び従動プーリ42を介してボールナット40に伝達される。
【0028】
そして、転舵側アクチュエータ31は、転舵側モータ32の回転を伝動機構33にてラック軸22の軸方向への往復動に変換することで当該ラック軸22に対して動力を付与する。
【0029】
このように構成された操舵装置1では、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵側アクチュエータ31からラック軸22に対してモータトルクが動力として付与されることで、転舵輪5の舵角θdが変更される。このとき、操舵側アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に対して付与される。
【0030】
図1に示すように、操舵側モータ14及び転舵側モータ32には、各モータ14,32の駆動を制御する操舵制御装置2が接続されている。操舵制御装置2は、各種のセンサの検出結果に基づき、各モータ14,32の制御量である電流の供給を制御することによって、各モータ14,32の駆動を制御する。各種のセンサとしては、例えば、車速センサ62、トルクセンサ63、操舵側回転角センサ64、転舵側回転角センサ65、操舵側電流センサ66、及び転舵側電流センサ67がある。
【0031】
車速センサ62は、車両の走行速度である車速値Vを検出する。トルクセンサ63は、運転者のステアリング操舵によりステアリングシャフト11に付与された操舵トルクThを検出する。操舵側回転角センサ64は、操舵側モータ14の回転軸の回転角である操舵角θsを検出する。転舵側回転角センサ65は、転舵側モータ32の回転軸の回転角である転舵角θtを検出する。操舵側電流センサ66は、操舵側モータ14に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得し、これを操舵側モータ14の出力であるモータトルクの大きさを示す実電流値Isqとして検出する。転舵側電流センサ67は、転舵側モータ32に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得し、これを転舵側モータ32の出力であるモータトルクの大きさを示す実電流値Itqとして検出する。
【0032】
また、操舵制御装置2には、例えば、車両内部のインスツルメントパネル、所謂、インパネに設けられた警告装置61が接続されている。警告装置61は、点灯や点滅することによって運転者への警告を実施するものである。本実施形態において、警告装置61は、転舵機構6の機械的な異常の発生を運転者に警告する。この転舵機構6の機械的な異常には、伝動機構33の円滑な動作が困難となる状態や、そのまま放っておくと伝動機構33の円滑な動作が困難となる状態である予兆の状態を含んでいる。
【0033】
次に、操舵制御装置2の構成について説明する。
図1に示すように、操舵制御装置2は、中央処理装置(以下「CPU」という)50及びメモリ51を備えている。CPU50は、メモリ51に記憶されたプログラムを所定の演算周期ごとに実行することによって、モータトルクを発生させるように各モータ14,32の駆動の制御を含む各種制御を実行する。本実施形態において、CPU50は制御部の一例である。
【0034】
具体的には、CPU50は、運転者によるステアリング操舵に応じた操舵反力を発生させるように当該操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する。この場合、例えば、CPU50は、操舵トルクTh及び車速値Vに基づき目標反力トルクを演算する。そして、CPU50は、操舵側モータ14の操舵角θs及び実電流値Isqに基づいて、目標反力トルクに応じたモータトルクが発生するように操舵側モータ14に駆動電力を供給することで、その駆動を制御する。これにより、操舵機構4にて操舵反力が発生させられる。
【0035】
また、CPU50は、転舵側モータ32の転舵角θtに基づいて、中点θt0からの転舵側モータ32の回転数をカウントしており、中点θt0を原点として転舵角θtを積算した角度である積算角を演算する。なお、中点θt0は、車両が直進する際の転舵角θtであり、転舵輪5の中点舵角θd0と対応する。そして、CPU50は、この積算角に伝動機構33の減速比、ボールナット40のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数Kを乗算することにより、転舵輪5の舵角θdとしてピニオン角θpを演算する。つまり、転舵角θtは転舵輪5の舵角θdに換算可能な状態変数である。ピニオン角θpは、ピニオン軸21の回転角を示す角度である。なお、ピニオン角θpは、中点θp0よりも、例えば左側の角度である場合に正、右側の角度である場合に負とする。
【0036】
CPU50は、運転者によるステアリング操舵に応じたピニオン角θpとなるように当該ピニオン角θpの目標値となる目標ピニオン角θp*を演算する。この場合、例えば、CPU50は、操舵角θsに基づき、当該操舵角θsと同値となるように目標ピニオン角θp*を演算する。CPU50は、ピニオン角θpが目標ピニオン角θp*に追従するようにフィードバック制御を実行することにより、動力の目標値となる目標転舵トルクを演算する。そして、CPU50は、転舵側モータ32の転舵角θt及び実電流値Itqに基づいて、目標転舵トルクに応じたモータトルクが発生するように転舵側モータ32に駆動電力を供給することで、その駆動を制御する。これにより、転舵機構6にて動力が発生させられる。
【0037】
また、CPU50は、運転者によるステアリング操舵の操舵限界を規定するための規制反力を操舵反力として発生させるようになっている。規制反力としては、運転者によるステアリング操舵によってそれ以上は操舵角θsの絶対値が大きくなる側への切り込み操舵ができなくなるほどの大きさの操舵反力が発生させられる。規制反力は、車両が直進する際の中点θp0を基準として、転舵輪5が転舵する際の構造上の限界の左右両側の第1限界舵角に対応するメカ限界角θpend(l),θpend(r)未満の範囲で、当該メカ限界角θpend(l),θpend(r)近傍のピニオン角θpに対応する角度に操舵角θsが達する場合に発生させられる。本実施形態において、ピニオン角θpについての転舵輪5が転舵する際の構造上の左側の限界であるメカ限界角θpend(l)及び転舵輪5が転舵する際の構造上の右側の限界であるメカ限界角θpend(r)は転舵輪5のメカニカルな限界舵角に対応する。転舵輪5のメカニカルな限界舵角は、ラック軸22が軸方向移動するなかで当該ラック軸22の転舵輪5側に近接して設けられたラックエンド27がラックハウジング23の軸方向両側の端部23aにそれぞれ当接し、ラック軸22の軸方向への移動が機械的に規制されるエンド当ての位置によって規定される。
【0038】
そして、本実施形態では、規制反力が発生させられることにより、メカ限界角θpend(l),θpend(r)に達する、すなわち上記エンド当ての前に、規制反力が発生させられる操舵角θsに対応する仮想限界角θpvend(l),θpvend(r)にピニオン角θpが規制される。本実施形態において、ピニオン角θpについての仮想限界角θpvend(l),θpvend(r)は転舵輪5が転舵する際の制御上の限界の左右両側の第2限界舵角、すなわち転舵輪5の限界舵角として制御により仮想的に作られた限界舵角に対応する。
【0039】
次に、転舵機構6の機械的な異常を検出するためにCPU50が実行する処理について説明する。以下では、CPU50は、メモリ51に記憶されたプログラムに基づいて、制御周期毎に周期処理を実行することによって、転舵機構6の機械的な異常を検出するための処理を実行する。
【0040】
図3に示すように、CPU50は、転舵側モータ32について、転舵角θtを取得する(ステップS10)。この処理では、CPU50が転舵側モータ32の駆動を制御する際に取得する転舵角θtを用いるようにしてもよい。
【0041】
続いて、CPU50は、上記ステップS10で取得した転舵角θtに基づき伝動機構33に蓄積されているダメージの定量的な量であるダメージ量Dmintを算出するための処理であるダメージ量算出処理を実行する(ステップS20)。
【0042】
ここで、ダメージ量算出処理について詳しく説明する。
図4に示す処理は、メモリ51に記憶されたプログラムをCPU50が実行することで実現される処理の一部のうち、ダメージ量算出処理として実現される処理を記載したものである。
【0043】
ダメージ量算出処理部70は、伝動機構33に蓄積されるダメージの要因となるエンド当てであることを判定するべく機能するエンド当て判定処理部71と、エンド当ての発生状況を数値化して得られる値である判定値としてダメージ量Dmintを算出するべく機能する判定値算出処理部72とを有している。
【0044】
ダメージ量算出処理部70には、上記ステップS10で取得した転舵角θtに基づき演算されるピニオン角θpが入力される。ダメージ量算出処理部70において、ピニオン角θpは、ラック軸22が軸方向へ移動する際の速度に対応するピニオン角θpの角速度を示すように、微分器73を通じて微分することにより得られる角速度ωに変換される。この角速度ωは、ラック軸22が軸方向へ移動する際の速度の変化率に対応するピニオン角θpの角加速度を示すように、微分器74を通じて微分することにより得られる角加速度αに変換される。
【0045】
エンド当て判定処理部71には、上記ステップS10で取得した転舵角θtに基づき演算されるピニオン角θpと、当該ピニオン角θpを二階微分して得られる角加速度αが入力される。そして、エンド当て判定処理部71は、角加速度αに基づき算出される加速度判定結果Raに対して、ピニオン角θpに基づき算出される角度判定結果C1を乗算して得られる値としてエンド当て判定結果Rを算出する。
【0046】
具体的には、エンド当て判定処理部71は、角加速度αと、加速度判定結果Raとの関係を定めた加速度判定結果算出マップ75を備えており、角加速度αを符号反転させた値を入力とし、加速度判定結果Raをマップ演算する。本実施形態において、加速度判定結果Raは、角加速度αが減速の状態を示し、当該減速の大きさである減少度合いが閾加速度αth以上の場合にエンド当てであることを示す値である「1」として算出される。また、加速度判定結果Raは、角加速度αが加速の状態を示す場合や、角加速度αが減速の状態を示し、減少度合いが閾加速度αth未満である場合にエンド当てでないことを示す値である「0(零)」として算出される。閾加速度αthは、転舵輪5が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当てであることを判定できるとして実験的に求められる範囲の値に設定されている。つまり、換言すれば、加速度判定結果算出マップ75は、他の要因のエンド当てと比較して伝動機構に蓄積されるダメージが大きい転舵輪5が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当てであるか否かを判定するべく、ラック軸22が軸方向へ移動する際の速度の変化率の減少度合いが閾加速度αth以上であるか否かを判定するために用いられる。
【0047】
また、エンド当て判定処理部71は、ピニオン角θpと、角度判定結果C1との関係を定めた角度判定結果算出マップ76を備えており、ピニオン角θpを入力とし、角度判定結果C1をマップ演算する。なお、
図4中、角度判定結果算出マップ76は、中点θp0よりも、左側及び右側の両側の角度を纏めて示すべく、横軸をピニオン角θpの絶対値としている。本実施形態において、角度判定結果C1は、ピニオン角θpの絶対値が閾角度θth以上の場合に転舵輪5の転舵を制御的に規制できていない状況、すなわちステアリング操舵は制御的に規制されているにもかかわらず縁石等の障害物に当たった衝撃で転舵輪5が仮想的な限界舵角を超えていることを示す値である「1」として算出される。また、角度判定結果C1は、ピニオン角θpの絶対値が閾角度θth未満の場合に転舵輪5の転舵を制御的に規制できている状況、すなわちステアリング操舵が制御的に規制されているとともに転舵輪5が仮想的な限界舵角を超えていないことを示す値である「0(零)」として算出される。閾角度θthは、メカ限界角θpend(l),θpend(r)未満の範囲で、仮想限界角θpvend(l),θpvend(r)よりも大きい範囲内の値であって、転舵輪5の転舵を制御的に規制できなかった状況であることを判定できるとして実験的に求められる範囲の値に設定されている。つまり、換言すれば、角度判定結果算出マップ76は、転舵輪5の転舵を制御的に規制できず伝動機構33にいくらかのダメージが蓄積され得る状態であるか否かを判定するべく、ピニオン角θpが閾角度θth以上であるか否かを判定するために用いられる。
【0048】
そして、エンド当て判定処理部71は、乗算部77を通じて、加速度判定結果算出マップ75の出力である加速度判定結果Raに対して、角度判定結果算出マップ76の出力である角度判定結果C1を乗算することでエンド当て判定結果Rを算出する。本実施形態において、エンド当て判定結果Rは、加速度判定結果Ra及び角度判定結果C1がともに「1」となる場合にエンド当てであることを判定し、エンド当てであることを判定する毎に「1」の固定値が得られるように構成されている。一方、エンド当て判定結果Rとしては、加速度判定結果Ra及び角度判定結果C1の少なくとも一方が「0」となる場合にエンド当てでないことを判定し、この場合には「1」の固定値が得られないように構成されている。
【0049】
判定値算出処理部72には、上記エンド当て判定処理部71で算出されたエンド当て判定結果Rが入力される。判定値算出処理部72は、エンド当て判定結果Rとしてエンド当てであることが判定される毎に得られる所定値としてカウント値Cを算出し、当該カウント値Cを累積加算して得られる判定値としてダメージ量Dmintを算出する。
【0050】
具体的には、判定値算出処理部72は、角速度ωと、ゲインC2との関係を定めたゲイン算出マップ78を備えており、角速度ωを入力とし、ゲインC2をマップ演算する。なお、
図4中、ゲイン算出マップ78は、左側及び右側の角速度を纏めて示すべく、横軸を角速度ωの絶対値としている。本実施形態において、ゲインC2は、基本的にゼロよりも大きい値として角速度ωの絶対値が大きくなるほど大きい値として算出される。つまり、換言すれば、ゲイン算出マップ78は、伝動機構33の異常に与える影響が大きい場合にはその場合のカウント値Cをダメージ量Dmintに対して大きく反映させるべく、伝動機構33に蓄積されるダメージと相関のある角速度ωに基づきエンド当て判定結果Rを重み付けする処理である。
【0051】
そして、判定値算出処理部72は、乗算部79を通じて、エンド当て判定処理部71の出力であるエンド当て判定結果Rに対して、ゲイン算出マップ78の出力であるゲインC2を乗算することでカウント値Cを算出する。つまり、判定値算出処理部72は、エンド当て判定結果Rがエンド当てであることを判定した結果である固定値「1」の場合、ゲインC2を、この固定値「1」に乗算した値を所定値であるカウント値Cとして算出する。
【0052】
続いて、判定値算出処理部72は、加算部80を通じて、上記カウント値Cと、前回値保持部81を通じて直前周期(1周期前)に保持された値である前回値のダメージ量Dmintとを加算することでダメージ量Dmintを算出する。
【0053】
図3の説明に戻り、上記ステップS20の処理であるダメージ量算出処理において、CPU50は、ダメージ量Dmintを演算すると、当該ダメージ量Dmintが異常判定値Dth以上である(Dmint≧Dth)か否かを判定する(ステップS30)。この処理は、エンド当てに関わって伝動機構33にダメージが蓄積され得る状態が繰り返し発生することで伝動機構33のダメージとして蓄積されたダメージ量Dmintを検出するためのものである。本実施形態において、異常判定値Dthは、伝動機構33にこれ以上ダメージが蓄積されると転舵側モータ32の回転をラック軸22に伝達することができない伝動機構33の円滑な動作が困難となる状態、すなわちベルト43が破断するベルト破断の状態に陥らせるとしてベルト43の耐久試験等を通じて実験的に求められる範囲の値に設定されている。
【0054】
つまり、上記ステップS30の処理によっては、ベルト43の状態としてベルト破断の状態に近づいているか否かの監視をするなかで、転舵機構6の機械的な異常として、ベルト破断の状態を検出することができる。本実施形態において、CPU50は、状態監視部の一例である。そして、上記ステップS30の処理は、異常状態判定処理に相当する。
【0055】
上記ステップS30において、CPU50は、ダメージ量Dmintが異常判定値Dth未満であると判定する場合(ステップS30:NO)、転舵機構6に機械的な異常が生じていないことを判定し、ステップS10の処理に戻り当該ステップS10以後の処理を繰り返し実行する。
【0056】
一方、CPU50は、ダメージ量Dmintが異常判定値Dth以上であると判定する場合(ステップS30:YES)、伝動機構33にこれ以上ダメージが蓄積されるとベルト破断の状態に陥る可能性があることを検出し転舵機構6の機械的な異常としてベルト異常を確定させるための処理を実行する(ステップS40)。ステップS40にて、CPU50は、転舵機構6の機械的な異常を検出した旨を運転者に警告するべく、警告装置61を点灯や点滅させるように点灯状態を制御する。また、CPU50は、転舵機構6の機械的な異常を検出した旨を記録するべく、その旨を示す異常情報をメモリ51にて記録する。こうしてメモリ51に記録された異常情報は、図示しない診断ツールが操舵制御装置2に対して外部から接続される場合に、当該診断ツールに対して出力される。本実施形態において、メモリ51は、ダイアグとしての機能を有する。その後、CPU50は、フェールセーフとしてメカ異常時フェールを作動させる処理へと移行する。本実施形態において、メカ異常時フェールでは、運転者に警告をしつつ車両を安全に停車させるための処理を実行したりする。
【0057】
以下、本実施形態の作用を説明する。
ここで、ラック軸22が軸方向へ移動している状態から当該移動が機械的に規制される場合、ラック軸22が軸方向へ移動する際の速度の変化率が減少する現象として現れるところ、その減少度合いはエンド当てのなかでも転舵輪5が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当てでより大きくなる。そして、こうした転舵輪5が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当てでは、他の要因のエンド当てと比較して伝動機構33に蓄積されるダメージが大きいことが一般的に知られている。
【0058】
この点、本実施形態によれば、転舵輪5が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当てを検出することができるようになる。こうした転舵輪5が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当ては、繰り返し発生することで伝動機構33のダメージとして蓄積されて行くところ、発生状況を数値化することで伝動機構33に蓄積されているダメージを定量的に検出することができるようになる。そして、伝動機構33に蓄積されているダメージが大きくなるといずれ転舵側モータ32の回転をラック軸22に伝達することができない伝動機構33の円滑な動作が困難となる状態に陥らせる原因になる可能性がある。つまり、本実施形態を用いては、伝動機構33の円滑な動作が困難となる状態に至る前に、その予兆として伝動機構33の異常、すなわち転舵機構6の機械的な異常をより適切に検出することができるようになる。
【0059】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1)本実施形態では、上記ステップS30のように、上記ステップS20を通じて算出された伝動機構33に蓄積されているダメージ量Dmintが異常判定値Dth以上であるか否かを判定する処理を有している。これにより、伝動機構の円滑な動作が困難となる状態に至る前に、その予兆として伝動機構の異常、すなわち転舵機構6の機械的な異常をより適切に検出することができるようになる。したがって、転舵側モータ32の回転をラック軸22に伝達する伝動機構33の状態を適切に監視することができる。
【0060】
(2)ここで、ラック軸22が軸方向へ移動する際の速度は、大きいほどにエンド当てで伝動機構33に蓄積されるダメージが大きくなる。
これに対して、本実施形態では、ダメージ量算出処理部70がゲイン算出マップ78を有しているので、伝動機構33に蓄積されるダメージと相関のある角速度ωに基づき重み付けされた結果であるカウント値Cを累積することができるようになる。これにより、角速度ωの絶対値が大きく、伝動機構33の異常に与える影響が大きいと考えられる場合にはカウント値Cをダメージ量Dmintに対して大きく反映させることができ、伝動機構33の異常の検出精度を高めるのに効果的である。
【0061】
(3)本実施形態のような転舵輪5が転舵する際の限界を制御的に設定する機能を有する場合には、制御的に設定する限界を転舵輪5が少なくとも超えた状況でエンド当てが発生することになる。この点、本実施形態によれば、エンド当てであることを判定する場合、制御的に設定する限界を転舵輪5が少なくとも超えた状況を加味して判定できるので、転舵輪5が縁石等の障害物に当たった衝撃が要因のエンド当ての検出精度を高めることができる。
【0062】
(4)本実施形態のように、転舵側モータ32の回転をラック軸22に伝達する構成としてベルト43を有する伝動機構33が用いられている場合において、当該伝動機構33の機能の要であるベルト43の状態を適切に監視することができるようになる。したがって、転舵側モータ32の回転をラック軸22に伝達する伝動機構33の異常を適切に検出することができるようになる。
【0063】
(5)ここで、転舵機構6の機械的な異常を検出することは、当該転舵機構6と、操舵機構4との間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置、所謂、ステアバイワイヤ式の操舵装置1では特に重要である。これは、転舵機構6に機械的な異常が発生したとしてもこのような状況が操舵機構4を通じて運転者に伝達されないからである。
【0064】
この点、本実施形態によれば、伝動機構33の異常、すなわち転舵機構6の機械的な異常を検出することができるようになる。したがって、所謂、ステアバイワイヤ式の操舵装置1において、転舵機構6の機械的な異常を検出することができる。
【0065】
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・上記ステップS30の処理では、ダメージ量Dmintが異常判定値と一致する場合、異常を検出しないことを許容してもよい。
【0066】
・ダメージ量算出処理部70では、転舵角θtに替えて、ラック軸22の軸方向の位置を検出するストロークセンサの検出結果であったり、ピニオン軸21に設けられたレゾルバの検出結果であったり、転舵輪5の舵角に換算可能な状態変数を用いるようにしてもよい。
【0067】
・ダメージ量算出処理部70では、マップ演算に替えて関数(数式等の演算式)を用いて加速度判定結果Raや角度判定結果C1を算出することもできる。また、ダメージ量算出処理部70では、3次元マップを用いることで加速度判定結果Raや角度判定結果C1を算出することもできる。また、ダメージ量算出処理部70が備えている加速度判定結果算出マップ75及び角度判定結果算出マップ76の具体的な特性については、例えば、「0」及び「1」以外の数値を結果として出力できるように構成することもできる。これは、ゲインC2や、当該ゲインC2を算出するのに用いるゲイン算出マップ78についても同様であり、当該ゲイン算出マップ78の具体的な特定については、例えば、車両の仕様や使用環境等に応じて適宜変更可能である。
【0068】
・ダメージ量算出処理部70では、ゲインC2を算出して乗算する機能を削除し、エンド当て判定処理部71の出力にのみ基づきカウント値Cを算出するようにしてもよい。
・ダメージ量算出処理部70では、角度判定結果C1を算出して乗算する機能を削除し、加速度判定結果Raにのみ基づきエンド当て判定結果Rを算出するようにしてもよい。
【0069】
・ダメージ量算出処理部70では、角加速度α自体をエンド当て判定結果Rとして算出し、この算出したエンド当て判定結果Rに対してゲインC2を乗算して得られる角加速度α自体を累積してダメージ量Dmintとして算出してもよい。つまり、本変形例では、ラック軸22が軸方向へ移動する際の速度の変化率に換算可能な加速度である角加速度αの累積値に基づき転舵機構6の機械的な異常を検出することになる。
【0070】
・運転者によるステアリング操舵の操舵限界を規定するための機能は、規制反力を操舵反力として発生させることに替えて、機械的にステアリング操舵の操舵限界を規定する構成を採用することもできる。
【0071】
・転舵輪5が転舵する際の限界を制御的に設定する機能は、転舵機構6を主体とした機能として実現してもよく、例えば、ピニオン角θpが仮想限界角θpvend(l),θpvend(r)に達する、すなわち上記エンド当ての前に、転舵輪5の転舵の仮想的な限界舵角を規定するための規制反力を転舵側モータ32が発生させるようにしてもよい。
【0072】
・伝動機構33は、ベルト43を用いない、例えば、ウォーム減速機構であったりしてもよい。この場合でもウォーム減速機構の歯欠け等の異常を検出することができる。
・警告装置61を通じた運転者への警告としては、例えば、アラーム等の音で知らせたり、操舵反力を大きくしてステアリング操舵を重くしたりする等、何かしら状況の変化を運転者が認識できる方法であれば適宜変更可能である。その他、運転者に警告する以外、車両が有する通信機能を用いて、例えば、現在位置から最も近いディーラーであったり、最寄りのディーラー等、車両のメンテナンスが可能な店舗に知らせたりすることもできる。
【0073】
・上記実施形態において、CPU50は、コンピュータプログラムを実行する1つ以上のプロセッサ、あるいは各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路等の1つ以上の専用ハードウェア回路、あるいは上記プロセッサ及び上記専用ハードウェア回路の組み合わせを含む回路として実現してもよい。また、メモリ51には、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体によって構成してもよい。
【0074】
・上記実施形態は、操舵装置1を、操舵機構4と転舵機構6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチにより操舵機構4と転舵機構6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。また、操舵装置1は、ステアリングホイール3の操舵を補助するための力であるアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置としてもよい。この場合、ステアリングホイール3は、ステアリングシャフト11を介してピニオン軸21が機械的に接続される。
【符号の説明】
【0075】
1…操舵装置
2…操舵制御装置
4…操舵機構
5…転舵輪
6…転舵機構
22…ラック軸(転舵シャフト)
22b…ボールねじ部
32…転舵側モータ
33…伝動機構
40…ボールナット
43…ベルト
50…CPU(状態監視部)
65…転舵側回転角センサ
71…エンド当て判定処理部
72…判定値算出処理部
75…加速度判定結果算出マップ
76…角度判定結果算出マップ
78…ゲイン演算マップ