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特許7385028グラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法、およびこれから製造されたグラファイトシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】グラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法、およびこれから製造されたグラファイトシート
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20231114BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20231114BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20231114BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231114BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20231114BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08L79/08
C08K3/10
C08K3/38
C08J5/18 CFG
C01B32/205
C08G73/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022525124
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 KR2020014238
(87)【国際公開番号】W WO2021091117
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0142893
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ヒュン ソプ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・ドン ユン
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089688(JP,A)
【文献】特開2009-096192(JP,A)
【文献】国際公開第2006/057183(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/164067(WO,A1)
【文献】特開2019-127535(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0127561(US,A1)
【文献】特開2016-074895(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0081874(KR,A)
【文献】特開2015-093988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C01B 32/00-32/991
C08G 73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二無水物単量体とジアミン単量体との反応によって形成されたポリアミック酸をイミド化して製造されるポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミドフィルムは、平均粒子サイズ(D50が1μm~6μmの金属化合物粒子を含み、
前記金属化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、またはこれらの組み合わせを含み、
前記金属は、ニッケル、白金、ボロン、アルミニウム、またはこれらの組み合わせを含み、
前記金属化合物は、ポリイミドフィルムの総重量中、0.05重量%~1重量%含まれる、
グラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記金属化合物は、ボロンナイトライドを含む、請求項に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1または2に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記ジアミン単量体は、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1~のいずれか1項に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項5】
二無水物単量体、ジアミン単量体、平均粒子サイズ(D50が1μm~6μmの金属化合物粒子、および有機溶媒を混合し、反応させて金属化合物粒子含有ポリアミック酸溶液を形成するステップと、
前記ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成するステップと、
前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造するステップと、
前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成するステップと、を含む、ポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記金属化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、またはこれらの組み合わせを含み、
前記金属は、ニッケル、白金、ボロン、アルミニウム、またはこれらの組み合わせを含み、
前記金属化合物は、ポリイミドフィルムの総重量中、0.05重量%~1重量%含まれる、
ポリイミドフィルムの製造方法
【請求項6】
前記熱処理は、100℃~700℃で行われる、請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムから製造された、グラファイトシートであって、金属化合物粒子を非含有で製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートに比べて熱伝導度が1.05倍~1.6倍さらに高く、熱伝導度が1,300W/m・K以上である、グラファイトシート
【請求項8】
前記グラファイトシートは、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを2,800℃未満の温度で黒鉛化して製造される、請求項に記載のグラファイトシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法、およびこれから製造されたグラファイトシートに関し、より詳しくは、熱伝導度に優れ、製造費用を節減できるグラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法、およびこれから製造されたグラファイトシートに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子機器は軽量化、小型化、薄型化および高集積化されており、これによって電子機器には多くの熱が発生している。このような熱は製品の寿命を短縮させたり、故障、誤作動などを誘発することがある。したがって、電子機器に対する熱管理が重要な問題として台頭している。
グラファイトシートは、銅やアルミニウムなどの金属シートより高い熱伝導率を有して電子機器の放熱部材として注目されている。このようなグラファイトシートは多様な方法で製造されるが、例えば、高分子フィルムを炭化および黒鉛化させて製造される。特に、ポリイミドフィルムは、これらの優れた機械的熱的寸法安定性、化学的安定性などによってグラファイトシート製造用高分子フィルムとして脚光を浴びている。
ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートの物性は、ポリイミドフィルムの物性に影響されることが知られている。したがって、多様なグラファイトシート用ポリイミドフィルムの開発が行われているが、より高い熱伝導度を有するグラファイトシートを製造できるポリイミドフィルムが依然として必要なのが現状である。
一方、ポリイミドフィルムを黒鉛化させてグラファイトシートを製造するためには、通常、2800℃以上の温度が要求されるが、この場合、大きな電力使用量によってグラファイトシートの製造費用が上昇する問題がある。したがって、より低い温度で黒鉛化可能なポリイミドフィルムの開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、熱伝導度に優れ、製造費用を節減できるグラファイトシート用ポリイミドフィルムを提供することである。
本発明の他の目的は、前記ポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、前記ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1.本発明の一側面によれば、グラファイトシート用ポリイミドフィルムが提供される。前記ポリイミドフィルムは、二無水物単量体とジアミン単量体との反応によって形成されたポリアミック酸をイミド化して製造され、前記反応は、平均粒子サイズ(D50)が約1μm~約6μmの金属化合物粒子を含んで行われる。
2.前記第1実施形態において、前記金属は、ニッケル、白金、ボロン、アルミニウム、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
3.前記第1または第2実施形態において、前記金属化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
4.前記第1~第3実施形態のいずれか1つにおいて、前記金属化合物は、ボロンナイトライドを含むことができる。
5.前記第1~第4実施形態のいずれか1つにおいて、前記金属化合物は、ポリイミドフィルムの総重量中、約0.05重量%~約1重量%含まれる。
6.前記第1~第5実施形態のいずれか1つにおいて、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
7.前記第1~第6実施形態のいずれか1つにおいて、前記ジアミン単量体は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
8.他の側面によれば、ポリイミドフィルムの製造方法が提供される。前記ポリイミドフィルムの製造方法は、二無水物単量体、ジアミン単量体、平均粒子サイズ(D50)が約1μm~約6μmの金属化合物粒子、および有機溶媒を混合し、反応させて金属化合物粒子含有ポリアミック酸溶液を形成するステップと、前記ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成するステップと、前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造するステップと、前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成するステップと、を含むことができる。
9.前記第8実施形態において、前記熱処理は、約100℃~約700℃で行われる。
10.さらに他の側面によれば、グラファイトシートが提供される。前記グラファイトシートは、前記第1~第7実施形態のいずれか1つに記載のポリイミドフィルム、または前記第8または第9実施形態に記載のポリイミドフィルムの製造方法で製造されたポリイミドフィルムから製造される。
11.前記第10実施形態において、前記グラファイトシートは、前記ポリイミドフィルムを2,800℃未満の温度で黒鉛化して製造される。
12.前記第10または第11実施形態において、前記グラファイトシートは、金属化合物粒子を非含有で製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートに比べて熱伝導度が約1.05倍~約1.6倍さらに高い。
13.前記第10~第12実施形態のいずれか1つにおいて、前記グラファイトシートは、熱伝導度が約1,300W/m・K以上であってもよい。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、熱伝導度に優れ、製造費用を節減できるグラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法、およびこれから製造されたグラファイトシートを提供する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明を説明するにあたり、かかる公知の技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不必要にあいまいにしうると判断された場合、その詳細な説明は省略する。
本明細書上で言及した「含む」、「有する」、「なる」などが使われる場合、「~のみ」が使われない以上、他の部分が追加できる。構成要素を単数で表現した場合に、特に明示的な記載事項がない限り、複数を含む場合を含む。
また、構成要素を解釈するにあたり、別の明示的記載がなくても誤差範囲を含むと解釈する。
本明細書において、数値範囲を示す「a~b」における「~」は、≧aであり、≦bであると定義する。
【0007】
グラファイトシート用ポリイミドフィルム
本発明の一側面によれば、グラファイトシート用ポリイミドフィルムが提供される。前記グラファイトシート用ポリイミドフィルムは、二無水物単量体とジアミン単量体との反応によって形成されたポリアミック酸をイミド化して製造され、前記反応は、平均粒子サイズ(D50)が約1μm~約6μmの金属化合物粒子を含んで行われる。金属化合物粒子を非含有で製造されたポリイミドフィルムはコンパクトな線状高分子の積層構造を有するのに対し、金属化合物粒子を含んで製造されたポリイミドフィルムはentanglementが増加したbulkyな高分子構造を有するようになって、より低い温度で黒鉛化される。また、金属化合物粒子を含んで製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートは、金属成分の熱伝導シナジー効果によって熱伝導度がより優れることができる。
【0008】
一方、金属化合物粒子は、平均粒子サイズ(D50)が約1μm~約6μm(例えば、1μm、1.5μm、2μm、2.5μm、3μm、3.5μm、4μm、4.5μm、5μm、5.5μm、または6μm)であってもよいし、平均粒子サイズが約1μm未満の場合、黒鉛化時に十分な量の熱エネルギーを伝達しにくい問題があり、約6μm超過の場合、黒鉛化時にポリイミドフィルム全体に均一に熱エネルギーを伝達しにくい問題がありうる。ここで、金属化合物粒子の平均粒子サイズ(D50)は、粒度分析器(particle size analyzer)を用いて測定される。金属化合物粒子の平均粒子サイズ(D50)は、例として約2μm~約6μm、他の例として約3μm~約6μm、さらに他の例として約4μm~約5μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
金属化合物粒子の形状は特に限定されず、多様な形状の粒子、例えば、球状、板状、または無定形形状の粒子が使用できる。
【0009】
金属化合物の種類は特に限定されず、例えば、金属化合物中の金属は、ニッケル、白金、ボロン、アルミニウム、またはこれらの組み合わせを含むことができる。一実施形態によれば、金属は、ボロンを含むことができ、この場合、熱伝導度が上昇し、黒鉛化温度を下げる効果があり得るが、これに限定されるものではない。
一実施形態によれば、金属化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、またはこれらの組み合わせを含むことができる。例えば、金属化合物は、金属窒化物を含むことができ、この場合、熱伝導度が上昇し、黒鉛化温度を下げる効果があり得るが、これに限定されるものではない。
一実施形態によれば、金属化合物粒子は、ボロンナイトライドを含むことができ、この場合、面方向の熱伝導度が高く、機械的安定性、耐熱性に優れてポリイミドフィルムの黒鉛化に効果的であり得るが、これに限定されるものではない。
【0010】
金属化合物の含有量は特に限定されないが、例えば、金属化合物は、ポリイミドフィルムの総重量を基準として、約0.05重量%~約1重量%(例えば、0.05重量%、0.1重量%、0.15重量%、0.2重量%、0.25重量%、0.3重量%、0.35重量%、0.4重量%、0.45重量%、0.5重量%、0.55重量%、0.6重量%、0.65重量%、0.7重量%、0.75重量%、0.8重量%、0.85重量%、0.9重量%、0.95重量%、または1重量%)含まれ、前記範囲で、熱伝導度が上昇し、黒鉛化温度を下げる効果があり得る。
【0011】
二無水物単量体としては、当該技術分野にて通常用いられる二無水物単量体が制限なく使用可能である。例えば、二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、またはこれらの組み合わせを含むことができ、この場合、熱伝導度が上昇し、黒鉛化温度を下げる効果があり得るが、これに限定されるものではない。
ジアミン単量体としては、当該技術分野にて通常用いられるジアミン単量体が制限なく使用可能である。例えば、ジアミン単量体は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、またはこれらの組み合わせを含むことができ、この場合、熱伝導度が上昇し、黒鉛化温度を下げる効果があり得るが、これに限定されるものではない。
【0012】
ポリイミドフィルムの厚さは特に限定されない。ポリイミドフィルムの厚さは、例として約30μm~約120μm、他の例として約30μm~約80μm、さらに他の例として約50μm~約80μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0013】
上述したグラファイトシート用ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの製造分野にて通常用いられる多様な方法で製造できる。
一実施形態によれば、二無水物単量体、ジアミン単量体、平均粒子サイズ(D50)が約1μm~約6μmの金属化合物粒子、および有機溶媒を混合し、反応させて金属化合物粒子含有ポリアミック酸溶液を形成するステップと、前記ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成するステップと、前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造するステップと、前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成するステップと、を含んで製造できる。
まず、二無水物単量体、ジアミン単量体、平均粒子サイズ(D50)が約1μm~約6μmの金属化合物粒子、および有機溶媒を混合し、反応させて金属化合物粒子含有ポリアミック酸溶液を形成する。二無水物単量体、ジアミン単量体、金属化合物粒子に関する説明は上述したので、これに関する説明は省略する。
【0014】
ポリアミック酸溶液は、二無水物単量体とジアミン単量体を実質的に等モル量となるように、金属化合物粒子とともに有機溶媒中に溶解させ、反応させて得ることができる。二無水物単量体およびジアミン単量体は、単量体の種類および所望のポリイミドフィルムの物性によってすべての単量体を一度に添加するか、または各単量体を順次に添加することができ、この場合、単量体間の部分的重合が起きり得る。
有機溶媒は、ポリアミック酸が溶解できる溶媒であれば特に限定されず、例えば、非プロトン性極性有機溶媒(aprotic polar organic solvent)であってもよい。非プロトン性極性有機溶媒の非制限的な例として、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチルピロリドン(NMP)、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わされて使用可能である。場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を用いて、ポリアミック酸の溶解度を調節することもできる。一実施形態において、有機溶媒は、アミド系溶媒であってもよく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドまたはN,N-ジメチルアセトアミドであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0015】
以後、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成することができる。
脱水剤とは、ポリアミック酸に対する脱水作用により閉環反応を促進するものであり、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して使用可能である。なかでも、入手の容易性、および費用の観点から、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、乳酸無水物などの脂肪族酸無水物を単独でまたは2種以上混合して使用可能である。
イミド化剤とは、ポリアミック酸に対する閉環反応を促進する効果を有する成分を意味し、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、および複素環式3級アミンなどが用いられる。なかでも、触媒としての反応性の観点から、複素環式3級アミンが使用できる。その例としては、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなどがあり、これらは単独でまたは2種以上混合して使用可能である。
脱水剤およびイミド化剤の添加量は特に限定されるものではないが、脱水剤は、ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して、約0.5モル~約5モル(例えば、0.5モル、1モル、1.5モル、2モル、2.5モル、3モル、3.5モル、4モル、4.5モル、または5モル)、例えば、約1.0モル~約4モルの比率で添加されてもよく、イミド化剤は、ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して、約0.05モル~約3モル(例えば、0.05モル、0.1モル、0.5モル、1モル、1.5モル、2モル、2.5モル、または3モル)、例えば、約0.2モル~約2モルの比率で添加されてもよいし、前記範囲でイミド化が十分であり、フィルム状にキャスティングすることが容易であり得る。
【0016】
一実施形態によれば、ポリアミック酸は、ポリイミド前駆体組成物の総重量を基準として、約5重量%~約35重量%(例えば、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、または35重量%)含まれる。前記範囲で、前駆体組成物は、フィルムを形成するのに適当な分子量と溶液粘度を有することができる。前駆体組成物の総重量を基準として、ポリアミック酸は、例として約10重量%~約30重量%、他の例として約15重量%~約20重量%含まれるが、これに限定されるものではない。
一実施形態によれば、ポリイミド前駆体組成物は、25℃で約100,000cP~約500,000cP(例えば、100,000cP、150,000cP、200,000cP、250,000cP、300,000cP、350,000cP、400,000cP、450,000cP、または500,000cP)の粘度を有することができる。前記範囲で、ポリアミック酸が所定の重量平均分子量を有するようにしながらも、ポリイミドフィルム製膜時の工程性に優れることができる。ここで、「粘度」は、ブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて測定される。前駆体組成物は、25℃で、例として約150,000cP~約450,000cP、他の例として約200,000cP~約400,000cP、さらに他の例として約250,000cP~約350,000cPの粘度を有することができるが、これに限定されるものではない。
一実施形態によれば、ポリアミック酸は、重量平均分子量(Mw)が約100,000g/mol以上、例えば、約100,000g/mol~約500,000g/mol(例えば、100,000g/mol、150,000g/mol、200,000g/mol、250,000g/mol、300,000g/mol、350,000g/mol、400,000g/mol、450,000g/mol、または500,000g/mol)であってもよいし、前記範囲でより優れた熱伝導度を有するグラファイトシートの製造に有利であり得るが、これに限定されるものではない。ここで、「重量平均分子量」は、ゲル透過クロマトグラフィー(gel permeation chromatography)を用いて測定される。
【0017】
以後、ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造することができる。
支持体は、当該技術分野にて通常用いられる支持体が制限なく使用可能であり、このような支持体の例としては、ガラス板、アルミニウム箔、エンドレス(endless)ステンレスベルト、ステンレスドラムなどが挙げられる。
乾燥は、例として約40℃~約300℃、他の例として約80℃~約200℃、さらに他の例として約100℃~約180℃、さらに他の例として約100℃~約130℃の温度で行われ、これによって脱水剤およびイミド化剤が活性化され、部分的に硬化および/または乾燥が起こることにより、ゲルフィルムが形成される。ゲルフィルムは、ポリアミック酸からポリイミドへの硬化の中間ステップにあり、自己支持性を有することができる。
【0018】
場合によっては、最終的に得られるポリイミドフィルムの厚さおよび大きさを調節し、配向性を向上させるためにゲルフィルムを延伸させるステップをさらに含むことができ、延伸は、機械搬送方向(MD)および機械搬送方向に対する横方向(TD)の少なくとも1つの方向に行われる。
【0019】
ゲルフィルムの揮発分含有量は、これに限定されるものではないが、約5重量%~約500重量%、例として約5重量%~約200重量%、他の例として約5重量%~約150重量%であってもよいし、前記範囲で、以後、ポリイミドフィルムを得るために熱処理する過程中、フィルム破断、色汚れ、特性変動などの欠点が発生することを回避する効果があり得る。ここで、ゲルフィルムの揮発分含有量は、下記式1を用いて算出することができ、式1中、Aは、ゲルフィルムの重量、Bは、ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量を意味する。
<式1>
(A-B)*100/B
【0020】
以後、ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成することができる。
熱処理は、例として約100℃~約700℃、他の例として約200℃~約600℃、さらに他の例として約250℃~約550℃の範囲の可変的な温度で、例として約0.05時間~約0.4時間、他の例として約0.08時間~約0.3時間、さらに他の例として約0.1時間~約0.2時間行われてもよいし、これによってゲルフィルムに残存する溶媒などが除去され、残っている大部分のアミック酸基がイミド化されてポリイミドフィルムを得ることができる。
場合によっては、前記のように得られたポリイミドフィルムを約400℃~約650℃の温度に約5秒~約400秒間加熱仕上げしてポリイミドフィルムをさらに硬化させてもよいし、得られたポリイミドフィルムに残留しうる内部応力を緩和させるために、所定の張力下でこれを行ってもよい。
【0021】
グラファイトシート
本発明の他の側面によれば、上述したグラファイトシート用ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートが提供される。上述したポリイミドフィルムは、より低い温度、例として2,800℃未満(例えば、2,700℃以下、2,600℃以下、2,500℃以下、2,400℃以下、または2,300℃以下)、他の例として約2,000℃~約2,500℃、さらに他の例として約2,200℃~約2,400℃の温度で黒鉛化可能でグラファイトシートの製造費用を低減させることができ、金属成分によってグラファイトシートの熱伝導度を向上させることができる。
【0022】
一実施形態によれば、グラファイトシート(すなわち、金属化合物粒子を含んで製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシート)は、金属化合物粒子を非含有であることを除けば、同一の条件下で製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートに比べて熱伝導度がさらに高い。例えば、グラファイトシートは、金属化合物粒子を非含有で製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートに比べて熱伝導度が約1.05~約1.6倍(例えば、1.05倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、または1.6倍)、他の例として約1.05倍~約1.5倍、さらに他の例として約1.1倍~約1.5倍、さらに他の例として約1.3倍~約1.5倍さらに高いが、これに限定されるものではない。
一実施形態によれば、グラファイトシートは、熱伝導度が約1,300W/m・K以上(例えば、1,350W/m・K以上、1,400W/m・K以上、1,450W/m・K以上、1,500W/m・K以上、1,550W/m・K以上、1,600W/m・K以上、1,650W/m・K以上、または1,700W/m・K以上)であってもよい。例えば、グラファイトシートの熱伝導度は、約1,300W/m・K~約2,000W/m・K、他の例として約1,300W/m・K~約1,800W/m・K、さらに他の例として約1,400W/m・K~約1,800W/m・Kであってもよいが、これに限定されるものではない。
グラファイトシートの厚さは特に限定されない。グラファイトシートの厚さは、例として約15μm~約70μm、他の例として約15μm~約50μm、さらに他の例として約20μm~約40μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0023】
上述したグラファイトシートは、グラファイトシートの製造分野にて通常用いられる多様な方法で製造できる。例えば、グラファイトシートは、ポリイミドフィルムを炭化および黒鉛化して製造できる。
炭化は、例えば、約1,000℃~約1,500℃の温度で約1時間~約5時間行われるが、これに限定されるものではない。炭化工程によりポリイミドフィルムの高分子鎖が熱分解されて、非晶質炭素体、非結晶質炭素体、および/または無定形炭素体を含む予備グラファイトシートが形成される。
黒鉛化は、例として2,800℃未満(例えば、2,700℃以下、2,600℃以下、2,500℃以下、2,400℃以下、または2,300℃以下)、他の例として約2,000℃~約2,500℃、さらに他の例として約2,200℃~約2,400℃の温度で約1時間~約10時間行われるが、これに限定されるものではない。黒鉛化工程により非晶質炭素体、非結晶質炭素体、および/または無定形炭素体の炭素が再配列されてグラファイトシートが形成される。
【実施例
【0024】
以下、本発明の好ましい実施例を通じて本発明の構成および作用をより詳細に説明する。ただし、これは本発明の好ましい例として提示されたものであり、いかなる意味でもこれによって本発明が制限されると解釈されない。
【0025】
実施例1
二無水物単量体としてピロメリット酸無水物50g、ジアミン単量体として4,4'-ジアミノジフェニルエーテル50g、金属化合物粒子として平均粒子サイズ(D50)が1μmのボロンナイトライド1g、有機溶媒としてジメチルホルムアミド300gを混合した後、重合してポリアミック酸溶液を製造した。
製造したポリアミック酸溶液100gに、脱水剤の酢酸無水物20g、イミド化剤のβ-ピコリン3g、ジメチルホルムアミド15gを混合して、最終粘度が300,000cPのポリイミド前駆体組成物を製造した。
製造したポリイミド前駆体組成物をドクターブレードを用いてSUS板(100SA、Sandvik社)上に80μmの厚さにキャスティングし、100℃で5分間乾燥させてゲルフィルムを製造した。前記ゲルフィルムをSUS板と分離した後、300℃で5分間熱処理し、500℃で5分間熱処理して、50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを製造した。この時、ポリイミドフィルムの総重量中、金属化合物の含有量は0.99重量%であった。
【0026】
実施例2~6および比較例1~3
金属化合物粒子の大きさおよび含有量を下記表1に記載の通りに変更したことを除けば、実施例1と同様の方法を用いてポリイミドフィルムを製造した。
【0027】
物性評価方法
(1)金属化合物粒子の平均粒子サイズ(D50)(単位:μm):粒度分析器(SALD-2201、SHIMADZU社)を用いて粒子サイズの分布度を算出する方法を用いて金属化合物粒子の平均粒子サイズ(D50)を測定した。
(2)グラファイトシートの熱伝導度(単位:W/m・K):実施例および比較例で製造したポリイミドフィルムを、電気炉を用いて、窒素気体下、1℃/分の速度で1,000℃まで昇温した後、前記温度で3時間維持させて炭化させた。以後、アルゴン気体下、20℃/分の速度で下記表1に記載の温度まで昇温した後、前記温度で3時間維持させて黒鉛化させてグラファイトシートを製造した。
このように製造したグラファイトシートに対して、熱拡散率測定装置(LFA467、Netsch社)を用いて、laser flash法で平面方向の熱拡散率を測定し、前記熱拡散率測定値に密度(重量/体積)および比熱(DSCを用いた比熱測定値)を乗じて熱伝導度を算出した。
【0028】
【表1】
【0029】
前記表1から、本発明の平均粒子サイズ(D50)を有する金属化合物粒子を適用した実施例1~6のポリイミドフィルムは、低い黒鉛化温度でも優れた熱伝導度を有するグラファイトシートの製造が可能であることを確認することができる。
これに対し、金属化合物粒子を適用しない比較例1のポリイミドフィルムは、高い黒鉛化温度が要求され、高い温度で黒鉛化されたにもかかわらず、実施例1~6に比べて熱伝導度が低かった。
また、本発明の平均粒子サイズ(D50)を外れた金属化合物粒子を適用した比較例2および3のポリイミドフィルムは、低い温度で黒鉛化した時、熱伝導度も低い問題があった。
本発明の単純な変形乃至変更はこの分野における通常の知識を有する者によって容易に実施可能であり、このような変形や変更はすべて本発明の領域に含まれる。