IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-アニール装置及びアニール方法 図1
  • 特許-アニール装置及びアニール方法 図2
  • 特許-アニール装置及びアニール方法 図3
  • 特許-アニール装置及びアニール方法 図4
  • 特許-アニール装置及びアニール方法 図5
  • 特許-アニール装置及びアニール方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】アニール装置及びアニール方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/268 20060101AFI20231114BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H01L21/268 T
H01L21/265 602C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020559897
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2019045461
(87)【国際公開番号】W WO2020116169
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018226435
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲平
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-022333(JP,A)
【文献】特開2008-211136(JP,A)
【文献】特開2008-117877(JP,A)
【文献】特開2013-258288(JP,A)
【文献】特表2013-512572(JP,A)
【文献】特開2003-273040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/268
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニール対象物の表面を加熱して表層部を一時的に溶融させる加熱部と、
前記加熱部によって加熱された前記アニール対象物からの熱放射光を検出するセンサと、
前記センサによって検出された熱放射光の強度の時間変化を示す波形に基づいて、前記アニール対象物のアニール結果を推定する処理部と
を有し、
前記処理部は、前記センサで検出された熱放射光の強度の時間変化を示す波形の特徴的な形状に基づいて、前記アニール対象物の表層部の溶融時間を求め、溶融時間に基づいて前記アニール対象物の表層部の溶融深さを推定するアニール装置。
【請求項2】
アニール対象物の表面を加熱して表層部を一時的に溶融させる加熱部と、
前記加熱部によって加熱された前記アニール対象物からの熱放射光を検出するセンサと、
前記センサによって検出された熱放射光の強度の時間変化を示す波形に基づいて、前記アニール対象物のアニール結果を推定する処理部と
を有し、
前記処理部は、前記センサで検出された熱放射光の強度の時間変化を示す波形の面積に基づいて、前記アニール対象物の表層部の溶融深さを推定するアニール装置。
【請求項3】
さらに、画像を表示する表示部を有し、
前記加熱部は、前記アニール対象物の表面上において加熱箇所を移動させ、
前記処理部は、前記アニール対象物の表面内の位置と、推定された溶融深さとを関連付けて、溶融深さの分布を前記表示部に表示する請求項1または2に記載のアニール装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記センサによって検出された熱放射光の強度に基づいてアニール結果の良否を判定する請求項1乃至のいずれか1項に記載のアニール装置。
【請求項5】
アニール対象物の表面の一部を加熱して表層部を溶融させ、
処理部が、前記アニール対象物の加熱された箇所からの熱放射光の強度の時間変化を示す波形の特徴的な形状に基づいて、前記アニール対象物の表層部の溶融時間を求め、
溶融時間に基づいて前記アニール対象物の表層部の溶融深さを推定するアニール方法。
【請求項6】
アニール対象物の表面の一部を加熱して表層部を溶融させ、
処理部が、前記アニール対象物の加熱された箇所からの熱放射光の強度の時間変化を示す波形の面積に基づいて、前記アニール対象物の表層部の溶融深さを推定するアニール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニール装置及びアニール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の製造工程では、基板の背面から1~3μm程度の深い領域にバッファ層が形成される。このため、深い領域にイオン注入されたドーパントを活性化させる必要がある。特許文献1に、深い領域に注入されたドーパントの活性化アニールに適したレーザアニール装置が開示されている。また、半導体ウエハの表層部を溶融させて不純物を活性化させる方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-74019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体ウエハの深さ方向の不純物の活性化率の分布は、活性化アニール時の溶融深さに依存する。アニールプロセスの良否を判定するには、アニール時の溶融深さを知ることが望ましい。本発明の目的は、アニール時の溶融深さを推定することが可能なアニール装置及びアニール方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によると、
アニール対象物の表面を加熱して表層部を一時的に溶融させる加熱部と、
前記加熱部によって加熱された前記アニール対象物からの熱放射光を検出するセンサと、
前記センサによって検出された熱放射光の強度の時間変化を示す波形に基づいて、前記アニール対象物のアニール結果を推定する処理部と
を有し、
前記処理部は、前記センサで検出された熱放射光の強度の時間変化を示す波形の特徴的な形状に基づいて、前記アニール対象物の表層部の溶融時間を求め、溶融時間に基づいて前記アニール対象物の表層部の溶融深さを推定するアニール装置が提供される。
本発明の他の観点によると、
アニール対象物の表面を加熱して表層部を一時的に溶融させる加熱部と、
前記加熱部によって加熱された前記アニール対象物からの熱放射光を検出するセンサと、
前記センサによって検出された熱放射光の強度の時間変化を示す波形に基づいて、前記アニール対象物のアニール結果を推定する処理部と
を有し、
前記処理部は、前記センサで検出された熱放射光の強度の時間変化を示す波形の面積に基づいて、前記アニール対象物の表層部の溶融深さを推定するアニール装置が提供される。
【0006】
本発明のさらに他の観点によると、
アニール対象物の表面の一部を加熱して表層部を溶融させ、
処理部が、前記アニール対象物の加熱された箇所からの熱放射光の強度の時間変化を示す波形の特徴的な形状に基づいて、前記アニール対象物の表層部の溶融時間を求め、
溶融時間に基づいて前記アニール対象物の表層部の溶融深さを推定するアニール方法が提供される。
本発明のさらに他の観点によると、
アニール対象物の表面の一部を加熱して表層部を溶融させ、
処理部が、前記アニール対象物の加熱された箇所からの熱放射光の強度の時間変化を示す波形の面積に基づいて、前記アニール対象物の表層部の溶融深さを推定するアニール方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
熱放射光の強度の時間変化を示す波形から、溶融時間を求めることができる。加熱時の溶融深さは溶融時間に依存する。したがって、溶融時間から溶融深さ等のアニール結果を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例によるアニール装置の概略図である。
図2図2は、パルスレーザビームの1回の照射において観測された熱放射光の波形の一例を示すグラフである。
図3図3は、溶融時間と溶融深さとの関係を示すグラフである。
図4図4は、実施例によるアニール方法のフローチャートである。
図5図5は、出力装置に表示された図形の一例を示す図である。
図6図6Aは、実際に測定された熱放射光の強度の波形を示すグラフであり、図6Bは、図6Aに示した波形から求めた溶融時間と、熱放射光の強度の波形の面積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1図6を参照しながら本願発明の実施例によるアニール装置及びアニール方法について説明する。
【0010】
図1は、実施例によるアニール装置の概略図である。チャンバ10内に走査機構12によって保持テーブル13が支持されている。走査機構12は、処理部40からの指令を受けて、保持テーブル13を水平面内で移動させることができる。走査機構12はエンコーダを含み、保持テーブル13の現在位置を表す位置情報がエンコーダから処理部40に読み込まれる。保持テーブル13の上にアニール対象物30が保持される。保持テーブル13は、真空チャック機構を含み、アニール対象物30を真空吸着して固定する。アニール対象物30は、例えば、ドーパントが注入されたシリコンウエハ等の半導体ウエハである。実施例によるレーザアニール装置は、例えばドーパントの活性化アニールを行う。
【0011】
レーザ光源20が、処理部40からの指令を受けて、アニール用のパルスレーザビームを出力する。レーザ光源20として、例えば緑色の波長域のパルスレーザビームを出力するNd:YAGレーザ等の固体レーザが用いられる。なお、緑色の波長の光は、第2高調波に相当する。レーザ光源20から出力されたレーザビームが伝送光学系21、ダイクロイックミラー22、及びレンズ23を経由し、チャンバ10の天板に設けられたレーザ透過窓11を透過して、アニール対象物30に入射する。ダイクロイックミラー22は、アニール用のパルスレーザビームを透過させる。伝送光学系21は、例えばビームホモジナイザ、レンズ、ミラー等を含む。ビームホモジナイザとレンズ23とにより、アニール対象物30の表面におけるビームスポットが整形され、ビームプロファイルが均一化される。
【0012】
アニール対象物30にパルスレーザビームが入射することにより、アニール対象物30が局所的に加熱される。アニール対象物30の加熱された箇所から放射された熱放射光が、レーザ透過窓11を透過し、レンズ23を経由し、ダイクロイックミラー22で反射され、さらにレンズ24を経由してセンサ25に入射する。ダイクロイックミラー22は、波長約900nm以上の波長域の熱放射光を反射する。センサ25は、特定の波長域の熱放射光の強度を測定する。
【0013】
プランクの法則によって、黒体からの熱放射光のスペクトルと黒体の温度とが理論的に関連付けられる。実際の物体からの熱放射光のスペクトルは、その物体の放射率と温度に基づいて求めることができる。例えば、実際の物体であるアニール対象物30からの熱放射光のスペクトルは、アニール対象物30の温度に依存して変化する。このため、センサ25で測定される波長域の熱放射光の強度も、アニール対象物30の温度に依存して変化する。センサ25による熱放射光の測定結果が電圧値として処理部40に入力される。
【0014】
レンズ23及びレンズ24は、アニール対象物30の表面を、センサ25の受光面に結像させる。これにより、センサ25の受光面に対して共役な関係を持つアニール対象物30の表面の領域から放射される熱放射光の強度が測定される。測定対象となる表面の領域は、例えばレーザビームのビームスポットの内部に含まれるように設定される。
【0015】
処理部40は、走査機構12を制御して、保持テーブル13に保持されているアニール対象物30を水平面内の二次元方向に移動させる。さらに、保持テーブル13の現在位置情報に基づいて、レーザ光源20を制御してレーザ光源20からパルスレーザビームを出力させる。アニール対象物30を移動させながらパルスレーザビームを出力すると、アニール対象物30の表面内において加熱箇所が移動する。
【0016】
さらに、処理部40は、レーザ光源20から出力されるパルスレーザビームの各ショットに同期して、パルスレーザビームの照射ごとに、センサ25の検出結果から熱放射光の強度の時間変化を示す波形(以下、「熱放射光の強度の波形」という。)を取得する。取得された熱放射光の強度の波形は、アニール対象物30の面内の位置と関連付けて、記憶装置41に記憶される。
【0017】
本実施例では、1つのレーザパルス(第1パルス)を入射させ、極短い遅延時間が経過した後、次のレーザパルス(第2パルス)を入射させる処理を1回の照射として、複数回の照射を繰り返す。第2パルスの入射は、第1パルスの入射による発熱の影響が残っている期間に行う。このように、2つのレーザパルスを組み合わせて1回の照射を行うアニールを、本明細書において「ダブルパルスアニール」という。ダブルパルスアニールの手法を採用することにより、パルス幅を任意に調整することが困難なレーザ発振器を用いる場合に、実質的にパルス幅を長くしたのと同等の効果が得られる。
【0018】
処理部40は、アニール対象物30の表面内における熱放射光の強度分布の情報を、画像、グラフ、または数値として出力装置42に出力する。出力装置42は、画像を表示する表示部を含んでいる。
【0019】
図2は、パルスレーザビームの1回の照射において観測された熱放射光の波形の一例を、レーザパルスのタイミングチャートと重ねて示すグラフである。横軸は経過時間を表し、縦軸はセンサ25の出力電圧を表す。センサ25の出力電圧の時間変化は、アニール対象物30の温度の時間変化と考えることができる。
【0020】
第1パルスLP1の入射によってアニール対象物30の温度が上昇し、ピークP1が現れる。この時点で、アニール対象物30の表面の温度が融点に達する。表面の温度が融点に達することにより、アニール対象物30の表面で溶融が始まる。ピークP1の後に続くやや平坦な部分B1は、第1パルスLP1の入射によって投入されるエネルギが融解熱として消費されている期間を示している。投入されたエネルギが融解熱として消費されることにより深さ方向への溶融が進む。この期間も第1パルスLP1の入射が継続しているため、温度は緩やかに上昇している。第1パルスLP1の入射が終了すると温度が下降し始め、固化が始まる。
【0021】
その後、第2パルスLP2の入射によってアニール対象物30の温度が再度上昇し、ピークP2が現れる。この時に、アニール対象物30の表面が再溶融する。その後、溶融が深さ方向に進む。第2パルスLP2が入射している期間に、センサ25(図1)の出力電圧が上昇した後、低下し始める。
【0022】
ピークP2が現れた後、センサ25の出力電圧が上昇する理由として、以下の2点が考えられる。第1点として、アニール対象物30の表面が溶融して液体になることにより、固体の時と比べて温度がより高くなり、放射光の強度が強くなる。第2点として、センサ25で放射光の強度を検出している観測対象領域のうち溶融した部分の面積が広がることにより、センサ25で観測される放射光の強度が強くなる。上記2点の理由により、センサ25の出力電圧が上昇する。
【0023】
センサ25の出力電圧が低下している期間は、表面近傍の熱が深い領域に伝わること、及び表面からの放熱により、表面近傍の温度が低下していることを意味する。
【0024】
第2パルスLP2の入射が終了すると、温度が継続して下降し、深い領域から浅い領域に向かって固化が進む。温度が徐々に下降しているときに表れているピークP3は、表面まで固化が進んだ時に液相から固相への相転移によって生じた発熱が一時的な温度上昇として観測されたためと考えられる。このため、ピークP2からピークP3までの経過時間が第2パルスLP2の入射による溶融時間に相当する。
【0025】
図3は、溶融時間と溶融深さとの関係の一例を示すグラフである。溶融時間と溶融深さとの関係は、実際に評価用試料をアニールする評価実験を行って求めることができる。以下、評価実験の一例について説明する。
【0026】
ドーパントとしてボロンがイオン注入されたシリコン等の半導体ウエハにパルスレーザビームを入射させてアニールを行う。アニールによって溶融した領域においては、ドーパントが液体中を拡散することにより、ドーパント濃度が深さ方向に関してほぼ一定になる。溶融した領域と溶融していない領域との界面より深い領域では、深くなるに従ってドーパント濃度が急激に低下する。このため、半導体ウエハの深さ方向のドーパントの濃度分布を測定することにより、溶融深さを決定することができる。深さ方向のドーパント濃度分布は、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定することができる。アニール中における溶融時間は、図2に示したセンサの出力電圧の時間波形から求めることができる。
【0027】
実際に評価実験を行って求めた溶融時間と溶融深さとの関係を図3に示す。評価実験は、パルスエネルギ密度が2.2J/cm、1.8J/cm、及び1.4J/cmの3通りの条件で行った。図3には、実際の測定結果を丸記号で示すとともに、その近似曲線を示している。溶融時間が長くなるに従って、溶融深さが深くなっている。図3に示した溶融時間と溶融深さとの関係は、予め記憶装置41に記憶されている。
【0028】
図4は、実施例によるアニール方法のフローチャートである。
保持テーブル13にアニール対象物30を保持させた後、処理部40がレーザ光源20を制御して、パルスレーザビームの出力を開始させる。さらに、走査機構12を制御して保持テーブル13に保持されているアニール対象物30の移動を開始させる(ステップS1)。これにより、アニール対象物30の表面の、パルスレーザビームによる走査が開始される。
【0029】
処理部40は、センサ25から熱放射光の強度の測定値を読み出し、パルスレーザビームの入射位置と関連付けて読み出し結果を記憶装置41に記憶させる(ステップS2)。アニール対象物30の表面の全域がパルスレーザビームで走査されるまでステップS2を実行する(ステップS3)。アニール対象物30の表面の全域がパルスレーザビームで走査されたら、処理部40はレーザ光源20からのパルスレーザビームの出力を終了させる。さらに、走査機構12による保持テーブル13の移動を終了させる(ステップS4)。
【0030】
次に、処理部40は記憶装置41に記憶されている熱放射光の強度の測定値を読み出し、熱放射光の強度の波形に基づいてアニール結果を推定する(ステップS5)。具体的には、熱放射光の強度の波形の特徴的な形状に基づいて溶融時間を算出する。例えば、図2に示した波形のピークP2及びピークP3を検出し、ピークP2からピークP3までの経過時間、すなわち第2パルスによる溶融時間を算出する。その後、算出された溶融時間と、図3に示した溶融時間と溶融深さとの関係に基づいて、アニール対象物30の表面内の位置ごとの溶融深さを推定する。
【0031】
アニール結果の推定の後、処理部40は推定結果を出力装置42に出力する。例えば、アニール対象物30の表面内における溶融深さの分布を色分けした画像で表示させる。
【0032】
図5は、出力装置42に表示された画像の一例を示す図である。アニール対象物30の表面が、溶融深さに応じて色分けされて表示画面に表示されている。
【0033】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、アニール処理後に他の装置でシート抵抗の測定や、広がり抵抗の測定を行うことなくアニール処理時に一時的に溶融した部分の溶融深さの分布を推定することができる。オペレータは、出力装置42に表示された情報を見て、アニール処理が正常であったか否かを判定することができる。
【0034】
アニール対象物30の表面に参照光を入射させ、その反射光の強度を検出することによっても、溶融時間を求めることが可能である。参照光と反射光とを利用する方法に対し、本実施例では、通常のアニール処理中にアニール対象物30から放射される熱放射光の強度を検出するため、アニール対象物30に参照光を入射させる光学系を配置することなく溶融深さを推定することができる。
【0035】
次に、上記実施例の種々の変形例について説明する。
上記実施例では、ステップS4においてアニール対象物30に対するアニール処理が終了した後に、ステップS5において熱放射光の波形に基づいてアニール結果を推定している。レーザパルスの入射ごとにステップS2で熱放射光の強度の測定が終了したら、レーザパルスが入射した領域についてアニール結果を推定する処理を行うことが可能である。従って、アニールを行っている期間に、既にアニールが終了した領域のアニール結果を推定する処理を並行して実行してもよい。
【0036】
上記実施例では、ダブルパルスアニールの手法を適用したが、必ずしもこの手法を適用する必要はない。例えば、1つのレーザパルスを入射させることにより、1回の照射を完了させてもよい。この場合には、図2に示した熱放射光の強度の波形に、溶融開始に対応するピークP1とピークP2との2つのピークが現れず、1つのピークのみが現れる。この場合には、溶融開始に相当する1つのピークから、完全固化に対応するピークP3までの時間を溶融時間と考えればよい。また、実効的なパルス幅をさらに長くしたい場合には、3つ以上のレーザパルスを極短時間の遅延時間を設けてアニール対象物30に入射させてもよい。
【0037】
上記実施例では、図1に示したレーザ光源20、伝送光学系21、及びレンズ23がアニール対象物30を加熱する加熱部としての機能を持つ。上記実施例では、アニール用のパルスレーザビームとして、緑色の波長域のものを用いたが、アニール対象物30の表層部を溶融させることができる他の波長域のパルスレーザビームを用いてもよい。また、加熱のためのパルスレーザビームに代えて、他のエネルギビームを用いてもよい。このように、加熱部としてレーザ光源以外の加熱機能を持つ装置を用いてもよい。
【0038】
また、上記実施例では、処理部40がアニール結果を推定し、この推定結果を出力装置42に出力させた。処理部40が、アニール結果(溶融深さ)の推定を行い、さらに、溶融深さの推定結果に基づいてアニール処理の良否を判定する機能を持つとよい。例えば、処理部40は、溶融深さが許容範囲から外れた場合に、アニール処理は不良であったと判定し、溶融深さが許容範囲に収まっている場合に、アニール結果が良好であったと判定するとよい。さらに、アニール結果が良好であった場合には、処理部40は、アニール処理後のアニール対象物30を次のプロセスに進める処理を行い、アニール結果が不良であると判定した場合には、出力装置42から警報を発出させてオペレータに不良の発生を知らせるとよい。
【0039】
次に、図6A及び図6Bを参照して他の実施例によるアニール装置及びアニール方法について説明する。以下、図1図5を参照して説明した実施例によるアニール装置及びアニール方法と共通の構成については説明を省略する。
【0040】
図1図5を参照して説明した実施例では、熱放射光の強度の波形の特徴的な形状を検出し、その形状に基づいて溶融時間を算出する。これに対し、本実施例では、熱放射光の強度の波形の面積に基づいて溶融時間を算出する。図6A及び図6Bを参照して、熱放射光の強度の波形から溶融時間を算出する方法について説明する。
【0041】
1パルス当たりのエネルギ密度(パルスエネルギ密度)が異なる複数の条件で実際にアニール処理を行い、溶融時間と波形の面積とを求めた。
【0042】
図6Aは、実際に測定された熱放射光の強度の波形を示すグラフである。横軸は経過時間を単位「ns」で表し、縦軸はセンサ25(図1)の出力電圧を単位「mV」で表す。すなわち、図6に示したグラフの縦軸は、熱放射光の強度を表している。グラフ中の細い実線e1、破線e2、及び太い実線e3は、それぞれパルスエネルギ密度が1.4J/cm、1.8J/cm、2.2J/cmの条件でアニールを行ったときの熱放射光の強度の波形を示す。
【0043】
図6Bは、図6Aに示した波形から求めた溶融時間と、熱放射光の強度の波形の面積との関係を示すグラフである。横軸は溶融時間を単位「ns」で表し、縦軸は波形の面積を単位「nWb」で表す。ここで、波形の面積として、第1パルスの入射によって波形がベースレベルから立ち上がった時点から、第2パルスの入射が終了して波形がベースレベルに戻るまでの期間の面積を採用した。溶融時間tと波形の面積Sとは、ほぼ線型の関係を持つことがわかる。図6Bに示したグラフから、以下の近似式が導き出される。
【数1】
ここで、S及びtは、それぞれ波形の面積及び溶融時間を表す。A及びCは定数である。
【0044】
波形の面積Sの算出結果と、図6Bに示した関係のグラフまたは式(1)から溶融時間tを求めることができる。溶融時間tが求まると、図3に示した関係に基づいて、溶融深さを求めることができる。
【0045】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、熱放射光の強度の波形の特徴的な形状を検出することなく、波形の面積を算出することにより、溶融深さを推定することができる。波形の面積の算出は、例えば、センサ25(図1)から所定の時間刻み幅で得られた出力電圧値を単純に足し合わせることにより行うことができる。これに対し、波形の特徴的な形状を検出するには、波形に重畳されているノイズを除去する処理、微分演算、比較判定処理等を行わなければならない。従って、波形の面積を算出する処理は、波形の特徴的な形状を検出する処理に比べて短時間で完了する。このため、本実施例による方法を用いると、アニール対象物30のアニール処理が終了するごとに、全数をインライン検査することが可能になる。
【0046】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0047】
10 チャンバ
11 レーザ透過窓
12 走査機構
13 保持テーブル
20 レーザ光源
21 伝送光学系
22 ダイクロイックミラー
23、24 レンズ
25 センサ
30 アニール対象物
40 処理部
41 記憶装置
42 出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6