(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】評価装置、水門システムおよび評価方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/36 20060101AFI20231114BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
E02B7/36
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2020062365
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】山下 遼
(72)【発明者】
【氏名】林 健人
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-044650(JP,A)
【文献】特開2005-345111(JP,A)
【文献】特開2005-043221(JP,A)
【文献】特開2020-040801(JP,A)
【文献】特開平11-131455(JP,A)
【文献】国際公開第2015/160254(WO,A1)
【文献】特開2006-027888(JP,A)
【文献】特開昭61-053560(JP,A)
【文献】特開2003-075327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20-7/54
B66C 15/00
G01N 17/00
B66B 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水門開閉装置において駆動部と扉体とを連結する連結媒体の劣化状態を評価する評価装置であって、
時間算出部と、
劣化状態評価部と、
を備え
、
水面の上下近傍である水面近傍領域、前記水面近傍領域よりも下方の水中領域、および、前記水面近傍領域よりも上方の気中領域
が設定される場合に、前記時間算出部は、連結媒体において、前記水面近傍領域、前記水中領域、および、前記気中領域の間を移動する所定の部位に対して、前記水面に対する位置情報に基づいて、前記水面近傍領域、前記水中領域、および、前記気中領域の少なくとも1つの領域に位置する時間
を算出し、
前記水面から下方の水中領域、および、前記水面よりも上方の気中領域
が設定される場合に、前記時間算出部は、前記連結媒体において、前記水中領域、および、前記気中領域の間を移動する所定の部位に対して、前記水面に対する位置情報に基づいて、前記水中領域、および、前記気中領域の少なくとも1つの領域に位置する時間を算出し、
前記劣化状態評価部は、前記部位に対して、前記時間算出部により算出された結果を用いて、前記少なくとも1つの領域に位置する累積時間に依存する評価値を求め、前記連結媒体の劣化状態を評価することを特徴とする評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の評価装置であって、
前記時間算出部が、前記連結媒体における前記部位に対して、前記少なくとも1つの領域に位置する累積時間を算出することを特徴とする評価装置。
【請求項3】
請求項1に記載の評価装置であって、
前記時間算出部が、前記連結媒体における前記部位に対して、前記少なくとも1つの領域に連続して位置する連続時間を順次算出し、
前記劣化状態評価部が、前記時間算出部により算出された複数の連続時
間に対して、
それぞれの長さに
応じた係数を乗じて得た値の和を求めることにより、前記少なくとも1つの領域に位置する累積時間に依存する前記評価値を求めることを特徴とする評価装置。
【請求項4】
請求項2に記載の評価装置であって、
前記時間算出部が、前記連結媒体における前記部位に対して、前記水面近傍領域に位置する第1累積時間と、前記水面近傍領域よりも下方の前記水中領域に位置する第2累積時間とを算出し、
前記劣化状態評価部が、前記部位に対して、前記第1累積時間および前記第2累積時間を用いて前記劣化状態を評価することを特徴とする評価装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の評価装置であって、
ロープである前記連結媒体における前記部位が、所定の曲げ位置に配置される回数を曲げ回数として取得する曲げ回数取得部をさらに備え、
前記劣化状態評価部が、前記部位に対して、前記曲げ回数を用いて前記劣化状態を評価することを特徴とする評価装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の評価装置であって、
前記位置情報が、扉体の開度を測定する開度計、および、前記水面の高さを測定する水位計の出力に基づいて取得されることを特徴とする評価装置。
【請求項7】
水門システムであって、
扉体と、
駆動部、および、前記駆動部と前記扉体とを連結する連結媒体を有する水門開閉装置と、
前記連結媒体の劣化状態を評価する、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の評価装置と、
を備えることを特徴とする水門システム。
【請求項8】
水門開閉装置において駆動部と扉体とを連結する連結媒体の劣化状態を評価する評価方法であって、
時間算出工程と、
劣化状態評価工程と、
を備え
、
水面の上下近傍である水面近傍領域、前記水面近傍領域よりも下方の水中領域、および、前記水面近傍領域よりも上方の気中領域
が設定される場合に、前記時間算出工程は、連結媒体において、前記水面近傍領域、前記水中領域、および、前記気中領域の間を移動する所定の部位に対して、前記水面に対する位置情報に基づいて、前記水面近傍領域、前記水中領域、および、前記気中領域の少なくとも1つの領域に位置する時間
を算出し、
前記水面から下方の水中領域、および、前記水面よりも上方の気中領域
が設定される場合に、前記時間算出工程は、前記連結媒体において、前記水中領域、および、前記気中領域の間を移動する所定の部位に対して、前記水面に対する位置情報に基づいて、前記水中領域、および、前記気中領域の少なくとも1つの領域に位置する時間を算出し、
前記劣化状態評価工程は、前記部位に対して、前記時間算出工程において算出された結果を用いて、前記少なくとも1つの領域に位置する累積時間に依存する評価値を求め、前記連結媒体の劣化状態を評価することを特徴とする評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水門開閉装置において駆動部と扉体とを連結する連結媒体の劣化状態を評価する技術、および、当該技術を利用した水門システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、ワイヤロープ式の水門開閉装置における各種機器の劣化度合いを診断する装置が開示されている。当該装置では、ワイヤロープ張力に基づいて複数の滑車の抵抗に起因する組滑車効率が算出される。そして、組滑車効率を経年的に監視して、各種機器の劣化度合いが診断される。
【0003】
なお、特許文献2では、エレベーター用の主ロープの寿命を診断する主ロープ診断装置が開示されている。当該装置では、各ロープ位置がシーブおよびそらせプーリを通過する回数から各ロープ位置における曲げ回数が求められ、最も劣化する位置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5827075号公報
【文献】特開2006-27888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の診断装置では、ワイヤロープの一部が没水する場合に水から受ける影響について考慮されていないため、ワイヤロープの劣化状態を適切に評価することができない場合がある。したがって、ワイヤロープ等の連結媒体の劣化状態を適切に評価することが可能な新規な手法が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、連結媒体の劣化状態を適切に評価することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、水門開閉装置において駆動部と扉体とを連結する連結媒体の劣化状態を評価する評価装置であって、時間算出部と、劣化状態評価部とを備え、水面の上下近傍である水面近傍領域、前記水面近傍領域よりも下方の水中領域、および、前記水面近傍領域よりも上方の気中領域が設定される場合に、前記時間算出部は、連結媒体において、前記水面近傍領域、前記水中領域、および、前記気中領域の間を移動する所定の部位に対して、前記水面に対する位置情報に基づいて、前記水面近傍領域、前記水中領域、および、前記気中領域の少なくとも1つの領域に位置する時間を算出し、前記水面から下方の水中領域、および、前記水面よりも上方の気中領域が設定される場合に、前記時間算出部は、前記連結媒体において、前記水中領域、および、前記気中領域の間を移動する所定の部位に対して、前記水面に対する位置情報に基づいて、前記水中領域、および、前記気中領域の少なくとも1つの領域に位置する時間を算出し、前記劣化状態評価部は、前記部位に対して、前記時間算出部により算出された結果を用いて、前記少なくとも1つの領域に位置する累積時間に依存する評価値を求め、前記連結媒体の劣化状態を評価する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の評価装置であって、前記時間算出部が、前記連結媒体における前記部位に対して、前記少なくとも1つの領域に位置する累積時間を算出する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の評価装置であって、前記時間算出部が、前記連結媒体における前記部位に対して、前記少なくとも1つの領域に連続して位置する連続時間を順次算出し、前記劣化状態評価部が、前記時間算出部により算出された複数の連続時間に対して、それぞれの長さに応じた係数を乗じて得た値の和を求めることにより、前記少なくとも1つの領域に位置する累積時間に依存する前記評価値を求める。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の評価装置であって、前記時間算出部が、前記連結媒体における前記部位に対して、前記水面近傍領域に位置する第1累積時間と、前記水面近傍領域よりも下方の前記水中領域に位置する第2累積時間とを算出し、前記劣化状態評価部が、前記部位に対して、前記第1累積時間および前記第2累積時間を用いて前記劣化状態を評価する。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の評価装置であって、ロープである前記連結媒体における前記部位が、所定の曲げ位置に配置される回数を曲げ回数として取得する曲げ回数取得部をさらに備え、前記劣化状態評価部が、前記部位に対して、前記曲げ回数を用いて前記劣化状態を評価する。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の評価装置であって、前記位置情報が、扉体の開度を測定する開度計、および、前記水面の高さを測定する水位計の出力に基づいて取得される。
【0013】
請求項7に記載の発明は、水門システムであって、扉体と、駆動部、および、前記駆動部と前記扉体とを連結する連結媒体を有する水門開閉装置と、前記連結媒体の劣化状態を評価する、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の評価装置とを備える。
【0014】
請求項8に記載の発明は、水門開閉装置において駆動部と扉体とを連結する連結媒体の劣化状態を評価する評価方法であって、時間算出工程と、劣化状態評価工程とを備え、水面の上下近傍である水面近傍領域、前記水面近傍領域よりも下方の水中領域、および、前記水面近傍領域よりも上方の気中領域が設定される場合に、前記時間算出工程は、連結媒体において、前記水面近傍領域、前記水中領域、および、前記気中領域の間を移動する所定の部位に対して、前記水面に対する位置情報に基づいて、前記水面近傍領域、前記水中領域、および、前記気中領域の少なくとも1つの領域に位置する時間を算出し、前記水面から下方の水中領域、および、前記水面よりも上方の気中領域が設定される場合に、前記時間算出工程は、前記連結媒体において、前記水中領域、および、前記気中領域の間を移動する所定の部位に対して、前記水面に対する位置情報に基づいて、前記水中領域、および、前記気中領域の少なくとも1つの領域に位置する時間を算出し、前記劣化状態評価工程は、前記部位に対して、前記時間算出工程において算出された結果を用いて、前記少なくとも1つの領域に位置する累積時間に依存する評価値を求め、前記連結媒体の劣化状態を評価する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、連結媒体の劣化状態を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】評価装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】ワイヤロープの劣化状態を評価する処理の流れを示す図である。
【
図4】ドラムおよびワイヤロープの組合せを示す図である。
【
図5】ワイヤロープの各部位が位置する領域を説明するための図である。
【
図6】ドラムおよびワイヤロープの組合せを示す図である。
【
図7】ワイヤロープの劣化状態を評価する処理の流れの一部を示す図である。
【
図8】ワイヤロープの一の部位が位置する領域の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る水門システム1の構成を示す図である。水門システム1は、扉体2と、水門開閉装置3と、コンピュータ4とを備える。扉体2は、水路を横断するように設けられる略板状であり、例えば金属により形成される。扉体2の上面には、滑車(シーブ)21が設けられる。滑車21は、扉体2と共に昇降する動滑車であり、以下、「扉体滑車21」という。
図1の例では、複数の扉体滑車21が扉体に取り付けられる。扉体2の構造は任意に変更されてよく、例えば、扉体2が上段扉および下段扉を有し、両者が連動して、または、個別に昇降するものであってもよい。
【0018】
水門開閉装置3は、例えば、ワイヤロープウィンチ式であり、扉体2を昇降させて水路の開閉を行う。水門開閉装置3は、駆動部31と、2本の金属製のワイヤロープ36とを備える。駆動部31は、電動機311と、ブレーキ装置312と、減速機313と、シャフト314と、2つのピニオン315と、2つのドラム316とを備える。電動機311は、ブレーキ装置312および減速機313を介してシャフト314を回転する。電動機311では、シャフト314の回転方向を正転および逆転で切り替えることが可能である。2つのピニオン315は、シャフト314に設けられる。2つのドラム316には、ドラムギア317が設けられ、2つのピニオン315とそれぞれ歯合する。シャフト314が回転することにより、2つのドラム316が正転または逆転する。
【0019】
各ドラム316には、連結媒体であるワイヤロープ36の一端が固定されるとともに、ワイヤロープ36の一部が巻かれている。各ワイヤロープ36においてドラム316に巻かれていない部分は、扉体2に設けられた2つの扉体滑車21に掛けられるとともに、当該2つの扉体滑車21の間にて滑車321に掛けられる。ワイヤロープ36の他端は、保持部322により保持される。滑車321および保持部322は堤体に対して固定される。以下、滑車321を「固定滑車321」という。ドラム316が正転することにより、ワイヤロープ36がドラム316に巻き取られ、扉体2が上昇する。ドラム316が逆転することにより、ワイヤロープ36がドラム316から送り出され、扉体2が下降する。
【0020】
なお、ドラム316の正転および逆転は、便宜的なものであり、ワイヤロープ36の巻き取りがドラム316の逆転と捉えられ、ワイヤロープ36の送り出しがドラム316の正転と捉えられてもよい。水門開閉装置3では、ドラム316およびワイヤロープ36が複数設けられてもよいが、ドラム316およびワイヤロープ36の1つの組合せのみが設けられてもよい。また、ドラム316やワイヤロープ36の数は必ずしも一致していなくてもよい。それぞれが1つであってもよく、3つ以上の複数であってもよい。また、ワイヤロープ36以外のロープや、チェーン等の他の索状部材が用いられてもよい。水門開閉装置3は、連結媒体としてラックを用いるラック式の開閉装置や、連結媒体としてスピンドルを用いるスピンドル式の開閉装置等であってもよい。駆動部31における駆動源は、回転運動を行う油圧モータ等であってもよく、直線運動を行う油圧シリンダ等であってもよい。油圧シリンダ等を駆動源として用いる場合に、当該駆動源の動作を扉体2に伝達するリンク機構等が、連結媒体として捉えられてもよい。
【0021】
水門開閉装置3は、開度計33と、水位計34とをさらに備える。開度計33は、例えばシャフト314の回転量を検出することにより、扉体2の開度を測定する。
図1の例では、扉体2の開度は、所定位置を基準とする扉体2の高さ(鉛直方向の位置)である。ここでの所定位置の一例としては水底である。開度計33は、扉体2に別途取り付けられたワイヤを利用して扉体2の開度を検出するものや、磁気センサ、リードスイッチまたは圧力センサ等を利用して扉体2の開度を検出するものであってもよい。水位計34は、例えばフロート式水位計であり、水面に浮かべられたフロートの位置を検出することにより、水位を測定する。
図1の例では、水位は、所定位置を基準とする水面の高さである。水位計34は、フロートを用いることなく水位を測定する、音波式、超音波式または圧力式水位計等であってもよい。
【0022】
図2は、評価装置40の機能構成を示すブロック図である。評価装置40の機能は、コンピュータ4のCPU等が、所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータがプログラムを実行することにより)実現される。評価装置40の機能は専用の電気回路により実現されてもよく、部分的に専用の電気回路が用いられてもよい。
図2では、開度計33および水位計34もブロックにて示す。
【0023】
評価装置40は、ワイヤロープ36の劣化状態を評価するものであり、時間算出部41と、劣化状態評価部43とを備える。時間算出部41は、ワイヤロープ36の各部位に対して後述の第1累積時間および第2累積時間を算出する。劣化状態評価部43は、ワイヤロープ36の各部位に対して、第1累積時間および第2累積時間を用いて劣化状態を評価する。なお、
図2中に破線で示す曲げ回数取得部42は、後述の他の処理例にて用いられる。以下、評価装置40の処理について詳細に説明する。
【0024】
図3は、評価装置40がワイヤロープ36の劣化状態を評価する処理の流れを示す図である。
図3中に破線で示すステップS13aは、後述の他の処理例にて行われる処理である。
図4は、ドラム316およびワイヤロープ36の一方の組合せを示す図である。
図4では、ワイヤロープ36が掛けられる2つの扉体滑車のうち、保持部322と固定滑車321との間に配置される扉体滑車(以下、「第1扉体滑車」という。)に符号21aを付し、固定滑車321とドラム316との間に配置される扉体滑車(以下、「第2扉体滑車」という。)に符号21bを付す。以下の説明では、ドラム316およびワイヤロープ36の一方の組合せのみに注目するが、ドラム316およびワイヤロープ36の他方の組合せに対しても同様の処理が行われる。
【0025】
図1に示す水門システム1では、開度計33により扉体2の開度が常時測定され、時間算出部41に入力される。なお、扉体2の開度は、扉体2の移動時等の所定のタイミングにおいてのみ測定されてもよい。また、水位計34により水位が常時測定され、時間算出部41に入力される。さらに、評価装置40では、
図4に示すワイヤロープ36を長手方向に複数(多数)に区分することにより、ワイヤロープ36において複数の部位が予め設定される(ステップS11)。当該複数の部位の長さは同じであることが好ましいが異なっていてもよい。例えば、各部位の長さは、0.1cm以上30cm以下である。
【0026】
時間算出部41では、開度計33および水位計34の出力に基づいて、ワイヤロープ36の各部位の水面W1に対する位置情報が取得される。具体的には、開度計33から入力される扉体2の開度を用いて、ワイヤロープ36においてドラム316に巻かれていない部分が特定されるとともに、当該部分に含まれる各部位の鉛直方向(
図4の上下方向)における高さが取得される。ここで、扉体2の開度は、ワイヤロープ36においてドラム316に巻かれていない部分の長さに依存する。換言すると、扉体2の開度からワイヤロープ36の当該部分の長さが得られる。また、ドラム316、固定滑車321および保持部322の位置は不変である。したがって、ワイヤロープ36の各部位の高さは、扉体2の開度に基づいて容易に取得可能である。ワイヤロープ36の各部位の高さは、水位計34から入力される水位と組み合わせることにより、各部位の水面W1に対する位置情報として捉えられる。
【0027】
続いて、時間算出部41では、水位計34から入力される水位を用いて、鉛直方向において水面W1の上下近傍である水面近傍領域(
図4中に符号R1を付す矢印にて示す領域)が特定される。水面近傍領域R1は、例えばワイヤロープ36が水しぶきを受けやすい領域である。水面近傍領域R1の上限位置は、水面W1から上方に第1設定距離だけ離れた位置であり、水面近傍領域R1の下限位置は、水面W1から下方に第2設定距離だけ離れた位置である。第1設定距離および第2設定距離は、予め設定される。第1設定距離は、例えば0~70cmであり、好ましくは3~50cmである。第2設定距離は、例えば0~70cmであり、好ましくは3~50cmである。第1設定距離および第2設定距離は、互いに異なっていてもよく、水面近傍領域R1には、水面W1から上方の領域、または、水面W1から下方の領域の一方のみが含まれてもよい。
【0028】
水面近傍領域R1が特定されると、時間算出部41では、現在のワイヤロープ36の各部位が、水面近傍領域R1、水面近傍領域R1よりも上方の領域(以下、「上方領域」という。)、および、水面近傍領域R1よりも下方の領域R2(以下、「下方領域R2」という。)のいずれに配置されているかが判定される(ステップS12)。水面近傍領域R1を設定する本処理例では、上方領域および下方領域R2は、それぞれ気中領域および水中領域と捉えることが可能である。
【0029】
図5は、ワイヤロープ36の各部位が位置する領域を説明するための図である。
図5の上段および下段における横軸は、保持部322に保持される基準部位を0として、ワイヤロープ36の長手方向に沿った位置(すなわち、基準部位からの長さ)を示す。
図5の下段は、ワイヤロープ36の各位置の部位が水面近傍領域R1、上方領域および下方領域R2のいずれに位置するかを示す。
図5の上段は、後述の他の処理例にて参照する。
【0030】
図4の例では、ワイヤロープ36においてドラム316に巻かれていない部分は、第1扉体滑車21a、固定滑車321および第2扉体滑車21bにて鉛直方向に折り返されるため、ワイヤロープ36の4個の部位が水面W1に位置する。
図5では、ワイヤロープ36において水面W1と交差する位置を、水面W1と同じ符号を付す破線にて示し、ドラム316に巻かれている部分を、ドラム316と同じ符号を付す矢印にて示す。また、
図5の下段では、水面近傍領域R1に位置するワイヤロープ36の範囲を、水面近傍領域R1と同じ符号を付す矢印にて示し、下方領域R2に位置するワイヤロープ36の範囲を、下方領域R2と同じ符号を付す矢印にて示す。
【0031】
図5の下段では、基準部位(0の位置)と、基準部位から右側に向かって1番目の水面近傍領域R1との間が上方領域に位置する。1番目の水面近傍領域R1と2番目の水面近傍領域R1との間が下方領域R2に位置し、2番目の水面近傍領域R1と3番目の水面近傍領域R1との間が上方領域に位置する。3番目の水面近傍領域R1と4番目の水面近傍領域R1との間が下方領域R2に位置し、4番目の水面近傍領域R1から右側が上方領域に位置する。ドラム316に巻かれている部分は、上方領域に位置する。水位の変動および扉体2の昇降により、
図5の下段における各領域の範囲は移動する。すなわち、ワイヤロープ36の各部位が位置する領域が変動する。
【0032】
時間算出部41では、ワイヤロープ36の交換時や、水門システム1の稼働開始時等の評価開始時から現在までの間において、ワイヤロープ36の各部位が、水面近傍領域R1に位置する累積時間が第1累積時間として算出され、下方領域R2に位置する累積時間が第2累積時間として算出される(ステップS13)。
【0033】
劣化状態評価部43では、ワイヤロープ36の各部位に対して、現在の第1累積時間および第2累積時間を用いて劣化状態が評価される。例えば、ワイヤロープ36の各部位の第1累積時間に係数を乗じて得た値と、当該部位の第2累積時間に他の係数を乗じて得た値とを足すことにより、判定評価値が求められる(ステップS14)。なお、判定評価値の上記演算は一例に過ぎず、他の演算により判定評価値が求められてもよい。
【0034】
各部位の判定評価値は所定の判定閾値と比較され、判定評価値が判定閾値よりも大きい場合に、当該部位の点検が必要であると判定される。この場合、コンピュータ4のディスプレイ等に、当該部位の位置情報と共に、当該部位の点検を促す表示を行ってもよい。点検を促す報知は、ライトの点灯や、ブザーの鳴動、電子メール等を用いた情報通信端末への通知等により行われてもよい。いずれの判定評価値も判定閾値以下である場合には、点検を促す報知は行われない。このようにして、劣化状態評価部43では、ワイヤロープ36の各部位に対して、第1累積時間および第2累積時間を用いて劣化状態が評価される(ステップS15)。
【0035】
評価装置40では、上記ステップS12~S15の処理が繰り返し行われる。なお、評価装置40では、劣化状態の評価において第1累積時間のみが用いられてもよい。また、判定評価値が判定閾値よりも大きい場合に、ワイヤロープ36の交換等、他の処置を促す報知が行われてもよい。判定評価値の算出方法は適宜変更されてよいため、判定評価値と判定閾値との比較では、判定評価値が判定閾値よりも小さい場合に、点検が必要である等と判定されてもよい。
【0036】
以上に説明したように、評価装置40の時間算出部41では、ワイヤロープ36の各部位の水面W1に対する位置情報に基づいて、当該部位が水面近傍領域R1に位置する累積時間が算出される。劣化状態評価部43では、当該部位に対して累積時間に依存する判定評価値が求められ、劣化状態が評価される。水門設備では、経験上、ワイヤロープにおいて水面近傍に位置する部位が損傷しやすくなるため、評価装置40では、水面近傍領域R1に位置する累積時間に基づいて、ワイヤロープ36の各部位の劣化状態を適切に評価することができる。また、ワイヤロープ36の寿命を正確に予測することも可能である。
【0037】
また、時間算出部41では、ワイヤロープ36の各部位に対して、水面近傍領域R1以外の水中(下方領域R2)に位置する第2累積時間についても算出される。劣化状態評価部43では、当該部位に対して第1累積時間および第2累積時間を用いて劣化状態が評価される。ここで、ワイヤロープにおいて没水時間が長い部位では、ロープグリースが水に流される(水の流れにより除去される)等の理由により、常時気中に存在する部位に比べて、損傷が生じやすくなると考えられる。また、水しぶきを浴びる水面近傍領域R1では、ロープグリースがより流されやすい場合もある。さらに、水面近傍領域R1の方が、水面近傍領域R1以外の水中(下方領域R2)に比べ酸素濃度が高くなり錆びやすいと考えられる。もちろん、下方領域R2においても、錆びが進行するため、各部位が水面近傍領域R1に位置する第1累積時間と、水面近傍領域R1以外の水中に位置する第2累積時間とを用いる評価装置40では、ワイヤロープ36の劣化状態をより適切に評価することができる。なお、評価装置40の設計によっては、劣化状態の評価において第2累積時間のみが用いられてもよい。また、劣化状態の評価において第1累積時間のみが用いられてもよい。
【0038】
ワイヤロープ36の各部位の水面W1に対する位置情報が、扉体2の開度を測定する開度計33、および、水面W1の高さを測定する水位計34の出力に基づいて取得される。水門設備では、通常、開度計および水位計が設けられているため、評価装置40では、既存の機器を利用して、ワイヤロープ36の各部位の位置情報を容易に取得することが可能である。なお、水位が安定している場合には、開度計33の出力のみを用いてワイヤロープ36の各部位の水面W1に対する位置情報が取得されてもよい。また、評価装置40の設計によっては、既存の開度計および水位計とは別に、扉体2そのものに水面W1に対する位置情報を取得するためのセンサを設置するなど、上記位置情報を取得する専用の測定部が設けられてもよい。
【0039】
時間算出部41では、
図6に示すように、水面近傍範囲R1を設定することなく、水面W1から下方の水中領域R3と、水面W1よりも上方の気中領域R4とが設定されてもよく、また、第1累積時間および第2累積時間以外の累積時間が算出されてもよい。例えば、没水時間(没水状態)に注目する場合には、水面W1から下方の水中領域R3に位置する第3累積時間が、ワイヤロープ36の各部位に対して算出されてもよい。この場合、ロープグリースが水に流されること等が原因として生じる劣化の状態を、第3累積時間を用いて適切に評価することができる。また、水門開閉装置3の周囲の環境によっては、ワイヤロープ36の各部位が、気中領域R4(または上記上方領域)に位置する累積時間が算出され、ワイヤロープ36の劣化状態の評価に利用されてもよい。
【0040】
以上のように、評価装置40では、ワイヤロープ36における各部位に対して、水面近傍領域R1、下方領域R2、および、上方領域の少なくとも1つの領域、または、(水面近傍領域R1を設定しない場合)水中領域R3および気中領域R4の少なくとも1つの領域のそれぞれに位置する累積時間が、時間算出部41により算出される。そして、当該部位に対して、時間算出部41により算出された結果を用いて、当該少なくとも1つの領域のそれぞれに位置する累積時間に依存する判定評価値が求められ、劣化状態が評価される。これにより、ワイヤロープ36の劣化状態を適切に評価することが実現される。
【0041】
次に、評価装置40による他の評価処理について説明する。当該他の評価処理では、
図2の曲げ回数取得部42が用いられるとともに、
図3中に破線で示すステップS13aが行われる。
【0042】
曲げ回数取得部42では、時間算出部41と同様に、開度計33から入力される扉体2の開度を用いて、ワイヤロープ36の各部位の鉛直方向における高さが取得される。なお、時間算出部41により取得されたワイヤロープ36の各部位の高さが、曲げ回数取得部42においてそのまま利用されてもよい。
【0043】
また、ワイヤロープ36におけるドラム316に巻かれていない部分において、局所的な最下点(極小点)が特定され、当該最下点から両側に所定長さの範囲が、曲げ位置に位置する部分として特定される。
図4の例では、第1扉体滑車21aおよび第2扉体滑車21bにそれぞれ対応する2個の局所的な最下点が存在するため、2個の曲げ位置に位置する部分が特定される。一方の曲げ位置では、ワイヤロープ36が第1扉体滑車21aに接触し、他方の曲げ位置では、ワイヤロープ36が第2扉体滑車21bに接触する。なお、第1扉体滑車21aの曲げ位置に位置するワイヤロープ36の長さは、例えば、第1扉体滑車21aの円周の半分である。第2扉体滑車21bの曲げ位置、および、固定滑車321の後述の曲げ位置において同様である。
【0044】
図5の上段は、ワイヤロープ36の各位置の部位が、曲げ位置に位置するか否かを示す。
図5の上段では、第1扉体滑車21aの曲げ位置に位置するワイヤロープ36の範囲を、第1扉体滑車21aと同じ符号を付す矢印にて示し、第2扉体滑車21bの曲げ位置に位置するワイヤロープ36の範囲を、第2扉体滑車21bと同じ符号を付す矢印にて示す。
【0045】
さらに、ワイヤロープ36において、互いに隣接する2個の局所的な最下点の間における局所的な最上点(極大点)が特定され、当該最上点から両側に所定長さの範囲が、曲げ位置に位置する部分として特定される。
図4の例では、固定滑車321に対応する1個の局所的な最上点が存在し、1個の曲げ位置に位置する部分が特定される。当該曲げ位置では、ワイヤロープ36が固定滑車321に接触する。
図5の上段では、固定滑車321の曲げ位置に位置するワイヤロープ36の範囲を、固定滑車321と同じ符号を付す矢印にて示す。ワイヤロープ36のドラム316に巻かれていない部分において、第1扉体滑車21aの曲げ位置、固定滑車321の曲げ位置、および、第2扉体滑車21bの曲げ位置以外に位置する部分は、いずれの滑車にも接触していない。扉体2の昇降により、
図5の上段における各曲げ位置の範囲は変動する。
【0046】
図3の評価処理では、ワイヤロープ36を複数の部位に区分した後(ステップS11)、時間算出部41により第1累積時間および第2累積時間が取得される(ステップS12,S13)。続いて、曲げ回数取得部42では、評価開始時から現在までの間において、ワイヤロープ36の各部位が、第1扉体滑車21aの曲げ位置、固定滑車321の曲げ位置、および、第2扉体滑車21bの曲げ位置のいずれかに配置される回数が曲げ回数として取得される(ステップS13a)。このとき、ワイヤロープ36の一の部位が、継続して同じ曲げ位置に位置する場合(すなわち、継続して同じ滑車に接触している場合)には、曲げ回数は増加しない。すなわち、ワイヤロープ36の各部位が、いずれかの曲げ位置に配置された直後においてのみ、曲げ回数が増加する。なお、第1扉体滑車21aの曲げ位置、固定滑車321の曲げ位置、および、第2扉体滑車21bの曲げ位置に対して個別に曲げ回数が取得されてもよい。
【0047】
劣化状態評価部43では、ワイヤロープ36の各部位に対して、現在の第1累積時間、第2累積時間および曲げ回数を用いて劣化状態が評価される。例えば、ワイヤロープ36の各部位jの第1累積時間に係数を乗じて得た値と、当該部位jの第2累積時間に他の係数を乗じて得た値とを足すことにより、第1評価値X1(j)が求められる。第1評価値X1(j)は、当該部位jの水面近傍領域R1および下方領域R2(水中)との位置関係に基づく劣化状態の評価値である。また、当該部位jの曲げ回数に係数を乗じて得た値が、第2評価値X2(j)として求められる。第2評価値X2(j)は、当該部位jの曲げ回数に基づく劣化状態の評価値である。そして、第1評価値X1(j)および第2評価値X2(j)に対する重み付け係数をそれぞれαおよびβとして、劣化状態の判定評価値X(j)が数1により求められる(ステップS14)。
【0048】
(数1)
X(j)=α・X1(j)+β・X2(j)
各部位jの判定評価値X(j)は所定の判定閾値と比較される。判定評価値X(j)が判定閾値よりも大きい場合に、当該部位jの点検が必要であると判定され、点検を促す報知等が行われる。いずれの判定評価値X(j)も判定閾値以下である場合には、点検を促す報知は行われない。このようにして、劣化状態評価部43では、ワイヤロープ36の各部位jに対して、第1累積時間、第2累積時間および曲げ回数を用いて劣化状態が評価される(ステップS15)。
【0049】
評価装置40では、上記ステップS12,S13,S13a,S14,S15の処理が繰り返し行われる。なお、第1評価値X1(j)、第2評価値X2(j)および判定評価値X(j)は、他の演算により求められてもよい。
【0050】
以上に説明したように、評価装置40の曲げ回数取得部42では、ワイヤロープ36の各部位が所定の曲げ位置に配置される回数が、曲げ回数として取得される。劣化状態評価部43では、各部位に対して、上記累積時間のみならず、曲げ回数も用いて劣化状態が評価される。これにより、ワイヤロープ36の損傷の原因となりやすい曲げ疲労も考慮して、ワイヤロープ36の劣化状態を精度よく評価することが可能となる。曲げ回数は、第1累積時間および第2累積時間以外の累積時間と組み合わせて利用されてもよい。
【0051】
上記処理例では、ワイヤロープ36の各部位が一の領域に位置する累積時間を用いて判定評価値が求められるが、各部位が一の領域に連続して位置する連続時間の長さを考慮して、累積時間に依存する判定評価値を求めてもよい。
図7は、評価装置40がワイヤロープ36の劣化状態を評価する処理の流れの一部を示す図であり、
図3中のステップS12とステップS15との間に行われる処理を示している。以下の説明では、水面近傍領域R1を設定せず、水中領域R3および気中領域R4のみを設定するものとするが、水面近傍領域R1を設定する場合も同様である。なお、以下の処理では、ステップS13aは行われないが、上述の処理と同様に、ステップS13aが行われてもよい。
【0052】
時間算出部41では、ワイヤロープ36の各部位がいずれの領域に属するかが判定された後(ステップS12)、当該部位に対して現在の領域に連続して位置する連続時間(以下、単に、「現在の領域での連続時間」という。)が算出される(ステップS23)。例えば、
図8に示すように、ワイヤロープ36の一の部位が、点Cにて示す現在において気中領域R4に位置する場合、水中領域R3から気中領域R4へと最後に移動してから気中領域R4に連続して位置する時間(経過時間)t23が、上記連続時間として算出される。
【0053】
劣化状態評価部43では、ワイヤロープ36の各部位に対して、現在の領域での連続時間に基づいて判定評価値が求められる(ステップS24)。例えば、評価開始時から現在までの間において、ワイヤロープ36の一の部位が、
図8に示すように、水中領域R3と気中領域R4との間を複数回移動している場合、判定評価値は、水中領域R3に位置する連続時間t11,t12,t13、および、気中領域R4に位置する連続時間t21,t22,t23を用いて求められる。
【0054】
ここで、劣化状態評価部43では、水中領域R3および気中領域R4のそれぞれに対して、係数のテーブルが予め準備される。当該テーブルでは、連続時間に関する複数の範囲(区間)が定められており、当該複数の範囲のそれぞれに対して個別に係数が設定されている。したがって、判定評価値の算出では、水中領域R3での各連続時間t11,t12,t13に対して、その長さが属する範囲(当該テーブルにおける連続時間の区間)が特定され、当該範囲の係数a1,a2,a3が当該連続時間t11,t12,t13に乗じられる。水中領域R3では、水と接触する期間(経過時間)に応じて腐食(湿食)が進行する。なお、係数のテーブルに代えて、連続時間を変数とする関数を用いて、係数が特定されてもよい(以下同様)。
【0055】
同様に、気中領域R4での各連続時間t21,t22,t23に対して、その長さが属する範囲が特定され、当該範囲の係数b1,b2,b3が当該連続時間t21,t22,t23に乗じられる。ワイヤロープ36の各部位は、水中領域R3から気中領域R4へと移動した後、当該部位が乾くまでの間、湿食が進行し、乾いた後においても、表面に残留する塩分と大気中の水分により腐食(乾食)が進行する。
【0056】
そして、上記演算により得られた値の和、すなわち、(a1・t11+a2・t12+a3・t13+b1・t21+b2・t22+b3・t23)が、判定評価値として求められる。ここで、(a1・t11+a2・t12+a3・t13)は、水中領域R3に位置する累積時間に依存する値であり、(b1・t21+b2・t22+b3・t23)は、気中領域R4に位置する累積時間に依存する値である。
【0057】
実際には、現在の領域での連続時間t23以外の連続時間t11,t12,t13,t21,t22については、既に確定した時間である。劣化状態評価部43では、連続時間t11,t12,t13,t21,t22に係数a1,a2,a3,b1,b2を乗じて得た値の和が記憶されており、ステップS24の処理では、当該和の値に、現在の領域での連続時間t23に係数b3を乗じて得た値が加算される。このようにして、ワイヤロープ36の各部位に対して、現在の領域での連続時間に基づいて判定評価値が求められる。その後、既述の処理と同様にして、判定評価値が所定の判定閾値と比較され、ワイヤロープ36の各部位の劣化状態が評価される(ステップS15)。
【0058】
評価装置40では、上記ステップS12,S23,S24,S15の処理が繰り返し行われる。なお、判定評価値の上記演算は一例に過ぎず、他の演算により判定評価値が求められてもよい。また、水中領域R3または気中領域R4の一方の領域のみに対して連続時間を算出し、当該一方の領域に位置する累積時間に依存する判定評価値が求められてもよい。
【0059】
ワイヤロープ36の各部位の曲げ回数を求めるステップS13aが行われる場合には、ステップS24において、既述の数1と同様に、曲げ回数を考慮して判定評価値が求められる。ワイヤロープ36の一の部位に注目した上述の例では、(a1・t11+a2・t12+a3・t13+b1・t21+b2・t22+b3・t23)が、第3評価値X3として求められる。また、当該部位の曲げ回数に係数を乗じて得た値が、第4評価値X4として求められる。そして、第3評価値X3および第4評価値X4に対する重み付け係数をそれぞれγおよびδとして、判定評価値Xが数2により求められる。
【0060】
(数2)
X=γ・X3+δ・X4
ワイヤロープ36の他の部位についても同様にして、判定評価値が求められる。各部位の判定評価値は所定の判定閾値と比較される。このようにして、ワイヤロープ36の各部位に対して、水中領域R3に位置する連続時間、気中領域R4に位置する連続時間、および、曲げ回数に基づいて劣化状態が評価される。もちろん、水面近傍領域R1を設定する場合に、曲げ回数を考慮して判定評価値が求められてもよい。
【0061】
以上に説明したように、評価装置40では、ワイヤロープ36における各部位に対して、水中領域R3および気中領域R4の少なくとも1つの領域(水面近傍領域R1を設定する場合は、水面近傍領域R1、下方領域R2、および、上方領域の少なくとも1つの領域)のそれぞれに連続して位置する連続時間が、時間算出部41により順次算出される。そして、劣化状態評価部43により、時間算出部41により算出された複数の連続時間のそれぞれに対して、当該連続時間の長さに基づく演算を行いつつ、当該少なくとも1つの領域のそれぞれに位置する累積時間に依存する判定評価値が求められる。これにより、ワイヤロープ36の劣化状態を適切に評価することが実現される。
【0062】
ところで、一定間隔で開閉動作を繰り返す環境など、水門開閉装置3における運転状況がほとんど同一のパターンである場合には、ワイヤロープ36の各部位に対して、水面W1の通過回数を取得することにより、簡易的に判定評価値が求められてもよい。水面W1の通過回数は、ワイヤロープ36の各部位の位置が、水面W1から下方の水中領域R3と、水面W1よりも上方の気中領域R4との間で切り替わる回数、すなわち、乾湿交番回数である。
【0063】
上記処理例では、各連続時間の長さのみに基づいて当該連続時間に対する係数が特定されるが、係数の特定では、連続時間の長さに加えて他のパラメータが用いられてもよい。この場合、例えば、連続時間と同様に、当該他のパラメータのそれぞれに対して、複数の範囲(区分)が設定される。そして、連続時間および当該他のパラメータの値を用いて、係数を特定することが可能なテーブルが準備される。当該他のパラメータとして、気温、湿度、風量、降雨の有無、結露等による濡れの有無、所定の大気汚染物質の量、太陽光線の強度等が例示される。このように他のパラメータも用いて係数を決定する場合、連続時間の範囲が同じであっても係数の値が変化するため、判定評価値は積分値として算出される。
【0064】
ところで、水門設備では、ワイヤロープの表面に付着した水分が乾く直前ほど、塩分濃度が高くなりやすく、塩分濃縮されることで急速に腐食が進行する。したがって、好ましい評価装置40では、上記他のパラメータとして水路における水の塩分濃度が用いられる。通常のダム・発電用ゲートは中性河川水である淡水に接しているが、特に、防潮ゲートでは海水に、河口堰では下流側は海水または塩分濃度の高い水に接しており、塩分濃縮による腐食の影響を受けやすい。同様に、特定の化学成分濃度が用いられてもよい。
【0065】
上記評価装置40および評価方法では様々な変形が可能である。
【0066】
上記実施の形態では、ワイヤロープ36を長手方向に区分して得られる複数の部位の全てに対して劣化状態が評価されるが、例えば、劣化が生じやすいと想定される特定の部位のみに対して劣化状態が評価されてもよい。すなわち、評価装置40では、ワイヤロープ36における所定の部位に対して、劣化状態が評価されていればよい。一方、ワイヤロープ36の劣化状態をより適切に評価するには、ワイヤロープ36の複数の部位に対して劣化状態を評価することが好ましい。この場合に、区分して得られる複数の部位のうち、例えば、所定数置きの部位のみに対して劣化状態が評価されてもよく、任意の2以上の部位のみが評価されてもよい。ワイヤロープ36における劣化状態の評価対象は、所定の複数の部位であってよい。
【0067】
ワイヤロープ36の各部位が水面近傍領域R1に位置する累積時間が算出される場合において、水面近傍領域R1における水面W1から上方の領域と水面W1から下方の領域とを区別して、累積時間が算出されてもよい。
【0068】
曲げ回数取得部42では、ドラム316に接触する位置が曲げ位置として扱われ、ワイヤロープ36の各部位が、ドラム316の曲げ位置、および、各滑車の曲げ位置のいずれかに配置される回数が、曲げ回数として取得されてもよい。また、滑車の曲げ位置およびドラム316の曲げ位置に対して個別に曲げ回数が取得されてもよい。
【0069】
水門開閉装置3において駆動部31と扉体2とを連結する連結媒体は、既述のようにワイヤロープ36以外であってもよく、評価装置40では、一部が没水する様々な連結媒体の劣化状態を評価することが可能である。
【0070】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0071】
1 水門システム
2 扉体
3 水門開閉装置
31 駆動部
33 開度計
34 水位計
36 ワイヤロープ
40 評価装置
41 時間算出部
42 曲げ回数取得部
43 劣化状態評価部
R1 水面近傍領域
R2 下方領域
R3 水中領域
R4 気中領域
S11~S15,S13a,S23,S24 ステップ
W1 水面