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  • 特許-カッタービット支持構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】カッタービット支持構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/087 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
E21D9/087 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020073373
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021169730
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】521478094
【氏名又は名称】地中空間開発株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 誠
(72)【発明者】
【氏名】岸本 公輝
(72)【発明者】
【氏名】福岡 あかね
(72)【発明者】
【氏名】増田 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】野本 康介
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-160990(JP,A)
【文献】特開2012-188895(JP,A)
【文献】実開昭62-185790(JP,U)
【文献】特開2002-242590(JP,A)
【文献】米国特許第04193637(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッタースポークに取り付けられた筒状体と、
前記筒状体に摺動可能に保持されたピストン部、および前記カッタースポークから突出する刃部を含むカッタービットと、
前記カッタービットの前記ピストン部との間に作動室を形成するように前記筒状体に取り付けられた底板であって、前記作動室へ作動流体を注入するための注入口が設けられた底板と、
前記カッタービットの前記ピストン部から延び、前記底板を貫通するロッドと、を備え、
前記ロッドは、前記底板に対する相対位置が固定可能に構成されている、カッタービット支持構造。
【請求項2】
前記底板における前記作動室に面する面の反対側の面と対向する、前記ロッドに貫通された支持板と、
前記支持板に設けられた、前記ロッドの前記刃部の突出方向への移動は許容するが、前記突出方向と逆方向への移動は禁止または制限する係止機構と、をさらに備え、
前記ロッドは、前記係止機構が前記ロッドの前記突出方向と逆方向への移動を禁止または制限することで前記底板に対する相対位置が固定される、請求項1に記載のカッタービット支持構造。
【請求項3】
前記ロッドには、周方向に延びる凸条部が当該ロッドの軸方向に並ぶように形成されており、
前記係止機構は、前記凸条部に係合することで前記ロッドの前記突出方向と逆方向への移動を禁止または制限する、請求項2に記載のカッタービット支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削機のカッターヘッドに採用されるカッタービット支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削機のカッターヘッドには、放射状に配置された複数のカッタースポークを含むものがある。これらのカッタースポークには複数のカッタービットが設けられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、カッタービットが摩耗した際に、カッタービットをカッタースポークの内部から交換することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-141278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように摩耗したカッタービットを交換する作業は大変である。そのため、カッタービットを摩耗した分だけ進出させることが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、カッタービットを任意の量だけ進出させることができるカッタービットの支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のカッタービットの支持構造は、カッタースポークに取り付けられた筒状体と、前記筒状体に摺動可能に保持されたピストン部、および前記カッタースポークから突出する刃部を含むカッタービットと、前記カッタービットの前記ピストン部との間に作動室を形成するように前記筒状体に取り付けられた底板であって、前記作動室へ作動流体を注入するための注入口が設けられた底板と、前記カッタービットの前記ピストン部から延び、前記底板を貫通するロッドと、を備え、前記ロッドは、前記底板に対する相対位置が固定可能に構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、注入口から作動室へ作動流体を注入すれば、作動流体の注入量に相当する距離分だけカッタービットが刃部の突出方向へ進出する。従って、カッタービットを任意の量だけ進出させることができる。しかも、作動流体の注入後に底板に対するロッドの相対位置が固定されることで、カッタービットを任意の量だけ進出させた状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カッタービットを任意の量だけ進出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るカッタービット支持構造が採用されたトンネル掘削機のカッターヘッドの正面図である。
図2】カッターヘッド支持構造およびカッタースポークの断面図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4】係止機構の断面図である。
図5】ばね歯の平面図である。
図6】作動室へ作動流体を注入した後のカッターヘッド支持構造およびカッタースポークの断面図である。
図7】(a)は係止機構がサンクイックナットである場合の断面図、(b)は(a)のVIIB-VIIB線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明の一実施形態に係るカッタービット支持構造が採用されたトンネル掘削機のカッターヘッド1を示す。カッターヘッド1は、図略の掘削機本体に回転可能に支持される。以下では、説明の便宜上、トンネル掘削機の進行方向を前方、その反対方向を後方という。つまり、前後方向は、カッターヘッド1の軸方向(回転軸が延びる方向)でもある。
【0012】
本実施形態では、正面視でのカッターヘッド1の輪郭が円形状であるが、カッターヘッド1の輪郭はこれに限られず、例えば矩形状であってもよい。カッターヘッド1は、放射状に配置された複数のカッタースポークを含む。
【0013】
本実施形態では、カッタースポークが、120度間隔で配置された3つの第1カッタースポーク11と、第1カッタースポーク11同士の間に配置された3つの第2カッタースポーク12と、第1カッタースポーク11と第2カッタースポーク12の間に配置された6つの第3カッタースポーク13を含む。ただし、カッターヘッド1の構成は、これに限られるものではなく、適宜変更可能である。
【0014】
第1~第3カッタースポーク11~13のそれぞれは、中空である。第1~第3カッタースポーク11~13のそれぞれには、複数のカッタービットが設けられている。本実施形態では、カッタービットが、略円柱状の刃部を有する先行ビット21と、略板状の刃部を有する本ビット22と、ティースビット23を含む。なお、カッターヘッド1は、カッタービットと共にローラーカッターが設けられたカッタースポークを含んでもよい。
【0015】
具体的に、各第1カッタースポーク11の正面には複数の先行ビット21が設けられ、両側面には複数のティースビット23が設けられている。また、第2カッタースポーク12および第3カッタースポーク13のそれぞれの正面には複数の本ビット22が設けられ、両側面には複数のティースビット23が設けられている。ただし、第1~第3カッタースポーク11~13のそれぞれに設けられるカッタービットの種類は適宜変更可能である。
【0016】
本実施形態のカッタービット支持構造は、第2カッタースポーク12に設けられた本ビット22の少なくとも1つに適用されている。ただし、本発明のカッタービット支持構造は、第3カッタースポーク13に設けられた本ビット22の少なくとも1つに適用されてもよいし、第1カッタースポーク11に設けられた先行ビット21の少なくとも1つに適用されてもよい。
【0017】
次に、図2および図3を参照して、本実施形態のカッタービット支持構造を説明する。第2カッタースポーク12は、前後方向で互いに対向する正面壁12aおよび背面壁12cと、正面壁12aと背面壁12cの両端部同士を接続する一対の側壁12bを含む。
【0018】
正面壁12aには、前後方向に延びる筒状体3が取り付けられている。本実施形態では、筒状体3が正面壁12aを貫通しているが、筒状体3は必ずしも正面壁12aを貫通する必要はない。
【0019】
本実施形態のカッタービット支持構造が適用された本ビット22は、筒状体3に摺動可能に保持されたピストン部22aと、ピストン部22aから前方に張り出してカッタースポーク12から突出する刃部22bを含む。
【0020】
刃部22bは、上述したように略板状である。このため、ピストン部22aも刃部22bよりも一回り大きな略板状である。なお、本実施形態のカッタービット支持構造が適用されていない本ビット22は、刃部22bのみを含んでもよい。
【0021】
筒状体3の内側面は、本ビット22のピストン部22aと全面に亘って面接触する。筒状体3の内側面とピストン部22aとの間は、図略のシール部材によってシールされている。
【0022】
筒状体3の前端面は、正面壁12aの前面(第2カッタースポーク12の正面でもある)と面一である。本実施形態では、筒状体3の長さが、本ビット22のピストン部22aの長さと等しい。
【0023】
筒状体3の後端面には、底板5が取り付けられている。本ビット22のピストン部22aは、筒状体3内に完全に収容されたときに、底板5の前面と面接触する。
【0024】
本ビット22のピストン部22aと底板5との間には、作動室4が形成されている。つまり、底板5の前面は、作動室4に面する。底板5の中央には、作動室4へ作動流体を注入するための注入口51が設けられている。作動流体は、特に限定されるものではないが、例えば半固体のグリスである。この場合、注入口51には、グリスニップルが設けられることが望ましい。
【0025】
本ビット22のピストン部22aからは、一対のロッド8が後ろ向きに延びている。これらのロッド8は、底板5を貫通している。すなわち、底板5には、ロッド8に挿通される一対の貫通穴が設けられている。貫通穴の内周面とロッド8との間は、図略のシール部材によってシールされている。
【0026】
一対のロッド8は、ピストン部22aの幅方向(図2の左右方向)に互いに離間している。各ロッド8は、例えばねじ構造によりピストン部22aに固定される。ただし、注入口51の位置を底板5の中央からずらせば、ロッド8はピストン部22aの中心線上に1本だけ設けられてもよい。
【0027】
底板5の後方には、支持板7が配置されている。この支持板7は、底板5の後面(前面の反対側の面)と対向する。ロッド8は、支持板7も貫通する。底板5と支持板7との間には、複数の支柱6が介在している。
【0028】
支持板7の中央には、貫通穴71が設けられている。この貫通穴71は、底板の注入口51に接続される作動流体用の配管などを通すためのものである。
【0029】
各ロッド8は、底板5に対する相対位置が固定可能に構成されている。本実施形態では、支持板7に一対の係止機構9が設けられており、各係止機構9によって対応するロッド8の底板5に対する相対位置が固定される。
【0030】
具体的に、各係止機構9は、ロッド8の前方(刃部22bの突出方向)への移動は許容するが、後方(刃部22bの突出方向と逆方向)への移動は禁止または制限する。本実施形態では、係止機構9がロッド8の後方への移動を禁止することで、ロッド8の底板5に対する相対位置が固定される。
【0031】
より詳しくは、各ロッド8の後側部分には、周方向に延びる凸条部が当該ロッド8の軸方向に並ぶように形成されている。本実施形態では、隣り合う凸条部が連続するように螺旋状のねじ山81が形成されている。係止機構9は、そのねじ山81に係合することでロッド8の後方への移動を禁止する。また、ねじ山81には、支持板7と当接することでストッパーとして機能するナット85が螺合している。ただし、凸条部は、隣り合う凸条部が独立するように環状であってもよい。
【0032】
本実施形態では、図4に示すように、各係止機構9が、リング状のスペーサ92を挟んで積層された環状のばね歯91と、ばね歯91を押える環状の押え部材93を含む。各ばね歯91は、図5に示すように、フラットなリング部91aと、このリング部91aから内側に向かって斜め前方に突出する複数の係合片91bを含む。そして、図4に示すように、係合片91bの先端がねじ山81に係合する。
【0033】
なお、ばね歯91の係合片91bの向きを変更すれば(例えば、係合片91bをリング部91aと平行にする)、係合片91bとねじ山81との係合によってロッド8の後方への移動を禁止ではなく制限することも可能である。このようなロッド8の後方への移動の制限によっても、ロッド8の底板5に対する相対位置が固定される。
【0034】
ただし、各係止機構9は、必ずしも図4に示すように構成されている必要はなく、例えばサンクイックナット(登録商標)であってもよい。係止機構9がサンクイックナットである場合も、係止機構9がねじ山81に係合することでロッド8の後方への移動を禁止する。
【0035】
係止機構9がサンクイックナットである場合、図7(a)に示すように、係止機構9は、ロッド8に挿通される筒状のケース94と、このケース94内に配置された筒状の楔95を含む。ケース94の内周面にはテーパー面94aが形成されており、楔95はテーパー面94aに押圧されるようにワッシャ96を介してコイルばね97により付勢されている。ケース94の端部には、ワッシャ96との間にコイルばね97を保持する蓋98が取り付けられている。
【0036】
楔95の内周面にはロッド8のねじ山81と同一ピッチのねじ山(図示せず)が形成されている。また、楔95は、図7(b)に示すように、周方向に複数のピース95aに分割されている。このため、ロッド8が前方に移動したときには、ピース95a間の隙間が大きくなるように楔95がテーパー面94aに沿って前方に移動することで、ロッド8のねじ山81が楔95のねじ山を乗り越える。一方、ロッド8の後方への移動は、楔95のねじ山がロッド8のねじ山81と係合することで禁止される。
【0037】
以上説明したような構成のカッタービット支持構造では、本ビット22が摩耗したときに、まず、図6に示すように、支持板7の貫通穴71を通じて作動流体用の配管55を注入口51に接続する。作動流体がグリスの場合は、注入口51に設けられたグリスニップルに、貫通穴71を通じてグリスガンを接続してもよい。
【0038】
その後、注入口51から作動室4へ作動流体を注入すれば、作動流体の注入量に相当する距離分だけ本ビット22が前方へ進出する。従って、本ビット22を任意の量だけ進出させることができる。なお、図6は、本ビット22を最大限前方へ進出させた状態、すなわちナット85が支持板7に当接した状態を描いたものである。
【0039】
例えば、図示は省略するが、本ビット22が所定量摩耗したことを検知する摩耗検知器を採用し、本ビット22が所定量摩耗したときに、その摩耗量だけ本ビット22を進出させてもよい。
【0040】
しかも、作動流体の注入後に底板5に対するロッド8の相対位置が固定されることで、本ビット22を任意の量だけ進出させた状態を維持することができる。
【0041】
特に、本実施形態では、ロッド8の前方への移動は許容するが後方への移動は禁止する係止機構9が用いられているので、作動流体の注入の完了と同時に、底板5に対するロッド8の相対位置を固定することができる。
【0042】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0043】
例えば、ロッド8を本ビット22のピストン部22aに固定することなく、ロッド8の先端をピストン部22aに当接させるとともに、支持板7にねじ山81に螺合するねじ穴を設けてもよい。この場合、作動室4への作動流体の注入によりピストン部22aがロッド8から離間するが、作動流体の注入後にロッド8を回転させて再びピストン部22aに当接させればよい。また、ロッド8の回転後にナット85を支持板7に当接させてロッド8に張力を作用させることで、そのナット85により底板5に対するロッド8の相対位置を固定することができる。
【0044】
また、底板5の注入口51に接続される作動流体供給ラインを常設し、その作動流体供給ラインを通じてポンプから作動室4へ作動流体を供給してもよい。
【0045】
さらには、作動流体として油を用いることも可能である。ただし、グリスは油と比較して粘度が高いため、作動流体としてグリスを用いた方が地山側への漏れ量を少なくすることができる。
【0046】
(まとめ)
本発明のカッタービットの支持構造は、カッタースポークに取り付けられた筒状体と、前記筒状体に摺動可能に保持されたピストン部、および前記カッタースポークから突出する刃部を含むカッタービットと、前記カッタービットの前記ピストン部との間に作動室を形成するように前記筒状体に取り付けられた底板であって、前記作動室へ作動流体を注入するための注入口が設けられた底板と、前記カッタービットの前記ピストン部から延び、前記底板を貫通するロッドと、を備え、前記ロッドは、前記底板に対する相対位置が固定可能に構成されている、ことを特徴とする。
【0047】
上記の構成によれば、注入口から作動室へ作動流体を注入すれば、作動流体の注入量に相当する距離分だけカッタービットが刃部の突出方向へ進出する。従って、カッタービットを任意の量だけ進出させることができる。しかも、作動流体の注入後に底板に対するロッドの相対位置が固定されることで、カッタービットを任意の量だけ進出させた状態を維持することができる。
【0048】
上記の支持構造は、前記底板における前記作動室に面する面の反対側の面と対向する、前記ロッドに貫通された支持板と、前記支持板に設けられた、前記ロッドの前記刃部の突出方向への移動は許容するが、前記突出方向と逆方向への移動は禁止または制限する係止機構と、をさらに備え、前記ロッドは、前記係止機構が前記ロッドの前記突出方向と逆方向への移動を禁止または制限することで前記底板に対する相対位置が固定されてもよい。この構成によれば、作動流体の注入の完了と同時に、底板に対するロッドの相対位置を固定することができる。
【0049】
例えば、前記ロッドには、周方向に延びる凸条部が当該ロッドの軸方向に並ぶように形成されており、前記係止機構は、前記凸条部に係合することで前記ロッドの前記突出方向と逆方向への移動を禁止または制限してもよい。
【符号の説明】
【0050】
12 第2カッタースポーク
22 本ビット(カッタービット)
22a ピストン部
22b 刃部
3 筒状体
4 作動室
5 底板
51 注入口
7 支持板
8 ロッド
81 ねじ山(凸条部)
9 係止機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7