IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】アナログデジタル変換器及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/12 20060101AFI20231114BHJP
   H03M 1/56 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H03M1/12 C
H03M1/56
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020202955
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090516
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】杉本 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】崔 明秀
(72)【発明者】
【氏名】富山 陽介
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/029984(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/163895(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0002467(US,A1)
【文献】国際公開第2019/025152(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00-1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号をサンプルホールドした信号が、第1基準信号よりも信号レベルの高い第2基準信号に応じた信号の信号レベル以下か否かに基づいて第1デジタル信号を生成する第1デジタル信号生成器と、
前記サンプルホールドした信号の信号レベルから前記第1基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変化する第1スロープ信号を生成する第1スロープ生成器と、
前記サンプルホールドした信号の信号レベルから前記第2基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変化する第2スロープ信号を生成する第2スロープ生成器と、
前記第1スロープ信号が前記第1基準信号に一致する時刻、又は前記第2スロープ信号が前記第2基準信号に一致する時刻に基づいて、第2デジタル信号を生成する第2デジタル信号生成器と、を備える、アナログデジタル変換器。
【請求項2】
前記第1デジタル信号に基づいて、前記第1スロープ生成器又は前記第2スロープ生成器が選択されて、前記第1スロープ信号又は前記第2スロープ信号が生成される、請求項1に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項3】
前記第1デジタル信号及び前記第2デジタル信号を合成して、前記入力信号に応じたデジタル信号を生成する合成器を備える、請求項1又は2に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項4】
前記合成器は、前記第1デジタル信号を上位側ビットとし、前記第2デジタル信号を下位側ビットとする前記デジタル信号を生成する、請求項3に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項5】
前記第1スロープ信号と前記第1基準信号とが一致するか否かを検出する第1比較器と、
前記第2スロープ信号と前記第2基準信号とが一致するか否かを検出する第2比較器と、を備え、
前記第2デジタル信号生成器は、前記第1スロープ信号の信号レベルが変化し始める時刻から、前記第1比較器で前記第1スロープ信号と前記第1基準信号との一致が検出される時刻までの時間差、又は前記第2スロープ信号の信号レベルが変化し始める時刻から、前記第2比較器で前記第2スロープ信号と前記第2基準信号との一致が検出される時刻までの時間差に基づいて、前記第2デジタル信号を生成する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項6】
前記第1デジタル信号生成器は、前記第2比較器の出力に基づいて、前記第1デジタル信号を生成する、請求項5に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項7】
前記第1基準信号及び前記第2基準信号を生成する基準信号生成器を備える、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項8】
制御信号に基づいて、前記第1スロープ信号及び前記第2スロープ信号の単位時間あたりの信号レベルの変化を表す勾配を制御するスロープ制御器を備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項9】
前記スロープ制御器は、前記第1スロープ信号及び前記第2スロープ信号の勾配を等しくする、請求項8に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項10】
複数の入力信号を第1ビット精度で複数のデジタル信号に変換する第1モードと、前記第1モードよりも少ない数の入力信号を前記第1ビット精度よりも高い第2ビット精度でデジタル信号に変換する第2モードとを択一的に選択可能であり、
前記第2モードの選択時には、前記第1デジタル信号生成器、前記第1スロープ生成器、前記第2スロープ生成器、及び前記第2デジタル信号生成器を用いて、前記複数の入力信号よりも少ない数の入力信号に応じた前記デジタル信号を生成する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項11】
前記第1スロープ生成器は、前記第1モードの選択時には、第1入力信号をサンプルホールドした信号の信号レベルから所定の基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変換する前記第1スロープ信号を生成し、
前記第2スロープ生成器は、前記第1モードの選択時には、第2入力信号をサンプルホールドした信号の信号レベルから前記所定の基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変換する前記第2スロープ信号を生成し、
前記第2デジタル信号生成器は、前記第1スロープ信号が前記所定の基準信号に一致する時刻に基づいて前記第1入力信号に応じたデジタル信号を生成するとともに、前記第2スロープ信号が前記所定の基準信号に一致する時刻に基づいて、前記第2入力信号に応じたデジタル信号を生成する、請求項10に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項12】
前記第2モードの選択時に、前記デジタル信号のビット精度に応じたそれぞれ異なる信号レベルのn個(nは2以上の整数)の基準信号を生成する基準信号生成器を備え、
前記n個の基準信号は、前記第1基準信号及び前記第2基準信号を含む、請求項10又は11に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項13】
前記n個の基準信号は、等しい電圧幅ごとに相違するn個の電圧信号である、請求項12に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項14】
前記n個の基準信号は、フルスケール電圧を等分割した複数の電圧信号である、請求項12に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項15】
制御信号と前記n個の基準信号とに基づいて、前記第1スロープ信号及び前記第2スロープ信号を含むn個のスロープ信号の勾配を制御するスロープ制御器を備える、請求項12乃至14のいずれか一項に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項16】
前記スロープ制御器は、前記n個のスロープ信号の勾配を等しくする、請求項15に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項17】
前記第1スロープ信号及び前記第2スロープ信号の一部の信号レベルは重複する、請求項1乃至16のいずれか一項に記載のデジタル変換器。
【請求項18】
対象物の複数箇所で反射された複数の光信号を受光して、複数の受信信号を生成する受光部と、
前記複数の受信信号に基づいて複数のデジタル信号を生成するアナログデジタル変換器と、
前記複数のデジタル信号に基づいて、前記対象物までの距離を計測する距離計測部と、を備え、
前記アナログデジタル変換器は、
前記受信信号をサンプルホールドした信号が、第1基準信号よりも信号レベルの高い第2基準信号に応じた信号の信号レベル以下か否かに基づいて第1デジタル信号を生成する第1デジタル信号生成器と、
前記サンプルホールドした信号の信号レベルから前記第1基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変化する第1スロープ信号を生成する第1スロープ生成器と、
前記サンプルホールドした信号の信号レベルから前記第2基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変化する第2スロープ信号を生成する第2スロープ生成器と、
前記第1スロープ信号が前記第1基準信号に一致する時刻、又は前記第2スロープ信号が前記第2基準信号に一致する時刻に基づいて、第2デジタル信号を生成する第2デジタル信号生成器と、を備える、電子装置。
【請求項19】
前記複数の受信信号を第1ビット精度で複数の前記デジタル信号に変換する第1モードと、前記第1モードよりも少ない数の受信信号を前記第1ビット精度よりも高い第2ビット精度で前記デジタル信号に変換する第2モードとを択一的に選択可能であり、
前記第2モードの選択時には、前記第1デジタル信号生成器、前記第1スロープ生成器、前記第2スロープ生成器、及び前記第2デジタル信号生成器を用いて、前記複数の受信信号よりも少ない数の受信信号に応じた前記デジタル信号を生成する、請求項18に記載の電子装置。
【請求項20】
前記第2モードの選択時に、前記デジタル信号のビット精度に応じたそれぞれ異なる信号レベルのn個(nは2以上の整数)の基準信号を生成する基準信号生成器を備え、
前記n個の基準信号は、前記第1基準信号及び前記第2基準信号を含む、請求項19に記載の電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、アナログデジタル変換器及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シングルスロープ型アナログデジタル変換器は、入力信号から生成されたスロープ信号と基準信号とが一致するタイミングに応じてデジタル信号を生成する。しかしながら、複数チャネルのアナログデジタル変換器では、スロープ信号の勾配のばらつきや、スロープ信号と基準信号を比較する比較器のオフセット電圧などにより、チャネルごとのデジタル信号に誤差が生じ、アナログデジタル変換精度が低下するおそれがある。
【0003】
複数チャネルのデジタル信号を平均化することで、S/N比を改善することができる。例えば、Mチャネルの場合、信号電力はM倍になり、S/N比は√M倍になる。このように、チャネル数がM倍に増えても、S/N比は√M倍までしか改善できない。
その他、2つのアナログデジタル変換器を用いて、差動出力を検出する手法もある。しかしながら、同相雑音を除去して、歪みを低減する効果があるものの、量子化雑音を低減することはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Pushing the State of the Art with Multichannel A/D ConvertersRob Reeder, N. N. Analog Dialogue. Vol.39 2005
【文献】R. van Veldhoven, M. Lammers, L. Van Der Dussen and K. Mabtoul, "9.8 A Low-Cost 4-Channel Reconfigurable Audio Interface for Car Entertainment Systems," 2020 IEEE International Solid- State Circuits Conference - (ISSCC), San Francisco, CA, USA, 2020, pp. 168-170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一実施形態では、回路構成を複雑化することなく、高精度のアナログデジタル変換を行うことが可能なアナログデジタル変換器及び電子装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態によれば、入力信号をサンプルホールドした信号が、第1基準信号よりも信号レベルの高い第2基準信号に応じた信号の信号レベル以下か否かに基づいて第1デジタル信号を生成する第1デジタル信号生成器と、
前記サンプルホールドした信号の信号レベルから前記第1基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変化する第1スロープ信号を生成する第1スロープ生成器と、
前記サンプルホールドした信号の信号レベルから前記第2基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変化する第2スロープ信号を生成する第2スロープ生成器と、
前記第1スロープ信号が前記第1基準信号に一致する時刻、又は前記第2スロープ信号が前記第2基準信号に一致する時刻に基づいて、第2デジタル信号を生成する第2デジタル信号生成器と、を備える、アナログデジタル変換器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ADCの概略構成を示すブロック図。
図2】第2モードの選択時のADCの内部構成を示すブロック図。
図3図2のADCの信号波形図。
図4A】16チャネルのADCを第1モードで動作させる場合のブロック図。
図4B】16チャネルのADCを第2モードで動作させる場合のブロック図。
図5】第2の実施形態による第1比較器と第2比較器の比較電圧範囲を示す電圧波形図。
図6】第3の実施形態によるADCの概略構成を示すブロック図。
図7】スロープ制御器にて第1スロープ信号と第2スロープ信号の勾配を変化させる例を示電圧波形図。
図8】第4の実施形態によるADCの概略構成を示すブロック図。
図9】第4の実施形態の第1変形例によるADCのブロック図。
図10】第4の実施形態の第2変形例によるADCのブロック図。
図11】第5の実施形態によるADCのブロック図。
図12A】第1例によるS/Hネットワークのブロック図。
図12B】第2例によるS/Hネットワークのブロック図。
図12C】第3例によるS/Hネットワークのブロック図。
図13A】第1例によるチャネル選択機能付きTDCのブロック図。
図13B】第2例によるチャネル選択機能付きTDCのブロック図。
図14】電子装置の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、アナログデジタル変換器及び電子装置の実施形態について説明する。以下では、アナログデジタル変換器及び電子装置の主要な構成部分を中心に説明するが、アナログデジタル変換器及び電子装置には、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。以下の説明は、図示又は説明されていない構成部分や機能を除外するものではない。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は2チャネルの入力信号を並行してアナログデジタル変換(以下、AD変換と呼ぶ)可能なアナログデジタル変換器(以下、ADCと呼ぶ)1の概略構成を示すブロック図である。図1のADC1は、サンプルホールドネットワーク(以下、S/Hネットワーク)2と、2チャネル分のスロープ生成器3及び比較器4と、チャネル選択機能付き時間デジタル変換器(以下、TDCと呼ぶ場合がある)5とを備えている。
【0010】
図1に示すADC1は、2チャネルの入力信号を並行してAD変換して、2チャネルのデジタル信号を生成することができる。
【0011】
S/Hネットワーク2は、各チャネルの入力信号を、クロック信号に同期させてサンプルホールドする。S/Hネットワーク2の内部構成は、後述するように複数通りが考えられるが、S/Hネットワーク2は、各チャネルの入力信号をサンプルホールドした信号を出力する。
【0012】
各スロープ生成器3は、対応するサンプルホールド信号に応じたスロープ信号を生成する。各比較器4は、対応するスロープ信号と基準信号が一致するタイミングを示す信号を出力する。
【0013】
TDC5は、チャネルごとに、対応する比較器4の出力信号に基づいて、対応する入力信号に応じたデジタル信号を生成する。
【0014】
図1のADC1は、2チャネルの構成を示しているが、チャネル数は2チャネルには限定されない。図1のADC1は、複数チャネルの入力信号に基づいて複数のデジタル信号を生成することができる他、1チャネル分の入力信号を複数のスロープ生成器3及び比較器4を用いてAD変換することにより、AD変換の精度を向上することができる。このように、図1のADC1は、複数の入力信号に応じた第1ビット精度の複数のデジタル信号を生成する第1モードと、第1モードよりも少ない数(例えば一つ)の入力信号に応じた第1ビット精度よりも高い第2ビット精度のデジタル信号を生成する第2モードとを択一的に選択可能である。
【0015】
第1モードの選択時には、チャネルごとに異なる複数の入力信号をAD変換して、チャネル数分のデジタル信号を生成する。第2モードの選択時には、第1モードよりも少ない数の入力信号をAD変換するために複数チャネル分のS/Hネットワーク2、スロープ生成器3、比較器4及びTDC5が用いられる。よって、AD変換されるデジタル信号の数が少なくなるが、その分、デジタル信号のビット数が増えて高精度になる。
【0016】
図2は第2モードの選択時のADC1の内部構成を示すブロック図である。図2のADC1は、2チャネル分の構成を用いて1チャネルの入力信号のAD変換を行う場合の構成を示している。第2モードの選択時には、図2のS/Hネットワーク2に1チャネル分の入力信号が入力される。
【0017】
図2のADC1は、S/Hネットワーク2と、第1デジタル信号生成器6と、第1スロープ生成器3aと、第2スロープ生成器3bと、第1比較器4aと、第2比較器4bと、第2デジタル信号生成器7とを有する。第1デジタル信号生成器6と第2デジタル信号生成器7の処理は、図1のTDC5により行われる。
【0018】
第1デジタル信号生成器6は、入力信号をサンプルホールドした信号が、第1基準信号よりも信号レベルの高い第2基準信号に応じた信号の信号レベル以下か否かに基づいて第1デジタル信号を生成する。第2基準信号に応じた信号とは、第2基準信号であってもよいし、後述するようにオフセット等を考慮に入れた場合は、第2基準信号とは信号レベルが少しずれた信号であってもよい。第1デジタル信号生成器6は、例えば第2比較器4bの出力信号に基づいて、サンプルホールドした信号が第2基準信号以下か否かを判断する。
【0019】
第1基準信号は、例えばフルスケール電圧FSの最低レベルの電圧(例えば0V)である。フルスケール電圧FSとは、第1スロープ生成器3aと第2スロープ生成器3bが出力しうる最大電圧と最小電圧を指す。第2基準信号は、例えばフルスケール電圧FSの半分の電圧FS/2である。第1デジタル信号生成器6で生成される第1デジタル信号は、例えば、図2のADC1で生成されるデジタル信号の上位側ビット(具体的な一例ではMSB)である。
【0020】
第1スロープ生成器3aは、サンプルホールドした信号の信号レベルから第1基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変化する第1スロープ信号を生成する。第1スロープ信号は、例えば、サンプルホールドした信号が第2基準信号の信号レベル以下のときに生成される。
【0021】
第2スロープ生成器3bは、サンプルホールドした信号の信号レベルから第2基準信号以下の信号レベルまで、時間とともに信号レベルが変化する第2スロープ信号を生成する。第2スロープ信号は、例えば、サンプルホールドした信号が第2基準信号の信号レベルより大きいときに生成される。
【0022】
第1スロープ生成器3aと第2スロープ生成器3bは、並行して第1スロープ信号と第2スロープ信号をそれぞれ生成する。あるいは、第1スロープ生成器3aと第2スロープ生成器3bの一方のみが動作を行ってもよい。この場合、第1スロープ生成器3aが第1スロープ信号を生成するか、又は第2スロープ生成器3bが第2スロープ信号を生成するかは、第1デジタル信号生成器6が生成する第1デジタル信号により決定される。
【0023】
第1比較器4aは、第1スロープ信号と第1基準信号とを比較する。すなわち、第1比較器4aは、第1スロープ信号と第1基準信号とが一致するタイミングを検出する。第2比較器4bは、第2スロープ信号と第2基準信号とを比較する。すなわち、第2比較器4bは、第2スロープ信号と第2基準信号とが一致するタイミングを検出する。第1デジタル信号生成器6は、例えば第2比較器4bの出力により、サンプルホールドした信号が第2基準信号以下か否かを判断でき、第2比較器4bの出力に基づいて第1デジタル信号を生成する。
【0024】
第2デジタル信号生成器7は、第1スロープ信号が第1基準信号に一致する時刻、又は第2スロープ信号が第2基準信号に一致する時刻に基づいて、第2デジタル信号を生成する。すなわち、第2デジタル信号生成器7は、第1スロープ信号及び第2スロープ信号の両方又は片方が下がり始めた時刻から、第1基準信号又は第2基準信号に一致する時刻までの時間差に応じた第2デジタル信号を生成する。
【0025】
より具体的には、第2デジタル信号生成器7は、第1スロープ信号の信号レベルが変化し始める時刻から、第1比較器4aで第1スロープ信号と第1基準信号との一致が検出される時刻までの時間差、又は第2スロープ信号の信号レベルが変化し始める時刻から、第2比較器4bで第2スロープ信号と第2基準信号との一致が検出される時刻までの時間差に基づいて、第2デジタル信号を生成する。
【0026】
TDC5は、第1デジタル信号生成器6で生成された第1デジタル信号と、第2デジタル信号生成器7で生成された第2デジタル信号とで、入力信号に応じたデジタル信号ADCOUTを生成する。デジタル信号の上位側ビット(例えばMSB)が第1デジタル信号であり、下位側ビットが第2デジタル信号である。このように、TDC5は、第1デジタル信号と第2デジタル信号を合成して、入力信号に応じたデジタル信号ADCOUTを生成する合成器として機能する。
【0027】
図3図2のADC1の信号波形図である。図3には、クロック信号CLK_SHと、第1スロープ信号SL1と、第1基準信号Vref1と、第2スロープ信号SL2と、第2基準信号Vref2の信号波形が示されている。図3の例では、第1基準信号Vref1は0Vに設定され、第2基準信号Vref2はフルスケール電圧FSの半分FS/2に設定されている。
【0028】
図3の時刻t1でクロック信号CLK_SHがローからハイに遷移すると、S/Hネットワーク2は、入力信号をサンプルホールドする。サンプルホールドされた信号は、第2比較器4bにより第2基準信号Vref2以下か否かが検出される。第1デジタル信号生成器6は、第2比較器4bの出力に基づいて、第1デジタル信号を生成する。第1デジタル信号は、入力信号の上位側ビット(例えばMSB)であり、サンプルホールド信号が第2基準信号Vref2以下か否かで論理が変化するビット信号である。第1デジタル信号生成器6による処理は、コースAD変換処理である。
【0029】
第1スロープ生成器3aと第2スロープ生成器3bは並行して動作して、第スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2を生成する。あるいは、第1デジタル信号に基づいて、第1スロープ生成器3aと第2スロープ生成器3bの一方が動作して、第1スロープ信号SL1又は第2スロープ信号SL2を生成してもよい。
【0030】
図3の例では、サンプルホールドされた信号は、第2基準信号Vref2の電圧レベル以下であるため、第1スロープ生成器3aが選択されて、クロック信号CLK_SHがハイからローに遷移する時刻t2以降、電圧レベルが徐々に低下する第1スロープ信号SL1を生成する。第1比較器4aは、時刻t3で第1スロープ信号SL1と第1基準信号Vref1が一致したことを検出し、第1比較器4aの出力信号の論理を変化させる。これにより、第2デジタル信号生成器7は時刻t2~t3の時間差に応じた第1デジタル信号を生成する。第2デジタル信号生成器7によるAD変換処理は、ファインAD変換処理である。
【0031】
このように、図2のADC1は、時刻t1~t2の間に第1デジタル信号生成器6にてコースAD変換処理を行って、第1スロープ生成器3a又は第2スロープ生成器3bを選択し、時刻t2~t3の間に第2デジタル信号生成器7にてファインAD変換処理を行う。図2のADC1は、時刻t1~t2でのコースAD変換処理により得られた第1デジタル信号と、時刻t2~t3でのファインAD変換処理により得られた第2デジタル信号とを合成して、入力信号に応じたデジタル信号を生成する。
【0032】
時刻t4で、クロック信号CLK_SHが再びローからハイに遷移すると、S/Hネットワーク2は、入力信号を再びサンプルホールドする。図3の例では、サンプルホールドされた信号は第2基準信号Vref2の信号レベルより小さい。よって、第1デジタル信号生成器6によるコースAD変換処理の結果は時刻t1~t2のときと同じであり、第1スロープ生成器3aが選択される。
【0033】
第1スロープ生成器3aは、クロック信号CLK_SHがハイからローに遷移する時刻t5以降、電圧レベルが徐々に低下する第1スロープ信号SL1を生成する。第1スロープ信号SL1の勾配は、時刻t2~t3のときと同じである。ただし、時刻t5での信号レベルが時刻t2での信号レベルより小さいため、時刻t2~t3の時間差よりも短い時刻t5~t6の時間差で、第1比較器4aは、第1スロープ信号SL1と第1基準信号Vref1が一致したことを検出し、第1比較器4aの出力信号の論理を変化させる。これにより、第2デジタル信号生成器7は、ファインAD変換処理により、時刻t5~t6の時間差に応じた第2デジタル信号を生成する。図2のADC1は、時刻t4~t5でのコースAD変換処理により得られた第1デジタル信号と、時刻t5~t6でのファインAD変換処理により得られた第2デジタル信号に基づいて、入力信号に応じたデジタル信号を生成する。
【0034】
時刻t6で、クロック信号CLK_SHが再びローからハイに遷移すると、S/Hネットワーク2は、入力信号を再びサンプルホールドする。図3の例では、サンプルホールドされた信号は第2基準信号Vref2の信号レベルより大きい。よって、第1デジタル信号生成器6によるコースAD変換処理の結果は、時刻t1~t2及びt4~t5とは逆になり、第2スロープ生成器3bが選択される。
【0035】
第2スロープ生成器3bは、クロック信号CLK_SHがハイからローに遷移する時刻t8以降、電圧レベルが徐々に低下する第2スロープ信号SL2を生成する。第2スロープ信号SL2の勾配は、例えば第1スロープ信号SL1と例えば同じに設定される。時刻t9で、第2比較器4bは、第2スロープ信号SL2と第2基準信号Vref2が一致したことを検出し、第2比較器4bの出力信号の論理を変化させる。これにより、第2デジタル信号生成器7は、ファインAD変換処理により、時刻t8~t9の時間差に応じた第2デジタル信号を生成する。図2のADC1は、時刻t7~t8でのコースAD変換処理により得られた第1デジタル信号と、時刻t8~t9でのファインAD変換処理により得られた第2デジタル信号を合成して、入力信号に応じたデジタル信号を生成する。
【0036】
このように、図1のADC1は、第1モードを選択するか、第2モードを選択するかによって、AD変換処理の精度を変えることができる。
【0037】
図4A及び図4Bは16チャネルのADC1のブロック図である。図4Aは16チャネルのADC1を第1モードで動作させる場合のブロック図、図4Bは16チャネルのADC1を第2モードで動作させる場合のブロック図である。図4A及び図4BのADC1は、チャネルごとにSSADC(Single Slope ADC)8を有する。各SSADC8は、図1と同様に、S/Hネットワーク2、スロープ生成器3、比較器4及びTDC5を有する。
【0038】
第1モードでは、図4Aに示すように、16チャネル分の入力信号をサンプルホールドした信号に基づいて、それぞれ別個にスロープ信号を生成し、16チャネル分のスロープ信号を基準信号とそれぞれ比較した結果に基づいて、16チャネル分のデジタル信号を生成する。第2モードでは、図4Bに示すように、2チャネル分のSSADC8ごとに、1チャネルの入力信号を高精度にAD変換してデジタル信号を生成する。よって、8チャネル分のデジタル信号が生成される。すなわち、第2モードでは、8入力8出力の高精度のデジタル信号を生成する。
【0039】
このように、第1の実施形態では、入力信号をサンプルホールドした信号が第2基準信号Vref2以下か否かにより、コースAD変換処理を行って第1デジタル信号を生成する。そして、第1デジタル信号に基づいて、第1スロープ生成器3a又は第2スロープ生成器3bを選択する。
【0040】
例えば、サンプルホールドした信号が第2基準信号Vref2以下であれば、第1スロープ生成器3aが選択されて、第1スロープ信号SL1と第1基準信号Vref1とが一致するタイミングに応じて第2デジタル信号を生成する。また、サンプルホールドしした信号が第2基準信号Vref2より大きければ、第2スロープ生成器3bが選択されて、第2スロープ信号SL2と第2基準信号Vref2とが一致するタイミングに応じて第2デジタル信号を生成するファインAD変換処理を行う。
【0041】
本実施形態によるADC1では、コースAD変換処理とファインAD変換処理の結果を合成して、入力信号に応じたデジタル信号を生成するため、回路構成を複雑化することなく、高精度のデジタル信号を生成できる。
【0042】
本実施形態では、複数チャネルの入力信号をAD変換するADC1を用いて、複数のチャネルの入力信号を並行してAD変換して複数のデジタル信号を生成する第1モードと、第1モードよりも少ない数の入力信号を高精度にAD変換する第2モードとを択一的に選択することができる。これにより、必要に応じて動作モードを切り替えることで、多チャネルのAD変換処理と、高精度のAD変換処理とを択一的に選択して実施することができる。
【0043】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によるADC1は、比較器4等のオフセット電圧による影響を回避できることを特徴とする。第2の実施形態によるADC1は、ブロック構成は図1及び図2と同様である。
【0044】
図1及び図2のADC1は、チャネルごとに比較器4を備えているが、比較器4は製造ばらつき等により、固有のオフセット電圧を有する。このため、比較器4の比較結果は、オフセット電圧による誤差を含んでいる。また、スロープ生成器3が生成するスロープ信号の勾配も、ばらつきが生じうる。
【0045】
そこで、第2の実施形態によるADC1では、例えば図2の構成において、第1スロープ信号SL1の電圧範囲と第2スロープ信号SL2の電圧範囲を一部重複させた状態で、第1比較器4a及び第2比較器4bにて比較処理を行う。これにより、第1比較器4a及び第2比較器4bのオフセット電圧等の影響を受けにくくしている。
【0046】
図5は第2の実施形態による第1比較器4aと第2比較器4bが比較する電圧範囲を示す電圧波形図である。第1スロープ生成器3aは、フルスケール電圧FSの半分の電圧FS/2以下のサンプルホールドされた信号の信号レベルから第1基準信号Vref1の信号レベル(0V)以下まで徐々に信号レベルが低下する第1スロープ信号SL1を生成する。第1の実施形態では、第2基準電圧をFS/2に設定していたが、本実施形態では、第2基準信号Vref2を電圧FS/2よりも若干低い電圧レベルに設定する。第2スロープ生成器3bは、フルスケール電圧FS以下のサンプルホールドされた信号の信号レベルから第2基準信号Vref2の信号レベル以下まで徐々に信号レベルが低下する第2スロープ信号SL2を生成する。
【0047】
これにより、第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2が共通の電圧範囲(オーバーラップ電圧)を含むことになる。共通の電圧範囲内の入力信号については、第2デジタル信号生成器7は、第1比較器4aの出力と第2比較器4bの出力に基づいてオフセットキャンセル演算を行うことができ、オフセット等の影響を回避した第2デジタル信号を生成できる。
【0048】
このように、第2の実施形態では、第1比較器4aや第2比較器4bのオフセット電圧等を考慮に入れて、第2基準信号Vref2の信号レベルをフルスケール電圧FSの半分よりも下げることにより、第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2の一部の信号レベルを重複させるため、オフセット電圧等をキャンセルさせたデジタル信号ADCOUTを生成できる。
【0049】
なお、第2の実施形態によるADC1のAD変換処理の精度は第1の実施形態よりも劣るが、第1比較器4aと第2比較器4bのオフセット電圧等の影響を回避でき、雑音耐性も向上できる。
【0050】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、図2の第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2の勾配を任意に調整できるようにしたものである。
【0051】
図6は第3の実施形態によるADC1の概略構成を示すブロック図である。図6のADC1は上述した第2モードでの構成を示している。図6のADC1は、図2の構成に加えてスロープ制御器11と基準信号生成器12の少なくとも一方を備えている。
【0052】
スロープ制御器11は、制御信号に基づいて、第1スロープ信号SL1及び第2スロープ信号SL2の単位時間あたりの信号レベルの変化を表す勾配を制御する。スロープ制御器11を設けることで、第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2の勾配を任意に制御できる。スロープ制御器11に入力される制御信号は、例えば、ADC1を制御する不図示の制御回路から出力される。
【0053】
図7はスロープ制御器11にて第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2の勾配を変化させる例を示電圧波形図である。図7の横軸はS/Hネットワーク2への入力電圧を示し、縦軸は時間である。図7には、第1スロープ信号SL1の波形w1,w2と、第2スロープ信号SL2の波形w3,w4が図示されている。細実線の波形w1,w3は、第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2がオーバーラップしない例を示し、太実線の波形w2,w4は、第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2の一部がオーバーラップする例を示している。図7の矩形範囲がオーバーラップ区間である。第1比較器4aや第2比較器4bのオフセットのばらつきが大きい場合には、スロープ制御器11は、波形w2,w4のように、第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2の勾配を制御して、第1スロープ信号SL1と第2スロープをオーバーラップさせる。オーバーラップ区間については、第1比較器4aと第2比較器4bの両方の比較結果に基づいてAD変換処理を行うため、オフセットキャンセル演算を行うことができ、オフセットの影響を回避した第2デジタル信号を生成できる。
【0054】
図6のADC1は、基準信号生成器12を備えていてもよい。図6の基準信号生成器12は、第1基準信号Vref1と第2基準信号Vref2を生成する。第1比較器4aは、第1スロープ信号SL1と第1基準信号Vref1とが一致する時刻を検出し、第2比較器4bは、第2スロープ信号SL2と第2基準信号Vref2とが一致する時刻を検出する。よって、基準信号生成器12が第1基準信号Vref1と第2基準信号Vref2の信号レベルを制御することで、AD変換精度を切り替えることができる。
【0055】
ADC1のチャネル数が増えて、それに伴って、チャネル数に応じた精度でAD変換処理を行う場合、チャネル数に応じて、スロープ制御器11にて各スロープ信号の勾配を制御し、かつ基準信号生成器12で各基準信号の信号レベルを調整することで、再構成可能ADC1が得られる。
【0056】
このように、第3の実施形態によるADC1は、スロープ制御器11と基準信号生成器12の少なくとも一方を備えるため、第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2の勾配を制御したり、第1基準信号Vref1及び第2基準信号Vref2の信号レベルを制御でき、第1比較器4aや第2比較器4bのオフセット電圧等の影響を受けにくくなるとともに、チャネル数の増減にも適応可能な再構成可能な汎用性のあるADC1を実現できる。
【0057】
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、AD変換精度を最大にする2チャネルのADC1の構成を説明する。
【0058】
図8は第4の実施形態によるADC1の概略構成を示すブロック図である。図8のADC1は上述した第2モードでの構成を示している。図8のADC1は、2チャネルの構成を示しており、S/Hネットワーク2の具体的な構成として、2つのS/H部13を有する。また、図8のADC1は、図6と同様に、スロープ制御器11と基準信号生成器12の少なくとも一方を備えている。さらに、図8のADC1は、チャネル選択機能付きTDC5の具体的な構成として、第1TDC5aと、第2TDC5bと、出力選択ロジック部14とを有する。第1TDC5aと第2TDC5bは、図1の第2デジタル信号生成器7に対応する。また、出力選択ロジック部14は、第1デジタル信号生成器6を含んでいる。
【0059】
2チャネルのADC1で最もAD変換精度を上げられるのは、第1基準信号Vref1をフルスケール電圧FSの最低電圧(例えば0V)に設定し、第2基準信号Vref2をフルスケール電圧FSの半分の電圧FS/2に設定した状態で、第1スロープ信号SL1と第2スロープ信号SL2がともに、クロック信号CLK_SHの立ち下がりから次のクロック信号CLK_SHの立ち下がりまでの1周期をかけて、FS/2の電圧幅で電圧レベルが変化する場合である。この場合の信号波形図は、図3と同様になる。以下では、図3に基づいて図8のADC1の動作を説明する。
【0060】
S/H部13は、クロック信号CLK_SHがローからハイに遷移したタイミングで、入力信号をサンプルホールドする。第2比較器4bは、サンプルホールドした信号と第2基準信号Vref2であるFS/2を比較する。出力選択ロジック部14内の第1デジタル信号生成器6は、第2比較器4bの出力に基づいて、サンプルホールドした信号が第2基準電圧以上か否かで、デジタル信号の上位側ビット(例えばMSB)である第1デジタル信号を設定する。これは、1ビットの量子化であり、コースAD変換処理である。このように、サンプルホールドした信号の信号レベルにより、デジタル信号の上位側ビットである第1デジタル信号を設定できるとともに、第1スロープ生成器3a又は第2スロープ生成器3bが選択される。
【0061】
その後、クロック信号CLK_SHが立ち下がると、第1スロープ生成器3a又は第2スロープ生成器3bは、第1スロープ信号SL1又は第2スロープ信号SL2を生成する。図2の例では、サンプルホールドした信号の信号レベルが第2基準信号Vref2以下であるため、第1スロープ生成器3aが選択されて、第1スロープ信号SL1を生成する。第1比較器4aは、第1スロープ信号SL1が第1基準信号Vref1に一致するタイミングを検出する。第1TDC5aは、第1スロープ信号SL1の信号レベルが低下し始めた時刻t2から、第1スロープ信号SL1が第1基準信号Vref1に一致する時刻t3までの時間差を量子化し、第2デジタル信号を生成する。
【0062】
時刻t1~t6の間は、サンプルホールドした信号の信号レベルが第2基準信号Vref2以下であるため、第1スロープ生成器3a、第1比較器4a及び第1TDC5aにて、第2デジタル信号が生成される。時刻t6~t9の間は、サンプルホールドした信号の信号レベルが第2基準信号Vref2より大きいため、第2スロープ生成器3b、第2比較器4b及び第2TDC5bにて、第2デジタル信号が生成される。第1TDC5aと第2TDC5bによるAD変換処理は、ファインAD変換処理である。
【0063】
上述したように、第1比較器4aと第2比較器4bの出力により、サンプルホールドした信号が第2基準信号Vref2以下か否かを検出でき、出力選択ロジック部14内の第1デジタル信号生成器6は、第1比較器4aと第2比較器4bの出力に基づいて、デジタル信号の上位側ビット(例えばMSB)を決定できる。
【0064】
図9は第4の実施形態の第1変形例によるADC1のブロック図である。図9のADC1は、図8の出力選択ロジック部14の代わりに、エンコーダ15とTDC選択ロジック部16を備えている。
【0065】
エンコーダ15は、第1比較器4aの出力と第2比較器4bの出力をエンコードして、デジタル信号のMSB(第1デジタル信号)を生成する。TDC選択ロジック部16は、エンコーダ15のエンコード結果に基づいて、第1TDC5aの出力と第2TDC5bの出力のいずれか一方を選択して、デジタル信号の下位側ビット列(第2デジタル信号)を出力する。
【0066】
図10は第4の実施形態の第2変形例によるADC1のブロック図である。図10のADC1は、図9のADC1からエンコーダ15を省略した構成である。図10のADC1は、第2比較器4bの出力に基づいて、第1TDC5aと第2TDC5bのいずれか一方を選択して、デジタル信号の下位側ビット列(第2デジタル信号)を出力する。よって、第2比較器4bは第1デジタル信号生成器6を兼ねることになる。
【0067】
サンプルホールドした信号の信号レベルが第2基準信号Vref2を超えるときに、第2スロープ生成器3bは第2スロープ信号SL2を出力する。第2比較器4bは、第2スロープ信号SL2が第2基準信号Vref2と一致するタイミングを検出する。第2比較器4bの出力が有効か否かにより、サンプルホールドした信号、すなわち入力信号が第2基準信号Vref2を上回るか否かを判別できる。よって、TDC選択ロジック部16は、入力信号が第2基準信号Vref2以下であれば、第1TDC5aの出力を選択し、入力信号が第2基準信号Vref2を上回っていれば、第2TDC5bの出力を選択する。
【0068】
図8図10では、2チャネルのADC1の例を説明したが、3チャネル以上を用いてAD変換精度を向上させてもよい。例えば、4チャネルを用いてAD変換精度を向上させる場合、フルスケール電圧FSを四分割して、分割された4つの電圧範囲内で信号レベルが徐々に変化する4つのスロープ信号と4つの基準信号を設けて、AD変換処理を行う。これにより、1チャネルごとにAD変換を行う場合と比べて、2ビット分のS/N比の改善を実現できる。このように、本実施形態によれば、チャネル数Mに比例してS/N比を改善可能なMIMO-SSADCを実現できる。
【0069】
このように、第4の実施形態では、第1比較器4a及び第2比較器4bの少なくとも一方により、デジタル信号のMSB(第1デジタル信号)を生成できる。また、第1TDC5aの出力と第2TDC5bの出力のいずれか一方により、デジタル信号の下位側ビット(第2デジタル信号)を生成できる。
【0070】
(第5の実施形態)
図8図10のADC1は、各チャネルごとに、S/H部13、スロープ生成器3、比較器4、及びTDC5を備えているが、第5の実施形態では、S/H部13とスロープ生成器3を、各チャネルで共有するものである。
【0071】
図11は第5の実施形態によるADC1のブロック図である。図11のADC1は、2チャネルの構成を示している。S/H部13とスロープ生成器3は、2チャネルで共有される。スロープ生成器3で生成されたスロープ信号は、第1比較器4a及び第2比較器4bに入力される。スロープ生成器3は、スロープ制御器11の制御に基づいて、スロープ信号の勾配を調整する。図11のスロープ生成器3は、第1スロープ生成器3aと第2スロープ生成器3bを兼ねている。
【0072】
AD変換処理を開始する前に、第2比較器4bから、サンプルホールドした信号と第2基準信号Vref2との大小関係を示す信号が出力されると、スロープ生成器3は、第2比較器4bの出力に応じたスロープ信号を生成して、第1比較器4a又は第2比較器4bに送る。
【0073】
例えば、S/H部13でサンプルホールドした信号の信号レベルが第2基準信号Vref2以下であれば、スロープ生成器3は、サンプルホールドした信号の信号レベルから、第1基準信号Vref1以下まで信号レベルが徐々に下がるスロープ信号を生成する。このスロープ信号は、第1比較器4aに供給される。また、このスロープ信号の勾配は、スロープ制御器11により制御される。また、S/H部13でサンプルホールドした信号の信号レベルが第2基準信号Vref2より大きければ、スロープ生成器3は、サンプルホールドした信号の信号レベルから、第2基準信号Vref2以下まで信号レベルが徐々に下がるスロープ信号を生成する。このスロープ信号は、第2比較器4bに供給される。
【0074】
第1比較器4aの出力と第2比較器4bの出力は、チャネル選択機能付きTDC5に入力される。このTDC5は、図8の第1TDC5a、第2TDC5b、及び出力選択ロジック部14で構成されてもよい。あるいは、図9の第1TDC5a、第2TDC5b、エンコーダ15、及びTDC選択ロジック部16で構成されてもよい。あるいは、図10の第1TDC5a、第2TDC5b、及びTDC選択ロジック部16で構成されてもよい。
【0075】
このように、第5の実施形態では、複数チャネルを用いてAD変換精度を上げる場合に、S/H部13とスロープ生成器3を各チャネルで共有するため、ADC1の内部構成を簡略化でき、消費電力を削減できるとともに、小型化も可能になる。
【0076】
(第6の実施形態)
第6の実施形態は、上述した各実施形態で説明したS/Hネットワーク2とチャネル選択機能付きTDC5の内部構成を具体化したものである。
【0077】
図12Aは第1例によるS/Hネットワーク2のブロック図である。図12AのS/Hネットワーク2は、入出力が独立した複数のS/H部13を有する。図12Aは、二入力二出力のS/H部13を有するが、入出力数に特に制限はない。図12Aにおける複数のS/H部13は、共通のクロック信号CLK_SHに同期して、複数チャネル分の入力信号のサンプルホールドを行う。
【0078】
図12Bは第2例によるS/Hネットワーク2のブロック図である。図12BのS/Hネットワーク2は、複数の独立した入力と、共通の出力とを有する。図12Bでは、複数の入力信号を別々にサンプルホールドし、サンプルホールドした複数の信号を一つの信号に集約して出力する。
【0079】
図12Cは第3例によるS/Hネットワーク2のブロック図である。図12CのS/Hネットワーク2は、入力を一つの信号に集約するとともに、出力も一つに信号に集約している。例えば、図11のADC1は、図12CのS/Hネットワーク2で構成可能である。
【0080】
図13Aは第1例によるチャネル選択機能付きTDC5のブロック図である。図13Aのチャネル選択機能付きTDC5は、複数のTDC(例えば、第1TDC5aと第2TDC5b)と、出力選択ロジック部14とを有する。複数のTDC5a、5bは、それぞれ異なるスロープ信号と、対応する基準信号とが一致するタイミングに応じた第2デジタル信号を生成する。これにより、図13Aのチャネル選択機能付きTDC5では、精度よくAD変換処理を行うことができる。
【0081】
図13Bは第2例によるチャネル選択機能付きTDC5のブロック図である。図13Bのチャネル選択機能付きTDC5は、出力選択ロジック部14の後段にTDC5が設けられている。出力選択ロジック部14は、第1比較器4aの出力と第2比較器4bの出力のいずれか一方を選択する。選択された第1比較器4a又は第2比較器4bの出力は、TDC5に入力されて、第2デジタル信号が生成される。図13Bの構成によれば、図13AよりもTDC5の数を削減できるため、ADC1を小型化でき、消費電力も低減できる。
【0082】
このように、第1~第5の実施形態で説明したS/Hネットワーク2とチャネル選択機能付きTDC5の内部構成には、複数通りが考えられ、必要に応じて、最適な内部構成のS/Hネットワーク2とチャネル選択機能付きTDC5を選択するのが望ましい。
【0083】
(第7の実施形態)
上述した第1~第6の実施形態による発振回路1を有するADC1は、例えば、光信号の伝搬時間を用いて距離計測を行う電子装置で使用することができる。図14は電子装置20の概略構成を示すブロック図である。図14の電子装置20は、第1~第6の実施形態によるADC1を備えている。
【0084】
図14の電子装置20は、投光部21と、受光部22と、ADC1と、距離計測部24とを有する。
【0085】
投光部21は、対象物25に対して、複数チャネルの光信号を投光する。光信号は、例えば、パルス状の信号であり、投光部21は、所定の時間間隔で、複数チャネルの光信号を間歇的に投光する。対象物25は、投光部21からの複数チャネルの光信号を反射する。受光部22は、対象物25にて反射された複数チャネルの光信号を受光し、アナログの電気信号(以下、受信信号と呼ぶ)に変換する。
【0086】
複数チャネルの時間信号は、例えば第1~第6の実施形態によるADC1に入力されて、複数チャネルのデジタル信号に変換される。距離計測部24は、ADC1から出力されたデジタル信号に基づいて、対象物25までの距離を計測する。
【0087】
第1~第6の実施形態によるADC1は、高精度にAD変換処理を行うことができるため、このADC1を電子装置20で使用することにより、対象物25までの距離を精度よく計測できる。
【0088】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 アナログデジタル変換器(ADC)、2 S/Hネットワーク、3 スロープ生成器、3a 第1スロープ生成器、3b 第2スロープ生成器、4 比較器、4a 第1比較器、4b 第2比較器、5 チャネル選択機能付きTDC、5a 第1TDC、5b 第2TDC、6 第1デジタル信号生成器、7 第2デジタル信号生成器、8 SSADC、11 スロープ制御器、12 基準信号生成器、13 S/H部、14 出力選択ロジック部、15 エンコーダ、16 TDC選択ロジック部、21 投光部、22 受光部、24 距離計測部、25 対象物
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図14