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特許7384723耐熱スチレン系樹脂組成物、非発泡押出シート、及び発泡押出シート、並びにこれらの成形品
<図1>
  • 特許-耐熱スチレン系樹脂組成物、非発泡押出シート、及び発泡押出シート、並びにこれらの成形品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】耐熱スチレン系樹脂組成物、非発泡押出シート、及び発泡押出シート、並びにこれらの成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/08 20060101AFI20231114BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20231114BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20231114BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231114BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20231114BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20231114BHJP
【FI】
C08L25/08
C08K5/05
C08F212/08
C08J5/18 CET
B29C44/00 E
B29C48/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020053137
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152120
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】小林 松太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 慶尚
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-279546(JP,A)
【文献】特開2019-112487(JP,A)
【文献】特開2009-126930(JP,A)
【文献】特開2017-214487(JP,A)
【文献】特開2018-145309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/00-25/18
C08K 5/05
C08F 212/00-212/36
C08J 5/18
B29C 44/00
B29C 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位を有する耐熱スチレン系樹脂(a)100質量部と、
炭素原子数16以上25以下の1価アルコール(b)0.03~1.0質量部と、
炭素原子数5以上13以下の1価アルコール(c)を0.001~0.06質量部と、を含有し、
前記耐熱スチレン系樹脂(a)は、前記スチレン系単量体単位、前記(メタ)アクリル酸単量体単位、及び前記α-メチルスチレン単量体単位の合計含有量を100質量%としたときに、前記スチレン単量体単位の含有量が61~95質量%であり、前記(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1~5質量%であり、且つ前記α-メチルスチレン単量体単位の含有量が4~35質量%であることを特徴とする、耐熱スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が2~4.5質量%である、請求項1に記載の耐熱スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
メルトマスフローレートが0.5~4.5g/10分である、請求項1~2のいずれか1項に記載の耐熱スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
ビカット軟化温度が105℃以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の耐熱スチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記耐熱スチレン系樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)が10万~35万である、請求項1~4のいずれか1項に記載の耐熱スチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の耐熱スチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる、非発泡押出シート。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の耐熱スチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる、発泡押出シート。
【請求項8】
請求項6に記載の非発泡押出シート又は請求項7に記載の発泡押出シートを用いて形成されてなる、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱スチレン系樹脂、並びに耐熱スチレン系樹脂を用いて形成される非発泡押出シート及び発泡押出シート、並びにこれらの成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸系モノマーと、スチレンモノマーとを共重合したスチレン系樹脂は、一般に耐熱スチレン系樹脂と称され、優れた耐熱性を示し、且つ安価なことから、電子レンジで加温調理可能な弁当、惣菜等の食品容器の包装材料、住宅の断熱材用の発泡ボード、拡散剤を入れた液晶テレビの拡散板等に広く用いられている。
【0003】
このような化学構造を有する耐熱スチレン系樹脂では、(メタ)アクリル酸系モノマーの含有率の増加によって耐熱性自体は向上する。しかしながら、高分子鎖中の(メタ)アクリル酸系モノマーの含有率が増加すると、(メタ)アクリル酸系ユニット同士の脱水縮合に起因したゲル化物の増加によるシート外観不良、機械強度の低下という別の問題が生じる。
【0004】
そこで上記問題点を解決する技術としては、特許文献1と特許文献2のようなα-メチルスチレンを共重合させる方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-14208号公報
【文献】特開2016-11357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2の技術は、成形品の外観を向上させる点について検討している。しかしながら、上記特許文献1及び2には、耐熱スチレン系樹脂と他のスチレン系樹脂との相溶性が低いことによる、組成物全体の耐熱スチレン系樹脂の分散状態の影響を検討していない。より詳細には、耐熱スチレン系樹脂と他の樹脂(特に、汎用のスチレン系樹脂)との相溶性が低いために、耐熱スチレン系樹脂自体が形成する比較的大きなドメイン界面の存在が、組成物全体の機械強度を低下させるという問題が生じる。
尚、本明細書中における「汎用のスチレン系樹脂」は、スチレン単独重合体からなる樹脂(GPPS)、或いはスチレンをポリブタジエン系ゴム中で単独でグラフト重合してなるハイインパクトポリスチレン(HIPS)を意味する。
また、例えば、耐熱スチレン系樹脂を含む端材をリワークする場合、他の樹脂と相溶性に乏しい耐熱スチレン系樹脂の存在により、端材のリワーク量が制限されてしまい、廃棄物として処理せざるをえない樹脂廃棄物が大量に発生するという問題も生じる。そのため、上記特許文献1及び2の技術では、優れた機械強度を示す成形品の原料を提供できず、他の樹脂に対するリワーク性についても不十分であった。
【0007】
そこで、本発明が解決する課題は、外観、耐熱性、機械強度、汎用のスチレン系樹脂に対するリワーク性に優れた耐熱スチレン系樹脂組成物とそれを用いた非発泡シート、発泡押出シート、及び成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記問題点に鑑みて鋭意研究を進めた結果、(メタ)アクリル酸単量体とスチレン系単量体との共重合比率を一定以下に抑えつつ、炭素原子数16以上の1価アルコール(b)を一定量含有させることで、(メタ)アクリル酸とα-メチルスチレンによる耐熱性の向上を維持しながら、外観、機械強度に優れ、かつ汎用のスチレン系樹脂に対するリワーク性も良好な耐熱スチレン系樹脂組成物を得るまでに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]本発明は、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位を有する耐熱スチレン系樹脂(a)100質量部と、
炭素原子数16以上の1価アルコール(b)0.03~1.0質量部と、を含有し、
前記耐熱スチレン系樹脂(a)は、前記スチレン系単量体単位、前記(メタ)アクリル酸単量体単位、及び前記α-メチルスチレン単量体単位の合計含有量を100質量%としたときに、前記スチレン単量体単位の含有量が61~95質量%であり、前記(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1~5質量%であり、且つ前記α-メチルスチレン単量体単位の含有量が4~35質量%であることを特徴とする、耐熱スチレン系樹脂組成物である。
[2]本発明に係る耐熱スチレン系樹脂組成物において、前記(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が2~4.5質量%であることが好ましい。
[3]本発明に係る耐熱スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレートは、0.5~4.5g/10分であることが好ましい。
[5]本発明に係る耐熱スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が105℃以上であることが好ましい。
[6]本発明に係る耐熱スチレン系樹脂組成物において、前記耐熱スチレン系樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)が10万~35万であることが好ましい。
[7]本発明に係る耐熱スチレン系樹脂組成物において、炭素原子数5以上13以下の1価アルコール(c)を0.001~0.06質量部含むことが好ましい。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の耐熱スチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる、非発泡押出シート。
[10]上記[1]~[8]のいずれかに記載の耐熱スチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる、発泡押出シート。
[11]上記[9]に記載の非発泡押出シート又は上記[10]に記載の発泡押出シートを用いて形成されてなる、成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外観、耐熱性、機械強度、汎用のスチレン系樹脂に対するリワーク性に優れた耐熱スチレン系樹脂とそれを用いた非発泡、発泡押出シート、及び成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例におけるトレー容器の腰強度の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態は、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位を有する耐熱スチレン系樹脂(a)と、炭素原子数16以上の1価アルコール(b)とを含有する耐熱スチレン系樹脂組成物である。そして、前記耐熱スチレン系樹脂(a)は、前記スチレン系単量体単位、前記(メタ)アクリル酸単量体単位、及び前記α-メチルスチレン単量体単位の合計含有量を100質量%としたときに、前記スチレン単量体単位の含有量が61~95質量%であり、前記(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1~5質量%であり、且つ前記α-メチルスチレン単量体単位の含有量が4~35質量%である。また、本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物は、100質量部の前記耐熱スチレン系樹脂(a)と、0.03~1.0質量部の前記1価アルコール(b)とを含む。
本明細書における「スチレン系単量体単位」とは、スチレン系単量体由来の繰り返し単位を意味し、より詳細には、スチレン系単量体が重合反応又は架橋反応により、当該単量体中の不飽和二重結合が単結合になった構造単位をいう。尚、他の「単量体単位」の意味も上記と同様の意味である。
以下、本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物の構成成分である耐熱スチレン系樹脂(a)及び1価アルコール(b)を説明する。
【0013】
[耐熱スチレン系樹脂(a)]
本実施形態における耐熱スチレン系樹脂(a)は、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位を有する共重合体である。当該共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又は交互共重合体のいずれであってもよいが、ランダム共重合体が好ましい。
本発明の耐熱スチレン系樹脂(a)の一態様は、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位の合計含有量を100質量%としたときに、スチレン単量体単位の含有量が61~95質量%、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1~5質量%、およびα-メチルスチレン量体単位の含有量が4~35質量%である。以下、耐熱スチレン系樹脂(a)を単に樹脂(a)ということもある。
【0014】
本実施形態において、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位含有量を100質量%としたときに、スチレン単量体単位の含有量が61~95質量%であり、好ましくは70~90質量%、より好ましくは75~85質量%である。スチレン単量体単位の含有量が61質量%未満では、樹脂の流動性が低下し、95質量%を超えると後述の(メタ)アクリル酸単量体単位及びα-メチルスチレン単量体単位を所望量存在させることができない。
【0015】
本実施形態において、(メタ)アクリル酸(単量体単位)は、耐熱性を向上させる役割を果たす。当該(メタ)アクリル酸としては、メタクリル酸、アクリル酸が挙げられる。
スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位含有量を100質量%としたときに、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量は1~5質量%であり、好ましくは2~4.5質量%、より好ましくは3~4.0質量%の範囲である。(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1質量%未満では耐熱性向上の効果が不十分である。また5質量%を超える場合は、汎用のスチレン系樹脂とのリワーク性低下を招来するため好ましくない。
【0016】
本実施形態において、α-メチルスチレンは、汎用のスチレン系樹脂に対する相溶性(例えば、リワーク性)を保ちながら耐熱性を上げる役割を果たす。スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位含有量を100質量%としたときに、α-メチルスチレン単量体単位の含有量は4~35質量%であり、好ましくは5~33質量%、より好ましくは10~31質量%である。この含有量が4質量%未満であると、耐熱性向上効果が不十分であり35質量%以上だと機械強度の低下と、重合性が低いため、生産性の低下を招く。
【0017】
本実施形態において、上記に示した(メタ)アクリル酸単量体、α-メチルスチレン、又はスチレン系単量体と共重合可能であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、これら3つの単量体に対してさらに他の単量体と共重合してよい。当該任意成分である他の単量体としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、及び(メタ)アクリロニトリル等のビニル系化合物、並びにジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、及び核置換マレイミド等が挙げられる。この中でも好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。
【0018】
本実施形態において、スチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、β-メチルスチレン、パラメチルスチレン、オルトメチルスチレン、メタメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。スチレン系単量体としては、これらを単独または混合して使用できる。
【0019】
本実施形態において、耐熱スチレン系樹脂(a)中のスチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、α-メチルスチレン単量体単位のそれぞれの含有量は、樹脂(a)を核磁気共鳴測定装置(1H-NMR)で測定したときのスペクトルの積分比から求めている。
【0020】
本実施形態において、耐熱スチレン系樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)は、10万~35万であることが好ましく、更に好ましくは12万~32万である。重量平均分子量が10万~40万である場合、衝撃強度と流動性とのバランスの実用性に優れる樹脂(a)が得られる。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより、実施例の欄で示した条件を適用してポリスチレン標準換算を用いて測定する。
【0021】
[炭素原子数16以上の1価アルコール(b)]
本実施形態において、炭素原子数16以上の一価アルコール(b)(以下、アルコール(b)とも称する。)は、主に250℃付近での成形時におけるゲル化物の生成を抑制する効果を果たし、外観と破壊の起点となるシート中のゲル欠点の生成を抑制することにより機械強度に優れた成形品の原料を提供できる。上記アルコール(b)としては、水酸基を1つ含むアルコール類である。そして、当該アルコール(b)は、炭素鎖中に酸素又は窒素などのヘテロ原子を含んでもよく、炭素鎖中に2重結合、3重結合、エステル結合、アミド結合など、単結合以外の結合を含んでもよい。アルコール(b)の炭素原子数としては、16以上が好ましく、より好ましくは17以上。より更に好ましくは18以上である。また、アルコール(b)の炭素原子数の下限は、35以下であることが好ましく、より好ましくは30以下、さらに好ましくは25以下である。上記アルコール(b)は、耐熱スチレン系樹脂(a)を重合する際に重合溶液中に存在させてもよく、あるいは、後工程において押出機又は溶媒中に混合させることにより、本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物に含有させてもよい。また、炭素原子数15以下のアルコール(b)では揮発性が高く、成形等を行う際に当該アルコール(b)によって臭気が生じ作業性が低下する。炭素原子数を16以上にすることで、揮発性が低くなり、成形時等の異臭が抑制される。
【0022】
炭素原子数16以上の1価アルコール(b)の沸点としては260℃以上が好ましく、更に好ましくは270℃以上よりさらに好ましくは290℃以上である。アルコール(b)の沸点が260℃未満であると、揮発性が高くなり、成形時等に異臭が発生する傾向がある。
【0023】
本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物における炭素原子数16以上の1価アルコール(b)の含有量としては0.03~1.0質量%が好ましく、より好ましくは0.04~0.7質量%、より更に好ましくは0.05~0.4質量%である。1価アルコール(b)の含有量が0.03質量%未満だと250℃付近における成形時のゲル抑制効果が低下し、1.0質量%を超えると樹脂中への残存量が多くなり、耐熱性を大きく低下させ、(メタ)アクリル酸とα-メチルスチレンによる耐熱性増加効果が乏しくなってしまう。
【0024】
本実施形態において、炭素原子数16以上の1価アルコール(b)としては、特に限定されないが、例えば、1-ヘキサデカノール、イソヘキサデカノール、1-オクタデカノール、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノール、イソオクタデカノール、1-イソイソエイコサノール、8-メチル-2-(4-メチルヘキシル)-1-デカノール、2-ヘプチル-1-ウンデカノール、2-ヘプチル-4-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-(5,9-ジメチル)-1-デカノール、ポリエチレングリコールモノエーテル類等が挙げられる。
【0025】
<炭素原子数数5~13のアルコール(c)>
本実施形態において、炭素原子数5~13の1価アルコール(c)(以下、アルコール(c)とも称する。)は、200℃付近での成形時におけるゲル化物の生成を抑制する効果を果たすことから、外観に優れた成形品の原料を提供できる。上記アルコール(c)としては、1以上の水酸基を含む炭素原子数4~15のアルコール(c)である。そして、アルコール(c)は、炭素鎖中に酸素又は窒素などのヘテロ原子を含んでもよく、炭素鎖中に2重結合、3重結合、エステル結合、アミド結合など、単結合以外の結合を含んでもよい。炭素原子数としては6~12が好ましく、8~11が特に好ましい。上記アルコール(c)は、耐熱スチレン系樹脂(a)を重合する際に重合溶液中に存在させてもよく、あるいは後工程において押出機又は溶媒中で混合させることにより、本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物に含有させてもよい。炭素原子数4以下のアルコール(c)では耐熱スチレン系樹脂(a)と比較して極性が高く、混濁の原因になる。炭素原子数14以上のアルコール(c)では、成形等を行う際に当該アルコール(c)によって臭気が生じ作業性が低下する。
また、本実施形態において、炭素原子数16以上の1価アルコール(b)及び炭素原子数5~13の1価アルコール(c)とを併用することで、190~260℃の広範囲渡って成形時におけるゲル化物の生成を抑制する効果を奏する。
【0026】
本実施形態において、炭素原子数5以上13以下の1価アルコール(c)としては、特に限定されないが、例えば、n-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3ペンタノール、2,2-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、4-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、6-メチル-1-ヘプタノール、2-メチルヘプタン-2-オール、1-ノナノール、3-メチルオクタン-3-オール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-アミノエタノール、6-アミノ-ヘキサノール、2-(メチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、2-(エチルチオ)エタノール、2-(プロピルチオ)エタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブテン、アリルアルコール類、などが挙げられる。
【0027】
本実施形態において、炭素原子数5以上13以下の1価アルコール(c)の沸点としては130℃以上240℃以下が好ましく、更に好ましくは140℃以上240℃以下、よりさらに好ましくは150℃以上230℃以下である。沸点が130℃未満であると、樹脂混濁の原因となる傾向があり、290℃超であると、成型時の臭気等の原因となり得る。
【0028】
本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物における炭素原子数5以上13以下の1価アルコール(c)の含有量としては10~600μg/gが好ましく、より好ましくは10~500μg/g、より更に好ましくは10~400μg/gである。含有量が10μg/g未満だとゲル抑制効果が低下し、600μg/gを超える高い揮発性のため成型時の臭気等の原因となり得る。
【0029】
<その他の成分>
本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物には、一般的なスチレン系樹脂に対して添加される各種添加剤を、公知の作用効果を達成するために添加することもできる。当該添加剤としては、例えば、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、鉱油(例えば、流動パラフィン)等があげられる。また、スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はMBS樹脂等の補強材についても物性を損なわない範囲で添加してもよい。配合の方法については特に規定はないが、例えば、重合時に添加して重合する方法、或いは重合後溶融混練する前に、ブレンダーであらかじめ添加剤を混合し、その後、押出機やバンバリーミキサー等にて溶融混錬する方法等が挙げられる。
【0030】
本実施形態において、上述のよう耐熱スチレン系樹脂組成物には各種添加剤を添加させることができるが、添加後の樹脂組成物中の耐熱スチレン系樹脂(a)の含有量は、特に限定されないが95質量%以上であることが好ましく、より好ましくは97質量%であり、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0031】
<耐熱性スチレン系樹脂組成物の物性>
本実施形態において、耐熱スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、105℃以上であることが好ましい。当該範囲にすることで、熱湯、熱油と接触する食品包装材料にも好適に用いることもできる。当該ビカット軟化温度は、ISO306に準拠して、荷重50N、昇温速度50℃/hの条件で測定することができる。
【0032】
本実施形態において、耐熱スチレン系樹脂組成物のメルトフローレートは0.5~4.5g/10分の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.0~3.5g/10分であり、さらに好ましくは1.5~2.5g/10分である。メルトフローレートを0.5g/10分以上にすることにより、良好な成形性が得られ、4.5g/10分以下にすることにより、強度に優れた樹脂を得ることができる。
【0033】
<耐熱スチレン系樹脂(a)の製造方法>
本実施形態の耐熱スチレン系樹脂(a)の製造法について説明する。耐熱スチレン系樹脂(a)の重合方法としては、特に制限はないが、例えばラジカル重合法、その中でも、塊状重合法又は溶液重合法を好ましく採用できる。
具体的には、重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程と、を備える。
以下、本実施形態に係る耐熱スチレン系樹脂(a)の重合方法について説明する。
【0034】
本実施形態において、耐熱スチレン系樹脂(a)を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤を含有させる。重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0035】
耐熱スチレン系樹脂(a)の重合時には必要に応じて連鎖移動剤を使用することもできる。連載移動剤の例としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0036】
耐熱スチレン系樹脂(a)の重合方法としては、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。重合溶媒としては、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等の芳香族溶媒が好ましく、必要に応じてアルコール類やケトン類など、極性溶媒を組み合わせて耐熱スチレン系樹脂(a)の溶解性を調整した溶媒系を用いてもよい。
本実施形態において、重合溶媒は、耐熱スチレン系樹脂(a)を構成する全単量体100質量部に対して、3~35質量部の範囲で使用するのが好ましく、より好ましくは5~30質量部の範囲である。全単量体100質量部に対して重合溶媒35質量部を超えると、重合速度が低下し、且つ得られる樹脂(a)の分子量も低下するので、樹脂(a)の機械的強度が低下する傾向がある。また、3質量部未満では重合時に除熱の制御が難しくなる恐れがある。全単量体100質量部に対して3~35質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0037】
本実施形態において、耐熱スチレン系樹脂(a)を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、耐熱スチレン系樹脂(a)の重合方法に従って粘度、除熱を加味した上で適宜選択すればよい。例えば、塊状重合による場合には、塔型反応器や完全混合型反応器を1基、又は複数基連結を用いることができる。
【0038】
また、本実施形態において、耐熱スチレン系樹脂(a)を重合する重合工程の後の脱揮工程についても特に制限はない。重合工程を塊状重合で行う場合、重合工程を、最終的に未反応モノマーが、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下になるまで進め、ついで、脱揮工程において、未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。尚、脱揮処理の温度は、通常、150~280℃程度であり、好ましくは160~260℃であり、更に好ましくは160~240℃である。脱揮温度を150℃以上とすることで未反応スチレンモノマーを効率的に除去することができ、280℃以下とすることで、耐熱スチレン系樹脂の熱分解による低分子量化を抑制することができる。
また、脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。また、脱揮工程での滞留時間は、通常2.0時間未満であり、好ましくは1.5時間未満、より好ましくは1.2時間未満である脱揮工程での滞留時間を2.0時間未満にすることにより、耐熱スチレン系樹脂(a)の分解が進行し、分子量低下又は耐熱スチレン系樹脂組成物中の単量体含有量の増加を防ぐことができる。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0039】
本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~260℃の範囲で選択される。
本実施形態の耐熱スチレン系樹脂組成物は、溶融混練成形機により、あるいは、得られた耐熱スチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形品を製造することができる。
【0040】
[押出シート]
本発明の別の態様は、上述した本発明の耐熱スチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる押出シートを提供する。押出シートは非発泡及び発泡のいずれでもよい。押出シートの製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。非発泡押出シートの製造方法としては、Tダイを取り付けた短軸又は二軸押出成形機で、一軸延伸機又は二軸延伸機でシートを引き取る装置を用いる方法等を用いることができ、発泡押出シートの製造方法としては、Tダイ又はサーキュラーダイを備え付けた押出発泡成形機を用いる方法等を用いることができる。
【0041】
本実施形態において、発泡押出シートを形成する場合、押出発泡時の発泡剤及び発泡核剤としては通常用いられる物質を使用できる。発泡剤としてはブタン、ペンタン、フロン、二酸化炭素、水等を使用することができ、ブタンが好適である。また発泡核剤としてはタルク等を使用できる。
【0042】
本実施形態において、発泡押出シートは、厚み0.5mm~5.0mmであることが好ましく、見かけ密度50g/L~300g/Lであることが好ましく、また坪量80g/m2~300g/m2であることが好ましい。本発明の発泡押出シートは、例えばフィルムを更にラミネートすること等によって多層化してもよい。使用するフィルムの種類は、一般のポリスチレンに使用されるもので差し支えない。
【0043】
一方、非発泡押出シートにおいては、例えば、厚みが0.1~1.0mm程度であることが剛性及び熱成形サイクルの観点から好ましい。またシートは通常の低倍率のロール延伸のみで形成してもよいが、特にロールで1.3倍から7倍程度延伸した後、テンターで1.3から7倍程度延伸したシートが強度の面で好ましい。またポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂と多層化して用いてもよい。更に該スチレン系樹脂以外の樹脂と多層化して用いてもよい。スチレン系樹脂以外の樹脂としては、PET樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0044】
本発明の別の態様は、上述した本発明の非発泡押出シート又は発泡押出シートを用いて形成されてなる成形品を提供する。発泡押出シート又はこれを含む多層体は、例えば真空成形により成形してトレー等の容器を作製できる。また非発泡押出シートは、例えば真空成形により成形して弁当の蓋材や惣菜等を入れる容器を作製できる。
【実施例
【0045】
次に本発明を実施例及び比較例により詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における樹脂及び押出シート等の分析、評価方法は、下記の通りである。
【0046】
[樹脂の性状]
(1)耐熱スチレン系樹脂(a)を構成するスチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位、及びα-メチルスチレン単量体単位含有量の測定
核磁気共鳴(1H-NMR)装置で測定したスペクトルの積分比から定量した。
試料調製:樹脂75mgをd1-クロロホルム 0.75mLに溶解した。
測定機器:日本電子 JNM ECA-500
測定条件:測定温度 60℃、観測核 1H、積算回数 32回、繰返し時間 45秒
【0047】
(2)重量平均分子量の測定
耐熱スチレン系樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
装置:東ソー製HLC―8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM-H(内径4.6mm)を直列に2本接続
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ-H
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
注入量:10μL
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出器:紫外吸光検出器(東ソー製UV-8020、波長254nm)
検量線の作成には東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-450、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000)を用いた。1次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0048】
(3)メルトマスフローレート(MFR)の測定
耐熱スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO1133に準拠して、200℃、49Nの荷重条件にて測定した。
【0049】
(4)ビカット軟化温度の測定
耐熱スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度をISO306に準拠して測定した。荷重は50N、昇温速度は50℃/hとした。
【0050】
(5)耐熱スチレン系樹脂組成物中に含まれる添加アルコール類(アルコール(b),(c))の含有量の測定
耐熱スチレン系樹脂組成物中の耐熱スチレン樹脂(a)を100質量部としたときの添加アルコール類の含有量をガスクロマトグラフィーにて測定した。
試料調製:耐熱スチレン系樹脂組成物1.0gをメチルエチルケトン5mLに溶解後、更に標準物質(トリフェニルメタン)入りのメタノール5mLを加えポリマー成分を再沈させ、上澄み液を採取し、測定液とした。
<測定条件>
機器:Agilent社製 6850 シリーズ GCシステム
検出器:FID
カラム:HP-1(100%ジメチルポリシロキサン)30m、
膜厚0.25μm、0.32mmφ
注入量:1μL(スプリットレス)
カラム温度:40℃で2分保持→20℃/分で320℃まで昇温→
320℃で15分保持
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
【0051】
[非発泡押出特性及び非発泡押出物特性]
(6)耐熱スチレン系樹脂(a)中のゲル不溶分の測定
耐熱スチレン系樹脂(a)2gをメチルエチルケトン20mlに溶解後、43000Gの遠心分離機で、19000rpm、60分間遠心分離を行い、上澄み液を捨てた後、残存液に更にメチルエチルケトン20mlを加え、同様な操作を繰り返して行った(19000rpmで60分間遠心分離)。上澄み液を捨てた後の残存液を150℃、30分間乾燥後、更に215℃、3kPaの減圧下で30分間乾燥後、下記式(1):
[数1]
(ゲル不溶分)=(加熱後残量(単位g))/2(単位g)×100(%) 式(1)
によりゲル不溶分を算出した。
【0052】
(7)非発泡押出シートの外観判定
耐熱スチレン系樹脂組成物を30mmφ短軸シート押出機で連続3時間シートを押出した後、厚さ0.3mmのシートから10cm×20cmの大きさのシートを5枚切り出し、シート5枚の表面の(長径+短径)/2の平均径が0.5mm以上の異物であるゲル物、気泡の個数を数え、以下の方法で外観判定とした。
○:ゲル物、気泡の個数が2点以下
△:ゲル物、気泡の個数が3~9点
×:ゲル物、気泡の個数が10点以上
【0053】
(8)落錘衝撃強度(g・cm)の測定
耐熱スチレン系樹脂組成物を25mmφ単軸シート押出機(創研社製)にて、0.3±0.03mmのシートを作製し、東洋精機社製のデュポン衝撃試験機(No451)を用いて、落錘衝撃強度を測定した。落下重錘の質量0.2kg、撃心突端の半径6.3mm、撃心受台の半径9.4mmとし、落錘衝撃強度は50%破壊の値を、(落下重錘の質量0.2kg)×(高さcm)で求めた。
【0054】
[発泡押出物特性]
(9)トレー容器の腰強度測定
図1は、実施例におけるトレー容器の腰強度の測定方法を示す図である。7.3倍に発泡した発泡押出シートをトレー容器に真空成形して腰強度(N)を測定した。より詳細には、7.3倍に発泡した発泡押出シートを真空成形したトレー容器1のTD方向に対して、クロスヘッド2を圧縮速度5mm/minで圧縮し、トレー容器1の腰強度(N)を測定した。当該トレー容器の大きさは縦10cm、横15cm、深さ2cmである。トレーの横側面より圧縮して極大荷重を腰強度とした。
【0055】
(10)発泡押出シートの外観判定
発泡押出シートの表面肌荒れを目視で判定した。
○:シート表面の肌荒れが判る
×:シート表面の肌荒れが判らない
【0056】
(11)HIPSリワーク物性(HIPSと混練時の機械強度)
HIPSとしてゴム量8.2%、MFR2.8g/10minのスチレンポリブタジエングラフト共重合体の樹脂を用いた。
耐熱スチレン系樹脂組成物と上記HIPSとを質量比73:27で2軸押出機にて混練押出、ペレタイズしたものを射出成型機(EC60N、東芝機械社製)により、シリンダー温度230℃、金型温度45℃、射出圧力80MPa、射出速度26mm/sで成形して、ISO金型タイプAの試験片を得た。得られた試験片について、シャルピー衝撃強度(kJ/m2)を、ISO179に準拠して、ノッチ有で測定した。
(12)GPPSリワーク物性(GPPSと混練時の透明性)
GPPSとして重量平均分子量26万のスチレン単独重合体の樹脂を用いた。
耐熱スチレン系樹脂組成物と上記GPPS(重量平均分子量26万)質量比1:1で2軸押出機にて混練押出、ペレタイズし、得られたペレットを1mm厚のプレートに射出成型し、ISO14782に準拠して、曇り度(ヘーズ)を測定した。
【0057】
以下、実施例1~6の耐熱スチレン系樹脂組成物及び比較例1~4の樹脂組成物、並びにこれら組成物を用いて形成したシートについて説明する。
[実施例1]
スチレン81.2質量部、メタクリル酸1.7質量部、α-メチルスチレン4.1質量部、2-エチルヘキサノール2.0質量部、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノール(日産化学社製ファインオキソコール180)1.0質量部、エチルベンゼン10.0質量部、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(PHC、日油(株)製、商品名:パーヘキサ(登録商標)C)0.026質量部からなる重合原料組成液を、0.72リットル/時の速度で、容量が4.0リットルの完全混合型反応器からなる重合装置に、更には未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に連続的に順次供給し、樹脂を合成した。重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度137℃とした。ポリマー収率は最終重合液を230℃、3kPaの減圧下で30分間乾燥後、(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量×100%)により測定したところ、64.5質量%であった。最終重合液をペレット押出して耐熱スチレン系樹脂組成物を得た。
【0058】
上記で得られた耐熱スチレン系樹脂組成物を用いて、非発泡押出物(非発泡押出シート)と発泡押出物(発泡押出シート、及び成形品としてトレー容器)とを作製し物性等を評価した。非発泡押出シートについては、30mmの短軸押出機を用いて、樹脂溶融ゾーンの温度を220~250℃とし、ベントから真空ポンプで3kPaに減圧しながら厚み約0.3mmのシートを製造した。発泡押出シート及びトレー容器については、直径150mmのサーキュラーダイを備えた押出発泡機を用いて、得られた樹脂100質量部に対して、発泡核剤としてタルク(平均粒径1.3μm)を0.12質量部、発泡剤として液化ブタンを3.5質量部添加して発泡押出シートを製造した(発泡倍率:7.5倍)。樹脂溶融ゾーンの温度は210~240℃、ロータリークーラー温度は145~185℃、ダイス温度は165℃に調整した。得られた発泡押出シートを用いて真空成形で縦10cm、横15cm、深さ2cmの発泡トレー容器を作製した。非発泡押出物及び発泡押出物の性状及び物性の評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2~7]
実施例2~4及び6~7については、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様の方法でスチレン系樹脂組成物を作製し、かつ当該耐熱スチレン系樹脂組成物を用いて非発泡押出シート及び発泡押出シートをそれぞれ形成した。
また、実施例5については、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノール(日産化学社製ファインオキソコール180)を添加すること無く、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、ペレット状のスチレン系樹脂組成物を作製した。その後、当該耐熱スチレン系樹脂組成物100質量部に対して、0.25質量部の5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノールを添加し、短軸押出機を用いて実施例1と同様の条件下で非発泡押出シート及び発泡押出シートをそれぞれ形成した。
【0060】
[比較例1]
表1に示すように条件を変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物を作製し、かつ当該耐熱スチレン系樹脂組成物を用いて非発泡押出シート及び発泡押出シートをそれぞれ形成した。樹脂組成物中に炭素原子数16以上の1価アルコール(b)が含まれないため、成形品中のゲル不溶分が多くなり、非発泡押出シート外観の悪化と落錘衝撃強度の低下、発泡シート成型品の腰強度の低下が認められ、ゴム強化スチレン樹脂リワークした時も実施例1~7と比べて強度の低下が認められた。
【0061】
[比較例2]
表1に示すように条件を変更した以外は実施例1と同様の条件で樹脂を作製した。重合基を除いた炭素原子数が5以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が10質量%だと、吸水率が高くなるため、成形後の押出シートの外観が悪くなってしまった。
【0062】
[比較例3]
表1に示すように条件を変更した以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物を作製した。α-メチルスチレン含有量が多くなると、ポリマー収率が低下し、成型品の機械強度も低下した。
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明にて得られる耐熱スチレン系樹脂組成物は、外観、耐熱性、機械強度、汎用のスチレン系樹脂に対するリワーク性に優れる。それらを用いた食品包装容器や、射出成形による成形品(電気製品部品、玩具、日用品、各種工業部品)などに幅広く使用可能であり、かつ容器成型時に生じる端材もスチレン系樹脂にリワークすることができ、産業廃棄物低減に貢献できるので、産業界に果たす役割は大きい。
図1