(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ケーブル処理装置、ケーブル処理方法及び溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 37/02 20060101AFI20231114BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20231114BHJP
B23K 9/133 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B23K37/02 Z
B23K9/00 501B
B23K9/133 502B
B23K9/133 504Z
(21)【出願番号】P 2020208785
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】八島 聖
(72)【発明者】
【氏名】横山 孝視
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-077983(JP,U)
【文献】特開平06-091394(JP,A)
【文献】特開2020-157361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/02
B23K 9/00
B23K 9/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに沿って走行する走行体に対し直接的又は間接的に取付けられた溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置であって、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、かつ、鉛直方向に延びる回転軸によって前記走行体に支持されるケーブルガイドに設けられ、更に、前記走行体に対して回動可能に取り付けられており、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離Aは、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離Bよりも長い、ケーブル処理装置。
【請求項2】
前記ケーブル支持部は、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側における前記ケーブルの部分が、前記回転軸側に向かうように前記ケーブルを支持する、請求項1に記載のケーブル処理装置。
【請求項3】
前記ケーブルガイドは、前記ワークに当接することで、前記ガイド部材の回動範囲を規制するローラを更に備える、請求項1又は2に記載のケーブル処理装置。
【請求項4】
前記ガイド部材を有する前記ケーブルガイドが前記走行体に取付けられ、
前記ケーブルガイドは、前記走行体に対して鉛直方向に延在する第1ガイド支持部材と、前記第1ガイド支持部材に取付けられ、前記走行体に対して水平方向に延在する第2ガイド支持部材と、を更に備え、
前記ガイド部材は、前記第2ガイド支持部材に取付けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載のケーブル処理装置。
【請求項5】
前記ガイド部材は
、前記ケーブルが沿う部位の形状において、少なくとも曲線部を有
する、請求項1~4のいずれか1項に記載のケーブル処理装置。
【請求項6】
前記ガイド部材は、前記曲線部の始端と終端とを結ぶ直線の長さDに対する、前記曲線部の中心位置を通り前記直線に対して直角に引いた垂線の長さRの比であるR/Dが、0.3~0.4である、請求項5に記載のケーブル処理装置。
【請求項7】
ワークに沿って走行する走行体に対し直接的又は間接的に取付けられた溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置を用いたケーブル処理方法であって、
前記ケーブル処理装置は、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、かつ、鉛直方向に延びる回転軸によって前記走行体に支持されるケーブルガイドに設けられ、更に、前記走行体に対して回動可能に取り付けられており、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離Aが、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離Bよりも長くなるように前記ケーブルを処理する、ケーブル処理方法。
【請求項8】
前記ガイド部材は
、前記ケーブルが沿う部位の形状において、少なくとも曲線部を有
する、請求項7に記載のケーブル処理方法。
【請求項9】
ワークに沿って走行する走行体に取り付けられた可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットに接続する溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置と、を少なくとも含む溶接システムであって、
前記ケーブル処理装置は、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、かつ、鉛直方向に延びる回転軸によって前記走行体に支持されるケーブルガイドに設けられ、更に、前記走行体に対して回動可能に取り付けられており、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離Aは、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離Bよりも長い、溶接システム。
【請求項10】
前記ガイド部材は
、前記ケーブルが沿う部位の形状において、少なくとも曲線部を有
する、請求項9に記載の溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル処理装置、ケーブル処理方法及び溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
造船、鉄骨、橋梁等における溶接構造物を製造する際、工場における溶接作業は、自動化が進み、多軸の溶接ロボットが多用されている。しかし、ビル建築等の現場溶接では、多軸の溶接ロボットは適用できず、人の手で行う半自動溶接が主であった。近年、可搬型の小型ロボットや走行台車に溶接トーチを搭載した、自動機等を用いた自動溶接装置が適用されている。例えば、特許文献1には、磁石装置及び車輪を備える走行体が、該磁石装置の磁力により走行体を杭に引き寄せつつ、杭の周面を走行面として自走して溶接する溶接装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶接装置には、アークを発生させるためのパワーケーブルや、溶接ワイヤを送給するための送給ケーブル等(以降、総称して「ケーブル」とも称する。)を設置する必要がある。これらのケーブルが歪曲し、ワークや周辺機器に絡まると、滑らかな走行が阻害される。特に、送給ケーブル(以降、コンジットケーブルとも称する。)においては、溶接ワイヤの送給抵抗が増加して送給不良が発生しやすくなり、溶接欠陥が起こる原因となるおそれがある。なお、特許文献1に開示されている溶接装置は、溶接装置が杭を1周溶接した後、後退移動させて、ケーブルの巻き付きや絡まりの防止を図っているが、溶接装置が1周した時点において既にケーブルが大きく歪曲し、溶接ワイヤの送給抵抗が増加して、溶接品質を阻害する可能性があり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接作業中におけるケーブルの絡まりや、ケーブルの歪曲を少なくして、安定した走行を確保するとともに、溶接中における溶接ワイヤの送給抵抗の増加を抑制して、安定した溶接を行うことができるケーブル処理装置、ケーブル処理方法及び溶接システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明の上記目的は、ケーブル処理装置に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] ワークに沿って走行する走行体に対し直接的又は間接的に取付けられた溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置であって、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離Aは、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離Bよりも長い、ケーブル処理装置。
【0007】
また、本発明の上記目的は、ケーブル処理方法に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] ワークに沿って走行する走行体に対し直接的又は間接的に取付けられた溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置を用いたケーブル処理方法であって、
前記ケーブル処理装置は、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離よりも長くなるように前記ケーブルを処理する、ケーブル処理方法。
【0008】
また、本発明の上記目的は、溶接システムに係る下記[3]の構成により達成される。
[3] ワークに沿って走行する走行体に取り付けられた可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットに接続する溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置と、を少なくとも含む溶接システムであって、
前記ケーブル処理装置は、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離は、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離よりも長い、溶接システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶接作業中におけるケーブルの絡まりや、ケーブルの歪曲を少なくして、安定した走行を確保するとともに、溶接中における溶接ワイヤの送給抵抗の増加を抑制して、安定した溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るケーブル処理装置が、ガイドレールに案内されて移動する可搬型溶接ロボットに取り付けられた状態を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係るケーブルガイドの斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係るケーブルガイドの側面図である。
【
図6】
図6は、ケーブルガイドによりケーブルが案内される状態を示す
図1の上面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態の変形例に係るケーブルガイドの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る可搬型溶接ロボット及びケーブル処理装置につき図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態では、可搬型溶接ロボット及びケーブル処理装置を合わせて溶接システムというものとするが、可搬型溶接ロボットとケーブル処理装置を少なくとも含む構成であればよく、他に溶接電源や各種センサなどを含み、一つの溶接システムとしてもよい。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るケーブル処理装置が、ガイドレールに案内されて移動する可搬型溶接ロボットに取り付けられた状態を示す斜視図である。また、
図2は、
図1の側面図であり、
図3は、
図2の要部拡大図である。
【0013】
<可搬型溶接ロボットの構成>
以下の説明では、ガイドレール上を移動しながら自動で溶接を行う、可搬型溶接ロボットに接続されたケーブルを処理するケーブル処理装置を例に説明する。ただし、本発明で対象とするケーブルは、移動可能な装置に接続されたものであればよく、可搬型溶接ロボットに限定されない。
【0014】
まず、ケーブル処理装置が取り付けられる可搬型溶接ロボットについて概略説明する。
図1~
図3に示すように、可搬型溶接ロボット100は、ガイドレール120と、ガイドレール120上に設置され、該ガイドレール120に沿って移動する走行体12と、走行体12に固定されたロボット本体110と、ロボット本体110に載置された溶接トーチ200と、を備える。
【0015】
ガイドレール120は、ワークWoである多角形角型鋼管に対し、鋼管外面を周方向に沿って一周するように取付け部材140を介して取り付けられている。
図3に示すように、走行体12である台車は、一対のガイドローラ13によりガイドレール120を幅方向、具体的には
図2における上下方向で挟持して取りけられており、ガイドレール120に案内されて該ガイドレール120に沿って走行可能である。なお、走行体12は本実施形態のガイドレール120上を走行することに限定されず、例えば、走行体12の車輪を磁石等の吸着材料にして、直接ワークWoに吸着し、走行させてもよい。
【0016】
ロボット本体110は、走行体12に固定される筐体部112と、この筐体部112に取り付けられた固定アーム部114と、この固定アーム部114に回転可能な状態で取り付けられた可動アーム部116と、から構成される。
【0017】
溶接トーチ200は、溶接トーチ200を溶接線方向に可動する可動部であるクランク170を介して、可動アーム部116に取り付けられることで、走行体12に対し間接的に取り付けられている。なお、本実施形態において、溶接トーチ200は走行体12に対し間接的に取り付けられているが、走行体12に対し直接的に取り付けられているものであってもよい。
溶接トーチ200には、溶接ワイヤを送給するための不図示の送給装置と溶接トーチ200とを繋ぐ、コンジットケーブル420が接続されている。また、筐体部112には、可搬型溶接ロボット100を制御するための不図示の制御装置と筐体部112とを繋ぐ、制御ケーブル421が接続されている。
【0018】
そして、筐体部112は、ロボット本体110がガイドレール120に沿って移動する方向、具体的には
図2における紙面に対して垂直方向に走行可能である。さらに筐体部112は、開先Wpの深さ方向、具体的には
図2における左右方向、及び開先Wpの幅方向、具体的には
図2における上下方向に、移動可能である。
【0019】
さらに、可動アーム部116は、固定アーム部114に対して回転可能に取り付けられており、最適な角度に調整して固定することができる。また、溶接トーチ200は、クランク170が回動することにより、溶接線方向に首振り駆動可能である。
【0020】
以上のように、ロボット本体110は、溶接トーチ200を3つの自由度で駆動可能であり、溶接トーチ200の先端部は、任意の方向に向けることができる。このため、例えば溶接トーチ200は、ウィービング溶接を行うことができる。また、溶接トーチ200を傾けることで、溶接トーチ200に前進角又は後退角を設定することができる。
【0021】
<ケーブル処理装置の構成>
次に、本実施形態の要部に係るケーブル処理装置10について詳述する。
図1~
図3に示すように、ケーブル処理装置10は、溶接トーチ200から延びるコンジットケーブル420や、筐体部112から延びる制御ケーブル421などの複数のケーブルを、適切に処理して、ケーブルの絡まりや歪曲を抑制する。
【0022】
具体的には、ケーブル処理装置10により、溶接作業中におけるコンジットケーブル420又は制御ケーブル421の絡まりや、歪曲を抑制することで、ケーブル420、421の剛性により、可搬型溶接ロボット100や溶接トーチ200に作用する引張力を最小限に抑え、可搬型溶接ロボット100を駆動するステッピングモータの脱調を防止して、可搬型溶接ロボット100の安定した走行を確保する。特に、コンジットケーブル420を適切に処理してコンジットケーブル420の絡まりや、歪曲を抑制することで、溶接ワイヤの送給抵抗の増大を抑制して、安定した溶接を作業効率よく行うことができる。
【0023】
本実施形態においてケーブル処理装置10は、走行体12に対し直接的又は間接的に取付けられたケーブル支持部11と、走行体12に対し直接的又は間接的に取付けられたケーブルガイド20とを備える。
【0024】
ケーブル支持部11は、走行体12に取付けられ、溶接トーチ200から延びるコンジットケーブル420を、ケーブル支持部11に対して溶接トーチ200を配置している側とは反対側へ、後述する回転軸24側に向かうように支持する。これにより、コンジットケーブル420の絡まりが生じないように、コンジットケーブル420を安定して支持できる。なお。ケーブル支持部11は、単一であっても複数であってもよい。
【0025】
図4及び
図5に示すように、ケーブルガイド20は、走行体12に対し鉛直方向に延在する第1ガイド支持部材21と、第1ガイド支持部材21に取付けられ、走行体12に対し水平方向に延在する第2ガイド支持部材22と、第2ガイド支持部材22に取付けられ、走行体12に対し更に水平方向に延在するガイド部材23と、を備える。なお、
図4及び
図5に示すようにガイド部材23は、第1ガイド支持部材21及び第2ガイド支持部材22を介することで、走行体12に対し間接的に取り付けられている構成が好ましいが、走行体12に対し直接的に取り付けられるものであってもよいし、第1ガイド支持部材21又は第2ガイド支持部材22の他に、ガイド支持部材を加えてもよい。
【0026】
また、ケーブルガイド20は、第1ガイド支持部材21から鉛直方向下方に延在する回転軸24を備え、走行体12に設けられた不図示の支持孔に嵌合することで、ケーブルガイド20が走行体12に対して水平方向に回動可能に取り付けられている。すなわち、ガイド部材23は、走行体12に対して水平方向に回動可能である。
なお、本実施形態において、上記した第2ガイド支持部材22は、第1ガイド支持部材21に対して固定した状態で取り付けられているが、走行体12に対してガイド部材23を回動させるために、第2ガイド支持部材22を第1ガイド支持部材21に対して回動可能な状態で取り付けられるものであってもよい。
【0027】
ガイド部材23は、その上面にコンジットケーブル420や制御ケーブル421を1本に纏めた状態で載置して案内するものであり、ケーブル420、421が沿う部位であるケーブル載置面の形状は、少なくとも曲線部25を有するものとして形成されている。なお、
図4や
図5に示す例では、上方に凸となる山形形状を有している。このように、ケーブル420、421が沿う部位の形状において少なくとも曲線部25を有することで、ケーブル420、421に過度な負荷をかけることなく自然な状態で保持できる。
【0028】
また、
図5に示すように、曲線部25は、曲線部25の始端SPと終端EPとを結ぶ直線Lの長さDと、曲線部25の中心位置を通り直線Lに対して直角に引いた垂線VLの長さRとの比R/Dが、0.3~0.4となっている。上記比R/Dが、0.3~0.4であることにより、ケーブル420、421に過度な負荷をかけることなく安定して保持できる。
【0029】
コンジットケーブル420や制御ケーブル421を1本に纏めることで、ケーブル同士が絡まり難くなり、また、ケーブル420、421を曲線部25に載置することで、剛性のあるコンジットケーブル420に無理な負荷をかけることなく、自然な姿勢で案内できる。これにより、溶接ワイヤの送給抵抗の増大を抑制できる。また、曲線部25の上面には、ケーブル420、421を保持するための保持部25bが複数設けられている。
【0030】
さらに、第2ガイド支持部材22には、第2ガイド支持部材22の延在方向と直交する方向にローラ支持部材26が固定されている。ローラ支持部材26の両端には、ワークWoに当接することで、ガイド部材23の回動範囲を規制する一対のローラ27が配設されている。
【0031】
ガイド部材23は、ガイド部材23に案内されて自由端部25aから垂下されたケーブル420、421が、溶接トーチ200とケーブル支持部11との間におけるケーブル420、421の部分と干渉しないように、垂下するケーブル420、421を案内する。具体的には、
図2に示すように、ケーブル処理装置10を上方から見て、ガイド部材23の自由端部25aと走行体12との間の距離Aは、溶接トーチ200とケーブル支持部11との間で走行体12から最も離れたコンジットケーブル420の部分と、走行体12との間の距離Bよりも長くなるように、ガイド部材23が、自由端部25aから垂下するケーブル420、421を案内する。
【0032】
なお、距離A、Bを決定する際には、本実施形態では
図2に示すように、走行体12におけるロボット本体110との設置面を、距離A、Bのそれぞれを決定する際の「走行体12」の基準位置としている。しかし、距離A、Bのそれぞれを決定する際の「走行体12」の基準位置が同一であれば、必ずしも上記設置面を基準位置とする必要はなく、例えば、ケーブル処理装置10を上方から見た場合における、走行体12の中心位置やガイドレール120との設置面を基準位置とするものであってもよい。
【0033】
また、自由端部25aから垂下されたケーブル420、421が、溶接トーチ200とケーブル支持部11との間におけるケーブル420、421の部分と確実に干渉しないようにするためには、上記距離A、Bを決定する際において、「ガイド部材23の自由端部25a」の基準位置は、自由端部25aにおける最も走行体12に近い位置を採用することが好ましく、「溶接トーチ200とケーブル支持部11との間で走行体12から最も離れたコンジットケーブル420の部分」の基準位置は、上記コンジットケーブル420の部分における最も走行体12から遠い位置を採用することが好ましい。
【0034】
ガイド部材23の自由端部25aから垂下するコンジットケーブル420の他端は、不図示の送給装置に接続されている。また、ガイド部材23の自由端部25aから垂下する制御ケーブル421の他端は、不図示の制御装置に接続されている。
なお、コンジットケーブル420や制御ケーブル421は、比較的重量が大きいため、基本的にはガイド部材23の自由端部25aから鉛直下向きに垂下する。
コンジットケーブル420の長さは、可搬型溶接ロボット100の移動を許容するため、ガイド部材23の自由端部25aと送給装置との間において、余裕分の長さが設けられている。また、制御ケーブル421の長さは、可搬型溶接ロボット100の移動を許容するため、ガイド部材23の自由端部25aと制御装置との間において、余裕分の長さが設けられている。
【0035】
ケーブル420、421の余裕分の長さは、床面上に湾曲した状態で置かれている。そして、走行体12、言い換えれば可搬型溶接ロボット100がガイドレール120に沿って走行すると、ケーブル420、421は、床面上における余裕分の長さから無理なく引き出されるため、ケーブル420、421に過大な力がかかることがない。なお、送給抵抗の増大や絡み防止のためには、コンジットケーブル420を床面から少し浮かせた状態で配置することが好ましい。
【0036】
<ケーブル処理装置の作用>
次に、
図6を参照してケーブル処理装置10の作用について説明する。可搬型溶接ロボット100が、
図6に破線で示す位置から実線で示す位置に移動すると仮定する。ケーブル420、421は、可搬型溶接ロボット100の移動距離に応じて不足分又は余り分の長さが、上記で説明した床面上の余裕分の長さから引き出され、又は余裕分の長さとして戻される。なお、
図6においては、不足分の長さが、床面上の余裕分の長さから引き出された状態を示している。
【0037】
この不足分の長さを引き出すため、ケーブル420、421に引張力が作用すると、この引張力によりケーブルガイド20が回転軸24を中心として回動する。すなわち、ケーブルガイド20のガイド部材23は、図中破線で示すように、ワークWoにおけるガイド部材23が対向する面に直交する状態から反時計方向に回転して、図中実線で示すように、ワークWoにおけるガイド部材23が対向する面に平行な状態となる。これにより、ケーブル420、421の絡まりや歪曲などが防止されて、走行体12の正常な走行が維持される。また、ケーブル420、421に作用する応力が緩和される。
【0038】
特に、コンジットケーブル420においては、溶接ワイヤの送給抵抗の変化が抑制されて、送給不良に起因する溶接欠陥を防止できる。また、コンジットケーブル420は、ケーブル支持部11に対して溶接トーチ200を配置している側とは反対側でケーブル支持部11により支持されているので、コンジットケーブル420に作用する応力が溶接トーチ200に影響することがなく、溶接トーチ200の位置、すなわち、ワイヤ先端の狙い位置が溶接中にずれることを防止できるため、安定した溶接を維持することができる。
【0039】
また、回転軸24を中心としてケーブルガイド20が回動する際、ケーブルガイド20が制限なく回動可能であると、ケーブル420、421がワークWoに巻き付くおそれがある。本実施形態のケーブル処理装置10は、ケーブル420、421に作用する引張力によってケーブルガイド20が回転すると、ローラ支持部材26の両端に固定された一対のローラ27がワークWoに当接することにより、ケーブルガイド20の回転範囲が略180°以内に規制され、ケーブルガイド20の過度の回転が防止される。その結果、ケーブル420、421の絡まりや歪曲を抑制することができる。更には、コンジットケーブル420の送給抵抗の変化が抑制される効果や、溶接トーチ200の位置、すなわちワイヤ先端の狙い位置が溶接中にずれることも防止できる効果も有し、安定した溶接を維持することができる。
【0040】
<ケーブルガイドの変形例>
図7は、本実施形態の変形例に係るケーブルガイドの側面図である。本変形例のケーブルガイド20は、ガイド部材23の曲線部25が円弧によって形成されている。これにより、ケーブル420、421は、曲線部25の円弧に沿って自然な湾曲状態で載置されるため、ケーブル420、421に作用する応力を小さくできる。その他の部分は、
図6に示すケーブルガイド20と同様であるので、同一部分には同一符号、または相当符号を付して説明を省略する。
【0041】
以上、本実施形態に係る可搬型溶接ロボット及びケーブル処理装置について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
例えば、ケーブル処理装置10は、可搬型溶接ロボット100から延びるケーブル420に限定されず、走行する任意の装置に接続されたケーブル420を処理するケーブル処理装置10にも同様に適用可能である。
また、上記実施形態では、走行体12として、ワークWoである多角形角型鋼管に取り付けられたガイドレール120上を走行する台車としての構成であったが、特許文献1に記載のような、磁石装置及び車輪を備え、ワークWoである多角形角型鋼管の表面を走行する台車のような構成であってもよい。
【0042】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) ワークに沿って走行する走行体に対し直接的又は間接的に取付けられた溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置であって、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離Aは、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離Bよりも長い、ケーブル処理装置。
この構成によれば、ケーブルの絡まりや歪曲を抑制して安定した溶接を行うことができる。
【0043】
(2) 前記ガイド部材は、鉛直方向に延びる回転軸によって前記走行体に支持されるケーブルガイドに設けられ、前記ガイド部材は、前記走行体に対して回動可能に取り付けられている、(1)に記載のケーブル処理装置。
この構成によれば、ケーブルの絡まりや歪曲を抑制できる。
【0044】
(3) 前記ケーブル支持部は、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側における前記ケーブルの部分が、前記回転軸側に向かうように前記ケーブルを支持する、(2)に記載のケーブル処理装置。
この構成によれば、ケーブルの絡まりが生じないように、ケーブルを安定して支持できる。
【0045】
(4) 前記ケーブルガイドは、前記ワークに当接することで、前記ガイド部材の回動範囲を規制するローラを更に備える、(2)又は(3)に記載のケーブル処理装置。
この構成によれば、ケーブルガイドの過度の回転を防止することで、ケーブルの絡まりや歪曲を抑制できる。
【0046】
(5) 前記ガイド部材は、前記ケーブルが沿う部位の形状において、少なくとも曲線部を有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載のケーブル処理装置。
この構成によれば、ケーブルに過度な負荷をかけることなく自然な状態で保持できる。
【0047】
(6) 前記ガイド部材は、前記曲線部の始端と終端とを結ぶ直線の長さDに対する、前記曲線部の中心位置を通り前記直線に対して直角に引いた垂線の長さRの比であるR/Dが、0.3~0.4である、(5)に記載のケーブル処理装置。
この構成によれば、ケーブルに過度な負荷をかけることなく安定して保持できる。
【0048】
(7) 前記ガイド部材を有する前記ケーブルガイドが前記走行体に取付けられ、
前記ケーブルガイドは、前記走行体に対して鉛直方向に延在する第1ガイド支持部材と、前記第1ガイド支持部材に取付けられ、前記走行体に対して水平方向に延在する第2ガイド支持部材と、を更に備え、
前記ガイド部材は、前記第2ガイド支持部材に取付けられる、(2)~(4)のいずれか1つに記載のケーブル処理装置。
この構成によれば、ガイド部材から垂下するケーブルを、溶接トーチから延びるケーブルから離間させて安定して保持できる。
【0049】
(8) ワークに沿って走行する走行体に対し直接的又は間接的に取付けられた溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置を用いたケーブル処理方法であって、
前記ケーブル処理装置は、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離よりも長くなるように前記ケーブルを処理する、ケーブル処理方法。
この構成によれば、ケーブルの絡まりや歪曲を抑制して安定した溶接を行うことができる。
【0050】
(9) ワークに沿って走行する走行体に取り付けられた可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットに接続する溶接トーチから延びるケーブルを処理するケーブル処理装置と、を少なくとも含む溶接システムであって、
前記ケーブル処理装置は、
前記走行体と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記溶接トーチから延びるケーブルを支持する単一又は複数のケーブル支持部と、
前記走行体に対し直接的又は間接的に取付けられ、前記ケーブル支持部に対して前記溶接トーチを配置している側と反対側の前記ケーブルを案内するガイド部材と、
を備え、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材に案内されて垂下された前記ケーブルの部分が、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記ケーブルの部分と干渉しないように前記ケーブルを案内し、
上方から見て、前記ガイド部材の自由端部と前記走行体との間の距離は、前記溶接トーチと前記ケーブル支持部との間における前記走行体から最も離れたケーブルの部分と、前記走行体との間の距離よりも長い、溶接システム。
この構成によれば、可搬型溶接ロボットのケーブルを絡まりや歪曲することなく処理して安定して溶接できる。
【符号の説明】
【0051】
10 ケーブル処理装置
11 ケーブル支持部
12 走行体
20 ケーブルガイド
21 第1ガイド支持部材
22 第2ガイド支持部材
23 ガイド部材
24 回転軸
25 曲線部
25a 自由端部
27 ローラ
100 可搬型溶接ロボット
120 ガイドレール
200 溶接トーチ
420 コンジットケーブル(ケーブル)
A ケーブル処理装置を上方から見た場合の、ガイド部材の自由端部と走行体との間の距離
B ケーブル処理装置を上方から見た場合の、溶接トーチとケーブル支持部との間における走行体から最も離れたケーブルの部分と、走行体との間の距離
D ガイド部材の始端と終端とを結ぶ直線の長さ
EP 終端
L ガイド部材の始端と終端とを結ぶ直線
R 垂線の長さ
SP 始端
VL 垂線
Wo ワーク