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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】研磨剤組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231114BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20231114BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20231114BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20231114BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020053679
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021153160
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰裕
(72)【発明者】
【氏名】内藤 健治
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218514(JP,A)
【文献】特開2001-342455(JP,A)
【文献】特開2019-016417(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0010358(US,A1)
【文献】特開2019-172902(JP,A)
【文献】特開2017-043731(JP,A)
【文献】特開2003-188121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子、水溶性高分子化合物、及び水を含有し、
前記シリカ粒子は、
平均粒子径が10~60nmの小粒径シリカ粒子と、
平均粒子径が70~200nmの大粒径シリカ粒子と
を含み、
前記小粒径シリカ粒子及び前記大粒径シリカ粒子の合計質量に対する前記小粒径シリカ粒子の質量の割合が50~95質量%であり、
前記水溶性高分子化合物は、
不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体で構成され、
タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料を研磨加工するための研磨剤組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子化合物は、
(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体である請求項1に記載の研磨剤組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物は、
(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位と、カルボキシル基含有ビニルモノマーに由来する構成単位とを有する共重合体である請求項1または2に記載の研磨剤組成物。
【請求項4】
無機酸及び/またはその塩、有機酸及び/またはその塩、及び、塩基性化合物の少なくとも一種類を更に含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨剤組成物。
【請求項5】
前記有機酸及び/またはその塩は、
キレート性化合物である請求項4に記載の研磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨剤組成物に関する。更に詳しくは、酸化物単結晶であるタンタル酸リチウム単結晶材料やニオブ酸リチウム単結晶材料を被研磨物とする精密研磨加工に用いられる研磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビの中間周波数フィルタや共振器等のエレクトロニクス部品として、圧電体における圧電効果により発生する表面弾性波(SAW)を利用した表面弾性波デバイスが広く用いられている。このような表面弾性波デバイスを構成する圧電体素子の材料として、圧電体セラミックス、圧電体薄膜等の各種の圧電性物質の採用が検討されている。特に、近年においては、硬脆材料が優れた特性を有していることから、タンタル酸リチウム単結晶材料やニオブ酸リチウム単結晶材料(以下、「酸化物単結晶材料」と称す。)が広く採用されている。
【0003】
種々の表面弾性波デバイスの表面には、鏡面を得るためにポリッシング加工が通常施される。ここで、酸化物単結晶材料は、硬度が高く、かつ、化学的に極めて安定な材料であり、研磨速度が遅くなることが知られている。そのため、従来の酸化物単結晶材料の研磨は、工業的には研磨液の供給及び回収を繰り返す循環供給方式が一般的に採用されている。しかしながら、所望の厚さになるまで研磨を行おうとすると、例えば、10時間近い研磨時間が必要となることもあり、製品の生産性や生産効率の点で問題となることがあった。
【0004】
更に、上記の酸化物単結晶材料を被研磨物として研磨する際に、「キュッキュ」といった独特の摩擦音を発生する所謂“キャリア鳴き”と呼ばれる微細振動を起こしやすいことが知られている。このような微細振動を発生する現象は、酸化物単結晶材料の圧電材料としての特性に起因すると考えられている。そして、かかる微細振動を生じた結果、被研磨物が規定の研磨位置から移動したり、或いは割れたりする等の不具合を生じることがあった。したがって、研磨時における微細振動の抑制が重要な課題となっている。
【0005】
シリコンウエハの研磨に使用されるコロイダルシリカを主成分として含む研磨剤がタンタル酸リチウム単結晶材料等の酸化物結晶材料の研磨にも採用されている。かかるコロイダルシリカ成分を含有する研磨剤は、表面及び内面に欠陥を生じることなく、研磨面の精度を高度に達成することができる優れた特徴を有する。しかしながら、その一方で、研磨条件等によって、上述したキャリア鳴きと呼ばれる被研磨物の微細振動が発生することがあった。
【0006】
一方、酸化物単結晶材料の研磨速度の向上を目的として、硬脆材料用の精密研磨剤としてBET比表面積が10~60m/g、2次粒子の平均粒子径が0.5~5μmの沈降法微粒子シリカのみを固形成分として含んだ水系スラリー分散液が提案されている(例えば、特許文献1参照)。更に、同じく硬脆材料用の研磨剤として、コロイダルシリカの分散安定性の向上を目的として、グルコン酸ナトリウム等の添加剤を加えることで、研磨速度を向上させるものが既に提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この他に、タンタル酸リチウム単結晶材料やニオブ酸リチウム単結晶材料で構成された基板のための基板用研磨剤(例えば、特許文献3参照)や、タンタル酸リチウム単結晶材料等の研磨の際に、キャリア鳴きを抑制する目的で不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体を研磨剤に添加することが既に提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-1279号公報
【文献】特開2006-150482号公報
【文献】特開2002-184726号公報
【文献】特開2017-218514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に示された研磨剤は、圧電材料の研磨におけるキャリア鳴きと呼ばれる微細振動の抑制については何ら開示も示唆もされていない。
【0010】
一方、特許文献3に開示された硬脆材料で構成された基板用の研磨剤の場合、研磨速度が高く、かつ研磨面等の外観を良好に研磨することを主たる目的とするものである。そのため、γ-アルミナ及びシリカを成分として含み、加えて潤滑剤及び分散助剤を多く含んでいる。ここで、γ-アルミナのようなアルミナ成分及びシリカ成分を含むと沈降が生じやすくなり、上述した循環供給方式の研磨には不向きであることが知られている。
【0011】
更に、潤滑剤及び分散助剤を多く含むと研磨剤自体の粘度が高くなり、種々の問題が生じやすくなる。また、特許文献3には、キャリア鳴きについても開示も示唆もなされていない。
【0012】
一方、特許文献4には、タンタル酸リチウム単結晶材料等の酸化物単結晶材料の研磨において、キャリア鳴きを抑制する目的で、不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体を研磨剤中に添加することが提案されている。しかしながら、研磨速度の向上の点においては不十分であることが知られており、より一層の改善や改良する必要があることが認められている。
【0013】
そこで、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料の酸化物単結晶材料を被研磨物とする研磨加工において、研磨速度の向上を図るとともに、研磨速度が高くなるに連れて発生するキャリア鳴き(微細振動)を抑制し、研磨位置のずれや割れなどの不具合を生じることなく、安定した研磨を行うものが求められている。
【0014】
上記実情に鑑み、本発明は、酸化物単結晶材料(基板)の研磨において、研磨時におけるキャリア鳴きを抑制するとともに、研磨後の研磨表面の平坦性の向上及び研磨速度の向上を図ることが可能な研磨剤組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、平均粒子径の異なる二種類のシリカ粒子と水溶性高分子化合物と水とを含有し、水溶性高分子化合物が不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体であることを特徴とする研磨剤組成物を使用することにより、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料の酸化物単結晶基板の研磨において、被研磨物のキャリア鳴きと呼ばれる微細振動を抑制し、研磨速度を向上させ、研磨後の基板の平坦性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、以下に示す研磨剤組成物が提供される。
【0016】
[1] シリカ粒子、水溶性高分子化合物、及び水を含有し、前記シリカ粒子は、平均粒子径が10~60nmの小粒径シリカ粒子と、平均粒子径が70~200nmの大粒径シリカ粒子とを含み、前記小粒径シリカ粒子及び前記大粒径シリカ粒子の合計質量に対する前記小粒径シリカ粒子の質量の割合が50~95質量%であり、前記水溶性高分子化合物は、不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体で構成され、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料を研磨加工するための研磨剤組成物。
【0017】
[2] 前記水溶性高分子化合物は、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体である前記[1]に記載の研磨剤組成物。
【0018】
[3] 前記水溶性高分子化合物は、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位と、カルボキシル基含有ビニルモノマーに由来する構成単位とを有する共重合体である前記[1]または[2]に記載の研磨剤組成物。
【0019】
[4] 無機酸及び/またはその塩、有機酸及び/またはその塩、及び、塩基性化合物の少なくとも一種類を更に含有する前記[1]~[3]のいずれかに記載の研磨剤組成物。
【0020】
[5] 前記有機酸及び/またはその塩は、キレート性化合物である前記[4]に記載の研磨剤組成物。
【発明の効果】
【0021】
平均粒子径の異なる二種類のシリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、水とを含み、水溶性高分子化合物が不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体であることを特徴とする研磨剤組成物を用い、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料の研磨を行うことにより、平坦性の向上、研磨速度の向上、及びキャリア鳴きの抑制を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
1.研磨剤組成物
本発明の一実施形態の研磨剤組成物は、シリカ粒子、水溶性高分子化合物、及び水を含有し、当該シリカ粒子は、平均粒子径の異なる小粒径シリカ粒子及び大粒径シリカ粒子をそれぞれ規定の割合で含み、当該水溶性高分子化合物は、不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体であり、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料を研磨加工するためのものである。
【0024】
1.1 シリカ粒子
本実施形態の研磨剤組成物において用いられるシリカ粒子は、コロイダルシリカ、湿式法シリカ(沈降法シリカ、ゲル法シリカ等)、ヒュームドシリカ等を例示することができ、特に、コロイダルシリカを用いることが好適である。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属ケイ酸塩を無機酸と反応させて製造される水ガラス法、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを酸またはアルカリで加水分解する方法、金属ケイ素と水とをアルカリ触媒の存在下で反応させる方法等がある。このうち、製造コストの点において水ガラス法を好適に用いることができる。
【0025】
シリカ粒子は、平均粒子径が10~60nmの小粒径シリカ粒子と、平均粒子径が70~200nmの大粒径シリカ粒子とを含有し、小粒径シリカ粒子及び大粒径シリカ粒子の合計質量に対する小粒径シリカ粒子の占める割合(=小粒径シリカ粒子の質量/(小粒径シリカ粒子の質量+大粒径シリカ粒子の質量)×100)が50~95質量%の範囲である。かかる小粒径シリカ粒子の占める割合は、好ましくは55~90質量%の範囲であり、更に好ましくは60~85質量%の範囲である。
【0026】
更に、小粒径シリカ粒子の平均粒子径は、好ましくは15~55nmの範囲であり、一方、大粒径シリカ粒子の平均粒子径は、好ましくは75~150nmの範囲である。
【0027】
更に、小粒径シリカ粒子、大粒径シリカ粒子、及びその他シリカ粒子を含む全シリカ粒子の平均粒子径は、10~150nmの範囲とすることができる。好ましくは20~120nmの範囲とすることができる。ここで、全シリカ粒子の平均粒子径を10nm以上とすることで、研磨加工時における“キャリア鳴き”の発生を抑制する効果が期待される。
【0028】
更に、全シリカ粒子の平均粒子径を150nm以下とすることで、研磨加工時における“研磨速度”の向上を期待することができる。ここで、上記における各シリカ粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果に基づいて解析し、算出されたものである。なお、全シリカ粒子の合計質量に占める小粒径シリカ粒子及び大粒径シリカ粒子の合計質量の割合は、80質量%以上、より好ましくは90質量%以上とすることができる。
【0029】
また、研磨剤組成物中における全シリカ粒子の濃度は、5~50質量%の範囲であることが好ましく、10~40質量%の範囲であることがより好ましい。全シリカ粒子の濃度を5質量%以上とすることにより、シリカ粒子による研磨効果、特に優れた面質を得ることができる。一方、50質量%以下とすることにより、経済性の面で有利となるとともに、シリカ粒子以外の研磨材やその他の配合剤を配合することによる凝集やゲル化等の問題が生じ難くなる。
【0030】
1.2 水溶性高分子化合物
本実施形態の研磨剤組成物における水溶性高分子化合物は、不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体が用いられる。
【0031】
すなわち、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体を好適に使用することできる。更に、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位を含有する重合体と、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位及びカルボキシル基含有ビニルモノマーに由来する構成単位を含有する共重合体を好適に使用することができる。上記において、“(メタ)アクリルアミド”は、アクリルアミド及び/またはメタアクリルアミドを示すものと本明細書において定義する(以下、同じ。)。
【0032】
また、N-置換(メタ)アクリルアミドは、
一般式(1):CH=C(R)-CONR(R
(Rは水素原子またはメチル基、Rは水素原子または炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、Rは炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示す。)
で表される化合物である。
【0033】
なお、上記一般式(1)におけるRまたはRで示される炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t―ブチル基等を挙げることができる。一方、N-置換(メタ)アクリルアミドの具体例としては、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-i―プロピル(メタ)アクリルアミド、N-n―ブチル(メタ)アクリルアミド、N-i―ブチル(メタ)アクリルアミド、N-s-ブチル(メタ)アクリルアミド、及びN-t-ブチル(メタ)アクリルアミドを挙げることができる。
【0034】
水溶性高分子化合物が共重合体の場合、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドの使用割合は、当該共重合体を構成するビニルモノマーの総モル数に対して、5~99モル%の範囲とすることが好適である。更に、この場合において、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドの使用割合を10~98モル%の範囲とすることがより好適である。
【0035】
一方、カルボキシル基含有ビニルモノマーは、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(メタ)アリルカルボン酸等のモノカルボン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、またはこれら各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。特に、(メタ)アクリル酸またはイタコン酸の使用が好適である。ここで、上記において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/メタクリル酸を示すものと本明細書において定義する(以下、同じ。)。
【0036】
カルボキシル基含有ビニルモノマーの使用割合は、ビニルモノマーの総モル数に対して、1~95モル%の範囲とすることが好適である。更に、この場合において、カルボキシル基含有ビニルモノマーの使用割合を2~90モル%の範囲とすることがより好適である。
【0037】
(メタ)アクリルアミド、N-置換(メタ)アクリルアミド及びカルボキシル基含有ビニルモノマー以外の共重合体を構成するビニルモノマーとしては、従来から周知の種々の化合物を例示することができる。例えば、アニオン性ビニルモノマーとして、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などの有機スルホン酸、またはこれら各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0038】
一方、カチオン性ビニルモノマーとして、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの第三級アミノ基を有するビニルモノマーまたはそれらの塩酸、硫酸、酢酸などの無機酸若しくは有機酸の塩類、または該第三級アミノ基含有ビニルモノマーとメチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等の四級化剤との反応によって得られる第四級アンモニウム塩を含有するビニルモノマー等が挙げられる。
【0039】
また、ノニオン性ビニルモノマーとして、カルボキシル基含有ビニルモノマーまたはアニオン性ビニルモノマーのアルキルエステル(アルキル基の炭素数が1~8もの)、アクリロニトリル、スチレン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0040】
なお、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミド、カルボキシル基含有ビニルモノマー、及び更には必要により上記以外のビニルモノマーを共重合してカルボキシル基含有ポリアクリルアミドを製造する方法は、従来から周知の方法を用いて製造することができる。一例を示すと、所定の反応容器の中に上述した各種モノマー及び水を投入し、ラジカル重合開始剤を添加し、所定の回転数で攪拌しながら加温することにより目的とするカルボキシル基含有ポリアクリルアミドを得ることが可能である。
【0041】
ラジカル重合開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、またはこれらと亜硫酸水素ナトリウムのごとき還元剤とを組み合わせた形のレドックス系重合開始剤等の通常のラジカル重合開始剤を使用することができる。また、ラジカル重合開始剤として、アゾ系開始剤を用いるものであっても構わない。かかるラジカル重合開始剤の使用量は、ビニルモノマーの総重量和の0.05~2重量%程度とすることができる。
【0042】
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、通常、1,000~10,000,000程度であり、好ましくは5,000~5,000,000であり、更に好ましくは10,000~3,000,000である。ここで、本明細書において重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて、標準ポリスチレン換算により測定したときの値である。
【0043】
水溶性高分子化合物の含有量は、0.0001~1.0質量%の範囲であることが好ましく、0.01~0.8質量%の範囲がより好ましい。水溶性高分子化合物の含有量を0.0001質量%以上とすることにより、研磨加工時のキャリア鳴きの抑制が期待される。一方、1.0質量%以下とすることにより、高粘度化による流動性の低下を抑えることができ、作業性を向上させることができる。
【0044】
1.3 その他の添加剤
本実施形態の研磨剤組成物は、pH調整のために、無機酸及び/またはその塩、有機酸及び/またはその塩、及び、塩基性化合物の少なくとも一種類を更に含有することができる。また、有機酸及び/またはその塩としては、キレート性化合物の使用が好適である。
【0045】
更に具体的に説明すると、無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、及びトリポリリン酸等を例示することができ、これらの塩も使用することが可能である。例えば、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩等の使用が好適である。
【0046】
有機酸としては、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸等のモノカルボン酸、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、及び酒石酸等のジカルボン酸、クエン酸等のトリカルボン酸、グリシン等のアミノカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸等のポリアミノカルボン酸系化合物等を例示することができ、これらの塩も使用することが可能である。例えば、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩等の使用が好適である。
【0047】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア水、及び有機アミン類等を例示することできる。
【0048】
更に、本実施形態の研磨剤組成物中における無機酸及び/またはその塩、有機酸及び/またはその塩、及び、塩基性化合物の含有量は、0.05~4質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1~3質量%の範囲であり、更に好ましくは0.2~2質量%の範囲である。
【0049】
有機酸及び/またはその塩としては、前述したようにキレート性化合物を使用することが好適であり、ジカルボン酸、トリカルボン酸、アミノカルボン酸、及びポリアミノカルボン酸系化合物等が例示される。更に、ポリアミノカルボン酸系化合物について具体的に示すと、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸等、及びこれらのアンモニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩等が挙げられる。
【0050】
有機酸及び/またはその塩として、キレート性化合物を用いると、更に研磨速度を向上させることができ、研磨加工時におけるキャリア鳴きの発生を抑制する効果を有している。
【0051】
本実施形態の研磨剤組成物において、pH値(25℃)を7~11の範囲に調整したものが好ましい。pH値(25℃)が7~11の範囲に調整されると、シリカ粒子の電荷が負に大きくなる傾向が知られている。そのため、シリカ粒子間において働く電気的な反発力が大きくなり、それぞれのシリカ粒子に効果的に作用することで研磨材粒子が均等に分散されるようになる。
【0052】
これに対し、pH値(25℃)が7未満、特に5~6付近となる場合は、シリカ粒子間の電荷のバランスが崩れ、シリカ粒子の凝集やゲル化が発生しやすくなる。また、pH値(25℃)が11を超える場合、徐々にシリカ粒子の表面が溶解し、研磨剤組成物としての作用効果を発揮することができなくなるおそれがある。
【0053】
2.研磨方法
本実施形態の研磨剤組成物を用いて、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料からなる基板に対して研磨加工を施す際には、従来から周知の種々の研磨手法を適宜選択することができる。例えば、所定量の研磨剤組成物を研磨機に設けられた供給容器に投入する。その後、供給容器からノズルやチューブを介して、研磨機の定盤上に貼付された研磨パッドに対して当該研磨剤組成物を滴下して供給しつつ、被研磨物(タンタル酸リチウム単結晶材料等)の研磨面を研磨パッド面に押圧し、定盤を所定の回転速度にて回転させることにより、被研磨物の表面を研磨する。
【0054】
ここで、研磨パッドとしては、従来から周知の不織布、発泡ポリウレタン、多孔質樹脂、及び非多孔質樹脂等からなるものを適宜選択して使用することができる。更に、研磨パッドへの研磨剤組成物の供給を促進し、或いは研磨パッドに当該研磨剤組成物が一定量留まるようにするために、研磨パッドの表面に格子状、同心円状、または螺旋状等の溝加工が施されているものであってもよい。
【実施例
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えることができる。
【0056】
(水溶性高分子化合物の合成)
以下に示す方法で、各実施例及び比較例で使用した水溶性高分子化合物(合成例1~合成例4)を合成した。なお、下記の合成例において、“部”及び“%”は特に断りのない限り、“質量部”または“質量%”を示すものである。
【0057】
(合成例1)
温度計、環流冷却管及び窒素導入管を備えた四つ口フラスコにアクリルアミド100質量部(ビニルモノマーの総モル和に対して95mol%、以下同じ)、アクリル酸5.3質量部(5mol%)、イソプロピルアルコール5.3質量部、及びイオン交換水400質量部を投入し、窒素ガスを導入して反応系内の酸素を除去した。その後、反応系内の温度を40℃に調整し、攪拌を継続しながら重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.3質量部及び亜硫酸ナトリウム0.2質量部を投入した。反応系内の発熱により重合反応の開始を確認し、反応系内の液温が90℃に達した後、当該温度で2時間の保温を行った。重合反応の終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液を5.5質量部及びイオン交換水11質量部を反応系内に投入し、pH値(25℃)が7.5、ポリマー濃度20%カルボキシル基含有ポリアクリルアミド水溶液である合成例1の水溶性高分子化合物を得た。得られた合成例1の水溶性高分子化合物の組成は、アクリルアミド/アクリル酸=95/5(モル%)、重量平均分子量は、900,000であった。
【0058】
(合成例2)
温度計、還流冷却管及び窒素導入管を備えた四つ口フラスコにアクリルアミド100質量部(ビニルモノマー総モル和に対し95モル%)、メタクリル酸6.3質量部(5モル%)、プロピルアルコール5.3質量部及びイオン交換水400質量部を投入し、窒素ガスを導入して反応系内の酸素を除去した。その後、反応系内の温度を40℃に調整し、攪拌を継続しながら重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.3質量部及び亜硫酸水素ナトリウム0.2質量部を投入した。反応系内の発熱により重合反応の開始を確認し、反応境内の液温が90℃に達した後、当該温度で2時間の保温を行った。重合反応の終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液を5.5質量部及びイオン交換水11質量部を投入し、pH値(25℃)が7.5、ポリマー濃度20%のカルボキシル基含有ポリアクリルアミド水溶液である合成例2の水溶性高分子化合物を得た。得られた合成例2の水溶性高分子化合物の組成は、アクリルアミド/メタクリル酸=95/5(モル%)、重量平均分子量は、1,400,000であった。
【0059】
(合成例3)
上記合成例1において、アクリルアミドをt-ブチルアクリルアミドに変更し、モノマー割合をt-ブチルアクリルアミド/アクリル酸=14/86(モル%)に調整して合成を行い、カルボキシル基含有ポリアクリルアミド水溶液である合成例3の水溶性高分子化合物を得た。得られた合成例3の水溶性高分子化合物の組成は、t-ブチルアクリルアミド/アクリル酸=14/86(モル%)、重量平均分子量は、13,000であった。
【0060】
(合成例4)
上記合成例1において、アクリルアミドをアクリル酸に変更し、アクリル酸の単独重合を行い、合成例4の水溶性高分子化合物を得た。得られた合成例4の水溶性高分子化合物は、アクリル酸単独重合体であり、重量平均分子量は、12,000であった。
【0061】
合成された上記合成例1~4の水溶性高分子化合物をそれぞれ用い、下記表1または表2の配合割合になるように、以下に示す方法で、実施例1~21及び比較例1~8の研磨剤組成物の調製を行った。なお、比較例1及び比較例4は、合成例1~4の水溶性高分子化合物を含まない研磨剤組成物である。
【0062】
(実施例1)
市販のアルカリ性コロイダルシリカA(平均粒子径20nm、固形分濃度50質量%)と、アルカリ性コロイダルシリカB(平均粒子径100nm、固形分濃度50質量%)を7:3の質量比で固形分として300g、これに上記合成例1で合成された水溶性高分子化合物2gを加えた。更に研磨剤組成物のpH値(25℃)を8.5に調整するための必要量のリン酸が添加された酸性水溶液400gを加え、攪拌することにより、実施例1の研磨剤組成物1kgを得た。
【0063】
(実施例2)
上記実施例1において、リン酸をマロン酸に変更することにより、実施例2の研磨剤組成物1kgを得た。
【0064】
(実施例3)
上記実施例1において、リン酸をクエン酸に変更することにより、実施例3の研磨剤組成物1kgを得た。
【0065】
(実施例4)
上記実施例1において、合成例1で合成された水溶性高分子化合物を変更し、合成例2で合成された水溶性高分子化合物を用いることにより、実施例4の研磨剤組成物1kgを得た。
【0066】
(実施例5)
上記実施例4において、リン酸をマロン酸に変更することにより実施例5の研磨剤組成物1kgを得た。
【0067】
(実施例6)
上記実施例4において、リン酸をクエン酸に変更することにより実施例6の研磨剤組成物1kgを得た。
【0068】
(実施例7)
上記実施例1において、合成例1で合成された水溶性高分子化合物を変更し、合成例3で合成された水溶性高分子化合物を用いることにより、実施例7の研磨剤組成物1kgを得た。
【0069】
(実施例8)
上記実施例7において、リン酸をマロン酸に変更することにより実施例8の研磨剤組成物1kgを得た。
【0070】
(実施例9)
上記実施例7において、リン酸をクエン酸に変更することにより実施例9の研磨剤組成物1kgを得た。
【0071】
(実施例10)
市販のアルカリ性コロイダルシリカC(平均粒子径40nm、固形分濃度50質量%)と、アルカリ性コロイダルシリカB(平均粒子径100nm、固形分濃度50質量%)を8:2の質量比で固形分として300g、これに上記合成例1で合成された水溶性高分子化合物2gを加えた。更に研磨剤組成物のpH値(25℃)を8.5に調整するための必要量のリン酸が添加された酸性水溶液400gを加え、攪拌することにより、実施例10の研磨剤組成物1kgを得た。
【0072】
(実施例11)
市販のアルカリ性コロイダルシリカD(平均粒子径30nm、固形分濃度50質量%)と、アルカリ性コロイダルシリカE(平均粒子径80nm、固形分濃度50質量%)を7:3の質量比で固形分として300g、これに上記合成例1で合成された水溶性高分子化合物0.2gを加えた。更に研磨剤組成物のpH値(25℃)を8.5に調整するための必要量のリン酸が添加された酸性水溶液400gを加え、攪拌することにより、実施例11の研磨剤組成物1kgを得た。
【0073】
(実施例12)
市販のアルカリ性コロイダルシリカD(平均粒子径30nm、固形分濃度50質量%)と、アルカリ性コロイダルシリカE(平均粒子径80nm、固形分濃度50質量%)を9:1の質量比で固形分として300g、これに上記合成例1で合成された水溶性高分子化合物0.2gを加えた。更に研磨剤組成物のpH値(25℃)を8.5に調整するための必要量のリン酸が添加された酸性水溶液400gを加え、攪拌することにより、実施例12の研磨剤組成物1kgを得た。
【0074】
(実施例13~21)
実施例13は実施例1と同様に調製し、実施例14は実施例2と同様に調製し、実施例15は実施例3と同様に調製し、実施例16は実施例4と同様に調製し、実施例17は実施例5と同様に調製し、実施例18は実施例6と同様に調製し、実施例19は実施例7と同様に調製し、実施例20は実施例8と同様に調製し、実施例21は実施例9と同様に調製し、それぞれの研磨剤組成物1kgを得た。
【0075】
(比較例1)
上記実施例1において、合成例1で合成された水溶性高分子化合物を添加しないこと以外は同様に調製して、比較例1の研磨剤組成物1kgを得た。
【0076】
(比較例2)
上記実施例1において、合成例1で合成された水溶性高分子化合物を変更し、合成例4で合成された水溶性高分子化合物を用いること以外は同様に調製して、比較例2の研磨剤組成物1kgを得た。
【0077】
(比較例3)
市販のアルカリ性コロイダルシリカA(平均粒子径20nm、固形分濃度50質量%)を固形分として300g、これに上記合成例1で合成された水溶性高分子化合物0.2gを加えた。更に研磨剤組成物のpH値(25℃)を8.5に調製するための必要量のリン酸が添加された酸性水溶液400gを加え、攪拌することにより、比較例3の研磨剤組成物1kgを得た。
【0078】
(比較例4)
市販のアルカリ性コロイダルシリカB(平均粒子径100nm、固形分濃度50質量%)を固形分として300g、これに上記合成例1で合成された水溶性高分子化合物0.2gを加えた。更に研磨剤組成物のpH値(25℃)を8.5に調製するための必要量のリン酸が添加された酸性水溶液400gを加え、攪拌することにより、比較例4の研磨剤組成物1kgを得た。
【0079】
(比較例5~8)
比較例5は比較例1と同様に調製し、比較例6は比較例2と同様に調製し、比較例7は比較例3と同様に調製し、比較例8は比較例4と同様に調製し、それぞれの研磨剤組成物1kgを得た。
【0080】
(コロイダルシリカの粒子径)
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカ粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0081】
(研磨試験)
上記で得られた実施例1~21及び比較例1~8の各1kgの研磨剤組成物を、それぞれ両面研磨機(SPEED FAM社製:6B-5P-II、ポリッシング定盤直径:422mm)に設けられた研磨剤供給容器に導入した後、この研磨機を用いて、タンタル酸リチウム単結晶材料、またはニオブ酸リチウム単結晶材料からなる基板(直径:76mm、厚み0.3mm)の表面に5時間のポリッシングを行った。
【0082】
ポリッシングに際して、定盤の回転速度(回転数)は55rpmに設定され、研磨圧力は300g/cmであった。研磨剤組成物は、チューブポンプを用いて、200ml/minの供給速度にて、定盤上に貼られた研磨布上に供給されるとともに、あふれ出した研磨剤組成物が容器に戻される、いわゆる循環供給方式によって、繰り返し用いられた。
【0083】
そして、上述のように基板の表面をポリッシングしつつ、研磨時間が1時間経過するごとに、マイクロメータ(ミツトヨ社製、測定精度:1μm)を用いて基板の厚みを測定し、それにより、1時間ごとの研磨速度(μm/hr)を求めた。表1には実施例1~12及び比較例1~4でのタンタル酸リチウム単結晶材料基板の研磨試験結果を示す。表2には実施例13~21及び比較例5~8でのニオブ酸リチウム単結晶基板の研磨試験結果を示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
(キャリア鳴きの判定)
研磨開始直後より研磨終了までの間において、研磨試験機の回転する定盤やキャリア周辺から発生する音を以下に従って評価し、キャリア鳴きの発生の有無を判定した。
〇:研磨時の通常の摺動音が認められる。
△:摺動音ではないキュッキュという摩擦音が認められる。
×:ガリッガリという強い摩擦音が認められる。
【0087】
(基板の平坦性評価)
基板の中心部及び円周部の4点、計5点の厚みをマイクロメータで測定し、基板の平均厚みを計算する。基板の平均厚みと各点の厚み差を以下の基準で分類し、平坦性を評価した。
〇:基板の平均厚みと各点の厚みの差が1%未満である。
△:基板の平均厚みと各点の厚みの差が1~1.5%の範囲である。
×:基板の平均厚みと各点の厚みの差が1.5%以上である。
【0088】
(研磨速度の評価)
基板がタンタル酸リチウム単結晶基板の場合、水溶性高分子化合物を用いない比較例1の値を基準として、基板がニオブ酸単結晶基板の場合、水溶性高分子化合物を用いない比較例5の値を基準としてそれぞれ評価した。
○:比較例1(または比較例5)よりも研磨速度が大きい(=研磨速度の向上)。
△:比較例1(または比較例5)と研磨速度が同じ。
×:比較例1(または比較例5)よりも研磨速度が小さい(=研磨速度の低下)。
【0089】
(考察)
表1の結果から、タンタル酸リチウム単結晶基板の研磨において、本発明の効果は明らかである。実施例1、4、7と比較例1、2の対比から、不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体を添加することにより、平坦性が向上し、キャリア鳴きが抑制されることがわかる。具体的には、比較例1の平坦性の評価が“△”及び比較例2の平坦性の評価が“×”であるのに対し、実施例1、4、7はいずれも“○”であり、キャリア鳴きの評価も比較例1が“×”、比較例2が “△”であるのに対し、実施例1、4、7はいずれも“○”であった。また、比較例1の研磨速度が28.6μm/hrであるのに対し、実施例1、4、7の研磨速度はそれぞれ33.8μm/hr、35.1μm/hr、及び30.2μm/hrであり、研磨速度の向上が認められる。
【0090】
実施例1と比較例3、4の対比から、小粒径シリカ粒子と大粒径シリカ粒子の組み合わせにすることにより、小粒径シリカ粒子単独あるいは大粒径シリカ粒子単独の場合に比べて研磨速度が向上し、平坦性も向上し、キャリア鳴きも抑制されることがわかる。具体的には、比較例3,4の研磨速度がそれぞれ10.5μm/hr及び17.4μm/hrであるのに対し、実施例1の研磨速度は33.8μm/hrである。更に比較例3の平坦性の評価が“×”、キャリア鳴きの評価が“△”であるのに対し、実施例1の平坦性及びキャリア鳴きの評価が“○”であった。
【0091】
実施例2、3は実施例1に対して、使用する酸を無機酸からキレート性の有機酸に変更した結果であるが、研磨速度が実施例1よりも向上している。同様のことが実施例5、6と実施例4の対比、及び実施例8、9と実施例7の対比においてもいえる。具体的には、実施例1の研磨速度が33.8μm/hrであるのに対し、実施例2の研磨速度は36.5μm/hr及び実施例3の研磨速度は35.8μm/hrであり、研磨速度の向上が認められる。同様に、実施例4の研磨速度が35.1μm/hrであるのに対し、実施例5の研磨速度は39.2μm/hr及び実施例6の研磨速度は37.3μm/hrであり、更に、実施例7の研磨速度が30.2μm/hrであるのに対し、実施例8の研磨速度は32.5μm/hr及び実施例9の研磨速度が31.3μm/hrであり、キレート性の有機酸の使用により研磨速度の向上が認められる。
【0092】
実施例10~12は、実施例1に対して小粒径シリカ粒子と大粒径シリカ粒子の平均粒子径、及び小粒径シリカ粒子と大粒径シリカ粒子の割合を変化させた場合の結果である。表1に示されるように、本発明において規定された要件を満たす研磨剤組成物は、研磨速度、平坦性、及びキャリア鳴きのいずれにおいても良好な評価を得ることが確認された。
【0093】
表2の結果からニオブ酸リチウム単結晶基板の研磨においても、本発明の効果は明らかである。実施例13、16、19と比較例5、6の対比から、不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体を添加することにより、平坦性が向上し、キャリア鳴きが抑制されることがわかる。具体的には、比較例5の平坦性の評価が“△”及び比較例6の平坦性の評価が“×”であるのに対し、実施例13、16、19はいずれも“○”であり、キャリア鳴きの評価も比較例5が“×”、比較例6が“△”であるのに対し、実施例13、16、19はいずれも“○”であった。また、比較例5の研磨速度が58.5μm/hrであるのに対し、実施例13、16、19の研磨速度はそれぞれ66.5μm/hr、69.8μm/hr、及び59.0μm/hrであり、研磨速度の向上が認められる。
【0094】
実施例13と比較例7、8の対比から、小粒径シリカ粒子と大粒径シリカ粒子の組み合わせにすることにより、小粒径シリカ粒子単独あるいは大粒径シリカ粒子単独の場合に比べて研磨速度が向上し、平坦性も向上し、キャリア鳴きも抑制されることがわかる。
具体的には、比較例7,8の研磨速度がそれぞれ17.8μm/hr及び32.7μm/hrであるのに対し、実施例13の研磨速度は66.5μm/hrである。更に比較例7の平坦性の評価が“×”、キャリア鳴きの評価が“△”であるのに対し、実施例13の平坦性及びキャリア鳴きの評価が“○”であった。
【0095】
実施例14、15は実施例13に対して、使用する酸を無機酸からキレート性の有機酸に変更した結果であるが、研磨速度が実施例13よりも向上している。同様のことが実施例17、18と実施例16の対比、及び実施例20、21と実施例19の対比においてもいえる。具体的には、実施例13の研磨速度が66.5μm/hrであるのに対し、実施例14の研磨速度は70.0μm/hr及び実施例15の研磨速度は68.7μm/hrであり、研磨速度の向上が認められる。同様に、実施例16の研磨速度が69.8μm/hrであるのに対し、実施例17の研磨速度は74.2μm/hr及び実施例18の研磨速度は72.1μm/hrであり、更に、実施例19の研磨速度が59.0μm/hrであるのに対し、実施例20の研磨速度は62.1μm/hr及び実施例21の研磨速度は60.8μm/hrであり、研磨速度の向上が認められる。
【0096】
以上のことから、平均粒子径の異なる2種類のシリカ粒子と、不飽和アミドに由来する構成単位を含有する重合体または共重合体を含む研磨剤組成物を用いて、タンタル酸リチウム単結晶基板またはニオブ酸リチウム単結晶基板の研磨を行うことにより、基板の平坦性が向上し、研磨速度の向上が図れ、更にキャリア鳴きの抑制が図れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の研磨剤組成物は、タンタル酸リチウム単結晶材料、ニオブ酸リチウム単結晶材料の研磨に用いることができる。