(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】CD3に特異的な抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20231114BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231114BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231114BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231114BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231114BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231114BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231114BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/13
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P37/02
(21)【出願番号】P 2020565329
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 IB2019054186
(87)【国際公開番号】W WO2019224715
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-25
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】アプガー,ジェームズ・リーズナー
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ファン
(72)【発明者】
【氏名】カトラガッダ,マダン
(72)【発明者】
【氏名】マサー,ディブヤ
(72)【発明者】
【氏名】チィスティアコバ,リウドミラ・ゲンナディエブナ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/166629(WO,A1)
【文献】特表2017-536412(JP,A)
【文献】特表2002-512624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD3に特異的に結合する抗体であって、
a.配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖可変(VH)領域、および
b.配列番号3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変(VL)領域
を含む抗体。
【請求項2】
Fab、Fabフラグメント、F(ab)
2フラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント、一本鎖抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、多重特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性二特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性IgG、ポリクローナル抗体、標識抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及びこれらのフラグメントからなる群から選択される、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
二重特異性抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
腫瘍抗原に特異的に結合する、請求項2又は3に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
ヒト又はヒト化VHフレームワーク、及びヒト又はヒト化VLフレームワークをさらに含む請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
ヒト化抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項8】
T細胞媒介性免疫反応の調節が必要な対象におけるT細胞媒介性免疫反応を調節する
方法に使用するための、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
対象の腫瘍細胞の増殖を阻害する
ための方法に使用するための、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記腫瘍細胞が、がんに由来する、請求項9に記載の
医薬組成物。
【請求項11】
前記がんが、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫癌、及び消化器系の癌からなる群から選択される、請求項10に記載の
医薬組成物。
【請求項12】
前記消化器系の癌が、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢、虫垂、胆管、及び膵臓からなる群から選択される、請求項11に記載の
医薬組成物。
【請求項13】
治療での使用のための、
請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項14】
治療での使用のための薬物の製造における、
請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記治療が、細胞溶解性T細胞反応の活性化を含む、請求項13又は14に記載の
医薬組成物。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項16に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項18】
請求項17に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項19】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体を組換えにより産生する、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
前記宿主細胞が、細菌細胞株、哺乳類細胞株、昆虫細胞株、及び酵母細胞株からなる群から選択される、請求項18又は19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
前記哺乳類細胞株が、CHO細胞株である、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項22】
抗体を製造する方法であって、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体が産生される条件下で、請求項18~21のいずれか一項に記載の宿主細胞を培養する工程と、前記抗体を培養上清から精製する工程とを含む方法。
【請求項23】
障害を処置するための薬物の製造における、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体、請求項10に記載の医薬組成物、請求項16に記載のポリヌクレオチド、請求項17に記載のベクター、又は請求項18~21のいずれか一項に記載の宿主細胞の使用。
【請求項24】
T細胞媒介性免疫反応の調節が必要な対象におけるT細胞媒介性免疫反応を調節する方法での使用のための、
請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項25】
対象の腫瘍細胞の増殖を阻害する方法での使用のための、
請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項26】
癌の処置での使用のための
、請求項7に記載の医薬組成物であって、任意選択で、前記癌は、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫癌、及び消化器系の癌からなる群から選択される、
医薬組成物。
【請求項27】
T細胞媒介性免疫反応が調節されるか、又は腫瘍細胞の増殖が阻害される、癌の処置での使用のための、請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
この出願は、EFS-Webを介して電子的に出願されており、.txtフォーマットの電子的に提出された配列表を含む。この.txtファイルは、2019年5月13日に作成されてサイズが100KBである「PC72375-PRV2_SequenceListing_ST25_05132019.txt」というタイトルの配列表を含む。この.txtファイルに含まれる配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明の分野
本発明は、CD3に特異的な抗体及びその抗原結合フラグメント、並びにそれらの使用方法に関する。本発明はまた、CD3及び標的抗原に結合する多重特異性抗体、並びにその使用法にも関する。
【背景技術】
【0002】
分化抗原群3(CD3)は、T細胞受容体複合体(TCR)と関連してT細胞上で発現されるホモ二量体抗原又はヘテロ二量体抗原であり、T細胞活性化に必要とされている。T細胞活性化は、反応するT細胞集団上で発現される様々な細胞表面分子の関与に依存する複雑な現象である。機能性CD3は、4種の異なる鎖:イプシロン、ゼータ、デルタ、及びガンマの内の2つの二量体会合から形成されている。例えば、抗原特異的T細胞受容体(CDR)は、一般にCD3と表される低分子量不変タンパク質の複合体と非共有結合的に会合するジスルフィド結合ヘテロ二量体(2本のクローン的に分散した膜内在性糖タンパク質鎖、アルファ及びベータ(α及びβ)又はガンマ及びデルタ(γ及びδ)を含む)で構成されている。CD3二量体配列として、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、及びゼータ/ゼータも挙げられる。
【0003】
CD3に対する抗体は、T細胞上でCD3をクラスタ化し、それにより、ペプチドが充填されたMHC分子によるTCRの関与と同様の方法でT細胞活性化を引き起こすことが分かっている。そのため、CD3抗体は、T細胞活性化に関与する治療目的に有用であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、CD3に結合する抗体、及び1種又は複数種のCD3抗体を含む組成物(例えば医薬組成物)を提供する。本発明のこの側面に係る抗体は、特に、CD3を発現するT細胞を標的とするのに有用であり、例えばT細胞媒介性死滅が有益であるか又は望ましい状況下でT細胞活性化を刺激するのに有用である。本発明のCD3抗体は、CD3媒介性T細胞活性化を特定の細胞型(例えば腫瘍細胞又は感染性因子)に向ける多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)の一部として含まれ得る。
【0005】
一側面では、本発明は、CD3に特異的に結合する抗体であって、(a)配列番号2、4、5、7、10、12、若しくは35に示すVH配列のVH相補性決定領域1(VH CDR1)、VH相補性決定領域2(VH CDR2)、及びVH相補性決定領域3(VH CDR3)を含む重鎖可変(VH)領域、並びに/又は(b)配列番号1、3、6、8、9、11、34、87、若しくは89に示すVL配列のVL相補性決定領域1(VL CDR1)、VL相補性決定領域2(VL CDR2)、及びVL相補性決定領域3(VL CDR3)を含む軽鎖可変(VL)領域を含む抗体を提供する。
【0006】
この側面の一態様では、CD3抗体は、(a)(i)配列番号13、14、若しくは15の配列を含むVH CDR1;(ii)配列番号16、17、19、20、21、22、23、若しくは24の配列を含むVH CDR2;及び(iii)配列番号18若しくは25の配列を含むVH CDR3を含むVH領域、並びに/又は(b)(i)配列番号26、29、30、32、91、若しくは92の配列を含むVL CDR1;(ii)配列番号27若しくは31の配列を含むVL CDR2;及び(iii)配列番号28若しくは33の配列を含むVL CDR3を含むVL領域を含む。
【0007】
いくつかのそのような態様では、本発明は、(a)VH領域は、配列番号2、4、5、7、10、12、若しくは35の配列を含み、及び/又は(b)VL領域は、配列番号1、3、6、8、9、11、34、87、若しくは89の配列を含む抗体を提供する。
【0008】
他の態様では、抗体は、配列番号1及び2;配列番号3及び2;配列番号3及び4;配列番号3及び5;配列番号6及び7;配列番号8及び7;配列番号6及び4;配列番号8及び4;配列番号9及び10;配列番号9及び7;配列番号11及び12;配列番号34及び35;配列番号9及び4;配列番号87及び4;並びに配列番号89及び4からなる群から選択されるVL/VHアミノ酸配列対を含む。
【0009】
上述のそれぞれのいくつかの態様では、抗体は、Fab、Fabフラグメント、F(ab)2フラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント、一本鎖抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、多重特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性二特異性抗体(bispecific heterodimeric diabody)、二重特異性ヘテロ二量体性IgG、ポリクローナル抗体、標識抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及びこれらのフラグメントからなる群から選択される。
【0010】
特定の態様では、抗体は、二重特異性抗体である。いくつかのそのような態様では、二重特異性抗体は、腫瘍抗原に特異的に結合する。
いくつかの態様では、本発明の抗体は、ヒト又はヒト化VHフレームワーク、及びヒト又はヒト化VLフレームワークをさらに含む。いくつかのそのような態様では、抗体は、ヒト化抗体である。
【0011】
本発明は、本明細書でさらに開示されている本発明のCD3抗体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物をさらに提供する。
別の側面では、本発明は、T細胞媒介性免疫反応の調節が必要な対象におけるT細胞媒介性免疫反応を調節する方法であって、本明細書で開示されている抗体又は医薬組成物の有効な量を対象に投与して、対象における免疫反応を調節する工程を含む方法を提供する。
【0012】
一側面では、本発明は、対象の腫瘍細胞の増殖を阻害する方法であって、腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量で、本明細書で開示されている二重特異性抗体、三重特異性抗体、多重特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性二特異性抗体、又は二重特異性ヘテロ二量体性IgGを対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0013】
いくつかのそのような態様では、腫瘍細胞はがんに由来する。特定の態様では、がんは、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫癌、及び消化器系の癌からなる群から選択される。
【0014】
一態様では、消化器系の癌は、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢、虫垂、胆管、及び膵臓からなる群から選択される。
一態様では、本発明は、治療での使用のための抗体又はそのような抗体を含む医薬組成物を提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、治療での使用のための薬物の製造における本発明の抗体の使用を提供する。いくつかのそのような態様では、この治療は、細胞溶解性T細胞反応の活性化を含む。
【0016】
一側面では、本発明は、本明細書で開示されている抗体をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供する。別の側面では、本発明は、そのようなポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0017】
さらに別の側面では、本発明は、本明細書で開示されているベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかのそのような態様では、宿主細胞は、本明細書で開示されている抗体を組換えにより産生する。特定の態様では、宿主細胞は、細菌細胞株、哺乳類細胞株、昆虫細胞株、酵母細胞株からなる群から選択される。特定の態様では、哺乳類細胞株は、CHO細胞株である。
【0018】
一側面では、本発明は、本明細書で開示されている抗体を製造する方法であって、本明細書で開示されている抗体が産生される条件下で宿主細胞を培養する工程、及び抗体を培養上清から精製する工程を含む方法を提供する。
【0019】
別の側面では、本発明は、障害を処置するための薬物の製造における、本明細書で開示されているCD3抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、又は宿主細胞の使用を提供する。
一側面では、本発明は、T細胞媒介性免疫反応の調節が必要な対象におけるT細胞媒介性免疫反応を調節する方法での使用のための抗体又は医薬組成物を提供する。特定の態様では、本発明は、対象の腫瘍細胞の増殖を阻害する方法での使用のための抗体又は医薬組成物を提供する。
【0020】
別の側面では、本発明は、癌の処置での使用のための抗体又は医薬組成物であって、任意選択で、癌は、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫癌、及び消化器系の癌からなる群から選択される、抗体又は医薬組成物を提供する。
【0021】
さらに別の側面では、本発明は、癌の処置での使用のための抗体又は医薬組成物であって、T細胞媒介性免疫反応が調節されるか、又は腫瘍細胞の増殖が阻害される、抗体又は医薬組成物を提供する。
【0022】
他の態様は、詳細な説明の概要から明らかになるであろう。本発明の側面又は態様が、Markush群又は選択肢の他のグループ化の観点で説明されている場合には、本発明は、全体として列挙されている群全体だけでなく、群の各々メンバーを個別に、及び主要群の全ての可能な部分群、並びに群メンバーの内の1つ又は複数が存在しない主要群も包含する。本発明はまた、特許請求されている本発明における群メンバーの内のいずれかの1つ又は複数の明示的な除外も想定する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、「ノブインホール」会合を介して会合するように最適化されているFc鎖を含む第1のヘテロ二量体促進ドメイン及び第2のヘテロ二量体促進ドメインを有する二重特異性抗体の構造の概要を示す。
【
図2】
図2は、温度の関数としてGUCY2c-H2B4及びGUCY2c-2B5二重特異性抗体の熱容量を示す示差走査熱量測定サーモグラムの結果を示す。
【
図3】
図3は、フローサイトメトリーアッセイを使用して、ナイーブヒトT細胞へのGUCY2c-H2B4(GUCY2c-0247)及びGUCY2c-2B5(GUCY2c-0250)二重特異性抗体の結合を示す。
【
図4】
図4は、細胞生存率データを使用して、GUCY2c-H2B4(GUCY2c-0247)及びGUCY2c-2B5(GUCY2c-0250)二重特異性抗体により媒介されるインビトロでの細胞傷害の結果を示す。
【
図5】
図5は、x線結晶構造からH2B4 Fv領域のポテンシャルエネルギー面(PES)を示す。これには、VH領域、VH/VL界面、及びVL領域を強調する3つの表示が含まれる。この図には、参照用に、過剰な正電荷を有するCDRが示されている。濃い黒色は正電荷を表し、白色は負電荷を表す。
【
図6】
図6は、H2B4のFv領域の空間凝集傾向(spatial aggregation propensity)(SAP)面を示す。疎水性残基が集中している領域が標識されている。
【
図7】
図7は、キャピラリゲル電気泳動図を使用して、CD3抗体結合ドメインH2B4、2B5、及び2B5v6を含む二重特異性抗体における不均一性を示す。
【
図8】
図8は、示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを使用して、温度の関数としてGUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性抗体の熱容量を示す。
【
図9】
図9は、ナイーブT細胞へのGUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性抗体の結合を示す。
【
図10】
図10は、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性抗体により媒介されるインビトロでの細胞傷害に関する細胞生存率のデータを示す。
【
図11A】
図11A~11Fは、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性によるインビトロでのサイトカイン放出測定を示す。この二重特異性抗体は、GUCY2cを発現するT84細胞へとナイーブヒトT細胞を動員して、インビトロでのサイトカイン放出を誘発する。ルミネックスベースのアッセイにより、ヒトIFN-ガンマ(
図11A)、IL10(
図11B)、IL2(
図11C)、IL4(
図11D)、IL6(
図11E)、及びTNF-アルファ(
図11F)の上方制御が示された。
【
図11B】
図11A~11Fは、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性によるインビトロでのサイトカイン放出測定を示す。この二重特異性抗体は、GUCY2cを発現するT84細胞へとナイーブヒトT細胞を動員して、インビトロでのサイトカイン放出を誘発する。ルミネックスベースのアッセイにより、ヒトIFN-ガンマ(
図11A)、IL10(
図11B)、IL2(
図11C)、IL4(
図11D)、IL6(
図11E)、及びTNF-アルファ(
図11F)の上方制御が示された。
【
図11C】
図11A~11Fは、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性によるインビトロでのサイトカイン放出測定を示す。この二重特異性抗体は、GUCY2cを発現するT84細胞へとナイーブヒトT細胞を動員して、インビトロでのサイトカイン放出を誘発する。ルミネックスベースのアッセイにより、ヒトIFN-ガンマ(
図11A)、IL10(
図11B)、IL2(
図11C)、IL4(
図11D)、IL6(
図11E)、及びTNF-アルファ(
図11F)の上方制御が示された。
【
図11D】
図11A~11Fは、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性によるインビトロでのサイトカイン放出測定を示す。この二重特異性抗体は、GUCY2cを発現するT84細胞へとナイーブヒトT細胞を動員して、インビトロでのサイトカイン放出を誘発する。ルミネックスベースのアッセイにより、ヒトIFN-ガンマ(
図11A)、IL10(
図11B)、IL2(
図11C)、IL4(
図11D)、IL6(
図11E)、及びTNF-アルファ(
図11F)の上方制御が示された。
【
図11E】
図11A~11Fは、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性によるインビトロでのサイトカイン放出測定を示す。この二重特異性抗体は、GUCY2cを発現するT84細胞へとナイーブヒトT細胞を動員して、インビトロでのサイトカイン放出を誘発する。ルミネックスベースのアッセイにより、ヒトIFN-ガンマ(
図11A)、IL10(
図11B)、IL2(
図11C)、IL4(
図11D)、IL6(
図11E)、及びTNF-アルファ(
図11F)の上方制御が示された。
【
図11F】
図11A~11Fは、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性によるインビトロでのサイトカイン放出測定を示す。この二重特異性抗体は、GUCY2cを発現するT84細胞へとナイーブヒトT細胞を動員して、インビトロでのサイトカイン放出を誘発する。ルミネックスベースのアッセイにより、ヒトIFN-ガンマ(
図11A)、IL10(
図11B)、IL2(
図11C)、IL4(
図11D)、IL6(
図11E)、及びTNF-アルファ(
図11F)の上方制御が示された。
【
図12】
図12は、養子移植系における結腸直腸癌患者由来の異種移植片PDX-CRX-11201での、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性抗体による用量依存性の腫瘍増殖阻害を示す。
【
図13】
図13は、養子移植系における結腸直腸癌細胞株異種移植片LS1034での、GUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)二重特異性抗体による用量依存性の腫瘍増殖阻害を示す。
【
図14A】
図14Aは、Flt3を発現するMV4-11細胞を使用して、様々なエフェクター対標的(E:T)比でFLT3-2B5v6二重特異性抗体により媒介されるインビトロでの細胞傷害を示す細胞生存率のデータの結果を示す。
図14Bは、Flt-3を発現するEOL-1細胞を使用して、様々なエフェクター対標的(E:T)比でFLT3-2B5v6二重特異性抗体により媒介されるインビトロでの細胞傷害を示す細胞生存率のデータの結果を示す。
【
図14B】
図14Aは、Flt3を発現するMV4-11細胞を使用して、様々なエフェクター対標的(E:T)比でFLT3-2B5v6二重特異性抗体により媒介されるインビトロでの細胞傷害を示す細胞生存率のデータの結果を示す。
図14Bは、Flt-3を発現するEOL-1細胞を使用して、様々なエフェクター対標的(E:T)比でFLT3-2B5v6二重特異性抗体により媒介されるインビトロでの細胞傷害を示す細胞生存率のデータの結果を示す。
【
図15】
図15は、CD3を発現するJurkat細胞への低親和性2B5v6バリアントの結合を示す。
【
図16】
図16は、抗CD3バリアントによる抗GUCY2C二重特異性T細胞媒介性細胞傷害を示す研究の結果をまとめるグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書で開示されている本発明は、CD3(例えばヒトCD3)に特異的に結合する抗体(例えば、完全長抗体又はその抗原結合フラグメント)を提供する。本発明はまた、この抗体をコードするポリヌクレオチド、この抗体を含む組成物、並びにこの抗体を製造する方法及び使用する方法も提供する。本発明は、本明細書で説明されている抗体を使用して障害を処置する方法をさらに提供する。
一般的な技術
本発明の実施は、別途指示されていない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学(これらは当分野の技術内である)の従来技術を採用するであろう。そのような技術は文献で十分に説明されており、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(Sambrook他,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編,1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis編,1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney編,1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather及びP.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,及びD.G.Newell編,1993~1998)J.Wiley及びSons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir及びC.C. Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller及びM.P.Calos編,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel他編,1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis他編,1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan他編,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley及びSons,1999);Immunobiology(C.A.Janeway及びP.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:a practical approach(D.Catty編,IRL Press,1988~1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.Shepherd及びC.Dean編,Oxford University Press,2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow及びD.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti及びJ.D.Capra編,Harwood Academic Publishers,1995)で十分に説明されている。場合によっては、一般的に理解されている意味を有する用語が、明確さのために及び/又は容易な参照のために本明細書で定義されており、本明細書でのそのような定義の包含は、当分野で一般に理解されるものとの実質的な相違を表すと必ずしも解釈されるべきではない。
【0025】
これより、本発明を、下記の定義及び例を使用して参照により詳細に説明する。本明細書で言及される全ての特許及び刊行物(そのような特許及び刊行物で開示されている全ての配列を含む)は、参照により明示的に組み込まれる。
定義
概して、別途定義されない限り、本明細書で使用されている当分野の全ての用語、表記、及び他の科学用語若しくは専門用語は、本発明が関連する分野の当業者により一般に理解されている意味を有することが意図されている。例えば、用語「及び/又は」は、本明細書において「A及び/又はB」等の語句で使用される場合、A及びBの両方;A又はB;A(単独);並びにB(単独)を含むように意図されている。同様に、用語「及び/又は」は、「A、B、及び/又はC」等の語句で使用される場合、下記の態様のそれぞれを包含するように意図されている:A、B、及びC;A、B、又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)。
【0026】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別途文脈が明確に指示しない限り、その対応する複数の参照を含む。
本明細書で使用される場合、数値範囲には、この範囲を画定する数値が含まれる。
【0027】
用語「約」、「およそ」、及び同類のものは、数値のリスト又は範囲に先行する場合には、このリスト又は範囲の各個々の値が、この用語に直前に先行されたかのように、リスト又は範囲の各個々の値を独立して指す。これらの用語は、これらが指す値が、正確であるか、この値に近似しているか、又はこの値に類似していることを意味する。例えば、いくつかの態様では、約又はおよその特定の値は、この値の99%、95%、又は90%の値を示し得る。一例として、「約100」の表現は、99及び101、並びに間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5等)を含む。別の例として、温度が70℃である場合には、「約」又は「およそ」70℃は、69℃、66℃、又は63℃に相当し得る。これらは単なる例示であることを理解しなければならない。
【0028】
本明細書で使用される場合、核酸を5’から3’の方向で左から右へと記載し、アミノ酸配列をアミノからカルボキシの方向で左から右へとそれぞれ記載する。当業者は、当分野の定義及び用語に関して、Sambrook他,1 989及びAusubel FM他,1993に特に向けられている。本発明は、説明されている特定の方法論、プロトコル、及び試薬に限定されないことを理解すべきであり、なぜならば、これらは変わり得るからである。
【0029】
用語「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、任意の長さ(好ましくは比較的短い(例えば10~100個のアミノ酸))のアミノ酸の鎖を指すために本明細書で互換的に使用される。この鎖は、直鎖であってもよいし分枝していてもよく、改変アミノ酸を含んでもよいし、及び/又は非アミノ酸で中断されていてもよい。この用語はまた、天然に又は介入により改変;例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、又は標識成分との共役等のあらゆる他の操作若しくは改変されているアミノ酸鎖も包含する。この定義に同様に含まれるのは、例えば、アミノ酸の1種又は複数種の類似体(例えば非天然アミノ酸等を含む)を含むポリペプチド、及び当分野で公知の他の改変である。ポリペプチドは、単一の鎖として又は関連する鎖として生じ得ることが理解される。好ましくは、哺乳類ポリペプチド(元々は哺乳類生物に由来したポリペプチド)が使用され、より好ましくは、培地に直接分泌されるものが使用される。
【0030】
「抗体」とは、免疫グロブリン分子であって、この免疫グロブリン分子の可変領域に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して標的(例えば、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチド等)に特異的に結合し得る免疫グロブリン分子のことである。本明細書で使用される場合、この用語は下記を包含する:ポリクローナル、モノクローナル抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体(bispecific antibody)、二重特異性抗体(dual-specific antibody)、二機能性抗体、三重特異性抗体、多重特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性二特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性IgG、標識抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及びこれらのフラグメント(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)、一本鎖(ScFv)、及びドメイン抗体(例えば、サメ及びラクダ抗体を含む)、抗体を含む融合タンパク質、並びに抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の改変配置。抗体として、IgG、IgA、若しくはIgM(又はこれらのサブクラス)等の任意のクラスの抗体が挙げられるが、この抗体は、任意の特定のクラスである必要はない。重鎖の定常領域の抗体アミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは様々なクラスに割り当てられ得る。免疫グロブリンには5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMが存在しており、これらの内のいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2等のサブクラス(アイソタイプ)にさらに分類され得る。免疫グロブリンの様々なクラスに対応する重鎖可変領域はそれぞれ、アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューと呼ばれている。免疫グロブリンの様々なクラスのサブユニット構造及び三次元配置は、周知である。本発明はまた、他の非抗体分子タンパク質ベースの足場である「抗体類似体」も含み、例えば、CDRを使用して特定の抗原結合をもたらす融合タンパク質及び/又は免疫コンジュゲートも含む。本発明の抗体は、任意の種(例えば、限定されないが、マウス、ヒト、ラクダ、ラマ、魚、サメ、ヤギ、ウサギ、ニワトリ、ウマ、及びウシ)に由来し得る。
【0031】
用語「抗体」は、ジスルフィド結合により相互に連結されている4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖、及び2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにこの多量体(例えばIgM)をさらに含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHC VR又はVHと省略されている)と、重鎖定常領域とを含む。抗体の「可変領域」は、抗体軽鎖の可変領域又は抗体重鎖の可変領域を単独で又は組み合わせて指す。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含む。CH1ドメイン及びCH2ドメインは、ヒンジ領域により連結されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLC VR又はVLと省略されている)と、軽鎖定常領域とを含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分化され得、このCDRには、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存されている領域が組み入れられている。各VH及びVLは、下記の順でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置されている、3つのCDR及び4つのFRで構成されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の様々な態様では、CD3抗体(又はこの抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよいし、天然に又は人工的に改変されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRのサイドバイサイド分析に基づいて定義され得る。各鎖中のCDRは、FRにより近接して互いに保持され、他の鎖からのCDRは、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。
【0032】
用語「抗原結合フラグメント」、「抗体フラグメント」、又は「抗原結合部分」は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ又は複数のフラグメントを指す。抗体の用語「抗原結合フラグメント」に包含される結合フラグメントの例として、下記が挙げられる:(i)抗体重鎖可変ドメイン(VH)及び/若しくは抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、又は完全長抗体若しくは抗体フラグメント(例えばVHドメイン及び/若しくはVLドメイン)に由来するVH/VLの対;(ii)VL、VH、CL、及びCH1ドメインからなる一価のフラグメントであるFabフラグメント;(iii)ヒンジ領域の一部を有する、本質的にFabであるFAb’フラグメント(例えば、Fundamental Immunology,Paul編,3.sup.rd ed.1993;(iv)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結されている2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(v)VH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント;(vi)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFvフラグメント;(vii)VL及びVH領域が対形成して一価の分子を形成する単一タンパク質鎖である一本鎖Fvフラグメント(scFv)(例えば、Bird他(1988)Science 242:423~426;及びHuston他(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879~5883);(viii)VH-VL対を安定化させるように設計されている分子間ジスルフィド結合を有するFvであるジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv);(ix)重鎖の可変ドメインで構成されており、軽鎖を欠いている単一可変ドメイン抗体(sdAb又はdAb)フラグメント(例えば、Ward他(1989)Nature 341:544~546);(x)相補性決定領域(CDR);並びにこれらのあらゆる誘導体。
【0033】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合フラグメント」は、少なくとも1つの可変ドメインを含み得る。この可変ドメインは、任意のサイズ又はアミノ酸組成であり得、一般には、1つ又は複数のフレームワーク配列に隣接しているか又はこのフレームワーク配列とのフレーム内に存在する少なくとも1つのCDRを含むであろう。本明細書で使用される場合、「抗体の抗原結合フラグメント」は、互いに非共有結合的会合で、及び/又は(例えばジスルフィド結合による)1つ若しくは複数の単量体VH若しくはVL領域との非共有結合的会合で、下記で列挙される可変領域及び定常ドメインの配置の内のいずれかのホモ二量体若しくはヘテロ二量体(又は他の多量体)を含み得る。例えば、この可変領域は二量体であり得、VH-VH、VH-VL、又はVL-VL二量体を含み得る。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内で見出され得る可変及び定常ドメインの配置として、下記が挙げられる:VH-CH1;VH-CH2;VH-CH3;VH-CH1-CH2;VH-CH1-CH2-CH3;VH-CH2-CH3;VH-VL-CL、VH-VL-CH1、VH-VL-CH2;VH-CL;VL-CH1;VL-CH2;VL-CH3;VL-CH1-CH2;VL-CH1-CH2-CH3;VL-CH2-CH3;及びVL-CL。この可変及び定常ドメインは、互いに直接連結されていてもよいし、完全な又は部分的なヒンジ又はリンカー領域により連結されていてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子中の隣接する可変領域及び/又は定常ドメインの間に柔軟性の又は半柔軟性の連結を生じる少なくとも2個(例えば、5個、10個、15個、20個、40個、60個、又はより多く)のアミノ酸からなり得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「結合ドメイン」は、ポリペプチド(例えば抗体)の任意の領域であって、目的の分子(例えば、抗原、リガンド、受容体、基質、又は阻害物質)への選択的結合に関与する領域を含む。例示的な結合ドメインとして、抗体可変領域、受容体結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、及び酵素ドメインが挙げられる。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「ヒトアクセプターフレームワーク」とは、下記で定義するヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変(VL)フレームワーク又は重鎖可変(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークのことである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」ヒトアクセプターフレームワークは、それらと同一のアミノ酸配列を含んでもよいし、アミノ酸配列の改変を含んでもよい。いくつかの態様では、アミノ酸改変の数は、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、又は2個以下である。いくつかの態様では、VLヒトアクセプターフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0036】
本明細書で使用される場合、「親和性成熟」抗体は、そのような改変を持たない親抗体と比較して、1つ又は複数の可変領域(CDR及びFRを含むにおいて1つ又は複数の改変を有する抗体を指し、そのような改変により、抗原に対する抗体の親和性が改善される。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「Fc領域」、「Fcドメイン」、「Fc鎖」、及び類似の用語は、IgG重鎖のC末端領域を定義するために使用される。IgGのFc領域は、2つの定常ドメイン、CH2及びCH3を含む。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメインは、通常、EU Indexのナンバリングシステムに従ってアミノ酸231からアミノ酸340まで延びているか、又はKabatのナンバリングシステムに従ってアミノ酸244からアミノ酸360まで延びている。ヒトIgG Fc領域のCH3ドメインは、通常、EUインデックスのナンバリングシステムに従ってアミノ酸341から447まで延びているか、又はKabatのナンバリングシステムに従ってアミノ酸361からアミノ酸478まで延びている。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメイン(「Cγ2」ドメインとも称される)は、別のドメインと密接に対形成しないという点でユニークである。正確に言うと、インタクトな天然IgGの2つのCH2ドメインの間には、2つのN連結された分枝炭水化物鎖が介在している。Fc領域は、天然Fc配列を含んでもよいし、バリアントFc配列を含んでもよい。免疫グロブリン重鎖のFc配列の境界は変動する可能性があるが、ヒトIgG重鎖Fc配列は、通常、約Cys226位又は約Pro230位でのアミノ酸残基からこのFc配列のカルボキシル末端まで伸びるように定義される。別途本明細書で指定しない限り、Fc領域又は定常領域のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat他,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991で説明されているようなEUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従う。
【0038】
ある特定の態様では、Fc鎖は、パパイン開裂部位のすぐ上流のヒンジ領域で始まり、抗体のC末端で終わる。従って、完全なFc鎖は、少なくともヒンジドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む。ある特定の態様では、Fc鎖は、下記の内の少なくとも1つを含む:ヒンジ(例えば、上部、中央、及び/若しくは下部のヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン、又はこれらのバリアント、一部、若しくはフラグメント。ある特定の態様では、Fcドメインは、完全なFc鎖(即ち、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン)を含む。ある特定の態様では、Fc鎖は、CH3ドメイン(又はその一部)に融合したヒンジドメイン(又はその一部)を含む。ある特定の態様では、Fc鎖は、CH3ドメイン(又はその一部)に融合したCH2ドメイン(又はその一部)を含む。ある特定の態様では、Fc鎖は、CH3ドメイン又はその一部からなる。ある特定の態様では、Fc鎖は、ヒンジドメイン(又はその一部)及びCH3ドメイン(又はその一部)からなる。ある特定の態様では、Fc鎖は、CH2ドメイン(又はその一部)及びCH3ドメインからなる。ある特定の態様では、Fc鎖は、ヒンジドメイン(又はその一部)及びCH2ドメイン(又はその一部)からなる。ある特定の態様では、Fc鎖は、少なくともCH2ドメインの一部(例えば、CH2ドメインの全て又は一部)を欠いている。Fc鎖は、本明細書では概して、免疫グロブリン重鎖のFc鎖の全て又は一部を含むポリペプチドを指す。これとして下記が挙げられるが、これらに限定されない:CHI、ヒンジ、CH2、及び/又はCH3ドメインの全体を含むポリペプチド、並びに例えば、ヒンジ、CH2、及びCH3ドメインのみを含むそのようなペプチドのフラグメント。Fc鎖は、任意の種及び/又は任意のサブタイプの免疫グロブリン(例えば、限定されないが、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、又はIgM抗体)に由来し得る。Fcドメインは、天然のFc及びFcバリアント分子を包含する。Fcバリアント及び天然Fc’sと同様に、用語Fc鎖は、抗体全体から消化されたか又は他の手段により作製された単量体又は多量体形態の分子を含む。いくつかの態様では、Fc鎖は、ジスルフィドにより互いに保持された両方の重鎖のカルボキシ末端部分を含む。ある特定の態様では、Fc鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインからなる。
【0039】
当分野で使用される場合、「Fc受容体」及び「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を説明する。好ましいFcRは、天然配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、及びFcγIIIサブクラスの受容体(これらの受容体の対立遺伝子バリアント及び交互にスプライスされた形態を含む)が挙げられる。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)が含まれており、これらは同様のアミノ酸配列を有するが、このアミノ酸配列の細胞質ドメインが主に異なる。FcRは、Ravetch及びKinet,Ann.Rev.Immunol.,9:457~92,1991;Capel他,Immunomethods,4:25~34,1994;及びde Haas他,J.Lab.Clin.Med.,126:330~41,1995で概説されている。「FcR」には、母系IgGの胎児への移行に関与する新生児受容体FcRnも含まれる(Guyer他,J.Immunol.,117:587,1976;及びKim他,J.Immunol.,24:249,1994)。
【0040】
「天然配列Fc領域」又は「野生型Fc領域」は、自然界で見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。「野生型」ヒトIgG Fcは、ヒト集団内で天然に生じるアミノ酸の配列を意味する。当然のことながら、Fc配列が個体間でわずかに異なり得るのと同様に、野生型配列に対して1つ又は複数の変更が起こり得、この変更が本発明の範囲内に依然として留まり得る。例えば、Fc領域は、本発明とは関連していないさらなる変更(例えば、グリコシル化部位での変異、非天然アミノ酸の包含、又は「ノブインホール」変異)を含み得る。
【0041】
「バリアントFc領域」又は「バリアントFc鎖」は、少なくとも1つのアミノ酸改変により天然配列Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含むが、この天然配列Fc領域の少なくとも1つのエフェクター機能を保持する。いくつかの態様では、バリアントFc鎖は、天然配列Fc鎖又は親ポリペプチドのFc領域と比較して少なくとも1個のアミノ酸置換を有し、例えば、天然配列Fc鎖又は親ポリペプチドのFc鎖において、約1~約10個のアミノ酸置換を有し、好ましくは約1~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書におけるバリアントFc鎖は、好ましくは、天然配列Fc鎖及び/又は親ポリペプチドのFc鎖と少なくとも約80%の配列同一性を有し、最も好ましくは、これらと少なくとも約90%の配列同一性を有し、より好ましくは、これらと少なくとも約95%の、少なくとも約96%の、少なくとも約97%の、少なくとも約98%の、少なくとも約99%の配列同一性を有する。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「エフェクター機能」は、抗体のFc鎖(天然配列Fc鎖又はアミノ酸配列バリアントFc鎖)に起因する生物学的活性を指し、抗体のアイソタイプにより異なる。抗体エフェクター機能の例として、下記が挙げられる:C1q結合及び補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方制御;並びにB細胞活性化。そのようなエフェクター機能は、一般に、Fc鎖が結合ドメイン(例えば抗体可変領域)と結合することを必要としており、そのような抗体エフェクター機能を評価するための当分野で公知の様々なアッセイを使用して評価し得る。エフェクター機能の例示的な測定は、Fcγ3及び/又はC1q結合による。
【0043】
抗体のエフェクター機能はFc鎖の配列により決定され、この鎖はまた、ある特定のタイプの細胞上で見出されるFc受容体(FcR)により認識される部分でもある。
いくつかの態様では、Fcポリペプチドは、野生型ヒンジ配列の一部又は全てを(一般にはそのN末端で)含む。いくつかの態様では、Fcポリペプチドは、機能性又は野生型ヒンジ配列を含まない。
【0044】
「ヒンジ領域」、「ヒンジ配列」、及びこれらのバリエーションは、本明細書で使用される場合、例えば、Janeway他,ImmunoBiology:the immune system in health and disease,Elsevier Science Ltd.,NY(第4版,1999);Bloom他,Protein Science,6:407~415,1997;及びHumphreys他,J.Immunol.Methods,209:193~202,1997で説明されている当分野で公知の意味を含む。
【0045】
「免疫グロブリン様ヒンジ領域」、「免疫グロブリン様ヒンジ配列」、又はこれらのバリエーションは、本明細書で使用される場合、免疫グロブリン様又は抗体様分子(例えば免疫付着因子)のヒンジ領域及びヒンジ配列を指す。いくつかの態様では、免疫グロブリン様ヒンジ領域は、任意のIgG1、IgG2、IgG3、若しくはIgG4サブタイプに由来し得るか、又はIgA、IgE、IgD、若しくはIgMに由来し得、これらのキメラ形態を含み、例えばキメラIgGa/2ヒンジ領域を含む。
【0046】
いくつかの態様では、ヒンジ領域は、EUインデックスのナンバリングシステムに従ってアミノ酸216からアミノ酸230まで延びるヒトIgG1サブタイプに由来し得るか、又はKabatのナンバリングシステムに従ってアミノ酸226からアミノ酸243まで延びるヒトIgG1サブタイプに由来し得る。いくつかの態様では、この配列はEPKSCDKTHTCPPCP(配列番号63)であり得る。当業者は、IgG分子の様々なドメインに対応する正確なアミノ酸の理解に差があり得る。そのため、上記で概説したドメインのN末端又はC末端は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、さらには10個のアミノ酸だけ延びていてもよいし短くてもよい。
【0047】
いくつかの態様では、ヒンジ領域は、1つ又は複数のアミノ酸が変異していてもよい。いくつかの態様では、ヒンジ領域は、トランケートされて完全ヒンジ領域の一部のみを含んでもよい。いくつかの態様では、ヒンジ領域は、ヒンジ領域の最後の5個のアミノ酸のみを含み得、本明細書では「下のヒンジ」領域と称される。いくつかの態様では、この下のヒンジ領域は、アミノ酸CPPCP(配列番号64)で構成され得るか、又はEUインデックスのナンバリングシステムに従うアミノ酸226~アミノ酸230で構成され得るか、又はKabatのナンバリングシステムに従うアミノ酸239~アミノ酸243で構成され得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「改変」は、ポリペプチド配列中でのアミノ酸の置換、挿入、及び/若しくは欠失、タンパク質に化学的に連結される部位に対する変更、又はタンパク質(例えば抗体)の機能の改変を指す。例えば、改変は、抗体の機能の変更であってもよいし、タンパク質に付着する炭水化物構造の変更であってもよい。本明細書で使用される場合、「アミノ酸改変」は、抗体中の1つ又は複数のアミノ酸残基の変異(置換)、挿入(付加)、又は欠失を指す。用語「アミノ酸変異」は、少なくとも1つの既存のアミノ酸残基の、別の異なるアミノ酸残基(例えば、置き換わるアミノ酸残基)による置換を示す。用語「アミノ酸欠失」は、アミノ酸配列中の所定の位置での少なくとも1つのアミノ酸残基の除去を指す。例えば、変異L234Aは、抗体Fc領域中における234位でのアミノ酸残基リジンがアミノ酸残基アラニンで置換されていること(アラニンによるリジンの置換)を示す(EUインデックスナンバリングシステムに従うナンバリング)。「天然に存在するアミノ酸残基」は、下記からなる群からのアミノ酸残基を指す:アラニン(3文字コード:Ala、1文字コード:A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gin、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(He、I)、ロイシン(Leu、L)、リジン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)、及びバリン(Val、V)。
【0049】
用語「薬剤」は、本明細書では、生体高分子、生体材料から作られた抽出物、生体高分子の混合物、化合物、化合物の混合物、並びに/又は化合物及び生体高分子の混合物を示すために使用される。用語「治療薬」は、生物学的活性を有する薬剤を指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、即ち、この集団を構成する個々の抗体は、微量で存在し得る、起こり得る天然に存在する変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に向けられる。さらには、典型的には様々な決定基(エピトープ)に向けられる様々な抗体が挙げられるポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に向けられる。修飾語句「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集団から得られる抗体の性質を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈してはならない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体を、Kohler及びMilstein,Nature 256:495,1975で最初に説明されたハイブリドーマ法により作製し得るか、又は例えば米国特許第4,816,567号明細書で説明されている組換えDNA法により作製し得る。モノクローナル抗体を、例えばMcCafferty他,Nature 348:552~554,1990で説明されている技術を使用して生成されるファージライブラリーからも単離し得る。
【0051】
本発明の抗体は、「ヒト化抗体」であり得る。本明細書で使用される場合、「ヒト化」抗体は、非ヒト(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、又は他の哺乳類)抗体の形態であって、非ヒトである供給源から導入された1つ又は複数のアミノ酸残基を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又はこれらのフラグメント(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、若しくは抗体の他の抗原結合配列)である非ヒト抗体の形態を指す。この非ヒトアミノ酸残基は「インポート」残基と称されることが多く、このインポート残基は、典型的には「インポート」可変ドメインから取られる。インポート残基、配列、又は抗体は、所望の親和性及び/若しくは特異性を有するか、又は本明細書で考察されている他の所望の抗体の生物学的活性を有する。
【0052】
好ましくは、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であって、このレシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体;例えば、マウス、ラット、又はウサギ)のCDR由来の残基に置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合では、このヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基に置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体でもインポートされたCDR又はフレームワーク配列でも見出されないが抗体の性能をさらに精密にさせて最適化するために含まれる残基を含み得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの(典型的には2つの)可変領域の実質的に全てを含み、この可変領域でのCDR領域の全て又は実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全て又は実質的に全ては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものに対応する。最適には、ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域又はドメイン(Fc)の少なくとも一部も含み、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含む。好ましいものは、国際公開第99/58572号パンフレットで説明されているように改変されているFc鎖を有する抗体である。ヒト化抗体の他の形態は、元々の抗体に関して変更されている1つ又は複数のCDR(CDR L1、CD L2、CDR L3、CDR H1、CDR H2、又はCDR H3)を有し、このCDRはまた、元々の抗体由来の1つ又は複数のCDRに「由来する」1つ又は複数のCDRとも称される。ヒト化は、本明細書で使用される場合、脱免疫化抗体を含むように意図されている。
【0053】
本明細書で使用される場合、「ヒト抗体」は、ヒトにより産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体、及び/又は当業者公知の若しくは本明細書で開示されているヒト抗体を製造するための技術の内のいずれかを使用して作製されている抗体を意味する。従って、用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する抗体を含むように意図されている。本発明のヒト抗体は、例えばCDR(特にCDR3)において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的変異誘発により導入されるか又はインビボでの体細胞変異により導入される変異)を含み得る。ヒト抗体のこの定義には、少なくとも1つのヒト重鎖ポリペプチド又は少なくとも1つのヒト軽鎖ポリペプチドを含む抗体が含まれる。そのような一例は、マウス軽鎖ポリペプチド及びヒト重鎖ポリペプチドを含む抗体である。ヒト抗体を、当分野で公知の様々な技術を使用して製造し得る。一態様では、ヒト抗体はファージライブラリーから選択され、このファージライブラリーはヒト抗体を発現する(Vaughan他,Nature Biotechnology,14:309~314,1996;Sheets他,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)95:6157~6162,1998;Hoogenboom及びWinter,J.Mol.Biol.,227:381,1991;Marks他,J.Mol.Biol.,222:581,1991)。ヒト抗体を、ヒト免疫グロブリン遺伝子座が内因性遺伝子座の代わりに遺伝子導入されている動物(例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的に又は完全に不活性化されているマウス)の免疫化によっても製造し得る。このアプローチは、米国特許第5,545,807号明細書;同第5,545,806号明細書;同第5,569,825号明細書;同第5,625,126号明細書;同第5,633,425号明細書;及び同第5,661,016号明細書で説明されている。或いは、ヒト抗体を、標的抗原に対して抗体を産生するヒトB細胞リンパ球を不死化することにより調製し得る(そのようなBリンパ球は、個体から回収されてもよいし、cDNAの単一細胞クローニングから回収されてもよいし、インビトロで免疫化されていてもよい)。例えば、Cole他,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,77頁,1985;Boerner他,J.Immunol.,147(1):86~95,1991;及び米国特許第5,750,373号明細書を参照されたい。
【0054】
本発明のヒト抗体は、ヒンジ不均一性と関連する少なくとも2種の形態で存在し得る。例えば、免疫グロブリン分子は、およそ150~160kDaの安定した4つの鎖構築物を含み、この構築物では、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合により一緒に保持される。或いは、この二量体は、鎖間ジスルフィド結合により連結されておらず、共有結合的に連結された軽鎖及び重鎖で構成されている約75~80kDaの分子が形成されている(半抗体)。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「組換えヒト抗体」は、組換え手段により調製されたか、発現されたか、作製されたか、又は単離された全てのヒト抗体を含むように意図されており、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体(下記でさらに説明する)、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(下記でさらに説明する)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylor他(1992)Nucl.Acids Res.20:6287~6295を参照されたい)、又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段により調製されたか、発現された、作製されたか、若しくは単離された抗体を含むように意図されている。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する。しかしながら、ある特定の態様では、そのような組換えヒト抗体は、インビトロでの変異誘発(又は、ヒトIg配列に関してトランスジェニックな動物を使用する場合には、インビボでの体細胞変異誘発)を受け、そのため、この組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列のVH及びVL配列に由来し、関連するがインビボでのヒト抗体生殖系列レパートリーには天然には存在し得ない配列である。
【0056】
本発明の抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来するか又は特定の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるか又は相同であるが、これらの鎖の残余が、別の種に由来するか又は別の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるか又は相同である「キメラ」抗体、並びにそのような抗体のフラグメント(但し、このフラグメントは所望の生物学的活性を示す)であり得る(米国特許第4,816,567号明細書;及びMorrison他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851~6855,1984)。本明細書での目的のキメラ抗体として、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿等)に由来する可変領域抗原結合配列とヒト定常領域配列とを含む霊長類化抗体が挙げられる。
【0057】
「一価抗体」は、1つの分子当たり1つの抗原結合部位を含む(例えばIgG又はFab)。ある場合では、一価抗体は、複数の抗原結合部位を有し得るが、これらの結合部位は異なる抗原由来である。
【0058】
「単一特異性抗体」は、1つの分子当たり2つの同一の抗原結合部位を含む抗体又は抗体調製物(例えばIgG)であって、これら2つの結合部位が抗原上の同一のエピトープに結合する抗体又は抗体調製物を指す。そのため、これらの結合部位は、1つの抗原分子への結合で互いに競合する。この用語には、「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」が含まれる。天然で見出されるほとんどの抗体は、単一特異性である。ある場合では、単一特異性抗体はまた、一価抗体でもあり得る(例えばFab)。
【0059】
用語「変異荷重(mutation load)」、「変異荷重(mutational load)」、「変異負荷(mutation burden)」、又は「変異負荷(mutational burden)」は、本明細書では互換的に使用される。腫瘍変異荷重は、腫瘍ゲノム内での変異の数の尺度であり、腫瘍ゲノムの1つのコード領域当たりの変異の総数として定義される。腫瘍型内での変異負荷には大きなばらつきがあり、ほんの数個から数千個の変異の範囲である(Alexandrov LB他,Nature 2013;500(7463):415~421;Lawrence MS他,Nature 2013;499:214~218;Vogelstein B他,Science,2013;339:1546~1558。
【0060】
「元々のアミノ酸残基」とは、元々の残基と比べて小さい又は大きい側鎖体積を有し得る「インポートアミノ酸」残基に置き換えられるものである。インポートアミノ酸残基は、天然に存在するか又は天然には存在しないアミノ酸残基であり得るが、好ましくは前者である。「天然に存在する」アミノ酸残基とは、遺伝子コードによりコードされる残基のことである。「天然には存在しない」アミノ酸残基は、遺伝子コードによりコードされないがポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基に共有結合し得る残基を意味する。天然には存在しないアミノ酸残基の例は、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン、及び例えばEllman他,Meth.Enzym.202:301~336(1991)で説明されているもの等の他のアミノ酸残基類似体である。いくつかの態様では、本発明の方法は、少なくとも1つの元々のアミノ酸残基を置き換える工程を含むが、複数の元々の残基を置き換え得る。通常、第1又は第2のポリペプチドの界面中の全残基以下が、置き換えられる元々のアミノ酸残基を含み得る。
【0061】
用語「競合する」は、抗体に関して本明細書で使用される場合、第1の抗体又はその抗原結合フラグメント(若しくは一部)が、第2の抗体又はその抗原結合部分の結合と十分に類似する方法でエピトープに結合し、そのため、第2の抗体の非存在下での第1の抗体の結合と比較して、第2の抗体の存在下では、第1の抗体とその同種エピトープとの結合の結果が検出できるほどに減少することを意味する。第2の抗体のそのエピトープへの結合も第1の抗体の存在下で検出できるほどに減少するという選択肢も可能であるが、必ずしもそうではない。即ち、第1の抗体は、第2の抗体が第1の抗体のそれぞれのエピトープへの結合を阻害することなく、第2の抗体のそのエピトープへの結合を阻害し得る。しかしながら、各抗体が他の抗体とその同種のエピトープ又はリガンドとの結合を、同程度まで、より大きい程度まで、又はより低い程度まで検出できるほどに阻害する場合、抗体は、それぞれのエピトープの結合に関して互いに「交差競合する」と言われる。競合及び交差競合抗体の両方が、本発明に包含される。そのような競合又は交差競合が起こるメカニズム(例えば、立体障害、高次構造変化、又は共通エピトープ若しくはその一部への結合)にもかかわらず、当業者は、本明細書で提供される教示に基づいて、そのような競合及び/又は交差競合抗体が包含され、本明細書で開示されている方法に有用であり得ることを認識するであろう。
【0062】
本明細書で使用される場合、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」又は「ADCC」は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が標的細胞上の結合した抗体を認識し、その後標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介性反応を指す。目的の分子のADCC活性を、インビトロでのADCCアッセイ(例えば、米国特許第5,500,362号明細書又は同第5,821,337号明細書で説明されているもの)を使用して評価し得る。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞として、末梢血単核細胞(PBMC)又はNK細胞が挙げられる。或いは、又は加えて、目的の分子のADCC活性を、例えば、Clynes他,PNAS(USA),95:652~656,1998で説明されているもの等の動物モデルにおいて、インビボで評価してもよい。
【0063】
本明細書で使用される場合、「補体依存性細胞傷害」又は「CDC」は、補体の存在下での標的の溶解を指す。補体活性化経路は、補体系の第1の構成要素(C1q)の、同種抗原と複合体を形成した分子(例えば抗体)への結合により開始される。補体活性化を評価するために、例えばGazzano-Santoro他,J.Immunol.Methods,202:163,1996で説明されているCDCアッセイを実施し得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、用語「免疫特異的に結合する」、「免疫特異的に認識する」、「特異的に結合する」、「特異的に認識する」、及び類似の用語は、抗原(例えばエピトープ又は免疫複合体)に特異的に結合するが別の分子には特異的に結合しない分子(例えば結合ドメイン)を指す。抗原に特異的に結合する分子は、当分野で公知のアッセイ(例えば、イムノアッセイ、BIACORE(商標)、又は他のアッセイ)により決定した場合により低い親和性で、他のペプチド又はポリペプチドに結合してもよい。好ましくは、抗原に特異的に結合する分子は、他のタンパク質と交差反応しない。
【0065】
適切な「中程度にストリンジェントな条件」は、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の溶液による予備洗浄;50℃~65℃、5×SSC、一晩でのハイブリダイズ;続いて、0.1% SDSを含む2×、0.5×、及び0.2X SSCのそれぞれによる20分にわたる65℃での2回の洗浄を含む。
【0066】
本明細書で使用される場合、「高度にストリンジェントな条件」又は「高ストリンジェンシー条件」とは、下記のことである:(1)洗浄のために、低イオン強度及び高温を用いるもの(例えば、50℃での、0.015M 塩化ナトリウム/0.0015M クエン酸ナトリウム/0.1% ドデシル硫酸ナトリウム);(2)ハイブリダイゼーション中に、ホルムアミド等の変性剤を用いるもの(例えば、42℃での50%(体積/体積)ホルムアミド及び0.1% ウシ血清アルブミン/0.1% Ficoll/0.1% ポリビニルピロリドン/750mM 塩化ナトリウムを含む50mM リン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、75mMクエン酸ナトリウム);又は(3)42℃で、50% ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl,0.075M クエン酸ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1% ピロリン酸ナトリウム、5×Denhardtの溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(50μg/ml)、0.1% SDS、及び10% 硫酸デキストランを用い、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)により42℃で洗浄し、次いで55℃で50% ホルムアミドにより洗浄し、続いて、55℃で、EDTAを含む0.1×SSCからなる高ストリンジェンシー洗浄するもの。当業者は、プローブ長及び同類のもの等の因子に対応するために、必要に応じて温度、イオン強度等を調整する方法を認識するであろう。
【0067】
結合タンパク質、結合ドメイン、CDR、又は抗体(本明細書で広義に定義されているもの)を、Kabat、Chothiaの定義、Kabat及びChothiaの両方の蓄積、AbM、接触、North、及び/又は当分野で周知の高次構造定義若しくはCDR決定の任意の方法に従って同定し得る。例えば、Kabat他,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版(超可変領域);Chothia他,Nature 342:877~883,1989(構造的ループ構造)を参照されたい。CDRを構成する特定の抗体中のアミノ酸残基の同一性を、当分野で周知の方法を使用して決定し得る。CDRのAbM定義は、Kabat及びChothiaの妥協案であり、Oxford Molecular’s AbM抗体モデリングソフトウェア(Accelrys(登録商標))を使用する。CDRの「接触」定義は、MacCallum他,J.Mol.Biol.,262:732~745,1996で記載されている抗原接触の観察に基づく。CDRの「高次構造」定義は、抗原結合にエンタルピー的に寄与する残基に基づく(例えば、Makabe他,J.Biol.Chem.,283:1156~1166,2008を参照されたい)。Northは、CDR定義の異なる好ましいセットを使用して、基準のCDR高次構造を同定している(North他,J.Mol.Biol.406:228~256,2011)。本明細書ではCDRの「高次構造定義」と称される別のアプローチでは、CDRの位置は、抗原結合にエンタルピー的に寄与する残基として同定され得る(Makabe他,J Biol.Chem.283:1156~1166,2008)。他のCDR境界の定義は、上記のアプローチの内の1つに厳密に従わない場合があるにもかかわらず、特定の残基若しくは残基の群又はさらにはCDR全体が抗原結合に有意な影響を及ぼさないという予測又は実験的知見を考慮して短縮されていてもよいし延長されていてもよいが、Kabat CDRの少なくとも一部と重複するであろう。本明細書で使用される場合、CDRは、アプローチの組み合わせ等の当分野で公知の任意のアプローチにより定義されたCDRを指し得る。本明細書で使用される方法は、これらのアプローチの内のいずれかに従って定義されたCDRを利用し得る。複数のCDRを含む任意の所与の態様の場合、CDR(又は抗体の他の残基)は、Kabat、Chothia、拡張(Kabat及びChothiaの組み合わせ)、North、拡張、AbM、接触、及び/又は高次構造定義の内のいずれかに従って定義され得る。
【0068】
可変ドメイン中の残基は、Kabatに従ってナンバリングされ、Kabatは、抗体の編集物の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域に使用されるナンバリングシステムである。Kabat他,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991を参照されたい。このナンバリングシステムを使用することにより、実際の直鎖アミノ酸配列は、可変領域のFR又はCDRへの短縮又はこれらへの挿入に対応するより少ない又は追加のアミノ酸を含み得る。例えば、重鎖可変領域は、H2の残基52の後に単一のアミノ酸挿入物(Kabatに従う残基52a)、並びに重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatに従う残基82a、82b、及び82c)を含み得る。残基のKabatナンバリングは、「標準的な」Kabatナンバリングがされた配列との抗体の配列の相同性の領域でのアラインメントにより、所与の抗体に関して決定され得る。Kabatナンバリングを割り当てるための様々なアルゴリズムが利用可能である。本明細書では、Abysis (www.abysis.org)のバージョン2.3.3.リリースで実装されたアルゴリズムを使用して、可変領域VL CDR1、VL CDR2、VL CDR3、VH CDR1、VH CDR2、及びVH CDR3へのKabatナンバリングの割り当てを行った。抗体での特定のアミノ酸残基の位置をまた、Kabatの従ってナンバリングし得る。
【0069】
本明細書で使用される場合、用語「ファージディスプレライブラリー」は、バクテリオファージの集団を指し、このバクテリオファージの各々は、表面タンパク質にインフレームで組換えにより融合した外来性cDNAを含む。ファージは、その表面上でcDNAによりコードされる外来性タンパク質を提示する。細菌宿主(典型的には大腸菌(E.coli))での複製の後、目的の外来性cDNAを含むファージを、このファージ表面上での外来性タンパク質の発現により選択する。
【0070】
用語「エピトープ」は、パラトープとして公知の抗体の抗原結合領域の内の1つ又は複数で抗体により認識され得る、抗体と接触し得る、及び/又は抗体と結合し得る分子の部分を指す。単一の抗原は複数のエピトープを有し得る。そのため、様々な抗体が、抗原上の様々な領域に結合し得、様々な生物学的効果を有し得る。エピトープは、アミノ酸又は糖側鎖等の分子の化学的に活性な表面グループからなることが多く、特異的な三次元構造特性及び特異的な電荷特性を有する。本明細書で使用される場合、エピトープは、高次構造であってもよいし線状であってもよい。高次構造的エピトープは、線状ポリペプチド鎖の様々なセグメント由来のアミノ酸を空間的に並置することにより生じる。線状エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基により生じたものである。ある特定の態様では、エピトープは、抗原上の糖類、ホスホリル基、又はスルホニル基の部分を含み得る。
【0071】
用語「抗原性エピトープ」は、本明細書で使用される場合、当分野で周知の任意の方法により(例えば従来のイムノアッセイにより)決定した場合に、抗体が特異的に結合し得るポリペプチドの一部として定義される。「非線状エピトープ」又は「高次構造的エピトープ」は、エピトープに特異的な抗体が結合する抗原性タンパク質内の不連続なポリペプチド(又はアミノ酸)を含む。抗原上の所望のエピトープが決定されると、例えば本明細書で説明されている技術を使用して、このエピトープに対する抗体を生成し得る。
【0072】
用語「特異的結合」又は「特異的に結合する」は、抗体とタンパク質又はペプチドとの相互作用に関して使用される場合、タンパク質上の特定の構造(即ち、抗原性決定因子又はエピトープ)の存在に依存する相互作用を指し、換言すると、抗体は、一般的のタンパク質ではなく特定のタンパク質構造を認識して結合している。例えば、抗体がエピトープ「A」に特異的である場合には、標識「A」及びこの抗体を含む反応における、エピトープA(又は遊離の標識されていないA)を含むタンパク質の存在により、この抗体に結合する標識Aの量が減少する。
【0073】
ある特定の態様では、「特異的に結合する」は、例えば、抗体が約0.1nM以下(より通常は約1μM未満)のKDでタンパク質に結合することを意味する。ある特定の態様では、「特異的に結合する」は、抗体が、時には少なくとも約0.1μM以下のKDで標的に結合し、他の時には少なくとも約0.01μM以下のKDで標的に結合し、他の時には少なくとも約1nM以下のKDで標的に結合することを意味する。様々な種での相同タンパク質間の配列同一性のために、特異的結合は、複数の種でのタンパク質(例えばヒトタンパク質又はマウスタンパク質)を認識する抗体を含み得る。同様に、様々なタンパク質のポリペプチド配列のある特定の領域内での相同性のために、特異的結合は、複数種のタンパク質を認識する抗体を含み得る。ある特定の態様では、第1の標的に特異的に結合する抗体又は結合部分は、第2の標的に特異的に結合してもよいし特異的に結合しなくてもよいことが理解される。従って、「特異的結合」は、排他的結合(即ち、単一標的への結合)を(含み得るが)必ずしも必要としない。そのため、抗体は、いくつかの態様では、複数種の標的に特異的に結合し得る。ある特定の態様では、複数の標的は、抗体上の同一の抗原結合部位に結合し得る。例えば、抗体は、ある特定の場合には、2つの同一の抗原結合部位を含み得、これらの各々は、2種以上のタンパク質上の同一のエピトープに特異的に結合する。ある特定の代替的な態様では、抗体は多重特異性であり得、特異性が異なる少なくとも2つの抗原結合部位を含み得る。非限定的な例として、二重特異性抗体は、1種のタンパク質(例えばヒトCD3)上のエピトープを認識する1つの抗原結合部位を含み得、第2のタンパク質上の異なるエピトープを認識する第2の異なる抗原結合部位をさらに含み得る。一般に、結合への言及は特異的結合を意味するが、必ずしもそうではない。
【0074】
抗原に特異的に結合する抗体は、当分野で公知のアッセイ(例えば、イムノアッセイ、BIACORE(登録商標)、又は他のアッセイ)により決定した場合に、より低い親和性で他のペプチド又はポリペプチドに結合し得る。好ましくは、抗原に特異的に結合する抗体は、他のタンパク質と交差反応しない。
【0075】
用語「非特異的結合」又は「バックグラウンド結合」は、抗体とタンパク質又はペプチドとの相互作用に関して使用される場合、特定の構造の存在に依存しない相互作用を指す(即ち、抗体は、エピトープ等の特定の構造ではなく一般のタンパク質に結合している)。
【0076】
用語「Kon」又は「Ka」は、本明細書で使用される場合、抗原への抗体の会合に関する速度定数を指す。具体的には、速度定数(kon/ka及びkoff/kd)並びに平衡解離定数は、全抗体(即ち二価)及び単量体CD3タンパク質を使用して測定される。
【0077】
用語「koff」又は「kd」は、本明細書で使用される場合、抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関する速度定数を指す。
用語「KD」は、本明細書で使用される場合、抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指す。
【0078】
本明細書で使用される場合、用語「結合親和性」は、一般に、分子(例えば抗体)の単一の結合部位と、その結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的な相互作用の合計の強さを指す。別途示さない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合ペアのメンバー(例えば抗体及び抗原)間の1:1の相互作用を反映する内在性結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(KD)で表され得る。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(KD)で表され得る。例えば、Kdは、約200nM、150nM、100nM、60nM、50nM、40nM、30nM、20nM、10nM、8nM、6nM、4nM、2nM、1nM、又はより高い値であり得る。親和性を、本明細書で説明されているもの等の当分野で公知の一般的な方法により測定し得る。低親和性抗体は、一般に、抗原とゆっくりと結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は、一般に、より速く抗原に結合し、より長く結合し続ける傾向がある。結合親和性を測定するための様々な方法が当分野で知られており、これらの内のいずれかを、本発明の目的のために使用し得る。特に、用語「結合親和性」は、特定の抗原-抗体相互作用の解離速度を指すことが意図されている。KDは、「オフ速度(koff)」とも呼ばれる解離速度と、会合速度(即ち「オン速度(kon)」)との比率である。そのため、KDはkoff/konと等しく、モル濃度(M)で表される。従って、KDが小さいほど結合の親和性がより強いということになる。従って、1μMのKDは、1nMのKDと比較して弱い結合親和性を示す。抗体のKD値を、当分野で十分に確立されている方法を使用して決定し得る。抗体のKDを決定するための1つの方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することにより、典型的には、BIACORE(商標)システム等のバイオセンサシステムを使用することによる。BIACORE(商標)キネティック分析は、表面上に分子(例えば、エピトープ結合ドメインを含む分子)が固定されているチップからの抗原の結合及び解離を分析することを含む。抗体のKDを決定するための別の方法は、バイオレイヤー干渉法を使用することにより、典型的にはOCTET(登録商標)技術(Octet QKeシステム、ForteBio)を使用することによる。
【0079】
本発明の抗体(例えば、抗体、フラグメント、又はこれらの誘導体)に関する「生物学的活性な」、「生物学的活性」、及び「生物学的特性」は、別途指定される場合を除き、生物学的分子に結合する能力を有することを意味する。
【0080】
本明細書で使用される場合、用語「核酸」及び「ヌクレオチド配列」は、DNA分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、DNA及びRNA分子の組み合わせ又はハイブリッドDNA/RNA分子、並びにDNA又はRNA分子の類似体を含む。そのような類似体を、例えばヌクレオチド類似体(イノシン又はトリチル化塩基が挙げられるが、これらに限定されない)を使用して生成し得る。そのような類似体はまた、この分子に有益な特性(例えば、ヌクレアーゼ耐性、又は細胞膜を横断する能力の増加)を付与する改変骨格を含むDNA又はRNA分子も含み得る。核酸配列又はヌクレオチド配列は、一本鎖であり得、二本鎖であり得、一本鎖及び二本鎖部分の両方を含んでもよく、三本鎖部分を含んでもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0081】
本発明はまた、本発明の抗体(例えば、この抗体のポリペプチド及び結合領域)をコードするポリヌクレオチドも含む。当分野で公知の任意の方法により、本発明の分子をコードするポリヌクレオチドを得ることができ、このポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定することができる。
【0082】
本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドは、下記を含んでもよい:バリアントのコード配列のみ、バリアントのコード配列及び追加のコード配列(例えば、機能性ポリペプチド、又はシグナル、又は分泌配列、又は前駆タンパク質配列);抗体のコード配列及び非コード配列(例えば、この抗体のコード配列のイントロン又は非コード配列5’及び/若しくは3’)。用語「抗体をコードするポリヌクレオチド」は、バリアントの追加のコード配列を含むポリヌクレオチドを包含するが、追加のコード及び/又は非コード配列を含むポリヌクレオチドも包含する。当分野では、特定の宿主細胞/発現系に最適化されているポリヌクレオチド配列を、所望のタンパク質のアミノ酸配列から容易に得ることができることが知られている(GENEART(登録商標)AG,Regensburg,Germanyを参照されたい)。
【0083】
本発明の抗体は、ポリペプチドの機能に実質的な影響を及ぼさない追加の保存的な又は非必須のアミノ酸置換を有し得る。特定の置換が許容されるかどうかを、即ち、結合活性等の所望の生物学的特性に悪影響を及ぼさないかどうかを、Bowie,JU他,Science 247:1306~1310,1990又はPadlan他,FASEB J.9:133~139,1995で説明されているように決定し得る。
【0084】
本明細書で使用される場合、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えられているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当分野で定義されている。このファミリーは、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン、グルアミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0085】
本明細書で使用される場合、「非必須」アミノ酸残基とは、生物学的活性を消失させることなく又は実質的に変更することなく、結合剤(例えば抗体)の野生型配列から変更され得る残基のことであるが、「必須」アミノ酸残基は、そのような変化をもたらす。抗体において、必須アミノ酸残基は、特異性決定残基(SDR)であり得る。
【0086】
本明細書で使用される場合、用語「単離された」は、元々の環境(例えば、天然に存在する場合には天然環境)から取り出されている物質を指す。例えば、生きている動物中に存在する天然に存在するポリヌクレオチド又はポリペプチドは単離されていないが、天然系で共存する物質の一部又は全てから分離されている同一のポリヌクレオチド又はポリペプチドは単離されている。そのようなポリヌクレオチドはベクターの一部であり得、及び/又はそのようなポリヌクレオチド若しくはポリペプチドは、このポリヌクレオチド若しくはポリペプチドを含む単離細胞若しくは培養細胞を含む組成物(例えば混合物、溶液、若しくは懸濁液)の一部であり得、このベクター又は組成物はその天然環境の一部ではないという点で、依然として単離されている。例えば、化学的に合成されたか又は天然に由来する細胞とは異なる細胞系で合成されたポリペプチドは、その天然に関連する成分から「単離」されている。同様に、タンパク質も、当分野で周知のタンパク質精製技術を使用する単離により、天然に関連する成分を実質的に含まない状態にし得る。
【0087】
「単離された」又は「精製された」抗体は、細胞物質、又は他の夾雑タンパク質であって、このタンパク質が由来する細胞若しくは組織の供給源又は培地に由来する夾雑タンパク質を実質的に含まないか、又は化学的に合成される場合には化学的前駆体若しくは他の化学物質を実質的に含まない。述語「細胞物質を実質的に含まない」は、ポリペプチド/タンパク質が、これらが単離されるか又は組換えにより産生される細胞の細胞成分から分離されている抗体の調製物を含む。そのため、細胞物質を実質的に含まない抗体は、(乾燥重量で)約50%、40%、30%、20%、10%、5%、2.5%、又は1%未満の夾雑タンパク質を有する抗体の調製物を含む。抗体が組換えにより産生される場合には、抗体はまた、好ましくは培養培地を実質的に含まず、即ち、培養培地は、タンパク質調製物の体積の約50%、40%、30%、20%、10%、5%、2.5%、又は1%未満を表す。抗体が化学的合成により製造される場合には、抗体は、好ましくは化学的前駆体又は他の化学物質及び試薬を実質的に含まず、即ち、目的の抗体は、タンパク質の合成に関与する化学的前駆体又は他の化学物質から分離されている。従って、そのような抗体の調製物は、(乾燥重量で)約50%、40%、30%、20%、10%、5%、又は1%未満の、目的の抗体以外の化学的前駆体又は化合物を有する。本発明の好ましい態様では、抗体は、単離されているか又は精製されている。抗体であって、生物の少なくとも1種の成分から又はこの抗体が天然に存在するか若しくは天然に産生される組織若しくは細胞から分離されているか若しくは取り出されている抗体は、本発明の目的のための「単離抗体」である。
【0088】
用語「回収する」は、本明細書で使用される場合、ポリペプチド等の化学種を、例えば当分野で周知のタンパク質精製技術を使用する単離により、天然に関連する成分を実質的に含まない状態にするプロセスを指す。
【0089】
本明細書で使用される場合、用語「レプリコン」は、細胞内でポリヌクレオチド複製の自律的単位として機能する任意の遺伝学的エレメント(例えば、プラスミド、染色体、又はウイルス)を指す。
【0090】
本明細書で使用される場合、用語「作動可能に連結されている」は、説明されている成分が、その意図された様式で機能することを可能にする関係にある状況を指す。例えば、コード配列に「作動可能に連結されている」制御配列は、このコード配列の発現がこの制御配列に適切か又は適合した条件下で達成されるような様式で連結されている。一般に、「作動可能に連結されている」は、連結されているDNA配列が連続していることを意味しており、分泌リーダーの場合には、連続しており、読み取り段階にある。しかしながら、エンハンサーは、必ずしも連続してはいない。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを、従来の慣例に従って使用する。
【0091】
本明細書で使用される場合、「ベクター」は、宿主細胞中で目的の1種又は複数種の遺伝子又は配列を送達し得、好ましくは発現し得る構築物を意味する。ベクターの例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:ウイルスベクター、裸のDNA又はRNA発現ベクター、プラスミド、コスミド又はファージベクター、カチオン性縮合剤と関連するDNA又はRNA発現ベクター、リポソームに封入されているDNA又はRNA発現ベクター、及び産生細胞等のある特定の真核細胞。
【0092】
本明細書で使用される場合、用語「発現制御配列」又は「制御配列」は、連結されているコード配列の発現を達成するのに必要なポリヌクレオチド配列を指す。そのような制御配列の性質は、宿主生物に依存して異なる。例えば、原核生物では、そのような制御配列として、一般に、プロモーター、リボソーム結合部位、及びターミネーターが挙げられ、場合によってはエンハンサーが挙げられる。そのため、用語「制御配列」は、存在が発現に必要である最小限の全ての構成要素を含むことが意図されており、存在が有利である追加の成分(例えばリーダー配列)も含んでもよい。
【0093】
「宿主細胞」は、ポリヌクレオチド挿入物の組込みのためにベクターのレシピエントであり得るか又はレシピエントである個々の細胞又は細胞培養物を含む。宿主細胞は、単一の宿主細胞の子孫を含み、この子孫は、天然の、偶発的変異、又は意図的変異に起因して、元々の親細胞と(形態的に又はゲノムDNA相補で)必ずしも完全に同一ではない場合がある。宿主細胞は、本発明のポリヌクレオチドによりインビボでトランスフェクトされた細胞を含む。
【0094】
本明細書で使用される場合、「哺乳類細胞」は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、チンパンジー、又はマカク等の哺乳類に由来する細胞への言及を含む。この細胞は、インビボで培養されてもよいしインビトロで培養されてもよい。
【0095】
本明細書で使用される場合、用語「精製された生成物」は、この生成物が通常関連する細胞成分から及び/又は目的のサンプル中に存在し得る他のタイプの細胞から単離されている生成物の調製物を指す。
【0096】
本明細書で使用される場合、「実質的に純粋」は、少なくとも50%純粋(即ち、夾雑物を含まない)であり、より好ましくは少なくとも90%純粋であり、より好ましくは少なくとも95%純粋であり、さらにより好ましくは少なくとも98%純粋であり、最も好ましくは少なくとも99%純粋である物質を指す。
【0097】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」、「処置すること」、又は「処置」とは、有益な又は所望の臨床結果を得るためのアプローチのことである。本発明の目的のために、処置は、対象(例えば患者)へのCD3抗体分子(例えば、モノクローナル抗体、二重特異性抗体)の投与として定義されるか、又は対象に戻される、この対象から単離された組織又は細胞への(例えば適用による)投与として定義される。CD3抗体分子を、単独で又は1種若しくは複数種の薬剤との組み合わせで投与し得る。処置は、障害、障害の症状、又は障害に向かう素因(例えば癌)を治療する(cure)、治癒させる、緩和する、変える、治療する(remedy)、寛解させる、軽減する、改善する、又は影響を及ぼすことであり得る。
【0098】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、特定の処置のレシピエントとなるべきあらゆる動物(例えば哺乳類;例えば、限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類、及び同類のも)を含むように意図されている。例えば、対象は、癌を有する患者(例えば、ヒト患者又は動物患者)であり得る。典型的には、用語「対象」、「個体」、及び「患者」は、ヒト対象に関連して本明細書では互換的に使用される。
【0099】
本発明の「非ヒト動物」は、特に断りのない限り、全ての非ヒト脊椎動物を含み、例えば非ヒト哺乳類及び非哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類、マウス、ラット、ウサギ、又はヤギ等を含む。
【0100】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される」は、ヒト等の動物での使用のために、連邦政府若しくは州政府の規制機関により承認されている(若しくは承認可能)か又は米国薬局方若しくは他の一般的に承認された薬局方に列挙されている製品又は化合物を指す。
【0101】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される賦形剤、担体、若しくはアジュバント」、又は「許容される医薬担体」は、本開示の少なくとも1種の抗体と一緒に対象に投与され得、この抗体の活性を破壊しない賦形剤、担体、又はアジュバントを指す。この賦形剤、担体、又はアジュバントは、治療効果を送達するのに十分な用量の抗体と共に投与される場合には、無毒であるべきである。
【0102】
本明細書で使用される場合、用語「寛解させる」は、本発明の抗体分子を投与しない場合と比較して、1種又は複数種の症状の軽減又は改善を意味する。「寛解させる」はまた、症状の持続期間の短縮又は減少も含む。
【0103】
本明細書で使用される場合、「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」、及び「予防」は、予防又は治療薬の投与の結果としての対象の障害の1種又は複数種の症状の再発又は発症の予防を指す。
【0104】
本明細書で使用される場合、「有効な量」、「治療上有効な量」、「治療上十分な量」、又は「有効な投与量」は、疾患、障害若しくは副作用の予防、治癒、寛解、処置、若しくは管理において、又は疾患若しくは障害の進行速度の低下において、又は本明細書で説明されているような障害を有する対象の状態のそのような処置がない場合に予想されるものを超える延長、治療、緩和、軽減、若しくは改善において、対象への単一の又は複数回の用量の投与時に有効な又は十分な治療薬(例えば、単独での又は多重特異性抗体(例えば二重特異性)の一部としてのCD3抗体)の量を指す。この用語はまた、正常な生理学的機能を向上させるのに有効な範囲の量も含む。有効な量は、1種又は複数種の治療薬の投与の文脈で考慮され得、1種又は複数種の他の薬剤との組み合わせで、望ましい結果であり得るか又は達成される場合には、単一の薬剤は有効な量で投与されると考えられ得る。
【0105】
本明細書で使用される場合、有効な薬剤は、エフェクターT細胞を標的として、疾患(例えば、癌、自己免疫疾患、又は感染性疾患)と関連する細胞のT細胞媒介性細胞傷害を誘発し得る。本発明の治療薬は、T細胞表面上のCD3抗原(特にCD3、さらに特にCD3イプシロン)を調節することにより、T細胞媒介免疫反応を導入する。
【0106】
癌に関して、治療上有効な量は、腫瘍又は癌の増殖及び/又は転移を遅延させることにより、中断することにより、静止させることにより、又は停止させることにより、腫瘍又は癌の増殖を阻害する治療薬の量を指す。
【0107】
力価とは、所与の強度の効果を生じるのに必要な量に関して表される治療薬の活性の尺度のことである。比較的高い力価の薬剤は、低濃度で比較的小さい反応を引き起こす比較的低い力価の薬剤と比較して、低濃度でより高い反応を引き起こす。力価は、親和性及び有効性の関数である。有効性は、標的リガンドへの結合時に生物学的反応を引き起こす治療薬の能力と、この反応の定量的な大きさとを指す。本明細書で使用される場合、用語「半数効果濃度(EC50)」は、指定の暴露時間後にベースラインと最大との間の中間で反応を引き起こす治療薬の濃度を指す。治療薬は、阻害又は刺激を引き起こし得る。EC50値は、力価の指標として一般に使用されており、本明細書で使用される。
【0108】
本明細書で使用される場合、「併用療法」又は「と組み合わせた」投与は、複数種の予防及び/又は治療剤の使用を指す。用語「併用療法」又は「組み合わせ」の使用は、予防及び/又は治療剤が障害を有する対象に投与される順序を制限しない。換言すると、併用療法は、治療剤で別々に、逐次に、又は同時に処置することにより行われ得る。「逐次投与の」場合、最初に投与される薬剤は、2番目の薬剤が投与されたか又は対象中で活性になる場合に、対象に何らかの生理学的効果を発揮し得る。
【0109】
用語「同時投与」は、予防及び/又は治療剤の投与と関連して本明細書で使用される場合、個々の薬剤が同時に対象内で存在するような薬剤の投与を指す。同時投与は、分子を単一組成物に配合することにより達成されてもよいし、別々の組成物を同時に又は同様の時間に投与することで達成されてもよい。逐次投与は、必要に応じて任意の順序であり得る。
【0110】
用語「分化抗原群3」又は「CD3」は、歴史的にT3複合体として知られている多量体タンパク質複合体を指し、3対の二量体(εγ、εδ、ζζ)を構築して機能する下記の4本の異なるポリペプチド鎖:イプシロン(ε)、ガンマ(γ)、デルタ(δ)、及びゼータ(ζ)で構成されている。CD3複合体は、T細胞受容体(TCR)と非共有結合的に会合して(Smith-Garvin他,2009)Tリンパ球中の活性化シグナルを生じるT細胞共受容体として機能する。CD3タンパク質複合体は、T細胞系統の決定的な特徴であり、従って、CD3抗体は、T細胞マーカーとして効果的に使用され得る(Chetty及びGatter 1994)。CD3抗体は、内因性リンホカイン産生の活性化を介して細胞傷害性T細胞の生成を誘発し、腫瘍標的を選択的に死滅し得ることがよく知られている(Yun他,Cancer Research,49:4770~4774(1989))。
【0111】
T細胞は、ヒト及び動物における細胞媒介性免疫での中心的役割を果たす。特定の抗原の認識及び結合は、T細胞の表面上で発現されるTCRにより媒介される。T細胞のTCRは、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合して標的細胞の表面上で提示される免疫原性ペプチド(エピトープ)と相互作用し得る。TCRの特異的結合は、増殖及び成熟したエフェクターT細胞への分化をもたらすT細胞内のシグナルカスケードを引き起こす。より具体的には、T細胞は、抗原特異的な免疫反応を誘発し得るTCR複合体を発現する(Smith-Garvin他,2009)。抗原は、免疫反応を刺激し得る、腫瘍細胞及びウイルス感染細胞により発現されるペプチドである。細胞内で発現された抗原は、主要組織適合性クラスI(MHCクラスI)分子に結合して表面に運ばれ、この表面でT細胞に曝露される。抗原との複合体におけるMHCクラスIに対するTCRの結合親和性が十分である場合には、免疫シナプスの形成が開始される。免疫シナプスを介するシグナル伝達は、イプシロン/デルタ二量体、デルタ/ガンマ二量体、及びゼータ/ゼータ二量体を形成するCD3共受容体を介して媒介される。これらの二量体はTCRと会合して、Tリンパ球中で活性化シグナルを生じさせる。このシグナル伝達カスケードは、抗原を発現する細胞のT細胞媒介性死滅を導く。細胞傷害は、T細胞から標的細胞へのグランザイムB及びパーフォリンの放出及び移動により媒介される。
【0112】
本明細書で使用される場合、「活性化T細胞抗原」は、抗原結合分子との相互作用時にT細胞活性化を誘発し得る、Tリンパ球(特に細胞傷害性Tリンパ球)の表面上で発現される抗原決定基を指す。具体的には、抗原結合分子と活性化T細胞抗原との相互作用は、T細胞受容体複合体のシグナル伝達カスケードを引き起こすことにより、T細胞活性化を誘発し得る。特定の態様では、活性化T細胞抗原はCD3であり、特に、CD3のイプシロンサブユニットである(ヒト配列に関してUniProt番号P07766(バージョン130)、NCBI RefSeq番号NP_000724.1、配列番号66を参照されたい。典型的には、天然に存在する対立遺伝子バリアントは、GenBank受託番号BAB71849.1に記載されるタンパク質と少なくとも95%、97%、又は99%同一のアミノ酸配列を有する。
【0113】
「T細胞活性化」は、本明細書で使用される場合、Tリンパ球(特に細胞傷害性Tリンパ球)の下記から選択される1種又は複数種の細胞反応を指す:増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害活性、及び活性化マーカーの発現。本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、T細胞活性化を誘発し得る。T細胞活性化を測定するのに適したアッセイは、本明細書に記載の分野で公知である。
【0114】
本明細書で使用される場合、「CD3に結合する抗体」、「CD3を認識する抗体」、「抗CD3抗体」、又は「CD3抗体」は、単一のCD3サブユニット(例えば、イプシロン、デルタ、ガンマ、又はゼータ)を特異的に認識する抗体及びその抗原結合フラグメント、並びに2つのCD3サブユニットの二量体複合体(例えば、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、及びゼータ/ゼータCD3二量体)を特異的に認識する抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。ヒトCD3イプシロンは、GenBank受託番号NM_000733で示されている。本発明の抗体は、可溶性CD3及び/又は細胞表面で発現されるCD3に結合し得る。可溶性CD3として、天然のCD3タンパク質、並びに膜貫通ドメインを欠いているか又は他の方法で細胞膜と会合していない組換えCD3タンパク質バリアント(例えば、単量体及び二量体CD3構築物)が挙げられる。
【0115】
CD3に対する抗体は、Tリンパ球中で活性化シグナルを生じ得る。他のT細胞活性化リガンド(例えば、限定されないが、CD28、CD134、CD137、及びCD27)も使用し得る。
【0116】
本発明は、CD3に結合するワンアーム抗体(one-arm antibody)を含む。本明細書で使用される場合、「ワンアーム抗体」は、単一の抗体重鎖及び単一の抗体軽鎖を含む抗原結合分子を意味する。本発明のワンアーム抗体は、本明細書の表1、表2、及び表3に記載されているVH/VL又はCDRアミノ酸配列の内のいずれかを含み得る。
【0117】
本明細書で開示されているCD3抗体は、この抗体が由来する対応する生殖系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/又はCDR領域における1つ又は複数のアミノ酸の置換、挿入、及び/又は欠失を含み得る。そのような変異を、本明細書で開示されているアミノ鎖配列と、例えば公的な抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列とを比較することにより、容易に確認し得る。本発明は、本明細書で開示されているアミノ酸配列の内のいずれかに由来する抗体及びその抗原結合フラグメントであって、1つ又は複数のフレームワーク及び/又はCDR領域内の1つ又は複数のアミノ酸が、この抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基、又は別のヒト生殖系列配列の対応する残基、又は対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異している(そのような配列変化は、本明細書ではまとめて「生殖系列変異」と称される)、抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。当業者は、本明細書で開示されている重鎖及び軽鎖可変領域配列で出発して、1つ若しくは複数の個々の生殖系列変異又はこれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合フラグメントを容易に製造し得る。ある特定の態様では、VH及び/又はVLドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基の全ては、抗体が由来する元々の生殖系列配列中に見出される残基へと変異により戻されている。いくつかの態様では、ある特定の残基のみが、元々の生殖系列配列に変異により戻されている(例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内で見出される変異残基のみ、又はFR4の最後の8個のアミノ酸内で見出される変異残基のみ、又はCDR1、CDR2、若しくはCDR3内で見出される変異残基のみ)。いくつかのさらなる態様では、フレームワーク及び/又はCDR残基の内の1つ又は複数は、異なる生殖系列配列(即ち、抗体が元々由来する生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基に変異している。
【0118】
さらに、本発明の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内で2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含み得、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異しており、元々の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は、維持されているか、又は異なる生殖系列配列の対応する残基に変異している。得られると、1つ又は複数の生殖系列変異を含む抗体を、1つ又は複数の所望の特性(例えば、結合特異性の改善、結合親和性の増加、アンタゴニストの又はアゴニスト生物学的特性の改善又は増強(場合による)、免疫原性の減少等)に関して容易に試験し得る。この一般的な方法で得られた抗体は、本発明に包含される。
【0119】
本発明はまた、1つ又は複数の保存的置換を有する、本明細書で開示されているVH、VL、及び/又はCDRのアミノ酸配列の内のいずれかのバリアントを含むCD3抗体も含む。例えば、本発明は、本明細書の表1に記載されているVH、VL、及び/又はCDRのアミノ酸配列の内のいずれかに対して例えば10個以下、8個以下、6個以下、4個以下等の保存的アミノ酸置換を有するVH、VL、及び/又はCDRアミノ酸配列を有するCD3抗体を含む。
【0120】
本明細書で使用される場合、用語「複合体」又は「複合体を形成している」は、ペプチド結合ではない結合及び/又は力(例えば、ファンデルワールス、疎水性、親水性力)を介して互いに相互作用する2つ以上の分子の会合を指す。一態様では、複合体はヘテロ多量体である。用語「タンパク質複合体」又は「ポリペプチド複合体」は、本明細書で使用される場合、タンパク質複合体中のタンパク質に共役した非タンパク質実体を有する複合体(例えば、限定されないが、毒素又は検出剤等の化学分子)を含むことを理解すべきである。
【0121】
本明細書で使用される場合、「CD3抗体」は、単一特異性を有する一価抗体、及び「二重特異性抗体(bispecific antibody)」、「二重特異性抗体(dual-specific antibody)」、「三重特異性抗体」、「二機能性抗体」、「ヘテロ多量体」、「ヘテロ多量体性複合体」、「二重特異性ヘテロ二量体性二特異性抗体」、「ヘテロ多量体性ポリペプチド」、又は二重特異性ヘテロ二量体性IgGを含む。本発明のいくつかの態様では、本発明のCD3抗体は、ヒト又はヒト化抗体である。
【0122】
本明細書で使用される場合、「二重特異性抗体」は、少なくとも第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含む分子であって、第2のポリペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸で第1のポリペプチドとアミノ酸配列が異なる、分子である。場合によっては、二重特異性抗体は、2つの異なる重鎖領域及び軽鎖領域を有する人工ハイブリッド抗体である。好ましくは、二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるリガンド、抗原、又は結合部位に対する結合特異性を有する。従って、二重特異性抗体は、2種の異なる抗原に同時に結合し得る。二重特異性抗体の2つの抗原結合部位は、2種の異なるエピトープに結合し、これらのエピトープは、同一の又は異なるタンパク質標的(例えば腫瘍標的)上に存在し得る。
【0123】
本明細書で使用される場合、「二重特異性抗体」の第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖は、少なくとも1つの抗体VL及び1つの抗体VH領域又はこれらのフラグメントを含み、両方の抗体結合ドメインは単一のポリペプチド鎖内で含まれ、各ポリペプチド鎖中のVL及びVH領域は異なる抗体に由来する。
【0124】
二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)に由来し得る。二特異性抗体は、例えば、欧州特許第404,097号明細書;国際公開第93/11161号パンフレット;及びHollinger他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444~6448,1993でより完全に説明されている。二重特異性抗体は、2つの抗体のVH及びVL領域が異なるポリペプチド鎖上に存在する2つの「クロスオーバー」sFvフラグメントのヘテロ二量体である。
【0125】
本明細書で使用される場合、用語「連結されている」、「融合している」、「融合」、「共有結合している」、「共有結合的に連結されている」、及び「遺伝学的に融合している」は、互換的に使用される。これらの用語は、化学的共役又は組換え手段等のあらゆる手段による2種以上の要素又は成分の接合を指す。本明細書で使用される場合、用語「共有結合している」は、特定の部分が、互いに直接的に共有結合しているか、又は連結ペプチド若しくは連結部分等の介在する部分を介して互いに間接的に供給結合的に接合されていることを意味する。好ましい態様では、部分は共有結合的に融合している。共有結合的連結の1種は、ペプチド結合である。(例えばヘテロ二官能性架橋剤を使用する)化学的共役の方法は、当分野で公知である。融合した部分はまた、遺伝学的に融合していてもよい。本明細書で使用される場合、用語「遺伝学的に融合している(genetically fused)」、「遺伝学的に連結されている」、又は「遺伝学的に融合している(genetic fused)」は、タンパク質、ポリペプチド、又はフラグメントをコードする単一のポリヌクレオチド分子の遺伝学的発現を介した個々のペプチド骨格による2つ以上のタンパク質、ポリペプチド、又はこれらのフラグメントの共線的な共有結合的連結又は付着を指す。そのような遺伝学的融合により、単一の連続した遺伝子配列の発現がもたらされる。好ましい遺伝学的融合はインフレームであり、即ち、2つ以上のオープンリーディングフレーム(ORF)が、元々のORFの正確なリーディングフレームを維持する方法で、連続するより長いORFを形成するように融合する。そのため、生じる組換え融合タンパク質は、元々のORFによりコードされるポリペプチドに対応する2つ以上のタンパク質セグメントを含む単一のポリペプチドである(このセグメントは、天然では通常、そのように接合されない)。この場合、この単一のポリペプチドは処理中に開裂され、2本のポリペプチド鎖を含む二量体分子が得られる。
【0126】
本明細書で使用される場合、用語「連結されている」又は「連結」は、第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列との間の直接的なペプチド結合連結を指すか、又は第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列との間でこれらにペプチド結合している第3のアミノ酸配列を含む連結を指す。例えば、一方のアミノ酸配列のC末端に結合しており、他方のアミノ酸配列のN末端に結合しているリンカーペプチド。
【0127】
本明細書で使用される場合、用語「リンカー」は、2個以上のアミノ酸の長さのアミノ酸配列を指す。リンカーは、中性又は非極性アミノ酸からなり得る。リンカーは、例えば2~100個のアミノ酸の長さであり得、例えば、2~50個のアミノ酸の長さであり得、例えば、3個、5個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、又は50個のアミノ酸の長さであり得る。リンカーは、例えば自己開裂又は酵素的若しくは化学的開裂により、「開裂可能」であり得る。アミノ鎖配列中の開裂部位、並びにそのような部位で開裂する酵素及び化学物質は、当分野で周知であり、本明細書でも説明されている。
【0128】
本明細書で使用される場合、用語「ジスルフィド結合」又は「システイン-システインジスルフィド結合」は、システインの硫黄原子が酸化されてジスルフィド結合を形成する2つシステインの間の共有結合的相互作用を指す。ジスルフィド結合の平均結合エネルギーは、水素結合の場合の1~2kcal/molと比較して約60kcal/molである。本発明の文脈において、ジスルフィド結合を形成するシステインは一本鎖抗体のフレームワーク領域内に存在し、この抗体の高次構造を安定化させるのに役立つ。システイン残基は、分子内で安定化ジスルフィド結合を作り得るように、例えば部位特異的変異誘発により導入され得る。
【0129】
「ノブインホール命名」は、「突起及び空洞」命名と類似しており、互換的に使用され得る。
「突起」又は「ノブ」は、少なくとも1つのアミノ酸側鎖であって、第1のポリペプチドの界面から突出しており、従って、ヘテロ二量体を安定化させ、それにより例えばホモ二量体形成よりもヘテロ二量体形成を有利にするによう、隣接する界面(即ち、第2のポリペプチドの界面)中の代償性空洞中に配置可能であるアミノ酸側鎖を指す。この突起は、元々の界面中に存在していてもよいし、(例えば、この界面をコードする核酸を変更することにより)合成により導入されてもよい。通常、第1のポリペプチドの界面をコードする核酸は、この突起をコードするように変更される。このことを達成するために、第1のポリペプチドの界面中の少なくとも1つの「元々の」アミノ酸残基をコードする核酸は、元々のアミノ酸残基と比べて大きな側鎖体積を有する少なくとも1つの「インポート」アミノ酸残基をコードする核酸に置き換えられる。置き換えられる元々の残基の数の上限は、第1のポリペプチドの界面中の残基の総数である。突起の形成のためのある特定のインポート残基は、一般に、天然に存在するアミノ酸残基であり、好ましくは、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W)から選択される。
【0130】
突起又はノブは空洞又は孔の中で「位置決め可能」であり、このことは、第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドそれぞれの界面上の突起及び空洞の空間的位置、並びに突起及び空洞のサイズが、この界面での第1及び第2のポリペプチドの正常な関連を顕著に乱すことなく突起が空洞中に位置し得るようなものであることを意味する。フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W)等の突起は、典型的には界面の軸から垂直には伸びていないことから、突起の対応する空洞とのアラインメントは、X線結晶学又は核磁気共鳴(NMR)により得られるもの等の3次元構造に基づいて突起/空洞対をモデル化することに依存している。このことを、当分野で広く許容されている技術を使用して達成し得る。
【0131】
「空洞」又は「孔」は、少なくとも1つのアミノ酸側鎖であって、第2のポリペプチドの界面から陥没しており、従って第1のポリペプチドの隣接する界面上の対応する突起を収容するアミノ酸側鎖を指す。この空洞は、元々の界面中に存在していてもよいし、(例えば、この界面をコードする核酸を変更することにより)合成により導入されてもよい。通常、第2のポリペプチドの界面をコードする核酸は、この空洞をコードするように変更される。このことを達成するために、第2のポリペプチドの界面中の少なくとも1つの「元々の」アミノ酸残基をコードする核酸は、元々のアミノ酸残基と比べて小さい側鎖体積を有する少なくとも1つの「インポート」アミノ酸残基をコードするDNAに置き換えられる。置き換えられる元々の残基の数の上限は、第2のポリペプチドの界面中の残基の総数である。空洞の形成のためのある特定のインポート残基は、通常、天然に存在するアミノ酸残基であり、好ましくは、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、及びバリン(V)から選択される。
【0132】
「標的抗原」、「標的細胞抗原」、「腫瘍抗原」、又は「腫瘍特異的抗原」は、本明細書で使用される場合、標的細胞の表面上で提示される抗原決定基を指し、例えば、癌細胞又は腫瘍間質の細胞などの腫瘍中の細胞を指す。
【0133】
本明細書で使用される場合、用語「癌」又は「がんに由来する」は、典型的には、細胞の異常な制御されていない増殖の結果として生じる制御されていない細胞の増殖、新生物、又は腫瘍を特徴とする哺乳類の生理学的状態を指すか、又は説明する。いくつかの側面では、癌は、局所に留まっている、転移を伴わない悪性原発腫瘍を指す。他の側面では、癌は、隣接する身体の構造に浸潤して破壊し、遠位の部位まで広がっている悪性腫瘍を指す。いくつかの側面では、癌は、特定の癌抗原と関連している。癌の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:口腔及び咽頭、消化器系(例えば、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肝臓、胆嚢、胆管、及び膵臓)、呼吸器系(例えば、喉頭、肺、及び気管支(非小細胞肺癌を含む))、骨及び関節(例えば骨転移)、軟部組織癌、皮膚(例、メラノーマ)、乳房、生殖器系(例えば、子宮頸部、子宮体、卵巣外陰部、膣、前立腺、及び精巣)、泌尿器系(例えば、膀胱、腎臓、腎盂、及び尿管)、眼及び眼窩、脳及び神経系(例えば神経膠腫)、頭頸部、又は内分泌系(例えば甲状腺)の癌。癌はまた、リンパ腫(例えば、ホジキン病及び非ホジキンリンパ腫)、多発性骨髄腫、又は白血病(例えば、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性髄性白血病、慢性骨髄性白血病、及び同類のもの)でもあり得る。ある特定の態様では、消化器系の癌は、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肝臓、胆嚢、胆管、及び膵臓の癌である。
【0134】
癌に関して、本処置は、下記の内のいずれか1つ又は複数で有用である:(a)対象の悪性細胞(例えば、結腸直腸癌(CRC)等の消化器関連癌)と関連する状態の1つ若しくは複数の症状の処置、予防、若しくは寛解;(b)腫瘍抗原を発現する悪性腫瘍を有する対象における腫瘍の増殖若しくは進行の阻害;(c)腫瘍抗原を発現する1つ若しくは複数の悪性細胞を有する対象における、腫瘍抗原を発現する癌(悪性)細胞の転移の阻害;(d)腫瘍抗原を発現する腫瘍の退縮(例えば、長期にわたる退縮)の誘発;(e)腫瘍抗原を発現する悪性細胞中での細胞傷害活性の発現;(f)腫瘍抗原関連障害を有する対象の無増悪生存率の増加;(g)腫瘍抗原関連障害を有する対象の全生存率の増加;(h)腫瘍抗原関連障害を有する対象における追加の化学療法若しくは細胞傷害性薬剤の使用の減少;(i)腫瘍抗原関連障害を有する対象における腫瘍量の減少;又は(j)腫瘍抗原と、他のまだ同定されていない因子との相互作用のブロック。理論に拘束されることを望まないが、処置により、インビトロ又はインビボでの細胞の阻害、切除、若しくは死滅が引き起こされるか、又は障害(例えば、癌等の本明細書で説明されている障害)を媒介する細胞(例えば異常細胞)の能力の別の方法による低下が引き起こされると考えられる。
【0135】
本明細書で使用される場合、用語「悪性細胞」又は「悪性腫瘍」は、浸潤性である及び/又は転移を受け得る腫瘍又は腫瘍細胞(即ち癌細胞)を指す。
本発明の実施又は試験では、本明細書で説明されているものと同類の又は等価のあらゆる材料及び方法を使用し得るが、好ましい材料及び方法をこれより説明する。
材料及び方法
モノクローナル抗体を製造するための従来のハイブリドーマ法、抗体(例えばキメラ抗体(例えばヒト化抗体))を製造するための組換え技術、トランスジェニック動物での抗体産生、及び「完全ヒト」抗体を調製するための最近説明されているファージディスプレイ技術を含む、抗体の製造のための様々な技術が説明されている。これらの技術を、下記で簡潔に説明する。
【0136】
目的の抗体に対するポリクローナル抗体を、一般に、抗原とアジュバントとの複数回の皮下(sc)注射又は腹腔内(ip)注射により、動物中で産生させ得る。抗原(又は標的アミノ酸配列を含むフラグメント)を、二官能性又は誘導体化薬剤(例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介した共役)、又はN-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を介する))を使用して、免疫化する種において免疫原性であるタンパク質(例えば、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又はダイズトリプシン阻害物質)に共役させ得る。動物を、免疫原性の共役体又は誘導体に対して免疫化し、数週間後に、この動物を、複数部位での皮下注射により追加免疫する。7~14日後に、この動物を出血させ、血清を抗体価に関してアッセイする。動物を、この力価のプラトーまで追加免疫する。好ましくは、この動物を、同一抗原の共役体で追加免疫するが、異なるタンパク質及び/又は異なる架橋剤に共役させる。共役体を、タンパク質融合としての組換え細胞培養でも製造し得る。同様に、ミョウバン等の凝集剤を使用して、免疫反応を増強する。
【0137】
モノクローナル抗体を、Kohler & Milstein,Nature 256:495,1975により最初に説明されたハイブリドーマ法を使用して、実質的に同種の抗体の集団から得ることができ、又は組換えDNA法(Cabilly他、米国特許第4,816,567号明細書)により製造してもよい。ハイブリドーマ法では、マウス又は他の適切な宿主動物を、本明細書の上記で説明されているように免疫化して、免疫化に使用されるタンパク質に特異的に結合する抗体を産生するか又は産生し得るリンパ球を誘発する。或いは、リンパ球をインビトロで免疫化してもよい。次いで、リンパ球を、ポリエチレングルコール等の適切な融剤を使用して骨髄細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,59~103頁(Academic Press,1986)。そのようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、未融合の親骨髄細胞の増殖又は生存を阻害する1種又は複数種の物質を好ましくは含む適切な培養培地に播種して増殖させる。加えて、このハイブリドーマ細胞を、動物中において腹水腫瘍としてインビボで増殖させてもよい。サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体を、従来の免疫グロブリン精製手順(例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシラパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又は親和性クロマトグラフィー)により、培養培地、腹水、又は血清から適切に分離する。
【0138】
抗体、抗体の抗原結合フラグメント、又は任意の抗体構築物の発現を、CHO細胞、NSO細胞、SP2/O細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、又は大腸菌(E.coli)細胞のような適切な原核又は真核宿主細胞で実施し得、この細胞(細胞培養上清、条件付き細胞培養上清、細胞溶解物、又は清澄化バルク)から、分泌された抗体を回収して収集する。抗体を産生する一般的な方法は、当分野で周知であり、例えば、Makrides,S.C.,Protein Expr.Purif.17:183~202,1999;Geisse,S.他,Protein Expr.Purif.8:271~282,1986;Kaufman,R.J.,MoI.Biotechnol.16:151~160,2000;Werner,R.G.,Drug Res.48:870~880,1998の総説で説明されている。特定の態様では、細胞培養物は哺乳類細胞培養物であり、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養物である。
【0139】
一態様では、抗体を、天然に産生する供給源から回収して単離し得る。いくつかのそのような態様では、この単離されたか又は回収された抗体を、当分野で公知の従来のクロマトグラフィー法を使用することにより、追加の精製ステップに供し得る。具体的には、精製方法は、下記を含むように企図されるが、これらに限定されない:親和性クロマトグラフィー(例えば、プロテインA親和性クロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、アニオン交換クロマトグラフィー又はカチオン交換クロマトグラフィー)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシラパタイトクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、及び/又は透析。これらの中でも、好ましい精製方法は、プロテインAクロマトグラフィーを使用することである。親和性リガンドが付着しているマトリックスは、ほとんどの場合はアガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。
【0140】
抗体精製のための他の技術(例えば、イオン交換カラムによる分画、エタノール沈殿、逆相高圧クロマトグラフィー、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカによるクロマトグラフィー、ヘパリンSepharose(商標)によるクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(例えばポリアスパラギン酸カラム)によるクロマトグラフィー、クロマト分画、SDA-PAGEを使用する電気泳動、及び硫酸アンモニウム沈殿も、当分野で公知である。上記の精製方法のリストは本質的に例示にすぎず、限定的な列挙であることは意図されていない。
【0141】
或いは、内因性免疫グロブリン産生の非存在下で、ヒト抗体の完全なレパートリーを免疫化時に産生可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を製造することが可能である。例えば、キメラ及び生殖系列変異マウスにおける抗体重鎖連結領域(J.sub.H)遺伝子のホモ接合欠失は内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが説明されている。そのような生殖系列変異マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの導入により、抗原チャレンジにヒト抗体が産生される。例えば、Jakobovits他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2551~255;1993、及びJakobovits他,Nature 362:255~258,1993)を参照されたい。
【0142】
いくつかの態様では、本発明の抗体を、抗原に対する高い親和性及び他の有利な生物学的特性を保持したままヒト化し得る。非ヒト抗体のヒト化方法は、当分野で周知である。齧歯類のCDR又はCDR配列をヒト抗体の対応する配列に置換することより、Winter及び共同研究者の方法に従ってヒト化を本質的に実施し得る(Jones他,Nature 321:522~525,1986;Riechmann他,Nature 332:323~327,1988;Verhoeyen他,Science 239:1534~1536,1988)。従って、そのようなヒト化抗体はキメラ抗体であり(Cabilly、上記参照)、インタクトなヒト可変ドメインと比べて実質的に少ないものが、非ヒト種由来の対応する配列に置換されている。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、ヒト抗体であって、いくつかのCDR残基、及び場合によってはいくつかのFR残基が、齧歯類抗体の類似部位由来の残基に置換されている、ヒト抗体である。抗体は、抗原に対する高い親和性及び他の有利な生物学的特性を保持したままヒト化されることが重要である。この目的を達成するために、好ましい方法によれば、ヒト化抗体を、親配列及びヒト化配列の3次元モデルを使用する親配列及び様々な概念的ヒト化生成物の分析プロセスにより調製する。3次元免疫グロブリンモデルは、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推定上の3次元立体配置構造を説明し、表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示の検査により、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能性のある役割の分析が可能になり、即ち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、標的抗原に対する親和性の増加等の所望の抗体特性が達成されるように、コンセンサス配列及びインポート配列からFR残基を選択して組み合わせ得る。さらなる詳細に関しては、1992年12月23日に公開された国際公開第92/22653号パンフレットを参照されたい。
【0143】
本発明の抗体を、当分野で公知の様々なファージディスプレイ法を使用しても生成し得る。ファージディスプレイ法では、機能性抗体ドメインは、これをコードするポリヌクレオチド配列を有するファージ粒子の表面上で提示される。特定の態様では、そのようなファージを利用して、レパートリー又はコンビナトリアル抗体ライブラリー(例えば、ヒト又はマウス)から発現された抗原結合ドメイン(例えば、Fab及びFv、又はジスルフィド結合安定化Fv)を提示し得る。例えば、標識抗原を使用するか、又は固体表面若しくはビーズに結合したか若しくは捕獲された抗原を使用して、目的の抗原に結合する抗原結合ドメインを発現するファージを、抗原により選択し得るか又は同定し得る。この方法で使用されるファージは、典型的には、fd及びM13等の繊維状ファージである。抗原結合ドメインは、ファージの遺伝子IIIタンパク質又は遺伝子VIIIタンパク質のいずれかに組換えにより融合したタンパク質として発現される。本発明の免疫グロブリン又はそのフラグメントを製造するために使用され得るファージディスプレイ法の例として、Brinkmann他,“Phage Display Of Disulfide-Stabilized Fv Fragments,”J.Immunol.Methods,182:41~50,1995で開示されているものが挙げられる。
【0144】
複数種のIgGアイソタイプ及びそのドメインの機能的特性は、当分野で周知である。IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のアミノ酸配列は、当分野で公知である。本発明の方法での使用のための特定のIgGアイソタイプからの2つ以上のドメインの選択及び/又は組み合わせは、FcγRに対する親和性等の親アイソタイプの任意の公知のパラメータに基づき得る。例えば、FcγRIIBへの限定的な結合を示すか又は結合を示さないIgGアイソタイプ(例えば、IgG2又はIgG4)からの領域又はドメインの使用により、活性化受容体への結合が最大化され、阻害性受容体への結合が最小化されるように二重特異性抗体が設計されることが望ましい特定の用途が見出され得る。同様に、C1q又はFcγRIIIAに優先的に結合することが知られているIgGアイソタイプ(例えばIgG3)からのFc鎖又はドメインの使用を、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)を増強することが当分野で知られているFcアミノ酸改変と組み合わせて、エフェクター機能活性(例えば、補体活性化又はADCC)が最大化されるように二重特異性抗体を設計し得る。同様の方法で、IgGアイソタイプのFc鎖又はドメインにおいて、Fc鎖のエフェクター機能を最小化するか又は排除する変異が行われ得る。
【0145】
発見プロセスの間に、抗体の生成及びキャラクタリゼーションにより、望ましいエピトープに関する情報が解明され得る。次いで、この情報から、同一のエピトープへの結合に関して抗体を競合的にスクリーニングし得る。このことを達成するためのアプローチは、互いに競合するか又は交差競合する抗体を発見するために競合及び交差競合研究を実行することである(例えば、複数種の抗体が、抗原への結合に関して競合する)。一方法は、抗体が結合するエピトープを同定すること(即ち「エピトープマッピング」)である。タンパク質上のエピトープの位置をマッピングしてキャラクタライズするための多くの方法が当分野で公知であり、例えば、Harlow及びLane,Using Antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1999の第11章で説明されているような抗体-抗原複合体の結晶構造の解明、競合アッセイ、遺伝子フラグメント発現アッセイ、及び合成ペプチドベースのアッセイが挙げられる。さらなる例では、エピトープマッピングを使用して、抗体が結合する配列を決定し得る。エピトープマッピングは様々な供給源から市販されており、例えばPepscan Systems(Edelhertweg 15,8219 PH Lelystad,The Netherlands)から市販されている。さらなる例では、抗原結合ドメインの変異誘発、ドメインスワッピング実験、及びアラニン走査変異誘発を実施して、エピトープ結合に必要な、十分な、及び/又は必須の残基を同定し得る。抗原結合ドメイン相互作用の結合親和性及びオフレートを、競合結合アッセイにより決定し得る。競合結合アッセイの一例は、標識抗原のインキュベーション及び標識抗原に結合した分子の検出を含むラジオイムノアッセイである。抗原に対する本発明の分子の親和性及び結合オフレートを、Scatchard分析により飽和データから決定し得る。
【0146】
抗原に対する本発明の抗体の親和性及び結合特性は、抗原結合ドメインに関して当分野で公知のインビトロアッセイ(生化学的又は免疫学的ベースのアッセイ;例えば、限定されないが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)アッセイ、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、バイオレイヤー干渉法、又は免疫沈降アッセイ)を使用して最初に決定し得る。本発明の分子は、インビトロベースのアッセイでのものと同様のインビボモデルでの結合特性(例えば、本明細書で説明されているもの及び開示されているもの)を有し得る。しかしながら、本発明は、インビトロベースのアッセイでは所望の表現型を示さないがインビボでは所望の表現型を示す本発明の分子を除外しない。
【0147】
本発明の分子(即ち結合ドメイン)をコードする核酸配列が得られると、この分子の産生のためのベクターを、当分野で周知の技術を使用する組換えDNA技術により製造し得る。
【0148】
本発明の抗体結合ドメインをコードするポリヌクレオチドは、抗体コード配列に作動可能に連結された発現制御ポリヌクレオチド配列(例えば、当分野で公知の天然に会合した又は異種プロモーター領域)を含み得る。発現制御配列は、真核宿主細胞を形質転換し得るか又はトランスフェクトし得るベクター中の真核プロモーター系であり得るが、原核宿主用の制御配列も使用し得る。ベクターが適切な宿主細胞株に組み込まれると、この宿主細胞を、ヌクレオチド配列の発現に適した条件下で増殖させ、所望される場合には、抗体の回収及び精製のために増殖させる。真核細胞株として、CHO細胞株、様々なCOS細胞株、HeLa細胞、骨髄腫細胞株、形質転換されたB細胞、又はヒト胚腎細胞株が挙げられる。
【0149】
一態様では、本発明の抗体をコードするDNAを、従来の手順を使用して(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)単離して配列決定する。本発明のハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源として機能する。単離すると、DNAを発現ベクターに入れ得、次いで、このベクターを宿主細胞(例えば、サルCOS細胞、CHO細胞、又は他の方法では免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞)にトランスフェクトして、組換え宿主細胞中でのモノクローナル抗体の合成を得る。このDNAを、例えば、相同マウス配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖の定常ドメインのコード配列に置換することによっても改変し得る(Morrison他,Proc.Nat.Acad.Sci.81:6851,1984)。このようにして、本明細書の抗抗原モノクローナル抗体の結合特異性を有するキメラ抗体が調製される。
CD3抗体
一側面では、本発明は、CD3(例えば、完全長ヒトCD3イプシロンサブユニット(例えば、受託番号NP_000724又は配列番号66)に特異的に結合する薬剤を提供する。
【0150】
ある特定の態様では、CD3抗体は、ヒトCD3に特異的に結合する。
本発明の例示的なCD3抗体を、本明細書の表1、2、及び3で列挙する。表1は、VH領域及びVL領域のアミノ酸配列識別子を示す。いくつかの態様では、提供されるのは、表1に列挙された部分軽鎖配列の内のいずれか1つ及び/又は表1に列挙された部分重鎖配列の内のいずれか1つを有する抗体である。
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
表1において、下線が引かれた配列は、Kabatに従い、太字ではChothiaに従うCDR配列である。
本発明は、CD3に対する抗体のCDR部分(例えば、Chothia、Kabat CDR、及びCDR接触領域)を提供する。VH及びVLアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法及び技術は、当分野で周知であり、本明細書で開示されている特定のVH及び/又はVLアミノ酸配列内のCDRを同定するために使用され得る。CDRの境界を同定するために使用され得る例示的な慣習として、例えば、Kabat定義、Chothia定義、及びAbM定義が挙げられる。一般的には、Kabat定義は、配列の変動性に基づいており、Chothia定義は、構造的なループ領域の位置に基づいており、AbM定義は、KabatとChothiaアプローチとの折衷案である。例えば、Kabat,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);Al-Lazikani et ai,J.Mol.Biol.273:927~948(1997);及びMartin et ai,Proc.Natl.Acad.Sci. USA 86:9268~9272(1989)を参照されたい。公開データベースも、抗体内のCDR配列の同定に利用可能である。いくつかの態様では、CDRは、Kabat及びChothia CDRの組み合わせ(「複合CDR」又は「拡張CDR」とも呼ばれる)であり得ることが理解される。いくつかの態様では、CDRは、Kabat CDRである。いくつかのさらなる態様では、CDRは、Chothia CDRである。換言すると、複数のCDRを有する態様では、これらのCDRは、Kabat、Chothia、複合CDR、又はこれらの組み合わせの内のいずれかであり得る。表2及び3は、本明細書で提供されるCDR配列の例を示す。
【0156】
一態様では、本発明は、表1で列挙されているアミノ酸配列を含むか、又はこのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含む抗体を提供する。
【0157】
いくつかのそのような態様では、本発明は、表1で列挙されているVL領域アミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含むVL領域を含むか、又はこのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含むVL領域を含む抗体を提供する。
【0158】
いくつかの別のそのような態様では、本発明は、表1で列挙されているVH領域アミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含むVH領域を含むか、又はこのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含むVH領域を含む抗体を提供する。
【0159】
一態様では、提供されるのは、CD3に特異的に結合する抗体であって、(a)配列番号2、4、5、7、10、12、若しくは35に示すVH配列のVH相補性決定領域1(VH CDR1)、VH相補性決定領域2(VH CDR2)、及びVH相補性決定領域3(VH CDR3)を含む重鎖可変(VH)領域、並びに/又は(b)配列番号1、3、6、8、9、11、34、87、若しくは89に示すVL配列のVL相補性決定領域1(VL CDR1)、VL相補性決定領域2(VL CDR2)、及びVL相補性決定領域3(VL CDR3)を含む軽鎖可変(VL)領域を含む抗体である。
【0160】
一態様では、本発明は、表1で列挙されている例示的なCD3抗体の内のいずれかにより定義されているVL/VHアミノ酸配列対内に含まれる6つのCDRのセット(即ち、VL CDR1、VL CDR2、VL CDR3、VH CDR1、VH CDR2、VH CDR3)を含む抗体を提供する。
【0161】
特定の態様では、本発明は、下記からなる群から選択されるVL/VHアミノ酸配列対内に含まれるVL CDR1、VL CDR2、VL CDR3、VH CDR1、VH CDR2、又はVH CDR3アミノ酸配列のセットを含む抗体を提供する:配列番号1及び2(例えば2B5-0001(2B5));配列番号3及び2(2B5-0002);配列番号3及び4(例えば2B5-0006(2B5v6));配列番号3及び5(例えば2B5-0009);配列番号6及び7(例えば2B5-0517);配列番号8及び7(例えば2B5-0522);配列番号6及び4(例えば2B5-0533);配列番号8及び4(例えば2B5-0538);配列番号9及び10(例えば2B5-0598);配列番号9及び7(例えば2B5-0623);配列番号11及び12(例えば2B5-0707);配列番号34及び35(例えば2B5-0003);配列番号85及び2(例えばH2B4);配列番号9及び4(例えば2B5-1038);配列番号87及び4(例えば2B5-1039);並びに配列番号89及び4(例えば2B5-1040)。
【0162】
表2は、例示的なCD3抗体のVH CDR1、VH CDR2、及びVH CDR3領域を示す。
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
一態様では、本発明は、表2で列挙されているVH CDR1アミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含むVH CDR1を含むか、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含むVH CDR1を含む抗体を提供する。
【0168】
別の態様では、本発明は、表2で列挙されているVH CDR2アミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含むVH CDR2を含むか、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含むVH CDR2を含む抗体を提供する。
【0169】
さらに別の態様では、本発明は、表2で列挙されているVH CDR3アミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含むVH CDR3を含むか、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含むVH CDR3を含む抗体を提供する。
【0170】
表3は、例示的なCD3抗体のVL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を示す。
【0171】
【0172】
一態様では、本発明は、表3で列挙されているVL CDR1アミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含むVL CDR1を含むか、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含むVL CDR1を含む抗体を提供する。
【0173】
別の態様では、本発明は、表3で列挙されているVL CDR2アミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含むVL CDR2を含むか、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含むVL CDR2を含む抗体を提供する。
【0174】
さらに別の態様では、本発明は、表3で列挙されているVL CDR3アミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含むVL CDR3を含むか、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、このアミノ酸配列の実質的に類似の配列を含むVL CDR3を含む抗体を提供する。
【0175】
いくつかの態様では、提供されるのは、CD3に特異的に結合する抗体であって、(a)重鎖(VC)可変(VH)領域であり、配列番号2、4、5、7、10、12、及び35からなる群から選択されるアミノ鎖配列を有するVHのVH相補性決定領域1(CDR1)、VH相補性決定領域2(VH CDR2)、及びVH相補性決定領域3(VH CDR3)を含むVH領域、並びに/又は(b)軽鎖(LC)可変(VL)領域であり、配列番号1、3、6、8、9、11、34、87、及び89からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するVLのVL相補性決定領域1(VL CDR1)、VL相補性決定領域2(VL CDR2)、及びVL相補性決定領域3(VL CDR3)を含むVL領域を含む抗体である。
【0176】
具体的な態様では、この抗体は、(a)(i)配列番号13、14、若しくは15の配列を含むVH CDR1;(ii)配列番号16、17、19、20、21、22、23、若しくは24の配列を含むVH CDR2;及び(iii)配列番号18若しくは25の配列を含むVH CDR3を含むVH領域、並びに/又は(b)(i)配列番号26、29、30、32、91、若しくは92の配列を含むVL CDR1;(ii)配列番号27若しくは31の配列を含むVL CDR2;及び(iii)配列番号28若しくは33の配列を含むVL CDR3を含むVL領域を含む。
【0177】
ある特定の態様では、本発明は、CD3に結合し、本明細書で説明されている抗体(例えば、2B5-0001(2B5)、2B5-0002、2B5-0006(2B5v6)、2B5-0009、2B5-0517、2B5-0522、2B5-0533、2B5-0538、2B5-0598、2B5-0623、2B5-0707、2B5-0003、2B5-1038、2B5-1039、及び2B5-1040)と競合する抗体を提供する。
【0178】
いくつかの態様では、本発明はまた、CDR接触領域に基づくCD3抗体のCDR部分も提供する。CDR接触領域は、抗原に対して抗体に特異性を付与する抗体の領域である。一般に、CDR接触領域は、抗体が特定の抗原に結合するのに適したループ構造を維持するために拘束されているCDR及びバーニアゾーンにおける残基位置を含む。例えば、Makabe他,J.Biol.Chem.,283:1156~1166,2007を参照されたい。CDR接触領域の決定は、十分に当分野の技術内である。
【0179】
本明細書で提供されるCD3抗体のある特定のものは、複数の名称で参照され得る。例えば、2B5-0001は2B5又はh2B5として参照され得;2B5-0006は2B5v6又はh2B5v6として参照され得る。表4は、抗体の形式、及び本明細書で開示されている抗体中に存在するCD3抗体領域を示す。
【0180】
【0181】
CD3(例えばヒトCD3イプシロン(例えば配列番号40))に対する、本明細書で説明されている抗体の結合親和性(KD)は、約0.001nM~約6500nMであり得る。いくつかの態様では、この結合親和性は、6500nM、6000nM、5500nM、4500nM、4000nM、3500nM、3000nM、2500nM、2000nM、1500nM、1000nM、750nM、500nM、400nM、300nM、250nM、200nM、150nM、100nM、75nM、50nM、45nM、40nM、35nM、30nM、25nM、20nM、19nM、17nM、16nM、15nM、10nM、8nM、7.5nM、7nM、6.5nM、6nM、5.5nM、5nM、4nM、3nM、2nM、1nM、0.5nM、0.3nM、0.1nM、0.01nM、0.002nM、又は0.001nMの内のほぼいずれかである。いくつかの態様では、この結合親和性は、6500nM、6000nM、5500nM、5000nM、4000nM、3000nM、2000nM、1000nM、900nM、800nM、500nM、250nM、200nM、100nM、50nM、30nM、20nM、10nM、7.5nM、7nM、6.5nM、6nM、5nM、4.5nM、4nM、3.5nM、3nM、2.5nM、2nM、1.5nM、1nM、0.5nM、0.1nM、0.05nM、0.01nM、又はより低いnMの内のほぼいずれか未満である。ある特定の態様では、抗体はKDが約80~約200pMである。特定の態様では、抗体はKDが約10nm~約2000nmである。
【0182】
一側面では、本発明は、T細胞媒介性反応の調節が必要な対象におけるT細胞媒介性反応を調節する方法での使用のための抗体又は医薬組成物を提供する。特定の態様では、本発明は、対象の腫瘍細胞の増殖を阻害する方法での使用のための抗体又は医薬組成物を提供する。
【0183】
別の側面では、本発明は、癌の処置での使用のための抗体又は医薬組成物であって、任意選択で、この癌は、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫癌、及び消化器系の癌からなる群から選択される、抗体又は医薬組成物を提供する。
【0184】
さらに別の側面では、本発明は、癌の処置での使用のための抗体又は医薬組成物であって、T細胞媒介性免疫反応が調節されるか、又は腫瘍細胞の増殖が阻害される、抗体又は医薬組成物を提供する。
【0185】
本発明はまた、CD3抗体又はその一部をコードする核酸分子も提供する。例えば、本発明は、表1で列挙されているVH若しくはVLアミノ酸配列の内のいずれかをコードするか、又はこれらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する、これらのアミノ酸配列の実質的に類似の配列をコードする核酸分子を提供する。
【0186】
本発明はまた、表2で列挙されているVH CDR1、VH CDR2、若しくはVH CDR3アミノ酸配列の内のいずれかをコードするか、又はこれらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、これらのアミノ酸配列の実質的に類似の配列をコードする核酸分子も提供する。
【0187】
本発明はまた、表3で列挙されているVL CDR1、VL CDR2、若しくはVL CDR3アミノ酸配列の内のいずれかをコードするか、又はこれらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する、これらのアミノ酸配列の実質的に類似の配列をコードする核酸分子も提供する。
【0188】
本発明はまた、HC VRをコードする核酸分子であって、VHは、3つのCDRのセット(即ち、VH CDR1、VH CDR2、又はVH CDR3)を含み、VH CDR1、VH CDR2、及びVH CDR3のアミノ酸配列のセットは、表2で列挙されている例示的なCD3抗体の内のいずれかにより定義されている、核酸分子も提供する。
【0189】
本発明はまた、LC VRをコードする核酸分子であって、VLは、3つのCDRのセット(即ち、VL CDR1、VL CDR2、又はVL CDR3)を含み、VL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3のアミノ酸配列のセットは、表3で列挙されている例示的なCD3抗体の内のいずれかにより定義されている、核酸分子も提供する。
【0190】
本発明はまた、VH及びVLの両方をコードする核酸分子であって、VHは、表1で列挙されているVHアミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含み、VLは、表1で列挙されているVLアミノ酸配列の内のいずれかのアミノ酸配列を含む、核酸分子も提供する。
【0191】
本発明はまた、CD3抗体の重鎖又は軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現し得る組換え発現ベクターも提供する。例えば、本発明は、上述した核酸分子(即ち、表1に記載されたVH及びVLのセットの内のいずれか並びに/又は表2若しくは3に記載されたCDR配列をコードする核酸分子)の内のいずれかを含む組換え発現ベクターを含む。同様に、本発明の範囲に含まれるのは、そのようなベクターが導入されている宿主細胞、並びに抗体又は抗体フラグメントの産生を可能にする条件下で、この宿主細胞を培養し、そのようにして産生された抗体及び抗体フラグメントを回収することにより、抗体又はその一部を製造する方法である。
【0192】
ある特定の態様では、ポリヌクレオチドは、表4で列挙された抗体2B5-0001(2B5)、2B5-0002、2B5-0006(2B5v6)、2B5-0009、2B5-0517、2B5-0522、2B5-0533、2B5-0538、2B5-0598、2B5-0623、2B5-0707、2B5-0003、2B5-1038、2B5-1039、又は2B5-1040の重鎖及び/又は軽鎖可変領域をコードする配列を含む。
【0193】
目的の抗体をコードする配列は、宿主細胞中のベクターで維持され得、次いで、この宿主細胞を、将来の使用のために拡大させて凍結し得る。ベクター(発現ベクターを含む)及び宿主細胞を、本明細書でさらに説明する。
【0194】
任意のそのような配列に相補的なポリヌクレオチドも本発明に包含される。一側面では、本発明は、本明細書で説明されているポリヌクレオチドの内のいずれかを製造する方法を提供する。ポリヌクレオチドは、一本鎖(コード又はアンチセンス)であってもよいし二本鎖であってもよく、DNA(ゲノム、cDNA、又は合成)分子であってもよいしRNA分子であってもよい。RNA分子として、HnRNA分子(1:1でイントロンを含み、DNA分子に対応する)、及びmRNA分子(イントロンを含まない)が挙げられる。本発明のポリヌクレオチド内には追加のコード又は非コード配列が存在し得るが、必ずしも存在せず、ポリヌクレオチドは、他の分子及び/又は支持物質に連結され得るが、必ずしも連結されない。
【0195】
ポリヌクレオチドは、天然配列(即ち、抗体又はその一部をコードする内在性配列)を含んでもよいし、そのような配列のバリアントを含んでもよい。ポリヌクレオチドバリアントは、コードされているポリヌクレオチドの免疫反応性が天然免疫反応性分子と比較して減少しないように、1つ又は複数の置換、付加、欠失、及び/又は挿入を含む。コードされているポリヌクレオチドの免疫反応性への効果を、一般に、本明細書で説明されているように評価し得る。バリアントは、天然抗体又はその一部をコードするポリヌクレオチド配列に対して好ましくは少なくとも約70%の同一性を示し、より好ましくは少なくとも約80%の同一性を示し、さらにより好ましくは少なくとも約90%の同一性を示し、最も好ましくは少なくとも約95%の同一性を示す。
【0196】
本発明のポリヌクレオチドを、化学合成、組換え法、又はPCRを使用して得ることができる。化学的ポリヌクレオチド合成の方法は当分野で周知であり、本明細書で詳細に説明する必要はない。当業者は、本明細書で提供される配列及び市販のDNA合成装置を使用して、所望のDNA配列を製造し得る。
【0197】
組換え法を使用してポリヌクレオチドを調製する場合には、本明細書でさらに考察するように、所望の配列を含むポリヌクレオチドを適切なベクターに導入し得、次いで、このベクターを、複製及び増幅に適した宿主細胞に導入し得る。ポリヌクレオチドを、当分野で公知の任意の手段により宿主細胞に挿入し得る。細胞を、直接取り込みによる外来性ポリヌクレオチドの導入、エンドサイトーシス、トランスフェクション、F交配、又はエレクトロポレーションにより形質転換する。導入されると、この外来性ポリヌクレオチドは、非統合ベクター(例えばプラスミド)として細胞内で維持され得るか、又は宿主細胞ゲノムに統合され得る。そのようにして増幅されたポリヌクレオチドを、当分野で周知の方法により宿主細胞から単離し得る。例えば、Sambrook他,1989を参照されたい。
【0198】
或いは、PCRは、DNA配列の複製を可能にする。PCR技術は当分野で周知であり、米国特許第4,683,195号明細書、同第4,800,159号明細書、同第4,754,065号明細書、及び同第4,683,202号明細書、並びにPCR:The Polymerase Chain Reaction,Mullis他編,Birkauswer Press,Boston,1994で説明されている。
【0199】
RNAを、適切なベクター中の単離DNAを使用し、この単離DNAを適切な宿主細胞に挿入することにより得ることができる。細胞が複製し、DNAがRNAへと転写されると、次いで、このRNAを、例えばSambrook他,1989,上記参照に記載されている当業者に周知の方法を使用して単離し得る。
【0200】
適切なクローニングベクターを、標準的な技術に従って構築してもよいし、当分野で利用可能な多数のクローニングベクターから選択してもよい。選択されるクローニングベクターは、使用されることが意図されている宿主細胞に応じて異なり得るが、有用なクローニングベクターは、一般に、自己複製する能力を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼに対する単一標的を有する場合があり、及び/又はベクターを含むクローンの選択で使用され得るマーカーのための遺伝子を持つ場合がある。適切な例として、プラスミド及び細菌ウイルス(例えば、pUC18、pUC19、Bluescript(例えばpBS SK+)及びその誘導体、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、ファージDNA)、並びにシャトルベクター(例えば、pSA3及びpAT28)が挙げられる。これらの及び多くの他のクローニングベクターが、商業的ベンダー(例えば、BioRad、Strategene、及びInvitrogen)から入手可能である。
【0201】
発現ベクターは、一般に、本発明に係るポリヌクレオチドを含む複製可能なポリヌクレオチド構築物である。発現ベクターは、エピソームとして又は染色体DNAの不可欠な一部として宿主細胞中で複製可能でなければならないことが暗示されている。適切な発現ベクターとして、プラスミド、ウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、コスミド、及び国際公開第87/04462号パンフレットで開示されている発現ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターの構成要素として、一般に、下記の内の1つ又は複数が挙げられ得るが、これらに限定されない:シグナル配列;複製起点;1種又は複数種のマーカー遺伝子;適切な転写制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、及びターミネーター)。発現(即ち翻訳)のためには、1種又は複数種の翻訳制御エレメント(例えば、リボソーム結合部位、翻訳開始部位、及び停止コドン)も通常は必要とされる。
【0202】
目的のポリヌクレオチドを含むベクターを、多くの適切な手段(例えば、エレクトロポレーション、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、又は他の物質を利用するトランスフェクション;微粒子銃;リポフェクション;及び感染(例えば、ベクターがワクシニアウイルス等の感染因子である場合))の内のいずれかにより宿主細胞に導入し得る。ベクター又はポリヌクレオチドの導入の選択は、宿主細胞の特徴に依存することが多い。
【0203】
本発明はまた、本明細書で説明されているポリヌクレオチドの内のいずれかを含む宿主細胞も提供する。目的の抗体、ポリペプチド、又はタンパク質をコードする遺伝子を単離する目的のために、異種DNAを過剰発現し得る任意の宿主細胞を使用し得る。哺乳類宿主細胞の非限定的な例として、COS、HeLa、及びCHO細胞が挙げられるが、これらに限定されない。国際公開第87/04462号パンフレットも参照されたい。適切な非哺乳類宿主細胞として、原核生物(例えば、大腸菌(E.coli)又はB.スブチリス(B.subtillis))、及び酵母(例えば、S.セレビシエ(S.cerevisae)、S.ポンベ(S.pombe);又はK.ラクチス(K.lactis))が挙げられる。好ましくは、宿主細胞は、対応する内在性抗体又はタンパク質CD3又はCD3ドメイン(例えば、ドメイン1~4)の場合と比べて約5倍高い、より好ましくは10倍高い、さらにより好ましくは20倍高いレベルでcDNAを発現し、イムノアッセイ又はFACSにより達成される。目的の抗体又はタンパク質を過剰発現する細胞を同定し得る。
【0204】
本発明はまた、本発明の抗体のscFvも包含する。一本鎖可変領域フラグメントを、短い連結ペプチドを使用して軽鎖及び/又は重鎖可変領域を連結することにより製造する(Bird他,Science 242:423~426,1988)。連結ペプチドの一例は、配列番号65の配列を含む。一態様では、連結ペプチドは、ある可変領域のカルボキシ末端と他の可変領域のアミノ末端との間をおよそ3.5nmで架橋する。他の配列のリンカーも設計されて使用されている(Bird他,Science 242:423~426,1988)。リンカーは、短くて柔軟なポリペプチドであるべきであり、好ましくは約20個未満のアミノ酸残基で構成されている。次いで、リンカーを、薬剤の付着又は固体支持体への付着等の付加的な機能のために改変し得る。一本鎖バリアントを、組換えにより又は合成により製造し得る。scFvの合成による製造の場合には、自動合成装置を使用し得る。scFvの組換えによる製造の場合には、scFvをコードするポリヌクレオチドを含む適切なプラスミドを、適切な宿主細胞(真核生物(例えば、酵母、植物、昆虫、又は哺乳類の細胞)又は原核生物(例えば大腸菌(E.coli))のいずれか)に導入し得る。目的のscFvをコードするポリヌクレオチドを、ポリヌクレオチドのライゲーション等のルーチン的な操作により製造し得る。生じたscFvを、当分野で公知の標準的なタンパク質精製技術を使用して単離し得る。
【0205】
一側面では、提供されるのは、本明細書で開示されている部分的な軽鎖配列の内のいずれか1つ及び/又は部分的な重鎖配列の内のいずれか1つをコードするポリヌクレオチド配列である。本発明の抗体のVH領域及びVL領域をコードする例示的なCD3ポリヌクレオチドを、表5で列挙する。
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
一側面では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドの内のいずれかを含む組成物(例えば医薬組成物)を提供する。いくつかの態様では、この組成物は、表5に示すポリヌクレオチドの内のいずれか1つを含み得る。具体的な態様では、この組成物は、本明細書で説明されている抗体の内のいずれかをコードするポリヌクレオチド(例えば、表5に示すポリヌクレオチドの内のいずれか1つ)を含む発現ベクターを含む。
【0214】
いずれかのそのような配列に相補的なポリヌクレオチドも、本発明に包含される。ポリヌクレオチドは、一本鎖(コード又はアンチセンス)であってもよいし二本鎖であってもよく、DNA(ゲノム、cDNA、又は合成)であってもよいしRNA分子であってもよい。RNA分子として、成熟及び未成熟mRNAが挙げられ、例えば、前駆体mRNA(プレmRNA)又は異種核mRNA(hnRNA)、及び成熟mRNAが挙げられる。本発明のポリヌクレオチド内には追加のコード又は非コード配列が存在し得るが、必ずしも存在せず、ポリヌクレオチドは、他の分子及び/又は支持物質に連結され得るが、必ずしも連結されない。
【0215】
ポリヌクレオチドは、天然配列(即ち、抗体又はその一部をコードする内在性配列)を含んでもよいし、そのような配列のバリアントを含んでもよい。ポリヌクレオチドバリアントは、コードされているポリヌクレオチドの免疫反応性が天然免疫反応性分子と比較して減少しないように、1つ又は複数の置換、付加、欠失、及び/又は挿入を含む。コードされているポリヌクレオチドの免疫反応性への効果を、一般に、本明細書で説明されているように評価し得る。バリアントは、天然抗体又はその一部をコードするポリヌクレオチド配列に対して好ましくは少なくとも約70%の同一性を示し、より好ましくは少なくとも約80%の同一性を示し、さらにより好ましくは少なくとも約90%の同一性を示し、最も好ましくは少なくとも約95%の同一性を示す。
【0216】
2種のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列は、下記で説明するように最大の対応のためにアラインされた際に、これら2種の配列のヌクレオチド又はアミノ酸の配列が同じである場合には、「同一」であると言われる。2種の配列間の比較を、典型的には、比較ウィンドウ全体にわたり配列を比較して配列類似性の局所領域を特定して比較することにより実施する。「比較ウィンドウ」は、本明細書で使用される場合、少なくとも約20箇所の、通常は30~約75箇所の又は40~約50箇所の連続位置のセグメントを指し、このセグメントでは、配列と同数の連続位置の参照配列とを、これら2種の配列が最適にアラインされた後に比較し得る。
【0217】
比較に最適な配列アラインメントを、デフォルトパラメータを使用して、バイオインフォマティクスソフトウェアのLasergeneスイートにおけるMegalignプログラム(DNASTAR,Inc.,Madison,WI)を使用することにより実行し得る。好ましくは、「配列同一性のパーセンテージ」は、少なくとも20箇所の位置での比較ウィンドウ全体にわたり2種の最適にアラインされた配列を比較することにより決定され、この比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の部分は、これら2種の配列の最適なアラインメントのための参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較した場合に、20%以下の、通常は5~15%又は10~12%の付加又は欠失(即ちギャップ)を含んでもよい。このパーセンテージは、両方の配列において同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が発生する位置の数を決定して一致する位置の数を求め、この一致する位置の数を参照配列中の位置の総数(即ちウィンドウのサイズ)で除算し、この結果に100を乗算して配列同一性のパーセンテージを求めることにより算出される。
【0218】
同様に、又は或いは、バリアントは、天然遺伝子又はその一部若しくは相補体と実質的に相同であり得る。そのようなポリヌクレオチドバリアントは、天然抗体(又は相補配列)をコードする天然に存在するDNA配列に、適度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る。
【0219】
遺伝子コードの縮重の結果として、本明細書で説明されているポリペプチドをコードする多くのヌクレオチド配列が存在することは、当業者に認識されるであろう。これらのポリヌクレオチドの内のいくつかは、任意の天然遺伝子のヌクレオチド配列に対する最小の相同性を有する。それにもかかわらず、コドンの使用法の違いに起因して変化するポリヌクレオチドは、本発明により特に企図される。さらに、本明細書で提供されるポリヌクレオチド配列を含む遺伝子の対立遺伝子は、本発明の範囲内である。対立遺伝子は、1つ又は複数の変異(例えば、ヌクレオチドの欠失、付加、及び/又は置換)の結果として変更される内在性遺伝子である。生じたmRNA及びタンパク質は、構造又は機能が変更されていてもよいが、必ずしも変更されていない。対立遺伝子を、標準的な技術(例えば、ハイブリダイゼーション、増幅、及び/又はデータベースの配列との比較)を使用して同定し得る。
【0220】
一側面では、本発明は、本明細書で説明されているポリヌクレオチドの内のいずれかを製造する方法を提供する。例えば、本発明のポリヌクレオチドを、化学合成、組換え法、又はPCRを使用して得ることができる。化学的ポリヌクレオチド合成の方法は、当分野で周知であり、本明細書で詳細に説明する必要はない。当業者は、本明細書で提供される配列、及び市販のDNA合成装置を使用して、所望のDNA配列を製造し得る。
【0221】
組換え法を使用してポリヌクレオチドを調製する場合には、本明細書でさらに考察するように、所望の配列を含むポリヌクレオチドを適切なベクターに導入し得、次いで、このベクターを、複製及び増幅に適した宿主細胞に導入し得る。ポリヌクレオチドを、当分野で公知の任意の手段により宿主細胞に挿入し得る。細胞を、直接取り込みによる外来性ポリヌクレオチドの導入、エンドサイトーシス、トランスフェクション、F交配、又はエレクトロポレーションにより形質転換する。導入されると、この外来性ポリヌクレオチドは、非統合ベクター(例えばプラスミド)として細胞内で維持され得るか、又は宿主細胞ゲノムに統合され得る。そのようにして増幅されたポリヌクレオチドを、当分野で周知の方法(例えば、Sambrook他,1989)により宿主細胞から単離し得る。
【0222】
或いは、PCRは、DNA配列の複製を可能にする。PCR技術は当分野で周知であり、米国特許第4,683,195号明細書、同第4,800,159号明細書、同第4,754,065号明細書、及び同第4,683,202号明細書、並びにPCR:The Polymerase Chain Reaction,Mullis他編,Birkauswer Press,Boston,1994で説明されている。
【0223】
RNAを、適切なベクター中の単離DNAを使用し、この単離DNAを適切な宿主細胞に挿入することにより得ることができる。細胞が複製し、DNAがRNAへと転写されると、次いで、このRNAを、例えばSambrook他,1989,上記参照に記載されている当業者に周知の方法を使用して単離し得る。
【0224】
適切なクローニングベクターを、標準的な技術に従って構築してもよいし、当分野で利用可能な多数のクローニングベクターから選択してもよい。選択されるクローニングベクターは、使用されることが意図されている宿主細胞に応じて異なり得るが、有用なクローニングベクターは、一般に、自己複製する能力を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼに対する単一標的を有する場合があり、及び/又はベクターを含むクローンの選択で使用され得るマーカーのための遺伝子を持つ場合がある。適切な例として、プラスミド及び細菌ウイルス(例えば、pUC18、pUC19、Bluescript(例えばpBS SK+)及びその誘導体、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、ファージDNA)、並びにシャトルベクター(例えば、pSA3及びpAT28)が挙げられる。これらの及び多くの他のクローニングベクターが、商業的ベンダー(例えば、BioRad、Strategene、及びInvitrogen)から入手可能である。
【0225】
発現ベクターは、一般に、本発明に係るポリヌクレオチドを含む複製可能なポリヌクレオチド構築物である。発現ベクターは、エピソームとして又は染色体DNAの不可欠な一部として宿主細胞中で複製可能でなければならないことが暗示されている。適切な発現ベクターとして、プラスミド、ウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、コスミド、及び国際公開第87/04462号パンフレットで開示されている発現ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターの構成要素として、一般に、下記の内の1つ又は複数が挙げられ得るが、これらに限定されない:シグナル配列;複製起点;1種又は複数種のマーカー遺伝子;適切な転写制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、及びターミネーター)。発現(即ち翻訳)のためには、1種又は複数種の翻訳制御エレメント(例えば、リボソーム結合部位、翻訳開始部位、及び停止コドン)も通常は必要とされる。
【0226】
目的のポリヌクレオチドを含むベクターを、多くの適切な手段(例えば、エレクトロポレーション、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、又は他の物質を利用するトランスフェクション;微粒子銃;リポフェクション;及び感染(例えば、ベクターがワクシニアウイルス等の感染因子である場合))の内のいずれかにより宿主細胞に導入し得る。ベクター又はポリヌクレオチドの導入の選択は、宿主細胞の特徴に依存することが多い。
【0227】
目的の抗体、ポリペプチド、又はタンパク質をコードする遺伝子を単離する目的のために、異種DNAを過剰発現し得る任意の宿主細胞を使用し得る。哺乳類宿主細胞の非限定的な例として、COS、HeLa、及びCHO細胞が挙げられるが、これらに限定されない。国際公開第87/04462号パンフレットも参照されたい。適切な非哺乳類宿主細胞として、原核生物(例えば、大腸菌(E.coli)又はB.スブチリス(B.subtillis))、及び酵母(例えば、S.セレビシエ(S.cerevisae)、S.ポンベ(S.pombe);又はK.ラクチス(K.lactis))が挙げられる。好ましくは、宿主細胞は、対応する内在性抗体又はタンパク質CD3又はCD3ドメイン(例えば、ドメイン1~4)の場合と比べて約5倍高い、より好ましくは10倍高い、さらにより好ましくは20倍高いレベルでcDNAを発現し、イムノアッセイ又はFACSにより達成される。目的の抗体又はタンパク質を過剰発現する細胞を同定し得る。
【0228】
一側面では、CD3抗体分子は、例えば、ピコモルからマイクロモル親和性範囲(好ましくは、ピコモルから低ナノモルの範囲)の直接結合又は競合結合アッセイにより測定した場合に、CD3に対する親和性を有する。
【0229】
二重特異性抗体を、本明細書で開示されている配列を使用して調製し得る。二重特異性抗体を製造する方法は、当分野で公知である(例えば、Suresh他,Methods in Enzymology 121:210,1986を参照されたい)。伝統的に、二重特異性抗体の組換えによる製造は、2種の免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づいており、これら2種の重鎖は特異性が異なっていた(Millstein及びCuello,Nature 305,537~539,1983)。
【0230】
別の態様では、本明細書で説明されている抗体は完全長ヒト抗体を含み、ヘテロ二量体タンパク質のある抗体可変領域は、ヒト免疫エフェクター細胞上に位置するエフェクター抗原(例えばCD3抗原)に特異的に結合することにより、ヒト免疫エフェクター細胞の活性をリクルートし得、ヘテロ二量体タンパク質の二次抗体可変領域は、標的抗原に特異的に結合し得る。いくつかの態様では、このヒト抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4アイソタイプを有する。いくつかの態様では、このヘテロ二量体タンパク質は、免疫学的に不活性なFc鎖を含む。
【0231】
ヒト免疫エフェクター細胞は、当分野で公知の様々な免疫エフェクター細胞の内のいずれかであり得る。例えば、免疫エフェクター細胞は、ヒトリンパ球細胞系統のメンバー(例えば、限定されないが、T細胞(例えば細胞傷害性T細胞)、B細胞、及びナチュラルキラー(NK)細胞)であり得る。免疫エフェクター細胞はまた、例えば、限定されないが、ヒト骨髄系統のメンバー(例えば、限定されないが、単球、好中性顆粒球、及び樹状細胞)でもあり得る。そのような免疫エフェクター細胞は、エフェクター抗原の結合による活性化の際に、標的細胞に対する細胞傷害若しくはアポトーシス効果、又は他の所望の効果のいずれかを有し得る。
【0232】
エフェクター抗原は、ヒト免疫エフェクター細胞上に発現される抗原(例えば、タンパク質又はポリペプチド)である。ヘテロ二量体タンパク質(例えば、ヘテロ二量体性抗体又は二重特異性抗体)により結合され得るエフェクター抗原の例として、ヒトCD3、CD16、NKG2D、NKp46、CD2、CD28、CD25、CD64、及びCD89が挙げられるが、これらに限定されない。
【0233】
標的細胞は、ヒトに対してネイティブであるか又は外来性である細胞であり得る。ネイティブ標的細胞では、この細胞は、形質転換されて悪性細胞であってもよいし、病理的に改変されていてもよい(例えば、ウイルス、変形体、又はバクタリアが感染したネイティブ標的細胞)。外来性標的細胞では、この細胞は、細菌、変形体、又はウイルス等の侵入病原体である。
【0234】
いくつかの態様では、本発明で有用な抗体は、Fab、Fabフラグメント、F(ab)2フラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント、一本鎖抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、多重特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性二特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性IgG、ポリクローナル抗体、標識抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、又はこれらのフラグメントである。
【0235】
いくつかの態様では、本明細書で説明されているCD3抗体は、モノクローナル抗体である。例えば、このCD3抗体は、ヒト化モノクローナル抗体又はキメラモノクローナル抗体である。
【0236】
本発明は、Fc鎖若しくはFcドメイン又はこれらの一部を含む抗体を包含する。いくつかの態様では、Fc鎖又はその一部は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4のFc鎖の1つ又は複数の定常ドメイン(例えば、CH2又はCH3ドメイン)を含む。別の態様では、本発明は、Fc鎖又はその一部を含む分子を包含し、このFc鎖又はその一部は、同等の野生型Fc鎖又はその一部と比較して、少なくとも1つのアミノ酸改変(例えば置換)を含む。バリアントFc領域は、当分野で周知であり、当分野で周知の結合活性アッセイ又はエフェクター機能アッセイ(例えば、ELISA、SPR分析、又はADCC)の内のいずれかでアッセイした場合に、このバリアントFc領域を含む抗体の表現型を変更するために主に使用される。そのようなバリアントFc鎖又はその一部は、Fc鎖又は一部を含む本発明の二重特異性抗体により示される血漿半減期及び安定性を延長し得る。別の態様では、本発明は、当分野で公知の任意のFcバリアントの使用を包含する。
【0237】
一態様では、1つ又は複数の改変をFc鎖のアミノ酸に対して行って、このFc鎖(ひいては本発明の二重特異性抗体)の1種又は複数種のFcγR受容体に対する親和性及び結合活性を低下させる。具体的な態様では、本発明は、バリアントFc鎖又はその一部を含む二重特異性抗体であって、このバリアントFc鎖は、バリアントFc領域が1つのFCγR(このFcγRはFCγRIIIAである)にのみ結合する野生型Fc鎖と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、二重特異性抗体を包含する。別の具体的な態様では、本発明は、バリアントFc鎖又はその一部を含む二重特異性抗体であって、このバリアントFc鎖は、バリアントFc領域が1つのFCγR(このFcγRはFCγRIIAである)にのみ結合する野生型(WT)Fc鎖と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、二重特異性抗体を包含する。別の具体的な態様では、本発明は、バリアントFc鎖又はその一部を含む二重特異性抗体であって、このバリアントFc鎖は、バリアントFc鎖が1つのFCγR(このFcγRはFCγRIIBである)にのみ結合する野生型Fc鎖と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、二重特異性抗体を包含する。別の態様では、本発明は、バリアントFcを含む分子であって、このバリアントは、当業者公知の方法及び本明細書で説明されている方法を使用して測定した場合に、Fc鎖を含まないか又は野生型Fc鎖を含む分子と比較して、ADCC活性(若しくは他のエフェクター機能)の低下及び/又はFcγRIIB(CD32B)への結合の増加をもたらすか又は媒介する、分子を包含する。
【0238】
本発明はまた、2種以上のIgGアイソタイプ由来のドメイン又は領域を含むFc領域の使用を包含する。当分野で公知であるように、Fc領域のアミノ酸改変は、Fcにより媒介されるエフェクター機能及び/又は結合活性に大いに影響を及ぼし得る。しかしながら、機能的特性におけるこの変更は、選択されたIgGアイソタイプの文脈で実行される場合に、さらに精密にされ得る、及び/又は操作され得る。同様に、アイソタイプFcの天然の特性は、1つ又は複数のアミノ酸改変により操作され得る。複数のIgGアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)は、それらのヒンジ及び/又はFc領域のアミノ酸配列の差異に起因して、異なる物理的及び機能的特性(例えば、血清半減期、補体固定、FcγR結合親和性、及びエフェクター機能活性(例えば、ADCC、CDC))を示す。
【0239】
一態様では、アミノ酸改変及びIgG Fc領域は、所望の特性を有する二重特異性抗体を設計するために、これらのそれぞれの別々の結合及び/又はエフェクター機能活性に基づいて独立して選択される。特定の態様では、アミノ酸改変及びIgGヒンジ/Fc領域は、本明細書で説明されているか又はIgG1の文脈において当分野で公知である結合及び/又はエフェクター機能活性に関して個別にアッセイされている。一態様では、アミノ酸改変及びIgGヒンジ/Fc領域は、類似の機能性(例えば、二重特異性抗体又は他のFc含有分子(例えば及び免疫グロブリン)の文脈におけるADCC活性(若しくは他のエフェクター機能)の低下、及び/又はFcγRIIBへの結合の増加)を示す。別の態様では、本発明は、当分野で公知のアミノ酸改変の組み合わせと、新規の特性(この特性は、改変及び/又は領域が本明細書で説明されているように独立してアッセイされた場合には検出可能ではなかった)を示す選択されたIgG領域とを含むバリアントFc領域を包含する。
【0240】
CD3に対する抗体の結合親和性を決定する一つの方法は、この抗体の単機能Fabフラグメントの結合親和性を測定することによる。単機能Fabフラグメントを得るために、抗体(例えばIgG)を、パパインにより開裂し得るか、又は組換えにより発現させ得る。抗体のCD3 Fabフラグメントの親和性を、予め固定されたストレプトアビジンセンサーチップ(SA)を備えているか、又はHBS-EPランニングバッファー(0.01M HEPES、pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005体積/体積% Surfactant P20)を使用する抗マウスFc若しくは抗ヒトFcを備えている表面プラズモン共鳴(Biacore(商標)3000(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)システム、Biacore(商標),INC,Piscataway NJ)により決定し得る。ビオチン化又はFc融合ヒトCD3を、0.5μg/mL未満の濃度までHBS-EPバッファーで希釈し、可変の接触時間を使用して個々のチップチェネルに注入して、抗原密度の2つの範囲(詳細な速度論的研究のための50~200反応単位(RU)、又はスクリーニングアッセイのための800~1,000RU)を達成し得る。再生研究は、25体積/体積%のエタノール中の25mM NaOHが、200回の注入にわたり、チップ上のCD3の活性を維持しつつ、結合しているFabを効果的に除去することを示した。典型的には、精製済Fab試料の連続希釈(0.1~10×の推定KDの濃度にわたる)を、100μL/分で1分にわたり注入し、2時間までの解離時間を可能にする。Fabタンパク質の濃度を、標準として公知の濃度(アミノ酸分析により決定する)のFabを使用するELISA及び/又はSDS-PAGE電気泳動により決定する。BIAevaluationプログラムを使用して、1:1 Langmuir結合モデル(Karlsson,R.Roos,H.Fagerstam,L.Petersson,B.(1994).Methods Enzymology 6.99~110)にデータを全体的に適合させることにより、速度論的な会合速度(kon)及び解離速度(koff)を同時に得る。平衡解離定数(KD)値を、Koff/konとして算出する。このプロトコルは、任意のCD3(例えば、ヒトCD3、別の哺乳類のCD3(例えば、マウスCD3、ラットCD3、又は霊長類CD3))、及び異なる形態のCD3(例えばグリコシル化CD3)への抗体の結合親和性の決定での使用に適している。抗体の結合親和性を、一般には25℃で測定するが、37℃でも測定し得る。
【0241】
本明細書で説明されている抗体を、当分野で公知の任意の方法により製造し得る。ハイブリドーマ細胞株の製造の場合、宿主動物の免疫化の経路及びスケジュールは、一般に、本明細書でさらに説明されているように、抗体刺激及び産生のための確立されている従来の技術に従う。ヒト及びマウス抗体の製造のための一般的な技術は、当分野で公知である、及び/又は本明細書で説明されている。
【0242】
ヒトを含む任意の哺乳類対象又はこの対象由来の抗体産生細胞を、ヒト及びハイブリドーマ細胞株を含む哺乳類の産生の基礎として機能するように操作し得ることが企図されている。典型的には、宿主細胞に、例えば本明細書で説明されているような免疫原のある量を、腹腔内、筋肉内、経口、皮下、足底内、及び/又は皮内で接種する。
【0243】
ハイブリドーマを、Kohler,B.及びMilstein,C.,Nature 256:495~497,1975の一般的な体細胞ハイブリダイゼーション技術を使用して、リンパ球及び不死化骨髄腫細胞から調製し得るか、又はBuck,D.W.他,In Vitro,18:377~381,1982により改変されているように調製し得る。利用可能な骨髄腫系統(例えば、限定されないが、X63-Ag8.653、及びSalk Institute,Cell Distribution Center,San Diego,Calif.,USAからのもの)を、ハイブリダイゼーションで使用し得る。一般に、この技術は、ポリエチレングリコール等のフソゲンを使用するか又は当業者に周知の電気的手段による骨髄腫細胞及びリンパ球系細胞の融合を含む。融合後、融合培地から細胞を分離し、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)培地等の選択増殖培地で増殖させて、ハイブリダイズしていない親細胞を排除する。本明細書で説明されている培地の内のいずれか(血清が補充されているか又は補充されていない)を、モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの培養に使用し得る。細胞融合技術の別の代替として、EBV不死化B細胞を使用して、本発明のモノクローナル抗体を産生させ得る。ハイブリドーマを、必要に応じて拡大させてサブクローニングし、上清を、従来のイムノアッセイ手順(例えば、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、又は蛍光イムノアッセイ)により、抗免疫原活性に関してアッセイする。
【0244】
抗体の供給源として使用され得るハイブリドーマは、全ての誘導体、CD3に特異的なモノクローナル抗体を産生する親ハイブリドーマの後代細胞、又はこれらの一部を包含する。
【0245】
そのような抗体を産生するハイブリドーマを、公知の手順を使用して、インビトロで又はインビボで増殖させ得る。モノクローナル抗体を、必要に応じて、従来の免疫グロブリン精製手順(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲル電気泳動、透析、クロマトグラフィー、及び限外ろ過)により、培養培地又は体液から単離し得る。望ましくない活性(存在する場合)を、例えば、固相に付着した免疫原からなる吸着剤上で調製物を流し、この免疫原から所望の抗体を溶出させるか又は放出することにより除去し得る。二機能性又は誘導体化剤(例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介した共役)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、又はR1N=C-NR(R及びR1は異なるアルキル基))を使用する、ヒトCD3によるか、又は免疫化される種において免疫原性であるタンパク質(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又はダイズトリプシン阻害剤)に共役した標的アミノ酸配列を含むフラグメントによる宿主動物の免疫化により、抗体(例えばモノクローナル抗体)の集団を得ることができる。
【0246】
必要に応じて、目的の抗体を配列決定し得、次いで、ポリヌクレオチド配列を、発現又は増殖のためのベクターにクローニングし得る。目的の抗体をコードする配列は、宿主細胞中においてベクター中で維持され得、次いで、この宿主細胞を拡大し、将来の使用のために凍結し得る。細胞培養での組換えモノクローナル抗体の産生を、当分野で公知の手段により、B細胞からの抗体遺伝子のクローニンにより実行し得る。例えば、Tiller他,J.Immunol.Methods,329,112,2008;米国特許第7,314,622号明細書を参照されたい。
【0247】
代替では、ポリヌクレオチド配列を、抗体をヒト化するための又は抗体の親和性若しくは他の特性を改善するための遺伝子操作に使用し得る。例えば、ヒトでの臨床試験及び処置で抗体を使用する場合には、免疫反応を回避するために、定常領域を、ヒト定常領域により似ているように設計し得る。CD3に対するより大きな親和性と、より大きな治療効果を得るために、抗体の配列を遺伝子操作することが望ましい場合がある。
【0248】
いくつかの態様では、抗体は、Fcガンマ受容体結合を除去するか又は減少させる改変定常領域を有する。例えば、Fcは、野生型IgG2配列を参照してアミノ酸残基に番号が付されている変異D265を含むヒトIgG2であり得る。従って、いくつかの態様では、この定常領域は、配列番号80に示す配列を有する改変定常領域を有する。いくつかの態様では、抗体は、配列番号81に示す配列を有する改変定常領域を有する。
【0249】
4つの一般的な工程を経て、モノクローナル抗体をヒト化する。これらの工程は、(1)出発抗体の軽鎖及び重鎖可変領域のヌクレオチド及び予測されるアミノ酸配列を決定すること、(2)ヒト化抗体を設計すること、即ち、ヒト化プロセスの最中に使用する抗体フレームワーク領域を決定すること、(3)実際のヒト化の方法論/技術、並びに(4)ヒト化抗体のトランスフェクション及び発現である。例えば、米国特許第4,816,567号明細書;同第5,807,715号明細書;同第5,866,692号明細書;同第6,331,415号明細書;同第5,530,101号明細書;同第5,693,761号明細書;同第5,693,762号明細書;同第5,585,089号明細書;及び同第6,180,370号明細書を参照されたい。
【0250】
非ヒト免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を含む多くのヒト化抗体分子(例えば、齧歯類又は改変齧歯類V領域と、このV領域と関連する、ヒト定常領域に融合したCDRとを有するキメラ抗体)が説明されている。例えば、Winter他,Nature 349:293~299,1991、Lobuglio他,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86:4220~4224,1989、Shaw他,J Immunol.138:4534~4538,1987、及びBrown他,Cancer Res.47:3577~3583,1987を参照されたい。他の文献では、適切なヒト抗体定常領域との融合に先立ってヒト支持フレームワーク領域(FR)に移植された齧歯類CDRが説明されている。例えば、Riechmann他,Nature 332:323~327,1988、Verhoeyen他,Science 239:1534~1536,1988、及びJones他,Nature 321:522~525,1986を参照されたい。別の参考文献では、組換えにより操作された齧歯類フレームワーク領域により支持されている齧歯類CDRが説明されている。例えば、欧州特許第0519596号明細書を参照されたい。これらの「ヒト化」分子は、ヒトレシピエントにおけるこれらの分子の治療的適応の持続期間及び有効性を制限する齧歯類抗ヒト抗体分子に対する望ましくない免疫学的反応を最小限に抑えるように設計されている。例えば、抗体定常領域を、免疫学的に不活性である(例えば、補体溶解を誘発しない)ように設計し得る。例えば、PCT出願PCT/GB99/01441及び英国出願第9809951.8号明細書を参照されたい。同様に利用され得る抗体をヒト化する他の方法が、Daugherty他,Nucl.Acids Res.19:2471~2476,1991、並びに米国特許第6,180,377号明細書;同第6,054,297号明細書;同第5,997,867号明細書;同第5,866,692号明細書;同第6,210,671号明細書;同第6,350,861号明細書;並びに国際公開第01/27160号パンフレットで開示されている。
【0251】
上記で考察したヒト化抗体に関連する一般的原理は、例えば他の哺乳類(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、又はニワトリ)での使用のための抗体のカスタマイズにも適用可能である。さらに、本明細書で説明されている抗体のヒト化の1つ又は複数の側面が組み合わされ得る(例えば、CDR移植、フレームワーク変異、及びCDR変異)。
【0252】
一バリエーションでは、特定のヒト免疫グロブリンタンパク質を発現するように操作されている市販のマウスを使用することにより、完全ヒト抗体を得ることができる。より望ましい(例えば完全ヒト抗体)又はより頑強な免疫反応を生じるように設計されているトランスジェニック動物を、ヒト化又はヒト抗体の生成にも使用し得る。そのような技術の例は、Abgenix,Inc.(Fremont,CA)のXenomouse(商標)、並びにMedarex,Inc.(Princeton,NJ)のHuMAb-Mouse(登録商標)及びTC Mouse(商標)である。
【0253】
代替では、抗体を、当分野で公知の任意の方法を使用して、組換えにより製造して発現させ得る。別の代替では、抗体を、ファージディスプレイ技術により組換え的に製造し得る。例えば、米国特許第5,565,332号明細書;同第5,580,717号明細書;同第5,733,743号明細書;及び同第6,265,150号明細書;並びにWinter他,Annu.Rev.Immunol.12:433~455,1994を参照されたい。或いは、ファージディスプレイ技術(McCafferty他,Nature 348:552~553,1990)を使用して、免疫化されていないドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、ヒト抗体及び抗体フラグメントをインビトロで製造し得る。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、糸状バクテリオファージの主要な又はマイナーなコートタンパク質遺伝子(例えば、M13又はfd)にインフレームでクローニングされ、ファージ粒子の表面上で機能的抗体フラグメントとして提示される。糸状粒子は、ファージゲノムの一本鎖DNコピーを含むことから、抗体の機能的特性に基づく選択は、その特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択にもつながる。そのため、このファージは、B細胞の特性の内のいくつかを模倣する。ファージディスプレイを様々なフォーマットで実施し得、概説に関して、例えば、Johnson,Kevin S.及びChiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3:564~571,1993を参照されたい。V遺伝子セグメントのいくつかの供給源を、ファージディスプレイに使用し得る。Clackson他,Nature 352:624~628,1991では、免疫化マウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さいランダムコンビナトリアルライブラリー由来の抗オキサゾロン抗体の多様なアレイが単離された。非免疫化ヒトドナー由来のV遺伝子のレパートリーを構築し得、抗原(自己抗原を含む)の多様なアレイに対する抗体を、Mark他,J.Mol.Biol.222:581~597,1991又はGriffith他,EMBO J.12:725~734,1993により説明されている技術に本質的に従って単離し得る。天然の免疫反応では、抗体遺伝子は、高い割合で変異を蓄積する(体細胞の超変異)。導入される変化の内のいくつかは、より高い親和性を付与し、親和性が高い表面免疫グロブリンを提示するB細胞が優先的に複製され、後続の抗原チャレンジの最中に差別化される。この天然のプロセスを、「鎖シャフリング」として公知の技術を利用することにより模倣し得る(Marks他,Bio/Technol.10:779~783,1992)。この方法では、重鎖及び軽鎖V領域遺伝子を、非免疫化ドナーから得られたVドメイン遺伝子の天然に存在するバリアント(レパートリー)のレパートリーに連続的に置き換えることにより、ファージディスプレイにより得られた「一次」ヒト抗体の親和性を改善し得る。この技術は、pM~nMの範囲の親和性を有する抗体及び抗体フラグメントの製造を可能にする。非常に大きなファージ抗体レパートリー(全てのライブラリーの母」としても公知である)を製造するための戦略が、Waterhouse他,Nucl.Acids Res.21:2265~2266,1993により説明されている。同様に、遺伝子シャフリングを使用して齧歯類抗体からヒト抗体を誘導し得、このヒト抗体は、出発の齧歯類抗体に類似の親和性及び特異性を有する。「エピトープインプリンティング」とも称されるこの方法によれば、ファージディスプレイ技術により得られた齧歯類抗体の重鎖及び軽鎖Vドメイン遺伝子をヒトVドメイン遺伝子のレパートリーに置き換えて、齧歯類-ヒトキメラを作製する。抗原による選択により、機能的な抗原結合部位を回復し得るヒト可変領域が単離され、即ち、エピトープがパートナーの選択を支配する(インプリントする)。残余の齧歯類Vドメインを置き換えるためにこのプロセスを繰り返す場合には、ヒト抗体が得られる(国際公開第93/06213号パンフレットを参照されたい)。CDR移植による齧歯類抗体の従来のヒト化とは異なり、この技術は、齧歯類起源のフレームワークもCDR残基も有しない完全ヒト抗体を提供する。
【0254】
抗体を、最初に抗体と抗体産生細胞とを宿主動物から単離し、遺伝子配列を得、この遺伝子配列を使用して、宿主細胞(例えばCHO細胞)中で組換えにより抗体を発現させることにより、組換え的に製造し得る。利用し得る別の方法は、植物(例えばタバコ)又はトランスジェニックミルクにおいて抗体配列を発現させることである。植物又はミルクにおいて組換えにより抗体を発現させる方法は、開示されている。例えば、Peeters他,Vaccine 19:2756,2001;Lonberg,N.及びD.Huszar Int.Rev.Immunol 13:65,1995;並びにPollock他,J Immunol Methods 231:147,1999を参照されたい。抗体の誘導体(例えば、ヒト化、一本鎖等)を製造する方法は、当分野で公知である。
【0255】
同様に、イムノアッセイ、及び蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)等のフローサイトメトリーソーティング技術を利用して、CD3又は目的の抗原に特異的な抗体を単離し得る。
【0256】
本明細書で説明されている抗体は、多くの異なる固相の支持体又は担体に結合し得る。そのような支持体は、活性であり得る、及び/又は不活性であり得る。周知の支持体として、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、ガラス、天然及び変性セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、並びにマグネタイトが挙げられる。この支持体の性質は、本発明の目的のために、可溶性か又は不溶性であり得る。当業者は、抗体の結合に適した他の支持体を知っているか、又は日常的な実験を使用して、そのようなものを確認し得るであろう。いくつかの態様では、この支持体は、心筋を標的とする部分を含む。
【0257】
モノクローナル抗体をコードするDNAを、従来の手順を使用して(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)、容易に単離して配列決定する。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源として機能する。単離すると、DNAを、発現ベクター(例えば、国際公開第87/04462号パンフレットで開示されている発現ベクター)に入れることができ、次いで、この発現ベクターを、他の方法では免疫グロブリンタンパク質を産生しない宿主細胞(例えば、大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、CHO細胞、又は骨髄腫細胞)にトランスフェクトして、この組換え宿主細胞中でのモノクローナル抗体の合成が得られる。例えば、国際公開第87/04462号パンフレットを参照されたい。このDNAを、例えば、相同マウス配列の代わりにヒトの重鎖及び軽鎖定常領域のコード配列を置き換えることにより改変してもよいし(Morrison他,Proc.Nat.Acad.Sci.81:6851,1984)、免疫グロブリンコード配列と、非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全て又は一部とを供給結合的に連結することにより改変してもよい。そのようにして、本明細書のモノクローナル抗体の結合特異性を有する「キメラ」又は「ハイブリッド」抗体を調製する。
【0258】
本明細書で説明されているCD3又は他の抗原抗体を、当分野で公知の方法を使用して同定し得るか又はキャラクタライズし得、それにより、抗原発現レベルを検出する、及び/又は測定する。いくつかの態様では、CD3と共に候補薬剤をインキュベートし、結合及び/又はCD3発現レベルの付随する低下をモニタリングすることにより、CD3抗体を同定する。結合アッセイを、精製済CD3ポリペプチドにより実施してもよいし、CD3ポリペプチドを天然に発現するか又は発現するようにトランスフェクトされた細胞により実施してもよい。一態様では、この結合アッセイは競合的結合アッセイであり、CD3結合に関して公知のCD3抗体と競合する候補抗体の能力を評価する。このアッセイを、ELISAフォーマット等の様々なフォーマットで実施し得る。
【0259】
最初の同定に続いて、候補CD3又は他の抗原抗体の活性を、標的とする生物学的活性を試験することが知られているバイオアッセイにより、さらに確認して精密にし得る。或いは、バイオアッセイを使用して、候補を直接スクリーニングし得る。抗体を同定する及びキャラクタライズする方法の内のいくつかを、実施例で詳細に説明する。
【0260】
CD3又は他の抗原抗体を、当分野で周知の方法を使用してキャラクタライズし得る。例えば、一方法は、結合するエピトープを同定すること(即ち、エピトープマッピング)である。当分野では、タンパク質上のエピトープの位置をマッピングしてキャラクタライズするための多くの方法が公知であり、例えば、Harlow及びLane,Using Antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1999の第11章で説明されているように、抗体-抗原複合体の結晶構造を解明すること、競合アッセイ、遺伝子フラグメント発現アッセイ、及び合成ペプチドベースのアッセイが挙げられる。追加の例では、エピトープマッピングを使用して、抗体が結合する配列を決定し得る。エピトープマッピングは、様々な供給源(例えば、Pepscan Systems(Edelhertweg 15,8219 PH Lelystad,The Netherlands))から市販されている。エピトープは、線状エピトープであり得る(即ち、アミノ酸の単一ストレッチに含まれる)か、又は必ずしも単一ストレッチに含まれなくてもよいアミノ酸の3次元的な相互作用により形成された高次構造エピトープであり得る。様々な長さ(例えば、少なくとも4~6個のアミノ酸の長さ)のペプチドを単離し得るか又は(例えば組換えにより)合成し得、CD3又は他の抗原抗体との結合アッセイに使用し得る。別の例では、CD3又は他の抗原抗体が結合するエピトープを、CD3又は他の抗原配列に由来する重複ペプチドを使用し、CD3抗体又は他の抗原抗体による結合を決定することにより、体系的なスクリーニングで決定し得る。遺伝子フラグメント発現アッセイによれば、CD3又は他の抗原をコードするオープンリーディングフレームを、無作為に断片化するか、又は特定の遺伝子構築により断片化し、発現されたCD3又は他の抗原のフラグメントと、試験する抗体との反応性を決定する。この遺伝子フラグメントを、例えばPCRにより製造し得、次いで、放射性アミノ酸の存在下にて、インビトロで転写してタンパク質へと翻訳し得る。次いで、放射標識したCD3又は他の抗原フラグメントへの抗体の結合を、免疫沈降及びゲル電気泳動により決定する。同様に、ある特定のエピトープを、ファージ粒子の表面上で提示されるランダムペプチド配列の大きなライブラリー(ファージライブラリー)を使用することにより同定し得る。或いは、重複ペプチドフラグメントの規定のライブラリーを、簡単な結合アッセイにおいて、試験抗体への結合に関して試験し得る。追加の例では、抗原結合ドメインの変異誘発、ドメインスワッピング実験、及びアラニンスキャニング変異誘発を実施して、エピトープ結合に必要な、十分な、及び/又は必須の残基を同定し得る。例えば、ドメインスワッピング実験を、変異体CD3又は他の抗原を使用して実施し得、この実験では、CD3又は他の抗原タンパク質の様々なフラグメントが、別の種(例えばマウス)由来の抗原からの配列か又は近縁であるが抗原的には異なるタンパク質(例えばTrop-1)からの配列に置き換えられている(スワップされている)。変異体CD3又は他の抗原への抗体の結合を評価することにより、抗体結合に対する特定のCD3又は他の抗原フラグメントの重要性を評価し得る。
【0261】
CD3抗体又は他の抗原抗体をキャラクタライズするために使用され得るさらに別の方法は、同一の抗原(即ち、CD3又は他の抗原の様々なフラグメント)に結合することが知られている他の抗体との競合アッセイを使用して、CD3又は他の抗原抗体がそれぞれ他の抗体と同一のエピトープに結合するかどうかを決定する。競合アッセイは当業者に周知である。
【0262】
発現ベクターを使用して、CD3又は他の抗原抗体の発現を指示し得る。当業者は、インビボでの外来性タンパク質の発現を得るための発現ベクターの投与を熟知している。例えば、米国特許第6,436,908号明細書;同第6,413,942号明細書;及び同第6,376,471号明細書を参照されたい。発現ベクターの投与として、局所(local)投与又は全身投与(例えば、注射、経口投与、粒子銃、若しくはカテーテル投与)、及び外用(topical)投与が挙げられる。別の態様では、発現ベクターを、交感神経幹若しくは神経節に直接投与するか、又は冠動脈、心房、心室、若しくは心膜に直接投与する。
【0263】
発現ベクター又はサブゲノムポリヌクレオチドを含む治療組成物の標的送達も使用し得る。受容体媒介性DNA送達技術は、例えば、Findeis他,Trends Biotechnol.,11:202,1993;Chiou他,Gene Therapeutics:Methods And Applications Of Direct Gene Transfer,J.A.Wolff編,1994;Wu他,J.Biol.Chem.,263:621,1988;Wu他,J.Biol.Chem.,269:542,1994;Zenke他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:3655,1990;及びWu他,J.Biol.Chem.,266:338,1991で説明されている。ポリヌクレオチドを含む治療組成物を、遺伝子治療プロトコルにおける局所投与のために、DNA 約100ng~約200ngの範囲で投与する。遺伝子治療プロトコルの最中に、約500ng~約50mg、約1μg~約2mg、約5μg~約500μg、及び約20μg~約100μgのDNAの濃度範囲も使用し得る。治療用のポリヌクレオチド及びポリペプチドを、遺伝子送達ビヒクルを使用して送達し得る。遺伝子送達ビヒクルは、ウイルス又は非ウイルス起源であり得る(一般には、Jolly,Cancer Gene Therapy,1:51,1994;Kimura,Human Gene Therapy,5:845,1994;Connelly,Human Gene Therapy,1:185,1995;及びKaplitt,Nature Genetics,6:148,1994を参照されたい)。そのようなコード配列の発現を、内在性の哺乳類又は異種プロモーターを使用して誘発し得る。このコード配列の発現は、構成的であり得るか、又は調節され得る。
【0264】
所望のポリヌクレオチドの送達のための及び所望の細胞中での発現のためのウイルスベースのベクターは、当分野で周知である。例示的なウイルスベースのビヒクルとして下記が挙げられるが、これらに限定されない:組換えレトロウイルス(例えば、国際公開第90/07936号パンフレット;同第94/03622号パンフレット;同第93/25698号パンフレット;同第93/25234号パンフレット;同第93/11230号パンフレット;同第93/10218号パンフレット;同第91/02805号パンフレット;米国特許第5,219,740号明細書及び同第4,777,127号明細書;英国特許第2,200,651号明細書;並びに欧州特許第EP0345242号明細書を参照されたい)、アルファウイルスベースのベクター(例えば、シンドビスウイルスベクター、セムリキ森林ウイルス(ATCC VR-67;ATCC VR-1247)、ロスリバーウイルス(ATCC VR-373;ATCC VR-1246)、及びベネズエラウマ脳炎ウイルス(ATCC VR-923;ATCC VR-1250;ATCC VR 1249;ATCC VR-532))、並びにアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、国際公開第94/12649号パンフレット、同第93/03769号パンフレット;同第93/19191号パンフレット;同第94/28938号パンフレット;同第95/11984号パンフレット、及び同第95/00655号パンフレット)。Curiel,Hum.Gene Ther.,3:147,1992で説明されているような死滅したアデノウイルスに連結されたDNAの投与も利用し得る。
【0265】
非ウイルス送達のビヒクル及び方法も利用し得、下記が挙げられるが、これらに限定されない:死滅したアデノウイルス単独に連結されたか又は連結されていないポリカチオン性濃縮DNA(例えば、Curiel,Hum.Gene Ther.,3:147,1992を参照されたい);リガンド連結DNA(例えば、Wu,J.Biol.Chem.,264:16985,1989を参照されたい);真核細胞送達ビヒクル細胞(例えば、米国特許第5,814,482号明細書;国際公開第95/07994号パンフレット;同第96/17072号パンフレット;同第95/30763号パンフレット;及び同第97/42338号パンフレットを参照されたい)、並びに核電荷の中和又は細胞膜との融合。裸のDNAも利用し得る。例示的な裸のDNA導入法が、国際公開第90/11092号パンフレット及び米国特許第5,580,859号明細書で説明されている。遺伝子送達ビヒクルとして作用し得るリポソームが、米国特許第5,422,120号明細書;国際公開第95/13796号パンフレット;同第94/23697号パンフレット;同第91/14445号パンフレット;及び欧州特許第0524968号明細書で説明されている。さらなるアプローチが、Philip,Mol.Cell Biol.,14:2411,1994及びWoffendin,Proc.Natl.Acad.Sci.,91:1581,1994で説明されている。
【0266】
いくつかの態様では、本発明は、本明細書で説明されている本発明の抗体を含むか又は本方法により製造された抗体を含み、本明細書で説明されている特徴を有する組成物(例えば医薬組成物)を包含する。本明細書で使用される場合、医薬組成物は、腫瘍抗原に結合する1種若しくは複数種の抗体、CD3及び腫瘍抗原に結合する1種若しくは複数種の二重特異性抗体、及び/又は1種若しくは複数種のこれらの抗体をコードする配列を含む1種若しくは複数種のポリヌクレオチドを含み得る。これらの組成物は、当分野で周知である適切な賦形剤(例えば、バッファー等の薬学的に許容される賦形剤)をさらに含み得る。
【0267】
一態様では、本発明は、CD3抗体と、第2の治療薬との組み合わせである組成物を特徴とする。一態様では、第2の治療薬は、CD3抗体と有利に組み合わされる任意の薬剤である。CD3抗体と有利に組み合わされ得る例示的な薬剤として、下記が挙げられるが、これらに限定されない:CD3シグナル伝達に結合する及び/若しくは活性化する他の薬剤(例えば、他の抗体若しくはその抗原結合フラグメントを含む)、並びに/又はCD3には直接結合しないが、それにもかかわらず免疫細胞活性化を活性化するか若しくは刺激する薬剤。本発明は、本発明のCD3抗体を含む追加の併用療法及び共製剤をさらに含む。本発明はまた、これらの抗体の内のいずれかを製造する方法も提供する。本発明の抗体を、当分野で公知の手順(例えば、デノボタンパク質合成、及び結合タンパク質をコードする核酸の組換え発現)により製造し得る。所望の核酸配列を、組換え法(例えば、所望のポリヌクレオチドの以前に調製されたバリアントのPCR変異誘発)により、又は固相DNA合成により製造し得る。通常は、組換え発現方法を使用する。一側面では、本発明は、CD3 VH及び/又はVLをコードする配列を含むポリヌクレオチドを提供する。遺伝子コードの縮重のために、様々な核酸配列が各免疫グロブリンアミノ酸配列をコードし、本発明は、本明細書で説明されている結合タンパク質をコードする全ての核酸を含む。
【0268】
キメラ又はハイブリッド抗体もまた、架橋剤を含むもの等の合成タンパク質化学の公知の方法を使用して、インビボで調製し得る。例えば、免疫毒素を、ジスルフィド交換反応を使用して構築してもよいし、チオエーテル結合を形成することにより構築してもよい。この目的に適した薬剤の例として、イミノチオレート、及びメチル-4-メルカプトブチルイミデートが挙げられる。
【0269】
組換えヒト化抗体では、Fcγ部分を、Fcγ受容体と補体及び免疫系との相互作用を回避するように改変し得る。そのような抗体の調製のための技術が、国際公開第99/58572号パンフレットで説明されている。例えば、抗体を臨床試験及びヒトでの処置で使用する場合には、免疫反応を回避するために、定常領域を、ヒト定常領域により似ているように設計し得る。例えば、米国特許第5,997,867号明細書及び同第5,866,692号明細書を参照されたい。
【0270】
本明細書で開示されているCD3抗体は、この抗体が由来した、対応する生殖系列配列と比較した場合に、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/又はCDR領域中で1つ又は複数のアミノ酸の置換、挿入、及び/又は欠失を含み得る。そのような変異を、本明細書で開示されているアミノ酸配列と、例えば公的な抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列とを比較することにより、容易に確認し得る。本発明は、本明細書で開示されているアミノ酸配列の内のいずれかに由来する抗体及びその抗原結合フラグメントであって、1つ又は複数のフレームワーク及び/又はCDR領域内の1つ又は複数のアミノ酸は、この抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基に変異しているか、
又は別のヒト生殖系列配列の対応する残基に変異しているか、又は対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異している(そのような配列変化は、本明細書では、まとめて「生殖系列変異」と称される)、抗体及びその抗原結合フラグメントを提供する。当業者は、本明細書で開示されている重鎖及び軽鎖可変領域配列から出発して、1つ若しくは複数の個々の生殖系列変異又はこれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合フラグメントを容易に製造し得る。ある特定の態様では、VH及び/又はVLドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基の全てが、この抗体が由来した元々の生殖系列配列で見出される残基に変異により戻っている。いくつかの態様では、ある特定の残基のみ(例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内で見出される変異残基のみ、又はFR4の最後の8個のアミノ酸内で見出される変異残基のみ、又はCDR1、CDR2、若しくはCDR3内で見出される変異残基のみ)が、元々の生殖系列に変異により戻っている。いくつかのさらなる態様では、フレームワーク及び/又はCDR残基の内の1つ又は複数は、異なる生殖系列配列(即ち、この抗体が元々由来した生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基に変異している。
【0271】
さらに、本発明の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内の2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含み得、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異しているが、元々の生殖系列とは異なるある特定の他の残基は、維持されているか、又は異なる生殖系列配列の対応する残基に変異している。得られると、1つ又は複数の生殖系列変異を含む抗体及び抗原結合フラグメントを、1つ又は複数の所望の特性(例えば、結合特異性の改善、結合親和性の増加、アンタゴニストの又はアゴニストの生物学的特性の改善又は増強(場合による)、免疫原性の減少等)に関して容易に試験し得る。このようにして一般的に得られた抗体及び抗原結合フラグメントは、本発明に包含される。
【0272】
本発明はまた、1つ又は複数の保存的置換を有する、本明細書で開示されているHC VR、LC VR、及び/又はCDRのアミノ酸配列の内のいずれかのバリアントを含むCD3抗体も含む。例えば、本発明は、本明細書で開示されているように、HC VR、LC VR、及び/又はCDRのアミノ酸配列の内のいずれかに対して例えば10個以下、8個以下、6個以下、4個以下等の保存的アミノ酸置換を有するHC VR、LC VR、及び/又はCDRのアミノ酸配列を有するCDR抗体を含む。
【0273】
従って、本発明は、本明細書で説明されている本発明のバリアントの抗体及びポリペプチド(例えば、それらの特性に有意な影響を及ぼさない機能的に等価な抗体、並びに活性及び/又は親和性が増強しているか又は減少しているバリアント)に対する改変を包含する。例えば、アミノ酸配列を変異させて、腫瘍抗原及び/又はCD3に対する所望の結合親和性を有する抗体を得ることができる。ポリペプチドの改変は、当分野では日常的に行われており、本明細書で詳細に説明する必要はない。改変ポリペプチドの例として、アミノ酸残基の保存的置換を有するポリペプチド、機能的活性を有意に有害に変化させないか若しくはそのリガンドに対するポリペプチドの親和性を成熟させる(増強する)アミノ酸の1つ若しくは複数の欠失若しくは付加、又は化学的類似体の使用が挙げられる。
【0274】
アミノ酸配列の挿入として、1個の残基から100個以上の残基を含むポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ及び/又はカルボキシル末端融合、並びに単一の又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入が挙げられる。末端挿入の例として、N末端メチオニル残基を有する抗体、又はエピトープタグに融合した抗体が挙げられる。抗体分子の他の挿入バリアントとして、血液循環中での抗体の半減期を増加させる酵素又はポリペプチドの、この抗体のN又はC末端への融合が挙げられる。
【0275】
置換バリアントは、抗体分子中の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去されており、その場所に異なる残基が挿入されている。置換変異誘発の最も興味深い部位として、超可変領域が挙げられるが、FR変更も企図される。保存的置換を、「保存的置換」の見出しの下で表6に示す。そのような置換が生物学的活性の変化をもたらす場合には、表6において「例示的置換」と呼ばれるか又はアミノ酸クラスに関連して下記でさらに説明する複数の実質的変化を導入して産物をスクリーニングし得る。
【0276】
【0277】
抗体の生物学的特性における実質的な改変は、(a)置換の領域中のポリペプチド骨格の構造(例えば、シート若しくはヘリカル高次構造)、(b)標的部位での分子の電荷若しくは疎水性、又は(c)側鎖のかさ高さの維持に対する効果が有意に異なる置換を選択することにより達成される。天然に存在するアミノ酸残基は、下記の共通の側鎖特性に基づいて群に分けられる:
(1)非極性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)電荷を有しない極性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性(負に荷電している):Asp、Glu;
(4)塩基性(正に荷電している):Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe、His。
【0278】
非保存的置換は、これらのクラスの内の1つのメンバーを別のクラスに交換することにより行われる。
抗体の適切な高次構造の維持に関与しない任意のシステイン残基も、一般にはセリンで置換されて、この分子の酸化安定性を改善して異常な架橋を妨げ得る。逆に、特に、抗体が、Fvフラグメント等の抗体フラグメントである場合には、この抗体にシステイン結合を付加して、この抗体の安定性を改善し得る。
【0279】
アミノ酸改変は、1つ又は複数のアミノ酸の変更又は改変から可変領域等の領域の完全な再設計にまで及び得る。可変領域での変更は、結合親和性及び/又は特異性を変更し得る。いくつかの態様では、1~5個以下の保存的アミノ酸置換を、CDRドメイン内で行う。いくつかの態様では、1~3個以下の保存的アミノ酸置換を、CDRドメイン内で行う。さらに他の態様では、CDRドメインは、VH CDR3及び/又はVL CDR3である。
【0280】
改変として、グリコシル化及び非グリコシル化ポリペプチド、並びに他の翻訳後改変(例えば、様々な糖によるグリコシル化、アセチル化、及びリン酸化)を有するポリペプチドも挙げられる。抗体は、その定常領域中における保存位置でグリコシル化される(Jefferis及びLund,Chem.Immunol.65:111~128,1997;Wright及びMorrison,TibTECH 15:26~32,1997)。免疫グロブリンのオリゴ糖側鎖は、タンパク質の機能(Boyd他,Mol.Immunol.32:1311~1318,1996;Wittwe及びHoward,Biochem.29:4175~4180,1990)と、糖タンパク質の部分間の分子内相互作用とに影響を及ぼし、このことは、糖タンパク質の高次構造と提示された3次元表面とに影響を及ぼし得る(Jefferis及びLund,上記参照;Wyss及びWagner,Current Opin.Biotech.7:409416,1996)。オリゴ糖はまた、特異的な認識構造に基づいて、所与の糖タンパク質の標的をある特定の分子に定めるのにも役立ち得る。抗体のグリコシル化はまた、抗体依存性細胞傷害(ADCC)に影響を及ぼすとも報告されている。特に、2分GlcNAcの形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼであるβ(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)の発現がテトラサイクリンにより調節されているCHO細胞は、ADCC活性が改善されていると報告された(Umana他,Mature Biotech.17:176~180,1999)。
【0281】
抗体のグリコシル化は、典型的には、N連結又はO連結のいずれかである。N連結は、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着を指す。トリペプチド配列であるアスパラギン-X-セリン、アスパラギン-X-スレオニン、及びアスパラギン-X-システイン(Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である)は、このアスパラギン側鎖へのこの炭水化物部分の酵素的付着のための認識配列である。そのため、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。O連結グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的には、セリン又はスレオニン)への糖であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの内の1つの付着を指すが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリシンも使用し得る。
【0282】
抗体へのグリコシル化部位の付加は、抗体が上記のトリペプチド配列の内の1つ又は複数を含む(N連結グリコシル化部位の場合)ようにアミノ酸配列を変更することにより、簡便に達成される。この変更を、元々の抗体の配列への1つ又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加又はこれらの残基への置換(O連結グリコシル化部位の場合)によっても行い得る。
【0283】
抗体のグリコシル化パターンはまた、基本となるヌクレオチド配列を変更することなく変更し得る。グリコシル化は、抗体を発現するために使用される宿主細胞に主に依存する。潜在的な治療薬としての組換え糖タンパク質(例えば抗体)の発現に使用される細胞型は、希にネイティブ細胞であることから、抗体のグリコシル化パターンの変動が予想され得る(例えば、Hse他,J.Biol.Chem.272:9062~9070,1997)を参照されたい)。
【0284】
宿主細胞の選択に加えて、抗体の組換えによる産生の最中のグリコシル化に影響を及ぼす因子として、増殖形式、培地製剤、培養密度、酸素化、pH、精製スキーム、及び同類のものが挙げられる。特定の宿主生物において達成されるグリコシル化パターンを変更するために、様々な方法(例えば、オリゴ糖産生に関与するある特定の酵素の導入又は過剰発現)が提案されている(米国特許第5,047,335号明細書;同第5,510,261号明細書、及び同第5,278,299号明細書)。グリコシル化、又はある特定のタイプのグリコシル化を、例えば、エンドグリコシダーゼH(EndoH)、N-グリコシダーゼF、エンドグリコシダーゼF1、エンドグリコシダーゼF2、エンドグリコシダーゼF3を使用して、糖タンパク質から酵素的に除去し得る。加えて、組換え宿主細胞を、ある特定のタイプの多糖のプロセシングを欠くように遺伝子操作し得る。これらの及び類似の技術は、当分野で周知である。
【0285】
他の改変方法として、当分野で公知のカップリング技術(例えば、限定されないが、酵素的手段、酸化的置換、及びキレート化)を使用することが挙げられる。例えばイムノアッセイ用の標識の付着のために、改変を使用し得る。改変ポリペプチドを、当分野で確立されている手順を使用して製造し、当分野で公知の標準的なアッセイ(この内の一部を、下記で及び実施例で説明する)を使用してスクリーニングし得る。
【0286】
本発明のいくつかの態様では、抗体は、改変定常領域(例えば、ヒトFcガンマ受容体に対する親和性が増加している定常領域)を含み、免疫学的に不活性であるか若しくは部分的に不活性である(例えば、補体媒介性溶解を誘発しないか、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を刺激しないか、若しくはマクロファージを活性化しない)か、又は下記の内のいずれか1つ若しくは複数での活性を(非改変抗体と比較して)低下させる:補体媒介性溶解の誘発、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の刺激、若しくはミクログリアの活性化。定常領域の様々な改変を使用して、エフェクター機能の最適なレベル及び/又は組み合わせを達成し得る。例えば、Morgan他,Immunology 86:319~324,1995;Lund他,J.Immunology 157:4963~9 157:4963~4969,1996;Idusogie他,J.Immunology 164:4178~4184,2000;Tao他,J.Immunology 143:2595~2601,1989;及びJefferis他,Immunological Reviews 163:59~76,1998を参照されたい。いくつかの態様では、定常領域は、Eur.J.Immunol.,29:2613~2624,1999;PCT出願第PCT/GB99/01441;及び/又は英国出願第9809951.8号明細書で説明されているように改変されている。さらに他の態様では、定常領域は、N-連結グリコシル化用にグリコシル化されている。いくつかの態様では、定常領域は、この定常領域中のN-グリコシル化認識配列の一部であるグリコシル化アミノ酸残基又は隣接する残基を改変することにより、N連結グリコシル化用にグリコシル化される。例えば、Nグリコシル化部位N297は、A、Q、K、又はHに変異され得る。Tao他,J.Immunology 143:2595~2601,1989;及びJefferis他,Immunological Reviews 163:59~76,1998を参照されたい。いくつかの態様では、定常領域は、N連結グリコシル化用にグリコシル化されている。定常領域は、酵素的に(例えば、酵素PNGアーゼによる炭水化物の除去)又はグリコシル化欠損宿主細胞中での発現により、N連結グリコシル化用にグリコシル化され得る。
【0287】
他の抗体改変として、国際公開第99/58572号パンフレットで説明されているように改変されている抗体が挙げられる。この抗体は、標的分子に指向される結合ドメインに加えて、ヒト免疫グロブリン重鎖の定常領域の全て又は一部に対して実質的に相同なアミノ酸配列を有するエフェクタードメインを含む。この抗体は、標的の顕著な補体依存性溶解又は細胞媒介性破壊を誘発することなく、標的分子に結合し得る。いくつかの態様では、エフェクタードメインは、FcRn及び/又はFcγRIIbに特異的に結合し得る。これらは、典型的には、2種以上のヒト免疫グロブリン重鎖CH2ドメインに由来するキメラドメインに基づく。このようにして改変された抗体は、従来の抗体療法に対する炎症及び他の有害反応を回避するための習慣的な抗体療法での使用に特に適している。
【0288】
本発明は、親和性成熟態様を含む。例えば、親和性成熟抗体を、当分野で公知の手順(Marks他,Bio/Technology,10:779~783,1992;Barbas他,Proc Nat.Acad.Sci,USA 91:3809~3813,1994;Schier他,Gene,169:147~155,1995;Yelton他,J.Immunol.,155:1994~2004,1995;Jackson他,J.Immunol.,154(7):3310~9,1995,Hawkins他,J.Mol.Biol.,226:889~896,1992;及び国際公開第2004/058184号パンフレット)により製造し得る。
【0289】
抗体の親和性の調整及びCDRのキャラクタライズに、下記の方法を使用し得る。「ライブラリースキャニング変異誘発」と呼ばれる、抗体のCDRをキャラクタライズする及び/又はペプチド(例えば抗体)の結合親和性を変更する(例えば改善する)一方法。一般に、ライブラリースキャニング変異誘発は、下記のように作用する。当分野で認識されている方法を使用して、CDR中の1箇所又は複数箇所のアミノ酸位置を、2種以上(例えば、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種、14種、15種、16種、17種、18種、19種、又は20種)のアミノ酸に置き換える。これにより、クローンの小さいライブラリー(いくつかの態様では、分析するアミノ酸位置毎に1種)が生成され、(全ての位置で2種以上のアミノ酸が置換される場合には)それぞれが2種以上のメンバーの複雑性を有する。一般に、このライブラリーはまた、天然(未置換)アミノ酸を含むクローンも含む。各ライブリライからの少数のクローン(例えば、約20~80個のクローン(ライブラリーの複雑性に依存する)を、標的ポリペプチド(又は他の結合標的)への結合親和性に関してスクリーニングし、結合が、増加した候補、同一の候補、減少した候補、又は結合しない候補を同定する。結合親和性を決定する方法は、当分野で周知である。結合親和性を、約2倍以上の結合親和性の差異を検出するBIACORE(商標)表面プラズモン共鳴分析を使用して決定し得る。BIACORE(商標)は、出発の抗体が比較的高い親和性(例えば、約10nM以下のKD)で既に結合している場合に、特に有用である。BIACORE(商標)表面プラズモン共鳴を使用するスクリーニングを、本明細書の実施例で説明する。
【0290】
結合親和性を、Kinexa Biocensor、シンチレーション近似アッセイ、ELISA、ORIGENイムノアッセイ(IGEN)、蛍光消光、蛍光転移、及び/又は酵母ディスプレイを使用して決定し得る。結合親和性を、適切なバイオアッセイを使用してもスクリーニングし得る。
【0291】
いくつかの態様では、CDR中の全てのアミノ酸位置を、当分野で認識されている変異誘発方法(この内のいくつかは、本明細書で説明されている)を使用して、20種全ての天然アミノ酸に置き換える(いくつかの態様では、1回に1種)。これにより、クローンの小さいライブラリー(いくつかの態様では、分析するアミノ酸位置毎に1つ)が生成され、(全ての位置で20種全てのアミノ酸が置換される場合には)それぞれが20種のメンバーの複雑性を有する。
【0292】
いくつかの態様では、スクリーニングするライブラリーは、同一のCDR中に存在してもよいし2つ以上のCDR中に存在してもよい、2箇所以上の位置で置換を含む。そのため、このライブラリーは、1つのCDR中の2箇所以上の位置で置換を含んでもよい。このライブラリーは、2つ以上のCDR中の2箇所以上の位置で置換を含んでもよい。このライブラリーは、3箇所、4箇所、5箇所、又はより多くの位置で置換を含んでもよく、前記位置は、2個、3個、4個、5個、又は6個のCDRで見出される。この置換を、低重複コドンを使用して作製し得る。例えば、Balint他,Gene 137(1):109~18,1993の表2を参照されたい。
【0293】
結合が改善されている候補を配列決定し得、それにより、親和性が改善されるCDR置換変異体(「改善」置換とも呼ばれる)が同定される。結合する候補も配列決定し得、それにより、結合を保持するCDR置換が同定される。
【0294】
多数回のラウンドのスクリーニングを実施し得る。例えば、結合が改善されている候補(それぞれ、1つ又は複数のCDRの1箇所又は複数箇所の位置でアミノ酸置換を含む)はまた、それぞれの改善CDR位置(即ち、置換変異体が結合の改善を示したCDR中のアミノ酸位置)で少なくとも元々及び置換アミノ酸を含む第2のライブラリーの設計にも有用である。このライブラリーの調製とスクリーニング又は選択とを、下記でさらに考察する。
【0295】
ライブラリースキャニング変異誘発はまた、結合が改善された、結合が同一の、結合が減少した、又は結合しないクローンの頻度が、抗体-抗原複合体の安定性に関する各アミノ酸位置の重要性についての情報も提供する限りにおいて、CDRをキャラクタライズするための手段も提供する。例えば、CDRのある位置が、20種全てのアミノ酸に変化した際に結合を保持する場合には、この位置は、抗原結合に必要とされる可能性が低い位置と同定される。逆に、CDRのある位置が、ごく小さいパーセンテージの置換でのみ結合を保持する場合には、この位置は、CDR機能に重要な位置と同定される。そのため、ライブラリースキャニング変異誘発方法は、多くの異なるアミノ酸(20種全てのアミノ酸を含む)に変化し得るCDR中の位置と、変化し得ないか又は少しのアミノ酸にのみ変化し得るCDR中の位置とに関する情報をもたらす。
【0296】
親和性が改善されている候補を、第2のライブラリーで組み合わせ得、この第2のライブラリーは、その位置で改善アミノ酸、元々のアミノ酸を含み、所望されているか又は所望のスクリーニング法若しくは選択法を使用して可能になるライブラリーの複雑性に依存して、この位置での追加の置換をさらに含み得る。加えて、必要に応じて、隣接するアミノ酸位置を、少なくとも2種以上のアミノ酸に無作為化し得る。隣接するアミノ酸の無作為化は、変異体CDRにおける追加の高次構造柔軟性を許容し得、そのため、多数の改善的変異の導入が許容され得るか、又は促進され得る。このライブラリーはまた、1回目のラウンドのスクリーニングでは親和性の改善を示さなかった位置での置換も含み得る。
【0297】
第2のライブラリーを、当分野で公知の任意の方法(例えば、BIACORE(商標)表面プラズモン共鳴分析を使用するスクリーニング、並びに選択に関して当分野で公知の任意の方法(ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、及びリボソームディスプレイを含む)を使用する選択)を使用して、結合親和性が改善されている及び/又は変更されているライブラリーメンバーに関してスクリーニングするか、又は選択する。
【0298】
抗体を単離するための技術、及び抗体を調製するための技術が続く。しかしながら、抗体を、当分野で公知の技術を使用して、他のポリペプチドから形成し得るか、又は他のポリペプチドに組み込み得ることが認識されるであろう。例えば、目的のポリペプチド(例えば、リガンド、受容体、又は酵素)をコードする核酸を、このポリペプチドmRNAを保有し、検出可能なレベルで発現すると考えられている組織から調製したcDNAライブラリーから単離し得る。ライブラリーを、目的の遺伝子又はこの遺伝によりコードされるタンパク質を同定するために設計されたプローブ(例えば、約20~80個の塩基の抗体又はオリゴヌクレオチド)でスクリーニングする。選択されたプローブによるcDNA又はゲノムライブラリーのスクリーニングを、Sambrook他,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)の第10~12章で説明されているような標準的手順を使用して実行し得る。
自己免疫障害を処置するためのCD3抗体
一側面では、提供されるのは、対象の自己免疫障害を処置する方法であって、本明細書で説明されている抗体を含む組成物の有効な量を、投与が必要な対象に投与する工程を含む方法である。
【0299】
本明細書で使用される場合、自己免疫障害として下記が挙げられるが、これらに限定されない:炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、糖尿病(I型)、多発性硬化症、アジソン病、セリアック病、皮膚筋炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、橋本脳症、重症筋無力症、反応性関節炎、シェーグレン症候群、アトピー性アレルギー、アトピー性皮膚炎、自己免疫性腸症、自己免疫性肝炎、自己免疫性リンパ増殖症候群、自己免疫性末梢神経障害、自己免疫性膵炎、自己免疫性多内分泌腺症候群、自己免疫性プロゲステロン皮膚炎、自己免疫性蕁麻疹、自己免疫性ぶどう膜炎、ベーチェット病、キャッスルマン病、寒冷凝集素症、クローン病、皮膚筋炎、好酸球性筋膜炎、胃腸類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、ギラン・バレー症候群、化膿性汗腺炎、ナルコレプシー、尋常性天疱瘡、多発性筋炎、再発性多発軟骨炎、リウマチ熱、横断性脊髄炎、潰瘍性大腸炎、未分化結合組織疾患、血管炎、及びウェゲナー肉芽腫症。
多重特異性抗体及びその使用
本発明のCD3抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であってもよいし、複数の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含んでもよい。例えば、Tutt他,1991,J.Immunol.147:60~69;Kufer他,2004,Trends Biotechnol.22:238~244を参照されたい。本発明のCD3抗体を、別の機能性分子(例えば、別のペプチド又はタンパク質)に連結させ得るか、又はこの機能性分子と共発現させ得る。例えば、抗体又はそのフラグメントを、第2の結合特異性を有する多重特異性抗体を製造するために、1種又は複数種の他の分子実体(例えば、別の抗体又は抗体フラグメント)に、(例えば、化学的結合、遺伝学的融合、非共有結合的会合、又は他の方法により)機能的に連結させ得る。
【0300】
一側面では、本発明の抗体は、多重特異性抗体である。特定の態様では、CD3抗体は、ヒトCD3に特異的に結合する二重特異性抗体である。いくつかのそのような態様では、この二重特異性抗体は、さらに、腫瘍抗原に特異的に結合する。別のそのような態様では、本発明の二重特異性抗体は、T細胞(CD3)及び腫瘍細胞を同時に標的とし、腫瘍抗原を発現する腫瘍細胞へとT細胞傷害性を成功裏に誘導して活性化する。
【0301】
上記のそれぞれのさらなる態様では、CD3に結合する二重特異性抗体は、下記の特徴の内の任意の1つ又は複数を特徴とする:(a)対象において特定の腫瘍抗原を発現する悪性細胞に関連した状態(例えば、多発性骨髄腫等のB細胞関連癌)の1つ若しくは複数の症状を処置すること、予防すること、寛解させること;(b)対象(特定の腫瘍抗原を発現する悪性腫瘍を有する者)において腫瘍の増殖若しくは悪化を阻害すること;(c)対象(腫瘍抗原を発現する1つ若しくは複数の悪性細胞を有する者)において特定の腫瘍抗原を発現する癌(悪性)細胞の転移を阻害すること;(d)腫瘍抗原を発現する腫瘍の退縮(例えば長期にわたる退縮)を誘発すること;(e)腫瘍抗原を発現する悪性細胞において細胞傷害活性を発揮すること;(f)腫瘍関連障害を有する対象の無増悪生存期間を延ばすこと;(g)腫瘍関連障害を有する対象の全生存期間を延ばすこと;(h)腫瘍関連障害を有する対象における追加の化学療法又は細胞傷害剤の使用を減少させること;(i)腫瘍関連障害を有する対象における腫瘍負荷を減少させること;又は(j)腫瘍抗原と、まだ同定されていない他の因子との相互作用をブロックすること。
【0302】
本明細書で使用される場合、本発明の二重特異性抗体は、2本以上のポリペプチド鎖の複合体を指し、それぞれは、少なくとも1つの抗体VL領域及び1つの抗体VH領域又はこれらのフラグメントを含み、それぞれのポリペプチド鎖中のVL及びVH領域は異なる抗体由来である。特定の側面では、二重特異性抗体は、VL及びVH領域の両方を含むポリペプチド鎖の二量体又は四量体を含む。多量体タンパク質を構成する個々のポリペプチド鎖は、鎖間ジスルフィド結合により多量体の少なくとも1つの他のポリペプチドに共有結合的に連結され得る。
【0303】
いくつかのそのような態様では、本発明の二重特異性抗体は、第1のポリペプチド鎖上の第1のヘテロ二量体促進ドメインと、第2のポリペプチド鎖上の第2のヘテロ二量体促進ドメインとを含む(
図1)。まとめると、第1及び第2のヘテロ二量体促進ドメインは、ヘテロ二量体化を駆動し、並びに/又は(例えば、相補的なヘテロ二量体促進ドメイン上のノブ及びホールの相互作用により)二重特異性抗体を安定化し、並びに/又は二重特異性抗体を安定化させるのに役立つ。いくつかの態様では、第1のヘテロ二量体促進ドメイン及び第2のヘテロ二量体促進ドメインはそれぞれ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含み、CH2ドメインのそれぞれ及び/又はCH3ドメインのそれぞれのアミノ酸配列は、ヘテロ二量体化を駆動するように及び/又は二重特異性抗体を安定化させるように改変されている。
【0304】
いくつかの態様では、第1のヘテロ二量体促進ドメインは、ノブ(突起)又はホール(空洞)のいずれかを含むように改変されているCH2及び/又はCH3ドメインを有するFc鎖を含み得る。いくつかのそのような態様では、CH2ドメイン及び/又はCH3ドメインのアミノ酸配列は、少なくとも1つのアミノ酸改変を含み、(a)第1のヘテロ二量体促進ドメインのCH3ドメインはノブを形成し、(b)第2のヘテロ二量体促進ドメインのCH3ドメインはホールを形成する。別のそのような態様では、第1のヘテロ二量体促進ドメインのCH3ドメインは、変異Y349C及び/又はT366Wを含み、第2のヘテロ二量体促進ドメインのCH3ドメインは、変異S354C、T366S、L368A、及び/又はY407Vを含む(EUインデックスに従うナンバリング)。
【0305】
一態様では、第2のヘテロ二量体促進ドメインが、ホール(空洞)を含むように改変されているCH2及び/又はCH3ドメインを含む場合には、第1のヘテロ二量体促進ドメインは、配列番号78の配列を含むノブ(突起)を含むように改変されているCH2及び/又はCH3ドメインを含み得る。別の態様では、第2のヘテロ二量体促進ドメインが、ノブ(突起)を含むように改変されているCH2及び/又はCH3ドメインを含む場合には、第1のヘテロ二量体促進ドメインは、配列番号79の配列を含むホール(空洞)を含み得る。
【0306】
二重特異性抗体の各ポリペプチド鎖は、VL領域及びVH領域を含み、これらの領域は、抗体結合ドメインの自己集合が制約されるように、グリシン及びセリン残基を含むグリシン-セリンリンカー(リンカー1又はリンカー2)により共有結合的に連結され得る。加えて、各ポリペプチド鎖はヘテロ二量体ドメインを含み、このヘテロ二量体ドメインは、複数のポリペプチド鎖のヘテロ二量体化及び/又は安定化を促進し、異なるポリペプチド鎖のホモ二量体化の確率を低下させる。このヘテロ二量体化ドメインは、ポリペプチド鎖のN末端に位置していてもよいし、C末端に位置していてもよい。このヘテロ二量体化ドメインは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、又はより多くのアミノ酸残基の長さであるシステインリンカー(リンカー3)を含み得る。ポリペプチド鎖の内の2つの相互作用は、2つのVL/VH対形成を生じ得、2つのエピトープ結合ドメイン(即ち2価分子)が形成される。VH若しくはVL領域のいずれも、ポリペプチド鎖内の任意の位置に制限されず、即ち、アミノ末端若しくはカルボキシ末端に制限されず、又はこれらの領域は、互いに相対的な位置に制限されず、即ち、VL領域はVH領域に対してN末端であり得、逆もまた同様である。唯一の制限は、機能的二重特異性抗体を形成するために、相補的なポリペプチド鎖が利用可能であることである。VL及びVH領域が、異なる抗原に特異的な抗体に由来する場合には、機能的二重特異性抗体の形成は、2つの異なるポリペプチド鎖の相互作用(即ち、ヘテロ二量体の形成)を必要とする。対照的に、2つの異なるポリペプチド鎖が、例えば組換え発現系で、自由に相互作用する場合には、一方は、VLA及びVHB(Aは第1のエピトープであり、Bは第2のエピトープである)を含み、他方は、VLB及びVHAを含み、2つ異なる結合部位は、VLA-VHA及びVLB-VHFに由来し得る。全ての二重特異性抗体ポリペプチド鎖対に関して、2つの鎖のミスアラインメント又は誤結合が起こり得る(例えば、VL-VL又はVHーVH領域の相互作用)。しかしながら、機能的二重特異性抗体の精製は、当分野で公知であるか又は本明細書で例示される任意の親和性ベースの方法(例えば親和性クロマトグラフィー)を使用して、適切に二量体化された結合部位の免疫特異性に基づいて容易に管理される。
【0307】
一態様では、二重特異性抗体のポリペプチド鎖は、様々なリンカー及びペプチドを含み得る。このリンカー及びペプチドは、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又はより多くのアミノ酸であり得る。
【0308】
いくつかの態様では、ドメイン1は、システインリンカーを介して第1のヘテロ二量体促進ドメインに共有結合しており、ドメイン2は、システインリンカーを介して第2のヘテロ二量体促進ドメインに共有結合している。システインリンカーはそれぞれ、分子内ジスルフィド結合を可能にするために、少なくとも1つのシステイン残基を含む。上記のそれぞれのさらなる態様では、システインリンカー(リンカー3)は、少なくとも5個のアミノ酸を含む。
【0309】
いくつかの態様では、第1のポリペプチド鎖は、少なくとも1つのジスルフィド結合により第2のポリペプチド鎖に共有結合している。いくつかのそのような態様では、第1のポリペプチド鎖のリンカー3と第2のポリペプチド鎖のリンカー3との間には、少なくとも1つのジスルフィド結合が形成されている。別のそのような態様では、第1のヘテロ二量体促進ドメインと第2のヘテロ二量体促進ドメインとの間には、少なくとも1つのジスルフィド結合が形成されている。特定の態様では、各ジスルフィド結合は、2つのシステイン残基を連結することにより形成されている。本発明のある側面では、
図1に示す二重特異性抗体は、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む。いくつかのそのような態様では、リンカー3は、配列番号64の配列を有する、トランケートされたヒトIgG1下部ヒンジ領域を含み得、この下部ヒンジ領域には、少なくとも1つのグリシン残基が先行している。
【0310】
本発明の二重特異性抗体は、2種の別々の異なるエピトープに同時に結合し得る。ある特定の態様では、少なくとも1つのエピトープ結合部位は、免疫エフェクター細胞上で発現される(例えばT細胞リンパ球上で発現される)CD3決定基に特異的である。一態様では、この二重特異性抗体分子は、エフェクター細胞決定基に結合してエフェクター細胞も活性化する。
【0311】
一側面では、本発明は、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を提供する。一態様では、第1のポリペプチド鎖は、配列番号36として記載されているアミノ酸配列を含む。別の態様では、第2のポリペプチド鎖は、配列番号37又は38の内の1つ又は複数として記載されているアミノ酸配列を含む(表7)。好ましい態様では、第1のポリペプチド鎖は、配列番号36として記載されているアミノ酸配列を含み、第2のポリペプチド鎖は、配列番号37又は38として記載されているアミノ酸配列を含む。一態様では、第2のポリペプチド鎖は、界面を介して第1のポリペプチド鎖と会合し得る任意のポリペプチドである。表7は、GUCY2c-H2B4及びGUCY2c-2B5二重特異性抗体の第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖の配列を示す。
【0312】
【0313】
【0314】
【0315】
特定の態様では、本発明の二重特異性抗体は、(a)ヒト腫瘍抗原の細胞外ドメインに結合し、(b)30分から100日の延長された血清及び腫瘍半減期を示し、並びに/又は(c)腫瘍発現レベルの上昇若しくは受容体密度レベルの上昇の存在下で、0.0001nM~100nMの比較的低いEC50値を示す。
【0316】
一態様では、エピトープ結合ドメインは、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺(例えば、限定されないが、非小細胞肺癌、及び小細胞肺癌)、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、膠芽腫、及び消化器系癌に関連する腫瘍関連抗原に結合し得る。消化器系の癌として下記が挙げられるが、これらに限定されない:食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢、虫垂、胆管、及び膵臓の癌。特定の態様では、本治療は、細胞溶解性T細胞反応を活性化する。
ヒトIgG1 CH2~CH3でのエフェクターヌル変異
ヒトIgG1のFc鎖を、標準的なプライマーにより方向付けられるPCR変異誘発を使用して、変異L234A、L235A、及びG237A(配列番号82、EUインデックスに従うナンバリング)を導入するように改変して、エフェクター機能ヌル表現型をもたらすFcγRIIIへの結合に起因してエフェクター機能をオブラートした(oblate)(Canfield他,J.Exp.Med(1991)173:1483~1491;Shields他,J.Biol.Chem.(2001)276:6591~604)。
ヒトIgG1 CH2~CH3でのノブインホール変異
ノブインホールは、ヘテロ二量体化のために抗体重鎖ホモ二量体を設計するための当分野で公知の効果的な設計戦略である。このアプローチでは、「ノブ」バリアントを、IgG1のFc鎖の1つの鎖における小さいアミノ酸のより大きいアミノ酸への置き換え(例えば、Y349C及びT366W;EUインデックスに従うナンバリング)により得た。「ノブ」を、大きい残基のより小さい残基への置き換え(例えば、S354C、T366S、L368A、及びY407V;EUインデックスに従うナンバリング)により生じるFc鎖の相補鎖のCH3ドメイン中の「ホール」に挿入されるように設計した。
【0317】
いくつかの態様では、相補的変異を、生じたFc鎖のヘテロ二量体化を導くために導入し、その結果、各Fc鎖は、表8に記載されているように、ノブ(若しくは突起)Fc鎖のための変異Y349C及びT366W(配列番号78)又はホール(若しくは空洞)Fc鎖のための変異S354C、T366S、L368A、及びY407V(配列番号79)の1つのセットを保有するであろう。適切な哺乳動物宿主に共トランスフェクトされると、例えば配列番号78及び79のアミノ酸配列をコードするDNAにより、主に、1つのホール(又は空洞)Fc鎖と会合した1つのノブ(又は突起)Fc鎖を有する二重特異性抗体であるFcドメインが産生される。
【0318】
【0319】
本発明のCD3腫瘍抗原二重特異性抗体は、熱安定性試験において凝集に対して安定であり、ヒトCD3及び腫瘍抗原の両方を標的とする強力な二重特異性抗体-Fc融合体である。ノブインホールFcドメインは、CHO細胞中での発現の改善及び精製の改善を可能にし、その結果、所望のヘテロ二量体が高純度で得られる。Fcドメイン内で設計された変異はFcγR結合を抑止し、そのためADCCにより媒介されるT細胞の枯渇が潜在的に回避される。さらに、二重特異性抗体へのFcドメインの組込みにより、示差走査熱量測定(DSC)により示されるように、分子の安定性が増強される。
【0320】
二重特異性抗体を、鎖間ジスルフィド結合を形成するために、本発明の別のポリペプチド鎖上のカウンターパートのシステイン残基と相互作用し得る少なくとも1つのシステイン残基を含むように設計し得る。鎖間ジスルフィド結合は、二重特異性抗体を安定化させるのに役立ち得、組換え系における発現及び回収を改善し、安定しており、一貫した製剤をもたらし、並びに単離された及び/又は精製されたインビボでの生成物の安定性を改善する。システイン残基は、ポリペプチド鎖の任意の部分において、単一のアミノ酸として又はより大きいアミノ酸配列(例えばヒンジ領域)の一部として導入され得る。特定の側面では、少なくとも1つのシステイン残基は、ポリペプチド鎖のC末端に存在するように設計されている。
【0321】
本発明は、対象の癌の処置、予防、又は管理のための方法及び組成物であって、本発明に従って設計された抗体の治療上有効な量をこの対象に投与する工程を含み、この分子は癌抗原にさらに結合する、方法及び組成物を包含する。本発明の抗体は、原発性腫瘍及び癌細胞の転移の予防、阻害、増殖の減少、及び/又は退縮に特に有用であり得る。特定の作用機序に拘束されることは意図されていないが、本発明の抗体は、腫瘍クリアランス、腫瘍縮小、又はこれらの組み合わせをもたらし得るエフェクター機能を媒介し得る。
【0322】
一側面では、本発明は、本発明の抗体のCD3抗体を使用してT細胞活性化を刺激する治療的処置方法であって、本発明の抗体を含む医薬組成物が必要な対象に、本発明の抗体を含む医薬組成物の治療上有効な量を投与する工程を含む治療的方法を提供する。処置される障害は、CD3活性又はシグナル伝達の刺激により改善される(improved)、寛解される(ameliorate)、阻害される、又は予防されるあらゆる疾患又は状態である。特定の態様では、本発明は、二重特異性抗原結合分子(例えば、CD3及び標的抗原に結合する二重特異性抗体)を提供する。
【0323】
一側面では、本発明は、腫瘍の増殖を阻害する方法であって、この腫瘍と、CD3に結合する抗体(本明細書で説明されている抗体のそれぞれを含む)の有効な量とを接触させることを含む方法を提供する。
【0324】
別の側面では、本発明は、対象の腫瘍の増殖を阻害する方法であって、CD3に結合する抗体(本明細書で説明されている抗体のそれぞれを含む)の治療上有効な量をこの対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0325】
別の側面では、本発明は、対象における血管新生を調節する方法であって、CD3に結合する抗体(本明細書で説明されている抗体のそれぞれを含む)の治療上有効な量をこの対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0326】
別の側面では、本発明は、対象の腫瘍の腫瘍形成能を低下させる方法であって、CD3に結合する抗体(本明細書で説明されている抗体のそれぞれを含む)の治療上有効な量をこの対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0327】
一側面では、本発明は、対象における腫瘍抗原発現と関連する状態を処置する方法を提供する。従って、腫瘍抗原とT細胞上のCD3抗原とを免疫特異的に認識するように二重特異性抗体を設計することによる腫瘍抗原。本発明に従って設計されている二重特異性抗体は、CD3抗体により誘導された活性化キラーT細胞による細胞傷害活性を有することから、癌の予防又は処置に有用である。
【0328】
特定の態様では、本発明は、癌を処置する方法を提供する。特定の態様では、癌は、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺(非小細胞肺癌及び小細胞肺癌を含む)、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫、又は消化器系の癌である。ある特定の態様では、消化器系の癌は、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢、虫垂、胆管、及び膵臓からなる群から選択される。
【0329】
一側面では、本発明は、治療での使用のための本明細書で開示されている抗体、二重特異性抗体、又は医薬組成物を提供する。特定の態様では、本発明はまた、本明細書で定義された癌を処置する方法での使用のためのCD3二重特異性抗体も提供する。特定の態様では、この治療により、細胞溶解性T細胞反応が活性化される。
【0330】
本発明は、治療での使用のための薬物の製造での使用のための本明細書で開示されている抗体又は二重特異性抗体をさらに提供する。いくつかの態様では、この治療は、癌の処置である。いくつかの態様では、癌は、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺(非小細胞肺癌及び小細胞肺癌を含む)、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫、及び消化器系の癌からなる群から選択される。ある特定の態様では、消化器系の癌は、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢、虫垂、胆管、及び膵臓からなる群から選択される。
【0331】
一側面では、本発明は、本明細書で開示されている抗体又は二重特異性抗体をコードするポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本発明は、本明細書で開示されているポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。さらに別の態様では、本発明は、本明細書で開示されているベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかのそのような態様では、この宿主細胞は、本明細書で開示されている抗体又は二重特異性抗体を組換えにより産生する。特定の態様では、この宿主細胞は、細菌細胞株、哺乳類細胞株、昆虫細胞株、酵母細胞株、及びインビトロ細胞フリータンパク質合成系からなる群から選択される。特定の態様では、哺乳類細胞株は、CHO細胞株である。
【0332】
一側面では、提供されるのは、癌の処置が必要な対象の癌を処置する方法であって、a)本明細書で説明されている二重特異性抗体を提供する工程と、b)前記対象に前記二重特異性抗体を投与する工程とを含む方法である。
【0333】
いくつかの態様では、提供されるのは、腫瘍抗原を発現する悪性細胞を有する対象において腫瘍の増殖又は進行を阻害する方法であって、本明細書で説明されている抗体を含む組成物の有効な量をこの必要な対象に投与する工程を含む方法である。いくつかの態様では、提供されるのは、対象において腫瘍抗原を発現する転移細胞を阻害する方法であって、本明細書で説明されている抗体を含む組成物の有効な量をこの必要な対象に投与する工程を含む方法である。いくつかの態様では、提供されるのは、対象において悪性腫瘍の腫瘍退縮を誘発する方法であって、本明細書で説明されている抗体を含む組成物の有効な量をこの必要な対象に投与する工程を含む方法である。
【0334】
特定の側面では、本発明の抗体は、本発明の抗体又は二重特異性抗体の非存在下での癌細胞の増殖と比較して、癌細胞の増殖を少なくとも99%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも45%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも35%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも20%、又は少なくとも10%阻害するか、又は減少させる。
【0335】
特定の側面では、抗体は、本発明の抗体又は二重特性抗体の非存在下の場合と比べて、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%良好に、細胞を死滅させるか、又は癌細胞の増殖を減少させる。
【0336】
一側面では、本発明は、腫瘍抗原発現と関連する状態(例えば癌)の処置が必要な対象において腫瘍抗原発現と関連する状態(例えば癌)を処置するための本明細書で説明されている二重特異性抗体を含む組成物(例えば医薬組成物)の有効な量を提供する。
【0337】
別の側面では、本発明は、腫瘍抗原発現と関連する状態(例えば癌)の処置が必要な対象における腫瘍抗原発現と関連する状態(例えば癌)の処置での使用のための本明細書で説明されている抗体を提供する。いくつかの態様では、提供されるのは、腫瘍抗原を発現する悪性細胞を有する対象における腫瘍の増殖又は進行の阻害のための本明細書で説明されている抗体である。いくつかの態様では、提供されるのは、腫瘍抗原を発現する悪性細胞の転移の阻害が必要な対象における腫瘍抗原を発現する悪性細胞の転移の阻害のための本明細書で説明されている抗体である。いくつかの態様では、提供されるのは、腫瘍抗原を発現する悪性細胞を有する対象における腫瘍退縮の誘発のための本明細書で説明されている抗体である。
【0338】
別の側面では、本発明は、腫瘍抗原発現と関連する状態(例えば癌)を処置するための薬物の製造での本明細書で説明されている抗体の使用を提供する。いくつかの態様では、提供されるのは、腫瘍の増殖又は進行を阻害するための薬物の製造での本明細書で説明されている抗体の使用である。いくつかの態様では、提供されるのは、腫瘍抗原を発現する悪性細胞の転移を阻害するための薬物の製造での本明細書で説明されている抗体の使用である。いくつかの態様では、提供されるのは、腫瘍退縮を誘発するための薬物の製造での本明細書で説明されている抗体の使用である。
【0339】
いくつかの態様では、本明細書で説明されている方法は、追加の治療形態で対象を処置する工程をさらに含む。いくつかの態様では、この追加の治療形態は、追加の抗癌療法(例えば、限定されないが、化学療法、放射線、手術、ホルモン療法、及び/又は追加の免疫療法)である。
【0340】
本発明は、本発明の分子を、癌の処置又は予防のための当業者公知の他の治療(例えば、限定されないが、現在の標準的な及び実験的な化学療法、生物学的療法、免疫療法、放射線療法、又は手術)と組み合わせて投与することをさらに包含する。いくつかの側面では、本発明の分子を、癌の処置及び/又は予防のための当業者公知の1種又は複数種の薬剤、治療用抗体、又は他の薬剤の治療上又は予防上有効な量と組み合わせて投与し得る。
【0341】
従って、癌を処置する方法は、化学療法剤と組み合わせて、本発明の多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)の有効な量を、癌の処置が必要な対象に投与する工程を含む。そのような併用処置を、別々に施してもよいし、逐次に施してもよいし、同時に施してもよい。
【0342】
本明細書で提供される投与量及び投与頻度は、治療上有効及び予防上有効という用語に包含される。投与量及び頻度は、投与される特定の治療又は予防薬、癌の重症度及び種類、投与経路、並びに対象の年齢、体重、反応、及び過去の病歴に応じて、各対象に特有の因子に従って変動し得る。適切なレジメンは、そのような因子を考慮することにより、例えば文献で報告されており及びPhysician’s Desk Reference(第56版、2002)で推奨されている投与量に従うことにより、当業者によって選択され得る。
【0343】
従って、T細胞を腫瘍特異的抗原に再び方向付けることに加えて、二重特異性T細胞結合分子を使用して、その表面上で腫瘍を発現している細胞に他の診断用又は治療用化合物も運び得る。そのため、二重特異性T細胞結合分子は、腫瘍を有する細胞に直接送達されるように、薬剤に直接的に付着していてもよいし、例えばリンカーにより間接的に付着していてもよい。治療薬として、核酸、タンパク質、ペプチド、アミノ酸若しくは誘導体、糖タンパク質、放射性同位体、脂質、炭水化物、又は組換えウイルス等の化合物が挙げられる。核酸治療用部分及び診断用部分として、アンチセンス核酸、一本鎖又は二本鎖DNAと共有結合的に架橋するための誘導体化オリゴヌクレオチド、及び三重形成オリゴヌクレオチドが挙げられる。
医薬組成物
本発明は、本明細書で開示されている抗体の治療上有効な量と、薬学的に許容される担体とを含む組成物をさらに提供する。
【0344】
本発明の抗体は、選択された投与様式並びに薬学的に許容される希釈剤又は賦形剤(例えば、バッファー、界面活性剤、保存料、可溶化剤、等張剤、安定化剤、担体、及び同類のもの)に適切であるように製剤化されている投与用の医薬組成物の形態であり得る。Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton Pa.,第18版、1995は、専門家に一般的に知られている製剤化技術の概要を提供する。
【0345】
これらの医薬組成物を、癌を処置することが一般に意図されている目的を達成する当分野で公知の任意の手段により投与し得る。投与経路は、本明細書では、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、及び関節内の注射及び注入が挙げられるがこれらに限定されない投与様式を指すと定義されている非経口であり得る。本発明に係る分子(例えば、抗体、医薬組成物)の投与(administration)及び投与(dosing)の様式は、闘うべき疾患の種類、適切にはそのステージ、制御すべき抗原、同時処置の種類(存在する場合)、処置の頻度、所望の効果の性質に依存し、対象の体重、年齢、健康状態、食事、及び性別にも依存する。そのため、実施に採用される投与レジメンは大きく変わり得、従って、本明細書に記載されている投与レジメンから逸脱し得る。
【0346】
本発明の抗体の様々な製剤を、投与用に使用し得る。いくつかの態様では、この抗体を適切に投与し得る。いくつかの態様では、抗体及び薬学的に許容される賦形剤は、様々な製剤であり得る。薬学的に許容される賦形剤は当分野で公知であり、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする比較的不活性な物質である。例えば、賦形剤は、形状又は一貫性を付与し得るか、又は希釈剤として作用し得る。適切な賦形剤として、安定化剤、湿潤剤及び乳化剤、モル浸透圧濃度を変更するための塩、封入剤、バッファー、及び皮膚浸透促進剤が挙げられるが、これらに限定されない。賦形剤、並びに非経口の及び経口の薬物送達のための製剤は、Remington,The Science and Practice of Pharmacy 第21版,Mack Publishing,2005に記載されている。
【0347】
いくつかの態様では、これらの薬剤を、注射(例えば、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内等)による投与用に製剤化する。従って、これらの薬剤を、薬学的に許容されるビヒクル(例えば、生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖溶液、及び同類のもの)と組み合わせ得る。特定の投与レジメン(即ち、用量、タイミング、及び反復)は、特定の個体及びその個体の病歴に依存するであろう。
【0348】
本明細書で説明されている抗体を、任意の好適な方法(例えば、注射(例えば、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内等))を使用して投与することができる。本明細書で説明されているように、抗体(例えば、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体)を、吸入によっても投与する。一般に、本発明の抗体の投与のために、投与量は、処置される宿主及び特定の投与様式に依存する。一態様では、本発明の抗体の用量範囲は、約0.001μg/体重kg~約20,000μg/体重kgであるであろう。用語「体重」は、患者が処置されている際に適用される。単離細胞が処置されている場合には、「体重」は、本明細書で使用される場合、「全細胞体重」を指す。用語「全体重」は、単離細胞及び患者処置の両方に適用するために使用され得る。全ての濃度及び処置レベルは、本出願では、「体重」、又は単に「kg」で表され、類似の「全細胞体重」及び「全体重」濃度をカバーするとも考えられる。しかしながら、当業者は、様々な投与量範囲(例えば、0.01μg/体重kg~20,000μg/体重kg、0.02μg/体重kg~15,000μg/体重kg、0.03μg/体重kg~10,000μg/体重kg、0.04μg/体重kg~5,000μg/体重kg、0.05μg/体重kg~2,500μg/体重kg、0.06μg/体重kg~1,000μg/体重kg、0.07μg/体重kg~500μg/体重kg、0.08μg/体重kg~400μg/体重kg、0.09μg/体重kg~200μg/体重kg、又は0.1μg/体重kg~100μg/体重kg)の有用性を認識するであろう。さらに、当業者は、様々な異なる投与量レベル(例えば、0.0001μg/kg、0.0002μg/kg、0.0003μg/kg、0.0004μg/kg、0.005μg/kg、0.0007μg/kg、0.001μg/kg、0.1μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、5.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、30.0μg/kg、50μg/kg、75μg/kg、80μg/kg、90μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、140μg/kg、150μg/kg、160μg/kg、180μg/kg、200μg/kg、225μg/kg、250μg/kg、275μg/kg、300μg/kg、325μg/kg、350μg/kg、375μg/kg、400μg/kg、450μg/kg、500μg/kg、550μg/kg、600μg/kg、700μg/kg、750μg/kg、800μg/kg、900μg/kg、1μg/kg、5μg/kg、10μg/kg、12μg/kg、15mg/kg、20mg/kg、及び/又は30mg/kg)が使用されることを認識するであろう。これらの投与量は全て例示的であり、これらの点の間のあらゆる投与量も、本発明で使用されることが予想される。上記の投与量範囲又は投与量レベルの内のいずれかを、本発明の抗体に採用し得る。状態に応じて、数日以上にわたり投与を反復する場合には、症状の所望の抑制が起こるまで、又は十分な治療レベルが達成されるまで(例えば、腫瘍の増殖/進行又は癌細胞の転移の阻害又は遅延が達成されるまで)、処置が持続される。
【0349】
専門家が達成することを望む薬物動態崩壊のパターンに応じて、他の投与レジメンも有用であり得る。一態様では、本発明の抗体を、最初のプライミング用量で投与し、続いて、より高い及び/又は連続的な実質的に一定の投与量で投与する。いくつかの態様では、1週間に1~4回の投与が企図されている。いくつかの態様では、1ヶ月に1回、又は2ヶ月毎に若しくは3ヶ月毎に1回の投与が企図されている。この治療の進行は、従来の技術及びアッセイにより容易にモニタリングされる。投与レジメンは、経時的に変わり得る。
【0350】
本発明の目的のために、抗体の適切な投与量は、採用される抗体又はその組成物、処置される症状の種類及び重症度、この薬剤を治療目的で投与するかどうか、これまでの治療、患者の臨床歴及びこの薬剤に対する反応、投与された薬剤に関する患者のクリアランス率、並びに主治医の裁量に依存するであろう。典型的には、臨床医は、所望の結果が達成される投与量に達するまで抗体を投与するであろう。用量及び/又は頻度は、処置の過程中に変わり得る。半減期等の経験的な考慮は、一般に、投与量の決定に寄与するであろう。例えば、ヒト免疫系に適合する抗体(例えば、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体)を使用して、抗体の半減期を延長し得、抗体が宿主の免疫系に攻撃されることを防止し得る。投与頻度は、決定されて治療の過程中に調整され得、一般には、処置、並びに/又は症状の抑制及び/若しくは寛解及び/若しくは遅延(例えば腫瘍増殖の阻害若しくは遅延)等に基づいているが、必ずしもそうではない。或いは、抗体の持続的連続放出製剤が適切であり得る。持続的放出を達成するための様々な製剤及び装置が、当分野で知られている。
【0351】
一態様では、抗体の投与量を、抗体の1回又は複数回の投与を受けている個体において経験的に決定し得る。個体は、抗体の漸増的な投与量が投与される。有効性を評価するために、疾患の指標を追跡し得る。
【0352】
ある特定の態様では、抗体の投与により、下記からなる群から選択される少なくとも1つの効果がもたらされる:腫瘍増殖の阻害、腫瘍退縮、腫瘍サイズの減少、腫瘍細胞数の減少、腫瘍増殖の遅延、アブスコパル効果、腫瘍転移の阻害、経時的な転移性病変の減少、化学療法又は細胞傷害剤の使用の減少、腫瘍負荷の減少、無増悪生存率の増加、全生存率の増加、完全奏効、部分奏効、及び疾患の安定。
【0353】
本発明の方法に従う抗体の投与は、例えば、レシピエントの生理学的状態、投与の目的が治療的であるか予防的であるか、及び当業者公知の他の因子に応じて、連続的であり得るか、又は断続的であり得る。抗体の投与は、予め選択された期間にわたり本質的に連続的であってもよいし、一連の間隔を置いた投与であってもよい。
【0354】
いくつかの態様では、複数種の抗体が存在してもよい。少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種の異なる、又はより多くの抗体が存在し得る。一般に、これらの抗体は、互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有してもよい。例えば、下記の抗体の内の1つ又は複数を使用してもよい:CD3上の1つのエピトープを対象とする第1のCD3抗体、及びCD3上の異なるエピトープを対象とする第2のCD3抗体。
【0355】
いくつかの態様では、本開示の抗体は、非経口投与(例えば、静脈内投与、又は体腔若しくは器官の内腔への投与)に特に有用である。
本発明に従って使用される本抗体の治療用製剤を、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で、所望の程度の純度を有する抗体と、任意選択の薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤(Remington,The Science and Practice of Pharmacy 第21版,Mack Publishing,2005)とを混合することにより、貯蔵用に調製する。許容される担体、賦形剤、又は安定剤は、採用される投与量及び濃度にてレシピエントに対して無毒であり、下記を含み得る:バッファー、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸;塩、例えば塩化ナトリウム;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸及びメチオニン;保存料(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコール、若しくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチル若しくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10個未満の残基)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、若しくはリジン;単糖類、二糖類、及び他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、若しくはデキストリン;キレート剤、例えばEDTA;糖類、例えば、ショ糖、マンニトール、トレハロース、若しくはソルビトール;塩形成性対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);並びに/又は非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、若しくはポリエチレングリコール(PEG)。
【0356】
本抗体を含むリポソームを、当分野で公知の方法(例えば、Epstein他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688,1985;Hwang他,Proc.Natl Acad.Sci.USA 77:4030,1980;並びに米国特許第4,485,045号明細書及び同第4,544,545号明細書で説明されている)により調製する。循環時間が増強されているリポソームが、米国特許第5,013,556号明細書で開示されている。特に有用なリポソームを、ホスファチジルコリン、コレステロール、及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物による逆相蒸発法によって生成し得る。リポソームは、所望の直径を有するリポソームを得るために、細孔サイズが定義されているフィルタを通して押し出される。
【0357】
活性成分はまた、それぞれ、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、及びナノカプセル)又はマクロエマルションにおいて、例えば、コアセルベーション技術により又は界面重合により調製されたマイクロカプセル(例えば、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル、及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)に封入され得る。そのような技術は、Remington,The Science and Practice of Pharmacy 第21版,Mack Publishing,2005で開示されている。
【0358】
徐放性調製物も調製し得る。徐放性調製物の適切な例として、本抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは、成形品(例えば、フィルム又はマイクロカプセル)の形態である。徐放性マトリックスの例として、下記が挙げられる:ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又は’ポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号明細書)、L-グルタミン酸及び7エチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性のエチレン-酢酸ビニル、分解性の乳酸-グリコール酸のコポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸リュープロリドで構成された注射可能なマイクロスフェア)、ショ糖アセテートイソブチレート、並びにポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸。
【0359】
インビボでの投与に使用する製剤は、無菌でなければならない。このことは、例えば、無菌フィルタ膜を通したろ過により、容易に達成される。治療用抗体(例えばCD3抗体)組成物は、一般に、無菌アクセスポートを有する容器(例えば、皮下注射針により穿孔可能なストッパーを有する静脈注射用溶液のバッグ又はバイアル)に入れられる。
【0360】
本発明に係る組成物は、経口投与、非経口投与、又は直腸投与のための単位剤形(例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、又は懸濁液剤、又は座薬)であってもよいし、吸入又は吹送による投与のための単位剤形であってもよい。
【0361】
錠剤等の固体組成物を調製するために、主要な活性成分を、医薬担体(例えば、従来の錠剤化成分、例えば、コーンスターチ、乳糖、ショ糖、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、又はガム)及び他の医薬希釈剤(例えば水)と混合して、本発明の化合物又はその非毒性の薬学的に許容される塩の均質混合物を含む固体の予備処方組成物を形成する。この予備処方組成物を均質と呼ぶ場合には、活性成分が組成物全体にわたり等しく分散されており、その結果、この組成物は、錠剤、丸剤、及びカプセル剤等の等しく有効な単位剤形に容易に再分割され得ることを意味する。次いで、この固体の予備処方組成物を、本発明の活性成分0.1~約500mgを含む上記で説明した種類の単位剤形に再分割する。この新規組成物の錠剤又は丸剤を、コーティングするか又は他の方法で配合して、持続性作用という利点を付与する剤形を得ることができる。例えば、この錠剤又は丸剤は、内側の投与及び外側の投与成分を含み得、後者は、前者を覆うエンベロープの形態である。これら2種の成分を、胃中での崩壊に対して耐性を示すのに役立ち、内側の成分が十二指腸を無傷で通過するか又は遅れて放出されることを可能にする腸溶層で分離し得る。そのような腸溶層又はコーティングに様々な材料を使用し得、そのような材料として、多くの高分子酸、及び高分子酸とシェラック、セチルアルコール、及びセルロースアセテート等の材料との混合物が挙げられる。
【0362】
適切な界面活性剤として、特に、ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、Tween(商標)20、40、60、80、又は85)及び他のソルビタン(例えば、Span(商標)20、40、60、80、又は85)等の非イオン性の薬剤が挙げられる。界面活性剤を含む組成物は、好都合には0.05~5%の界面活性剤を含み、0.1~2.5%であり得る。必要に応じて、他の成分(例えば、マンニトール、又は他の薬学的に許容されるビヒクル)を添加してもよいことが認識されるであろう。
【0363】
本発明の範囲内の組成物は、癌を処置するために所望の医学的効果を達成するのに有効な量で抗体が存在する全ての組成物を含む。個々のニーズは患者によって異なり得るが、全ての成分の有効な量の最適な範囲の決定は、通常の技術を有する臨床医の能力の範囲内である。
【0364】
そのような組成物の例、及び製剤化の方法はまた、先のセクションでも説明されており、下記でも説明する。いくつかの態様では、この組成物は、1種又は複数種の抗体を含む。いくつかの態様では、この抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、又はキメラ抗体である。いくつかの態様では、この抗体は、所望の免疫反応(例えば、抗体媒介性溶解又はADCC)を誘発し得る定常領域を含む。いくつかの態様では、この抗体は、望まれていないか又は望ましくない免疫反応(例えば、抗体媒介性溶解又はADCC)を誘発しない定常領域を含む。
【0365】
この組成物は、CD3の様々なエピトープを認識するか又はCD3及び腫瘍抗原を認識するCD3抗体の混合物等の複数種の抗体を含み得ることが理解される。他の例示的な組成物は、同一のエピトープを認識する複数種の抗体を含むか、異なる種の抗体を含むか、又はCD3の様々なエピトープ及び腫瘍抗原(例えばヒトCD3)に結合する複数種の抗体を含む。
【0366】
いくつかの態様では、抗体を、1種又は複数種の追加の治療薬の投与と組み合わせて投与し得る。これらとして下記が挙げられるが、これらに限定されない:生物学的製剤及び/又は化学療法剤の投与、例えば、限定されないが、ワクチン、CAR-T細胞ベースの治療、放射酸治療、サイトカイン治療、CD3二重特異性抗体、他の免疫抑制経路の阻害剤、血管新生の阻害剤、T細胞活性化剤、代謝経路の阻害剤、mTOR阻害剤、アデノシン経路の阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、限定されないが、Inlyta、ALK阻害剤及びスニチニブ、BRAF阻害剤、エピジェネティック改変剤、IDO1阻害剤、JAK阻害剤、STAT阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、生物学的製剤(例えば、限定されないが、VEGF、VEGFR、EGFR、Her2/neu、他の増殖因子受容体、CD40、CD-40L、CTLA-4、OX-40、4-1BB、TIGIT、及びICOSに対する抗体)、免疫原性剤(例えば、弱毒化された癌細胞、腫瘍抗原、腫瘍由来抗原又は核酸を瞬間適用された抗原提示細胞(例えば樹状細胞)、免疫刺激サイトカイン(例えば、IL-2、IFNα2、GM-CSF)、GM-SCFが挙げられるがこれに限定されない免疫刺激サイトカインをコードする遺伝子でトランスフェクトされた細胞)。
【0367】
生物学的製剤の例として、治療用抗体、免疫調節剤、及び治療用免疫細胞が挙げられる。
治療用抗体は、様々な異なる抗原に対する特異性を有し得る。例えば、治療用抗体は、抗原へのこの抗体の結合がこの抗原を発現する細胞の死滅を促進するような腫瘍関連抗原を対象とし得る。他の例では、治療用抗体は、この抗体の結合が、抗原を発現する細胞の活性の下方制御を防止する(それにより、この抗原を発現する細胞の活性を促進する)ような、免疫細胞上の抗原(例えばPD-1)を対象とし得る。いくつかの状況下では、治療用抗体は、複数の異なるメカニズムを介して機能し得る(例えば、i)抗原を発現する細胞の死滅を促進すること、及びii)抗原が、この抗原を発現する細胞と接触する免疫細胞の活性の下方制御を引き起こすことを防止することの両方であり得る)。
【0368】
治療用抗体は、例えば、下記に列挙する抗原を対象とし得る。いくつかの抗原に関しては、この抗原を対象とする例示的な抗体も下記で含まれる(この抗原の後の角括弧/丸括弧内)。下記の抗原は、本明細書では「標的抗原」又は同類のものとも称され得る。この治療用抗体の標的抗原として、本明細書では、例えば下記が挙げられる:4-1BB(例えばウトミルマブ(utomilumab));5T4;A33;アルファ-葉酸受容体1(例えばミルベツキシマブソラブタンシン(mirvetuximab soravtansine));Alk-1;BCMA[例えばPF-06863135(米国特許第US9969809号明細書を参照されたい)];BTN1A1(例えば国際公開第2018222689号パンフレットを参照されたい);CA-125(例えばアバゴボマブ(abagovomab));カルボアンヒドラーゼIX;CCR2;CCR4(例えばモガムリズマブ);CCR5(例えばレロンリマブ(leronlimab));CCR8;CD3[例えばブリナツモマブ(CD3/CD19二重特異性)、PF-06671008(CD3/P-カドヘリン二重特異性)、PF-06863135(CD3/BCMA二重特異性)、PF-07062119(CD3/GUCY2c二重特異性)]CD19(例えばブリナツモマブ、MOR208);CD20(例えば、イブリツモマブチウキセタン、オビヌツズマブ、オファツムマブ、リツキシマブ、ウブリツキシマブ(ublituximab));CD22(イノツズマブオゾガマイシン、モキセツモマブパスドトクス);CD25;CD28;CD30(例えばブレンツキシマブベドチン);CD33(例えばゲムツズマブオゾガマイシン);CD38(例えば、ダラツムマブ、イサツキシマブ)、CD40;CD-40L;CD44v6;CD47;CD52(例えばアレムツズマブ);CD63;CD79(例えばポラツズマブベドチン);CD80;CD123;CD276/B7-H3(例えばオンブルタマブ(omburtamab));CDH17;CEA;ClhCG;CTLA-4(例えば、イピリムマブ、トレメリムマブ),CXCR4;デスモグレイン4;DLL3(例えばロバルピツズマブテシリン);DLL4;E-カドヘリン;EDA;EDB;EFNA4;EGFR(例えば、セツキシマブ、デパツキシズマブマホドチン、ネシツムマブ、パニツムマブ);EGFRvIII;エンドシアリン;EpCAM(例えばオポルツズマブモナトクス);FAP;胎児アセチルコリン受容体;FLT3(例えば国際公開第2018/220584号パンフレットを参照されたい);GD2(例えば、ジヌツキシマブ、3F8);GD3;GITR;GloboH;GM1;GM2;GUCY2C(例えばPF-07062119);HER2/neu[例えば、マルゲツキシマブ(margetuximab)、ペルツズマブ、トラスツズマブ;アド-トラスツズマブエムタンシン、トラスツズマブデュオカルマジン、PF-06804103(米国特許第8828401号明細書を参照されたい)];HER3;HER4;ICOS;IL-10;ITG-AvB6;LAG-3(例えばレラトリマブ(relatlimab));ルイス-Y;LG;Ly-6;M-CSF[例えばPD-0360324(米国特許第7326414号明細書を参照されたい)];MCSP;メソテリン;MUC1;MUC2;MUC3;MUC4;MUC5AC;MUC5B;MUC7;MUC16;ノッチ1;ノッチ3;ネクチン-4(例えばエンホルツマブベドチン);OX40[例えばPF-04518600(米国特許第7960515号明細書を参照されたい)];P-カドヘリン[例えばPF-06671008(国際公開第2016/001810号パンフレットを参照されたい)];PCDHB2;PD-1[例えば、BCD-100、カムレリズマブ、セミプリマブ、ゲノリムズマブ(genolimzumab)(CBT-501)、MEDI0680、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、RN888(国際公開第2016/092419号パンフレットを参照されたい)、シンチリマブ、スパルタリズマブ、STI-A1110、チスレリズマブ、TSR-042];PD-L1(例えば、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、BMS-936559(MDX-1105)、又はLY3300054);PDGFRA(例えばオララツマブ);形質細胞抗原;ポリSA;PSCA;PSMA;PTK7[例えばPF-06647020(米国特許第9409995号明細書を参照されたい)];Ror1;SAS;SCRx6;SLAMF7(例えばエロツズマブ);SHH;SIRPa(例えば、ED9、Effi-DEM);STEAP;TGF-ベータ;TIGIT;TIM-3;TMPRSS3;TNF-アルファ前駆体;TROP-2(例えばサシツズマブゴビテカン);TSPAN8;VEGF(例えば、ベバシズマブ、ブロルシズマブ);VEGFR1(例えばラニビズマブ);VEGFR2(例えば、ラムシルマブ、ラニビズマブ);Wue-1。
【0369】
治療用抗体は、任意の適切な形式を有し得る。例えば、治療用抗体は、本明細書の他の箇所で説明されている任意の形式を有し得る。いくつかの態様では、治療用抗体は、裸の抗体であり得る。いくつかの態様では、治療用抗体は、薬物/薬剤に連結され得る(「抗体-薬物複合体」(ADC)としても公知である)。いくつかの態様では、特定の抗原に対する治療用抗体は、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)に組み込まれ得る。
【0370】
いくつかの態様では、ある抗原を対象とする抗体は、薬物/薬剤に共役され得る。連結された抗体-薬物分子はまた、「抗体-薬物複合体」(ADC)とも称される。薬物/薬剤は、直接的に又はリンカーにより間接的に、抗体に連結され得る。最も一般的は、毒性薬物は、それぞれの抗原へのADCの結合がこの抗原を発現する細胞の死滅を促進するように、抗体に連結されている。例えば、毒性薬物に連結されているADCは、腫瘍関連抗原を発現する腫瘍細胞の死滅を促進するためにこの腫瘍関連抗原を標的するのに特に有用である。他の態様では、抗体に連結され得る薬剤は、例えば、免疫調節剤(例えば、ADCの近傍での免疫細胞の活性を調節するためのもの)であってもよいし、造影剤(例えば、対象中の又は対象由来の生物学的サンプル中のADCの撮影を容易にするためのもの)であってもよいし、抗体の血清半減期又は生物活性を増加させるための薬剤であってもよい。
【0371】
細胞傷害剤又は他の治療薬を抗体に共役させる方法は、様々な刊行物で説明されている。例えば、化学的修飾を、リジン側鎖アミンを介して、又は共役反応が起こる鎖間ジスルフィド結合を還元させることにより活性化されたシステインスルフヒドリル基を介して、抗体中で行い得る。例えば、Tanaka他,FEBS Letters 579:2092~2096,2005、及びGentle他,Bioconjugate Chem.15:658~663,2004を参照されたい。定義された化学量論での特異的薬物共役のために抗体の特定の部位で操作された反応性システイン残基も説明されている。例えば、Junutula他,Nature Biotechnology,26:925~932,2008を参照されたい。トランスグルタミナーゼ及びアミン(例えば、反応性アミンを含むか又は反応性アミンに付着した細胞傷害剤)の存在下でのポリペプチド操作による、アシルドナーグルタミン含有タグ又は反応性(即ち、アシルドナーとして共役結合を形成する能力)の内在性グルタミンを使用する共役も、国際公開第2012/059882号パンフレット及び同第2015015448号パンフレットで説明されている。いくつかの態様では、ADCは、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016166629号パンフレットに記載されているADCの特徴又は特性の内のいずれかを有し得る。
【0372】
ADC形式で抗体に連結され得る薬物/薬剤として、例えば、細胞傷害剤、免疫調節剤、造影剤、治療用タンパク質、生体高分子、又はオリゴヌクレオチドが挙げられ得る。
ADCに組み込まれ得る例示的な細胞傷害剤として、下記が挙げられる:アントラサイクリン、オーリスタチン(auristatin)、ドラスタチン、コンブレタスタチン、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン二量体、インドリノ-ベンゾジアゼピン二量体、エンジイン、ゲルダナマイシン、メイタンシン、ピューロマイシン、タキサン、ビンカアルカロイド、カンプトテシン、ツブリシン、ヘミアスターリン、スプリセオスタチン、プラジエノライド(pladienolide)、及びこれらの立体異性体、同配体、類似体、又は誘導体。
【0373】
ADCに組み込まれ得る例示的な免疫調節剤として、下記が挙げられる:ガンシクロビル、エタネルセプト、タクロリムス、シロリムス、ボクロスポリン、シクロスポリン、ラパマイシン、シクロホスファミド、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキシトレート(methotrextrate)、グルココルチコイド及びその類似体、サイトカイン、幹細胞増殖因子、リンパ毒素、腫瘍壊死因子(TNF)、造血因子、インターロイキン(例えば、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、及びIL-21)、コロニー刺激因子(例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF))、インターフェロン(例えば、インターフェロン-アルファ、-ベータ、及び-ガンマ)、「S1因子」と指定された幹細胞増殖因子、エリスロポエチン及びトロンボポエチン、又はこれらの組み合わせ。
【0374】
ADCに含まれる例示的な造影剤として、フルオレセイン、ローダミン、ランタニド蛍光体、及びこれらの誘導体、又はキレート剤に結合した放射性同位体が挙げられる。フルオロフォアの例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:フルオレセインイソチオシアネート(FITC)(例えば5-FITC)、フルオレセインアミダイト(FAM)(例えば5-FAM)、エオシン、カルボキシフルオレセイン、エリスロシン、Alexa Fluor(登録商標)(例えば、Alexa 350、405、430、488、500、514、532、546、555、568、594、610、633、647、660、680、700、又は750)、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)(例えば5,-TAMRA)、テトラメチルローダミン(TMR)、及びスルホローダミン(SR)(例えばSR101)。キレート剤の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン、1-グルタル酸-4,7-酢酸(デフェロキサミン)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、及び1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸)(BAPTA)。
【0375】
ADCに含まれ得る例示的な治療用タンパク質として、毒素、ホルモン、酵素、及び増殖因子が挙げられる。
ADCに組み込まれ得る例示的な生体適合性ポリマーとして、水溶性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)又はその誘導体、及び双性イオン含有生体適合性ポリマー(例えばホスホリルコリン含有ポリマー)が挙げられる。
【0376】
ADCに組み込まれ得る例示的な生体適合性ポリマーとして、アンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。
いくつかの態様では、本明細書で提供される抗原を対象とする抗体は、二重特異性分子に組み込まれ得る。二重特異性抗体は、少なくとも2種の異なる抗原に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。
【0377】
いくつかの態様では、二重特異性抗体は、第1の抗体可変ドメイン及び第2の抗体可変ドメインを含み、第1の抗体可変ドメインは、本明細書で提供されるCD3への特異的結合によりヒト免疫エフェクター細胞の活性をリクルートし得、第2の抗体可変ドメインは標的抗原に特異的に結合し得る。いくつかの態様では、この抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4アイソタイプを有する。いくつかの態様では、この抗体は、免疫学的に不活性なFc領域を含む。いくつかの態様では、この抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0378】
標的抗原は、典型的には、疾患状態の標的細胞(例えば癌細胞)上で発現される。二重特異性抗体での特定の目的の標的抗原の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:BCMA、EpCAM(上皮細胞付着分子)、CCR5(ケモカイン受容体5型)、CD19、HER(ヒト上皮増殖因子受容体)-2/neu、HER-3、HER-4、EGFR(上皮増殖因子受容体)、PSMA、CEA、MUC-1(ムチン)、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC7、CIhCG、ルイス-Y、CD20、CD33、CD30、ガングリオシドGD3、9-O-アセチル-GD3、GM2、グロボH、フコシルGM1、ポリSA、GD2、カルボアンヒドラーゼIX(MN/CA IX)、CD44v6、Shh(ソニックヘッジホッグ)、Wue-1、形質細胞抗原、(膜結合)IgE、MCSP(メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、CCR8、TNF-アルファ前駆体、STEAP、メソテリン、A33抗原、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、Ly-6;デスモグレイン4、E-カドヘリンネオペプチド、胎児アセチルコリン受容体、CD25、CA19-9マーカー、CA-125マーカー及びMIS(ミュラー管阻害物質)受容体II型、sTn(シアル化Tn抗原;TAG-72)、FAP(線維芽細胞活性化抗原)、エンドシアリン、EGFRvIII、LG、SAS、PD-L1、CD47、SIRPa、並びにCD63。
【0379】
いくつかの態様では、二重特異性抗体は完全長ヒト抗体を含み、この二重特異性抗体の第1の抗体可変ドメインは、CD3への特異的結合によりヒト免疫エフェクター細胞の活性をリクルートし得、このヘテロ二量体タンパク質の第2の抗体可変ドメインは、標的抗原(例えば、CD20、EpCAM、又はP-カドヘリン)に特異的に結合し得る。
【0380】
二重特異性抗体を製造する方法は、当分野で公知である(例えば、Suresh他,Methods in Enzymology 121:210,1986を参照されたい)。伝統的に、二重特異性抗体の組換えによる産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づいており、この2つの重鎖は特異性が異なる(Millstein及びCuello,Nature 305,537~539,1983)。
【0381】
二重特異性抗体を製造するための1つのアプローチによれば、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体-抗原結合部位)が、免疫グロブリン定常領域配列に融合している。この融合は、好ましくは、免疫グロブリン重鎖定常領域とであり、ヒンジ領域、CH2、及びCH3領域の少なくとも一部を含む。軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)が、この融合の少なくとも1つに存在することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合及び必要に応じて免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを、別々の発現ベクターに挿入し、適切な宿主生物に共トランスフェクトする。これにより、構築で使用される3本のポリペプチド鎖の不均等な比率が最適な収率をもたらす態様で、3つのポリペプチドフラグメントの相互割合の調整での大きな柔軟性がもたらされる。しかしながら、等比での少なくとも2本のポリペプチド鎖の発現により高収率がもたらされる場合には、又はこの比率が特に重要ではない場合には、1つの発現ベクター中に2本又は3本全てのペプチド鎖のコード配列を挿入することが可能である。
【0382】
1つのアプローチでは、二重特異性抗体は、一方のアームにおける、第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、他方のアームにおけるハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第2の結合特異性をもたらす)とで構成されている。この非対称構造(免疫グロブリン軽鎖は、二重特異性分子の半分にだけ存在する)は、不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせからの所望の二重特異性化合物の分離を容易にする。このアプローチは、国際公開第94/04690号パンフレットで説明されている。
【0383】
別のアプローチでは、二重特異性抗体は、一方のアームにおける、第1のヒンジ領域中でのアミノ酸改変と、別のアームにおける、第2のヒンジ領域中での対応するアミノ酸に反対の電荷を有する第1のヒンジ領域中の置換された/置き換えられたアミノ酸とで構成されている。このアプローチは、国際特許出願第PCT/US2011/036419号(国際公開第2011/143545号パンフレット)で説明されている。
【0384】
別のアプローチでは、所望のヘテロ多量体又はヘテロ二量体タンパク質(例えば二重特異性抗体)の形成は、第1の免疫グロブリン様Fc領域と第2の免疫グロブリン様Fc領域(例えば、ヒンジ領域及び/又はCH領域)との間の界面を変更するか又は操作することにより増強される。このアプローチでは、二重特異性抗体はCH3領域で構成され得、このCH3領域は、CH3界面を形成するために互いに相互作用する第1のCH3ポリペプチド及び第2のCH3ポリペプチドを含み、このCH3界面内の1つ又は複数のアミノ酸は、ホモ二量体形成を不安定にし、ホモ二量体形成に静電的に不利ではない。このアプローチは、国際特許出願第PCT/US2011/036419号(国際公開第2011/143545号パンフレット)で説明されている。
【0385】
別のアプローチでは、二重特異性抗体は、トランスグルタミナーゼの存在下で、一方のアームにおいて、この抗体がエピトープ(例えばBCMA)を対象とするように操作されたグルタミン含有ペプチドタグと、別のアームにおいて、二次抗体が第二のエピトープを対象とするように操作された別のペプチドタグ(例えば、Lys含有ペプチドタグ又は反応性内在性Lys)とを使用して生成され得る。このアプローチは、国際特許出願第PCT/IB2011/054899号(国際公開第2012/059882号パンフレット)で説明されている。
【0386】
いくつかの態様では、二重特異性抗体の第1及び第2の抗体可変ドメインは、この二重特異性抗体の第1及び第2の抗体可変ドメインが、ヒンジ領域中の223位、225位、及び228位でのアミノ酸改変(例えば、(C223E又はC223R)、(E225R)、及び(P228E又はP228R))とヒトIgG2のCH3領域中の409位又は368位でのアミノ酸改変(例えば、K409R又はL368E(EUナンバリングスキーム))とを含む位置でアミノ酸改変を含む。
【0387】
いくつかの態様では、二重特異性抗体の第1及び第2の抗体可変ドメインは、ヒンジ領域中の221位及び228位でのアミノ酸改変(例えば、(D221R又はD221E)、及び(P228R又はP228E))と、ヒトIgG1のCH3領域中の409位又は368位でのアミノ酸改変(例えば、K409R又はL368E(EUナンバリングスキーム))とを含む。
【0388】
いくつかの態様では、二重特異性抗体の第1及び第2の抗体可変ドメインは、ヒンジ領域中の228位でのアミノ酸改変(例えば(P228E又はP228R))と、ヒトIgG4のCH3領域中の409位又は368位でのアミノ酸改変(例えば、R409又はL368E(EUナンバリングスキーム))とを含む。
【0389】
いくつかの態様では、二重特異性抗体は、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016166629号パンフレットに記載されている二重特異性抗体の内のいずれかの特徴又は特性の内のいずれかを有し得る。
【0390】
免疫調節剤として、対象の免疫反応を刺激し得る様々な異なる分子型(例えば、パターン認識受容体(PRP)アゴニスト、免疫刺激性サイトカイン、及び癌ワクチン)が挙げられる。
【0391】
パターン認識受容体(PRP)は、免疫系の細胞により発現され、病原体及び/又は細胞の損傷若しくは死滅と関連する様々な分子を認識する受容体である。PRPは、自然免疫反応及び適応免疫免疫反応の両方に関与する。PRPアゴニストを使用して、対象の免疫反応を刺激し得る。複数のクラスのPRP分子(例えば、toll様受容体(TLR)、RIG-I様受容体(RLR)、ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン(NOD)様受容体(NLR)、C型レクチン受容体(CLR)、及びインターフェロン遺伝子刺激因子(STINNG)タンパク質)が存在する。
【0392】
用語「TLR」及び「toll様受容体」は、あらゆるtoll様受容体を指す。toll様受容体は、免疫反応の活性化に関与する受容体である。TLRは、例えば、微生物で発現される病原体関連分子パターン(PAMP)、及び死滅したか又は死滅する細胞から放出される内因性の損傷関連分子パターン(DAMP)を認識する。
【0393】
TLRを活性化する(及びそれにより免疫反応を活性化する)分子は、本明細書では「TLRアゴニスト」と称される。TLRアゴニストとして、例えば、小分子(例えば、分子量が約1000ダルトン未満である有機分子)、並びに大分子(例えば、オリゴヌクレオチド及びタンパク質)が挙げられ得る。いくつかのTLRアゴニストは、単一のタイプのTLR(例えば、TLR3又はTLR9)に特異的であり、いくつかのTLRアゴニストは、2種以上のタイプのTLR(例えば、TLR7及びTLR8の両方)を活性化する。
【0394】
本明細書で提供される例示的なTLRアゴニストとして、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、及びTLR9のアゴニストが挙げられる。
【0395】
例示的な小分子TLRアゴニストとして、例えば、下記で開示されているものが挙げられる:米国特許第4,689,338号明細書;同第4,929,624号明細書;同第5,266,575号明細書;同第5,268,376号明細書;同第5,346,905号明細書;同第5,352,784号明細書;同第5,389,640号明細書;同第5,446,153号明細書;同第5,482,936号明細書;同第5,756,747号明細書;同第6,110,929号明細書;同第6,194,425号明細書;同第6,331,539号明細書;同第6,376,669号明細書;同第6,451,810号明細書;同第6,525,064号明細書;同第6,541,485号明細書;同第6,545,016号明細書;同第6,545,017号明細書;同第6,573,273号明細書;同第6,656,938号明細書;同第6,660,735号明細書;同第6,660,747号明細書;同第6,664,260号明細書;同第6,664,264号明細書;同第6,664,265号明細書;同第6,667,312号明細書;同第6,670,372号明細書;同第6,677,347号明細書;同第6,677,348号明細書;同第6,677,349号明細書;同第6,683,088号明細書;同第6,756,382号明細書;同第6,797,718号明細書;同第6,818,650号明細書;及び同第7,7091,214号明細書;米国特許出願公開第2004/0091491号明細書、同第2004/0176367号明細書、及び同第2006/0100229号明細書;並びに国際公開第2005/18551号パンフレット、同第2005/18556号パンフレット、同第2005/20999号パンフレット、同第2005/032484号パンフレット、同第2005/048933号パンフレット、同第2005/048945号パンフレット、同第2005/051317号パンフレット、同第2005/051324号パンフレット、同第2005/066169号パンフレット、同第2005/066170号パンフレット、同第2005/066172号パンフレット、同第2005/076783号パンフレット、同第2005/079195号パンフレット、同第2005/094531号パンフレット、同第2005/123079号パンフレット、同第2005/123080号パンフレット、同第2006/009826号パンフレット、同第2006/009832号パンフレット、同第2006/026760号パンフレット、同第2006/028451号パンフレット、同第2006/028545号パンフレット、同第2006/028962号パンフレット、同第2006/029115号パンフレット、同第2006/038923号パンフレット、同第2006/065280号パンフレット、同第2006/074003号パンフレット、同第2006/083440号パンフレット、同第2006/086449号パンフレット、同第2006/091394号パンフレット、同第2006/086633号パンフレット、同第2006/086634号パンフレット、同第2006/091567号パンフレット、同第2006/091568号パンフレット、同第2006/091647号パンフレット、同第2006/093514号パンフレット、同第2006/098852号パンフレット。
【0396】
小分子TLRアゴニストの追加の例として、下記が挙げられる:ある特定のプリン誘導体(例えば、米国特許第6,376,501号明細書及び同第6,028,076号明細書で説明されているもの)、ある特定のイミダゾキノリンアミド誘導体(例えば、米国特許第6,069,149号明細書で説明されているもの)、ある特定のイミダゾピリジン誘導体(例えば、米国特許第6,518,265号明細書で説明されているもの)、ある特定のベンズイミダゾール誘導体(例えば、米国特許第6,387,938号明細書で説明されているもの)、5員の窒素含有複素環に融合した4-アミノピリミジンのある特定の誘導体(例えば、米国特許第6,376,501号明細書;同第6,028,076号明細書、及び同第6,329,381号明細書;並びに国際公開第02/08905号パンフレットで説明されているアデニン誘導体)、並びにある特定の3-ベータ-D-リボフラノシルチアゾロ[4,5-d]ピリミジン誘導体(例えば、米国特許出願公開第2003/0199461号明細書で説明されているもの)、並びにある特定の小分子免疫増強因子化合物(例えば、米国特許出願公開第2005/0136065号明細書で説明されているもの)。
【0397】
例示的な大分子TLRアゴニストとして、オリゴヌクレオチド配列が挙げられる。いくつかのTLRアゴニストオリゴヌクレオチド配列は、シトシン-グアニンジヌクレオチド(CpG)を含み、例えば、米国特許第6,194,388号明細書;同第6,207,646号明細書;同第6,239,116号明細書;同第6,339,068号明細書;及び同第6,406,705号明細書で説明されている。いくつかのCpG含有オリゴヌクレオチドとして、例えば米国特許第6,426,334号明細書及び同第6,476,000号明細書で説明されているもの等の合成免疫調節構造モチールが挙げられ得る。他のTLRアゴニストヌクレオチド配列はCpG配列を欠いており、例えば国際公開第00/75304号パンフレットで説明されている。さらに他のTLRアゴニストヌクレオチド配列として、グアノシン及びウリジンリッチ一本鎖RNA(ssRMNA)が挙げられ、例えば、Heil et ah,Science,第303巻,1526~1529頁,2004年3月5日で説明されているものが挙げられる。
【0398】
他のTLRアゴニストとして、アミノアルキルグルコサミニドホスフェート(AGP)等の生物学的分子が挙げられ、例えば、米国特許6,113,918号明細書;同第6,303,347号明細書;同第6,525,028号明細書;及び同第6,649,172号明細書で説明されている。
【0399】
TLRアゴニストとして、複数の異なるタイプのTLR受容体を活性化し得る、不活性化された病原体又はその画分も挙げられる。例示的な病原体由来TLRアゴニストとして、BCG、マイコバクテリム・オブエンセ(mycobacterium obuense)抽出物、タリモジーンラハーパレプベック(T-Vec)(HSV-1に由来する)、及びPexa-Vec(ワクチンウイルスに由来する)が挙げられる。
【0400】
いくつかの態様では、TLRアゴニストは、TLRに特異的に結合するアゴニスト抗体であり得る。
下記に、様々なTLR及びTLRアゴニストを簡単に説明する。特定のTLRに対する下記のTLRアゴニストの列挙は、所与のTLRアゴニストが必ずそのTLRのみを活性化することを示すと解釈すべきではない(例えば、ある特定の分子は、複数のタイプのTLRを活性化し得るか、又は複数のクラスのPRRを活性化し得る)。例えば、例示的なTLR4アゴニストとして下記で提供されるいくつかの分子はまた、TLR5アゴニストでもあり得る。
【0401】
用語「TLR1」及び「toll様受容体1」は、TLR1受容体のあらゆる形態、並びにTLR1の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR1への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR1は、全ての哺乳類種の天然配列TLR1(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR1は、UniProt Entry No.Q15399で提供される。
【0402】
「TLR1アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR1への結合時に、(1)TLR1を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR1の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR1の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR1アゴニストとして、例えば、TLR1に結合する細菌リポタンパク質及びその誘導体が挙げられる。
【0403】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR1アゴニストの例として、例えば下記が挙げられる:細菌リポタンパク質及びその誘導体、例えば、SPM-105(オートクレーブされたマイコバクテリアに由来する)、OM-174(脂質A誘導体)、OmpS1(サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)由来のポリン)、OmpS1(サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)由来のポリン)、OspA(ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)由来)、MALP-2(マイコプラズママクロファージ活性化リポペプチド-2kD)、STF(可溶性結核因子)、CU-T12-9、ジプロボシム(Diprovocim)、細胞壁成分に由来するリポペプチド、例えば、PAM2CSK4、PAM3CSK4、及びPAM3Cys。
【0404】
TLR1はTLR2とヘテロ二量体を形成し得、従って、多くのTLR1アゴニストはまた、TLR2アゴニストでもある。
用語「TRL2」及び「toll様受容体2」は、TLR2受容体のあらゆる形態、並びにTLR2の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR2への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR2は、全ての哺乳類種の天然配列TLR2(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR2は、UniProt Entry No.O60603で提供される。
【0405】
「TLR2アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR2への結合時に、(1)TLR2を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR2の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR2の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR2アゴニストとして、例えば、TLR2に結合する細菌リポタンパク質及びその誘導体が挙げられる。
【0406】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR2アゴニストの例として、例えば下記が挙げられる:細菌リポタンパク質(例えば脱アシル化リポタンパク質)及びその誘導体、例えば、SPM-105(オートクレーブされたマイコバクテリアに由来する)、OM-174(脂質A誘導体)、OmpS1(サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)由来のポリン)、OmpS1(サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)由来のポリン)、OspA(ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)由来)、MALP-2(マイコプラズママクロファージ活性化リポペプチド-2kD)、STF(可溶性結核因子)、CU-T12-9、ジプロボシム、アンプリバント(Amplivant)、細胞壁成分に由来するリポペプチド、例えば、PAM2CSK4、PAM3CSK4、及びPAM3Cys。
【0407】
TLR2はTLR1又はTLR6とヘテロ二量体を形成し得、従って、多くのTLR2アゴニストはまた、TLR1アゴニスト又はTLR6でもある。
用語「TRL3」及び「toll様受容体3」は、TLR3受容体のあらゆる形態、並びにTLR3の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR3への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR3は、全ての哺乳類種の天然配列TLR3(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR3は、UniProt Entry No.O15455で提供される。
【0408】
「TLR3アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR3への結合時に、(1)TLR3を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR3の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR3の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR3アゴニストとして、例えば、TLR3に結合する核酸リガンドが挙げられる。
【0409】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR3アゴニストの例として、下記が挙げられる:合成dsRNA、ポリイノシン-ポリシチジル酸[「ポリ(I:C)」](例えば、高分子量(HMW)調製物及び低分子量(LMW)調製物でInvivoGenから入手可能)、ポリアデニル-ポリウリジル酸[「ポリ(A:U)」](例えばInvivoGenから入手可能)、ポリICLC(Levy他,Journal of Infectious Diseases,第132巻,第4号,434~439頁,1975を参照されたい)、アンプリジェン(Jasani他,Vaccine,第27巻,第25~26号,3401~3404頁,2009を参照されたい)、ヒルトノール(Hiltonol)、リンタトリモド(Rintatolimod)、及びRGC100(Naumann他,Clinical and Developmental Immunology,第2013巻,論文ID 283649を参照されたい)。
【0410】
用語「TRL4」及び「toll様受容体4」は、TLR4受容体のあらゆる形態、並びにTLR4の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR4への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR4は、全ての哺乳類種の天然配列TLR4(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR4は、UniProt Entry No.O00206で提供される。
【0411】
「TLR4アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR4への結合時に、(1)TLR4を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR4の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR4の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR4アゴニストとして、例えば、TLR4に結合する細菌リポ多糖(LPS)及びその誘導体が挙げられる。
【0412】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR4アゴニストの例として、例えば下記が挙げられる:細菌リポ多糖(LPS)及びその誘導体、例えば、B:0111(Sigma)、モノホスホリル脂質A(MPLA)、3DMPL(3-O-脱アシル化MPL)、GLA-AQ、G100、AS15、ASO2、GSK1572932A(GlaxoSmithKline,UK)。
【0413】
用語「TRL5」及び「toll様受容体5」は、TLR5受容体のあらゆる形態、並びにTLR5の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR5への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR5は、全ての哺乳類種の天然配列TLR5(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR5は、UniProt Entry No.O60602で提供される。
【0414】
「TLR5アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR5への結合時に、(1)TLR5を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR5の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR5の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR5アゴニストとして、例えば、TLR5に結合する細菌フラゲリン及びその誘導体が挙げられる。
【0415】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR5アゴニストの例として、例えば下記が挙げられる:B.スブチリス(B.subtilis)から精製された細菌フラゲリン、P.アエルギノザ(P.aeruginosa)から精製されたフラゲリン、S.チフィムリウム(S.typhimurium)から精製されたフラゲリン、及び組換えフラゲリン(全てInvivoGenから入手可能)、エントリモド(CBLB502;薬理学的に最適化されたフラゲリン誘導体)。
【0416】
用語「TRL6」及び「toll様受容体6」は、TLR6受容体のあらゆる形態、並びにTLR6の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR6への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR6は、全ての哺乳類種の天然配列TLR6(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR6は、UniProt Entry No.Q9Y2C9で提供される。
【0417】
「TLR6アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR6への結合時に、(1)TLR6を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR6の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR6の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR6アゴニストとして、例えば、TLR6に結合する細菌リポペプチド及びその誘導体が挙げられる。
【0418】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR6アゴニストの例として、例えば、上記に記載したTLR2アゴニストの多くが挙げられ、なぜならば、TLR2及びTLR6はヘテロ二量体を形成し得るからである。TLR6はまた、TLR4ともヘテロ二量体を形成し得、TLR6アゴニストとして、上記に記載した様々なTLR4アゴニストが挙げられ得る。
【0419】
用語「TRL7」及び「toll様受容体7」は、TLR7受容体のあらゆる形態、並びにTLR7の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR7への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR7は、全ての哺乳類種の天然配列TLR7(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR7は、UniProt Entry No.Q9NYK1で提供される。
【0420】
「TLR7アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR7への結合時に、(1)TLR7を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR7の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR7の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR7アゴニストとして、例えば、TLR7に結合する核酸リガンドが挙げられる。
【0421】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR7アゴニストの例として、下記が挙げられる:組換え一本鎖(「ss」)RNA、イミダゾキノリン化合物、例えば、イミキモド(R837)、ガーディキモド、及びレシキモド(R848);ロキソリビン(7-アリル-7,8-ジヒドロ-8-オキソ-グアノシン)及び関連化合物;7-チア-8-オキソグアノシン、7-デアザグアノシン、及び関連グアノシン類似体;ANA975(Anadys Pharmaceuticals)及び関連化合物;SM-360320(Sumimoto);3M-01、3M-03、3M-852、及び3M-S-34240(3M Pharmaceuticals);GSK2245035(GlaxoSmithKline;8-オキソアデニン分子)、AZD8848(AstraZeneca;8-オキソアデニン分子)、MEDI9197(Medimmune;以前は3M-052)、ssRNA40、並びにアデノシン類似体、例えばUC-1V150(Jin他,Bioorganic Medicinal Chem Lett(2006)16:4559~4563、化合物4)。多くのTLR7アゴニストはまた、TLR8アゴニストでもある。
【0422】
用語「TRL8」及び「toll様受容体8」は、TLR8受容体のあらゆる形態、並びにTLR8の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR8への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR8は、全ての哺乳類種の天然配列TLR8(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR8は、UniProt Entry No.Q9NR97で提供される。
【0423】
「TLR8アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR8への結合時に、(1)TLR8を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR8の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR8の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR8アゴニストとして、例えば、TLR8に結合する核酸リガンドが挙げられる。
【0424】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR8アゴニストの例として、例えば下記が挙げられる:組換え一本鎖ssRNA、イミキモド(R837)、ガーディキモド、レシキモド(R848)、3M-01、3M-03、3M-852、及び3M-S-34240(3M Pharmaceuticals);GSK2245035(GlaxoSmithKline;8-オキソアデニン分子)、AZD8848(AstraZeneca;8-オキソアデニン分子)、MEDI9197(Medimmune;以前は3M-052)、ポリ-G10、モトリモド(Motolimod)、並びに上記に記載した様々なTLR7アゴニスト(既に言及したように、多くのTLR7アゴニストはまた、TLR8アゴニストでもある)。
【0425】
用語「TRL9」及び「toll様受容体9」は、TLR9受容体のあらゆる形態、並びにTLR9の活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトTLR9への具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、TLR9は、全ての哺乳類種の天然配列TLR9(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR9は、UniProt Entry No.Q9NR96で提供される。
【0426】
「TLR9アゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR9への結合時に、(1)TLR9を刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)TLR9の活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)TLR9の発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なTLR9アゴニストとして、例えば、TLR9に結合する核酸リガンドが挙げられる。
【0427】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なTLR9アゴニストの例として、下記が挙げられる:非メチル化CpG含有DNA、免疫賦活性オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、例えばCpG含有ODN、例えば、CpG24555、CpG10103、CpG7909(PF-3512676/アガトリモド(agatolimod))、CpG1018、AZD1419、ODN2216、MGN1703、SD-101、1018ISS、及びCMP-001。TLR9アゴニストとして、合成シトシン-ホスフェート-2’-デオキシ-7-デアザグアノシンジヌクレオチド(CpR)(Hybridon,Inc.)を含むヌクレオチド配列、dSLIM-30L1、及び免疫グロブリン-DNA複合体も挙げられる。例示的なTLR9アゴニストが、国際公開第2003/015711号パンフレット、同第2004/016805号パンフレット、同第2009/022215号パンフレット、PCT/US95/01570、PCT/US97/19791、並びに米国特許第8552165号明細書、同第6194388号明細書、及び同第6239116号明細書(それぞれは、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる)で開示されている。
【0428】
RLRとして、例えばdsRNAを検出する様々な細胞質PRRが挙げられる。RLRの例として、例えば、レチノイン酸誘導性遺伝子I(RIG-I)、メラノーマ分化関連遺伝子5(MDA-5)、及びLaboratory of Genetics and Physiology 2(LGP2)が挙げられる。
【0429】
「RLRアゴニスト」は、本明細書で使用される場合、RLRへの結合時に、(1)RLRを刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)RLRの活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)RLRの発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なRLRアゴニストとして、例えば、RLRに結合する核酸及びその誘導体、並びにRLRに特異的に結合するアゴニストモノクローナル抗体(mAb)が挙げられる。
【0430】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なRLRアゴニストの例として、例えば下記が挙げられる:キャップのない5’トリホスフェートを有する短い二本鎖RNA(RIG-Iアゴニスト);ポリI:C(MDA-5アゴニスト)、及びBO-112(MDA-Aアゴニスト)。
【0431】
NLRとして、例えば損傷関連分子パターン(DAMP)分子を検出する様々なPRRが挙げられる。NLRとして、サブファミリNLRA-A、NLRB-B、NLRC-C、及びNLRP-Pが挙げられる。NLRの例として、例えば、NOD1、NOD2、NAIP、NLRC4、及びNLRP3が挙げられる。
【0432】
「NLRアゴニスト」は、本明細書で使用される場合、NLRへの結合時に、(1)NLRを刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)NLRの活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)NLRの発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なNLRアゴニストとして、例えば、NLRに結合するDAMP及びその誘導体、並びにNLRに特異的に結合するアゴニストモノクローナル抗体(mAb)が挙げられる。
【0433】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なNLRアゴニストの例として、例えば、リポソームムラミルトリペプチド/ミファムルチド(NOD2アゴニスト)が挙げられる。
CLRとして、例えば炭水化物及び糖タンパク質を検出する様々なPRRが挙げられる。CLRとして、膜貫通CLR及び分泌CLRの両方が挙げられる。CLRの例として、例えば、DEC-205/CD205、マクロファージマンノース受容体(NMR)、デクチン-1、デクチン-2、ミンクル、DC-SIGN、DNGR-1、及びマンノース結合レクチン(MBL)が挙げられる。
【0434】
「CLRアゴニスト」は、本明細書で使用される場合、CLRへの結合時に、(1)CLRを刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)CLRの活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)CLRの発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なCLRアゴニストとして、例えば、CLRに結合する炭水化物及びその誘導体、並びにCLRに特異的に結合するアゴニストモノクローナル抗体(mAb)が挙げられる。
【0435】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なCLRアゴニストの例として、例えば、MD画分(グリフォラ・フロンドサ(Grifola frondosa)由来の精製済可溶性ベータ-グルカン抽出物)、及びインプライムPGG(酵母由来のベータ1,3/1,6-グルカンPAMP)が挙げられる。
【0436】
STINGタンパク質は、1型インターフェロンシグナル伝達における細胞質DNAセンサー及びアダプタータンパク質の両方として機能する。用語「STING」及び「インターフェロン遺伝子刺激因子」は、STINGタンパク質のあらゆる形態、並びにSTINGの活性の少なくとも一部を保持するバリアント、アイソフォーム、及び種相同体を指す。例えばヒトSTINGへの具体的な言及により、そうではないことが示されない限り、STINGは、全ての哺乳類種の天然配列STING(例えば、ヒト、サル、及びマウス)を含む。例示的な一ヒトTLR9は、UniProt Entry No.Q86WV6で提供される。STINGはまた、TMEM173としても公知である。
【0437】
「STINGアゴニスト」は、本明細書で使用される場合、TLR9への結合時に、(1)STINGを刺激するか若しくは活性化するあらゆる分子、(2)STINGの活性、機能、若しくは存在を増強するか、増加させるか、促進するか、誘導するか、若しくは延長させるあらゆる分子、又は(3)STINGの発現を増強するか、増加させるか、促進するか、若しくは誘発するあらゆる分子を意味する。本発明の処置方法、薬物、及び使用の内のいずれかで有用なSTINGアゴニストとして、例えば、STINGに結合する核酸リガンドが挙げられる。
【0438】
本発明の処置方法、薬物、及び使用で有用なSTINGアゴニストの例として、下記が挙げられる:様々な免疫賦活性核酸、例えば、合成二本鎖DNA、環状ジ-GNP、環状GMP-AMP(cGAMP)、合成環状ジヌクレオチド(CDN)、例えば、MK-1454及びADU-S100(MIW815)、並びに小分子、例えばP0-424。
【0439】
他のPRRとして、例えば、IFN調節因子のDNA依存性活性化因子(DAI)、及びアブセントインメラノーマ2(Absent in Melanoma 2)(AIM2)が挙げられる。
【0440】
免疫刺激性サイトカインとして、免疫反応を刺激する様々なシグナル伝達タンパク質が挙げられ、例えば、インターフェロン、インターロイキン、及び造血成長因子が挙げられる。
【0441】
例示的な免疫刺激性サイトカインとして、GM-CSF、G-CSF、IFN-アルファ、IFN-ガンマ;IL-2(例えばデニロイキンジフチトクス)、IL-6、IL-7、IL-11、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、及びTNF-アルファが挙げられる。
【0442】
免疫刺激性サイトカインは、任意の適切な形式を有し得る。いくつかの態様では、免疫刺激性サイトカインは、野生型サイトカインの組換えバージョンであり得る。いくつかの態様では、免疫刺激性サイトカインは、対応する野生型サイトカインと比較した場合に1つ又は複数のアミノ酸の変化を有する変異タンパク質であり得る。いくつかの態様では、免疫刺激性サイトカインは、サイトカインと、少なくとも1種の他の機能性タンパク質(例えば抗体)とを含むキメラタンパク質に組み込まれ得る。いくつかの態様では、免疫刺激性サイトカインは、薬物/薬剤(例えば、可能なADC成分として本明細書の他の箇所で説明されている任意の薬物/薬剤)に共有結合的に連結され得る。
【0443】
癌ワクチンとして、腫瘍関連抗原を含み(又は、対象において腫瘍関連抗原を生成するために使用され得)、そのため、腫瘍関連抗原を含む腫瘍細胞を対象とする対象における免疫反応を誘発するために使用され得る様々な組成物が挙げられる。
【0444】
癌ワクチンに含まれ得る例示的な物質として、弱毒化された癌細胞、腫瘍抗原、腫瘍由来抗原又は腫瘍関連抗原をコードする核酸を瞬間適用された樹状細胞等の抗原提示細胞が挙げられる。いくつかの態様では、癌ワクチンは、患者自身の癌細胞で調製され得る。いくつかの態様では、癌ワクチンは、患者自身の癌細胞由来ではない生物学的物質で調製され得る。
【0445】
癌ワクチンとして、例えば、シプルセル-T(sipuleucel-T)及びタリモジェンラヘルパレプベク(talimogene laherparepvec)(T-VEC)が挙げられる。
【0446】
免疫細胞療法は、癌細胞を標的とし得る免疫細胞で患者を処置することを含む。免疫細胞療法は、例えば、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)及びキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)を含む。
【0447】
化学療法剤の例として、下記が挙げられる:アルキル化剤、例えば、チオテパ及びシクロホスファミド;スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa);エチレンイミン及びメチルアラメラミン、例えば、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、及びトリメチロロメラミン;アセトゲニン(特に、ブラタシン及びブラタシノン);カンプトテシン(例えば、合成類似体トポテカン);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(例えば、そのアドゼレシン、カルゼルシン、及びビゼレシン合成類似体);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(例えば、合成類似体KW-2189及びCBI-TMI);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリチアマイシン、特にカリチアマイシンガンマ1I及びカリチアマイシンphiI1、例えばAgnew,Chem.Intl.Ed.Engl.,33:183-186(1994)を参照されたい;ダイネミシン、例えば、ダイネミシンA;ビスフォスフォネート、例えばクロドロネート;エスペラミシン;並びにネオカルジノスタチンクロモフォア、及び関連色素タンパク質エンジイン抗生物質クロモフォア)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(例えば、モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、及びデオキシドキソルビシン)、ペグ化リポソームドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えばマイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗薬、例えば、メトトレキサート及び5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充薬、例えば、フォリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;マイタンシノイド、例えば、マイタンシン及びアンサマイトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;ポロフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特に、T-2毒素、ベラクリンA(verracurin A)、ロリジンA、及びアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「アラ-C]);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル及びドセタキセル;クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;プラチナ類似体、例えば、シスプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RES 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えばレチノイン酸;カペシタビン;並びに上記の内のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、又は誘導体。同様に挙げられるのは、下記である;抗エストロゲン及び選択的エストロゲン受容体調節因子(SERM)等の腫瘍に対するホルモン作用を調製するか又は阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(Fareston);副腎におけるエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤、例えば、4(5)-イミダゾール、アミノグルテチミド、酢酸メゲストロール、エキセメスタン、ホルメスタン、ファドロゾール、ボロゾール、レトロゾール、及びアナストラゾール;並びに抗アンドロゲン、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン;KRAS阻害剤;MCT4阻害剤;MAT2a阻害剤;チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、スニチニブ、アキシチニブ;alk/c-Met/ROS阻害剤、例えば、クリゾチニブ、ロルラチニブ;mTOR阻害剤、例えば、テムシロリムス、ゲダトリシブ;src/abl阻害剤、例えばボスチニブ;サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤、例えば、パルボシクリブ、PF-06873600;efb阻害剤、例えばダコミチニブ;PARP阻害剤、例えばタラゾパリブ;SMO阻害剤、例えば、グラスデギブ、PF-5274857;EGFR T790M阻害剤、例えばPF-06747775;EZH2阻害剤、例えばPF-06821497;PRMT5阻害剤、例えばPF-06939999;TGFRβr1阻害剤、例えばPF-06952229;並びに上記の内のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、又は誘導体。具体的な態様では、そのような追加の治療薬は、ベバシズマブ、セツキシマブ、シロリムス、パニツムマブ、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、チボザニブ、イリノテカン、オキサリプラチン、シスプラチン、トリフルリジン、チピラシル、ロイコボリン、ゲムシタビン、レゴラフェニブ、又は塩酸エルロチニブである。
【0448】
いくつかの態様では、抗体は、免疫チェックポイント調節因子又は同時刺激因子を標的とする1種又は複数種の他の治療薬と共に使用され、この他の治療薬として、例えば、限定されないが、下記を標的とする薬剤である:CTLA-4、LAG-3、B7-H3、B7-H4、B7-DC(PD-L2)、B7-H5、B7-H6、B7-H8、B7-H2、B7-1、B7-2、ICOS、ICOS-L、TIGIT、CD2、CD47、CD80、CD86、CD48、CD58、CD226、CD155、CD112、LAIR1、2B4、BTLA、CD160、TIM1、TIM-3、TIM4、VISTA(PD-H1)、OX40、OX40L、GITR、GITRL、CD70、CD27、4-1BB、4-BBL、DR3、TL1A、CD40、CD40L、CD30、CD30L、LIGHT、HVEM、SLAM(SLAMF1、CD150)、SLAMF2(CD48)、SLAMF3(CD229)、SLAMF4(2B4、CD244)、SLAMF5(CD84)、SLAMF6(NTB-A)、SLAMCF7(CS1)、SLAMF8(BLAME)、SLAMF9(CD2F)、CD28、CEACAM1(CD66a)、CEACAM3、CEACAM4、CEACAM5、CEACAM6、CEACAM7、CEACAM8、CEACAM1-3AS CEACAM3C2、CEACAM1-15、PSG1-11、CEACAM1-4C1、CEACAM1-4S、CEACAM1-4L、IDO、TDO、CCR2、CD39-CD73-アデノシン経路(A2AR)、BTKs、TIKs、CXCR2、CXCR4、CCR4、CCR8、CCR5、CSF-1、又は自然免疫反応調節因子。
【0449】
いくつかの態様では、抗体は、例えば下記と共に使用される:抗CTLA-4アンタゴニスト抗体、例えばイピリムマブ;抗LAG-3アンタゴニスト抗体、例えばBMS-986016及びIMP701;抗TIM-3アンタゴニスト抗体;抗B7-H3アンタゴニスト抗体、例えばMGA271;抗VISTAアンタゴニスト抗体;抗TIGITアンタゴニスト抗体;抗体;抗CD80抗体;抗CD86抗体;抗B7-H4アンタゴニスト抗体;抗ICOSアゴニスト抗体;抗CD28アゴニスト抗体;自然免疫反応調節因子(例えば、TLR、KIR、NKG2A)、並びにIDO阻害剤。
【0450】
いくつかの態様では、抗体は、例えば抗OX-40アゴニスト抗体等のOX40アゴニストと共に使用される。いくつかの態様では、抗体は、例えば抗GITRアゴニスト抗体(例えば、限定されないが、TRX518)等のGITRアゴニストと共に使用される。いくつかの態様では、抗体は、IDO阻害剤と共に使用される。いくつかの態様では、抗体は、サイトカイン療法(例えば、限定されないが、IL-15、CSF-1、MCSF-1等)と共に使用される。
【0451】
いくつかの態様では、抗体は、1種又は複数種の他の治療用抗体(例えば、限定されないが、CD19、CD22、CD40、CD52、又はCCR4を標的とする抗体)と共に使用される。
【0452】
ある特定の態様では、抗体組成物は、少なくとも1種の追加の薬剤(例えば、ベバシズマブ、セツキシマブ、シロリムス、パニツムマブ、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、チボザニブ、イリノテカン、オキサリプラチン、シスプラチン、トリフルリジン、チピラシル、ロイコボリン、ゲムシタビン、及び塩酸エルロチニブ)を含む。
【0453】
いくつかの態様では、本抗体療法を、数分から数週間の範囲の間隔で、他の薬剤処置と併用してもよいし、他の薬剤処置の前又は後に順次施してもよい。他の薬剤及び/又はタンパク質若しくはポリヌクレオチドを別々に投与する態様では、一般に、本発明の薬剤及び組成物が依然として対象に対して有利な複合効果を発揮し得るように、各送達の間に有意な期間が終了しないことが確実にされるであろう。そのような場合では、両方のモダリティが互いに約12~24時間以内に施され得、より好ましくは互いに約6~12時間以内に施され得ることが企図される。しかしながら、いくつかの状況では、それぞれの投与の間に数日(2日、3日、4日、5日、6日、又は7日)~数週間(1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、又は8週間)が経過する場合には、投与期間を大幅に延ばすことが望ましい場合がある。
【0454】
いくつかの態様では、本発明の抗体は、手術、放射線療法、化学療法、標的療法、免疫療法、ホルモン療法、血管新生阻害、及び緩和ケアからなる群から選択される伝統的な療法をさらに含む処置レジメンと組み合わされる。
【0455】
本発明で使用される組成物は、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤をさらに含み得る(レジメン:The Science and practice of Pharmacy 第21版,2005,Lippincott Williams及びWilkins編,K.E.Hoover)。許容される担体、賦形剤、又は安定剤は、本投与量及び本濃度ではレシピエントに対して無毒であり、下記を含み得る:バッファー、例えば、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸;酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸及びメチオニン;保存料(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール、アルキルパラベン、例えば、メチル若しくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10個未満の残基)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、若しくはリジン;単糖、二糖、及びその他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、若しくはデキストラン;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えば、ショ糖、マンニトール、トレハロース、若しくはソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属複合体(例えばZn-タンパク質複合体);並びに/又は非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、若しくはポリエチレングリコール(PEG)。薬学的に許容される賦形剤が、本明細書でさらに説明されている。
【0456】
一側面では、本発明は、本明細書で開示されている抗体を製造する方法であって、本明細書で開示されている抗体が産生される条件下で、宿主細胞を培養する工程と、培養物から抗体又は二重特異性抗体を精製する工程とを含む方法を提供する。
【0457】
別の側面では、本発明は、腫瘍抗原関連障害の検出、診断、及び/又は処置のための薬物の製造での、本明細書で開示されている抗体、医薬組成物、ポリヌクレオチド、ベクター、又は宿主細胞の使用を提供する。
診断用途
一側面では、本発明のCD3抗体を使用して、例えば診断目的のために、試料中のCD3又はCD3発現細胞を検出し得る、及び/又は測定し得る。例えば、このCD3抗体を使用して、CD3の異常な発現(例えば、過剰発現、発現不足、発現の欠如等)を特徴とする状態又は疾患を診断し得る。CD3に関する例示的な診断アッセイは、例えば、対象から得られた試料と、本発明のCD3抗体とを接触させる工程を含み得、このCD3抗体は、検出可能な標識又はレポーター分子で標識されている。或いは、非標識のCD3抗体を、それ自体が検出可能に標識されている二次抗体との組み合わせで、診断用途で使用し得る。この検出可能な標識又はレポーター分子は、下記であり得る:放射性同位体、例えば、14C、3H、125I、32P、若しくは35S;蛍光部分若しくは化学発光部分、例えば、フルオレセインイソチオシアネート若しくはローダミン;又は酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、若しくはルシフェラーゼ。試料中のCD3を検出するために又は測定するために使用され得る特定の例示的なアッセイとして、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)、及び同類のものが挙げられるが、これらに限定されない。本発明に係るCD3診断アッセイで使用され得る試料は、正常な条件下で又は病理学的条件下で検出可能な量のCD3タンパク質又はそのフラグメントを含む患者から得られる任意の組織試料又は液体試料を含む。一般に、CD3のベースラインレベル又は標準レベルを最初に確立するために、健康な患者(例えば、異常なCD3レベル又は活性と関連する疾患又は状態を患っていない患者)から得られた特定の試料中のCD3のレベルを測定する。次いで、CD3のこのベースラインレベルを、CD3関連の疾患又は状態を有すると疑われる個体から得られた試料で測定されたCD3のレベルと比較し得る。
【0458】
別の側面では、提供されるのは、腫瘍抗原発現と関連する状態を検出する、診断する、及び/又はモニタリングする方法である。例えば、本明細書で説明されている多重特異性抗体は、造影剤及び酵素基質標識等の検出可能な部分で標識され得る。同様に、本明細書で説明されている抗体を、インビボでの撮像(例えば、PET若しくはSPECT)等のインビボでの診断アッセイ、又は染色試薬に使用し得る。
キット
本発明のさらなる側面は、本明細書の上記で開示されている抗体と、本明細書で説明されている本発明の方法の内のいずれかに従う使用のための指示書とを含むキットである。一般に、この指示書は、上記で説明されている治療的処置のための抗体の投与の説明を含む。このキットは、本明細書で開示されている任意の医薬組成物を含む。この医薬組成物及び他の試薬は、任意の便利な形態(例えば、溶液又は粉末の形態)で、このキット中に存在し得る。
【0459】
別の側面では、キットは、1つ又は複数の容器中に、癌の処置に有用な1種又は複数種の他の予防又は治療薬をさらに含む。一態様では、この他の予防又は治療薬は、化学療法剤である。他の側面では、この予防又は治療薬は、生物学的治療薬又はホルモン治療薬である。
【0460】
本発明の医薬組成物、予防、又は治療薬のいくつかの側面を、好ましくは、ヒトでの使用に先立って、所望の治療活性に関して、インビトロで、細胞培養系で、及び動物モデル生物(例えば、齧歯類動物モデル系)で試験する。
【0461】
本発明の予防及び/又は治療プロトコルの毒性及び有効性を、例えば、LD50(集団の50%に致死の用量)及びED50(集団の50%で治療上有効な用量)を決定するために、細胞培養物又は実験動物における標準的な薬学的手順により決定し得る。毒性と治療効果と間の用量比は治療指標であり、比LD50/ED50で表され得る。大きな治療指標を示す予防及び/又は治療薬が好ましい。
【0462】
さらに、当業者公知の任意のアッセイを使用して、癌の処置又は予防のために本明細書で開示されている療法又は併用療法の予防上の及び/又は治療上の有用性を評価し得る。
本明細書で説明されている二重特異性抗体の使用に関する指示書は、一般に、意図された処置のための投与量、投与スケジュール、及び投与経路に関する情報を含む。容器は、単位用量であってもよいし、バルクパッケージ(例えばマルチ用量パッケージ)であってもよいし、副単位用量(sub-unit dose)であってもよい。本発明のキットに供給される指示書は、典型的には、ラベル上の又はパッケージ挿入物(例えば、このキットに含まれる紙シート)上の書面での指示書であるが、機械可読の指示書(例えば、磁気又は光学保存ディスクで運ばれる指示書)も許容される。
【0463】
本発明のキットは、適切な包装に入っている。適切な包装として、対象への医薬組成物の投与での使用のための各医薬組成物及び他の含まれる試薬(例えば、バッファー、平衡塩溶液等)のためのバイアル、アンプル、チューブ、ボトル、ジャー、可撓性包装(例えば、密封されたマイラ又はプラスチック袋)、及び同類のものが挙げられるが、これらに限定されない。同様に企図されるのは、特定のデバイス(例えば、吸入器、経鼻投与デバイス(例えば噴霧器)、又はミニポンプ等の輸液デバイス)との組み合わせでの使用のためのパッケージである。キットは、無菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針より穿刺可能なストッパーを有する静脈内溶液袋又はバイアルであり得る)。同様に、容器は、無菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針より穿刺可能なストッパーを有する静脈内溶液袋又はバイアルであり得る)。この組成物中の少なくとも1種の活性剤は、抗体である。容器は、第2の薬学的に活性な薬剤をさらに含み得る。
【0464】
通常、このキットは、容器と、この容器上の又はこの容器と関連するラベル又はパッケージ挿入物とを含む。
生物学的寄託
本発明の代表的な物質を、2018年2月13日に、American Type Culture Collection(ATCC),10801 University Boulevard,Manassas,Va.20110-2209,USAに寄託した。ATCC受託番号PTA-124943を有するベクターGUCY2C-1608鎖A(VH-ホール 配列番号94)は、二重特異性抗体GUCY2C-1608のVH-ホール鎖をコードするDNAインサートを含み、このDNAインサートは、CD3抗体軽鎖可変領域(配列番号3)をコードするポリヌクレオチド(配列番号70)を含み、ATCC受託番号PTA-124944を有するベクターGUCY2C-1608鎖B(VL-ノブ 配列番号93)は、二重特異性抗体GUCY2C-1608のVL-ノブ鎖をコードするDNAインサートを含み、このDNAインサートは、CD3抗体重鎖可変領域(配列番号4)をコードするポリヌクレオチド(配列番号71)を含む。
【0465】
この寄託を、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約の条項及びその下の規則(ブダペスト条約)の規定に基づいて行った。これにより、寄託日から30年にわたり、この寄託物の生存可能な培養物の維持が保証される。この寄託物は、ブダペスト条約の条項の下で、Pfizer,Inc.とATCCとの間の同意を条件として、ATCCによって利用可能にされることになり、この同意は、関係する米国特許の発行の後、又はいずれか早くなる任意の米国若しくは外国特許出願が公衆に公開された後、公衆に寄託物の培養物の子孫の永続的及び非限定的な利用可能性を保証し、米国特許法第122条及びそれに準じた長官規則(886OG638を特に参照して連邦規則法典第37巻第1.14条を含む)に従って権利を与えられていると米国特許商標庁長官によって判定された者への子孫の利用可能性を保証するものである。
【0466】
本願の譲受人は、寄託中の物質の培養物が、適切な条件下で培養された際に死滅するか又は失われるか又は破壊された場合に、この物質を、別の同じものと通知時に即座に置き換えることに同意した。寄託した物質の利用可能性は、任意の政府の権限下でその特許法に従って与えられた権利に違反して本発明を実施するライセンスとして解釈されるべきでない。
【0467】
非限定的に、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
CD3に特異的に結合する抗体であって、
a.配列番号2、4、5、7、10、12、若しくは35に示すVH配列の、VH相補性決定領域1(VH CDR1)、VH相補性決定領域2(VH CDR2)、及びVH相補性決定領域3(VH CDR3)を含む重鎖可変(VH)領域、並びに/又は
b.配列番号1、3、6、8、9、11、34、87、若しくは89に示すVL配列の、VL相補性決定領域1(VL CDR1)、VL相補性決定領域2(VL CDR2)、及びVL相補性決定領域3(VL CDR3)を含む軽鎖可変(VL)領域
を含む抗体。
[態様2]
a.(i)配列番号13、14、若しくは15の配列を含むVH CDR1;(ii)配列番号16、17、19、20、21、22、23、若しくは24の配列を含むVH CDR2;及びiii)配列番号18若しくは25の配列を含むVH CDR3を含むVH領域、並びに/又は
b.(i)配列番号26、29、30、32、91、若しくは92の配列を含むVL CDR1;(ii)配列番号27若しくは31の配列を含むVL CDR2;及び(iii)配列番号28若しくは33の配列を含むVL CDR3を含むVL領域
を含む、態様1に記載の抗体。
[態様3]
a.前記VH領域が、配列番号2、4、5、7、10、12、若しくは35の配列を含み、及び/又は
b.前記VL領域が、配列番号1、3、6、8、9、11、34、87、若しくは89の配列を含む、態様1又は2に記載の抗体。
[態様4]
配列番号1及び2;配列番号3及び2;配列番号3及び4;配列番号3及び5;配列番号6及び7;配列番号8及び7;配列番号6及び4;配列番号8及び4;配列番号9及び10;配列番号9及び7;配列番号11及び12;配列番号34及び35;配列番号9及び4;配列番号87及び4;並びに配列番号89及び4からなる群から選択されるVL/VHアミノ酸配列対を含む、態様1~3のいずれか一項に記載の抗体。
[態様5]
Fab、Fabフラグメント、F(ab)2フラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント、一本鎖抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、多重特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性二特異性抗体、二重特異性ヘテロ二量体性IgG、ポリクローナル抗体、標識抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及びこれらのフラグメントからなる群から選択される、態様1~4のいずれか一項に記載の抗体。
[態様6]
二重特異性抗体である、態様5に記載の抗体。
[態様7]
腫瘍抗原に特異的に結合する、態様5又は6に記載の二重特異性抗体。
[態様8]
ヒト又はヒト化VHフレームワーク、及びヒト又はヒト化VLフレームワークをさらに含む態様1~7のいずれか一項に記載の抗体。
[態様9]
ヒト化抗体である、態様1~8のいずれか一項に記載の抗体。
[態様10]
態様1~9のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
[態様11]
T細胞媒介性免疫反応の調節が必要な対象におけるT細胞媒介性免疫反応を調節する方法であって、態様1~9のいずれか一項に記載の抗体又は態様10に記載の医薬組成物を前記対象に投与して、前記対象における前記免疫反応を調節する工程を含む方法。
[態様12]
対象の腫瘍細胞の増殖を阻害する方法であって、前記腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量で、態様1~9のいずれか一項に記載の抗体又は態様10に記載の医薬組成物を前記対象に投与する工程を含む方法。
[態様13]
前記腫瘍細胞が、がんに由来する、態様12に記載の方法。
[態様14]
前記がんが、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫癌、及び消化器系の癌からなる群から選択される、態様13に記載の方法。
[態様15]
前記消化器系の癌が、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢、虫垂、胆管、及び膵臓からなる群から選択される、態様14に記載の方法。
[態様16]
治療での使用のための、態様1~9のいずれか一項に記載の抗体又は態様10に記載の医薬組成物。
[態様17]
治療での使用のための薬物の製造における、態様1~9のいずれか一項に記載の抗体又は態様10に記載の医薬組成物。
[態様18]
前記治療が、細胞溶解性T細胞反応の活性化を含む、態様16又は17に記載の抗体。
[態様19]
態様1~9のいずれか一項に記載の抗体をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
[態様20]
態様19に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[態様21]
態様20に記載のベクターを含む宿主細胞。
[態様22]
態様1~9のいずれか一項に記載の抗体を組換えにより産生する、態様21に記載の宿主細胞。
[態様23]
前記宿主細胞が、細菌細胞株、哺乳類細胞株、昆虫細胞株、及び酵母細胞株からなる群から選択される、態様21又は22に記載の宿主細胞。
[態様24]
前記哺乳類細胞株が、CHO細胞株である、態様23に記載の宿主細胞。
[態様25]
抗体を製造する方法であって、態様1~9のいずれか一項に記載の抗体が産生される条件下で、態様21~24のいずれか一項に記載の宿主細胞を培養する工程と、前記抗体を培養上清から精製する工程とを含む方法。
[態様26]
障害を処置するための薬物の製造における、態様1~9のいずれか一項に記載の抗体、態様10に記載の医薬組成物、態様19に記載のポリヌクレオチド、態様20に記載のベクター、又は態様21~24のいずれか一項に記載の宿主細胞の使用。
[態様27]
T細胞媒介性免疫反応の調節が必要な対象におけるT細胞媒介性免疫反応を調節する方
法での使用のための、態様1~9のいずれか一項に記載の抗体又は態様10に記載の医薬組成物。
[態様28]
対象の腫瘍細胞の増殖を阻害する方法での使用のための、態様1~9のいずれか一項に記載の抗体又は態様10に記載の医薬組成物。
[態様29]
癌の処置での使用のための態様1~9のいずれか一項に記載の抗体又は態様10に記載の医薬組成物であって、任意選択で、前記癌は、乳房、卵巣、甲状腺、前立腺、子宮頸部、肺、膀胱、子宮内膜、頭頸部、精巣、神経膠芽腫癌、及び消化器系の癌からなる群から選択される、抗体又は医薬組成物。
[態様30]
前記T細胞媒介性免疫反応が調節されるか、又は前記腫瘍細胞の増殖が阻害される、態様29に記載の使用のための態様1~9のいずれか一項に記載の抗体又は態様10に記載の医薬組成物。
本発明を実行するための特定の側面の下記の実施例は、例示の目的のみで提供され、いかなる方法によっても本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0468】
実施例1
可溶性CD3edの生成
短いリンカー(配列番号39)を介してタンデムに融合したCD3イプシロン及びCD3デルタサブユニットの細胞外ドメインを表す名称CD3edによるタンパク質を、標準的な分子生物学、タンパク質の発現及び精製技術を使用して生成した。表9に示すアミノ酸(配列番号40)をコードする遺伝子を有するプラスミドを、トランスフェクション剤としてPEIを使用して、20Lの培養量にて、HEK293細胞に一過的にトランスフェクトした。37℃での7日にわたるインキュベーションの後、収集物20Lを、His60樹脂(PBSで平衡化した)50mlに一晩バッチ結合させた。次いで、結合した樹脂をPBSで洗浄し、続いて10mMイミダゾール含有PBSバッファー(10~15CV)で洗浄した。洗浄後、200mMのイミダゾール含有リン酸バッファーでタンパク質を溶出させた。次いで、溶出画分をSDSゲルで分析した。純粋なタンパク質を含む画分を一緒にプールし、3kDa Amicon ultra centriconsを使用して濃縮した。タンパク質を安定に保つために、濃縮時に試料中で5%グリセロールを維持した。His60プールを、サイズ排除Superdex200カラム上にさらにロードする。CD3イプシロン/デルタヘテロ二量体を含む画分をSDS-PAGEで分析し、関連する画分をプールして0.22μmろ過した。表9は、タンデムに融合しており、全ての最適化作業の抗原として使用したCD3イプシロン/デルタサブユニットの配列を示す。
【0469】
【0470】
実施例2
CD3抗体H2B4のフレームワーク最適化
リードCD3e(CD3イプシロン)抗体H2B4は、二重特異性二特異性抗体Fc形式で使用した場合に、より低い熱安定性を示した。安定性を改善するために、VH3(DP54)として重鎖フレームワークを残しつつ、軽鎖フレームワークをVK4からVK1へと変更した(DPK9)。DPK9フレームワークに、VL CDR1(配列番号26)、VL CDR2(配列番号27)、及びVL CDR3(配列番号28)を移植し、重鎖が持つCDRであるVH CDR1(配列番号13)、VH CDR2(配列番号16)、及びVH CDR3(配列番号18)と組み合わせて発現させた。フレームワークへのCDRの移植に加えて、ある特定の逆変異も試験した。重鎖及び軽鎖フレームワークの両方に導入された逆変異を表10に示し、逆変異が実施された残基番号を示す。
【0471】
関連するCDRドナー配列と共に、ヒトアクセプターフレームワーク、重鎖用のVH3、及び軽鎖用のVK1を含むcDNAを合成した。合成したcDNA生成物をサブクローニングし、哺乳類発現ベクターにおいて、重鎖の場合にはヒトIgG1定常領域により、及び軽鎖の場合にはヒトカッパにより、インフレームで融合させた。H2B4抗体と区別するために、これらのバリアントを2B5と呼び、全ての最適化分子を、これ以降は2B5及びそのバリアントと称する。全ての2B5変異体を、CD3eの内因性発現を有するJurkat細胞への競合的結合に関して分析した。
【0472】
競合FACSを実施して、ヒト化2B5が細胞表面上のエピトープへのその結合を維持しているかどうかを調べた。この競合FACS実験の前に、キメラcH2B4をビオチン化した。Jurkat細胞へのビオチン化cH2B4の結合のEC50を、FACSを使用する直接結合により決定し、0.8nMであると決定した。この競合FACSのために、3倍連続希釈した抗体バリアントを、EC50濃度を表すビオチン-cH2B4の一定量及び1.0+E05個の細胞/ウェルのJurkat細胞と混合した。この混合物を、氷上で1時間にわたりインキュベートし、続いてFACSバッファーで3回洗浄した。この細胞に、二次抗体であるPE(フィコエリトリン)共役ストレプトアビジン(PE-SA)を添加し、氷上で30分にわたりインキュベートした。次いで、FACS CANTO(商標)(BD Biosciences)によるFACSによって、蛍光強度の中央値(MFI)を分析した。Y軸算出:最大への結合%=[MFI(連続希釈したAbウェル)-MFI(第2のPE-SA)]/[MFI最大(ビオチン-cH2B4のみを含むJurkat細胞)-MFI(第2のPE-SA)]。表10は、変異をCD3抗体H2B4に導入してフレームワークを最適化した場合の競合結合のIC50値の結果を示す。この結果に基づいて、H2B4 1.0/1.0Tは、H2B4に類似する結合特性を示しており、CD3抗体結合ドメイン2B5と表す。
【0473】
【0474】
実施例3
H2B4及び2B5配列を使用する二重特異性二特異性抗体-Fc分子の生成及びキャラクタリゼーション
当分野で公知の標準的な発現及び精製技術を使用し、
図1(概要)に示す配置の内の1つでCD3抗体2B5又はH2B4(表2及び表3)並びにGUCY2c抗体配列を使用して、二重特異性二特異性抗体-Fc分子を生成した。得られた二重特異性抗体(表7;配列番号36~38)を、示差走査熱量測定を使用して安定性に関して試験した。
【0475】
実施例4
示差走査熱量測定を使用する二重特性の安定性評価
タンパク質を、400μlの体積で0.6mg/mlまでリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液で希釈した。PBSを、参照細胞におけるバッファーブランクとして使用した。PBSは、137mM NaCl、2.7mM KCl、8.1mM Na2HPO4、及び1.47mM KH2PO4を含んだ(pH7.2)。試料を、オートサンプラを備えたMicroCal VP-Capillary DSC(Malvern Instruments Ltd,Malvern,UK)の試料トレイに分注した。試料を、10℃で5分にわたり平衡化し、次いで、1時間当たり100℃の速度で110℃まで走査した。16秒のフィルタリング期間を選択した。生データをベースライン補正し、タンパク質濃度を正規化した。Origin Software 7.0(OriginLab Corporation,Northampton,MA)を使用して、適切な転移数でデータをMN2-State Modelにフィットさせた。
図2に示すように、GUCY2c-2B5二重特異性は、GUCY2c-H2B4二重特異性と比較して5℃改善された第1の融解転移を示した。このことは、2B5含有二重特異性抗体がより良好な安定性を示すことを示す。
【0476】
2種の二重特性抗体を、当分野で公知であり、
図3に示す標準的な手順を利用するFACAを使用してT細胞への結合に関して調べ、両方の二重特異性抗体とも、H2B4から2B5への変換時に結合が保持されることを示すT細胞への類似の結合を示した。
【0477】
H2B4及び2B5二重特異性抗体の両方とも、細胞傷害性アッセイで試験して、T細胞のリダイレクション活性を評価した。
図4に示すように、両方の二重特異性抗体とも、2B5がH2B4と同一の活性を保持したことを示す類似の細胞傷害性を示した。
【0478】
実施例5
2B5の構造ベースの合理的変異誘発
CD3抗体H2B4結合ドメインは、DNA及びインスリンへの結合により評価した場合に多反応性を示しており、高いAC-SINSスコアで示した場合に自己会合傾向を示しており、CHO宿主細胞中で発現させた場合にCDR-H2のR53位でクリッピング傾向を有する。CDRH2での多反応性、自己会合傾向、及びクリッピングを減少させるために、2B5のCDRでの変異を、結合親和性及び安定性を維持しつつこれらの傾向を減少させるように設計した。この努力のために、結合エピトープを表し、CD3イプシロンサブユニットのN末端に由来するペプチドとの複合体で得られたCD3抗体H2B4のx線結晶構造を使用して、全ての予測を行った。過剰な正電荷及び/又は疎水性が多反応性で主要な役割を果たし得たことは、当分野で周知である。Discovery Studio 4.0
1のDelPhi Poisson Boltzmann計算機を使用して、この結晶構造からH2B4 Fv領域の静電気表面を決定した。
図5では、負電荷により分割されていない過剰な正電荷パッチを観察し得た。このことは、高い多反応性との相関を示唆する。追加で、Discovery Studio
1でのSpatial Aggregation Propensity(SAP)ツールを使用して、過剰な疎水性パッチを決定した(
図6)。
図6に示すように、この疎水性パットは、小さくて実質的ではないように見える。この観察に基づいて、正電荷を除去するか又はパッチを分割するために負電荷を追加することによる正電荷の減少に焦点が当てられた。
【0479】
変異誘発の適切な位置を決定するために、Discovery Studio及びFoldXを使用して、親和性の変化及び安定性の変化の両方に関する変異の計算予測を行った。許容される変異は、Discovery Studio法及びFoldX法の両方でΔΔG>1kcal/molを有することが予想されないものである。これらの予測から、変化パッチを依然として分割しつつ結合及び安定性への影響が最も小さいと予測されるであろう残基のセットが同定された。加えて、本発明者らは、疎水性表面を増加させることが難しい親水性変異を好んだ。生物学的特性を最適するためにCD3抗体2B5で導入される可能なCDR変異のリストを、表11に示す。これには、各位置で許容され、多反応性及びクリッピングを減少させると予測される変異が含まれる。
【0480】
【0481】
加えて、複数の変異のセット(組み合わせ)も、重鎖及び軽鎖に関して設計した。これらとして、重鎖に関するR52Q/R52bQ/R53Q、R52Q/R52bQ/R53Q/R96Q、R52bQ/R53Q/R96Q、及びR52Q/R52bQ/R96Qと、軽鎖に関するR29Q/K30Q/R54L/V27eE、R29Q_R54L_V27eE、R29Q_K30Q_R54Lとが挙げられる。
【0482】
実施例6
変異体のキャラクタリゼーション
全ての変異体を、当分野で周知である標準的な発現及び精製技術を使用してIgG分子として生成し、CD3edへの結合、多反応性(DNA及びインスリンへの結合)、並びにAC-SINSに関して試験した。
バリアントを評価するための結合アッセイ
10ug/mlの可溶性ヒトCD3ed抗原(配列番号40)での結合及び解離速度の両方を調べるために、Octetアッセイを設計して実行した。抗ヒトIgGチップを使用して、120秒にわたり10ug/mlの濃度で抗CD3抗体を捕捉し、続いて30秒にわたりPBSでのベースラインで捕捉し、次いで120秒にわたり10ug/mlの濃度の可溶性ヒトCD3ed抗原に浸漬させ、最後に300秒にわたり解離させた。センサーグラムを調べて抗原が抗体に結合しているかどうかを決定し、Octetソフトウェアを使用してkd(1/秒)及びkd誤差を算出した。26種の合理的な変異が、hCD3ed抗原への結合を保持した。次いで、抗原に依然として結合している26種のCD3抗体バリアントに関して可溶性CD3への結合の速度論を、Biacore分析を使用してSPRにより調べた。CD3抗体を抗ヒトFcで捕捉し、捕捉した抗体上に0、3.7、11.1、33.3、及び100nMの濃度の可溶性CD3抗原を注入して、結合の速度論を決定した。23種のCD3抗体は、CDR移植親抗体と同様の親和性で可溶性CD3抗原に結合した。
多反応性を測定するためのDNA及びインスリンELISA
384ウェルELISAプレート(Nunc Maxisorp)を、PBS pH7.5中のDNA(10μg/ml)(Sigma-Aldrich,D1626)及びインスリン(5μg/ml)(Sigma-Aldrich,I9278-5mL)で、4℃にて一晩被覆した。Tiller他(17)で説明されているアッセイから適応させたELISAを、PerkinElmer Janus Automated Workstation液体取扱ロボットで実行した。ウェルを水で洗浄し、室温で1時間にわたりPolyreactivity ELISAバッファー(PEB;0.05%Tween-20、1mM EDTAを含むPBS)50μlでブロックし、水で3回すすいだ。このウェルに、25ulで連続希釈したmAbを4重で添加し、室温で1時間にわたりインキュベートした。プレートを水で3回洗浄し、各ウェルに、西洋ワサビペルオキシダーゼ(Jackson ImmunoResearch,109-035-008)に共役した10ng/mlのヤギ抗ヒトIgG(Face fragment specific)25μlを添加した。プレートを室温で1時間にわたりインキュベートし、水80μlで3回洗浄し、各ウェルに、TMB基質(Sigma-Aldrich,T-0440)25μlを添加した。各ウェルに0.18Mオルトリン酸25μlを添加することにより、およそ7分後に反応を停止させ、450nmで吸光度を読み取った。DNA及びインスリン結合スコアを、一次抗体の代わりにバッファーを含むウェルのシグナルに対する10μg/mlでの抗体のELISAシグナルの比として算出した。8未満のスコアが理想的とみなされ、低い多反応性を示した。
自己会合傾向を測定するためのAC-SINSアッセイ
AC-SINS(親和性捕捉自己相互作用ナノ粒子分光法(Affinity Capture Self-interaction Nanoparticle Spectroscopy))アッセイを、Perkin-Elmer Janus液体取扱ロボットで、384ウェル形式で標準化した。20nmの金ナノ粒子(Ted Pella,Inc.,#15705)を、80%ヤギ抗ヒトFc(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.#109-005-09)及び20%非特異的ヤギポリクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.#005-000-003)の混合物で被覆し、20mM酢酸ナトリウムpH4.3にバッファー交換して0.4mg/mlまで希釈した。室温での1時間のインキュベーション後、金ナノ粒子上の非占有部位を、チオール化ポリエチレングリコール(2kD)でブロックした。次いで、この被覆ナノ粒子を、シリンジフィルタを使用して10倍に濃縮し、10μlを、PBS pH7.2中の0.05mg/mlでmAb 100μlに添加した。この被覆ナノ粒子を、96ウェルポリプロピレンプレート中で2時間にわたり目的の抗体と共にインキュベートし、次いで384ウェルポリスチレンプレートに移してTecan M1000分光光度計で読み取った。吸光度を、2nm増加で450~650から読み取り、Microsoft Excelマクロを使用して、最大吸光度を特定し、データを平滑化し、二次多項式を使用してデータをフィットさせた。平均ブランク(PBSバッファーのみ)の平滑化された最大吸光度を、抗体試料の平滑化された最大吸光度から減算して、抗体AC-SINSスコアを決定した。8未満のスコアが理想的とみなされ、低い自己会合度を示した。
二特異性抗体-Fc二重特異性形式でのリードCD3抗体2B5バリアントの評価
結合アッセイ、AC-SINS、及び多反応性からのデータの包括的分析は、抗腫瘍配列を使用し、当分野で周知の標準的なクローニング戦略を使用して二重特異性二特異性抗体-Fc分子に再設定された5種へと結合バリアントを絞り込むのに役立った。これらの二重特異性抗体を、当分野で周知の標準的な技術を使用して過渡的に発現させて精製した。得られた二重特異性抗体を、jurkat細胞への結合、T細胞リターゲティングアッセイを使用するインビトロでの細胞傷害性、多反応性、DSC及びAC-SINSを使用する熱安定性に関して試験した。5種全ての二重特異性抗体の内、CD3抗体2B5バリアント2B5v6を有する1種の二重特性のみが強力な結合を示し、結果として強力な細胞傷害性を示した。このバリアントはまた、DNA及びインスリン結合、並びにAC-SINSスコアにより評価した場合に、多反応性の低下も示した。2B5v6二重特異性抗体のスコアは、H2B4二重特異性抗体の場合の8超と比較して8未満であった。これらの結果に基づいて、2B5v6を、さらなる分析に最適化されたリード2B5バリアントとして選択した。
【0483】
実施例7
CDR-H2におけるクリッピングの評価
R53位でのVH CDR2(配列番号16)におけるクリッピングを、二重特異性がCHO細胞で発現されるがHEK293細胞では発現されない場合に、CD3抗体(H2B4及び2B5)で観察した。この傾向を軽減して、製造規模での製品のより良好な均質性を確保するために、先の実施例で説明した他の傾向を軽減するための他の変異と一緒にクリッピング領域で変異を選択することに注意を払った。このクリッピングを評価するために、簡潔には、陰性対照抗体可変ドメイン配列と、CD3抗体2B5、又はCD3抗体H2B4、又はCD3抗体2B5v6とを使用して、二特異性抗体-Fc二重特異性抗体を生成した。全ての二重特異性二特異性抗体-Fc分子を、当分野で周知の発現及び精製手順の類似の概要を使用して調製した。CHO SSI細胞株を、標準的な手順を使用して生成した。二重特異性抗体をコードする2種の鎖を、CHO細胞ゲノムへの単一部位組込み(SSI)(Zhang,L他,Biotechnology Progress.2015;31:1645~1656)用の二重プロモーター及び組換え部位を含む哺乳類発現ベクターpRY19-GA-Qにクローニングした。得られたプラスミドを、目的の遺伝子を含むpRY19ベクターによるエレクトロポレーションによりCHO-K1 SV 10e9細胞にトランスフェクトし、続いて、ハイグロマイシン-B及びガンシクロビルを使用して正の及び負の選択圧をかけた。このCHOプールは、3週間の回復期を経た。観測した生存率が90%超えた場合には、将来の研究のために細胞バンクを生成した。次いで、確立されたCHOプールを、1Lスケールで、CD-CHO培地(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)中において12日間のフェドバッチプラットフォーム発現プロセスに供した。12日目の培養収集物をプロテインAカラムに捕捉し、低pHで溶出させた。このプロAプールを、pH8.1へと直ちに中和した。得られた純粋なタンパク質を、当分野で周知の標準的なプロトコルを使用するキャピラリゲル電気泳動(cGE)を使用して評価した。表12及び
図7に示すように、2B5二重特異性抗体は、H2B4と比較してはるかに低いクリッピングを示し、2B5v6はクリッピングを示さなかったが、H2B4は、クリッピング又は断片化の有意な増加を示した。表12は、CD3-GUCY2c二重特異性抗体の断片化を示すキャピラリゲル電気泳動の結果を示す。%POIは、目的のピークを示す。
【0484】
【0485】
実施例8
GUCY2c-2B5v6二重特異性抗体:CD3抗体2B5v6を使用するキメラCD3-GUCY2c二重特異性抗体の発現及び精製
相補的な構築物のペア(各鎖12.5μg)を、ExpiFectamine(商標)293 Transfection Kit(Life Technologies)を使用して、100万個の細胞/mlのHEK293細胞を含む25mLの対数期培養物に共トランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、ExpiFectamine Transfection Enhancerを添加し、収集前に細胞をさらに4~5日間増殖させた。次いで、消費された培養物を回収し、遠心分離して細胞残屑を除去し、次いで20μフィルタに通した。
【0486】
次いで、GUCY2c T細胞二重特異性抗体を含む清澄化された条件付け培地を、プロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して精製した。試料を、液体ハンドラー(Tecan)を使用して、MabSelect SuReプロテインA樹脂(GE Healthcare)が予め詰められた0.45mLマイクロカラム(Repligen)にロードした。結合したタンパク質をPBS pH7.2で洗浄し、次いで、20mMクエン酸、150mM塩化ナトリウムpH3.5で溶出させ、2MトリスpH8.0で中和した。次いで、試料を、製造業者の方法に従ってG25 Sephadexドリップカラム(GE Healthcare)を使用して、PBS pH7.2に脱塩した。精製済タンパク質を、製造業者のプロトコルに従ってAglient 1200 HPLCでMab HTPカラム(TOSOH)による分析サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、純度に関して分析した。マイクロ分光光度計(Trinean)を使用してOD280nmで測定することにより、濃度を決定した。
示差走査熱量測定を使用する二重特異性抗体の安定性評価
タンパク質を、400μlの体積で0.6mg/mlまで、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液で希釈した。参照細胞において、バッファーブランクとしてPBSを使用した。PBSは、137mM NaCl、2.7mM KCl、8.1mM Na2HPO4、及び1.47mM KH2PO4 pH7.2を含んだ。試料を、オートサンプラを備えたMicroCal VP-Capillary DSC(Malvern Instruments Ltd,Malvern,UK)の試料トレイに分注した。試料を、10℃で5分にわたり平衡化し、次いで、1時間当たり100℃の速度で110℃まで走査した。16秒のフィルタリング期間を選択した。生データをベースライン補正し、タンパク質濃度を正規化した。Origin Software 7.0(OriginLab Corporation,Northampton,MA)を使用して、適切な転移数でデータをMN2-State Modelにフィットさせた。
図8に示すように、GUCY2c-2B5v6二重特異性抗体は、70℃のT
m1で優れた熱安定性を示した。
ナイーブT細胞への結合
BD LSRII Fortessa分析計を使用する、当分野で公知の標準的なフローサイトメトリー法を使用して、新鮮なヒト末梢血単核細胞(PBMC)から精製されたナイーブヒトT細胞上のヒトCD3への細胞表面結合に関して、精製済CD3二重特異性抗体を滴定した。
図9に示すように、GUCY2c-2B5v6二重特異性は、35.44nMの結合のEC50でT細胞に非常に良好に結合した。
二重特異性媒介性T細胞活性評価
Histopaque-177(Sigma)を使用して、健康なドナー血液からヒトPBMCを単離した。Stem Cell TechnologiesのT細胞富化キットを使用して、PBMCからナイーブT細胞を単離した(T細胞の負の選択)。ルシフェラーゼ発現構築物がトランスフェクトされたGUCY2c発現T84ヒト腫瘍細胞を、T細胞と共に、GUCU2c二重特異性抗体又は陰性対照CD3二重特異性の連続希釈液で処理した。エフェクター対標的細胞の比(E:T)は、10:1又は5:1であった。T細胞及び腫瘍細胞を48時間にわたり37℃でインキュベートし、続いてネオライト試薬(Perkin Elmer)を使用してルシフェラーゼシグナルを測定した。EC50値を、4パラメータ非線形回帰分析を使用してGraphpad PRISMで算出した。標的陰性のHCT116細胞又はHT29細胞は、いかなるGUCY2c二重特異性媒介性細胞傷害性も示さなかった。
図10に示すように、GUCY2c-2B5v6二重特異性は、T細胞リターゲティングアッセイで強力な細胞傷害性を示した。
【0487】
T84細胞を、T細胞(5:1のE:T比)及び様々な用量のGUCY2c-1608(GUCY2c-2B5v6)で処理した。上清を様々な時点(24時間、48時間、96時間)で採取し、製造業者のガイドラインに従って多重Lumninexアッセイを使用して分析し、xPONENTソフトウェアを備えたLuminex 200で読み取った。測定したサイトカインは、ヒトIFN-ガンマ、IL10、IL2、IL4、IL6、TNF-アルファであった。
図11は、GUCY2c-1608によるT細胞の活性化後の(11A)IFN-ガンマ、(11B)IL10、(11C)IL2、(11D)IL4、(11E)IL6、(11F)TNF-アルファサイトカインの上方制御を示す。
GUCY2c-2B5v6二重特異性媒介性活性のインビボでの評価
養子移入モデルを使用して、インビボでの有効性研究を実施した。腫瘍細胞株/患者由来の異種移植片をNSGマウスに移植し、およそ200mm
3への病期にした。マウスに、二重特異性化合物を(別途断らない限り)静脈内投与した。二重特異性の投与の24時間後に、200万個の活性化され、拡張されたT細胞(Miltenyi BiotecのT細胞拡張及び活性化キットを使用する)をIV投与した。二重特異性抗体を、1週間スケジュールで投与した。
図12及び
図13に示すように、GUCY2c-2B5v6(GUCY2c-1608)二重特異性抗体は、結腸直腸癌を表すインビボモデルにおいて、PDX CRX-11201及び細胞株LS1034の両方で優れた耐久性の腫瘍退縮を示した。
【0488】
実施例9
FLT3-CD3二重特異性抗体、及び最適化されたCD3抗体(2B5v6)を使用するFLT3-2B5v6二重特異性IgGの生成、及び細胞傷害性
ヒトFLT3抗体(xFLT3)及びヒトCD3抗体(2B5v6)を、ヒトIgG2のヒンジ領域における223位、225位、及び228位での二重特異性交換(例えば、(C223E又はC223R)、(E225E又はE225R)、及び(P228E又はP228R))並びにCH3領域における409位又は368位での二重特異性交換(例えば、K409R又はL368E(EUナンバリングスキーム)のために一方のアーム上においてEEEEで操作され、他方のアーム上においてRRRRで操作されたヒトIgG2dA_D265Aとして、別々に発現させた。この抗体はまた、265位(EUナンバリングスキーム)でのDからAへの変異も有した。
【0489】
個々の抗体アームを、プロテインA樹脂を使用して別々に精製した。次いで、1mg/mLの精製済xFLT3抗体を、2mM 還元グルタチオンの存在下で、1mg/mLの精製済2B5v6抗体と交換した。この交換反応を、16時間にわたり37℃で実行した。次いで、このタンパク質に2mMの酸化グルタチオンを添加し、この混合物を30分にわたり37℃でインキュベートした。次いで、この混合物を、NaClを含まない20mM MES pH5.4バッファーで1:5に希釈した。希釈した試料をMonoSイオン交換カラムにロードし、20mM MES pH5.4 25mM NaClバッファーで洗浄した。次に、二重特異性抗体xFLT3-2B5v6を、20mM MES pH5.4バッファー中の0~500mM NaClの勾配で溶出させた。最後に、この二重特異性抗体を、細胞ベースのアッセイのためにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に透析した。細胞傷害性アッセイのために、非刺激ヒトT細胞及びルシフェラーゼ発現標的細胞(Eol-1又はMV411)を、RPMI 200μl+10% FBS中において、96ウェルU底プレートにて一定の比率で共インキュベートした。xFLT3-2B5v6二重特異性抗体をPBSで連続希釈し、ウェルに添加した。24時間後、細胞懸濁液100μlを、96ウェル白色壁プレート中のOne-GLO試薬100μlと混合し、Envisionルミノメーターで発光を測定した。細胞傷害値を、下記式を使用して決定した。
【0490】
細胞傷害性%=[1-(RLU試料)/RLU標的細胞のみ)]×100RLU:相対光単位
図14A及び
図14Bで示すように、最適化されたCD3抗体(2B5v6)を含むxFLT3-2B5v6二重特異性抗体は、より高いコピー数のFLT3を発現する細胞(EOL-1)及びより低いコピー数を発現する細胞(MV4-11)の両方で試験した場合に、代替の二重特異性IgG形式で非常に強力であると思われた。
【0491】
表13は、FLT3(EOL-1)の軽鎖及び重鎖の配列、並びに2B5v6二重特異性抗体の軽鎖及び重鎖の配列を示す。
【0492】
【0493】
実施例10
2B5v6二重特異性抗体のT細胞エピトープリスク回避
最適化されたクローン2B5v6を、免疫原性の可能性のリスクを回避することが望まれる潜在的なT細胞エピトープに関して分析した。この分析には、潜在的なT細胞エピトープのコンピュータ予測のためのEpivax Toolを使用した。このツールは、8つの異なるHLA対立遺伝子の内のいずれかに結合する9merのフレームペプチドの数を予測する。ヒットを、上位5%のZスコア及び上位1%の強いヒットを有するものと定義する。4つ以上の対立遺伝子に対するヒット、又は1つの強いヒットは、予測されたt細胞エピトープとみなされている。この基準に基づいて、CDRH2での3つの予測される非生殖系列T細胞エピトープ、CDRL1での2つ、及びL2での1つの予測される生殖系列エピトープを同定した(表15)。個々のペプチドのスコアに加えて、配列の全体的リスクを、ヒットの総数又はTレジトープ(T-regitope)調整済Epivaxスコアにより定義し得、これは、臨床ADAの有病率と相関するように最適化されている。ここでは、これらの予測値に関して、スコアが低いほど、ADAの予想されるリスクが低い。ここでは、VHドメインは、70個のヒット及び-42.82のスコアを有し、VLドメインは、60個のヒット及び-23.79のスコアを有した。
【0494】
免疫原性リスクを低減するために、このクローンの全体スコアを低減し、ヒットが除去されて理想的には予測されたt細胞エピトープが除去されるであろう変異を同定した。CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-H2における全ての可能な単一変異体変更を考慮して、ヒットを減少させ、全体的なtレジトープ調整済EpiMatrixスコアを低減させ、T細胞エピトープを除去するであろうものを同定した。これらの潜在的変異は、結合及び安定性にも影響を及ぼす可能性があることから、上記で説明した予測される安定性及び親和性のデータを考慮すること、及び許容される変異を特定することに注意を払った。表14A、表14B、及び表14Cは、2B5v6の免疫原性リスクを低減するように設計された変異を示す。加えて、配列番号44~47、51~57、60、及び62で示される変異は、T細胞エピトープの数を減少させることが予測される。
【0495】
【0496】
【0497】
【0498】
表15は、T細胞エピトープを有する及び潜在的な免疫原性リスクをもたらすCD3抗体(2B5v6)可変ドメインの領域を示す。
【0499】
【0500】
【0501】
全ての変異体を、標準的な一過性HEK293発現を使用して、一価のIgG抗体として生成し、続いてプロテインAカラムを使用して精製した。得られたクローンを、FACSを使用して、CD3を発現するJurkat細胞への結合に関して試験し、上記の実施例7で説明したようにAC-SINSを使用して、自己会合能力に関して試験した。表16に示すように、前に進むために、epivaxスコアが改善され、T細胞エピトープが減少し、CD3に対する親和性が維持された5種の分子を選択し、二特異性抗体-Fc形式で試験した。epivaxスコアが改善された2B5v6バリアントを、親2B5v6と比較した。結果は、CD3を発現するJurkat細胞への同等の結合及び同等のAC-SINSスコアを示す。
【0502】
【0503】
試験した変異体の中で、いくつかの変異体は、2B5v6と比較してJurkat細胞への低い結合を示した。これらの変異体の内、全てのT細胞エピトープが除去されており、epivaxスコアが改善されているものを、他の結合ドメインとしてGUCY2c抗体を有する二特異性抗体-Fc二重特異性分子を生成するために進めた。表17はepivaxスコアを示し、
図15は、jurkat細胞へのこれらの変異体の結合の減少を示す。低親和性CD3抗体2B5v6バリアントは、epivaxスコアの改善を示す。
【0504】
【0505】
実施例11
3種の抗CD3バリアントが、GUCY2C-CD3二重特異性抗体の親和性及び細胞傷害性の改善を示す
2B5v6に由来する3種の抗CD3バリアント2B5-1038(配列番号4及び9)、2B5-1039(配列番号4及び87)、並びに2B5-1040(配列番号4及び89)を、本明細書の上記で説明した標準的なクローニング、発現、及び精製技術を使用して、
図1に示す配置の内の1つで、抗腫瘍GUCY2c抗体配列と対を形成する二重特異性二特異性抗体-Fc分子に再設定した。表18に示す得られた二重特異性抗体を、T細胞リターゲティングアッセイを使用してインビトロでの細胞傷害性に関して試験し、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを使用して結合親和性に関して試験し、AC-SINにより非特異性に関して試験した。免疫原性リスクを、潜在的なT細胞エピトープのコンピュータ予測に関してEpivax Toolにより評価した。インタクトな質量分析データは、全ての二重特異性が正しい対形成を有しており100%ヘテロ二量体であることを示す。表18は、3種全ての二重特異性は、(1)抗CD3 2B5v6と対形成している対照二重特異性GUCY2C-1608と比較した場合に、インビトロでの細胞傷害性アッセイにおいて約2倍強力であり(
図16);(2)細胞傷害性活性と一致するSPRによる組換えヒトCD3への結合親和性を有しており;(3)対照を超えて改善されている免疫原性スコアを有しており;(4)AC-SINが対照二重特異性GUCY2C-1608と同一に維持されていることを示す。これらの結果は、CD3バリアントが異なる抗GUCY2c二重特異性抗体が、ナイーブヒトT細胞を動員してT84腫瘍細胞における細胞死滅を誘発することを示す(
図16)。2B5v6に由来するこれら3種の抗CD3バリアントは、対照二重特異性GUCY2C-1608と比較しておよそ2倍強力な活性を示した。
【0506】
【0507】
二重特異性抗体の配列を、表19に記載する。
【0508】
【0509】
【0510】
【配列表】