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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/12 20060101AFI20231114BHJP
   B60N 2/22 20060101ALI20231114BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20231114BHJP
【FI】
B60N2/12
B60N2/22
B60N2/90
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021208368
(22)【出願日】2021-12-22
(65)【公開番号】P2023093003
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】沖本 浩平
【審査官】五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127167(JP,A)
【文献】特開2018-176902(JP,A)
【文献】特開2021-183488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00- 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションおよびシートバックを有するシートと、
前記シートバックを傾斜する傾斜駆動部と、
前記シートを車両前後方向にスライド可能とするスライド機構と、
を有し、
前記スライド機構は、
前記シートに固定されたアッパレール、および、車体フロアに固定され前記アッパレールに対して前後方向にスライド移動可能とされたロアレールを有し、前記シートを前後方向にスライド移動可能に支持するスライドレールと、
前記アッパレールを前記ロアレールに対してスライド可能なスライド駆動部と、
前記スライド駆動部を駆動して、運転時の通常モードとリラックスモードとを切り替え可能なモード切替スイッチと、
を備え、
前記通常モードは、前記シートの前後方向でのスライド範囲が車両運転時に用いるスライド量とされ、
前記リラックスモードは、前記シートの前後方向でのスライド位置が前記通常モードでの最後端となるスライド位置よりも後方となる位置のスライド量とされ、
前記モード切替スイッチが、前記リラックスモードでのスライド量となる前記シートのスライド位置からでは、前記リラックスモードで前記シートバックに寄りかかった着座者がそのままの体勢でスイッチ操作できない前方に配置される、
ことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記リラックスモード時には、
前記アッパレール後端が、前記ロアレール後端よりも後方へ突出した前記シートのスライド位置とされるとともに、
前記通常モードに着座した運転者から前記シートクッションに印加される重心範囲の後端が、前記ロアレール後端よりも後方となる前記シートのスライド位置とされる、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用シート。
【請求項3】
前記通常モードにおける前記シートの前後方向でのスライド範囲のうち、
最前端のスライド位置では、前記アッパレール前端が前記ロアレール前端よりも前方へ突出し、かつ、前記アッパレールと前記ロアレールとのラップ量が、前記ロアレールの前後方向寸法の半分以上となり、
最後端のスライド位置では、前記アッパレール前端が前記ロアレール前端よりも前方へ突出し、かつ、前記アッパレール後端が前記ロアレール後端よりも後方へ突出して、前記アッパレールと前記ロアレールとのラップ量が、前記ロアレールの前後方向寸法の全部となり、
前記リラックスモードにおける前記シートの前後方向でのスライド位置のうち、最後端のスライド位置では、前記アッパレール後端が前記ロアレール後端よりも後方へ突出し、かつ、前記アッパレールと前記ロアレールとのラップ量が、前記ロアレールの前後方向寸法の三分の二以下となる、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用シート。
【請求項4】
前記リラックスモード時には、
前記シートクッションにおけるヒップポイントの前後方向位置が、前記ロアレール後端よりも後方となる前記シートのスライド位置とされる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の車両用シート。
【請求項5】
前記切り替えスイッチは、前記車両の天井に配置される、
ことを特徴とする請求項4記載の車両用シート。
【請求項6】
前記切り替えスイッチは、前記リラックスモードの前記ヒップポイントの前後方向位置に対応する前記シートのスライド位置からスイッチ操作可能な位置よりも前方に配置される、
ことを特徴とする請求項4記載の車両用シート。
【請求項7】
前記切り替えスイッチは、前方向へと変位するスイッチ操作によりモードの切り替えを可能な構成とされる、
ことを特徴とする請求項6記載の車両用シート。
【請求項8】
前記スライド駆動部による前記シートの前後方向移動速度は、前記通常モードにおける移動速度に比べて、前記通常モードと前記リラックスモードとの切り替え時の移動速度が大きい、
ことを特徴とする請求項7記載の車両用シート。
【請求項9】
前記車体フロアは、前記通常モードでは前記シートに隠され、前記リラックスモードでは着座した運転者が使用可能な足置き低床部を有する、
ことを特徴とする請求項8記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートとして、前後方向に沿ってシート本体をスライド移動可能とするスライド機構が設けられたものがある。スライド機構は、シート本体の下面に左右一対で設けられたアッパレールと、車体フロアにフットを介して固定され、上述したアッパレールをそれぞれスライド移動可能に支持するロアレールと、を備えている。スライド機構は、シート座面の前端が上方に向かい、また、シート座面の後端が下方に向かうように傾斜した状態を維持して前後に移動可能な構成であった。
このようなスライド機構では、特許文献1に記載されるように、ドライビングポジションと称して、運転者が運転可能な範囲でシートの前後移動をおこなっていた。
【0003】
これに対し、今後、ドライビングポジションに加えて、リラックスポジションが使用可能とする。つまり、移動のために運転するドライビングポジションだけでなく、停車時あいは自動運転時などに、内部で他の活動時間を過ごすことができるリラックスポジションを有する。つまり、思い立ったらそのときに即座に対応して、車両の中で簡単な軽作業等ができること、車両の中部がプライベートな個室生活空間として使用可能とすることを意味する。このためには、リラックスポジションとして、従来のドライビングポジションよりもさらに後方にシートをスライドすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-38320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、従来のドライビングポジションの範囲よりもさらに後方にシートをスライドすることが想定されていないという点で、従来技術には改善の余地がある。
さらに、シートが後方に向かうにつれて下方に傾斜しており、これに沿ってアッパレール、ロアレールとも傾斜しているため、リラックスモードでは、重心がより後方に位置することになる上、シートバックを後方に倒した場合さらに後方に荷重がかかるため、従来の構成そのままではスライド機構が使用できないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、ドライビングポジションに加えて、リラックスポジションが使用可能な車両用シートを提供するという目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の車両用シートは、
シートクッション(31)およびシートバック(32)を有するシート(12)と、 前記シートバック(32)を傾斜する傾斜駆動部(55)と、
前記シート(12)を車両前後方向にスライド可能とするスライド機構(34)と、を有し、
前記スライド機構(34)は、
前記シート(12)に固定されたアッパレール(35)、および、車体フロア(11)に固定され前記アッパレール(35)に対して前後方向にスライド移動可能とされたロアレール(38)を有し、前記シート(12)を前後方向にスライド移動可能に支持するスライドレール(38)と、
前記アッパレール(35)を前記ロアレール(37)に対してスライド可能なスライド駆動部(53)と、
前記スライド駆動部(53)を駆動して、運転時の通常モードとリラックスモードとを切り替え可能なモード切替スイッチ(57)と、
を備え、
前記通常モードは、前記シート(12)の前後方向でのスライド範囲が車両(10)運転時に用いるスライド量とされ、
前記リラックスモードは、前記シート(12)の前後方向でのスライド位置が前記通常モードでの最後端となるスライド位置(RRM)よりも後方となる位置(RROM)のスライド量とされ、
前記モード切替スイッチ(57)が、前記リラックスモードでのスライド量となる前記シート(12)のスライド位置からでは、前記リラックスモードで前記シートバック(32)に寄りかかった着座者がそのままの体勢でスイッチ操作できない前方に配置される、
ことにより上記課題を解決した。
【0008】
(2)本発明の車両用シートは、前記(1)記載の車両用シートであって、
前記リラックスモード時には、
前記アッパレール(35)後端(35b)が、前記ロアレール(37)後端(37b)よりも後方へ突出した前記シート(12)のスライド位置とされるとともに、
前記通常モードに着座した運転者から前記シートクッション(31)に印加される重心範囲の後端(G)が、前記ロアレール(37)後端(37b)よりも後方となる前記シートのスライド位置(RROM)とされる、
ことができる。
【0009】
(3)本発明の車両用シートは、前記(1)記載の車両用シートであって、
前記通常モードにおける前記シート(12)の前後方向でのスライド範囲のうち、
最前端のスライド位置(FRM)では、前記アッパレール(35)前端(35a)が前記ロアレール(37)前端(37a)よりも前方へ突出し、かつ、前記アッパレール(35)と前記ロアレール(37)とのラップ量(wrp)が、前記ロアレール(37)の前後方向寸法の半分以上となり、
最後端のスライド位置(RRM)では、前記アッパレール(35)前端(35a)が前記ロアレール(37)前端(37a)よりも前方へ突出し、かつ、前記アッパレール(35)後端(35b)が前記ロアレール(37)後端(37b)よりも後方へ突出して、前記アッパレール(35)と前記ロアレール(37)とのラップ量(wrp)が、前記ロアレール(37)の前後方向寸法の全部となり、
前記リラックスモードにおける前記シート(12)の前後方向でのスライド位置のうち、最後端のスライド位置(RROM)では、前記アッパレール(35)後端(35b)が前記ロアレール(37)後端(37b)よりも後方へ突出し、かつ、前記アッパレール(35)と前記ロアレール(37)とのラップ量(wrp)が、前記ロアレール(37)の前後方向寸法の三分の二以下となる、
ことができる。
【0010】
(4)本発明の車両用シートは、前記(1)から(3)のいずれか記載の車両用シートであって、
前記リラックスモード時には、
前記シートクッション(31)におけるヒップポイント(H)の前後方向位置が、前記ロアレール(37)後端(37b)よりも後方となる前記シート(12)のスライド位置とされる、
ことができる。
【0011】
(5)本発明の車両用シートは、前記(4)記載の車両用シートであって、
前記モード切替スイッチ(57)は、前記車両(10)の天井(17)に配置される、
ことができる。
【0012】
(6)本発明の車両用シートは、前記(4)記載の車両用シートであって、
前記モード切替スイッチ(57)は、前記リラックスモードの前記ヒップポイント(H)の前後方向位置に対応する前記シート(12)のスライド位置からスイッチ操作可能な位置よりも前方に配置される、
ことができる。
【0013】
(7)本発明の車両用シートは、前記(6)記載の車両用シートであって、
前記モード切替スイッチ(57)は、前方向へと変位するスイッチ操作によりモードの切り替えを可能な構成とされる、
ことができる。
【0014】
(8)本発明の車両用シートは、前記(5)記載の車両用シートであって、
前記スライド駆動部(53)による前記シート(12)の前後方向移動速度は、前記通常モードにおける移動速度に比べて、前記通常モードと前記リラックスモードとの切り替え時の移動速度が大きい、
ことを特徴とする。
【0015】
(9)本発明の車両用シートは、前記(6)記載の車両用シートであって、
前記車体フロア(11)は、前記通常モードでは前記シート(12)に隠され、前記リラックスモードでは着座した運転者が使用可能な足置き低床部(11a)を有する、
ことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の(1)記載の車両用シートによれば、スライド機構により、運転するためのドライビングポジションであった通常モードから、リラックスモードへと切り替えることで、従来の運転可能なスライド範囲であった通常モードのスライド範囲よりも、シートがさらに後方に位置することができる。これにより、ハンドル等にじゃまされることなく、車両内部に従来は実現できなかったリラックス空間を生み出したリラックスモード、静モードを可能とする。さらに、従来はサンルーフも後部座席のものだったが、運転席でもいい感じを与えられる。加えて、モード切替スイッチを操作するだけで、通常モードからリラックスモードへと切り替えることができるとともに、モード切替スイッチを操作するだけで、リラックスモードから通常モードへと切り替えることができる。
このとき、リラックスモードでシートバックが倒されていた場合に、シートバックが倒されていた状態、かつ、着座者が寄り掛かった状態のままでシートをスライドさせることは、重心がかなり後ろ側になる。このため、レールが大きくたわむ、スライド駆動部のモータ等に大きな負担がかかる等の不具合が発生する可能性があるが、モード切替スイッチが、リラックスモードでのスライド量となるシートのスライド位置からでは、スイッチ操作できない前方に配置されることで、着座者は上体を起こして前方へと傾けた姿勢を取らないとスイッチ操作ができない。このため、着座者の重心が前に移動した状態でスイッチ操作、および、これに続くモード切り替え動作がおこなわれる。これにより、重心を前側に移動させたて後に、通常モードのスライド位置までシートを前方に移動することで、レールやモータにかかる負担を軽減して、これらの不具合を回避することができる。
【0017】
本発明の(2)記載の車両用シートによれば、シートクッションの重心範囲の後端がロアレール後端よりも後方にあり、その状態でも、アッパレールが従来よりも延長されていることで、レールが大きくたわむ、スライド駆動部のモータ等に大きな負担がかかる等の不具合を起こすことなく、リラックスモードを実現することができる。また、このシートクッションの重心範囲の後端がロアレール後端よりも後方となる状態には、運転時となる通常モードでスライドすることがないため、運転時における荷重等を考慮する必要がない。これにより、通常モードのスライド範囲よりも、シートがさらに後方に位置して、ハンドル等にじゃまされることなく、軽作業等をおこなうことが可能となるとともに、従来は実現できなかったリラックス空間を車両内部に生み出したリラックスモード、静モードを可能とすることができる。
【0018】
本発明の(3)記載の車両用シートによれば、従来に比べて延長されたアッパレールにより、充分なロアレールとのラップ量を維持した状態で、通常モードとリラックスモードとを切り替えて、これらを実現可能とすることができる。また、アッパレールとロアレールとのラップ量およびスライド量を実現したことにより、通常モードとリラックスモードとの両方のモードで、いずれもレールが大きくたわむ、スライド駆動部のモータ等に大きな負担がかかる等の不具合を起こすことなく、充分なシートの保持、および、耐荷重性を有する状態で、通常モードとリラックスモードとを素早く切り替えることができる。
【0019】
本発明の(4)記載の車両用シートによれば、ヒップポイントの前後方向位置をロアレールに対して所定の範囲として、通常モードとリラックスモードとを切り替え可能とすることができる。このため、スライド機構での耐荷重性を維持し、レールが大きくたわむ、スライド駆動部のモータ等に大きな負担がかかる等の不具合を起こすことなく、リラックスモードの可能な車両用シートを提供することが可能となる。
【0020】
本発明の(5)記載の車両用シートによれば、モード切替スイッチが、車両の天井に配置されているために、モードの切り替えをおこなうには、スイッチ操作者は上体を起こして前方へと傾けた姿勢を取らないとスイッチ操作ができない。このため、着座している操作者の重心が前に移動した状態でスイッチ操作、および、これに続くモード切り替え動作がおこなわれる。これにより、重心を前側に移動させた後に、通常モードのスライド位置までシートを前方に移動することで、レールやモータにかかる負担を軽減して、これらの不具合を回避することができ、リラックスモードから通常モードへと切り替え可能な車両用シートを提供することが可能となる。
【0021】
本発明の(6)記載の車両用シートによれば、リラックスモード時にシートクッションにおけるヒップポイントの前後方向位置が、ロアレール後端よりも後方となるシートのスライド位置とされ、このヒップポイントの前後方向位置に対応するシートのスライド位置からスイッチ操作ができない。このため、着座している操作者がモード切替スイッチを操作するためには、上体を起こして前方へと傾けた姿勢を取ることになり、ヒップポイントが前方に移動する。この状態で、モードを切り替えるスイッチ操作、および、これに続くモード切り替え動作がおこなわれる。これにより、重心を前側に移動させた後に、通常モードのスライド位置までシートを前方に移動することで、レールやモータにかかる負担を軽減して、これらの不具合を回避することができ、リラックスモードから通常モードへと切り替え可能な車両用シートを提供することが可能となる。
【0022】
本発明の(7)記載の車両用シートによれば、切り替えスイッチは、前方向へと変位するスイッチ操作によりモードの切り替えを可能な構成であるため、モードの切り替えをおこなうためには、たとえ手が届いたとしても、これに加えて、前方へとスイッチ操作部分を変位させる必要がある。したがって、この分だけ操作者は上体を前方へと移動させる必要があり、モードの切り替えをおこなう前に、重心がより一層前方へと移動して、シートにかかる荷重を抑制することが可能となる。
【0023】
本発明の(8)記載の車両用シートによれば、シートの前後方向位置調整を主眼とする通常モードでのスライド駆動部によるシートの前後方向移動速度に対して、モード切り替え時のシートの前後方向移動速度を短時間で行うことが可能となる。これにより、操作を行う着座者が、切り替え終了まで待機する時間を短縮し、操作者がじれったく感じることを防止できる。また、モード切り替えに有する時間を短縮して、スライド機構のレールやモータにかかる負荷をはやく減少することができる。
【0024】
本発明の(9)記載の車両用シートによれば、シートを後方に移動してリラックスモードとすることで、通常モードでは、シートの下方位置となって隠されていた足置き低床部を使用可能にして、着座者の足を置き、通常モードに比べて足を伸ばし、従来は実現できなかったリラックス空間を車両内部に生み出したリラックスモード、静モードを可能とすることができる。同時に、通常モードでは、足置き低床部をシートの下方位置として隠すことができるため、運転に支障を生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る車両用シートの第1実施形態を備えた車両における通常モードを示す概略構成図(側面図)である。
図2】本発明に係る車両用シートの第1実施形態を備えた車両におけるリラックスモードを示す概略構成図(側面図)である。
図3】本発明に係る車両用シートの第1実施形態におけるスライド機構のスライド位置を示す模式側面図である。
図4】本発明に係る車両用シートの第1実施形態における通常モードからリラックスモードへの切り替えを示すフローチャートである。
図5】本発明に係る車両用シートの第1実施形態における通常モードからリラックスモードへの切り替えを示す模式側面図である。
図6】本発明に係る車両用シートの第1実施形態における通常モードへの切り替えを示す模式側面図である。
図7】本発明に係る車両用シートの第1実施形態におけるリラックスモードへの切り替えを示す模式側面図である。
図8】本発明に係る車両用シートの第1実施形態における通常モードへの切り替えを示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る車両用シートの第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における通常モードとなる車両用シートを備えた車両を示す概略構成図である。図2は、本実施形態におけるリラックスモードとなる車両用シートを備えた車両を示す概略構成図である。図において、符号10は、車両である。なお、以下の説明における前後上下左右等の向きは、特に記載が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印UPは上方を、矢印FRは前方をそれぞれ示している。
【0027】
[車両]
本実施形態に係る車両10は、図1に示すように、車両10の車体フロア11上には、前列シート(車両用シート)12及び後列シート13が前後方向に間隔をあけて配列されている。
【0028】
[シート]
前列シート(シート)12は、図1に示すように、シートクッション31の後端部にシートバック32が傾動可能に連結されてなるシート本体33を備え、このシート本体33がスライド機構34を介して前後方向にスライド移動可能に車体フロア11に固定されている。なお、図示しないが前列シート12は、左右一対設けられている。
前列シート(シート)12は、前後方向にスライドして、図1に示す運転時の通常モードと、図2に示すリラックスモードと、の間を切り替え可能である。
【0029】
車体フロア11には、足置き低床部11aが形成されている。足置き低床部11aは、車体フロア11よりも下方となるように凹んでいる。足置き低床部11aは、後述するように、図1に示す通常モードでのシートクッション31の下方となって、シートクッション31により着座した運転者に対して隠されているが、図2に示すリラックスモードでは、シートクッション31の前方に位置し、着座した運転者が足置きに使用可能である。
【0030】
[スライド機構]
スライド機構34は、シートクッション31の下面に左右一対で固定されたアッパレール35と、車体フロア11上にフット51,52(図3参照)を介して固定され、上述した各アッパレール35をそれぞれ前後方向に沿ってスライド移動可能に支持するロアレール37と、ロアレール37に対してアッパレール35をスライド駆動するスライド駆動部(モータ)53と、シートクッション31の座面を上下動する持ち上げ部54と、シートバック32を傾動駆動する傾斜駆動部55と、後述するモードを切り替えるモード切替スイッチ57と、制御部59と、を備えている。なお、アッパレール35及びロアレール37により本実施形態のスライドレール38を構成している。
【0031】
[スライドレール]
各スライドレール38はそれぞれ同様の構成からなるため、以下の説明では一方のスライドレール38について説明し、他方のスライドレール38については説明を適宜省略する。
図3は、本実施形態における車両用シートのスライドレールのスライド位置を示す模式側面図である。
アッパレール35は、図1図3に示すように、シートクッション31の下面を前後方向に沿って延在している。アッパレール35は、下方に向けて開口する断面C字状のアッパ基部を備えていてもよい。アッパ基部の上面は、ブラケットを介してシートクッション31の下面に固定されている。アッパ基部の左右両端縁には、外向き(左右方向の外側、かつ上方)に折り込まれたアッパ屈曲壁が基部の全長に亘って形成されている。
【0032】
アッパレール35の前端部35aには、例えば樹脂製のエンドキャップが前方から装着されていてもよい。エンドキャップは、上述したアッパ基部及びアッパ屈曲壁の前端縁に前方から当接するように装着される。エンドキャップによりアッパレール35の金属部分が前席乗員の足などに直接干渉しないようになっている。
【0033】
アッパレール35の後端部35bには、例えば樹脂製のエンドキャップが後方から装着されていてもよい。エンドキャップは、上述したアッパ基部及びアッパ屈曲壁の後端縁に後方から当接するように装着される。エンドキャップによりアッパレール35の金属部分が後席乗員の足に直接干渉しないようになっている。
【0034】
ロアレール37は、各アッパレール35に対応してそれぞれ前後方向に沿って延在している。ロアレール37は、上方に向けて開口する断面C字状のロア基部を備えている。ロア基部の左右両端縁には、内向き(左右方向の内側、かつ下方)に折り込まれたロア屈曲壁が形成されている。上述したアッパレール35は、ロアレール37のロア基部内に上方から収容され、かつ、アッパ屈曲壁がロアレール37のロア屈曲壁に係合する。これにより、アッパレール35は、ロアレール37上をスライド移動可能に支持されている。
【0035】
アッパレール35およびロアレール37は、図1図3に示すように、互いに前後方向にスライドすることで、後述する通常モードとリラックスモードとの切り替え可能な構成とされる。
具体的には、アッパレール35およびロアレール37が、図3に示すように、通常モードにおける最前位置FRMから最後位置RRMまでのスライド範囲と、リラックスモードでの超後位置RROMまでの範囲とでスライド可能となる。
以下、これらのスライド位置およびスライドレール38での長さについて説明する。
【0036】
図3の上段に示す最前位置FRMは、通常モードにおけるシート12の前後方向でのスライド範囲のうち、ロアレール37に対する最前端のスライド位置である。最前位置FRMは、通常モードにおいて、ロアレール37に対して最もアッパレール35が前方に位置するスライド位置である。つまり、最前位置FRMは、通常モードにおけるシートクッション31の最も前方へ移動したスライド位置である。
【0037】
図3の中段に示す最後位置RRMは、通常モードにおけるシート12の前後方向でのスライド範囲のうち、ロアレール37に対する最後端のスライド位置である。最後位置RRMは、通常モードにおいて、ロアレール37に対して最もアッパレール35が後方に位置するスライド位置である。つまり、最後位置RRMは、通常モードにおけるシートクッション31の最も後方へ移動したスライド位置である。
【0038】
通常モードでは、シート12の前後方向でのスライド位置は、最前位置FRMと最後位置RRMとの間となるスライド範囲に規定されている。すなわち、後述するモード切替スイッチ57をONにしない限り、これ以上後方にアッパレール35は移動しない。
【0039】
図3の下段に示す超後位置RROMは、リラックスモードにおけるロアレール37に対するアッパレール35の規定位置となるスライド位置である。超後位置RROMは、ロアレール37に対するアッパレール35の前後位置のうち、最も後方に位置するスライド位置である。つまり、超後位置RROMは、スライド機構34におけるシートクッション31の最も後方へ移動したスライド位置である。
【0040】
アッパレール35およびロアレール37は、これらの最前位置FRMから最後位置RRM、および、最後位置RRMよりもさらに後方となる超後位置RROMまで互いにスライド可能である。
【0041】
図3の上段に示すように、通常モードにおけるシート12の前後方向でのスライド範囲のうち、最前位置FRMでは、アッパレール35の前端35aがロアレール37の前端37aよりも前方へ突出している。最前位置FRMでは、アッパレール35の後端35bが、ロアレール37の前後方向の中央に位置する。最前位置FRMでは、アッパレール35とロアレール37とのラップ量wrpが、ロアレール37の前後方向寸法の約半分以上となる。つまり、最前位置FRMでは、ロアレール37の前端37aからアッパレール35の後端35bまでの前後方向距離が、ロアレール37の前後方向寸法の約1/2である。
【0042】
このように、最前位置FRMにおいては、アッパレール35とロアレール37とのラップ量wrp、つまり、互いに前後方向に重なるとともに、ロアレール37によって支持されるアッパレール35の前後方向長さは、ロアレール37の前後方向長さの1/2より大きい。このようなアッパレール35とロアレール37とのラップ量wrpを実現するために、従来のアッパレールに比べて、本実施形態におけるアッパレール35は、前後方向に延長されている。
【0043】
最前位置FRMでは、これ以上、ロアレール37に対してアッパレール35が前方へ移動しない。このため、通常モードにおけるシート12の前後方向でのスライド範囲のうち、ロアレール37に対してアッパレール35が前方へ移動するスライド位置では、最前位置FRMにおけるラップ量wrpが最小となり、これ以上、ラップ量wrpが小さくならない。このため、最前位置FRMでのラップ量wrpは、ロアレール37の前後方向寸法の約1/2とされる。これにより、通常モードにおける充分な機械的強度、耐衝撃性、耐荷重性、歪み発生耐性を有することができる。
【0044】
図3の中段に示すように、通常モードにおけるシート12の前後方向でのスライド範囲のうち、最後位置RRMでは、アッパレール35の前端35aがロアレール37の前端37aよりも前方へ突出している。最後位置RRMでは、アッパレール35の後端35bが、ロアレール37の後端37bよりも後方へ突出している。最後位置RRMでは、アッパレール35とロアレール37とのラップ量wrpが、ロアレール37の前後方向寸法と等しくなる。
【0045】
このように、最後位置RRMにおいては、アッパレール35とロアレール37とのラップ量wrp、つまり、互いに前後方向に重なるとともに、ロアレール37によって支持されるアッパレール35の前後方向長さは、ロアレール37の前後方向の全長と等しい。このようなアッパレール35とロアレール37とのラップ量wrpを実現するために、従来のアッパレールに比べて、本実施形態におけるアッパレール35は、前後方向に延長されている。
【0046】
最後位置RRMでは、通常モードとして、これ以上ロアレール37に対してアッパレール35が後方へ移動しない。このため、通常モードにおけるシート12の前後方向でのスライド範囲のうち、アッパレール35の後端35bが、ロアレール37の後端37bと一致した位置よりも後方へ移動するスライド位置では、最後位置RRMにおけるラップ量wrpが最大となる。これにより、通常モードにおける充分な機械的強度、耐衝撃性、耐荷重性、歪み発生耐性を有することができる。
【0047】
図3の下段に示すように、リラックスモードでのスライド範囲は、通常モードにおけるシート12の前後方向でのスライド範囲に比べて後方となるように設定される。これは、リラックスモードでは、ハンドル15(図2参照)等にじゃまされることなく、車両10の内部にいままでは実現できなかった広いリラックス空間を生み出すことを目的とするからである。このため、超後位置RROMでは、アッパレール35の前端35aがロアレール37の前端37aよりも後方へ位置している。超後位置RROMでは、アッパレール35の前端35aがロアレール37の前後方向の中央よりも前方に位置する。
【0048】
超後位置RROMでは、アッパレール35の後端35bが、ロアレール37の後端37bよりも後方へ突出したスライド位置とされる。超後位置RROMでは、アッパレール35とロアレール37とのラップ量wrpが、ロアレール37の前後方向寸法の約2/3以下となる。つまり、超後位置RROMでは、アッパレール35の前端35aからロアレール37の後端37bまでの前後方向距離が、ロアレール37の前後方向寸法の約2/3である。
【0049】
このように、超後位置RROMにおいては、アッパレール35とロアレール37とのラップ量wrp、つまり、互いに前後方向に重なるとともに、ロアレール37によって支持されるアッパレール35の前後方向長さは、ロアレール37の前後方向長さの2/3より大きい。このようなアッパレール35とロアレール37とのラップ量wrpを実現するために、従来のアッパレールに比べて、本実施形態におけるアッパレール35は、前後方向に延長されている。
【0050】
超後位置RROMでは、これ以上ロアレール37に対してアッパレール35が後方へ移動しない。超後位置RROMでは、これ以上ロアレール37に対してアッパレール35が後方へ移動しない。このため、リラックスモードにおけるシート12の前後方向でのスライド位置では、超後位置RROMにおけるラップ量wrpが最小となり、これ以上、ラップ量wrpが小さくならない。
なお、リラックスモードとしての超後位置RROMは、一箇所ではなく、前後方向のスライド位置が所定の範囲となる領域とすることもできる。
【0051】
なお、リラックスモード時の超後位置RROMでは、そのスライド位置において、通常モードにおいて着座した運転者からシートクッション31に印加される重心範囲の後端Gが、ロアレール37の後端37bよりも後方となる。
重心範囲の後端Gは、通常モードにおいてシートクッション31に着座した運転者から印加される荷重の重心範囲のうち、前後方向で最も後方位置となる端部である。ここで、着座した運転者から印加される重心は、シートバック32の傾きや、着座者の姿勢等によって前後方向における位置が変動する。例えば、シートバック32が後方に倒されている場合の重心位置が、シートバック32が直立に近い状態の運転時の重心位置に比べて、より後方に位置することになる。
このように、前後するこれらの重心位置の範囲のうち最も後方となる端部位置を重心範囲の後端Gとする。具体的には、重心範囲の後端Gは、シートバック32下端のすぐ前方となるシートクッション31の後端部付近となっている。
【0052】
リラックスモード時には、シートクッション31におけるヒップポイントHの前後方向位置が、ロアレール37の後端37bよりも後方となるスライド位置とされる。ここで、ヒップポイントHの前後方向位置は、シートバック32下端のすぐ前方となるシートクッション31の後端部付近となる。
スライドレール38が前方から後方に向かって下降するように傾斜しており、また、後述する持ち上げ部54を動作させない状態では、シートクッション31の座面も後方に向かって下降するように傾斜している。このため、ヒップポイントHの前後方向位置は、シートバック32下端のすぐ前方となるシートクッション31の後端部付近となり、アッパレール35が後方に移動している超後位置RROMでは、スライドレール38への荷重が、より後方に位置する。
【0053】
これらにより、超後位置RROMでのラップ量wrpは、ロアレール37の前後方向寸法の約2/3とされる。また、超後位置RROMでは、後述するようにリラックスモード、つまり、車両10は停止状態であるため、スライドレール38には着座者からの荷重以外印加されない。これにより、通常モードおよびリラックスモードとして、アッパレール35およびロアレール37が最前位置FRMから最後位置RRM、超後位置RROMまで互いにスライドした場合でも、充分な機械的強度、耐衝撃性、耐荷重性、歪み発生耐性を有することができる。
このように、スライドレール38が上述した構成とされていることで、通常モードおよびリラックスモードを切り替えて、両方のモードを実現することが可能となる。
【0054】
ロアレール37には、図1図3に示すように、スライド駆動部(モータ)53が備えられる。スライド駆動部53は、左右それぞれのロアレール37に設けられる。スライド駆動部53は、制御部59に接続される。スライド駆動部53は、図示しない電源から電力を供給されてロアレール37に対して、アッパレール35を前後方向にスライドする。スライド駆動部53は、図示しないギア等の駆動力伝達部を有する。スライド駆動部53は、ロアレール37に対するアッパレール35の前後方向位置を検出する検出部を備える。
スライド駆動部(モータ)53は、後述するように、通常モードでの前後位置調整のためのシート本体33の前後方向へのスライドと、モード切り替えのためのシート本体33の前後方向へのスライドとをおこなうように兼用可能とされる。
【0055】
スライド駆動部(モータ)53は、通常モードでの前後位置調整のためのシート本体33の前後方向へのスライドにおける駆動速度に比べて、モード切り替えのためのシート本体33の前後方向へのスライドにおける駆動速度が大きくなるように調整されている。具体的には、スライド駆動部(モータ)53は、通常モードでの前後位置調整における駆動速度に比べて、モード切り替えのための駆動速度が2倍から3倍程度、例えば、2.6倍程度大きくなる。
【0056】
シート本体33の下部には、図1図2に示すように、持ち上げ部54が設けられる。持ち上げ部54は、シートクッション31の座面を上下動する。具体的には、持ち上げ部54は、シートクッション31の座面の後端を上下動する。持ち上げ部54は、後述する通常モードで、後端が下方に傾斜しているシートクッション31の座面を、リラックスモードに切り替えた際に、略水平となるように上昇する。持ち上げ部54は、後述するリラックスモードで、略水平となるシートクッション31の座面を、通常モードに切り替えた際に、後端が下方に傾斜しているように下降させる。
【0057】
持ち上げ部54は、例えば、エアセルとされ、図示しないエア供給部からエアを供給されてシートクッション31の座面を上下動可能とされる。持ち上げ部54は、制御部59に接続される。なお、持ち上げ部54は、シートクッション31の座面を上下動可能であれば、他の構成とすることもできる。
持ち上げ部54は、後述するように、通常モードでシートクッション31の座面の上下位置調整のための上昇および下降と、モード切り替えのためのシートクッション31の座面の上昇および下降と、をおこなうように兼用可能とされる。
【0058】
シートバック32の下端には、図1図2に示すように、傾斜駆動部55が設けられる。傾斜駆動部55は、シートバック32を、その下端に対して上端が前後方向に傾斜する角度を調節するように傾斜駆動する。傾斜駆動部55は、制御部59に接続される。傾斜駆動部55は、図示しない電源から電力を供給されてシートバック32を、その下端に対して上端が前後方向に傾斜する角度を調節するように傾斜駆動する。傾斜駆動部55は、例えば、モータとされ、図示しないギア等の駆動力伝達部を有する。
傾斜駆動部55には、シートバック32の傾斜角度を検出する検出部を備える。傾斜駆動部55は、後述するように、通常モードでの傾斜角度調整のためのシートバック32の前後方向への傾斜位置設定と、モード切り替え時におけるシートバック32の前後方向への傾斜位置設定とをおこなうように兼用可能とされる。
【0059】
モード切替スイッチ57は、図1図2に示すように、後述する通常モードとリラックスモードとの切り替え時に作動させる。モード切替スイッチ57は、制御部59に接続される。モード切替スイッチ57は、リラックスモードでシートバック32に寄りかかった座者がそのままの体勢では届かない位置、操作できない位置に配置される。つまり、モード切替スイッチ57は、リラックスモードで後方の位置するシート12に着座した状態では、上体を起こして、シート12にかかる荷重を前方に移動した状態となってはじめてオンオフ操作が可能となる配置とされる。
【0060】
具体的には、モード切替スイッチ57は、車両10のルーフ部前方、あるいは、ハンドル15より前方に配置されることができる。モード切替スイッチ57は、車両10の天井17に設けられたマップランプモジュール、あるいは、ハンドル15より前方のセンターディスプレイの操作パネル16などに配置される。これらの配置箇所は、リラックスモードでのスライド量となるシート12のスライド位置からでは、モード切替スイッチ57のスイッチ操作できない前方であればよい。また、切り替えスイッチ57は、リラックスモードのヒップポイントHの前後方向位置に対応するスライド位置からスイッチ操作可能な位置よりも前方に配置されていればよく、具体的な箇所には限定されない。
【0061】
さらに、モード切替スイッチ57は、リラックスモードから通常モードへと切り替える場合には、切り替え動作の方向が前方となるように構成される。つまり、モード切替スイッチ57がスライドスイッチとされた場合には、通常モードへのモード切り替え時に、スイッチを前方に動かす必要がある。切り替えスイッチ57は、前方向へと変位するスイッチ操作によりモードの切り替えを可能な構成とされる。
【0062】
このように構成することで、モード切替スイッチ57を操作する操作者が、上体を起こすことで、シート12にかかる荷重を前方へと移動させて、ロアレール37が後方へと伸張した状態であっても、スライド機構34にかかる重心を前方へと移動し、スライド機構34におけるスライド駆動部(モータ)53への過荷重の抑制、あるいは、スライドレール37などでの歪みの発生等を低減して、スムーズなモード切替動作をおこなうことが可能となる。
【0063】
制御部59は、スライド駆動部(モータ)53と、持ち上げ部54と、傾斜駆動部55と、モード切替スイッチ57と、に接続される。制御部59は、モード切替スイッチ57からオン信号を入力されると、スライド駆動部(モータ)53と、持ち上げ部54と、傾斜駆動部55と、を駆動してモードを切り替える切り替え信号を出力する。
【0064】
以下、モード切替について説明する。
【0065】
まず、運転時の通常モードからリラックスモードへ切り替える場合を考える。この場合、シート12のスライド機構34では、通常モードのスライド範囲にある、つまり、前後方向で図3に示した最前位置FRMから最後位置RRMまでの間となるいずれかのスライド位置にある。なお、通常モードにおいて、シートバック32は、運転時の起立している角度の状態、あるいは、後方に倒されたリクライニング状態の両方が想定される。
この状態で、モード切替スイッチ57をオンにしてリラックスモードへ切り替える。
【0066】
ここで、常モードからリラックスモードへの切り替えは、停車している場合、つまり、車両10が運転状態ではない場合に可能とされる。したがって、まず、リラックスモードへとモード切替が可能であるかの判断をおこなう。
図4は、本実施形態における通常モードからリラックスモードへの切り替えを示すフローチャートである。
【0067】
通常モードにおいて、モード切替スイッチ57がオンになると(図4のステップS01)、モード切替スイッチ57から出力されたオン信号は、制御部59へと入力される。制御部59では、シフト装置において、パーキングレンジであるかどうかを判断する(図4のステップS02)。シフト装置においてパーキングレンジであった場合には、制御部59は、スライド駆動部(モータ)53に駆動信号を出力する(図4のステップS04)。
【0068】
シフト装置においてパーキングレンジでなかった場合には、制御部59は、さらにエンジンがストップ状態であるか、アイドリング状態であるかを判断する(図4のステップS03)。エンジンがストップ状態であった場合には、制御部59は、スライド駆動部(モータ)53に駆動信号を出力する(図4のステップS04)。
【0069】
エンジンがアイドリング状態であった場合には、シフト装置においてパーキングレンジとするように、操作者にその旨のアラートを出力するとともに、ステップS2へと戻って、シフト装置において、パーキングレンジであるかどうかを再度判断する。
これにより、車両10の運転中、あるいは、シフト装置がパーキングレンジ以外でアイドリングしている場合など、車両10が走行可能な状態では、リラックスモードへと切り替えができないように構成される。
【0070】
図5は、本実施形態における通常モードからリラックスモードへの切り替えを示す模式側面図である。図6は、本実施形態における通常モードからリラックスモードへの切り替えを示す模式側面図である。
ここで、図1に示すように、シートバック32が運転時の起立している角度の状態である場合には、制御部59から駆動信号を入力されたスライド駆動部(モータ)53が駆動する。これにより、図5に二点鎖線で示す通常モードのスライド位置から、アッパレール35をロアレール37に対して後方に移動する。ここで、スライド駆動部(モータ)53は、モード切替時の駆動速度、つまり、ロアレール37に対するアッパレール35の移動速度は、通常モードでのシート位置調整おける駆動に比べて、大きく設定される。これにより、通常モードでのシート位置調整では、微細な位置調整を容易にするとともに、モード切替時においては、すばやいシート本体33の後方への移動をおこなって、車両10の内部をリラックス空間へと迅速に切り替えることができる。
【0071】
ここで、図6に二点鎖線で示すように、シートバック32が運転時の起立している角度に比べて後方に傾斜したリクライニング状態である場合には、制御部59は、スライド駆動部(モータ)53に駆動信号を出力する前に、まず、傾斜駆動部55に駆動振動を出力する。駆動信号が入力された傾斜駆動部55は、図6に破線で示すように、リラックスモードへの切り替え可能な角度まで、シートバック32を起立させる。次いで、シートバック32が所定角度まで起立したら、制御部59は傾斜駆動部55の駆動を停止する。その後、制御部59は、スライド駆動部(モータ)53に駆動信号を出力して、シート本体33を後方へと移動する。
【0072】
この場合、傾斜駆動部55を駆動させるか、それとも、駆動させないかの判断は、シートバック32の傾斜角度による。つまり、シートバック32が傾斜されて、シート本体33を後方へと移動した際に、後列シート13にシートバック32が干渉する不具合が発生する場合には、傾斜駆動部55を駆動させる。また、シートバック32が傾斜されている場合でも、その傾斜が小さく、シート本体33を後方へと移動した際に、後列シート13にシートバック32が干渉する不具合が発生しない場合には、傾斜駆動部55を駆動させない。なお、傾斜駆動部55の駆動有無に対する判断の基準となるシートバック32の傾斜角度はあらかじめ設定して、制御部59に記憶させておく。また、傾斜駆動部55には、シートバック32の傾斜角度を検出する検出部を備え、制御部59に検出結果を出力可能である。
【0073】
スライド駆動部(モータ)53によって後方に駆動されたアッパレール35は、ロアレール37に対して後方に移動し、スライド位置が超後位置RROMまでスライドして停止する(図3の下段参照)。これにより、図5に実線で示すように、リラックスモードのスライド位置となる。リラックスモードのスライド位置においては、通常モードではシートクッション31の下方位置にあって隠れていた足置き低床部11aが現れて使用可能となる。これにより、運転時とは異なり、着座者が足を伸ばしてしてリラックスすることが容易となる。
また、このスライド位置が超後位置RROMへと移動直後の状態では、図2図5に破線で示すように、通常モードと同様に、シートクッション31の座面は後端が下方に傾斜している。
【0074】
シート本体33が超後位置RROMでスライドして、スライド駆動部(モータ)53を停止した後、制御部59は、持ち上げ部54に駆動信号を出力する。すると、駆動信号の入力された持ち上げ部54は、図示しないエア供給部からエアを供給されたエアセルがシートクッション31の座面の後端を上昇し、図2図5に実線で示すように、シートクッション31の座面を、略水平とする。これにより、リラックスモードへの切り替えを完了する。
【0075】
なお、リラックスモードに切り替えた際に、シートバック32は、図5に示すように、後列シート13と干渉しない状態であれば多少リクライニングした状態とすることもできる。あるいは、操作者がシートバック32を好みの角度とすることができる。また、シートクッション31の座面は、略水平まで上昇しないこと、あるいは、上昇した後に操作者が好みの角度とすることができる。
【0076】
次に、リラックスモードから通常モードへの切り替えについて説明する。
【0077】
まず、リラックスモードから通常モードへ切り替える場合を考える。この場合、シート12のスライド機構34では、超後位置RROMとなるスライド位置にある。また、リラックスモードにおいて、シートバック32は、運転時と同様に起立している角度の状態、あるいは、後方に倒されたリクライニング状態の両方が想定される。また、シートクッション31の座面は、略水平まで上昇した状態、あるいは、それよりもシートクッション31の座面の後端が下降した状態が考えられる。
【0078】
この状態で、モード切替スイッチ57をオンにしてリラックスモードから通常スモードへ切り替える。
このとき、モード切替スイッチ57の切り替え動作の方向が前方となるため、スイッチ操作を行う際に、操作者が、上体を起こすことで、シート12にかかる荷重を前方へと移動させて、ロアレール37が後方へと伸張した状態であっても、スライド機構34にかかる重心を前方へと移動する。これにより、スライド機構34における負荷が軽減される。
【0079】
図7は、本実施形態におけるリラックスモードから通常モードへの切り替えを示す模式側面図である。図8は、本実施形態におけるリラックスモードから通常モードへの切り替えを示す模式側面図である。
ここで、図7に二点鎖線で示すように、シートバック32が運転時の起立している角度に比べて後方に傾斜したリクライニング状態である場合を考える。さらに、ここでは、シートクッション31の座面が略水平まで上昇した状態である場合を考える。
【0080】
この場合には、まず、制御部59は、スライド駆動部(モータ)53に駆動信号を出力する前に、まず、傾斜駆動部55に駆動振動を出力する。駆動信号が入力された傾斜駆動部55は、図7に破線で示すように、リラックスモードへの切り替え可能な角度まで、シートバック32を起立させる。次いで、シートバック32が所定角度まで起立したら、制御部59は傾斜駆動部55の駆動を停止する。
【0081】
この場合、傾斜駆動部55を駆動させるか、それとも、駆動させないかの判断は、シートバック32の傾斜角度による。しかし、通常モードからリラックスモードへの切り替えと異なり、この場合には、多少なりともシートバック32がリクライニングされた状態の場合には、傾斜駆動部55を駆動させる。なお、傾斜駆動部55の駆動有無に対する判断の基準となるシートバック32の傾斜角度はあらかじめ設定して、制御部59に記憶させておく。
この状態では、図7に破線で示すように、シートクッション31の座面が略水平まで上昇した状態を維持する。
【0082】
次いで、制御部59は、スライド駆動部(モータ)53に駆動信号を出力して、シート本体33を前方へと移動する。この前後移動の間は、シートクッション31の座面が略水平まで上昇した状態を維持する。これにより、シートクッション31の座面の後端が加工している状態に比べて、着座者の重心が前方に位置する。これにより、スライド機構34における過負荷を低減することができる。
【0083】
シート本体33が最後位置RRMから最前位置FRMまでの間となるいいまでスライドして、スライド駆動部(モータ)53を停止した後、制御部59は、持ち上げ部54に駆動信号を出力する。すると、駆動信号の入力された持ち上げ部54は、図示しないエア供給部へとエアを戻したエアセルがシートクッション31の座面の後端を加工し、図7に実線で示すように、シートクッション31の座面が下降して、運転時の通常モードと同じ傾斜位置とする。これにより、通常モードへの切り替えを完了する。
【0084】
なお、シートクッション31の座面の後端が下降した状態において、リラックスモードから通常スモードへ切り替える場合には、図8に二点鎖線で示すリクライニング位置から、図8に破線で示す位置までシートバック32を起立させて、その後、図8に実線で示すスライド位置まで、シート本体33を前方にスライドさせて、通常モードへの切り替えを完了する。
【0085】
なお、リラックスモードにおいて、コンソールユニットから手動にてテーブルTを展開していた場合には、あらかじめ、テーブルTを収納しておく。この場合にも、上述したパーキングレンジの判断と同様に、テーブルTを収納していない場合にはその旨のアラートを出すようにする。
また、足置き低床部11aに置いた障害物によってシートクッション31前端の前方への移動が阻害された場合など、スライド駆動部53に過負荷がかかった場合などには、駆動を停止して、同様のアラートを出す構成とすることができる。
【0086】
本実施形態においては、スライド機構34を上記のような構成としたことにより、従来は実現できなかったリラックス空間を、モード切り替えにより車両10の内部で作り出すことを可能となる。
【0087】
つまり、スライド機構34により、運転するためのドライビングポジションであった通常モードから、リラックスモードへと切り替えることで、従来の運転可能なスライド範囲であった通常モードのスライド範囲よりも、シート本体33がさらに後方に位置することができる。これにより、ハンドル15等にじゃまされることなくテーブルTを使用可能とできる、車両内部に従来は実現できなかったリラックス空間を生み出したリラックスモード、静モードを可能とする。さらに、従来はサンルーフ18も主に後部シート13のものだったが、前列シート12でもいい感じを与えられる。加えて、モード切替スイッチ57を操作するだけで、通常モードからリラックスモードへと切り替えることができるとともに、モード切替スイッチ57を操作するだけで、リラックスモードから通常モードへと切り替えることができる。
【0088】
このとき、リラックスモードでシートバック32が倒されていた場合に、そのままのリクライニング状態、かつ、着座者が寄り掛かった状態のままでシート本体33をスライドさせて重心がかなり後ろ側になることを防止する。これよりも先に、シートバック32を通常モードの傾斜位置まで起こして、重心を前側に移動させてから、通常モードのスライド位置までシート本体33を前方に移動する。また、持ち上げ部54の駆動を制御して、シートクッション31の座面の傾斜解除をおこなわずに重心がかなり後ろ側になることを防止する。これにより、レールやモータにかかる負担を軽減して、レールが大きくたわむ、スライド駆動部のモータ等に大きな負担がかかる等の不具合発生する可能性を回避することができる。
【0089】
リラックスモードから通常スモードへ切り替える際に、モード切替スイッチ57の切り替え動作の方向が前方となるため、スイッチ操作を行う際に、操作者が、上体を起こすことで、シート12にかかる荷重を前方へと移動させて、ロアレール37が後方へと伸張した状態であっても、スライド機構34にかかる重心を前方へと移動する。これにより、スライド機構34における負荷が軽減することができる。
【符号の説明】
【0090】
10…車両
11…車体フロア
11a…低床部
12…前列シート(車両用シート、シート)
17…天井
31…シートクッション
32…シートバック
33…シート本体
34…スライド機構
35…アッパレール
37…ロアレール
38…スライドレール
53…スライド駆動部(モータ)
54…持ち上げ部
55…傾斜駆動部
57…モード切替スイッチ
59…制御部
FRM…最前位置
G…重心範囲の後端
H…ヒップポイント
RRM…最後位置
RROM…超後位置
wrp…ラップ量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8