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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】繊維束巻取装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 54/30 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
B65H54/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020132124
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029029
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】302019599
【氏名又は名称】ミズノ テクニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳位
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】内海 陽吉
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/075389(WO,A1)
【文献】特開2004-168466(JP,A)
【文献】特開2017-024909(JP,A)
【文献】国際公開第2020/075383(WO,A1)
【文献】特開2006-089154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束をボビンに巻き取る繊維束巻取装置であって、
前記繊維束を前記ボビンに案内するトラバースガイドと、
前記ボビンの回転に応じて前記トラバースガイドを制御可能な制御部と、
を備え、
前記トラバースガイドは、前記ボビンの中心軸と平行に移動可能であり、
前記制御部は、
前記繊維束が前記ボビンの中心軸の方向についての、予め定められた第1範囲に巻きつけられるように前記トラバースガイドを移動させる第1移動制御と、
前記繊維束が、前記第1範囲よりも小さく、前記第1範囲内において前記第1範囲の両端とは異なる位置に両端が設定された第2範囲に巻きつけられるように前記トラバースガイドを移動させる第2移動制御と、を実行可能であり、
前記第1移動制御と前記第2移動制御が実行される割合が、N(Nは2以上の整数):1であり、
前記トラバースガイドが前記ボビンの中心軸方向に沿って一往復する間における前記ボビンの回転数をワインド比と定義し、前記第1移動制御と前記第2移動制御のそれぞれにおいて、前記ボビンの周方向における前記繊維束の折り返し点の間隔の平均値を100%としたとき、
前記制御部は、巻きつけが完了した時点において、前記ボビンを前記ボビンの周方向に沿って十等分し、前記ボビンの中心軸に沿って前記ボビンを見たときに、前記第1移動制御において巻きつけられた前記繊維束の折り返し点と、前記第2移動制御において巻きつけられた前記繊維束の折り返し点とのそれぞれが、一の区間において二つ以上あるように、
前記第1移動制御において巻き付けられた前記繊維束の折り返し地点が、前記ボビンの周方向について100±30%の間隔で、分布するように設定されたワインド比であって、前記第2移動制御において巻き付けられた前記繊維束の折り返し点が、前記ボビンの周方向について100±30%の間隔で分布するワインド比で、制御する、
繊維束巻取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維束巻取装置であって、
前記繊維束はテープ状であり、
前記第2範囲の両端のそれぞれが、前記第1範囲の両端のそれぞれから前記繊維束の25%から35%の寸法分、前記ボビンの中心側に位置する、
繊維束巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維束巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維束をボビンの回転軸に沿ってトラバースさせるトラバースガイドを備えた繊維束の巻取装置が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の技術においては、トラバースガイドの下流に、ボビンの回転軸と平行な方向に移動可能なガイドを設けることで、ボビンに対する繊維束の接触角度を変化させ、繊維束が屈曲した状態でボビンに巻き付けられることを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-89154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術では、ボビンの両端部において繊維束の重なりが不均一になりやすく、繊維束の型崩れが発生してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)繊維束をボビンに巻き取る繊維束巻取装置であって、前記繊維束を前記ボビンに案内するトラバースガイドと、前記ボビンの回転に応じて前記トラバースガイドを制御可能な制御部と、を備え、前記トラバースガイドは、前記ボビンの中心軸と平行に移動可能であり、前記制御部は、前記繊維束が前記ボビンの中心軸の方向についての、予め定められた第1範囲に巻きつけられるように前記トラバースガイドを移動させる第1移動制御と、前記繊維束が、前記第1範囲よりも小さく、前記第1範囲内において前記第1範囲の両端とは異なる位置に両端が設定された第2範囲に巻きつけられるように前記トラバースガイドを移動させる第2移動制御と、を実行可能であり、前記第1移動制御と前記第2移動制御が実行される割合が、N(Nは2以上の整数):1であり、前記トラバースガイドが前記ボビンの中心軸方向に沿って一往復する間における前記ボビンの回転数をワインド比と定義し、前記第1移動制御と前記第2移動制御のそれぞれにおいて、前記ボビンの周方向における前記繊維束の折り返し点の間隔の平均値を100%としたとき、前記制御部は、巻きつけが完了した時点において、前記ボビンを前記ボビンの周方向に沿って十等分し、前記ボビンの中心軸に沿って前記ボビンを見たときに、前記第1移動制御において巻きつけられた前記繊維束の折り返し点と、前記第2移動制御において巻きつけられた前記繊維束の折り返し点とのそれぞれが、一の区間において二つ以上あるように、前記第1移動制御において巻き付けられた前記繊維束の折り返し地点が、前記ボビンの周方向について100±30%の間隔で、分布するように設定されたワインド比であって、前記第2移動制御において巻き付けられた前記繊維束の折り返し点が、前記ボビンの周方向について100±30%の間隔で分布するワインド比で、制御する、繊維束巻取装置。
(2)上記形態の繊維束巻取装置であって、前記繊維束はテープ状であり、前記第2範囲の両端のそれぞれが、前記第1範囲の両端のそれぞれから前記繊維束の25%から35%の寸法分、前記ボビンの中心側に位置していてもよい。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、繊維をボビンに巻き取る繊維束巻取装置が提供される。この繊維束巻取装置は、前記繊維束を前記ボビンに案内するトラバースガイドと、前記ボビンの回転に応じて前記トラバースガイドを制御可能な制御部と、を備え、前記トラバースガイドは、前記ボビンの中心軸と平行に移動可能であり、前記制御部は、前記繊維束が前記ボビンの中心軸の方向についての、予め定められた第1範囲に巻きつけられるように前記トラバースガイドを移動させる第1移動制御と、前記繊維束が、前記第1範囲よりも小さく、前記第1範囲内において前記第1範囲の両端とは異なる位置に両端が設定された第2範囲に巻きつけられるように前記トラバースガイドを移動させる第2移動制御と、を実行可能であり、前記第1移動制御と前記第2移動制御が実行される割合が、N(Nは2以上の整数):1である。このような態様においては、繊維の折り返し点の位置が、ボビンの中心軸方向に沿って4か所ある。そのため、折り返し点が2か所である態様に比べて、ボビンの中心軸から、巻き付けられた繊維の外表面までの距離が小さくなる。そのため、繊維束の重なりが崩れることを抑制することができる。
(2)本開示の形態によれば、前記トラバースガイドが前記ボビンの中心軸方向に沿って一往復する間における前記ボビンの回転数をワインド比と定義するとき、前記制御部は、前記第1移動制御において巻き付けられた繊維束の折り返し地点が、前記ボビンの周方向について均等に分布するように設定されたワインド比で前記トラバースガイドを制御されていてもよい。このような態様においては、第1移動制御において巻き付けられた繊維が、ボビンの周方向について、均一に分布する。これにより、ボビンの周方向における繊維の重なりの発生が抑制される。
(3)本開示の形態によれば、前記ワインド比は、前記第2移動制御において巻き付けられた前記繊維束の折り返し点が、前記ボビンの周方向について均等に分布するワインド比であってもよい。このような態様においては、第2移動制御において巻き付けられた繊維を、ボビンの周方向に均等に分布させることができる。そのため、ボビンの周方向における繊維の重なりが発生することを抑制することができる。
(4)本開示の形態によれば、前記ワインド比の小数点以下の数値が、M/L(Mは整数であり、1≦M≦Lであり、Lは2以上の整数)±0.01の範囲外であってもよい。このような態様においては、ボビンの周方向における繊維の重なりが発生することを抑制することができる。
(5)本開示の形態によれば、前記繊維束はテープ状であり、前記第2範囲の両端のそれぞれが、前記第1範囲の両端のそれぞれから前記繊維束の25%から35%の寸法分、前記ボビンの中心側に位置していてもよい。このような態様においては、より、第2移動制御において巻き付けられた繊維を、ボビンの中心側に巻き付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の繊維束巻取装置の外観斜視図。
図2】制御部によるトラバースガイドの移動の制御を説明した図。
図3】トラバースガイドによるボビンへの繊維束の巻き付けについての説明図。
図4】例1における、ボビンに繊維束が巻き取られた状態を説明する図。
図5図4の破線内を拡大した図。
図6図2の破線内を拡大した図。
図7】ボビンに巻き取られた繊維束のボビンの円周上の位置を説明する図。
図8】第1移動制御における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図。
図9】第2移動制御における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図。
図10】例2の、ボビンに巻き取られた繊維束のボビンの円周上の位置を説明する図。
図11】例2における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図。
図12】例3の、ボビンに巻き取られた繊維束のボビンの円周上の位置を説明する図。
図13】例3の第1移動制御における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図。
図14】例3の第2移動制御における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の繊維束巻取装置10の外観斜視図である。繊維束巻取装置10は、トラバースガイド110と、ボビン120と、プレッシャーロール130と、制御部140とを備えている。図1の繊維束の寸法は、実際の繊維束の寸法とは異なる。
【0009】
トラバースガイド110は、上流から供給されたテープ状の繊維束をボビン120へ案内する。トラバースガイド110は、ボビン120の中心軸CAに平行に移動可能である。トラバースガイド110が中心軸CAに沿って移動することで、繊維束が中心軸CAに沿ってボビン120に巻き取られる。
【0010】
トラバースガイド110は、3つのガイドロール111を有している。ガイドロール111は、繊維束がボビン120に巻き取られる際の、ボビン120に対する巻き取り角度を調整する。また、ガイドロール111は、上流から案内された繊維束がたわまないように、繊維束を支持する。ボビン120は、図の矢印B方向に回転することで、繊維束を巻き取る。プレッシャーロール130は、ボビン120に巻き取られた繊維束に対し圧力をかける。これにより、繊維束がボビン120から浮いた状態で巻き取られることを抑制することができる。トラバースガイド110、ボビン120、プレッシャーロール130は、図示しない器具によって、回転可能に支持されている。
【0011】
図2は、制御部140によるトラバースガイド110の移動の制御を説明した図である。図2では、繊維束巻取装置10の一部を省略している。また、図2では、ボビン120に巻き取られた繊維束を簡略化している。制御部140は、ボビン120の回転に応じて、トラバースガイド110の、ボビン120の中心軸CAに沿った移動を制御することができる。
【0012】
また、制御部140は、ワインド比を制御する。トラバースガイド110がボビン120の中心軸CA方向に沿って一往復する間の、ボビン120の回転数が、ワインド比として定義される。ワインド比の制御については、後述する。
【0013】
トラバースガイド110の移動について、具体的に説明する。制御部140は、ボビン120の中心軸CAの方向に沿った、予め定められた第1範囲B0に、繊維束が巻き付けられるように、トラバースガイド110を移動させる。繊維束が第1範囲B0に巻き付けられる制御を、第1移動制御とよぶ。第1範囲B0の両端を、第1端310、第1端311とよぶ。第1端310は、第1端311よりもX軸の正方向側に位置する。第1端310と311は、ボビン120の端よりもボビン120の中心側に位置する。
【0014】
また、制御部140は、繊維束が図2に示すC1の範囲に巻き付けられず、第2範囲B1内に巻きつけられるように、トラバースガイド110を移動させる。繊維束が第2範囲B1に巻き付けられる制御を、第2移動制御とよぶ。第2範囲B1の両端を、第2端320、第2端321とよぶ。第2端320は、第2端321よりもX軸の正方向側に位する。
【0015】
図2に示すように、第2範囲B1は、第1範囲B0内において、第1範囲B0の両端である第1端310と第1端311とは異なる位置に両端が設定される。第2範囲B1は、第1範囲B0よりも小さくなるように、制御部140により制御されている。より具体的には、第2範囲B1の第2端320と第2端321が、第1範囲B0の第1端310と第1端311から繊維束の幅の25%から35%の寸法分、ボビン120の中心側に位置するように、定められる(図2のC1参照)。なお、理解の便を図るため、図2のC1の寸法を、誇張して示している。
【0016】
本実施形態においては、第1移動制御と第2移動制御が実行される割合が、2:1となるように、制御部140によって、トラバースガイド110の移動が制御されている。
【0017】
図3は、トラバースガイド110によるボビン120への繊維束の巻き付けについての説明図である。図3はボビン120の周面を平面に表したものである。図3の区間Sは、ボビン120への繊維束の巻き始めであり、第1移動制御及び第2移動制御が実行されるいずれの区間にも該当しない。第1移動制御において、繊維束が、トラバースガイド110によって、第2端320上の始点SPから、第1端310に向かい、第1端310で折り返して、ボビン120の第1範囲B0にわたって巻き付けられる。トラバースガイド110によって移動された繊維束は、第1端311において折り返される。
【0018】
折り返された繊維束が、再度、第2端320に戻る。第2端320から第1端310および、第1端311を経て第2端320に戻るまでの、トラバースガイド110の往復を、第1移動制御の一回とする。一回目の第1移動制御の区間を、図3において、T1で示す。一回目の第1移動制御の区間T1の後、同様に、繊維束が、トラバースガイド110によって、第2端320から1端310および第1端311を経て第2端320に戻るまでの、トラバースガイド110の往復を、二回目の第1移動制御とする。二回目の第1移動制御の区間を、図3において、T2で示す。
【0019】
二回目の第1移動制御の区間T2の後、第2移動制御において、繊維束が、トラバースガイド110によって、第2端320から第2端321に向かい、ボビン120の第2範囲B1にわたって、巻き付けられる。トラバースガイド110によって移動された繊維束は、第2端321で、折り返される。折り返された繊維束が、再度、第2範囲B1に巻き付けられ、第2端320に到達する。第2端320から第2端321に移動して、第2端321を折り返して第2端320に移動するまでの、トラバースガイド110の往復を、第2移動制御の一回とする。第2移動制御の区間を、図3において、Rで示す。第2移動制御が実行された後は、第2端320から、再度、第1移動制御が二回、実行される。以降、二回の第1移動制御と、一回の第2移動制御の組み合わせが繰り返される。
【0020】
図4は、例1における、ボビン120に繊維束が巻き取られた状態を説明する図である。例1では、第1移動制御のみが実行され、第2移動制御は実行されない。そのため、繊維束は、ほぼ常に端部510と端部511において折り返される。繊維束の折り返しにより、端部510及び端部511に、繊維束が重なりやすい。その結果、図4に示すように、ボビン120の中心軸CAから、端部510と端部511に巻きつけられた繊維束の外表面までの距離のht1が、ボビン120の中心軸CAからボビン120の中心に巻き付けられた繊維束の外表面までの距離のht2と比べて大きくなる。
【0021】
図5は、図4の破線C内を拡大した図である。例1では、図4の白抜き矢印Dが示すように、プレッシャーロール130によって、繊維束に対し、ボビン120の中心軸CAに向かって圧力がかけられると、端部510、端部511において重なった繊維束が、ボビン120の中心軸CAに略平行な方向に向かって崩れる。その結果、図5の破線E内に示すように、端部511の繊維束が、不均一に重なった状態で、ボビン120に巻き取られる。
【0022】
図6は、図2の破線F内を拡大した図である。なお、図6においては、例1との対比のために、ボビン120に巻かれた繊維束によって形成された、略円筒状の側面形状を、直線的に示している。第2移動制御が行われる場合、図2に示すように、ボビン120の端部における繊維束の折り返し点の位置が、ボビン120の中心軸方向に沿って4か所ある(図2の第1端310と第1端311と、第2端320及び第2端321参照)。本実施形態においては、4か所で折り返しが行われるため、折り返し点が端部510と端部511の2か所である例1に比べて、各箇所における繊維束の重なりが小さくなる。つまり、ボビン120の中心軸CAから、巻き付けられた繊維束の外表面までの距離のht3が、例1のht1と比べて小さくなる(図5及び図6参照)。そのため、プレッシャーロール130による押圧が行われても、図6の破線G内に示すように、繊維束が崩れることを抑制することができる。
【0023】
また、上述したように、第2範囲B1の第2端320が、第1範囲B0の第1端310から繊維束の幅の25%から35%の寸法分、ボビン120の中心側に位置する(図2のC1参照)。そのため、第2端320が、第1端310により近い態様に比べて、第2移動制御において巻き付けられた繊維を、ボビン120の中心側に巻き付けることができる。その結果、プレッシャーロール130による押圧の際に、第1端310の繊維束と、第2端320の繊維束が重なる可能性が低くなり、繊維束の崩れをより抑制することができる。
【0024】
B.第2実施形態:
第2実施形態では、第1移動制御及び第2移動制御に加えて、ワインド比の制御が行われる点で、第1実施形態と異なる。第2実施形態では、第1実施形態と同じく、第1移動制御と、第2移動制御は、2:1の割合で実行される。後述する例3においても、2:1の割合で第1移動制御と第2移動制御が実行される。繊維束巻取装置10の構成は同一であるので、詳細な説明を省略する。
【0025】
第2実施形態においては、制御部140によって、トラバースガイド110が、ボビン120に巻き付けられた繊維束の折り返し地点が、ボビン120の周方向について均等に分布するように設定されたワインド比で制御される。設定されたワインド比による処理を、ワインド比最適化処理とよぶ。ここで、本明細書における均等とは、繊維束の折り返し点の間隔の平均値を100%としたとき、100±30%の間隔で折り返し点が位置することをいう。
【0026】
ワインド比最適化処理の実施方法について説明する。ワインド比最適化処理は、制御部140によって、ワインド比の小数点以下が、M/L±0.01の範囲外であるように実行される。Lは2以上の整数である。Mは整数であり、1≦M≦Lである。
【0027】
図7は、第2実施形態の、ボビン120に巻き取られた繊維束のボビン120の円周上の位置を説明する図である。図1のボビン120を、X軸の正方向側から中心軸CAの方向に見る(図1の白抜き矢印Aの方向参照)。ボビン120のある方向を0とし、1回転分の回転量を1.0として、ボビン120が回転したときに、第1移動制御と第2移動制御の巻き取りが、どの位置で行われるかを、図7にて示している。
【0028】
図7において、白のひし形で表された位置が、第1移動制御が実行された際の折り返し置である。また、図7において、黒の四角で表された位置が、第2移動制御が実行された際の巻き取り位置である。後述する図8ないし図14においても同様である。本実施形態においては、トラバースガイド110はボビン120の中心軸CAに沿って100往復する。
【0029】
図8は、第1移動制御における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図である。図8は、図7の白のひし形を、トラバースガイド110の往復回数によらずと同一直線状に並べた図である。図8の横軸の数値は、図7に対応する。図8に示すように、ワインド比最適化処理が実行されると、第1移動制御の実行により繊維束が折り返される位置が、ボビン120の周方向について均等に分布する。
【0030】
図9は、第2移動制御における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図である。図9は、図7の黒の四角を、トラバースガイド110の往復回数によらずと同一直線状に並べた図である。図9に示すように、第2実施形態においては、ボビン120を中心軸CAの方向に見た際に、第2移動制御による折り返しが、0から0.9の間でほぼ均一に分布するように、ワインド比が最適化されている。
【0031】
これにより、第2移動制御の実行により繊維束が巻き取られる位置が、ボビン120の周方向について均等に分布する。つまり、ワインド比最適化処理が実行されることにより、第1移動制御と第2移動制御による巻き取りのいずれにおいても、ボビン120の周方向における繊維束の重なりが発生することを抑制することができる。その結果、プレッシャーロール130による押圧の際に、第1端310及び第2端320での繊維束の崩れを抑制することができる。逆側の端である、第1端311及び第2端321においても、第1端310と第2端320と同様である。
【0032】
図10は、例2の、ボビン120に巻き取られた繊維束のボビン120の円周上の位置を説明する図である。図11は、例2における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図である。図10図7に対応し、図11図8に対応する。例2においては、第1移動制御とワインド比最適化処理が実行され、第2移動制御が実行されない。
【0033】
例2では、[W1×I1]の少数点以下の数値が、ボビンの円周上の折り返し点に対応する。W1は例2のワインド比、I1はトラバースガイド110の往復回数である。図10及び図11に示すように、例2では、ボビン120の周方向に、ほぼ均等に、折り返される位置が分布している。
【0034】
しかし、例2では第2移動制御が実行されないため、繊維束の折り返し点の位置の数が、ボビンの中心軸CA方向に沿って、2か所となる。これは、例1と同様である(図4参照)。そのため、例1と同様、ボビン120の中心軸CAから、折り返し位置における繊維束の外表面までの距離の最大値が、ボビン120の中心軸CAからボビン120の中心に巻き付けられた繊維束の外表面までの距離の最大値と比べて大きくなる。その結果、プレッシャーロールによる押圧の際に、繊維束が崩れるおそれがある。
【0035】
図12は、例3の、ボビン120に巻き取られた繊維束のボビン120の円周上の位置を説明する図である。図13は、例3の第1移動制御における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図である。図14は、例3の第2移動制御における、繊維束の折り返し位置の分布を説明する図である。図12図7に対応し、図13図8に対応し、図14図9に対応する。例3においては、第1移動制御と第2移動制御が実行され、ワインド比最適化処理が実行されない。例3は、第1実施形態に対応する。図12に示すように、例3では、第2移動制御の実行により、第1端310における繊維束の重なりの発生が、例2と比べて抑制される。
【0036】
例3では、第1移動制御が二回実行された後に実行される第2移動制御により、第2端320において、繊維束の折り返しが行われる。そのため、二回目の第1移動制御後に行われる、第2端320における巻き取り位置が、例2における第1端310の巻き取り位置と比べてずれることとなる。具体的には、第2端320における巻き取りが、[W2×(B0×(N-1)+B1/B0×N)]の小数点以下の数値に対応した位置となる。例3においては、Nは3であるため、第2端320における巻き取りは、[W2×(B0×2+B1/B0×3)]の小数点以下の数値に対応した位置で行われる。W2は、例3におけるワインド比である。
【0037】
例3においては、ワインド比最適化処理が実行されないため、図13に示すように、第1移動制御による折り返し位置が、ボビン120の周方向のある位置に集中する。具体的には、第1移動制御による折り返し位置が、0.04から0.1の範囲と、0.14から0.19の範囲と、0.24から0.29の範囲と、0.34から0.39の範囲と、0.45から0.49の範囲と、0.53から0.59の範囲と、0.63から0.69の範囲と、0.75から0.79の範囲と、0.85から0.89の範囲と、0.95から1の範囲に集中している。
【0038】
また、図14に示すように、第2移動制御による折り返し位置が、ボビン120の周方向のある位置に集中する。具体的には、第2移動制御による折り返し位置が、0から0.03の範囲と、0.1から0.13の範囲と、0.2から0.23の範囲と、0.3から0.35の範囲と、0.4から0、45の範囲と、0.5から0.53の範囲と、0.6から0.63の範囲と、0.7から0.75の範囲と、0.8から0.84の範囲及び0.9から0.94の範囲に集中している。
【0039】
第1移動制御及び第2移動制御による折り返し位置が集中すると、図12に示すように、第1移動制御及び第2移動制御によって折り返される繊維束が、ボビン120の周方向に、不均一に分布する。例3におけるボビン120を中心軸CA方向に見ると、第1端310と第2端320のそれぞれにおいて、歯車の形状を成すように、繊維束が巻き取られることになる。この場合、プレッシャーロール130によって繊維束が押圧された際に、周方向に繊維束が崩れるおそれがある。
【0040】
以上のように、第2移動制御が実行されない例2は、ボビン120の中心軸CAから、折り返し位置における繊維束の外表面までの距離の最大値が、ボビン120の中心軸CAからボビン120の中心に巻き付けられた繊維束の外表面までの距離の最大値と比べて大きくなる。例3では、第1実施形態において述べたように、巻き付けられた繊維束の外表面までの距離の最大値を小さくすることができるため、繊維束の重なりの発生を抑制することができる。第2実施形態では、さらにワインド比最適化処理を実行することで、ボビン120の周方向について、繊維束の巻き取り位置を均一に分布させることができる。そのため、より、繊維束の重なりの発生を抑制することができる。
【0041】
C.他の形態:
C1)第2実施形態においては、小数点以下が、M/N±0.01の範囲外となるように、ワインド比最適化処理が実行される。しかし、例えば小数点以下が、M/N±0.01の範囲内となるように、ワインド比最適化処理が実行されてもよい。または、小数点以下が、M/N±0.02の範囲外や、M/N±0.05の範囲外など、小数点第2位の数値が、0.01でなくてもよい。
【0042】
C2)第2実施形態においては、トラバースガイド110はボビン120の中心軸CAに沿って100往復する。しかし、例えばトラバースガイドはボビンの中心軸に沿って50往復してもよい。
【0043】
C3)上記実施形態においては、トラバースガイド110は例3つのガイドロール111を有している。しかし、例えばトラバースガイドは2つのガイドロールを有していてもよい。
【0044】
C4)上記実施形態においては、第1移動制御と第2移動制御を実行する割合が、2:1となるように、制御部140によってトラバースガイド110が制御されている。しかし、例えば第1移動制御と第2移動制御を実行する割合が、3:1となるように制御されてもよい。第1移動制御と第2移動制御を実行する割合が、N:1(Nは2以上の整数)となるように、制御部によってトラバースガイドが制御されていればよい。
【0045】
C5)上記実施形態においては、第2範囲B1の第2端320と第2端321が、第1範囲B0の第1端310と第1端311から繊維束の幅の25%から35%の寸法分、ボビン120の中心側に位置するように、定められる。しかし、例えば繊維束の幅の40%の寸法分、ボビンの中心側に位置していてもよい。
【0046】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…繊維束巻取装置、110…トラバースガイド、111…ガイドロール、120…ボビン、130…プレッシャーロール、140…制御部、310、311…第1端、320、321…第2端、510、511…端部、A…矢印、B0…第1範囲、B1…第2範囲、CA…中心軸
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