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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
C12M1/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022509558
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009451
(87)【国際公開番号】W WO2021193055
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020050848
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314005768
【氏名又は名称】PHCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 瑛介
(72)【発明者】
【氏名】米原 亮
(72)【発明者】
【氏名】田邊 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大竹 智之
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/049968(WO,A1)
【文献】特開2013-066436(JP,A)
【文献】特開2018-183062(JP,A)
【文献】特開2019-208428(JP,A)
【文献】特開2019-076031(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110884756(CN,A)
【文献】国際公開第2012/114635(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養物が収納される内箱と、
前記内箱を取り囲む外箱と、
前記内箱と前記外箱との間に配置され、前記外箱の振動に伴い前記内箱が振動することを防止する第1の振動防止機構と
前記第1の振動防止機構を、前記外箱に対して前記内箱を固定する状態と、前記外箱に対する前記内箱の固定を解除して前記外箱の振動に伴い前記内箱が振動することを防止する状態と、に切り替える第1の状態切替部と、を備える、
培養装置。
【請求項2】
前記内箱を開閉する内扉と、
前記外箱を開閉する外扉と、
前記内扉および前記外扉の少なくとも一方の扉の開閉状態を検出する開閉検出部と、
前記開閉検出部において前記少なくとも一方の扉が開いたことが検出された場合、前記第1の状態切替部を制御して、前記第1の振動防止機構を前記外箱の振動に伴い前記内箱が振動することを防止する状態から、前記外箱に対して前記内箱を固定する状態に切り替える制御部と、を備える、
請求項に記載の培養装置。
【請求項3】
前記内箱の開口を取り囲むとともに前記内箱と前記外箱の間に架け渡され、前記内箱と前記外箱との間の空間を封止する封止部材をさらに備える、
請求項1又は2に記載の培養装置。
【請求項4】
前記第1の振動防止機構は、免震機構である、
請求項1からのいずれかに記載の培養装置。
【請求項5】
前記内箱の内部に配置された棚と、
前記内箱と前記棚との間に配置され、前記内箱の振動に伴い前記棚が振動することを防止する第2の振動防止機構と、をさらに備える、
請求項1からのいずれかに記載の培養装置。
【請求項6】
前記第2の振動防止機構は、制震機構である、
請求項に記載の培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療や個別医療が普及してきている。今後、再生医療などの普及に伴い、細胞や臓器の搬送が一般的になると考えられる。このような状況に対応する場合、各医療機関において細胞培養を行うよりも、細胞工場を建設し、細胞工場で一括して細胞培養を行うことがコストメリットが高くなると考えられる。細胞などの培養物を細胞工場から医療機関に搬送する場合、培養物を冷凍した状態や低温の状態で搬送することが考えられるが、培養物を冷凍したり低温にしたりする作業が発生し、工数が多くなってしまう。このような問題を解決するために、例えば、特許文献1に記載のような培養装置(インキュベータ)を用いて、培養の条件下で培養物を搬送することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-201886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような培養装置を用いて培養物を搬送する場合、搬送時の揺れによって培地に泡や波が発生し、培養物にダメージが与えられるおそれがある。このようなダメージをなくすために、専用の搬送手段で培養装置を搬送することが考えられるが、コストアップにつながるおそれがある。
【0005】
本発明は、培養物にダメージを与えることなく、かつ、コストアップを招くことなく、培養物を搬送できる培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の培養装置は、培養物が収納される内箱と、前記内箱を取り囲む外箱と、前記内箱と前記外箱との間に配置され、前記外箱の振動に伴い前記内箱が振動することを防止する第1の振動防止機構と、を備える。
上述のような培養装置を実施する場合に、好ましくは、培養装置は、第1の振動防止機構を、外箱に対して内箱を固定する状態と、外箱に対する内箱の固定を解除して外箱の振動に伴い内箱が振動することを防止する状態と、に切り替える第1の状態切替部を備えてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の培養装置によれば、培養物にダメージを与えることなく、かつ、コストアップを招くことなく、培養物を搬送できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態の培養装置を正面から視た模式的な部分断面図である。
図2図1のII-II線に沿う縦端面図である。
図3】培養装置の制御構成の要部を示す模式的な機能ブロック図である。
図4A】本発明の変形例の第1の振動防止機構を模式的に示す図である。
図4B】本発明の他の変形例の第1の振動防止機構を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る培養装置ついて、図面を参照しながら説明する。以下に示す実施の形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施の形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。また、実施の形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに、実施の形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0010】
以下では、培養装置において、使用時にユーザが正対する側(後述の外扉3aおよび内扉3bのある側)を前、その反対側を後とする。また、前から後に向かって視た場合を基準に左右を定める。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一要素は原則として同一の符号を付し、その説明を省略することもある。
【0011】
[1.培養装置の概略構成]
まず、本発明の培養装置の概略構成について説明する。図1は、本発明の一実施の形態の培養装置を正面から視た模式的な部分断面図である。図2は、図1のII-II線に沿う縦端面図である。
【0012】
図1および図2に示す培養装置1は、細胞、臓器、微生物などの培養物を培養する装置である。培養装置1は、略箱状の本体10を備える。本体10の上面には、収納箱11が設けられている。収納箱11には、培養装置1を作動させるための電源、O(酸素)ガスのボンベ、CO(二酸化炭素)ガスのボンベなどが収納されている。本体10の下面には、培養装置1を移動させるための複数(ここでは4個)のキャスタ12が設けられている。本体10の下面には、本体10を設置面Gに対して固定するための複数(ここでは4個)のアジャスタ13が設けられている。アジャスタ13は、伸縮できるように構成されている。図1および図2に実線で示すように、アジャスタ13が縮んで設置面Gに接触していない場合、キャスタ12が設置面Gに接触するため、ユーザは、培養装置1を押すことで移動させることができる。図1および図2に二点鎖線で示すように、アジャスタ13が伸びて設置面Gに接触している場合、キャスタ12が設置面Gに接触しないため、培養装置1が設置面Gに固定される。本体10の内部には、略箱状の断熱箱2が設けられている。
【0013】
断熱箱2は、培養空間20が内部に形成された略箱状の内箱2aと、内箱2aを取り囲む略箱状の外箱2bと、内箱2aを開閉する内扉3bと、外箱2bを開閉する外扉3aと、を備える。
【0014】
培養空間20は、複数(ここでは3枚)の棚4により上下に区画されている。培養空間20には、棚4と同じ数(ここでは3つ)の制震機構70が設けられている。制震機構70は、内箱2aの振動に伴い棚4が振動することを防止する。制震機構70は、第2の振動防止機構の一例である。制震機構70は、棚4を下方から複数箇所(ここでは4箇所)で支持する複数(ここでは4つ)の制震部材701を備える。制震部材701としては、ゴムで構成された部材、オイルダンパ、エアダンパが例示できる。3つの棚4のうち、一番下の棚4を支持する制震部材701は、内箱2aの底壁2a1上の4箇所から、それぞれ上方に延びるように設けられている。中央および一番上の棚4を支持する制震部材701は、内箱2aに固定された支持部材2f上の4箇所から、それぞれ上方に延びるように設けられている。制震機構70は、上述のように設けられた制震部材701によって、内箱2aの振動に伴う棚4の縦揺れを防止する。
【0015】
培養空間20には、制震機構70を、内箱2aに対して棚4を固定する状態と、内箱2aに対する棚4の固定を解除して内箱2aの振動に伴い棚4が振動することを防止する状態と、に切り替える第2の状態切替部75が設けられている。第2の状態切替部75は、第2の切替部材751と、第2の切替駆動部752(図3参照)と、を備える。第2の切替部材751は、垂直方向に延びる第2の接触部751aと、第2の接触部751aの下端から水平方向に延びる第2の回転規制部751bと、を備える。第2の切替駆動部752は、培養装置1の前後に延びる第2の回転軸753を中心にして、第2の切替部材751を矢印Y2で示す2つの方向に回転させる。
【0016】
培養空間20には、内箱2aの背面において上下に延在するダクト5が配置されている。ダクト5の内部には、気体通路Kが形成されている。気体通路Kには、循環用送風機5cが配置されている。循環用送風機5cを作動させることで、ダクト5の上部に形成された吸込口5aから培養空間20の空気が吸い込まれ、この空気がダクト5の下部に設けられた吹出口5bから培養空間20に吹き出される。これにより、矢印A1,A2,A3,A4で示されるような空気の強制循環が行われる。
【0017】
ダクト5内には、紫外線ランプ7が設けられている。紫外線ランプ7は、培養空間20を循環する空気を殺菌する。ダクト5内には、培養空間20のOガス濃度およびCOガス濃度を調整する調整用ガス(OガスおよびCOガス)を、培養空間20に供給するためのガス供給管14a,14bが設置されている。ガス供給管14a,14bは、それぞれ収納箱11に収納されたOガスのボンベおよびCOガスのボンベに接続されている。ガス供給管14a,14bには、それぞれO制御弁Vo(図3参照)およびCO制御弁Vc(図3参照)が設けられている。
【0018】
ダクト5の下部と内箱2aの底壁2a1と間には、加湿用の水W(以下「加湿水W」という)を貯溜する加湿皿6が設置される。加湿皿6は、内箱2aの底壁2a1の下面に設けられた線状の調湿用ヒータH2(図3参照)により加熱される。この調湿用ヒータH2の加熱によって、加湿水Wが蒸発して培養空間20が加湿される。
【0019】
内箱2aの右側壁,左側壁,後壁,天壁および底壁の各背面(外箱2b側の面)には、調温用、すなわち培養空間20の温度を制御するための調温用ヒータH1(図3参照)がそれぞれ設置されている。なお、調温用ヒータH1は、培養装置1の作動中は、原則、通電され発熱した状態にある。
【0020】
外箱2bの内面側には、断熱材2cが設けられている。外箱2bの断熱材2cの内面と、内箱2aの外面との間には、内箱2aの上下左右および後方を覆うように空間S1が設けられている。空間S1は、前方に開口部を有している。この開口部は、封止部材P2によって封止されている。封止部材P2は、可撓性を有し、空間S1の密閉を維持しつつ、内箱2aが外箱2bに対してずれることを許容できるように構成されている。空間S1に空気が満たされることによって、空間S1内に、空気層(所謂エアージャケット)2dが形成されている。
【0021】
内箱2aと外箱2bとの間、つまり空間S1には、外箱2bの振動に伴い内箱2aが振動することを防止する免震機構60が設けられている。免震機構60は、第1の振動防止機構の一例である。免震機構60は、免震スライダ601によって構成されている。免震スライダ601は、複数枚(ここでは3枚)の板状部材602と、複数の球体603と、を備える。1枚の板状部材602は、外箱2bにおける内箱2aの底壁2a1に対向する面に固定されている。もう1枚の板状部材602は、内箱2aの底壁2a1の下面に固定されている。残りの1枚は、2枚の板状部材602の間に配置されている。互いに対向する板状部材602の間には、複数個(ここでは3個)の球体603が自転可能に配置されている。免震スライダ601は、球体603の自転により、互いに対向する板状部材602のうち上側の板状部材602を下側の板状部材602に対して相対移動させることによって、外箱2bの振動に伴う内箱2aの横揺れを防止する。
【0022】
空間S1には、免震機構60を、外箱2bに対して内箱2aを固定する状態と、外箱2bに対する内箱2aの固定を解除して外箱2bの振動に伴い内箱2aが振動することを防止する状態と、に切り替える第1の状態切替部65が設けられている。第1の状態切替部65は、第1の切替部材651と、第1の切替駆動部652(図3参照)と、を備える。第1の切替部材651は、第1の接触部651aと、第1の回転規制部651bと、を備える。第1の接触部651aおよび第1の回転規制部651bは、第2の状態切替部75の第2の切替部材751の第2の接触部751aおよび第2の回転規制部751bと同様に構成されている。第1の切替駆動部652は、培養装置1の前後に延びる第1の回転軸653を中心にして、第1の切替部材651を矢印Y1で示す2つの方向に回転させる。
【0023】
外扉3aの外縁には、パッキンP1が設けられている。外扉3aには、ユーザによって操作される操作装置50が設けられている。操作装置50は、タッチパネル式の液晶表示装置によって構成されている。操作装置50は、表示画面に各種情報やボタンを表示する表示部として機能する。操作装置50は、表示画面上に表示されたボタンによる設定入力を受け付ける操作部として機能する。操作装置50は、培養装置1の起動および停止の指示や、培養空間20の各種設定値の入力を受け付ける。培養空間20の各種設定値としては、設定温度、設定湿度、Oガスの設定濃度およびCOガスの設定濃度などが例示できる。外扉3aおよび本体10のうち少なくとも一方には、外扉3aの開閉を検出する扉スイッチSd(図3参照)が設けられている。扉スイッチSdは、開閉検出部の一例である。
【0024】
断熱箱2の外箱2bの背面および底面と、本体10と、の間の空間は、各種機器を配置するための機械室S2を形成している。機械室S2における外箱2bの背面側には、電装ボックス15が設けられている。電装ボックス15の内部には、制御装置100とその他の図示しない電装品とが収容される。制御装置100は、操作装置50で受け付けた操作に基づいて、培養空間20の温度や、湿度や、O濃度や、CO濃度を制御する。
【0025】
[2.制御構成]
以下、図3を参照して、本発明の一実施形態の培養装置1の制御構成の要部を説明する。図3は、培養装置1の制御構成の要部を示す模式的な機能ブロック図である。
【0026】
図3に示すように、制御装置100には、操作装置50、温度センサSt、湿度センサSh、OセンサSo、COセンサSc、扉スイッチSdから制御信号が入力される。制御装置100は、制御部の一例である。また、制御装置100は、調温用ヒータH1、調湿用ヒータH2、O制御弁Vo、CO制御弁Vc、第1の切替駆動部652、第2の切替駆動部752に制御指令を出力する。
【0027】
操作装置50は、各種入力を受け付ける。具体的には、操作装置50は、培養装置1を起動(電源オン)する操作、培養装置1を停止(電源オフ)する操作、および、培養空間20の設定温度T、設定湿度H、設定O濃度x[%]、設定CO濃度y[%]などの各種設定を入力する操作を受け付ける。操作装置50は、これらを制御信号として、制御装置100に入力する。
【0028】
温度センサStは、培養空間20の温度を検出し、検出した温度を制御信号として制御装置100に出力する。
【0029】
湿度センサShは、培養空間20の湿度を検出し、検出した湿度を制御信号として制御装置100に出力する。
【0030】
センサSoは、培養空間20のO濃度を検出し、検出したO濃度を制御信号として制御装置100に出力する。
【0031】
COセンサScは、培養空間20のCO濃度を検出し、検出したCO濃度を制御信号として制御装置100に出力する。
【0032】
扉スイッチSdは、外扉3aの閉状態では閉信号を出力し、外扉3aの開状態では閉信号を出力するものであってもよいし、外扉3aの閉状態および開状態のいずれか一方の場合にだけ、信号を出力するものであってもよい。
【0033】
制御装置100は、温度センサStにより検出された培養空間20の温度(以下「温度検出値」という)に基づいて、調温用ヒータH1の出力を制御する。具体的には、温度検出値が設定温度Tよりも所定値以上低い場合には、調温用ヒータH1の加熱力が高くなるように、温度検出値が設定温度Tよりも所定値以上高い場合には、調温用ヒータH1の加熱力が低くなるように、調温用ヒータH1への通電率が制御される。
【0034】
制御装置100は、湿度センサShにより検出された培養空間20の湿度(以下「湿度検出値」という)に基づいて、湿度検出値が設定湿度Hとほぼ同じになるように、調湿用ヒータH2の出力を制御する。具体的には、湿度検出値が設定湿度Hよりも所定値以上低い場合には、調湿用ヒータH2の加熱力が高くなるように、湿度検出値が設定湿度Hよりも所定値以上高い場合には、調湿用ヒータH2の加熱力が低くなるように、調湿用ヒータH2への通電率が制御される。
【0035】
制御装置100は、OセンサSoにより検出された培養空間20のO濃度(以下「O濃度検出値」という)、COセンサScにより検出された培養空間20のCO濃度(以下「CO濃度検出値」という)に基づいて、O濃度検出値が設定O濃度xとほぼ同じになり、CO濃度検出値が設定CO濃度yとほぼ同じになるように、O制御弁VoおよびCO制御弁Vcを制御する。
【0036】
制御装置100は、扉スイッチSdにより外扉3aの閉状態が検出されると、第1の切替部材651および第2の切替部材751を図1の二点鎖線で示す姿勢にするように、第1の切替駆動部652および第2の切替駆動部752を制御する。制御装置100は、扉スイッチSdにより外扉3aの開状態が検出されると、第1の切替部材651および第2の切替部材751を図1の実線で示す姿勢にするように、第1の切替駆動部652および第2の切替駆動部752を制御する。
【0037】
[3.培養装置の動作]
次に、培養装置1の動作について説明する。
【0038】
ユーザは、培養装置1で培養物を培養するに際し、図1および図2に二点鎖線で示すように、培養装置1を設置面Gに固定した状態において、操作装置50を操作して培養装置1を起動(電源オン)する。外扉3aおよび内扉3bが閉じられた状態では、第1の切替部材651および第2の切替部材751は、図1の二点鎖線で示す姿勢になっている。この状態では、第1の切替部材651の第1の接触部651aの上端が内箱2aの下面に接触しておらず、内箱2aが免震機構60のみで支持されるため、外箱2bの振動が免震機構60で吸収され、免震機構60によって内箱2aの振動が防止される。以下において、第1の切替部材651が図1の二点鎖線で示す姿勢になっている状態を、「第1の振動防止状態」という場合がある。第2の切替部材751の第2の接触部751aの上端が棚4の下面に接触しておらず、棚4が制震部材701のみで支持されるため、内箱2aの振動が制震部材701で吸収され、制震機構70によって棚4の振動が防止される。以下において、第2の切替部材751が図1の二点鎖線で示す姿勢になっている状態を、「第2の振動防止状態」という場合がある。制御装置100は、免震機構60および制震機構70のそれぞれが第1の振動防止状態および第2の振動防止状態になっている場合、その旨を操作装置50で表示する。例えば、制御装置100は、操作装置50に、「振動防止機構ON」などの文字を表示させる。
【0039】
ユーザは、培養装置1の起動を確認して、外扉3aおよび内箱2aを開く。外扉3aが開かれたことが扉スイッチSdにより検出されると、制御装置100は、第1の切替駆動部652および第2の切替駆動部752を制御して、第1の切替部材651および第2の切替部材751を図1の実線で示す姿勢になるように回転させる。
【0040】
図1の実線で示す状態では、第1の切替部材651の第1の接触部651aの上端が内箱2aの下面に接触し、第1の切替部材651を介して内箱2aが外箱2bに対して固定される。以下において、第1の切替部材651が図1の実線で示す姿勢になっている状態を、「第1の固定状態」という場合がある。第2の切替部材751の第2の接触部751aの上端が棚4の下面に接触し、第2の切替部材751を介して棚4が内箱2aに対して固定される。以下において、第2の切替部材751が図1の実線で示す姿勢になっている状態を、「第2の固定状態」という場合がある。このように、免震機構60および制震機構70をそれぞれ第1の固定状態および第2の固定状態にすることによって、シャーレ9を棚4に載置する作業をユーザが容易に行うことができる。なお、図1の実線で示す状態では、外箱2bの振動が第1の切替部材651を介して内箱2aに伝わり、内箱2aの振動が第2の切替部材751を介して棚4に伝わるため、免震機構60によって内箱2aの振動が防止されず、かつ、制震機構70によって棚4の振動が防止されない。制御装置100は、このような振動が防止されない状態であることを操作装置50に表示させる。例えば、制御装置100は、操作装置50に、「振動防止機構OFF」の文字を表示させる。
【0041】
ユーザは、培養物が収納されたシャーレ9を棚4に配置した後、内扉3bおよび外扉3aを閉じる。外扉3aが閉じられたことが扉スイッチSdにより検出されると、制御装置100は、免震機構60および制震機構70をそれぞれ第1の振動防止状態および第2の振動防止状態に切り替えるとともに、操作装置50に例えば「振動防止機構ON」の文字を表示させる。制御装置100は、ユーザによって設定温度T、設定湿度H、設定O濃度x、設定CO濃度yの設定入力が行われると、温度センサSt、湿度センサSh、OセンサSoおよびCOセンサScの検出結果に基づいて、調温用ヒータH1、調湿用ヒータH2、O制御弁VoおよびCO制御弁Vcを制御して、培養空間20内の雰囲気を設定入力に基づく状態に調整する。
【0042】
ユーザは、外扉3aを閉じた後、図1および図2に実線で示すようにアジャスタ13を縮めることによって、培養装置1を移動可能な状態にする。ユーザは、培養装置1を押してキャスタ12の車輪を回転させることによって、培養装置1を目的地に搬送する。ユーザは、必要に応じて、培養装置1を車両に積んでからアジャスタ13を伸ばし、当該培養装置1を車両に対して固定してから、目的地に搬送する。このとき、免震機構60によって内箱2aの振動が防止され、かつ、制震機構70によって棚4の振動が防止されているため、培養装置1の搬送時に培地に泡や波が発生することが抑制される。
【0043】
ユーザは、培養装置1を目的地に搬送すると、アジャスタ13を伸ばすことによって、培養装置1を設置面Gに固定してから、培養装置1を外扉3aおよび内箱2aを開く。なお、制御装置100は、培養装置1が目的地に搬送されても、電源または各機能がオフされない限り、調温用ヒータH1、調湿用ヒータH2、O制御弁VoおよびCO制御弁Vcの制御を終了しない。外扉3aが開かれると、制御装置100は、免震機構60および制震機構70をそれぞれ第1の固定状態および第2の固定状態に切り替えるとともに、操作装置50に「振動防止機構OFF」などの文字を表示させる。このとき、内箱2aが外箱2bに対して固定され、棚4が内箱2aに対して固定されるため、シャーレ9を棚4から取り出す作業をユーザが容易に行うことができる。
【0044】
ユーザは、シャーレ9を棚4から取り出した後、内扉3bおよび外扉3aを閉じる。外扉3aが閉じられると、制御装置100は、免震機構60および制震機構70をそれぞれ第1の振動防止状態および第2の振動防止状態に切り替えるとともに、操作装置50に「振動防止機構ON」などの文字を表示させる。ユーザは、操作装置50を操作して培養装置1を停止(電源オフ)させる。
【0045】
[4.実施の形態の作用効果]
培養装置1に、外箱2bの振動に伴い内箱2aが振動することを防止する免震機構60を設けている。このため、培養装置1を用いた培養物の搬送中に、培地に泡や波が発生することを抑制できる。また、専用の搬送手段を用いなくても、搬送中に培地に泡や波が発生することを抑制できる。したがって、培養物にダメージを与えることなく、かつ、コストアップを招くことなく、培養物を搬送できる培養装置1を提供できる。
【0046】
培養装置1に、免震機構60を、第1の固定状態と、第1の振動防止状態と、に切り替える第1の状態切替部65を設けている。このため、培養装置1は、ユーザがシャーレ9を棚4に載置したり、棚4から取り出すときに、免震機構60を第1の固定状態に切り替えることによって、ユーザにシャーレ9の載置作業や取り出し作業を容易に行わせることができる。
【0047】
制御装置100は、扉スイッチSdにおいて外扉3aが開いたことが検出された場合、免震機構60を第1の振動防止状態から第1の固定状態に切り替える。このため、ユーザは、免震機構60の切り替えのためのみの操作を行うことなく、シャーレ9の載置作業や取り出し作業を容易に行なうことができる。
【0048】
制御装置100は、免震機構60を第1の振動防止状態から第1の固定状態に切り替えるときに、操作装置50に、「振動防止機構OFF」などの文字を表示させる。このため、制御装置100は、ユーザに外扉3aが開いていることを報知でき、外扉3aの閉め忘れを防止できる。
【0049】
培養装置1に、内箱2aの開口を取り囲むとともに内箱2aと外箱2bの間に架け渡され、内箱2aと外箱2bとの間の空間S1を封止する封止部材P2を設けている。このため、密閉された空間S1に空気層2dを形成することよって、培養空間20内の温度変化を抑制できる。
【0050】
培養装置1に、内箱2aの振動に伴い棚4が振動することを防止する制震機構70を設けている。このため、培養装置1を用いた培養物の搬送中に、培地に泡や波が発生することをより抑制できる。
【0051】
培養装置1に、制震機構70を、第2の固定状態と、第2の振動防止状態と、に切り替える第2の状態切替部75を設けている。このため、シャーレ9を棚4に載置したり、棚4から取り出すときに、ユーザにシャーレ9の載置作業や取り出し作業を容易に行わせることができる。
【0052】
[実施の形態の変形例]
本発明は、これまでに説明した実施の形態に示されたものに限られないことは言うまでも無く、その趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の変形を加えることができる。
【0053】
例えば、第1の状態切替部65を構成する第1の切替部材651の姿勢を、ユーザが手動で切り替えることができるようにしてもよい(以下、「第1の変形例」という)。この場合、第1の切替駆動部652が不要になる。第1の切替部材651の代わりに、上下に伸縮する部材を設け、当該部材を伸縮させることによって、第1の固定状態と、第1の振動防止状態と、に切り替えるようにしてもよい(以下、「第2の変形例」という)。第1の切替部材651の代わりに、内箱2aと外箱2bとの間に水平方向に出し入れ可能な部材を設け、当該部材を出し入れすることによって、第1の固定状態と、第1の振動防止状態と、に切り替えるようにしてもよい(以下、「第3の変形例」という)。上述の第1~第3の変形例を第2の状態切替部75に適用してもよい。第1の状態切替部65および第2の状態切替部75のうち少なくとも一方を培養装置1に設けなくてもよい。
【0054】
免震機構60として、免震スライダ601の代わりに、免震ゴム、エアダンパ、オイルダンパを適用してもよい。
【0055】
外箱2bの振動に伴い内箱2aが振動することを防止する第1の振動防止機構として、縦揺れを防止する免震機構または制震機構を設けてもよいし、縦揺れを防止する制震機構を設けてもよい。
【0056】
培養装置1に、内箱2aの振動に伴い棚4が振動することを防止する制震機構70を設けなくてもよい。内箱2aの振動に伴い棚4が振動することを防止する第2の振動防止機構として、横揺れを防止する免震機構または制震機構を設けてもよいし、横揺れを防止する免震機構を設けてもよい。
【0057】
扉スイッチSdは、外扉3aおよび内扉3bの開閉を検出してもよいし、内扉3bのみの開閉を検出してもよい。温度センサSt、湿度センサSh、OセンサSoおよびCOセンサScのうち少なくとも1つのセンサを開閉検出部として機能させ、制御装置100は、当該少なくとも1つのセンサの検出値と設定値との差が閾値以上の場合に、外扉3aが開いていると判定し、前記閾値未満の場合に、外扉3aが閉じていると判定してもよい。
【0058】
培養装置1にキャスタ12を設けずに、台車で培養装置1を搬送してもよい。培養装置1にアジャスタ13を設けずに、いわゆる車輪止め用の部材を用いて培養装置1を設置面Gに固定してもよい。
【0059】
図4Aに示すように、内箱2aと外箱2bとの間に設けた8個の制震部材611を第1の振動防止機構61として機能させ、当該8個の制震部材611によって、外箱2bの振動に伴い内箱2aが振動することを防止してもよい。この場合、4個の制震部材611によって、内箱2aの天壁上面の四隅と、外箱2bの天壁下面の2箇所とを接続するとともに、残りの4個の制震部材611によって、内箱2aの底壁下面の四隅と、外箱2bの底壁上面の2箇所とを接続するようにしてもよい。制震部材611としては、ゴムで構成された部材、オイルダンパ、エアダンパが例示できる。
【0060】
図4Bに示すように、内箱2aと外箱2bとの間に設けた4個の制震部材621と、内箱2aと外箱2bとの間に充填した液体622のダンパと、を第1の振動防止機構62として機能させ、4個の制震部材621および液体622のダンパによって、外箱2bの振動に伴い内箱2aが振動することを防止してもよい。この場合、2個の制震部材621によって、内箱2aの天壁上面の2箇所と、外箱2bの天壁下面の1箇所とを接続するとともに、残りの2個の制震部材621によって、内箱2aの底壁下面の2箇所と、外箱2bの底壁上面の1箇所とを接続するようにしてもよい。また、ダンパとして機能させる液体622に、入手が容易な滅菌水を用いてもよい。図4Bに示す構成では、内箱2aと外箱2bとの間の液体622を抜いてから、外扉3aおよび内扉3bを開いて培養物を内箱2aの培養空間内に入れ、その後、内扉3bおよび外扉3aを閉じて内箱2aと外箱2bとの間に液体622を充填すればよい。
【0061】
2020年3月23日出願の特願2020-050848の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、培養装置に適用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 培養装置
2 断熱箱
2a 内箱
2a1 底壁
2b 外箱
2c 断熱材
2d 空気層(エアージャケット)
2f 支持部材
3a 外扉
3b 内扉
4 棚
5 ダクト
5a 吸込口
5b 吹出口
5c 循環用送風機
6 加湿皿
7 紫外線ランプ
9 シャーレ
10 本体
11 収納箱
12 キャスタ
13 アジャスタ
14a ガス供給管
14b ガス供給管
15 電装ボックス
20 培養空間
50 操作装置
60 免震機構
61,62 第1の振動防止機構
65 第1の状態切替部
70 制震機構
75 第2の状態切替部
100 制御装置
601 免震スライダ
602 板状部材
603 球体
611,621 制震部材
622 液体
651 第1の切替部材
651a 第1の接触部
651b 第1の回転規制部
652 第1の切替駆動部
653 第1の回転軸
701 制震部材
751 第2の切替部材
751a 第2の接触部
751b 第2の回転規制部
752 第2の切替駆動部
753 第2の回転軸
G 設置面
H1 調温用ヒータ
H2 調湿用ヒータ
K 気体通路
P1 パッキン
P2 封止部材
S1 空間
S2 機械室
Sc COセンサ
Sd 扉スイッチ
Sh 湿度センサ
So Oセンサ
St 温度センサ
Vc CO制御弁
Vo O制御弁
W 加湿水
図1
図2
図3
図4A
図4B