IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デントスプリー シロナ インコーポレイテッドの特許一覧

特許7384828歯科装置を製作するための三次元プリント方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】歯科装置を製作するための三次元プリント方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/01 20060101AFI20231114BHJP
   A61C 13/36 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
A61C13/01
A61C13/36
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020560982
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 US2019030535
(87)【国際公開番号】W WO2019213476
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】62/666,396
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ハサン,ムハンマド アブ
(72)【発明者】
【氏名】アモン,ダン
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500071(JP,A)
【文献】特表2017-516557(JP,A)
【文献】トーマス・H.パン,嶋田洋,CADのプロセス,高速3次元成型の基礎:生産システムを変えるラピッド・プロトタイピング,日本,日経BP出版センター,1993年12月10日,P153-168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/01
A61C 13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光に基づく三次元プリント装置を使用して少なくとも1つの人工義歯床を製作する方法であり、
(a)コンピュータ支援設計ソフトウェアで、人工義歯床の仮想参照モデルを用意するステップであって、
前記人工義歯床の仮想参照モデルを用意するプロセスは、
i.歯の溝に面する側、前記歯の溝に面する側とは反対側の組織に面する側、及び人工義歯床の周辺縁の周りに延び、前記歯の溝に面する側と組織に面する側との間に境界を形成する義歯境界を含む、人工義歯床の三次元デジタルモデルを選択するステップと、
ii.人工義歯床を実質的に水平位置に配置するべく前記人工義歯床の前記三次元デジタルモデルの空間的配向を操作するステップであって、この場合、前記歯の溝に面する側は、上向き配向又は下向き配向のいずれかに配置される、操作するステップと、
iii.人工義歯床の前記三次元デジタルモデルを包囲する最小バウンディングボックスを適用するステップと、
iv.前記最小バウンディングボックス内の人工義歯床の前記三次元デジタルモデルに参照三次元デカルト座標(x-y-z)系を割り当てるステップであって、この場合、前記参照三次元デカルト座標系は、前記最小バウンディングボックスの周囲と位置合わせされ、さらに、配向基準面は、前記最小バウンディングボックスの底縁と位置合わせされる、割り当てるステップと、
v.前記最小バウンディングボックスを除去するステップと、
を含む、人工義歯床の仮想参照モデルを用意するステップと、
(b)光に基づく三次元プリント装置の動作を制御するコンピュータシステムのソフトウェアで、前記仮想参照モデル及びプリントのための少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを用意するステップであって、
前記仮想参照モデル及びプリントのための少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の前記三次元デジタルモデルを用意するプロセスは、
i.前記ソフトウェアによって提供される仮想ビルドプラットフォーム表面に隣接して前記仮想参照モデルを配置するステップであって、この場合、前記仮想参照モデルの前記組織に面する側は、前記仮想ビルドプラットフォーム表面の近位に配置される、配置するステップと、
ii.前記仮想参照モデルの空間的配向を操作するステップであって、この場合、前記仮想参照モデルの前記配向基準面は、前歯の溝が前記仮想ビルドプラットフォーム表面の近位にあり且つ臼歯の溝が前記仮想ビルドプラットフォーム表面の遠位にある状態で、前記仮想ビルドプラットフォーム表面に対して65度から80度の間の傾斜角で配置される、操作するステップと、
iii.前記状態および前記傾斜角で配置された前記仮想参照モデルを前記仮想ビルドプラットフォーム表面に結合する、少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを生成するステップと、
を含む、三次元デジタルモデルを用意するステップと、
(c)前記光に基づく三次元プリント装置のビルドプラットフォーム表面と接触する液状光重合性組成物のリザーバを提供するステップと、
(d)前記光に基づく三次元プリント装置の動作を制御する前記コンピュータシステムのソフトウェアで、前記仮想参照モデル及び少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルに従って、前記液状光重合性組成物を効果的に光硬化するべくプリントプロセスパラメータを選択するステップと、
(e)前記液状光重合性組成物から少なくとも1つの人工義歯床及び取り外し可能な支持構造体をプリントするように前記光に基づく三次元プリント装置に指示するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを生成するプロセスが、
(a)前記仮想参照モデルの前記歯の溝に面する側及び前記義歯境界の領域上の支持構造体の接触点を設定するステップと、
(b)前記仮想参照モデルの前記組織に面する側及び歯の溝内の領域から取り外し可能な支持構造体の接触点を除外する又は実質的に除外するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プリントの完了後に、前記ビルドプラットフォーム表面及び少なくとも1つのプリントされた人工義歯床から、少なくとも1つのプリントされた取り外し可能な支持構造体を取り外すステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
~Cアルコールを含む溶媒組成物を使用して、前記少なくとも1つのプリントされた人工義歯床に、1分から10分間にわたってプリント後洗浄処理を行うステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのプリントされた人工義歯床に二次硬化処理を行うステップをさらに含み、前記プリントされた人工義歯床が、前記歯の溝に面する側と前記組織に面する側との両方のそれぞれで、10-8m~10-3mの波長にわたる広範囲の電磁放射に5分~15分間曝される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの人工義歯床を製作するべく前記仮想参照モデルに補正デジタルスケール変更プロセスを行うステップをさらに含み、
前記仮想参照モデルに補正デジタルスケール変更プロセスを行うステップは、
(a)第1の凹彫モデル画像を確立するべく少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の前記組織に面する側の正確な三次元デジタルモデルを取得するステップと、
(b)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアで、前記第1の凹彫モデル画像の寸法を第2の凹彫モデル画像の寸法と比較するステップであって、この場合、前記第2の凹彫モデル画像は、前記少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の製作元となった前記仮想参照モデルの前記組織に面する側の前記三次元デジタルモデルを含む、比較するステップと、
(c)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアで、前記第1の凹彫モデル画像と前記第2の凹彫モデル画像との差異を減らすx次元、y次元、及びz次元にわたる補正スケール因子を確立するべく前記第1の凹彫モデル画像にx次元、y次元、及びz次元にわたるスケール因子調整を行うステップと、
(d)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアで、補正された人工義歯床デジタルモデルを生成するステップであって、この場合、前記第1の凹彫モデル画像にスケール因子調整を行うことから確立されたx次元、y次元、及びz次元の前記補正スケール因子のそれぞれは、前記仮想参照モデルの対応する次元に適用される、生成するステップと、
(e)前記光に基づく三次元プリント装置の動作を制御する前記コンピュータシステムのソフトウェアで、前記補正された人工義歯床デジタルモデルとプリントのための少なくとも1つの取り外し可能な構造体の三次元デジタルモデルを用意するステップであって、
前記補正された人工義歯床デジタルモデルとプリントのための少なくとも1つの支持構造体の三次元デジタルモデルを用意するプロセスは、
i.前記ソフトウェアによって提供される前記仮想ビルドプラットフォーム表面に隣接して前記補正された人工義歯床デジタルモデルを配置するステップであって、この場合、前記補正された人工義歯床デジタルモデルの前記組織に面する側は、前記仮想ビルドプラットフォーム表面の近位に配置されるステップと、
ii.前記補正された人工義歯床デジタルモデルの空間的配向を操作するステップであって、この場合、前記補正された人工義歯床デジタルモデルの前記配向基準面は、前歯の溝が前記仮想ビルドプラットフォーム表面の近位にあり且つ臼歯の溝が前記仮想ビルドプラットフォーム表面の遠位にある状態で、前記仮想ビルドプラットフォーム表面に対して65度から80度の間の傾斜角で配置されるステップと、
iii.前記補正された人工義歯床デジタルモデルを前記仮想ビルドプラットフォーム表面に結合する、少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを生成するステップと、
を含む、用意するステップと、
(f)前記光に基づく三次元プリント装置の前記ビルドプラットフォーム表面と接触する液状光重合性組成物のリザーバを提供するステップと、
(g)前記光に基づく三次元プリント装置の動作を制御する前記コンピュータシステムのソフトウェアで、前記補正された人工義歯床デジタルモデルと少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルに従って、前記液状光重合性組成物を効果的に光硬化するべくプリントプロセスパラメータを選択するステップと、
(h)前記液状光重合性組成物から少なくとも1つの人工義歯床及び取り外し可能な支持構造体をプリントするように前記光に基づく三次元プリント装置に指示するステップと、
をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の凹彫モデル画像を確立するべく少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の前記組織に面する側の正確な三次元デジタルモデルを取得するプロセスが、
(a)コンピュータ化された高解像度三次元イメージングシステムを用いて、前記プリントされた人工義歯床の前記組織に面する側の生の三次元デジタルモデルを確立するべく、前記少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の前記組織に面する側の三次元デジタル画像を取得するステップと、
(b)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアを用いて、前記高解像度三次元イメージングシステムによって生成された前記生の三次元デジタルモデル上の外的なデジタル表面アーチファクト特徴を識別するステップと、
(c)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアを用いて、少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の前記組織に面する側の正確な三次元デジタルモデルを確立するべく、前記生の三次元デジタルモデルから外的なデジタル表面アーチファクト特徴を差し引くステップと、
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の凹彫モデル画像の寸法を第2の凹彫モデル画像の寸法と比較するプロセスが、
(a)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアに前記第1の凹彫モデル画像を提供するステップと、
(b)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアに前記第2の凹彫モデル画像を提供するステップと、
(c)前記第2の凹彫モデル画像上に前記第1の凹彫モデル画像のデジタル重ね合わせを行うべく、前記第1及び第2の凹彫モデル画像にICP(iterative closest point)アルゴリズムを用いてベストフィット位置合わせ動作を適用するステップと、
(d)前記第1及び第2の凹彫モデル画像のそれぞれに三次元カラーマップを適用するステップと、
(e)前記第2の凹彫モデル画像に対する寸法偏差を呈する前記第1の凹彫モデル画像上の領域を識別するべく、重ね合わせた前記第1の凹彫モデル画像と前記第2の凹彫モデル画像との差異を比較するステップと、
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の凹彫モデル画像にx次元、y次元、及びz次元にわたるスケール因子調整を行うプロセスが、
(a)前記第1の凹彫モデル画像の三次元カラーマップ上の正の寸法偏差を有する領域を減らすべく、前記第1の凹彫モデル画像のx次元、y次元、及びz次元にわたるデジタル調整を適用するステップと、
(b)前記第1の凹彫モデル画像の前記三次元カラーマップ上に表示される負の寸法偏差を有する領域を増やすべく、前記第1の凹彫モデル画像のx次元、y次元、及びz次元にわたるデジタル調整を適用するステップと、
(c)前記第1の凹彫モデル画像にわたる前記三次元カラーマップの偏差を減らすx次元、y次元、及びz次元にわたる補正スケール因子を確立するべく、前記第1の凹彫モデル画像のデジタル調整を反復的な様態で繰り返すステップと、
を含み、これにより、前記第1の凹彫モデル画像の少なくとも80パーセントが、前記第2の凹彫モデル画像の-100ミクロンから+100ミクロンの間の範囲内に存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
プリントの完了後に、前記ビルドプラットフォーム表面及び前記少なくとも1つのプリントされた人工義歯床から、前記少なくとも1つのプリントされた取り外し可能な支持構造体を取り外すステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
~Cアルコールを含む溶媒組成物を使用して、前記少なくとも1つのプリントされた人工義歯床に、1分から10分間にわたってプリント後洗浄処理を行うステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのプリントされた人工義歯床に二次硬化処理を行うステップをさらに含み、前記プリントされた人工義歯床が、前記歯の溝に面する側と前記組織に面する側との両方のそれぞれで、10-8m~10-3mの波長にわたる広範囲の電磁放射に5分~15分間曝される、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この特許出願は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる2018年5月3日に出願された米国特許仮出願第62/666,396号の利益及びそれに基づく優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、歯科装置を三次元(3D)プリント(付加製造としても知られている)するための方法に関する。より具体的には、本発明は、光に基づく3Dプリント装置で液状光重合性組成物を使用して少なくとも1つの人工義歯床を製作するための三次元デジタルモデルを用意する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
3Dプリントの分野では、意図したデジタル設計に関連する良好な寸法精度、一貫した表面特徴、及び表面テクスチャ又は滑らかさの十分な解像度を有するプリントされたオブジェクトを得ることは、複雑な表面の幾何学的形状又は入り組んだ特徴をもつオブジェクトの製作に3Dプリント装置を用いるときに直面する重要な課題の1つである。歴史的に、標準のSLAプリンタとDLP-SLAプリンタは、どちらも、プリントされたオブジェクトの精度、解像度、及び表面仕上げなどの最高のプリント品質特徴をもたらす最高の能力を有すると一般にみなされている。これらのプリント品質特徴は、プリント装置で一般的に知られる多くの因子(例えば、使用する光源又は光学系の品質及び解像度)、並びに、基本的なプリントプロセス条件又はパラメータ(例えば、スライス又は層の厚さ、及び光硬化のための露光時間)の選択の影響を受けることがある。しかしながら、歯科補綴物のプリントの分野では、3Dビルドプラットフォームに対する人工義歯床の向きも、プリントされた義歯床で得られる最終的なプリント品質特徴に影響を及ぼす重要な因子の1つであり得ることは、十分に認識又は理解されていない。3Dビルドプラットフォームに対して確立された義歯床の角度的及び位置的な配置に応じて、(意図した設計のデジタルモデルと比較したときの)プリントされた義歯床の寸法偏差は、限定された小さな表面歪みからオブジェクトの反りに起因する全体サイズ又はさらには形状の広範囲にわたる大きな変化まで様々となり得る。このようなサイズ又は形状の大きな変化は、少なくとも部分的には、構造体の最初の形成及び硬化中の、義歯床の様々な領域に対する重力の影響から生じる場合がある。プリントプロセス中に作製される取り外し可能な支持構造体のサイズ、数、又は位置を増加させる又は改善することは、これらの寸法精度問題の一部を軽減する一助となる。しかしながら、義歯床のほとんどの角度的及び位置的な配置に関して、義歯床への支持構造体の取付点のサイズ、多さ、又は位置は、結果的に、プリントされた義歯床の表面仕上げの品質、及び/又は歯の溝に面する側、歯の溝自体、及び/又は組織に面する側で達成されるフィットの完全性との兼ね合いとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の理由から、光に基づく3Dプリント装置に提供されるデジタルコンピュータ支援設計モデル情報の公称の意図した幾何学的形状、特徴、及びサイズと一致する改善された寸法精度と優れた表面仕上げ特徴との両方をもつ義歯床を製造するために、光に基づく3Dプリント装置で液状光重合性組成物を使用する改善された方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、これらの及び他の必要性を満たす、光に基づく三次元プリント装置を使用して人工義歯床を製作する方法に向けられている。この三次元プリント装置は、レーザに基づく光造形法(レーザSLA)、デジタル光処理光造形法(DLP-SLA)、又はマスク式の光造形法(MSLA)などの任意の光に基づく光硬化技術を用いることができる。いわゆる連続デジタル光製造(cDLM)プロセス及び連続液界面製造(CLIP)プロセスなどの連続プリントプロセスでのより最近の進歩は、本発明の方法で特に有用であり得る。
【0006】
光に基づく三次元プリント装置を使用して少なくとも1つの人工義歯床を製作するための本発明に係る方法は、(a)コンピュータ支援設計ソフトウェアで、人工義歯床の仮想参照モデルを用意するステップであり、前記人工義歯床の仮想参照モデルを用意するプロセスは、(i)歯の溝に面する側、歯の溝に面する側とは反対側の組織に面する側、及び人工義歯床の周辺縁の周りに延び、歯の溝に面する側と組織に面する側との間に境界を形成する義歯境界を含む、人工義歯床の三次元デジタルモデルを選択するステップと、(ii)人工義歯床を実質的に水平位置に配置するべく人工義歯床の三次元デジタルモデルの空間的配向を操作するステップであって、この場合、歯の溝に面する側は、上向き配向又は下向き配向のいずれかに配置される、操作するステップと、(iii)人工義歯床の三次元デジタルモデルを包囲する最小バウンディングボックスを適用するステップと、(iv)最小バウンディングボックス内の人工義歯床の三次元デジタルモデルに参照三次元デカルト座標(x-y-z)系を割り当てるステップであって、この場合、参照三次元デカルト座標系は、最小バウンディングボックスの周囲と位置合わせされ、さらに、配向基準面は、最小バウンディングボックスの底縁と位置合わせされる、割り当てるステップと、(v)最小バウンディングボックスを除去するステップと、を含む、人工義歯床の仮想参照モデルを用意するステップと、(b)光に基づく三次元プリント装置の動作を制御するコンピュータシステムのソフトウェアで、仮想参照モデル及びプリントのための少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを用意するステップであり、前記仮想参照モデル及びプリントのための少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを用意するプロセスは、(i)ソフトウェアによって提供される仮想ビルドプラットフォーム表面に隣接して仮想参照モデルを配置するステップであって、この場合、仮想参照モデルの組織に面する側は、仮想ビルドプラットフォーム表面の近位に配置される、配置するステップと、(ii)仮想参照モデルの空間的配向を操作するステップであって、この場合、仮想参照モデルの配向基準面は、前歯の溝が仮想ビルドプラットフォーム表面の近位にあり且つ臼歯の溝が仮想ビルドプラットフォーム表面の遠位にある状態で、仮想ビルドプラットフォーム表面に対して約65度から約80度の間の傾斜角で配置される、操作するステップと、(iii)仮想参照モデルを仮想ビルドプラットフォーム表面に結合する、少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを生成するステップと、を含む、三次元デジタルモデルを用意するステップと、(c)光に基づく三次元プリント装置のビルドプラットフォーム表面と接触する液状光重合性組成物のリザーバを提供するステップと、(d)光に基づく三次元プリント装置の動作を制御するコンピュータシステムのソフトウェアで、仮想参照モデル及び少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルに従って、液状光重合性組成物を効果的に光硬化するべくプリントプロセスパラメータを選択するステップと、(e)液状光重合性組成物から少なくとも1つの人工義歯床及び取り外し可能な支持構造体をプリントするように光に基づく三次元プリント装置に指示するステップと、を含み得る。
【0007】
本発明のさらなる態様では、少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを生成するプロセスは、仮想参照モデルの歯の溝に面する側及び義歯境界の領域上の支持構造体の接触点を設定するステップと、仮想参照モデルの組織に面する側及び歯の溝内の領域から取り外し可能な支持構造体の接触点を除外する又は実質的に除外するステップを含み得る。
【0008】
一実施形態では、人工義歯床を製作する方法は、プリントの完了後に、ビルドプラットフォーム表面及び少なくとも1つのプリントされた人工義歯床から、少なくとも1つのプリントされた取り外し可能な支持構造体を取り外すステップをさらに含み得る。
【0009】
別の実施形態において、人工義歯床を製作する方法はさらに、溶媒組成物を使用して、プリントされた人工義歯床にプリント後洗浄処理を行うステップを含み得る。
【0010】
別の実施形態において、人工義歯床を製作する方法はさらに、プリントされた人工義歯床に二次硬化処理を行うステップを含み得る。
【0011】
さらに別の実施形態において、人工義歯床を製作する方法はさらに、少なくとも1つの人工義歯床を製作するべく仮想参照モデルに補正デジタルスケール変更プロセスを行うステップを含み得る。
【0012】
本発明のこれらの及び他の特徴、態様、例示的な実施形態、及び利点は、以下の説明、付属の請求項、及び添付の図面でより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】上側(上顎)人工義歯床の三次元(3D)デジタルモデルの「歯の溝に面する側」の上面図である。
図1B】下側(下顎)人工義歯床の三次元(3D)デジタルモデルの「歯の溝に面する側」の上面図である。
図2A】上側(上顎)人工義歯床の三次元(3D)デジタルモデルの「組織に面する側」(すなわち、「歯の溝に面する側」の裏側)の上面図である。
図2B】下側(下顎)人工義歯床の三次元(3D)デジタルモデルの「組織に面する側」(すなわち、「歯の溝に面する側」の裏側)の上面図である。
図3A】「歯の溝に面する側」が上向き配向の状態で実質的に水平位置に配置されている、義歯床の三次元(3D)デジタルモデルのプロファイル又は側面図である。
図3B】デジタルモデルを包囲する最小バウンディングボックスをさらに示す、「歯の溝に面する側」が上向き配向の状態で実質的に水平位置に配置されている、義歯床の三次元(3D)デジタルモデルのプロファイル又は側面図である。
図4】義歯床デジタルモデルを包囲する「最小バウンディングボックス」に関連する参照三次元(3D)x-y-z座標系及び「配向基準面」(この例ではxy平面)を示す図である。
図5A】(「組織に面する側」が仮想ビルドプラットフォームの近位にある状態で)仮想ビルドプラットフォームに隣接して0°の傾斜角で配置された義歯床の仮想参照モデルを伴う、3Dプリント装置の仮想ビルドプラットフォームの側面図である。
図5B】仮想ビルドプラットフォームに対して異なる傾斜角で配置された義歯床の仮想参照モデルの例を伴う、3Dプリント装置の仮想ビルドプラットフォームの側面図である。
図6図6A図6B、及び図6Cは、例示的なタイプの支持構造体によって仮想ビルドプラットフォームに結合された仮義歯床モデルの異なる視点を示す図である。
図7】プリントされた上顎義歯床(デジタル表面プロファイルを生成するべく3Dスキャンされているもの)の「歯の溝に面する側」を、プリント元となった仮想参照モデル義歯床と比較する、「カラーマップ」の例示的な画像を示す図である。
図8A】プリントされた上顎義歯床(デジタル表面プロファイルを生成するべく3Dスキャンされているもの)の「組織に面する側」を、プリント元となった仮想参照モデル義歯床と比較する、「カラーマップ」の例示的な画像を示す図である。
図8B】プリントされた下顎義歯床(デジタル表面プロファイルを生成するべく3Dスキャンされているもの)の「組織に面する側」を、プリント元となった仮想参照モデル義歯床と比較する、「カラーマップ」の例示的な画像を示す図である。
図9A】45°の傾斜角でプリントされたときの、プリントされた上側(上顎)人工義歯床の組織に面する側を、プリント元となった仮想参照モデルの組織に面する側と比較する、「カラーマップ」を示す図である。
図9B】70°の傾斜角でプリントされたときの、プリントされた上側(上顎)人工義歯床の組織に面する側を、プリント元となった仮想参照モデルの組織に面する側と比較する、カラーマップを示す図である。
図9C】85°の傾斜角でプリントされたときの、プリントされた上側(上顎)人工義歯床の組織に面する側を、プリント元となった仮想参照モデルの組織に面する側と比較する、カラーマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記の概要と、添付図と共に以下に提示する詳細な説明及び特許請求の範囲において、本発明の特定の特徴及び実施形態が言及される。本明細書での本発明の開示は、このような特定の特徴のすべての可能な組み合わせを含むことが理解される。例えば、本発明の特定の態様又は実施形態又は特定の請求項に関連して特定の特徴が開示される場合、その特徴はまた、可能な範囲で、本発明の他の特定の態様及び実施形態と組み合わせて及び/又は関連して、本発明において一般に用いることができる。
【0015】
本明細書で2つ以上の定義されたステップを含む方法に言及する場合、定義されたステップは、(文脈がその可能性を除外する場合を除いて)任意の順序で又は同時に実行することができ、方法は、(文脈がその可能性を除外する場合を除いて)定義されたステップのいずれかの前に、定義されたステップのうちの2つの間に、又はすべての定義されたステップの後で実行される、1つ以上の他のステップを含むことができる。以下のさらなる定義は、特に明記しない限り、本発明の明細書と特許請求の範囲の全体を通して適用されるものとする。
【0016】
「約」という用語は、本明細書では、指定された値のプラス又はマイナス5パーセント、好ましくは指定された値のプラス又はマイナス3パーセント、より好ましくは指定された値のプラス又はマイナス1パーセントを意味する概算の用語として用いられる。
【0017】
「本質的に」及び「実質的に」という用語は、本明細書では、説明されている基本的な性質又は優勢な特徴に関連して、必ずしも全体的に又は完全にではないが大体において、を示す概算の用語として用いられる。
【0018】
数字の前の「少なくとも」という用語は、本明細書では、その数字で始まる範囲(定義される変数に応じて、上限をもつ又は上限をもたない範囲であり得る)の開始を示すのに用いられる。例えば、「少なくとも1つ」は、1つ又は1つよりも多い、を意味する。
【0019】
数字の前の「多くとも」又は「以下」という用語は、本明細書では、その数字で終わる範囲の終了を示すのに用いられる(定義される変数に応じて、その下限として1又は0を有する範囲、又は下限をもたない範囲であり得る)。例えば、「多くとも100」又は「100以下」は、100又は100未満を意味する。本明細書において、範囲が「(第1の数字)から(第2の数字)」又は「(第1の数字)~(第2の数字)」として与えられるとき、これは、その下限が第1の数字であり、その上限が第2の数字である範囲を意味する。例えば、1~5mmは、その下限が1mmであり、その上限が5mmである範囲を意味する。
【0020】
本明細書で用いられる場合の「及び/又は」という用語は、関連する列挙されたアイテムのうちの1つ以上のありとあらゆる可能な組み合わせと、代替的な(「又は」)で解釈されるときの組み合わせの欠如を含む。例えば、「A及び/又はB」は、Aのみ、Bのみ、又はAとBを一緒に、又はそれらの混合物を意味する。
【0021】
「の下」、「よりも下」、「下に」、「下側」、「の上」、「上側」、「よりも上」、「の上」、「左」、「右」などの方向的又は空間的に相対的な用語は、本明細書では、図面に例示された要素又は特徴と他の要素又は特徴との関係性を説明するために説明を簡単にするのに用いられる場合がある。空間的に相対的な用語は、図面に示されている配向に加えて、装置の異なる配向を包含することを意図していることが理解されるであろう。例えば、図中の装置を反転させた場合、他の要素又は特徴「よりも上」又は「の上」として説明される要素又は特徴は、他の要素又は特徴「よりも下」又は「の下」に配向される。装置は、他の様態に配向(例えば、90度回転又は他の配向)されてよく、本明細書で用いられる空間的に相対的な記述はそれに応じて解釈される。同様に、「上方」、「下方」、「垂直」、「水平」などの用語は、本明細書では、特に明記しない限り、相対的な説明のみを目的として用いられる。
【0022】
「組織に面する側」という用語は、本明細書では、上顎の及び/又は下顎の歯槽突起を覆う歯肉(歯茎)上に載る又は置かれる人工義歯床の内側に面する側を示すのに用いられる。これは、凹彫面又は凹彫側とも呼ばれる場合がある。
【0023】
「歯の溝に面する側」という用語は、本明細書では、「組織に面する側」の裏側又は反対側である、人工義歯床の外側に面する側を示すのに用いられる。これは、凸彫面又は凸彫側とも呼ばれる場合がある。
【0024】
「義歯境界」という用語は、本明細書では、人工義歯床の周辺縁の周りに延びる、組織に面する側(凹彫面)と歯の溝に面する側(凸彫面)との間の接合部における境界又はマージンを示すのに用いられる。
【0025】
「最小バウンディングボックス」(最小外接矩形としても知られている)という用語は、本明細書では、デジタル画像、形状、又はデジタル画像を完全に囲むテキストの周りの矩形の境界を示すのに用いられる。これは、その2D又は3D座標系内のオブジェクト(又はオブジェクトの組)の最大範囲の表現である。これは、オブジェクト(又はオブジェクトの組)のすべてのポイントが存在する最小の領域又はボリュームである。
【0026】
本明細書で提示される説明は、人工義歯床を3Dプリントするための改善された製作方法の説明及び具体例を提供する。本発明の1つ以上の実施形態に係る少なくとも1つの人工義歯床を製作する方法は、コンピュータ支援設計ソフトウェアで、人工義歯床の仮想参照モデルを用意するステップと、光に基づく三次元プリント装置の動作を制御するコンピュータシステムのソフトウェアで、仮想参照モデル及びプリントのための少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを用意するステップと、光に基づく三次元プリント装置のビルドプラットフォーム表面と接触する液状光重合性組成物のリザーバを提供するステップと、光に基づく三次元プリント装置の動作を制御するコンピュータシステムのソフトウェアで、仮想参照モデル及び少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルに従って、液状光重合性組成物を効果的に光硬化するべくプリントプロセスパラメータを選択するステップと、液状光重合性組成物から少なくとも1つの人工義歯床及び少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体をプリントするように光に基づく三次元プリント装置に指示するステップと、を含み得る。
【0027】
本発明の一実施形態に係る人工義歯床を製作する方法は、プリントの完了後に、ビルドプラットフォーム表面及び少なくとも1つのプリントされた人工義歯床から、少なくとも1つのプリントされた取り外し可能な支持構造体を取り外すステップをさらに含み得る。別の実施形態において、人工義歯床を製作する方法はさらに、溶媒組成物を使用して、プリントされた人工義歯床にプリント後洗浄処理を行うステップを含み得る。別の実施形態において、人工義歯床を製作する方法はさらに、プリントされた人工義歯床に二次硬化処理を行うステップを含み得る。
【0028】
さらに別の実施形態において、人工義歯床を製作する方法はさらに、少なくとも1つの人工義歯床を製作するべく仮想参照モデルに補正デジタルスケール変更プロセスを行うステップを含み得る。
【0029】
人工義歯床の仮想参照モデルの用意
本発明の一実施形態において、人工義歯床の「仮想参照モデル」は、コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェア内で、人工義歯床の三次元(3D)デジタルモデルから用意される。人工義歯床の3Dデジタルモデルは、患者の口腔からとった歯の印象の高解像度3Dスキャン、患者の口腔から(例えば、口腔内走査装置を用いて)直接撮影した高解像度3Dスキャン、義歯床関連のコンピュータ支援設計、及びその組み合わせからのデータに基づいて生成され得る。高解像度3Dスキャンは、例えば、レーザ光学スキャナ、コンピュータ断層撮影(CT)イメージング、核磁気共鳴画像法(MRI)、又は当該技術分野では公知の同様の3Dイメージング技術によって得られる。
【0030】
図1Aは、歯の溝(110a)を有する上側(上顎)人工義歯床(100a)の3Dデジタルモデルの「歯の溝に面する側」(又は凸彫面)の例示的な上面図を示し、一方、図1Bは、歯の溝(110b)を有する下側(下顎)人工義歯床(100b)の3Dデジタルモデルの歯の溝に面する側の例示的な上面図を示す。図2Aは、上側(上顎)人工義歯床(200a)(歯の溝に面する側の裏側又は反対側)の3Dデジタルモデルの「組織に面する側」(又は凹彫面)の例示的な上面図を示し、一方、図2Bは、下側(下顎)人工義歯床(200b)の3Dデジタルモデルの組織に面する側(歯の溝に面する側の裏側又は反対側)の例示的な上面図を示す。図2A及び図2Bは、各義歯床の周辺縁の周りに延びる義歯境界(それぞれ210a及び210b)も示す。この義歯境界は、義歯床の歯の溝に面する側と組織に面する側との間の境界線又は接合部を表す。この義歯床の最初の3Dデジタルモデルに、標準三次元デカルト座標(x-y-z)系を用いて3D空間内で特定の配向が割り当てられる。
【0031】
3Dプリント装置の仮想ビルドプラットフォームに対する人工義歯床デジタルモデルの適正な配向を確立するために、CADソフトウェアで「配向基準面」が作成され、人工義歯床デジタルモデルに割り当てられる。MATERIALISE(登録商標)MAGICS(Materialise NVから入手可能)などの付加製造のための市販のCAD及びSTLファイル編集ソフトウェアが、これを達成するのに適した一例である。配向基準面の作成と義歯床デジタルモデルへの割り当ては、例えば図3Aの義歯床デジタルモデル(300)で示されるように、歯の溝に面する側が下向き配向又は代替的に上向き配向のいずれかに配置される状態で実質的に水平位置に義歯床を配置するべくデジタルモデルの空間的配向を操作することによって達成される。例えば図3Bにさらに示すように、デジタルモデルを包囲するべく「最小バウンディングボックス」(310)が適用される。最小バウンディングボックスが確立された状態で、最小バウンディングボックス内の人工義歯床デジタルモデルに参照三次元デカルト座標系が割り当てられる。図4は、人工義歯床デジタルモデルに関連する参照三次元座標系(400)及び配向基準面(410)の例を示す。参照三次元デカルト座標系は、最小バウンディングボックスの周囲と位置合わせされ、配向基準面(すなわち、x-y平面又はy-z平面又はx-z平面)は、最小バウンディングボックスの底縁と位置合わせされ確立される。デジタルモデルの参照座標系及び配向基準面が確立されると、最小バウンディングボックスが除去され得、仮想参照モデルが完成する。
【0032】
仮想参照モデル及びプリントのための少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の3Dデジタルモデルの用意
義歯床をプリントするために、Carbon3Dソフトウェアを有するCARBON(登録商標)M1又はM2プリンタなどの光に基づく3Dプリンタ又は他の光に基づく3Dプリントシステムに仮想参照モデル義歯ファイルをアップロード又はインポートすることによって、仮想参照モデル義歯床デジタルファイル(例えば、光造形法(STL)フォーマット)がさらに用意される。デジタルファイルは、仮想参照モデルの組織に面する側が、仮想ビルドプラットフォームの近位に配置され、次いで、前歯の溝が仮想ビルドプラットフォーム表面の近位にあり且つ臼歯の溝が仮想ビルドプラットフォーム表面の遠位にある状態で、仮想ビルドプラットフォーム表面に対して約65度から約80度の間の傾斜角で配置されるように、ソフトウェアで空間的に操作され得る。好ましい実施形態において、傾斜角は、仮想ビルドプラットフォーム表面に対して約70度から約75度の間で配置され得る。
【0033】
図5Aは、仮想ビルドプラットフォーム(500)と、3Dプリント装置のための液状ポリマーのリザーバ(510)の上面と、組織に面する側が仮想ビルドプラットフォーム表面の近位に配置され、仮想ビルドプラットフォーム表面に対して0°の配向基準面傾斜角をなしている義歯床の仮想参照モデル(300)の側面図である。図5Bは、仮想ビルドプラットフォーム(500)と、3Dプリント装置のための液状ポリマーのリザーバ(510)の上面と、仮想ビルドプラットフォーム表面に対して異なる傾斜角(520a、520b、520c)で配置される義歯床の仮想参照モデル(300)の例の側面図である。好ましい実施形態において、同じく図5Bに示すように、義歯床の仮想参照モデルは、前歯の溝が仮想ビルドプラットフォーム表面の近位にあり且つ臼歯の溝が仮想ビルドプラットフォーム表面の遠位にあるように構成され得る。図5Bでは、義歯床の仮想参照モデルの例は、ビルドプラットフォーム表面に対して65°(520a)、70°(520b)、及び80°(520c)の配向基準面(410)傾斜角で示されている。
【0034】
本発明のさらなる態様において、仮想参照モデルを仮想ビルドプラットフォーム表面に結合する、少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元モデルが生成され得る。少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元モデルは、3Dプリント装置のソフトウェア内で、ソフトウェア内で提供される計算アルゴリズムによって自動的に、ソフトウェア内で選択を指示及び操作するオペレータによって手動で、又はこれらの組み合わせで生成される。このような取り外し可能な支持構造体の三次元モデルは、プリント中の人工義歯床の造形を支援するのに十分な構造的支持又は足場を提供するために確立され得る(義歯床の形状及び表面特徴の特定の態様に合わせて必要に応じて適応され得る)。限定ではなく、フェンス支持構造体、ピン支持構造体、インターレースした支持構造体、分離した支持構造体、モノリシックの支持構造体、及びその組み合わせを含む、当該技術分野では公知の任意の支持構造体の形態及びタイプが選択され、本発明の義歯床モデルに適用される。図6A図6B、及び図6Cは、本発明の実施形態において効果的に適用され得る支持構造体(610)(いわゆるフェンス支持構造体)のタイプの一例と共に、仮想ビルドプラットフォーム(500)に結合された仮義歯床モデル(600)の異なる図を示す。
【0035】
完成した義歯床に関して、特に義歯床が患者の口腔内にあるときに見える部分では、滑らかで実質的に欠陥のない表面品質を達成することが有利であり望ましい。通常は、歯の溝に面する側の義歯表面の大部分は、滑らかで光沢のある仕上がりに研磨される。しかし、組織に面する側を研磨することは、患者のために達成可能なフィット品質に悪影響があるため一般に回避されるべき慣行である(例えば、結果的に表面寸法に大幅な変化を生じ、材料の除去に起因して、適正なフィットに関する容認できない許容範囲外の寸法をもたらす)。結果として、プリント後に、義歯床の組織に面する側は、寸法的に正確であり、滑らかな仕上がりを有し、支持構造体材料を含まない又は本質的に含まないことが特に有利であり望ましい。
【0036】
したがって、好ましい実施形態において、少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルを生成するプロセスは、支持構造体の接触点を仮想参照モデルの歯の溝に面する側及び義歯境界の領域上に設定するステップと、取り外し可能な支持構造体の接触点を仮想参照モデルの組織に面する側及び歯の溝内の領域から除外する又は実質的に除外するステップとを含む。したがって、義歯床モデルの歯の溝に面する側及び組織に面する側は、支持構造体との接触点を有することから実質的に除外され得る(すなわち、支持構造体は、歯の溝及び組織に面する側を避けて又は歯の溝及び組織に面する側の外側に実質的にとどまって義歯境界及び歯の溝に面する側の部分と接触し得る)。歯の溝及び組織に面する側を避けて支持構造体の接触点を配置することにより、(プリント後に支持構造体が取り外されるときに)残った構造体に望ましくない異常又はこれらの表面上に傷を生じ、これらの表面を研磨するためのさらなる技術者の介入を必要とし得るという潜在的な問題を防ぐことができる。プリント後に行われる後続の仕上げ作業中にこれらの領域を研磨することは、回避することが好ましい慣行である。
【0037】
液状光重合性組成物のリザーバの提供
液状光重合性組成物のリザーバ(より一般的にはバットとも呼ばれる)が提供され、光に基づく3Dプリント装置のビルドプラットフォーム表面と接触する状態で配置され得る。限定ではなく、光に基づく3Dプリント装置から効果的に光硬化することができる任意の液状光重合性組成物が、本発明の方法で用いるのに適切であり得る。液状光重合性組成物の化学的及び物理的特性は、プリントされた義歯床の特定の所望の最終用途特性(例えば、生体適合性、機械的耐久性(強度/可撓性)、色など)に合わせて、当業者によって必要に応じて選択及び/又は適合される。液状光重合性組成物はまた、選択された3Dプリント装置の特定の制約又は制限に合わせて、当業者によって必要に応じて選択及び/又は適合され得る。好ましい実施形態において、光重合性組成物は、アクリレートベースのゴム衝撃改質樹脂組成物を含むことができ、光重合性組成物の最終的な硬化した樹脂の特性は、ISO20795-1:2013に従って用意及び測定したとき、23℃で約1MPa・m1/2から約4MPa・m1/2の間の破壊靭性(Kmax)、約300J/mから約4000J/mの間の破壊仕事、及び約5MPaから約200MPaの間の曲げ強さを有する。
【0038】
3Dプリント装置のプリントプロセスパラメータの選択
選択された特定の3Dプリント装置の動作要件又は制約、プリントのための選択された特定の液状光重合性組成物の化学的及び/又は物理的特性、並びに人工義歯床の所望の厚さを含む、いくつかのアプリケーション固有の考慮事項を条件として、プリントプロセスパラメータは、光に基づく3Dプリント装置の動作を制御するコンピューティングシステムのソフトウェア内で選択され得る。限定ではなく、適切なプリントプロセスパラメータは、人工義歯床の仮想参照モデル及び少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルに従って液状光重合性組成物が効果的に光硬化されるように当業者によって決定及び選択される。液状光重合性組成物を効果的に光硬化することにより、ポリマー組成物がその場で迅速に架橋及び硬化し、デジタルモデルに従う固体構造体が形成される。液状光重合性組成物を効果的に光硬化することは、3Dプリント装置によるポリマー組成物の部分硬化(すなわち、限定的な又は不完全な架橋及び硬化)又は全硬化(すなわち、完全な又は本質的に完全な架橋及び硬化)のいずれかで達成される。好ましい実施形態において、より望ましいレベルの寸法精度の達成をさらに容易にするために、約200ミクロン以下(例えば、25~100ミクロン)のスライス厚が、プリント用の3Dデジタルモデルをスライスするために選択され得る。
【0039】
プリントとプリント後
プリントプロセスパラメータが選択され、3Dプリント装置のビルドプラットフォーム表面と接触する液状光重合性組成物のリザーバが提供され、人工義歯床及び取り外し可能な支持構造体のデジタルモデルが3Dプリント装置に提供されると、3Dプリント装置は、液状光重合性組成物から少なくとも1つの人工義歯床及び少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体のプリント(すなわち、光硬化)を実行する又は行うように(例えば、コマンド又は実行可能なソフトウェアコードによって)命令され得る、或いはオペレータによって指示され得る。
【0040】
プリントの完了後に、本発明に係る人工義歯床を製作する方法はさらに、ビルドプラットフォーム表面及び少なくとも1つのプリントされた人工義歯床から、少なくとも1つのプリントされた取り外し可能な支持構造体を取り外すステップを含み得る。取り外し可能な支持構造体は、取り外し可能な支持構造体を分離し、ビルドプラットフォーム表面又はプリントされた人工義歯床への悪影響を回避するために、任意の適切な物理的及び/又は化学的取り外し手段によって取り外され得る。適切な物理的手段は、人工義歯床及びビルドプラットフォーム表面との接触点又はその付近での取り外し可能な支持構造体の切断、トリミング、研磨、引き裂き、剥離、引っ張り、及びこじりを含み得る。
【0041】
別の実施形態において、本発明に係る人工義歯床を製作する方法はさらに、プリントされた人工義歯床の表面から未反応の又は残留した液状光重合性組成物を除去するために、少なくとも1つのプリントされた人工義歯床にプリント後洗浄処理を行うステップを含み得る。プリント後洗浄処理は、プリントされた人工義歯床を、C~Cアルコールを含む溶媒組成物に約1分から約10分間浸漬することによって行われ得る。溶媒組成物は、特にイソプロパノールを含み得る。
【0042】
別の実施形態において、本発明に係る人工義歯床を製作する方法はさらに、少なくとも1つのプリントされた人工義歯床に二次硬化処理を行うステップを含み得る。最初のプリント(光硬化)は最初の固体人工義歯床を形成するが、この二次硬化処理は、ポリマー組成物の完全な変換及び架橋を確実にもたらして、患者での使用に望まれる最終的な機械的特性及び生体適合性プロファイルを十分に実現するのにさらに有益であり得る。この二次硬化手順において、人工義歯床は、歯の溝に面する側と組織に面する側との両方のそれぞれで、約10-8m(10ナノメートル)~10-3m(1ミリメートル)の波長にわたる広範囲の電磁放射に約5分~約15分間曝され得る。紫外(UV)及び可視波長範囲の広範囲の電磁放射に曝すことが好ましい場合がある。ECLIPSE(登録商標)処理ユニット(モデルNo.9494800;120ボルト、12アンペア、1200ワット;Dentsply Sirona, Inc.から入手可能)は、このような二次硬化処理を行うのに用いられ得る市販の光硬化デバイスの一例である。
【0043】
仮想参照モデルへの補正デジタルスケール変更
さらに別の実施形態において、本発明に係る人工義歯床を製作する方法はさらに、少なくとも1つの人工義歯床を製作するべく仮想参照モデルに補正デジタルスケール変更プロセスを行うステップを含み得る。
【0044】
少なくとも1つの人工義歯床を製作するべく仮想参照モデルに補正デジタルスケール変更プロセスを行うステップは、(a)第1の凹彫モデル画像を確立するべく少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の組織に面する側の正確な三次元デジタルモデルを取得するステップと、(b)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアで、第1の凹彫モデル画像の寸法を第2の凹彫モデル画像の寸法と比較するステップであって、この場合、第2の凹彫モデル画像は、少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の製作元となった仮想参照モデルの組織に面する側の三次元デジタルモデルを含む比較するステップと、(c)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアで、第1の凹彫モデル画像と第2の凹彫モデル画像との差異を減らすx次元、y次元、及びz次元にわたる補正スケール因子を確立するべく、第1の凹彫モデル画像にx次元、y次元、及びz次元にわたるスケール因子調整を行うステップと、(d)コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアで、補正された人工義歯床デジタルモデルを生成するステップであって、この場合、第1の凹彫モデル画像にスケール因子調整を行うことから確立されたx次元、y次元、及びz次元の補正スケール因子のそれぞれは、仮想参照モデルの対応する次元に適用される生成するステップと、(e)光に基づく三次元プリント装置の動作を制御するコンピュータシステムのソフトウェアで、補正された人工義歯床デジタルモデルとプリントのための少なくとも1つの取り外し可能な構造体の三次元デジタルモデルを用意するステップと、(f)光に基づく三次元プリント装置のビルドプラットフォーム表面と接触する液状光重合性組成物のリザーバを提供するステップと、(g)光に基づく三次元プリント装置の動作を制御するコンピュータシステムのソフトウェアで、補正された人工義歯床デジタルモデルと少なくとも1つの取り外し可能な支持構造体の三次元デジタルモデルに従って、液状光重合性組成物を効果的に光硬化するべくプリントプロセスパラメータを選択するステップと、(h)液状光重合性組成物から少なくとも1つの人工義歯床及び取り外し可能な支持構造体をプリントするように光に基づく三次元プリント装置に指示するステップと、を含み得る。
【0045】
本明細書での一態様において、第1の凹彫モデル画像を確立するべく少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の組織に面する側の正確な三次元デジタルモデルを取得するプロセスは、コンピュータ化された高解像度三次元イメージングシステムを用いて、プリントされた人工義歯床の組織に面する側の生の三次元デジタルモデルを確立するべく、少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の組織に面する側の三次元デジタル画像を取得するステップと、コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアを用いて、高解像度三次元イメージングシステムによって生成された生の三次元デジタルモデル上の外的なデジタル表面アーチファクト特徴を識別するステップと、コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアを用いて、少なくとも1つのプリントされた人工義歯床の組織に面する側の正確な三次元デジタルモデルを確立するべく、生の三次元デジタルモデルから外的なデジタル表面アーチファクト特徴を差し引くステップとを含み得る。
【0046】
本明細書での別の態様において、第1の凹彫モデル画像の寸法を第2の凹彫モデル画像の寸法と比較するプロセスは、コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアに第1の凹彫モデル画像を提供するステップと、コンピュータ支援デジタル検査ソフトウェアに第2の凹彫モデル画像を提供するステップと、第2の凹彫モデル画像上に第1の凹彫モデル画像のデジタル重ね合わせを行うべく、第1及び第2の凹彫モデル画像にICP(iterative closest point)アルゴリズムを用いてベストフィット位置合わせ動作を適用するステップと、第1及び第2の凹彫モデル画像のそれぞれに三次元カラーマップを適用するステップと、第2の凹彫モデル画像に対する寸法偏差を呈する第1の凹彫モデル画像上の領域を識別するべく、重ね合わせた第1の凹彫モデル画像と第2の凹彫モデル画像との差異を比較するステップとを含み得る。ICPアルゴリズムは、必要な剛体変換(平行移動と回転の組み合わせ)の初期推測を前提として、三次元モデルを位置合わせする際に広く用いられているアルゴリズムの1つである。
【0047】
本明細書でのさらに別の態様において、第1の凹彫モデル画像にx次元、y次元、及びz次元にわたるスケール因子調整を行うプロセスは、第1の凹彫モデル画像の三次元カラーマップ上の正の寸法偏差を有する領域を減らすべく、第1の凹彫モデル画像のx次元、y次元、及びz次元にわたるデジタル調整を適用するステップと、第1の凹彫モデル画像の三次元カラーマップ上に表示される負の寸法偏差を有する領域を増やすべく、第1の凹彫モデル画像のx次元、y次元、及びz次元にわたるデジタル調整を適用するステップと、第1の凹彫モデル画像にわたる三次元カラーマップの偏差を減らすx次元、y次元、及びz次元にわたる補正スケール因子を確立するべく、第1の凹彫モデル画像のデジタル調整を反復的な様態で繰り返すステップと、を含み、これにより、第1の凹彫モデル画像の少なくとも約80パーセントが、第2の凹彫モデル画像の約-100ミクロンから約+100ミクロンの間の範囲内に存在する。
【0048】
製作された義歯床の寸法精度を評価するために、3D比較又は検査ツール(「part-to-CAD」比較と呼ばれることもある)と呼ばれる技術を用いることができる。これは、部品が製造されたデジタルモデルに対して、実際の、製造時の、測定された部品の寸法の比較が行われることを可能にする。プリントされたオブジェクトの表面からデジタル表面プロファイルを生成し、次いで、これを、該オブジェクトをプリントするためにプリンタによって用いられた参照CADモデルと比較するために、高解像度3Dスキャナ(例えば、レーザスキャナ、産業用コンピュータ断層撮影)を用いることができる。義歯床などの光沢のあるオブジェクト又は反射性のオブジェクトにレーザスキャナを用いるときに、オブジェクトに反射防止コーティングをスプレーすることは、表面の反射率を下げて正確な表面画像の取り込みをより容易に達成するための一般的な方法である。この3D比較又は検査のために、GEOMAGIC(登録商標)CONTROL X(商標)ソフトウェア(3D Systems, Inc.から入手可能)などの市販のデジタル検査ソフトウェア又は当業者に公知の他の同様の計測ソフトウェアプラットフォームを用いることができる。
【0049】
3D比較プロセスは、「カラーマップ」と呼ぶことができるものを提供し、これは、オブジェクトを製造したCADモデル寸法に対する、最終的なオブジェクト寸法の3Dデータ比較を示す。このカラーマップは、参照カラースケールに従って3D画像にわたる寸法の差を表す色の差を表示する。これは、最終的な従来の(圧縮/低温流し込み)、ミルされた、又はプリントされた義歯床の寸法精度を判定する際に有用な技術である。図7は、3Dスキャンし、次いで、プリント元となった義歯床CADモデルと比較した、プリントされた上顎義歯床(700)の歯の溝に面する側のカラーマップの例示的な画像を示す(この特定の実施例では、この実施例における様々な寸法の色での差の表示を容易にするために、本発明の実施形態に係る義歯床はプリントされていない)。カラースケール(図7の義歯床カラーマップ画像の右側に表示されている)は、プリント元となったCADモデルファイルに対するプリントされた義歯床ファイルの寸法適合度及び/又は寸法不適合度に対応する色の変化の実スケール(ミリメートル単位)を示す(プリントされた義歯床の3DスキャンからのSTLファイルは、CADモデルの対応するSTLファイル上に重ね合わされている)。寸法適合性又は寸法偏差に関する実際の許容誤差限界及び/又は範囲は、患者及び歯科医の最終用途の要件を満たすのに適した所与の製作品質又は精度レベルを達成するべく好みの問題として確立される。図7を参照すると、「緑」の領域又はゾーン(カラースケール及び義歯床画像上に710として表示される)は、約+0.1mm(約+100ミクロン)から約-0.1mm(約-100ミクロン)の間の範囲の寸法偏差を表す。したがって、「緑」色は、+0.1mm~-0.1mmの指定された許容誤差限界内のCADモデルからの非常に限られた偏差を有する、強い又は近い寸法フィットを有する領域又はゾーンを示す。図7を再び参照すると、「黄~橙~赤」の領域又はゾーン(カラースケール及び義歯床画像上に720として表示される)は、約+0.1mmを超える(約+100ミクロンを超える)すべての「正の」(すなわち、より厚い、より大きい、突き出た、又は膨らんだ)寸法偏差を表す。図7をさらに参照すると、「明るい青~暗い青」の領域又はゾーン(カラースケール及び義歯床画像上に730として表示される)は、約-0.1mmを超える(約-100ミクロンを超える)すべての「負の」(すなわち、より薄い、より小さい、落ち込んだ、又は沈んだ)寸法偏差を表す。
【0050】
デジタルモデルの視覚化、用意、及び/又は修正のためのコンピュータシステム
本明細書で説明される方法の実施形態の少なくともいくつかに係る3Dデジタルモデルの視覚化、用意、及び/又は修正のために1つ以上のコンピュータシステムが用いられる。例示的なコンピュータシステムに関して様々な実施形態が本明細書で説明されるが、この説明を読んだ後で、他のコンピュータシステム及び/又はアーキテクチャを用いて本開示をどのように実施するかが、当該技術分野の当業者には明らかとなるであろう。
【0051】
本明細書での1つの例示的な実施形態において、コンピュータシステムは、少なくとも1つのコンピュータプロセッサと、少なくとも1つのモデリング装置、モデリングシステム、ユーザインターフェース、及び入力ユニットを含むことができ、これらは、本明細書で説明される装置、構成要素、及び/又はシステムのいずれかの少なくとも一部を形成することができる。コンピュータプロセッサは、例えば、中央処理装置、複数の処理装置、特定用途向け集積回路(「ASIC」)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(「FPGA」)などを含み得る。プロセッサは、通信インフラストラクチャ(例えば、通信バス又はネットワーク)に接続され得る。本明細書での一実施形態において、プロセッサは、設計が進行中である又は3Dデジタルモデルが使用されているという指示を受信することができ、モデリングシステムのメモリから及び/又はコンピュータシステムの1つ以上のストレージユニットから3Dデジタルモデルのビュー/配向の動的調整に関する命令を取得することができる。プロセッサは、次いで、命令をロードし、ロードした命令を実行することができる。この3Dデジタルモデルのビュー/配向の動的調整は、次いで、ディスプレイユニット上でレンダリングすることができる。
【0052】
ユーザインターフェース(又は他の出力インターフェース)は、ビデオグラフィックス、テキスト、及び他のデータを、ディスプレイユニット上に表示するために通信インフラストラクチャから(又はフレームバッファから)転送することができる。例えば、ユーザインターフェースは、グラフィックス処理ユニットを備えたビデオカードを含み得る。
【0053】
コンピュータシステムはまた、コンピュータプロセッサに情報を送信するためにコンピュータシステムのユーザによって用いられ得る入力ユニットを含み得る。一実施形態では、入力ユニットは、トラックボール、又は、キーボード又はスタイラス又はジェスチャー認識デバイスなどの他の入力デバイスであり得る。代替的に、入力ユニットは、タッチスクリーンインターフェース上で用いられる指又はスタイラスであり得る。一例では、ディスプレイユニット、入力ユニット、及びコンピュータプロセッサは、集合的にユーザインターフェースを形成することができる。
【0054】
動的調整を行う1つ以上のステップは、コンピュータ可読プログラム命令の形態で一時的でない記憶装置上に記憶され得る。手順を実行するために、プロセッサは、記憶装置上に記憶された適切な命令をメモリにロードし、次いで、ロードした命令を実行する。
【0055】
コンピュータシステムは、ランダムアクセスメモリ(「RAM」)であり得るメインメモリをさらに備えることができ、二次メモリも含み得る。二次メモリは、例えば、ハードディスクドライブ及び/又はリムーバブル・ストレージドライブ(例えば、フロッピーディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブ、フラッシュメモリドライブなど)を含み得る。リムーバブル・ストレージドライブは、リムーバブル・ストレージユニットから周知の様態で読み出す及び/又はこれに書き込むことができる。リムーバブル・ストレージユニットは、リムーバブル・ストレージドライブによって書き込む及び読み出すことができる、例えば、フロッピーディスク、磁気テープ、光ディスク、フラッシュメモリデバイスなどであり得る。リムーバブル・ストレージユニットは、コンピュータで実行可能なソフトウェア命令及び/又はデータを記憶する一時的でないコンピュータ可読記憶媒体を含み得る。
【0056】
さらに代替的な実施形態では、二次メモリは、コンピュータで実行可能なプログラム又はコンピュータシステムにロードされるべき他の命令を記憶する他のコンピュータ可読媒体を含み得る。このようなデバイスは、リムーバブル・ストレージユニット及びインターフェース(例えば、プログラムカートリッジ及びカートリッジインターフェース);リムーバブル・メモリチップ(例えば、消去可能でプログラム可能な読出し専用メモリ(「EPROM」)又はプログラム可能な読出し専用メモリ(「PROM」))及び関連するメモリソケット;及びリムーバブル・ストレージユニットからコンピュータシステムの他の部分にソフトウェア及びデータが転送されることを可能にする他のリムーバブル・ストレージユニット及びインターフェースを含み得る。
【0057】
コンピュータシステムはまた、ソフトウェア及びデータがコンピュータシステムと外部デバイスとの間で転送されることを可能にする通信インターフェースを含み得る。このようなインターフェースは、モデム、ネットワーク・インターフェース(例えば、イーサネットカード又はIEEE 802.11無線LANインターフェース)、通信ポート(例えば、ユニバーサルシリアルバス(「USB」)ポート又はFireWire(登録商標)ポート)、パーソナル・コンピュータ・メモリ・カード・インターナショナル・アソシエーション(「PCMCIA」)インターフェース、Bluetooth(登録商標)などを含み得る。通信インターフェースを介して転送されるソフトウェア及びデータは、信号の形態であってよく、通信インターフェースによって送信及び/又は受信可能な電子信号、電磁気信号、光学信号、又は別のタイプの信号であり得る。信号は、通信経路(例えば、チャネル)を介して通信インターフェースに提供され得る。通信経路は、信号を搬送し、ワイヤ又はケーブル、光ファイバ、電話回線、セルラーリンク、無線周波数(「RF」)リンクなどを用いて実装され得る。通信インターフェースは、コンピュータシステムとリモートサーバ又はクラウドベースのストレージとの間でソフトウェア又はデータ又は他の情報を転送するのに用いられ得る。
【0058】
1つ以上のコンピュータプログラム又はコンピュータ制御論理は、メインメモリ及び/又は二次メモリに記憶され得る。コンピュータプログラムはまた、通信インターフェースを介して受信され得る。コンピュータプログラムは、コンピュータプロセッサによって実行されるときにコンピュータシステムに後述する方法を行わせる、コンピュータで実行可能な命令を含み得る。したがって、コンピュータプログラムは、3Dデジタルモデルの視覚化、用意、及び/又は修正のためのコンピュータシステム及びシステムの他の構成要素を制御し得る。
【0059】
別の実施形態において、ソフトウェアは、一時的でないコンピュータ可読記憶媒体に記憶され、リムーバブル・ストレージドライブ、ハードディスクドライブ、及び/又は通信インターフェースを用いて、コンピュータシステムのメインメモリ及び/又は二次メモリにロードされ得る。制御論理(ソフトウェア)は、プロセッサによって実行されるときに、コンピュータシステムに、より一般には、3Dデジタルモデルの視覚化、用意、及び/又は修正のためのシステムに、本明細書で説明される方法のすべて又はいくつかを行わせる。
【0060】
本明細書で説明される機能を実行するためのこのような他のハードウェア構成の実装は、この説明を考慮すれば当該技術分野の当業者には明白であろう。
【0061】
実施例
以下の実施例のために、いわゆる連続液界面製造(CLIP)光造形技術に基づいてCARBON(登録商標)M1又はM2プリンタ(Carbon, Inc.から入手可能)で人工義歯床をプリントした。人工義歯床は、独自仕様のアクリレートベースの光重合性液状樹脂組成物(25℃で約4500~約6500cPの範囲内(通常は平均5500cP)の粘度を有するアクリレートベースのゴム衝撃改質樹脂組成物である、Dentsply Sirona DLP 291調製物)から製造した。CARBON(登録商標)M1及びM2プリンタで、5.0~7.0(例えば、5.5)の樹脂硬化線量(D)又は硬化線量、0.0014~0.0022(例えば、0.0016)の樹脂吸収係数(α)、及び1~4(例えば、1.5)の露出補正(EC)のプリントプロセスパラメータを設定した。加えて、プリント用の3Dデジタルモデルをスライスするために、25~200ミクロン(例えば、100ミクロン)のスライス厚を選択した。プリントした義歯床をイソプロパノール中で少なくとも5分間洗浄し、ECLIPSE(登録商標)処理ユニット(モデルNo.9494800; Dentsply Sirona, Inc.から入手可能)内で、歯の溝に面する側と組織に面する側との両方のそれぞれに二次硬化を10分間行った。
【0062】
実施例1A及び1B
上側(上顎)人工義歯床(実施例1A)及び下側(下顎)人工義歯床(実施例1B)の仮想参照モデルをそれぞれ用意し、ビルドプラットフォーム表面に対する好ましい配向傾斜角のうちの1つ(これらの実施例では、70°を用いた)でプリントした。図8Aは、プリント元となった仮想参照モデルの組織に面する側に対する、プリントされた上側(上顎)人工義歯床の組織に面する側のカラーマップ比較を示す。同様に、図8Bは、プリント元となった仮想参照モデルの組織に面する側に対する、プリントされた下側(下顎)人工義歯床の組織に面する側のカラーマップ比較を示す。両方の場合において、「緑」の領域又はゾーン(カラースケール及び義歯床画像上に810として表示される)は、約+0.13mm(約+130ミクロン)から約-0.13mm(約-130ミクロン)の間の範囲の寸法偏差を表す。加えて、「黄~橙~赤」の領域又はゾーン(カラースケール及び義歯床画像上に820として表示される)は、約+0.13mmを超える(約+130ミクロンを超える)すべての「正の」(すなわち、より厚い、より大きい、突き出た、又は膨らんだ)寸法偏差を表し、一方、「明るい青~暗い青」の領域又はゾーン(カラースケール及び義歯床画像上に830として表示される)は、約-0.13mmを超える(約-130ミクロンを超える)すべての「負の」(すなわち、より薄い、より小さい、落ち込んだ、又は沈んだ)寸法偏差を表す。
【0063】
これらの図面から、「緑」色の領域又はゾーンは、プリントされた人工義歯床の組織に面する側の表面積の実質的に大部分を表すことが観察される。したがって、カラーマップ比較の分析は、プリントされた上側と下側の両方の義歯床の実質的に大部分が、ここで指定された約+130ミクロン~約-130ミクロンの寸法許容誤差限界内に十分にあったことを実証する。これは、それが設計される患者のための快適で安全なカスタマイズされたフィットに関する非常に正確な寸法をもつ、容認できる義歯床装置を達成するのに有利である。実際には、全体的な比較結果は、これらのプリントされた義歯床の組織に面する側の領域の少なくとも90%が仮想参照モデルの約≦130ミクロン(≦0.13mm)内にあったことを示す。明瞭にするために、ここでさらに、高解像度レーザ光学スキャナで表面画像を取り込む前に表面反射率を低減するために、これらのプリントされた義歯床の組織に面する表面に市販の反射防止コーティングをスプレーしたことに留意されたい。他の3Dイメージング技術(例えば、コンピュータ断層撮影スキャン、すなわちCTスキャン)では、プリントされた義歯床の表面に反射防止コーティングを適用するステップは必要とされない場合がある。これらの実施例では、スプレーコーティングは、反射防止コーティング層の厚さを増し、スキャンされた義歯床の全体的な表面厚さを約+30ミクロン増加させるため、約-130ミクロン(-0.13mm)~約+130ミクロン(+0.13mm)の寸法許容誤差限界が選択された。これは、プリントされた義歯床の実際の寸法が、約-100ミクロン(-0.10mm)~約+100ミクロン(+0.10mm)の好ましい寸法許容誤差限界内にあるという信頼を確立する目的で行われた。
【0064】
実施例2A~2D
プリント元となった仮想参照モデルと一致する優れた寸法精度を有する義歯床を製作する際の効果をさらに実証するために、4人の異なる患者症例の上側(上顎)人工義歯床の仮想参照モデルを用意し、70°の配向傾斜角でプリントした。高解像度レーザ光学スキャナで表面画像を取り込む前に、プリントされた義歯床に反射防止コーティングをスプレーした。これらの患者症例のそれぞれに関して、プリントされた義歯床の組織に面する側と、プリント元となった仮想参照モデルとのカラーマップ比較を分析した。2つの異なる寸法許容誤差限界(+100ミクロン~-100ミクロン及び+130ミクロン~-130ミクロン)内にある組織に面する側の全表面積のパーセンテージの結果を表1に示す。
【表1】
【0065】
実施例3A~3C
プリントされた義歯床の寸法精度に対するプリント角度選択の影響を実証するために、上側(上顎)人工義歯床の仮想参照モデルを用意し、ビルドプラットフォーム表面に対する3つの明確に異なる配向傾斜角でプリントした。高解像度レーザ光学スキャナで表面画像を取り込む前に、プリントされた義歯床に反射防止コーティングをスプレーした。図9A(実施例3A)は、45°の傾斜角でプリントされたときの、プリント元となった仮想参照モデルの組織に面する側に対してプリントされた上側(上顎)人工義歯床の組織に面する側を比較するカラーマップを示す。図9B(実施例3B)は、70°の傾斜角でプリントされたときの、プリント元となった仮想参照モデルの組織に面する側に対してプリントされた上側(上顎)人工義歯床の組織に面する側を比較するカラーマップを示す。図9C(実施例3C)は、85°の傾斜角でプリントされたときの、プリント元となった仮想参照モデルの組織に面する側に対してプリントされた上側(上顎)人工義歯床の組織に面する側を比較するカラーマップを示す。これらのカラーマップ比較のそれぞれに+130ミクロン~-130ミクロンの同じ寸法許容誤差限界を適用した。
【0066】
図9A及び図9Cの検査から、そのうちのいくつかが広範囲にわたる表面積をカバーしている、多くの寸法偏差領域又はゾーン(特徴920及び930として表示される)を容易に観察することができる。図9Aには、中央口蓋領域内に-130ミクロンを超える高い「負の」(すなわち、より薄い、より小さい、落ち込んだ、又は沈んだ)寸法偏差を有する特に大きいゾーンが存在し、その大部分は-1000ミクロン(-1mm)以上逸脱していることがわかる。しかしながら、図9A及び図9Cとは対照的に、図9Bは、「緑」色(910)で実質的にカバーされている(すなわち、寸法偏差は、+130ミクロン~-130ミクロンの指定された限界内にある)ことがわかる。実施例3A~3Cに関する寸法許容誤差限界(+130ミクロン~-130ミクロン)内にある組織に面する側の総面積のパーセンテージの結果を表2に示す。
【表2】
【0067】
本発明の前述の実施形態は、光に基づく三次元プリント装置で製作される人工義歯床で得ることができるプリント品質特徴の改善に関する別個の利点を提供する。本発明の1つ以上の実施形態に係る方法は、光に基づく3Dプリント装置に提供されたデジタルコンピュータ支援設計モデル情報と一致する優れた寸法精度をもつ人工義歯床を製造することができる。人工義歯床はまた、義歯床の組織に面する側又は歯の溝などの寸法に敏感な領域から、残った構造体の望ましくない異常又は傷(位置決め不良の又は広範囲に分布した支持構造体によって生じる)を後で除去する必要性又はその懸念を最小にする又は場合によってはなくすように製作することができる。
【0068】
本発明は、すべての好ましい又は有利な特徴、又はすべての利点が、本発明のすべての実施形態に組み込まれる必要性はないことを理解されたい。本発明は、その特定の好ましいバージョンを参照してかなり詳細に説明されてきたが、本発明の範囲内で他のバージョンが可能である。したがって、付属の請求項の精神及び範囲は、本明細書に含まれる好ましいバージョンの説明に限定されるべきではない。添付の特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む、本明細書で開示された特徴のすべては、特に明記しない限り、同じ、等しい、又は同様の目的を果たす代替的な特徴に置き換えることができる。したがって、特に明記しない限り、開示された各特徴は、一般的な一連の等価な又は類似の特徴の単なる一例である。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C