(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】アテローム性動脈硬化病変を硫酸多糖で安定化及び改善する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/737 20060101AFI20231114BHJP
A61K 36/05 20060101ALI20231114BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231114BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231114BHJP
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A61P 43/00 20060101ALI20231114BHJP
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A61K 36/736 20060101ALI20231114BHJP
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A61K 9/48 20060101ALI20231114BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231114BHJP
C08B 37/00 20060101ALN20231114BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
A61K31/737
A61K36/05
A61P9/10 101
A61K9/08
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A61K36/03
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A61K33/06
A61K9/48
A61K9/20
C08B37/00 H
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2020551783
(86)(22)【出願日】2018-12-13
(86)【国際出願番号】 US2018065562
(87)【国際公開番号】W WO2019118788
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-12-07
(32)【優先日】2017-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521452913
【氏名又は名称】キャロリー ヘルス サイエンス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チェン
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ミャオ
(72)【発明者】
【氏名】ホイト,エドワード
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ケビン
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-516225(JP,A)
【文献】国際公開第2016/164787(WO,A1)
【文献】British Journal of Nutrition,2010年,Vol.103,pp.469-472
【文献】日老医誌,2006年,Vol.43,pp.591-594
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/737
A61P 9/10
A61K 9/08
A61K 9/10
A61K 36/03
A61K 36/05
A61P 43/00
A61K 31/122
A61K 36/87
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A61K 33/06
A61K 9/48
A61K 9/20
C08B 37/00
A61K 131/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不安定アテローム性動脈硬化プラークに処置を施すための処置方法に用いる組成物において、
前記処置方法は、不安定アテローム性動脈硬化プラークを識別することと、前記組成物を、不安定アテローム性動脈硬化プラークを安定化して改善するのに十分な投与量及び投与頻度をもって患者等に投与することとを含み、
前記組成物は、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を含み、前記硫酸多糖は、ヒトエグサ抽出物に含まれるラムナン硫酸である、
ことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記投与は、経口投与により行われることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記投与は、注射投与により行われることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
更に、ヒロハノヒトエグサ、エゾヒトエグサ、オオバアオサ、ボウアオノリ、ヒバマタ属藻類、ホンダワラ、ヒジキ、カジメ、クロメ、コンブ属藻類、Chondrus crispus、Phyllophora brodiei、 Grateloupia indica、カウレルパ属藻類、ミル属藻類、及び、それらのうちの幾つかの組み合わせから成る部類から選択された海藻から抽出された硫酸多糖を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物の前記投与は、前記硫酸多糖を、1回投与量あたり50mg~1000mgの投与量をもって投与することで行われることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の前記投与は、1日1回~1日4回の投与頻度をもって行われることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記不安定アテローム性動脈硬化プラークにおける脂質に富む壊死性コアを縮小させてその縮小量が少なくとも10体積%となるようにすること、
前記不安定アテローム性動脈硬化プラークにおける活動性の炎症を消退させてその消退度が血管内皮損傷度に対して特異性を有する炎症バイオマーカーによる測定値において少なくとも10%となるようにすること、
前記不安定アテローム性動脈硬化プラークの表面の潰瘍化した薄い線維性被膜が部分的又は全般的に修復され治癒するようにすること、
前記不安定アテローム性動脈硬化プラークにおける石灰化結節の総数が減少しその減少量が少なくとも10%となるようにすること、
前記不安定アテローム性動脈硬化プラークにおける出血の総量が減少してその減少量が少なくとも10%となるようにすること、
前記不安定アテローム性動脈硬化プラークにおける動脈壁肥厚度が低下してその低下量が少なくとも10%となるようにすること、
前記不安定アテローム性動脈硬化プラークにおける血管内腔径が拡大してその拡大量が少なくとも5%となるようにすること、及び
前記不安定アテローム性動脈硬化プラークにおける狭窄度が低下してその低下量が少なくとも5%となるようにすること、
以上のうちの1つまたは2つ以上が前記処置方法に含まれることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物の前記投与は、前記硫酸多糖以外の活性薬剤を前記硫酸多糖と併用投与することで行われることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記硫酸多糖以外の前記活性薬剤は、植物由来の抗酸化物質に富む粉末、硝酸塩、亜硝酸塩、マグネシウム、ビタミンK2、またはそれらのうちの幾つかの組み合わせであることを特徴とする請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記植物由来の抗酸化物質に富む粉末を1回投与量あたり100mg~600mgの投与量をもって投与すること、
前記硝酸塩ないし前記亜硝酸塩を1回投与量あたり50mg~1000mgの投与量をもって投与すること、
前記マグネシウムを1回投与量あたり25mg~400mgの投与量をもって投与すること、及び
前記ビタミンK2を1回投与量あたり50μg~500μgの投与量をもって投与すること、
以上のうちの1つまたは2つ以上が前記処置方法に含まれることを特徴とする請求項
9記載の組成物。
【請求項11】
前記識別は、磁気共鳴イメージング法(MRI)、血管内超音波法(IVUS)、非侵襲超音波イメージング法、コンピュータトモグラフィ、血管造影検査法、及び、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)のうちの少なくとも1つを用いて行われることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記識別は、磁気共鳴イメージング法を用いて行われることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項13】
不安定アテローム性動脈硬化プラークに処置を施すための処置用組成物において、
前記処置用組成物は、不安定アテローム性動脈硬化プラークを安定化して改善するのに十分な成分量の、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を含み、前記硫酸多糖は、ヒトエグサ抽出物に含まれるラムナン硫酸であり、
前記処置用組成物は、抗酸化剤を含み、
前記処置用組成物は、医薬的に許容される担体を含む、
ことを特徴とする処置用組成物。
【請求項14】
更に、ヒロハノヒトエグサ、エゾヒトエグサ、オオバアオサ、ボウアオノリ、ヒバマタ属藻類、ホンダワラ、ヒジキ、カジメ、クロメ、コンブ属藻類、Chondrus crispus、Phyllophora brodiei、 Grateloupia indica、カウレルパ属藻類、ミル属藻類、及び、それらのうちの幾つかの組み合わせから成る部類から選択された海藻から抽出された硫酸多糖を含むことを特徴とする請求項13記載の処置用組成物。
【請求項15】
前記処置用組成物における前記硫酸多糖の成分量は、10重量%
以上であることを特徴とする請求項13記載の処置用組成物。
【請求項16】
前記抗酸化剤は植物由来の抗酸化物質に富む粉末であることを特徴とする請求項13記載の処置用組成物。
【請求項17】
前記植物由来の抗酸化物質に富む粉末は、赤ブドウ果皮の抽出物、赤ブドウ種子の抽出物、赤ブドウ搾り滓の抽出物、白ブドウ果皮の抽出物、白ブドウ種子の抽出物、白ブドウ搾り滓の抽出物、緑茶の抽出物、人参の搾汁液又は抽出物、トマトの搾汁液又は抽出物、ブロッコリの搾汁液又は抽出物、青キャベツの搾汁液又は抽出物、タマネギの搾汁液又は抽出物、ニンニクの搾汁液又は抽出物、アスパラガスの搾汁液又は抽出物、オリーブの搾汁液又は抽出物、キュウリの搾汁液又は抽出物、ビルベリーの搾汁液又は抽出物、グレープフルーツの搾汁液又は抽出物、パパイヤの搾汁液又は抽出物、パイナップルの搾汁液又は抽出物、イチゴの搾汁液又は抽出物、リンゴの搾汁液又は抽出物、アプリコットの搾汁液又は抽出物、サクランボの搾汁液又は抽出物、オレンジの搾汁液又は抽出物、及び、クロスグリの搾汁液又は抽出物のうちの1つ又は幾つかから成ることを特徴とする請求項16記載の処置用組成物。
【請求項18】
前記植物由来の抗酸化物質に富む粉末は、赤ブドウ果皮の抽出物、赤ブドウ種子の抽出物、赤ブドウ搾り滓の抽出物、白ブドウ果皮の抽出物、白ブドウ種子の抽出物、白ブドウ搾り滓の抽出物、及び、緑茶の抽出物を混合した混合物から成ることを特徴とする請求項16記載の処置用組成物。
【請求項19】
前記植物由来の抗酸化物質に富む粉末は、人参の搾汁液又は抽出物、トマトの搾汁液又は抽出物、ブロッコリの搾汁液又は抽出物、青キャベツの搾汁液又は抽出物、タマネギの搾汁液又は抽出物、ニンニクの搾汁液又は抽出物、アスパラガスの搾汁液又は抽出物、オリーブの搾汁液又は抽出物、及び、キュウリの搾汁液又は抽出物を混合した混合物から成ることを特徴とする請求項16記載の処置用組成物。
【請求項20】
前記処置用組成物における前記植物由来の抗酸化物質に富む粉末の成分量は、10重量%~90重量%であることを特徴とする請求項16記載の処置用組成物。
【請求項21】
前記処置用組成物は更にマグネシウムの供給源物質を含むことを特徴とする請求項16記載の処置用組成物。
【請求項22】
前記マグネシウムの供給源物質は、酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウム、オロト酸マグネシウム、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、グリシン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、タウリン酸マグネシウム、または、それらのうちの幾つかの組み合わせから成ることを特徴とする請求項21記載の処置用組成物。
【請求項23】
不安定アテローム性動脈硬化プラークを安定化して改善するために用いる経口投与剤型において、
前記経口投与剤型は、不安定アテローム性動脈硬化プラークを安定化して改善するのに十分な含有量の、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩を含み、前記硫酸多糖は、ヒトエグサ抽出物に含まれるラムナン硫酸であり、
前記経口投与剤型は、医薬的に許容される担体を含む、
ことを特徴とする経口投与剤型。
【請求項24】
更に、ヒロハノヒトエグサ、エゾヒトエグサ、オオバアオサ、ボウアオノリ、ヒバマタ属藻類、ホンダワラ、ヒジキ、カジメ、クロメ、コンブ属藻類、Chondrus crispus、Phyllophora brodiei、 Grateloupia indica、カウレルパ属藻類、ミル属藻類、及び、それらのうちの幾つかの組み合わせから成る部類から選択された海藻から抽出された硫酸多糖を含むことを特徴とする請求項23記載の経口投与剤型。
【請求項25】
前記経口投与剤型における前記硫酸多糖の含有量は1回投与量あたり50mg~1000mgであることを特徴とする請求項23記載の経口投与剤型。
【請求項26】
前記経口投与剤型は、固形経口投与剤型または液体経口投与剤型であることを特徴とする請求項23記載の経口投与剤型。
【請求項27】
前記経口投与剤型は更に抗酸化剤を含むことを特徴とする請求項23記載の経口投与剤型。
【請求項28】
前記経口投与剤型における前記抗酸化剤の含有量は、1回投与量あたり100mg~600mgであることを特徴とする請求項27記載の経口投与剤型。
【請求項29】
前記抗酸化剤は植物由来の抗酸化物質に富む粉末であることを特徴とする請求項27記載の経口投与剤型。
【請求項30】
前記経口投与剤型は更にマグネシウムを含むことを特徴とする請求項27記載の経口投与剤型。
【請求項31】
前記経口投与剤型に含まれるマグネシウムは、酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウム、オロト酸マグネシウム、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、グリシン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、タウリン酸マグネシウム、または、それらのうちの幾つかの組み合わせであることを特徴とする請求項30記載の経口投与剤型。
【請求項32】
前記経口投与剤型に含まれるマグネシウムは、イオン結合、配位結合、またはそれらが組み合わさった結合により前記多糖に化合してマグネシウム多糖錯体を形成していることを特徴とする請求項30記載の経口投与剤型。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本件特許出願は2017年12月14日付け出願の米国特許仮出願第62/598,839号、及び2018年5月24日付け出願の米国特許仮出願第62/676,185号に基づく優先権を主張するものであり、これら2件の米国仮出願の開示内容はこの言及をもって本願開示に組み込まれたものとする。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化とは、動脈血管壁が硬化及び肥厚であり、血流量の低下をもたらすことがあり、また、高血圧症、冠動脈性心疾患、頸動脈疾患、末梢動脈疾患、動脈瘤、慢性腎疾患、勃起機能障害などをはじめとする様々な症状を発現する原因ともなり得るものである。アテローム性動脈硬化の特徴は、動脈血管壁に脂質(即ちコレステロール)が蓄積することにあり、その脂質の蓄積により形成される病変はプラークと呼ばれる。
【0003】
動脈プラークが崩壊ないし破綻したならば、心血管、脳血管、それに末梢血管などに関連した急性症状が発現することがあり、例えば、心臓発作や脳卒中などを発症することがある。そのため、崩壊ないし破綻を来しやすい動脈プラーク(不安定プラーク)を識別すべく、これまでに多くの研究努力が重ねられてきた。不安定プラークとは、血栓を形成しやすいプラーク、及び/又は、進行の速いプラークであるということができ、従って、将来的に発現するイベントの責任病変となる確率の高いプラークであるといえる。不安定度の最も高い不安定プラークは、以下に列挙する特徴のうちのいずれか1つ、又は幾つか、もしくは全てを含むものであり、その特徴とは、例えば、サイズの大きな脂質に富む壊死性コアが形成されていること、線維性被膜が潰瘍化している及び/又は薄いこと、活動性の局所的炎症が認められること、血小板凝集が認められること、ポジティブリモデリングが認めらること、動脈壁表面に石灰化結節が認められること、新生血管形成が認められること、それに、プラーク内出血が認められることなどである。これら特徴はいずれも、プラークを崩壊させる原因とも、また、凝血塊を成長させる原因ともなり得る。更に、プラーク病変の近傍の血管内腔径は、その病変の大きさに応じて多少なりとも減少し、それによって血流量の低下及び血圧の上昇が発現する。
【0004】
これまで長くの間、アテローム性動脈硬化病変(即ちアテローム)は改善することが困難であり、特に、進行したアテローム性動脈硬化プラークは改善が不可能であると考えられてきた。また、これまで常に、不安定プラークに関する理論には何らかの疑念がつきまとっていたが、それは、真正の不安定プラークを識別することが困難だったからである。更に、ステントを用いるなどの外科的処置を別にすれば、不安定プラークの処置には常に不確実性がつきまとっていた。一方、最近の医療の進歩によって、ある種の薬剤、例えばスタチンなどは、アテローム性動脈硬化プラークを安定化し得る可能性があることが示されており、このことは、長期に渡る投薬治療によって、アテローム性動脈硬化プラークの脂質に富む壊死性コアのサイズが縮小することで判明したものである。また、ダイエットや運動を行うなどのその他の手段でも、プラークの安定化にある程度の効果が得られる可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
不安定アテローム性動脈硬化プラークに処置を施すための処置方法は、不安定アテローム性動脈硬化プラークを識別することと、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を、不安定アテローム性動脈硬化プラークを安定化して改善するのに十分な投与量及び投与頻度をもって患者等に投与することとを含むことを特徴とする。
【0006】
不安定アテローム性動脈硬化プラークに処置を施すための処置用組成物は、不安定アテローム性動脈硬化プラークを安定化して改善するのに十分な成分量の、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体と、医薬的に許容される担体とを含むことを特徴とする。実施例のうちには、処置用組成物が更に、抗酸化剤、ミネラル、食品中の硝酸塩ないし亜硝酸塩、及び/又は、ビタミンを含むものがある。
【0007】
経口投与剤型は、不安定アテローム性動脈硬化プラークを安定化して改善するのに十分な含有量の、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体と、医薬的に許容される担体とを含むことを特徴とする。
【0008】
以上に、本発明の特徴のうちの比較的重要性の大きな特徴についてかなり大まかに概説したが、これは以下に提示する本発明の詳細説明の理解を容易にし、もって、本発明の当業界への貢献の理解を容易にするためである。本発明のその他の特徴については、以下に示す本発明の詳細な説明を添付図面及び請求の範囲の記載と共に参照することにより明らかになり、また、それら特徴は、本発明を実施することで体得されるものでもある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】アテローム性動脈硬化プラークのサイズに基づいた頸動脈プラークのリスク分類のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、数々の具体的な実施の形態について、当業者が本発明を実施することができるように十分に詳細に説明するが、ただし、それら実施の形態とは異なる実施の形態とすることも可能であり、また、それら実施の形態に対して様々な改変を加えた形態で実施することも可能であり、そのような実施の形態も本発明の概念及び範囲から逸脱するものではない。従って本発明の実施の形態についての以下のより詳細な説明は、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲を限定するものではなく、あくまでも具体例を提示することを目的としており、本発明の特徴及び特性を限定することを目的としたものではなく、本発明を運用する上での最良の形態を記載することで、当業者が本発明を十全に実施し得るようにせんとするものである。従って、本発明の範囲は請求の範囲の記載によってのみ規定されるものである。
【0011】
語法及び用語の定義
本発明を明細書及び特許請求の範囲において記載する上では以下の語法及び用語を用いる。
【0012】
名詞で示されたものが単数であると明示されていない場合には、その名詞で示されたものは単数である場合もあれば複数である場合もある。それゆえ、例えば「病変」と記載されているとき、それは、ただ1つの病変を意味していることもあれば複数の病変を意味していることもある。また、「処理を施す」と記載されているとき、それは、当該処理をただ一度だけ施すことを意味していることもあれば当該処理を2回以上に亘って施すことを意味していることもある。
【0013】
明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「約」なる用語は、それが付されているところの期間、量、ないし数値に許容範囲が存在することを表す。それら数量等の許容範囲は当業者であれば容易に判断し得るものである。ただし、特段の記載がある場合を除いて、「約」という用語で表される許容範囲は、一般的には2%以下であり、また多くの場合に1%以下であり、また場合によっては0.01%以下のこともある。
【0014】
明細書及び特許請求の範囲の記載において特定の性状、環境、等々に関して用いる「実質的に」なる用語は、その特定の性状、環境、等々からのずれ量が、容易に測定できないほど十分に小さいことを意味する。どれほどの大きさのずれ量までなら許容可能であるかは、状況によって様々に異なることがある。
【0015】
明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「隣接」なる用語は、2つの構造体ないし構造要素が互いに近接していることを表す。特に、「隣接」している2つの構成要素は、互いに当接していることもあれば、互いに連結していることもある。更に、そのような2つの構成要素は、互いに近接してはいても、互いに接触はしていないこともある。実際にどれほど近接しているかは、状況によって様々に異なることがある。
【0016】
明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「投与単位」または「1回投与量」なる用語は、治療効果を達成するために、ないしは治療効果の一助とするために、患者等に一度に投与する活性薬剤の適切な分量をいう。場合によっては、取り扱いが容易なように、患者等に投与する1回分の分量を容器などのパッケージに分包し、物理的及び化学的に安定な単位薬剤として保存できるようにしたものを、投与単位ということもある。
【0017】
明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「投与計画」や「投薬計画」などの用語、そして、例えば「処置投与計画」や「予防投与計画」などの用語は、意図する治療ないし処置を達成する上で、ないしは意図する効果を得る上で、活性薬剤等の組成物の1回投与量を、いつ投与すればよいか(或いはすべきか)、いかなる頻度で投与すればよいか(或いはすべきか)、そして、どれほどの期間に亘って投与すればよいか(或いはすべきか)を示すものである。
【0018】
明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「処置」なる用語は、無症状であるか発症しているかを問わず、患者等に治療薬剤ないし処置薬剤を投与することをいう。別の言い方をするならば、「処置」とは、患者等の罹患状態を軽減、改善、または解消することをも含み、また、予防すること(即ち罹患状態に至ることを防止し、ないしは罹患状態に至る可能性を低減すること)をも含むものである。尚、予防のための処置は、罹患防止処置であるということもできる。
【0019】
明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「処置薬剤」、「活性薬剤」、ないしはそれらと同様の用語は、適切な投与量ないしは有効な投与量をもって患者等に投与したときに有利な効果ないしは肯定的な効果を当該患者等に及ぼし得る薬剤をいうものである。
【0020】
活性成分の「有効な投与量」、「治療上有効な投与量」、ないしは「治療上有効な投与頻度」とは、当該活性成分を含有する薬剤を投与して行う疾患治療または罹患状態改善のための治療処置において治療効果が得られるだけの、実質的に無害にして十分な、当該活性成分の投与量ないし投与頻度をいうものである。活性成分が期待される治療効果をもたらす能力に関しては、その能力に影響を及ぼす幾つもの生物学的ファクタが存在する。従って、「有効な投与量」、「治療上有効な投与量」、ないしは「治療上有効な投与頻度」は、それら生物学的ファクタに影響されることがある。更に、治療効果の達成度は、医師等の有資格医療従事者が公知の評価基準を用いて評価するものであるが、治療処置に対する反応の仕方には個人差があることから、治療効果の達成度の評価は主観的評価となりがちである。治療上有効な投与量ないし投与頻度をどのように決定するかは、薬理学及び医学の分野の当業者の通常の技量の範疇に属するものである。
【0021】
明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「処方」ないし「組成物」なる用語は、2つ以上の成分の組み合わせをいうものである。実施例のうちには、それら成分のうちの少なくとも1つが、活性薬剤などの患者等に投与されたときに生理学的活性を発揮する物質であるものがある。例えば、羊膜液は、2つ以上の成分(例えば水と電解質)を含んでいるため、それ自体が組成物ないしは処方であるといえる。
【0022】
明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「患者等」なる用語は、対象となる動物をいうものである。その動物は哺乳動物であることもある。更に、その哺乳動物はヒトであることもある。
【0023】
明細書及び特許請求の範囲の記載においては、理解を容易にするために、複数の構造要素、複数の構成要素、及び/又は、複数の材料を、リストのように列挙することがある。ただし、同一のリストに含まれる個々の要素ないし材料は、相互に関連性を有するものではなく、各々が独立した要素ないし材料として当該リストに記載されているものである。従って、同一のリストに含まれる複数の要素ないし材料は、それらが同一のリストにひとまとめにして列挙されていることをもって、それらが互いに均等物であると解釈されてはならず、均等物である旨が明記されている場合にのみ、均等物であると解釈されるべきものである。
【0024】
本願の明細書及び特許請求の範囲の記載に用いる「~のうちの少なくとも1つ」という用語は、「~のうちの1つまたは幾つか」と同義である。例えば、「A、B及びCのうちの少なくとも1つ」とは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、及び、それらのうちの2つ以上のものの任意の組合せを含み得るものである。
【0025】
明細書及び特許請求の範囲の記載においては、濃度、量、等々を表す数値データを範囲の形で記載することがある。数値を範囲の形で記載するのは簡潔明瞭を旨としたものであり、その解釈は柔軟性をもって行われねばならない。即ち、その範囲の上限及び下限を示した数値のみならず、当該範囲に含まれる全ての数値及び当該範囲に含まれる全てのより狭い範囲をも意味するものであり、従って、それら数値及びより狭い範囲が明記されている場合と同等の意味を有する。例えば、約1~約4.5という数値範囲は、そこに明記された限界値である1及び4.5のみならず、それ以外の数値である例えば2,3,4をも含意するものであり、また、より狭い範囲である、例えば1~3,2~4,等々をも含意するものである。また、ただ1つの数値が明記されている場合にも、同様の原則が適用され、例えば「約4.5以下」との記載でも、上記のごとき数値及び数値範囲を含意するものである。更に、かかる解釈は、数値範囲の持つ幅に対しても、また、特性についての記載に対しても適用されるものである。
【0026】
方法の発明、ないしはプロセスの発明を記載している請求項に、複数のステップが記載されているとき、当該発明は、それら複数のステップが当該請求項に記載されている順番で実行されるものに限定されず、それとは異なる順番で実行されるものも当該発明の範囲に含まれる。また、「~する手段」との記載、それに「~するステップ」との記載により規定されている限定要件は、(a)「手段」ないし「ステップ」なる用語が明記され、何を「する」かが明記されることにより限定要件を成すものである。「~する手段」なる記載に関して、それを「する」ために要する構造、材料、または動作は本願の明細書中に例示されているところのものである。従って、本発明の範囲は特許請求の範囲に記載された発明並びにその法的均等発明として規定されるものであり、明細書の記載によって規定されるものではなく、況んや明細書中に提示されている実施例によって規定されるものではない。
【0027】
アテローム性動脈硬化病変の安定化及び縮小
アテローム性動脈硬化は動脈(心臓から他の身体部位へ酸素及び栄養を輸送する血管)が肥厚して硬化することで発現する。症例によっては、それにより臓器及び身体組織への血流量が低下して、必要なだけの酸素及び栄養が供給されなくなることがある。アテローム性動脈硬化は動脈硬化の一病態であって、動脈壁に物質が蓄積することにより発症し、それによって血流量の低下を招きかねない状態となるものである。動脈壁に蓄積した物質は、アテローム性動脈硬化プラーク(アテローム性動脈硬化病変)と呼ばれる。アテローム性動脈硬化プラークは様々な物質によって形成されており、それら物質のうちには、例えば、コレステロール、脂質、壊死細胞の残骸、カルシウム、フィブリンなどがある。
【0028】
アテローム性動脈硬化が原因となって様々な症状が発現する。発現する症状は、プラークがどれほど悪化しているか、そして、プラークがいかなる部位に形成されているかによって異なるが、例えば、冠動脈疾患、アンギーナ、頸動脈疾患、末梢動脈疾患、慢性腎疾患などの症状が発現する。また、プラークがちぎれて血流に乗って運ばれ、下流で引っかかったり、プラークの表面に血栓が形成されたりする症例もある。これら2通りの症例のいずれも、動脈の梗塞が生じる原因となり得る。その動脈が心臓に酸素を供給している動脈であれば心臓発作を起こしかねず、また、脳に酸素を供給している動脈であれば脳卒中を起こしかねない。また、四肢などに酸素を供給している動脈が梗塞を生じた場合には、壊疽(身体組織の壊死)を起こしかねない。
【0029】
アメリカ心臓協会(American Heart Association)による分類では、アテローム性動脈硬化プラーク(アテローム性動脈硬化病変)が、その病変の悪化の度合いに応じて分類されており、その分類は以下の特徴に基づくものである。第1種:適応性内膜肥厚が認められること。第2種:脂肪線条が認められること。第3種:病変が移行期即ち中等期にあること。第4種:アテロームが形成されていること。第5種:線維性アテローム又は厚い線維性被膜を有するアテロームが形成されていること、第6種:表面欠陥を有する、及び/又は、血腫ないし出血を有する、及び/又は、血栓を有するという特徴が複合したプラークであること。これらの特徴に基づいた分類の仕方について論じた論文としては、Stary et al, A Definition of Advanced Types of Atherosclerotic Lesions and a Histological Classification of Atherosclerosis, A report from the Committee on Vascular Lesions of the Council on Arteriosclerosis, American Heart Association, Circulation, 1995; 92: 1355-1374がある。尚、同論文の記載内容は、この言及をもって本願開示に組み込まれたものとする。以上の分類における第4種~第6種のプラークをもって不安定プラークとする考え方がある。また、より広く、破綻して血栓を形成するに至るリスクの大きいプラークは、全て不安定プラークとする考え方もある。
【0030】
不安定プラークは、実際に極めて不安定なものであり、心臓発作や脳卒中などの重大な急性症状を引き起こしやすい。不安定プラークを規定する特徴としては上記のものに加えて更に、線維性被膜が薄いこと、線維性被膜が損傷していること、脂質に富む壊死性コアのサイズが大きいこと、活動性の局所的炎症が認められること、石灰化結節が認められること、プラーク内出血が認められること、重度の狭窄が認められること、等々がある。これら特徴のうちの1つないし幾つかが存在すると、アテロームの線維性被膜に加わる物理的応力が大きくなり、及び/又は、プラークの物理的強度が低下し、それによってプラークが破綻を来しやすくなる。
【0031】
不安定アテローム性動脈硬化プラークを識別することに多少の困難が付随することもある。例えば、プラークが肥大するときには、多くの場合、その肥大につれて動脈壁の伸張も発生するため、プラークが肥大しても動脈内腔の狭窄が進行しないということは珍しくない。それゆえ、プラークの肥大は通常、心臓負荷試験や血管造影検査によって検出されることはない。ただし、不安定アテローム性動脈硬化プラークを推定して識別する上で有用なイメージング方法も数々存在する。頸動脈疾患及び冠動脈疾患の研究に用いられている医用イメージング手段としては、磁気共鳴イメージング法(MRI)、血管内超音波法(IVUS)、非侵襲超音波イメージング法、コンピュータトモグラフィ、血管造影検査法、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)などがあり、それら手段を用いることで、不安定アテローム性動脈硬化プラークの識別及びその特徴の判別が可能である。
【0032】
通常の非侵襲超音波イメージング法を用いて頸動脈の内膜中膜複合体肥厚度(IMT)を測定することができる。この測定は、トランスデューサを備えた通常型の超音波装置を用いて、総頸動脈と、頸動脈球と、内頸動脈とに対して横方向と縦方向の両方向に走査することにより行われる。非侵襲超音波イメージング法によるIMTの測定は、非侵襲的な測定方法であること、装置の持ち運びが容易なこと、それに測定コストが比較的低廉であるることから、アメリカ心臓協会はこの方法を診療初期段階でのリスク層化のための手段として用いることを推奨している。全ての走査を完了するまでに要する時間は通常30~60分間である。研究結果からは、プラークがエコルーセントとなるのは脂質成分によるものであることが判明しており、また、超音波を用いた検査では、プラークを大まかに、硬質プラーク、軟質プラーク、混合プラークに分類できることも判明している。しかしながら、不安定プラークに関しては、非侵襲超音波イメージング法が、例えば出血や線維性被膜などのプラークの様々な構成要素を明確に区別する能力を持つものであるとの結果は出ていない。
【0033】
血管内超音波法(IVUS)は、冠動脈のアテローム性動脈硬化プラークの画像を得るために用いられている侵襲的なイメージング方法である。IVUSの本質的な特徴は、超音波トランスデューサをカテーテルに取付けたことにあり、超音波の発生、反射信号の受信、受信信号のデータ処理、それに画像生成の原理などは、従前の超音波イメージング法のものと同様である。それによってグレイスケール画像が生成され、その画像に基づいて、プラークを大まかに、軟質プラーク、中間的プラーク、石灰化プラーク、混合プラークに分類することができる。更に、モジュールを追加することでIVUSの持つ組織の特徴を判別する能力を強化することができ、それによって様々なプラーク構造の検出及び定量も可能となる。どのようにしてそれを可能にしているかを大まかに述べるならば、反射信号の振幅を解析することに加えて、更に、反射信号の周波数及びエネルギも解析するようにしているのである。
【0034】
不安定プラークに関しては、モジュールを追加して能力を拡張した(コントラストを増強し、超音波浸透深さを5mmとした)IVUSを用いることで、プラークバーデン(血管断面積に占めるプラーク断面積の割合)、拡張型リモデリング、壊死性コアの有無及び比率、石灰化病変の有無及び比率、それに新生血管形成の有無及び比率を、高い信頼性をもって評価することができた。また、複合超音波ストレインイメージング法(パルポグラフィないしエラストグラフィとも呼ばれる)を実施することで、線維性アテロームに発生する歪みが線維性プラークのものと比べてより大きいことも確認された。しかしながら、現在用いられている複合超音波ストレインイメージング装置(トランスデューサの周波数が20/40MHz、解像度の限度が100μmまで)では、プラークの線維性被膜を可視化することは困難であり、特に線維性被膜が薄い場合には可視化が不可能である。
【0035】
光コヒーレンストモグラフィ(OCT)もまた、侵襲的なイメージング法であり、超音波イメージング法と同様の原理に基づくものであるが、ただし、超音波ではなく近赤外光(例えば波長が1.3μmの赤外光)を用いる。プラーク構造で反射した反射光を画像データとして利用するために、干渉計方式によって散乱光のバックグラウンドエフェクトを排除するようにしている。反射光ビームと参照光ビームとが強め合うように干渉する領域が高輝度領域となり、弱め合うように干渉する領域が低輝度領域となる。赤外光の波長は超音波の波長よりはるかに短いため、OCTの解像度は超音波イメージング法の解像度より1桁ほども良好な値(約10μm)となる。そのためOCTでは、線維性被膜、コラーゲン成分(偏光感受型OCTの場合)、マクロファージ(これは炎症に関与している)、新生血管(これは微細管腔として観察される)、破綻部、それに血栓を、いずれも適切に可視化することができる。スペクトル領域の下限に相当する大きさの微細石灰化病変(病変径が5μm以下)に関するOCTの能力は今なお明確とはなっていない。従って、プラークの不安定性をもたらしている数々の構造要素のうちの幾つかは可視化できるが、それら全てを可視化できるわけではない。OCTにおける制約としては、血液を排除する必要があること(血液成分は散乱効果が大きいため)、画像取得に要する時間が長いこと(ただし最近行われるようになった周波数ドメイン解析の処理を行う場合)、アーチファクトの発生頻度が高いこと、大深度のプラーク構造要素の評価における信頼度が低いこと、それに、石灰化病変と脂質コアとの区別が比較的不明瞭であること(前者は境界がはっきりとしており、後者は境界がぼやけているという違いがあるものの、いずれも反射光信号が微弱な領域となるため)などがある。
【0036】
最近の様々な種類のOCTのうちの1つに、マイクロOCT(μOCT)と呼ばれるものがあり、この方法では、先端的な周波数ドメイン解析を行うことによって、また、微細組織レベルにまで迫る広帯域の光波を用いることによって、軸方向及び横方向の解像度を、1ないし2μmという高い解像度にしている。この高い解像度は、アテローム性動脈硬化の推移及び進行にとって決定的に重要な細胞レベル及び分子レベルの様々な事象を可視化することのできる解像度であり、かかる事象のうちには、白血球の遊出、フィブリン鎖の形成、ECMの産生、内皮剥離、微細石灰化病変、コレステロール結晶の形成、線維性被膜の貫通などがある。
【0037】
CT冠動脈造影法(CTCA)は、コンピュータトモグラフィ(CT)スキャナと、血管造影剤としてのヨード造影剤とを使用して冠動脈を可視化する。この方法の本質的な特徴により得られる利点として、非侵襲性であること、冠血管系の全体のイメージングが可能であること、それに、血管内腔の評価に加えて血管壁の評価も可能であることがある。技術が進歩した現在では、短いスキャン実行時間で、また少ない放射線曝露量で、高画質の画像が得られるものとなっている。例えば、マルチスライス型(マルチデテクタ型ともいう)のスキャナでは、2次元デテクタアレイを装備することで、同時に複数枚の平面画像(スライス)を取得できるように構成されているため、検査時間を短縮することが可能であり、また、モーションアーチファクトが発生する確率を低減することも可能となっている。例えば、幅寸法が160mmの2次元デテクタアレイを装備したスキャナでは、1回の心拍動の時間内に心臓の画像取得を完了することができる。よりソフトな再構成カーネルを使用すれば軟部組織の画質が向上するが、その代わりに空間解像度が低下する。それゆえ、予測ゲーティングを用いることで、画像取得のタイミングを心拡張期(冠血流量が大きい期間)に同期させることができる。また、デュアルエナジー型単色X線スキャナでは、ビームハードニング効果が排除されるため、高度石灰化病変に近接している組織の評価における制約を脱し得ることがある。更に、デュアルソース型(即ちデュアルエナジー型)スキャナは、半回転で検査を完了することができる。これに関連した、より単純簡明な方法として、カルシウムスコア検査法(石灰化スコア検査法)があり、この方法は、血管造影剤を使用せず、冠動脈のカルシウム総量を求めることで、将来的な疾患の発症リスクを予測するものである。
【0038】
不安定プラークに関しては、CTCAを採用することで、壊死性コアの有無と、そのサイズと、その厚さとを高い信頼性をもって評価することができ、この壊死性コアの評価は、組織をハウンスフィールドユニット値(HU値)に従って等級分類することによって行われる(なぜならば、大きな壊死性コアを有するプラークほど減衰量が小さく、それゆえHU値が小さいからである)。危険性の高いプラークを判定するための幾つかの判定基準が策定されている。それら判定基準のうちには、例えば、ポジティブリモデリングが発現していること(これはリモデリング指数RIの値が1.1以上であることで表され、また、これはプラークの構造を表すサロゲートマーカーでもある)、プラークの減衰量が(非常に)小さいこと(壊死性コアの比率が10%以上であると判定するスレショルド値が41HUである場合には、30HU未満であることをもって低減衰量プラーク(LAP)であると判定する)、ナプキンリング形状の徴候像(これは低減衰量の中心部を高減衰量の周囲部が囲繞している形状の像であるが、ただし病因論的にはなお議論の余地がある)が存在すること、それに、点状石灰化病変が存在すること(ここでいう点状石灰化病変とは3mm未満の石灰化病変であり、この3mmという大きさはプラークの不安定化における石灰化病変の役割を考慮した大きさである)がある。
【0039】
冠動脈カルシウムスコア(CACS)検査は、CACSというパラメータを、心臓CTを用いて、血管造影剤を使用することなく測定する検査である。CACSはプラークの量的指標であり、CACSの値はプラークの総断面積と石灰化病変の密度とから算出される。通常は、患者のCACSを、その患者と同性で同年代の他の人々のCACSと比較して、パーセンタイルランクを求めるようにしている。CTCAと異なり、CACS検査は、アテローム性動脈硬化病変の1つの局面を評価するに過ぎないが、にもかかわらず、CACSを用いることが提唱されたのは、CTCAによって予後に関する予測情報が得られるのはCACSの値が中程度値から高値までを取る患者に限られることによるものである。
【0040】
磁気共鳴イメージング法(MRI)もまた、アテローム性動脈硬化プラークの軟質組織の成分を可視化することのできるイメージング方法である。MRIでは、更に、新生血管形成及び拡散特性(血管透過性)も可視化することもできる。特に重要なことは、MRIを用いることで、プラークの破綻(薬理学的且つ帰納的に予測される破綻)に特に関連した不安定プラークの様々な特徴を予測できることである。それら特徴としては、プラークのリモデリング(ポジティブリモデリング、並びに、将来の破綻につながる比較的プラーク面積の大きなリモデリング)や、炎症指標(ガドリニウム造影面積の顕著な増大は、重度のアポトーシス/ネクローシスにより生じる新生血管の透過性の増大及び細胞外空間の拡大を示すものである)などに関連した特徴がある。複数種類のパルスシーケンス(例えば、タイムオブフライト(TOF)方式のホワイトブラッド法のパルスシーケンス、二重反転回復(DIR)方式のブラックブラッド法のパルスシーケンス、それにターボスピンエコー(TSE)方式のブラックブラッド法のパルスシーケンスなど)を用いることによって、プラークの様々な成分(例えば、脂質コア、線維性被膜、石灰化病変、出血、それに粘液性基質など)の輪郭を描出することができる。現時点で存在する制約としては、モーションアーチファクトが生じてしまうこと、それに、心臓にインプラントないしデバイスが植込まれている場合には適用不可であることがある。
【0041】
侵襲的な方法である冠血管サーモグラフィは、血管壁の発熱領域の微かな温度上昇を検出することを目指した方法であり、血管壁の発熱領域には多くの場合、炎症及び/又はアテローム性動脈硬化プラークの破綻が発生している。この目的に適するように製作されたカテーテルは、ハイドロフォイルとバルーンを利用した構成とすることで、サーミスタモジュールを血管壁に適切に当接させることを可能にしたものである。また、バルーンは更に、血管内腔を一時的に閉塞することも可能にしており、それによって、血流が接触伝熱により血管壁を熱を奪うことがないようにして、そこに存在する熱勾配を明瞭に検知できるようにする。具体的な例としては、プラークと健康な血管壁との間には0.5℃以上の温度差が存在するとき、予後不良の確率が大きいと考えられる。
【0042】
不安定プラークを検出するためのその他の方法としては、以上に列挙して説明した方法ほどには広く普及していない方法であるが、陽電子放射トモグラフィ(PET)、単一光子放射コンピュータトモグラフィ(SPECT)、核医学イメージング法、サーモグラフィ、血管内視鏡法、水素分光法、血管内パルポグラフィ、拡散反射分光法(DRS)、内因性蛍光分光法(IFS)、ラマン分光法(RS)、それに、分光分析血管内光音響イメージング法(sIVPA)などがある。
【0043】
また、近赤外分光法(NIRS)は、元々は神経イメージングのために開発された方法であるが、このNIRSを用いてプラークのイメージングを行うことで、将来有望と思われる良い結果が得られている。NIRSは、プラークの様々な成分が光子(700~2500nmの波長領域内の光子)との相互作用により発生する放射の特徴的なスペクトルを利用する方法である。NIRSは、可視光による分光法と比べて、発生する応答が外部からの影響を受けにくく、浸透深さもより大きいため、プラークの脂質成分の評価に適しており、特に、そのプラークが、ポジティブリモデリングを伴い、また、深部に位置するサイズの大きな脂質に富む壊死性コアを伴ったプラークである場合に適している。NIRSを用いた研究の結果、プラークバーデンの大きなプラークであるということよりも、サイズの大きな脂質成分を有するプラークであるということが、被膜の薄い線維性アテロームの特徴であることが判明している。サイズの大きな脂質コアの有無によって、ST上昇型心筋梗塞の患者における責任病変と非責任病変とを適切に判別することができ、また、サイズの大きな脂質コアの存在は、周術期心筋梗塞のリスクを高めることが判明している。興味深いことは、近赤外分光法(NIRS)を血管内超音波法(IVUS)と組み合わせることによって、プラークの構造と成分との両方の評価を、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)に匹敵するくらい良好に行うことができることである。
【0044】
NIRSに一部変更を加えた方法として、近赤外自家蛍光法がある。この方法では、脂質成分に刺激を加えて、検出可能な赤外光を脂質成分から放射させる。この方法をOCTと組み合わせることで、脂質に富む壊死性コアの可視化をより良好に行うことができ、また更に、マクロファージの密度が最高レベルにある領域の位置を正確に特定することができる。
【0045】
分子イメージング法に該当する方法には、陽電子放射トモグラフィ(PET)と、単一光子放射コンピュータトモグラフィ(SPECT)がある。分子イメージング法では、生体内での分子プロセスの特定の成分を対象として可視化するものであり、この方法を用いてアテローム性動脈硬化プラークを可視化することが、不安定プラークの識別の助けとなる。PET及びSPECTは、いずも核医学イメージング法に分類される方法であり、前者は陽電子を放出する放射性同位元素のトレーサを、また後者はガンマ線を放出する放射性同位元素のトレーサを使用して、そのトレーサの移動及び蓄積を追跡することで機能及び代謝に関する情報を得るものである。理論的には、適切なトレーサを開発することができるならば、いかなる特性も分子イメージング法に利用することが可能であり、例えば、光子放射特性を利用することも、常磁性を有するという特性も利用可能である。追跡する対象であるトレーサは様々な形態のものとすることができ、ある物質を付加することでトレーサとし得ることもあれば、ある物質に改質処理を加えることでトレーサとし得ることもある。分子イメージング法を用いて追跡するのに適した不安定性に関するプロセスには様々なものがあり、例えば、白血球接着のプロセス(このプロセスに関与する、セレクチンや血管細胞接着分子-1(VCAM-1)などのタンパク質、それにマクロファージの成分(オステオポンチン)などがトレーサとして用いられる)、コラーゲン分解のプロセス(ラベルしたマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤がトレーサとして用いられる)、細胞アポトーシスのプロセス(アポトーシス細胞の細胞膜の外層のみに存在する脂質に結合するアネキシンがトレーサとして用いられる)、細胞ネクローシスのプロセス(ネクローシスの優先的阻害剤であるネクロスタチンに放射性ラベルしたものがトレーサとして用いられる)、それに、新生血管形成のプロセス(ラベルした抗血管内皮成長因子抗体がトレーサとして用いられる)などがある。
【0046】
イメージング用バイオマーカー(分子イメージング法のためのバイオマーカー)とは別に、循環バイオマーカーないし血漿バイオマーカーも使用されており、それらバイオマーカーには例えば局所的に放出されるバイオマーカーなどがあり、それらバイオマーカーを使用することは不安定プラークの識別の助けとなる。それらバイオマーカーは、アテローム性動脈硬化プラークの成長の様々なステージ(例えば内皮損傷ステージ)に関与しており、また、アテローム性動脈硬化プラークの様々なプロセス(例えば炎症プロセス)に関与している。それゆえ、それらバイオマーカーは、不安定プラークについての有望なバイオマーカーであると認識されている。それらバイオマーカーのうちには、C反応性タンパク質(CRP)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-18(IL-18)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、可溶性CD40リガンド(sCD40L)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、可溶性細胞接着分子(sICAM)、可溶性血管接着分子(sVCAM)、Eセレクチン、Pセレクチン、妊娠関連血漿タンパク質A(PAPP-A)、リポタンパク質関連ホスホリパーゼA2(Lp-PLA2)、組織プラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI)、ミエロペルオキシダーゼ、フィブリノーゲン、単球化学誘引タンパク質-1(MCP-1)、ネオプテリン、酸化LDL、オステオポンチン(OPN)、オステオプロテゲリン(OPG)、それに、マイクロRNA(miRNA)などがある。
【0047】
上述した方法を用いて、或いは、その他の適宜の方法を用いて、不安定アテローム性動脈硬化プラークの識別を行うことができる。それら方法は、その各々に固有の制約が付随している。それゆえ、実施の形態としては、本明細書に記載の様々な識別方法のうちの幾つかを組み合わせて用いるようにしてもよい。具体的な実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化プラークを識別するステップにおいてCTCAを実行するものがある。また、実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化プラークを識別するステップにおいて磁気共鳴イメージング法(MRI)を実行するものがある。また、実施例のうちには、MRIが頸動脈アテローム性動脈硬化プラークMRI(CMRI)であるものがある。(これに関しては例えば、Atherosclerotic plaque imaging by carotid MRI, Zhao, X., Miller, Z.E. & Yuan, C. Curr Cardiol Rep (2009) 11: 70を参照されたい。尚、同文献の記載内容はこの言及をもって本願開示に組み込まれたものとする)。また、実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化プラークを識別するステップが侵襲的な方法を含まないものがある。総合的に、理想的なイメージング方法を決定する上で考慮すべき要因には、安全性、適用可能性、経済性、それに効果の大きさなどがある。それら要因を考慮したときに、動脈硬化プラークの不安定性を評価するための現時点において適用可能な、そして特に効果的な、選択肢の1つとなり得ることの多いのがMRIである。MRIは、動脈狭窄度を明らかに示し得るのみならず、脂質に富む壊死性コア、線維性被膜、プラーク内出血、石灰化病変などを含む動脈壁のプラークも明らかに示し得るものである。CTなどの他の方法と異なり、MRIイメージング法は患者をイオン化放射線に曝露することがなく、また、造影剤を血管内に注入せず実行することも可能である。MRI-PlaqueView(商標)は、頸動脈プラークの不安定性を知るために、頸動脈プラークの形態及び構造、プラークバーデン、プラーク成分、及びプラーク構成要素の特徴を把握しその大きさを計測するための、現時点で入手しうるソフトウェアのうち、FDAによって認可された唯一のソフトウェアであり、ただし、その他の同様のソフトウェアを用いることも可能である。
【0048】
アテローム性動脈硬化症の現時点での治療方法としては、スタチンなどのコレステロール低下薬の投与、抗血小板薬の投与、抗凝固薬の投与、β遮断薬の投与、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の投与、カルシウムチャネル遮断薬の投与、それに利尿薬の投与などをはじめとする様々な投薬療法がある。これら治療方法は夫々に有益な方法であるが、現時点で適用可能な最善の治療方法で施療されている患者であっても、数多くの不良イベントが継続している。更に、これら治療方法の多くは、個々の患者によっても、また症状の重篤度によっても、その効果がまちまちであったり、その効果がなかなか出なかったりする。特に、不安定プラークは殊の外に治療が難しいことがある。例えば、アテローム性動脈硬化プラークの安定性を高めること及びそのサイズを縮小させることは一般的に困難であり、それが不安定アテローム性動脈硬化プラークである場合には、特にそれらのことが困難である。従って、不安定アテローム性動脈硬化プラークまでも含めた、アテローム性動脈硬化プラークに処置を施すための、改良された処置用組成物及び処置方法が求められている。
【0049】
本開示では、不安定プラークなどのアテローム性動脈硬化プラークを安定化するために用い得る、数々の組成物、投与剤型、及び方法について記載する。また、実施例のうちには、不安定プラークなどのアテローム性動脈硬化プラークのサイズを縮小するために用い得る、組成物、剤型、及び方法もある。
【0050】
更に付記するならば、本開示において、組成物、剤型、及び方法について記載するとき、その記載内容は、どの実施例にも適用可能なものであり、その適用可能性については、個々実施例の説明の中で必ずしも明示するとは限らない。それゆえ、例えば組成物についての詳細な記載内容は、本明細書に記載する剤型及び方法にも適用可能であり、また、剤型についての詳細な記載内容も同様に組成物、方法に適用可能であり、方法についての詳細な記載内容も同様に組成物、剤型に適用可能である。
【0051】
更なる詳細として、不安定アテローム性動脈硬化プラークなどのアテローム性動脈硬化プラークに処置を施すための処置用組成物は、治療効果が得られる量の、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を含むものとすることができる。実施例のうちには、処置用組成物が、不安定アテローム性動脈硬化プラークのサイズを縮小するのに十分な量の、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を含むものがある。
【0052】
藻類のうちには様々な薬剤特性を有するものがある。例えば、藻類のうちの幾つかの種は1種類又は2種類以上の生物活性多糖を含有しており、その一例としては、硫酸多糖などを含有している。また、藻類の生物活性多糖のうちには様々な薬剤特性を有するものがあり、それら薬剤特性のうちには、例えば、抗酸化性、抗腫瘍薬性、免疫賦活性、抗炎症性、抗凝固性、抗ウイルス性、抗原虫性、抗バクテリア性、抗高脂血性、及びその他の様々な生物活性特性がある。海藻類由来多糖類のうちには硫酸多糖類が含まれ、例えばフカン類、フコイダン類、カラギーナン類、フルセララン類、ウルバン類(例えばラムナン硫酸など)、ガラクタン類、等々があり、またそれらのみに限定されない。実施例のうちには、組成物が、フカン硫酸、フコイダン、カラギーナン、ウルバン、及びガラクタン硫酸のうちの1つ又は幾つかを含むものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖が、ラムナン硫酸、フコイダン硫酸、アラビナン硫酸、アラビノガラクタン硫酸、ガラクタン硫酸、マンナン硫酸、それら硫酸多糖の機能的類似体である化合物、又は、それら硫酸多糖のうちの幾つかの硫酸多糖の組合せを含むものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物がラムナン硫酸を含むものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物がフコイダン硫酸を含むものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物がアラビナン硫酸を含むものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物がアラビノガラクタン硫酸を含むものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物がガラクタン硫酸を含むものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物がマンナン硫酸を含むものがある。また、実施例のうちには、機能的類似体が天然又は合成のオリゴ糖類を含むものがある。機能的類似体の具体例を挙げるならば、ラムノオリゴ糖類、フコオリゴ糖類、キトオリゴ糖類、ガラクトオリゴ糖類、フラクトオリゴ糖類、硫酸ラムノオリゴ糖類、硫酸フコオリゴ糖類、β-グルカン類、キシロオリゴ糖類、マンナンオリゴ糖類、ガラクトマンナンオリゴ糖類、ラムナン硫酸オリゴ糖類、ヘパラン硫酸オリゴ糖類、コンドロイチン硫酸オリゴ糖類、ケラタン硫酸オリゴ糖類、等々があり、またそれらのみに限定されない。
【0053】
尚、フカン類、フコイダン類、カラギーナン類、フルセララン類、ウルバン類、ガラクタン類、等々の種々の化合物は、様々な種類の海藻類から抽出することができる。従って、例えば、2つの異なった種の褐藻から夫々に抽出されるフコイダン類は、互いに多少とも相違していることがあり得る。それゆえ、同一属内の藻類どうしであっても、あるひとつの種の藻類から抽出された硫酸多糖の特性が、それとは別の種の藻類から抽出された硫酸多糖の特性より好ましいということがあり得る。
【0054】
以上において、実施例のうちには、硫酸多糖が、紅藻類、褐藻類、緑藻類、微細藻類、またはそれらの組合せから抽出されたものであるものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖が、紅藻類から抽出されたものであるものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖が、褐藻類から抽出されたものであるものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖が、緑藻類から抽出されたものであるものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖が、微細藻類から抽出されたものであるものがある。また更に、実施例のうちには、硫酸多糖が、ヒトエグサ、ヒロハノヒトエグサ、エゾヒトエグサ、オオバアオサ、ボウアオノリ、カウレルパ属藻類、ミル属藻類、ヒバマタ属藻類、ホンダワラ、ヒジキ、カジメ、クロメ、コンブ属藻類、Chondrus crispus、Phyllophora brodiei、 Grateloupia indica、Amphora coffeaeformis、ミル属藻類、及びそれらの組合せから成る部類から選択されたものから抽出された硫酸多糖であるものがある。また更に、実施例のうちには、硫酸多糖が、ヒトエグサから抽出された硫酸多糖であるものがある。
【0055】
海藻類から多糖類を抽出する方法としては、様々な方法が公知となっている。それゆえ、その抽出方法については詳述せず、簡単に説明するにとどめる。海洋性多糖類及び海洋性少糖類の分子組成並びに分子量は原料によって異なる。ただし、それら糖類の抽出は多くの場合、原料に前処理を施した後に煮沸抽出することで行われており、前処理としては、洗浄、乾燥、細断ないし破砕、脱塩、アルカリ処理、それに酵素処理などが施される。抽出した多糖類に更に精製処理が施されることもあり、その精製処理は、例えば、分離カラムとメンブレンを用いて、サイズ排除クロマトグラフィ法や、イオン交換クロマトグラフィ法などの方法により行われる。例えば、市販のカラギーナンは、紅藻の一種であるコットニーから抽出している。それには先ず、収穫した海藻を洗浄して乾燥させる。続いてその乾燥した海藻を1cmの長さに細断した上で、(海藻に対して重量比で)50倍量の、50~90℃の熱湯で、1~5時間に亘って煮沸することで抽出を行う。抽出が完了したならば、海藻と抽出液の混合物を回転数12000RPMの遠心分離機にかけ、50℃の温度で30分間に亘って分離処理を施す。続いて上澄み液を回収し、1:2の割合で2-プロパノールと混合して、多糖を沈殿させる。沈殿物を回収して遠心分離機にかけ、液体分を除去し、それを冷凍乾燥することで、市販のカラギーナンの製品が完成する。
【0056】
適宜の抽出方法を用いて海藻類から生物活性多糖を抽出することで、本発明に係る処置用組成物に用いる硫酸多糖を得ることができる。或いはまた、適宜の類似体を得るには、また特に、硫酸少糖などを得るには、天然原料から抽出するのではなく、それを合成するという方法を用いるのもよい。
【0057】
処置用組成物における硫酸多糖の成分量は、薬理効果が得られる範囲内で、様々な成分量とすることができる。実施例のうちには、処置用組成物における硫酸多糖の成分量を約10重量%~約100重量%としたものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖の成分量を約20重量%~約50重量%としたものがある。尚、本明細書において、処置用組成物の成分量は、特段の記載がない限り、処置用組成物の総量に対するパーセンテージで表されるものである。
【0058】
また、実施例のうちには、処置用組成物が更に抗酸化剤を含むものがある。抗酸化剤は、硫酸多糖などの処置用組成物に含まれる他の成分の酸化の防止に資するものである。実施例のうちには、硫酸多糖と抗酸化剤とを組み合わせて投与することによって、その抗酸化剤が薬理効果を発揮するようにしたものもある。
【0059】
処置用組成物に配合することのできる抗酸化剤には、様々なものがある。その具体例を挙げるならば、配合する抗酸化剤を、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、α-リポ酸、N-アセチルシステイン、グルタチオン、カロテノイド類、コエンザイムQ10,トランス型レスベラトロール、トコフェロール類、トコトリエノール類、ピロ亜硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム、アリイン、没食子酸プロピル、没食子酸エピガロカテキン、等々とすることができ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせとすることもできる。また、実施例のうちには、抗酸化剤を、例えばポリフェノール類などの抗酸化物質に富む植物由来の粉末状抽出物を混合して混合粉末としたものがある。抗酸化ポリフェノール類は、酸化ストレスを低減し、活性酸素種(ROS)を減少させる効果を発揮する。心血管疾患に関しては、酸化ストレスやROSの存在は、血管内皮の傷害、アテローム性動脈硬化の進行、持続性心筋梗塞障害、及び/又は、虚血再灌流傷害、等々を引き起こす原因となり得るものであり、またそれらのうちの幾つか同時にを引き起こす原因ともなり得るものである。また、一酸化窒素(NO)の血管弛緩作用が減退することは、心血管疾患を発症しやすくするリスク要因であることが広く認められている。また、抗酸化性ポリフェノール類は、高コレステロール血症並びに高血圧症の発症を予防し、血小板凝集の発現を防止し、血管内皮機能を高め、動脈弾性を改善する働きを有するものである。
【0060】
植物由来の抗酸化物質に富む粉末の具体例としては、赤ブドウ果皮の抽出物、赤ブドウ種子の抽出物、白ブドウ果皮の抽出物、白ブドウ種子の抽出物、緑茶の抽出物、人参の搾汁液又は抽出物、トマトの搾汁液又は抽出物、ブロッコリの搾汁液又は抽出物、青キャベツの搾汁液又は抽出物、タマネギの搾汁液又は抽出物、ニンニクの搾汁液又は抽出物、アスパラガスの搾汁液又は抽出物、オリーブの搾汁液又は抽出物、キュウリの搾汁液又は抽出物、ビルベリーの搾汁液又は抽出物、グレープフルーツの搾汁液又は抽出物、パパイヤの搾汁液又は抽出物、パイナップルの搾汁液又は抽出物、イチゴの搾汁液又は抽出物、リンゴの搾汁液又は抽出物、アプリコットの搾汁液又は抽出物、サクランボの搾汁液又は抽出物、オレンジの搾汁液又は抽出物、クロスグリの搾汁液又は抽出物、ビートルート、キーウィ、スイカ、セイヨウサンザシ、セロリ、Ciliフルーツ、Jujubeフルーツ、ブロッコリ、青スイカズラ、イチゴ、ヤマモモ、ムラサキイモ、ラカンカ、プラム、等々が用いられ、またそれらのみに限定されず、またそれらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0061】
処置用組成物における抗酸化剤の成分量は、様々な成分量とすることができる。実施例のうちには、処置用組成物における抗酸化剤の成分量を、硫酸多糖の酸化を防止するのに十分な成分量としたものがある。実施例のうちには、処置用組成物における抗酸化剤の成分量を薬理効果が得られるように定めたものがある。実施例のうちには、処置用組成物における抗酸化剤の成分量を、約10重量%~約90重量%としたものもあり、また、約20重量%~約80重量%としたものもある。
【0062】
また、実施例のうちには、処置用組成物が更に、硝酸塩及び/又は亜硝酸塩の供給源物質を含有しているものがある。食品中の硝酸塩ないし亜硝酸塩は一酸化窒素(NO)の前駆物質であり、一酸化窒素は血管の健康を維持する上で大きな役割を果たす物質である。内皮型一酸化窒素生成酵素と、舌表面に存在するグラム陰性共生細菌の菌体内酵素系などのその他の酵素系とによって、硝酸塩が還元されて亜硝酸塩となり、更に亜硝酸塩が還元されて一酸化窒素となり、これらによって全身性一酸化窒素のかなりの部分が産生される。一酸化窒素は血管拡張物質であり、血流量を増大させるものである。一酸化窒素は更に、アテローム性動脈硬化症の進行に関して、抗炎症作用、抗凝集作用、抗血小板作用、及び抗酸化作用を発揮する。食品中の硝酸塩及び亜硝酸塩はヒトの血圧を低下させることが判明している。
【0063】
処置用組成物が含有する硝酸塩ないし亜硝酸塩の供給源物質は、様々なものとすることができる。その具体例を挙げるならば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、クロム、及び亜鉛の、硝酸塩及び亜硝酸塩を用いることができ、またそれらのみに限定されない。更に、果実ないし野菜の多くも、良好な硝酸塩ないし亜硝酸塩の供給源物質である。そのような果実ないし野菜の一部のみを挙げるならば、セロリ、クレソン、レタス、チャービル、ビートルート、ホウレンソウ、マスタードグリーン、キャベツ、フェンネル、リーク、パセリ、ルッコラ、スイスチャード、リーフチコリ、コールラビ、ラディッシュ、等々を用いることができる。また、漢方薬草などをはじめとする様々なハーブのうちにも、かなりの成分量の硝酸塩ないし亜硝酸塩を含有するものが多く存在する。その具体例としては、甘草根、カロ実、薤白根、三七人参、人参、龍脳、桂皮、等々があり、またそれらのみに限定されない。実施例のうちには、植物由来の硝酸塩ないし亜硝酸塩の供給源物質が、粉末状抽出物質を混合した混合粉末から成るものがある。また、実施例のうちには、植物由来の硝酸塩ないし亜硝酸塩の供給源物質が、液体状抽出物質(搾汁液など)を混合した混合液から成るものがある。
【0064】
実施例のうちには、処置用組成物における硝酸塩ないし亜硝酸塩の成分量を約10重量%~約90重量%としたものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物における硝酸塩ないし亜硝酸塩の成分量を約20重量%~約80重量%としたものもある。
【0065】
また、実施例のうちには、処置用組成物がマグネシウムの供給源物質を含むものがある。マグネシウムを補給することで、心筋代謝を改善でき、カルシウム蓄積及び心筋細胞死を阻害でき、血管緊張、末梢血管抵抗、後負荷、及び心拍出量を改善でき、不整脈を軽減でき、脂質代謝を改善でき、また更にその他の効果も得られる。更に、マグネシウムによって、酸素由来のフリーラジカルに対する脆弱性を軽減でき、ヒト血管内皮機能を改善でき、血小板凝集能や血小板粘着能のような血小板機能の発現を阻害できるという効果も得られる。
【0066】
処置用組成物が含有するマグネシウムの供給源物質は、様々なものとすることができる。その具体例を挙げるならば、酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウム、オロト酸マグネシウム、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、グリシン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、タウリン酸マグネシウム、等々が用いられ、また、それらだけに限定されず、また、それらのうちの幾つかを組み合わせて用いることもできる。また、マグネシウムが、イオン結合、配位結合、またはそれらが組み合わさった結合により硫酸多糖に化合しているようにすることもできる。その化合により形成されるマグネシウム多糖錯体が、例えばマグネシウ-ムラムナン硫酸錯体である場合には、そのマグネシウム-ラムナン硫酸錯体が配合された処置用組成物は、マグネシウム塩とラムナン硫酸とが物理的に混合した状態で配合された処置用組成物と比べて、数々の利点を有するものとなる。
【0067】
処置用組成物におけるマグネシウムの成分量は、様々な成分量とすることができる。実施例のうちには、処置用組成物におけるマグネシウムの成分量を約10重量%~約90重量%としたものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物におけるマグネシウムの成分量を約20重量%~約80重量%としたものもある。尚、上に具体例として挙げた錯体におけるマグネシウムを、亜鉛、銅、ヨウ素、鉄、カルシウム、マンガン、モリブデン、ホウ素、等々に換えてなる錯体を用いるようにすることもできる。
【0068】
処置用組成物は更にビタミンK2(メナキノン)の供給源物質を含むものとすることができる。ビタミンK2の多量摂取によって、動脈石灰化の発現率及び冠動脈性心疾患による死亡率が低下することが判明している。ビタミンK2は、動脈石灰化を阻害する血管内皮細胞のマトリックスGlaタンパク質(MGP)質を、活性化するものである。
【0069】
処置用組成物は様々な形態のビタミンK2を含むものとすることができる。その具体例を挙げるならば、例えば、メナキノン-2(MK-2)、MK-3、MK-4、MK-5、MK-6、MK-7、MK-8、MK-9、MK-10、MK-11、MK-12、MK-13、それに、MK-14などがある。処置用組成物におけるビタミンK2の成分量は、様々な成分量とすることができる。実施例のうちには、処置用組成物におけるビタミンK2の成分量を約10μg~約100000μgとしたものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物におけるビタミンK2の成分量を、約50μg~約500μgとしたものがある。
【0070】
処置用組成物は更に医薬的に許容される担体を含んでいるものとすることができる。医薬的に許容される担体の特性は、意図する投薬形態に応じたものとすればよい。実施例のうちには、処置用組成物の剤型が注射剤型であるものがある。また、実施例のうちには、処置用組成物の剤型が経口投与剤型であるものもある。また、実施例のうちには、処置用組成物の剤型が静脈内(IV)投与剤型であるものもある。
【0071】
処置用組成物の剤型が注射剤型である場合には、医薬的に許容される担体として、その注射剤型の処置用組成物に適した1種類または複数種類の成分から成る担体が用いられる。その具体例を挙げるならば、その成分としては、水、溶解助剤ないし分散助剤、等張化剤、pH調整剤ないし緩衝剤、防腐剤ないし保存剤、キレート剤、増量剤などが用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0072】
実施例のうちには、注射剤型の処置用組成物が溶解助剤ないし分散助剤を含んでいるものがある。その溶解助剤ないし分散助剤の具体例を挙げるならば、例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、レシチン、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体、プロピレングリコール、グリセリン、エタノール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、ポリオキシエチレンヒマシ油、シクロデキストリン類、カルボキシメチルセルロース、アカシア、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0073】
実施例のうちには、注射剤型の処置用組成物が等張化剤を含んでいるものがある。その等張化剤の具体例を挙げるならば、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、マンニトール、ソルビトール、デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、エタノール、トレハロース、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ダルベッコPBS、アルセバー液、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、水、様々な平衡塩溶液(BSS)類(例えばハンクBSS、アールBSS、グレイBSS、パックBSS、シムBSS、タイロードBSS、BSSプラスなど)、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。等張化剤を用いるのは、処置用組成物の張性の値を適切な値に調整するためである。実施例のうちには、処置用組成物の張性の値を約250~約350ミリオスモル毎リットル(mOsm/L)としたものがある。また、実施例のうちには、することができる。また、実施例のうちには、処置用組成物の張性の値を約277~約310ミリオスモル毎リットル(mOsm/L)としたものがある。
【0074】
実施例のうちには、注射剤型の処置用組成物がpH調整剤ないし緩衝剤を含んでいるものがある。そのpH調整剤ないし緩衝剤の具体例を挙げるならば、例えば、様々な酸、様々な塩基、それに、それらのうちの幾つかの組み合わせが用いられ、より具体的には、塩酸、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、リン酸緩衝液、等々が用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。処置用組成物のpHは約5~約9とすることがあり、また、約6~約8とすることがある。
【0075】
実施例のうちには、注射剤型の処置用組成物が防腐剤ないし保存剤を含んでいるものがある。その防腐剤ないし保存剤の具体例を挙げるならば、例えば、アスコルビン酸、アセチルシステイン、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、モノチオグリセロール、フェノール、メタクレゾール、ベンジルアルコール、プロピルパラベン、ブチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ミリストイル・ガンマ-塩化ピコリニウム、2-フェノキシエタノール、硝酸フェニル水銀、クロロブタノール、チメロサール、トコフェロール、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0076】
実施例のうちには、注射剤型の処置用組成物がキレート剤を含んでいるものがある。そのキレート剤の具体例を挙げるならば、例えば、エチレンジアミン四酢酸、カルシウム、カルシウム二ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0077】
実施例のうちには、注射剤型の処置用組成物が増量剤を含んでいるものがある。その増量剤の具体例を挙げるならば、例えば、スクロース、ラクトース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、グルコース、ラフィノース、グリシン、ヒスチジン、ポリビニルピロリドン、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0078】
処置用組成物の剤型が経口投与剤型である場合には、医薬的に許容される担体として、その経口投与剤型の処置用組成物に適した1種類または複数種類の成分から成る担体が用いられる。特に、その剤型が、固形経口投与剤型である場合には、医薬的に許容される担体として、カプセル剤、錠剤、等々を調製するのに適した様々な成分が用いられる。また、その剤型が、液体経口投与剤型である場合には、医薬的に許容される担体として、分散液剤、懸濁液剤、シロップ剤、エリキシル剤、等々を調製するのに適した様々な成分が用いられる。
【0079】
実施例のうちには、処置用組成物の剤型が錠剤型であるものがある。そのような実施例は多くの場合、結合剤を含有している。その結合剤の具体例を挙げるならば、例えば、ラクトース、リン酸カルシウム、スクロース、コーンスターチ、微結晶セルロース、ゼラチン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、セルロース、その他セルロース誘導体類、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0080】
処置用組成物の剤型が錠剤型である場合には、実施例のうちには、処置用組成物が更に崩壊剤を含有するものがある。その崩壊剤の具体例を挙げるならば、例えば、架橋PVP、架橋CMC、改質澱粉、澱粉グリコール酸ナトリウム、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0081】
実施例のうちには、錠剤が充填材を含有しているものがある。その充填材の具体例を挙げるならば、例えば、ラクトース、リン酸二カルシウム、スクロース、微結晶セルロース、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0082】
また、実施例のうちには、錠剤が錠剤コーティングを有するものがある。そのコーティングは、様々な材料で形成され、その材料としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、セラック、ゼイン、様々な多糖類、様々な腸溶性物質、等々が用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0083】
実施例のうちには、錠剤がその他の様々な添加剤を含有しているものがあり、それら様々な添加剤としては、例えば、離型剤(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなど)、着色剤(二酸化チタン、カルミンなど)、流動化剤(煙霧質シリカ、タルク、炭酸マグネシウムなど)、滑沢剤ないし固化防止剤(タルク、二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸など)、防腐剤ないし保存剤、乾燥剤、及び/又は、その他の適宜の錠剤添加剤などが、必要に応じて用いられる。
【0084】
実施例のうちには、処置用組成物の剤型がカプセル剤であるものもある。かかる実施例では、カプセルそれ自体は、多くの場合、ゼラチン、ヒプロメロース、HPMC、CMC、その他の植物由来のカプセル材料、等々を用いて形成され、また、それらのうちの幾つかの組み合わせを用いて形成されるものもある。カプセル内の薬剤には、様々な添加剤が添加されることもあり、その添加剤としては、例えば、結合剤、崩壊剤、充填剤、流動化剤、固化防止剤、防腐剤ないし保存剤、コーティング剤、等々が添加され、また、それらのうちの幾つかの組み合わせが添加されることもある。これに関しては、上で錠剤や、その他の剤型について説明したものと同様である。
【0085】
実施例のうちには、処置用組成物の剤型が液体剤型即ち液体経口投与剤型であるものがある。液体経口投与剤型は、様々な添加剤を含有するものとすることができ、例えば、液体賦形剤、溶解助剤、増粘剤ないし分散助剤、防腐剤ないし保存剤、等張化剤、pH調整剤ないし緩衝剤、甘味剤、等々を含有するものがあり、また、それらのうちの幾つかの組み合わせを含有するものもある。液体賦形剤の具体例を挙げるならば、例えば、水、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。溶解助剤の具体例を挙げるならば、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、ドクサートナトリウム、ノノキシノール-9,オクトキシノール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシルヒマシ油、ポリオキシル硬化ヒマシ油、ポリオキシオレイルエーテル類、ポリオキシセトステアリルエーテル類、ポリオキシステアリン酸類、ポリソルベート類、ラウリル硫酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、チロキサポール、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。増粘剤ないし分散助剤の具体例を挙げるならば、例えば、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、HPMC、CMC、微結晶セルロース、トラガカントガム、キサンタンガム、ベントナイト、カラギーナン、グアーガム、コロイド状二酸化ケイ素、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。防腐剤ないし保存剤、等張化剤、それに、pH調整剤ないし緩衝剤については、上で注射剤型の処置用組成物に関して説明したものを用いることができ、また、その他の防腐剤ないし保存剤、等張化剤、それに、pH調整剤ないし緩衝剤も用いられる。甘味剤としては、天然及び/又は人工の甘味剤を用いることができ、具体的には、例えば、スクロース、グルコース、フルクトース、ステビア、エリトリトール、キシリトール、アスパルテーム、スクラロース、ネオテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン、アドバンテーム、ソルビトール、等々が用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0086】
実施例のうちには、処置用組成物が機能性食品の成分とされたものもあり、その機能性食品は、例えば、棒状食品、粉末食品、飲料食品、等々である。棒状食品には、目的とする機能によって様々な種類があり、例えば、体重減量食品、エネルギ補給食品、代用食品、高タンパク質食品、高食物繊維食品、血糖値抑制食品、等々がある。棒状食品の栄養成分としては、マクロ栄養素として、炭水化物、タンパク質、及び脂肪などのエネルギとなる栄養成分及びその他のマクロ栄養素があり、また、ミクロ栄養素として、ビタミン類、ミネラル類、及びその他のミクロ栄養素がある。更に、健康増進に資するその他の栄養成分として、フルーツパウダー、野菜パウダー、食物繊維、プレバイオティクス成分、プロバイオティクス成分、植物化学成分、抗酸化剤、代謝調整剤、等々があり、棒状食品の製造においては、それら成分に加えて更に、充填材、結合剤、乳化剤、水、湿潤剤、香味剤、着色剤、甘味剤、防腐剤ないし保存剤、等々も用いられる。処置用組成物を棒状食品の成分とする場合には、更に、目的とする、健康増進効果、テイスト、テクスチャ、フレーバー、及び安定性を達成するためのその他の食品成分が併せて用いられる事もある。同様に、処置用組成物は、粉末食品の成分とされることもあり、その粉末食品には、プロテインパウダー、代用食パウダー、機能性飲用食品の元であるドライミックスなどがある。また、処置用組成物は機能性飲料の成分としても用いられる。そのまま飲用できる状態で販売される飲料には、処置用組成物の他に様々な食品成分を含むものとされることがあり、それら食品成分には、様々な栄養成分、健康増進剤、pH調整剤(酸性度調整剤)、電解質成分、香味剤、甘味剤、安定剤、着色剤、防腐剤ないし保存剤、等々がある。
【0087】
実施例のうちには、処置用組成物が、アテローム性動脈硬化症の食事管理のために医師の完全な監督下において摂食されまたは投与される医用食品の成分とされたものがある(ここで言う医用食品とは、米国希少疾病医薬品法(Orphan Drug Act (21 U.S.C. 360ee(b)(3))の第5条(b)項の(3)に規定されている食品をいう)。
【0088】
本開示においては更に、経口投与剤型についても記載する。この経口投与剤型は、不安定アテローム性動脈硬化プラークなどのアテローム性動脈硬化プラークの、その不安定性を軽減するのに十分な成分量の、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を含むものとすることができる。また、この経口投与剤型が更に、医薬的に許容される担体を含むものとすることができる。
【0089】
経口投与剤型が含有する硫酸多糖は、処置用組成物に関連して上で概説した通りのものである。実施例のうちには、経口投与剤型における硫酸多糖の含有量を1回投与量あたり約15mg~約15000mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型における硫酸多糖の含有量を1回投与量あたり約50mg~約1000mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型における硫酸多糖の含有量を1回投与量あたり約30mg~約300mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型における硫酸多糖の含有量を1回投与量あたり約50mg~約200mgとしたものがある。
【0090】
また、実施例のうちには、経口投与剤型が抗酸化剤を含有しているものがあり、その抗酸化剤は処置用組成物に関連して上で説明した通りのものである、また、実施例のうちには、経口投与剤型における抗酸化剤の含有量を1回投与量あたり約20mg~約20000mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型における抗酸化剤の含有量を1回投与量あたり約20mg~約20000mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型における抗酸化剤の含有量を1回投与量あたり約100mg~約600mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型における抗酸化剤の含有量を1回投与量あたり約125mg~約350mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型が含有する抗酸化剤が、例えば上で列挙したような可食植物から抽出された可食植物由来の抗酸化活性を有する粉末が、複数種類混合した混合粉末であるものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型が含有する抗酸化剤が、例えば上で列挙したような可食植物から抽出された可食植物由来の抗酸化活性を有する溶液を複数種類混合した混合液であるものがある。
【0091】
また、実施例のうちには、経口投与剤型が、硝酸塩ないし亜硝酸塩の供給源物質を含有しているものがあり、その供給源物質としては、処置用組成物に関連して上で説明したものなどがある、また、実施例のうちには、経口投与剤型における硝酸塩ないし亜硝酸の含有量を1回投与量あたり約20mg~約2000mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型における硝酸塩ないし亜硝酸の含有量を1回投与量あたり約50mg~約1000mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型における硝酸塩ないし亜硝酸の含有量を1回投与量あたり約200mg~約600mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型が含有する硝酸塩ないし亜硝酸が、例えば上で列挙した植物性材料のような硝酸塩ないし亜硝酸を含有する可食の植物性材料の粉末を複数種類混合した混合粉末であるものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型が含有する硝酸塩ないし亜硝酸が、例えば上で列挙した植物性材料のような硝酸塩ないし亜硝酸を含有する可食の植物性材料の抽出液を複数種類混合した混合液であるものがある。
【0092】
また、実施例のうちには、経口投与剤型が、処置用組成物に関連して上で説明したのと同様に、マグネシウムを含有しているものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型におけるマグネシウムの含有量を1回投与量あたり約10mg~約1000mgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型におけるマグネシウムの含有量を1回投与量あたり約25mg~約400mgとしたものがある。
【0093】
また、実施例のうちには、経口投与剤型が、処置用組成物に関連して上で説明したのと同様に、ビタミンK2を含有しているものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型におけるビタミンK2の含有量を1回投与量あたり約10μg~約100000μgとしたものがある。また、実施例のうちには、経口投与剤型におけるマグネシウムの含有量を1回投与量あたり約50μg~約500μgとしたものがある。
【0094】
また、実施例のうちには、経口投与剤型が、固形経口投与剤型であるものがある。またその場合には、固形経口投与剤型が、固形経口投与剤型に適した医薬的に許容される担体成分を含有しているようにするとよい。また、実施例のうちには、固形経口投与剤型が、結合剤、崩壊剤、充填剤、離型剤、着色剤、流動化剤、滑沢剤ないし固化防止剤、防腐剤ないし保存剤、乾燥剤、等々を夫々1種類または2種類以上含有するものがあり、また、それらのうちの幾つかの組み合わせを含有するものもあり、これらについては処置用組成物に関連して上で説明したのと同様である。また、実施例のうちには、固形経口投与剤型が、錠剤型であるものがある。また、実施例のうちには、固形経口投与剤型が、ツーピース型ハードカプセルを用いたハードカプセル剤型であるもや、密閉ソフトゲル型カプセルを用いたソフトカプセル剤型であるものがある。
【0095】
また、実施例のうちには、経口投与剤型が、液体経口投与剤型であるものがある。またその場合には、液体経口投与剤型が、液体経口投与剤型に適した医薬的に許容される担体成分を含有しているようにするとよい。また、実施例のうちには、液体経口投与剤型が、液体賦形剤、溶解助剤、増粘剤ないし分散助剤、防腐剤ないし保存剤、等張化剤、pH調整剤ないし緩衝剤、甘味剤、等々を含有するものがあり、また、それらのうちの幾つかの組み合わせを含有するものもあり、これについては上で説明したとおりである。
【0096】
また、実施例のうちには、本明細書に記載の剤型ないし処置用組成物を適宜の容器ないし包装材に収容したものがある。容器ないし包装材には、反復使用タイプのものと、使い捨てタイプのものとがある。また、その具体例を挙げるならば、例えば、ボトル、バイアル瓶、ブリスター包装、袋状容器、等々が用いられ、また、それらのみに限定されずその他のものも用いられる。また、実施例のうちには、容器ないし包装が、例えば茶色ボトルなどのような、剤型ないし処置用組成物を光から防護することのできる容器ないし包装材であるものがある。また、実施例のうちには、容器ないし包装材に、剤型ないし処置用組成物の用法や用量などの事項が記載されているものがある。容器ないし包装材の製作材料としては様々な材料が用いられ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ガラス、等々が用いられ、また、それらのうちの幾つかの組み合わせも用いられる。
【0097】
また、本明細書に記載の処置用組成物は、一般人が摂取する食品を強化するための食品添加物としても用いられる。例えば、処置用組成物は食品全般に安全に配合することが可能であり、その具体例を挙げるならば、例えば、様々な穀物等を製粉した穀粉、パスタ、ブレックファストシリアル、パン、スープないし粉末スープ、棒状食品、スパイス、調味料、乳製品、飲料、粉末飲料、冷凍食品、ペイストリー、クッキー、クラッカー、スナック、等々に配合することができ、また、それらのみに限定されずその他のものにも配合することができる。
【0098】
本開示においては更に、不安定アテローム性動脈硬化プラークに処置を施すための処置方法についても記載する。この方法は、不安定アテローム性動脈硬化プラークを識別し、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩を、不安定アテローム性動脈硬化プラークを安定化して改善するのに十分な投与量及び投与頻度をもって患者に投与するものとすることができる。
【0099】
不安定アテローム性動脈硬化プラークの識別は、硫酸多糖の投与の前、及び/又は、後に行うようにしてよい。また、実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化プラークの識別を、不安定アテローム性動脈硬化プラークの継続観察によって行うものがある。この継続観察は、不安定アテローム性動脈硬化プラークが安定化したか否か、及び/又は、不安定アテローム性動脈硬化プラークのサイズが縮小したか否かを判定するのに役立つ。不安定性の低下は、病変ないしプラークの複数のリスク特性のうちの1つまたは幾つかが変化することによって示される。また、ここでいう複数のリスク特性には、例えば、プラークの全体サイズの縮小、動脈狭窄度の低下(即ち血管内腔径の拡大)、脂質に富む壊死性コアのサイズの縮小、活動性炎症の消退、血小板凝集部の縮小、潰瘍化した薄い線維性被膜の部分的又は全般的な修復、石灰化結節の総面積の縮小、出血の総面積の縮小、等々があり、また、それらのみに限定されずその他のリスク特性もある。
【0100】
硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を患者に投与する際の投与形態には様々なものがある。実施例のうちには、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を、経口投与するようにしたものがある。また、経口投与には、固形経口投与剤型(錠剤、カプセル剤、等々の剤型)による投与があり、また、液体経口投与剤型(溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤、エリキシル剤、ゲル剤、等々の剤型)による投与がある。実施例のうちには、注射(静脈内注射、動脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、等々の注射方式)により投与を行うようにしたものがある。注射により硫酸多糖を投与する場合には、急速注入法により投与することもできれば、計量注入法により投与することもできる。その他の投与方式としては、局所投与、経皮投与、吸入投与、経眼投与、経鼻投与、経耳投与、座薬投与、等々の投与方式がある。
【0101】
投与する硫酸多糖は、本明細書に記載した様々な硫酸多糖及びその他の硫酸多糖のうちの適宜のものを用いることができる。実施例のうちには、硫酸多糖を投与するのに、それを本明細書に記載したような処置用組成物ないし剤型として投与するようにしたものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖の投与量を1回投与量あたり約15mg~約15000mgとしたものがある。実施例のうちには、投与する経口投与剤型における硫酸多糖の含有量を1回投与量あたり約50mg~約1000mgとしたものがある。また、実施例のうちには、投与する経口投与剤型における硫酸多糖の含有量を1回投与量あたり約30mg~約300mgとしたものがある。また、実施例のうちには、投与する経口投与剤型における硫酸多糖の含有量を1回投与量あたり約50mg~約200mgとしたものがある。また、硫酸多糖を投与するのに、それを固形経口投与剤型として投与する場合には、その硫酸多糖の投与量を、カプセル剤、錠剤、等々の投与個数として定めることができ、その投与個数は、1個、2個、3個、4個、または5個以上の適宜の個数とすればよい。
【0102】
硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を投与する上での投与頻度は様々なものとすることができる。実施例のうちには、硫酸多糖の1回投与量を1日1回~1日4回の投与頻度で投与するようにしたものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖の1回投与量を1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、または1日5回以上の投与頻度で投与するようにしたものがある。また、実施例のうちには、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩を、例えば概ね2日に1回、3日に1回、4日に1回、または7日に1回の投与頻度で投与するようにしたものがある。従って、本方法においては、投与頻度を様々な適宜の投与頻度とすることが可能である。
【0103】
更に、硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体を投与する上での投与継続期間は、目標とする治療効果の程度に応じて、様々な投与継続期間とすることができる。実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化症の症状が持続している間、投与を継続するようにしたものがある。また、実施例のうちには、予防処置または介入処置として継続投与を行うようにしたものがある。また、実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化プラークが安定化され、及び/又は、不安定アテローム性動脈硬化プラークのサイズが縮小してその体積縮小量が所定量に達するまで、投与を継続するようにしたものがある。投与継続期間は、目的に応じて、その他の適宜の継続期間としてもよい。一般的なガイドラインとしては、投与継続期間は、約2週間~約24ヶ月とすることもあり、2ヶ月~12ヶ月とすることが多い。同様に、脂質に富む壊死性コアが縮小してその体積縮小量が約5%~約80%に達するまでを投与継続期間とすることもあり、また、その体積縮小量が10%~90%に達するまでを投与継続期間とすることもある。
【0104】
実施例のうちには、硫酸多糖を、硫酸多糖以外の活性薬剤と関連させての投与する(即ち併用投与する)ようにしたものがある。実施例のうちには、併用投与する活性薬剤を、抗酸化剤、硝酸塩、亜硝酸塩、マグネシウム、ビタミンK2、または、それらのうちの幾つかの組み合わせとしたものがあり、これについては本明細書において既に述べたとおりである。
【0105】
硫酸多糖、または、硫酸多糖の医薬的に許容される塩、または、硫酸多糖の医薬的に許容される金属錯体の投与によって、数々の治療効果が得られる。例えば、実施例のうちには、その投与により、ヒト動脈のアテローム性動脈硬化病変(例えば不安定アテローム性動脈硬化病変)を短期間のうちに安定化し、及び/又は、改善し得るものがある。また、実施例のうちには、その投与(例えば連日投与)により、アテローム性動脈硬化病変における脂質に富む壊死性コアのサイズを短期間のうちに縮小し得るものがある。また、実施例のうちには、その投与(例えば連日投与)により、アテローム性動脈硬化プラークにおける活動性炎症を短期間のうちに改善し、及び/又は、軽減し得るものがある。また、実施例のうちには、その投与(例えば連日投与)により、アテローム性動脈硬化プラークの表在性の血小板凝集を短期間のうちに改善し、及び/又は、消退させ得るものがある。また、実施例のうちには、その投与(例えば連日投与)により、アテローム性動脈硬化病変の表面の潰瘍化した薄い線維性薄膜を短期間のうちに修復し、及び/又は、強化し得るものがある。また、実施例のうちには、その投与(例えば連日投与)により、アテローム性動脈硬化プラークにおける石灰化結節の消退を短期間のうちに誘導し得るものがある。また、実施例のうちには、その投与(例えば連日投与)により、プラーク内出血を治癒に至らせ、または改善し得るものがある。また、実施例のうちには、その投与(例えば連日投与)により、アテローム性動脈硬化プラークを短期間のうちに改善し、及び/又は、消退させ得るものがある。また、実施例のうちには、その投与(例えば連日投与)により、アテローム性動脈硬化プラークの発現部位における動脈内腔径の大幅な拡大並びに動脈狭窄度の大幅な低下を達成し得るものがある。
【0106】
実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化病変における脂質に富む壊死性コアのサイズを縮小させてその縮小量が少なくとも10体積%となるようにすることのできる投与量及び投与頻度をもって硫酸多糖を投与するものがある。また、実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化病変における脂質に富む壊死性コアのサイズを縮小させてその縮小量が少なくとも30体積%となるようにすることのできる投与量及び投与頻度をもって硫酸多糖を投与するものがある。また、実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化病変における脂質に富む壊死性コアのサイズを縮小させてその縮小量が少なくとも50体積%となるようにすることのできる投与量及び投与頻度をもって硫酸多糖を投与するものがある。また、実施例のうちには、不安定アテローム性動脈硬化病変における脂質に富む壊死性コアのサイズを縮小させてその縮小量が少なくとも60体積%となるようにすることのできる投与量及び投与頻度をもって硫酸多糖を投与するものがある。特筆すべきことは、不安定プラークにおける石灰化結節の総数を少なくとも10%減少させることが可能であり、実施例のうちには10%~30%減少させることが可能なものもあるということである。同様に、不安定プラークのプラーク内出血の総体積を少なくとも10%減少させることが可能であり、実施例のうちには10%~40%減少させることが可能なものもある。また、実施例のうちには、不安定プラークにおける動脈壁肥厚度及び動脈狭窄度を少なくとも5%低下させることが可能なものもあり、そうした場合には血管内腔径が少なくとも5%拡大することがあり、場合によっては10%~50%拡大することもある。
【0107】
特に、本方法は、アテローム性動脈硬化プラークに関連した幾通りもの病的症状(例えば不安定アテローム性動脈硬化プラークなど)の処置に適用し得るものである。それら病的症状の具体例を挙げるならば、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、頸動脈疾患、脳卒中、末梢動脈疾患、動脈瘤、慢性腎疾患、勃起機能障害、高血圧症、アルツハイマー病、血管性認知症、糖尿病、レイノー病、睡眠時無呼吸症候群、等々があり、また、それらのみに限定されずその他の病的症状にも適用され、またそれらのうちの幾つかが合併した症状にも適用される。
【0108】
実施例1
この研究においては、頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(CIMT)を非侵襲超音波イメージング法により測定することで、患者の予備スクリーニングを行った。CIMTの異常値は、頸動脈プラークが形成されていること、並びに、心血管疾患が高リスクであることを示唆するものである。CIMTに関するガイドライン及び基準範囲の規定は1つではなく幾つも存在している。例えば、欧州心臓病学会/欧州高血圧学会ガイドライン(2013年)(The European Society of Cardiology (ESC) / European Society of Hypertension (ESH) Guidelines (2013))では、CIMTが0.9mmであれば無症候性損傷であると規定している。一方、米国心エコー図学会(The American Society of Echocardiography (ASE))の勧告では、IMT≧75パーセンタイルであれば、それを高値であると見なして、心血管疾患が高リスクであることを示唆するものとしている。また更に、文献のうちには、CIMTの正常値範囲は、若年者の場合の0.5mmから高齢者(80歳以上)の場合の1.2mmまでであると示唆しているものがある。発明者らによる本研究においては、CIMTが1.2mm以上の患者らを選別して、不安定頸動脈プラークの潜在性を調査するための次段階のスクリーニングの対象とした。
【0109】
続いて、その選別した患者らを磁気共鳴イメージング法(MRI)によりスキャンし、そして、VPDiagnostics社(米国、ワシントン州、シアトル所在)の製品であるMRI-PlaqueViw(商標)なるソフトウェア製品を用いて、不安定頸動脈プラークの識別及び解析を行った。このソフトウェア製品は、米国食品医薬品局に承認された、頸動脈アテローム性動脈硬化を定量的に解析することのできる、プラーク特性判別のためのソフトウェア製品である。不安定プラークとは、血栓形成を合併しやすいプラークや進行の速いプラークであり、そのため急性血管イベントや死亡の原因となり得るプラークである。そのようなプラークは、診断の観点からは、破綻する確率が最高レベルにあるプラークであると見なされ、MRIなどのイメージング方法により把握される形態的特徴及び構造的特徴によって識別される。線維性被膜が薄くサイズの大きな脂質に富む壊死性コアは、そのプラークが不安定プラークであることを示す最も顕著な特徴である。
図1に、MRI-PlaqueViewにより実行される、脂質に富む壊死性コアのサイズに基づいたリスク等級分類を示した。CAS2、CAS3、及び、CAS4は、夫々に等級の異なる不安定プラークを表しており、それらが不安定プラークであると判定されるのは、プラーク全体に対する脂質に富む壊死性コアの体積割合が少なくとも5%であるという判定基準によるものである。また、線維性被膜が潰瘍化している(不健全状態にある)場合、石灰化斑ないし石灰化結節が存在している場合、出血が存在している場合、それに、それらのうちの2つ以上が並存している場合には、個々のCAS(頸動脈アテローム性動脈硬化スコア)の中で、プラークの不安定性のレベルが高く判定される。例えば、CAS2に分類されていても、出血が存在しているならば、高リスクであると判定される。
【0110】
不安定プラークが識別された患者らには、ラムナン硫酸を約50%の含有率で含有するヒトエグサ抽出物150mgと、植物由来の抗酸化物質に富む粉末200mgとを混合してハードカプセルに収容したカプセル剤を、1日2回の投与頻度で、2ヶ月間の投与期間に亘って経口投与した。患者らの頸動脈に形成されていた脂質に富む壊死性コアの体積量の測定値をもって比較基準値とし、2ヶ月間の投薬治療期間の終了時に再度の測定を行った。その2ヶ月間の試験期間の終了時には、個々のプラークにおける脂質に富む壊死性コアのサイズが縮小しており、その縮小量は平均して55.5%であった。このことは、プラークが安定化されたこと、即ち、不安定性が低下して破綻しやすさが軽減されたことを示している。また、血管内腔径は拡大しており、その拡大量は23%以上であった。これらのことは、脂質に富む壊死性コアが縮小したばかりでなく、プラークのサイズそのものが縮小して動脈狭窄度が低下したことを示している。脂質及び壊死性物質が除去されることにより、血管内皮の修復並びに病変の治癒が惹起されることは、広く一般的に認められているとおりである。
【0111】
以上の治療結果は、スタチン剤の投与などの現行の介入処置によって得られる治療結果と比較して格段に優れたものである。例えば、ヒトの臨床研究として、33名の患者に、24ヶ月間の投与期間に亘って、ロスバスタチンを、低投与量(5mg/日)と高投与量(40/80mg/日)とで投与する投薬治療を行った研究がある。上述したものと同じくMRI-PlaqueViewを用いて行った解析の結果によれば、その研究治療の終了時には、全ての患者において、脂質に富む壊死性コアの縮小が認められたものの、その縮小量は約25%(低投与量と高投与量で夫々27%と19%)であった。また、血管内腔径には、従って動脈狭窄度には、殆ど変化が認められなかった。また別の研究として、33名の患者に、3年間の投与期間に亘って、アトルバスタチン(10~80mg/日)を投与した研究があるが、その研究でも同様の結果が報告されている。刊行物に記載されているスタチン剤に関わるその他の様々な研究では、頸動脈プラークにおける脂質に富む壊死性コアの縮小量は更に小さなものとなっている。従って、本発明者らの上述した研究結果は、アテローム性動脈硬化の治療の分野の当業者にとっても予期することのできない、驚異的な結果であると認められる。
【0112】
実施例2
ラムナン硫酸を約50%の含有率で含有するヒトエグサ抽出物300mgと、植物由来の抗酸化物質に富む粉末150mgとを混合して組成物を調製し、この組成物をハードカプセルに収容した。この組成物を、1日2回の投与頻度で、1ヶ月間に亘って投与した。
【0113】
実施例3
フコイダン硫酸を75%の含有率で含有するマコンブ抽出物100mgと、果実野菜混合粉末10000mgとを混合して組成物を調製した(同果実野菜混合粉末は、ビートルート、キーウィ、スイカ、セイヨウサンザシ、セロリ、Ciliフルーツ、Jujubeフルーツ、ブロッコリ、青スイカズラ、ブドウ全粒、イチゴ、ヤマモモ、ムラサキイモ、ラカンカ、及びプラムの混合粉末である)。また、同果実野菜混合粉末は、粉末飲料として調製されたものであり、同果実野菜混合粉末10000mgには、食品中の硝酸塩が500mg含有されていた。この組成物を、1日1回の投与頻度で投与した。