(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20231114BHJP
F16C 33/24 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16J15/34 H
F16C33/24 A
(21)【出願番号】P 2022513756
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015742
(87)【国際公開番号】W WO2021205554
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓志
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/212144(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129553(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16C 33/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面にて互いに相対摺動する一対の
環状の摺動部品であって,
少なくとも一方の摺動面は,開口部の形状が直交する長軸及び短軸を有する
複数のディンプル
から構成されるディンプル群を備え,
前記ディンプル群は,
複数のサブディンプル群から構成され,
前記複数のサブディンプル群の各々は,当該サブディンプル群に属する複数の前記ディンプルの前記長軸の端点を繋いだ曲線又は前記短軸の端点を繋いだ曲線が,前記一方の摺動面の円周の曲率と異なる曲率を有する
とともに被密封流体側又は漏れ側に向かって凸となる曲線
である,複数の前記ディンプルの集合である,
ことを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
前記ディンプル群は
,前記曲線が被密封流体側に向かって凸
となる曲線
である複数の前記ディンプルの集合である第1
サブディンプル群から
構成されることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記第1
サブディンプル群は,前記一方の摺動面の漏れ側に配置されることを特徴とする請求項2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記ディンプル群は
,前記曲線が漏れ側に向かって凸
となる曲線
である複数の前記ディンプルの集合である第2
サブディンプル群から
構成されることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項5】
前記第2
サブディンプル群は,前記一方の摺動面の被密封流体側に配置されることを特徴とする請求項4に記載の摺動部品。
【請求項6】
前記ディンプル群は
,前記曲線が被密封流体側に向かって凸
となる曲線
である複数の前記ディンプルの集合である第1
サブディンプル群と
,前記曲線が漏れ側に向かって凸
となる曲線
である複数の前記ディンプルの集合である第2
サブディンプル群と,から
構成されることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項7】
前記第1
サブディンプル群は前記一方の摺動面の漏れ側に配置され,前記第2
サブディンプル群は前記一方の摺動面の被密封流体側に配置されることを特徴とする請求項6に記載の摺動部品。
【請求項8】
前記第1
サブディンプル群と前記第2
サブディンプル群との間に周方向に延設される周方向溝を備えることを特徴とする請求項6又は7に記載の摺動部品。
【請求項9】
前記一方の摺動面は径方向に延びるランド部により区画される複数の領域を備え,前記ディンプル群は前記
複数の領域
の各々に配置されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項10】
前記
複数のディンプル
の各々の前記開口部は楕円であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項11】
前記
複数のサブディンプル群
の各々は,前記ディンプルの前記長軸又は前記短軸を整列させて前記曲線をなすように配置
されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項12】
前記複数のサブディンプル群は,前記一方の摺動面の径方向に所定の間隔をあけて並ぶように配置されることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,摺動面にて相対摺動する一対の摺動部品,たとえば,メカニカルシール,すべり軸受,その他,摺動部に適した摺動部品に関する。特に,摺動面に流体を介在させて摩擦を低減させるとともに,摺動面から流体が漏洩するのを防止する必要のある密封環または軸受などの摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
被密封流体の漏れを防止する密封装置として,摺動面にて相対摺動する一対の摺動部品からなるもの(例えば,メカニカルシール)が知られている。このような密封装置において,摺動面間に被密封流体による流体潤滑膜を形成して摺動トルクを低減しつつ,高い密封性を維持する必要がある。そして,高い密封性と低い摺動トルクを実現するための一つの方法として,摺動面にディンプルを複数配列する技術が知られている。
【0003】
たとえば,摺動面に円形の開口部を有するディンプルを該摺動部品の回転中心を中心とする仮想円周上に並ぶように配置して,高い密封性及び低摺動トルクを実現できることが知られている。(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,端部が半円状で細長い矩形状の開口部を有するディンプルを所定のディンプル角度θで配置し,ディンプル中心を通る円上におけるディンプルの円周方向長さL1と同円上における隣接するディンプル間のランド部の円周方向長さL2との比L1/L2を0.001≦L1/L2≦0.1とすることにより,ディンプル全体としての密封性と摺動トルクとを最適に調整することが知られている(例えば,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-133496号公報
【文献】特許5456772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は,特定の運転条件で高い密封性及び低摺動トルクを達成できても,広い回転数領域において高い密封性及び低摺動トルクを達成できない。
【0007】
また,特許文献2の技術においても,ディンプル角度が固定されてしまうので,特定の運転条件で被密封流体の漏れ,及び,摺動トルクを低減することはできても,広い回転数領域において高い密封性及び低摺動トルクを達成できない。特に,逆回転で使用される場合には,密封性が低下し及び摺動トルク増加する傾向にある。
【0008】
本発明は,摺動面にて相対摺動する一対の摺動部品において,広い回転数範囲で使用されても,また回転方向に関わらず,高い密封性及び低摺動トルクを実現できる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために,本発明の摺動部品は,
摺動面にて互いに相対摺動する一対の摺動部品であって,
少なくとも一方の摺動面は,開口部の形状が直交する長軸及び短軸を有するディンプルを複数配置してなるディンプル群を備え,
前記ディンプル群は,前記ディンプルを前記一方の摺動面の円周の曲率と異なる曲率を有する曲線をなすように配置したことを特徴としている。
この特徴によれば,ディンプル群は,ディンプルを摺動面の円周の曲率とは異なる曲率を有する曲線をなすように配置することにより,ディンプルの角度は曲線に沿って徐々に変化する。これにより,異なる吸込み効果及び動圧効果を有するディンプルから構成されるようになるので,ディンプル群全体として広い回転数範囲で高い密封性及び低摺動トルクを発揮できる。
【0010】
本発明の摺動部品は,
前記ディンプル群は,前記ディンプルを被密封流体側に向かって凸の曲線をなすように配置されてなる第1ディンプル群からなることを特徴としている。
この特徴によれば,第1ディンプル群はディンプルを被密封流体側に向かって凸の曲線状に配置されるので,ディンプルの角度は被密封流体側に向かって凸の曲線に沿って徐々に変化する。これにより,第1ディンプル群は異なる吸込み効果及び動圧効果を有するディンプルから構成されるようになるので,ディンプル群全体として広い回転数範囲で高い密封性及び低摺動トルクを発揮でき,さらには容易に両回転可能なディンプル群を構成することができる。
【0011】
本発明の摺動部品は,
前記第1ディンプル群は,前記一方の摺動面の漏れ側に配置されることを特徴としている。
この特徴によれば,第1ディンプル群を漏れ側に配置することにより,第1ディンプル群は漏れ側から流体を吸込むので,密封性を向上することができる。
【0012】
本発明の摺動部品は,
前記ディンプル群は,前記ディンプルを漏れ側に向かって凸の曲線をなすように配置されてなる第2ディンプル群からなることを特徴としている。
この特徴によれば,第2ディンプル群はディンプルを漏れ側に向かって凸の曲線状に配置されるので,ディンプルの角度は漏れ側に向かって凸の曲線に沿って徐々に変化する。これにより,第2ディンプル群は異なる吸込み効果及び動圧効果を有するディンプルから構成されるようになるので,ディンプル群全体として広い回転数範囲で高い密封性及び低摺動トルクを発揮でき,さらには容易に両回転可能なディンプル群を構成することができる。
【0013】
本発明の摺動部品は,
前記第2ディンプル群は,前記一方の摺動面の被密封流体側に配置されることを特徴としている。
この特徴によれば,第2ディンプル群を被密封流体側に配置することにより,第2ディンプル群は被密封流体側から流体を吸込み,流体を昇圧して摺動面に供給するので,摺動面に流体膜を形成して摺動トルクを低減することができる。
【0014】
本発明の摺動部品は,
前記ディンプル群は,前記ディンプルを被密封流体側に向かって凸の曲線をなすように配置されてなる第1ディンプル群と,前記ディンプルを漏れ側に向かって凸の曲線をなすように配置されてなる第2ディンプル群と,からなることを特徴としている。
この特徴によれば,第1ディンプル群はディンプルを被密封流体側に向かって凸の曲線状に配置され,第2ディンプル群はディンプルを漏れ側に向かって凸の曲線状に配置されるので,第1ディンプル群と第2ディンプル群は,それぞれの曲線に沿ってディンプルの角度を変化させることができるので,ディンプル群全体として広い回転数範囲で高い密封性及び低摺動トルクを発揮でき,さらには容易に両回転可能なディンプル群を構成することができる。
【0015】
本発明の摺動部品は,
前記第1ディンプル群は前記一方の摺動面の漏れ側に配置され,前記第2ディンプル群は前記一方の摺動面の被密封流体側に配置されることを特徴としている。
この特徴によれば,漏れ側に配置される第1ディンプル群は密封性を向上でき,被密封流体側に配置される第2ディンプル群は潤滑性を向上できるので,高い密封性と潤滑性を備えた摺動部品とすることができる。
面に流体膜を形成して摺動トルクを低減することができる。
【0016】
本発明の摺動部品は,
前記第1ディンプル群と前記第2ディンプル群との間に周方向に延設される周方向溝を備えることを特徴としている。
この特徴によれば,第1ディンプル群と第2ディンプル群との間に周方向に延設される周方向溝によって,第1ディンプル群と第2ディンプル群の干渉を防ぐことができる。
【0017】
本発明の摺動部品は,
前記一方の摺動面は径方向に延びるランド部により区画される複数の領域を備え,前記ディンプル群は前記領域に配置されること特徴としている。
この特徴によれば,ディンプル群を流れる流体は,ランド部により堰き止められ昇圧するので,摺動面を押し拡げて潤滑性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る摺動部品をメカニカルシールに適用した一例を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のW-W矢視図であり,本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面の一例を示す図である。
【
図3】
図1のW-W矢視図であり,本発明の実施例2に係る摺動部品の摺動面の一例を示す図である。
【
図4】
図1のW-W矢視図であり,本発明の実施例3に係る摺動部品の摺動面の一例を示す図である。
【
図5】
図1のW-W矢視図であり,本発明の実施例4に係る摺動部品の摺動面の一例を示す図である。
【
図6】
図1のW-W矢視図であり,本発明の実施例5に係る摺動部品の摺動面の一例を示す図である。
【
図7】
図1のW-W矢視図であり,本発明の実施例6に係る摺動部品の摺動面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して,本発明を実施するための形態を,実施例に基づいて例示的に説明する。ただし,この実施例に記載されている構成部品の寸法,材質,形状,その相対的配置などは,特に明示的な記載がない限り,本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0020】
図1及び
図2を参照して,本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。以下の実施例においては,摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明するが,これに限定されることなく,例えば,円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。なお,メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を被密封流体側(高圧流体側),内周側を漏れ側(低圧流体側,たとえば大気側)として説明する。
【0021】
図1は,メカニカルシール1の一例を示す縦断面図であって,摺動面Sの外周から内周方向に向かって漏れようとする被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり,回転側カートリッジと固定側カートリッジからなる。回転側カートリッジは,回転軸10に嵌合されたスリーブ2と,一方の摺動部品である円環状の回転側密封環3と,スリーブ2と回転側密封環3との間をシールするパッキン8と,備え,回転側カートリッジは回転軸10とともに回転する。
【0022】
固定側カートリッジは,ケーシング9に取り付けられたハウジング4と,他方の摺動部品である円環状の固定側密封環5と,固定側密封環5とハウジング4とをシールするベローズ7と,固定側密封環5をベローズ7を介して回転側密封環3側へ付勢するコイルドウェーブスプリング6と,を備え,ハウジングはケーシング9に対し回転方向及び軸方向に固定される。
【0023】
以上の構成を備えたメカニカルシール1は,回転側密封環3の摺動面Sと固定側密封環5の摺動面Sが,互いに摺動して被密封流体が外周側から内周側へ流出するのを防止するものである。なお,
図1では,回転側密封環3の摺動面の幅が固定側密封環5の摺動面の幅より広い場合を示しているが,これに限定されることなく,逆の場合においても本発明を適用出来ることはもちろんである。
【0024】
回転側密封環3及び固定側密封環5の材質は,耐摩耗性に優れた炭化ケイ素(SiC)及び自己潤滑性に優れたカーボンなどから選定されるが,例えば,両者がSiC,あるいは,回転側密封環3がSiCであって固定側密封環5がカーボンの組合せが可能である。
【0025】
図2に示すように,固定側密封環5の摺動面Sは被密封流体側から漏れ側に亘って設けられるランド部Rによって所定数(
図1の例では6)の領域11に区画されている。
ランド部Rは、摺動面Sの円周方向における領域11の範囲を定義するようにディンプル12が存在しない部分として設けられた、摺動面Sの一部分である。各領域にはディンプル群14が配設されている。ディンプル群14はディンプル12が複数配列して構成されている。また,軸CLは領域11を左右対称に分割する径方向軸である。
【0026】
本発明において,ディンプル12とは,平坦な摺動面Sに囲まれる開口部及び摺動面Sよりへこんだ底部を有する窪みのことであり,ディンプル12の開口部12aは,直交する長軸L及び短軸Kを有する形状からなる。また,ディンプル12同士はランド部Rを挟んで離間して配置されている。本発明において,長軸Lとは開口部12aの形状の図心Gを通り,かつ,開口部12aの最大幅部分を結ぶ架空の線である。また,短軸Kとは図心Gを通りかつ長軸Lに直交して開口部を結ぶ架空の線である。本実施例におけるディンプル
12の開口部は,直交する長軸L及び短軸Kを有する楕円を例として説明する。しかし,楕円に限らず,直交する長軸及び短軸を有する形状であれば,小判形,ひし形,多角形,又は,
図8に示すように任意の閉曲線91,92,93,94からなるものでもよい。
【0027】
図2に示すように,ディンプル群14は,サブディンプル群14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,…を径方向にランド部Rを挟んで所定数配置して形成される。また,サブディンプル群14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,…は,ディンプル12の長軸Lを整列させて,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する架空の曲線13をなすように配置したものである。すなわち,サブディンプル群は,ディンプル12の長軸Lを架空の曲線13に接するように整列配置した形状をなしている。曲線13は,被密封流体側に向かって凸の曲線であり,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する円弧,放物線,正弦波,サイクロイド曲線等からなる。また,サブディンプル群14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,…は,軸CL近傍に配置されるディンプル12が被密封流体側に最も近く,両端に配置されるディンプル12は漏れ側に最も近く配置される。また,サブディンプル群14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,…の両端に配置されるディンプル12は,漏れ側周縁5aに接する,又は,漏れ側周縁5aに開口するように配置されていてもよい。さらに,サブディンプル群14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,…は,軸CLに対しディンプル12を対称に配置して構成してもよい。以下,本発明において,摺動面Sの円周とは,摺動面Sの中心Cからから等距離にある点の軌跡を示す。
【0028】
なお,実施例1においては,サブディンプル群を構成するディンプル12の長軸Lを架空の曲線13に接するように,ディンプル12の長軸L同士を近接配置して整列させたが,ディンプル12の長軸Lを架空の曲線13に対し所定の角度傾けて配置してもよい。また,説明のため,
図2の囲み部のみに,サブディンプル群14a,14b,14c,14d,14e,14f,14gの符号を示した。各領域11に配置されるサブディンプル群の個数は,設計条件等によって決定される。
【0029】
このように構成されたメカニカルシール1の回転側密封環3が
図2に示すように反時計方向に回転すると,摺動面S間の流体及びディンプル12内の流体は,その粘性により回転側密封環3の移動方向に追随して移動する。ディンプル12内に流れ込む流体は流路が急拡大するので,ディンプル12の上流側で負圧となりキャビテーションが発生する。ただし,キャビテーション内の負圧の大きさは流体の蒸気圧の値で制限されるので,大きな負圧となることはない。また,ディンプル12の下流側において,流路が急縮小することによりくさび効果
(動圧効果)で正
圧が発生する。ディンプル12の上流側において発生する負圧により,ディンプル12は周囲の流体を吸込む吸込み効果を発揮する。一方,ディンプル12の下流側において発生する正圧は,キャビテーション内の負圧より大きいため,ディンプル12全体として正圧となる。摺動面Sに配置した複数のディンプル12が発生する正圧によって摺動面S間が押し拡げられ,摺動面Sに流体が流入して潤滑機能が得られる。
【0030】
ディンプル12が摺動面Sの漏れ側周縁5aから被密封流体側周縁5bに亘って配設されていると,ディンプル群14は,漏れ側から摺動面内に流体を吸込むポンピング効果を発揮して密封効果を向上でき,また,被密封流体側から高圧の流体を吸込んでディンプル12の動圧効果によって昇圧した流体を摺動面に供給するのでするので,流体潤滑効果を向上できる。特に,
図2のサブディンプル群14a,14b,…のようにディンプル12を被密封流体側に向かって凸の曲線13の形状をなすように配置されていると,ディンプルを摺動面Sの円周方向に同心円状に配置したディンプル群に比較して,ディンプル群14の密封効果を高めることができる。
【0031】
また,ディンプル12は直交する長軸及び短軸を有する楕円の開口部12aを有するので,長軸Lの傾きによって,ディンプル12の吸込み効果及び動圧効果が異なる。ディンプル12を長軸Lが摺動面Sの摺動方向(円周方向)に平行になるように配置した場合には,ディンプル12は流体を保持する機能が高くなる。ディンプル12を長軸Lが摺動方向に対し約45°傾くように配置した場合には吸込み効果が高くなる。また,ディンプル12を長軸Lが摺動方向に直交するように配置した場合には動圧効果が高くなる。このように,同じ楕円形状を有するディンプル12であっても,ディンプル12の長軸Lの傾きを変えることによって,吸込み効果を強くしたり,動圧効果を強くしたりすることができる。
【0032】
また,サブディンプル群14a,14b,…において,ディンプル12は曲線13の形状をなすように配置されているので,各ディンプル12の長軸Lの角度は曲線13に沿って徐々に変化する。これにより,各ディンプル12の長軸Lの方向が曲線13に沿って徐々に変化するので,サブディンプル群14a,14b,…は,異なる吸込み効果及び動圧効果を有するディンプル12から構成されるようになる。メカニカルシール1が,広い回転数範囲で使用されても,それぞれの回転数において適したディンプル12が高い吸込み効果及び動圧効果を発揮するので,ディンプル群14全体として高い密封性及び潤滑機能を発揮するようになる。
【0033】
さらに,サブディンプル群14a,14b,…は,被密封流体側に凸の曲線13をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,高い密封性及び潤滑機能を発揮するようになる。
【0034】
以上述べたように,本発明の摺動部品は以下の効果を奏する。
1.ディンプル群14を構成するディンプル12は,その上流側で負圧になるので流体を吸込み効果を発揮するとともに,下流側のくさび効果によって昇圧した流体が摺動面に供給されるので潤滑機能を発揮する。
2.ディンプル12が摺動面Sの漏れ側周縁5aから被密封流体側周縁5bに亘って配設されていると,ディンプル群14は,漏れ側から摺動面内に流体を吸込むポンピング効果を発揮して密封効果を向上でき,また,被密封流体側から高圧の流体を吸込んでディンプル12の動圧効果によって昇圧した流体を摺動面に供給するのでするので,流体潤滑効果を向上できる。
3.
図2のサブディンプル群14a,14b,…のようにディンプル12を被密封流体側に向かって凸の曲線13の形状をなすように配置されていると,ディンプルを摺動面Sの円周方向に同心円状に配置したディンプル群に比較して,ディンプル群14の密封効果を高めることができる。
4.ディンプル12は直交する長軸及び短軸を有する楕円の開口部12aを有するので,長軸Lの傾きを変化させることにより,ディンプル12の吸込み効果と動圧効果の強さを変えることができる。これにより,同じ楕円形状を有するディンプル12であっても,ディンプル12の長軸Lの傾きを変えることによって,吸込み効果を強くしたり,動圧効果を強くしたりすることができる。
5.サブディンプル群14a,14b,…において,ディンプル12は曲線13の形状をなすように配置されているので,各ディンプル12の長軸Lの角度は曲線13に沿って徐々に変化する。これにより,各ディンプル12の長軸Lの方向が曲線13に沿って徐々に変化するので,サブディンプル群14a,14b,…は,異なる吸込み効果及び動圧効果を有するディンプル12から構成されるようになる。メカニカルシール1が,広い回転数範囲で使用されても,それぞれの回転数において適したディンプル12が高い吸込み効果及び動圧効果を発揮するので,ディンプル群14全体として高い密封性及び潤滑機能を発揮するようになる。
6.ディンプル群14は,被密封流体側に凸の曲線13をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,高い吸込み効果及び動圧効果を発揮するようになる。
【実施例2】
【0035】
本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
図3は実施例2に係る摺動部品の摺動面Sを示したもので,サブディンプル群24a,24b,…は,漏れ側に凸の曲線23をなすように配列されている点で実施例1と相違する。他の構成は実施例1と同じである。以下,実施例1と同じ部材,構成については同じ符号を付し,重複する説明は省略する。
【0036】
図3に示すように,固定側密封環5の摺動面Sは被密封流体側から漏れ側に亘って設けられるランド部Rによって所定数(
図3の例では6)の領域21に区画されている。各領域にはディンプル群24が配設されている。ディンプル群24はディンプル22が複数配列して構成されている。また,軸CLは領域21を左右対称に分割する径方向軸である。
【0037】
図3に示すように,ディンプル群24は,サブディンプル群24a,24b,24c,24d,24e,24f,24g,…を径方向にランド部Rを挟んで所定数配置して形成される。サブディンプル群24a,24b,24c,24d,24e,24f,24g,…は,ディンプル22の長軸Lを整列配置して,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する架空の曲線23をなすように配置したものである。すなわち,サブディンプル群は,ディンプル22の長軸Lを架空の曲線23に接するように整列配置した形状をなしている。曲線23は,漏れ側に向かって凸の曲線であり,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する円弧,放物線,正弦波,サイクロイド曲線等からなる。また,サブディンプル群24a,24b,24c,24d,24e,24f,24g,…は,軸CL近傍に配置されるディンプル22が漏れ側に最も近く,両端に配置されるディンプル22は被密封流体側に最も近く配置される。また,サブディンプル群24a,24b,24c,24d,24e,24f,24g,…の両端に配置されるディンプル22は,被密封流体側周縁5bに接する,又は,被密封流体側周縁5bに開口するように配置されていてもよい。さらに,サブディンプル群24a,24b,24c,24d,24e,24f,24g,…は,軸CLに対しディンプル22を対称に配置して構成してもよい。なお,説明のため,
図3の囲み部のみに,サブディンプル群24a,24b,24c,24d,24e,24f
,24gの符号を示した。各領域21に配置されるサブディンプル群の個数は,設計条件等によって決定される。
【0038】
サブディンプル群24a,24b,…のようにディンプル22が近接して曲線23の形状をなすように配置されていると,隣接するディンプル22の間で吸い込みと吐き出しが連続して繰り返される。したがって,ディンプル22が摺動面Sの漏れ側周縁5aから被密封流体側周縁5bに亘って配設されていると,ディンプル群24は,漏れ側から摺動面内に流体を吸込むポンピング効果を発揮して漏れを小さくすることができる。また,被密封流体側から高圧の流体を吸込んでディンプル22の動圧効果によって昇圧した流体を摺動面に供給するのでするので,流体潤滑効果を向上できる。特に,
図3のように,サブディンプル群24a,24b,…のようにディンプル22を漏れ側に向かって凸の曲線23の形状をなすように配置されていると,ディンプル群24の流体潤滑効果を密封効果より強くすることができる。
【0039】
また,サブディンプル群24a,24b,…において,ディンプル22は曲線23の形状をなすように配置されているので,各ディンプル22の長軸Lの角度は曲線23に沿って徐々に変化するので,各ディンプルの吸込み効果及び動圧効果も曲線23に沿って徐々に変化する。すなわち,サブディンプル群24a,24b,…は,異なる吸込み効果及び動圧効果を有するディンプル22が配置されるので,広い回転数範囲で使用されても,それぞれの回転数において高い吸込み効果及び動圧効果を発揮するディンプル22が存在するようになる。そして,サブディンプル群24a,24b,…を径方向に複数配置したディンプル群24を摺動面の各領域21に配置することにより,広い回転数範囲で使用されても,ディンプル群24全体として潤滑機能を発揮するようになる。
【0040】
さらに,サブディンプル群24a,24b,…は,漏れ側に凸の曲線23をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,高い潤滑機能を発揮するようになる。
【0041】
以上述べたように,実施例2の摺動部品は以下の効果を奏する。
1.ディンプル群24を構成するディンプル22は,その上流側で負圧になるので流体を吸込む機能を発揮するとともに,下流側のくさび効果によって昇圧した流体を吐き出して潤滑機能を発揮する。
2.ディンプル22が摺動面Sの漏れ側周縁5aから被密封流体側周縁5bに亘って配設されていると,ディンプル群24は,漏れ側から摺動面内に流体を吸込むポンピング効果を発揮して漏れを小さくすることができる。また,被密封流体側から高圧の流体を吸込んでディンプル22の動圧効果によって昇圧した流体を摺動面に供給するのでするので,流体潤滑効果を向上できる。
3.
図3のサブディンプル群24a,24b,…のようにディンプル22を漏れ側に向かって凸の曲線23の形状をなすように配置されていると,ディンプルを摺動面Sの円周方向に同心円状に配置したディンプル群に比較して,ディンプル群24の流体潤滑効果を高めることができる。
4.ディンプル22は直交する長軸及び短軸を有する楕円の開口部22aを有するので,長軸Lの傾きを変化させることにより,ディンプル22の吸込み効果と動圧効果の強さを変えることができる。これにより,同じ楕円形状を有するディンプル22であっても,ディンプル22の長軸Lの傾きを変えることによって,吸込み効果を強くしたり,動圧効果を強くしたりすることができる。
5.サブディンプル群24a,24b,…において,ディンプル22は曲線23の形状をなすように配置されているので,各ディンプル22の長軸Lの角度は曲線23に沿って徐々に変化するので,各ディンプルの吸込み効果及び動圧効果も曲線23に沿って徐々に変化する。すなわち,サブディンプル群24a,24b,…は,異なる吸込み効果及び動圧効果を有するディンプル22が配置されるので,広い回転数範囲で使用されても,それぞれの回転数において高い吸込み効果及び動圧効果を発揮するディンプル22が存在するようになる。そして,サブディンプル群24a,24b,…を径方向に複数配置したディンプル群24を摺動面の各領域21に配置することにより,広い回転数範囲で使用されても,ディンプル群24全体として潤滑機能を発揮するようになる。
6.サブディンプル群24a,24b,…は,
漏れ側に凸の曲線23をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,高い潤滑機能を発揮するようになる。
【実施例3】
【0042】
本発明の実施例3に係る摺動
部品について説明する。
図4は実施例3に係る摺動部品の摺動面Sを示したもので,ディンプル群34は,隣接するディンプル32の短軸K同士を近接配置して整列させて被密封流体側に凸の曲線33をなすように配列されている点で実施例1と相違する。他の構成は実施例1と同じである。以下,実施例1と同じ部材,構成については同じ符号を付し,重複する説明は省略する。
【0043】
図4に示すように,固定側密封環5の摺動面Sは被密封流体側から漏れ側に亘って設けられるランド部Rによって所定数(
図4の例では6)の領域31に区画されている。各領域にはディンプル群34が配設されている。ディンプル群34はディンプル32が複数配列して構成されている。また,軸CLは領域31を左右対称に分割する径方向軸である。
【0044】
図4に示すように,ディンプル群34は,サブディンプル群34a,34b,34c,34d,34e,34f,34g,…を径方向にランド部Rを挟んで所定数配置して形成される。サブディンプル群34a,34b,34c,34d,34e,34f,34g,…は,ディンプル32の短軸Kを整列させて,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する架空の曲線33をなすように配置したものである。すなわち,サブディンプル群は,ディンプル32の短軸Kを架空の曲線33に接するように整列配置した形状をなしている。曲線33は,被密封流体側に向かって凸の曲線であり,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する円弧,放物線,正弦波,サイクロイド曲線等からなる。また,サブディンプル群34a,34b,34c,34d,34e,34f,34g,…は,軸CL近傍に配置されるディンプル32が被密封流体側に最も近く,両端に配置されるディンプル32は漏れ側に最も近く配置される。また,サブディンプル群34a,34b,34c,34d,34e,34f,34g,…の両端に配置されるディンプル
32は,漏れ側周縁5aに接する,又は,漏れ側周縁5aに開口するように配置されていてもよい。さらに,サブディンプル群34a,34b,34c,34d,34e,34f,34g,…は,軸CLに対しディンプル32を対称に配置して構成してもよい。ここで,曲線33は,ディンプル32の短軸Kに接する架空の曲線である。なお,説明のため,
図4の囲み部のみに,サブディンプル群34a,34b,34c,34d,34e,34f,34gの符号を示した。各領域31に配置されるサブディンプル群の個数は,設計条件等によって決定される。
【0045】
実施例3においては,ディンプル32の長軸Lを径方向に向けて配置することにより,ディンプル32の動圧効果を密封効果より高めることができる。これにより,摺動面S全体として,潤滑効果を高め,摺動トルクを低減できる。
【0046】
また,
図4のサブディンプル群34a,34b,…のようにディンプル32を被密封流体側に向かって凸の曲線33の形状をなすように配置されていると,摺動面Sの円周方向に同心円状に配置されたディンプル群に比較して,ディンプル群34の密封効果を高めることができる。
【0047】
また,サブディンプル群34a,34b,…において,ディンプル32は曲線33の形状をなすように配置されているので,各ディンプル32の短軸Kの角度は曲線33に沿って徐々に変化する。これにより,各ディンプル32の吸込み効果及び動圧効果は曲線33に沿って徐々に変化する。すなわち,サブディンプル群34a,34b,…は,異なる吸込み効果及び動圧効果を発揮するディンプル32が配置されるので,広い回転数範囲で使用されても,それぞれの回転数において高い吸込み効果及び動圧効果を発揮するディンプル32が存在するようになる。そして,サブディンプル群34a,34b,…を径方向に複数配置したディンプル群34を摺動面の各領域31に配置することにより,広い回転数範囲で使用されても,ディンプル群34全体として高い密封性及び潤滑機能を発揮するようになる。
【0048】
さらに,サブディンプル群34a,34b,…は,被密封流体側に凸の曲線33をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,高い密封性及び潤滑機能を発揮するようになる。
【0049】
以上述べたように,実施例3の摺動部品は,実施例1の効果に加え以下の効果を奏する。
1.ディンプル32の長軸Lを径方向に向けて配置することにより,ディンプル32の動圧効果を密封効果より高めることができる。これにより,摺動面S全体として,潤滑効果を高め,摺動トルクを低減できる。
2.
図4のサブディンプル群34a,34b,…のようにディンプル32を被密封流体側に向かって凸の曲線33の形状をなすように配置されていると,摺動面Sの円周方向に同心円状に配置されたディンプル群に比較して,ディンプル群34の密封効果を高めることができる。
【実施例4】
【0050】
本発明の実施例4に係る摺動
部品について説明する。
図5は実施例4に係る摺動部品の摺動面Sを示したもので,ディンプル群44は,隣接するディンプル42の短軸K同士を近接配置して整列させて漏れ側に凸の曲線43をなすように配列されている点で実施例1と相違する。他の構成は実施例1と同じである。以下,実施例1と同じ部材,構成については同じ符号を付し,重複する説明は省略する。
【0051】
図5に示すように,固定側密封環5の摺動面Sは被密封流体側から漏れ側に亘って設けられるランド部Rによって所定数(
図5の例では6)の領域41に区画されている。各領域にはディンプル群44が配設されている。ディンプル群44はディンプル42が複数配列して構成されている。また,軸CLは領域41を左右対称に分割する径方向軸である。
【0052】
図5に示すように,ディンプル群44は,サブディンプル群44a,44b,44c,44d,44e,44f,44g,…を径方向にランド部Rを挟んで所定数配置して形成される。サブディンプル群44a,44b,44c,44d,44e,44f,44g,…は,ディンプル42の短軸Kを整列させて,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する架空の曲線43をなすように配置したものである。すなわち,サブディンプル群は,ディンプル42の短軸Kを架空の曲線43に接するように整列配置した形状をなしている。曲線43は,漏れ側に向かって凸の曲線であり,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する円弧,放物線,正弦波,サイクロイド曲線等からなる。また,サブディンプル群44a,44b,44c,44d,44e,44f,44g,…は,軸CL近傍に配置されるディンプル42が漏れ側に最も近く,両端に配置されるディンプル42は被密封流体側に最も近く配置される。また,サブディンプル群44a,44b,44c,44d,44e,44f,44g,…の両端に配置されるディンプル42は,被密封流体側周縁5bに接する,又は,被密封流体側周縁5bに開口するように配置されていてもよい。さらに,サブディンプル群44a,44b,44c,44d,44e,44f,44g,…は,軸CLに対しディンプル42を対称に配置して構成してもよい。なお,説明のため,
図5の囲み部のみに,サブディンプル群44a,44b,44c,44d,44e,44f,44gの符号を示した。各領域41に配置されるサブディンプル群の個数は,設計条件等によって決定される。
【0053】
ディンプル42の長軸Lを径方向に向けて配置することにより,ディンプル42の動圧効果を密封効果より高めることができる。これにより,摺動面S全体として,潤滑効果を高め,摺動トルクを低減できる。
【0054】
図5のサブディンプル群44a,44b,…のようにディンプル42を漏れ側に向かって凸の曲線43の形状をなすように配置されていると,ディンプルを摺動面Sの円周方向に同心円状に配置したディンプル群に比較して,ディンプル群44の流体潤滑効果を高めることができる。
【0055】
また,サブディンプル群44a,44b,…において,ディンプル42は曲線43の形状をなすように配置されているので,各ディンプル42の長軸Lの角度は曲線43に沿って徐々に変化する。これにより,各ディンプル42の吸込み効果及び動圧効果は曲線43に沿って徐々に変化する。すなわち,サブディンプル群44a,44b,…は,異なる吸込み効果及び動圧効果を発揮するディンプル42が配置されるので,広い回転数範囲で使用されても,それぞれの回転数において高い吸込み効果及び動圧効果を発揮するディンプル42が存在するようになる。そして,サブディンプル群44a,44b,…を径方向に複数配置したディンプル群44を摺動面の各領域41に配置することにより,広い回転数範囲で使用されても,ディンプル群44全体として高い密封性及び潤滑機能を発揮するようになる。
【0056】
さらに,サブディンプル群44a,44b,…は,漏れ側に凸の曲線43をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,高い密封性及び潤滑機能を発揮するようになる。
【0057】
以上述べたように,実施例4の摺動部品は,実施例2の効果に加え以下の効果を奏する。
1.ディンプル42の長軸Lを径方向に向けて配置することにより,ディンプル42の動圧効果を密封効果より高めることができる。これにより,摺動面S全体として,潤滑効果を高め,摺動トルクを低減できる。
2.
図5のサブディンプル群44a,44b,…のようにディンプル42を漏れ側に向かって凸の曲線43の形状をなすように配置されていると,ディンプルを摺動面Sの円周方向に同心円状に配置したディンプル群に比較して,ディンプル群44の流体潤滑効果を高めることができる。
【実施例5】
【0058】
本発明の実施例5に係る摺動
部品について説明する。
図6は実施例5に係る摺動部品の摺動面Sを示したもので,漏れ側には被密封流体側に向かって凸の曲線53をなすように配列されたディンプル群54と,被密封流体
側には漏れ側に向かって凸の曲線58をなすように配列されたディンプル群59と,を備える点で実施例1と相違する。他の構成は実施例1と同じである。以下,実施例1と同じ部材,構成については同じ符号を付し,重複する説明は省略する。
【0059】
図6に示すように,固定側密封環5の摺動面Sは被密封流体側から漏れ側に亘って設けられるランド部Rによって所定数(
図6の例では6)の領域51に区画されている。各領域にはディンプル群54,59が配設されている。ディンプル群54はディンプル52が複数配列して構成され,ディンプル群59はディンプル57が複数配列して構成されている。また,軸CLは領域51を左右対称に分割する径方向軸である。
【0060】
摺動面Sの漏れ側には,ディンプル群54が配置される。ディンプル群54は,サブディンプル群54a,54b,54c,54d,…を径方向にランド部Rを挟んで所定数配置して形成される。また,サブディンプル群54a,54b,54c,54d,…は,ディンプル52の長軸Lを整列させて,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する架空の曲線53をなすように配置したものである。すなわち,サブディンプル群は,ディンプル52の長軸Lを架空の曲線53に接するように整列配置した形状をなしている。曲線53は,被密封流体側に向かって凸の曲線であり,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する円弧,放物線,正弦波,サイクロイド曲線等からなる。また,サブディンプル群54a,54b,54c,54d,…は,軸CL近傍に配置されるディンプル52が被密封流体側に最も近く,軸CLから遠い両端に配置されるディンプル52は漏れ側に最も近く配置される。また,サブディンプル群54a,54b,54c,54d,…の両端に配置されるディンプル52は,漏れ側周縁5aに接する,又は,漏れ側周縁5aに開口するように配置されていてもよい。さらに,サブディンプル群54a,54b,54c,54d,…は,軸CLに対しディンプル52を対称に配置して構成してもよい。なお,説明のため,
図6の囲み部のみに,サブディンプル群54a,54b,54c,54d,の符号を示した。各領域51に配置されるサブディンプル群の個数は,設計条件等によって決定される。
【0061】
摺動面Sの被密封流体側には,ディンプル群59が配設される。ディンプル群59は,サブディンプル群59a,59b,59c,…を径方向にランド部Rを挟んで所定数配置して形成される。サブディンプル群59a,59b,59c,…は,ディンプル57の長軸Lを整列させて,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する架空の曲線58をなすように配置したものである。すなわち,サブディンプル群は,ディンプル57の長軸Lを架空の曲線58に接するように整列配置した形状をなしている。曲線58は,漏れ側に向かって凸の曲線であり,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する円弧,放物線,正弦波,サイクロイド曲線等からなる。また,サブディンプル群59a,59b,59c,…は,軸CL近傍に配置されるディンプル57が漏れ側に最も近く,両端に配置されるディンプル57は被密封流体側に最も近く配置される。また,サブディンプル群59a,59b,59c,…の両端に配置されるディンプル57は,被密封流体側周縁5bに接する,又は,被密封流体側周縁5bに開口するように配置されていてもよい。さらに,サブディンプル群59a,59b,59c,…は,軸CLに対しディンプル57を対称に配置して構成してもよい。なお,説明のため,
図6の囲み部のみに,サブディンプル群59a,59b,59cの符号を示した。
【0062】
摺動面Sの漏れ側に設けられるとともに,被密封流体側に向かって凸の曲線53をなすように配列されたディンプル群54は,摺動面Sの円周方向に同心円状に配列されたディンプルよりもさらに高い密封性を発揮する。また,摺動面Sの被密封流体側に設けられるとともに,摺動面Sの漏れ側に向かって凸の曲線58をなすように配列されたディンプル群59は,摺動面Sの円周方向に同心円状に配列されたディンプルよりもさらに高い潤滑効果を発揮する。このよう摺動面Sに密封性にすぐれたディンプル群54と潤滑性能にすぐれたディンプル群59とを配置することにより,メカニカルシール1は優れた密封性と潤滑性を発揮することができる。
【0063】
ディンプル群54は,被密封流体側へ凸の曲線53をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,高い密封性を発揮できる。また,ディンプル群59は,漏れ側に凸の曲線58をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,潤滑機能を発揮するので,回転方向に関係なく高い密封性能及び潤滑性能を発揮できる。
【0064】
以上述べたように,実施例5の摺動部品は,実施例1及び2の効果に加え,下記の効果を奏する。
1.摺動面Sの漏れ側に設けられるとともに,被密封流体側に向かって凸の曲線53をなすように配列されたディンプル群54は,摺動面Sの円周方向に同心円状に配列されたディンプルよりもさらに高い密封性を発揮する。また,摺動面Sの被密封流体側に設けられるとともに,摺動面Sの漏れ側に向かって凸の曲線58をなすように配列されたディンプル群59は,摺動面Sの円周方向に同心円状に配列されたディンプルよりもさらに高い潤滑効果を発揮する。
2.ディンプル群54は,軸CLに対して実質対称に配列されるので,また,ディンプル群59は,軸CLに対して実質対称に配列されるので,回転方向に関係なく高い密封性能及び潤滑性能を発揮できる。
【実施例6】
【0065】
本発明の実施例6に係る摺動
部品について説明する。
図7は実施例6に係る摺動部品の摺動面Sを示したもので,漏れ側には被密封流体側に向かって凸の曲線63をなすように配列されたディンプル群64と,被密封流体
側には漏れ側に向かって凸の曲線68をなすように配列されたディンプル群69との間に溝部を備える点で実施例5と相違する。他の構成は実施例5と同じである。以下,実施例5と同じ部材,構成については同じ符号を付し,重複する説明は省略する。
【0066】
図7に示すように,固定側密封環5の摺動面Sは被密封流体側から漏れ側に亘って設けられるランド部Rによって所定数(
図7の例では6)の領域61に区画されている。各領域にはディンプル群64,69が配設されている。ディンプル群64はディンプル62が複数配列して構成され,ディンプル群69はディンプル67が複数配列して構成されている。また,軸CLは領域61を左右対称に分割する径方向軸である。
【0067】
摺動面Sの漏れ側には,実施例5と同じように,被密封流体側に向かって凸の曲線63をなすように配列されたディンプル群64が配設される。ディンプル群64は,サブディンプル群64a,64b,64c,64d,…を径方向にランド部Rを挟んで所定数配置して形成される。サブディンプル群64a,64b,64c,64d,…は,ディンプル62の長軸Lを整列させて,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する架空の曲線63をなすように配置したものである。曲線63は,被密封流体側に向かって凸の曲線であり,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する円弧,放物線,正弦波,サイクロイド曲線等からなる。また,サブディンプル群64a,64b,64c,64d,…は,軸CL近傍に配置されるディンプル62が被密封流体側に最も近く,両端に配置されるディンプル62は漏れ側に最も近く配置される。また,サブディンプル群64a,64b,64c,64d,…の両端に配置されるディンプル62は,漏れ側周縁5aに接する,又は,漏れ側周縁5aに開口するように配置されていてもよい。さらに,サブディンプル群64a,64b,64c,64d,…は,軸CLに対しディンプル62を対称に配置して構成してもよい。なお,説明のため,
図7の囲み部のみに,サブディンプル群64a,64b,64c,64d,の符号を示した。各領域61に配置されるサブディンプル群の個数は,設計条件等によって決定される。
【0068】
摺動面Sの被密封流体側には,実施例5と同じように,漏れ側に向かって凸の曲線68をなすように配列されたディンプル群69が配設される。ディンプル群69は,サブディンプル群69a,69b,69c,…を径方向にランド部Rを挟んで所定数配置して形成される。サブディンプル群69a,69b,69c,…は,ディンプル67の長軸Lを整列させて,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する架空の曲線68をなすように配置したものである。曲線68は,漏れ側に向かって凸の曲線であり,摺動面Sの円周の曲率とは異なる曲率を有する円弧,放物線,正弦波,サイクロイド曲線等からなる。また,サブディンプル群69a,69b,69c,…は,軸CL近傍に配置されるディンプル
67が漏れ側に最も近く,両端に配置されるディンプル67は被密封流体側に最も近く配置される。また,サブディンプル群69a,69b,69c,…の両端に配置されるディンプル67は,被密封流体側周縁5bに接する,又は,被密封流体側周縁5bに開口するように配置されていてもよい。さらに,サブディンプル群69a,69b,69c,…は,軸CLに対しディンプル67を対称に配置して構成してもよい。なお,説明のため,
図7の囲み部のみに,サブディンプル群69a,69b,69cの符号を示した。
【0069】
ディンプル群64とディンプル群69との間には溝部65が設けられている。溝部65は,ディンプル群64を構成するディンプル62及びディンプル群69を構成するディンプル67の深さよりも十分に深く,ディンプル62及びディンプル67の開口部の大きさよりも十分大きく形成されている。
【0070】
摺動面Sの漏れ側に設けられるとともに,被密封流体側に向かって凸の曲線63をなすように配列されたディンプル群64は,漏れ側から流体を吸込みむので,高い密封性を発揮する。また,摺動面Sの被密封流体側に設けられるとともに,摺動面Sの漏れ側に向かって凸の曲線68をなすように配列されたディンプル群69は,被密封流体側から流体を吸い込んで,ディンプル67内から摺動面Sへ昇圧した流体を吐き出すので,摺動面Sを流体潤滑状態に保つことができる。このよう摺動面Sに密封性にすぐれたディンプル群64と潤滑性能にすぐれたディンプル群69とを配置することにより,メカニカルシール1は優れた密封性と潤滑性を発揮することができる。
【0071】
また,ディンプル群64とディンプル群69との間には溝部65が設けられているので,ディンプル群64とディンプル群69との干渉を防止することができる。これにより,ディンプル群64とディンプル群69とが近接する領域において,密封性を発揮するディンプル群64と潤滑性を発揮するディンプル群69の機能が相殺されることを防止することができる。
【0072】
ディンプル群64は,被密封流体側へ凸の曲線63をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,高い密封性を発揮でき,ディンプル群69は,漏れ側に凸の曲線68をなすように,かつ,軸CLに対して実質対称に配列されるので,正回転のみならず逆回転時においても,潤滑機能を発揮するので,回転方向に関係なく高い密封性能及び潤滑性能を発揮できる。
【0073】
以上述べたように,実施例6の摺動部品は,実施例5の効果に加え,下記の効果を奏する。
実施例6のメカニカルシールは,また,ディンプル群64とディンプル群69との間には溝部65が設けられているので,ディンプル群64とディンプル群69との干渉を防止することができる。これにより,ディンプル群64とディンプル群69とが近接する領域において,密封性を発揮するディンプル群64と潤滑性を発揮するディンプル群69の機能が相殺されることを防止することができる。
【0074】
以上,本発明の実施例を図面により説明してきたが,具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく,本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0075】
上記実施例において,外周側が被密封流体側,内周側を漏れ側としているが,これに限らず,内周側が被密封流体側,外周側が漏れ側である場合も適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 メカニカルシール
2 スリーブ
3 回転側密封環
4 ハウジング
5 固定側密封環
6 コイルドウェーブスプリング
7 ベローズ
8 パッキン
9 ケーシング
10 回転軸
11 領域
12 ディンプル
14 ディンプル群
14a サブディンプル群
14b サブディンプル群
14c サブディンプル群
14d サブディンプル群
14e サブディンプル群
14f サブディンプル群
14g サブディンプル群
21 領域
22 ディンプル
24 ディンプル群
24a サブディンプル群
24b サブディンプル群
24c サブディンプル群
24d サブディンプル群
24e サブディンプル群
24f サブディンプル群
31 領域
32 ディンプル
34 ディンプル群
34a サブディンプル群
34b サブディンプル群
34c サブディンプル群
34d サブディンプル群
34e サブディンプル群
34f サブディンプル群
34g サブディンプル群
41 領域
42 ディンプル
44 ディンプル群
44a サブディンプル群
44b サブディンプル群
44c サブディンプル群
44d サブディンプル群
44e サブディンプル群
44f サブディンプル群
44g サブディンプル群
51 領域
52 ディンプル
54 ディンプル群
54a サブディンプル群
54b サブディンプル群
54c サブディンプル群
54d サブディンプル群
57 ディンプル
59 ディンプル群
59a サブディンプル群
59b サブディンプル群
59c サブディンプル群
61 領域
62 ディンプル
64 ディンプル群
64a サブディンプル群
64b サブディンプル群
64c サブディンプル群
64d サブディンプル群
65 溝部
67 ディンプル
69 ディンプル群
69a サブディンプル群
69b サブディンプル群
69c サブディンプル群
K 短軸
L 長軸
R ランド部
S 摺動面