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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】CAS9変異体及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20231114BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20231114BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231114BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231114BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231114BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231114BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/31
C12N15/09 110
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020532651
(86)(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 US2018064955
(87)【国際公開番号】W WO2019118463
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】62/599,176
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509240479
【氏名又は名称】ダニスコ・ユーエス・インク
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(72)【発明者】
【氏名】フリッシュ、ライアン エル
(72)【発明者】
【氏名】フ、ホンシャン
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/093969(WO,A1)
【文献】SPENCER, Jeffrey M. and ZHANG, Xiaoliu,Scientific Reports,2017年12月04日,Vol.7, 16836,pp. 1-14,DOI: 10.1038/s41598-017-17081-y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12P 1/00- 1/41
C12Q 1/00- 3/00
A61K 38/00-51/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載の親Cas9ポリペプチドと少なくとも90%のアミノ酸同一性を有し、且つ86位、98位、155位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片であって、前記変異体のアミノ酸位置は、前記親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされ、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はエンドヌクレアーゼ活性を有するとともに、前記少なくとも1つのアミノ酸置換はF86A(86位において)及びF98A(98位において)であり、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、バチルス属の微生物での改善された形質転換効率及び改善された編集効率からなる群から選択される少なくとも1つの改善された特性を有する、
Cas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片。
【請求項2】
前記変異体は、配列番号1の前記アミノ酸配列に対し90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片。
【請求項3】
前記特性の改善はバチルス属の微生物での形質転換効率の改善であり、且つ、前記変異体又はその活性断片はバチルス属の微生物での編集効率の改善も有する、請求項1に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体。
【請求項4】
前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のアミノ酸置換を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCas9エンドヌクレアーゼ又はその機能的断片を含む組成物。
【請求項6】
前記組成物は、ガイドポリヌクレオチド/Cas9エンドヌクレアーゼ複合体、ガイドRNA/Cas9エンドヌクレアーゼ複合体、及び前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体を含む融合タンパク質からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項8】
少なくとも1つのガイドポリヌクレオチドと、少なくとも1つの請求項1~4のいずれか一項に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体とを含むガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体(PGEN)であって、前記ガイドポリヌクレオチドは天然に存在しないキメラガイドポリヌクレオチドであり、前記ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、ニッキング、ほどき、又は切断を行うことができるガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体(PGEN)。
【請求項9】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを含む組み換えDNAコンストラクト。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCas9エンドヌクレアーゼ又はその機能的断片を含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項12】
前記細胞は原核細胞又は真核細胞である、請求項11に記載の宿主細胞。
【請求項13】
前記細胞は、ヒト、非ヒト、動物、細菌、真菌、昆虫、酵母、非従来型酵母及び植物細胞からなる群から選択される、請求項12に記載の宿主細胞。
【請求項14】
バチルス属細胞のゲノム中の標的部位を改変する方法であって、少なくとも1つの請求項8に記載のPGENをバチルス属細胞に導入すること、及び前記標的に改変を有する少なくとも1つのバチルス属細胞を同定することを含み、前記標的部位の改変は、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、及び(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせからなる群から選択される方法。
【請求項15】
バチルス属細胞のゲノム中のヌクレオチド配列を編集する方法であって、少なくとも1つの請求項8に記載のPGEN、及びポリヌクレオチド改変テンプレートに導入することを含み、前記ポリヌクレオチド改変テンプレートは前記ヌクレオチド配列の少なくとも1つのヌクレオチド改変を含む方法。
【請求項16】
前記編集されたヌクレオチド配列を含む少なくとも1つのバチルス属細胞を選択することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
バチルス属細胞のゲノム中の標的部位を改変する方法であって、少なくとも1つの請求項8に記載のPGEN、及び少なくとも1つのドナーDNAをバチルス属細胞に導入することを含み、前記ドナーDNAは目的ポリヌクレオチドを含む方法。
【請求項18】
前記標的部位又は前記標的部位の近傍に前記目的ポリヌクレオチドが組み込まれた少なくとも1つのバチルス属細胞を同定することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記PGENは、予め組み立てられたポリヌクレオチド-タンパク質複合体として前記バチルス属細胞に導入される、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ガイドポリヌクレオチド/CasエンドヌクレアーゼはガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼである、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、リボヌクレオチド-タンパク質複合体として前記バチルス属細胞に導入される前に、インビトロで組み立てられる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
バチルス属(Bacillus)宿主細胞のゲノムを改変する方法であって、
改変されるべき少なくとも1つの標的配列を含むバチルス属(Bacillus)宿主細胞に、少なくとも1つの非天然ガイドRNA、及び少なくとも1つの請求項1~4のいずれか一項に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を提供すること(ここで、前記ガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は複合体(PGEN)を形成することができ、前記複合体は前記少なくとも1つの標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、ニッキング、ほどき、又は切断を行うことができる)、並びに
少なくとも1つのバチルス属(Bacillus)宿主細胞を同定すること(ここで、前記少なくとも1つのゲノム標的配列は改変されている)
を含む方法。
【請求項23】
前記標的配列の改変は、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、及び(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記バチルス属(Bacillus)宿主細胞は、バチルス・アルカロフィルス(Bacillus alkalophilus)、バチルス・アルティチュジニス(Bacillus altitudinis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、B.アミロリケファシエンス亜種プランタラム(B.amyloliquefaciens subsp.plantarum)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・サークランス(Bacillus circulans)、バチルス・クラウシー(Bacillus clausii)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・フィルムス(Bacillus firmus)、バチルス・ラウツス(Bacillus lautus)、バチルス・レンツス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチスル・メチロトロフィカス(Bacillus methylotrophicus)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・サフェンシス(Bacillus safensis)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillu
s stearothermophilus)、バチルス・サブティルス(Bacillus subtilis)、及びバチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)からなるバチルス属(Bacillus)種の群から選択される、請求項22または23に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2017年12月15日出願の米国仮特許出願第62/599,176号の利益を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は分子生物学の分野に関し、特に、細胞のゲノムを改変するためのガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステムの組成物、並びにその組成物及びその方法に関する。
【0003】
電子的に提出された配列表の参照
配列表の正式な写しは、2018年11月29日作成の20181129_NB41317PCT_ST25.txtのファイル名を備え、476キロバイトのサイズを有するASCIIフォーマットの配列表としてEFS-Webを介して電子的に提出され、本明細書と同時に提出されている。このASCIIフォーマット文献に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
組み換えDNA技術により、標的ゲノム位置にDNA配列を挿入すること、及び/又は特定の内因性染色体配列を改変することが可能になった。部位特異的組み換えシステムを使用する部位特異的組み込み技術は、他の組み換え技術と同様、様々な生命体における目的遺伝子の標的挿入の生成に使用されてきた。Casシステムの部位特異的性質を前提して、例えば、哺乳動物細胞中での、このシステムに基づくゲノム改変/操作技術が説明されている(例えば、Hsu et al.,2014を参照されたい)。Casベースのゲノム操作は、意図したとおりに機能する場合、crRNAのDNAターゲティング領域(すなわち、可変ターゲティングドメイン)がゲノム中の所望の標的部位に対して相同である組み換えcrRNA(又は同等に機能するガイドポリヌクレオチド)を設計し、この組み換えcrRNAとCasエンドヌクレアーゼとを宿主細胞中で(任意の好都合な従来の手段によって)機能的複合体へと組み合わせることにより、複雑なゲノム内の任意の特定の位置を事実上標的とする能力を付与する。
【0005】
Casベースのゲノム操作技術は多くの様々な宿主細胞種に適用されてきたが、これらの技術には限界があることが知られている。例えば、特定の宿主細胞(例えば、バチルス(Bacillus)種が挙げられるが、これに限定されない)を形質転換する効率は低く、費用もかかるままである。
【0006】
したがって、原核細胞又は真核細胞のゲノム標的部位を変更/改変するための、より効果的で、効率がよく、或いは、より強力であるか、又は柔軟性に富むCasベースのゲノム改変方法、及びその組成物を開発することが依然要望されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
変異体(多様体)Casシステム及びそのようなシステムを含むエレメント、例えば、以下に限定されないが、Casエンドヌクレアーゼ変異体、ガイドポリヌクレオチド、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体、ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼシステム、特に、そのHNH及びRuvCドメインの外側に位置する少なくとも1つのアミノ酸改変を含むCas9エンドヌクレアーゼ変異体のための組成物及び方法、並びに、場合により、そのCas9エンドヌクレアーゼ変異体が、少なくとも1つのアミノ酸改変を有さないその親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、少なくとも1つの特性が改善されている組成物及び方法が提供される。
【0008】
Cas9エンドヌクレアーゼ変異体、ガイドポリヌクレオチド、並びに少なくとも1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体及び少なくとも1つのガイドRNAを含むガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステムを直接送達するための組成物及び方法も、原核細胞又は真核細胞のゲノムにおける標的配列のゲノム改変、遺伝子の編集、及び生命体のゲノムへ又は生命体のゲノムから目的ポリヌクレオチドを挿入又は欠失させるための組成物及び方法もまた提供される。
【0009】
本開示の一実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、配列番号2に記載の親Cas9ポリペプチドと少なくとも80%のアミノ酸同一性を有し、且つ86位、98位、155位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片である(ここで、変異体のアミノ酸位置は、前記親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされ、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はエンドヌクレアーゼ活性を有する)。前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、Y155H、Y155N、Y155E、Y155F(155位において)、F86A(86位において)及びF98A(98位において)からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有し得る。Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、その親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の改善及び編集効率の改善からなる群から選択される少なくとも1つの特性の改善を有し得る。Cas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片は、その親Cas9エンドヌクレアーゼと比較した場合、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のアミノ酸置換を有し得る。
【0010】
本開示の一実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体、又はその活性断片であり、前記変異体は配列番号2のアミノ酸配列に対し75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0011】
本開示の一実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体であり、その特性の改善は形質転換効率の改善であり、前記変異体又はその活性断片はまた編集効率の改善を有する。
【0012】
本開示の一実施形態では、組成物は、本明細書に開示されるCas9エンドヌクレアーゼ変異体、又はその機能的断片を含む組成物である。組成物は、ガイドポリヌクレオチド/Cas9エンドヌクレアーゼ複合体、ガイドRNA/Cas9エンドヌクレアーゼ複合体、及び前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体を含む融合タンパク質からなる群から選択することができる。
【0013】
本開示の一実施形態では、ポリヌクレオチドは、本明細書に開示される任意の1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドである。
【0014】
本開示の一実施形態では、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体(PGEN)は、少なくとも1つのガイドポリヌクレオチドと本明細書に記載の少なくとも1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体とを含むPGENであり、ここで、前記ガイドポリヌクレオチドは天然に存在しないキメラガイドポリヌクレオチドであり、前記ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合によりニッキング、ほどき、又は切断を行うことができる。
【0015】
本開示の1つの実施形態では、方法は、細胞のゲノム中の標的部位を改変する方法であって、少なくとも1つのガイドポリヌクレオチドと本明細書に記載の少なくとも1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体とを含む少なくとも1つのPGENを細胞に導入すること、及び前記標的に改変を有する少なくとも1つの細胞を同定することを含み、前記標的部位の改変は、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、及び(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせからなる群から選択される方法を含む。
【0016】
本開示の一実施形態では、方法は、細胞のゲノム中のヌクレオチド配列を編集する方法であって、少なくとも1つのガイドポリヌクレオチドと本明細書に記載の少なくとも1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体とを含む少なくとも1つのPGEN、及びポリヌクレオチド改変テンプレートに導入することを含み、前記ポリヌクレオチド改変テンプレートは前記ヌクレオチド配列の少なくとも1つのヌクレオチド改変を含む方法を含む。
【0017】
本開示の一実施形態では、方法は、細胞のゲノム中の標的部位を改変する方法であって、少なくとも1つのガイドポリヌクレオチドと本明細書に記載の少なくとも1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体とを含む少なくとも1つのPGEN、及び少なくとも1つのドナーDNAを細胞に導入することを含み、前記ドナーDNAは目的ポリヌクレオチドを含む方法を含む。
【0018】
本開示の一実施形態では、方法は、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体の少なくとも1つの特性を改善する方法であって、親Cas9エンドヌクレアーゼに少なくとも1つのアミノ酸改変を導入し(ここで、前記少なくとも1つのアミノ酸改変は親Cas9エンドヌクレアーゼのRuvC及びHNHドメインの外側に位置する)、それによって、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体を作製する(ここで、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して少なくとも1つの特性の改善を示す)ことを含む方法を含む。少なくとも1つのアミノ酸改変は、86位、98位、155位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置でのアミノ酸置換であり得る(ここで、変異体のアミノ酸位置は前記親Cas9エンドヌクレアーゼのアミノ酸配列と対応させて番号付けされる)。少なくとも1つのアミノ酸置換は、Y155H、Y155N、Y155E、Y155F(155位において)、F86A(86位において)及びF98A(98位において)からなる群から選択され得る。
【0019】
また、本明細書に記載の方法によって作製される、改変標的配列を有するか、又は原核細胞及び真核細胞のゲノム中のヌクレオチド配列に改変を有する、発現カセット、組み換えDNA、核酸コンストラクト、原核細胞及び真核細胞も提供される。本開示の方法及び組成物のさらなる実施形態を本明細書で示す。
【0020】
図面及び配列表の簡単な説明
本開示は、本願の一部を形成する下記の詳細な説明並びに本明細書に付随する図面及び配列表から、より十分に理解することができよう。配列の記載及び本明細書に添付した配列表は、37C.F.R.§§1.821-1.825に規定されている特許出願におけるヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の開示に適用される規則に適合している。配列の記載は、37C.F.R.§§1.821-1.825(これは参照により本明細書に組み込まれる)で定義されるアミノ酸の3文字コードを含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、Cas9ポリペプチド及びそのCas9タンパク質ドメインの概略図を示す。黒塗りはRuvCヌクレアーゼドメインを示し、クロスハッチはブリッジヘリックスを示し、斜線塗りはREC Iドメインを示し、中間の灰色塗りはREC IIドメインを示し、薄い灰色塗りはHNHヌクレアーゼドメインを示し、ボール塗りはPAM認識ドメインを示す。(出典Jinek M.,Jiang F.,Taylor D.W.et al.2014,Science 343,1247997)。本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体のY155改変は、REC1ドメインに位置する。
図2図2は、Cas9エンドヌクレアーゼの一次アミノ酸構造上にマッピングされたドメイン構造を示す。本明細書に記載のCas9 Y155エンドヌクレアーゼ変異体のY155改変の位置(REC1ドメイン中)を矢印で示す。
図3図3は、Cas9エンドヌクレアーゼの一次アミノ酸構造上にマッピングされたドメイン構造を示す。本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼF86-F98変異体のF86及びF98改変の位置を矢印で示す。
【0022】
下記の配列は、37 C.F.R.§§1.821-1.825(「ヌクレオチド配列及び/又はアミノ酸配列の開示を含有する特許出願のための要件-配列規則」)に適合しており、世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization)(WIPO)標準ST.25(2009)、欧州特許条約(EPC)の配列表要件、並びに特許協力条約(PCT)規則5.2及び49.5(a-bis)、実施細則第208号及び実施細則附属書Cと一致している。ヌクレオチド及びアミノ酸配列データのために使用した記号及びフォーマットは、37 C.F.R.§1.822に規定された規則に従っている。
【0023】
配列番号1は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9のアミノ酸配列を示す。
【0024】
配列番号2は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9の野生型Cas9タンパク質をコードする、バチルス属(Bacillus)にコドンを最適化したCas9遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0025】
配列番号3は、N末端NLSのアミノ酸配列を示す。
【0026】
配列番号4は、C末端NLSのアミノ酸配列を示す。
【0027】
配列番号5は、デカ-ヒスチジンタグのアミノ酸配列を示す。
【0028】
配列番号6は、6 aprEプロモーターのヌクレオチド配列を示す。
【0029】
配列番号7は、ターミネーターのヌクレオチド配列を示す。
【0030】
配列番号8~9、12~13、38~39、41~42、50~51、54~55、59~60、67~68、71~72、79~80、88~89、91~92、111~112、119~120、138~139、145~146、151~152、156~157は、プライマーのヌクレオチド配列を示す。
【0031】
配列番号10は、pKB320骨格のヌクレオチド配列を示す。
【0032】
配列番号11は、pKB320のヌクレオチド配列を示す。
【0033】
配列番号14は、プラスミドRSP1のヌクレオチド配列を示す。
【0034】
配列番号15は、プラスミドRSP2のヌクレオチド配列を示す。
【0035】
配列番号16~27は、それぞれプラスミドFSP1、FSP2、FSP3、FSP4、FSP5、FSP6、FSP7、RSP3、FSP8、pRF694、pRF801及びpRF806のヌクレオチド配列を示す。
【0036】
配列番号28は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)の標的部位1のヌクレオチド配列を示す。
【0037】
配列番号29は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)の標的部位1のヌクレオチド配列を示す。
【0038】
配列番号30は、serA1オープンリーディングフレームのヌクレオチド配列を示す。
【0039】
配列番号31は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)の標的部位1+PAMのヌクレオチド配列を示す。
【0040】
配列番号32は、可変ターゲティングドメイン1をコードするDNAのヌクレオチド配列を示す。
【0041】
配列番号33は、CERドメインをコードするDNAのヌクレオチド配列を示す。
【0042】
配列番号34は、標的部位1を標的とするgRNAのヌクレオチド配列を示す。
【0043】
配列番号35は、spacプロモーターのヌクレオチド配列を示す。
【0044】
配列番号36は、t0ターミネーターのヌクレオチド配列を示す。
【0045】
配列番号37は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)のserA1ホモロジーアーム1のヌクレオチド配列を示す。
【0046】
配列番号40は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)のserA1ホモロジーアーム2のヌクレオチド配列を示す。
【0047】
配列番号43は、ts1 gRNA発現カセットをコードするDNAのヌクレオチド配列を示す。
【0048】
配列番号44は、serA1欠失編集テンプレートのヌクレオチド配列を示す。
【0049】
配列番号45は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)のrghR1オープンリーディングフレームのヌクレオチド配列を示す。
【0050】
配列番号46は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)の標的部位2のヌクレオチド配列を示す。
【0051】
配列番号47は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)の標的部位2+PAMのヌクレオチド配列を示す。
【0052】
配列番号48は、可変ターゲティングドメイン2をコードするDNAのヌクレオチド配列を示す。
【0053】
配列番号49は、標的部位2を標的とするガイドRNA(gRNA)のヌクレオチド配列を示す。
【0054】
配列番号50は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来のrghR1のホモロジーアーム1のヌクレオチド配列を示す。
【0055】
配列番号53は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来のrghR1のホモロジーアーム2のヌクレオチド配列を示す。
【0056】
配列番号56は、ts2発現カセットをコードするDNAのヌクレオチド配列を示す。
【0057】
配列番号57は、rghR1欠失編集テンプレートのヌクレオチド配列を示す。
【0058】
配列番号58は、Cas9 Y155H変異体のアミノ酸配列を示す。
【0059】
配列番号61は、pRF827のヌクレオチド配列を示す。
【0060】
配列番号62は、Cas9 Y155H変異体発現カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0061】
配列番号63は、pRF856のヌクレオチド配列を示す。
【0062】
配列番号64は、pBL.comK-synのヌクレオチド配列を示す。
【0063】
配列番号65は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来の標的部位1遺伝子座のヌクレオチド配列を示す。
【0064】
配列番号66は、標的部位1の編集された遺伝子座のヌクレオチド配列を示す。
【0065】
配列番号69は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来の標的部位2遺伝子座のヌクレオチド配列を示す。
【0066】
配列番号70は、標的部位2の編集された遺伝子座のヌクレオチド配列を示す。
【0067】
配列番号73は、ヤロウイア属(Yarrowia)にコドンを最適化したCas9のヌクレオチド配列を示す。
【0068】
配列番号74は、SV40 NLSのヌクレオチド配列を示す。
【0069】
配列番号75は、ヤロウイア属(Yarrowia)FBA1プロモーターのヌクレオチド配列を示す。
【0070】
配列番号76は、ヤロウイア属(Yarrowia)Cas9発現カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0071】
配列番号77は、pZufCas9のヌクレオチド配列を示す。
【0072】
配列番号78は、Cas9-SV40融合体のヌクレオチド配列を示す。
【0073】
配列番号81は、Cas9-SV40 PCR産物のヌクレオチド配列を示す。
【0074】
配列番号82~83は、それぞれpBAD/HisB及びpRF48のヌクレオチド配列を示す。
【0075】
配列番号84は、E.コリ(E.coli)最適化Cas9発現カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0076】
配列番号85~86は、それぞれpKO3及びpRF97のヌクレオチド配列を示す。
【0077】
配列番号87は、合成断片をコードするCas9 Y155Hのヌクレオチド配列を示す。
【0078】
配列番号90は、pRF97-Y155H断片のヌクレオチド配列を示す。
【0079】
配列番号93は、pRF861のヌクレオチド配列を示す。
【0080】
配列番号94は、E.コリ(E.coli)由来のnac遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0081】
配列番号95は、nac標的部位1のヌクレオチド配列を示す。
【0082】
配列番号96は、nac標的部位1+PAM
E.コリ(E.coli)のヌクレオチド配列を示す。
【0083】
配列番号97は、nac標的部位1のヌクレオチド配列を示す。
【0084】
配列番号98は、nac標的部位1+PAMのヌクレオチド配列を示す。
【0085】
配列番号99は、N25ファージプロモーターのヌクレオチド配列を示す。
【0086】
配列番号100は、nac標的部位1 gRNA発現カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0087】
配列番号101は、nac標的部位2 gRNA発現カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0088】
配列番号102は、nac上流欠失アームのヌクレオチド配列を示す。
【0089】
配列番号103は、nac下流欠失アームのヌクレオチド配列を示す。
【0090】
配列番号104は、nac欠失編集テンプレートのヌクレオチド配列を示す。
【0091】
配列番号105は、5’pRF97又はpRF861同一性のヌクレオチド配列を示す。
【0092】
配列番号106は、3’pRF97又はpRF861同一性のヌクレオチド配列を示す。
【0093】
配列番号107は、nacET部位1のヌクレオチド配列を示す。
【0094】
配列番号108は、nacET部位2のヌクレオチド配列を示す。
【0095】
配列番号109は、pRF97-カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0096】
配列番号110は、pRF861-カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0097】
配列番号113は、pRF97-nacET部位1のヌクレオチド配列を示す。
【0098】
配列番号114は、pRF97-nacET部位2のヌクレオチド配列を示す。
【0099】
配列番号115は、pRF861-nacET部位1のヌクレオチド配列を示す。
【0100】
配列番号116は、pRF861-nacET部位2のヌクレオチド配列を示す。
【0101】
配列番号117は、E.コリ(E.coli)由来の野生型(WT)nac遺伝子座のヌクレオチド配列を示す。
【0102】
配列番号118は、編集されたnac遺伝子座のヌクレオチド配列を示す。
【0103】
配列番号121は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9のヌクレオチド配列を示す。
【0104】
配列番号122は、Cas9 Y155H変異体をコードするヌクレオチド配列を示す。
【0105】
配列番号123は、Cas9 Y155N変異体のアミノ酸配列を示す。
【0106】
配列番号124は、Cas9 Y155N変異体をコードするヌクレオチド配列を示す。
【0107】
配列番号125は、Cas9 Y155E変異体のアミノ酸配列を示す。
【0108】
配列番号126は、Cas9 Y155E変異体をコードするヌクレオチド配列を示す。
【0109】
配列番号127は、Cas9 Y155F変異体のアミノ酸配列を示す。
【0110】
配列番号128は、Cas9 Y155F変異体をコードするヌクレオチド配列を示す。
【0111】
配列番号129は、Cas9 F86A-F98A変異体のアミノ酸配列を示す。
【0112】
配列番号130は、F86A-F98A合成断片のヌクレオチド配列を示す。
【0113】
配列番号131は、F86A F98AのpRF801骨格のヌクレオチド配列を示す。
【0114】
配列番号132は、pRF801骨格フォワードのヌクレオチド配列を示す。
【0115】
配列番号133は、pRF801骨格リバースのヌクレオチド配列を示す
【0116】
配列番号134は、F86A-F98A合成フォワードのヌクレオチド配列を示す。
【0117】
配列番号135は、F86A-F98A合成リバースのヌクレオチド配列を示す。
【0118】
配列番号136は、バチルス属(Bacillus)F86A F98A発現カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0119】
配列番号137は、pRF866のヌクレオチド配列を示す。
【0120】
配列番号140は、RNR2pプロモーターのヌクレオチド配列を示す。
【0121】
配列番号141は、2ミクロン複製起点1のヌクレオチド配列を示す。
【0122】
配列番号142は、KanMX発現カセットのヌクレオチド配列を示す。
【0123】
配列番号143は、SNR52pプロモーターのヌクレオチド配列を示す。
【0124】
配列番号144は、pSE087プラスミドのヌクレオチド配列を示す。
【0125】
配列番号147は、sgRNA+T(6)ターミネーターを標的とするヌクレオチド配列を示す。
【0126】
配列番号148は、50bp上流ホモロジーアームのヌクレオチド配列を示す。
【0127】
配列番号149は、sgRNA+T(6)ターミネーターを標的とするURA3のヌクレオチド配列を示す。
【0128】
配列番号150は、50bpの下流ホモロジーアームのヌクレオチド配列を示す。
【0129】
配列番号153は、2ミクロン複製起点2のヌクレオチド配列を示す。
【0130】
配列番号154は、154アンピシリン耐性遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0131】
配列番号155は、RNR2ターミネーターのヌクレオチド配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0132】
変異体Casシステム及びそのようなシステムを含むエレメント、例えば、以下に限定されないが、Casエンドヌクレアーゼ変異体、Casエンドヌクレアーゼ変異体を含むガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体、並びにCasエンドヌクレアーゼ変異体と相互作用することができるガイドポリヌクレオチド及びガイドRNAエレメントのための組成物及び方法が提供される。Casエンドヌクレアーゼ変異体、ガイドRNA、及びガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体の直接送達のための組成物及び方法も提供される。本開示はさらに、細胞のゲノムにおける標的配列のゲノム改変、遺伝子編集、及び細胞のゲノムへの目的ポリヌクレオチドの挿入のための組成物及び方法を含む。
【0133】
本明細書は、読み易くするために多くのセクションで編成されている。しかしながら、読者は、1つのセクションでなされた記載を他のセクションに適用できることは理解していよう。このように、本開示の異なるセクションで使用された見出しを限定的であると解釈すべきではない。
【0134】
本明細書に示した見出しは、本明細書全体を参照することによって得ることができる本組成物及び方法の様々な態様又は実施形態を限定するものではない。したがって、すぐ下で定義する用語は、本明細書全体を参照することによってより十分に定義される。
【0135】
他に定義されていない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明の組成物及び方法が属する分野の当業者であれば一般に理解される意味と同一の意味を有する。本組成物及び本方法を実施又は試験するにあたって、本明細書に記載のものに類似した、又は同等の方法及び材料もまた使用することができるが、ここで、説明に役立つ代表的な方法及び材料を記載する。
【0136】
本明細書に引用されている全ての刊行物及び特許は、個々の刊行物又は特許が、具体的且つ個別に、参照により組み込まれ、それらの刊行物が関連して引用している方法及び/又は材料を開示し記載するよう指示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0137】
Cas遺伝子及びタンパク質
CRISPR(クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート)遺伝子座は、例えば、外来DNAを破壊するために細菌及び古細菌細胞によって使用される、DNA切断システムの成分をコードする特定の遺伝子座を指す(Horvath and Barrangou,2010,Science 327:167-170、国際公開第2007/025097号パンフレット(2007年3月1日公開))。CRISPR遺伝子座は、短い可変DNA配列(「スペーサー」と呼ばれる)によって分離された短い直列反復配列(CRISPRリピート)を含むCRISPRアレイから構成され得、これは多様なCas(CRISPR関連)遺伝子によって隣接され得る。所与のCRISPR遺伝子座におけるCRISPR関連遺伝子の数は、種によって変わり得る。マルチサブユニットエフェクター複合体(I型、III型及びIV型サブタイプを含む)を有するクラス1システム、並びに単一タンパク質エフェクター(Cas9、Cpf1、C2c1、C2c2、C2c3などであるがこれらに限定されない、II型及びV型サブタイプを含む)を有するクラス2システムを含む、複数のCRISPR/Casシステムが記載されている。クラス1システム(Makarova et al.2015,Nature Reviews、Microbiology Vol.13:1-15、Zetsche et al.,2015,Cell 163,1-13、Shmakov et al.,2015,Molecular_Cell 60,1-13、Haft et al.,2005,Computational Biology,PLoS Comput Biol 1(6):e60.doi:10.1371/journal.pcbi.0010060及び国際公開第2013/176772A1号パンフレット(2013年11月23日公開)(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる))。細菌由来のII型CRISPR/Casシステムは、CasエンドヌクレアーゼをDNA標的にガイドするために、crRNA(CRISPR RNA)及びtracrRNA(トランス活性化CRISPR RNA)を使用する。crRNAは、二本鎖DNA標的の1本鎖に相補的なスペーサー領域と、tracrRNA(トランス活性化CRISPR RNA)と塩基対合し、Casエンドヌクレアーゼを導き、DNA配列を切断させるRNA二本鎖を形成する領域とを含む。スペーサーは、Cas1及びCas2タンパク質を伴う十分解明されていないプロセスによって得られる。全てのII型CRISPR/Cas遺伝子座は、cas9遺伝子に加えてcas1及びcas2遺伝子を含む(Chylinski et al.,2013,RNA Biology 10:726-737、Makarova et al.2015,Nature Reviews Microbiology Vol.13:1-15)。II型CRISPR-Cas遺伝子座はそれぞれのCRISPRアレイ内の反復配列に部分的に相補的であるtracrRNAをコードすることができ、Csn1及びCsn2などの他のタンパク質を含むことができる。Cas1及びcas2遺伝子の近傍にcas9が存在することは、II型遺伝子座の特徴である(Makarova et al.2015,Nature Reviews Microbiology Vol.13:1-15)。I型CRISPR-Cas(CRISPR関連)システムは、カスケード(抗ウイルス防御のためのCRISPR関連複合体)と呼ばれるタンパク質の複合体からなり、単一のCRISPR RNA(crRNA)及びCas3とともに機能して、侵入ウイルスDNAを防御する(Brouns,S.J.J.et al.Science 321:960-964)、Makarova et al.2015,Nature Reviews;Microbiology Vol.13:1-15(これらの文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。
【0138】
本明細書における用語「Cas遺伝子」は、一般に、隣接するCRISPR遺伝子座に結合した、関連した、若しくは近接する、又は近傍にある遺伝子を指す。用語「Cas遺伝子」、「cas遺伝子」、「CRISPR-関連(Cas)遺伝子」及び「クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート関連遺伝子」は、本明細書では互換的に使用される。
【0139】
用語「Casタンパク質」又は「Casポリペプチド」は、Cas(CRISPR関連)遺伝子によってコードされるポリペプチドを指す。Casタンパク質は、Casエンドヌクレアーゼを含む。
【0140】
Casタンパク質は細菌又は古細菌のタンパク質であり得る。本明細書におけるI~III型CRISPR Casタンパク質は、一般に、起源が原核生物であり、例えば、I型及びIII型Casタンパク質は、細菌種又は古細菌種に由来し得、一方、II型Casタンパク質(すなわち、Cas9)は、細菌種に由来し得る。他の態様においては、Casタンパク質として、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらの相同体、又はそれらの改変型の1つ以上が挙げられる。Casタンパク質としては、Cas9タンパク質、Cpf1タンパク質、C2c1タンパク質、C2c2タンパク質、C2c3タンパク質、Cas3、Cas3-HD、Cas5、Cas7、Cas8、Cas10、又はこれらの組み合わせ若しくは複合体が挙げられる。
【0141】
用語「Casエンドヌクレアーゼ」は、好適なポリヌクレオチド成分と複合体を形成している場合、特定のDNA標的配列の全て又は一部を認識し、結合し、場合によりニッキング又は切断し得る。Casエンドヌクレアーゼは、ガイドポリヌクレオチドによりガイドされて、二本鎖DNA中の特定の標的部位の全て又は一部を(例えば、細胞のゲノム中の標的部位で)認識し、結合し、場合によりニッキング又は切断する。本明細書に記載のCasエンドヌクレアーゼは、1つ以上のヌクレアーゼドメインを含む。本明細書に記載するドナーDNA挿入方法で用いられるCasエンドヌクレアーゼは、標的部位でDNAに一本鎖又は二本鎖切断を導入するエンドヌクレアーゼである。或いは、Casエンドヌクレアーゼは、好適なRNA成分と複合化した場合、DNA切断活性又はニッキング活性を欠くことがあるが、DNA標的配列には依然として特異的に結合することができる。
【0142】
本明細書で使用される場合、「Cas9」(以前はCas5、Csn1、若しくはCsx12と称された)若しくは「Cas9エンドヌクレアーゼ」と称される、又は「Cas9エンドヌクレアーゼ活性」を有するポリペプチドは、DNA標的配列の全部又は一部に特異的に結合し、場合によりニッキング又は切断するために、crヌクレオチド及びtracrヌクレオチドと、又は単一のガイドポリヌクレオチドと複合体を形成するCasエンドヌクレアーゼを指す。Cas9エンドヌクレアーゼは、RuvCヌクレアーゼドメイン、及びHNH(H-N-H)ヌクレアーゼドメインを含み、これらはそれぞれ、標的配列にて一本鎖DNAを切断する(両ドメインが協調して作用すると、DNA二本鎖が切断されるが、一方のドメインの活性ではニッキングに至る)。一般に、RuvCドメインは、サブドメインI、II、及びIIIを含み、ドメインIは、Cas9のN末端の近くに位置し、サブドメインII及びIIIは、HNHドメインに隣接してタンパク質の中央に位置する(Makarova et al.2015,Nature Reviews Microbiology Vol.13:1-15、Hsu et al,2013,Cell 157:1262-1278)。Cas9エンドヌクレアーゼは、通常、少なくとも1つのポリヌクレオチド成分と複合体を形成するCas9エンドヌクレアーゼを利用するDNA切断システムを含むII型CRISPRシステムに由来する。例えば、Cas9は、CRISPR RNA(crRNA)及びトランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)と複合化させることができる。別の例では、Cas9は、シングルガイドRNAと複合化させることができる(Makarova et al.2015,Nature Reviews Microbiology Vol.13:1-15)。
【0143】
Casエンドヌクレアーゼの「機能的断片」、「機能的に等価である断片」及び「機能的に等価な断片」は本明細書では互換的に使用され、標的部位を認識し、結合し、そして場合によりほどき、ニッキングし、又は切断する(一本鎖切断又は二本鎖切断を入れる)能力を保持しているCasエンドヌクレアーゼ配列の一部分又はサブ配列を指す。
【0144】
本開示のCasエンドヌクレアーゼの「機能的変異体」、「機能的に等価である変異体」及び「機能的に等価な変異体」という用語は本明細書では互換的に使用され、標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合によりほどき、ニッキングし、又は切断する能力を保持している本開示のCasエンドヌクレアーゼの変異体を指す。
【0145】
特定の標的DNA配列に向かう本明細書のCasタンパク質の結合活性及び/又はエンドヌクレオチド鎖切断活性の決定は、米国特許第8697359号明細書(参照により本明細書に開示される)に開示されるような、当該技術分野で知られている任意の好適なアッセイによって評価することができる。例えば、宿主細胞/生命体中でCasタンパク質及び好適なRNA成分を発現させ、その後、インデルの存在について予測DNA標的部位を試験することによって決定することができる(この特定のアッセイにおけるCasタンパク質は、エンドヌクレオチド鎖切断活性[一本鎖又は二本鎖切断活性]を有するであろう)。予測標的部位でのインデルの存在についての試験は、例えば、DNAシークエンシング法を介して、又は標的配列の機能の消失についてアッセイすることによるインデル形成を推測することによって実施することができよう。別の例では、Casタンパク質活性は、標的部位中の配列、又はその近くの配列に相同である配列を含むドナーDNAが提供された宿主細胞/生命体において、Casタンパク質及び好適なRNA成分を発現させることによって決定され得る。標的部位でのドナーDNA配列(例えば、ドナーと標的配列との上首尾のHRによって予測されるであろう配列)の存在は、ターゲティングが発生したことを示すであろう。
【0146】
「Casエンドヌクレアーゼ変異体」とも呼ばれるCasエンドヌクレアーゼの変異体は、親Casエンドヌクレアーゼの変異体を指し、このCasエンドヌクレアーゼ変異体は、crヌクレオチド及びtracrヌクレオチド、又はシングルガイドポリヌクレオチド(本明細書に記載のガイドポリヌクレオチドなど)と関連した場合に、DNA標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ほどき、ニッキングし、又は切断する能力を保持している。Casエンドヌクレアーゼ変異体は、本明細書に記載のCasエンドヌクレアーゼ変異体を含み、このCasエンドヌクレアーゼ変異体は親Casエンドヌクレアーゼとは異なっており、Casエンドヌクレアーゼ変異体は(ガイドポリヌクレオチドと複合化して、標的部位を改変することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した場合)、(同じガイドポリヌクレオチドと複合化して、同じ標的部位を改変することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した)親Casエンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の上昇、DNA編集効率の上昇、オフターゲット切断の減少、又はそれらの任意の組合せなど(これらに限定されない)の少なくとも1つの特性の改善を有する。
【0147】
本明細書で使用される場合、用語「形質転換効率」は、Cas9変異体が、標的部位を改変し得るポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼPGEN複合体を形成するために、ガイドポリヌクレオチドと組み合わせて使用された場合に得られる形質転換細胞の数を、親(野生型)Cas9が、同じ標的部位を改変し得るPGENのCasエンドヌクレアーゼ成分としてPGEN複合体を形成するために、同じガイドポリヌクレオチドと組み合わせて使用された場合に得られる形質転換細胞の数で除すことによって定義される。この数に100を乗じることにより、%で表すことができる。
【数1】
【0148】
1(又は100%)の形質転換効率は、Cas9変異体が使用された場合に得られる形質転換細胞の数が、WT Cas9変異体の場合に得られる形質転換細胞の数とほぼ同じか又は同一であることを示す。この場合、Cas9変異体は、その親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、改善された特性を有さない。対照的に、1より大きい形質転換効率は、Cas9変異体が使用された場合に得られる形質転換細胞の数が、WT Cas9変異体の場合に得られる形質転換細胞の数より大きいことを示す。この場合、Cas9変異体は、親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、改善された特性、例えば、改善された形質転換効率を有する。
【0149】
本明細書で使用される場合、用語「編集効率」又は「DNA編集効率」は、本明細書では互換的に使用され、Cas9変異体が、標的部位を改変し得るポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼPGEN複合体を形成するために、ガイドポリヌクレオチドと組み合わせて使用された場合に得られるDNA編集を含む細胞(編集された細胞)の数を、親(野生型)Cas9が、同じ標的部位を改変し得るPGENのCasエンドヌクレアーゼ成分としてPGEN複合体を形成するために、同じガイドポリヌクレオチドと組み合わせて使用された場合に得られる編集された細胞の数で除すことによって定義される。この数に100を乗じることにより、%で表すことができる。
【数2】
【0150】
1(又は100%)のDNA編集効率は、Cas9変異体が使用された場合に得られる編集された細胞の数が、WT Cas9変異体が使用された場合に得られる編集された細胞の数とほぼ同じは又は同一であることを示す。この場合、Cas9変異体は、その親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、改善された特性を有さない。対照的に、1より大きいDNA編集効率は、Cas9変異体が使用された場合に得られる形質転換細胞の数が、(WT)Cas9変異体が使用された場合に得られる形質転換細胞の数より大きいことを示す。この場合、Cas9変異体は、親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、改善された特性、例えば、改善された編集効率を有する。
【0151】
Casエンドヌクレアーゼ変異体は、親Casエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列と少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含み得る。
【0152】
変異体Casエンドヌクレアーゼ遺伝子(変異体cas遺伝子)は、親Casエンドヌクレアーゼのヌクレオチド配列と少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。
【0153】
本明細書中の親Casエンドヌクレアーゼの非限定的な例は、以下の属のいずれかに由来するCasエンドヌクレアーゼであり得る:アエロピルム(Aeropyrum)、ピロバクルム(Pyrobaculum)、スルホロブス(Sulfolobus)、アーキオグロブス(Archaeoglobus)、ハロアーキュラ(Haloarcula)、メタノバクテリウム(Methanobacteriumn)、メタノコッカス(Methanococcus)、メタノサルシナ(Methanosarcina)、メタノパイラス(Methanopyrus)、ピロコッカス(Pyrococcus)、ピクロフィルス(Picrophilus)、テルモプラズマ(Thernioplasnia)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、アクウィフェクス(Aquifrx)、ポルフィロモナス(Porphvromonas)、クロロビウム(Chlorobium)、サーマス(Thermus)、バチルス(Bacillus)、リステリア(Listeria)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、クロストリジウム(Clostridium)、サーモアナエロバクター(Thermoanaerobacter)、マイコプラズマ(Mycoplasma)、フソバクテリウム(Fusobacterium)、アゾアルカス(Azarcus)、クロモバクテリウム(Chromobacterium)、ナイセリア(Neisseria)、ニトロソモナス(Nitrosomonas)、デスルホビブリオ(Desulfovibrio)、ゲオバクター(Geobacter)、ミロコッカス(Myrococcus)、キャンピロバクター(Campylobacter)、ウォリネラ(Wolinella)、アシネトバクター(Acinetobacter)、エルウィニア(Erwinia)、エシェリキア(Escherichia)、レジオネラ(Legionella)、メチロコッカス(Methylococcus)、パスツレラ(Pasteurella)、フォトバクテリウム(Photobacterium)、サルモネラ(Salmonella)、キサントモナス(Xanthomonas)、エルシニア(Yersinia)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、トレポネーマ(Treponema)、フランシセラ(Francisella)又はサーモトガ(Thermotoga)。これ以外にも、本明細書中のCasエンドヌクレアーゼは、例えば、米国特許出願公開第2010/0093617号明細書(この文献は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている配列番号462~465、467~472、474~477、479~487、489~492、494~497、499~503、505~508、510~516、又は517~521のいずれかによってコードされ得る。
【0154】
さらに、本明細書に記載した親Cas9エンドヌクレアーゼは、例えば、ストレプトコッカス属(Streptococcus)(例えば、S.ピオゲネス(S.pyogenes)、S.ニューモニエ(S.pneumoniae)、S.サーモフィルス(S.thermophilus)、S.アガラクティエ(S.agalactiae)、S.パラサングイニス(S.parasanguinis)、S.オラリス(S.oralis)、S.サリバリウス(S.salivarius)、S.マカカエ(S.macacae)、S.ディスガラクティエ(S.dysgalactiae)、S.アンギノサス(S.anginosus)、S.コンステラトゥス(S.constellatus)、S.シュードポルシヌス(S.pseudoporcinus)、S.ミュータンス(S.mutans))、リステリア属(Listeria)(例えば、L.イノキュア(L.innocua))、スピロプラズマ属(Spiroplasma)(例えば、S.アピス(S.apis)、S.シルフィディコーラ(S.syrphidicola))、ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)、アトポビウム属(Atopobium)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)(例えば、P.カトニエ(P.catoniae))、プレボテーラ属(Prevotella)(例えば、P.インターメディア(P.intermedia)、ベイロネラ属(Veillonella)、トレポネーマ属(Treponema)(例えば、T.ソクランスキィ(T.socranskii)、T.デンティコーラ(T.denticola))、カプノシトファガ属(Capnocytophaga)、フィネゴルディア属(Finegoldia)(例えば、F.マグナ(F.magna))、コリオバクテリア科(Coriobacteriaceae)(例えば、C.バクテリウム(C.bacterium))、オルセネラ属(Olsenella)(例えば、O.プロフューザ(O.profusa))、ヘモフィルス属(Haemophilus)(例えば、H.スプトルム(H.sputorum)、H.ピットマニエ(H.pittmaniae))、パスツレラ属(Pasteurella)(例えば、P.ベッティエ(P.bettyae))、オリビバクター属(Olivibacter)(例えば、O.シティエンシス(O.sitiensis))、エピリソニモナス属(Epilithonimonas)(例えば、E.テナックス(E.tenax))、メソニア(Mesonia)属(例えば、M.モビリス(M.mobilis))、ラクトバチルス属(Lactobacillus)(例えば、L.プランタルム(L.plantarum))、バチルス属(Bacillus)(例えば、B.セレウス(B.cereus))、アクイマリーナ属(Aquimarina)(例えば、A.ムエレリ(A.muelleri))、クリセオバクテリウム属(Chryseobacterium)(例えば、C.パルストレ(C.palustre))、バクテロイデス属(Bacteroides)(例えば、B.グラミニソルベンス(B.graminisolvens))、ナイセリア属(Neisseria)(例えば、N.メニンジティディス(N.meningitidis))、フランシセラ属(Francisella)(例えば、F.ノビシダ(F.novicida))、又はフラボバクテリウム属(Flavobacterium)(例えば、F.フリギダリウム(F.frigidarium)、F.ソリ(F.soli))の種に由来し得る。一態様では、S.ピオゲネス(S.pyogenes)親Cas9エンドヌクレアーゼが本明細書に記載されている。別の例として、親Cas9エンドヌクレアーゼは、Chylinski et al.(RNA Biology 10:726-737)(この文献は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されたCas9タンパク質のいずれかであり得る。
【0155】
本明細書中の親Cas9エンドヌクレアーゼの配列は、例えば、GenBankアクセッション番号G3ECR1(S.サーモフィルス(S.thermophilus))、WP_026709422、WP_027202655、WP_027318179、WP_027347504、WP_027376815、WP_027414302、WP_027821588、WP_027886314、WP_027963583、WP_028123848、WP_028298935、Q03JI6(S.サーモフィルス(S.thermophilus))、EGP66723、EGS38969、EGV05092、EHI65578(S.シュードポルシヌス(S.pseudoporcinus))、EIC75614(S.オラリス(S.oralis))、EID22027(S.コンステラツス(S.constellatus))、EIJ69711、EJP22331(S.オラリス(S.oralis))、EJP26004(S.アンギノサス(S.anginosus))、EJP30321、EPZ44001(S.ピオゲネス(S.pyogenes))、EPZ46028(S.ピオゲネス(S.pyogenes))、EQL78043(S.ピオゲネス(S.pyogenes))、EQL78548(S.ピオゲネス(S.pyogenes))、ERL10511、ERL12345、ERL19088(S.ピオゲネス(S.pyogenes))、ESA57807(S.ピオゲネス(S.pyogenes))、ESA59254(S.ピオゲネス(S.pyogenes))、ESU85303(S.ピオゲネス(S.pyogenes))、ETS96804、UC75522、EGR87316(S.ディスガラクトシエ(S.dysgalactiae))、EGS33732、EGV01468(S.オラリス(S.oralis))、EHJ52063(S.マカカエ(S.macacae))、EID26207(S.オラリス(S.oralis))、EID33364、EIG27013(S.パラサングイニス(S.parasanguinis))、EJF37476、EJO19166(ストレプトコッカス(Streptococcus)種BS35b)、EJU16049、EJU32481、YP_006298249、ERF61304、ERK04546、ETJ95568(S.アガラクティエ(S.agalactiae))、TS89875、ETS90967(ストレプトコッカス(Streptococcus)種SR4)、ETS92439、EUB27844(ストレプトコッカス(Streptococcus)種BS21)、AFJ08616、EUC82735(ストレプトコッカス(Streptococcus)種CM6)、EWC92088、EWC94390、EJP25691、YP_008027038、YP_008868573、AGM26527、AHK22391、AHB36273、Q927P4、G3ECR1、又はQ99ZW2(S.ピオゲネス(S.pyogenes))に開示されているCas9アミノ酸配列のいずれかを含み得る。これらの文献は参照により組み込まれる。或いは、本明細書中のCas9タンパク質は、例えば、米国特許出願公開第2010/0093617号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)に開示された、配列番号462(S.サーモフィルス(S.thermophilus))、474(S.サーモフィルス(S.thermophilus))、489(S.アガラクティエ(S.agalactiae))、494(S.アガラクティエ(S.agalactiae))、499(S.ミュータンス(S.mutans))、505(S.ピオゲネス(S.pyogenes))又は518(S.ピオゲネス(S.pyogenes))のいずれかによってコードされ得る。
【0156】
ある特定のアミノ酸が互いに類似した構造的特徴及び/又は電荷の特徴を共有する(すなわち、保存されている)ならば、Cas9中の各位置のアミノ酸は、開示される配列に与えられるそのものであってもよいし、以下のように、保存アミノ酸残基で置換されてもよい(「保存的アミノ酸置換」):
1.次の小さい脂肪族の非極性又は弱極性の残基は、相互に置換することができる:Ala(A)、Ser(S)、Thr(T)、Pro(P)、Gly(G);
2.次の極性の負荷電残基及びそれらのアミドは、相互に置換することができる:Asp(D)、Asn(N)、Glu(E)、Gln(Q);
3.次の極性の正荷電残基は、相互に置換することができる:His(H)、Arg(R)、Lys(K);
4.次の脂肪族の非極性残基は、相互に置換することができる:Ala(A)、Leu(L)、Ile(I)、Val(V)、Cys(C)、Met(M);及び
5.次の大きい芳香族残基は、相互に置換することができる:Phe(F)、Tyr(Y)、Trp(W)。
【0157】
断片及び変異体は、部位特異的変異誘発法及び合成構築法により得ることができる。エンドヌクレアーゼ活性を測定する方法は、例えば、2013年5月1日に出願された国際出願PCT/US13/39011号明細書、2016年5月12日に出願された国際出願PCT/US16/32073号明細書、2016年5月12日に出願された国際出願PCT/US16/32028号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)など(これらに限定されない)、当該技術分野でよく知られている。
【0158】
一実施形態では、Casエンドヌクレアーゼ変異体は、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体である。本明細書で使用される場合、「Cas9エンドヌクレアーゼ変異体」又は「Cas9変異体」は、親Cas9エンドヌクレアーゼの変異体を指し、このCas9エンドヌクレアーゼ変異体は、crヌクレオチド及びtracrヌクレオチド、又はシングルガイドポリヌクレオチド(本明細書に記載のガイドポリヌクレオチドなど)と関連した場合に、DNA標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ほどき、ニッキングし、又は切断する能力を保持している。Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を含み、このCasエンドヌクレアーゼ変異体は親9Casエンドヌクレアーゼとは異なっており、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は(ガイドポリヌクレオチドと複合化して、標的部位を修飾することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した場合)、(同じガイドポリヌクレオチドと複合化して、同じ標的部位を改変することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した)親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の上昇、DNA編集効率の上昇、オフターゲット切断の減少、又はそれらの任意の組合せなど(これらに限定されない)の少なくとも1つの特性の改善を有する。
【0159】
本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体はcrヌクレオチド及びtracrヌクレオチド、又はシングルガイドポリヌクレオチドと関連した場合に、二本鎖DNA標的部位に結合し、それをニッキングすることができる変異体を含み、一方、親Casエンドヌクレアーゼはcrヌクレオチド及びtracrヌクレオチド、又はシングルガイドポリヌクレオチドと関連した場合に、標的部位に結合し、標的部位で二本鎖切断(切断)をすることができる。
【0160】
本明細書に記載のように、驚くべきことに、また、予期しなかったことに、HNH及びRuvCドメインの外側に少なくとも1つのアミノ酸修飾を有するCas9エンドヌクレアーゼ変異体が(ガイドポリヌクレオチドと複合化して、標的部位を改変することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した場合)、(同じガイドポリヌクレオチドと複合化して、同じ標的部位を改変することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した)その親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の上昇、DNA編集効率の上昇、又はそれらの任意の組合せなど(これらに限定されない)の少なくとも1つの特性の改善を有し得ることがわかった。
【0161】
一態様では、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体は、RuvCヌクレアーゼドメイン及びHNH(H-N-H)ヌクレアーゼドメイン、並びにHNH及びRuvCドメインの外側に位置する少なくとも1つのアミノ酸改変(少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換又は挿入)を含む。
【0162】
一態様では、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片は、親Cas9エンドヌクレアーゼと比較した場合、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のアミノ酸置換を含む。
【0163】
一態様では、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体は、そのHNH及びRuvCドメインの外側にアミノ酸改変を有し、前記Cas9エンドヌクレアーゼは、前記アミノ酸改変を含まない親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率及び/又はDNA編集効率が上昇し、前記ガイドポリヌクレオチド及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は前記標的配列の全て又は一部を認識し、結合し、場合によりニッキングし、ほどき、又は切断し得る複合体を形成することができる。
【0164】
一態様では、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体は、配列番号1に記載の親Cas9ポリペプチドと少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸同一性を有し、且つ少なくとも1つの155位におけるアミノ酸置換を有する(ここで、変異体のアミノ酸位置は、親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされ、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はエンドヌクレアーゼ活性を有する)。
【0165】
155位におけるCas9エンドヌクレアーゼ変異体置換は、Y155H、Y155N、Y155E、Y155Fからなる群から選択され得、それぞれCas9 Y155H変異体(配列番号58)、Cas9 Y155N変異体(配列番号123)、Cas9 Y155E変異体(配列番号125及びCas9 Y155F変異体(配列番号127)を生じる。Cas9 Y155変異体をコードするDNA配列は当該技術分野でよく知られているように、特定の宿主生命体における発現のために最適化することができる。Cas9 Y155変異体タンパク質をコードするDNA配列の例を配列番号122、124、126及び128に記載する。
【0166】
一態様では、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体は、配列番号1に記載の親Cas9ポリペプチドと少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸同一性を有し、且つ少なくとも2つのアミノ酸置換、1つは86位の、もう1つは98位のアミノ酸置換を有する(ここで、変異体のアミノ酸位置は、親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされ、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はエンドヌクレアーゼ活性を有する)
【0167】
86位のCas9エンドヌクレアーゼ変異体置換は、F86A置換であり得、Cas9 F86A変異体を生じる。
【0168】
89位のにおけるCas9エンドヌクレアーゼ変異体置換は、F98A置換であり得、Cas9 F98A変異体を生じる。
【0169】
Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は少なくとも2つの置換、すなわち、F86A置換などの86位での第1の置換、及びF98A置換などの98位での第2の置換を含むことができ、配列番号129に示されるCas9 F86A-F98A変異体を生じる。
【0170】
Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は少なくとも3つの置換を含むことができ、この少なくとも3つの置換は、F86A置換などの86位における第1の置換、F98A置換などの98位における第2の置換、及びY155H、Y155N、Y155E、Y155Fからなる群から選択される第3の置換を含む。
【0171】
Cas9 Y155変異体をコードするDNA配列は当該技術分野でよく知られているように、特定の宿主生命体における発現のために最適化することができる。Cas9 Y155変異体タンパク質をコードするDNA配列の例を配列番号122、124、126及び128に記載する。Cas9 F86A-F98A変異体タンパク質をコードするDNA配列の例を配列番号130に記載する。
【0172】
86位、98位及び155位、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は少なくとも3つの置換を含むCas9エンドヌクレアーゼ変異体は(ガイドポリヌクレオチドと複合化して、標的部位を改変することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した場合)、(同じガイドポリヌクレオチドと複合化して、同じ標的部位を改変することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した)親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の上昇、DNA編集効率の上昇、又はそれらの任意の組合せなど(これらに限定されない)の少なくとも1つの特性の改善を有することができる。
【0173】
86位、98位及び155位(又はそれらの任意の組み合わせ)からなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は少なくとも3つの置換は、当業者に知られた任意の他のアミノ酸改変と組み合わせることができる。一態様では、本明細書に記載の86位、98位及び155位からなる群から選択される置換のいずれか1つ(又はそれらの任意の組み合わせ)は、当業者に知られたHNH及びRuvCドメインに位置する任意のアミノ酸置換と組み合わせて、Cas9エンドヌクレアーゼをニッカーゼとして作用させ得る(Trevino A.E.and Feng Zhang,2014,Methods In Enzymology,volume 546 pg161-174)。「ニッカーゼ」Cas9(Cas9n)は、HNH又はRuvCドメイン内の重要な触媒残基でのアラニン置換によって生成することができ、SpCas9 D10AはRuvCを不活性化し(Jinek,M,et al,2012,Science,337(6096)、816-821)、一方、N863AはHNHを不活性化することが見出されている(Nishimasu et al,2014;Shen et al 2014 Nature Methods11,399-402)。H840A変異(Shen et al 2014 Nature Methods 11、399-402)もまた、Cas9をニッキング酵素に変換することが報告されたが、この変異体は、N863Aと比較して哺乳動物細胞における活性レベルが低下していた(Nishimasu et al.2014,Cell,156(5),935-949)。
【0174】
一態様では、Cas9(N863A)、Cas9(D10A)及び/又はCas9(H840A)を、本明細書に記載の86位、98位及び155位(又は、任意の組み合わせ)からなる群から選択される少なくとも1つの置換を含むようにさらに改変し、場合により、それぞれ、改変されたCas9(N863A)、Cas9(D10A)及び/又はCas9(H840A)の特性の改善をもたらすことができる。
【0175】
一態様では、本明細書に記載の86位、98位及び155位(又は、それらの任意の組み合わせ)からなる群から選択される置換のいずれか1つを、D10A、H840A又はN863A及びH840Aからなる群から選択されるアミノ酸置換と組み合わせることができる。
【0176】
一態様では、155位に少なくとも1つのアミノ酸置換を有するCas9エンドヌクレアーゼ変異体(ここで、変異体のアミノ酸位置は、親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされている)は、前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の上昇、DNA編集効率の上昇、又はそれらの任意の組合せから選択される少なくとも1つの特性の改善を有する。
【0177】
一態様では、155位にY155H置換を有するCas9エンドヌクレアーゼ変異体(ここで、変異体のアミノ酸位置は、親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされている)は、前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、高い形質転換効率を有する。一態様では、この高い形質転換効率は、以下に限定されないが、バチルス(Bacillus)種又はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)(E.コリ(E.coli)の宿主細胞などの原核生物宿主細胞において観察される。
【0178】
一態様では、155位にY155H置換を有するCas9エンドヌクレアーゼ変異体(ここで、変異体のアミノ酸位置は、親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされている)は、前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、高いDNA編集効率を有する。一態様では、この高いDNA編集効率は、以下に限定されないが、バチルス(Bacillus)種又はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)(E.コリ(E.coli)の宿主細胞などの原核生物宿主細胞において観察される。
【0179】
本明細書に記載のCas9変異体の特性の改善には、形質転換効率の上昇が含まれ、親Casエンドヌクレアーゼと比較した形質転換効率は、親Casエンドヌクレアーゼと比較して、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、12倍、13倍、14倍、15倍、16倍、17倍、18倍、19倍、20倍、21倍、22倍、23倍、24倍、25倍、26倍、27倍、28倍、29倍、30倍、31倍、32倍、33倍、34倍、35倍、36倍、37倍、38倍、39倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、110倍、120倍、130倍、140倍、150倍、160倍、170倍、180倍、190倍、200倍、210倍、220倍、230倍、240倍、250倍、260倍、270倍、280倍、290倍、300倍、310倍、320倍、330倍、340倍、350倍、360倍、370倍、380倍、390倍、400倍、410倍、420倍、430倍、440倍、440倍、450倍、460倍、470倍、480倍、490倍、又は最大500倍まで上昇する。
【0180】
本明細書に記載のCas9変異体の特性の改善には、DNA編集効率の上昇が含まれ、親Casエンドヌクレアーゼと比較したDNA編集効率は、親Casエンドヌクレアーゼと比較して、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、若しくは250%、又は少なくとも約2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、最大10倍まで上昇する。
【0181】
本明細書に記載のCasエンドヌクレアーゼ変異体は、原核細胞及び真核細胞、並びに本明細書にさらに記載するような生命体のゲノム改変のために使用することができる。
【0182】
開示の方法で使用するためのCasエンドヌクレアーゼ、又はその機能的断片若しくは変異体は、遺伝子改変宿主細胞(例えば、細菌細胞、昆虫細胞、真菌細胞、酵母細胞、又はヒト由来細胞株)が、Casタンパク質をコードする核酸配列を発現するように改変される組み換え源から単離することができる。或いは、Casタンパク質は、無細胞タンパク質発現システムを使用して生成、又は合成的に生成することができる。
【0183】
本明細書に記載のCas9 Y155エンドヌクレアーゼ変異体を含むCasエンドヌクレアーゼは、改変された形態のCasポリペプチドを含み得る。Casポリペプチドの改変形態としては、Casタンパク質の天然に存在するヌクレアーゼ活性を低下させるアミノ酸の変化(例えば、欠失、挿入又は置換)を挙げることができる。例えば、いくつかの例では、本明細書に記載のCas9 Y155エンドヌクレアーゼ変異体を含むCasタンパク質の改変形態は、対応する野生型Casポリペプチドの50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満又は1%未満のヌクレアーゼ活性を有する(米国特許出願公開第2014/0068797A1号明細書(2014年3月6日公開))。いくつかの例では、Casポリペプチドの改変形態は、ヌクレアーゼ活性を実質的に有さず、触媒的に「不活化されたCas」又は「失活したcas(dCas)」と呼ばれる。不活化Cas/失活Casは、不活化Casエンドヌクレアーゼ(dCas)を含む。本明細書に記載のCas9 Y155エンドヌクレアーゼ変異体に由来するものを含む触媒的に不活性なCasを、本明細書に記載するような異種配列に融合させることができる。
【0184】
本明細書に記載のCasエンドヌクレアーゼ及びガイドポリヌクレオチドを発現する組み換えDNAコンストラクト(その機能的断片、又は細菌、真菌、植物、微生物若しくは哺乳動物のコドン最適化Casタンパク質を含む)は、生命体のゲノムに安定に組み込まれ得る。例えば、微生物のゲノムに安定に組み込まれたCas遺伝子を含む微生物を作製することができる。
【0185】
本明細書に記載のCasエンドヌクレアーゼ(例えば、以下に限定されないが、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼY155変異体)は当該分野で知られた方法(例えば、2016年11月24日に公開され、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2016/186946号パンフレットの実施例2に記載される方法)によって発現され、精製され得る。
【0186】
Casタンパク質の融合
Casエンドヌクレアーゼ、又は本明細書に記載のCasエンドヌクレアーゼ変異体は、1つ以上の異種タンパク質ドメイン(例えば、Casポリペプチドに加えて1、2、3又はそれ以上のドメイン)を含む融合タンパク質の一部であり得る。このような融合タンパク質は、任意のさらなるタンパク質配列を、また、場合により、任意の2つのドメイン間、例えばCasポリペプチドと第1の異種ドメインとの間に、リンカー配列を含み得る。Casポリペプチドに融合し得るタンパク質ドメインの例として、限定はされないが、エピトープタグ(例えば、ヒスチジン[His]、V5、FLAG、インフルエンザヘマグルチニン[HA]、myc、VSV-G、チオレドキシン[Trx])、レポーター(例えば、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ[GST]、ホースラディッシュペルオキシダーゼ[HRP]、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ[CAT]、ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ[GUS]、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質[GFP]、HcRed、DsRed、シアン色蛍光タンパク質[CFP]、黄色蛍光タンパク質[YFP]、青色蛍光タンパク質[BFP])、及び以下の活性の1つ以上を有するドメインが挙げられる:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性(例えば、VP16又はVP64)、転写抑制活性、転写終止因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性、及び核酸結合活性。Casエンドヌクレアーゼはまた、DNA分子又は他の分子、例えばマルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)、GAL4A DNA結合ドメイン、及び単純ヘルペスウイルス(HSV)VP16と結合するタンパク質と融合し得る。
【0187】
Casエンドヌクレアーゼは、核局在化配列(NLS)などの異種調節エレメントを含み得る。異種NLSアミノ酸配列は、本明細書中の細胞の核内で検出可能な量のCasエンドヌクレアーゼの蓄積を駆動するのに十分な強度を有し得る。NLSは、塩基性の、正に帯電する残基(例えば、リシン及び/又はアルギニン)の1つ(一分節)又は複数(例えば、二分節)の短い配列(例えば、2~20残基)を含み得、そして、タンパク質表面上に曝されなければ、Casアミノ酸配列のどこに位置してもよい。NLSは、例えば、本明細書中のCasタンパク質のN末端又はC末端に作動可能に結合し得る。2つ以上のNLS配列は、例えば、Casタンパク質に、例えば、Casタンパク質のN末端及びC末端の両方に結合し得る。Cas遺伝子は、Casコドン領域のSV40核標的シグナル上流、及びCasコドン領域の二分VirD2核局在化シグナル(Tinland et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7442-6)下流に作動可能に結合することができる。本明細書中の好適なNLS配列の非限定的な例には、米国特許第6660830号明細書及び同第7309576号明細書に開示されるものが含まれる。これらの両文献は参照により本明細書に組み込まれる。異種NLSアミノ酸配列としては、植物、ウイルス及び哺乳動物の核局在化シグナルが挙げられる。
【0188】
触媒的に活性及び/又は不活性なCasエンドヌクレアーゼは、異種配列に融合することができる(2014年3月6日に公開された米国特許出願公開第2014/0068797A1号明細書)。好適な融合パートナーとしては、以下に限定はされないが、標的DNA、又は標的DNAに関連するポリペプチド(例えば、ヒストン又は他のDNA結合性タンパク質)に直接作用することによって、転写を間接的に増加させる活性を提供するポリペプチドが挙げられる。さらなる好適な融合パートナーとしては、以下に限定はされないが、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、デアセチラーゼ活性、キナーゼ活性、ホフファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性又は脱ミリストイル化活性を提供するポリペプチドが挙げられる。さらに他の好適な融合パートナーとしては、以下に限定はされないが、標的核酸の転写増加を直接引き起こすポリペプチド(例えば、転写活性化因子又はその断片、転写活性化因子、小分子/薬剤反応性転写調節因子などをガイドするタンパク質又はその断片)が挙げられる。触媒的に不活性なCas9エンドヌクレアーゼはまた、二本鎖切断を生成するFokIヌクレアーゼに融合することができる(Guilinger et al.Nature biotechnology,volume 32,number 6,June 2014)。
【0189】
ガイドポリヌクレオチド
本明細書で使用する場合、用語「ガイドポリヌクレオチド」は、Casエンドヌクレアーゼと複合体を形成することができ、CasエンドヌクレアーゼがDNA標的部位を認識し、結合し、場合によりニッキング又は切断することを可能にするポリヌクレオチド配列を指す。このガイドポリヌクレオチドは一本鎖分子であっても二本鎖分子であってもよい。ガイドポリヌクレオチド配列は、RNA配列、DNA配列、又はこれらの組み合わせ(RNA-DNA組み合わせ配列)であってよい。場合により、ガイドポリヌクレオチドは、以下に限定はされないが、ロックド核酸(LNA)、5-メチルdC、2,6-ジアミノプリン、2’-フルオロA、2’-フルオロU、2’-O-メチルRNA、ホスホロチオエート結合、コレステロール分子との結合、ポリエチレングリコール分子との結合、スペーサー18(ヘキサエチレングリコール鎖)分子との結合、又は環化をもたらす5’から3’への共有結合などの、少なくとも1つのヌクレオチド、ホスホジエステル結合又は結合改変を含むことができる。リボ核酸だけを含むガイドポリヌクレオチドは、「ガイドRNA」若しくは「gRNA」とも呼ばれる。
【0190】
ガイドポリヌクレオチドは、crヌクレオチド配列及びtracrヌクレオチド配列を含む二本鎖分子(二本鎖ガイドポリヌクレオチドとも呼ばれる)であり得る。crヌクレオチドには、標的DNAのヌクレオチド配列にハイブリダイズすることができる第1ヌクレオチド配列ドメイン(可変ターゲティングドメイン若しくはVTドメインと呼ばれる)及びCasエンドヌクレアーゼ認識(CER)ドメインの一部である第2ヌクレオチド配列(また、tracrメイト配列とも呼ばれる)が含まれる。tracrメイト配列は、相補性領域に沿ってtracrヌクレオチドにハイブリダイズすることができ、Casエンドヌクレアーゼ認識ドメイン又はCERドメインを一緒に形成することができる。CERドメインは、Casエンドヌクレアーゼポリペプチドと相互作用することができる。二本鎖ガイドポリヌクレオチドのcrヌクレオチド及びtracrヌクレオチドは、RNA、DNA、及び/又はRNA-DNA組み合わせ配列であり得る。(米国特許出願第2015/0082478号明細書(2015年3月19日公開)及び同第2015/0059010号明細書(2015年2月26日公開)(両文献は参照により本明細書に組み込まれる))。いくつかの実施形態では、二本鎖ガイドポリヌクレオチドのcrヌクレオチド分子は、「crDNA」(DNAヌクレオチドの連続ストレッチで構成される場合)、又は「crRNA」(RNAヌクレオチドの連続ストレッチで構成される場合)、又は「crDNA-RNA」(DNAヌクレオチドとRNAヌクレオチドとの組み合わせで構成される場合)と呼ばれる。crヌクレオチドは、細菌及び古細菌中に天然に存在するcrRNAの断片を含むことができる。本明細書で開示するcrヌクレオチド中に存在することができる、細菌及び古細菌中に天然に存在するcrRNAの断片のサイズは、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個又はそれ以上(これらに限定されない)からの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、tracrヌクレオチドは、「tracrRNA」(RNAヌクレオチドの連続ストレッチで構成される場合)、又は「tracrDNA」(DNAヌクレオチドの連続ストレッチで構成される場合)、又は「tracrDNA-RNA」(DNAヌクレオチドとRNAヌクレオチドとの組み合わせで構成される場合)と呼ばれる。特定の実施形態では、RNA/Cas9エンドヌクレアーゼ複合体をガイドするRNAは、二本鎖crRNA-tracrRNAを含む二本鎖RNAである。
【0191】
一態様では、ガイドポリヌクレオチドは、少なくとも1つのガイドポリヌクレオチド及び本明細書に記載の少なくとも1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体を含むPGENを形成し得るガイドポリヌクレオチドであり、前記ガイドポリヌクレオチドは、標的DNA中のヌクレオチド配列に相補的である第1のヌクレオチド配列ドメイン(VTドメイン)、及び前記Casエンドヌクレアーゼポリペプチドと相互作用する第2のヌクレオチド配列ドメインを含む。
【0192】
一態様では、ガイドポリヌクレオチドは本明細書に記載のガイドポリヌクレオチドであり、第1のヌクレオチド配列ドメイン(VTドメイン)及び第2のヌクレオチド配列ドメインは、DNA配列、RNA配列、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0193】
一態様では、ガイドポリヌクレオチドは本明細書に記載のガイドポリヌクレオチドであり、第1のヌクレオチド配列及び第2のヌクレオチド配列ドメインは、安定性を高めるRNA骨格改変、安定性を高めるDNA骨格改変、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される(Kanasty et al.,2013,Common RNA-backbone modifications,Nature Materials 12:976-977を参照されたい)。
【0194】
ガイドポリヌクレオチドは、少なくとも1つのtracrRNAに(非共有結合的に)連結されたキメラ非天然crRNAを含む二重RNA分子を含む。キメラ非天然crRNAは、天然には一緒に見出されることがない領域(すなわち、それらは互いに異種である)を含むcrRNAを含む。例えば、非天然crRNAは、天然に存在するスペーサー配列が異種可変ターゲティングドメインと交換されているcrRNAである。非天然crRNAは、第1のヌクレオチド配列ドメイン(可変ターゲティングドメイン又はVTドメインと呼ばれる)を含み、これは、標的DNA中のヌクレオチド配列にハイブリダイズすることができ、第2のヌクレオチド配列(tracrメイト配列とも呼ばれる)に連結されており、第1及び第2の配列は天然では一緒に連結されて見出されない。
【0195】
ガイドポリヌクレオチドはまた、tracrヌクレオチド配列に連結したcrヌクレオチド配列を含む単一分子(シングルガイドポリヌクレオチドとも呼ばれる)であり得る。シングルガイドポリヌクレオチドは、標的DNA中のヌクレオチド配列にハイブリダイズすることができる第1のヌクレオチド配列ドメイン(可変ターゲティングドメイン若しくはVTドメインと呼ばれる)及びCasエンドヌクレアーゼポリペプチドと相互作用するCasエンドヌクレアーゼ認識ドメイン(CERドメイン)を含む。「ドメイン」は、ヌクレオチドの連続ストレッチを意味し、これはRNA、DNA及び/又はRNA-DNA組み合わせ配列であり得る。シングルガイドポリヌクレオチドのVTドメイン及び/又はCERドメインは、RNA配列、DNA配列、又はRNA-DNA組み合わせ配列を含み得る。crヌクレオチド及びtracrヌクレオチド由来の配列で構成されているシングルガイドポリヌクレオチドは、「シングルガイドRNA」(RNAヌクレオチドの連続ストレッチで構成される場合)、又は「シングルガイドDNA」(DNAヌクレオチドの連続ストレッチで構成される場合)、又は「シングルガイドRNA-DNA」(RNA及びDNAヌクレオチドの組み合わせで構成される場合)と呼ぶことができる。シングルガイドポリヌクレオチドは、Casエンドヌクレアーゼと複合体を形成することができ、前記ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体(ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステムとも呼ばれる)は、Casエンドヌクレアーゼをゲノム標的部位にガイドし、Casエンドヌクレアーゼが標的部位を認識し、結合し、場合によりニッキング又は切断する(一本鎖切断又は二本鎖切断を導入する)ことを可能にする。
【0196】
「可変ターゲティングドメイン」又は「VTドメイン」という用語は、本明細書では互換的に使用され、二本鎖DNA標的部位の1本の鎖(ヌクレオチド配列)にハイブリダイズすることができる(相補的である)ヌクレオチド配列を含む。第1のヌクレオチド配列ドメイン(VTドメイン)と標的配列との間の相補性%は、少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、63%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%であり得る。可変ターゲティングドメインの長さは、少なくとも12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30ヌクレオチドであり得る。
【0197】
可変ターゲティングドメインは、12~30、12~29、12~28、12~27、12~26、12~25、12~26、12~25、12~24、12~23、12~22、12~21、12~20、12~19、12~18、12~17、12~16、12~15、12~14、12~13、13~30、13~29、13~28、13~27、13~26、13~25、13~26、13~25、13~24、13~23、13~22、13~21、13~20、13~19、13~18、13~17、13~16、13~15、13~14、14~30、14~29、14~28、14~27、14~26、14~25、14~26、14~25、14~24、14~23、14~22、14~21、14~20、14~19、14~18、14~17、14~16、14~15、15~30、15~29、15~28、15~27、15~26、15~25、15~26、15~25、15~24、15~23、15~22、15~21、15~20、15~19、15~18、15~17、15~16、16~30、16~29、16~28、16~27、16~26、16~25、16~24、16~23、16~22、16~21、16~20、16~19、16~18、16~17、17~30、17~29、17~28、17~27、17~26、17~25、17~24、17~23、17~22、17~21、17~20、17~19、17~18、18~30、18~29、18~28、18~27、18~26、18~25、18~24、18~23、18~22、18~21、18~20、18~19、19~30、19~29、19~28、19~27、19~26、19~25、19~24、19~23、19~22、19~21、19~20、20~30、20~29、20~28、20~27、20~26、20~25、20~24、20~23、20~22、20~21、21~30、21~29、21~28、21~27、21~26、21~25、21~24、21~23、21~22、22~30、22~29、22~28、22~27、22~26、22~25、22~24、22~23、23~30、23~29、23~28、23~27、23~26、23~25、23~24、24~30、24~29、24~28、24~27、24~26、24~25、25~30、25~29、25~28、25~27、25~26、26~30、26~29、26~28、26~27、27~30、27~29、27~28、28~30、28~29、又は29~30ヌクレオチドからなる連続ストレッチを含み得る。
【0198】
可変ターゲティングドメインは、DNA配列、RNA配列、改変DNA配列、改変RNA配列、又はこれらの任意の組み合わせで構成され得る。VTドメインは、原核生物又は真核生物DNAに由来する標的配列に相補的であり得る。
【0199】
(ガイドポリヌクレオチドの)「Casエンドヌクレアーゼ認識ドメイン」又は「CERドメイン」という用語は、本明細書では互換的に使用され、Casエンドヌクレアーゼポリペプチドと相互作用するヌクレオチド配列を含む。CERドメインは、tracrヌクレオチドメイト配列を含み、その後にtracrヌクレオチド配列が続く。CERドメインは、DNA配列、RNA配列、改変DNA配列、改変RNA配列(例えば、米国特許出願公開第2015/0059010A1(2015年2月26日公開)(この文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)、又はこれらの任意の組み合わせで構成され得る。
【0200】
シングルガイドポリヌクレオチドのcrヌクレオチドとtracrヌクレオチドとを連結するヌクレオチド配列は、RNA配列、DNA配列、又はRNA-DNA組み合わせ配列を含み得る。一実施形態では、シングルガイドポリヌクレオチドのcrヌクレオチドとtracrヌクレオチドとを連結するヌクレオチド配列(「ループ」とも呼ぶ)の長さは、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100ヌクレオチドであり得る。ループの長さは、3~4、3~5、3~6、3~7、3~8、3~9、3~10、3~11、3~12、3~13、3~14、3~15、3~20、3~30、3~40、3~50、3~60、3~70、3~80、3~90、3~100、4~5、4~6、4~7、4~8、4~9、4~10、4~11、4~12、4~13、4~14、4~15、4~20、4~30、4~40、4~50、4~60、4~70、4~80、4~90、4~100、5~6、5~7、5~8、5~9、5~10、5~11、5~12、5~13、5~14、5~15、5~20、5~30、5~40、5~50、5~60、5~70、5~80、5~90、5~100、6~7、6~8、6~9、6~10、6~11、6~12、6~13、6~14、6~15、6~20、6~30、6~40、6~50、6~60、6~70、6~80、6~90、6~100、7~8、7~9、7~10、7~11、7~12、7~13、7~14、7~15、7~20、7~30、7~40、7~50、7~60、7~70、7~80、7~90、7~100、8~9、8~10、8~11、8~12、8~13、8~14、8~15、8~20、8~30、8~40、8~50、8~60、8~70、8~80、8~90、8~100、9~10、9~11、9~12、9~13、9~14、9~15、9~20、9~30、9~40、9~50、9~60、9~70、9~80、9~90、9~100、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、70~80、80~90又は90~100ヌクレオチドであり得る。
【0201】
他の態様では、シングルガイドポリヌクレオチドのcrヌクレオチドとtracrヌクレオチドとを連結するヌクレオチド配列は、限定はされないが、GAAAテトラループ配列などのテトラループ配列を含み得る。
【0202】
シングルガイドポリヌクレオチドは、キメラ非天然シングルガイドRNAを含む。「シングルガイドRNA」及び「sgRNA」という用語は、本明細書では互換的に使用され、(tracrRNAにハイブリダイズするtracrメイト配列に連結した)可変ターゲティングドメインを含むcrRNA(CRISPR RNA)がtracrRNA(トランス活性化CRISPR RNA)に融合した、2つのRNA分子の合成融合体に関する。天然では一緒に見出されない領域(すなわち、それらは互いに異種である)を含むキメラ非天然ガイドRNA。例えば、Casエンドヌクレアーゼを認識することができる第2のヌクレオチド配列に連結された、標的DNA中のヌクレオチド配列にハイブリダイズすることができる第1のヌクレオチド配列ドメイン(可変ターゲティングドメイン又はVTドメインと呼ばれる)を含み、第1及び第2のヌクレオチド配列は天然では一緒に連結されて見出されない、キメラ非天然ガイドRNA。
【0203】
キメラ非天然ガイドRNAは、本明細書に記載されるCas9エンドヌクレアーゼ変異体などのII型Casエンドヌクレアーゼと複合体を形成することができるII型CRISPR/CasシステムのcrRNA又は/及びtracrRNAを含むことができ、前記ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体はCasエンドヌクレアーゼをDNA標的部位に導き、CasエンドヌクレアーゼがDNA標的部位を認識し、結合し、場合によりニッキング又は切断する(一本鎖切断又は二本鎖切断を導入する)ことを可能にすることができる。
【0204】
ガイドポリヌクレオチドの製造及び安定化
ガイドポリヌクレオチドは、当該技術分野で知られている任意の方法、例えば、ガイドポリヌクレオチドを化学的に合成する方法(限定されないが、Hendel et al.2015,Nature Biotechnology 33,985-989など)、インビトロでガイドポリヌクレオチドを生成する方法、及び/又はガイドRNAを自己スプライシングする方法(限定されないが、Xie et al.2015,PNAS 112:3570-3575など)によって製造することができる。
【0205】
Cas9媒介DNAターゲティングを行うために真核細胞中でガイドRNAなどのRNA成分を発現させる方法は、RNAポリメラーゼIII(Pol III)プロモーターを使用することであり、これは、正確に規定された、改変されていない5’末端及び3’末端を有するRNAの転写を可能にする(DiCarlo et al.,Nucleic Acids Res.41:4336-4343、Ma et al.,Mol.Ther.Nucleic Acids 3:e161)。この戦略は、トウモロコシ及びダイズを含むいくつかの異なる種の細胞に首尾よく適用されている(米国特許出願公開第2015/0082478号明細書(2015年3月19日公開))。5’キャップを有さないRNA成分を発現させる方法が記載されている(国際公開第2016/025131号パンフレット(2016年2月18日公開))。
【0206】
いくつかの態様では、対象核酸(例えば、ガイドポリヌクレオチド、ガイドポリヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Casタンパク質をコードする核酸、crRNA又はcrRNAをコードするヌクレオチド、tracrRNA又はtracrRNAをコードするヌクレオチド、VTドメインをコードするヌクレオチド、CPRドメインをコードするヌクレオチドなど)は、さらなる望ましい特徴(例えば、安定性の改変又は調節、細胞内ターゲティング、トラッキング(例えば、蛍光標識)、タンパク質又はタンパク質複合体の結合部位など)を提供する修飾又は配列を含む。ガイドポリヌクレオチド、VTドメイン及び/又はCERドメインのヌクレオチド配列修飾は、5’キャップ、3’ポリアデニル化テイル、リボスイッチ配列、安定性制御配列、dsRNA二本鎖を形成する配列、ガイドポリヌクレオチドを細胞内位置にターゲティングする改変若しくは配列、トラッキングを提供する改変若しくは配列、タンパク質のための結合部位を提供する改変若しくは配列、ロックド核酸(LNA)、5-メチルdCヌクレオチド、2,6-ジアミノプリンヌクレオチド、2’-フルオロAヌクレオチド、2’-フルオロUヌクレオチド;2’-O-メチルRNAヌクレオチド、ホスホロチオエート結合、コレステロール分子への結合、ポリエチレングリコール分子への結合、スペーサー18分子への結合、5’から3’への共有結合、又はこれらの任意の組み合わせからなる群から選択することができるがこれらに限定されない。これらの修飾は、少なくとも1つの追加の有益な特徴をもたらすことができるが、この追加の有益な特徴は、安定性の改変若しくは調節、細胞内ターゲティング、トラッキング、蛍光標識、タンパク質若しくはタンパク質複合体のための結合部位、相補的標的配列に対する結合親和性の改変、細胞分解に対する耐性の改変、及び細胞透過性の増大からなる群から選択される。
【0207】
用語「5’キャップ」及び「7-メチルグアニル酸(mG)キャップ」は、本明細書中で互換的に用いられる。7-メチルグアニル酸残基は、真核細胞のメッセンジャーRNA(mRNA)の5’末端に位置する。RNAポリメラーゼII(Pol II)は、真核細胞のmRNAを転写する。メッセンジャーRNAキャッピングは、一般に次のように発生する:mRNA転写産物の最末端5’リン酸基は、RNA末端ホスファターゼによって除去され、2つの末端リン酸基が残る。グアノシン一リン酸(GMP)は、グアニリルトランスフェラーゼによって転写物の末端リン酸基に加えられ、転写物末端に5’-5’三リン酸結合グアニンが残る。最後に、この末端グアニンの7-窒素が、メチルトランスフェラーゼによってメチル化される。
【0208】
ガイド型Casシステム
本明細書で使用される場合、用語「ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体」、「ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステム」、「ガイドポリヌクレオチド/Cas複合体」、「ガイドポリヌクレオチド/Casシステム」、「ガイド型Casシステム」、「ポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ」及び「PGEN」は、本明細書では互換的に使用され、複合体を形成することができる少なくとも1つのガイドポリヌクレオチド及び少なくとも1つのCasエンドヌクレアーゼを指し、前記ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、CasエンドヌクレアーゼをDNA標的部位にガイドして、CasエンドヌクレアーゼがDNA標的部位を認識し、結合し、場合によってニッキング又は切断する(一本鎖切断又は二本鎖切断を導入する)ことを可能にすることができる。本明細書中のガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、Casタンパク質、又はその断片及び変異体、並びに知られているCRISPRシステム(Horvath and Barrangou,2010,Science 327:167-170、Makarova et al.2015,Nature Reviews Microbiology Vol.13:1-15、Zetsche et al.,2015,Cell 163,1-13、Shmakov et al.,2015,Molecular_Cell 60,1-13)のいずれかの好適なポリヌクレオチド成分を含み得る。Casエンドヌクレアーゼは、CASタンパク質と複合化したポリヌクレオチド(例えば、限定はされないが、crRNA又はガイドRNA)により標的配列を認識することにより媒介し、標的配列でDNA二本鎖をほどき、場合により、少なくとも1本のDNA鎖を切断する。正確なプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)が、DNA標的配列の3’末端に位置するか、又は隣接するなら、そのようなCasエンドヌクレアーゼによる標的配列の認識及び切断が、通常、起こる。或いは、本明細書に記載のCasタンパク質は、好適なRNA成分と複合化した場合、DNA切断活性又はニッキング活性を欠くことがあるが、DNA標的配列には依然として特異的に結合することができる。
【0209】
DNA標的配列の両方の鎖を切断することができるガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、通常、エンドヌクレアーゼドメインの全てを機能的な状態で有するCasタンパク質(例えば、各エンドヌクレアーゼドメインの一部又は全ての活性を保持する野生型エンドヌクレアーゼドメイン又はその変異体)を含む。ゆえに、Casタンパク質の各エンドヌクレアーゼドメインの一部又は全ての活性を保持する野生型Casタンパク質(例えば、本明細書中に開示されるCasタンパク質)又はその変異体は、DNA標的配列の両方の鎖を切断することができるCasエンドヌクレアーゼの好適な例である。
DNA標的配列の1本の鎖を切断することができるガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、本明細書において、ニッカーゼ活性(例えば、部分的切断能力)を有すると特徴付けられ得る。Casニッカーゼは、通常、CasがDNA標的配列の1本の鎖のみを切断する(すなわち、ニックを入れる)ことを可能にする1つの機能的エンドヌクレアーゼドメインを含む。例えば、Cas9ニッカーゼは、(i)変異した、機能不全RuvCドメイン、及び(ii)機能的HNHドメイン(例えば、野生型HNHドメイン)を含み得る。別の例として、Cas9ニッカーゼは、(i)機能的RuvCドメイン(例えば、野生型RuvCドメイン)、及び(ii)変異した、機能不全HNHドメインを含み得る。別の例として、Cas9ニッカーゼは、(i)機能的RuvCドメイン(例えば、野生型RuvCドメイン)、及び(ii)変異した、機能不全HNHドメインを含み得る。
【0210】
本明細書での使用に好適なCas9ニッカーゼの非限定的な例は、Gasiunas et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.109:E2579-E2586)、Jinek et al.(Science 337:816-821)、Sapranauskas et al.(Nucleic Acids Res.39:9275-9282)及び米国特許出願公開第2014/0189896号明細書に開示されており、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0211】
例えば、本明細書におけるCas9ニッカーゼは、Asp-31置換(例えば、Asp-31-Ala)(変異RuvCドメインの例)、又はHis-865置換(例えば、His-865-Ala)、Asn-882置換(例えば、Asn-882-Ala)、若しくはAsn-891置換(例えばAsn-891-Ala)(変異HNHドメインの例)を有するS.サーモフィルス(S.thermophilus)Cas9を含み得る。また、例えば、本明細書におけるCas9ニッカーゼは、Asp-10置換(例えば、Asp-10-Ala)、Glu-762置換(例えば、Glu-762-Ala)、若しくはAsp-986置換(例えば、Asp-986-Ala)(変異RuvCドメインの例)、又はHis-840置換(例えば、His-840-Ala)、Asn-854置換(例えば、Asn-854-Ala)、若しくはAsn-863置換(例えば、Asn-863-Ala)(変異HNHドメインの例)を有するS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9を含み得る。S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9に関して、3つのRuvCサブドメインは、一般に、アミノ酸残基1~59、718~769、及び909~1098にそれぞれ位置し、HNHドメインは、アミノ酸残基775~908に位置している(Nishimasu et al.,Cell 156:935-949)。
【0212】
本明細書中のCas9ニッカーゼは、開示する本発明の宿主細胞において様々な目的のために使用され得る。例えば、Cas9ニッカーゼは、好適なドナーポリヌクレオチドとの、DNA標的部位配列での、又はその近くでのHRを誘発するのに使用され得る。ニッキングされたDNAは、NHEJプロセスのための基質ではなく、HRプロセスによって認識されるので、特定の標的部位でのDNAのニッキングにより、部位は、好適なドナーポリヌクレオチドとのHRをより受け入れ易くなる。
【0213】
DNAターゲティングの特異性を高めるために、一対のCasニッカーゼを使用することができる。一般に、これは、異なるガイド配列を有するRNA成分と結び付けられることによって、所望のターゲティングのためにその領域内の逆鎖上のDNA配列を標的とし、そのすぐ近くをニッキングする2つのCasニッカーゼを提供することによって実施することができる。このような各DNA鎖の近くの切断は、二本鎖切断(すなわち、一本鎖オーバーハングを有するDSB)を引き起こし、これは、その後、非相同性末端結合NHEJ(変異につながる不完全な修復になりやすい)、又は相同組み換えHRの基質として認識される。これらの実施形態における各ニックは、例えば、互いと少なくとも約5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、若しくは100(又は、5~100の任意の整数)塩基離すことができる。本明細書中の1つ又は2つのCasニッカーゼタンパク質を、Casニッカーゼ対に使用することができる。例えば、変異RuvCドメインを有するが、機能するHNHドメインは有するCas9ニッカーゼ(すなわち、Cas9 HNH+/RuvC-)を使用することができる(例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9 HNH+/RuvC-)。各Cas9ニッカーゼ(例えば、Cas9 HNH+/RuvC-)は、各ニッカーゼをそれぞれの特定のDNA部位に標的として向けるガイドRNA配列を有する本明細書に記載の好適なRNA成分を用いることによって、互いに近い(最大で100塩基対離れている)特定のDNA部位に導かれ得る。
【0214】
特定の実施形態におけるガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、DNA標的部位配列に結合することができるが、標的部位配列のいかなる鎖も切断しない。このような複合体は、そのヌクレアーゼドメインの全部が変異し機能不全であるCasタンパク質を含み得る。例えば、DNA標的部位配列に結合することができるが、標的部位配列のいかなる鎖も切断しない本明細書に記載のCas9タンパク質は、変異し機能不全であるRuvCドメイン、及び変異し機能不全であるHNHドメインの両方を含み得る。このようなCas9タンパク質の非限定的な例は、先に開示したRuvCヌクレアーゼドメイン変異及びHNHヌクレアーゼドメイン変異のいずれかを含む(例えば、Asp-10置換、例えばAsp-10-Ala、及びHis-840置換、例えばHis-840-Alaを有するS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9)。標的DNA配列に結合するがこれを切断しない本明細書中のCasタンパク質は、遺伝子発現を調整するために用いることができ、例えば、この場合、Casタンパク質は、転写因子(又はその一部)(例えば、リプレッサ又は活性化因子、例えば本明細書に開示されるもののいずれか)と融合し得る。例えば、Asp-10置換(例えば、Asp-10-Ala)及びHis-840置換(例えば、His-840-Ala)を有するS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9を含むCas9は、VP16転写活性化因子ドメイン又はVP64転写活性化因子ドメインに融合し得る。
【0215】
ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、本明細書に記載されるCasエンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片を含むことができ、ここで、前記ガイドポリヌクレオチドはキメラ非天然ガイドポリヌクレオチドであり、前記ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキングし、ほどき、又は切断することができる。
【0216】
一態様では、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、本明細書に記載のガイドポリヌクレオチドとCas9エンドヌクレアーゼ変異体との複合体であり、ここで、前記ガイドポリヌクレオチドはキメラ非天然ガイドポリヌクレオチドであり、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、(同じガイドポリヌクレオチドと複合化して、同じ標的部位を改変することができるポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成した)その親Casエンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の上昇、DNA編集効率の上昇、オフターゲット切断の減少、又はそれらの任意の組合せなど(これらに限定されない)の少なくとも1つの特性の改善を有する。
【0217】
ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、ガイドポリヌクレオチドと本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体との複合体であり得、ここで、前記ガイドポリヌクレオチドはキメラ非天然ガイドポリヌクレオチドであり、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片は、本明細書に記載の親Cas9ポリペプチドと少なくとも80%のアミノ酸同一性を有し、そのHNH及びRuVCドメインの外側の位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する(ここで、変異体のアミノ酸位置は、親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けられ、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はエンドヌクレアーゼ活性を有する)。
【0218】
ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、ガイドポリヌクレオチドと本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体との複合体であり得、ここで、前記ガイドポリヌクレオチドはキメラ非天然型ガイドポリヌクレオチドであり、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片は、配列番号1に記載の親Cas9ポリペプチドと少なくとも80%のアミノ酸同一性を有し、少なくとも1つの155位におけるアミノ酸置換を有する(ここで、変異体のアミノ酸位置は、親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされ、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はエンドヌクレアーゼ活性を有する)。
【0219】
ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、ガイドポリヌクレオチドと本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体との複合体であり得、ここで、前記ガイドポリヌクレオチドはキメラ非天然型ガイドポリヌクレオチドであり、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片は、配列番号1に記載の親Cas9ポリペプチドと少なくとも80%のアミノ酸同一性を有し、少なくとも2つのアミノ酸置換、第1の置換は86位の、第2の置換は98位のアミノ酸置換を有する(ここで、変異体のアミノ酸位置は、前記親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされ、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はエンドヌクレアーゼ活性を有する)。
【0220】
用語「ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体」、「ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼシステム」、「ガイドRNA/Cas複合体」、「ガイドRNA/Casシステム」、「gRNA/Cas複合体」、「gRNA/Casシステム」、「RNAガイドエンドヌクレアーゼ」、「RGEN」は、本明細書では互換的に使用され、複合体を形成することができる少なくとも1つのRNA成分及び少なくとも1つのCasエンドヌクレアーゼを指し、前記ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、CasエンドヌクレアーゼをDNA標的部位にガイドして、CasエンドヌクレアーゼがDNA標的部位を認識し、結合し、場合によってニッキング又は切断する(一本鎖切断又は二本鎖切断を導入する)ことを可能にすることができる。
【0221】
本明細書に記載のガイド型Casシステムは、1つ以上の発現コンストラクトから宿主細胞において発現され得る。いくつかの態様では、本明細書に記載のCasエンドヌクレアーゼ変異体は原核細胞又は真核細胞においてCasタンパク質の発現を指令する発現カセットから発現され得、また、ガイドポリヌクレオチドは原核細胞又は真核細胞においてガイドポリヌクレオチドの発現を指令する第2の発現カセットから発現され得る。
【0222】
本開示はさらに、標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合によりニッキングし、ほどき、又は切断することができるガイドRNA/Casシステムを原核細胞又は真核細胞/生命体において発現させるための発現コンストラクトを提供する。
【0223】
発現カセット及び組み換えDNAコンストラクト
本明細書に開示のポリヌクレオチドは、目的の生命体で発現させるための発現カセット(DNAコンストラクトとも呼ばれる)中に提供され得る。用語「発現」は、本明細書において使用する場合、前駆体又は成熟形での機能的最終産物(例えば、crRNA、tracrRNA,mRNA、ガイドRNA又はポリペプチド(タンパク質)の生成を指す。用語「発現」には、例えば、限定はされないが、転写、転写後改変、翻訳、翻訳後改変、及び分泌を含むポリペプチドの産生に関与する任意の工程が含まれる。
【0224】
発現カセットは、本明細書に開示されるように、ポリヌクレオチドに作動可能に連結された5’調節配列及び3’調節配列を含み得る。
【0225】
「作動可能に連結される」は、2つ以上のエレメント間の機能的連結を意味するものとする。例えば、目的ポリヌクレオチドと調節配列(例えば、プロモーター)との間の作動可能な連結は、目的ポリヌクレオチドの発現を可能にする機能的連結である(すなわち、目的ポリヌクレオチドは、プロモーターの転写制御下にある)。作動可能に連結したエレメントは、隣接していても隣接していなくてもよい。2つのタンパク質コード領域の連結を指すために使用する場合、作動可能に連結されるとは、コード領域が同じリーディングフレームにあることが意図されている。
【0226】
本明細書に開示の発現カセットは、転写の5’-3’方向に、宿主細胞(例えば、真核細胞)において機能的な、転写及び翻訳開始領域(すなわち、プロモーター)、目的ポリヌクレオチド、並びに転写及び翻訳終結領域(すなわち、終結領域)を含み得る。発現カセットはまた、本明細書中の他の箇所に記載される調節領域の転写調節下にあるべきポリヌクレオチドの挿入のための複数の制限部位及び/又は組み換え部位を備える。調節領域(すなわち、プロモーター、転写調節領域及び翻訳終結領域)、及び/又は目的ポリヌクレオチドは、宿主細胞に対し、又は相互に天然/類似であり得る。或いは、調節領域及び/又は目的ポリヌクレオチドは、宿主細胞に対し、又は相互に異種であり得る。本明細書で使用する場合、ポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列に関連した「異種の」は、外来種を起源とする配列であるか、又は同一種からのものであれば、組成及び/又はゲノム遺伝子座が意図的な人的介入によって天然の形態から実質的に改変された配列である。例えば、異種ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターは、そのポリヌクレオチドが由来する種と異なる種からのものであるか、又は、同一/類似種からのものであれば、一方若しくは両方が元の形態及び/若しくはゲノム遺伝子座から実質的に改変されており、或いは、そのプロモーターは、作動可能に連結しているポリヌクレオチドに対し天然のプロモーターではない。本明細書で使用する場合、他に規定されていない限り、キメラポリヌクレオチドは、転写開始領域に作動可能に連結したコード配列を含む(転写開始領域はコード配列に対して異種である)。
【0227】
特定の実施形態では、本明細書に開示されるポリヌクレオチドは、本明細書中の他の箇所に開示されるか、又は当該技術分野で知られているように、目的ポリヌクレオチド配列又は発現カセットの任意の組み合わせとスタックすることができる。スタックポリヌクレオチドは、最初のポリヌクレオチドと同じプロモーターに作動可能に連結され得るか、又は別のプロモーターポリヌクレオチドに作動可能に連結され得る。
【0228】
発現カセットは、対応する終結領域と共に、目的ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含み得る。終結領域は転写開始領域に対して天然であっても、目的の作動可能に連結されたポリヌクレオチドに対して、若しくはプロモーター配列に対して天然であっても、宿主生命体に対して天然であっても、又は別の供給源(すなわち、外来又は異種の)由来であってもよい。適切な終結領域は、ファージ配列、例えば、ラムダファージt0終結領域、又は原核生物リボソームRNAオペロン由来の強力なターミネーターから入手可能である。適切な終結領域は、オクトピンシンターゼ終結領域及びノパリンシンターゼ終結領域などのA.ツメファシェンス(A.tumefaciens)のTiプラスミドから入手可能である。また、Guerineau et al.(1991)Mol.Gen.Genet.262:141-144、Proudfoot(1991)Cell 64:671-674、Sanfacon et al.(1991)Genes Dev.141-149、Mogen et al.5:(1990)Plant Cell 2:1261-1272;Munroe et al.(1990)Gene 91:151-158、Ballas et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:7891-7903、及びJoshi et al.(1987)Nucleic Acids Res.15:9627-9639を参照されたい。
【0229】
適切であれば、目的ポリヌクレオチドは、形質転換された又はターゲティングされた生命体における発現を増加させるために最適化し得る。例えば、ポリヌクレオチドは、発現の改善のために生命体に好ましいコドンを使用するように合成又は改変することができる。
【0230】
細胞宿主中での遺伝子発現を増大させるためのさらなる配列の改変が知られている。このような改変には、疑似ポリアデニル化シグナルをコードする配列、エクソン-イントロンスプライス部位シグナルをコードする配列、トランスポゾン様リピートをコードする配列、及び遺伝子の発現に有害であり得る他のそのようなよく特徴付けられた配列の除去が含まれる。配列のG-C含有量は、宿主細胞中で発現する既知の遺伝子を参照することによって算出される、所与の細胞宿主の平均的なレベルに調節することができる。可能であれば、予想されるヘアピン二次mRNA構造を避けるよう配列を改変する。
【0231】
発現カセットはさらに、5’リーダー配列を含むことができる。そのようなリーダー配列は翻訳を促進するよう作用し得る。5’非翻訳領域と互換的に使用される5’リーダー配列は、バチルス・サブティルス(Bacillus subtilis)aprE遺伝子、又はバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)amyl遺伝子、又は任意の細菌リボソームタンパク質遺伝子由来のものなど、よく知られ、よく特徴付けられた細菌UTRから得られ得る。翻訳リーダーは当該技術分野では知られており、以下のものが挙げられる:ピコルナウイルスリーダー、例えばEMCVリーダー(脳心筋炎5’非コード領域)(Elroy-Stein et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6126-6130)、ポティウイルスリーダー、例えば、TEVリーダー(タバコエッチウイルス(Tobacco Etch Virus))(Gallie et al.(1995)Gene 165(2):233-238)、MDMVリーダー(トウモロコシ矮性モザイクウイルス(Maize Dwarf Mosaic Virus)(Johnson et al.(1986)Virology 154:9-20、及びヒト免疫グロブリン重鎖結合タンパク質(BiP)(Macejak et al.(1991)Nature 353:90-94)、アルファルファモザイクウイルス(alfalfa mosaic virus)のコートタンパク質mRNA由来の非翻訳リーダー(AMV RNA4)(Jobling et al.(1987)Nature 325:622-625);タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus)リーダー(TMV)(Gallie et al.(1989)in Molecular Biology of RNA、ed.Cech(Liss、New York)、pp.237-256);並びにトウモロコシクロロティックモットルウイルスリーダー(MCMV)(Lommel et al.(1991)Virology 81:382-385)。また、Della-Cioppa et al.(1987)Plant Physiol.84:965-968も参照されたい。翻訳を促進することが知られている他の方法、例えば、イントロンなども使用することができる。
【0232】
発現カセットの調製には、各種DNA断片が、適当な配向で、必要ならば、適当なリーディングフレームにおけるDNA配列を提供するように操作され得る。この終わり近くに、アダプター又はリンカーがDNA断片の結合に使用され得、或いは、適当な制限酵素認識部位、不要なDNAの除去、制限酵素認識部位の除去などを提供する他の操作が行われ得る。この目的のために、インビトロの変異誘発、プライマー修復、制限、アニーリング、再置換、例えば、移行及びトランスバージョンを関与させることができる。
【0233】
いくつかの実施形態では、ガイドヌクレオチド及び/又はCasタンパク質をコードするヌクレオチド配列は制御エレメント(例えば、プロモーターなどの転写制御エレメント)に作動可能に連結される。転写制御エレメントは、真核細胞、例えば植物、哺乳動物細胞若しくは真菌細胞;又は原核細胞(例えば、細菌又は古細菌細胞)において機能し得る。いくつかの実施形態では、ガイドヌクレオチド及び/又はCasタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、原核細胞及び真核細胞の両方において、ガイドヌクレオチド及び/又はCasタンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現を可能にする複数の制御エレメントに作動可能に連結される。
【0234】
好適な真核生物プロモーター(真核細胞において機能的なプロモーター)の非限定的な例としては、サイトメガロウイルス(CMV)前初期、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ、初期及び後期SV40、レトロウイルスの長末端反復(LTR)、及びマウスメタロチオネイン-I由来のものが挙げられる。発現カセットはまた、翻訳開始のためのリボソーム結合部位及び転写ターミネーターを含み得る。発現カセットはまた、真核細胞においてガイドヌクレオチド及び/又はCasタンパク質を核に導くために、1つ以上の核局在配列(NLS配列)を含み得る。発現カセットはまた、発現を増幅するための適切な配列を含み得る。発現カセットはまた、Casタンパク質に融合され、したがってキメラポリペプチドを生じる、タンパク質タグ(例えば、6×Hisタグ、赤血球凝集素タグ、緑色蛍光タンパク質など)をコードするヌクレオチド配列を含み得る。
【0235】
真菌宿主中での転写のため、有用なプロモーターの非限定的な例としては、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼ、リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)アスパラギン酸プロテイナーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中性α-アミラーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)酸安定性α-アミラーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)グルコアミラーゼ、リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼ、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)アルカリプロテアーゼ、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)トリオースリン酸イソメラーゼ、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)アセトアミダーゼなどをコードする遺伝子に由来するものが挙げられる。Casエンドヌクレアーゼをコードする遺伝子が細菌種、例えば、E.コリ(E.coli)中で発現される場合、好適なプロモーターは、例えば、T7プロモーター及びファージラムダプロモーターを含むバクテリオファージプロモーターから選択することができる。この方針に沿って、酵母種中での発現に好適なプロモーターの例として、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のGal 1及びGal 10プロモーター、並びにピキア・パストリス(Pichia pastoris)AOX1又はAOX2プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。糸状菌宿主細胞中での発現は、多くは、T.レーセイ(T.reesei)由来の内因性ガイド性プロモーターであるcbh1、又は構成的糖分解プロモーター(例えば、pki)を含む。例えば、Liu et al.2008を参照されたい。
【0236】
細菌宿主中でDNA配列(限定はされないが、本明細書に記載のCasエンドヌクレアーゼ変異体をコードするDNA配列など)の転写を指示するプロモーターの非限定的な例としては、E.コリ(E.coli)のlacオペロンのプロモーター、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)アガラーゼ遺伝子dagA又はcelAプロモーター、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)アミラーゼ遺伝子(amyL)のプロモーター、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)マルトジェニックアミラーゼ遺伝子(amyM)のプロモーター、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)アミラーゼ(amyQ)のプロモーター、バチルス・サブティルス(Bacillus subtilis)xylA及びxylB遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。
【0237】
発現カセットは、直鎖状DNA、環状DNA、組み換えDNA、プラスミド又はベクター中に含まれ得る。
【0238】
本明細書で使用する場合、「組み換え」は、例えば、化学合成によって、又は遺伝子工学技術による核酸の単離セグメントの操作によって、2つのさもなければ分離している配列セグメントの人工的組み合わせを意味する。「組み換え体」という用語は、生物学的構成要素又は組成物(例えば、細胞、核酸、ポリペプチド/酵素、ベクターなど)に関連して使用される場合、それらの生物学的構成要素又は組成物が天然では見られない状態のものであることを示す。言い換えれば、生物学的構成要素又は組成物は、人の介入によって天然状態から変えられている。例えば、組み換え細胞には、天然の親(すなわち、非組み換え)細胞中で見出されない1つ以上の遺伝子を発現する細胞、天然の親細胞とは異なる量で1つ以上の天然遺伝子を発現する細胞、及び/又は天然の親細胞とは異なる条件下で1つ以上の天然遺伝子を発現する細胞が包含される。組み換え核酸は、天然配列と1つ以上のヌクレオチドが異なっている、異種配列(例えば、異種プロモーター、非天然又は変異シグナル配列をコードする配列など)に作動可能に連結している、イントロンを欠いている、及び/又は単離された形態にあり得る。組み換えポリペプチド/酵素は、天然配列と1つ以上のアミノ酸が異なっている、異種配列に融合している、トランケートされるか、若しくはアミノ酸の内部欠失を有する、天然細胞に見られない態様で(例えば、ポリペプチドをコードする発現ベクターが細胞中に存在することにより、ポリペプチドを過剰発現する組み換え細胞から)発現する、及び/又は単離された形態にあり得る。いくつかの実施形態では、組み換えポリヌクレオチド、又はポリペプチド/酵素が、その野生型の相手と同一の配列を有するが、非天然形態(例えば、単離、又は富化された形態)であることが強調されている。
【0239】
本明細書で使用される場合、「組み換えDNAコンストラクト」又は「組み換えDNA」は、核酸断片の人工的な組み合わせを含む発現カセットを指す。
組み換えDNAコンストラクトは、本明細書に開示されるように、ポリヌクレオチドに作動可能に連結された5’調節配列及び3’調節配列を含み得る。
【0240】
例えば、組み換えDNAコンストラクトは、異なる供給源に由来する調節配列及びコード配列を含み得る。このようなコンストラクトは、それ自体で、又はベクターと共に使用され得る。ベクターが使用される場合、ベクターの選択は、当業者によく知られているように、宿主細胞にベクターを導入するために使用する方法に依存する。例えば、プラスミドベクターを使用することができる。熟練した技術者は、宿主細胞を成功裡に形質転換し、選択し、そして増殖させるために、ベクター上に存在しなければならない遺伝要素をよく知っている。熟練した技術者はまた、異なる独立した形質転換イベントが、異なる発現レベル及びパターンをもたらし(Jones et al.,(1985)EMBO J 4:2411-2418、De Almeida et al.,(1989)Mol Gen Genetics 218:78-86)、したがって、所望の発現レベル及びパターンを示す菌株を得るために、通常多くのイベントがスクリーニングされることも認識していよう。そのようなスクリーニングは、DNAのサザン分析、mRNA発現のノーザン分析、PCR、実時間定量PCR(qPCR)、逆転写PCR(RT-PCR)、タンパク質発現の免疫ブロッティング、酵素若しくは活性分析、及び/又は表現型分析を含む、標準の分子生物学的、生化学的及び他の分析法により行い得る。
【0241】
本明細書で使用される、標準の遺伝子組み換えDNA及び分子クローニング技術は、当該技術分野ではよく知られており、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989)に、より詳しく説明されている。
【0242】
一態様では、組み換えDNAコンストラクトは、本明細書に開示されるように、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体に作動可能に連結された異種5’及び3’調節配列を含む。これらの調節配列としては、限定はされないが、宿主細胞(例えば、細菌又は真菌細胞)において機能する、転写及び翻訳開始領域(すなわち、プロモーター)、核局在化シグナル、並びに転写及び翻訳終結領域(すなわち、終結領域)を含む。
【0243】
一態様では、組み換えDNAコンストラクトは、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体をコードするDNAを含み、ここで、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、核局在化配列(NLS)などの異種調節エレメントに作動可能に連結されるか、又はそれを含む。
【0244】
一態様では、本明細書中の発現カセット又は組み換えDNAは、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結したプロモーター、及び本開示のガイドRNAに作動可能に連結したプロモーターを含む。プロモーターは、原核又は真核細胞/生命体において作動可能に連結したヌクレオチド配列の発現を駆動することができる。
【0245】
用語「プラスミド」又は「ベクター」は、細胞の中央代謝の一部でない遺伝子をしばしば運ぶ、追加の直鎖状又は環状の染色体エレメントを指し、通常、二本鎖DNAの形態をとる。このようなエレメントは、直鎖又は環状形態の、一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドの、任意の起源に由来する、自律的に複製する配列、ゲノム組み込み配列、ファージ又はヌクレオチド配列であり得、これらの中では、多くのヌクレオチド配列が、目的ポリヌクレオチドを細胞に導入することができる固有のコンストラクトに連結しているか、組み換えられている。
【0246】
標的部位
用語「標的部位」、「標的配列」、「標的部位配列」、「標的DNA」、「標的遺伝子座」、「ゲノム標的部位」、「ゲノム標的配列」、「ゲノム標的遺伝子座」及び「プロトスペーサー」が本明細書において互換的に使用され、限定はされないが、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体が認識し、結合し、場合によりニッキング又は切断することができる、染色体、エピソーム、トランスジェニック遺伝子座、又は、細胞のゲノム内のあらゆる他のDNA分子(染色体DNA、葉緑体DNA、ミトコンドリアDNA、プラスミドDNAを含む)などのポリヌクレオチド配列を指す。
【0247】
標的部位は細胞のゲノム中の内因性部位であり得、又は、標的部位は細胞に対して異種であり、そのため細胞のゲノム中に天然には存在していない部位であり得、又は標的部位は天然で生じる場所と比較して異種のゲノム位置に見出すことができる。本明細書で使用される場合、用語「内因性標的配列」及び「天然標的配列」は本明細書において互換的に使用され、細胞のゲノムに対し内因性であるか又は天然であり、細胞のゲノム中のその標的配列の内因性又は天然の位置に存在する標的配列を指す。「人工標的部位」又は「人工標的配列」は本明細書中で互換的に使用され、細胞のゲノム中に導入された標的配列を指す。そのような人工標的配列は、細胞のゲノム中の内因性又は天然の標的配列と配列は同一であるが、細胞のゲノム中の異なる位置(すなわち、非内因性位置又は非天然位置)に位置し得る。
【0248】
「変更標的部位」、「変更標的配列」、「改変標的部位」、「改変標的配列」は、本明細書中で互換的に使用され、非変更標的配列と比較して少なくとも1つの変更を含む、本明細書に開示の標的配列を指す。そのような「変更」としては、例えば、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、又は(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせが挙げられる。
【0249】
Casエンドヌクレアーゼの標的部位は非常に特異的であり得、正確なヌクレオチド位置に定義され得ることが多いが、ある場合には、所望のゲノム改変のための標的部位は、DNA切断が起こる部位のみと比べて広く定義され得る(例えば、ゲノムから欠失されるゲノム遺伝子座又は領域)。そのため、特定の場合(Cas/ガイドRNAの活性により起こるゲノム改変)には、DNA切断は「標的部位又は標的部位近くで」起こると説明される。
【0250】
「標的部位を改変する」及び「標的部位を変更する」方法は、本明細書中で互換的に使用され、変更標的部位を作る方法を指す。
【0251】
スクリーニング可能マーカー表現型を使用せずに、標的部位又は標的部位の近くで変更ゲノムを有するそれらの細胞を同定するためには、様々な方法を利用することができる。そのような方法は、標的配列内の何らかの変化を検出するために標的配列を直接分析するものであると見なすことができ、例えば、限定はされないが、PCR法、シークエンシング法、ヌクレアーゼ消化法、サザンブロット法、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0252】
標的DNA配列(標的部位)の長さは変動する可能性があり、例えば、長さが少なくとも12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30ヌクレオチド又はそれ以上である標的部位が含まれる。さらに、標的部位は回文構造、すなわち、一方の鎖上の配列が相補鎖上で反対方向に同一配列を読み取れる構造であり得る可能性もある。ニック/切断部位は標的配列内に存在する可能性がある、又はニック/切断部位は標的配列の外側に存在する可能性がある。別のバージョンでは、切断が互いに直接向かい合ったヌクレオチド位置で起きて平滑末端切断が起きる可能性があり、その他の場合では、切り込みが千鳥足状で、5’オーバーハング又は3’オーバーハングであり得る一本鎖オーバーハング(「粘着末端」とも呼ばれる)を生じさせる可能性がある。ゲノム標的部位の活性変異体も使用することができる。そのような活性変異体は、所与の標的部位に対して少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を含むことができ、この活性変異体は生物学的活性を保持しており、したがって、Casエンドヌクレアーゼにより認識されて切断され得る。
【0253】
エンドヌクレアーゼによる標的部位の一本鎖又は二本鎖切断を測定するためのアッセイは当該技術分野で知られており、一般には、認識部位を含有するDNA基質への作用物質の全体的活性及び特異性を測定する。
【0254】
プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)
本明細書中の「プロトスペーサー隣接モチーフ」(PAM)は、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ(PGEN)システムによって認識(標的化)される標的配列(プロトスペーサー)に隣接する短いヌクレオチド配列を指す。PAM配列が標的DNA配列の後に続いていないなら、標的DNA配列を首尾よく認識することはできない。本明細書中のPAMの配列及び長さは、使用するCasタンパク質又はCasタンパク質複合体によって異なり得る。PAM配列の長さは任意であり得るが、一般的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又はヌクレオチド長である。
【0255】
本明細書中のPAMは、通常、利用するPGENのタイプを考慮して選択される。本明細書中のPAM配列は、例えば、Casが由来し得る本明細書に開示のあらゆる種に由来する、本明細書に記載のCas9変異体などのCasを含むPGENによって認識されるものであり得る。特定の実施形態では、PAM配列は、S.ピオゲネス(S.pyogenes)、S.サーモフィルス(S.thermophilus)、S.アガラクティエ(S.agalactiae)、N.メニンジティディス(N.meningitidis)、T.デンティコーラ(T.denticola)、又はF.ノビシダ(F.novicida)に由来するCas9を含むRGENによって認識されるものであり得る。例えば、S.ピオゲネス(S.pyogenes)由来の好適なCas9、例えば、本明細書に記載のCas9 Y155変異体は、NGGのPAM配列を有するゲノム配列を標的とするために使用され得る;NはA、C、T、又はGであり得る)。他の例として、以下のPAM配列を有するDNA配列を標的とする場合、好適なCas9は以下の種のいずれかに由来し得る:S.サーモフィルス(S.thermophilus)(NNAGAA)、S.アガラクティエ(S.agalactiae)(NGG、NNAGAAW[WはA又はTである]、NGGNG)、N.メニンジティディス(N.meningitidis)(NNNNGATT)、T.デンティコーラ(T.denticola)(NAAAAC)、又はF.ノビシダ(F.novicida)(NG)(ここで、これらの特定のPAM配列の全てにおけるNは、A、C、T、又はGである)。本明細書で有用なCas9/PAMの他の例としては、Shah et al.(RNA Biology 10:891-899)及びEsvelt et al.(Nature Methods 10:1116-1121)(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているものが挙げられる。
【0256】
ガイド型Casタンパク質システム
本明細書で提供される組成物及び方法は、多種多様な宿主細胞において使用される。本明細書中で使用される場合、「宿主細胞」は、核酸又はゲノム改変システム(本明細書に記載のガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステムなど)のレシピエントとして使用される任意の細胞型(限定されないが、インビボ若しくはインビトロ細胞、真核細胞、原核細胞、又は単細胞実体として培養された多細胞生命体由来の細胞(例えば、細胞株)など)を指す。用語「宿主細胞」には、本明細書に記載の核酸又はガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体によって形質転換、トランスフェクション又は形質導入された起源細胞の子孫が含まれる。「組み換え宿主細胞」(「遺伝子改変宿主細胞」とも呼ばれる)は、異種核酸、例えば組み換えDNAコンストラクトが導入されているか、又は導入されており、且つ本明細書に記載のガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステムなどのゲノム改変システムを含む宿主細胞である。例えば、対象細菌宿主細胞は、外因性核酸(例えば、プラスミド又は組み換えDNAコンストラクト)の好適な細菌宿主細胞への導入による遺伝子改変細菌宿主細胞を含み、対象真核宿主細胞は、外因性核酸の好適な真核宿主細胞への導入による遺伝子改変真核宿主細胞(例えば、真菌、哺乳動物生殖細胞又は植物細胞)を含む。
【0257】
いくつかの実施形態では、宿主細胞は、古細菌細胞、細菌細胞、真核細胞、真核単細胞生物、体細胞、生殖細胞、幹細胞、植物細胞、藻類細胞、動物細胞、無脊椎動物細胞、脊椎動物細胞、魚細胞、カエル細胞、鳥類細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞、ブタ細胞、ウシ細胞、ヤギ細胞、ヒツジ細胞、げっ歯類細胞、ラット細胞、マウス細胞、非ヒト霊長類細胞、及びヒト細胞からなる群より選択される。いくつかの例では、細胞はインビトロである。いくつかの例では、細胞はインビボである。
【0258】
本明細書に記載のガイドポリヌクレオチド/Casシステムは、遺伝子ターゲティングのために使用され得る。
【0259】
用語「遺伝子ターゲティング」、「ターゲティング」及び「DNAターゲティング」は、本明細書では互換的に使用される。本明細書中のDNAターゲティングは、細胞の染色体又はプラスミドなどにおける、特定のDNA配列でのノックアウト、編集、又はノックインの特異的な導入であり得る。一般に、DNAターゲティングは、本明細書中で、Casエンドヌクレアーゼが好適なポリヌクレオチド成分と関連して、細胞中の特定のDNA配列にて一方の鎖又は双方の鎖を切断することによって、実行され得る。DNAに一本鎖又は二本鎖切断がガイドされると、細胞のDNA修復機構が活性化され、非相同末端結合(NHEJ)又は相同組み換え修復(HDR)プロセスによって切断を修復し、標的部位での改変につながり得る。
【0260】
用語「ノックアウト」、「遺伝子ノックアウト」及び「遺伝的ノックアウト」は、本明細書では互換的に使用される。ノックアウトは、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体などのCasエンドヌクレアーゼによるターゲティングによって部分的に又は完全に無効とされた、細胞のDNA配列を表す。ノックアウト前のそのようなDNA配列は、例えば、アミノ酸配列をコードしていたり、調節機能(例えばプロモータ)を有していたであろう。
【0261】
本明細書に記載のように、ガイドされたCasエンドヌクレアーゼは、DNA標的配列を認識し、それに結合し、そして一本鎖(ニック)又は二本鎖切断を導入し得る。一本鎖又は二本鎖切断がDNA内に導入されると、細胞のDNA修復機構は、切断を修復するように活性化される。エラープローンDNA修復機構は、二本鎖切断部位で変異を作り出すことができる。切断された末端を1つに結合させるための最も一般的な修復機構は、非相同末端結合(NHEJ)経路である(Bleuyard et al.,(2006)DNA Repair 5:1-12)。染色体の構造的完全性は、通常、修復により維持されるが、欠失、挿入又はその他の再配列(染色体転座など)もあり得る(Siebert and Puchta,2002,Plant Cell 14:1121-31、Pacher et al.,2007,Genetics 175:21-9)。
【0262】
ノックアウトは、インデル(NHEJによる標的DNA配列中のヌクレオチド塩基の挿入若しくは欠失)、又は標的部位の、又は標的部位近くの配列の機能を低下させる、若しくは完全に破壊する配列の特異的除去によって作られ得る。本明細書中の用語「インデル」は、染色体又はエピソーム中の標的DNA配列のヌクレオチド塩基の挿入又は欠失を指す。このような挿入又は欠失は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれ以上の塩基であり得る。特定の実施形態では、インデルはさらに大きく、少なくとも約20、30、40、50、60、70p、80、90、又は100塩基であり得る。インデルは、遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)内に導入される場合、フレームシフト変異を作り出すことによって、ORFによってコードされるタンパク質の野生型発現をしばしば破壊する。
【0263】
一実施形態では、本開示は、細胞のゲノム中の標的部位を改変する方法であって、少なくとも1つのガイドポリヌクレオチド、及び少なくとも1つの本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を細胞に導入すること(ここで、前記ガイドポリヌクレオチドはキメラ非天然ガイドポリヌクレオチドであり、前記ガイドポリヌクレオチド及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断することができる複合体(PGEN)を形成することができる)、並びに前記標的で改変を有する少なくとも1つの細胞を同定すること(ここで、前記標的部位における改変は(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、及び(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせからなる群から選択される)を含む方法を記載する。
【0264】
ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステムは、目的のゲノムヌクレオチド配列の編集(改変)を可能にする少なくとも1つのポリヌクレオチド改変テンプレートと組み合わせて使用することができる。
【0265】
「改変ヌクレオチド」又は「編集ヌクレオチド」は、それの非改変ヌクレオチド配列と比較した場合に少なくとも1つの改変を含む目的ヌクレオチド配列を指す。そのような「変更」としては、例えば、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、又は(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせが挙げられる。
【0266】
用語「ポリヌクレオチド改変テンプレート」には、編集すべきヌクレオチド配列と比較して少なくとも1つのヌクレオチド改変を含むポリヌクレオチドが含まれる。ヌクレオチド改変は、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、付加又は欠失であり得る。場合により、ポリヌクレオチド改変テンプレートは、さらに、少なくとも1つのヌクレオチド改変に隣接する相同ヌクレオチド配列を含み、その隣接する相同ヌクレオチド配列は、所望の編集すべきヌクレオチド配列に対し十分な相同性を示す。
【0267】
一実施形態では、本開示は、細胞のゲノム中のヌクレオチド配列を編集する方法であって、細胞中に、少なくとも1つのガイドポリヌクレオチド、少なくとも1つの本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体、及びポリヌクレオチド改変テンプレートを導入すること(ここで、前記ガイドポリヌクレオチドはキメラ非天然ガイドポリヌクレオチドであり、前記ガイドポリヌクレオチド及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断することができる複合体(PGEN)を形成することができ、前記ポリヌクレオチド改変テンプレートは前記ヌクレオチド配列の少なくとも1つのヌクレオチドの改変を含む)を含み、任意選択により、編集されたヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの細胞を選択することをさらに含む方法を含む。
【0268】
編集されるヌクレオチドは、Casエンドヌクレアーゼによって認識され、切断される標的部位の内又は外に位置し得る。一実施形態では、少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体などのCasエンドヌクレアーゼによって認識され、切断される標的部位での改変ではない。別の実施形態では、編集される少なくとも1つのヌクレオチドとゲノム標的部位との間に、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、30、40、50、100、200、300、400、500、600、700、900又は1000個のヌクレオチドがある。
【0269】
細胞のゲノム中のヌクレオチド配列を編集する方法は、2017年4月27日に公開された国際公開第2017/070029号パンフレット、及び2017年4月27日に公開された国際公開第2017/070032号パンフレットに記載されているように、非機能性遺伝子産物に機能を回復させることによって、外因性選択マーカーを使用しない方法であり得る。
【0270】
用語「ノックイン」、「遺伝子ノックイン」、「遺伝子挿入」及び「遺伝的ノックイン」は、本明細書では互換的に使用される。ノックインは、Casタンパク質を用いたターゲティングによる(例えば、相同組み換え(HR)による(この場合、好適なドナーDNAポリヌクレオチドもまた使用される))、細胞内の特定のDNA配列でのDNA配列の置換又は挿入を示す。ノックインの例としては、遺伝子のコード領域中の異種アミノ酸コード配列の特異的な挿入、又は遺伝子座中への転写調節エレメントの特異的な挿入がある。
【0271】
Casエンドヌクレアーゼの標的部位に挿入された目的ポリヌクレオチドを有する細胞又は生命体を得るために、様々な方法及び組成物を利用することができる。このような方法では、標的部位での目的ポリヌクレオチドの組み込みを提供するために相同組み換えを利用し得る。本明細書に記載の1つの方法では、目的ポリヌクレオチドを、ドナーDNAコンストラクトによって生命体細胞に導入する。本明細書で使用される場合、「ドナーDNA」は、Casエンドヌクレアーゼの標的部位内に挿入する目的ポリヌクレオチドを含むDNAコンストラクトである。ドナーDNAコンストラクトは、目的ポリヌクレオチドに隣接する第1及び第2の相同領域をさらに含む。ドナーDNAの第1及び第2の相同領域はそれぞれ、細胞又は生命体ゲノムの標的部位中に存在する、又はこの標的部位に隣接する第1及び第2のゲノム領域に対する相同性を共有する。
【0272】
ドナーDNAは、ガイドポリヌクレオチドに連結され得る。連結されたドナーDNAは、ゲノム編集、遺伝子挿入及び標的化ゲノム調節に有用な、標的DNAとドナーDNAの共局在化を可能にし、また、内因性HR機構の機能が大きく低下していると予想される分裂後細胞のターゲティングに有用であり得る(Mali et al.,2013,Nature Methods Vol.10:957-963)。
【0273】
エピソームDNA分子はまた、二本鎖切断内にライゲーションする、例えば、染色体二本鎖切断内へT-DNAを組み込むことができる(Chilton and Que,(2003)Plant Physiol 133:956-65、Salomon and Puchta,(1998)EMBO J 17:6086-95)。二本鎖切断近傍の配列が、例えば、二本鎖切断の成熟に関与しているエクソヌクレアーゼにより改変されると、遺伝子変換経路は、非分裂体細胞の相同染色体又はDNA複製後の姉妹染色分体など、相同配列が利用できれば、元の構造を回復することができる(Molinier et al.,(2004)Plant Cell16:342-52)。異所性及び/又はエピジェネティックなDNA配列もまた、相同組み換えのDNA修復テンプレートとして働き得る(Puchta,(1999)Genetics 152:1173-81)。
【0274】
相同組み換え修復(HDR)は、細胞内の二本鎖及び一本鎖DNA切断を修復する機構である。相同組み換え修復としては、相同組み換え(HR)及び一本鎖アニーリング(SSA)が挙げられる(Lieber.2010 Annu.Rev.Biochem.79:181-211)。HDRの最も一般的な形態は相同組み換え(HR)と呼ばれ、これはドナーDNAとアクセプターDNAとの間の最長配列相同性要件を有する。HDRの他の形態としては、一本鎖アニーリング(SSA)及び切断ガイド性複製が挙げられ、これらはHRに比較してより短い配列相同性を必要とする。ニック(一本鎖切断)での相同組み換え修復は、二本鎖切断でのHDRとは異なる機構によって起こり得る(Davis and Maizels.PNAS(0027-8424),111(10),p.E924-E932)。
【0275】
「相同」は、類似するDNA配列を意味する。例えば、ドナーDNA上で見出される「ゲノム領域に対する相同領域」は、細胞又は生命体のゲノムの所与の「ゲノム領域」と類似する配列を有するDNA領域である。相同領域は、切断される標的部位での相同組み換えを促進するのに十分であれば任意の長さであってよい。例えば、相同領域は、この相同領域が、対応するゲノム領域との相同組み換えを受けるのに十分な相同性を有するように、少なくとも5~10、5~15、5~20、5~25、5~30、5~35、5~40、5~45、5~50、5~55、5~60、5~65、5~70、5~75、5~80、5~85、5~90、5~95、5~100、5~200、5~300、5~400、5~500、5~600、5~700、5~800、5~900、5~1000、5~1100、5~1200、5~1300、5~1400、5~1500、5~1600、5~1700、5~1800、5~1900、5~2000、5~2100、5~2200、5~2300、5~2400、5~2500、5~2600、5~2700、5~2800、5~2900、5~3000、5~3100以上の塩基の長さを含み得る。「十分な相同性」とは、2つのポリヌクレオチド配列が相同組み換え反応の基質として作用するのに十分な構造的類似性を有することを示す。この構造的類似性には、各ポリヌクレオチド断片の全長とポリヌクレオチドの配列類似性とが含まれる。配列類似性は、配列の全長にわたる配列同一性パーセント、並びに/又は100%配列同一性を有する連続ヌクレオチドなどの局在化した類似性を含む保存領域及び配列の長さの一部にわたる配列同一性パーセントで説明することができる。
【0276】
標的ポリヌクレオチド及びドナーポリヌクレオチドにより共有される相同性又は配列同一性の量は多様であり得、約1~20bp、20~50bp、50~100bp、75~150bp、100~250bp、150~300bp、200~400bp、250~500bp、300~600bp、350~750bp、400~800bp、450~900bp、500~1000bp、600~1250bp、700~1500bp、800~1750bp、900~2000bp、1~2.5kb、1.5~3kb、2~4kb、2.5~5kb、3~6kb、3.5~7kb、4~8kb、5~10kb、又は最大で標的部位の全長まで(標的部位の全長を含む)の範囲の単位整数値を有する全長及び/又は全領域を含む。これらの範囲にはこの範囲内の全ての整数が含まれ、例えば1~20bpの範囲には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20bpが含まれる。相同性の量はまた、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性パーセントを含む、2つのポリヌクレオチドを完全にアラインした長さ全体にわたる配列同一性パーセントで説明することもできる。十分な相同性は、ポリヌクレオチドの長さと、全体的な配列同一性パーセントと、任意選択で連続ヌクレオチドの保存領域又は局所的な配列同一性パーセントとの任意の組み合わせを含み、例えば、十分な相同性は、標的遺伝子座の領域に対して少なくとも80%の配列同一性を有する75~150bpの領域と説明することができる。十分な相同性はまた、高ストレンジェンシー条件下で特異的にハイブリダイズする2つのポリヌクレオチドの予測能力によって説明することができ、例えば、Sambrook et al.,(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、(Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY)、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.,Eds(1994)Current Protocols,(Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley &Sons,Inc.)、及びTijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Acid Probes,(Elsevier,New York)を参照されたい。
【0277】
本明細書で使用される場合、「ゲノム領域」とは、標的部位のいずれかの側上に存在する、細胞のゲノム中の染色体のセグメントのことであるか、又は標的部位の一部も含むセグメントのことである。このゲノム領域は、このゲノム領域が、対応する相同領域との相同組み換えを受けるのに十分な相同性を有するように、少なくとも5~10、5~15、5~20、5~25、5~30、5~35、5~40、5~45、5~50、5~55、5~60、5~65、5~70、5~75、5~80、5~85、5~90、5~95、5~100、5~200、5~300、5~400、5~500、5~600、5~700、5~800、5~900、5~1000、5~1100、5~1200、5~1300、5~1400、5~1500、5~1600、5~1700、5~1800、5~1900、5~2000、5~2100、5~2200、5~2300、5~2400、5~2500、5~2600、5~2700、5~2800、5-2900、5-3000、5-3100以上の塩基を含み得る。
【0278】
所与のゲノム領域とドナーDNA上で見出される対応する相同領域との間の構造的類似性は、相同組み換えの発生を可能にする、任意の程度の配列同一性であってよい。例えば、ドナーDNAの「相同領域」及び生命体ゲノムの「ゲノム領域」によって共有される相同性又は配列同一性の量は、それらの配列が相同組み換えを受けるように、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性であり得る。
【0279】
ドナーDNA上の相同領域は、標的部位に隣接する任意の配列に対して相同性を有する可能性がある。いくつかの例では、相同領域は、標的部位に直接隣接するゲノム配列に対して高い配列相同性を共有するが、この相同領域を、標的部位に対してさらに5’又は3’であり得る領域に対して十分な相同性を有するように設計することができることは認識される。相同領域はまた、下流のゲノム領域に加えて標的部位の断片とも相同性を有し得る。
【0280】
一実施形態では、第1の相同領域は標的部位の第1の断片をさらに含み、第2の相同領域は標的部位の第2の断片を含み、これらの第1の断片と第2の断片とは異なっている。
【0281】
本明細書で使用される場合、「相同組み換え」には、相同性部位での2つのDNA分子間のDNA断片の交換が含まれる。相同組み換えの頻度は、多数の因子によって影響を受ける。様々な生命体は、相同組み換えの量、及び相同組み換え対非相同組み換えの相対比率に関して変動する。一般に、相同領域の長さは、相同組み換え事象の頻度に影響を及ぼす:相同領域が長いほど頻度は高くなる。相同組み換えを観察するために必要とされる相同領域の長さもまた、種により変動する。多くの例で、少なくとも5kbの相同が使用されるが、相同組み換えは、僅かに25-50bpの相同で観察されている。例えば、Singer et al.,(1982)Cell 31:25-33、Shen and Huang,(1986)Genetics 112:441-57、Watt et al.,(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:4768-72、Sugawara and Haber,(1992)Mol Cell Biol 12:563-75、Rubnitz and Subramani,(1984)Mol Cell Biol 4:2253-8、Ayares et al.,(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:5199-203、Liskay et al.,(1987)Genetics 115:161-7を参照されたい。
【0282】
例えば、相同組み換え(HR)による原核細胞及び真核細胞又は生命体細胞のゲノムの変更は、遺伝子工学にとって強力なツールである。相同組み換えは、植物(Halfter et al.,(1992)Mol Gen Genet 231:186-93)及び昆虫(Dray and Gloor,1997,Genetics 147:689-99)において実証されている。相同組み換えはまた、他の生命体においても達成されてきた。例えば、寄生原虫であるリーシュマニア属(Leishmania)における相同組み換えのためには、少なくとも150~200bpの相同性が必要とされた(Papadopoulou and Dumas,(1997)Nucleic Acids Res 25:4278-86)。糸状菌のアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)では、遺伝子置換は僅か50bpの隣接相同性によって達成されている(Chaveroche et al.,(2000)Nucleic Acids Res 28:e97)。標的化遺伝子置換はまた、繊毛虫類であるテトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)においても実証されている(Gaertig et al.,(1994)Nucleic Acids Res 22:5391-8)。哺乳動物では、相同組み換えは、培養で増殖され、形質転換され、選択され、そしてマウス胚に導入され得る多能性胚性幹細胞株(ES)を使用して、マウスにおいて最も成功している(Watson et al.,1992,Recombinant DNA,2nd Ed.,(Scientific American Books:WH Freeman & Co.により配刊))。
【0283】
DNA二本鎖切断は、相同組み換え経路の促進に有効な因子であると思われる(Puchta et al.,(1995)Plant Mol Biol 28:281-92、Tzfira and White,(2005)Trends Biotechnol 23:567-9、Puchta,(2005)J Exp Bot 56:1-14)。植物では、DNA切断剤を使用すると、人工的に構築された相同DNA反復配列間で相同組み換えが2~9倍増加したことが観察された(Puchta et al.,(1995)Plant Mol Biol 28:281-92)。トウモロコシプロトプラストでは、線状DNA分子を用いた実験で、プラスミド間の相同組み換えが増強されたことが示された(Lyznik et al.,(1991)Mol Gen Genet 230:209-18)。
【0284】
一態様では、本開示は、細胞のゲノム中の標的部位を改変する方法であって、細胞中に、少なくとも1つのガイドポリヌクレオチド、少なくとも1つの本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体、及び少なくとも1つのドナーDNAを導入すること(ここで、前記ガイドポリヌクレオチドはキメラ非天然ガイドポリヌクレオチドであり、前記ガイドポリヌクレオチド及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断することができる複合体(PGEN)を形成することができ、前記ドナーDNAは目的ポリヌクレオチドを含む)を含み、任意選択により、前記目的ポリヌクレオチドが前記標的部位に、又は前記標的部位近くに組み込まれた少なくとも1つの細胞を同定することをさらに含む方法を含む。
【0285】
一態様では、本開示は、バチルス属(Bacillus)宿主細胞のゲノムを改変する方法であって、
改変されるべき少なくとも1つの標的配列を含むバチルス属(Bacillus)宿主細胞に、少なくとも1つの非天然ガイドRNA、及び少なくとも1つの本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を提供すること(ここで、ガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は複合体(PGEN)を形成することができ、前記複合体は前記少なくとも1つの標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断することができる)、並びに
少なくとも1つのバチルス属(Bacillus)宿主細胞を同定すること(ここで、少なくとも1つのゲノム標的配列は改変されている)
を含む方法を含む。前記標的配列の改変は、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、及び(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせからなる群から選択することができる。
【0286】
一態様では、本開示は、E.コリ(E.coli)宿主細胞のゲノムを改変する方法であって、
改変されるべき少なくとも1つの標的配列を含むE.コリ(E.coli)宿主細胞に、少なくとも1つの非天然ガイドRNA、及び少なくとも1つの本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を提供すること(ここで、ガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は複合体(PGEN)を形成することができ、前記複合体は前記少なくとも1つの標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断することができる)、並びに
少なくとも1つのE.コリ(E.coli)宿主細胞を同定すること(ここで、少なくとも1つのゲノム標的配列は改変されている)
を含む方法を含む。
【0287】
一態様では、本開示は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)宿主細胞のゲノムを改変する方法であって、
改変されるべき少なくとも1つの標的配列を含むサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)宿主細胞に、少なくとも1つの非天然ガイドRNA、及び少なくとも1つの本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を提供すること(ここで、ガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は複合体(PGEN)を形成することができ、前記複合体は前記少なくとも1つの標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断することができる)、並びに
少なくとも1つのサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)宿主細胞を同定すること(ここで、少なくとも1つのゲノム標的配列は改変されている)
を含む方法を含む。
【0288】
ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼシステムのさらなる使用が報告されており(米国特許出願公開第2015/0082478A1号明細書(2015年3月19日公開)、国際公開第2015/026886A1号パンフレット(2015年2月26日公開)、米国特許出願公開第2015/0059010A1号明細書(2015年2月26日公開)、米国特許出願第62/023246号明細書(2014年7月7日出願)、及び米国特許出願第62/036,652号明細書(2014年8月13日出願)を参照されたい(これらの文献は全て参照により本明細書に組み込まれる))、限定はされないが、目的ヌクレオチド配列(調節エレメントなど)の改変又は置換、目的ポリヌクレオチドの挿入、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、スプライシング部位の改変及び/又は選択的スプライシング部位の導入、目的タンパク質をコードするヌクレオチド配列の改変、アミノ酸及び/又はタンパク質の融合、並びに目的遺伝子へ逆方向反復配列を発現させることによる遺伝子サイレンシングが挙げられる。
【0289】
多重化
本明細書中のターゲティング法は、例えば、この方法で2つ以上のDNA標的部位が標的にされるような方法で行われ得る。このような方法は、任意選択により、多重法として特徴づけることができる。特定の実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の標的部位が同時に標的にされえる。多重法は、通常、複数の異なるRNA成分(各々がガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体を固有のDNA標的部位に導くように設計されている)が提供される、本明細書中のターゲティング法により行われる。
【0290】
本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体は、標的ゲノム編集(単一及び多重の二本鎖切断及びニックにより)、及び標的ゲノム調節(Cas9又はsgRNAにエピジェネティックエフェクタードメインを結合することにより)に使用することができる。本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体はまた、RNAガイド型リコンビナーゼとして機能するように設計することができ、また、RNA結合により、多タンパク質及び核酸複合体のアセンブリー用足場として機能し得る(Mali et al.2013 Nature Methods Vol.10:957-963)。
【0291】
複合形質遺伝子座
目的の、及び/又は形質のポリヌクレオチドは、国際公開第2012/129373号パンフレット(2013年3月14日公開)及び国際出願PCT/US13/22891号明細書(2013年1月24日公開)(両文献は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように複合形質遺伝子座に一緒にスタックすることができる。本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を含むシステムなどの、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステムは、一本鎖又は二本鎖切断を生成するための効率的なシステムを提供し、形質が複合形質遺伝子座にスタックすることを可能にする。
【0292】
ポリヌクレオチド、ポリペプチド、発現カセット、組み換えDNA、又はガイド型Casタンパク質システムの任意の1つの成分の導入
本明細書に開示されるポリヌクレオチド、ポリペプチド、発現カセット又は組み換えDNAは、当該技術分野で知られた任意の方法を使用して生命体に導入され得る。ガイドポリヌクレオチド/Casシステムの任意の1つの成分、ガイドポリヌクレオチド/Cas複合体自体、並びにポリヌクレオチド改変テンプレート及び/又はドナーDNAは、当該技術分野で知られた任意の方法によって細胞に導入することができる。
【0293】
「導入する」は、細胞又は生命体などの生命体に、ポリヌクレオチド又はポリペプチド又はポリヌクレオチド-タンパク質複合体(例えば、RGEN又はPGEN)を、それらの成分が生命体の細胞内、又は細胞自体へ侵入するように提示することを意味するものとする。本方法及び本組成物は、生命体又は細胞に配列を導入する特定の方法に依存することはなく、生命体の少なくとも1つの細胞の内部にポリヌクレオチド又はポリペプチドを単に侵入させるだけである。導入する、には、核酸の真核細胞若しくは原核細胞内への組み込みであって、核酸を細胞のゲノム内に組み込むことができる組み込みについての言及、及び核酸、タンパク質若しくはポリヌクレオチド-タンパク質複合体(PGEN、RGEN)の細胞への一過性(直接)の提供についての言及が含まれる。
【0294】
ポリヌクレオチド、ポリペプチド、発現カセット、組み換えDNA又はポリヌクレオチド-タンパク質複合体(PGEN、RGEN)を細胞又は生命体に導入する方法は、当該技術分野では知られており、例えば、限定はされないが、(国際公開第2017/075195号パンフレット、国際公開第2002/14490号パンフレット及び国際公開第2008/7989号パンフレットに記載されているような)天然コンピテンス、マイクロインジェクション(Crossway et al.,(1986)Biotechniques 4:320-34及び米国特許第6,300,543号明細書、分裂組織形質転換(米国特許第5,736,369号明細書)、エレクトロポレーション(Riggs et al.,(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA83:5602-6)、安定な形質転換、一過性形質転換、弾道粒子加速法(微粒子銃法)(米国特許第4,945,050号明細書、同第5,879,918号明細書、同第5,886,244号明細書、同第5,932,782号明細書)、ウィスカー媒介形質転換法(Ainley et al.2013,Plant Biotechnology Journal 11:1126-1134、Shaheen A.and M.Arshad 2011 Properties and Applications of Silicon Carbide(2011),345-358 Editor(s):Gerhardt,Rosario.Publisher:InTech,Rijeka,Croatia.CODEN:69PQBP;ISBN:978-953-307-201-2)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換法(米国特許第5,563,055号明細書及び同第5,981,840号明細書)、遺伝子直接導入法(Paszkowski et al.,(1984)EMBO J 3:2717-22)、ウイルス媒介導入法(米国特許第5,889,191号明細書、同第5,889,190号明細書、同第5,866,785号明細書、同第5,589,367号明細書及び同第5,316,931号明細書)、トランスフェクション法、形質導入法、細胞膜透過ペプチド法、メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)媒介タンパク質直接送達法、局所投与法、性増殖法(sexual breeding)、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。安定な形質転換は、生命体に導入されたヌクレオチドコンストラクトが生命体のゲノムに組み込まれ、その子孫によって受け継がれ得ることを意味するものとする。一過性形質転換は、ポリヌクレオチドが生命体に(直接的又は間接的に)導入され、生命体のゲノムには組み込まれないか、又はポリペプチドが生命体に導入されることを意味するものとする。一過性形質転換は、導入された組成物が生命体において一時的にのみ発現又は存在することを意味する。
【0295】
ガイドポリヌクレオチド(ガイドRNA、crヌクレオチド+tracrヌクレオチド、ガイドDNA及び/又はガイドRNA-DNA分子)は、一本鎖又は二本鎖ポリヌクレオチド分子として細胞に直接(一時的に)導入することができる。ガイドRNA(又はcrRNA+tracrRNA)はまた、ガイドRNA(又はcrRNA+tracrRNA)をコードする異種核酸断片を含む組み換えDNA分子を導入することによって間接的に細胞に導入することができ、異種核酸断片は前記細胞内でガイドRNA(crRNA+tracrRNA分子)を転写することができる特定のプロモーターに作動可能に連結される。特定のプロモーターは、限定はされないが、RNAポリメラーゼIIIプロモーターであり得、このプロモーターは正確に定義され改変されていない5’末端及び3’末端を有するRNAの転写を可能にする(Ma et al.,2014,Mol.Ther.Nucleic Acids 3:e161、DiCarlo et al.,2013,Nucleic Acids Res.41:4336-4343、国際公開第2015/026887号パンフレット(2015年2月26日公開))。細胞内でガイドRNAを転写することができる任意のプロモーターを使用することができ、例えば、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された熱ショック/熱ガイド性プロモーターが挙げられる。
【0296】
本明細書中のCasエンドヌクレアーゼは、当該技術分野で知られている任意の方法を使用して、Casポリペプチド自体(Casエンドヌクレアーゼの直接送達と呼ばれる)、Casタンパク質をコードするmRNA、及び/又はガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体自体を直接導入することによって、細胞に導入され得る。Casエンドヌクレアーゼはまた、Casエンドヌクレアーゼをコードする組み換えDNA分子を導入することによって間接的に細胞に導入することができる。エンドヌクレアーゼは当該技術分野で知られている任意の方法を使用して、細胞に一過性に導入することができ、又は宿主細胞のゲノムに組み込むことができる。エンドヌクレアーゼ及び/又はガイドポリヌクレオチドの細胞への取り込みは、国際公開第2016/073433号パンフレット(2016年5月12日公開)に記載されているように、細胞膜透過ペプチド(CPP)を用いて促進することができる。本明細書中のCasエンドヌクレアーゼ変異体を細胞で発現させることができる任意のプロモーターを使用することができ、例えば、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された熱ショック/熱ガイド性プロモーターが挙げられる。
【0297】
ポリヌクレオチド改変テンプレートの細胞への直接送達は、粒子媒介送達によって達成することができ、他の任意の直接送達法、例えば、限定はされないが、ポリエチレングリコール(PEG)媒介性のプロトプラストへのトランスフェクション、ウィスカー媒介形質転換、エレクトロポレーション、微粒子銃法、細胞膜透過ペプチド法、又はメソポーラスシリカナノ粒子(MSN)媒介タンパク質直接送達法などは、真核細胞などの細胞にポリヌクレオチド改変テンプレートを送達するために首尾よく使用することができる。
【0298】
ドナーDNAは、当該技術分野で知られている任意の手段によって導入することができる。ドナーDNAは、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換又はバイオリスティック微粒子銃法を含む当該技術分野で知られている任意の形質転換法によって提供することができる。ドナーDNAは、細胞内に一過性で存在させることができ、又はウイルスレプリコンによって導入することができよう。Casエンドヌクレアーゼ及び標的部位の存在下で、ドナーDNAは植物などの生命体の形質転換ゲノムに挿入される。
【0299】
本明細書に記載のガイド型Casシステム成分のいずれか1つの直接送達は、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体成分を受容する細胞の濃縮及び/又は可視化を促進し得る他のmRNAの直接送達(共送達)を伴い得る。例えば、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ成分(及び/又はガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体自体)を、表現型マーカー(限定されないが、CRCなどの転写アクチベーターなど(Bruce et al.2000 The Plant Cell 12:65-79)をコードするmRNAと一緒に直接共送達することにより、国際公開第2017/070029号パンフレット(2017年4月27日公開)及び国際公開第2017/070032号パンフレット(2017年4月27日公開)に記載されているように、機能を持たない遺伝子産物の機能を回復させ、これにより、外因性選択マーカーを使用せずに、細胞を選択し濃縮することを可能にすることができる。
【0300】
本明細書に記載のガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体(RGEN)の細胞への導入は、リボヌクレオチド-タンパク質としてガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体を細胞へ導入することを含む。リボヌクレオチド-タンパク質は、本明細書に記載のように、細胞に導入する前に組み立てることができる。ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼリボヌクレオチドタンパク質を含む成分は、(本明細書に記載されるようなゲノム改変の標的とされた)細胞に導入される前に、当該技術分野で知られた任意の手段によって、インビトロで組み立てられ得るか、又は組み立てられる。
【0301】
植物、真菌及び細菌細胞は、ヒト及び動物細胞とは、植物、真菌及び細菌細胞が、RGENリボヌクレオタンパク質の直接送達及び/又はRGEN成分の直接送達に障壁として作用する細胞壁を有する点で異なる。
【0302】
植物、真菌及び細菌細胞へのRGENリボヌクレオタンパク質の直接送達は、粒子媒介送達(微粒子銃法)によって達成され得る。本明細書に記載の実験に基づき、熟練した技術者は今では、RGENリボヌクレオタンパク質の真菌及び細菌細胞への送達に、他の任意の直接送達法、例えば、限定はされないが、プロトプラストへのポリエチレングリコール(PEG)媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション法、細胞膜透過ペプチド法、又はメソポーラスシリカナノ粒子(MSN)媒介タンパク質直接送達法などを首尾よく使用できると想像することができる。
【0303】
RGENリボヌクレオタンパク質の直接送達は、その後、複合体が急速に分解し、細胞内での複合体の存在が一時的となるような形での、細胞ゲノムの標的部位におけるゲノム編集を可能にする。このRGEN複合体の一時的存在は、オフターゲットになる結果を減少させることに繋がり得る。対照的に、プラスミドDNA配列によるRGEN成分(ガイドRNA、Cas9エンドヌクレアーゼ)の送達は、これらのプラスミドからのRGENのコンスタントな発現をもたらし、これはオフターゲットになる結果を増強し得る(Cradick,T.J.et al(2013)Nucleic Acids Res 41:9584-9592、Fu,Y et al(2014)Nat.Biotechnol.31:822-826)。
【0304】
直接送達は、本明細書に記載のガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体(RGEN)の任意の1つの成分(少なくとも1つのガイドRNA、少なくとも1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体など)を、金粒子、タングステン粒子、及び炭化ケイ素ウィスカー粒子など(これらに限定されない)の微粒子を含む粒子送達マトリックスと組み合わせることによって達成することができる(国際公開第2017/070029号パンフレット(2017年4月27日公開)及び国際公開第2017/070032号パンフレット(2017年4月27日公開)(これらの文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)も参照されたい)。
【0305】
一態様では、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体(RGEN)は、ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体を形成する本明細書に記載のガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体がそれぞれRNA及びタンパク質として細胞に導入される複合体である。
【0306】
一態様では、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体を形成する本明細書に記載のガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体がリボヌクレオチド-タンパク質複合体としてインビトロで予め組み立てられて、細胞に導入される複合体である。
【0307】
核酸及びタンパク質は、ガイド型Casシステムのいずれかの成分又は全成分(タンパク質及び/又は核酸)の取り込みを容易にする分子、例えば、細胞膜透過ペプチド及びナノキャリアを使用する方法を含む任意の方法で、細胞に提供することができる(米国特許出願公開第2011/0035836号明細書(2011年2月20日公開)(この文献は参照により本明細書に組み込まれる))。
【0308】
細胞、生命体
本開示のCasエンドヌクレアーゼ変異体、ポリヌクレオチド、ペプチド、ガイドポリヌクレオチド、Casエンドヌクレアーゼ、ポリヌクレオチド改変テンプレート、ドナーDNA、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステム、及びこれらの任意の1つの組み合わせを細胞に導入することができる。
【0309】
細胞としては、限定はされないが、ヒト、非ヒト、動物、細菌、真菌、昆虫、酵母、非従来型酵母、微生物及び植物細胞、並びに本明細書に記載の方法で作製された植物及び種子が挙げられる。
【0310】
本明細書に開示される方法及び組成物において使用される微生物細胞は、任意の真菌宿主細胞、糸状菌細胞及び細菌細胞であり得る。本明細書で使用される用語「真菌細胞」、「真菌」、「真菌宿主細胞」などは、本明細書で使用する場合、子嚢菌(Ascomycota)門、担子菌(Basidiomycota)門、ツボカビ(Chytridiomycota)門及び接合菌(Zygomycota)門(Hawksworth et al.,1995により定義される)、並びに卵菌門(Oomycota)(Hawksworth et al.,1995)及び全ての栄養胞子形成菌(Hawksworth et al.,1995)を含む。特定の実施形態では、真菌宿主細胞は酵母細胞であり、用語「酵母」は、子嚢菌酵母(エンドミケス目(Endomycetales))、担子菌酵母、及び不完全菌(ブラストミセス属(Blastomycetes))に属する酵母を意味する。したがって、酵母宿主細胞としては、カンジダ属(Candida)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、ピキア属(Pichia)、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(SchizoSaccharomyces)又はヤロウイア属(Yarrowia)の細胞が挙げられる。酵母の種としては、サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ジアスタティクス(Saccharomyces diastaticus)、サッカロマイセス・ドウグラシイ(Saccharomyces douglasii)、サッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、サッカロマイセス・ノルベンシス(Saccharomyces norbensis)、サッカロマイセス・オビフォルミス(Saccharomyces oviformis)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)及びヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0311】
本明細書中の用語「非従来型酵母」は、サッカロマイセス属(Saccharomyces)(例えば、S.セレビシエ(S.cerevisiae))の酵母種でもシゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)の酵母種でもない任意の酵母を指す。Non-Conventional Yeasts in Genetics,Biochemistry and Biotechnology:Practical Protocols(K.Wolf,K.D.Breunig,G.Barth,Eds.,Springer-Verlag,Berlin,Germany,2003)を参照されたい。非従来型酵母としては、ヤロウィア属(Yarrowia)、ピキア属(Pichia)、シュワニオマイセス属(Schwanniomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、アークスラ属(Arxula)、トリコスポロン属(Trichosporon)、カンジダ属(Candida)、ウスティラゴ属(Ustilago)、トルロプシス属(Torulopsis)、チゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、トリゴノプシス属(Trigonopsis)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ファフィア属(Phaffia)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)及びパチソレン属(Pachysolen)からなる群から選択される属のメンバーが挙げられる。非従来型酵母としては、相同組み換え(HR)によって媒介される修復プロセスよりも非相同末端結合(NHEJ)DNA修復プロセスに有利な酵母が挙げられる。これらの線―HRよりもNHEJを好む―に沿った非従来型酵母の定義はさらにChen et al.(PLoS ONE8:e57952)により開示されている(この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。本明細書中の用語「酵母」は、主に単細胞の形態で存在する真菌種を指す。或いは、酵母は、本明細書では、「酵母細胞」と呼ばれることもある。ヤロウイア属(Yarrowia)種の好適な例は、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)である。ピキア属(Pichia)種の好適な例としては、P.パストリス(P.pastoris)、P.メタノリカ(P.methanolica)、P.スティピティス(P.stipitis)、P.アノマーラ(P.anomala)及びP.アングスタ(P.angusta)が挙げられる。シュワニオマイセス(Schwanniomyces)属種の好適な例には、S.カステリイ(S.castellii)、S.アルビウス(S.alluvius)、S.ホミニス(S.hominis)、S.オキシデンタリス(S.occidentalis)、S.カプリオッティ(S.capriottii)、S.エチェルシィ(S.etchellsii)、S.ポリモルファス(S.polymorphus)、S.シュードポリモルファス(S.pseudopolymorphus)、S.バンリジアエ(S.vanrijiae)及びS.ヤマダエ(S.yamadae)が挙げられる。クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)種の好適な例としては、K.ラクティス(K.lactis)、K.マルキシアヌス(K.marxianus)、K.フラギリス(K.fragilis)、K.ドロソフィラルム(K.drosophilarum)、K.サーモトレランス(K.thermotolerans)、K.ファゼオロスポラス(K.phaseolosporus)、K.バヌデニイ(K.vanudenii)、K.ワルティ(K.waltii)、K.アフリカヌス(K.africanus)及びK.ポリスポラス(K.polysporus)が挙げられる。アルクスラ属(Arxula)種の好適な例としては、A.アデニニボランス(A.adeninivorans)及びA.テレストレ(A.terrestre)が挙げられる。トリコスポロン属(Trichosporon)種の好適な例としては、T.クタネウム(T.cutaneum)、T.カピタタム(T.capitatum)、T.インキン(T.inkin)及びT.ビーメリ(T.beemeri)が挙げられる。カンジダ属(Candida)種の好適な例としては、C.アルビカンス(C.albicans)、C.アスカラフィダルム(C.ascalaphidarum)、C.アンフィクシアエ(C.amphixiae)、C.アンタークティカ(C.antarctica)、C.アルゲンティア(C.argentea)、C.アトランティカ(C.atlantica)、C.アトモスファェリカ(C.atmosphaerica)、C.ブラッテ(C.blattae)、C.ブロメリアセアルム(C.bromeliacearum)、C.カルポフィラ(C.carpophila)、C.カルバジャリス(C.carvajalis)、C.セラムビシダルム(C.cerambycidarum)、C.チャウリオデス(C.chauliodes)、C.コリダリ(C.corydali)、C.ドッセイ(C.dosseyi)、C.デュブリニエンシス(C.dubliniensis)、C.エルガテンシス(C.ergatensis)、C.フルクツス(C.fructus)、C.グラブラータ(C.glabrata)、C.フェルメンタティ(C.fermentati)、C.ギリエルモンディ(C.guilliermondii)、C.ハエムロニィ(C.haemulonii)、C.インセクタメンス(C.insectamens)、C.インセクトルム(C.insectorum)、C.インテルメディア(C.intermedia)、C.イェフレシィ(C.jeffresii)、C.ケフィア(C.kefyr)、C.ケロセニエ(C.keroseneae)、C.クルセイ(C.krusei)、C.ルシタニエ(C.lusitaniae)、C.リキソソフィラ(C.lyxosophila)、C.マルトーサ(C.maltosa)、C.マリーナ(C.marina)、C.メンブラニファシエンス(C.membranifaciens)、C.ミレリ(C.milleri)、C.モギイ(C.mogii)、C.オレオフィラ(C.oleophila)、C.オレゴネンシス(C.oregonensis)、C.パラプシローシス(C.parapsilosis)、C.クエルシトルーサ(C.quercitrusa)、C.ルゴサ(C.rugosa)、C.サケ(C.sake)、C.シャハテア(C.shehatea)、C.テムノキラエ(C.temnochilae)、C.テヌイス(C.tenuis)、C.テアエ(C.theae)、C.トレランス(C.tolerans)、C.トロピカリス(C.tropicalis)、C.ツチヤエ(C.tsuchiyae)、C.シノラボランティウム(C.sinolaborantium)、C.ソーヤ(C.sojae)、C.サブハシィ(C.subhashii)、C.ビスワナチイ(C.viswanathii)、C.ユティリス(C.utilis)、C.ウバツベンシス(C.ubatubensis)及びC.ゼンプリニナ(C.zemplinina)が挙げられる。ウスティラゴ属(Ustilago)種の好適な例としては、U.アベナエ(U.avenae)、U.エスクレンタ(U.esculenta)、U.ホルデイ(U.hordei)、U.マイジス(U.maydis)、U.ヌーダ(U.nuda)及びU.トリチシ(U.tritici)が挙げられる。トルロプシス属(Torulopsis)種の好適な例としては、T.ゲオチャレス(T.geochares)、T.アジマ(T.azyma)、T.グラブラータ(T.glabrata)及びT.カンジダ(T.candida)が挙げられる。チゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)種の好適な例としては、Z.バイリイ(Z.bailii)、Z.ビスポラス(Z.bisporus)、Z.シドリ(Z.cidri)、Z.フェルメンタティ(Z.fermentati)、Z.フロレンティヌス(Z.florentinus)、Z.コンブチャエンシス(Z.kombuchaensis)、Z.レンツス(Z.lentus)、Z.メリス(Z.mellis)、Z.ミクロエリプソイデス(Z.microellipsoides)、Z.ムラキイ(Z.mrakii)、Z.シュードロウキシイ(Z.pseudorouxii)、及びZ.ロウキシィ(Z.rouxii)が挙げられる。トリゴノプシス属(Trigonopsis)種の好適な例としては、T.バリアビリス(T.variabilis)が挙げられる。クリプトコッカス属(Cryptococcus)種の好適な例としては、C.ローレンティ(C.laurentii)、C.アルビダス(C.albidus)、C.ネオフォルマンス(C.neoformans)、C.ガッティ(C.gattii)、C.ユニグトゥラツス(C.uniguttulatus)、C.アデリエンシス(C.adeliensis)、C.アエリウス(C.aerius)、C.アルビドシミリス(C.albidosimilis)、C.アンタルクティカス(C.antarcticus)、C.アクアティカス(C.aquaticus)、C.アーテル(C.ater)、C.ブータネンシス(C.bhutanensis)、C.コンソルティオニス(C.consortionis)、C.カルバツス(C.curvatus)、C.フェノリカス(C.phenolicus)、C.スキンネリ(C.skinneri)、C.テレウス(C.terreus)及びC.ビシュニアッシ(C.vishniacci)が挙げられる。ロドトルラ属(Rhodotorula)種の好適な例としては、R.アケニオルム(R.acheniorum)、R.トゥラ(R.tula)、R.アクタ(R.acuta)、R.アメリカーナ(R.americana)、R.アラウカリアエ(R.araucariae)、R.アークティカ(R.arctica)、R.アルメニアカ(R.armeniaca)、R.アウランティアカ(R.aurantiaca)、R.アウリクラリエ(R.auriculariae)、R.バカルム(R.bacarum)、R.ベンチカ(R.benthica)、R.ビオウルゲイ(R.biourgei)、R.ボゴリエンシス(R.bogoriensis)、R.ブロンキアリス(R.bronchialis)、R.ブフォニィ(R.buffonii)、R.カリプトゲナエ(R.calyptogenae)、R.チュングナメンシス(R.chungnamensis)、R.クラディエンシス(R.cladiensis)、R.コラリナ(R.corallina)、R.クレゾリカ(R.cresolica)、R.クロセア(R.crocea)、R.シクロクラスティカ(R.cycloclastica)、R.ダイレネンシス(R.dairenensis)、R.ディフルエンス(R.diffluens)、R.エバーグラディエンシス(R.evergladiensis)、R.フェルリカ(R.ferulica)、R.フォリオルム(R.foliorum)、R.フラガリア(R.fragaria)、R.フジサネンシス(R.fujisanensis)、R.フトロネンシス(R.futronensis)、R.ゲラティノーサ(R.gelatinosa)、R.グラシアリス(R.glacialis)、R.グルティニス(R.glutinis)、R.グラシリス(R.gracilis)、R.グラミニス(R.graminis)、R.グリンベルグシィ(R.grinbergsii)、R.ヒマライエンシス(R.himalayensis)、R.ヒヌレア(R.hinnulea)、R.ヒストリティカ(R.histolytica)、R.ヒロフィラ(R.hylophila)、R.インカルナタ(
R.incarnata)、R.インゲニオサ(R.ingeniosa)、R.ジャバニカ(R.javanica)、R.コイシカウェンシス(R.koishikawensis)、R.ラクトーサ(R.lactosa)、R.ラメリブラキエ(R.lamellibrachiae)、R.ラリンギス(R.laryngis)、R.リグノフィラ(R.lignophila)、R.リニ(R.lini)、R.ロンギッシマ(R.longissima)、R.ルドウィギィ(R.ludwigii)、R.リシノフィラ(R.lysinophila)、R.マリーナ(R.marina)、R.マルチニエ-フラガンティス(R.martyniae-fragantis)、R.マトリテンシス(R.matritensis)、R.メリ(R.meli)、R.ミヌータ(R.minuta)、R.ムシラギノーサ(R.mucilaginosa)、R.ニテンス(R.nitens)、R.ノトファギ(R.nothofagi)、R.オリザエ(R.oryzae)、R.パシフィカ(R.pacifica)、R.パリダ(R.pallida)、R.ペネアウス(R.peneaus)、R.フィリラ(R.philyla)、R.フィロプラナ(R.phylloplana)、R.ピラティ(R.pilatii)、R.ピリマナエ(R.pilimanae)、R.ピニコラ(R.pinicola)、R.ピリカータ(R.plicata)、R.ポリモルファ(R.polymorpha)、R.サイクロフェノリカ(R.psychrophenolica)、R.サイクロフィラ(R.psychrophila)、R.パストゥラ(R.pustula)、R.レティノフィラ(R.retinophila)、R.ロザケア(R.rosacea)、R.ロスラータ(R.rosulata)、R.ルベファシエンス(R.rubefaciens)、R.ルベラ(R.rubella)、R.ルベスセンス(R.rubescens)、R.ルブラ(R.rubra)、R.ルブロルゴサ(R.rubrorugosa)、R.ルフラ(R.rufula)、R.ルティラ(R.rutila)、R.サングイネア(R.sanguinea)、R.サニエイ(R.sanniei)、R.サルトリィ(R.sartoryi)、R.シルベストリス(R.silvestris)、R.シンプレックス(R.simplex)、R.シネンシス(R.sinensis)、R.スルーフィアエ(R.slooffiae)、R.ソンクキィ(R.sonckii)、R.ストラミネア(R.straminea)、R.スベリコラ(R.subericola)、R.スガニィ(R.suganii)、R.タイワネンシス(R.taiwanensis)、R.タイワニアナ(R.taiwaniana)、R.テルペノイダリス(R.terpenoidalis)、R.テッレア(R.terrea)、R.テキセンシス(R.texensis)、R.トキョエンシス(R.tokyoensis)、R.ウルザマエ(R.ulzamae)、R.バニリカ(R.vanillica)、R.ブイレミニィ(R.vuilleminii)、R.ヤロウィ(R.yarrowii)、R.ユナネンシス(R.yunnanensis)及びR.ゾルティ(R.zsoltii)が挙げられる。ファフィア属(Phaffia)種の好適な例としては、P.ロドジマ(P.rhodozyma)が挙げられる。スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)種の好適な例としては、S.アルボルベスセンス(S.alborubescens)、S.バナエンシス(S.bannaensis)、S.ベイジンゲンシス(S.beijingensis)、S.ビスコフィエ(S.bischofiae)、S.クラバツス(S.clavatus)、S.コプロスマエ(S.coprosmae)、S.コプロスミコーラ(S.coprosmicola)、S.コラリヌス(S.corallinus)、S.ディメナエ(S.dimmenae)、S.ドラコフィリィ(S.dracophylli)、S.エロンガツス(S.elongatus)、S.グラシリス(S.gracilis)、S.イノシトフィルス(S.inositophilus)、S.ジョンソニィ(S.johnsonii)、S.コアラエ(S.koalae)、S.マグニスポラス(S.magnisporus)、S.ノボゼアランディカス(S.novozealandicus)、S.オドラス(S.odorus)、S.パタゴニカス(S.patagonicus)、S.プロダクツス(S.productus)、S.ロセウス(S.roseus)、S.サシコーラ(S.sasicola)、S.シバタヌス(S.shibatanus)、S.シンギュラリス(S.singularis)、S.スブルンネウス(S.subbrunneus)、S.シンメトリカス(S.symmetricus)、S.シジギィ(S.syzygii)、S.タウポエンシス(S.taupoensis)、S.ツガエ(S.tsugae)、S.キサンツス(S.xanthus)、及びS.ユナネンシス(S.yunnanensis)が挙げられる。パチソレン属(Pachysolen)種の好適な例としては、P.タノフィルス(P.tannophilus)が挙げられる。
【0312】
本明細書で使用される場合、用語「糸状菌細胞」は、ユウミコチニア(Eumycotina)亜門の全ての糸状形態を含む。糸状菌属の好適な細胞として、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)、ビィエルカンデラ属(Bjerkandera)、ケリポリオプシシ属(Ceriporiopsis)、クリソポリウム属(Chrysoporium)、コプリヌス属(Coprinus)、コリオルス属(Coriolus)、コリナスクス属(Corynascus)、カエルトミウム属(Chaertomium)、クリプトコックス属(Cryptococcus)、フィロバシジウム属(Filobasidium)、フザリウム属(Fusarium)、ギベレラ属(Gibberella)、フミコラ属(Humicola)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、ムコール属(Mucor)、ミケリオフトラ属(Myceliophthora)、ムコール属(Mucor)、ネオカリマスティックス属(Neocallimastix)、ネイロスポラ属(Neurospora)、パエキロミケス属(Paecilomyces)、ペニシリウム属(Penicillium)、ファネロカエテ属(Phanerochaete)、フレビア属(Phlebia)、ピロミセス属(Piromyces)、プレウロツス属(Pleurotus)、スキタルジウム属(Scytaldium)、スキゾフィルム属(Schizophyllum)、スポロトリクム属(Sporotrichum)、タラロミケス属(Talaromyces)、テルモアスクス属(Thermoascus)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、トラメテス属(Trametes)及びトリコデルマ属(Trichoderma)の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0313】
糸状菌種の適切な細胞として、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・フォエティダス(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム・バクトリジオイデス(Fusarium bactridioides)、フザリウム・セレアリス(Fusarium cerealis)、フザリウム・クロークウェレンス(Fusarium crookwellense)、フザリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・グラミナム(Fusarium graminum)、フザリウム・ヘテロスポルム(Fusarium heterosporum)、フザリウム・ネグンジ(Fusarium negundi)、フザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・レチキュラツム(Fusarium reticulatum)、フザリウム・ロゼウム(Fusarium roseum)、フザリウム・サムブシヌム(Fusarium sambucinum)、フザリウム・サルコクロウム(Fusarium sarcochroum)、フザリウム・スポロトリキオイデス(Fusarium sporotrichioides)、フザリウム・スルフレウム(Fusarium sulphureum)、フザリウム・トルロスム(Fusarium torulosum)、フザリウム・トリコテシオイデス(Fusarium trichothecioides)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、ブエルカンデラ・アデュスタ(Bjerkandera adusta)、セリポリオプシス・アネイリナ(Ceriporiopsis aneirina)、セリポリオプシス・アネイリナ(Ceriporiopsis aneirina)、セリポリオプシス・カレギエア(Ceriporiopsis caregiea)、セリポリオプシス・ギルベスセンス(Ceriporiopsis gilvescens)、セリポリオプシス・パノシンタ(Ceriporiopsis pannocinta)、セリポリオプシス・リブロサ(Ceriporiopsis rivulosa)、セリポリオプシス・スブルファ(Ceriporiopsis subrufa)、セリポリオプシス・スブベルミスポラ(Ceriporiopsis subvermispora)、コプリヌス・キネレウス(Coprinus cinereus)、コリオルス・ヒルスツス(Coriolus hirsutus)、フミコラ・インソレンス(Humicola insolens)、フミコラ・ラヌギノサ(Humicola lanuginosa)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、ミセリオフトーラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila)、ネウロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、ネウロスポラ・インテルメディア(Neurospora intermedia)、ペニシリウム・プルプロゲヌム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・カネセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・ソリツム(Penicillium solitum)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、フレビア・ラジアーテ(Phlebia radiate)、プレウロツス・エリンギイ(Pleurotus eryngii)、タラロマイセス・フラブス(Talaromyces flavus)、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)、トラメテス・ビロサ(Trametes villosa)、トラメテス・ベルシコロル(Trametes versicolor)、トリコデルマ・ハルジアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギイ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・ロンギブラキアツム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマ・レーセイ(Trichoderma reesei)及びトリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0314】
特定の実施形態では、微生物宿主細胞は、細菌細胞、例えば、バチルス・アルカロフィルス(Bacillus alkalophilus)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・サークランス(Bacillus circulans)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・ラウツス(Bacillus lautus)、バチルス・レンツス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・サブティルス(Bacillus subtilis)若しくはバチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)、又はストレプトマイセス属(Streptomyces)、例えば、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)若しくはストレプトマイセス・ムリヌス(Streptomyces murinus)、又はグラム陰性細菌、例えば、E.コリ(E.coli)若しくはシュードモナス属(Pseudomonas)種である。
【0315】
上記種について、本開示及び資源種は、このような生命体の完全及び不完全状態の両方、並びに種名が知られているか否かにかかわらず、これらの他の分類学上等価物、例えば、アナモルフを包含するであろうことは理解される。当業者は、このような資源種の適切な等価物の同一性を容易に認識するであろう。
【0316】
上記種の株は、多くの菌株保存機関、例えば、American Type Culture Collection(ATCC)、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSM)、Centraalbureau Voor Schimmelcultures(CBS)、及びAgricultural Research Service Patent Culture Collection、Northern Regional Research Center(NRRL)で容易に入手可能である。
【0317】
本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体は、微生物細胞における相同組み換えのための方法において、及び/又は微生物細胞におけるゲノム編集のための方法において使用され得る。微生物細胞(例えば、糸状菌細胞)のゲノム中の標的部位に1つ以上の短い相同アームを有するドナーDNAを挿入するためのガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼシステムを使用する方法が開示されている(国際公開第2017/019867号パンフレット(2017年2月2日公開))。微生物細胞のゲノムの改変により表現型効果が生じる場合、表現型マーカーである(又は表現型マーカーをコードする)目的ポリヌクレオチドを含むドナーDNAを用いることが多い。あらゆる好都合な表現型マーカーを使用することができ、この表現型マーカーとして、多くの場合は特定の培養条件下で、任意の選択可能な又はスクリーニング可能なマーカーが挙げられ、このマーカーは、これを含む真菌細胞を同定する、又はこの真菌細胞を有利に若しくは不利に選択することを可能にする。したがって、本発明のいくつかの態様では、所望のゲノム改変を有する微生物細胞の同定は、標的部位で改変を有する細胞を選択するための条件下で、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体及びガイドポリヌクレオチド(及び、任意選択でドナーDNA)が与えられている微生物細胞集団を培養することを含む。真菌細胞中の酵素活性(選択マーカーとも呼ばれる)の獲得又は喪失(例えば、抗生物質耐性の取得、又は栄養要求性マーカーの獲得/喪失)に関して評価することを含む、任意のタイプの選択システムを用いることができる。
【0318】
本明細書で使用される場合、植物という用語には、植物細胞、植物プロトプラスト、植物を再生できる植物細胞組織培養物、植物カルス、植物塊、及び植物又は植物部分の中で損傷を受けていない、胚、花粉、胚珠、種子、葉、花、枝、果実、仁、穂、穂軸、さや、柄、根、根端、葯、穀粒などの植物細胞が含まれる。本明細書で使用される場合、「穀粒」は、種を成長又は繁殖させること以外の目的で栽培業者が生産する成熟種子を意味する。再生された植物の子孫、変異体、及び変異体もまた、これらの部分が形質転換又はゲノム編集により生じたものなどの再生植物のゲノム改変を含む限り、本開示の範囲に含まれる。
【0319】
単子葉植物及び双子葉植物、又は植物部分など、任意の植物又は植物部分を使用することができる。
【0320】
使用可能な単子葉植物の例としては、限定はされないがトウモロコシ(ゼア・マイス(Zea mays))、イネ(オリザ・サティバ(Oryza sativa))、ライムギ(セカレ・セレアレ(Secale cereale))、ソルガム(ソルガム・ビカラー(Sorghum bicolor)、ソルガム・ブルガレ(Sorghum vulgare))、キビ(例えば、トウジンビエ(ペニセツム・グラウクム(Pennisetum glaucum))、キビ(パニカム・ミリアセウム(Panicum miliaceum))、アワ(セタリア・イタリカ(Setaria italica))、シコクビエ(エレウシネ・コラカナ(Eleusine coracana))、コムギ(トリティクム属(Triticum)の種、トリティクム・アエスティバム(Triticum aestivum)、トリティクム・モノコクム(Triticum monococcum))、サトウキビ(サッカルム属(Saccharum)の種)、カラスムギ(アヴィーナ属(Avena))、オオムギ(ホルデウム属(Hordeum))、スイッチグラス(パニカム・ヴィルガツム(Panicum virgatum))、パイナップル(アナナス・コモスス(Ananas comosus))、バナナ(ムサ属(Musa)の種)、ヤシ、観賞植物、芝草、及びその他の草類が挙げられる。
【0321】
用語「双子葉植物の」又は「双子葉植物」は、「双子葉植物網(dicotyledoneae)」としても知られる被子植物の亜綱を指し、植物全体、植物器官(例えば、葉、幹、根など)、種子、植物細胞、及びそれらの子孫に対する言及が含まれる。使用することができる双子葉植物の例としては、限定はされないが、大豆(グリシン マックス(Glycine max))、アブラナ属(Brassica)の種(キャノーラ)(ブラシカ・ナプス(Brassica napus)、B.カムペストリス(B.campestris)、ブラシカ・ラパ(Brassica rapa)、ブラシカ・ジュンケア(Brassica juncea)、アルファルファ(メディカゴ・サティバ(Medicago sativa))、アルファルファ(メディカゴ・サティバ(Medicago sativa))、タバコ(ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum))、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)(アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana))、ヒマワリ(ヘリアンサス・アヌス(Helianthus annuus))、ワタ(ゴシピウム・アルボレウム(Gossypium arboreum)、ゴシピウム・バルバデンセ(Gossypium barbadense))、及び落花生(アラキス・ヒポゲア(Arachis hypogaea))、トマト(ソラヌム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum))、ジャガイモ(ソラヌム・ツベロスム(Solanum tuberosum))が挙げられる。
【0322】
使用することができる植物としては、ベニバナ(カルタムス・ティンクトリウス(Carthamus tinctorius))、サツマイモ(イポモエアバタタス(Ipomoea batatus))、キャッサバ(マニホット・エスクレンタ(Manihot esculenta))、コーヒー(コーヒーノキ属(Coffea)の種)、ココナッツ(ココス・ヌシフェラ(Cocos nucifera))、カンキツ樹(ミカン属(Citrus)の種)、ココア(テオブロマ・カカオ(Theobroma cacao))、茶(カメリア・シネンシス(Camellia sinensis))、バナナ(ムサ属(Musa)の種)、アボカド(ペルセア・アメリカナ(Persea americana))、イチジク(フィクスカシカ(Ficus casica))、グァバ(プシディウム・グアジャバ(Psidium guajava))、マンゴー(マンギフェラ・インディカ(Mangifera indica))、オリーブ(オレア・ユーロパエア(Olea europaea))、パパイヤ(カリカ・パパヤ(Carica papaya))、カシュー(アナカルデイウム・オクシデンタレ(Anacardium occidentale))、マカダミア(マカダミア・インテルグリフォリア(Macadamia integrifolia))、アーモンド(プルヌス・アミグダルス(Prunus amygdalus))、テンサイ(ベータ・ブルガリス(Beta vulgaris))、野菜類、観賞植物及び球果植物が挙げられる。
【0323】
野菜類としては、トマト(リコペルシコン・エスキュレントゥム(Lycopersicon esculentum))、レタス(例えば、ラクツカ・サティバ(Lactuca sativa))、サヤマメ(ファセオルス・ブルガリス(Phaseolus vulgaris))、ライマメ(ファセオルス・リメンシス(Phaseolus limensis))、エンドウマメ(レンリソウ属(Lathyrus)の種)、並びに、キュウリ(C.サティバス(C.sativus))、カンタロープ(C.カンタルペンシス(C.cantalupensis))、及びマスクメロン(C.メロ(C.melo))などのキュウリ属(Cucumis)に属するものが挙げられる。観賞植物としては、アザレア(ロードデンドロン属(Rhododendron)種)、アジサイ(マクロフィラ・ハイドランジア(Macrophylla hydrangea))、ハイビスカス(ハイビスカス・ローザシネンシス(Hibiscus rosasanensis))、バラ(ロサ(Rosa)種)、チューリップ(チューリパ(Tulipa)種)、ラッパズイセン(ナルキスス(Narcissus)種)、ペチュニア(ペチュニア・ハイブリダ(Petunia hybrida))、カーネーション(ジアンサス・カリオフィルス(Dianthus caryophyllus))、ポインセチア(ユーフォルビア・プルケリマ(Euphorbia pulcherrima))及びキクが挙げられる。
【0324】
本開示を実施するにあたり使用可能な球果植物としては、例えば、テーダマツ(ピヌス・タエダ(Pinus taeda))、スラッシュパイン(ピヌス・エリオッティ(Pinus elliotii))、ポンデローサマツ(ピヌス・ポンデローサ(Pinus ponderosa))、ロッジポールパイン(ピヌス・コントルタ(Pinus contorta))、及びモントレーパイン(ピヌス・ラジアータ(Pinus radiata))などのマツ類、ダクラスファー(シュードツガ メンジエシイ(Pseudotsuga menziesii))、アメリカツガ(ツガ カナデンシス(Tsuga canadensis))、ベイトウヒ(ピセア・グラウカ(Picea glauca))、セコイア(セコイア・センペルビレンス(Sequoia sempervirens))、ヨーロッパモミ(アビエス・アマビリス(Abies amabilis))及びバルサムモミ(アビエス・バルサメア(Abies balsamea))などのトゥルーモミ類、並びにベイスギ(スージャ・プリカタ(Thuja plicata))及びイエローシーダー(カマエシパリス・ヌートカテンシス(Chamaecyparis nootkatensis))などのシーダー類が挙げられる。
【0325】
用語「植物」には、植物全体、植物器官、植物組織、種子、植物細胞、種子、及びそれらの子孫が含まれる。植物細胞としては、限定はされないが、種子、懸濁培養物、胚、分裂組織領域、カルス組織、葉、根、シュート、配偶体、胞子体、花粉及び小胞子由来の細胞が挙げられる。植物体の部分には、分化組織及び未分化組織が含まれ、それらの組織としては、限定はされないが、根、茎、シュート、葉、花粉、種子、腫瘍組織、及び様々な形態の細胞及び培養物(例えば、単細胞、プロトプラスト、胚及びカルス組織)が挙げられる。植物組織は、植物体中に、又は植物の器官、組織、若しくは細胞培養物中に存在し得る。用語「植物器官」は、形態的にも機能的にも区別された植物体の部分を構成する、植物組織又は組織群を指す。用語「ゲノム」は、生命体の各細胞、又はウイルス若しくは細胞小器官に存在する遺伝物質(遺伝子及び非コード配列)の相補体の全体;並びに/或いは1つの親から1つの(ハプロイド)単位として受け継いだ一式の染色体を指す。「子孫」は、植物体のその後の世代を含む。
【0326】
本明細書で使用される場合、用語「植物部分」は、植物細胞、植物プロトプラスト、植物を再生できる植物細胞組織培養物、植物カルス、植物塊、及び植物又は植物部分の中で損傷を受けていない、胚、花粉、胚珠、種子、葉、花、枝、果実、仁、穂、穂軸、さや、柄、根、根端、葯、穀粒などの植物細胞、並びに部分自体を指す。穀粒は、それらの種を成長又は繁殖させること以外の目的で栽培業者が生産する成熟種子を意味するものとする。再生植物の子孫、変異体、及び変異体もまた、これらの部分が導入ポリヌクレオチドを含むなら、本開示の範囲に含まれる
【0327】
トランスジェニック植物には、例えば、形質転換工程によって導入された異種ポリヌクレオチドをゲノム内に含む植物が含まれる。異種ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドが後に続く世代に受け継がれるように、ゲノム内に安定に組み込むことができる。異種ポリヌクレオチドは、ゲノム内に単独で、又は組み換えDNAコンストラクトの一部として組み込むことができる。トランスジェニック植物はまた、そのゲノム内に2つ以上の異種ポリヌクレオチドを含むことができる。各異種ポリヌクレオチドは、トランスジェニック植物に異なる形質を付与することができる。異種ポリヌクレオチドとしては、例えば、外来種を起源とする配列を含むことができ、又は異種ポリヌクレオチドが同種由来である場合は、その天然形態から実質的に改変される可能性がある。トランスジェニック体としては、その遺伝子型を異種核酸を存在させることによって変化させたあらゆる細胞、細胞株、カルス、組織、植物部又は植物体(初期にそのように改変されたトランスジェニック体、及び初期のトランスジェニック体から有性交配又は無性増殖によって作られたものを含む)を挙げることができる。従来の植物育種方法、外来ポリヌクレオチドが挿入されない本明細書に記載のゲノム編集手順、又はランダム交配、非組み換えウイルス感染、非組み換え細菌形質転換、非組み換え置換若しくは自然突然変異などの自然に発生する事象による植物ゲノム(染色体又は染色体外の)の変化は、トランスジェニックと見なさないものとする。
【0328】
稔性植物は、生存可能な雄性配偶子及び雌性配偶子を生成する植物であり、自家稔性である。このような自家稔性植物は、任意の他の植物からの寄与を伴わずに配偶子及びその中に含有される遺伝物質の子孫植物を生成することができる。
【0329】
定義
「対立遺伝子」又は「対立遺伝子変異体」は、染色体上の所与の遺伝子座を占有する遺伝子の数種の代替形の1つである。染色体上の所予の遺伝子座に存在する対立遺伝子全部が同一である場合は、その生命体はその遺伝子座ではホモ接合性である。染色体上の所定の遺伝子座に存在する対立遺伝子が異なる場合は、その生命体はその遺伝子座ではヘテロ接合性である。ポリペプチドの対立遺伝子変異体は、遺伝子の対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチドである。
【0330】
「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を指す。コード配列の境界は一般に、開始コドン(例えば、ATG、GTG、又はTTG)で始まり、終止コドン(例えば、TAA、TAG、又はTGA)で終わるオープンリーディングフレームによって決定される。コード配列は、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0331】
「調節配列」は、コード配列の上流(5’-非コード配列)、コード配列内、又はコード配列の下流(3’-非コード配列)に位置するヌクレオチド配列を指し、それは関連するコード配列の転写、RNAプロセシング若しくは安定性、又は翻訳に影響を及ぼす。調節配列としては、限定はされないが、プロモーター、翻訳リーダー配列、5’非翻訳配列、3’非翻訳配列、イントロン、ポリアデニル化標的配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位及びステムループ構造が挙げられる。
【0332】
「コドン改変遺伝子」又は「コドン優先遺伝子」又は「コドン最適化遺伝子」は、宿主細胞の好ましいコドン使用頻度を模倣するように設計されているコドン使用頻度を有する遺伝子である。遺伝子をコドン最適化するために行われる核酸変更は、親遺伝子のコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を変更しないことを意味する「同義」である。しかしながら、天然遺伝子及び変異遺伝子の両方を特定の宿主細胞用にコドン最適化することができ、したがって、これに関して制限は意図されていない。コドン優先遺伝子を合成する方法は、当該技術分野で利用可能である。例えば、米国特許第5,380,831号明細書及び同第5,436,391号明細書、並びにMurray et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:477-498を参照されたい。これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0333】
宿主生命体中での遺伝子発現を増大させるためのさらなる配列の改変が知られている。このような改変としては、例えば、疑似のポリアデ二ル化シグナルをコードする1つ以上の配列、1つ以上のエクソン-イントロンスプライス部位シグナル、1つ以上のトランスポゾン様反復配列、及び遺伝子発現に有害なおそれがあるまでに十分に特徴付けられた他の配列の除去が挙げられる。配列のG-C含有量は、宿主細胞中で発現する既知の遺伝子を参照することによって算出される、所与の宿主生命体(例えば、植物)の平均的なレベルに調節することができる。可能であれば、1つ以上のmRNAの予測されるヘアピン二次構造を避けるために配列を改変する。
【0334】
用語「保存ドメイン」又は「モチーフ」は、進化的に関連するタンパク質のアラインされた配列に沿って特定位置で保存された一連のアミノ酸を意味する。他の位置でのアミノ酸が相同タンパク質間で変動する可能性があるが、特定位置で高度に保存されているアミノ酸は、タンパク質の構造、安定性又は活性にとって必須であるアミノ酸であることを示す。それらは1ファミリーのタンパク質ホモログのアラインされた配列内のそれらの高い保存度によって同定されるため、新しく決定された配列を有するタンパク質が以前に同定されたタンパク質ファミリーに属するかどうかを決定する識別子又は「シグネチャー」として使用することができる。
【0335】
本明細書で使用される場合、「核酸」は、ポリヌクレオチドを意味しており、デオキシリボヌクレオチド塩基又はリボヌクレオチド塩基の一本鎖又は二本鎖のポリマーを含む。核酸はまた、断片及び修飾ヌクレオチドを含み得る。そのため、用語「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」及び「核酸断片」は互換的に使用され、一本鎖又は二本鎖であり、場合により、合成ヌクレオチド塩基、非天然ヌクレオチド塩基又は改変ヌクレオチド塩基を含む、RNA及び/又はDNA及び/又はRNA-DNAのポリマーを示す。ヌクレオチド(通常、5’-一リン酸塩形で見出される)は、単一文字表示により、以下のように称される:(それぞれRNA又はDNAの)アデノシン又はデオキシアデノシンに対して「A」、シトシン又はデオキシシトシンに対して「C」、グアノシン又はデオキシグアノシンに対して「G」、ウリジンに対しては「U」、デオキシチミジンに対して「T」、プリン(A又はG)に対して「R」、ピリミジン(C又はT)に対して「Y」、G又はTに対して「K」、A又はC又はTに対して「H」、イノシンに対して「I」、及び任意のヌクレオチドに対して「N」(ヌクレオチド(例えば、DNA配列について言及する場合、Nは、A、C、T又はGであり得、RNA配列について言及する場合、Nは、A、C、U又はGであり得る)。
【0336】
本明細書で使用される「増加した」という用語は、増加した量又は活性を比較する対象の量又は活性より、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、100%、又は少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、440、450、460、470、480、490、若しくは500倍多い量又は活性を指し得る。用語「増加した」、「~より多い」及び「改善された」は、本明細書では互換的に使用される。用語「増加した」は、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体などのタンパク質の形質転換効率又は遺伝子編集効率を特徴付けるために使用され得る。
【0337】
一態様では、増加は、本明細書に記載のCas9変異体(限定されないが、Cas9 Y155変異体又はCas9 F86A+F98A変異体など)をPGENの一部として使用した場合の、親(野生型)Cas9を代わりに含む以外は同じPGENと比較した、原核細胞又は真核細胞の形質転換効率の増加であり、形質転換効率の増加は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、440、450、460、470、480、490、又は500倍である。
【0338】
一態様では、増加は、本明細書に記載のCas9変異体(限定されないが、Cas9 Y155変異体又はCas9 F86A+F98A変異体など)をPGENの一部として使用した場合の、親(野生型)Cas9を代わりに含む以外は同じPGENと比較した、原核細胞又は真核細胞のDNA編集効率の増加であり、遺伝子編集効率の増加は、少なくとも15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%である。
【0339】
「オープンリーディングフレーム」は、ORFと略記する。
【0340】
「遺伝子」には、コード配列に先行する調節配列(5’非コード配列)及び後続する調節配列(3’非コーディング配列)を含む、限定はされないが、特異的タンパク質などの機能的分子を発現する核酸断片が含まれる。「天然遺伝子」は、それ自身の調節配列を有する、天然で見出される遺伝子を指す。
【0341】
「変異遺伝子」は、ヒトが介入して改変されている遺伝子である。このような「変異遺伝子」は、少なくとも1つのヌクレオチドの付加、欠失又は置換によって、対応する非変異遺伝子の配列とは異なる配列を有する。本開示の特定の実施形態では、この変異遺伝子は、本明細書で開示するガイドポリヌクレオチド/Casタンパク質システムにより生じる変更を含む。変異細胞又は変異生命体は、変異遺伝子を含む細胞又は生命体である。
【0342】
用語「ゲノム」は、原核細胞及び真菌細胞、又は生命体細胞に適用する場合、核内で見出される染色体DNAだけでなく、細胞の細胞内成分(例えば、ミトコンドリア又はプラスチド)内で見出される細胞小器官DNAも包含する。
【0343】
目的ポリヌクレオチドが本明細書中にさらに記載されており、それには、酵素の生成(例えば、限定はされないが、酵素を生成する細菌又は真菌の発酵による、又は酵素を生成する植物による)及び作物の開発に関与するそれらの商業市場及び利益を反映するポリヌクレオチドが含まれる。
【0344】
目的の作物及び市場は変化し、開発途上国が世界市場に進出するにつれ、新しい作物及び技術もまた出現してくるであろう。さらに、収量及びヘテロシスなどの農業形質及び特性の理解が増すにつれ、それに応じて、遺伝子組み換え技術のための遺伝子の選択は変わってくるであろう。目的ポリヌクレオチドとしては、限定はされないが、農学、除草剤耐性、殺虫剤耐性、病気抵抗性、線虫抵抗性、除草剤耐性、微生物耐性、真菌耐性、ウイルス耐性、稔性又は不稔性、穀粒特性、及び商業製品に重要な形質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0345】
目的ポリヌクレオチドの一般的なカテゴリーとしては、例えば、ジンクフィンガーなどの情報に関与する目的遺伝子、キナーゼなどの伝達に関与する目的遺伝子、及び熱ショックタンパク質などのハウスキーピングに関与する目的遺伝子が挙げられる。より具体的な目的ポリヌクレオチドとしては、限定はされないが、作物収量、穀粒品質、作物栄養素含有量、デンプン及び炭水化物の品質及び量に関与する遺伝子、並びに仁サイズ、ショ糖負荷、タンパク質の品質及び量、窒素固定及び/又は窒素利用、脂肪酸及び油組成に影響する遺伝子、非生物的ストレス(干ばつ、窒素、温度、塩分、毒性金属若しくは微量元素など)に対する耐性を付与するタンパク質をコードする遺伝子、殺虫剤及び除草剤などの毒素に対する耐性を付与するタンパク質をコードする遺伝子、生物的ストレス(真菌、ウイルス、細菌、昆虫及び線虫による攻撃、並びにこれらの生命体に関連する病気の発生など)に対する耐性を付与するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0346】
さらに、目的ポリヌクレオチドが目的の標的遺伝子配列のためのメッセンジャーRNA(mRNA)の少なくとも一部に対して相補的なアンチセンス配列も含み得ることが確認されている。アンチセンスヌクレオチドは、対応するmRNAとハイブリダイズするように構築される。アンチセンス配列は、その配列が対応するmRNAとハイブリダイズして対応するmRNAの発現を妨害する限り、改変することができる。このように、対応するアンチセンス配列に対して70%、80%又は85%の配列同一性を有するアンチセンスコンストラクトを使用することができる。さらに、標的遺伝子の発現を阻害するためにアンチセンスヌクレオチドの部分を使用することができる。一般に、少なくとも50ヌクレオチド、100ヌクレオチド、200ヌクレオチド又はそれ以上の配列を使用することができる。
【0347】
さらに、目的ポリヌクレオチドはまた、生命体の内因性遺伝子の発現を抑制するセンス配向で使用することができる。センス配向のポリヌクレオチドによって生命体の遺伝子の発現を抑制する方法は、当該技術分野で知られている。この方法には、一般に、内因性の遺伝子の転写に対応するヌクレオチド配列の少なくとも一部に作動可能に連結した、生命体内での発現を駆動するプロモーターを含むDNAコンストラクトで生命体を形質転換することが含まれる。通常、このようなヌクレオチド配列は、内因性遺伝子の転写配列に対し相当の配列同一性を、一般に、約65%を超える配列同一性を、約85%を超える配列同一性を、又は約95%を超える配列同一性を有する。米国特許第5,283,184号明細書及び同第5,034,323号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0348】
目的ポリヌクレオチドはまた、表現型マーカーであり得る。表現型マーカーは、ポジティブ選択マーカーであるかネガティブ選択マーカーであるかにかかわらず、視覚マーカー及び選択マーカーを含むスクリーニングマーカー又は選択マーカーである。任意の表現型マーカーを使用することができる。詳細には、選択又はスクリーニングマーカーは、多くの場合は特定の条件下で、1つの分子若しくはこの分子を含有する細胞を同定する、又はこの分子若しくは細胞に有利若しくは不利に選択することを可能にするDNAセグメントを含む。これらのマーカーは、以下に限定されないが、RNA、ペプチド若しくはタンパク質の産生などの活性をコードすることができるか、又はRNA、ペプチド、タンパク質、無機化及び有機の化合物又は組成物などのための結合部位を提供することができる。
【0349】
選択マーカーの例としては、以下に限定されないが、制限酵素部位を含むDNAセグメント;スペクチノマイシン、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、Basta、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NEO)及びハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HPT)などの抗生物質を含む、他の点では毒性の化合物に対する耐性を提供する産物をコードするDNAセグメント;レシピエント細胞において他の点では欠失している産物をコードするDNAセグメント(例えば、tRNA遺伝子、栄養要求性マーカー);容易に同定できる産物をコードするDNAセグメント(例えば、β-ガラクトシダーゼ、GUSなどの表現型マーカー;緑色蛍光タンパク質(GFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)などの蛍光タンパク質、及び細胞表面タンパク質);PCRにとっての新規のプライマー部位(例えば、以前には並置されていなかった2つのDNA配列の並列)の生成、制限エンドヌクレアーゼ若しくは他のDNA修飾酵素、化学物質などの作用を受けていない、又は作用を受けたDNA配列の含有、並びにその同定を可能にする特異的修飾(例えば、メチル化)に必要なDNA配列の包含が挙げられる。
【0350】
追加の選択マーカーには、スルホニル尿素、グルホシネートアンモニウム、ブロモキシニル、イミダゾリノン及び2,4-ジクロロフェノキシアセテート(2,4-D)などの除草性化合物に対する耐性を付与する遺伝子が含まれる。例えば、スルホニル尿素、イミダゾリノン、トリアゾロピリミジンスルホンアミド、ピリミジニルサリチラート及びスルホニルアミノカルボニル-トリアゾリノンに対する耐性のためのアセト酪酸シンターゼ(ALS)(Shaner and Singh,1997,Herbicide Activity:Toxicol Biochem Mol Biol69-110)、グリホサート耐性5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸(EPSPS)(Saroha et al.1998,J.PlantBiochemistry & Biotechnology Vol7:65-72)を参照されたい。
【0351】
目的ポリヌクレオチドは、他の形質(例えば、限定はされないが、除草剤に対する耐性若しくは本明細書に記載のいずれかの他の形質)と組み合わせてスタック又は使用することができる遺伝子を含む。目的ポリヌクレオチド及び/又は形質は、米国特許出願公開第2013-0263324-A1号明細書(2013年10月3日公開)及び国際出願PCT/US13/22891号明細書(2013年1月24日公開)(両出願は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるように、複合形質遺伝子座に一緒にスタックすることができる。
【0352】
標的部位又は標的部位の近くでゲノム内への挿入を含むそれらの細胞を同定するために、様々な方法を利用することができる。このような方法は、標的配列内の何らかの変化を検出するために標的配列を直接分析するものであると見なすことができ、例えば、限定はされないが、PCR法、シークエンシング法、ヌクレアーゼ消化法、サザンブロット法、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。例えば、米国特許出願第12/147,834号明細書を参照されたい。この文献は、本明細書に記載の方法に必要な範囲まで参照によって本明細書に組み込まれる。この方法はまた、ゲノムに組み込まれた目的ポリヌクレオチドを含む細胞由来の生命体を回収することを含む。
【0353】
目的ポリペプチドは、本明細書に記載の目的ポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質又はポリペプチドを含む。
【0354】
ポリヌクレオチド及びポリペプチドの配列、それらの変異体、並びにこれらの配列の構造的関係は、本明細書で互換的に使用される「相同」、「相同の」、「実質的に同一である」、「実質的に類似した」及び「実質的に対応する」という用語によって記載することができる。これらは、1つ以上のアミノ酸又はヌクレオチド塩基の変化が、分子の機能、例えば、遺伝子の発現を仲介する能力、又は特定の表現型を生じさせる能力に影響することのないポリペプチド又は核酸の配列を指す。これらの用語はまた、得られる核酸の機能特性が、初期の改変されていない核酸と実質的に変わらない核酸配列の改変を指す。これらの改変には、核酸断片中の1つ以上のヌクレオチドの欠失、置換及び/又は挿入が含まれる。
【0355】
実質的に類似の核酸配列に包含されるものは、(中度のストリンジェンシー条件下、例えば、0.5×SSC、0.1%SDS、60℃で)本明細書に例示した配列と、又は本明細書に開示したヌクレオチド配列の任意の部分とハイブリダイズする能力によって規定することができ、それらは本明細書に開示した核酸配列のいずれかと機能的に等価である。ストリンジェンシー条件を調節して、中度の類似性を有する断片、例えば遠縁の生命体由来の相同配列を、高い類似性を有する断片、例えば近縁の生命体由来の機能酵素を複製する遺伝子などに対しスクリーニングすることができる。ポストハイブリダイゼーション洗浄がストリンジェンシー条件を決定する。
【0356】
用語「選択的にハイブリダイズする」には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下での、核酸配列の特定の核酸標的配列への、非標的核酸配列へのハイブリダイゼーションより高い検出度(例えば、バックグラウンドの少なくとも2倍)のハイブリダイゼーション、及び非標的核酸の実質的排除が含まれる。選択的にハイブリダイズする配列は、通常、互いに少なくとも約80%又は90%、最大で100%の(すなわち、完全相補の)の配列同一性を有する。
【0357】
用語「ストリンジェントな条件」又は「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」には、インビトロのハイブリダイゼーション分析において、プローブがその標的配列に選択的にハイブリダイズする条件が含まれる。ストリンジェントな条件は、配列に依存し、また、環境が変わると異なるであろう。ハイブリダイゼーション条件及び/又は洗浄条件のストリンジェンシーを制御することによって、プローブに対し100%相補的な標的配列を特定することができる(相同プロービング)。或いは、より低い類似性が検出されるように配列の不一致を幾分認めるように、ストリンジェンシー条件を調節することができる(非相同プロービング)。一般に、プローブは長さが約1000ヌクレオチド未満であり、場合により500ヌクレオチド未満である。
【0358】
通常、ストリンジェントな条件は、pH7.0~8.3で、短いプローブ(例えば、10~50ヌクレオチド)の場合、少なくとも約30℃において、また、長いプローブ(例えば、50超のヌクレオチド)の場合、少なくとも約60℃の温度において、塩濃度が、約1.5M Naイオン濃度、通常、約0.01~1.0M Naイオン濃度(又はその他の塩)であるものである。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化物質の添加により達成することができる。例示な低ストリンジェンシー条件としては、30~35%のホルミアミド、1M NaCl、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)からなる緩衝液による37℃でのハイブリダイゼーション、及び1×~2×SSC(20×SSC=3.0M NaCl/0.3Mクエン酸三ナトリウム)中、50~55℃での洗浄が挙げられる。中度ストリンジェンシー条件としては、40~45%のホルミアミド、1M NaCl、1%SDS中、37℃でのハイブリダイゼーション、及び0.5×~1×SSC中、55~60℃での洗浄が挙げられる。高ストリンジェンシー条件としては、50%のホルミアミド、1M NaCl、1%SDS中、37℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC中、60~65℃での洗浄が挙げられる。
【0359】
本明細書で使用する場合、「プロモーター」は、コード配列又は機能的RNAの発現を制御することができるDNA配列を指す。プロモーター配列は近位の及びより遠位の上流エレメントからなり、後者のエレメントはしばしばエンハンサーと称される。「エンハンサー」はプロモーター活性を刺激することができるDNA配列であり、プロモーター固有のエレメントであってもよいし、プロモーターのレベル又は組織特異性を増強するために挿入された異種エレメントであってもよい。プロモーターは、その全体が天然遺伝子に由来していてもよいし、天然に見出される異なるプロモーターに由来する異なるエレメントで構成され、且つ/又は合成DNAセグメントを含んでいてもよい。様々なプロモーターが、様々な組織型若しくは細胞型で、又は様々な発達段階で、又は様々な環境条件に応じて、遺伝子の発現をガイドし得ることは当業者に理解されている。さらに、殆どの場合に調節配列の正確な境界が完全には定義されていないことから、いくつかのバリエーションのDNA断片が同一のプロモーター活性を有する場合があることは認識されている。当該技術分野でよく知られているように、プロモーターを、このプロモーターの強度及び/又はこのプロモーターが活性である条件によって、例えば構成的プロモーター、強力なプロモーター、弱いプロモーター、ガイド性/抑制性プロモーター、組織特異的に/発達的に調節されるプロモーター、細胞周期依存性プロモーターなどに分類することができる。
【0360】
本明細書において有用な強力なプロモーターの例としては、米国特許出願公開第2012/0252079号明細書(DGAT2)、同第2012/0252093号明細書(EL1)、同第2013/0089910号明細書(ALK2)、同第2013/0089911号明細書(SPS19)、同第2006/0019297号明細書(GPD及びGPM)、同第2011/0059496号明細書(GPD及びGPM)、同第2005/0130280号明細書(FBA、FBAIN、FBAINm)、同第2006/0057690号明細書(GPAT)及び同第2010/0068789号明細書(YAT1)に開示されているものが挙げられ、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。好適な強力プロモーターの他の例としては、国際公開第2016/025131号パンフレット(2016年2月19日公開)の表2に列挙されているものが挙げられる。この文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0361】
核酸配列又はポリペプチド配列の文脈における「配列同一性」又は「同一性」は、特定の比較窓全体にわたり最大に対応でアラインさせた場合に同一となる2つの配列中の核酸塩基又はアミノ酸残基を意味する。
【0362】
用語「配列同一性パーセンテージ」は、比較窓全体にわたり最適にアラインされた2つの配列を比較することにより決定される数値を意味しており、比較窓中のポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列の部分は、これら2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加若しくは欠失(すなわち、ギャップ)を含む場合がある。パーセンテージは、両方の配列内で同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が生じた位置の数を決定して、マッチした位置数を得、このマッチした位置数を比較窓内の位置の総数で除し、その結果に100を掛けることによって計算され、配列同一性のパーセンテージが得られる。配列同一性率(%)の有用な例としては、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%若しくは95%又は50%~100%の任意の整数パーセンテージが挙げられるが、これらに限定されない。これらの同一性は、本明細書に記載したプログラムのいずれかを使用して決定することができる。
【0363】
配列アラインメント及び同一性率若しくは類似性の計算は、LASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(DNASTAR Inc.,Madison,WI)のMegAlign(商標)プログラム(これに限定されない)を含む、相同配列を検出するために設計された様々な比較方法を使用して決定することができる。本出願との関連では、配列分析ソフトウェアが分析に使用される場合は、他に規定されない限り、分析結果は、言及したプログラムの「デフォルト値」をベースとすることは理解されるだろう。本明細書で使用する場合、「デフォルト値」は、最初の初期化時にソフトウェアで最初にロードされる数値若しくはパラメータの任意のセットを意味するであろう。
【0364】
「アラインメントのClustal V法」は、Clustal V(Higgins and Sharp,(1989)CABIOS 5:151-153、Higgins et al.,(1992)Comput Appl Biosci 8:189-191により説明されている)と表示され、LASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(DNASTAR Inc.、Madison,WI)のMegAlign(商標)プログラム中で見出されるアラインメント法に対応する。多重アラインメントの場合、デフォルト値は、GAP PENALTY=10及びGAP LENGTH PENALTY=10に対応する。Clustal法を使用するタンパク質配列のペアワイズアラインメント(pairwise alignment)用の及び同一性率の算出用のデフォルトパラメータは、KTUPLE=1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5及びDIAGONALS SAVED=5である。核酸の場合、これらのパラメータは、KTUPLE=2、GAP PENALTY=5、WINDOW=4及びDIAGONALS SAVED=4である。Clustal Vプログラムを使用した配列のアラインメントの後、同プログラム中の「配列距離」表を調べることにより、「同一性率」を得ることができる。
【0365】
「アラインメントのClustal W法」は、Clustal W(Higgins and Sharp,(1989)CABIOS 5:151-153、Higgins et al.,(1992)Comput Appl Biosci 8:189-191により説明されている)と表示され、LASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(DNASTAR Inc.、Madison,WI)のMegAlign(商標)v6.1プログラム中で見出されるアラインメント法に対応する。多重アラインメント用のデフォルトパラメータ(GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=0.2、Delay Divergen Seqs(%)=30、DNA Transition Weight=0.5、Protein Weight Matrix=Gonnet Series、DNA Weight Matrix=IUB)。Clustal Wプログラムを使用した配列のアラインメントの後、同プログラム中の「配列距離」表を調べることにより、「同一性率」を得ることができる。
【0366】
別途指定しない限り、本明細書に示される配列同一性/類似性値は、以下のパラメータを用いるGAP Version10(GCG、Accelrys、San Diego、CA)を使用して得られた値を指す:ヌクレオチド配列の同一性%及び類似性%は、ギャップ生成ペナルティウエイト 50、ギャップ長伸長ペナルティウエイト 3、及びnwsgapdna.cmpスコアリングマトリックスを使用;アミノ酸配列の同一性%及び類似性%は、ギャップ生成ペナルティウエイト 8、ギャップ長伸長ペナルティ 2、及びBLOSUM62スコアリングマトリックスを使用(Henikoff and Henikoff,(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915)。GAPは、Needleman and Wunsch,(1970)J Mol Biol 48:443-53のアルゴリズムを使用して、一致した数を最大化し、ギャップ数を最小限に抑える2つの配列全体のアラインメントを見出す。GAPは、全ての可能なアラインメント及びギャップ位置を考慮し、一致した塩基の単位でギャップ生成ペナルティ及びギャップ伸長ペナルティを使用して、一致した塩基の最大数及び最小のギャップを有するアラインメントを作成する。
【0367】
「BLAST」は、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)によって提供されている、生物学的配列の類似領域を見出すために使用される検索アルゴリズムである。このプログラムでは、ヌクレオチド配列又はタンパク質配列を配列データベースと比較し、一致の統計学的有意性を計算して、問い合わせ配列に十分類似した配列を、類似性がランダムに起こったと予想されないように特定する。BLASTは特定された配列及びそれらの問い合わせ配列に対するローカルアライメントを報告する。
【0368】
多くのレベルの配列同一性が、その他の種からの又は天然に若しくは合成により改変されているポリペプチド(そのようなポリペプチドは同一の又は類似した機能又は活性を有する)の特定に有用であることは当業者によく理解されるであろう。同一性率の有用な例としては、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%若しくは95%又は50%~100%の任意の整数パーセンテージが挙げられるが、これらに限定されない。実際に、50%~100%の任意の整数のアミノ酸同一性、例えば、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性は、本開示の説明に有用であり得る。
【0369】
「翻訳リーダー配列」は、遺伝子のプロモーター配列とコード配列との間に位置するポリヌクレオチド配列を指す。翻訳リーダー配列は、mRNAの翻訳開始配列の上流に存在する。翻訳リーダー配列は、mRNAへの一次転写物のプロセシング、mRNAの安定性又は翻訳効率に影響し得る。翻訳リーダー配列の例は、報告されている(例えば、Turner and Foster,(1995)Mol Biotechnol 3:225-236)。
【0370】
「3’非コード配列」、「転写ターミネーター」又は「終止配列」は、コード配列の下流に位置するDNA配列を指し、ポリアデニル化認識配列、及びmRNAプロセシング又は遺伝子の発現に影響を及ぼすことができる、調節シグナルをコードする他の配列を含む。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸系の付加に影響することによって特徴付けられる。異なる3’非コード配列の使用は、Ingelbrecht et al.、(1989)Plant Cell 1:671-680に例示されている。
【0371】
本明細書で使用する場合、「RNA転写物」は、RNAポリメラーゼにより触媒されるDNA配列の転写により生じる産物を指す。RNA転写物が、DNA配列の完全に相補的なコピーである場合、これは一次転写物又はプレmRAと呼ばれる。RNA転写物は、それが一次転写物プレmRNAの転写後のプロセシングで得られたRNAである場合、成熟RNA又はmRNAと呼ばれる。「メッセンジャーRNA」又は「mRNA」は、イントロンを有しておらず、細胞によりタンパク質に翻訳され得るRNAを指す。「cDNA」は、mRNAテンプレートに相補的であって、逆転写酵素を使用してmRNAテンプレートから合成されるDNAを指す。cDNAは単鎖であるか、又はDNAポリメラーゼIのKlenow断片を使用して、二本鎖形態に変換され得る。「センス」RNAは、mRNAを含むRNA転写物を指し、細胞内又はインビトロでタンパク質に翻訳され得る。「アンチセンスRNA」は、標的一次転写物又はmRNAの全部又は一部に対して相補的であり、且つ標的遺伝子の発現をブロックするRNA転写物を指す(例えば、米国特許第5,107,065号明細書を参照されたい)。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写物の任意の部分と、すなわち5’非コード配列、3’非コード配列、イントロン又はコード配列で相補性であり得る。「機能的RNA」は、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、又は翻訳され得ないがそれにもかかわらず細胞内プロセスに影響を及ぼすその他のRNAを指す。用語「相補体」及び「逆相補体」は、mRNA転写物に関して本明細書では互換的に使用され、メッセージのアンチセンスRNAを定義することが意図されている。
【0372】
「成熟」タンパク質は、翻訳後にプロセシングされたポリペプチド(すなわち、一次翻訳産物中に存在する任意のプレペプチド又はプロペプチドが除去されているポリペプチド)を指す。「前駆体」タンパク質は、mRNAの翻訳の一次産物(すなわち、プレペプチド及びプロペプチドが依然として存在している)を指す。プレペプチド及びプロペプチドは細胞内局在化シグナルであり得るがこれに限定されない。
【0373】
本明細書中で使用される場合、「標的変異」は、当業者に知られた任意の方法、例えばガイド型Casタンパク質システムを含む方法を使用して標的遺伝子内の標的配列を変更することによって作製された遺伝子(標的遺伝子と呼ばれる)における変異である。casタンパク質がCasエンドヌクレアーゼである場合、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼガイド標的変異は、Casエンドヌクレアーゼによって認識され、切断されるゲノム標的部位の内部又は外部に位置するヌクレオチド配列において起こり得る。
【0374】
タンパク質は、アミノ酸の置換、欠失、トランケーション及び挿入を含む様々な方法で改変することができる。そのような操作のための方法は、一般に知られている。例えば、タンパク質のアミノ酸配列変異体は、DNA内の変異によって調製することができる。変異誘発法及びヌクレオチド配列の変更法として、例えば、Kunkel,(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488-92、Kunkel et al.,(1987)Meth Enzymol 154:367-82、米国特許第4,873,192号明細書、Walker and Gaastra,eds.(1983)Techniques in Molecular Biology(MacMillan Publishing Company、New York)及びそこで引用されている文献が挙げられる。タンパク質の生物学的活性に影響を与えそうにないアミノ酸置換についてのガイダンスとして、例えば、Dayhoff et al.(1978)Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl Biomed Res Found、Washington、D.C.)のモデルがある。1つのアミノ酸を類似の特性を有する別のアミノ酸と交換するなどの保存的置換が好ましいかもしれない。保存的な欠失、挿入及びアミノ酸置換は、タンパク質の特性に過激な変化を引き起こさないと考えられ、置換、欠失、挿入又はこれらの組み合わせの影響は、ルーチンのスクリーニング分析で評価することができる。二本鎖切断誘発活性の分析法は知られており、一般に、標的部位を含有するDNA基質上における、試薬の全体の活性と特異性を測定する。
【0375】
標準のDNA分離、精製、分子クローニング、ベクター構築、及び検証/キャラクタリゼーションの方法は十分に確立されており、例えば、Sambrook et al.,(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY)を参照されたい。ベクター及びコンストラクトとしては、環状プラスミド及び線状ポリヌクレオチドが挙げられ、これらには目的ポリヌクレオチド、及び場合により他の成分、例えば、リンカー、アダプター、調節成分又は分析成分が含まれる。いくつかの実施例では、認識部位及び/又は標的部位を、イントロン、コード配列、5’UTR、3’UTR及び/又は調節領域内に含有させることができる。
【0376】
略語の意味は以下の通りである:「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「d」は日を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「μM」は「マイクロモルの」を意味し、「mM」は「ミリモルの」を意味し、「M」は「モルの」を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmole」はマイクロモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「U」は単位を意味し、「bp」は塩基対を意味し、及び「kb」はキロベースを意味する。
【0377】
本明細書で開示する組成物及び方法の非限定的な例又は実施形態は下記の通りである。
1.配列番号1に記載の親Cas9ポリペプチドと少なくとも80%のアミノ酸同一性を有し、且つ86位、98位、155位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片(ここで、変異体のアミノ酸位置は、前記親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列と対応させて番号付けされ、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はエンドヌクレアーゼ活性を有する)。
2.少なくとも1つのアミノ酸置換は、Y155H、Y155N、Y155E、Y155F(155位において)、F86A(86位において)及びF98A(98位において)からなる群から選択される、実施形態1のCas9エンドヌクレアーゼ変異体。
3.Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の改善及び編集効率の改善からなる群から選択される少なくとも1つの特性の改善を有する、実施形態1のCas9エンドヌクレアーゼ変異体。
4.前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列に対し75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態1~3のいずれかのCas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片。1.
5.特性の改善は形質転換効率の改善であり、且つ、前記変異体又はその活性断片は編集効率の改善も有する、実施形態3のCas9エンドヌクレアーゼ変異体。
6.親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のアミノ酸置換を含む、実施形態1~5のいずれかのCas9エンドヌクレアーゼ変異体又はその活性断片。
7.実施形態1~6のいずれかのCas9エンドヌクレアーゼ又はその機能的断片を含む組成物。
8.前記組成物は、ガイドポリヌクレオチド/Cas9エンドヌクレアーゼ複合体、ガイドRNA/Cas9エンドヌクレアーゼ複合体、及び前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体を含む融合タンパク質からなる群から選択される、実施形態7の組成物。
9.実施形態1~6のいずれかのCas9エンドヌクレアーゼ変異体をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド。
10.少なくとも1つのガイドポリヌクレオチドと、少なくとも1つの実施形態1~6のいずれか1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体とを含むガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体(PGEN)であって、前記ガイドポリヌクレオチドは天然に存在しないキメラガイドポリヌクレオチドであり、前記ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体は標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合によりニッキング、ほどき、又は切断を行うことができるガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼ複合体(PGEN)。
11.実施形態9のポリヌクレオチドを含む組み換えDNAコンストラクト。
12.実施形態1~6のいずれか1つのCas9エンドヌクレアーゼ又はその機能的断片を含む宿主細胞。
13.実施形態9のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
14.細胞は原核細胞又は真核細胞である、実施形態13の宿主細胞。
15.細胞は、ヒト、非ヒト、動物、菌質、真菌、昆虫、酵母、非従来型酵母及び植物細胞からなる群から選択される、実施形態14の宿主細胞。
15b.実施形態7のPGENを含むキット。
15c.実施形態1、2、3、4、5、又は6に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を含む送達粒子。
15d.Cas9エンドヌクレアーゼ変異体タンパク質はガイドポリヌクレオチドと複合化されている、実施形態15cの送達粒子。
16.細胞のゲノム中の標的部位を改変する方法であって、少なくとも1つの実施形態10のPGENを細胞に導入すること、及び前記標的に改変を有する少なくとも1つの細胞を同定することを含み、前記標的部位の改変は、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、及び(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせからなる群から選択される方法。
17.細胞のゲノム中のヌクレオチド配列を編集する方法であって、少なくとも1つの実施形態10のPGEN、及びポリヌクレオチド改変テンプレートに導入することを含み、前記ポリヌクレオチド改変テンプレートは前記ヌクレオチド配列の少なくとも1つのヌクレオチド改変を含む方法。
18.編集されたヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの細胞を選択することをさらに含む、実施形態17の方法。
19.細胞のゲノム中の標的部位を改変する方法であって、少なくとも1つの実施形態10のPGEN、及び少なくとも1つのドナーDNAを細胞に導入することを含み、前記ドナーDNAは目的ポリヌクレオチドを含む方法。
20.前記標的部位又は前記標的部位の近傍に前記目的ポリヌクレオチドが組み込まれた少なくとも1つの細胞を同定することをさらに含む、実施形態19の方法。
21.細胞は、ヒト、非ヒト、動物、細菌、真菌、昆虫、酵母、非従来型酵母及び植物細胞からなる群から選択される、実施形態16~21のいずれか1つの方法。
22.PGENは、予め組み立てられたポリヌクレオチド-タンパク質複合体として細胞に導入される、実施形態16~21の方法。
23.ガイドポリヌクレオチド/CasエンドヌクレアーゼはガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼである、実施形態16~21のいずれか1つの方法。
24.ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、リボヌクレオチド-タンパク質複合体として細胞に導入される前に、インビトロで組み立てられる、実施形態22の方法。
25.Cas9エンドヌクレアーゼ変異体の少なくとも1つの特性を改善する方法であって、親Cas9エンドヌクレアーゼに少なくとも1つのアミノ酸改変を導入し(ここで、前記少なくとも1つのアミノ酸改変は親Cas9エンドヌクレアーゼのRuvC及びHNHドメインの外側に位置する)、それによって、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体を作製する(ここで、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して少なくとも1つの特性の改善を示す)ことを含む方法。
26.前記少なくとも1つのアミノ酸改変は、86位、98位、155位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置でのアミノ酸置換である(ここで、変異体のアミノ酸位置は前記親Cas9エンドヌクレアーゼのアミノ酸配列と対応させて番号付けされる)、実施形態25の方法。
27.少なくとも1つのアミノ酸置換は、Y155H、Y155N、Y155E、Y155F(155位において)、F86A(86位において)及びF98A(98位において)からなる群から選択される、実施形態26の方法。
28.Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の改善及び編集効率の改善からなる群から選択される少なくとも1つの特性の改善を有する、実施形態25の方法。
29.実施形態24~27のいずれかの方法によって生成されたcas9エンドヌクレアーゼ変異体。
30.バチルス属(Bacillus)宿主細胞のゲノムを改変する方法であって、
改変されるべき少なくとも1つの標的配列を含むバチルス属(Bacillus)宿主細胞に、少なくとも1つの非天然ガイドRNA、及び少なくとも1つの実施形態1~6のいずれか1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体を提供すること(ここで、ガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は複合体(PGEN)を形成することができ、前記複合体は前記少なくとも1つの標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断を行うことができる)、並びに
少なくとも1つのバチルス属(Bacillus)宿主細胞を同定すること(ここで、少なくとも1つのゲノム標的配列は改変されている)
を含む方法。
31. 前記標的配列の改変は、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、及び(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせからなる群から選択することができる、30の方法。
32.バチルス属(Bacillus)宿主細胞は、バチルス・アルカロフィルス(Bacillus alkalophilus)、バチルス・アルティチュジニス(Bacillus altitudinis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、B.アミロリケファシエンス亜種プランタラム(B.amyloliquefaciens subsp.plantarum)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・サークランス(Bacillus circulans)、バチルス・クラウシー(Bacillus clausii)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・フィルムス(Bacillus firmus)、バチルス・ラウツス(Bacillus lautus)、バチルス・レンツス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチスル・メチロトロフィカス(Bacillus methylotrophicus)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・サフェンシス(Bacillus safensis)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・サブティルス(Bacillus subtilis)、及びバチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)からなるバチルス属(Bacillus)種の群から選択される、29の方法。
33.E.コリ(E.coli)宿主細胞のゲノムを改変する方法であって、
改変されるべき少なくとも1つの標的配列を含むE.コリ(E.coli)宿主細胞に、少なくとも1つの非天然ガイドRNA、及び少なくとも1つの実施形態1~6のいずれか1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体を提供すること(ここで、ガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は複合体(PGEN)を形成することができ、前記複合体は前記少なくとも1つの標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断を行うことができる)、並びに
少なくとも1つのE.コリ(E.coli)宿主細胞を同定すること(ここで、少なくとも1つのゲノム標的配列は改変されている)
を含む方法。
34.サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)宿主細胞のゲノムを改変する方法であって、
改変されるべき少なくとも1つの標的配列を含むサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)宿主細胞に、少なくとも1つの非天然ガイドRNA、及び少なくとも1つの実施形態1~6のいずれか1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体を提供すること(ここで、ガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は複合体(PGEN)を形成することができ、前記複合体は前記少なくとも1つの標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断を行うことができる)、並びに
少なくとも1つのサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)宿主細胞を同定すること(ここで、少なくとも1つのゲノム標的配列は改変されている)
を含む方法。
35.真菌宿主細胞のゲノムを改変する方法であって、
改変されるべき少なくとも1つの標的配列を含む真菌宿主細胞に、少なくとも1つの非天然ガイドRNA、及び少なくとも1つの実施形態1~6のいずれか1つのCas9エンドヌクレアーゼ変異体を提供すること(ここで、ガイドRNA及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は複合体(PGEN)を形成することができ、前記複合体は前記少なくとも1つの標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断を行うことができる)、並びに
少なくとも1つの真菌宿主細胞を同定すること(ここで、少なくとも1つのゲノム標的配列は改変されている)
を含む方法。
36.細胞中の標的部位を改変するためのCas9エンドヌクレアーゼ変異体であって、そのHNHドメイン及びRuVCドメインの外側にアミノ酸改変を含むCas9エンドヌクレアーゼ変異体(ここで、前記Cas9エンドヌクレアーゼは前記アミノ酸改変を含まない親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して少なくとも1つの改善された特性を有し、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は前記ガイドポリヌクレオチドと複合体を形成することができ、前記複合体は前記標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断を行うことができる)。
37.Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、前記親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して、形質転換効率の改善、折り畳み変換の改善、編集効率の改善、及び折り畳み編集の改善からなる群から選択される少なくとも1つの特性の改善を有する、実施形態34のCas9エンドヌクレアーゼ変異体。
38.細胞中の目的ゲノム遺伝子座における標的部位改変用のCas9エンドヌクレアーゼ変異体を使用して編集効率を増加させることによって、生命体又は非ヒト生命体を改変する方法であって、非天然ガイドポリヌクレオチド及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体を前記細胞に提供すること(ここで、前記Cas9エンドヌクレアーゼ変異体はそのHNHドメイン及びRuVCドメインの外側にアミノ酸改変を含み、前記Cas9エンドヌクレアーゼは前記アミノ酸改変を含まない親Cas9エンドヌクレアーゼと比較して増加した遺伝子編集効率を有し、前記ガイドポリヌクレオチド及びCas9エンドヌクレアーゼ変異体は前記標的配列の全部又は一部を認識し、結合し、場合により、ニッキング、ほどき、又は切断を行うことができる複合体を形成することができる)を含む方法。
39.原核細胞又は真核細胞においてCasエンドヌクレアーゼ変異体を発現させる方法であって、
(a)原核細胞又は真核細胞に実施形態11の組み換えDNAコンストラクトを導入すること;及び
(b)前記Casエンドヌクレアーゼ変異体の発現を可能にする条件下で、工程(a)の原核細胞又は真核細胞をインキュベートすること
を含む方法。
38.配列番号58(CasY155H変異体)、配列番号123(CasY155N変異体)、配列番号125(Cas9Y155E変異体)、配列番号127(Cas9Y155F変異体)、配列番号129(Cas9F86A-F98A変異体)からなる群から選択されるCas9エンドヌクレアーゼ変異体。
【実施例
【0378】
以下の実施例では、他に特に明記しない限り、部及びパーセンテージは重量によるものであり、度は摂氏である。これらの実施例は、本開示の実施形態を示しているが、例示するためにのみ提供されていることを理解すべきである。上記の考察及びこれらの実施例から、当業者であれば様々な用法及び条件に適合させるために本開示に様々な変更及び修正を加えることができる。そのような修正もまた、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0379】
実施例1
バチルス属(Bacillus)における標的部位1及び標的部位2を標的とするCas9発現カセットの構築。
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9タンパク質(配列番号1)をバチルス属(Bacillus)における発現用にコドン最適化し(配列番号2)、N末端核局在化配列(NLS;「APKKKRKV」;配列番号3)、C末端NLS(「KKKKLK」;配列番号4)、デカヒスチジンタグ(「HHHHHHHHHH」;配列番号5)、B.サブティルス(B.subtilis)由来のaprEプロモーター(配列番号6)及び転写終結配列(配列番号7)を加え、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用し、下記の表1に示すフォワード/リバースプライマー対を用いて増幅した。
【0380】
【表1】
【0381】
プラスミドpKB320(配列番号11)の骨格(配列番号10)を、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用し、下記の表2に示すフォワード/リバースプライマー対を用いて増幅した。
【0382】
【表2】
【0383】
PCR産物を、Zymo cleanを使用して精製し、そして製造業者の説明書に従って5カラムを濃縮した。続いて、2つの断片を等モル比で混合するQ5ポリメラーゼ(NEB)を用いた延長オーバーラップエクステンションPCR(POE-PCR)を用いて、PCR産物をアセンブルした。POE-PCR反応サイクルを繰り返した:98℃5秒間、64℃10秒間、72℃4分15秒間を30サイクル。5μLのPOE-PCR(DNA)を、製造業者の説明書に従ってTop10E.コリ(E.coli)(Invitrogen)に形質転換し、50μg/mlの硫酸カナマイシンを含有し、1.5%寒天で固化させた溶原(L)培地(Millerレシピ;1%(w/v)トリプトン、0.5%(w/v)酵母抽出物、1%(w/v)NaCl)で選択した。コロニーを37℃で18時間増殖させた。コロニーを採取し、Qiaprep DNAミニプレップキットを製造業者の説明書に従って使用してプラスミドDNAを調製し、55μlのddHO中に溶出した。下記の表3に示すシークエンシングプライマーを使用して、サンガー法によりプラスミドDNAの配列を決定し、正しいアセンブリーを確認した。
【0384】
【表3】
【0385】
正しくアセンブルしたプラスミドpRF694(配列番号25)を使用して、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)ゲノムを下記に示すような標的部位1(配列番号28)及び標的部位2(配列番号29)で編集するためのプラスミドpRF801(配列番号26)及びpRF806(配列番号27)を構築した。
【0386】
B.リケニフォルミス(B.licheniformis)のserA1オープンリーディングフレーム(配列番号30は、固有の標的部位である、リバース方向の標的部位1(配列番号28)を含有する。標的部位は、リバース方向のプロトスペーサー隣接モチーフ(配列番号31)に隣接して位置する:標的部位は、可変ターゲティングドメインをコードするDNA(配列番号32)に変換することができる。VTドメインをコードするDNA配列(配列番号32)は、Cas9エンドヌクレアーゼ認識ドメインをコードするDNA配列(CER、配列番号33)に、細菌細胞のRNAポリメラーゼにより転写される場合に標的部位1を標的とする機能的gRNA(配列番号34)を生成するように、作動可能に融合する。34)。gRNAをコードするDNAは、バチルス属(Bacillus)種の細胞において作動可能なプロモーター(例えば、spacプロモーター;配列番号35)、及びバチルス属(Bacillus)種の細胞において作動可能なターミネーター(例えば、ファージラムダのt0ターミネーター;配列番号36)に、プロモーターがgRNAをコードするDNA(配列番号33)の5’に位置し、ターミネーターがgRNAをコードするDNA(配列番号33)の3’に位置するように作動可能に連結された。
【0387】
B.リケニフォルミス(B.licheniformis)ゲノムDNA(gDNA)からの2つのホモロジーアームを増幅することにより、Cas9/gRNA切断に応答してserA1遺伝子を欠失させるポリヌクレオチド改変テンプレート(編集テンプレートとも呼ばれる)を作製した。第1の断片は、serA1オープンリーディングフレームのすぐ上流の500bpに対応する(配列番号37)。この断片を、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼを用い、下記の表4に記載したプライマーを用いて増幅した。プライマーは、第1の断片の3’末端に第2の断片の5’末端に相同の18bpを組み込み、第1の断片の5’末端にpRF694に相同の20bpを組み込む。
【0388】
【表4】
【0389】
第2の断片は、serA1オープンリーディングフレームの3’末端のすぐ下流の500bpに対応する(配列番号40)。この断片を、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼを用いて増幅し、プライマーを下記の表5に記載した。プライマーは、第2の断片の5’末端に第1の断片の3’末端に相同の28bpを組み込み、第2の断片の3’末端にpRF694に相同の21bpを組み込む。
【0390】
【表5】
【0391】
標的部位1 gRNA発現カセットをコードするDNA(配列番号43)、第1のホモロジーアーム(配列番号37)及び第2のホモロジーアーム(配列番号40)を、標準の分子生物学的手法を用いて、pRF694(配列番号25)にアセンブルして、pRF801(配列番号26)の、Cas9発現カセット(配列番号2)、serA1オープンリーディングフレーム内の標的部位1を標的とするgRNAをコードするgRNA発現カセット(配列番号43)、及び第1のホモロジーアーム(配列番号37)及び第2のホモロジーアーム(配列番号40)から構成される編集テンプレート(配列番号44)を含有するE.コリ(E.coli)-B.リケニフォルミス(B.licheniformis)シャトルプラスミドを生成した。プラスミドを、表3に記載のオリゴを用いたサンガーシークエンシングによって検証した。
【0392】
B.リケニフォルミス(B.licheniformis)のrghR1オープンリーディングフレーム(配列番号45)は、リバース鎖に固有の標的部位、標的部位2(配列番号46)を含有する。この標的部位は、リバース鎖のプロトスペーサー隣接モチーフ(配列番号47の最後の3つの塩基)に隣接して位置する。この標的部位は、ガイドRNAの可変ターゲティング(VT)ドメインをコードするDNA(配列番号48)に変換することができる。VTドメインをコードするDNA配列(配列番号48)は、Cas9エンドヌクレアーゼ認識ドメインをコードするDNA配列(CER、配列番号33)に、細菌細胞のRNAポリメラーゼにより転写される場合に標的部位2を標的とする機能的ガイドRNA(gRNA)(配列番号49)を生成するように、作動可能に融合する。gRNAをコードするDNAは、バチルス属(Bacillus)種の細胞において作動可能なプロモーター(例えば、B.キュティリス(B.cutilis)由来のspacプロモーター;配列番号35)、及びバチルス属(Bacillus)種の細胞において作動可能なターミネーター(例えば、ファージラムダのt0ターミネーター;配列番号36)に、プロモーターがgRNAをコードするDNA(配列番号43)の5’に位置し、ターミネーターがgRNAをコードするDNA(配列番号43)の3’に位置するように作動可能に連結された。
【0393】
B.リケニフォルミス(B.licheniformis)ゲノムDNA(gDNA)からの2つのホモロジーアームを増幅することにより、Cas9/gRNA切断に応答してrghR1遺伝子を改変するポリヌクレオチド改変テンプレート(編集テンプレートとも呼ばれる)を作製した。第1の断片は、rghR1オープンリーディングフレームのすぐ上流の500bp(配列番号50)に対応する。この断片を、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼを用い、下記の表6に記載したプライマーを用いて増幅した。プライマーは、第1の断片の3’末端に第2の断片の5’末端に相同の23bpを組み込み、第1の断片の5’末端にpRF694に相同の20bpを組み込む。
【0394】
【表6】
【0395】
第2の断片は、rghR1オープンリーディングフレームの3’末端のすぐ下流の500bpに対応する(配列番号53)。この断片を、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼを用い、下記の表7に記載したプライマーを用いて増幅した。プライマーは、第2の断片の5’末端に第1の断片の3’末端に相同の20bpを組み込み、第2の断片の3’末端にpRF694に相同の21bpを組み込む。
【0396】
【表7】
【0397】
標的部位2 gRNA発現カセット(配列番号)をコードするDNA(配列番号56)、第1のホモロジーアーム(配列番号50)及び第2のホモロジーアーム(配列番号53)を、標準の分子生物学的手法を用いて、pRF694(配列番号25)にアセンブルして、pRF806(配列番号27)の、Cas9発現カセット(配列番号2)、rghR1オープンリーディングフレーム内の標的部位2を標的とするgRNAをコードするgRNA発現カセット(配列番号56)、及び第1のホモロジーアーム(配列番号50)及び第2のホモロジーアーム(配列番号53)から構成される編集テンプレート(配列番号57)を含有するE.コリ(E.coli)-B.リケニフォルミス(B.licheniformis)シャトルプラスミドを生成した。プラスミドを、表3に記載のオリゴを用いたサンガーシークエンシングによって検証した。
【0398】
実施例2
Cas9 Y155変異体の作製
本実施例では、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9のY155H変異体(本明細書では、Cas9 Y155H変異体と呼ぶ、配列番号58)を、pRF801プラスミド(配列番号26)及びpRF806プラスミド(配列番号27)において作製した。pRF801プラスミド(配列番号26)又はpRF806プラスミド(配列番号27)にCas9 Y155H変異体を導入するために、製造業者の説明書に従ってQuikchange変異誘発キットを用い、また下記の表8中のオリゴを用い、テンプレートDNAとしてpRF801(配列番号26)又はpRF806(配列番号27)を用いて、部位特異的変異誘発を実施した。
【0399】
【表8】
【0400】
反応により得られた生成物、pRF827(配列番号61)は、Cas9 Y155H変異体発現カセット(配列番号62)、serA1オープンリーディングフレーム内の標的部位1を標的とするgRNAをコードするgRNA発現カセット(配列番号43)、並びに第1のホモロジーアーム(配列番号37)及び第2のホモロジーアーム(配列番号40)から構成される編集テンプレート(配列番号44)を含有し、又はpRF856(配列番号63)は、Cas9 Y155H変異体発現カセット(配列番号62)、rghR1オープンリーディングフレーム内の標的部位2を標的とするgRNA発現カセット(配列番号56)、並びに第1のホモロジーアーム(配列番号50)及び第2のホモロジーアーム(配列番号53)から構成される編集テンプレート(配列番号57)を含有した。表3に示すシークエンシングプライマーを使用して、サンガー法によりプラスミドDNAの配列を決定し、正しいアセンブリーを確認した。
【0401】
他のCas9 Y155変異体を、上記と同様の方法で作製した。Cas9 Y155N変異体を作製し、配列番号123(配列番号124によってコードされたアミノ酸配列)に示し、Cas9 Y155E変異体を作製し、配列番号125(配列番号126によってコードされたアミノ酸配列)に示し、Cas9 Y155F変異体を作製し、配列番号127(配列番号128によってコードされたアミノ酸配列)に示した。
【0402】
実施例3
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9のY155H変異体(Cas9 Y155H変異体)は、野生型ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9(WT Cas9)と比較して、バチルス属(Bacillus)細胞において、形質転換効率は増加し、DNA編集効率は同等であるか又は増加する。
本実施例では、上述したプラスミドpRF694(配列番号25)、pRF801(配列番号26)、pRF806(配列番号27)、pRF827(配列番号61)、及びpRF856(配列番号63)を、製造業者の説明書に従って、ローリングサークル増幅(Sygnis)により18時間増幅させた。このローリングサークル増幅プラスミドを、国際公開第2017/075195号パンフレット、国際公開第2002/14490号パンフレット及び国際公開第2008/7989号パンフレットに一般的に記載されているように、pBL.comKプラスミド(配列番号64)を含む(有する)コンピテント(親)B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に形質転換した。細胞/DNA形質転換混合物を、20μg/mlのカナマイシンを含有し、1.5%寒天で固化させたL培地(Millerレシピ)にプレーティングした。37℃でコロニーを形成させた。カナマイシンを含むL寒天プレート上で増殖したコロニーを採取し、L寒天プレート上に画線し、回収した。pRF801(配列番号26)及びpRF827(配列番号61)による形質転換からのコロニーを、Q5 DNAポリメラーゼを製造業者の説明書に従って使用し、下記の表9に示すフォワード/リバースプライマー対を用いて、標的部位1遺伝子座(配列番号65)を増幅することによって、編集のスクリーニングを行った。バチルス属(Bacillus)細胞におけるWT及び編集された標的部位1遺伝子座は、増幅された遺伝子座の大きさに基づいて区別し得、WTアンプリコン(配列番号65)は編集されたアンプリコン(配列番号66)より大きい。
【0403】
【表9】
【0404】
プラスミドpRF806(配列番号27)又はプラスミドpRF856(配列番号63)による形質転換からのコロニーを、Q5 DNAポリメラーゼを製造業者の説明書に従って使用し、下記の表10に示すフォワード/リバースプライマー対を用いて、標的部位2遺伝子座(配列番号69)を増幅することによって、編集効率の分析を行った。WT標的部位2遺伝子座(配列番号69)及び編集された標的部位2遺伝子座(配列番号70)は、編集された遺伝子座(配列番号70)の大きさに基づいて区別することができ、WTアプリコン(配列番号69)はより大きい。
【0405】
【表10】
【0406】
プラスミドに選択的な培地(20μg・ml-1を含むL寒天培地)で得られた形質転換体の数を表11に示す。形質転換効率は、特定のgRNA及び編集テンプレートを有する所与のCas9変異体から得られた形質転換体の数と、同じgRNA発現カセット及び編集テンプレートを有する親(WT)Cas9からの形質転換体の数との比である。結果を表11に示すが、これはCas9 Y155H変異体がCas9変異体(プラスミドによって送達される)の形質転換効率を少なくとも84~402倍増加させたことを示している。
【0407】
【表11】
【0408】
表11に示す結果は、Cas9 Y155H変異体がWT Cas9のDNA編集効率と少なくとも同等であるか、又は少なくとも2.3倍(又は230%)大きい編集効率を有することを示している。
【0409】
実施例4
Cas9 F86A-F98A変異体の構築。
本実施例では、Cas9 F86A-F98A変異体のB.リケニフォルミス(B.licheniformis)における形質転換効率及び編集頻度を試験するために、Cas9 F86A-F98A変異体(配列番号129)をpRF801プラスミド(配列番号26)を骨格として構築した。
【0410】
F86A及びF98A(配列番号130)を含むCas9の一部を含有する合成断片を外部の供給業者から入手した。pRF801の骨格(配列番号131)を、表12に示すオリゴを使用し、標準のPSR手法を用いて増幅させた。
【0411】
【表12】
【0412】
合成断片(配列番号130)を、表13に示すオリゴを使用し、標準のPCR手法を用いて増幅させた
【0413】
【表13】
【0414】
pRF801骨格断片(配列番号131)を、標準の分子生物学的手法技術を用いて、F86A-F98A合成断片によりアセンブルして、プラスミドpRF866(配列番号137)を作製した。pRF866は、バチルス属(Bacillus)のためのF86A F98A Cas9発現カセット(配列番号136)、serA1 ts1を標的とするgRNA用の発現カセットをコードするDNA(配列番号43)及びserA1欠失編集テンプレート(配列番号44)を含有する。
【0415】
プラスミドpRF866をB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に形質転換した。
【0416】
実施例5
F86における第1のアミノ酸置換及びF98における第2のアミノ酸置換を含むストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)のCas9変異体は、その親(野生型)ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9(WT Cas9)と比較して、バチルス属(Bacillus)細胞における形質転換効率は増加し、DNA編集効率は同等である。
F86における第1のアミノ酸置換(F86Aなど)及びF98における第2のアミノ酸置換(F98Aなど)を含むストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)のCas9変異体(Cas9F86-F98変異体と呼ぶ)(ここで、変異体のアミノ酸位置は、配列番号1に示す親Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列(ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)WT Cas9)と対応させて番号付けされている)を、実施例4に記載のように作製した。形質転換効率及び編集効率を実施例3に記載のように分析し、表14に示した。
【0417】
【表14】
【0418】
表14は明らかに、Cas9 F86-F98A変異体が、WT Cas9と比較して、形質転換効率を248倍(又は24,800%)増加させたことを示している。編集プラスミドで形質転換されたコロニーを、所望の編集を含むスクリーニングされたコロニーのパーセンテージを決定することによって、編集効率について実施例3に記載されるようにスクリーニングした。表14に示す結果は、Cas9 F86A-F98A変異体がWT Cas9と同等の編集効率を有することを示している。
【0419】
実施例6
エシェリキア・コリ(Escherichia coli)Cas9ベクターの構築
本実施例では、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)(E.コリ(E.coli))におけるゲノム編集のためのガイド性Cas9発現ベクターを構築した。インデューサーに応答したCas9発現を確認した。
【0420】
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)M1 GAS SF370)のCas9タンパク質(配列番号1)を、当該技術分野で知られる標準の手法に従ってコドン最適化した(配列番号73)。Cas9タンパク質を細胞の核に局在化させるために、シミアンウイルス40(SV40)単節型(MAPKKKRKV、配列番号74)核局在化シグナルを、Cas9オープンリーディングフレームのカルボキシ末端に組み込んだ。ヤロウイア属(Yarrowia)コドン最適化Cas9遺伝子を、ヤロウイア属(Yarrowia)構成的プロモーターFBA1(配列番号75)に、標準的な分子生物学的手法により融合させた。構成的FBAプロモーター、ヤロウイア属(Yarrowia)コドン最適化Cas9、及びSV40核局在化シグナルを含むヤロウイア属(Yarrowia)コドン最適化Cas9発現カセット(配列番号76)の例。Cas9発現カセットをプラスミドpZufにクローニングし、この新しいコンストラクトをpZufCas9(配列番号77)と称した。
【0421】
ヤロウイア属(Yarrowia)コドン最適化Cas9-SV40融合遺伝子(配列番号78)を、pZufCas9から、標準的な分子生物学的手法により、下記の表15に示すプライマーを用いて増幅させた。
【0422】
【表15】
【0423】
表12のプライマーは、融合体に5’EcoRI部位及び3’HindIII部位を付加した。PCR産物(配列番号81)を標準的な手法を用いて精製した。精製した断片を、life technologiesからのpBAD/HisB(配列番号82)のEcoRI部位及びHindIII部位にクローニングして、pRF48(配列番号83)を作製した。
【0424】
E.コリ(E.coli)Cas9発現カセット(配列番号84)を低コピープラスミドpKO3(配列番号85)に挿入して、Cas9発現カセットを含有する低コピーE,コリ(E.coli)プラスミドのpRF97(配列番号86)を作製した。
【0425】
実施例7
E.コリ(E.coli)Cas9プラスミドにおけるCas9 Y155H変異体の作製
本実施例では、Cas9 Y155H変異体を、pRF97(配列番号86)にコードされたCas9タンパク質に導入した。
【0426】
pRF97由来のCas9タンパク質の一部をコードするが、Y155H変異体(配列番号87)をコードする置換を含む合成DNA断片を生成した。この合成断片を、標準的なPCR条件、及び表16に記載のプライマーを使用して増幅した。
【0427】
【表16】
【0428】
Y155H合成断片(配列番号87)を挿入させるために、標準的なPCR手法及び下記の表17に示したプライマーを用いてpRF97プラスミド(配列番号86)を増幅させて、pRF97-Y155H断片(配列番号90)を生成した。
【0429】
【表17】
【0430】
Y155H合成断片(配列番号87)及びpRF97-Y155H断片(配列番号90)を組み合わせて、 Cas9 Y155H変異体のためのE.コリ(E.coli)発現カセットを含む低コピープラスミドのpRF861(配列番号93)を作製した。
【0431】
実施例8
WT Cas9及びCas9 Y155H変異体を用いたE.コリ(E.coli)の窒素同化制御遺伝子の欠失。
本実施例では、E.コリ(E.coli)の窒素同化制御遺伝子をコードするnac遺伝子を、WT Cas9又はCas9 Y155H変異体を用いて欠失させた。
【0432】
E.コリ(E.coli)nac遺伝子(配列番号94)は、2つの標的部位、すなわち、標的部位1(配列番号95)及びPAM(配列番号96の最後の3塩基)と、標的部位2(配列番号97)及びPAM(配列番号98の最後の3塩基)とを含む。実施例1に記載のように、CERドメイン(配列番号33)をコードするDNAを、E.コリ(E.coli)に活性なプロモーター(例えば、N25ファージプロモーター(配列番号99)を標的部位の5’末端に作動可能に融合し、E.コリ(E.coli)に活性なターミネーター(例えば、ラムダファージt0ターミネーター(配列番号36)をCERドメインの3’末端に作動可能に融合する標的部位をコードするDNAの3’末端に付加することによって、作動可能なgRNA発現カセットをnac部位1(配列番号100)及びnac部位2(配列番号101)のために作ることができる。 E.コリ(E.coli)は主に相同組み換え修復によってDNAを修復し、効率的なCas9媒介編集には編集テンプレートを必要とする。
【0433】
nac開始コドンの上流491bp及び最初の3つのコドン(配列番号102)を、nac終止コドンの下流491bp及びnacオープンリーディングフレームの最後の3つのコドン(配列番号103)に作動可能に連結して、nacオープンリーディングフレームの最初の3つのコドン及び最後の3つのコドンを除く全てを欠失する編集テンプレート(配列番号104)を作製した。
【0434】
部位1gRNA発現カセット(配列番号100)又は部位2gRNA発現カセット(配列番号102)をnac欠失編集テンプレート(配列番号104)に、 5’末端でpRF97(配列番号86)及びpRF861(配列番号93)と同一の20bp(配列番号105)と共に、3’末端でpRF97(配列番号86)及びpRF861(配列番号93)と同一の21bp(配列番号106)と共に、作動可能に連結し、 nacET部位1(配列番号107)及びnacET部位2(配列番号108)合成DNA断片として入手した。
【0435】
pRF97(配列番号86)又はpRF861(配列番号93)を、標準的な分子生物学的手法及び下記の表18に示したプライマーを用いて増幅させて、線状断片pRF97カセット(配列番号109)又はpRF861カセット(配列番号110)を作製した。
【0436】
【表18】
【0437】
pRF97カセット(配列番号109)又はpRF861カセット(配列番号110)を、nacET部位1(配列番号107)又はnacET部位1(配列番号108)と、標準的な分子生物学的手法を用いてアセンブルして、pRF97/nacET部位1(配列番号113)、pRF97/nacET部位2(配列番号114)、pRF861/nacET部位1(配列番号115)、及びpRF861/nacET部位2(配列番号116)を作製した。
【0438】
MG1655 E.コリ(E.coli)細胞を、以前に記載されたようにして(分子生物学におけるショートプロトコール)エレクトロコンピテントとして、1μlのpRF97/nacET部位1(配列番号113)、pRF97/nacET部位2(配列番号114)、pRF861/nacET部位1(配列番号115)、又はpRF861/nacET部位2(配列番号116)で形質転換した。細胞を、25μg・ml-1クロラムフェニコール及び0.1%w・v-1L-アラビノース(Cas9発現を誘発するため)を含む1.5%w・v-1寒天で固化したL培地にプレーティングした。形質転換からのコロニーを、30℃で24時間増殖させた後に計数した。
【0439】
コロニーが編集された対立遺伝子を含むかどうかを決定するために、各形質転換から最大8個のコロニーを、WT nac遺伝子座(配列番号117)又は編集されたnac遺伝子座(配列番号118)の存在についてPCRにより、標準的な手法及び下記の表19に示すプライマーを用いてPCR増幅させることによって、スクリーニングした。
【0440】
【表19】
【0441】
WT nac遺伝子座(配列番号117)より小さい編集されたnac遺伝子座(配列番号118)に対応する増幅産物を与えたコロニーを編集されたコロニーとして計数し、編集頻度を算出した。 編集頻度は、PCRからの編集されたnac遺伝子座(配列番号118)の存在を示したスクリーニングされた細胞のパーセンテージである。表20の結果は、編集頻度及び形質転換効率(形質転換体/形質転換体WT Cas9)を示す。
【0442】
【表20】
【0443】
表20は、Cas9 Y155H変異体がE.コリ(E.coli)において作動可能であることを明確に示し、WT Cas9編集頻度と比較して、編集効率が少なくとも15%~59%が増加したことを示している。
【0444】
実施例9
サッカロマイセス・セレビシエ(SACCHAROMYCES CEREVISIAE)染色体URA3遺伝子欠失を編集するCAS9-gRNAベクターの構築
サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)染色体URA3遺伝子欠失を編集するCas9 Y155H変異体対Cas9野生型(wt)の形質転換及び編集効率を試験するために、選択マーカーとしてG-418耐性遺伝子(KanMX)を有するCas9 Y155H-gRNA及びCas9wt-gRNA発現プラスミドを以下に記載するように作製する。
【0445】
N末端核局在化配列(NLS、「APKKKRKV」、配列番号3)、C末端NLS(「KKKKLK」、配列番号4)、及びデカヒスチジンタグ(「HHHHHHHHHH」、配列番号5)を含む、S.ピオゲネス(S.pyogenes)由来のCas9野生型タンパク質(配列番号1)をコードする合成ポリヌクレオチドを含有する断片A(Cas9 wt)を、pRF694プラスミド(配列番号25)から、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用し、下記の表21に示すフォワード/リバースプライマー対を用いて増幅させる。N末端核局在化配列、C末端NLS及びデカヒスチジンタグを含む、Cas9 Y115H変異体(配列番号58)をコードする合成ポリヌクレオチドを含有する断片A’(Cas9 Y115H)を、pRF827プラスミド(配列番号 61)から、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用し、下記の表21に示すフォワード(配列番号138)/リバース(配列番号138)プライマー対を用いて増幅させる。
【0446】
【表21】
【0447】
RNR2pプロモーター(配列番号140)、2-ミクロン複製起点1(配列番号141)、KanMX発現カセット(配列番号142)、及びSNR52pプロモーター(配列番号143)を含む断片B(Cas9 wt)を、pSE087プラスミド(配列番号144)から、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用し、下記の表22に示すフォワード(配列番号145)/リバース(配列番号146)プライマー対を用いて増幅させる。
【0448】
【表22】
【0449】
pSE087プラスミドは、異種KanMX発現カセットを有する2μシャトルベクターである。このプラスミドは、RNR2プロモーターの制御下にあるS.ピオゲネス(S.pyogenes)由来のcas9遺伝子、標的sgRNA+T(6)ターミネーター(配列番号147)を含むスタッファー断片の上流にあるSNR52プロモーターを含む。147)。sgRNAは、BsmBIによるプラスミドの線状化がsgRNAスタッファーを放出し、消化されたプラスミドに不適合なオーバーハングを残すように配向されたBsmBI結合部位に隣接する。
【0450】
50bp上流ホモロジーアームの合成ポリヌクレオチド(配列番号148)、URA3標的sgRNA+T(6)ターミネーター(配列番号 149)及び下流の50bp(配列番号150)を含む断片Cを、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用し、下記の表23に示すフォワード(配列番号151)/リバース(配列番号152)プライマー対を用いて増幅させる。
【0451】
【表23】
【0452】
2-ミクロン複製起点2(配列番号153)、アンピシリン耐性遺伝子(配列番号154)及びRNR2ターミネーター(配列番号155)を含む断片Dを、pSE087プラスミドから、製造業者の説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用し、下記の表24に示すフォワード(配列番号156)/リバース(配列番号157)プライマー対を用いて増幅させる。
【0453】
【表24】
【0454】
PCR断片を、Qiagen PCR精製キット(QIAGEN,Inc)を製造業者の説明書に従って使用して精製する。続いて、PCR断片を、以下のプロトコールに従って、酵母におけるギャップ修復によって、2ミクロンプラスミドバック骨格にアセンブルする。
【0455】
S.セレビシエ(S.cerevisiae)ura3Δコンピテント細胞を、Frozen-EZ Yeast Transformation II(商標)キット(Zymo Research,Inc)を製造業者の説明書に従って使用して調製する。50μlのS.セレビシエ(S.cerevisiae)ura3Δコンピテント細胞を、断片A、B、C、及びDの各PCR産物の0.1~0.2μgのDNAと混合して、pWS572(Cas9 wt)を作製する。50μlのS.セレビシエ(S.cerevisiae)ura3Δコンピテント細胞を、断片A’、B、C、及びDの各PCR産物の0.1~0.2μgのDNAと混合して、pWS573(Cas9 Y115H)を作製する。キットから提供される500μlのEZ 3溶液を添加し、完全に混合する。混合物を30℃で45分間インキュベートした後、50~150μlの形質転換混合物を、200ug/mlのGeneticin(G418)抗生物質を補充したYPD培地プレート上に広げる。プレートを30℃で2~4日間インキュベートして、形質転換体を増殖させた。
【0456】
得られたプラスミドpWS572(Cas9wt)及びpWS573(Cas9Y155H)を、ChargeSwitch(登録商標)プラスミド酵母ミニキット(Invitrogen,Inc)を使用して、200ug/mlのGeneticin(G418)抗生物質を補充したYPD培地中で増殖させた1mlの形質転換体から調製する。
【0457】
実施例10
PWS572(CAS9 WT)及びPWS573(CAS9 Y155H)に使用によるサッカロマイセス・セレビシエ(SACCHAROMYCES CEREVISIAE)染色体URA3遺伝子の欠失
本実施例では、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)染色体URA3遺伝子欠失に対するpWS573(Cas9 Y155H)対pWS572(Cas9 wt)の形質転換効率及び編集効率を比較する。S.セレビシエ(S.cerevisiae)野生型コンピテント細胞を、Frozen-EZ Yeast Transformation II(商標)キット(Zymo Research,Inc)を製造業者の説明書に従って使用して調製し、pWS573(Cas9 Y155H)及びpWS572(Cas9 wt)のプラスミドDNA100ngで別々に形質転換する。50~150μlの形質転換混合物を、200ug/mlのGeneticin(G418)抗生物質を補充したYPD培地プレート上に広げる。プレートを30℃で2~4日間インキュベートして、形質転換体を増殖させた。正しいura3Δコロニーを、2g/Lのグルコースを補充した完全合成培地(アミノ酸を含まない1×酵母窒素塩基、ウラシルを含まない1×アミノ酸混合物)に形質転換体を画線し、30℃で2~4日間細胞をインキュベートして、形質転換体を増殖させることにより、潜伏させることにより、ウラシル要求性についてスクリーニングする。URA3遺伝子の欠失を、URA3標的領域のフランキングプライマーを用いるPCR及び配列決定によって確認する。各プラスミドの編集頻度を、ura3Δコロニーの数を試験したコロニーの総数で除すことによって決定する。
図1
図2
図3
【配列表】
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