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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】要員策定支援装置及び要員策定支援方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/105 20230101AFI20231114BHJP
   G06N 10/60 20220101ALI20231114BHJP
【FI】
G06Q10/105
G06N10/60
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021054159
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022151199
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 耕司
(72)【発明者】
【氏名】米重 大海
(72)【発明者】
【氏名】小川 純
【審査官】山本 俊介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/203300(WO,A1)
【文献】特開2010-218045(JP,A)
【文献】特開2002-279132(JP,A)
【文献】山岡 雅直、小川 純,量子コンピューターの技術を応用した、新型コンピューターCMOSアニーリングの現在と未来,Hitachi Social Innovation Forum 2020 TOKYO,株式会社日立製作所,2020年11月05日
【文献】小川 純ほか,CMOSアニーリングの顧客適用に向けた量子コンピュータ技術の応用,日立評論 [online],2020 Vol.102 No.3,株式会社日立製作所,2020年,pp.129-134,https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2020/03/pdf/03b09.pdf,[2023年10月31日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順次実行する一連の工程で構成された業務に関する、時間帯ごとの予測業務量と、前記業務で協働する各チームの出勤可能人数、前記各チームにおける前記工程それぞれの処理能力、前記工程それぞれの標準処理量、及び前記業務の完了時限の各情報と、前記時間帯ごとの前記各チームの稼働人数の制約条件、及び前記一連の工程を順次実行する際の各工程での処理量の制約条件の各情報とを格納した記憶部と、
前記予測業務量、前記出勤可能人数、前記処理能力、前記標準処理量、及び前記完了時限と、前記稼働人数及び前記処理量の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記各チームの配置人員数をスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算する演算部とを有し、
前記演算部は前記演算の結果に基づき、前記工程それぞれにおける前記時間帯ごとの前記各チームの配置人員数の情報を所定装置に出力するものである、
ことを特徴とする要員策定支援装置。
【請求項2】
前記記憶部は、
前記業務に関して想定される、異なる組合せの工程群からなる複数のシナリオの情報を更に格納し、
前記演算部は、
前記予測業務量、前記出勤可能人数、前記処理能力、前記標準処理量、前記シナリオ、及び前記完了時限と、前記稼働人数及び前記処理量の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記各チームの配置人員数をスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算し、
前記演算の結果に基づき、前記複数のシナリオそれぞれの前記工程群の各工程における前記時間帯ごとの前記各チームの配置人員数の情報を所定装置に出力するものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の要員策定支援装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記出勤可能人数を当初の値から変動させたパターンを1または複数生成し、前記パターンごとに前記イジングモデルの演算を実行し、
前記演算の結果のうち、全チームの配置人員合計が最小、または前記業務の完了までの時間が最短、の少なくともいずれかの条件を満たすパターンを判定し、当該パターンに対応する、前記工程それぞれにおける前記時間帯ごとの前記各チームの配置人員数の情報を出力するものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の要員策定支援装置。
【請求項4】
前記演算部は、
前記当初の値の出勤可能人数を採用した場合の前記演算の結果と、前記条件を満たすパターンに対応する前記演算の結果とに基づき、前記条件を満たすパターンに対応する前記配置人員数を確立するために、前記当初の値の出勤可能人数を採用した場合の前記演算の結果に基づき、チーム間での人員融通の内容を決定する処理をさらに実行するものである、
ことを特徴とする請求項3に記載の要員策定支援装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前記チーム間での人員融通の内容として、当該チームの所在する拠点間での人員融通の内容を決定するものである、
ことを特徴とする請求項4に記載の要員策定支援装置。
【請求項6】
前記記憶部は、
前記予測業務量として、時間帯ごとに新規投入される業務量の情報もさらに保持し、
前記演算部は、
前記新規投入される業務量も含む前記予測業務量、前記出勤可能人数、前記処理能力、前記標準処理量、及び前記完了時限と、前記稼働人数及び前記処理量の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記各チームの配置人員数をスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算するものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の要員策定支援装置。
【請求項7】
前記イジングモデルに関して組合せ最適化問題を解くCMOSアニーリングマシンであることを特徴とする請求項1に記載の要員策定支援装置。
【請求項8】
順次実行する一連の工程で構成された業務に関する、時間帯ごとの予測業務量と、前記業務で協働する各チームの出勤可能人数、前記各チームにおける前記工程それぞれの処理能力、前記工程それぞれの標準処理量、及び前記業務の完了時限の各情報と、前記時間帯ごとの前記各チームの稼働人数の制約条件、及び前記一連の工程を順次実行する際の各工程での処理量の制約条件の各情報とを格納した記憶部を備える情報処理装置が、
前記予測業務量、前記出勤可能人数、前記処理能力、前記標準処理量、及び前記完了時限と、前記稼働人数及び前記処理量の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記各チームの配置人員数をスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算し、
前記演算の結果に基づき、前記工程それぞれにおける前記時間帯ごとの前記各チームの配置人員数の情報を所定装置に出力する、
ことを特徴とする要員策定支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要員策定支援装置及び要員策定支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定条件下で所望のパラメータを最大または最小とする解を探索する、いわゆる組合せ最適化問題の概念は、作業員や装置といった各種リソースの配置や稼働スケジュールの最適化、交通渋滞解消、グローバルサプライチェーンにおける物流コスト低減、など実社会における複雑な問題にも適用されうる。
【0003】
一方、そうした問題においては解候補が爆発的に多くなるため、スーパーコンピュータや量子コンピュータなど相応の計算能力を有した計算機でなければ、当該問題を実用的な時間内に解くことが難しい。
【0004】
例えば、量子コンピュータに関連する従来技術としては、全数探索を必要とするような逆問題や組み合わせ最適化問題に対して高速演算を可能にする計算機に関し、スピンを演算における変数とし、解こうとする問題をスピン間相互作用とスピンごとに作用する局所場で設定し、また、時刻t=0において外部磁場により全スピンを一方向に向かせ、時刻t=τで外部磁場がゼロになるように外部磁場を徐々に小さくし、また、各スピンは時刻tにおける各サイトの外部磁場及びスピン間相互作用のすべての作用で決まる有効磁場に従い向きが定まるとして時間発展させ、その際、スピンの向きが有効磁場に完全に揃うのではなく、量子力学的に補正された向きとすることにより、系が基底状態をほぼ維持するようにする技術(特許文献1参照)などが提案されている。
【0005】
また、人員の稼働スケジュール生成に関する従来技術として、スケジュール可能なコミュニケータの中から、コミュニケータのスキルに基づいて、予想される問い合わせ内容に見合うスキルを有するコミュニケータのスケジュール作成を目的とした、コミュニケータのスケジュールを作成する方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【0006】
この技術は、コンピュータがコンタクトセンターの複数のコミュニケータのスケジュールを作成する方法であって、前記コンピュータは、少なくとも前記複数のコミュニケータのそれぞれのスキルを示すデータを記憶部に記憶しており、前記コンタクトセンターの管理者から、業務の時間帯毎に前記コミュニケータの複数のスキルについてそれぞれ配置すべき前記コミュニケータの人数の指定入力を受け付けるステップと、前記指定入力を受け付けた人数を示すデータを前記業務の時間帯毎に前記記憶部に更に記憶するステップと、前記業務の時間帯毎に、前記記憶した人数を示すデータに基づいて、前記複数のコミュニケータのスケジュールを作成するステップと、を含むものである。
【0007】
また、保育施設等の施設における突発的な勤務シフトの変更を容易に行うことを課題とした、対象期間に対して、当該対象期間に勤務する第一人員を割り当てたシフト情報を記憶するシフト情報記憶部と、前記シフト情報の前記対象期間に対して、前記第一人員の予備の第二人員を所定人数割り当てるシフト作成部と、を有するシフト管理装置(特許文献3参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2016/157333
【文献】特開2008-186203号公報
【文献】特開2015-212881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、多くの人員が順次協働し遂行する業務に関して、その要員配置の策定を行うケースに、上述のごとき量子コンピュータ技術を適宜に適用する形態は提案されていない。
【0010】
例えば、保険会社における保険金の支払査定業務や、或いはコールセンタ業務では、多数の担当者やその所属チームに関して週間、月間のシフトスケジュールを作成する必要がある。現状では、経験のある担当者が、予め決まったルール(例:早番、遅番といったシフトパターンを、該当期間に関して固定的な順序、頻度で組合せて配置する)の下、人力でスケジュール作成を行っていた。
【0011】
一方、順序性のある複数工程からなる業務において、人手により、工程毎の各担当チームの必要人数を時間帯毎に算出するのは困難である。例えば、工程数が数十~数百、チーム数も10以上といった業務環境下で、チームによって担当可能な工程が異なる場合、考慮すべき点が多岐に渡るため、人手により要員数の算出を行うことは不可能である。
【0012】
また、それに加えて、チーム毎に出勤可能な人数や処理能力が異なるなどの条件も考慮する必要がある場合、困難さは格段に高まることとなる。こうした問題は、一日や1週間など、ある特定の単位期間での全体最適(例:人的コストの最適化)を考慮し上述の算出を行おうとする場合、より一層大きくなる。
【0013】
他方、例えば、汎用最適化ソルバを上述の算出に用いるとしても、膨大な計算時間が必要となり、実運用に耐えられるとは言い難い。
【0014】
そこで本発明の目的は、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとに効率的に算定可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の要員策定支援装置は、順次実行する一連の工程で構成された業務に関する、時間帯ごとの予測業務量と、前記業務で協働する各チームの出勤可能人数、前記各チームにおける前記工程それぞれの処理能力、前記工程それぞれの標準処理量、及び前記業務の完了時限の各情報と、前記時間帯ごとの前記各チームの稼働人数の制約条件、及び前記一連の工程を順次実行する際の各工程での処理量の制約条件の各情報とを格納した記憶部と、前記予測業務量、前記出勤可能人数、前記処理能力、前記標準処理量、及び前記完了時限と、前記稼働人数及び前記処理量の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記各チームの配置人員数をスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算する演算部とを有し、前記演算部は前記演算の結果に基づき、前記工程それぞれにおける前記時間帯ごとの前記各チームの配置人員数の情報を所定装置に出力するものである、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の要員策定支援方法は、順次実行する一連の工程で構成された業務に関する、時間帯ごとの予測業務量と、前記業務で協働する各チームの出勤可能人数、前記各チームにおける前記工程それぞれの処理能力、前記工程それぞれの標準処理量、及び前記業務の完了時限の各情報と、前記時間帯ごとの前記各チームの稼働人数の制約条件、及び前記一連の工程を順次実行する際の各工程での処理量の制約条件の各情報とを格納した記憶部を備える情報処理装置が、前記予測業務量、前記出勤可能人数、前記処理能力、前記標
準処理量、及び前記完了時限と、前記稼働人数及び前記処理量の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記各チームの配置人員数をスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算し、前記演算の結果に基づき、前記工程それぞれにおける前記時間帯ごとの前記各チームの配置人員数の情報を所定装置に出力する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとに効率的に算定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の要員策定支援装置を含むネットワーク構成図である。
図2】本実施形態における要員策定支援装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3】本実施形態のタイミングチャート例を示す図である。
図4】本実施形態におけるフロー例を示す図である。
図5A】本実施形態の基本情報DBで保持する予測業務量情報の例を示す図である。
図5B】本実施形態の基本情報DBで保持する工程情報の例を示す図である。
図5C】本実施形態の基本情報DBで保持するチーム情報(人数)の例を示す図である。
図5D】本実施形態の基本情報DBで保持するチーム情報(処理能力)の例を示す図である。
図5E】本実施形態の基本情報DBで保持する標準処理件数情報の例を示す図である。
図5F】本実施形態の基本情報DBで保持する完了時限情報の例を示す図である。
図6】本実施形態の要員策定支援方法のフロー例を示す図である。
図7】本実施形態における画面例を示す図である。
図8】本実施形態における山積み山崩しの概念例を示す図である。
図9】本実施形態における山積み山崩しの概念例を示す図である。
図10】本実施形態における山積み山崩しの概念例を示す図である。
図11】本実施形態における山積み山崩しの概念例を示す図である。
図12】本実施形態における山積み山崩しの概念例を示す図である。
図13】本実施形態における山積み山崩しの概念例を示す図である。
図14A】本実施形態の基本情報DBで保持する予測業務量情報の例を示す図である。
図14B】本実施形態の基本情報DBで保持するシナリオ情報の例を示す図である。
図14C】本実施形態の基本情報DBで保持するチーム情報(人数)の例を示す図である。
図14D】本実施形態の基本情報DBで保持するチーム情報(処理能力)の例を示す図である。
図14E】本実施形態の基本情報DBで保持する標準処理件数情報の例を示す図である。
図14F】本実施形態の基本情報DBで保持する完了時限情報の例を示す図である。
図15】本実施形態における画面例を示す図である。
図16】本実施形態におけるシナリオ対応概念の例を示す図である。
図17】本実施形態におけるシナリオ対応概念の例を示す図である。
図18】本実施形態におけるシナリオ対応概念の例を示す図である。
図19】本実施形態におけるチーム間人員融通の概念例を示す図である。
図20】本実施形態における拠点間人員融通の概念例を示す図である。
図21】本実施形態における他適用形態の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<アニーリングマシンについて>
上述の特許文献1にも示すように、本出願人は量子コンピューティング技術を開発し、例えば、ビッグデータに基づく全数探索問題(組合せ最適化問題の概念含む)における諸問題の解決を図ってきた。
【0020】
こうした全数探索問題に対して、一般的には量子コンピュータヘの期待が大きい。量子コンピュータは、量子ビットと呼ばれる基本素子からなり"0"と"1"を同時に実現する。そのためすべての解候補を初期値として同時に計算可能であり、全数探索を実現しうる可能性を持っている。しかし、量子コンピュータは全計算時間に亘って量子コヒーレンスを維持する必要がある。
【0021】
こういった中で注目されるようになってきたのが断熱量子計算と呼ばれる手法である(参考文献:E.Farhi,et al.,"A quantum adiabatic
evolution al gor ithm applied to random
instances of an NP-complete problem," S
cience292,472(2001).)。
【0022】
この方法は、ある物理系の基底状態が解になるように問題を変換し、基底状態を見つけることを通して解を得ようとするものである。
【0023】
問題を設定した物理系のハミルトニアンをH^pとする。但し、演算開始時点ではハミルトニアンをH^pとするのではなく、それとは別に基底状態が明確で準備しやすい別のハミルトニアンH^0とする。次に十分に時間を掛けてハミルトニアンをH^0からH^pに移行させる。十分に時間を掛ければ系は基底状態に居続け、ハミルトニアンH^pの基底状態が得られる。これが断熱量子計算の原理である。計算時間をτとすればハミルトニアンは式(1)となり、
【0024】
[式1]
【0025】
式(2)のシュレディンガー方程式に基づいて時間発展させて解を得る。
[式2]
【0026】
断熱量子計算は全数探索を必要とする問題に対しても適用可能で、一方向性の過程で解に到達する。しかし、計算過程が式(2)のシュレディンガー方程式に従う必要があるな
らば、量子コンピュータと同様に量子コヒーレンスの維持が必要になる。
【0027】
但し、量子コンピュータが1量子ビットあるいは2量子ビット間に対するゲート操作を繰り返すものであるのに対して、断熱量子計算は量子ビット系全体に亘って一斉に相互作用させるものであり、コヒーレンスの考え方が異なる。
【0028】
例えば、ある量子ビットヘのゲート動作を考えてみる。この時、もしその量子ビットと他の量子ビットとで相互作用があれば、それはディコヒーレンスの原因になるが、断熱量子計算ではすべての量子ビットを同時に相互作用させるので、この例のような場合にはディコヒーレンスにならない。この違いを反映して断熱量子計算は量子コンピュータに比べてディコヒーレンスに対して頑強であると考えられている。
【0029】
以上述べたように、断熱量子計算は全数探索を必要とするような難問に対して有効である。そして、スピンを演算における変数とし、解こうとする問題をスピン間相互作用とスピンごとに作用する局所場で設定する。
【0030】
時刻t=0において外部磁場により全スピンを一方向に向かせ、時刻t=τで外部磁場がゼロになるように外部磁場を徐々に小さくする。
【0031】
各スピンは、時刻tにおける各サイトの外部磁場及びスピン間相互作用のすべての作用で決まる有効磁場に従い、向きが定まるとして時間発展させる。
【0032】
その際、スピンの向きが有効磁場に完全に揃うのではなく、量子力学的に補正された向きとすることにより、系が基底状態をほぼ維持するようにする。
【0033】
また、時間発展の際に各スピンを元の向きに維持する項(緩和項)を有効磁場に加え、解の収束性を向上させる。
【0034】
本実施形態における要員策定支援装置としては、上述の断熱量子計算を行うアニーリングマシンを想定するが、勿論これに限定するものではなく、組合せ最適化問題を本発明の要員策定支援方法に沿って適宜に解くことが可能なものであればいずれも適用可能である。
【0035】
具体的には、アニーリング方式において電子回路(デジタル回路など)で実装するハードウェアだけでなく、超伝導回路などで実装する方式も含む。また、アニーリング方式以外にてイジングモデルを実現するハードウェアでもよい。例えばレーザーネットワーク方式(光パラメトリック発振)・量子ニューラルネットワークなども含む。また、前述した通り一部の考え方が異なるものの、イジングモデルで行う計算をアダマールゲート、回転ゲート、制御NOTゲートといったゲートで置き換えた量子ゲート方式においても、本発明を
実現することができる。
【0036】
<ネットワーク構成>
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態の要員策定支援装置100を含むネットワーク構成図である。
図1に示す要員策定支援装置100は、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとに効率的に算定可能とするコンピュータ装置であり、具体的には、一例としてアニーリングマシンを想定する。
【0037】
ただし、アニーリングマシンの概要は特許文献1に基づき既に述べたとおりであり、その具体的な構成や動作等の詳細については適宜省略する(以下同様)。
【0038】
本実施形態の要員策定支援装置100は、インターネットなどの適宜なネットワーク10を介して、ユーザ端末200とデータ通信可能に接続されている。
【0039】
上述のユーザ端末200は、要員策定支援装置100から、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の各チームにおける必要人数の提案を受ける端末である。
【0040】
このユーザ端末200のユーザとしては、具体的には、保険会社における保険金の支払査定業務や、或いはコールセンタ業務を遂行する事業者で、金融機関や保険会社、或いは大手メーカーといった組織を想定できる。或いは、多くの看護士や介護スタッフを抱えて患者等の看護業務や介護業務を遂行する、医療機関や介護事業者も想定できる。
【0041】
いずれにしても、多くの人員が順次協働し遂行する業務であって、順序性のある複数工程からなる業務において、工程毎の各担当チームの必要人数を時間帯毎に算出しようとする事業者であれば、上述のユーザに該当しうる。つまり、そうした事業者の業務に関しては、本発明が適用可能であると言える。
【0042】
具体例として想定できる、例えば保険会社における、支払査定業務に従事する各チームの要員計画策定に際しては、所定の経験を持った担当者が人力で作成しているのが現実であった。つまり当該業務は属人化しがちであり、また人力での作業である。つまり、計画策定者自らの裁量によって行うものであり、かつ、あくまでも勘や経験に基づくものであった。
【0043】
上記の障壁は、数学的な困難さおよびその数学的困難さを解決する技術不在(厳密には未成熟)に起因する。例えば、表計算ソフトウェアは、線形の制約条件であれば数学的に高速に解けるものであるが、非線形の制約条件を解くには膨大な時間がかかるという性質を持つ。
【0044】
このように従来であれば、要員計画の策定に際し、要素すなわち各人員や工程などに関する非線形の制約条件の増加に対して計算量が急激に増加し、計算完了までに長時間を要するが、アニーリングマシンを使用した要員策定支援装置100を採用することで、要素の増加にさほど依存せず計算を行うことが可能となる。
【0045】
<ハードウェア構成>
また、本実施形態の要員策定支援装置100のハードウェア構成は、図2に以下の如くとなる。
【0046】
すなわち要員策定支援装置100は、記憶部101、メモリ103、演算部104、および通信部105、を備える。
【0047】
このうち記憶部101は、SSD(Solid State Drive)やハードディスクドライブなど適宜な不揮発性記憶素子で構成される。
【0048】
また、メモリ103は、RAMなど揮発性記憶素子で構成される。
【0049】
また、演算部104は、記憶部101に保持されるプログラム102をメモリ103に読み出すなどして実行し装置自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なうCPUである。
【0050】
また、通信部105は、ネットワーク10と接続してユーザ端末200との通信処理を
担うネットワークインターフェイスカード等を想定する。
【0051】
なお、要員策定支援装置100がスタンドアロンマシンである場合、ユーザからのキー入力や音声入力を受け付ける入力装置、処理データの表示を行うディスプレイ等の出力装置、を更に備えるとすれば好適である。
【0052】
また、記憶部101内には、本実施形態の要員策定支援装置として必要な機能を実装する為のプログラム102に加えて、基本情報DB125および制約条件DB126が少なくとも記憶されている。ただし、これらテーブルについての詳細は後述する。
【0053】
また、プログラム102、すなわちアニーリングマシンとしての動作を実装するアルゴリズムは、解くべき課題であるイジングモデル1021の情報を保持する。このイジングモデル1021は、情報提供の対象となる業務や当該業務を遂行する各チーム、およびそれらに影響を与える他の各種情報に基づき管理者等が予め設定しておくものとなる。
【0054】
なお、アニーリングマシンの概要にて述べた断熱量子計算は、別名で量子アニールとも呼ばれ、古典的な焼きなましの概念を量子力学に発展させたものである。即ち、断熱量子計算は本来古典的動作が可能で、高速性や解の正解率に関しで性能を向上させるために量子力学的効果が付加されたものとも解釈できる。そこで本発明では、演算部そのものは古典的とし、演算過程に量子力学的に定まるパラメータを導入することにより、古典的であるが量子力学的な効果を含んだ演算方法・装置を実現する。ただし、演算部を量子コンピュータで構成する形態についても勿論採用しうる。
【0055】
以上の概念に基づき、以下の例では断熱量子計算との関連性を説明しながら解としての基底状態を得る古典的アルゴリズムと、それを実現するための装置に関して述べる。
【0056】
こうした前提での要員策定支援装置100は、N個の変数sj (j=1,2,…,N)が-1≦sj ≦1の値域を取り、局所場gjと変数間相互作用Jij(i,j=1,2,…,N)によって課題の設定がなされる。
【0057】
また演算部104では、時刻をm分割して離散的にt=t。(t。=0)からtm(tm =τ)まで演算するものとし、各時刻tkにおける変数Sj(tk)を求めるに当たり、前時刻tk-1の変数Sj(tk-1)(i=1,2,..,N)の値と緩和項の係数9pinaあるいは9pinbを用いてBj(tk)={ΣiJijSi(tk-1)+gj+sgn(sj(tk-1))・9pina}・tk/τあるいはBj(tk)={ΣiJiJSj(tk-1)+gj+9pinb .Sj(tk-1)}・tk/τを求め、上述の変数Sj(tk)の値域が-1≦sj(tk)≦1になるように関数fを定めてSj(tk)=f(Bj(tk),tk)とし、時刻ステップをt=t0からt=tmに進めるにつれて上述の変数Sjを-1あるいは1に近づけ、最終的にsj<0ならば、Sjzd=-1、Sj>0ならば、Sjzd=1として解を定める。ただし、最終的な解s zdが実数であることが適切である場合は、s zdを[-1,1]を値域とする実数として解を定めてもよい。
【0058】
係数gpinbは、例えば|Jij|の平均値の50%から200%の値である。また、課題設定の局所場gjに関して、あるサイトj’に対してのみ補正項δgj’をgj’に加え、該サイトj’に対してのみgj’の大きさを大きくすることもできる。また、補正項δgj’は、例えば|Jij|の平均値の10%から100%の値である。
【0059】
続いて、量子力学的な記述から出発して古典的な形式に移行することを通して、アニーリングマシンの基本的原理を述べる。
【0060】
式(3)で与えられるイジングスピン・ハミルトニアンの基底状態探索問題はNP困難と呼ばれる分類の問題を含み、有用な問題であることが知られている(文献:F. Barahona, ”On the computational comp lex ity of Isingspin glass models,” J. Phys. A: Math. Gen. 15, 3241 (1982).)。
【0061】
[式3]
【0062】
Jij及びgjが課題設定パラメータであり、σ^はパウリのスピン行列のz成分で±1の固有値を取る。i,jはスピンのサイトを表す。イジングスピンとは値として±1だけを取りうる変数のことで、式(3)ではσ^の固有値が±1であることによりイジングスピン系となっている。
【0063】
式(3)のイジングスピンは文字通りのスピンである必要はなく、ハミルトニアンが式(3)で記述されるのであれば物理的には何でも良い。
【0064】
例えば、各チームの各時間帯における配置人員数をスピン±1に対応付けることや、ロジック回路のhighとlowを±1に対応付けることも可能であるし、光の縦偏波と横偏波を±1に対応付けることや0,πの位相を±1に対応付けることも可能である。
【0065】
ここで例示する方法では、断熱量子計算と同様に、時刻t=0において式(4)で与えられるハミルトニアンの基底状態に演算系を準備する。
【0066】
[式4]
【0067】
γは全サイトjに一様に掛かる外場の大きさで決まる比例定数であり、σ^jは、パウリのスピン行列のx成分である。演算系がスピンそのものであれば、外場とは磁場を意味する。
【0068】
式(4)は、横磁場を印加したことに相当し、すべてのスピンがx方向を向いた場合(γ>0)が基底状態である。問題設定のハミルトニアンはz成分のみのイジングスピン系として定義されたが、式(4)にはスピンのx成分が登場している。従って、演算過程でのスピンはイジングではなくベクトル的(ブロッホベクトル)である。t=0では式(4)のハミルトニアンでスタートしたが、時刻tの進行と共に徐々にハミルトニアンを変化させ、最終的には式(3)で記述されるハミルトニアンにしてその基底状態を解として得る。
【0069】
[式5]
【0070】
ここでσ^はパウリのスピン行列の3成分をベクトルとして表示している。基底状態はスピンが磁場方向を向いた場合で、<・>を量子力学的期待値として<σ^>=B/|B|と書ける。断熱過程では常に基底状態を維持しようとするので、スピンの向きは常に磁場の向きに追従する。
【0071】
以上の議論は多スピン系にも拡張できる。t=0ではハミルトニアンが式(4)で与えられる。これは全スピンに対して一様に磁場Bj =γが印加されたことを意味する。t>0では、磁場のx成分が徐々に弱まりBj =γ(1-t/τ)である。z成分に関してはスピン間相互作用があるために有効磁場としては式(6)になる。
【0072】
[式6]
【0073】
スピンの向きは<σ^>/<σ^>で規定できるので、スピンの向きが有効磁場に追従するならば式(7)によりスピンの向きが定まる。
【0074】
[式7]
【0075】
式(7)は量子力学的記述であるが期待値を取っているので、式(1)~(6)とは異なり古典量に関する関係式である。
【0076】
古典系では量子力学の非局所相関(量子縫れ)がないので、スピンの向きはサイトごとの局所場により完全に決まるはずであり、式(7)が古典的スピン系の振る舞いを決定する。量子系では非局所相関があるために式(7)は変形されることになるが、それに関しては後述することとし、ここでは発明の基本形態を述べるために式(7)で定まる古典系について記述する。
【0077】
図3にスピン系の基底状態を得るためのタイミングチャート(1)を示す。図3の記述は古典量に関するものなので、サイトjのスピンをσ^jではなくsjにより表した。またそれに伴い、図3の有効磁場Bjは古典量である。t=0において全サイトで右向きの有効磁場Bjが印加され、全スピンSjが右向きに初期化される。
【0078】
時間tの経過に従い、徐々にz軸方向の磁場とスピン間相互作用が加えられ、最終的にスピンは+z方向あるいは-z方向となって、スピンSjのz成分がsj=+1あるいは-1となる。時間tは連続的であることが理想であるが、実際の演算過程では離散的にして利便性を向上させることもできる。以下では離散的な場合を述べる。
【0079】
ここで例示するスピンはz成分だけでなくx成分が加わっているためにベクトル的なスピンになっている。図3からもベクトルとしての振る舞いが理解できる。ここまでy成分が登場してこなかったが、それは外場方向をxz面に取ったために外場のy成分が存在せず、従って<σ^>=0となるためである。
【0080】
演算系のスピンとしては大きさ1の3次元ベクトル(これをブロッホベクトルと呼び、球面上の点で状態を記述できる)を想定しているが、図に示す例における軸の取り方では2次元のみを考慮すればよい(円上の点で状態を記述できる)。
【0081】
またγは一定なのでBj(t)>0(γ>0)あるいはBj(t)<0(γ<0)が成り立つ。この場合、2次元スピンベクトルは半円のみで記述できることになり、[-1,1]でSjを指定すればSjの1変数で2次元スピンベクトルが定まる。従って、ここでの例では、スピンは2次元ベクトルであるが、値域を[-1,1]とする1次元連続変数として表記することもできる。
【0082】
図3のタイミングチャートでは時刻t=tkにおいてサイトごとに有効磁場を求め、その値を用いて式(8)によりt=tkにおけるスピンの向きを求める。
【0083】
[式8]
【0084】
式(8)は式(7)を古典量に関する表記に書き改めたものなので<・>の記号が付いていない。次に、t=tk+lの有効磁場をt=tkにおけるスピンの値を用いて求める。各時刻の有効磁場を具体的に書けば式(9)及び(10)となる。
【0085】
[式9]
【0086】
[式10]
【0087】
以下、図3のタイミングチャートで模式的に示した手順に従い、スピンと有効磁場を交互に求めていく。
【0088】
古典系ではスピンベクトルの大きさは1である。この場合スピンベクトルの各成分は、tanθ=Bj(tk)/Bj(tk)で定義される媒介変数θを用いてSj(tk)=sinθ、Sj(tk)=COSθと記述される。
【0089】
これを書き直せば、Sj(tk)=sin(arctan(Bj(tk)/Bj(tk)))、Sj(tk)=cos(arctan(Bj(tk)/Bj(tk)))である。
【0090】
式(9)から明らかなようにBj(tk)の変数は、tkのみであり、τとγは定数である。 従って、Sj(tk)=sin(arctan(Bj(tk)/Bj(tk)))及びSjx(tk)=cos(arctan(Bj(tk)/Bj(tk)))はBj(tk)とtkを変数とする関数としてSj(tk)=f1(Bj(tk),tk)及びSj(tk)=f2( Bj(tk),tk)のような一般化した表現もできる。
【0091】
スピンを2次元ベクトルとして記述しているので、Sj(tk)とsj(tk)の2成分が登場しているが、Bj(tk)を式(10)に基づき決定するならばSj(tK)は必要ない。
【0092】
これは、[-1,1]を値域とするSj(tk)のみでスピン状態を記述できることに対応している。最終的な解Sjzdは、Sjzd=-1or1になる必要があり、Sj(τ)>0ならばSjzd=1、Sj(τ)<0ならばSjzd=-1とする。ただし、最終的な解s zdが実数であることが適切である場合は、s zdを[-1,1]を値域とする実数として取り出してもよい。
【0093】
図4に、上述のアルゴリズムをフローチャートにまとめたものを示す。ここでtm=τである。図4のフローチャートの各ステップs1~s9は、時間t=0からt=τに到る図3のタイミングチャートの、ある時刻での処理に対応している。すなわち、フローチャートのステップs2、s4、s6がそれぞれ、t=t1,tk+l,tmにおける上記の式(9)及び(10)に対応している。最終的な解はステップs8において、sj<0ならばSjzd=-1、Sj>0ならば、Sjzd=1とすることにより定める(s9)。ただし、最終的な解が実数であることが適切である場合は、s zdを、[-1,1]を値域とする実数として定めてもよい。なお、図4のフローでは一般的な例について示し、実数として取り出す旨の記載は省略している。
【0094】
ここまでは課題が式(3)で表現された場合に如何に解かれるかを示した。次に具体的課題が如何に局所場gjと変数間相互作用Jij(i,j=1,2,…,N)を含む式(3)で表現されるかに関して具体例を挙げて説明する。
【0095】
ここでの具体的課題すなわちイジングモデル1021は、例えば、順次実行する一連の工程で構成された業務に関する、時間帯ごとの予測業務量、当該業務で協働する各チームの出勤可能人数、当該各チームにおける上述の工程それぞれの処理能力、当該工程それぞれの標準処理量、及び当該業務の完了時限の各情報と、上述の時間帯ごとの各チームの稼働人数の制約条件、及び上述の一連の工程を順次実行する際の各工程での処理量の制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、上述の各チームの配置人員数をスピンとし、上述の制約条件用関数における変数間の感応度をスピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを想定する。
【0096】
この場合、局所場gjは、ある日における、時間帯ごとの予測業務量、当該業務で協働する各チームの出勤可能人数、当該各チームにおける上述の工程それぞれの処理能力、当該工程それぞれの標準処理量、及び当該業務の完了時限の各情報と、上述の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、における変数の値が目的関数へ与える影響度として設定されることを想定する。
【0097】
以上のような考察を通して、(上述の目的関数の各項の間に関する)変数間相互作用Jijと局所場gjを具体的に設定し、式(3)で表されるイジングモデル1021の基底状態探索、すなわち上述の、ある日における、時間帯ごとの予測業務量、当該業務で協働する各チームの出勤可能人数、当該各チームにおける上述の工程それぞれの処理能力、当該工程それぞれの標準処理量、及び当該業務の完了時限の各情報と、上述の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、からなる目的関数が最小となる基底状態の探索を通して、一連の工程それぞれにおける、時間帯ごとの各チームの配置人員数を特定する。
【0098】
なお、イジングモデルとアニーリング法で計算するのは、「目的関数を最小化する」ことだけである。そのため、目的関数を最小化する際に満たされる必要がある制約条件がある場合、それらを何らかの形で目的関数に足し込む必要がある。
【0099】
例えば、
[式11]
という制約条件を考えてみる。この制約条件を「制約条件が満たされる時に最小となる関数」に変換するとすれば、以下の式になる。
【0100】
[式12]
【0101】
二乗となっている部分は必ず正の値となるため、この式が最小値となるのは二乗の中身が0となる時だけである。中身が0となるのはΣXi-A=0、の時だけであるので、この関数が最小となる最適化問題を解けば、ΣXi=Aが満たされている解が自動的に得られることになる。
【0102】
また、例えば、上述のアニーリング法では、制約条件としたい項目も目的関数に入れ込んでしまう必要があるため、目的関数も制約条件も同じ重要度で扱うことになる。
【0103】
例えば、以下のような最適化問題があったとする。
[式13]

【0104】
これをアニーリング用の定式化に変更すると、以下のようになる。
[式14]
【0105】
ここでPとQは定数であり、どの項を優先的に最小化するかを決めるファクタとなる。例えば、3つの項すべてを平等に最小化する(つまり、制約条件の強さに偏りをつけないで問題を解く)場合、PとQを同等にするなど、項間でバランスをとるよう値の設定を行う。
【0106】
一方、「第2項の制約条件は厳密に守るが、第3項の制約条件はあまり重視しない」という問題設定であれば、重視する項の係数であるPの値を、Qの値より大きくすることで望みの解が得られることになる。
【0107】
このようにアニーリング法によれば、制約条件に優先度を付し、あまり重視しない制約条件については「なるべく満たす」といった設定が可能になる。
【0108】
なお、イジングモデルに関する各種設定は、本実施形態のスケジュール生成の各条件、情報に応じ、既存の一般的概念に沿った形で適宜に行うものとする。
【0109】
<データ構造例>
続いて、本実施形態の要員策定支援装置100が用いる各種情報について説明する。図5A図5Fに、本実施形態における基本情報DB125で保持する各情報の一例を示す。
【0110】
図5Aに示す、本実施形態の予測業務量情報125Aは、要員策定対象となる業務の、各時刻における業務量の情報を格納したテーブルである。
【0111】
この業務量の値は、機械学習などの適宜なアルゴリズムにより推定したものを想定できる。この場合、要員策定支援装置100は、例えば、各時間帯に発生した過去の各業務の発生量の情報を記憶部101に保持しておき、この情報に基づき、日時や曜日、天候など種々の要因と各業務の発生量との相関関係を機械学習アルゴリズムにより特定しモデルを生成する。この相関関係を学習したモデルに、例えばある時間帯を入力として与えると、該当時間帯において発生が見込まれる各業務の量を推定できる。
【0112】
また図5Bに示す、本実施形態の工程情報125Bは、上述の業務を構成する一連の工程の実行順序とその名称の情報を格納したテーブルである。この工程の情報は、知見ある者が予め規定したものである。
【0113】
また図5C図5Dに示す、本実施形態のチーム情報(人数)125CA、チーム情報(処理能力)125CBは、上述の業務を構成する一連の工程を担当する、すなわち遂行する各チームの情報を格納したテーブルである。この情報は、各チームに関する情報を管理する人事管理システムなどから適宜取得したものを想定できる。また、図5C図5Dで例示する情報としては、各チームの所属人数と、工程ごとの処理能力(標準値で1.0、能力非保有の場合は0)をそれぞれ規定したものとなる。
【0114】
また図5Eに示す、本実施形態の標準処理件数情報125Dは、上述の業務を構成する
一連の工程それぞれに関する、単位時間・人あたりの処理件数の情報を格納したテーブルである。上述のチーム情報125CBで規定した能力が標準的すなわち1.0の場合の、処理件数ともいえる。こうした情報は、各工程に関して詳細な知見を有する者、あるいは工程管理システムなどでの過去実績から適宜取得したものを想定できる。
【0115】
また図5Fに示す、本実施形態の完了時限情報125Eは、上述の業務を構成する一連の工程を全て遂行して当該業務を完了すべき時刻すなわち完了時限に関する情報を格納したテーブルである。この完了時限は、一般的には、各日の終業時刻や当該業務の締め時刻想定できる。
【0116】
なお、本実施形態における制約条件DB126が保持する情報としては、イジングモデル1021に適用する各条件式(制約条件関数)として後述する。
【0117】
<フロー例>
以下、本実施形態における要員策定支援方法の実際手順について図に基づき説明する。以下で説明する要員策定支援方法に対応する各種動作は、要員策定支援装置100がメモリ等に読み出して実行するプログラムによって実現される。そして、このプログラムは、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
【0118】
図6は、本実施形態における要員策定支援方法のフロー例を示す図である。この場合、要員策定支援装置100は、処理対象とするイジングモデル1021として、或る日における予測業務量(予測業務量情報125A)、各チームの出勤可能人数と処理能力(チーム情報125CA、125CB)、各工程の標準処理量(標準処理件数情報125D)、及び完了時限と(完了時限情報125E)、稼働人数及び処理量の各制約条件(後述する、式15~式21)とが満たされる際に最小となる制約条件用関数(式15~式21の組合せ)、を項として含む目的関数に関して、各チームの配置人員数をスピンとし、制約条件用関数における変数間の感応度をスピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデル1021を演算するものとする。
【0119】
また、下記の式15で示すように、Xkts:工程(k)を時刻(t)にチーム(s)が実行
する人数、Wks:チーム(s)の1人が工程(k)を単位時間あたりに実行出来る件数、Uts:時刻(t)ごとのチーム(s)の上限人数、を前提条件とした、各制約式である式16~式21を以下に示す。
【0120】
[式15]
【0121】
[式16]
この式16は、各チーム、各時間帯で作業する人数には上限がある、との規定を示す制約式である。
【0122】
[式17]
この式17は、各時間帯、各工程で処理できる量は上限がある(残数以上は作業ができない)、との規定を示す制約式である。
【0123】
[式18]
この式18は、各時間帯、第1工程の処理量は前時間帯の残件数(Y_1(t-1))に新規発生件数(y_1t)を足したものである、との規定を示す制約式である。
【0124】
[式19]
この式19は、各時間帯、第2工程以降の処理量は、当該工程の残数と前工程の前時間帯での処理件数を足したものである、との規定を示す制約式である。
【0125】
なお、上述の式17~式19は、図8図9に例示するように、いわゆる山積み山崩しの概念をベースに、各時間帯での各工程における、処理能力超過分は「山積み」であり、この「山積み」分の業務は、後続の時間帯に移行する、すなわち「山崩し」の対象となる。また、時間帯を跨がって「山積み」、「山崩し」を順次行うとしても、完了時限までには積み残しがない状態とする必要はある。
【0126】
本実施形態によれば、こうした制約条件を満たした上で、各時間帯に必要となる人員数を特定できる。
【0127】
ただし、図8図9では、説明の簡略化のため、工程数が1、チーム数も1、とした最も簡単なケースについて本実施形態を適用した例を示した。実際には、図10図13で示すように、工程数が2、チーム数が1または2、といった、工程数もチーム数も複数であるケースに本実施形態を適用するものとする。
【0128】
[式20]
この式20は、次の時間帯への変化を少なくする、との規定を示す制約式である。
【0129】
[式21]
この式21は、各工程、最終時間帯(T)の残件数はゼロ(1日で全処理を終了させる)、
との規定を示す制約式である。
【0130】
そこで、要員策定支援装置100は、要員策定対象となる業務に関して、例えば、当該業務の管理者による指示に応じて、上述の各制約式に関する情報をユーザ端末200から取得し、これを制約条件として制約条件DB126に格納する(s10)。
【0131】
また、要員策定支援装置100は、s10で得た制約条件を、既に述べたように制約条件用関数に変換する(s11)。この制約条件用関数は、当該制約条件が満たされる際に最小となる関数である。なお、上述のs10で制約条件の指定を受けた場合、当該制約条件に対して規定済みの制約条件用関数を制約条件DB126から抽出することとなる。
【0132】
また、要員策定支援装置100は、アニーリングマシンとして、少なくとも上述の各項目(或る日における予測業務量、各チームの出勤可能人数と処理能力、各工程の標準処理量、及び完了時限)に関する設定がなされたイジングモデル1021を課題とし、当該目的関数が最小となる基底状態を算定する(s12)。こうした基底状態の探索自体は、既存技術における処理と同様である。
【0133】
つまり、上述の各制約条件と、上述の或る日における予測業務量、各チームの出勤可能人数と処理能力、各工程の標準処理量、及び完了時限といった基本情報の規定を満たしつつ、時間経過とともに(感応度に基づく理論上の)該当日の当該業務における、各工程に必要となる各チームの人員数の最終状態に向け遷移し、当該人員数の結果が落ち着く状態を、基底状態として探索することとなる。
【0134】
また、要員策定支援装置100は、s12で特定した、工程それぞれに関して、各時間帯における各チームの人員数の情報(図7参照)を、アウトプットとしてユーザ端末200に送信し(s13)、処理を終了する。
【0135】
ここで、上述の業務が複数のシナリオで遂行されうるケースについても対応する形態について説明する。この場合の基本情報DB125が保持する情報について、図14A図14Fに例示する。ここで想定するシナリオや工程の具体例としては、図16に示すように、シナリオ数:3、工程数:4、チーム数:3、といったものとなる。また、実施すべき工程とその順序もシナリオごとに異なりうる。また、図17で示すように、業務案件(例:270件)は、シナリオごとに振分けされるものとして、その割合も予測されるものとする。この予測自体は、例えば、過去の該当シナリオの発生頻度に応じて予測するものとする。
【0136】
図14Aに示す、本実施形態の予測業務量情報125Fは、要員策定対象となる業務の、各時刻における業務量の情報を格納したテーブルである。この業務量の値は、図5Aに関して説明したとおり、機械学習などの適宜なアルゴリズムにより推定したものを想定できる。
【0137】
また図14Bに示す、本実施形態のシナリオ情報125Gは、上述の業務を構成する一連の工程群が複数パターン存在する際の、当該パターンを1つのシナリオと規定する情報である。このシナリオ情報125Gは、知見ある者が予め規定したものである。構成としては、各シナリオにおける、処理フロー(工程ごとの実行の有無を1、0で示した文字列)、当該シナリオの件数等の情報を含む。
【0138】
また図14C図14Dに示す、本実施形態のチーム情報(人数)125HA、チーム情報(処理能力)125HBは、上述の業務を構成する一連の工程を担当する、すなわち遂行する各チームの情報を格納したテーブルである。この情報は、各チームに関する情報
を管理する人事管理システムなどから適宜取得したものを想定できる。また、図14C図14Dで例示する情報としては、各チームの所属人数と、工程ごとの処理能力(標準値で1.0、能力非保有の場合は0)を規定したものとなる。
【0139】
また図14Eに示す、本実施形態の標準処理件数情報125Iは、上述の業務を構成する一連の工程それぞれに関する、単位時間・人あたりの処理件数の情報を格納したテーブルである。上述のチーム情報125HBで規定した能力が標準的すなわち1.0の場合の、処理件数ともいえる。こうした情報は、各工程に関して詳細な知見を有する者、あるいは工程管理システムなどでの過去実績から適宜取得したものを想定できる。
【0140】
また図14Fに示す、本実施形態の完了時限情報125Jは、上述の業務を構成する一連の工程を全て遂行して当該業務を完了すべき時刻すなわち完了時限に関する情報を格納したテーブルである。この完了時限は、一般的には、各日の終業時刻や当該業務の締め時刻想定できる。
【0141】
また、下記の式22で示すように、Xikts:シナリオ(i)の工程(k)を時刻(t)にチ
ーム(s)が実行する人数、Wks:チーム(s)の1人が工程(k)を単位時間あたりに実行出
来る件数、Uts:時刻(t)ごとのチーム(s)の上限人数、Sik:シナリオ(i)・工程(k)ごとの処理すべき件数、lik:シナリオ(i)・工程(k)の次の工程、を前提条件とした、各制約式である式23~式27を以下に示す。
【0142】
[式22]
【0143】
[式23]
この式23は、1日のトータル件数を完了させる、との規定を示す制約式である。
【0144】
[式24]
この式24は、各時間帯で各チームの人員上限を超えない、との規定を示す制約式である。
【0145】
[式25]
この式25は、<山積み1>各時間帯、各工程で処理できる量は上限がある(残数以上は作業ができない)、<山積み2>各時間帯、第2工程以降の処理すべき量は、前工程(※当
該シナリオにおける前工程)の前時間帯での処理件数と当該工程の前時間帯の残分を足し
たものである、との規定を示す制約式である。
【0146】
[式26]
この式26は、次の時間帯への変化を少なくする、との規定を示す制約式である。
【0147】
[式27]
この式27は、各工程、最終時間帯(T)の残件数はゼロ(1日で全処理を終了させる)
、との規定を示す制約式である。
【0148】
上述のように複数シナリオの存在に対応して、イジングモデルの演算を行った結果、得られるアウトプットとしては、例えば、図15で示すように、シナリオごとに、各工程での、各チームの各時間帯における必要人数を規定したテーブルとなる。
【0149】
特に、図16図18で示すように、シナリオも工程もチームも複数存在した条件下では、もはや山積み、山崩しを適宜に行うことさえ、人力では困難である。ところが本実施形態を適用することで、各シナリオにおける各工程の、各時間帯におけるチームごとの必要人数が効率的に特定可能である。
【0150】
なお、要員策定支援装置100は、各チームの出勤可能人数を当初の値から変動させたパターンを1または複数生成し、このパターンごとにイジングモデル1021の演算を実行するとしてもよい。この場合、要員策定支援装置100は、演算結果のうち、全チームの配置人員合計が最小、または業務完了までの時間が最短、の少なくともいずれかの条件を満たすパターンを判定する。
【0151】
こうした処理を行うことで、上述の判定で特定したパターンに対応する、工程それぞれにおける時間帯ごとの各チームの配置人員数の情報を、理想的なチームの情報として得ることができる。もちろん、この場合の要員策定支援装置100は、当該理想的なチームの情報をユーザ端末200に出力する。ただし、こうした「理想的なチーム」は、当該チームにおける人員の出勤可能実態にマッチしていないケースもある。つまり、理想と現実が乖離しているケースもありうる。
【0152】
そこで、要員策定支援装置100は、上述のような変動を施さない、当初の値の出勤可能人数を採用した場合の演算結果と、「理想的なチーム」に対応する演算結果とに基づき、「理想的なチーム」における配置人員数を確立するために、当初の値の出勤可能人数を採用した場合の演算結果が示す、ある時間帯のあるチームの配置人員を、同じ時間帯の別チームの配置人員として融通する形態、を特定する。つまり、チーム間での人員融通の内容(図19)を決定する。
【0153】
図19の例では、「9:00」の時間帯における、「工程2」を担当する「チームC」の人員「10名」を、同時間帯に「工程1」を担当する「チームA」の人員として融通する形態を決定している。この融通により、「9:00」に「工程1」を担当する「チームA」として、「理想的なチーム」として必要な「20名」を確保することになる。こうした情報は、要員策定支援装置100がユーザ端末200に通知する。
【0154】
なお、上述の図19の例では、同じ時間帯においてチーム間で人員融通を行うケースについて示した。他にも、図20で示すように、拠点間での人員融通を想定して対応するとしてもよい。この場合、要員策定支援装置100は、「理想的なチーム」における配置人員数を確立するために、当初の値の出勤可能人数を採用した場合の演算結果が示す、ある時間帯のある拠点のチームの配置人員を、同じ時間帯の別拠点のあるチームの配置人員として融通する形態、を特定する。つまり、異なる拠点の間で、チーム間での人員融通の内容(図20)を決定する。
【0155】
図20の例では、「9:00」の時間帯における、「工程1」を担当する「東京」の「チームA」の人員「5名」を、同時間帯に「工程1」を担当する「大阪」の「チームB」の人員として融通する形態を決定している。この融通により、「9:00」に「工程1」を担当する「大阪」の「チームB」として、「理想的なチーム」として必要な「10名」を確保することになる。こうした情報は、要員策定支援装置100がユーザ端末200に通知する。
【0156】
また、更なる他の実施形態として、例えば、時間帯ごとに業務が新規投入される状況に対応する構成も想定できる。こうした状況としては、図21で概念を示すように、確認処理や差し戻しといった、フローに分岐が含まれる業務、2つの処理が完了しなければ次に進めないといった、待ちの発生する業務、業務中に案件数の増加が生じうる業務、電力や水等のインフラ関連での流量や交通量の制御業務、が該当しうる。
【0157】
この場合の要員策定支援装置100は、記憶部101の基本情報DB125において、予測業務量として、時間帯ごとに新規投入される業務量の情報もさらに保持するものとする。
【0158】
要員策定支援装置100は、下記の式28で示すように、Xikts:シナリオ(i)の工
程(k)を時刻(t)にチーム(s)が実行する人数、Wks:チーム(s)の1人が工程(k)を単
位時間あたりに実行出来る件数、Uts:時刻(t)ごとのチーム(s)の上限人数、Sik:シナリオ(i)・工程(k)ごとの処理すべき件数、lik:シナリオ(i)・工程(k)の次の工程、Yikt:時刻 (t)に処理するシナリオ(i)の工程(k)の件数、Aikt:時刻 (t)に投入されたシナリオ(i)の工程(k)の件数、を前提条件とした、各制約式である式29~式33を以下に示す。
【0159】
[式28]
【0160】
[式29]
この式29は、1日のトータル件数を完了させる、との規定を示す制約式である。
【0161】
[式30]
この式30は、各時間帯で各チームの人員上限を超えない、との規定を示す制約式である。
【0162】
[式31]
この式31は、<山積み1>各時間帯、各工程で処理できる量は上限がある(残数以上は作業ができない)、<山積み2>各時間帯、第2工程以降の処理すべき量は、前工程(※当
該シナリオにおける前工程)の前時間帯での処理件数と、当該工程の前時間帯の残分と、
新規シナリオ到着分を足したものである、との規定を示す制約式である。
【0163】
[式32]
この式32は、次の時間帯への変化を少なくする、との規定を示す制約式である。
【0164】
[式33]
この式33は、各工程、最終時間帯(T)の残件数はゼロ(1日で全処理を終了させる)
、との規定を示す制約式である。
【0165】
要員策定支援装置100は、上述のような、時間帯ごとに新規投入される業務量の情報をさらに踏まえたイジングモデルの演算を行い、確認処理や差し戻しといった、フローに分岐が含まれる業務、2つの処理が完了しなければ次に進めないといった、待ちの発生する業務、業務中に案件数の増加が生じうる業務、電力や水等のインフラ関連での流量や交通量の制御業務、に関して、各工程での、各チームの各時間帯における必要人数を得ることとなる。
【0166】
以上、本発明を実施するための最良の形態などについて具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0167】
こうした本実施形態によれば、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとに効率的に算定可能となる。
【0168】
本明細書の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。すなわち、本実施形態の要員策定支援装置において、前記記憶部は、前記業務に関して想定される、異なる組合せの工程群からなる複数のシナリオの情報を更に格納し、前記演算部は、前記予測業務量、前記出勤可能人数、前記処理能力、前記標準処理量、前記シナリオ、及び前記完了時限と、前記稼働人数及び前記処理量の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記各チームの配置人員数をスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算し、前記演算の結果に基づき、前記複数のシナリオそれぞれの前記工程群の各工程における前記時間帯ごとの前記各チームの配置人員数の情報を所定装置に出力するものである、としてもよい。
【0169】
これによれば、複数シナリオが想定されるような観点の非常に多い業務に関しても対応可能となり、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとにさらに効率的に算定可能となる。
【0170】
また、本実施形態の要員策定支援装置において、前記演算部は、前記出勤可能人数を当初の値から変動させたパターンを1または複数生成し、前記パターンごとに前記イジングモデルの演算を実行し、前記演算の結果のうち、全チームの配置人員合計が最小、または前記業務の完了までの時間が最短、の少なくともいずれかの条件を満たすパターンを判定し、当該パターンに対応する、前記工程それぞれにおける前記時間帯ごとの前記各チームの配置人員数の情報を出力するものである、としてもよい。
【0171】
これによれば、必要人数合計が低減される、または業務完了時間を早めることができる
といった点で、最も理想的なチーム/工程毎人数を効率的に判定できる。ひいては、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとにさらに効率的に算定可能となる。
【0172】
また、本実施形態の要員策定支援装置において、前記演算部は、前記当初の値の出勤可能人数を採用した場合の前記演算の結果と、前記条件を満たすパターンに対応する前記演算の結果とに基づき、前記条件を満たすパターンに対応する前記配置人員数を確立するために、前記当初の値の出勤可能人数を採用した場合の前記演算の結果に基づき、チーム間での人員融通の内容を決定する処理をさらに実行するものである、としてもよい。
【0173】
これによれば、“設定したチーム毎の出勤可能人数をもとに算出したチーム/工程毎人数”と”最も理想的なチーム/工程毎人数”を比較することで、チーム毎の支援/被支援人数を決定可能となる。ひいては、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとにさらに効率的に算定可能となる。
【0174】
また、本実施形態の要員策定支援装置において、前記演算部は、前記チーム間での人員融通の内容として、当該チームの所在する拠点間での人員融通の内容を決定するものである、としてもよい。
【0175】
これによれば、全拠点分の最適な必要人数を算出可能となるため、拠点内の支援/被支援人数だけではなく、拠点間の支援/被支援人数を決定することができる。ひいては、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとにさらに効率的に算定可能となる。
【0176】
また、本実施形態の要員策定支援装置において、前記記憶部は、前記予測業務量として、時間帯ごとに新規投入される業務量の情報もさらに保持し、前記演算部は、前記新規投入される業務量も含む前記予測業務量、前記出勤可能人数、前記処理能力、前記標準処理量、及び前記完了時限と、前記稼働人数及び前記処理量の各制約条件とが満たされる際に最小となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記各チームの配置人員数をスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算するものである、としてもよい。
【0177】
これによれば、一方通行の処理フローでは計算できない、各種業務フローに対応可能となる。具体的には、確認処理や差し戻しといった、フローに分岐が含まれる業務や、2つの処理が完了しなければ次に進めないといった待ちの発生する業務、業務中に案件数(インフラの流量や交通量の概念も含みうる)が増加する業務、にも応用可である。ひいては、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとにさらに効率的に算定可能となる。
【0178】
また、本実施形態の要員策定支援装置において、前記イジングモデルに関して組合せ最適化問題を解くCMOSアニーリングマシンであるとしてもよい。
【0179】
これによれば、イジングモデルの動作を半導体のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの素子を用いた回路で擬似的に再現し、互いに影響しあっている制約条件すなわち非線形な制約条件を踏まえた組合せ最適化問題の実用解を、室温下で効率良く求めることが可能となる。ひいては、順序性のある複数工程からなる業務における、各工程の必要人数を時間帯ごとに効率的に算定可能となる。
【符号の説明】
【0180】
10 ネットワーク
100 要員策定支援装置(アニーリングマシン)
101 記憶部
102 プログラム
1021 イジングモデル
103 メモリ
104 演算部
105 通信部
125 基本情報DB
126 制約条件DB
200 ユーザ端末
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7
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図10
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図14A
図14B
図14C
図14D
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図20
図21